名簿/479048
- (月光が眩しい)
(まるでその辺の街灯なんか目じゃないほど、とても大きく、明るく月光が輝いていた) (満月) (それは夜の住民達に最も強い力を与える要素の1つだ 太陽に嫌われた者達にとって、最も明るい光だからだろうか) (森から紛れ込んだのだろうか、洞窟から月光浴に現れたのだろうか ばさ、ばさと翼をはためかせて、梟と蝙蝠が月を横切るように飛んで行った)
(――吸血鬼はその月光を体中に浴びながら、行動を起こしたのだった) --
- (満月。日の下への存在を許されない者どもが、最も待ち焦がれる時間)
少女も、それを心待ちにしていた一人だ。月明かりに照らされた路地を、唯一人で歩いていく 晴れやかな夜空に対し、少女の心中は曇天の如しに仄暗く。何しろこれから自分は、人を一人、殺しに行くのだ… 成し遂げたとして、きっと心は晴れず血の雨に塗れるだけかもしれない しかし、もう引き返す事は出来ない。やらなければ、あたしがやらなければ、あの子の魂は浮かばれない! -- ミリア
- バサバサバサッ
(目の前の空を、まるで案内するように梟が一羽、飛んでいく その先は――古びた屋敷) (昔はそれなりに名家だった面影はある、だが……装飾も差し押さえられたのか殆どがはがされ、代わりに草木の装飾が纏わり付くように自然と飾り立てられていた) (廃墟かと見まごうような出で立ちではあるが、しかして、遠目でも明かりが見えている ……人がいるのだ) --
- (夜空を飛ぶ梟に目を遣れば、目的の建物が瞳に移る)
(そこは以前まで屯していた館に似ている。よくも貴族が、人間がこんな所に住み続ける気になるものだ。いや、「人でなし」だからこそ平気で住めるのか…) (ぼんやりと光る明かりを見て居場所に目星をつけると、少女の体に異変が起こる) (足元の影がもぞりと蠢き、一瞬にして全身を覆う。体型が徐々に変わっていき、やがて影に色が付くとそこには…彼女が「商談」で食した筈の女性の姿があった。) (自身の持つ術により、貴族の娘に化けたのだ。その姿のまま屋敷の扉を叩く -- ミリア
- (―――)
(――返事はない。そこそこ大きい屋敷だ、ノックが聞こえるような位置にいないのかもしれない) (少なくとも、使用人を雇ってたりはしないだろう……鍵は、当然のようにかかっているが……吸血鬼にとって、この「普通の鍵」など、どんな意味を持つことができるのだろうか) --
- …使用人なんているわけ無いわよね。(誰が自分を見ている筈も無かろうが、少し気恥ずかしくなる。)
(再び自らの影を伸ばし、扉の隙間に挿し入れる。カキン、と乾いた金属音。彼女が手を掛ければ施錠されたいた筈の扉がいとも簡単に口を開いた。) (本来、吸血鬼は他人の住処に入るためには招かれなければならないらしいが、自分にはそういった事は無かった。真祖に比べて力で劣る分、制約も少ないのだろうか。) (だが、そんな理由など今はどうでもよい。テリトリーへの侵入は成功したのだから。まるで男の居場所を知っているかのように、彼女は目的の部屋まで歩を進めていく。) -- ミリア
- んっ……ぁっ……ああ……
(――目的の部屋から聞こえてくるのは……女の喘ぎ声 それに混ざる、男の荒い吐息) (考えることすら必要ないほど、部屋の奥に広がる光景はありありと目に浮かんだ) --
- (部屋に近づくにつれて耳に入ってくる、男女の喘ぐ声)
(何が行われているかは考えるまでも無い。嫌悪感に本性の顔が露になりかけるが、今はまだ見せてはいけない…) (暫くして、男女の居る部屋に辿り着く。平静を装うと二度ほどノック) -- ミリア
- ――えっ? ――だ、誰だ!?
(予想外のノックの音に、あからさまに驚きと恐れの混じった声が聞こえてきた) (それもそのはずだ、オウルが娘と妻を連れて行って以来、鍵をかけ、ここには誰一人足を踏み入れないようにしていたのだから) --
- 私よ、お父様。(男への返答と共に現れたのは、彼が追いやった筈の娘の姿)
ひどいわお父様…どうして、どうして私とお母様を捨てたりしたの…?(あの娘が男をどう呼んでいたかは知らない、適当だ。どうせ偽者なのだから拘る必要なんてない) -- ミリア
- (しかしハッタリは的を得ていたらしい、その呼び方、その口調は本人だと思わせる程度には間違ってはいなかった)
(で、あれば――狼狽するのもまた道理) あっ……ああああ……な、な、な、な……なんで、何でお前が……!!!オウル殿は、母子ともども息絶えたと……!! (痩せ細った男、ダスト・サッカー……妻子を捨てた、人間、いや生物としては屑のような男は、汗を噴出させながら裸のまま壁まで後ずさった) (そしてもう一人の女は――名前は知らないが、この男に身請けられた娼婦だ ふくよかな、男に劣情を催させそうな身体つきの女) 「ど、どういうこと……!?幽霊!?ダ、ダスト様……早く、早くこの子を何とかして頂戴!」 あ、あ、うあ、うあああ……!!(女が叫ぶ、が、ダストは青ざめ、完全にパニックに陥り声にならない声を上げるのみ) --
- (二人とも死亡しているのは知っているのか…。陰部を晒して慌てふためく様子に顔を顰めそうになるのを堪える)
ねぇ、答えてよ…どうして私達を見捨てたの?どうして殺したの?(狼狽する男に苛立ち、自然と語気が強まっていく) (傍らにはヒステリックに叫ぶ裸の女。何処まで関わっているのか知らないが、こいつは特に用は無い。少なくとも今は) 早く答えて…、答えろッ!(男に近づくとさらに怒気を孕ませて叫び、腕を掴む。これで目の前の娘が幽霊ではない事を暗に伝えた。もっとも本人でも無いのだが) //おまたせなの! -- ミリア
- ひいいいいいっ!!!(腕を掴まれれば目の前のものが幻覚ではないことを知り、少し喋る程度のパニックからは解放された)
し、し、仕方が無かったんだ……!!!(……?よく見れば、本当に痩せ細っている 以前見た家族写真よりも、その後の写真よりも) (しかも、目が虚ろだ、これは――少女と同じ、麻薬による症状?) わ、わ、私は、私は本当に、本当にエレゴールを愛していたんだ……彼女とともに生きたかった!!!だ、だが、身請けの金など没落貴族の私には無かった!! ど、どうしても、彼女が……エレゴールが欲しかったんだ……ともに生きたかったんだ……!!だ、だから…… (エレゴールと呼びながら目を娼婦に向けているところを見ると、どうやら娼婦の名前がエレゴールのようだと察することが出来る しかし) (――妙だ 目の前の男は、妻子を売った張本人だが、思ったより……誠実そうな印象がある) --
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