名簿/424507
- ――そこで俺はこう言ってやったのさ、狂っちまってんのはあんたの方だってな! すると奴さん青筋立てて……リツハ?
別の話にするか? んっと、じゃ、そうだな こいつぁ爺さま…俺の師匠になるオッサンと出会って間もない頃の話なんだが… (部屋付きの窮屈なバスタブから脚を投げだして物語る男 この調子でかれこれ一時間半が過ぎようとしていた) --
- …(その話をもくもくとききながらバスルームの外の椅子に座って)
…シドの話…長い(するすると何かを脱ぐような衣擦れ音が聞こえるとバスルームの扉があいて) …リツハも・・・お風呂はいりたいのに…長いよ…(そういって一糸まとわぬ姿でリツハもバスルームに入ってくる) --
- はっはっは、歳食った証拠だよな! すまんなリツハ(今出る、と身を起こしかけたところで押し戻されて)…おっと --
- 年取ると…長風呂になる…おっとぉが昔いってた気がする(膝の上にのるような形でシドをバスタブに押し戻して)
久々に…一緒にはいろ…?小さいころはよく一緒はいったよね… --
- そーいやしばらくご無沙汰だったっけな(白くかがやくような肢体を眺めるでもなく頭をなでくりまわす)
そのうちこっちでいいとこの若旦那でも捕まえるかと思ってたんだが(短く刈りそろえた顎鬚を揉んで)俺でよかったのか? --
- んっ…だって…お兄ぃ…じゃなかった(少し照れくさそうにこうしていると昔を思い出してつい呼んでしまい)
シド以外と…あまり話せないし…それに…シドが一番好きだもん… --
- 聞くだけ野暮だったな(あれから20年あまり、ともに過ごしてきた時間がひとりでに短い言葉をおぎなってくれる)
親父殿をさしおいて一番か 上等だな(召喚師と護衛獣、のはずが気づけば兄妹/姉弟のような不思議な関係をむすんでいた) 俺もさ(それが男女の関係になったのはいつのことだっただろう?と回想しながら肩を抱いて、ひんやりと冷たい唇をもとめた) --
- おとうは…おとう…男だけど…そういうのじゃない(求められた唇を、そっと重ねて、白い肌に浮かぶ薄紅の艶めいた唇が、シドの年置いてきた唇に潤いを与えるように)
シド…長生きしてね…?できるだけ…リツハと一緒にいてね…?(どこか寂しそうな、そんな瞳で唇を離したあと、まっすぐに見つめる) --
- おうさ! だが見くびってもらっちゃ困るな 俺はあと100年は生きてやるつもりでね(こんな時に決まって浮かべる不敵な笑み、片目をつむって)
それになリツハ、俺の姫さんはもっともっといい女になるんだ そいつを拝まずくたばっちまう訳にはいかねえのさ! (頬に触れた手をすべらせて白亜の髪を梳き、どこかまぶしげに目を細めて 瑞々しくも可憐な妖鬼を愛でる男だった) --
- --
- …(お昼も過ぎ、日もしっかりあがったころに布団からはいでてくる)…おはよ…シド…(眠そうな目をこすって顔を洗いに行く) --
- おう、いい夢見れたか?(かすかな酢酸の匂いの染みついたエプロン姿、コーヒーをもう一人分用意して) --
- うん…(ごしごし顔を洗ってタオルでぬぐいながら)…この宿のベッド…寝やすいね… --
- あんまりころっと寝られちまうのも考えもんだけどな(からからと笑い飛ばして往来を行き交う人々を見下ろす)
(テーブルの上には今朝の新聞のほか、ツーリスト向けの観光本や名所案内のパンフレットが山と積まれている) --
- …久々だから…観光?(パンフレットの山を見て、昔住んでた街なのにねと少しだけおかしくなる)
ずっと宿も…だから…家も見つけないとね…?…暫くは…ゆっくりでもいいけど… --
- おさらいだ どこぞの新興マフィアが進出してきただの、100年前のドラキュラが復活しただの…10年ひと昔ってわけさ
あぁ、んないいご身分じゃねえもんな 昔みたく冒険者やってりゃ話は別だが…(無意識にペンをくわえて地元紙流し読み) --
- …お金ないなら…リツハがまた冒険でようか…?(シドは…年齢的につらいよねと)
(シドの肩に手をかけて、後ろからそれを覗き込む) --
- やれやれ、歳はとりたかねぇもんだな…だが俺は生涯現役がモットーでね、取材できなくっちゃあ何の意味もねぇのさ
どこまで使えるがわからんが一度は達人なんて呼ばれた身だ いいから任せとけって な、リツハ? --
- …うん。わかった…リツハの貯金も…まだいっぱいあるから…二人の家だったら…二人でお金だすのが普通だよね?
(そういったあと、朝食の準備をはじめようとする)…和風と洋風…どっちがいい…?コーヒーだけじゃ…たりないよね…? --
- 俺はどちらでも構わんが…いや、好きにすりゃいいさ もういい大人だ、いっぱしのレディだもんな
だったら何か食いに行かないか? ルームサービスってのも何だしな 歩いて五分かそこらんとこに旨そうな料理屋を見つけたんだが…(いたずらの共犯者にでも誘うような口ぶりで) --
- …行く(待ってて、髪とか整えてくると少し小走りに洗面所に向い…10分もすれば戻ってくる)&brおまたせ…(化粧は必要最低限、軽く紅いれる程度で、髪を整え戻ってくる) --
- そうこなくっちゃな!っと… お、見違えたな 可愛いぞリツハー!(ごく自然な流れのようにおでこに口付けして)
はじめてお前と会った日もこうやって飯食いに行ったっけな あん時は何食ったんだったか…よし、行こうぜ! (美しく成長した少女に重なる面影 いつの間にやら過ぎていった時の流れに面食らいながら昼食に繰り出す四十男だった) --
- (外洋航路をたどる豪華…というほどでもない客船オケアノス号、その二等船室にふたりの旅人の姿がある)
(片や四十男、もう一人は色の白い楚々とした少女だ 二人は親子ではなかったし、遠い親戚でさえもなかった) (友人か、と問えばそうだと答えるに違いない けれど彼らの関係にはもっと相応しい呼び名があった 「相棒」だ) --
- …まーだかーリツハー…? なぁ、そろそろ見えてきたんじゃないか?(青い顔でぐったりしながら船窓をチラ見して) --
- …あと…ちょっと…(窓の外を見ると陸地が遠くに見える。人の目では見えるか見えないかという大陸がリツハにはよく見えていた) --
- …!(野太い汽笛が胃にまで響いてきて顔をしかめ)お、おう! かれこれ十、何年ぶりか…色々変わっちまってんだろうな --
- …たぶん。・・シドも…すっかり老けちゃったよね(今は名前で呼んでいるようでクスっと笑いながら) --
- ハハ、言ってくれるな たかだか40ちょいだ、まだ赤ん坊みたいなもんだろ? …よっと(濡れタオルを外して起き上がる) --
- (リツハのほうはといえばまだ18、少し大人にみても20くらい。シドとは親子くらい離れた姿で)
ふふ…でもシドは昔と変わらず素敵だよ…若かかった頃とはまた違う素敵さ… --
- おうさ!(嬉しければ嬉しいだけ笑う、そんな素直さがこの男の身上だった)ま、そこはお互いさまだな
一丁前にオリエンタルビューティーしやがって…(片肘ついて眺め、手招きして) --
- (窓から離れてシドのほうへ歩き)時間かかっちゃったけど…シド好みには育ってるかな?リツハは(隣に、ゆっくりと座って) --
- あぁバッチリだ(白く透きとおるような髪をくしゃっと撫でて)今すぐ捕って喰っちまいたいぐらいさ! 気を付けろよー? --
- …船の上じゃダメ…きっと…途中でついちゃう(白い髪に指が通れば目を細めつつ)
…あと1時間もすれば陸地だよ…宿をとってるんだっけ…?それとも…新しい家…? --
- 冗談だ そんな気分でもないしな(胃のあたりをさすって苦笑い、10年前よりもずっと大人びた横顔を飽きもせずに眺めて)
宿、だったろ? 綺麗さっぱり引き払っちまったからな 何もかも新しく探さなくっちゃあいけねえ 商売道具も揃えなおしだ --
- そっか(何処か残念そうに呟きつつ)…色々探そうね…きっと楽しいよ… --
- だな、どの辺住んでみたいだとか遠慮せずに言ってくれよ? ん、俺は…暗室さえ作れりゃどこだって構わないさ
っと…マズいな、時間がないぞ!?(入港を告げるアナウンスに顔を見合わせ、あわてて荷物をまとめにかかるジャーナリスト) --
- (そんなこんなで 慌ただしくもめくるめく期待を胸いっぱいに、懐かしい街での新たな生活が幕を開けたのだった) --
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