便利屋事務所
- 【よくある話 ４】 --
- （宵闇に紛れて、街の外れまでやってくる。いつかのお嬢様の時のようなヘマはない。どこかのだれかと違って、俺は追っ手はきちんと完全に撒く）
（街の出口。巨大なゲート前に美少女をつれて、溜息をつく）
（フードの内側にまで侵入して来た雨が、前髪から雫となって垂れる） -- シズ
- お疲れ様ね（無愛想にそれだけいって、抱いていたすねこすりを渡してくる）
（此処を通るときはこいつを連れていると目立つので、シズに預けてこっそり外に出して貰う手筈なのだ） -- 美少女
- （コイツ……即ちすねこすりを受け取り、小さく頷く）
（ここを抜ければ、もうお互い会う事も無い。仕事も終わりだ。成功報酬はあとで指定の口座にでも振り込んでおいてくれ。と、事務的に伝える）
（仕事は、もうすぐ終わりだ。必要以上に喋る事もない） -- シズ
- いいのかしら。私、報酬をこのまま振り込まないかもしれないわよ -- 美少女
- （ああ、きっと振り込まないだろうな。知ってる。でも構わないよ） -- シズ
- 前金しか持ってない事わかってたのね -- 美少女
- (着の身着のまま来た組織に追われる女に、それ以上を期待するほうがどうかしてる） -- シズ
- そう -- 美少女
- （そうだよ） -- シズ
- なら、何も遠慮しなくていいのね。便利屋さん -- 美少女
- （ああ、何も遠慮しなくていい。これでさよならだ美少女。コイツは適当なところに流しておく） -- シズ
- 何でもお見通しなのね -- 美少女
- （美少女ほどじゃない） -- シズ
- そうなの -- 美少女
- （そうなんだよ） -- シズ
- じゃ、その子。良い人の所に、頼むわね -- 美少女
- （払いが良い客は愛玩用に欲しがる金持ちだけだ。約束するよ。さぁ、いけよ） -- シズ
- （いわれて頷き、美少女が歩みを進める）
（雨の中、ゲートに向かってゆっくりと。ゲートとは名ばかりの打ち捨てられた大門に、もう検問官はいない。こんな腐った街なのだ。出入りなんてその気になればフリーも同然だ）
さようなら。便利屋さん -- 美少女
- （ああ、さようなら。美少女）
（そう呟いて、踵を返そうとした直後……丁度、日が昇り、朝焼けに美少女の姿が照らされた瞬間） -- シズ
（空気を鋭く切り裂く音だけが響く。7.62mmの鋼鉄の弾丸が螺旋を描き、ハニカムで偽装されたスコープのレンズ越しに）
（──女の胸を撃ちぬいた）
（いい仕事だ、と自分と目標を導いたシズを静かに称える）
（この手法は何度やってもおもしろいように成功する。そこに面白さを求めたら人として破綻するが、シズの実力は確かであり）
（こうして行える虚無的な恐ろしさを俺は他に知らない）
（セミオートライフルのボルトが自動的に次弾を装填し、スコープ越しに女を覗く）
（動けば、頭を撃ちぬくために） -- ランディ - （……そう、面白いように成功する）
（最も効率的な、賞金首の殺し方）
（逃がしてやるといって取りいって、そいつから報酬をせしめた上で始末する）
（一粒で二度美味しい、いつも通りの……よくある話だ） -- シズ
- （胸から、真っ赤な大輪の華を咲かせて、美少女の矮躯が舞う)
（余りの衝撃に反転する美少女の体。そして、否が応にもこちらを向く少女の顔）
（だいたいの場合。その顔は動揺と恐怖と絶望に塗れた、酷い顔をしている。シズも、ランディも……そして恐らくザックですら見慣れた、この裏路地にありふれた最後の顔）
（しかし、美少女のそれは……違った）
（彼女は、笑っていた。穏やかに。全て認め、受け入れた上で笑っていた)
（彼女の小さな唇が震える。小さな言葉を呟く為に。今際の際に最後の言葉を囁く為に）
――――
（届くはずがない。雨音でその声は誰にも届くわけが無い。本来なら、誰もその言葉を聞く事はない）
（だが、シズにも、ランディにも……その言葉は届いてしまう。なまじ読唇術が出来るばかりに）
ありがとう、さようなら
（そう満足気に、優しく笑う彼女の言葉が） -- 美少女
（死に際の言葉として不可解である。しかし、わかっている）
（この街のごみ溜めのような世界の端で。それでも何かを失わず。それでもとそうあった人間の顔）
（そして、静かになった女に歩み寄り。シズに向かい合う）
すまん
（頭を撃ちぬくべきだったのか。聞かせたシズへか、女へか。言葉が先に出た）
（出るはずのない言葉は、出た） -- ランディ - （静かに……静かにハーフマスクをとって、呟く）
きにすんなよ。いつもの事だ
（はっきりと、シズと分かるその声で）
俺こそ……悪かったな。ランディ
今の今まで付き合わせて
なぁ、ランディ、お前もうこの仕事終わったらいくんだろ？
お互い女絡みの仕事はロクなことがないな -- シズ
- ザックには事務所の権利、公的な手続き書類を渡して去ろうと思う。
すまない、シズ
俺はお前に何も渡せない。何も渡せるものがないんだ。
お前に伝えるべきものも、お前に遺すべきものが俺には無い。
今のお前が、お前の結果「その様」になって、お前が承知していることだとしても
俺はお前に何かを一つ尽くしたかった。
こんな、女を殺した仕事の金ではなく…
すまない…シー・ライムレス -- ランディ
- やっぱり気付いてやがったのか（小さく、苦笑を漏らす）
まぁ、お前ほどの男が監視者の事を調べないわけがないよな
（元々、ランディの監視のために俺はここにきていた）
（それが仕事だから。それが、委員会が俺に課した仕事だったから）
やめろよ、その名前で俺を呼ぶ奴はもう1人だけだ
そして、その1人はお前じゃない
ランディ、俺はお前とザックのお陰で十分楽しませて貰った
仕事であることも忘れて……一時、大昔無茶やってた頃の事をなぞる事ができた
金の次程度には、いいもの貰った気がするぜ
まぁ、それも今日までだ。残念ながら、お前を監視する仕事はお前がこの街にいる間だけの話だ
外に出て行くなら管轄外だ。これでさよならだな -- シズ
そうだな。シズ・ブリンク…そう、お前はシズだ。俺にとっては、そうだ。便利屋にいた仲間の一人。
三人のうちの一人…シズ
そうだな
俺も楽しかった。泡沫の夢と、枯れ木に芽吹く緑と知っていても尚
じゃあなシズ。その女の目、閉じてやれよ
（ライフルを背負い、手振りもせず。振り返りもせず便利屋に向けて歩き出した） -- ランディ - ああ、じゃあな、ランディ
俺も『数十年振り』に仲間が出来て、楽しかったぜ
達者でやれよ。『依頼人』は、お前の事諦めてないだろうからな
（そっと、美少女の目を伏せ、矮躯を抱き上げて……ランディを見送る）
（これも、幾度もあった別れの一つ）
（感慨はない。感傷もない）
（少なくとも、俺たちはそういう関係だった）
（そういう関係で……あるべきだった） -- シズ
- 【つづく】 --
- 【よくある話 ３】 --
- 「いたか？！」
「いや、まだ見つからない……さっきそっちの路地裏で見たんだが」
「クソ……どこに逃げやがった」 --
- 「『ブリンク』の野郎が手引きしてるとか聞いたぞ」
「マジかよ、本当なら同じ事務所の連中か剣友会に頼むしかねぇじゃねぇか」
「でもそんなことしたら稼ぎにならねぇぞ」
「……だよなぁ、しょうがねぇ俺たちで探すしかねぇか」
「見つけても『ブリンク』は相手にするな！ 女だけを狙え！ どうせアイツ、こっちの数が多けりゃ襲ってなんてこねぇ！」 --
- （廃屋の壁越しに、そんな追っ手の戯言を聞き流して鎮痛剤を打つ）
（何度か撃たれた。弾は幸いにも身体に残っていない。動く分には何の支障もない） -- シズ
- アナタ、大人気ね
（色も無く呟いて、すねこすりを撫でながら、また俺の顔を隣から覗き込む）
（二人揃って身を寄せているせいで、顔が先ほどよりも近い） -- 美少女
- (美少女ほどじゃないさ、そう軽口を叩いて深く壁に背を預ける）
（連中をやり過ごすまで暫く大人しくする必要がある。例えやり過ごせなかったとしても、廃屋はそれ全体が鳴子代わりみたいなもんだ。あんな連中が踏み込んでくれば嫌でも分かる）
（逃げるのはそれからでいい） -- シズ
- ねぇ、何かお話してよ
（また、唐突に彼女はそう言い出した。彼女の話題はいつも唐突だ） -- 美少女
- （嫌に決まってんだろ、声でバレるかもしれないだろ。シズはそうはぐらかす） -- シズ
- そう、じゃあいいわ -- 美少女
- （いいなら最初からいうなよ、と思いつつも食いついてこないなら楽でいい。互いに黙って、ただ時が過ぎるのを待つ） -- シズ
- （互いに沈黙を守り続けながら、月明かりの差し込む窓越しに夜雨を見つめる）
（未だ止む様子はない） -- 美少女
- （一緒になって雨を見る）
（月明かりを浴びて輝くそれを見つめて、ただただ互いに黙り続ける）
（なぁ、美少女。そう問い掛ける）
（彼女を喋るとき、そうやって沈黙を破るのはだいたい俺の方からだった） -- シズ
- なぁに -- 美少女
- （お前、そいつ好きなのか？ 彼女の腕の中で眠る妖怪を一瞥してそう問い掛ける） -- シズ
- ええ、大好きよ。私の愛する子供だから -- 美少女
- （妖怪の旦那との間に作った望まれない子か） -- シズ
- ええ、誰もこの子を望まなかった。だけど私だけは望んだの。だって私の可愛い子だから -- 美少女
- （母の愛は偉大だな） -- シズ
- 当然じゃない。この子を守る為に私は夫も実の両親も、そして幼馴染も皆殺しにしたわ -- 美少女
- （そして最後に俺を殺すんだな） -- シズ
- そうよ、アナタを殺して私も死ぬわ。そしてこの子は私達の屍を食べて大きくなるのよ -- 美少女
- （安いホラーじゃねーか） -- シズ
- そうね。私も自分でいっててそう思ったわ -- 美少女
- （自覚があるなら大したもんだ） -- シズ
- わぁい -- 美少女
- （いや、褒めてねぇからな） -- シズ
- そう
（それきり、また黙り込む。彼女とシズの会話はだいたいずっとこんな調子だ） -- 美少女
- （確信に触れる話は、互いに一つもしなかった。虚言と戯言だけで会話し続けた）
（不思議と、悪い気はしない。中身の無い会話のほうが気が楽だ）
（空気だけで膨らませた風呂敷は、存外に座り心地が良い） -- シズ
- 静かになったわね -- 美少女
- （いわれて、初めて気付く。そういえば、もう追っ手の気配は感じない。ひとまずやり過ごせたようだ）
（なら、長居する必要もない。彼女の手を強引に引いて、立ち上がる） -- シズ
- 強引ね -- 美少女
- （お前にだけさ） -- シズ
- 告白かしらそれ -- 美少女
- （そう受け取ってもいいぜ） -- シズ
- じゃあそう受け取らないでおくわ -- 美少女
- （賢明だな） -- シズ
- そう -- 美少女
- （ああ、そうだよ） -- シズ
- 【つづく】 --
- 【よくある話 ２】 --
- （美少女の話は非常にシンプルだった）
（賞金の5倍の金を出す。だから自分と『この子』を逃がす手伝いをして欲しい）
（そういう、何処にでもある護衛の依頼だった。いつかのお嬢様の一件を思い出す） -- シズ
- （また、彼女は質問に対しては一貫して殆ど何も答えてはくれなかった。曰く、それも料金分とのことだ）
（舐めた事いってると美少女って呼ぶぞと茶化し半分に提案したら、「やんやん☆」だのなんだのいったのでそう呼ぶ事にした。どうせ仕事が終わるまでの関係だ）
（深く関わる必要もない） -- シズ
- あんまり怖い顔をしないで。この子が怯えるわ
（そう言って、相も変わらず感情があるんだかないんだか分からない顔で呟き、彼女の足元をずっとちょろちょろ歩いている異形を指差す）
（そう、それこそが彼女が自分と共にシズに逃がして欲しいと依頼した生物……いいや、妖怪『すねこすり』だ）
（雨の日に現れるという伝承を持つその異形は嬉しそうにずっと彼女の足元を跳ね回っている。ときたまシズの足元にも跳ねていくので邪魔だ。転びそうになる） -- 美少女
- （このように人に懐き、人前に姿を見せるすねこすりは非常に希少だ。コイツを売り払うだけでも一財産になる）
（多分、コイツをどこかの組織からこの女がチョロまかして、外で売り払う為に逃げようとしてるのだろう）
（もしこの憶測が正しければ、賞金が掛かった理由は間違いなくそれだ）
（そう脳裏で辻褄を合わせながら足元にじゃれついてくる毛玉ことすねこすりを指差し、コイツ鬱陶しいんだけど、と美少女に抗議の声をあげてみる）
（現在、雨の中、2人と１匹揃って路地裏を進んでいるわけだが、こう足元をちょろつかれては邪魔でしょうがない） -- シズ
- そう -- 美少女
- （そうじゃねーよ、抱き上げるなりなんなりしろと苛立ち混じりに声を荒げる。雨の中なのでお互いの声が聞き取りにくいのだ）
（シズは読唇術が出来るのでそこまで問題はないのだが） -- シズ
- いいのよ
（そういって足元をちょこちょこ動き回る毛玉を抱き上げれば、すねこすりは愛おし気に目を細める、よっぽど懐いているらしい） -- 美少女
- （その様子を視界の端に収めながら、ただ静かに路地裏を進む）
（足元に纏わりつく妖怪が消えても、足元に纏わりつく雨水は消えない）
（水溜りを蹴りながら、素早く進む）
（今回は急ぎの仕事だ。慎重さも必要でもあるが、それは二の次にする他ない） -- シズ
- ねぇ、あなた（黙って進むシズに、ふいに美少女が問い掛ける）
あなた、『この子』の事本当は好きなんでしょう？
（唐突で、前後に意味があるかどうかもわからない） -- 美少女
- （いいや、嫌いだよ。昔妖怪に酷い目に合わされた事があるからね） -- シズ
- 家族を殺されたのね、可愛そうに -- 美少女
- （そうだ、俺の大事なものは全部奴等に……いいや奴に奪われた。だから好きになれないんだ） -- シズ
- でも憎悪が長年醸成されてついには愛憎になってしまったのね -- 美少女
- （そうなのかもしれないな、今の俺は愛と憎しみに生きる憐れな男なんだよ。だから慰めてくれ。毎月口座にいくらか振込むみたいな形で） -- シズ
- この状況下でこんな小芝居するだけの余裕があるなら大丈夫そうね -- 美少女
- （ノせといてそう落とすのかよ、と笑いながら幾つめかの角を曲がる）
（妙な女だ。全部虚言で構成されているかのような、そんな気すらしてくる） -- シズ
- ねぇ、今の……
（気に止める素振りもなく、美少女は俺の横顔を覗きこんで、そう尋ねてくる）
やっぱり、全部嘘なの？ -- 美少女
- （覗きこまれたシズの瞳は暗く、深く、何の色も映さない黒）
（その深淵の向こうで、それでも嘘偽り無く……男は小さく笑って答えた）
（ああ、全部嘘だよ）
（俺はどうしようもない嘘吐きだからな）
-- シズ
- 【つづく】 --
- 【よくある話】 --
- （酷い雨の日だった）
（外に出るのも億劫になる豪雨の日、この事務所は往々にして臨時休業となる。強い風が吹いている日はみんな揃って遅刻することも珍しくない）
（それでも、今日はそんな雨の日でも事務所は開いていた）
（理由は簡単だ。臨時休業もすっ飛ぶような仕事がはいったからだ） --
- （仕事の内容は至って簡単。とある人物を殺すこと。その人物は賞金首なので、この事務所にだけ来ている仕事というわけではないが……今回は優先的に回されている）
（デランデルの件もあり、この事務所では今賞金首に関する仕事がよくあつまっているのだ） --
- （溜息をつきながら、今回優先的に回されてきた手配書をテーブルに投げ捨てる）
（女絡みの仕事を喜ぶ人間は、この事務所にはいない）
（特に相手が美しいともなればなおの事だ） -- シズ
- （今回の手配書は非常にいい加減なものだった、フードを被った小柄な女性の写真がうつっているだけ）
（名称不明。年齢不明。勿論身元も不明。特筆するべき事は美しいという事のみ。こんなのどう探せというのだろうか）
（……いや、どうやっても探せないからうちの事務所に来たんだろうな。クソが） -- シズ
- （ランディはそれでも払いが良い仕事なので未だに外回りを続けているが……ザックのクソはどうせどこかで寝ているのだろう）
（もしかしたらこの事務所のどこかにまだいるのかもしれないが、知った事ではないので1人、この下手人をどう探そうかと思案を続ける） -- シズ
- （鎮痛剤の味を血管から直に愉しみながら、どうしたものかと汚い天井を眺めていると……こんこん、と事務所の扉がノックされる）
（足音からして事務所の人間ではない。どうせ隣近所の誰かだ。今は構っている暇がない）
（ごんごんと扉が殴打される）
（幸いにも明かりをつけていないので居留守を決め込むことにする）
（どんどんと扉が喚く） -- シズ
- （やけにしつこいな、様子くらい見にいったほうがいいか？ と考えたそのとき）
（一瞬、窓の外に影が写る。そして、直後にその影が……ずっしりと中身の詰まった皮袋が、扉の窓をブチ破って、雨雫と共に事務所に押し入ってきた） -- シズ
- （後に続くように、割れ窓に手を突っ込んでマイペースに内鍵を外し、悠々と入ってきたのは……フードを被った小柄な美少女）
（そう、美少女と形容する他なかった。その少女をみて、美少女と呼称しない人間は恐らくいないだろう）
（そう思えるほどに……まるで存在がそうであると定義されているかのように、美しい少女がそこにいた） -- シズ
- ノックしても出ないから、きちゃった
（外見相応な、鈴の鳴るような声がそう呟く。感情だけごっそり抜け落ちたかのような、色のない声）
（そして、いうなり全身ずぶ濡れのまま、事務所に入ってくる。足取りに遠慮や迷いは一切ない） -- 美少女
- （普通、ノックして出てこないなら入ってこないと思うんだけどな、と言いながら飛び散った硝子を指差す）
（とりあえず、硝子代弁償してもらえるかいと続けて、何度目かの溜息をついた） -- シズ
- （美少女は気に留めた様子もなく、白魚のような指先を先ほどの皮袋へと向ける。丁度シズの真似をするように）
その分もそこに入っているから、よろしくお願いするわね
仕事を頼みたいの
それ、前金だから
（淡々と、『手配書』に書かれた少女はシズにそう告げた） -- 美少女
- 【つづく】 --
- 【危険物輸送護衛 #エピローグ】 --
- （あれから一週間と経たないうちに、あの件で名前の出た某国が近隣諸国へ宣戦布告をした事がニュースで大きく取り上げられる）
（最も、今まで口八丁で生き延びてきた国が破れかぶれで攻勢に出たところで、それは他国に攻撃の口実を与えるだけであり）
（宣戦布告をして数日も経たない内に、結託した近隣諸国は連合軍を結成し某国へ襲撃）
（戦争と呼ぶのもおこがましい、一方的な蹂躙が始まる）
（その次のニュースには、数日前に小さくニュースで取り上げられた身元不明の惨殺死体が）
（行方不明となっていた大手兵器会社アーセナル・インダストリーの社員であることが判明した事を、伝えている） --
- （それから更に数日後、あの某国の首相が自決し、政権が完全崩壊したころ）
（とある傭兵団の事件が新たにニュースとして流れる。）
（グレートハーロット傭兵団…通称「見世物小屋」と呼ばれる凶悪な傭兵団が、各地で事件を起こし、とうとうその幹部に賞金がかけられたのだ）
（その中には、あの時戦った異形の侍と、巨人の顔もあった）
（それを最後に、ニュースは次のコーナーへ移る、内容はごくごく平凡な料理コーナー）
（主婦向けの低コストでできる工夫料理が、好評を博している）
（こうして、闇の中で起きた出来事は、人々の中で『どこか遠いところで起きた、自分には関係のない出来事』として）
（記憶の彼方に埋もれていく…） --
- 【了】 --
- 【危険物輸送護衛 #５】 --
- 「さて、最後に何か聞く事はあるかな？冥土の土産に答えてあげられる事なら答えてあげるが」
（銃を向けながら、中年の男はザックへ語りかける、構え方からして訓練されているようには見えないが）
（さりとてこの至近距離で外すほど目が悪いようには見えない）
（何より彼の後ろに控える軍隊じみた装備の護衛達が、下手な動きを見せた瞬間ザックをハチの巣にするだろう） --
- （両手を上げながら嫌そうに身を縮こまらせ）
……冥土の土産に答えてもらえることなら答えて貰いたいことなんてないが……。
強いていうなら、こんなに何人も殺す必要が有るほど、大切なモンなのか、あの輸送車の中身ってやつは。
（上げたままの手の親指を立て、自分の後ろにある輸送車を指さす） -- ザック
- 「はっきり言ってしまえば、ないな」
（男は銃を向けたまま、言葉を続ける）
「そもそも、今回の物資輸送自体、我々が我々自身の会社に対して仕組んだ罠でしかないのだよ。
君達程度にはわからないだろうが、我々位の大企業ともなると派閥というものがあってだね
まあ、君は運悪く身内同士の謀り合いに巻き込まれてしまった、というわけだよ。あの女もね」
（絶対的な優位からか、或いは銃の重さに耐えられないほどの貧弱な筋力なのか、徐々に狙いが急所から下へ下がる…）
（さらに、先程逃げたあの二人のいる方角から、濃厚な殺気が放たれるのが、遠くにいながらもなお空気を伝わり肌で感じ取れる…） --
- ……成る程な、納得したよ。
あんまりにも護衛の数が少ないのも、この国の領土に入ってから襲われた不自然さも、それが理由か。
オレが襲撃者なら、本格的に護衛の質が上がりそうな本国に至るまでに襲撃を掛けるだろうしな。
他所の国との軋轢になりかねない国境より先で争い事を起こすわけにはいかなかったから、そういう情報しか襲撃者に与えなかった、とかそういうとこだろ。
……冥土の土産にもう二つだけ聞かせてくれ。
あんたに殺られた哀れなプランって女でも三つまでは許してくれたんだ、あんたもそれくらい許してくれ。
二つ目、あんた、襲撃者として自分であいつらを選んだのか？
三つ目、前金はプランに貰ってるが、無事、仕事をこなした者にこの国は報酬を払う気はあるか？
（背後を気にしながら、少しだけ大げさな身振りを交えて尋ねた） -- ザック
- 「下等な肉体労働者のくせに意外と察しがいいじゃないか」
（男は本来の性根を滲ませる下衆な笑顔を浮かべ、言葉を続ける）
「ああそうだ、あいつ等は凶悪な事で有名な傭兵団の一員でな、連中なら間違いなく、依頼の遂行ついでに派手に暴れてくれるだろうと踏んで頼んだわけだ
しかし、幾ら力があろうとも所詮は傭兵、あいつ等のボスに目の前で札束を積んでやっただけで尻尾を振ってきたときは
笑いを堪えるのに必死だったよ…最も、報酬を払う気など元からさらさらないがね
君を消したら次はあいつ等の番だ、あの世で仲良く歯がみしたまえ」
（三つ目のザックの言葉に、男は怪訝な顔をする）
「何を言うかと思えば…金の心配より、今は命の心配をする所じゃないのかね」
（男の言葉に、後ろの護衛達が数人、ザックの言葉に失笑を漏らす…その意図に気づいているものは、男とその仲間の中にはいない） --
- ああ、そう。
お返しに一つ教えてやるよ。
オレはな、争い事が大嫌いなんだよ。不平等な取引も、どっちかが一方的に得をするのも、タダ働きも大嫌いだ。
だから、もう一度確認するために、復唱させてもらうぞ。
（小さくため息を零し、左右の色の違う目で男を睨む）
――お前は、オレ達に、報酬を支払う気はない、ってことだな。
……だってよ。
（その言葉は、目の前に立つスーツの男達ではなく、『自分の背後に居る者達』に向けて放たれた）
（言いながら腰を曲げ、這うように姿勢を出来るだけ低くし、背後からの衝撃に備える） -- ザック
- （ザックの声にあわせるようにして、背後の輸送車が内側から爆炎を上げて吹き飛ぶ）
（いつのまにか、大量の炸薬を仕掛けられていたそれは即席のクレイモア地雷と化し、ベアリング弾よろしく熱された鉄の破片を炎と共に吹き散らす）
（まるで計算されつくしたかのような爆発。指向性を与えられた爆風は如何な芸当すら可能とする）
（便利屋である彼等にとって……裏切りなど日常茶飯事）
（裏の取れないクライアントを信用するほど彼らはお人よしではない） --
- （直後、背後から不可視の斬撃が、男の背後にいる護衛を数名、腰から両断する）
（その一瞬後、今度は無人の乗用車が、やはり護衛を数人下敷きに地面に激突した直後、爆発炎上する）
胡久美「…成程、話は聞かせてもらった…」
（幽鬼のように、音もなく歩み寄る男、明らかに怒気を含んだ殺意が、今は無関係のザックの背後から、男達へ向け暴風のように叩きつけられる）
ベイル「嘘はいけないな〜」
（次いで、肩を回しながらやはり歩み寄る巨人）
（誰に向うでもない、例えるなら限界以上に水を注がれたコップから水が溢れるかのような、滲み出る凶気は、いまや男達へ一点に向けられて） --
- （波濤のように押し寄せる殺意の大群に浮足立った軍勢の中、斬撃と爆発に気を取られた者達の間をすり抜け、スーツの男へと詰め寄る）
（銃をかかと落としで落とさせると、相手の胸元に蹴りを加えて無理やり倒し、胸元を踏みつけたまま尋ねる）
……命の心配より金の心配をするべきだったな。
まだそれなら取引として話す余地もあったが、こうなったらもうオシマイだろ。
お前の敗因はオレを、オレらを、あいつらを舐めすぎたことだ。分前半分で来てくださるありがたい友人の一人もいないとでも思ってたか？
ああ、あと依頼は遂行したんで文句言うんじゃねえぞ。
お望み通り『近寄るのも危険なモンを、依頼者の元まで届けて』やったよ。
――なあ、シズ、巨人、侍。 -- ザック
- （先ほど、頭蓋を撃ち抜かれて地面に倒れ伏していたはずの運転手がいつのまにか起き上がり、静かに首肯してから帽子を脱ぐ）
（現れたのはべっとりと血糊で濡れた黒髪の男。いつのまにかつけたハーフマスクの下で小さく溜息を吐く）
（そう、最初から話はずっと聞いていたし、最初からずっと『ザックと二人揃って』相手を疑っていた）
（ランディに至っては疑わしすぎて首を突っ込まなかったほどの仕事だ。どうして2人が疑わないだろうか。ただでさえ先日、剣友会に担がれたというのに） -- シズ
- 「な、何だ…何が起こってぐえ！！」
（無様に地面に仰向けに倒される男、突然の事態に何が起こったか理解が追い付いてないようで）
「く、くそ！こんな…こんな事があってたまるか！俺が、この俺がお前らみたいな奴なんかに見下されるなんて…
おいお前ら！何をボーっとしている！早くこいつ等を始末しろ！」
（無様な姿を晒したまま、男が残った護衛へ命令を飛ばす）
（慌てて再度銃を構える男達）
胡久美「稼業柄、面子が大事なのでな…恨みはないがお前達には見せしめになってもらう」
ベイル「ってわけで僕等はひと暴れする気だけど、君達はどーするー？」（銃弾の雨に晒されながら、巨人がにこやかに二人へ語りかける） --
- （脱力し、ひらひらと手を振る）……やめとく。オレは争い事が嫌いなんだよ。特に、タダでやるようなやつは。
プロのプレイヤー同士、ノーゲームと行こうか。
その後にお前らがどんな『打ち上げ』しようが、あんまり興味ないからな。
シズ。帰るぞ。……2000かぁ……この怪我と帰りの運賃までこっち持ちで、2000かよ……。（嫌そうな顔で額を抑える） -- ザック
- （そうだな、他の仕事もできたことだしな。と呟いてミスリル製の防魔ケースに入った物を軽く掲げる。とっくの昔に護送車から確保した輝晶石だ）
（今回の仕事で彼等が『面子』を保とうとしてくれるのなら、目撃者は1人もいなくなる）
（ならこれはどこに消えてもグレーですむ代物だ）
（せいぜい飯の種にさせてもらおう） -- シズ
- ベイル「そっかー、じゃあ君達の分まで暴れておくね！それじゃあまた会おうね」
胡久美「…さらばだ…」br;（ザック達とは反対方向、護衛達の方へと歩みを進める巨人と侍の二人組）
（ザック達が去っていく間、背後からの悲鳴が途絶えることはなかった） --
- 【つづく】 --
- 【危険物輸送護衛 #４】 --
- （あの市街地道路での一線から、敵の追撃らしきものはない。
あの戦いの中でも目的地への移動は続けてきたせいか、気づけばゴールへの距離は近づいており）
（後は街を抜け、某国の軍の後方基地にたどりつけば、依頼自体は無事終了となる…あくまで無事にたどり着ければ、だが） --
- （腕のバンテージを腹に巻き、血が滲む傷口を片手で抑えながら進行方向を睨む）
デュラハンといい、バケモノに好かれる才能でもあるのかオレは……！
必ず後金支払わせてやるからな……！ （ガンッ！と苛立たしげに運転席の真上を叩く。何回も叩いてるせいか拳の跡でボコボコになっている） -- ザック
- （そうしている間にも、出口は近づいてきている…と、意識していなければわからないほど、微かな振動が座席を通じてザックに伝わる）
（それは運転手も感じ取ったのか、明らかに表情に緊張の色が増す）
（気のせいだと思っていたそれは徐々に大きくなり、震源地がこちらへ近づいてくるのがわかる…） --
- （カチッ、カチッ、カチッ、と着火器を何度も擦るが風圧でシケモクに火が付かない。苛立たしげに胸ポケットに戻す）
一服する暇もないってか……少しくらい休ませろや……！
（脇腹を押さえながら反対の手でドスを車体から抜いて後ろを振り向く） -- ザック
- （後方を向いたその時、唐突に前方の建物の入り口が吹き飛び、その中からあの巨人と、侍を乗せた装甲車が飛び出してくる！）
ベイル「はっはー！！待ち伏せだいせいこー！！」
胡久美「…」
（ややバランスを崩しつつも、何とか横転を回避すると、車は限界まで速度を出すと必死にあの二人を振り切ろうとする）
（ザックからは突然の衝撃の後、前方から出てきたであろう二人がこちらへ向かい追いかけてくるのが見える！） --
- （急ブレーキ急旋回で前転のように姿勢を崩して車体の上に叩きつけられ、ベルトでギリギリ繋がる姿勢で苛立たしげに笑い）
こんなにしつこい連中久しぶりに見たぞ……！ 婚期のがした女でももう少し貞淑さがあるだろ……！
ああ、鬱陶しい……！！（ベルトを手繰って起き上がると、ギリギリと歯を噛む） -- ザック
- ベイル「そういう事言うと、女の人に嫌われちゃう、よ！！」
（一瞬、体が膨れ上がったかと思うほど筋肉を隆起させた巨人が、恐るべき速度で輸送車の後方に掴みかかる！）
「ぃいいいいいよいしょぉおおおお！！！」
（掛け声とともに踏ん張れば、車は徐々に速度を緩め、ついにはびくとも動かなくなる、パニックを起こした運転手がアクセルを全開にするも）
（ただタイヤが地面に擦れ、焼けたゴムの臭いを漂わせるだけで、何の効果もない）
（そうこうしている内に、装甲車が近づいてくる、その上には侍の他に銃で武装したオークやコボルトもおり、向こうも全力で向かってきているのが一目見てわかる） --
- うるせえ！余計な世話な上に今この死線で見逃してその機会寄越すならなんぼでも嫌われてやるよ！！
（ダンダンダンッ！と車体の上を走り、車体を斜めに切り飛ばすように巨人が掴んでいる両手に向けて長ドスを振った -- ザック
- ベイル「いっだぁ！！」
（長ドスで思い切り斬りつけられたにも拘らず、指でも切った程度のリアクションと共に）
（巨人が手を離す、と同時に、急発進した輸送車がベイルの横に回り込み、鉛玉を浴びせようとした亜人達を一気に引き離す。）
（街と外を繋ぐゲートが見えてくる、この最後の追撃を振り切れば、出口はすぐそこだ。）
（無論向こうも基地に逃げ込まれればダッシュは不可能なのを理解しているのだろう、先程の巨人と装甲車が全力でこちらへ向かってくる！）
（そしてあの侍は…何故か、遥かに離れた遠い距離にも拘らず、居合の構えをとり、微動だにせずただザックと、輸送車のみを静かに睨みつけている…）
（何かをする気なのは予想できるが、何が来るのかわからない、そんな不気味な気配を、あの侍は放っている） --
- （あと少し、あそこまで逃げ込めば後は面倒事を他人に押し付けられる）
（このクソッタレた依頼にも蹴りをつけられ、貧乏くじばかり引かされた人生とも決別出来る）
（事務所の庭からは金と温泉が湧き、美女達が何の理由もなくオレに傅き、身分ある人間の全てがオレを認め、スネイルが路地裏でのたれ死ぬ）
（そんな希望的観測に口角が持ち上がり、持ち上がっていたから、生じた寒気に小さく悲鳴が出た）
（――その寒気は、内側から湧いて出た物ではなかった）
（全身に冷水を浴びせられたような怖気とも言うべき感触が侍から発せられ）
（咄嗟に長ドスを前に出して、防御姿勢を取った） -- ザック
- 胡久美「一陣 雪走」
（そう口にした侍が、突如装甲車の上をかけると、地面へと飛び降り、そのまま先程の巨人もかくやという勢いで加速）
（その狙いはザック…ではなく、装甲車のタイヤを、あろうことか居合抜きで両断する！）
（幾ら頑強といっても流石にタイヤまではそうはいかなかったのか、あっけなく切られたタイヤはその半分は転げていき）
（車体はその姿勢のまま落下、地面を滑って行く）
胡久美「どうやら、俺達の勝ちのようだな…」
（ゲートまであと一歩のところで、ここへきて車は走行不可能に、後ろからは侍の仲間達がぞろぞろと集まりつつある…） --
- （大きな衝撃で跳ね上げられ、車上から外に飛び出て落下し、地面を転がった）
（痛む身体に鞭打って起こし、車の状態を見て運命を悟り、大きく息を吸った）
……生まれ変わるなら、バケモノの存在しない平和な世界がいいな、オレは。
分からねーぞ。オレの中に眠る真の力がピンチに後押しされてお前らを浄化するかもしれないだろ。
（言いながらも笑顔が硬い。いくつもの選択肢が頭に生まれ、そのどれもが手詰まりであることに苦虫を噛み潰したような表情になる）
（ここに至ってもまだ保身に走れない未練がましさに辟易しながら、長ドスを握り直した）
……来てみろよ、四本もあって邪魔だろ。剪定してやるよ。庭師ばりに。 -- ザック
- 胡久美「見た目は悪くとも大事なものでな、悪いがお前には指の一本たりとも落されてはやれん」
（そう言いながら、侍が刀を構える）
胡久美「さらばだ、久々に楽しかったぞ…」
（そう告げて、刀を振り下ろそうとした瞬間、一発の銃声が響く。一瞬遅れて、頭に風穴を開けたオークが、その場に崩れ落ちる）
（それから一瞬遅れ、突如ザックの後方から銃撃の雨が襲撃者達に向けられ発射される）
（巨人は銃撃を建物の中に入り込むことで回避、胡久美は振り下ろそうとした刀で銃を弾いた後、装甲車の後ろへと逃げ込む）
「やれやれ、まさかこんな事になるとは…」
（振り向けば、そこには高級そうなスーツを纏った、中年の男性の姿、後ろには護衛車にいたもの達と同じ装備をした者達が、大量に控えている） --
- （冷や汗が一筋流れる。苦笑いでその男の顔を見て、小さく呟く）
……ああ。……ホントに、厄日だ。
使いたくもない運を、こんなところで使うことになるとは……。
……これで、オレは任務終了でいいんだよな。（疲れきった表情で胸ポケットを漁る） -- ザック
- 「まったく、こんな事になるなど…」
（男はため息をつきながら、ザックと輸送車の運転手へと歩みを進める）
「君達は護衛を依頼された傭兵かな？任務ご苦労、それじゃあ」
（男は、懐から銃を取り出すと、輸送車の運転手の頭へ向け、迷わず引き金を引く）
（盛大に血の華を咲かせ、運転手は地面へと頭から倒れこんだそこへ、追い打ちの銃弾が叩き込まれる）
「後は私達に任せて、ゆっくりと地獄を満喫したまえ」
（そういうと、今度はザックへ銃口を向け、そう告げた…後ろの者達も、ザックへ向け銃を構えている --
- （胸元のシケモクが全て溢れてなくなっていることを確認してから）
（ひくつく頬で、苦笑いを零した）
……ホントに厄日だな。
……いつになったら達成されんだよ、三つ目の条件ってやつはよ。 -- ザック
- 【つづく】 --
- 【危険物輸送護衛 #３】 --
- （ザックを乗せた輸送車が、市街地の道路を全力で駆けていく。）
（幸い交通量の少ない時間帯のためか、他の車に道を阻まれる事もなく目的地へと車を走らせることはできているが）
（それは後追いかけてくるあの二人組にとっても同じであり、振り向けば少し後方に地響きを立てながら走り寄ってくるあの巨人と）
（侍を乗せた亜人の運転する装甲車が、すきあらば横に並ぼうとやはり、迫ってきている） --
- （元々複数の護衛車を想定して作られた輸送車だったために、武装は殆どしていないらしい）
（運転手の雰囲気からしても手練という訳ではけしてなく、良くて運び屋、悪ければプランと同じような非戦闘員だろうと予測をつける）
（つまりは、少なくとも追っ手は全て自分が撒かなければならないらしい）
（目的地まで着けばどうにかなる物でもないだろうから、最悪汚れ仕事になる可能性が高い）
ああ……いつものクソ仕事腐れ仕事だな畜生……！
（右手の抜き放った長ドスを握ったまま不安定な車体の上で姿勢を低くして踏ん張る） -- ザック
- （その直後、姿勢を低くしたザックの、元は頭のあったであろうすれすれの部分を、何か巨大な質量のある物体が通過していく）
（直後、それは近くにあったガソリンスタンドへ直撃、盛大に爆炎と黒煙を噴き上げる）
ベイル「あれ、外しちゃった」
（残念そうに呟く巨人の手には、路上駐車されていた乗用車が子供の玩具のように無造作に握られている）
（おそらく先程投げつけてきたのもそれだろう、そしてその一瞬の間に、侍を乗せた装甲車は輸送車にぴたりと横付けする） --
- （仰け反った姿勢から起き）……っぶねぇ！！ 洒落にならねぇ、あのクソデカブツ野郎ッ！！
（舌打ちをしながら、並走してくる装甲車に視線をやり、腰に巻いたベルトを引っ張る）
（こんな形で使うことになるとは思っていなかったが、ベルトから射出する鉤付きのゴムを輸送車の天井に撃ちこんである）
（切断されない限り振り落とされることはない。斜めに車体の足を掛けながらドスを構える）
一応打診してやるが、今更友好的や金銭的な交渉で解決しようって歩み寄りはないよな？
（言いながら、体を斜めに倒したまま侍の顔面に向けて横薙ぎに片手でドスを振る） -- ザック
- （悠然と輸送車へ足を乗せ、乗り移る侍。その顔に直撃するはずだったドスの一撃は、鞘からわずかに抜き出された刀が防ぎ、火花を散らす）
胡久美「…なかなかいい獲物を持っているな、もう少し大事に扱ってやったらどうだ」
（その言葉とともに、お返しとばかりに鞘から刀を完全に抜刀し、ザックの崩れた姿勢へ袈裟がけの一撃）
（侍からの先程の説得の返事はない、侍から放たれる気は、まるで夜の海のように静かで、目の前の存在が幻覚なのではと疑ってしまう程）
（だが、その無色透明の静けさの中には、ひたすらに冷たく鋭い、まさしく刀の様な殺気の発露である事も感じ取れる。）
（今までの者達の直接的な殺意を「動」の殺意とするなら、目の前の男は「静」の殺気とでもいうべきものを、その身から放っていた） --
- 少なくとも命よりゃ大切なモンでもないんだよ。使えるモンは使う主義でな！
（袈裟懸けの一撃を跳んで避ける。腰に巻いてあるベルトがギシィ！と軋んで着地と同時に車体が大きく揺れる）
（体を捻りながら長ドスを斜めに縦にと振り回すが、全て弾かれるか僅かな動きでかわされる）
（体勢が整わないこと以上に踏んできた場数の違いを感じる熟練の動きに苦々しい笑いが溢れる）
（何より後ろからいつ乗用車が飛んでくるかを警戒しながらの剣合は手数こそオレの方が多いはずなのだが、徐々に追い詰められているような気にすらなる） -- ザック
- （侍が徐々に攻勢に移る、避け、弾くだけだったその動作に、徐々に攻めの手が混じり始める）
胡久美「筋はいいのだろうが、やはり経験のｓ―」
（そこまでいって、侍が不意にザックから大きく開いた距離にもかかわらず刀を全力で振り下ろす、次の瞬間、無人の乗用車が両断され、半分ずつになった車がそれぞれ建物へと突っ込んでいく）
胡久美「…ベイル、もう少し考えて行動しろ…」
（遠くからは、笑顔でごめんのジェスチャーをする巨人、ともかく、偶然とはいえ侍は大きな隙を晒す羽目になる） --
- （それは最初から後方に注視をしていた者と後方からの飛来物に気づいてから対処した者の違いだった）
（完全に野生の勘と、死線での集中力で真横からの攻撃が、その軌道では自分を殺せないと判断し、ベルトを緩めながら車体を大きく蹴る）
（真横から飛来する車の陰に丁度隠れるように迫り、侍の「真上」から落下の勢いを加えながら全力で長ドスを振り下ろす） -- ザック
- （振り下ろした姿勢のまま、侍は微動だにしない、視線は輸送車に向き、ザックの行動が見えていない様にも見える）
（誰が見ても明らかな、決定的な決着の瞬間。数秒後には無様に串刺しにされた侍が、輸送車から落ち…）
胡久美「見事だ、だが…相手が悪かったな」
（その言葉とともに、四本の何かが突如侍の羽織ったコートから飛び出してくる）
（飛び出してきたのは…人間の、腕）
（奇術のように侍の背から飛び出した四本の腕には、それぞれに刀が握られており）
（その全てが、ザックへ向かい勢い良く突き出されてくる！） --
- （空中で、二本までは弾いた。鉄の上を鉄が滑るような音が響き、火花が盛大に散った）
（だが一本が浅く肩を切り裂き、もう一本は深く腹部を貫通した。体内から肉の裂ける音が聞こえてきて、吐き気を催す）
（最初からバケモノの中にいたんだ、ただの人間だと思い込んでいた自分の失態だ）
（口角から血を流しながら、皮肉げに嗤う）
――そりゃ、互い様だろうが。
（腰のバックルを叩いてゴムを引き戻しながら相手の胸倉に全力で蹴りを入れつつ、車体の上に戻る）
（細やか過ぎる反撃に口元だけで笑い、咳き込みながら車の上を転がり、運転席に蹴りを入れて指示を出す）
（してやられたからには、一瞬速度を上げて距離を稼ぎ、体勢を整える時間を稼ぐしかない。運転手は速度を上げて侍達を引き離そうとする） -- ザック
- 胡久美「む、まだ反撃できるか…」（思わぬ反撃に一瞬よろけつつも、刀を刺して車の上に留まろうとし…それを直前で中止する）
（輝晶石の毒の脅威を考えた結果だが、結果として六本腕の侍は車から振り落とされる形となり）
（ザック達は大きく引き離すことに成功する…一先ずはおってくる様子はないようだ）
ベイル「逃げられちゃったねー、どうする？」（後から悠々と歩いてきた巨人は、侍に話しかける）
胡久美「先回りする、ついてこい」
（そういうと、巨人や仲間の亜人と共に移動を始める）
（その顔に、久々に興味をそそる獲物を見つけたと言わんばかりの、獰猛な笑みを浮かべ） --
- 【つづく】 --
- 【危険物輸送護衛 #２】 --
- （物騒な依頼とは裏腹に、依頼自体は退屈といっていいほど順調そのものであった。）
（道なき道が終わり、今輸送車と、それを囲む複数の護衛車は地図上にあったあの都市の道路を走っている）
（酒場の街ほどではないにしろ、かなり近代化の進んだ都市なのが、窓越しに覗くだけでもわかる。） --
- （一方オレは、そんな順調そのものの依頼に、ノリ気じゃないにも程があった。ノリ気になれるかって話だ）
（どこの角度でこの依頼を切り取ったら咀嚼がしやすいだろうと思い、いろいろな角度から眺めて見たが無駄の一語に尽きた）
（素性を明かせない時点で疑わしいのに、それが女からの依頼というだけでオレの中の嫌な予感が四、五倍に膨れ上がっていた）
（しかも取り扱う品も危険度MAX、用途もオレの大嫌いな戦争。挙句の果てに前金を懐に入れている上素性がバレているのでばっくれる訳にもいかない）
（目先の金子に心奪われた自業自得なのだが、ここ最近の依頼を思い返しても最悪の部類であると言えた）
（窓越しに見える近代化の進んだ街も、目先の欲に目が眩んだ自分を嘲笑っているように見える）
このまま何事もなく終われば最高に美味い酒が飲めるんだがな。 -- ザック
- それは問題ないでしょう（つい最近聞いた声が隣から聞こえる、そこには依頼の際に出会ったあの女の姿）
ここまで来ればもう余程の事がない限り、依頼は90%達成されたと言っていいでしょう
（あの件で禁煙をやめたのか、服からは微かに煙草と、機械油の匂いが漂ってくる） --
- だといいけどな。
そういう状況で余程のことがあり続けたせいで、ああいう所に住むような人生じゃなくなったんじゃないかと思うと、
そう楽観的に考えることもできなくてな。……何食ってんだろうな、ああいうところに住んでる奴は。 -- ザック
- さあ、想像もつきませ―
（会話は、突如襲ってきた轟音と衝撃で中断される。）
（まるで世界がひっくり返ったかのような衝撃を何度も受けながら、景色はザックの視点を中心にくるくると回っていく。）
（始まりが唐突ならば、終わりも唐突であった。それから一瞬の後、最初と同等か、それ以上の衝撃とともに
）
（世界は回転をやめ、特大の衝撃とともに停止する。）
（見れば、車体のあちこちは横転の衝撃でへこみ…ザックの数センチ真横は、どこからか飛んできた別の護衛車が）
（ザック達の乗っていた車体の半分を、押し潰していた） --
- （ようやく車体の回転が止まった頃には、座席のサイズは2/3にまで圧縮されていた）
（護衛車が潰したせいで変形し、折れ曲がったドアを窮屈になった座席の内側から蹴り飛ばして、無理矢理に外し飛ばした）
最高に美味い酒に酔う前に、運転と回転で酔って吐きそうだよクソが死ね……ッ！！
おい、プラン。随分と交通マナーのない国だな、この国は。車が空も飛ぶのかよ。
何なんだ。マジでやばいのが来てるんじゃないのか、おい。
（横転の衝撃で頭を打ち、額から流血しながら鬼の形相で車の座席に足を掛けて真横になった車体の上に顔だけ出して周囲を見回す） -- ザック
- （返答はない、見れば…ザックの真横にいた筈の彼女は、運悪く飛んできた護衛車の下敷きになってしまっていた）
（もはや原型のわからない護衛車の残骸の下から、青白くなった手だけが覗いている）
（車体から乗り出したザックが見たのは、異常な…性質の悪い悪夢としか思えない光景だった。）
ははは〜、それー！！
（３メートルは優に超える、ハーフジャイアントらしき大男が、護衛車を殴り飛ばし、叩きつけ、別の護衛車へぶん投げ暴れまわっている）
（その大男がいる方を前方とした、後ろ側は、さらに異常な事態となっていた）
（まるで銀幕から抜け出したような、東洋風の男が）
（警備員とザックの同業者らしき男達を、目にもとまらぬ速さで、それこそ映画か漫画の様に容易く切り刻んでいく）
（他の護衛車も、武装した亜人達の急襲を受け、それぞれの対応に精一杯といった様子だ）
（あの大男と侍は、徐々にだが確実に輸送車へ近づきつつある、狙いは明らか、ここへ来て、ザックの考えていたもしもが最悪の形で実現した。） --
- （ちらりと横目でその手を確認して）……ああ、そうかよ。そんなもんだって知ってたぞ、オレは。
だから名乗って所属を言えって言ったんだ。オレは誰に文句を言えばいいのかも分からなくなっただろうが。
（オレは争い事が嫌いだ。面倒事も大嫌いだ）
（平和と平等という言葉と両手を繋いで生きていたいと本気で思っている）
（だから、ここで依頼を放棄して逃げに走っても、問題はないはずだ）
（……ただし。それは、ムカついていなければという前提が必要になる）
（バキン、と車体を凹ませながら、外に出る。引きずり出した長ドスを片手に輸送車に近づく大男達に向けて走る）
面倒なことに、本当に面倒なことに巻き込みやがって……ッ！！
だから嫌いなんだ、女の絡んでくる依頼ごとは！！（長ドスを抜き放ちながら注意を引くように叫ぶ） -- ザック
- （その言葉に、あの大男と侍の注意が向く。１人はその巨体を除けば年齢は20代といったところか）
（あれだけの凶行を行った後にもかかわらず、その顔はにこやかに笑っている）
（対するもう１人…侍は、30半ばといったところか）
（全身黒い服に、羽織った黒いコート、更に黒く長い髪と黒ずくめの姿、どこか疲れた様子を感じさせるその表情は、見る者に暗い印象を与える。）
大男「ねえ、あれも倒していいの？こ…『アスラ』？」（巨人は、アスラと呼ばれた男に問いかける）
『アスラ』「待て『巨神（ギガース』…そこの男、逃げるならさっさと逃げろ。俺達が用があるのはそこの車だけだ、無駄な殺生は俺の好むところではない」
（アスラと呼ばれた男は、ザックへ興味なさげに声をかける） --
- （一目見て、人語を介しているだけで、会話が成立する相手とは思えなかった）
（現に切り伏せられ、叩き潰された人間が散らばるそこでこちらに語りかけてくるその姿は逆に狂人のそれであったので、小さく歯を鳴らす）
ああそうかよ。丁寧に目的まで教えてくれてありがとな。
（言いながら大男達の目の前を走り抜け、輸送車半ばにドスを刺して一気に車体の上まで駆け上がる）
（踵で運転席のあたりをガンッと踏みつけ、巨体と侍を見据えたまま、叫ぶ）
――キチガイから逃げるぞッ！！走れッ！！
（叫びが届いたのか、思い切りアクセルを踏んで走りだす車の天井にドスを挿したまま、逃走戦を覚悟した） -- ザック
- アスラ「逃げない、という事は…それが返事と受け取っていいようだな」（刀の柄に手をかけ、侍が静かに構えをとる）
巨神「僕の獲物だからとったらだめだよ〜、それじゃあ、遊ぼうか、僕はベイル！ベイル･バンリュー！
…あ、今は『巨神』って名乗れって言われてた、ごめんねコクミー」
（巨人は、侍の方へ向くと頭を下げる…一方の男は、ため息をつき）
アスラ「…胡久美・逆剥だ…今は故あって『アスラ』と名乗っている…」
ベイル「それじゃあ自己紹介も終わったしってあー！逃げたー！」
胡久美「落ち着け、追うぞ！」
（それだけ言うと侍は仲間の亜人が操る魔道装甲車の上に、巨人は…車の全速力に匹敵する超人的な速度で、ザック達を追いかけてきた―） --
- 【つづく】 --
- 【危険物輸送護衛 #1】 --
- 失礼します、便利屋というのはここでしょうか？（ある日の正午を過ぎた頃、眼鏡をかけた長髪の女性が便利屋を訪れる。）
（高級そうなスーツを纏ったその女性は、どこかの大企業に勤めているのだろうか、ロゴの入ったファイルが微かに開いたバッグから覗ける）） --
- ………（ドアを開いて事務所に入ろうとしていたところに声をかけられ、普段会わない人種の女の姿に、うっさんくせえと、眉間に皺を寄せる）
あー。まあ。ここかって言われりゃここだし、通話料金が安くなるとかそういう話は結構だが……
それ以外の仕事の話なら中にどうぞ？ （ドアを開けて中のソファを手のひらで指す） -- ザック
- それでは（ザックの軽口に微塵も反応を示さず、事務所の中へと）
…ヤニ臭い…(小声で不平を口にしつつ、ソファに座ると依頼の資料をバッグから取り出す） --
- （ヒクッと頬をひきつらせ）そりゃあ失礼しましたね。（着けようとした煙草の火を灰皿に押し付けて消す）
……オレが言うのもなんだが、来るとこ間違ってないよな？ オレが定時に帰れる公務員に見えてるなら先に行くべきところがあると思うが。 -- ザック
- ご心配なく、(眼鏡をくい、と軽く上げ）これがありますので。
では、早速ですが依頼の話に入らせていただきたいと思います。
…貴方は輝晶石、というものについてご存知ですか？ --
- いや？ 聞いたこともない。……響きから察するに、石か？ -- ザック
- ええ、ですがただの石ではありません。高純度の魔力を宿し、質にもよりますが拳大のサイズで魔術師十数人分の魔力を持つ強力な魔石の一種です。
詳しくはこちらを(資料をザックの方へ渡す、そこには輝晶石の事に関する事実…)
（その大容量の魔力を燃料とする数々の品々、日常品や大型機械、そして…数多くの兵器について書かれている。）
(そして読み進めれば、その輝晶石にはそこらの貴金属を遥かに超える価値と…）
（並の人間なら近づくだけで強力な魔力汚染に被曝するという、重篤なリスクがある事も記述されていた） --
- （適当に興味なさげに読み進めていたが、魔力汚染の被曝の辺りから渋面になり始め、資料にドクロマークが増えるにつれてうんざりとした顔になる）
（資料を机に置き）……要は色んな意味で手に入りづらい鉱石だっていうのは分かった。
で、依頼とその石と、どう関係してくるんだ。関係してこないことを今、切に願っているが。 -- ザック
- まさにその輝晶石についてです。
（そんなザックの願いは、次の女の言葉で無慈悲に打ち砕かれる。）
見ての通りこの石はその危険性故、通常は万が一の事態に備え必ず無人地帯を経由して輸送することが義務付けられています。
(さらに別の資料を取り出しザックへ、そこには独裁政権で有名な某国と、暴君として有名な国の元首の顔写真が載せられている）
国外への情報漏えいの徹底した遮断に加え
自国でも新聞やニュースには意図的に伏せていますが、この国は今、戦争の準備を進めております。
今回我が社はこの国から大量の注文を頂いたのですが
(地図を広げ、そこに書かれた青い線をなぞり）本来であれば、この国へ届けるには一ヵ月は最低かかります。
ですが先方から二週間で届けろという要求に応え(地図にある赤い線をなぞる、赤い線の途中にはかなり規模の大きいであろう都市）
今回に限り、通常物資の輸送に偽装しこちらのルートで輝晶石を輸送することが、上層部の意見で決定しました。
あなた方には、この輸送車の護衛をお願いしたいのです。 --
- （髪の毛をガシガシと掻き）……つまりは、オレにその戦争の片棒を担げと。
お偉いさんの喧嘩の為に何人もの人間を殺すための兵器の原料の輸送を護衛しろと。
……今回はそういう依頼なわけだな？ -- ザック
- （何を苛立っているのだろう、と怪訝そうな表情を一瞬浮かべる）
…理解していただけたようで何よりです
当日は我が社の警備部隊や、貴方と同じく雇われた数名の護衛がつく事になっておりますので、無用な諍い等を起こさないようご注意ください。
報酬は前金で金貨四千、成功後に金貨四千の八千枚…引き受けてくださいますか？ --
- ………。（目を瞑り、渋面を作り）
（トントンと机を苛立たしげに二回叩き）……条件が三つある。
一つ目。
オレに、その依頼を持ちかけてくるあんたの名前を教えて欲しい。
二つ目。
大体予想は付くが、予想しかつかないので、あんたの所属を教えて欲しい。
名前も知らない相手に振られた仕事に手出せる程勇敢じゃないのも事実だし、
名前も知らない相手からの依頼も受けないといけないくらい困窮してるオレに、少しでも慈悲を恵んで貰えるんなら、だが。 -- ザック
- 一つ目については、私の名前はプラン。プラン・ルーゼットと申します、以後よろしく。
二つ目は…申し訳ありませんが、依頼が依頼ですのでそれだけは明かすことはできません。(頭を下げ、謝罪の意を見せ)
三つ目は何でしょうか、初対面の女性にスリーサイズを聞く気なら、さすがにどうかと思いますが --
- 安心しろよ。所属の明かせないプラン・ルーゼット。
笑わない女に興味はないし、痛い目も散々逢ってるからな。
ただ、二つ目は譲れても三つ目はちょっと譲る気ないんだが……。
（こん、と灰皿を指で弾き）
……ヤニ臭い部屋で、ちょっと煙草吸わせろ。 -- ザック
- （煙草に火をつけようとしたザックにライターで代わりに火をつけると）
…禁煙中なんですよ、私…（一言だけ、じと目でそう呟いた） --
- 【つづく】 --
- 【Bad End Case#-】
- 【Bad End Case#1 無無】 --
- （あちこちが痛い。我慢できるのと痛くないのは違う）
（シュネライトの一件で、オレの身体は、デランデルの治療が必要になる程傷んでいた）
（スネイルの阿呆さえ出てこなければ軽傷で済んだはずなのだが、馬鹿がはしゃいだせいで報酬の大半がデランデルの懐に流れることになった）
（麻酔を打たれて朦朧としてる中で縫ったり貼ったり切ったりを我慢したお陰でなんとか傷は全快したが、治療後に体重が五キロ減っていたのがやたらと気になる）
（ちゃんと取り出した全部のパーツを元に戻したのかどうか、やはりもう少ししっかりと問いただすべきだった） -- ザック
- （新しく注文したショットガンをコースターを蓋に叩きつけ、煽る。どうせ今回も「奢り」になる、遠慮なんかするまい）
（BARの中には人も疎らだ。元より長崎剣友会の者が待ち合わせに使うようなBARにカタギの人間が溜まっているとは考えにくい）
（明らかに脛に瑕あり顔に傷ありの強面達が黙々と酒精を愉しんでいるのを横目で見ながら、オレは待ち人を待った）
（BARのドアが開き、焼酎のロックを注文して、その男はオレの隣りに座った）
……これからは、若頭衆筆頭って長い肩書で呼んだ方がいいのかい、ヌマル兄ィ。 -- ザック
- 辞めろ。酒の味が濁る。
身につけた諧謔で遊ぶのは構わんが、時と場所を選ばなければ余計な敵を作るぞ？ -- ヌマル
- 後は、相手もだろ。いつまでもこんな軽口聞けるような身分の人間じゃなくなってきたからな。許される内にやっておきたいのさ。
（指を立てていつものを頼むと、グラスに果実酒が注がれて置かれた）
（そのグラスを片手に持ち、回し、沈黙を楽しむ。葡萄色の水面に照明の光が差して血のように赤く輝いている） -- ザック
また。
カマを掛けられるかと思い、今回は予め、答えを用意していたんだがな。
小敏く育ったな、ザック。（傷顔の男は、シニカルに苦く笑い、手の中のグラスを同じように回した）
……聞かないのか。……『またオレを騙したのか』、と -- ヌマル - ……他人をやり込めて喜ぶ程性格歪んでるわけでもなくてな。二度も続けて同じ流れはオレも面白いと思えなかった。
それに、例えそうだったとして、結末が何も変わらないのなら、それを糾弾してどうなることでもない。
失った者は帰ってこないし、手元には金子が残った。文句のつけようもない。
その上で、敢えて昔なじみの一人として、何でこんな茶番に兄ィが付き合ったのか。
シュネライトという鉱石が、長崎剣友会の若頭衆内争の暗喩であることを知っていたヌマルの兄ィが、
それを隠してまでオレをあの場に付きあわせて、ムネトを殺す姿をオレやスネイルに見せた理由を。
……今度は、オレの方があんたに尋ねたい。 -- ザック
（静かに酒盃を煽り、目を瞑り、今は亡き兄弟分を刹那の間だけ悼んだ）
……ザック。俺は、万能じゃない。
お前よりも多くの物が見えているわけでも、お前より高い位置に居るわけでもない。
刀で突かれれば死ぬし、銃で撃たれれば死ぬ。ともすれば餅を喉に詰まらせて死ぬことだってありえるくらいのどこにでもいる男だ。
……今回、俺はその全てが見えていたわけではなかった。
お前が言うように、シュネライトが若頭衆の内争を示していることを知っていれば、お前になんざ話を持って行かなかっただろう。
一度騙した身で信じろなんていう言葉は舌を切り落としても言えないが、それだけは真実だ。
俺もこの歳で、この家業だ。こんな風に酒を飲める相手を安々と手放せる程人の心を失ったわけじゃあないのさ。 -- ヌマル - 『鬼のヌマル』が良く言う……。（片頬を上げて嗤う）
じゃあ、兄ィ、あんたは、シュネライトが内争の暗喩であることを知らずに、オレを巻き込んだって言いたいのか？
あんた程の男が、ノコノコと相手の仕掛けた罠の中にオレだけ連れて飛び込んだと。 -- ザック
- 買いかぶりすぎだ。俺にだって分からないことくらいある。特にそれが知らされないように隠蔽されていたとしたら探り用もないだろう。
ただ……全てを全く知らない訳ではなかった。現に、俺はムネトと斬り合っている間に『そうじゃないだろうか』という仮説は立てていたし、
その仮説は元より俺にとってはいつ訪れるかの違いはあれど、いつかは必ず訪れる覚悟のような物が出来ていた。
だから、俺はあいつの……ムネトの遺志を汲もうとした。
あいつが自らの配役に殉じようとするのであれば、俺はその期待に答えようとした。たとえそれが、どちらかが死ぬことになったとしても。
俺は、そうすべきだと思った。……いや、ずっと、思っていたんだよ。 -- ヌマル
- だからあんたは、戦場からオレを追い出した。その決着にはヌマルとムネトという二匹の雄がぶつかり合う必要があったから。
若頭衆という集団がそういった食い合いの中でしか成長の出来ない存在であるのなら、そうすべきだと覚悟をして。
……いつから、その覚悟があったんだ。
どれだけ前から覚悟していれば、杯を交わした兄弟を殺せるんだよ。 -- ザック
――剣友会に入ることを決めた時だ。 -- ヌマル
（その男は、光を一切反射しない、暗黒の瞳で中空を眺め、表情の一切を消して呟いた）
（その言葉に温度はなく、ただ淡々と事実を述べているように見えて、触れてしまえば骨の髄までズタズタに引き裂かれるような危うい空気を纏っていた）
（事実、その言葉を聞いた瞬間、呼吸が止まり、心臓の鼓動さえ僅かに音を下げる程の迫力があった）
（本物の殺意には色がなく。本物の敵意は対象が存在しなくても生じることがあることを、オレは知った） -- ザック
……世の中っていうのはな、そうそう甘いものじゃない。
お前相手には釈迦に説法とまでは言わないが、坊主に経を説くようなものだろうが、俺も常にそう思っていた。
今まで裏社会にその身を追われ、逃げた先に都合良く剣友会なんて組織が存在しているなんて幸運を、俺はこの数十年信じたことは一度もなかった。
そんなに都合のいい話はどこにも転がっていない。単純にそうすることで誰かが得するために、床に零した甘い汁を吸っているようなものなのだと、常に思っていた。
俺はこの数十年。――誰かが味方になってくれるなんて甘いことを思ったことはないし、世界全てが敵であるのだろうと覚悟をして生きていた。
だから、俺は俺とムネトがこの世界に招き入れられた時、その理由について考えた。
そうすることで都合のいい誰かが居るとするならば、そうしてまで俺達をこの世界に引き入れる理由は何だと、自分に問うた。
答えは簡単に出た。
どちらかに、どちらかを殺させる為だろうなと、そう思ったのさ。 -- ヌマル - （ヌマルはそこで瞳を伏せ、節くれだった右手で頬の傷を撫でた）
（僅かに渋面を作り、言葉を続ける） -- ザック
- ……いや、違うな。
そういう可能性もあると、そう思っていただけだ。
もしかすれば、その理由で俺達をこの世界に招き入れた可能性があると、覚悟を決めていただけだ。
他の相手に殺されるくらいなら、互いの礎となって死んでいくことを願うような場面が、いつか訪れるかもしれない。
互いの存在が互いにとっての軛となり、抜け出せない程の深みに互いを引き込む理由となるように、仕向けられるかもしれない。
いや、これも、違うな。
この道に入ったのだから、義兄弟を殺すような場面も、まぁ、あるかもしれないと。
そう思っていたのかもな。
（その笑いには、笑声がなく、ただ圧力だけが存在した）
（世界の理不尽を単純化して押しつぶして咀嚼し、かつての戦友の死すら受け入れる程の度量から、溢れんばかりの世界の殺意が覗く、地上の煉獄がそこにあった） -- ヌマル
- それが。
あんたが、組に利用されて、それでもそれを飲み込んでしまえる理由なのか。 -- ザック
- 飲み込んだように見えるなら、それも買い被りだ。俺はそんなに大人じゃない。
されたことは永遠に覚えているし、許すつもりもない。ただそれを、外側に発露するのは今ではないと思っているだけだ。
ザック。人は容易く死ぬ。さっきも言ったが、俺やお前だって背後から刀で刺されれば死ぬんだ。
でも、だったら、殺すのはいつでもいいだろう。ムネトが自分の死に場所をあそこに選んだように、俺も自分の殺し場所を選ぶ立場にありたい。
情動や衝動で動くのはいつだって出来る。本物の殺意っていうものは温度のない液体みたいなもんだからな。
どうせなら、酒に氷を浮かべるように、その殺意だって最高のシチュエーションで発露した方が、きっと心地いいだろう。
……禁酒後の酒が美味いのは、良く知っているからな。 -- ヌマル
- ……禁酒したならそのまま酒辞めろよ。 -- ザック
- もう少し経てば分かるかもな。
人は、酒が辞めれないから禁酒するんだよ。本当に何の未練もなくその場を去る人間は、さよならなんて言葉を使わないんだよ。 -- ヌマル
- そういうもんか。言われりゃそんな気もするけどな……。 -- ザック
- しかし……流石に、笑いが出るな。
仮にも剣友会の人間で、しかも眠りの、なんていう二つ名を戴いておいて、襲い掛かってくるときに「死ね」はないだろう。
昔から変に実直で、変に不器用なところがあったから……俺達は同じ道を歩んできたのかもしれんな。
思い出すだけで笑いが出る。
（言いながら、男は片手で目頭を押さえて、天を仰いだ） -- ヌマル
- （本物の殺意がそこにあれば、目が霞み、ふらついた相手に自分の場所を知らせるような叫び声を上げながら攻撃を加えてくるわけがない）
（だとしたら、その発声の意図は別のところにあったのだろう）
（男はひとしきり方を震わせると、目元を指で拭って立ち上がった）
……悪いな、ザック。結果的にお前を騙す形になった。
借りを作るには都合のいい男になった自負はあるが、どうだ。お前は何を望む……？ -- ヌマル
- ツケておいてくれ。男が命を賭けることの価値は、大したことがないと学ぶ機会があったんでな。
またここで、美味い酒を奢ってもらえるなら、一度や二度騙されたくらいで首輪を外したくない。 -- ザック
- そうか。（男は、少しだけ嬉しそうに頬を上げた）
（ふと、思いついたように顎に手をやり）いや……そうだな。
ザック。
今回の件、詫びとして追加の報酬を支払うとするなら、それはお前の言葉の中にこそあると、俺は思う。
お前は、俺になんて問うた。
この一連の事件の真相を暴こうとして、何を口にした。
その理由を問うたお前の中に、その答えは既にあるのだと俺は思う。
もし、俺がシュネライトの意味を知っていて、その上でお前とスネイルを互いの殺し合いの場に呼び寄せたのだとお前が思ったのなら。
……その上で、俺と兄弟分の死に何かを思ったのなら。
それが、お前の抱えている問題への答えだろう。
（テーブルに、料金分の金貨を置いた） -- ヌマル
- ……わかったような口利きやがって。
（歯ぎしりをしながら酒盃を口に運ぶ） -- ザック
- あまり、良い物じゃないぞ。
それが、どれだけ避け得ない物だったとしても。それが、どれだけ覚悟をしていた事だったとしても。
……年寄りじみた説教だったな。
（男は満足げに笑うと、BARの扉を潜って夜の闇の中に戻っていった） -- ヌマル
- （オレは一人、カウンターに座ったまま酒盃を傾ける）
（そんなことは、分かっている）
（分かっていたけれど避け得なかった男が、何の説教だ）
（言い返そうとすればするほど、子供染みた意地のように思えて、言葉が口に出てこない）
（――分かってるんだよ、そんなことは）
（暗闇の中にいた、あの頃から） -- ザック
【つづく】 --
- 【Bad End Case#1 碌】 --
- （始まりは、一人と一人だった）
（街角で顔つき合わせて、毎日血を見ていたらいつの間にか顔を覚えていた）
（その頃の俺達には殺すだの殺されるだのそんな度胸はなく、それは眠い子猫が寝る子猫にじゃれつくようなそんな毎日だった）
（どうやら、争いから何かを生むのは男同士だけらしい）
（拳や武器を重ねあわせていた日々は、簡単に杯を交わす仲を作り出した） --
- （奴は滅法強かった。俺も滅法強かった。そんな二人が背中を合わせて戦えば、敵など居なかった）
（狡猾に我の道を行く悪童二人の名はいつしか轟き、その筋の者まで敵に回すほど向こう見ずな生き方を須臾の間許した）
（栄光の落日とは突然に訪れる事故のような物だ。誰だって獲物を倒した直後にミサイルが飛んでくれば、避ける事は出来ない）
（二人が突然に来る現代の破滅の波を避けてこれたのは、単にその内の一人がリズムに乗るのが上手かったからに過ぎない）
（今までの増長へのしっぺ返しのように、裏の世界が二人を追い立てた） --
- （その一歩を踏み出したのは兎が先だったか、猫が先だったかか。眠っていた方か寝ていた方か。そう大した違いはない）
（追い立てられるようにして裏の世界に膝まで浸した時には、その毒が全身を巡り、それなしでは生きられなくなった）
（人の命を奪うのに慣れた）
（人の尊厳を壊すのに慣れた）
（裏の世界の黒さはあっという間にその身体を侵していった） --
- （腕を思い切り振って一人を殺すのがやっとだった人間が、どうして指先一つで何十人を殺せる魅力に抗える）
（効率よく事を成すためには個人であるより集団である方が都合がいい）
（そんな当たり前のことが、当たり前に与えられてしまったが故に、二人を組織に縛り付けた）
（肩書を与えられ、並べられることを誇りに感じ、まるで自分が何者かになったような錯覚を与えてくれた）
（確かに、その席次はそこに存在した）
（だが、それに誰が座るかは、そして何人が座るかは……椅子を用意した者にとっては些細な問題であったのだ） --
（それは、最初から仕組まれていたことだった）
（長崎剣友会に於いて、若頭という役職が若頭衆という複数人数で構成されている理由であった）
（その組織は、裏の組織であるがゆえにある一定の期間を以って自浄作用を求めるようになっていた）
（古く硬直した組織を健全化するために、血栓を取り除くが如く一定の人数を排除する制度があった）
（十年に一度、非情さの再研鑽と利権の集約を兼ねて若頭衆同士で凌ぎを削るその争いは、いつしか水道を浄化する幻の鉱石に擬えて）
（――シュネライトというキーワードを以って訪れる、逃れ得ない殺し合いとして深く根付いていた） -- - （あいつは知らなかった）
（実直なあいつは、そういった本当の暗部を知らずに生きてきたから）
（俺は知らせないほうがいいと思った）
（知ってしまえば、あいつは全てを敵に回そうとするから） --
（刀を引く。肉を切り裂く音と骨に刀身が当たる感触が指先に響き、空中に長い血の尾が引かれる）
（同時に火薬が空中で炸裂する音が弾け、のけぞってかわす）
（完全に回避したはずのその銃撃に横合いから殴られたような衝撃が走り、体勢を崩しかけて外側に踏み込んだ右足で身体を支えた）
（こめかみを銃弾がかすったのか大量の血が遅れるように顔を濡らし、視界を真紅に染める）
（既に音が消失した世界で俺が牙を向いて笑うと、ヌマルも牙を剥いて笑った） -- ムネト
（完璧に脳天に突き刺したと思った銃撃を紙一重で避けられた上、斬られた脇下から大量の血が溢れだした）
（地面に交じる暗赤を見るに斬られたのはそれほど大した血管じゃない。二、三分動けるなら十分に殺れる）
（詰められた距離を離すように後ろにステップを踏むフェイントを交えた上で一歩近寄る）
（相手の機先を制すような形で踏み込んできたムネトの心臓に銃口を押し付けると下から上に跳ね上げるように相手の死を願いながら引き金を引いた） -- ヌマル
（――会心の笑みを浮かべる。心臓にねじ込まれた銃弾を、至近距離で『胸の皮の下』に通した刀の刃で受け止めていた）
（皮と肉を切り裂いてでも受け止めたその必殺の一撃は、同時にヌマルの致命的な隙を生んだ）
（胸元から自分の肉を切り裂きながら刃を外に出して相手の心臓を狙うと、下から突き上げるような衝撃が来て、刃を弾かれる）
（至近距離でヌマルの目が俺の瞳を捉える） -- ムネト
（――会心の笑みを浮かべた。その非常識な防御方法を相手が採ってくると思っていたわけではない）
（ただ、今得物を交えている相手ならば、そういうことをしてもおかしくないと思ったからこそ）
（別の角度から相手の得物を殺す為に「全く同じ箇所を狙った」銃撃を加えるため、左手を遊ばせていたのだ）
（銃撃は見事に下方から既に受け止められていた銃弾に突き刺さり、刃を二つに分断して空中に弾き飛ばす）
（勝利を確信し、トドメの一撃を加えようとして、襲いかかってきたのは顔面への衝撃だった）
（俺の両頬を貫通するように、ムネトの刀の折れた刃が横から突き刺さっていた） -- ヌマル
（狙いは逸れていた。肉を易々と断ち切る刀の鋭さが狙いを首から顔に逸らしていた）
（指先を骨まで断ち切られながら、空中に弾かれた折れた刃を掴み、相手の頸動脈を狙ったが、骨だけでは支えきれなかった）
（舌打ちをしながら左手に構えていた折れた刃を振ろうと左手に力を込めた瞬間、懐に灼熱感が走った）
（炸裂音が身体を揺らすと同時に大量の水袋をぶちまけるような音が聞こえ、後ろに弾かれる）
（懐を押さえようとして、手が空を切る。そこにあるはずの脇腹が消失し、大量の血と臓物を撒き散らしていた）
（俺はその感触に背筋に登ってくる寒気を覚え、ヌマルを見て笑った） -- ムネト
（顔面を横から貫通する刃を反対側から全力で叩くことで抜くと、同時に歯の数本と口の中の肉が持って行かれ、口内に鉄の味が広がる）
（風通しの良くなった頬を釣り上げると、同じタイミングでムネトが嗤う）
（互いに銃創と刀傷で満身創痍。状況としては勝敗以前にどちらが死に近いかという違いでしかない）
（ゲホ、と咳き込むと黒い血が地面に落ち、視界が白濁を始める） -- ヌマル
（ふらついた相手の一瞬の隙に、踏み込むようにして上段に折れた刀を構え、距離を詰める）
（踏み込むと同時に脇腹から血がこぼれ落ち、視界が真っ赤に染まるが、関係ない）
（飛びかける意識を繋ぎ止めるように、大声で叫びながら刀を振り下ろす）
――死ね、兄弟ッ……！！ -- ムネト
（白濁する意識の中）
（銃口が、手首の捻りで傾けられる）
（出血量が多すぎて暗くなりつつある視界でも、俺には相手の居る場所がよく分かった）
……あんまり、笑わせんなや……兄弟……。
（引き金を引く）
（その動作の衝撃を殺しきれずに、後ろに倒れこんだ） -- ヌマル
（胸元に衝撃が走る。捻り込まれるような感触とともに、腹部と胸部の境目に銃弾を撃ち込まれ）
（振り上げた刀を取り落としながら、二歩、三歩と殺しきれなかった勢いで、幽鬼のように歩く）
（膝から崩れ落ちるように倒れると、地面に叩きつけられ、短い苦悶の声が漏れた）
（じわりと身体の下に伝っていく血の温かさを感じながら、瞼を閉じる） -- ムネト - （仰向けに倒れたまま、倉庫の天井を仰ぐ。身体のあちこちを灼熱が焼いている）
……思い出すな。
どんなに抗っても、勝てないものがあるって知った、あの時を。
……なあ、兄弟。 -- ヌマル
- （その言葉で、少しだけ意識が蘇る。俺は薄く笑いを零した）
皮肉な、ものだな……同じことを、思い出していた。
最初から……ここに至る運命だったとしても……。
俺は悔いはないぞ……ヌマル。
俺は思う様、望むがままに……。
……俺の道を進むことが出来た。 -- ムネト
（大きく息を吸い、吐く）
……その道は。
小さな、小さな箱庭の中に出来た道だ。
俺達は、最初から……決められた箱庭の中でしか、道を選べなかった。
常に、最善の手を打ってきても……それが最良の結果を消して産まない。
……そんな、誰かが仕組んだ箱庭の中で、お前は何を選んだんだ……ムネト。 -- ヌマル
……さぁな。
……お前に、理解してもらおうなどとは、思わん。
ただそれは……どんな箱庭の中であっても……。
（大きく喀血し、満足気に嗤う）
……自分で選んだ道だったよ。 -- ムネト
そうか。
じゃあ、何も言うまい。
お前が俺にこうするしかなかったのなら……。
俺はきっとこう返すしかなかったんだ。
お前がこの道を選んだのなら。
その屍の上に出来た道が、俺の道なんだろう。
なあ、兄弟。
（右手で顔を覆う）
墓標には、何を刻めばいい。 -- ヌマル
（男はその問いに静かに笑い）
（大きく呼吸をすると――二度と目を開かなかった） -- ムネト
答えも残さず、眠ったか。
お前は……いつもそうだったな。 -- ヌマル
（二人が倒れるすぐ近くのコンテナの裏、端末に視線を落とす）
（そこにはキャロルから送られてきた事の顛末についての記載があった） -- ザック - 『元々、組織の�癸欧涼砲魯爛優箸気麈匹世辰震�です。
彼も裏の仕事でのし上がってきた経歴から傾倒していたと言ってもいいでしょう。
そんな彼が今回、シュネライト内争によってヌマルさんとムネトさんが争うという事情を知り、ヌマルさんを亡き者にしようとした。
今回、この倉庫に呼び出された本当の目的は賭博なんかではなかったということですね。
結果、それを聞きつけたムネトさんによって粛清はされてしまったんですけど、これによってムネトさんも後には引けなくなったのです。
ただ、それを利用していた節はありますけどね。そうすることによって殺意を自分に向けやすくしたんでしょう。
彼はシュネライトの因習についてもヌマルさんに知らせなかったようですし、殺意が鈍らないように場を利用した節はありますよね。
今の部分は想像ですが、当たらずとも遠からずなのではないでしょうか。
あ、そろそろケーキ焼けたのでこの辺で。今度有給があったら遊びに行きましょうね』 -- キャロル
- （端末を無言で閉じ、火のついたシケモクを吹かす）
（コンテナに背中を預けて腰を掛けていると、目の前をスネイルが無言で横切っていった）
……こんなに腑抜けたオレを殺らないのか、チキン。 -- ザック
- （中指でサングラスを直し）
依頼人が死んでて護衛なんか出来るかよ。お前と違って報酬のない仕事はしない主義でな。
それに、お前の死は誰かの添え物にするには不潔が過ぎる。
殺して欲しければ汚らしい路地裏で腹を出して寝てろ、子猫らしく。 -- スネイル
- ああそうかよ。死ねナメクジ野郎。（中指を立てて追い払う）
（どうにも、こういうのは肌に合わない）
（スネイルも恐らく、オレと同じ居心地の悪さを覚えてこの場を去ったのだろう）
（いつだって、それがどこでだって、誰と誰だって、過去を死で精算する様は見るに耐えない）
（味のしない煙草の煙を吹かしていると、コンテナに寄りかかるようにして、ヌマルの兄ィが現れた） -- ザック
- 何を、油売ってるんだ、ザック。
仕事を依頼したはずだが……報酬は要らないのか。 -- ヌマル
- （オレは立ち上がり、薄く笑うとその肩を支えながら呟く）
男と男が殺しあう理由だろ。
探そうと思ったが、そこらじゅうにありすぎて、どれか分からなかったんだよ。 -- ザック
- ……諧謔としては上出来だ。
（小さくシニカルに笑うと、何かを終えた男の顔で、静かに男たちは倉庫を後にした） -- ヌマル
【つづく】 --
- 【Bad End Case#2 first】 --
- （シズとザックがいなくなった事務所で目を覚ます。夢を見ていた気がするが人間起床してから数分すれば夢なんて忘れる） -- ランディ
- ≪情けない姿で立たないでください。仮初とはいえ恰好がつきません≫ -- アリスン
- そうするよ。正午過ぎか…
（シズがザックに寄越す食料のありかも、手つかず。ザックはどこかに出ていっているわけだ。）
（つまり食料は今俺が食うべきに値する存在になり、こうして何日かぶりの飯に在りついている。酒は飲む気にならないので、水道さんが降臨しない今流し込むのは辛いものがある）
（スマホから人工知能AI、アリスンの冷めた小言を聞き流しつつ食い終わるとジャケットを羽織り、有給休暇という素晴らしい文字を書いた紙をデスクに張り付けた）
本日業務終了。仕事なし
（では行きましょうというアリスンの声を鍵に意識を覚醒させていく。今日は…） -- ランディ
【共同墓地】
（近く、遠い鐘が鳴る。十字架と墓石が林のように並んでいる。）
（何度来てもその有様は無機質で、とても人がここに埋まっているとは思えない）
（事実死体の残らぬ人も多い。ただの証だけがここにあると言ってもいい）
（俺の前にある墓標もそうだった。うろ覚えな生年月日と簡素な名が刻印された墓。ただの物）
（今年で3度目。毎年来ている…あの日から） -- ランディ
≪公的情報では死亡とされていますが、それが間違いであることは貴方も私も彼らも承知です≫ -- アリスン
（それでもここに来るのは戒めと決意を揺るがさぬため。俺は必ず取り戻す───）
（墓地に花も供えず、俺はただ思いを馳せて名前を呟く）
リアス…
（紅く、美しい華の名前を持つ彼女はアリスンの製作者でありこの街出身の研究者）
（生まれついての難病であり五体を満足に動かすことはできなかったが、故に誕生時から電脳機構化手術を受けており年齢＝電子情報の接続時間という類まれなる力を持っていたニューエイジ）
（そして俺の婚約者であり、3年前に死んだのだ。公の記録では） -- ランディ
（五体を満足に動かせずとも、笑顔の美しい女だった。赤く淡い髪を揺らさずに…電子制御の車椅子にて生活していた）
（意志疎通は全て彼女が作った電子チャットシステムで賄っていたし、全てそれで済んでいた）
（無論通信販売もできたので、俺の伊達眼鏡もある時オーダーメイドで製作されて届けられた）
（おかげでレンズは何度か破損しているがフレームを交換したことはない）
（彼女と出会った当時。自分の職務と使命、思う正義とのズレに悩んでいた俺はすぐに彼女に惹かれた）
（澄んだ水のような、それでいて全てを見通すような清濁の中にいる彼女は俺の心を離さなかった）
（東洋の諺も、全て彼女からの受け売りだ。東洋の国が不可思議なのか、彼女の言葉使いが美しいのか。俺はその全てを覚えている） -- ランディ
≪冷えます。戻りましょう≫
（自律回路にそのような機能などないが、時間と心拍数からどのような心変化かは察せられた）
（それが唯一彼女が制作した特殊な自律型思考プログラムなのだが…だが故に、別の来訪者の存在を感知できなかった） -- アリスン
（頬に浮かぶ熱が殴られたものだと理解できている。その主も…俺は膝をついて見上げる）
……すまない -- ランディ - どうして謝るんだよ！なんで軍をやめて！そんな恰好でここにいるんだよ！
（涙が溢れてくる。目の前にいる男が悪いわけじゃない。それでも殴った）
（涙と共に感情が溢れだしてくる）
アンタなら姉さんが幸せだって知っていた！アンタなら幸せにしてくれるって俺も思ってた！絶対そうだって！
アンタのせいじゃないってのもわかっている！
（堰きを切ったように溢れてくる涙と感情は言葉をうまく伝えることができなかった）
（しかし、それは間違いなく偽りない心だった）
だったら俺はどうすればいいんだよ…教えてくれよ…頼むよ…
俺はアンタが兄貴になるのが…本当に嬉しかったんだ…アンタは英雄で…俺の…
（神のイタズラか、悪魔の采配か。3年間意図的に避けられていた互いが交わり）
（ただ膝をついて泣くしかできなかった） -- レオ
【教会】
はいお弁当、シスターマリアからね
コーラとリンゴ、ピーナッツバターサンドだってさ。
（パイプオルガンを奏でながらそれでも通る声で少年が語る）
搬入ルート、確定したよ。年末だってさ。おそらく条約更新の時を狙ってるんだと思うよ。
それが最期のチャンスになると思う。 -- オセイロ
…やつらは世界を変えるつもりなのか
（そうだね、という即答がより現実感を露わにさせる。二度経験しているが、今回は規模が違う）
（おそらく…最終的には誰にも頼れないだろう） -- ランディ
それでも君は彼女のついでにだろう？だから君が好きなんだよ僕は。
僕とも彼らとも今年一杯だろうけど、僕に関しては今後もよろしく頼みたいな友達としてさ -- オセイロ - 終わったら晴れて無職無給だ。こちらこそ頼む
（友達に頼むことじゃないよ、と無邪気な笑い声を背中に教会を去る）
（この生活が終わる…俺はそのほうが現実感がない）
（まだ熱を帯びる頬だけが、現実だった） -- ランディ
【つづく】 --
- 【Bad End Case#1 互】 --
- （走りながら、情報屋・キャロルのメールアドレスを呼びだそうとしたところで、メールが入る）
（誤って開封を押してしまい、端末から情報が呼び出されて展開する） -- ザック
- 『……ザックさん呼びました？』 -- キャロル
- （相変わらず、この芸風にはイライラする）
『今から呼ぶところだったんだよ』
（送信を押そうとして、フェイントで二秒待ってみたがメールは来ず、こちらが送信完了した瞬間返信のメールが来た） -- ザック
- 『長崎剣友会の構成員のムネトさんの情報でしたっけ？』 -- キャロル
- 『まだ 何も 言ってねえだろ』 -- ザック
- 『情報の程度にもよりますけど、非番の僕が教えられる範囲なら150（G）ってところですね。
お友達価格として親切にも149に負けといてあげましょう。聞きます？』 -- キャロル
- 『いいから早く送ってこい。来月振り込む。
あと何で今日非番なんだよ、平日だろ。また何連休とかそういうのかお前』 -- ザック
- 『有給休暇です』 -- キャロル
- （端末を腕力で粉砕しかけた。休日まで駆け回って命のやりとりしてる者に対して人の心がある奴の発言には思えない）
（苦虫を噛み潰したような顔でキャロルが情報を送ってくるのを待っていると、情報より先に通信が携帯を鳴らした） -- ザック
『跳んでください』 -- キャロル
（その情報には、切迫感があった。理解する前に悪い予感に対する信頼を元に、倉庫の外壁に足を叩きつけて斜めに跳ぶと、視界の端で地面が抉れた）
（三角跳びのような形で体を捻り、視界を後方上空に向けると、倉庫と倉庫の間の狭い空間に足を掛け、嫌そうに見下ろしてきている男がいた）
（そいつは大きくため息を吐いて、壁の間で突っ張っていた足を離し、地面に降りた） -- ザック
――知ってたか？ 元相棒。 ショットガンの弾も無料じゃないんだ。
（赤髪の男はサングラスを指で直しながら、放ったばかりのソードオフショットガンで自分の肩を叩きながら愚痴る） -- スネイル - ――知ってたよ、元相棒。暗闇の中にいた、あの頃からな。
スネイルゥ……！ てめえ、邪魔しやがるつもりか。（長ドスを左手に構えて牙を剥く） -- ザック
- 違うな。少し間違っているから完全に間違っている。俺の仕事の邪魔を、お前がしてるんだ。
円滑に事が進む為に、お前のようなイレギュラーが存在しているのは、誰にとっても邪魔でな。
（言いながらショットガンを再び撃ち込んでくる） -- スネイル
- （壁を二度蹴って、上に跳ぶ。外回りに備え付けられた階段に身を隠すようにすると、的確にそこを狙ってきたのか散弾が金属をこする音が背後から聞こえてきた）
まあ、ムネトの単独犯とは思ってなかったが、よりによってお前かよ。金さえ貰えりゃ人殺しの片棒も担ぐか？ 落ちたなスネイル。 -- ザック
- 良く言う。流石に子猫というところか、高いところが好きと見える。それとも煙と何とかの方か？ キティ。
――遮蔽物があれば安全とでも思ったか？ （ショットガンを背中に背負うと、腰の刀の鞘に手を伸ばす） -- スネイル
- （脇腹に灼熱感が走る。右手で押さえると、そこには何か鉄片のようなものが背中から腹へと貫通しており、更にはその鉄片は周辺の肉を巻き込んで引き戻ろうとしていた）
――ッってぇ…！（自分の血で染まるその鉄片は再び背中から抜けていき、オレが背中を預けていた階段の穴を通って戻っていく）
（見れば、その鉄片の形に階段には貫通穴が開いており、ショットガン以上の貫通力で貫かれたことがわかった）
（その穴から様子を伺うと、スネイルはサングラス越しにへらりと笑った） -- ザック
- （カション、と刀身を柄の側に戻しながら、嗤う。蛇腹に折れ曲がり、鋼糸で繋がれた蛇腹の直刀を振り、根本の射出火薬を補充する）
この刀は、どこかの殺人鬼が半ばで折った長ドスの刃を使っていてな。どうにも使い勝手が悪いので改造したのさ。
蛇腹に折れ曲がる柔軟性と、鉄すら貫く初速を兼ね備えた中距離武器にな。
器用だろう。いつだって器用に立ちまわるのは俺の方だったもんな。結果として、成功するのはお前の方だったけどな。 -- スネイル
- （腹部のシャツをめくり上げ、止血布を貼って出血を抑える。浅くなでられた右腕の傷と違って、そう長い間戦闘が出来る傷じゃない）
成功？ バカ言え。成功の末路がこの姿なら、世の中に希望なんかありゃしないだろ。 -- ザック
- ああ、そうだな。世の中に希望なんかないことに、ようやく気がつけそうだ。死ね、キティ。路地裏で野たれろ子猫。
貫き喘げ――『斷坤の槍（ゲイ・リキッド）』。
（火薬の推進力を以って蛇腹の刀の先端が射出され、再び階段の裏に風穴を開ける） -- スネイル
- （射出音と同時に、階段の上に逆立ちし、蛇腹の剣が鞘より射出されて金属製の階段を裏から貫通する様を見る）
（身体を大きく捻り、階段自体を倉庫の側壁から引き剥がすように捻じ曲げ、片足をついてドスで接合を断ち切る）
子猫呼ばわりすんじゃねえって言ったろうが！ （ギギギと折れ曲がり、スネイルの居る場所へ倒れていく階段を足場に、大きく跳躍する） -- ザック
- （舌打ちをして蛇腹刀を引き戻すも、階段が倒れてくる速度の方が早い）
（蛇腹刀を構え、上空から落ちてくる相手の刀撃を受けると、反対の手で背中のショットガンを引き抜く） -- スネイル
- んだらぁっ！！ （左足で無理やりショットガンを横に蹴りつける。引き金に指がかかっていたのか発砲音と共に倉庫の壁に穴が開いた）
（体を捻り、相手の腹に向けて蹴りを加えると、スネイルは蛇腹刀から手を話して左手でその足を掴んだ）
（しまったと舌打ちをした時には足を視点に投げ叩きつけられていて、ショットガンで空いた穴を広げるように倉庫の壁を突き破っていた）
（喉奥から鉄の味がして、薄暗い倉庫の中、ポケットからこぼれ落ちた端末が光っている）
（端末を拾い上げるとその場から首跳ね起きの要領で横に跳ぶ。跳ぶ前にオレがいた場所に散弾の雨が降り、歯ぎしりをしながら倉庫の荷物の間を走る） -- ザック
- 『それで、話終わりました？』 -- キャロル
- （心の底から死ねと思ったが、次いで送られてきている情報を展開すると要点だけが纏めてあって、プロの仕事を垣間見た）
（この異常な状況が見えているかのようにわかりやすいその資料に、走りながら目を通す） -- ザック
- 『仕事ですからね。
なんなら今追いかけてきてるスネイルさんも、僕が倒しましょうか？』 -- キャロル
- （背後から発砲音。キャロルに突っ込む暇もない。その、自分を過小評価も過大評価もしてないのに出来ると断言する言い草やめろこの野郎）
（端末を閉じ、通信を終了すると荷物の間を先ほど倉庫外でやった三角飛びの要領でよじ登ると、倉庫の中央できり結び合っているヌマルとムネトの姿を見つけ）
（オレは、そちらに向かって大きく跳躍をした）
（この茶番劇を、終わらせる為に） -- ザック
【つづく】 --
- 【Bad End Case#1 沁】 --
- （ヌマル目掛けて直線で進んできた間に体を滑り込ませ、袈裟斬りに振り下ろしてきた刃を抜き放った長ドスで受ける）
（空中で刃同士が触れ合い、金属同士の放つ悲鳴が不協和音を奏で、互いの刃を肉に押し込もうとする両者の視線がぶつかった）
（冗談ではない。年下であろうと年上であろうと、膂力で押されたことのないオレの刃がどれだけ押し込もうとしても押し込めない）
（それほど筋肉のついた身体付きでもないにも関わらず、オレの全力を拮抗させる異常性。押すだの雌だのそういったことを超越した人外の力によって、オレの刃は封じ込まれていた） -- ザック
- （――ガクン、と重心をずらされたように膝が折れ、右肩と手首に灼熱感が走った）
（視覚の端で、ムネトが自らの右手の上に自分の右足を乗せて『無理矢理に』刃を押し込んできたのが見え、地面に倒れながら舌打ちをする）
（右肩を押すようにして浅く切り裂いた刃が引かれる前にドスを手放し、後ろに跳ぶ）
（――と、同時に発砲音が狭い倉庫内へと響き、ムネトの姿がブレる。両手に銃を構えたヌマルがオレの背後から銃撃を加えたらしい）
（一瞬決着を期待して顔をあげたが、そこには既に誰もいない）……逃げたか。あんの切り裂きサイコ野郎……。
（右肩の出血を確認するため下ろしたてのスーツの裾を破り、指で探る）
（同時に腕を回すが大した怪我じゃないらしい、ただ痛いだけだ。ならいける。オレは取り落とした長ドスを拾い上げ、左手に持つ） -- ザック
隠れただけだろうな。……あの野郎、なんだってこんな。 -- ヌマル - キレやすい世代なんだろ。まともに見える奴程頭がオカシイのがこの業界の常だしな。
っていうか、知り合いか。同業者というか、剣友会の人間みたいだが。
（詳しい情報を聞き出すため、カマを掛ける。この辺はランディの見よう見まねだ） -- ザック
- ……ああ。（顔に右手をやりながら呟くように答える）
長崎剣友会は互助会とかと違い、正確に言えば『若頭』という役職は存在しない。あくまで『若頭衆』として複数人で組織される『運営幹部』が組を回すようになってる。
現場で叩き上げた一部の精鋭だけが首連ねられる代わりに、面倒事の尻拭いや凌ぎの良し悪しで叩き合いが起こる、まあ中間管理職みたいな集まりだ。
俺もあいつも、そこで細切れになってる男も、いわばそういった若頭衆の一人だったってわけだ。
若頭衆になってからは、あいつとは滅多に顔を合わせなかったがな。
俺は昼の仕事、ムネトは夜勤なのでいないのが当たり前だったが……俺の知る兄弟分はこんな凶行に出る奴ではなかったはずだ。 -- ヌマル
- 義兄弟の契りってやつか。尚更面白くない話になりそうだな……。（嫌そうな顔でシケモクに口をつけ）
ヌマルの兄ィ。生意気ついでに一つ言わせてくれ。
オレの経験上、人は急に狂人になったりしない。元から狂人だったか、狂人の振りをしているかどっちかだ。
前者はいい、切り捨てれば話は片付く。ただ、後者の場合大抵が『そうする必要があった』という面倒くさい人の意思が介入してくる。
あんたから見て、あのムネトっていうのはどっちだと思う。 -- ザック
- ……後者だろうな。信念なく、こんなことをする男じゃあない。
俺を裏切る気なのか、組織ごと裏切る気なのか、そのどちらかしか考え付かない。
シュネライトの取引は、剣友会自体にとっても大きな利権を齎す大一番だ。
こんな形でケチをつけてしまえば、剣友会にムネトの居場所はなくなる。……これは、狂っているのと同義だとしか俺には思えんが。 -- ヌマル
- ……こんな時にランディの奴がいればもう少し諸条件が整理されるだろうに、向いてないんだよこういう頭脳労働。
ああ、違うな。こういうのはオレらしくない。
なあ、兄ィ、一つだけでいい、聞かせろ。
オレは、あのムネトという男を斬っていいんだな。
磨り潰して野菜と交ぜてさつま揚げで包んでおでんの中に入れてもいいんだな？ -- ザック
- そいつは、どういう質問だ、ザック。
俺が、あいつを殺せねえとでも……？ こんだけ舐められて、コケにされて、面子を潰されて、憤ってないとでも言うのか？ -- ヌマル
- 逆だ。怖い顔するなよ。……そんだけ憤ってる時に水差されりゃ、オレだったら我慢ならないって話だ。
あの眠りのなんとかはアンタに向かって直線で殺しに来てた。さっきは何の指示もなかったから勝手に割り込んだだけだ。
今回の雇い主はアンタだ。アンタがオレに殺せと命じれば、オレの能力が許すところまであの野郎を細切れにし返すことは出来る。兄ィの身を守れと言われればそうする。
だけどまだ、オレはアンタにどうしろとも、アンタがどうしたいのかも聞いてない。 -- ザック
- ……ああ、そういう、話か。
生意気言うようになったな、ザック。（シニカルな笑みを零す） -- ヌマル
- オルカのところで鳴き喚いてるときの印象が強いか？ だったら、あんたも老けたってことだろうな。
（二丁拳銃を両手に持つヌマルの口に煙草を咥えさせ、火を付けた） -- ザック
- 認めるさ。人は老いる。研がれてない刃は錆びるもんだ。
だが、鬼は老いると思うか？ 放たれた銃弾が錆びるだろうか？
ザック。いや、便利屋。俺があいつを殺す前に、寝覚めのいい情報を仕入れろ。
ムネトが俺を裏切るに値する何かの裏取りを依頼する。
この一件を、気持よく殺し終える何かを、俺が奴に銃弾を叩き込むまでに、俺に届けろ。 -- ヌマル
- 了解。得意分野じゃないが、ツテを洗って状況を整えておく。
……オレは、そっちの顔のアンタのほうが好きだぜ、兄ィ。
やられるなよ。それこそ鬼に説法だろうけどな。（言いながら、姿勢を低くして倉庫内を走る） -- ザック
- （ザックの軽口に反応せず、ゆらりと片手を上げると、銃声を一発鳴らした）
――望み通り、鬼のヌマルが来ましたぜ、兄弟分。
手前。まさか全て終わって大団円になるとか、思ってねえよなあ、ムネト。
落とし前付けに来いよ。逃げも隠れもしないからよぉ。――ア"ァ？ -- ヌマル
（その啖呵に背筋を寒いものが通過していったが、直接それがオレに向けられていないのでなんとか耐えられた）
（オレが転がり出るように倉庫の中から出ると、背後から銃声と金属音が聞こえてきて、すでに死合が始まったことを教えてくれた）
（どうやら既にオレの存在は眼中にないらしい。好都合だと端末を取り出して、オレは通信を開始した） -- ザック
【つづく】 --
- 【Bad End Case#1 惨】 --
- （何でも。今回ヌマルの兄貴が相手をするのは剣友会の若頭衆の中では�癸欧髪修気譴訝砲任△襪蕕靴ぁ�
（古くから長崎剣友会に籍をおくヌマルという男に比べて、その男は比較的若く、若いが故に勢いがあった）
（持ち前の立ち回りの上手さと凌ぎの巧みさにより、いくつかの若頭の纏めていた組織を束ね、今やヌマル組に次ぐ下部組織として長崎剣友会でも勢力を広げつつあった）
（当然そんな男にとって、古くから現場で古い任侠魂を背負って指揮を取るヌマルという男は目の上のたんこぶ以外の何者でもなく）
（だからこそ、シュネライト競売という上に伸し上がる大取引を前に叩いておかねばならないと判断したがゆえの「博打勝負」であるらしい）
（事実、その男が異論さえ唱えなければ、今までの実績から言ってその大取引はヌマル若頭が行うべき取引であったという） -- ザック
- （その事情を賭場に向かう前に聞かされて、オレは心底うんざりしていた）
（どう考えてもそんな男が賭場で正々堂々と勝負を持ちかけてくる訳がない）
（と同時にヌマルという男が賭場に於いてオレを側に置きたがった理由も徐々に理解出来てくる）
（要は、部外者の「発火装置」として選ばれたのではないかと、そういう嫌な妄想が頭のなかを渦巻いていた）
（前を止めるタイプのスーツは甚だ苦手であるし、もういっそそういうポジションを求められているのならば、出会い頭に歯の一、二本へし折れるくらい相手をぶん殴って、事を早く終わらせてしまいたいと思いながらヌマルの兄貴の後ろに続く）
（賭場の舞台である貸し倉庫の扉を、料金内サービスとして左右に押し広げて中に入ると、）
（――�癸欧涼砲蓮�賭場の真ん中で死んでいた） -- ザック
………あ？ （長ドスに右手を掛けながら、周囲を伺う。言いようのない腐れた臭いが鼻を突き、顔が歪む） -- ザック - こいつぁ……予想だにしてなかったな。
野郎だけじゃない……あいつの周りで金魚のフンみたいにしてた手練の連中も、纏めて殺られてるな……。
（血溜まりにヒタヒタと歩いて行き、しゃがみ込むと死体に触れる）……そう遠くに行ってないな。気をつけろ、ザック。 -- ヌマル
- 何だよそりゃ……料金内に収まるような話に最初からなってないだろ、これ……。
（眉根を寄せて、何人かの死体が「散らばっている」そこに近づく）……斬られてるのか。酷い有様だな。 -- ザック
- （両手を広げて肘を曲げると、袖の内側に入っていた二丁の銃が手のひらに表れる。くるりと回して引き金に指を掛け）
群れてはいたが、少しは腕の立つ連中だったはずだ。こんなに簡単にナマスにしてしまえる人間は、俺は何人も知らんが。
状況から考えて、俺の頭の中じゃあ一人に絞られてる。出てきたらどうだ。眠りの。 -- ヌマル
- （眠りの？ と尋ねる前にゆらりと貸し倉庫の暗闇の中に一人の男が姿を現す）
（印象として、ヌマルが黒色だとするならば、その男は銀色に身を固めていた。スーツにしろ、シャツにしろ、靴にしろ、どこかくすんだ銀色を身に纏っている）
（どの道カタギには見えないし、ヌマルという男の知り合いとあればその道の人間なのだろうが……オレには、どうにもどこかで見たような気がしてならない） -- ザック
- 何の真似だ、反乱でも起こすつもりか、ムネト。
何でヤツを細切れにした。この賭博がどんな意味があるのか、剣友会傘下の組織なら下っ端にだって分かっているだろう。それをどうしたいんだ、手前。
（直接浴びれば小動物なら自死を選びかねない形相で、二丁拳銃の鬼は殺意を向ける） -- ヌマル
- 数年前のお前なら、そんな問いもなくいきなり銃声で答えていただろうにな。何を嘆くとすれば俺はそれを嘆くだろう。
なあ、兄弟……こんな茶番、もううんざりなんだ、俺は。全てをやり直すいい機会が中々来ないなら、俺はそれを自分で創りだそうとした。それだけの話だ。 -- ムネト
- （その声色と態度、何よりヌマルを兄弟と呼んだことでその男の正体を思い出す）
（かつて、『鬼の鵺丸』には血を分けない義兄弟が存在した。通り名『眠りの宗人』。眠りに似た安らかな死を運んでくる銀線の死神）
（ヌマルが若頭になる頃に同じように若頭になりながらも、最大派閥となったヌマル派閥とは対照的に名前を聞かなくなった男だ）
（そういえば……河川敷抗争の頃に少しだけ話をした記憶が蘇ってくる）
生きてたんだな、あんた。勝手に死んだと思ってたよ。 -- ザック
- 挨拶だな便利屋の。死ぬ時は忌み名の通り眠るように死ぬさ。でもまだその時じゃない、ただそれだけだ。 -- ムネト
- 話が見えてこないな。つまり、お前さん、こう言いたいのか。
手前がやっている凌ぎは台無しにしても構わねえ茶番で、気に入らねえからメタメタにしてやったと。
なあ。ムネト。――手前、俺に喧嘩を売ってるのか？ -- ヌマル
- （修羅場を潜って来た自信があった。それなりに強い相手ともやりあってきた）
（だが、違う。このヌマルという男が放つ殺気は、そのツワモノ達とすら比較にならない）
（ただ、ひと睨みされただけで生まれてきたことを後悔したくなる。出会ってしまった不幸に自死を選びたくなる）
（特濃の殺気は側にいるだけでも冷や汗を吹き出させ、不快感に身を捩らせたが、それを正面から受けて、ムネトという男は笑った）
（その時、がさりと死体の山が動き、そこから男が這うようにして転がり出てきて、出口へと駆け出した）
（どうやら、死体の振りをしてやり過ごしていた�癸音渦爾涼砲�いたらしい。ヌマルの放つ殺気に耐え切れずに逃げ出したというところか）
（ヌマル、ムネトのどちらの立場であれ、その男を逃がすことは事を大きくするマイナスにしかならないだろうが、ヌマルの銃口もムネトの刀も何故か動くことはなかった） -- ザック
- （ただ）
（その男が三歩だけ）
（三歩だけ歩いただけで）
（――その男の身体は斜めにズレ、中身を晒しながら躯へと姿を変えた）
（余りに鋭く斬られたため、斬られた本人ですら三歩歩くまで自分が斬られたことに気づかなかったのだろう）
（その惨状を背景に、ムネト若頭はヌマル若頭に向けて言葉を放った） -- ザック
ここまでしても分からないなら。眠るように死んで行け、兄弟。 -- ムネト
（ああ、嫌なことを思い出した。通り名より、確か今の絶技の方が有名な男だったはずだ）
（その妙技、三歩歩くまで死にすら気づけない「三歩き」の妙技が――今オレ達に向けて牙を剥いた） -- ザック
【つづく】 --
- 【Bad End Case#1 仁】 --
- （小一時間ほど走り回り、シズの追跡は不可能だと悟る）
（いつもながら、どういう道筋を通れば数秒遅れで追いかけた追跡者を振り撒けるのか）
（壁でも走らない限り無理だが、あいつなら壁を走るのも容易に想像出来るのでその可能性が高いだろう）
（今度は壁を走る経路を中心に後を着けてやると息を荒らげていたところで、呼び止められる）
（振り返るとそこにはヌマルの若頭が立っていた）
（珍しく憔悴したオレの姿を見て事情を訪ねてきたので、水道さんを止められたと愚痴ると、街角で若頭は声を上げて笑った） -- ザック
災難だったな、お前さん。言えばみかじめを後ろに倒してやったのに、変なところで律儀な奴だ。 -- ヌマル
（当然の如く奢りで飯を食わせて貰っている身では笑われたことへの反論も、みかじめ免除ではなく先延ばしという無慈悲な延命措置に対するツッコミも振るわず、黙々と肉料理を咀嚼する）
絶望だぞ、蛇口捻って水が出ないってのは。人間として大切な尊厳を奪われたような気にすらなった。 -- ザック - そりゃあ、依りにも依ってタイミングが悪い話だな。その口ぶりじゃ何で水道さんを止められたかすら分かってないだろう、ザック。
そもそもが手前達の事務所の経理はあのランディ某言う手練がやってるんだろう。計算違いなんかあるわけがねえ。
例えそれが諸々の諸経費を差っ引いても、だ。 -- ヌマル
- 随分とランディを買ってるんだな、兄貴は。計算違いどころかタンスの角に小指もぶつけるただのアホだぞあの眼鏡。
なんか知ってる口ぶりだな、ヌマルさん。もしかしてこの飯もタダじゃないとか、そういう話か？ -- ザック
- （傷顔の男はシニカルに笑い）ちったぁ世の中の条理が理解出来て来たようで俺ぁ嬉しいよ、ザック。
何、手前らは便利屋なんだろう。正当に、長崎剣友会の者として、手前に依頼をしたいと思っているだけさ。
しかも、これはお前を苦しめた上水道さんに関する問題でもある。当事者とあれば少しは食指も動くだろう。 -- ヌマル
- 報酬先払いって汚ぇな。こんなに真っ直ぐ騙されたら何の文句も言えないだろ。
……今、口は食うのに忙しいから聞くくらいなら出来るぞ、兄ィ。 -- ザック
- 世辞にも、頭の出来の方はよろしくない手前にわかりやすいように手短に言おう。
近く、剣友会内部で賭博を行う。
その立会人として俺側に着いて欲しい。起こらんとは思うが、荒事が起こった時に少しばかり力を借りるかもしれん。 -- ヌマル
- 賭博？ またヤクザなことしてるな。
しかも剣友会内部って、内部での賭博なら余計に荒事にならないんじゃないのか？ -- ザック
- バカ言え。剣友会はヤクザなんかじゃねえって何回言わせる。（小さく笑い）
事情があってな。それより先、近く取引を行う必要があるでかいヤマがあるのさ。それに組織の代表として出席する者を、内部の賭博で決めることが剣友会のしきたりでな。
昔は荒事で解決してたものが近代化して賭博になったって話さ。俺だって、でなきゃ札遊びなんかで組の行末が左右される大取引の代表なんざ決めたくないがな。
今や俺も面子と凌ぎという任侠者にとっちゃ邪魔にしかならない檻に囚われてる内の一人でな。悪いが腕の立つ用心棒が要るんだ。 -- ヌマル
- ……よく分からんが、その組織内のいざこざに、オレみたいな部外者が混ざっていいのか？ -- ザック
- 構うもんか。むしろどの面下げて部外者を気取るつもりだ、ザック。
うちの若いのの中では頭一つ飛び抜けてたエヴァンスの鼻っ柱ブチ折ったところで、若いのはお前にだけは手ぇ出さないみたいな誓い立ててるやつもいる始末だ。
そりゃあ、任侠者としちゃ情けない話だが、これも一つの近代化した組織の流れだと思って飲み込んでる苦薬だ。それくらい、俺や剣友会はお前さんを買ってるってわけだ。 -- ヌマル
- そんなもんか。オレもランディと同じで剣友会には興味ないからな、一応言っておくが。
じゃあ、次はその件がどう水道さんと繋がるか説明してくれ。 -- ザック
- そっちは剣友会内部の賭博と直接関係のある話じゃあない。ただ、その後に控えている大取引に関係してくる。
聞きたいなら聞かせるが、長いぞ。少なくとも飯が食い終わるまでに終わるとは思えないが。 -- ヌマル
- 飯が終わるくらいに終わるように上手いこと調整して説明してくれ。 -- ザック
- 相変わらずサブヒロインを勝たせろみてえな無茶言いやがる……。
まずお前、この治安の悪い一帯で上水道整備がこれだけ進んでいる理由が分かるか？
いや、分かるわけないだろうから説明すると、浄水設備が整っているからという簡単な理由なんだ。
事実、この町の水道の料金は他の地域よりもかなり安めに設定されているし、その割りには伝染病や疫病もないクリーンな水質が保たれている。
これはな、凄いことなんだよ。蛇口を捻れば水が出るのが当たり前だと思ってるお前には理解出来んだろうがな。 -- ヌマル
- （窓の外を見るとそこにいた黒猫が徐々にフェードアウトしていった）
初耳だ。というか、興味もなかったっていうのが正しい。水道さんはいつも当たり前にそこにあったからか。 -- ザック
- それでな、浄水施設っていうモンの構造は、簡単に言えば決めの細かい石や砂の間に水を通して、そこに汚れを留まらせて純水を作る設備と、
それだけじゃあ取り除けない菌類の除去という二つの構造の設備に分けられ、
その設備に何度か繰り返し非飲料水通す事によって飲料水へと替えることを言う。
つまり、濾過機能と滅菌機能という二つの機能を持った施設が、その浄水施設だ。ここまでは分かるな。 -- ヌマル
- 今頭の中で飲料水が凄い泥水みたいになってジャリジャリしてるんだが、なんか上手いことどうにかなるんだと思うことにする。 -- ザック
- でな、この町の施設が優れているのは、普通は二つ工程を踏まなきゃならないその濾過機能と滅菌機能を、同時に行う鉱石を使っているところにある。
こいつはな、浄水を作るために神が遣わしたとしか思えないキメの細かい原子構造と、銀の数倍を誇る除菌機能を兼ね備えているレアメタルでな。
市場でも最近じゃ金より高く取引されてて、現代のオリハルコンとまで呼ばれてる代物なんだよ。
名前を、シュネライトというんだが、それが、今回新しく鉱脈として見つかってしまってな。今回競りにかけられるのはその採掘権になる。
元々シュネライトは一部水道利権を握っている公的組織がその殆どを所有していたんだが、今回その新しい鉱脈が発見されてしまったことで、水道の料金が大きく波打ち始めた。
既得権益を守ろうとする者にとっても、新しく利権を握ろうとしている者にとっても、どうにも放っておけない資源でな。これが大きな取引になりそうなんだ。
……おい、寝るな、他人に説明させといて寝るな。四時間半外に出すぞ。 -- ヌマル
- いや、聞いてた。マジで聞いてた。ちょっと満腹になったら眠気が来ただけだ。悪い兄ィ。
あー……んじゃ、そのシュネライトやらを取引するための人間を決めるための賭博が、今回行われる賭博で、
オレはそれが円滑に行われるようにヌマルさんを守れと、そういう話でいいのか？ -- ザック
- ああ、そういう単純な話だ。水道さんに一時は裏切られた身で協力できるか？ -- ヌマル
- まあ、もう報酬貰ったしな……ヌマルの兄ィには貸しを作っておいたほうが後々この街で生きやすそうだ。
乗るよ。便利屋として。ああ、ただ規定報酬は貰うけどな、流石に飯一食でその規模の護衛はきつい。 -- ザック
- お前にはシュネライトの末端価格について教えないほうがいいかもな……。（肩を竦める）
規定報酬に、前回お前を謀った詫びも載せよう。それで文句はないだろう。 -- ヌマル
- 毎度。……なあ、物は相談なんだが。 -- ザック
- ……なんだ、日本語字幕版か？ -- ヌマル
- いや、そんな映画の話はしてないから。何故執拗にオレにそういう映画を見せたがる。
……もう一皿だけ食べていいか？ ……４日前から何も食ってなくてな……。 -- ザック
- ああ、今までの分もたんと食べろ……おかわりもいいぞ。 -- ヌマル
- 色んな意味で怖ぇよ！！
（結局好意に甘えて、二皿を改めて平らげて、契約は成立した） -- ザック
【つづく】 --
- 【Bad End Case#1】 --
- （終わりなんてものは、どこにでもありふれている）
（現在は過去の陸続きでしかないし、未来もまたその延長線上に過ぎない。となれば、未来の果てにある終わりだって、案外手近な場所に転がっていて然るべきなのである）
（故に、クソッたれな俺たちの今がこうなっているのも……極々自然な事であるといえる） --
- （どうして、こうなった）
（結論なんてとっくに出ているはずの問いが、未練がましく頭の中でループしている）
（きっと俺は、いいや俺たちは……なんだかんだであの日常が好きだったんだ）
（当たり前のことが当たり前にあったあの日常が……正に得がたい永遠の日々だったのだと、今は確信して答える事ができる） --
- （もう、御仕舞いだな……そう、力なく、ソファに身を預けたまま、きっと同じように項垂れているであろう、ザックとランディに呟く）
（恐らく、今俺たちは同じ事を考えている）
（俺達は三人ともまるでばらばらで、まるで噛み合っていないようにみえて……たった一つだけ、互いに信じていたものがあったんだ）
（そのたった一つが……今は信じられなくなった） -- シズ
- （淀みきった互いの視線の向こうにあるのは、たった一つ。俺達が信じ続けていたもの）
（不変であると……身勝手で幼稚な信頼を無垢なまま寄せ続けていたもの）
（物言わず佇むその姿を見て今更後悔しても……もう全てが遅い） -- シズ
- （いつでも変わらず、俺たちに尽くしてくれた）
（いつでも変わらず、俺たちに与え続けてくれた）
（しかし、それですら、今は過去の話）
（虚しく美化された妄執でしかない） -- シズ
- （もう、いくら俺達が求めても、答えてくれることはない）
（もう、いくら俺達が望んでも、以前のように尽くしてくれることはない）
（押し黙ったまま、最早雫の一滴すら垂らさない水道さんを見て……俺たちはただ項垂れる他無かった）
-- シズ
- （そういえば、契約の更新すっかり忘れてたな……誰に言うでもなくそう呟く）
（今月、俺達は貧困に喘いでいた）
（各種組織への……特にヌマルの兄貴への友達料の支払い、事務所のローンの支払い、仕事の伝手やそれらの維持費、仕事で抱えたあらゆる負債のペイ、仕事で使う得物の手入れ、それに伴う消耗品の買出し……etc,etc）
（とにかく死ぬほど金がかかる案件が、今月集中してしまったのである）
（当然ながらそこで俺達が真っ先に切り捨てるものといえば、嗜好品の次は毎度の如く飯である）
（大丈夫、俺たちには水道さんがいると今回も安易にそれらをきりつめたのだが……まさか、水道さんの契約更新まで今月にあったというのはまるで計算外であった）
（俺達が不甲斐無いばかりに水道さんは憐れ物言わぬ前衛芸術と化してしまい、今はこの有様である）
（すっかり忘れていたが、水道さんだって俺たちの立派な仕事仲間なのだ。ギャラがなきゃ動く道理はない）
（俺達と全く同じで、現金なこのお方は文字通り現金を支払うまで我々に一切の施しを与えてくれないのである） -- シズ
- （なぁ、ランディ、水道さんが復旧するのは最速でいつになりそうなんだ？ あと、水道さんを早期に復旧させたとして、何日食わずに過ごす事になる？ 数字によっちゃ、俺達干上がって死ぬことになるぞ……そう問いかけながら、未だに水道さんを捻ろうとするザックを適当に窘める）
（それ以上は動かない、余り動くとただでさえ枯渇したカロリーを更に消費することになるからだ） -- シズ
- ……嘘だろおい、オレは水道さんのこと凄い信頼してたのに、こんな仕打ちってないだろ……。
オレが捻れば水を出す、水を出したらオレが締める、なんて当たり前の関係が、全部ウソだったっていうのか……。
おい、水道さんなんか言えよ、おいてめえ乾死するだろ水出せ犯すぞこの野郎コップ一杯でいいんだ出来るはずだろうやれよやってくれよ！ -- ザック
- （ギギギギと水道さんの蛇口を自分の手のひらの形に変える） -- ザック
- （てめぇ、その変形した水道さんの修理代はあとで自分で出せよな……とぐったりしたまま呟きながら、乾き止めの薬草を齧る）
（薬草といえば聞こえがいいが、ようするにちょっと苦いだけの草だ。齧ってる間は唾液が分泌されて喉を潤してくれるのである。普通にその辺に生えていた物を乾燥させただけなのでコストパフォーマンスは抜群だが、本当に水分を摂取しているわけではないので気休め以外の何物でもない）
（ぐったりしているランディを尻目に今月をどう乗り切るべきか真剣に考えるが、全く頭が回らない。本当に死ぬかもしれない）
（と、意識を朦朧とさせていたところで、こんこんと事務所の扉がノックされる。来客らしいが、足音からしてお隣の胡散臭い占い魔女なので対応する気がしない）
（どうせ回覧版だかなんかでも回してきたんだろ、と思い、ザックに対応するよう視線で促す。ようするにガン飛ばす） -- シズ
- むしろオレの形に染まれよ水道さん……オレがこんなに求めてんだからよ……。
誰だよ。押し売りとか宗教勧誘だったら分け与えたり優しく追い返す余裕残ってないぞ。
（言いながらかなり邪悪な顔でドアを開ける） -- ザック
- （手負いの獣のようなザックの凶相の前にいたのは近所のアパートに住んでいる物書きであった。いつも妙なTシャツをきている、若干幸薄そうな顔をした女性である）
（代筆の仕事などをして食っているらしいが、語学堪能な人間が多い当事務所とはそれほど関わりが無い）
（ザックの顔をみてヒッ！ と小さな叫び声をあげた後、回覧版を取り落として「マジか」と書かれたTシャツの裾を翻して逃げてしまった）
（だいたいいつもあんな調子である） --
- （回覧板を拾い上げ、眠たげな表情で）……他人の顔見て逃げるとかひでー話だな、おい。
なあ？ （シズに向かって回覧板を放る） -- ザック
- （てめーが今にも飛び掛りそうなほど飢えた顔してるからだろ……女子供がみたら泣くぞ、とかいいつつ回覧版を受け取る）
（あれ、魔女じゃなかったのか……と、思ったが、考えても見ればあれが俺たちと接触をとるわけがないと思いなおしつつ、回覧版をめくれば）
……！？（目を見開く） -- シズ
- 優しさだってタダじゃ手に入らないし、水道代も払えない懐には埃も残っちゃいないわ。
（ソファにどかっと座り込み）あー……マジやばいな、視界が二重になってきた。（ぼんやりとした表情で）
なんだよ、逮捕されることに性的快感を覚える指名手配犯の手配書でも挟まってたか。 -- ザック
- （がしっと、ザックの肩を掴み、今までに無い笑顔をみせながら鍵を渡す。シズのロッカーの鍵だ）
（中に保存食と少しだけ酒があるから食っていいぞと、言い残して回覧版を片手に外に走っていく。先ほどまで死んだようにぐったりしていた男とは思えない速度である）
（すぐに戻る、と玄関の扉を開け放って姿を消した） -- シズ
- は？ お前今なんて……。
（少し考えて、それを他人に明け渡してでもこの場に繋ぎ止めておきたいということは、もっと腹に貯まる喉が潤う事実がもたらされたということで）
だったら……そっちの飯の方が美味そうだよなぁ。（ソファの横に立てかけておいた長ドスを持って立ち上がり、すぐに外に駆け出していった） -- ザック
- 【つづく】 --
- 【Intermission】
- クリス…ス…ハロ…ィン…サ……（空腹と飢餓感から意識がどんどん遠のいていく。過去に遡っていく） -- ランディ
「クリスマスデートの相手にしては厳ついな」「冗談はやめて」
「アンタは一体…」「巻き込まれただけだ、気にするな」
「お前と戦うために俺は地獄から戻ってきた」「バカな…何故お前が」
「73期…道理でうまいわけだ。」「知っているのか？」「俺が教えた最高の生徒だ」 --
「ヤツは暴走している！既に衛星兵器の照準は固定された！」「時間がない、どうすればいい」
「今すぐ逃げるんだ！出来るだけ遠くに！」「それ以外で頼む。ここにいる連中を死なせるわけにはいかない。」
「攻性防壁が流体してアクセスを受け付けない！」「ならこうするまでだ！」
「ソリッドフレームが起動している…中枢はあいつだ！」「今まで戦った相手よりハードだなこいつは」
「照射時間まで30分…決着を付けようじゃないかヒーロー」「最後のひと時をお前と過ごすつもりはない！」 --
「これで終わったのか？」「この件はな」「これからどうする？」
「どうされますか？」「お前を作ったヤツ。これをくれたアイツを取り戻す」
「あなたのものではありませんが」「理屈じゃないんだよ」
「迎えは期待できそうにないな」「これで俺達も晴れてアウトローか」「犯罪者じゃないだけマシだ」「テロリストみたいなもんだろ」 -- -
【scene change】
「海軍主導でか」「あぁ、電磁投射機搭載駆逐艦との連携を考えているらしい」
「陸軍はあの事件以来手を出してないね。ただ気になるのが無人歩兵戦車の計画が進行中らしいんだ」
「その中枢にあいつが…」「統制機構は既に完成しているらしい。被検体Ａ183の遺体が見つかったのも関連がある」
「死んだ…のか？」「いや脳髄摘出の痕跡があった。おそらくは…」 --
「味方が全て敵になるなんて…！」;「統制機構をハブにしているならその危険性はわかっていたはずだ、問題はタイミングだったが…」
「見事に出し抜かれました」「俺もそう思うよ」
「どうするつもりです？」「やはりアナログな方法に限る！」「だと思いました」 --
「人の記憶に残る情報など些細なもの。永遠とはすなわちソフトウェアにあるのだよ」
「ハードは消耗品か」「その通り、この体も何代目かな。だが君のことは覚えているよヒーロー」
「今じゃアウトロー、テロリストと同義語だ」「滑稽だな」
「そうでもない」 --
【つづく】 --
- ……（とんとんとノックをする）
//直流のみで外部からの依頼は受けてなければそのまま引っ込みます -- ブラスト
- （薄汚れた路地裏の一角。煤けた扉の奥から、返事は返ってこない）
（留守だろうか。普通の人間ならそう判断するだけの間を開けてから……）
（突然。背後から声が掛かる。動くな、と）
（背中には冷たく鋭利な金属の感触） --
- ……う……！？（背中にかかる冷たい殺気に、ぴたりと体が止まる）あ、ああ……分かった……動かない。
……（とりあえず、何か質問されるまでは黙るべきと判断し、それ以上は何も言わず） -- ブラスト
- （背後から声が掛かる。やけに色の無い声だ。男の声だということだけは辛うじて分かるが、それ以上の情報が不自然なくらいにない）
（仮にどんな声なのか例えるとすれば……誰にでも聞こえて誰にも聞こえない声。そう表現する他ない。不気味で不自然な普通の声）
（その声が静かに、かつ簡素に尋ねる。政治屋がこんなゴミ溜めで何をしている？ と） --
- ……私のことを、知っているのか……（特徴を捉えられない声に恐怖心を抱きつつも、震えをグッと押さえて）
……政治家が、情報屋を尋ねて何を欲する？当然……情報を求めてきたのだ。ただ、それだけだ……！ -- ブラスト
- （質問にだけ答えろ。そう冷たい声で返答してから、ブラストの答えを聞いて改めて押し黙る）
（時間にすれば数秒だったろう。しかし、体感時間では何十分にも感じられたかもしれない粘着質な沈黙の後……背後から掠れ声が漏れる。背後の男が笑ったのだ）
（そして、彼はこういった。そういうことなら中で話を聞こう、と）
（するりとブラストの脇をすり抜けて前に出て、事務所の扉を開けるのは、目深にフードを被った細い男）
（先ほどまで縁をブラストの背中に押し当てていた『缶コーヒー』を、茶の代わりだといってブラストに手渡して事務所に入る） -- シズ
- ……（本当は、ぜえ、はあと息を荒げ、思い切り胸を押さえてため息をつきたいところだったが……そうもいかず、背筋を伸ばしたまま缶コーヒーを受け取る）
警戒心が強いな……職業柄仕方ないことだとは思うが……（後ろについて行き、事務所の中へ一緒に入る） -- ブラスト
- （臆病なだけさ、と自嘲してソファに浅く腰掛け、対面のソファを勧める）
（仕事の話をしようと、また簡素に男は呟いた） -- シズ
- ……臆病、か。それもまた……必要なことだな。（そう言って座ると）自己紹介は……必要ないかもしれないが、一応。ブラスト・アイディオール……界境街で政治家をやっている。
……欲しい情報は一人の男についてだけ。『数式卿』ラトウィッジ・キャロレ。彼についての情報がほしい。
彼の黒い噂の……真相を探って欲しい。出来る範囲でいい。 -- ブラスト
- （黙って話を聞き、その名前を聞けば、頷きもせずに静かに問う）
（予算は？ とだけ酷く簡素に）
（彼等のような仕事をしている連中からすれば、それが全てなのだ）
（仕事の価値に、それ以上もそれ以下もない） -- シズ
- ……それなりには、ある。１万Ｇ……それで、どうだ？
（貯蓄のギリギリのライン さすがにこの界隈の相場は分からない……これが高いのか、安いのかも） -- ブラスト
- （今度は即座に頷き、受けても構わないが、と前置きしてから話を続ける。いくつか条件があるらしい）
（１つ。調査期間は数ヶ月を目安とする。いくら伸びても追加で金をよこせとはいわないが調査はこちらの判断で適時終了する。打ち切りもありえる）
（１つ。失敗しても必要経費として報酬は貰う。ただし全部終わってからで構わない。満足できない報告の場合は半額で結構）
（１つ。余計な詮索は互いにしない）
（以上とのことだ。失敗しても報酬を取られる以上、この話事態が詐欺である可能性もある）
（ブラストは如何に返答するか） -- シズ
- ……（しばらく目を閉じて、考え込む が、目を開けば一切の迷いが無い）
それで頼もう。情報屋の数は少ない……ましてや実績のあるものとなればごくわずかだ。
君らにはそれがある。……私はそれを信じよう。（そう言って、胸元からメモを取り出し、誓約書を書き、手早く判子を押して差し出した）
では……頼んだぞ。（それだけ言うと、席を立ち、部屋を出て行った） -- ブラスト
- （書類を受け取り、目を通してから静かに頷く）
（一瞥だけで見送ってから書類をファイルに仕舞って、こちらも立ち上がる）
（仕事の時間だ） -- シズ
- 【護衛 了】 --
- （サイコホラー野郎とは決着が付き、一応の賞金首としての金やら護衛料が入った後、俺はようよう医者に掛かり法外な値段を支払いまた安いスーツを買い直した） -- ランディ
- （追記があるなら、セリアは西方に嫁いでいったことぐらいか。なんだかんだで眼鏡返してないのでとっとと返してくれることを祈る、というよりまぁ彼女なら返すだろうとは思う）
（差引トントンとなった今回、シズには鎮痛剤分だけ投げてよこし、俺は今ソファーで寝てる） -- ランディ
- （と、その時チャイムが鳴り郵便が届く。俺宛にセリアからだ。予想通り眼鏡であろう）
（もちろん眼鏡だった、変わらぬフレーム。手紙が添えられて一文あった。）
「レンズ、新しくしておいたから」
（傷のない、度の入ったレンズがはめ込まれていた。）
（仕事机につき、眼鏡をかけ直す。いつもの通りの感覚…だが少し違う感じもする）
過去のフレームに、未来のレンズか
（セリアの今後…未来に幸多いことを願いつつ、この眼鏡の送り主を想う）
（過去と未来があるから今なのか、過去と未来に挟まれたものが今なのか）
（今日からは、また別の見方ができそうだ） -- ランディ
- 【つづく】 --
- 【護衛 真】 --
- （町中のゴミが集まっているのはまさに壮観だ。どこから出したか戦闘ヘリまで飛んでいるものだ。）
（もっとすごいのは、それを触手で貫いて人を叩き潰しているあのゾンビ野郎ってところか） -- ランディ
- あれあれぇ〜〜〜〜〜〜？二次会早くね？俺乗り遅れた？参ったなー！
なぁそう思うだろ？一発芸用意した？できれば血の出ないやつがいいなぁ（傭兵の一人の両耳から触手を差し入れ文字通り脳をかき回しながらピエロは笑う）
（セリアはお誕生日席のような観覧席で1人椅子に縛られていた） -- ゾンビ
- （遠くは離れた、少し高いビルの屋上からスコープ越しにそれを眺める）
（傍らにいるのは、狙撃銃を構えたランディ）
（風速と距離を簡素に伝えながら、タイミングを２人で計る） -- シズ
- （シズにスポッターを任せ、俺は今装填されたライフルを向けている。絶好の狙撃ポイントで）
（2発目はないと言っていい。一発で仕留めねばばらない）
（しかも右手は使えないので左手で引き金を引き、鎮痛剤の感覚を考慮してのタイミングを計る）
（高ストレス下の狙撃も耐えてきたが、ここまでの条件は今までなかった） -- ランディ
おっかしーなー？ショータイムは始まってるのにさぁ。出てこないじゃぁん。これもういいよね、ダンスパーティ始まってるのにさぁ
（セリアの元へ向かう傭兵や賞金稼ぎもいるが、こぞってお互いに刃、武器を向け始めて殺し合いを始めた）
（狂戦士の宴のように血肉を争い殺し合いを始めている）
いやーこなかったね騎士様。やっぱりヒーローなんていなかった！
ん〜〜詩的表現が足らないね、なにかある？最後の一言だけど
（これがやつの力なのか、セリアの迎えも互いを殺させたが故のあの現場を作り出していたのか）
（正面から殺し合えばどうなっていたかわかったものではない） -- ゾンビ - （次々と馬鹿どもがゾンビ野郎に群がり続ける。中には名の通った熟練の賞金稼ぎも混じっている。お陰で時間稼ぎの方は問題ない。あらゆる意味で）
（静かに、機械のように情報だけをランディに伝え続ける。客観的な、主観のまじらない情報を正確に）
（ただただ計器の如く）
（ランディの腕は確かだ。ならシズがやることはそれだけで十分といえる） -- シズ
- （スコープの調整はできている。あとはタイミングだ。何事にもタイミングが全て大事だ）
（ハニカムフィルターを被せたレンズ越しの先で殺し合いが始まっていようと…）
（引き金を引くタイミングを測るだけだ） -- ランディ
…絶対来る。そしてアンタを地獄に落とすわ！ -- セリア - サイッコーーーーーーーーー！
（腹を抱えて笑った。この瞬間がたまらない。信じるヤツを、やっぱりだめだったねって握りつぶすこの瞬間がたまらない、イキそうだ） -- ゾンビ
- （計器が、情報を伝える。正確に。明確に。そして素早く）
（目と耳は指先に情報を伝えるだけ）
（タイミングを計るのは指先に任せて目と耳は、吐き出すように数字を呟いた）
（刹那のその間を、逃さずに） -- シズ
- （引き金を引いた。あの奇術師ゾンビの頭めがけて）
（正確な風速、正確な距離。対象の頭を撃ち抜く感触が指から伝わるかと錯覚するように）
（綺麗に突き刺さった） -- ランディ
- （目と耳の仕事はそれで終わり。あとは見届けるだけ）
（指先の齎す、刹那の後の。音より先にくるその結果を） -- シズ
…あ？なんだこりゃ
（仮面にヒビが入る。露わになったのは刺青すらも醜く歪んだ顔）
おいおい！誰だよぉ今一番いいときなんだぜ！ -- ゾンビ
……！？
（スコープ越しに、目があった気がした。気のせいだ、そう言い聞かせて……観測結果を、明確に、正確にランディに伝える）
（敵未だ健在と。冷酷に、正確に）
（手に汗握り、歯の根が成りそうになるのを我慢しながら、バケモノの健在を訴える） -- シズ - （気のせいでは…なかった）
（いや、どういう体のつくりをしているのかさえ分からない）
（その醜い顔がスコープ越しに見えた瞬間、やつは飛んでいた） -- ランディ
あっ、こんなところにいたの。で、これとは〜ちょぉっと寂しいなぁ俺…もっとこう、間近で体感しようぜ♪
（家屋の屋上、屋根のへりにやつは立っていて）
（ランディの体をやすやすと触手で持ち上げると、そのまま真下に駐車していた郵便車に叩きつけた） -- ゾンビ - （殆ど反射に近い速度で、弾けるようにその場から離脱する。ランディの生死を確認している暇はない）
（フードの奥に冷や汗をかきながら、いつのまにか右手に持っていた閃光弾を屋根に叩きつけて逃げる）
（まともにやり合える相手じゃない。今は逃げの一手だ）
（夜の闇を、細長い陰が走り抜ける） -- シズ
- （ボンネットに叩きつけられ、道路に転がり落ちる）
（ようように立ち上がってサイドミラーを支えに立ち上がれば、ヤツがそれらを終えるのを待っていた） -- ランディ
- あっ残念、お仲間逃げたわぁ。白状だよなぁ、俺はこうして舞ってやってたのにさ。
だいたい人間ってのは協力しなけりゃ生きていけない人間なんだよ。わかる？
殺人も一緒、みんなでやれば怖くない…おい、なぁ聞いてる？今すっごいいい話してるんだけど
（そうして視線をランディを巡らせた後、言葉は止まった）
（言葉を何か発することもなく、ただ目を見開き、口を大きく開けて痙攣し始め…そして）
ア、アァアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッ！俺の！俺の顔が！！！ -- ゾンビ
- （念のために後退を続けながらも、道化師が苦しみ始めるその様子を見れば……冷や汗を垂らしながらも、口角が吊り上がる）
（底冷えするほどに……『予想通り』の展開）
（ランディのいるだろう位置に目配せして、ダガーを奴に投擲する） -- シズ
（顔？やつの顔が… と顔を下に向ければ、自動車のサイドミラーが俺の顔のすぐ下にあることを理解した）
（そして、それに写った自分の顔を見て、ヤツが叫び狂っているのも）
（俺は迷わずG22を引き抜き、ゾンビの頭にありったけ打ち込んだ）
（再生能力がまだ、少し追いつかぬほどに） -- ランディ - （再生機能の追いつかない頭と、自動車から漏れ出されたガソリン、銃声が一度響けば混ざり合い、炎に包まれる）
（肉の焼ける臭いとガソリンの臭いが通りに広がっていく） -- ゾンビ
- （相手が悪かったな……ミスタージャック）
（不敵に微笑んで、壁に背を預けてダガーを投擲する）
（最後の黒塗りの、闇に溶けるような漆黒のダガーを） -- シズ
…勝ったの？！（ナイフで縛っていたロープを切られて自由になる前。顔をみるや否や） -- セリア - まぁ、釈然としないがな。遅くなった。（適当にナイフを投げ捨てるとその場に座り込んだ）
…休みが欲しい -- ランディ
- 【つづく】 --
- 【護衛 急】 --
- （事務所に戻ってまず行ったのは相手を知ることである） -- ランディ
- （デスクの上の資料を漁りながら、簡潔に聞く）
（知り合いか？ とだけ） -- シズ
- （私用のスマートフォン…2世代前の古いタイプをこれまた古いモニターに接続する）
（パソコンなどなくても、この端末だけで事足りるのは傍目からみても異常であるのだが、中身を知ればそうとも思わないだろう）
（こいつには液体金属を用いた人工知能が搭載されており、電子的適合手術を受けていない俺でもそれに近い…それ以上の電子情報処理を可能にしてくれている）
（故にアナログであり、デジタルな手法にこだわることができるのだ。はっきり言えばここの事務所は対電子戦には不向きなロートル、パソコンなんて置くものじゃないしそもそも防犯が危ういのでこうなっているのもある）
（というか他の2人があまり電子的情報にこだわらないというのが大きいのだが…ザックはあれだし、シズはそもそもアナログな方が得意すぎるのもある） -- ランディ
どっちがだ？
（デジタル情報上の指名手配犯、服役者、過去の犯罪者のリストを調べさせる）
奇術師、だけでは絞りきれないか。猟奇殺人で服役、または執行中の人間でもないか…？ -- ランディ - （当然イカれたピエロのほうだ、といいながら電子世界の方は任せておく）
（役割分担である。明確な得意分野があるのならそれはスペシャリストに任せるべきだ。半端者が触るべきではない） -- シズ
- まさか。おそらくセリアを狙ってのものだろう。俺が因縁ある犯罪者なんて大抵服役してるか既にこの世からオサラバしている。
……そうか、いやまさか…ALICE、ここ数年で執行済みの中から検索
（指名手配中の人間や賞金首などはアナログデータは存在するが、それが無効となれば話は別だ。人々の歴史から消え去るのみ）
（しかしそういうデータは一応は残っているものである。事件ファイルと共に保管されているものだ）
（そして何よりあんなイカレ野郎が捕まっていないわけがない。この街はそういう意味では、恐ろしい街であるのだが）
（故に神出鬼没ということはありえなく、今現在の賞金首でもないヤツであるならば過去に遡ることになり…）
いたぞ、こいつだ -- ランディ
NAME:なし Voodoo、Zombieと仮称 :
罪状：連続殺人:
備考：精神鑑定不要:精神感染症
判決：極刑 -- - （おっかねぇ話だ、他人事とは思えねぇな、と犯罪者同然の仕事をしているシズは苦笑し、後ろから液晶を覗き込む）
（よくもまぁみつけてきたもんだな、と関心しながら） -- シズ
- （おい、こんだけか？ もっと詳しい資料はねぇのかよ）
（酷く簡素な資料をみて、眉根を寄せながらそうせっつく） -- シズ
手紙の宛名が大きかったな。
（写真にはふてぶてしく舌と中指を突出し、全身に刺青を入れている男の写真がある）
備考の精神感染症だが、どうやら数年前にこの街で起きた連続猟奇殺人事件に関係しているらしい。
この年のある期間。連続殺人事件がかなりの頻度で起きたらしくてな、切り裂きジャック・イヤーとまで呼ばれた忌むべき年だと書かれている。
恐怖や狂気が伝染する…という例えがあるだろう。この事件も例外ではなく、そういった人を切り刻みたくなるような精神状態と狂気がなんらかの条件下で伝染してた…とみられているらしい
最も根拠らしいものはなかったが、こいつが逮捕され極刑に堕ちてからピタリとやんだ。
体の入れ墨や所持していた薬物ち何らかの関係性があったのではと言われているが、検証のないまま執行されたらしい。
しかしそいつが今なぜ… -- ランディ - （切り裂きジャック……ねぇ……、と意味深に呟く）
（伝染する殺人衝動。波及する殺意。意思をもった敵意）
（一にして全なるもの……ってところかね）
（冗談めかして、そう呟く）
（案外、誰かが発症しただけなのかもな。ジャック・ザ・リッパーに） -- シズ
- この街からすれば、土壌としては十分なわけだ。種をまくだけで木が生えてくるようなものだ。
問題はヤツが今、あんな肉体改造化け物になっていること…死刑囚を使った実験というのが一番SF染みているが、それよりもアレをどうするかだな
…何かアイディアはあるか？シズは。俺はない。 -- ランディ
- （馬鹿には馬鹿をぶつけるくらいしか思いつかねぇけど、といいながらもニヤリと微笑み）
（一応策はある、そういって、街の見取り図を取り出す）
（ランディ、こいつの首には賞金がかかってんだよな？） -- シズ
- あぁ。最もピュアテイルの当主がかけた個人的なものだが…
お前まさか、町中のゴミを集める気か？ -- ランディ
- （この世で最も強力で凶悪で救い難い暴力は……数だからな）
（勿論最後の１押しも考えて在る。そっちは任せろ、と呟いてフードを被りなおす）
（ランディ、賞金の桁勝手に２つ増やしとけ。祭りにのっかる馬鹿が増える。どうせ払うのも困るのも俺等じゃない） -- シズ
- …すり鉢ですりつぶすようなものか、これで勝てるといいんだが。うまく行ったら今度こそ休みたいところだ…
（となれば情報を流すのは早い。とっとと待ち合わせ場所を伝え、そこらの情報を流す。賞金額も増やした。さて…どうなる） -- ランディ
- 【つづく】 --
- 【護衛 破】 --
- 「あなたとの思い出の場所で待っていますv つってもお前との思い出なんてねぇから好きなところで遊ぼうぜ」
「追伸：遊べなかったらピュアテイル邸でお祭りの予定、二次会参加者募集中」 --
（待ち合わせ場所は散々たるものだった。人の原型をとどめているものはそこにはなく）
（切り刻まれた肉塊と血潮がそこら中に散乱している地獄のような光景）
（ヤツの出現を警戒してたのもある。異変が感知できたが故か。幸いセリアは近くの車内にいるが、正直俺でも起きぬけにこれはきついものがある）
（頭だけになった身なりのいい男の口に挟まれていたメッセージカードには、あまりにもふざけた内容であり）
（現場の光景と比べれば、頭のネジなんて全部外れている輩の仕業と決めつけるには十分すぎる物証だ、関わりたくない指数が200%を超えた） -- ランディ - （筆舌に尽くしがたい惨状の中、フードの男は溜息をついてランディの少し前を歩く。死体に罠を仕掛けるのは常套手段である、本当に警戒するなら、彼がこの配置で陣取っているのは自然だ）
（ランディが死ぬと鎮痛剤分の負債が回収できなくなる、という理由でついてきたシズは呟く）
（お前が進んでタダ働きするなんて珍しいな。しかも女絡まりで、と） -- シズ
素晴らしいねシズ君。これで護衛料も何もなくなったことを言っているのだとしたら、もう少し鎮痛剤を借りて寝ていたい気分だ
（シズの感知能力はザックのような直感的なアレソレとは別に非常に卓越したものがある）
（だからこそわかるが、ここには罠なんてない。在るとすれば手紙の内容ぐらいである）
一度会ったら…というか文面を見れば大体察しはつくと思うが快楽殺人犯系だ。おまけにセリア狙いかと思ったら俺もご招待されているらしい。
武器はナイフか、暴力的な身体能力、加えて肉体を武器にした…変異性のものと思われる。
肉体再生能力があり、拳銃弾や物理的手段では致命傷にはならず…か
（現場に散乱した肉片と武器を蹴り、大方の推測は立てる）
シズ、お前ならどうする。
俺はとっとと医者にかかって2週間ほど南国にバカンスに行くのが最高だと思うが -- ランディ - （数え役満だな、と辟易しながら錠剤を齧る）
（そして、そうだな、俺だったらと切り出して明後日の方を向き）
（お前かザックも狙うように仕向けて、一緒にタダ働きさせるかな）
（丁度今みたいにな）
（そう呟くと同時に死体を器用に蹴り上げて……突如飛来するナイフから身を守る盾にして……嗤う）
（バカンスはお預けみたいだな） -- シズ
あ、これからバカンス？いいねぇ俺も混ぜてくれよ
（シルクハットに仮面、オーバーコートにピエロ服の男がいた）
（右手にはジャグリング用のナイフ、左脇にはセリアを抱えて）
だめじゃぁ〜ん、お姫様ほっといちゃ、なぁセリアちゃん
ちゅかえない騎士様でちゅねぇ〜（仮面の下からッ生々しい怪物の舌を思わせる触手を出して遊ばせながら嘲り笑う）
いやさぁ、ほら俺らメアド交換してないじゃん？これじゃ連絡取れないと思ってさぁ、来たらもうほら、寂しそうにしてるからさーつい、な？
ピエロは寂しい顔を見たらすぐ笑顔にしたくなるのぉー！おわかり？ -- - （手足は脱出芸用のか手錠で縛られ口元も布で縛られふさがれている） -- セリア
…だからお前がここまで来るのは反対だったんだよ
（左手で抜いたG22をここを地獄に変えた奇術師に向けてぼやく）
（どちらにせよヤツがここに出張ってくるのは確実であろうことなので、今更なのだが）
なら連絡手段はセリアを介してでどうだ。俺はこれ以上人間逸脱した連中の連絡網を増やすつもりはないんだが -- ランディ
オッケー！じゃぁ今晩待ち合わせで頼むわぁ。あぁ今晩までね。俺さぁ子供1人養える程稼いでないんだよね。
どっちかっていうとさぁ養ってもらおうってタイプだし、困っちゃうよね。
ほんじゃ、お電話まってまぁ〜す
（不愉快な笑い声をまき散らしつつ、奇術師のように浮遊し街を飛び跳ね、消えて行った） --
…とりあえず、事務所に戻るか -- ランディ - （ピエロの台詞の間隙を縫い、消える直前にダガーを放つが……見事に避けられる。これは確かに一筋縄ではいきそうにない）
（異論ないとだけ呟いて踵をかえし、また最後に一言だけ呟く）
（らしくないな、ランディ。メガネがないせいか？ と） -- シズ
…かもな
（たった一言返し、招待状をシズに投げる。宛名にはただ一言Zombieと書かれていた） -- ランディ - 【つづく】 --
- 【護衛 弐】 --
- （ざまぁねぇな、と聞きなれた誰でも無い声が響く）
（声の主はきまっている。辛気臭い顔をしたフードの男）
（いつものように、ジグソーパズルをテーブルに広げ、眉間に皺を寄せてピースを拾い上げながら、ソファに寝かされているランディに声をかける）
（応急処置はすませた。鎮痛剤分はツケだ。きちんと治す気があるなら後でデランデルのクソに連絡をとれ、メガネ以外ならなんとかしてくれんだろとぶっきらぼうに言う）
（お嬢ちゃんに感謝するんだな。お前がうなされてる間、ずっと看病してくれてたぞ、と続けて男がいったところで視線をもし巡らせれば、ソファの傍らで寝息を立てているセリアが視界に入る） -- シズ
- （ランディの血に汚れた服を着たまま、寄りかかるようにして眠っている） -- セリア
（夢というのは現実感のないもので、すぐに夢とわかるが今回は違う）
（甘い声でも優しい声でもなくあの不可思議な、不気味な声が俺の目覚めを呼び起こす）
…お前の鎮痛剤は効きすぎるからいらないといつも言ってたんだがな
（まだ鈍く体が言うことを聞かないなりにも、顔を動かし状況を確認する）
（自分で手当てもしないまま倒れるとは、情けなくなったものだと後悔するほどには余裕はあるらしい）
慣れないことはするもんじゃないな、いい大人が -- ランディ - （慣れないこと、というのはもちろん金の話のない仕事であったり、女子供の関わる案件なんだが）
（普段運動していない世間のお父様方が運動会でいいとこ見せようとすると家庭内の株価を下げるのと同じである）
（腕や足、特に右腕と腹にはいくつか穴が開いてしまった。貫通していないのが救いだが、そうとは言い切れない）
（俺はザックのような人間離れしつつある身体能力はないし、シズのように容量のいい体の動かし方は持ち合わせてないが故だ）
（はっきり言えばあのままいたら死んでいたのが事実だ。今死ぬ一歩手前ぐらいか）
（便利屋をやっていて関わりたくない案件というのはいくつかある、組織であるが。まず長崎剣友会と、デランデル、シルク情報局だ）
（前者はまぁザックがいるからいいとして、後者は俺が意図的に関わりを切っているので問題はないんだが）
（闇医者だけはそうはいかない。特に俺みたいな常人の体の男は。あの不可思議な男の触手か何か人間とはかけ離れたものの攻撃）
（感染症の疑いもあるので、今月金はもう恩給しか頼れるものがないがやむ負えなかった）
（ピュアテイルの家にセリアを送ってからかかるとしたい） -- ランディ
（状況から言えば、手に余る相手だ。ザックのようにやられたらやり返す…などという暴力平等主義者とは相いれない俺は）
（所謂貴族の資本でそういう化け物退治専門の連中を雇うべきという結論に至る）
（金のない話であるし、何よりそれが一番真っ当な対応だろう。銀が最強ブッチギリすごいヤツを決めるのが生涯の目的ならいざしらず） -- ランディ
ちょっと！大丈夫なの！？
（ランディが電話を取ろうと体を動かした時、ソファの揺れで起きたのか開口一番聞いてくる） -- セリア - 無理だ -- ランディ
- バカ！ -- セリア
- 俺らで相手をするのが無理という話だ、わめくな頭に響く
（コール中の受話器をセリアに寄越す）
どういう事情があるのかはさておき、家に守ってもらえ。それが一番だろう。敵は化け物だ -- ランディ
（ためらいつつも受け取ると粛々と、貴族然とした受け答えにて状況を説明する）
（器量と要領の良さは確かに天性のものと資質を感じさせるものなのだが） -- セリア - （結果セリアを待ち合わせの場所まで連れて行くことになり、そこまでと護衛の料金は出ることにはなった）
（化け物についても司法機関に働きかけるとのことで、これで一応の仕事終わりは見えた）
（待ち合わせの時間まで俺はそのままソファで瞼を閉じた）
（鼻の上にない眼鏡に違和感を感じないほど、俺は疲労していたらしい） -- ランディ
- 【つづく】 --
- 【護衛 序】 --
- 『ということで俺はセリア・ピュアテイルの護衛をタダで今やっている』
『悲しいかな、世間体のことを気にしていることもありこういう小ずるい子供というのはよくわかっている』
『現代社会が生んだモラルがどうのこうのだろうが、俺は今非常に苦しい』 -- ランディ
あなたは私の護衛なんだから、服も綺麗にするのが当然じゃない！ -- セリア - （普段の飯がどんなのかは想像したくないが、孤児院での飯とかがえらく気に入ったのか）
（その礼だからとスーツ新しく仕立てているのが今だ、今らしい。おい誰だ子供にあんな黒一色のカード持たせたの）
（ただカードの使用履歴があれば、ピュアテイルの家が戻しにくることはそう時間の問題じゃないだろう）
（であれば、この面倒な子守も今日中に、できれば晩飯前に終わってくれる可能性が出てくる） -- ランディ
…ねぇ、なんでドのない眼鏡かけてるの？ないほうがそこそこ見栄えはするけど -- セリア
もらい物なんだよ、いいから返せ
（ジャケットにしまっておいた眼鏡はいつのまにかセリアの手に渡り、顔の前で前後させて遊んでいる）
（子供というのは思ったことをすぐ聞くものでザックやシズが普段絶対に聞かない…触れないことまで聞いてくる）
（しかも一度興味を持つと根掘り葉掘り、自分が納得するまで聞きたがるのが子供だ） -- ランディ
誰から誰から？あぁわかった、ムカシノオンナでしょう！私そういうのわかっちゃう！ -- セリア
こいつ…！どこでそんな言葉覚えたんだ！いいから返せ！
（ネクタイを締めずにホルスターとジャケットを掴み、眼鏡の奪還にかかるがまぁ子供相手に全力だせないのを知っている）
（おまけに店員の目も武器に使っているというか、ここの店は馴染みなのか俺が敵だ。ていうか味方がいない） -- ランディ
ねぇねぇどんな人？大人？それとも子供？犯罪？仕事関係？ -- セリア
お前より頭のいい女だよ！！！！
（子供相手にムキになるとこうなるといういい例であり、全部自供しているようなものなのだが）
（店員は止めることなく、このガキのお遊びを見逃している。店の中、しかも洋服店なんて障害物が多い場所）
（子供が有利な条件しかないのだ、しかも店員の目というか俺の今の月の収入より多い布きれだらけ）
（触れることも、傷つけることなどできない。宝石売り場で捕り物している気分よりイラつく）
「お客様、どうか…」
「お客様、どうかその…困ります」
「困りますお客様…」
「困ります！」
後にしろ！
「ホーッッホッホッホ！！！！」
（店員の呼びかけが全て俺ではなく、入口の誰ｊかにかけられていたものと気づいたのはセリアの首根っこを掴んだ後だった） -- ランディ
ホハッ！ホホホハハハ！アハハッハ！！！
（店員の頭が落ちた。入口にいるのは仰々しいマントにシルクハットにピエロ衣装、ごちゃまぜの奇術師がいた）
（ジャグリング用のナイフがきらめくと悲鳴を上げかけた店員の喉笛に次々と突き刺さる）
セリア・ピュアテイルお嬢様ァ ご招待に上がりましたってかぁ？ハハハハハ！ --
…え？ -- セリア - （そのままセリアを懐に抱え込むとやることは早い。Ｇ２２を引き抜き、奇術師に向けて引き金を引けるだけ引く）
（日頃の訓練とカスタマイズの効果もあり１マガジン打ち切り、すぐさま交換する）
（殺しのプロを相手にしていた軍憲兵時代と違って便利屋になって学んだことがある）
（それは頭のネジが外れた相手は迷わず叩き込めるだけ叩けということだ）
（ザックもそうだが化け物じみた、人間から離れつつあるというか人間じゃないだろお前というのは多々この街にいる、とんだモンスターハウスだ）
（その教訓通りのお蔭か、奇術師は全身から血をふいてぶっ倒れた） -- ランディ
おいおい…ひでぇことしやがる。ママに教わらなかったか？お話しましょって？
それともお前のママは俺が殺しっちまったかなーぁん？
（けらけらと不愉快な笑い声を放ち起き上がる奇術師、仮面が笑う）
それによぉー俺は邪魔されるのが大っ嫌いで大好きでさぁ…
（ヤツの躰からは肉の枝がせりだし、.40S&W…銃弾を全て排出していた。体に明けた穴から肉の枝が鋭く生えてきた）
（そしてその触手の矛先が全て自分を撃った男に向かえば、ようよう意図が理解できたらしい）
遊ぼうぜぇ！お前も！今夜のメインディッシュに追加だ！ --
（セリアを抱えながら駆け出す。二度三度あの肉の槍に足、肩やわき腹を刺されたがそれどころではない）
（店のショーウィンドウのガラスに銃弾を叩き込み、そのまま肩から飛び込む）
（路地では血まみれの男が店頭から出てきたのだ。何ごとか、と野次馬が注目しはじめたがそれどころではない）
行けっ！
（既に客が１人いたタクシーの後部座席にセリアを放り込むと、助手席に割り込み銃を突き付けて発進させた）
（後ろではあのクソ高い衣料品店が爆発炎上していたのがサイドミラー越しに光って見えたが…） -- ランディ
あっれぇーん…んんんー？調子狂うなぁ、やっぱ慣らしが必要だよな。おいそう思うだろ？
「えっ」
（寄ってきた野次馬の１人が肉の触手につかまり、搾り取られた。雑巾のように）
（悲鳴と断末魔、高級品店のストリートは阿鼻叫喚の地獄図に変容してしまった…この男の出現により） -- 奇術師
（俺が二人分のタクシー代を運転手に叩きつけた後、便利屋の玄関まではようやく開けられたが）
（失血の量もあり、セリアの声と共に意識は遠く、消えかかった）
（眼鏡はまだ俺の元にない） -- ランディ - 【つづく】 --
- 【クソったれな日常】 --
- 当然だが、事務所にいつも、人がいるわけではない
三人とも別々の仕事を別々に受ける事も珍しくない
そうなれば、非常に珍しい事ではあるがこういうこともある --
- 普段事務所にいる時間よりもいない時間のほうが圧倒的に長い、フードの男が一日中事務所にいることも、たまにはある
ランディは『川』へ洗濯に
ザックは『山』へ芝狩りに
そして、丁度今は仕事の合間、暇をしているフードの男が錠剤を齧りながらジグソーパズルを楽しんでいる
相変わらず外枠くらいしか埋まっていない -- シズ
- 本来は幻肢痛を抑える為に使われるキツイ鎮痛剤をがりがりと齧りながら、パズルとにらめっこを続けている
ただの風景画のジグソーパズルだ。そう難しい物にはみえないのだが、フードの男はあれでもないこれでもないとピースの取捨選択を続けている
そればかりしてはめてみないものだから、全然埋まらないのである
どれほど時間がたっただろうか、日も傾き始めてきた夕刻頃……突如、乱暴に事務所のドアが蹴破られ、ドカドカと乱暴な足音が近づいてくる
しかし、フードの男は気にしたそぶりもなく、一瞥すらくれずにジグソーパズルを見続ける
気にする必要はない。いつものことだからだ -- シズ
- フードの男は気だるげに、声だけを投げかける
随分、堂々としたもんだな、と、退屈そうに
なんでもないように -- シズ
- 声をかけられた人物はこれまた気にしたそぶりもなく、どかっと対面のソファに腰掛けて、机上に広げられたジグソーパズルを蹴飛ばしながら不敵に嗤う
「当たり前だろ。ここは元々俺の『家』なんだからな。実家に戻って、何を遠慮する必要があるってんだよ」
完全に感情の抜け落ちた声でそう嘯き、勝手にザックのテーブルからシケモクを取り上げて火をつける
たっぷりと紫煙を吸い込んでから吐き出せば、いつものように外面だけで嗤う
「ひっでぇモンすってるな、アイツ」 -- スネイル
- 勝手にすうな、あとで疑われるのは俺なんだから、とやる気がなさそうに注意しながら、指先でジグソーパズルのピースを弄び続ける
そして、いつものように呟く
本日の御用件はなんでしょうか、『依頼人』 と -- シズ
- 「中間報告聞きにきただけだよ。無事債権を抑えてこの事務所を維持してくれてる『仕事人』のな。なぁ、どうなんだそれで？ キティの奴は元気にやってんのか？」 -- スネイル
- 面倒な書類整理をしてくれてんのも債権もってんのもランディだ、俺は何もしてない、と、こちらもまた嗤う
そしてやたらと凶暴な仔猫の話を振られれば、相も変わらず元気でクソッタレなアマちゃんだ、といつもと同じ返答を返す
いつもと全く同じ返答を
-- シズ
- 「そうしたほうが万事上手くいくから、アンタはそうしてんだろ？ 謙遜するなよ『ブリンク』、俺はアンタの手腕はそれなりに信用してんだ……そんでもって、中間報告ご苦労さん。満足良く報告だ。コイツはいつもの報酬な」
そういって、懐から取り出した封筒を渡して、立ち上がる
これまた、いつものように
-- スネイル
- 封筒の中身を確認もせずに懐に仕舞いこみ、去っていく背中に声をかける
俺は仕事でかち合えば誰だって遠慮なく殺すぞ、この前だって殺すつもりだった
それでもいいのか、と呟く -- シズ
- 振り向きもせずに嗤って、男は答える
「構わないさ」
「そのときは、代わりにアンタを殺すだけだ」
なんでもないように、そういって、男は夕日の中に消えていく
血のように真っ赤な、夕日の中に -- スネイル
- 【つづく】
-
-
- 【猟奇事件解明 零】 --
- （長ドスを片手に、切れかけた街灯の下、佇む。あれから、幾年の月日が経ち、オレは昔大嫌いだった大人になった）
（出所してすぐ、行く宛もないので元いたオルカ何でも屋へと戻ると、そこはヤクザ紛いの男が我が物顔で居座る忌々しい場所になっていて）
（力づくで奪い取ってやろうと思ったところに、もっと面倒くさい連中が乱入してきて、今ではそいつらと便利屋を営んでいる）
（人生、何があるか分からない。本当に。心の底から、今はそう思う） -- ザック
- （オルカの形見であるジャックザリッパーの刀は、刃だけをオレが引き取ることになり、元々オルカが使っていた柄に無理やりつなげることでオレの獲物となった）
（それを見てデランデルは女々しいと笑ったが、あいつにしても未だにオルカに買い与えてもらった医療セットを持ち歩いているというのだから、他人のことは言えないだろう）
（オレは数年前からずっと切れかかりの街灯の下、一人煙草に火をつけると、静かに空に向けて煙を吐き出した）
（追悼などという感情はさらさらなかったが、せめて死後くらいは安らかに眠って欲しいと、そう思うくらいにはオレも大人になれた） -- ザック
……追悼のつもりか？ ザック・ザリップス。 --
（声をかけられて、前を向く）
（煙草の火の更に先。消えかけた街灯が浮かび上がらせるそのシルエットに）
（オレは見覚えがあった。それは、数年前から付きまとっていた、予感のような物だった）
（確証があったわけではない。ただ、もしかしたらジャックザリッパーに成りきれなかった女が、そうしていた可能性は零じゃないだろうという予感が）
（『あいつ』の生存を、可能性として浮かび上がらせていたのは事実だった） -- ザック
……久しぶりだな。スネイル。 -- ザック
（オレが名前を呼ぶと、スネイルは昔と変わらない皮肉げな笑みを浮かべ、刀の鞘で自分の肩を叩いた）
（オレは煙草を落とすと、踵でそれを磨り潰し、いつでも長ドスを抜けるように身体から力を抜いた） -- ザック
驚かないんだな。てっきり、泣いて悦んでくれるものだと思ったんだけどなぁ。寂しい限りだ。お前の方も変わってしまったってことか。
そりゃそうだな、かつての子猫が今やオルカの跡を次いでザックなんて名乗って便利屋を始めてんだから。 -- スネイル - 驚いたよ。ただ、それを悦んでいいのかどうか、オレの中で整理がまだついてないだけだ。
時間は永劫に近く存在した。刑務所の中では大いに暇を持て余してな。オルカがジャックザリッパーを名乗った事件について、色々考える時間もあったんだよ。
その中で、いくつかの疑問点が出てきた。「オルカがジャックザリッパーであった」という収まりのいい事実の陰に隠れた、解明されていない謎がな。 -- ザック
- 俺もだよ。腹の中をぐちゃぐちゃにされて、ベッドの上で二年半も動くことが出来なかった生活送ってたからな。
あの事件について、納得出来ないところがいくつも出てきた。それについて考えてたら、もう一度お前に会うべきだと思ったのさ。 -- スネイル
- どうやら、同じ結論に辿り着いたようだな、スネイル。
嬉しいよ、かつての相棒と、意見が合うなんてな。 -- ザック
- そうか？ 俺は寂しいばっかりだよ。俺が居ない間に楽しそうにやってるじゃないか、ザック。
オルカも、デラも、俺もいないあの事務所で、我が物顔して便利屋なんて看板を掲げてな。 -- スネイル
スネイル。――お前がジャックザリッパーだったんだな。 -- ザック - キティ。――お前が俺達を裏切った、ジャックザリッパーだ。 -- スネイル
一番違和感を覚えたのは、最後の犠牲者がお前だったってことだ。
俺は、オルカの中に芽生えた殺人の衝動がお前でも構わない程に膨れ上がったことで凶行に走ったんだと、そう思ってた。
でも、オレと刀を交えた時、オルカはそんな狂気の中に存在しているようには見えなかった。
いつもと何も変わらない、オレ達のことを案ずる、一人の女のままだったんだ。
だから、オレは刑務所にいる間に考えなおした。オルカはお前を殺そうとしたんじゃなくて、お前を止めようとしたんじゃないかってな。
――お前の正体が、ジャックザリッパーであるから。 -- ザック
お前は結局、オルカに守られていたんだろ。オルカは最後まで、お前の凶行を隠そうと必死だったんだ。
お前が自分の衝動を抑えきれず他人を殺して回る後ろを、ひたすら保護者のように付きまとい、時には隠蔽までしてお前を助けようとした。
都合の悪い殺人の記憶を失う、卑怯なお前の尻拭いをして回ったんだよ。昔の俺みたいにな。
そして最後は、お前の殺人衝動を正当化するために一芝居打って、自らを殺人鬼に仕立てあげた。
――お前の正体を、ジャックザリッパーにしないために。 -- スネイル
あの人は、殺人鬼なんかじゃなかった。
無差別に人を殺して回る、ジャックザリッパーなんかじゃなかったんだ。 -- ザック
それどころじゃない。自分の身を犠牲にしてでも誰かを守る。
本当に素晴らしい人間だった。 -- スネイル
そんな人間をてめえが死なせたんだろうッ！！ -- ザック - 彼女を殺したのはお前の方だッ！！ -- スネイル
（長ドスを抜く。刀の刃を継ぎ足した、歪な刃が力任せに振られ、空中に火花が散る） -- ザック - （刀を鞘から抜く。ドスの折れた刃を磨いた長巻のようなアンバランスな刃がそれを受け止めて弾いた） -- スネイル
- （幾度かの刃の弾き合いの後、距離を置く。力で攻めても手数で攻めても防がれる）
（死んでも戦いたくなかった相手が、目の前に居る） -- ザック
- （距離を置いたところで息を整えた。防いでも防いでも力と手数で攻めこまれる）
（戦ってでも殺したい相手が、目の前に居る） -- スネイル
そうだ。
こんなのは、消化試合だ。今更真相がどうあれ、オルカは帰ってこない。
オレ達の別れた道も、二度と一つには戻らない。
オルカが望んだ結末が、自分の犠牲で全てが丸く収まることだったんなら……こうして刃を交わしていることすら冒涜になる……！！ -- ザック - そうだ。
客観的に観測して、与えられた条件でどちらも成立するのであれば、その回答は両方共正だ。
だとしたら、お前の言い分と俺の言い分。どちらが正しいかなんて、今となっては意地の通し合いになる。
俺に自覚がなければ、お前に記憶がなければ、その前提すら容易に崩れる、破綻した問題と化すだろう。 -- スネイル
- スネイル。どうしてこうなった。
何でオレ達はこうなんだ。こうなってしまったんだ。
……あの時、あの空間にいた誰もが望み、誰もが願っていたはずの未来に何故辿りつけなかった！！ -- ザック
- そんなもん、誰にだって分からないんだよ。人殺しに理由なんか要らないのと同じだ。
辿り着くべくしてここに辿り着くなら、最初から俺達が到達する場所はここだったんだ。
ザック。俺は、俺の世界の中での殺人鬼を憎む。
俺からオルカを奪った、お前だけはどんな理由があっても、許すことはできそうにない。 -- スネイル
- スネイル。オレもだ。オレは、オレの世界の中での殺人鬼を許せない。
お前がオレを騙し、オレから全てを奪っていき、今もオレにそれを偽り続けているんだとすれば。
オレは必ず、どんな方法を使ってでも、お前だけは殺さないといけない。
相棒。……世界は、クソったれだったよ。
本当に、心の底から言える、この世界はクソッタレだッ！！ -- ザック
- （刀の柄に、かつての恩人の残したドスの刃を指した武器を鞘に仕舞い、男は小さく俯いた）
知ってたよ。
――暗闇の中にいた、あの頃からな。
（夜闇の中、男は去っていく）
（一度も振り返らず、一度も顧みず） -- スネイル
- （長ドスを鞘に戻し、その背中を歯ぎしりをしながら見送る。刃を向けることはないと思っていたその相手に、刃を向けねばならない理不尽さを）
（同じ女（ﾋﾄ）を思い、同じ女（ﾋﾄ）の尊厳を守るために、互いの死を願わなければならない理不尽を）
（この世界の全ての条理を）
（何もかも、思い通りにならないこの世界への怨嗟を込めて、大声で子猫は叫んだ）
ア"ア"ア"ア"アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ！！！！！！
（夜闇に響く慟哭は深く、悲しく――）
（分かたれてしまった道の先で、男の残骸が一人、夢の躯を晒していた） -- ザック
【つづく】 --
- 【今より前 大昔より後】 --
- 退屈な依頼だった。儲かるわけでもなく、かといって簡単なわけでもない
それでいてやることは単純明快。いつも通りの退屈な仕事だ。誰も彼もが愛する退屈な仕事だ --
- どこにでもある地上げの仕事。未だ所有権が明確になっていない、とある空き物件を不法占拠している男達がいるらしい
1人は先日出所したばかりのチンピラ
1人は不動産屋を何かしらの手段でイワせて他人の債権を�据ぎ取ったヤクザ紛いの男
そして、欲している物件は以前猟奇殺人事件が近所であったせいで、地価が底値まで下がっているボロ物件だ
金と同じでクソも同じ場所に集まるらしい --
- 値が底値まで下がっている物は長い目で見れば、必ず儲かる買い物ということになる
特に不動産ならそれは顕著だ。金がなくなっても土地は消えない
突然地殻変動が起きてここら一体全てが海にでも沈まない限り、土地の価値が完全に消失することはない --
- そんなどこにでもある、当たり前で退屈な理由で……俺もこれからクソの群れに混ざる事になる
当然、この土地の債権を取り上げる為に
勿論手段は選ばない。選べない。それが俺の仕事だ --
- 幸いな事にも男達は結託しておらず、チンピラもヤクザも債権を巡って争っている最中らしい
好都合だ
漁夫の利を得ろと言わんがばかりの舞台である --
- 件の事務所に近づけば、何やら騒がしい物音が聞こえてくる
中で例の2人の男達が暴れているのだろう
これまた好都合。既に争っているのなら話は早い
それこそ、『瞬く間』に終わる --
- 懐からダガーを抜いて、窓を蹴破り押し入る
陽光を反射して煌く硝子片と塵の向こうで、目があった
腐った泥沼のような濁碧と、真っ暗な泉の底のような暗蒼
銃口がスライドし、長刀が閃く --
- 黒塗りのダガーが音も無く舞い、銃口は正確無比に牽制を行い、長刀は射線の間隙を縫うように間合いの内に入り込む
ダガーは常に急所を狙う。本数は限られていて、接近戦では最もリーチが短い。しかし、人体は急所だらけ。狙い澄ませば問題ない
それが最も効率的
銃口は常に牽制距離を保つ。焦らず確実に。体のどこかに当てれば良い。もっとも長いリーチを即座に生かし、博打を打たない
それが最も効率的
長刀は常に暴力を振り回す。ただひたすらに距離を詰め、ただ只管に致命打を避け、ただただ前へと切り込んで良く
結果的に、それが最も効率的 --
- 刹那の殺陣は息衝く間も無く決着し、長刀が振り下ろされ、ダガーが急所を捉え、銃口が押し付けられる
ダガーは銃口の間合いの内へ滑りこみ、喉元に添えられ
長刀はダガーの一撃を物ともせず、脳天へと振り下ろされ
銃口は僅かに間合いの外から、長刀の持ち手に照準を合わせ
どれもそれ以上踏み込まれることなく、静寂が訪れる
殺れば、殺られる
当たり前の非日常が、すぐ隣で睨みを利かせていた --
三人は同じことを思い。
その中の一人が、それを口にした。 --
「……誰だよ、てめーら」 -- ザック
【――はじまり】 --
- 【猟奇事件解明 死地】 --
- （目の前の血溜まりに――スネイルが倒れていた） -- キティ
- （オレの右手には刀が握られていて、鮮血が滴っている） -- キティ
- （スネイルは呼吸をしているようには見えない。倒れ伏し、ピクリとも動かず、胸を赤く染めていた） -- キティ
- （記憶がまた飛んでいる。オレはここに来るまで、何をしていたんだ。何故オレはスネイルの亡き骸の前で立ち竦んでいる） -- キティ
- （見上げるとそこには真っ赤な月があった。そこで初めて、オレは今が夜であることを知った） -- キティ
- （刀から血を払う。オレこそが殺人鬼だったのか。数日前の死体の発見も、幻なんかではなかったのだ） -- キティ
- （呼吸が荒い。唯一無二の相棒を殺したせいか、動悸がどんどん早くなっていく。胸元をかきむしるように服を握った） -- キティ
- （一歩進み、刀を握り直す。切り裂きジャックは切り裂かなければならない。四肢を分断し、狂人の真似事をしなければならない） -- キティ
- （スネイル。お前はバカだ。だから、オレは忠告したんだ。オレはもしかしたら殺人鬼かもしれないって。オレこそが、ジャックザリッパーかもしれないって） -- キティ
- （なあ、相棒。オレは、お前とならやっていけると思ってたんだ。こんなことになってしまった今でも、オレはお前を失ったことがこんなに悲しい） -- キティ
- （バラしてやるから。誰かも分からないほど、誰にも見つからないほど丁寧に。オレだけが、お前の死を永遠に覚えておけるように） -- キティ
- （なあ。オレは――本当に、あそこで四人で暮らしている生活が、大好きだったんだよ） -- キティ
なのに……なんで、『お前』がそこにいて。
なんで……オレはスネイルのバラしかたが、全然分からないんだ。
答えてくれ。教えてくれ。なあ。
――なあ、オルカ。 -- キティ
（僅かだが生き残っていた街灯が、そこにきて息を吹き返す）
（女はそこにいて、口に煙草を咥え、ハンチング帽に指を当てながら……ただ、その様子を眺めていた） -- オルカ
何が真実なんだ。何が本当なんだ。
何がどうなって、オレ達はこうなったんだ。
何であんたはそんなところにいる。殺人鬼であったのがオレなら、あんたがそこでスネイルの死体を前にスキだらけのオレを、何故殺そうとしない。
もう辞めてくれ。これも悪い夢なら、早く覚めてくれよ。
悪い夢なら、また夢見の悪い寝方をしてたことを反省して、四人で暮らしていこうって、そう思うから。
だから、オルカ。……そんな目で、オレを見ないでくれよ。 -- キティ
（女はただそこで街灯に照らされながら、静かに紫煙を吐き出した）
……勉強しな。
解離性健忘。簡単にいえば、ストレス性の記憶障害さ。
余りに高負荷の掛かる情報を叩きこまれた脳は、その周辺の記憶と共にそれをなかったこととして封印する。
一種の自己防衛機能ってとこだ。生命活動に支障が出るレベルのストレスも、この世には割りと存在するってだけの話だ。 -- オルカ
やめろ。
やめろやめろやめろ……ッ！！ オレは、オレはあんたの口からそんなことを聞きたいんじゃないッ！！
あんたの口から、あんたの言葉で、そんな言葉を教えてもらいたいわけじゃないんだッ！！
そんな残酷な事実を知るために、オレはこの場所に居るんじゃないッ！！ -- キティ
不味いと思ったろうね、完璧な犯行を繰り返してきた犯人がまさかその犯行を目撃されるなんてさ。
ジャックザリッパーっていうのはね、元々人格を持たない殺人行為の集合体のことを指す言葉なのさ。
そんな具象体のような存在が、その存在を目撃されてしまえば、それはもうただの特定個人となる。
だから、本当なら殺してしまうべきだったんだろうけど、それも出来なかった。それこそが、『私（ﾜﾀｸｼ）』を殺し、己の配役に成りきれなかったことへの代償なんだろうね。 -- オルカ
オレは、見たんだ。この目で、はっきりと。ジャックザリッパーが人を切り刻む所を。
でもその記憶は、ストレスによって深くに隠蔽され、事後の状況からの記憶だけがオレの中に残った。
オレは、耐え切れなかったんだ。
――自分の良く知る人間が、ジャックザリッパーであったことが。 -- キティ
正確に付け加えるとするならば、あんたはジャックの犯行中に、その犯行を止めようとしたのさ。
刀という凶器を奪い、ジャックがこれ以上の犯行を重ねないようにしようとした。
そりゃあ見事な物だった。無刀取りという東洋の秘技があるらしいが、何年も修行をして漸く功を成す程の熟練の技さ。
それを、自分の知り合いが凶行に走る様を許すことが出来なかったというその理由だけで二度も成し得たんだからさ。 -- オルカ
そしてオレは我に返る。手には凶器の刃。目の前には切り刻まれた死体。
恐慌状態に陥ったオレが逃げる様を見ながら、ゆっくりと後始末をする。
実際にジャックザリッパーの犯行も痕跡を残さない殺人を含めれば何倍何十倍と膨れ上がるらしいけど、その公に出ない殺人に作り変えた。
ジャックザリッパー曰く、誰にも知られることがなければ犯罪じゃないらしいからな……。 -- キティ
ジャックは翌日にその姿を早朝から確認してみたが、どうもその記憶が戻っているようなことはなかった。
スネイルかデラ辺りには話したかもしれないけど、それにしてもアンタ達の誰がリークしようが、それはアンタ達本人の取ってもなんのプラスにもならない。
義侠心に囚われるような育て方はしていなかったし、何よりそういう風に動いてくれたところで、社会的に理解をされている事務所の所長が本格的に疑われるまでには、いくらでも手回しのしようはあると思っていた。
だから、このまま何もなければ、少なくとも事務所の人間は誰も傷つかず、平穏で、安息の日々を続けることが出来たのさ。 -- オルカ
でもジャックは我慢しきれなかった。どういう形で標的が決定しているかは知らない。知りたくもない。
だけれど、犠牲者としてスネイルが選ばれたことにも何の抵抗もなくそれを実行してのけた。
そして、オレも我慢できなかった。知らない振りをし続ける事は出来たのに、忘れたい程のストレスを何度も受けながら、それでも殺人鬼の凶行を止めたかったッ！！
（右手に刀を持ち、立ち上がる）
オルカ、オレは。
（歯を食いしばり、涙を零しながら、喉を枯らせて叫ぶ）
――あんたを。
――ジャックザリッパーを、止めたかったんだよッ！！ -- キティ
（オルカは）
（ジャックザリッパーは、静かに煙草を吸うと、それを地面に落とす）
（小さく、寂しげに、今まで見せたことのない表情で笑った）
いつの間にか。
いい男になってんじゃないか……キティボーイ。
（ハンチング帽を静かにかぶり直すと――自らの獲物である、長ドスを構えた） -- オルカ
（喉から迸った慟哭は、獣のようだった。今まで発したことのない声に声帯が避け、唸り声のように成りながら外に飛び出す）
（夜闇を切り裂くような獣の咆哮を発しながら、理由のない涙を零し、疾駆する）
（刀を引きずる地面から火花が散り、間合いに入ってようやくそれは持ち上げられる）
（何人もの生き血を啜り、スネイルの身体すら切り裂いた呪い刀を走りながら構え、獣は黒い風と化した）
（武器さえ振り回せば、誰もが地面に倒れ伏した）
（１VS１なら誰にも負けず、度胸もない烏合の衆なら何人来ても問題にならなかった）
（後ろにスネイルがいて、それを守るためならオレは何人だって殺してきたし、何人だって倒してきた）
（それが、一撃で逆の立場になった）
（信じられなかった）
（この世にこんなに強い人間が存在するだなんて、悪い夢のようだった）
（振りぬいた鉄パイプが長ドスで真っ二つにされる様を見て、オレはいつかこんな人間になりたいと思ったんだ） -- キティ
（その、義理の息子のような存在である少年の、獣のような咆哮を聞きながら）
（こんな形でしか生きられなかった自分の人生を想った）
（我ながら、不器用な生き方であったと思う）
（その結末がここならば、間違いなく自業自得であり、そしてこれからも続いていくなら永遠に続いていく業のような物だと思った）
（女は踏み込み）
（――目の前に迫る子猫を切り伏せる為の一撃を、何の躊躇いもなく振り下ろした） -- オルカ
（――その一撃を。長ドスごと、切り飛ばす）
（それは純粋な筋力であり、身体のコントロールによる膂力であり、心の中に存在していた直線の信条が誰にも止められなかった証左でもある）
（踏み込みと同時に真横に力任せに振られた刀での一撃は、長ドスの金属を容易に斜めに断ち切り、あまつさえその力の解放の場を失って自ら刀という形を崩壊せしめながら）
（――ジャックザリッパーの）
（オルカの胴体を横に、真っ二つに断ち切った）
（一拍置き）
（まるで、誰かが流したかのような雨のような流血が降り注ぎ、夜の静謐が訪れる）
（どれくらいそうしていたか、オレが顔を上げると、そこにはくすんだ金髪の少年が、白衣を来たままこちらを見てきていた） -- キティ
（少年は、キティの横を通り過ぎると、地面に倒れたオルカの死体に歩み寄る）
（無表情にその身体を触っていたが、ある程度触ったところで）
……これは。俺には、無理だなぁ。
（と、小さく呟き、立ち上がった） -- デランデル
（そのデランデルの言葉を聞きながら）
（すれ違いざまに、オルカが言った言葉が、頭の中をぐるぐると回っていた）
（崩壊し、唾が割れ、刀身だけが地面に落ちた刀が、乾いた音を立てた） -- キティ
俺も。スネイルも。別口では追ってたんだ。
もしかしたら、ジャックザリッパーがさ、事務所内の誰かなんじゃないかっていうのは、誰もが思ってたんだよ。それが誰なのかは分かってなかったけど。
でも、俺はなんとなくこうなるんじゃないかって思ってた。でも止められなかった。止める力がなかったから。
だからさ。
（デランデルは、笑いながら泣いていた。それは、感情の表現が上手くいかないような、歪な笑顔と歪んだ涙だった）
だからせめて、何もかも取り返しがつかなくなる前に、この手でそれを治してやろうなんてイケメンな考えを抱いてたんだけど。
無理だね。……俺は、死体は治せない。
本当は、こういう完全に手遅れになる状態から、ゆっくりと処方箋を出してあげるべきだったのかなって、思ったよ。……俺は、そうか。失敗したのか。 -- デランデル
そうか。
……じゃあ次は、敵でも討つか。
今なら抵抗せずに殺されてやるぞ、デランデル。オレが自首する前の、最後のチャンスだ。 -- キティ
しないよ。俺は人の殺し方になんか、興味がないんだ、君と違って。
この教訓を活かして、一人でも多くのオルカや、スネイルや、キティみたいな人間を治していくさ。
イケメンだろう、俺。……今は多分、酷い顔だろうけどな。 -- デランデル
そうか。……じゃあ、お別れだな。
オレは人を殺した。殺人鬼じゃない、たった一人、自分を育ててくれた恩人を、この手で殺したんだ。
だから、その罪は償わなきゃならない。何の罪もない人間を殺した人間は、ただの殺人鬼だからな。 -- キティ
それを、その苦しみを選ぶなら。
俺は何も言わないよ、キティ。 -- デランデル
――幸福な子猫は死んだよ。
今ここにいるのは。
ただの殺人鬼だ。 -- ザック
（道は別れ）
（二度と戻らない）
（いつかそこにあったはずの幸福も）
（――今はもうない） -- ザック
【つづく】 --
- 【猟奇事件解明 ６】 --
- 10。
（適当に数を告げ、額を打ち付けた竹刀を肩に担いで面倒臭そうにため息を零す）
……手合わせしてくれって言ったのはお前なのに、この手の抜きようは流石に引くレベルなんだが。 -- スネイル
- いや……オレも意識して手抜いてる訳じゃなく、なんか、ちょっと身体が思うように動かないだけで。
10本ってことは、終わりか……負け越したな。何日ぶりだよ。
（言いながら汗だくになった身体に水をぶっかけ、頭を振った） -- キティ
- 半年？ 七ヶ月ぶり？ なんかそんなレベルだぞ？
っつーか、その時もテメーが柄にもなく43度の熱出してる時だったからノーカンにならなかったか。人間が43度出したら死ねよ。風呂じゃねえか。
（キティから水を受け取って同じように浴びる。打たれた部分を消毒の意味で洗いながら）
……使えもしない頭使って悩まないっていうのは正しい選択だろうけど、体動かしてる最中もそれじゃいきなり喧嘩売られたら死ぬだろお前。
どうした。好きな男でも出来たか？ -- スネイル
- ゲイはこの世から絶滅しろ。オスメスで繁殖してきた生命の進化の過程に一石を投じてんじゃねえぞ。
お前、オルカに最近何か聞かれたろ。なんか、鳥肌立つようなこと。 -- キティ
- 普段から口にしてる下ネタでも多少引いてるところあるけど、それを除外していいなら、まあ、心当たりはあるな。
何だよ。遅い思春期の始まりか、キティ。（水の入ったボトルを投げ返し、笑う） -- スネイル
- （スネイルからボトルを受取、上着を脱いで改めて水を掛け、ボロ布で拭く）……どこまでが本心なんだよ。
昔みたいにつるんでないと生きていけない程、お互い弱いままじゃないだろ。
特にお前は、暗闇の中で生きていかないといけないままのお前じゃなくなった。
だったら、いつまでもオレに拘ってる必要なんかないと、客観的に見たらオレは思ってる。 -- キティ
- （上着を脱ぎ、絞りながら笑う）へえ、初耳だ。俺がお前に拘ってたんだな。てっきりお前が俺に拘ってたのかと思ってた。
そんなに言う程変わったか？ いや、まあお前が言うなら変わったのかもしれねーけど。
逆に言わせて貰えば、俺はいつまで経ってもお前のままなキティを羨ましいと思ってるけどな。 -- スネイル
- 成長してなくて悪かったな。いくらオレでもそれが褒め言葉じゃないことくらい、分かる。
あの暗闇に居た頃と何も変わってないっていうのは、お前の口から出たら最高の皮肉にしか聞こえない。
結局は、力だけで他人と渡り合おうとしてるオレは、お前らにとっていつまでも子猫なんだろ。……そんなことくらい、オレにも分かってる。 -- キティ
- それは、お前が俺を穿って見過ぎなだけだ。もしくは、昔の俺ならそういう意図で言ってたのを、そのまま認識してるだけだろ。
そういう意味では、俺は変われたかもしれないな。少なくともスネイルと名付けられた時よりゃ柔軟に物事に対処できるようになった。
青臭いこと言うついでに言わせて貰えば、俺がお前を羨ましく思っているのは本当の話だよ。
んで、それは別に今まで変わらなかったからじゃねーんだ。昔から、一貫してお前に対して抱いてる気持ちでもある。 -- スネイル
- （胡散臭いモノを見る目つきで睨み）……なんだそりゃ、初耳だぞ。 -- キティ
- 自分を客観視するっていうのは難しいし、加えてキティみたいな脳筋野郎にそれを求めるのは酷だって知ってるけどな、
お前を、お前の後ろから見ることを少しでいいから想像してみろよ。
しかもお前の前には自分じゃどうしようもないような敵がいて、それがいつの間にか居なくなってんだ。
憧れるなっていう方が無理な話だ。そういう意味では、悔しいが俺がお前に拘って事務所に残ってるのかもしんねーな。 -- スネイル
- なんだよ、それ。オレにとっちゃ俄に信じられない話なんだが。
むしろオレが散らかした後始末付けて立ちまわるお前の行動の方がオレには信じられなかったぞ。
オレが一人で暴れてたときは敵ばかり増えていってたけど、お前とつるみ始めてからそいつらが傅くようになり始めた。
お前と一緒に居たのはお前と仲良くしたかったからじゃなく、お前だけは絶対に敵に回しちゃいけないと本能的に悟ってたからかもしれないくらいに。 -- キティ
- ひっでえ話だな、おい。片方が憧れてんだからお前も俺に憧れとけよ。なんで怯えてんだよ。子猫か。
まあ、互いに水と油みたいなもんだったから同じ場所に共存できたし、それでいて液体って括りだったから完全に離れずにいれたのかもな。
冷静に分析するとクソみたいに美談になってしまったが、当時やってたことは最低の極みだったけどな。
何だよ、敵の飯に下剤山ほど突っ込んで敵対勢力のトイレ全破壊って。二重の意味でクソだったな。 -- スネイル
- しかもあの後完璧にそれ忘れて戦利品として貪ってたオレが最後の被害者になったからな。オレの人生で神に祈ったのはあれが最初で最後だ。
……まあ、あの生活も完全に悪いだけの生活じゃなかったことくらいは認めてやれるか。
なあ、聞かせろよ。本当にオレやデランデルと一緒に、オルカの事務所の所員としてやっていくつもりなのか。スネイル。 -- キティ
- 俺は、それも悪くないって答えただけだ。やるかどうかはまず状況が許せばっていう前提があるし、それが実現するまでに何もなけりゃって前提が更に前に来る。
実際問題二人掛かりで襲いかかっても未だに一本も取れてない状態でオルカに付いて行って、俺らが戦力になるか？ お散歩じゃねーんだぞ。
デランデルは裏方に徹するだけの知恵と立ち回りはあるかもしれないけど、少なくとも俺らは前に立ってやりあう方を選ぶだろ。
だったら、今すぐ事務所に入れてくださいとか言えるかよ、マジで。 -- スネイル
- じゃあ……お前は、状況が許せば……オルカと同じ道を辿っていくのか。
……裏でも表でもない、その中間の世界で。 -- キティ
- そういう、ことになるな。俺の意思を言えば。
……お前はその時、俺の隣にいちゃくれないのか？
（皮肉げに笑い、肩を揺らした） -- スネイル
- （スネイルはもう、闇の先を見据えている。前に進むために前を向き、力強く歩いて行っている）
（闇の中で震えていただけの少年は、もう一人で歩ける程の自身と力をつけて、独力で歩を進めていた）
（オレは）
（オレの、意思は）
――オレはそんなのは、ゴメンだ。
（俯き、その言葉を呟いた） -- キティ
- そうか。
（スネイルはそれに対して、責めも問いもしなかった） -- スネイル
- （その顔を見据え、オレははっきりと言葉を返す）
その時は……オレはまた、お前の前に立ってるからな。
何年経っても変われないオレには、それしかできねーんだよ。 -- キティ
- （少しの間、その言葉の意味を考え、理解した途端、男は吹き出した）
そうか。……そうか。
お前は……本当、バカだな。（耐え切れないように腹を抱えて笑い、肩を揺らした） -- スネイル
- ああ、バカだが。知らなかったのか？
（皮肉げに笑みを零して、腹を抱えて笑う相棒に尋ねる） -- キティ
- いや、知ってたよ。……暗闇の中にいた、あの頃からな。
（目尻の涙を拭い、大きく息を吐いて言葉を返した）
いいよ、お前は変わらなくて。お前はそんなに器用に出来てないだろ。
だったら、お前を取り巻く世界の方を、お前の力で変えてやればいい。
俺は少なくとも、お前の一番側にいても壊れなかった実績があるし、デランデルも上手く避けるだろ。
オルカに至っては何を心配するのかって話だからな。だから、お前は変わらないままでもいいと、俺は思う。 -- スネイル
- （その物言いに苦笑いしながら、腕を組む）
お前、徹底的にオレをバカだと思ってるし、バカにしてるだろ。 -- キティ
- そうだが。まさか知らなかったのか？ -- スネイル
- 知ってたよ。
暗闇の中にいた、あの頃からな。
（オレが用意されたようなそのセリフを口にし、耐え切れないように二人で笑い、小突きあった）
（いつの間にか日が暮れ、いつまでほっつき歩いているのだとオルカにど突かれることすらその時はまだ分からずに）
（ただ、今そこにあるだけの平穏を確認しあうように、バカのように、バカみたいに笑い転げていた） -- キティ
【つづく】 --
- 【猟奇事件解明 ５】 --
- （目の前には闇。切れかけの電灯が明滅している。虫の鳴く僅かな声だけを残して静謐が横たわる）
（鼻を突く血の匂い。まただ。またこの幻想だ。いい加減夢なら覚めてくれ）
（ゆるゆると地面を流れてくる血液の筋が、殺戮がたった今起こったことを示している）
（先の時と違い、オレの右手には刀が握られている。今しがた人を斬った生々しい血の汚れが電灯の明かりに反射する） -- キティ
- （立ち上がり、死体に近づく。服装からして、今度は女の服装だった。数日前に見た死体と同じようにバラバラにされている）
（その表情は苦悶に満ちていて、殺される前にかなり抵抗したことを伝えてきた。一太刀で死ねたとしても、刃物で斬られれば死より先に痛みが来る）
（と、その顔がどこかで見覚えがあるような気がして、オレは街灯の明滅する頼りない明かりの中、目を凝らす）
（――その死体は、オルカだった。オレが気づくと視線がこちらを向き、何かを咎めるように口を開き――） -- キティ
ッ……！！（汗だくの身体を起こした）
（時計を見ると、まだ太陽も登っていない御前二時。吐きそうな程の嫌悪感に身体を折ってえづく）
（今まで十数年生きてきて、最悪の夢見だった。嫌な汗で体中が不快だ）
（荒い息を整えるように夜闇の中深呼吸をして、事務所の中を見回す） -- キティ - （その時後ろで、『ギィ』、と）
（床板を踏む音が聞こえてきた。誰かが事務所への階段を上がってきている）
（こんな夜中に？ オルカもスネイルもデランデルも、夜間に改めて事務所に寄ることは少ないだろう）
（物取の可能性もある。むしろ、そちらの方が今の精神状態のオレにとってはありがたい）
（――それが殺人鬼だったら、と思うと。オレは自然に枕元に置いておいた木刀を手に取っていた） -- キティ
- （『ギィ』、『ギィ』と。その誰かは足取り重く階段を上がってくる）
（そもそもが事務所の関係者であれば、こんなにゆっくりとしたペースで上がってくる必要はないはずだ）
（こんな夜中に、足音を殺し切れずに近づいてくるのは、持論から言えば『プロではない悪意を持つ者』に他ならない）
（オレなら潜むのは闇の中ではなく人混みの中を選ぶ。だからこそ。こいつは）
（ガチャリとドアが開く）
（その人物が、腰に『刀』を下げていたことで、オレのストレスは容易に許容値を上回った） -- キティ
- （無音の最速で地面を蹴り、木刀を横薙ぎに振り、胴を狙う）
（ほぼ完璧に突き刺さるはずだったその打撃は咄嗟に刀を抜いた襲撃者によって防がれる）
（刃のない方で受け止められたのか、弾かれる形になったオレの身体の中心に滑りこむようにして襲撃者は踏み込み、拳を腹に向けて放ってくる）
（防御はしなかった。殺してやると思ったから、それを優先することにした。内臓を揺らす強烈な一撃が突き刺さると同時に相手の心臓に向けて肘を落とす）
（予想だにしなかっただろうハートブレイクショットに襲撃者はよろけ、オレは腹部への攻撃で呼吸がままならなくなり、獣のような声で鳴いた）
（次で決める。弾かれた木刀を逆手に持ち替え、身体を倒すようにして相手の顎を折り砕く下からの突き上げを放つ）
（スネイル曰く人間の認識の外側から来る最悪の軌道での一撃は、身長が低かった少年時代からオレの必殺の技として信頼と実績を重ねた攻撃法だった）
（カッ、と何かで受け止められるような音がして、その必殺の一撃は容易に受け止められ、次いで今度は腹部への衝撃と比べ物にならない程の一撃が身体を揺らし）
（ソファを巻き込み）
（デスクにぶち当たってもまだ止まらず）
（壁に叩きつけられて、ようやく上下逆さまに地面に落ちることを許された）
（意識が飛びかけた所に、パチンと電気が付く） -- キティ
……朝起ちの処理にしちゃ、ちょっと荒々しすぎだろう -- オルカ
（その聞き慣れた声に、身体の緊張が一瞬で全部解けて。全部解けたからこそ、即効で強烈な痛みが来た）
（何処が痛いとかではない。体中がバラバラに分解されてしまいそうな痛みに、オレは地面を芋虫のように這いずった）
（文句や悪態の一つでも返ってくることを期待したであろうオルカのいつもの下ネタにも何も返せず、喘ぐように口を開閉する） -- キティ - （やれやれと嘆息して日本刀を仕舞い、自分のデスクの横に掛ける）
防犯システムの作動の確認とテストができたのは重畳だけどさ。
誰にでも反応するようじゃただの狂犬じゃないか、キティ。子猫の癖に狂犬とか萌えでも狙ってんのか？
スネイルでもヘマはしなかっただろうけど、デラだったら死んでたかもしれんぞ、今のは。
突然襲い掛かってくるとかか弱い乙女は死んでしまうので今後は辞めてくださいね。怒りますよ。 -- オルカ
- ……んで……か……だ、よ……。（腹を抑えたまま途切れ途切れに言う） -- キティ
- 何でオレがモテないのかって？ 見た目がゲイくさいからじゃない？
あ、違う？ 差し詰め、何で刀を持って来たのか、か。
鳴りを潜めてた殺人鬼が今晩出たらしくてね。偶然今晩出くわしたのさ。
中々腕の立つ奴でさ、苦戦はしたんだけど殺されずには済んだ。無傷って訳にはいかなかったけど。
（見れば、腹部に血が滲んでいる）交戦中に相手が刀を落としていってさ。
無理言って銘だけは騎士団が控えて、しばらくこちらで預かることになったんだよ。曰く付きの刀らしくてさ。意外とうちの事務所は信頼されてるらしいな。
少しばかり知り合いの刀鍛冶に当たってみようかと思うけど、触るなよ、玩具じゃないんだから。 -- オルカ
- 触る……かよ、そんな不気味な、モン……っていうか、あんた、滅茶苦茶、抜いたよな、それ。
（げほ、げほと噎せながら糾弾するとオルカは二へと笑って） -- キティ
- 今から目撃者を消すって方法もあるんだけど？ 誰にも知られることがなければ犯罪じゃないらしいからねえ。 -- オルカ
- 大人って汚ぇ……。（よろよろと、ようやく立ち上がる） -- キティ
- そうさね。大人になると、平気で嘘が吐けるようになる。
それは自分を守るためであったり、大切なモノを守るためだったりする。そういうものの為なら、手を汚すことを躊躇わない者を、大人って呼ぶのさ。
アンタにとっての、スネイルやデランデルも、そうあればいいなと、最近思うよ。あたしは。（ふっ、と小さく笑いを零した） -- オルカ
- ……話が飛んだぞ、ババア、痴呆か？ 嫌だぞこの歳で介護とか。
前も言ったが、あんたは俺達を過大評価しすぎてる。あんたが望むような絆はオレたちにはないし、期待されても迷惑だ。
スネイルとは必要があったからつるんでた。あんたの言いつけでなければデランデルみたいな変態と一緒に行動はできない。
オレは。……自分一人の力で立ってられない奴が、自分だけで世界と取引出来ない奴が、好きにはなれない。 -- キティ
- そうさね。あたしは女で、アンタ達のそういう男同士のあり方っていうのが、本質的には理解出来ないんだろう。
アンタらが協調路線で行けばそれこそ今のあたしよりも凄い力を発揮できることは、親代わりの贔屓目をなしにしても確実だろうし、
そういうことを期待して、こんな半共同生活を敷いてる部分はある。誰かの能力を最大限発揮する場を作ることは、得意分野だからね。
でも、アンタや他の二人がそうやって自分の力だけでやっていくことを望んでいるんなら、それもまあ悪くないとは思えるよ。
同じ物を見るか、同じ場所から見るかの違いは、どちらかが絶対に正しいってもんじゃないことは、あたしも知ってるからね。 -- オルカ
- だから。……それが、過大評価だって言うんだ。
オレ達三人が束になっても勝てた試しがない相手に言われても腹立たしいだけだぞ、それ。
同じことを他の二人にも言ってみろよ。オレと同じことを返すはずだから。 -- キティ
- スネイルにはもう聞いたよ。
……なんて答えたと思う？ -- オルカ
（オレは眉根を寄せる。長年つるんできた相手がなんと答えるか）
（暗闇で二人、肩を寄せあって生きてきた頃は、きっとオレと同じことを答えたはずだ）
（その言外の信頼だけがオレ達を繋ぎ止めていた物だったし、それ以外は名前も要らなかった）
（でも、あいつは変わった）
（偏屈なカタツムリでありながらどこか液体のように柔軟に自分を変化させていった）
（人の中にあって、どこか皮肉げに笑いを零すあいつは、もうオレだけが知っていた頃のあいつの顔じゃない）
（オレが答え倦ねていると、オルカは目を瞑り、答えを告げてくれた） -- キティ
――俺達みたいな不良品が、良好な未来を手に入れられるなら、それはそれでアリなんじゃねースか。
……だとよ。 -- オルカ
【つづく】 --
- 【猟奇事件解明 ４】 --
- （夜給亭。ここらでは一番美味い料理を出すレストランの丸テーブルに、四人が顔を突き合わせて座っている）
（不満気に腕を組み）……依頼の前金入ったからせっかく外食連れてきてやってんのに、何で浮かない顔してんだお前ら。
他人の金で食べる食事程美味い物ないだろうに。ああ、コースで。４人分。（ウェイターに注文する） -- オルカ
- ……昼に逆立ちして鼻から素麺食ったせいで、鼻の奥からまだワサビの臭いがすんだよ……。 -- キティ
- いやあ、昨日のモツが冷蔵庫に入ってるんだけど、流石に二日経ったら鮮度落ちるなあって思って。
また仕入れないとモツパーティできないなあ……楽しみにしてたんだけど、イケメン。 -- デランデル
- 今度の女の子は上手く行くと思ったんだけど、なんであそこで全部ちゃぶ台ひっくり返しちゃうかな俺……。
本気で好きだったはずなんだけどなあ……今度こそ幸せにしてやろうと思ったのに、何で俺はああいうことしちゃうんだろうなぁ……。 -- スネイル
- ゲイだからじゃない？ どうでもいいけどそんな理由で遅れたのかアンタ。呆れるわ。
辛気臭い顔してんじゃないよ全く。こっちの飯が不味くなる。 -- オルカ
- イケメン力が足りないね、スネイルは。もっと俺を見習えよ。後輩だからって遠慮しないで欲しい（キリッ） -- デランデル
- あんまり近寄るとデランデルが伝染るので近くに寄らないでくれますかね。 -- スネイル
- つうか、仮にも昔の相棒に遠慮無く鼻から素麺食わすか？ しかもワサビで味整えやがって、死ぬかと思ったぞ。
お前敵方にやった拷問でもそこまで非人道的なのなかっただろスネイル。 -- キティ
- バカ言え、昔の相棒以外にやるか。むしろ昔の相棒だからこそだ。
俺達の間に貸し借りはなしにしようって、汚い毛布に包まれてた時に誓い合ったろ。 -- スネイル
- 割りとクソみたいな人生の中で唯一の美談めいた話ををクソみたいな価値の小咄にしないで貰えるか。 -- キティ
- その頃からホモセックスされてたんです？ -- オルカ
- してねえよババア。今も当然してるみたいな言い方辞めろクソ。 -- キティ
- ああ、料理が来た。へえ、スモークサーモンか。この切り口は刺身包丁だね。
これはコックはどういう気持で包丁を内臓に入れたと思う、ウェイターさん。魚には痛覚がないって言うけど、人間が同じことされたらかなり痛いと思ったことはない？ -- デランデル
- おい、変人が一般人に絡んで迷惑を掛けるな。そういう衝動は自分の中か変人仲間の間で処理しろ。
（フォークで突き刺して食う）流石に高い金払ってるだけあって美味いな。 -- キティ
- この所お前のクソみたいに量が多い割に味のない腹を膨らせるだけの何かばっかりだったから尚更な。 -- スネイル
- 文句あんならお前が作れよ。元々俺が昼飯代浮かすためにキッチン使い始めたのの相伴に預かってる身で偉そうに味について文句言ってんじゃねえ。
大体お前それは料理の出来る人間が言っていい文句であって料理もできないのにいっちょ前に文句だけつけんな。 -- キティ
- うるさい。（言いながら、両手で用意されたナイフとフォークをそれぞれキティとスネイルの手に刺す）
食事くらい静かに。何処でも喧嘩しないこと。マナーも守れない人間と食事したくない。 -- オルカ
- か、かか、貫通したぞ……！？ お前、調理器具が、凶器のレベルで、手のひら貫通したぞッ……！！ -- キティ
- こ、こっちは中で折れ曲がって、容易に抜けないレベルで更に大惨事にッ……！！ -- スネイル
- あ、抜いたら言いなよ、簡単に縫合出来る程度の医療器具は持ってるから。
医者もさ、見習いだとこういう機会を逃しちゃいけないと思うんだよね。 -- デランデル
- （食事を口に運びながらニィ、と笑い）デラは、将来医者にでもなるつもりかい？
医療器具揃え始めた頃にはまた変なことはじめたなと思ったけど、様になってるみたいだし。
狭き門らしいから、もし手持ちのお金に余裕があったら学校みたいなものに通ってもいいんじゃない？ -- オルカ
- それも考えてはいるよ。明日をもしれない何でも屋や、喧嘩に明け暮れる不安定な生活してるのが近くにいると、
イケメンらしく安定した道を志すべきかなと、こんな町でも思うしね。 -- デランデル
- 言ってくれる。
ただ、親代わりとしてみりゃ、そういう反面教師にしてもらえるのも、案外嬉しいもんだけどね。 -- オルカ
- オルカが親ってタマかよ。そんなに歳も離れてないだろ。 -- キティ
- おいおい、特にアンタは思いなよ。他の要領いい二人と違って住処用意してやってんだからさ。（呆れたように笑い）
良かったな。こんだけ美人で若い母親がいるとか。母子相姦物とか興味ないの？ -- オルカ
- オレがどんな異常性癖持ちでも、あんたにだけは欲情することはない。誓って言う。オルカでは特に抜きませんでした。 -- キティ
- スネイルやデランデルで抜いてるもんな。 -- オルカ
- お前本当いっぺん地獄に落ちろや。しかも食事時に。 -- キティ
- 俺は案外感謝してるけどな。こいつと違って。
いや……まあ、キティはあれだ、ツンデレだし。子猫ちゃんだけに。 -- スネイル
- ああ、ネコってそういう。やだやだそういうあざとい男。ホモ受け狙っちゃっていやらしい。（スネイルと肩をすくめ合う） -- オルカ
- （うんざりした顔で運ばれてきたメインディッシュを貪りながら）……地獄への切符は二枚セットで買っておくわ。 -- キティ
- スネイルはそういうところばっかり要領いいよな。俺達相手には皮肉ばっかり言う癖にさ。 -- デランデル
- てめーにだきゃ言われたくねーけど、処世術野郎が。肥溜めの中から掬い上げてくれたっていうのだけは感謝してやってもいいかって話してるだけだよ。
なんだかんだで、アンタんとこで世話にならない限りこうやってちゃんとナイフとフォークで食べる食事なんかに有りつけなかったし、もしかしたら今頃土の下か犬の餌だったかもしれねーしな。
……そういや、なんとなく聞きそびれてたけどさ、何で俺ら引き取ったの、姐さん。 -- スネイル
- 別に引き取った訳じゃないぞ。成り行きでそうなっただけで、お前らなんか要らんかったし。
最初にお前たちをシバきに言ったのは、市からの要請があったのが最初の理由で、実際にお前ら見たらムカついて殺してやろうとおもったのが次の理由。
本気で殴っても死ななかったので、少しは骨があるのかと思ってしごいてる途中が今さ。まあお前らは別のものしごいてるんだろうけど。 -- オルカ
- 下ネタ挟まないと呼吸が苦しくなるとかそういう疾患の人間なのか？
美談どころかまともな神経してる人間が話す内容じゃねえよ。何でオレ達を拾った？ みたいな振りにそんなセリフ返すか普通？ -- キティ
- 嘘言っても仕方ないだろ、特にアンタ達に気を使う理由がまるでない。
……でもまあ、その次の理由として、別にアンタ達と居ても悪く無いと思えたからっていうのはある。
バカなりに賑やかしくしてくれるせいで、退屈はしてないしな。（ニヒヒと笑いをこぼし、嬉しそうにぶどう酒を呷った） -- オルカ
- ………。 -- キティ
- ………。 -- デランデル
- ………。 -- スネイル
- 恥ずかしいから黙るな！！ あたしが妙なこと言ったみたいな間辞めろ！
何だその苦笑いは、期待通り美談にしてやったんだからちょっとは嬉しそうにしたらどうだよ！！ -- オルカ
- いや、なんていうか……そう思って貰えてるっていうのは、ちょっと安心したっつーか。
オルカって、普段そういうこと言わねえから、尚更ちょっと驚いたってだけだよ。 -- スネイル
- 正直、俺達養ってもらってる身分だから、出て行けって言われたら出て行かないといけないと思ってるしねえ。
その上で、医療器具とか色々面倒見てもらったり、喧嘩で捕縛されたときの引取とかしてもらったりで、結構感謝もしてたりするんだよ。 -- デランデル
- オレだけはババアがデレたのでドン引きしただけだ。（拳が顔面に炸裂した） -- キティ
- （こいつは……と呆れた顔でキティを見る）……なんだかんだで、一緒に暮らし始めてそこそこ経つからな。
俺達だけじゃなく、オルカも居心地がいいと思ってくれてるなら、それを辞める理由はねーかなって。
キティもキティで、いつまでも居心地の悪い場所に留まっているような人間じゃないことは、俺が保証するしな。 -- スネイル
- お、なんかいい感じにスネイル君がまとめに入ってくれたよ。青春の1ページみたいで宜しいのではないかな。こういうの。 -- デランデル
- こんな血生臭いもんがオレの青春かよ……。本気で殴りやがってゴリラ女が……。
ああ、まあ、邪魔だと思ったならすぐ蹴りだすだろうし、オレだって居心地悪けりゃどっか行く。そういうんでいいだろ。オレ達の関係なんて。仲良しごっこはゴメンだ。 -- キティ
- もう少し素直にならないと生きづらいだろ、キティは。（呆れたように肩を竦め）
まあ、周囲にスネイルやらデランデルやら要領のいい人間が集まる才能があるみたいだし、どうにでもなるかね。
こういう面映ゆいのはあんまり好きじゃないんだが、恥を忍んでそう言ってくれたアンタ達の為に、乾杯でもしようか。（嬉しそうにグラスにワインを注ぐ） -- オルカ
- マジかよ、今日飲んでいいのか。しかもそんな高価そうな酒を。（食いつく） -- キティ
- 思った以上に恥ずかしくて馬鹿らしいことに発展して若干後悔し始めてる。 -- スネイル
- いいんじゃない、タマには。イケメンは女性からの申し出をあんまり断らないからね。 -- デランデル
- グラスは持ったかい？
さて、何に乾杯しようかね。普通は統一するもんだけど、うちの事務所の方針だし、それぞれ自分が乾杯したいものにしていいよ。
じゃあ、デランデルから。 -- オルカ
- 俺から？ じゃあ『今日までやってきた俺ら』に。 -- デランデル
- 次キティね。 -- オルカ
- 『今日の飯』に。 -- キティ
- アンタらしいね。じゃあ、スネイル。 -- オルカ
- もうこれしかないだろ。『今日からの俺達』に。 -- スネイル
- （嬉しそうに酒盃を回し、女は笑った）……アンタたちさ、いいトリオになりそうだよ。
じゃあ最後に、『アタシの愛と、けして切れない絆』に。
カンパーイ！！ -- オルカ
- ねーよ！！！
ないから！！
ねーって！！ -- キティ＆デランデル＆スネイル
（グラスが四つ、高らかに打ち鳴らされる）
（バカみたいに騒ぎ、バカみたいに笑い、誰もが心の底で、今という日が永久に続くことを夢見ていた）
（そんな、日々の欠片の記憶が――今も、オレの胸に深く、深く突き刺さっている）
（宴は遅くまで続き、他愛ないことを語り合い、疲れ果てて酒が止まるまで、その些細な幸福は続いていた） -- キティ
【つづく】 --
- 【猟奇事件解明 ３】 --
- （鳩尾に肘が落ちてきた） -- キティ
- （もう一度詳しく言う。寝ているオレの鳩尾に、容赦の無い肘が落ちてきた）
（軽くコツンとやるとか、目覚めの悪い子供への一撃とかそういうレベルじゃない。全体重を掛けて、肘という硬い部分をぶつけてやろうという、あからさまな悪意しか感じられない攻撃がそこにあった）
（肋骨でもイカれたんじゃないかという痛みが襲ってきて、しかも呼吸の隙間を狙ってきたせいで呼吸すらままならず、地面をのたうちまわっていると頭を踏みつけられたような衝撃が走り、地面に縫い止められる）
（実際、頭を踏みつけられて、地面に縫い止められたので比喩でもなんでもない） -- キティ
質問だ、キティボーイ。
この血で汚れたソファは、一応あたしが来客を接待する為に買ったものなんだが、一体誰が汚して、誰が掃除してくれるんだ？ -- オルカ - オレが汚した物でなくとも誠心誠意新品に近くなるまで綺麗に磨かせていただきますのでどうぞ足をどけていただけませんかクソババア……呼吸が、やべえ……。 -- キティ
（オレが半ば命乞いに近い形で苦情申し上げると、やれやれと煙草を口に咥えながらオルカはオレの頭から足を下ろす）
（くすんだ茶色の長髪を安物のゴムで纏め、額の大きなキズすら隠さずに煙草を上下させながら自分のデスクへと座る）
（いくつかの書類を慣れた手つきで取り出し、オルカ何でも屋の主人、オルカ・セルフランセは大きく紫煙を吐き出した） -- キティ
喧嘩かい？ 興味ないけど。勝ったか負けたかだけ聞かせな。 -- オルカ - オレが喧嘩にしか興味ないと思ったら大間違いだからな。
デランデルに臓物ぶちまけられただけだよ。これでも拭いたんだ。 -- キティ
- 臓物？ （書類から顔を上げ、全身を見て嘆息し） ああ、食う方か。
てっきり人の臓物に手出しはじめたのかと思った。何かに興味持ってくれるのは事務所の長としては嬉しいけど、まさか内臓とか。
女の内側にしか興味が無い変態にならんようにしとかないと。ああ、でも外側に興味あるあんたらも、最終的に興味は中身に映るか？ -- オルカ
- うっるせえ、ちょっと考えないと分からないディープな下ネタ言ってんじゃねえぞクソババア。
ああ、あと、今日スネイル遅れるらしい。伝言頼まれた。 -- キティ
- 手淫のしすぎ？ -- オルカ
- ストレートな下ネタ言えって言ってんじゃねえよッ！！
ヤボ用があるとかなんとか。ああ、やばい、血が取れない。固まってる。 -- キティ
- シャワー浴びてきな。
ああ、別に童貞食おうってわけじゃないぞ。大事に取っておけ。その辺のホモに高く売れそうなとき声かけるわ。 -- オルカ
- 死ねばいい。（死ねばいい）
……最近、こんな早い時間から出てたのか。まだ六時前だろ。（ソファを拭き終えたので立ち上がる） -- キティ
- スネイルじゃないけど、ヤボ用でね。九時から依頼のヒアリングがある。
その間、男を三人も飼ってると思われると説明がややこしくなるから三人でどっか行ってきな。ハッテン場とか。
多分、しばらくはその依頼につきっきりになるからあんたらに構ってる暇とかなくなるから、まあ適当に寝泊まりしていきな。メシ代くらいは持ってんだろ。 -- オルカ
- （血で汚れたタオルを流し台で洗いながら）……それって、もしかして殺人鬼関係の話か。 -- キティ
- （おや、と片方の眉毛を上げて楽しそうに笑い）一番世事に疎いと思ってたアンタが、カマかけてくるようになったか。
良くわかったね。その通りだよ。官警や騎士団だけじゃ対処出来ないし、いつまでも捕まらない捜査に何人も割くわけにもいかないらしくてね。
段々と人員が減る中、一昨日の事件だろ？ 民間にも協力を要請してきたってわけさ。
長崎剣友会やエイナス育英会にも声が掛かってるらしいから、もしかしたらああいう裏の顔と協調路線で行くかもしれんね。 -- オルカ
- ……殺人鬼。
（昨日の記憶がフラッシュバックする。少しだけ視線が泳いだ） -- キティ
- 心配しなさんな。今までの被害者も特に共通点はなく、接点もない。怨恨でなく快楽犯であるのは確定してる。
そんな信念のない狂人に、信念のある人間が、特にあたしがどうこうされるとは思わんよ。
まあか弱い乙女だし、可愛いしで、夜道で襲われたりしたら怖くて逆に殺してしまうかもしれんけど。 -- オルカ
- お前みたいなか弱い乙女がいるか。可愛い乙女っていうのは素手でスイカ握りつぶしたりしないんだよ。
最初からオルカの心配なんてしてないし、ただ、なんか……そういうのってうちで解決するようなことなのか。 -- キティ
- （紫煙を吐き出して笑い）……ま、目減りしない戦力っていうのは何処でも重宝されるもんさ。
感謝すべきは今までの功績でそれなりに腕が立つことを評価されてることさね。
長ドス一本持てば大抵の人間に勝てると思われてることで仕事と金が入ってくるなら、まだ看板は下ろせんよ。
いい加減あたしから一本取って、クソ面倒くさい指導のまね事みたいなの辞めさせてくれないかとは思ってるけどな。（デスクに頬杖を突いてニシシと笑う） -- オルカ
- てめえ覚えてろ、今月中には木刀で顔面ぶち抜いて婚活すら出来ない行かず後家作ってやるからな。 -- キティ
- 口だけは達者ですね。期待しないで待ってます。かしこ。
（新聞を片手で捲り）……やっぱり、足取り掴めんらしいな、殺人鬼。一昨昨日から鳴りを潜めてるからな。
無理もない、加えて一昨日は雨が降ってたから、痕跡も何もあったもんじゃないしな。これは怠慢とかじゃなくてノーカンですわ。 -- オルカ
（その言葉に、耳を疑う）
（オルカの身体を押しのけ、新聞を横から覗き込むようにして眺めると、そこには確かに殺人鬼の足取りが掴めない記事が載っていた）
（昨日の死体は、まだ発見されていないということなのか、新聞の発行のタイミングの問題なのかは分からない）&br（オルカの横で情報屋に端末で通信を取り、殺人鬼の情報を引き出す）
（やはり、昨日の殺人のことについては、何も情報がなかった）
（情報の最先端たる情報屋ですらその事実をつかんでいないということは、この世にそんな事実はなかったということと同義だ）
（……じゃあ。オレが、昨日見た物は何だったんだ？）
（あの血の匂いと感触は、確かに本物だったはずだ。あの生々しい全てが、オレの思い違いということはないはずだ） -- キティ
臭いんですけど。
（不満そうに鼻を摘んで言う） -- オルカ - あ、ああ、悪い。シャワー浴びてくるんだった。（血の塊まみれの身体を見下ろして言う） -- キティ
- 童貞臭いんですけど。 -- オルカ
- それはシャワーじゃどうにもなんねーよッ！！ -- キティ
- 処女臭いんですけど。 -- オルカ
- それは今後もどうにもなんねーよッ！！ -- キティ
- ……果たしてそうかな。 -- オルカ
- うるせえ！ 一人で腐れてろババア！
（中指を立ててその下ネタ製造機から離れ、事務所備付けの風呂へと駆けこむ）
（この事務所が殺人鬼事件に絡んでくるという事実は、何故かオレの心に黒い燻りをもたらしていった）
（全てが杞憂であることを願いながら、オレは熱いシャワーを浴びた） -- キティ
（書類を捲りながら、煙草の火を灰皿で消す）
（シャワーを浴びる水音が、防音設備のない事務所の中に一定のリズムとして聞こえてきている）
人の血の匂い、か。
（事実の確認をするように女は呟き、静かに書類をまとめた） -- オルカ - 【つづく】 --
- 【猟奇事件解明 ２】 --
- （夜の静謐。かつてストリートチルドレンだった自分にはそれは馴染み深い物のはずだった）
（暗闇の中では物音が消える。物音が消えるから誰も動かない。夜間に襲いかかるのは素人のやり方だ。本当に相手を害したいなら、人混みの中がいい）
（僅かな風に木々がざわめき、名前も知らない虫の声が僅かだが耳に届く）
（周囲には街灯が一つ。時折頼りなげに瞬きながら、オレの両手を照らす） -- キティ
- （赤い。血の赤。真っ赤に染まっている。乾いてすらいない。鼻先に近づけると鉄臭い匂いがした）
（オレはその場にしゃがみ込んでいる。膝や脛を遠慮無く濡らす血の赤。自分が流した物ではない）
（血の線が出来ている。それを辿ると、人が横たわっている。いや、正確に言うなら『人であったものが横たわっている）
（大小いくつものパーツに分けられた人の部品が、投げ散らかされたゴミのようにそこかしこに散乱していた）
（息が荒くなる。人が死んでいる。この町では珍しいことではない。誰もの命が等しく失われる町だ）
（でも、こうやって人の死を目の当たりにしたことも、それがバラバラに惨殺された死体であったことも、久しぶりだったので）
（オレは、喉から引きつった声を出して、後ずさる） -- キティ
- （カランと何かの音がした。地面に転がる棒状の何かが後ずさった手に当たって転がった音だ）
（オレはそれに手を伸ばし、恐慌状態のままそれを街灯の下に翳す）
（それは、人の臓物で赤く光り輝く刀だった。反り返ったその凶器に、言い訳のしようがない殺戮の跡を見つけ）
あ、あああああああああああっっっ！！！
（オレはその刃をその場に放り投げて、夜の闇の中を逃げ出した）
（街灯のない道を選び、震えて何度もつんのめる足でオルカの事務所への道を走った） -- キティ
- （事務所のドアを叩きつけるように開けると、丁度外に出ようとした誰かとぶつかって、思い切り何かがぶっかけられる）
（目に痛いそれを拭うと、それが何かの血であることに気づき、思い切り悲鳴を上げそうになった）
（次いでドサドサと地面に落ちた何かの向こう側で、ドン臭く尻からこけた白衣の少年が、オレと同じように全身を返り血に染めていた） -- キティ
痛いだろう、君。なんでそんなに急いで帰ってくるんだよ。
今日はもう戻らないと思ってスネイルと二人分しか用意してなかったのに、モツ。
まあそれも、今ぶつかったことで一人分のさもしいパーティになってしまったけど。イケメンでもこれはリカバリ不可能だわ。 -- デランデル - ひでえ有り様だな。３秒ルールも適応されないくらい全身に浴びやがって。
下ごしらえに二時間も掛かったのにダメになったのは一瞬だな。
どうした？ モツが天パに効くとかそういう情報でも得たのか？ キティ。 -- スネイル
- っせーよ黙ってろクソチンピラ。ゲイみたいな顔しやがって（中指を立て）
……なんか、気分悪ぃモン見た。もう寝る。モツパーティはお前らで勝手にやってろ。 -- キティ
- （肩を竦めて笑い）おい聞いたか、モツパーティやるにしても子猫ちゃんに許可取らなきゃいけない法律が出来たそうだぜ、デラ。
残念ながらその民間療法も外れみてーじゃん、天パもバカもクズも治ってねーし。お気に入りの毛布がなくても寝れるかプッシーキャット？ -- スネイル
- どうでもいいことないけど片付け手伝おうよ、スネイル。なんで俺だけ片付けてんのさ。
水も滴るイイ男であるのは認めるけど、血が滴っても俺ってイケメン？ 大丈夫？ 天パ伝染ってない？ -- デランデル
- お、おい、お前、目が鼻より上に移動してるぞ……。 -- スネイル
- それは、いつも通りイケメンってことでいい？ いいよね。
って、オーイ！ キティ、君その血だらけの服でそのままソファ使うなよ、明日オルカ姉に怒られたら犯人として絶対売り渡すよ俺！！
拭く物くらい持ってくる優しさは、イケメンにはあるからちょっと待ってろよ！（階段を降りていく） -- デランデル
- （トントントンとデランデルが降りていくのを見送ってから、ソファに横になるザックの方へ歩き）
どうした、相棒。爽やかキャラで売りだそうと思ったら一歩目でキャラ崩壊でもしたみたいな青い顔してんぞ。
噂の殺人鬼でも見たか？（へらっと笑い、手に持っていた飲み物のパックを投げる） -- スネイル
- （飲み物のパックは受け取らずに地面に落ちた。眠って全てを忘れようとしていたところを起こされて苛立たしげに）
……なんだよ、殺人鬼って。（横目でスネイルの顔を伺いながら尋ねる） -- キティ
- マジで見たのか？ そりゃすげえ。サイン貰っとけば良かったのに。
夜中にいきなり刃物で切りつけて来るんだと。それも殺すつもりで。
数日前までは死亡者がいなかったから切り裂き魔ってことで「切り裂きジャック」とか呼ばれてたけど、一昨日死亡者が出て通称が「殺人鬼」になった。
っていうかさ、新聞とかそういう物読んだり、情報屋とかに知り合いいないの？ キティ。 -- スネイル
- ……「切り裂きジャック」……「ジャック・ザ・リッパー」？
（胡散臭そうに顔を上げ、嫌そうに頭を掻く。幾分心臓の鼓動は治まってきた） -- キティ
- 安直だよな。ラーメン屋の店主がインタビュー雑誌で腕組んでる並に安直だ。どんだけネタねえのかと突っ込みたいわ。
でもまあ、怨恨殺人とか強盗とかは山ほどあっても、こういう猟奇性のある事件って滅多にねーから雑誌とかで祭り上げて取り上げたい気分も分からんことはない。
被害者には悪ぃけど、一種のエンターテイメントみてーなもんだな、これ。（言いながら雑誌を投げる） -- スネイル
- （頭を掻きながら投げられた雑誌を胡座をかいて見る。そこには下品な色で彩られた見出しでジャックザリッパーの再来と文字が踊っている）
（犯行には刀が使われ、関節に添って丁寧に断ち切られていた、とある）
（さっき自分が見た光景がフラッシュバックしてきて、軽く吐き気を催す） -- キティ
- ……お前、顔真っ青だぞ。
まさかとは思うけど、マジで見たんじゃねーだろうな、殺人鬼。
辞めろよ、追いかけてきてこの事務所の場所バレてたら巻き添え食うじゃねーか。 -- スネイル
- スネイル。
お前オレが冗談言えないの知ってるよな。
その上で、今オレがマジでどういう事態に陥ってるのか相談しようと思うんだが、
……オルカのクソババアにだけは言わないことを誓えるか。 -- キティ
- うわぁ……嫌な切り出し方……。
正直言えば面倒事はゴメンと行きたいんだが、なんだ、一応聞くだけは聞かせろ。気になる。
それと、オルカに俺が何か言うと思ってるならそれは俺を甘く見過ぎか過保護に見られすぎだろ。
あれはあれ、俺は俺だ。いつだってな。 -- スネイル
……オレがその殺人鬼だったらどうする。 -- キティ - 出来の悪いホラー話かよッ！！ ねーよテメーが殺人鬼とか！！
何年付き合ってると思ってんだ！！ 馬鹿かお前全国の殺人鬼に謝れ！！ -- スネイル
- 冗談じゃないって言ってんだろこのクソゲイ豚骨野郎ッ！！ 殺人鬼だって初対面のオレに謝られたら戸惑うわッ！！
いきなり、記憶が飛んで……目の前に、死んだ奴がいて。……刀が、あった。
明日のニュースに、なるかもな……マジで、死んだやつを見た。男だった。 -- キティ
- そっか、怖いな。オチは？ -- スネイル
- 雑に扱ってんじゃねえッ！！
……明日になりゃはっきりする。全力疾走して疲れた。
色々面倒なことになりそうで、頭痛ぇ……。記憶が飛ぶとか初めてだぞ。 -- キティ
- "不幸な事故"、ってやつだな。
まあ、どういう経緯があったにしろ、明日になりゃはっきりすんなら、今日は寝とけよ。
取り越し苦労だと思うけどな、なんか違うモンでも見たんじゃねーのか。犬の死体とか。 -- スネイル
- お前明日ニュースになってたら逆立ちして鼻から素麺食いながらオレに謝れよ。
オレと、オレにした仕打ちと、オレが目撃した死体への経緯で、三重に謝る意味で三束食え。 -- キティ
- んじゃニュースになってなかったら逆にお前が食えよ。喧嘩売りっぱなしっていうのは俺らの間にはないだろ。
仮に、もしお前が殺人鬼だとしたら、俺が止めるさ。舐めんな。何年お前の後ろで尻拭いしたと思ってんだ。 -- スネイル
- （がちゃりとドアを開け、戻ってくる）
スネイル、尻大好きだもんな。そういう話してた？
ごめん、俺邪魔だよな。イケメン四時間半程留守にしようか？ -- デランデル
- してねーよ。顔面粉々にするぞイケメン。 -- スネイル
- おいおい、イケメンの顔面が粉々になって化粧水にでもするつもりか。イケメニウム配合でランキングトップに踊り出ちゃうじゃない。
ほい、タオル。柔軟剤使ってないやつをわざわざ選んできた。（投げる） -- デランデル
- なんでお前オレに対してそういう細かい嫌がらせすんだよ。 -- キティ
- 半分はモツの恨み、もう半分は日ごろの恨みってところかな。
君さ、俺が楽しみに取っておいた冷蔵庫の中のアイス食べたよな？ 子猫がつまみ食いか？ -- デランデル
- は？ 知らねーよ。冷蔵庫に入ってるもんが誰のかなんて気にもしたことないわ。 -- キティ
- んじゃ、俺も帰るわ。オルカに明日の朝ちょっと遅れるって伝えといて。
野暮用済ませてから事務所来るから、十時頃になる。んじゃな。いい夢見ろよ子猫とイケメン。 -- スネイル
- ……このクソ不自然なタイミング、確実にアイス食った犯人の逃亡の瞬間だと思うぞ、オレ。 -- キティ
- えっ、マジで。あいつ？ ていうか一人分のモツ残ってるのに帰るって超不自然じゃね？
ちょっと尋問してくる、場合によっては内科手術を伴った拷問に発展する可能性もあるよイケメン！ んじゃね、ゆっくり寝た方がいい、顔色悪いよキティ。（白衣の余った袖を振って帰っていく） -- デランデル
（騒がしい連中がいなくなり、嘆息してソファに横になる）
（一笑に付して冗談に昇華してくれたスネイルには悪いが、どうにも手に残った血の感触が気持ちが悪い）
（台所の水道さんの蛇口を捻り、タオルを濡らして体をふき、服を洗濯槽に突っ込んでから、ソファで横になる）
（疲れと眠気が入り混じり、やがてそれほど時間が経たない内に、オレは静かに眠りの中に落ちていった） -- キティ - 【つづく】 --
- 【猟奇事件解明】 --
- ――夢を見た。
オレが、オレ達が、便利屋という看板を掲げてなんでも屋なんてものを営む数年前の話だ。
まだその頃のオレは世の中の条理も知らない底抜けのバカで、傍らにはデランデルと『あいつ』がいて。
――何より、オレの側には『彼女』がいた。 -- ザック
- オルカ・セルフランセ。
底抜けに強い、底抜けに明るい、俺達三人の親代わりの女。
咥え煙草にハンチング帽を被り、長ドスを振り回すその様は、まだ餓鬼だったオレには戦神のように見えていて。
オレは良くその真似をしては、二度と真似をしたくない程に叩きのめされていたのを思い出す。
思い返してみれば、自分の腕力や耐久力はその時に培われた物であり、
そういう意味では、尚更あの傍若無人で乱暴な女に感謝すべきなのかもしれないと、そう思った。 -- ザック
- オレは孤児だった。
今でさえエイナス育英会という存在の下、この町にも孤児院なんていう洒落た施設がそれなりの効果を以って出来上がっているが、
当時のこの町はほぼ無法地帯で、孤児といえばほぼイコールでストリートチルドレンという意味だった。
強い者が奪い、弱い者が奪われるという最低限のルールが既に敷かれている路地裏で、オレと『あいつ』は共に少年時代を過ごした。
当時から喧嘩早かったオレと『あいつ』はその路地裏の頂点へと上りつめつつあった。
裏社会でありながら、本当の裏社会とは一線を画すその場所でトップへと上り詰めることの意味を、オレも『あいつ』もまだ分かっていなかったんだ。
出る杭は打たれる。子どもの世界でのトップは、大人の世界のボトムと繋がっている。
あのまま、路地裏の王として君臨していれば、そう遠くない未来オレ達は長崎剣友会をはじめとした裏社会に『処理』されていただろう。 -- ザック
――そんな時、オルカは現れた。
そして、終わった。
一瞬で、オレ達が作り上げた少年の牙城は崩され、地面にボロ布のような少年が二人、縦に積まれた。
完敗だった。勝負にもならなかった。オレは骨を十二本折られ、『あいつ』は十一本折られた。
この世に本物のバケモノが存在しているということを、思い知らされた。
気がつくとオレ達は事務所のソファに寝かされていた。
体中が痛み、包帯で乱暴にグルグル巻にされ、額には丁寧に肉と書かれており、その上で両手には手錠がされていた。
微塵も動けるわけがない。その様子を見て、事務所のデスクに足を載せたオルカという女は嫌らしい笑みを浮かべ、こう言ったんだ。 -- ザック
「ようこそ。 ――オルカの何でも屋へ」 -- オルカ
後から知る。このオルカという女は、市からの斡旋を受けて、ストリートチルドレンの更生を請け負った何でも屋であったという。
あの女の襲撃でオレ達ストリートチルドレンの組織はその全てが崩壊し、その頂点に君臨していたオレと『あいつ』はオルカの下で保護観察という処分が下された。
それからの一年は、地獄だった。
スパルタなんて物じゃない。少しでも反論したら拳が飛んできた。少しでも反抗すれば膝が叩き込まれた。
何もしてなくても下ネタが飛んできた。オレと『あいつ』はあの女は下ネタから生まれてきたと陰口を叩いていた。バレて事務所の２Ｆから投げられた。
そうやって鍛えられたオレ達は徐々に喧嘩ではない、本当の戦闘力を身につけていった。
その頃、同じようにオレ達のようにオルカの下に一人の少年がやってきた。ようやく後輩ができたと胸をなでおろしたが、こいつの要領の良さは半端がなかった。
オレと『あいつ』はそのデランデルというくすんだ金髪の少年に槍玉に上げられ、二人しかいなかったときよりも更に厳しい責め苦に苛まれることになった。 -- ザック - 彼女は名前のないオレのことを、『キティ』と読んだ。
必死で文字を学び、子猫という意味だったのを知ったとき、オレは彼女に殴りかかった。
もちろん返り討ちにあって、骨を四カ所も折られ、デランデルはそれを面白がって今でもオレのことを子猫ちゃんと呼ぶ。
それも、あの時代を忘れないようにするあいつなりの贖罪であるのではないかと思うと、そう強く拒絶することは出来なかった。
オルカ曰く、「分別なく他人に攻撃をしてまわる様はただの子猫みたいに見えたから」だという。死ねばいい。本気で。
裏社会で『あいつ』と二人で生きてきた頃は、『お前』と『オレ』という言葉さえあればそれ以外の人間は有象無象であり、
意味を持たないゴミだと思っていたが、その時オレがキティと名付けられたように、『あいつ』にも名前が付けられることになった。
オレが先述の語源でキティと呼ばれたように、あいつはオレを上回る厭世観で物事を受け流すその様から、
何者にも傷つけられないという皮肉を込めて――『スネイル』と。
そう、呼ばれることになった。 -- ザック
- 『オルカ』という年上のクソったれた女。
『キティ』というクソ忌々しい名前。
『スネイル』というかつてのクソ相棒。
『デランデル』という年下のクソ餓鬼。
それが。
当時のオレの世界の全てだった。 -- ザック
- それは、事務所に『便利屋』という看板が掲げられる、かなり前の話だ。
オレが過去に置き去りにしようとし、デランデルが闇医者を始める理由になり、スネイルという相棒を失う原因となり。
オルカが死を迎えた、猟奇殺人事件の――陰鬱で、陰惨で、何の救いもない。
――この世に良く似た、腐った臭いのする、夢の話だ。 -- ザック
- 【つづく】 --
- 【――――】
- 薄汚れた半地下のバー。路地裏の一角に佇むその店の利用者は、そう多くない
少なくとも、今見える人影はたったの3つだ
1つはマスター。もう二つはスーツの男
スーツの男の片方は、黒髪の優男
もう片方は、顔に包帯を巻いた金髪の怪人
どちらも親しげには見えない、殺意を纏っているようにすら見える
しかし、……それでも殺し合いという雰囲気ではない
そうして付き合うのが当たり前とでもいうような、社交辞令のような殺意
少なくとも、黒髪の男の方から漂う殺意は……そういった諦念の殺意のみだ --
- 金髪の男は奇妙な嘲笑を漏らしてグラスを傾ける
出る言葉はやはり嘲弄だ。この男はいつもそうしている
少なくとも、この男が黒髪の男に対してする事は常にそれだけだ
それも慣れているようで、黒髪の男は何も語らない。黙って言葉を聞きいれて、グラスを傾ける
いつもの事だ --
- 金髪の男は尋ねる。嘲り交じりに
黒髪の男は答える。諦観に塗れて
金髪の男はまた嗤う。鳥の囀りにも似た不快な嗤い声
黒髪の男を見てただ冷たい嘲笑を漏らし続ける
ソレこそがこの男には相応しいと、言外に語る --
- 話は終わりだとばかりに立ち上がる金髪の男
それを珍しく黒髪の男が呼び止めて、小さなリングケースをカウンターに滑らせる
冗談めかしてまた金髪の男が冷やかしながらケースを開ければ……
そこに収まっていたのは、小さなビー玉大の奇妙な珠
手短に黒髪の男は説明する
即座に金髪の男は理解を示し、懐から取り出した札束を放り投げる --
- 礼も言わずに受け取って、一枚だけ札を抜き出してカウンターにおけば……黒髪の男もまた立ち上がる
互いに用件は済んだ。此処にいる理由はない
足早にその場を去ろうとする黒髪の男に、金髪の男はまた悪意で持って声をかける。陰湿に。舐めるように
対して、黒髪の男は振り返りもせず、心底退屈そうに静かに答える
それこそ、いつものように。何も変わる事なく
ただただ、無機質に。淡々と --
- 黒髪の男の返答に満足したように、金髪の男は歪に口角を吊り上げて懐からダガーを抜き
一切の躊躇無く――自らの喉笛を貫く
黒いカーペットを赤い血でしとどに濡らし、崩れ落ちる金髪の男を見て……黒髪の男とマスターは一度だけ、小さく嗤った --
- 【つづく】 --
- --
- --
- 【逃がし屋 無々】 --
- 世の中には無い方がマシというものがある。 --
- それは赤字だ。 --
- 『０Ｇならまだしも、それがマイナスであるならばそもそも０のままでよかったのではなかったのかと思う』 -- ランディ
- 『当然金を稼ごうとする者の目論見があの場では見事全て丸っと失敗したのだから、８０００Ｇもない』
『加えて言えば機関砲の弾とガソリンで赤字だ』
『ザックはそもそも前金をもらっていたし、シズに至っては別の仕事…あのお嬢様を始末する依頼を見事成功させた』
『つまり今回、１Ｇも稼いでいないのは俺だけであり。一番の赤字も俺なのだ』 --
- 『ゴタゴタに関して言えば、裏社会どころか政治的な意味合いと私情が混ざり合った話なのでまぁ納得はしよう』
『教訓があるとすれば、楽して儲けるなんて都合のよいことはできぬということだ』
『そして俺はそれらが祟って今、０Ｇ。すなわちタダで護衛を引き受けている ハメになった』 -- ランディ
（本当に、なんでこんなことになったやらな…）
（オセイロの息のかかった孤児院で子供たちに登られ、しがみつかれ、振り回しつつ肩車の形で乗せている護衛対象を思う） -- ランディ - 『今回色々あったが、娘を思う父親と、デランデルの意向やらピュアテイル家に不都合が起きて欲しい勢力３者の思惑があった』
『付け加えるなら前２つは見事一致し、後者はシズもあって見事成功した』
『政治的手段としては古く、女性は政略結婚という役目を背負う。悪く言えば道具だが…誤解を招かずに言えば違う』
『それは結婚する男子にも該当する。古くから結婚はいわば家と家との契約なのだ。同じ社会階級同士の者がよりその社会的基盤を維持するために』
『家を盤石なものにし、継続していくためのものだ。故に結婚当日までお互い顔を知らぬことも多いのだがこの街は毛色が違い』
『自由恋愛の風潮が強くなってきたため…まて、顔を引っ張るな』 --
『とにかく、ピュアテイル家の政略結婚という政治的手段の１つが今回消えたわけだ』
『そう、１つがである』 --
『今回見事逃げ遂せたのが姉のほう、つまり妹のほうはまだ存命なわけだ。俺の頭の上で』
『政治的手段としての利用価値があるものがまだ１つ残っているからこそ、あのピュアテイルの家長は姉を逃がした。』
『妹はご覧の通りまだ幼いわけだが既に縁談の話もでているあたり、余計なことを考える前に放り出す腹積もりが透けてみる』
『素晴らしい政治力である、なら金を寄越せと言いたいところだが今回の依頼はその家長ではなくこの本人だから仕方がない』
『仕方がなくはないのだが』
『話を戻せばちょうど俺が事務所で１人仕事を探していると彼女が１人で訪問したことから始まる』
『曰く。まんまと姉を死なせた我々に責任があるらしい』
『無論あの床で寝る姉はのうのうと生き延びているんだが、彼女には知らされておらず』
『逃がすなら逃がし、連れてくるなら連れてくることもできなかった三流の便利屋に責任があるとか』
『もちろんそんな謂れはないのだが、いや金を稼げていないのだからしょうがないのだがとにかく本人に事情を全て話すわけにもいかないので反論しようもなかった』
『そして姉も死んだ後、自分も狙われていると主張。次は自分だと言ってきたわけだが』 -- ランディ
（というかなんでうちに来るんだよ、他にも金に釣られたアホはいくらでもいるだろうと聞いたが）
（断るなら他の人とかご近所さんを呼ぶぞ、と言う）
（すごいな、床で寝る女と大違いだ。この年齢で女と子供ということを武器にしている。ピュアテイル家は安泰じゃないかこの先）
（しかも責任問題がどうもでタダでなんだもんだから、正直もうなんかもう考えるのも嫌な話なんだが）
（だが、一旦外に出れば明らかに堅気とは言い難い気配は確かに感じる。）
（正体はわからないのだが…まぁそんなこんなでいつもいる孤児院に連れて来たわけだ。一番安全と言えるからな、ここ）
（しかしここからまさか、あんな面倒なことに巻き込まれるとは思わなかった…）
（女、加えて子供の場合より面倒なことになるとは、後に残すべき教訓であると俺は伝えたい、過去の俺に） -- ランディ - 【つづく】 --
- 【逃がし屋 碌】 --
- 全部、全部、うまくいくはずだった --
- なのにどうしてだろう、どうしてこうなったんだろう
世間知らずのお嬢様は無事逃げて、世間知らずのお嬢様になるはずの私が、どうして今こうなっているんだろう --
- もう声も出ない。呼吸もできない。喉を一突き。それで終わり
フルスモークの頑丈な四角い車……今考えれば、どうしてこんな奴隷を押し込めるような車にお嬢様がエスコートされるのだろうと、疑問に思うべきだった --
- でも、全部、全部……もう遅い。もう手遅れ
自分の血に溺れる私を見て、その人は嗤う
どうして、と声も出せずに喘ぐ私に、その人は嗤って答える
とても、とても哀しそうに --
- 「君こそ、どうして、バレないなんて思ったんだい？ どうして助かるなんて思ったんだい？ そんなのムシが良すぎるだろう？ 碌でもないこの世界には似合わない結末だろう？」 --
- 「ピュアテイルの旦那様はね、全部全部お見通しだったんだよ。娘が外の世界に生きたい事も。そのために何やら外で気に入らない即興劇が始まりそうなことも。だから土壇場で強硬手段にでた。娘の願いをかなえる為に全てを利用する事にした」 --
- 「今の君は名もないそこらの貧民じゃない。今の君はシェリオ・ピュアテイル。そのシェリオ・ピュアテイルは今此処で死ぬ。するとどうなるか？ 外に今生きている本物のお嬢様はどうなるか？ そう、本物のお嬢様の名前は消えてなくなるわけだ。名も柵も全て捨て去った、一人の女が出来上がるわけだ……きっと幸せになるだろうさ……旦那様のエージェントが四六時中監視して事前に不幸を排除し続けてくれるのだからね。きっときっと一生幸せさ」 --
- 「良く言うだろ昔から？ 可愛い子には旅させろってさ。君はその旅費代わりというわけだ。君の命の価値はその程度ってわけだ」 --
- 「いっただろ？ 涙を流す夜は今日で終わりだって。出口はすぐそこだって。よかったな、一度は人様に迷惑かけてまで散らそうとした命が今、人様の役に立って散れるんだ。感無量だろ？」 --
- 聞こえなかった。その声は聞こえないけどしっかり聞こえた
それでも、聞こえない
だってそれは、聞いた傍から忘れてしまいそうな声だったから
だってそれは
まるで自分に言い聞かせるような……声だったから --
- 誰に言うでもない、自分の為にいうような言葉
そこで、私はふと気付く
ああ、きっとこの人も、私と同じなんだろうと
名前も……意味も……何もない人なんだろうと --
- フードの向こうには何も見えない
見えるのは伽藍洞の暗がりだけ
闇が私に、囁くだけ --
- 闇は静かに淡々と、私が『死ぬ理由』を教えてくれた
ちっぽけでも、私の死に意味があることを教えてくれた
空っぽの嘲笑で私を見送るその闇は、それでも……私が瞳を閉じるまで……ずっと手を離さなかった --
- 【つづく】 --
- 【逃がし屋 後】 --
- （デランデル診療所。夜間営業は行っていないその闇医院に4000の金貨が詰まった袋を片手に、ドアを叩く）
（ドアはすぐに開き、全てを分かっているといった顔の闇医者が顔を出し、応接間へと案内された）
（一日中逃げまわり、果てはシズとすらやりあうことになった日中のせいで、身体がジクジクと痛む）
（闇医者が湯気の立つコーヒーをビーカーで二杯入れてくると、片方を受取り、口をつけてテーブルに置いた） -- ザック
- （無言で、前金である4,000Gをテーブルの上に置いた）
（これは、受け取るべき金ではない。オレは、オレの思惑を失敗したのだから）
（嘆息し、頭を抱えると闇医者は小さく笑い、応接間の奥の扉を開いた） -- ザック
- ………。
（オレは、絶句をする。想像だにしなかった人物がそこにいた）
（――シェリオ・ピュアテイル。オレ達が昼間助けようとし、あるいは殺そうとした渦中の人物）
（ピュアテイルの屋敷に戻っていなければおかしい人物が、小さな笑みを浮かべてこちらを見てきていた） -- ザック
- 君にとって、それは、正当な労働報酬だ。
だから、その4,000Gは返す必要はないよ、子猫ちゃん。 -- デランデル
（その言葉で――心の中に引っかかっていたいくつもの事象が、次々とつながっていくのを感じた）
（オレは立ち上がり、コーヒーの載ったテーブルを蹴り飛ばし、コーヒーカップを踏み潰しながらデランデル。――この一件の黒幕に詰め寄る）
（襟首を掴んで持ち上げると、細い体は宙に浮き上がり、オレより低い背の闇医者と真っ向から目が遭う） -- ザック - 怖いな。君と敵対する人間は、いつもこんな恐怖を感じているのか。
青斑核からノルアドレナリンがドバドバ出てる感覚がある。なんとかこの状況から逃げ出せないか、冷静に考えてる自分もそこにいるな。
君が俺を殴りたいのは分かる。
でも、それが確定した未来であっても、俺の話を全部聞いてからでもいいんじゃないか？
その方が、きっとスカっとするだろうからさ。 -- デランデル
- （今にも、襟首を掴んだ反対の手で目の前の優男の顔面をへこましてやりたい衝動を必死で抑えながら）
（オレは、無言で先を促す。闇医者は、小さく肩を竦める） -- ザック
――時系列を古い順に、改めて事実を交えて整理をしよう。
今日の朝、君に話した事実は、一部が真実であるが、一部は完全なる虚構、フェイクだったんだ。
怖い顔するなよ。俺は、そうする必要があった。目的を達成するには、それが最善の手であると思ったから実行したんだ。
ストーリーテラーが目指す最善の結末って何だと思う。そんなもの知るかって顔してるね。
それは、『ある一側面からの幸福な結末』だと思うんだ。それは、感情移入出来る側と言ってもいい。
その対象が主人公であるか、はたまたダークヒーローであるのかは読み手の解釈に拠るものだけど、語り手や紡ぎ手は予めそれを定めて他人に物語を見せるべきだと思ってる。
それはある意味で読み手には関係のない傲慢にも見えるだろうけれど、語り手側が面白いと思えない物を読み手が面白いだなんて思ってくれないだろう。
だから今回俺は、彼女を……シェリオ・ピュアテイルと、名前のない少女に主観を与えたのさ。 -- デランデル
始まりは一昨日の爆発事故だ。あれは、実はシェリオ嬢とは何ら関係のない事故だったのさ。
一部報道がそう伝えていたかもしれないけれど、あの爆発を起こしたのは世を儚んだ名前もない少女だった。
この街ではさ、人権のない階級の人間なんかそこかしこにいるよね。だからこそ闇医者なんてものが儲けを出せるんだけど。
その彼女は、最後に華々しい死を選ぼうとしたのさ。だから爆発、ニュースでもやってたろ、重傷が一人出たって。
それは実はシェリオ嬢じゃなく、その名前のない女の子の方だったんだよね。 -- デランデル
別件で、本物のシェリオ嬢の方にもツテが出来ていた。本物の方の彼女も、政略結婚が嫌で家出してきたんだよね。
それが彼女っていうわけ。彼女かなりの胆力でさ、あの家を出るためなら自分の顔すら変えてしまってもいいって覚悟で俺のところに来たんだ。凄いよね。
俺も整形手術初めてじゃないから、準備のために半日程使ってたんだけど、そしたら急患で名前のない少女が運ばれてきて先にそっちを処置することになったんだ。
なんでも、賠償請求するために死なせる訳にはいかないんだって爆発した店の被害者が治療を頼んできたんだよ。怖いよね、マジで。
で、まあ治療を施してたんだけど、特に顔面の損傷が酷くてさ。まあ余裕で治せる範囲だったんだけど、なんかダレてきちゃって。
だってそうだろう、死にたいと思って死のうとした少女を治療するとか、俺が闇医者だろうがそんな徒労に付き合う義理なんてないよな。
俺は別に金に不自由してないし、金さえもらえればなんでもやるなんて信条もない。なんか黒い物が渦巻いてさ。
だったら……この女の子の命を、本当の意味で救ってやってもいいんじゃないかって、そう思ったんだ。その方が……話として面白そうだったから。 -- デランデル - ……だから、その女の方を顔を……シェリオ嬢に変えたのか。 -- ザック
- そうだよ。君が連れ回した彼女は、シェリオ嬢本人ではなく、あの爆発事故で顔を失った誰かだったんだ。
顔を治療してすぐに彼女にこの計画のことを話したら、もうそれはそれは喜んで協力してくれることになってね。
まあ、安易な方法だけど、爆発事故のせいで記憶を失ったことにして、後はシェリオ嬢本人から記憶の教授をしてもらった。
後は君が連れ回して、適度に抵抗して、ピュアテイルの屋敷へと帰ることになれば、誰もが幸せになれる。
唯一、君達便利屋だけが騙される形になったけれど、それも、君達のスタンスが金子にこだわるスタンスにあるなら、
今回の取引はそう悪いものじゃなかったんじゃないかって、俺は思ってる。 -- デランデル
- ……元々、そいつは左利きだったんだろうな。
川から引っ張り上げるとき、左手を出そうとして咄嗟に引っ込めてたのを思い出した。
川に落ちたのも顔面の変化による視野角の変化に対応しきれてなかったってことか？
……お前。なんで、依頼をするときにそれをオレに説明しなかった。 -- ザック
- 説明したところで、それを君は飲んだかな。……物事を単純化した方が、君は好みだと思って。
イケメンなりの配慮だったんだが、結果的に騙されたと思ったなら仕方ない。顔以外なら殴られよう。 -- デランデル
- （喉の奥から怒りがこみ上げてきて、地面に向かって叫ぶ）
じゃあ……あいつが語った未来とか、外の世界でやりたいこととか、全部、全部お前が仕込んだ嘘だったっていうのか！！
オレは、そんな虚飾の願いのために、他人まで巻き込んでその背中を押そうとしてたのか！！ お前は、オレを何だと思ってるんだよ！！ -- ザック
それがわからないだろうから。
俺は、彼女を君に託したんだ。……分かんないか、ザック。 -- デランデル
（いつもの軽薄な口調をやめ、デランデルは真っ直ぐ真顔でオレの顔を見下ろしてきていた）
（オレの指が闇医者の服を離し、デランデルは地面に着地すると、その瞳を少しだけ伏せ、付け加えた） -- ザック - 彼女の境遇は。
昔の君に似ていたから。……あまりにも似すぎていたから。
だから、君が彼女に掛ける言葉が、廻り回って君へと戻ってくることを期待したんだ。ザック・ザリップス。
いや……名前のない、誰か。 いつまでもそんな過去を引きずってるから。 ……いつまでも俺の医療の世話になってる。そうだろう。
自罰も大概にしておかないと、君は、本当に失い難い何かまで、簡単に犠牲にしてしまう。
それは、『彼女』にとっても本意ではないはずだ。 -- デランデル
- お前に……お前に何が分かるッ！！
お前だって、捨てられないから、こんな場所で闇医者を続けてるんだろうが！！
それを自罰だの何だの、他人に指摘出来る立場か、デランデルッ！！ -- ザック
- ………。
そうだな。
この件は、お互い様で。多分俺のお前への感情は、同族嫌悪だ。
俺は普段はイケメンだが、ことお前に関してはどうしてもそれが先に付き纏うらしいな。
悪いな。余計な節介を焼いたのなら、素直に謝ろう。 -- デランデル
- ……オレは。お前がその姿をオレ達の前に表すたびに、責められてる気分になるんだ。
ランディや、シズにも言っていない、オレのクソったれた過去を唯一知る人間が、オレを責めに来たように見えて。
彼女が停滞を選んだのが、オレが停滞を選んだのと同じだから、彼女に引き合わせただと？
ふざけろよ、闇医者。
オレは……あの女に説教くれてやったんだぞ。
ザックなんて呼ばれて、このクソみたいな肥溜めで明日の食べ物を這いずりまわって探す負け犬が。
したり顔で……偉そうに。（片手で顔を覆った） -- ザック
- それだけ前に進んだんだと、何故思わないんだ、ザック。
過去に拘泥する限り、自分は前に進めないとでも思ってるのか？
少なくとも、お前はあの時のお前より先に進んだから、お前の周りに人が集まり、それは組織になって、同じような境遇の誰かの道を正そうと出来た。
それが成長でないなら、俺たちが重ねてきたこの年月は何なんだ。 -- デランデル
- ………。
デランデル。オレこそ聞きたい。
あの時から、オレ達は何が変われたんだ。 -- ザック
- 質問に質問で返す子猫ちゃんに、イケメンが答えてやろう。
俺は少なくとも、死んだ人間はどうやっても生き返らないことを、他人の身体を弄ってみて理解出来たよ。
些細だが、それは進歩だと胸を張って言える。生き返らないから、治すことを学べた。
君はどうだい、子猫ちゃん。……まだ、人を殺すのが大好きな子猫のままか？ -- デランデル
- その呼び方、そろそろ辞めねえとマジで顔面陥没させて裏側をイケメンにするぞ。
……オレは。……争い事が、嫌いだ。それが返事になるか。 -- ザック
- それが進歩なら、俺達は随分と出来のわるい生徒みたいだな。まあ顔の出来はパーフェクトだけど、約一名。
ザック。
君は、何も選べなかったからあそこに居るんじゃなく、あそこを選んだからあの場所に留まってると、そろそろ思っていいと俺は思うよ。
自分を責めるのは辞めろ。人は生き返らないし、全ての人間を救うことは不可能だ。
……悪いね、シェリオ嬢。そろそろ時間だ、行こうか。
診療所、最後鍵閉めて出て行ってくれ、ザック。鍵はいつもの鉢植えの下で。 -- デランデル
- ええ、エスコート、よろしくお願い致します、デランデル様。
ザック様も、ご協力ありがとうございました。お陰で、私は自由になれます。 -- シェリオ
- （デランデルに連れられ、出て行くシェリオの腕をうなだれたまま掴む）
……なあ、シェリオさん。
この細腕で、外の世界で、どうやって生きていくつもりだ。
（それは先日、シェリオを名乗っていた名前のない少女に向けて尋ねた言葉だ）
（オレが顔をあげると、シェリオはにこりと笑った） -- ザック
頑張ります。
（何の迷いもなく、"本物"はそう笑顔で告げた） -- シェリオ
（オレは手を離した。正確に言えば、それ以上、その細腕を掴んでいることが出来なかった）
（力なくうなだれ、顔を手で覆い、ひきつったような笑いをこぼし、デランデルに連れて出て行くシェリオ嬢を見送った）
勝てる、わけ、ねえだろうが、ッ……！！ そんなもん……！！
（その言葉は、誰もいない診療所の中に、木霊することもなく静かに消えていった） -- ザック - 【つづく】 --
- 【逃がし屋 死】 --
- （立ち上がると、壁素手で洋菓子のように毟り取る）
（シズに向けてそれを全力で投擲すると、シェリオに向けて小声で叫ぶ）
（遮蔽物の影に隠れて、死んでも出てくるな、狙撃手が潜んでる、確実に殺されるぞ、と） -- ザック
- （極端な低姿勢で潜り込むように避け、身入りと同時に掠めるようにザックの足首を狙う）
（不自然な程に音がしない。普段のように事務所でジグソーパズルをいじって愚痴をたれている男ではない。そこにいるのは……『瞬き』の異名を持つ始末屋）
（巧みに長ドスの間合いの内に入り、眼にも止まらぬ連撃をザックに見舞う。ザックが大きく避ければ即座に背後のシェリオを仕留められる位置取りで、執拗に）
（息が切れる事はない。最小限の動きで柔らかく振るわれるダガーは蝶の様にヒラヒラと舞うのみ。しかし、一撃でもまともに入ればそれは確実に急所を貫く。それがフードの男にはできる）
（そして、柔らかく……珍しくハーフマスクをつけていない酷く優しい笑顔で、シェリオに語りかける）
（シェリオお嬢様、あなたは騙されています、と） -- シズ
（こうなったら俺がやることなんて楽なものである。というかあんな２人とやり合うのもごめんだ）
（つまり、こういうことだ。二人にそれぞれメールを送る）
『いくら出す？』 -- ランディ - （本物の殺意を相手にして、長ドスが不気味な輝きを増す。闇の中、刃の触れ合う不快な金属音が響く）
（野生の勘を頼りに一切の無駄のない刃の連撃を長い刀身で受け止めるが、手数に圧倒されジリジリと押されていく）
（途中、胸の携帯が震えたが、取る暇などあるわけねえだろどこの誰だよっぽど性格の歪んだクソみたいなクソが送ってきてるんだろうなと思いながら歯ぎしりする） -- ザック
- えっ……！？ えっ……！？（唐突にシズに名前を呼ばれ、その意味に困惑し、頭の上を沢山の？が浮かぶ）
（こンの詐欺師野郎ッ！！ と怒りに任せてザックが大声で叫びながら、駒の如き回転の一撃がシェリオのいる位置の真上すら巻き込んで、横薙ぎの斬撃を放つ）
（シェリオの頭の上後ろのビルがわずかに横にズレて、引きつったような笑顔と共に、何を信じればいいのかわからない恐慌状態になる） -- シェリオ
- （両手にダガー持ってる俺が携帯とれるわけねーだろ殺すぞと脳裏でブチキレながらも、顔には億尾にも出さず、横薙ぎに合わせて大きく後方にとんで、若干高い位置にある出窓の屋根に腰掛けて続ける）
（その男は暴力団やマフィアと繋がりの深い男です。外に出たアナタをどうすることも簡単であるといっていたでしょう。外に出たら即座にアナタを人身売買の組織に売る腹積もりなのですよ。さ、すぐにこちらへ。一緒に逃げましょう。夜の帳の向こうまで、とかなんとか歯の浮くような科白もさらっといってのける）
（ザックとランディからすれば別人としか思えないような非常に優しい声……例えるなら、聖人君子をフリーズドライしてビニール袋につめたような声だ）
（黒髪の隙間から見える顔が今は妙に優男にみえる。普段は薬中同然のクマの浮いた面をしているというのに） -- シズ
＜＜プップー！＞＞
（場違いで、かつ聞きなれた車のクラクションの音が路地裏に響く）
（路地裏から見える大通りには、キャリアに布が被せられた事務所の車が一台、そして運転席には見慣れた男）
「いくら出す？」 -- ランディ - （ああ、やりづれえ、だからこいつら敵に回すの嫌なんだ、味方に回しても嫌なことには変わりないが）
（肩で息をしながら右手のドスを握り締める）
好き勝手言いやがってあのクソ覆面野郎……普段ちっとも喋らねえくせにこういうときだけベラベラ……。
しかも割りと間違ってない部分交ぜてきてやがるのが最高に腹立つ……。
うっるせえクソ眼鏡置き場ちょっと黙ってろ！！ 2,000！！（ランディの方を見ずに左手で２を示す） -- ザック
- （怒鳴り声と喧騒と刃のぶつかり合う音、最終的にクラクションの音まで交ぜられてその度に新鮮に驚く）
あ、あああ、なんでこんなことに……外の世界に出たいとおもったばっかりに……。
だ、誰が味方なんです……！？ 誰が忘れずにわたしの分まで晩ご飯買って来てくれる人なんです……！？ （混乱中） -- シェリオ
- （ふふふ、お嬢様、こんなときまでご飯の心配をするなんて可愛いですね）
（ざんねんながら今すぐには準備できませんが、夜食程度でよければ準備しますよ）
（けれど、今は早く帰ることを考えましょうね）
（ろくでもない政略結婚についても、心配することはありません）
（３日もすれば話はなくなりますよ）
（千年の恋も醒める様な事を帰ったら相手にいってやればいいんです）
（だいじょうぶ、私がついています）
（ザックにだけ見える位置に器用に青筋を浮かべながら、どうせどっかから声を拾っているランディにも聞こえるようにいう）
（言いながらもザックと激しく切り結びあうが、未だにお互い決定打はない。あたりまえだ、どっちも相手の手を知り尽くしている）
（心中はイライラで一杯だ） -- シズ
- 日向屋の山菜おにぎりおいしいなぁ
おーっと3000きたぞーそれ以上ないかーないと決まるぞー？
＜＜プップッププー＞＞ -- ランディ
- お前絶対いい死に方出来ないことをオレが保証してやるよこの覆面野郎……！
………3010…！ -- ザック
- （死んでも守りぬきます）
（ぬけ出しましょう、こんな柵から）
（かんたんな事です、さぁ私と一緒にいきましょう）
（四六時中ひっつくなんて無粋なこともしませんよ）
（千歳飴あげますから、ほらはやく） -- シズ
- お前がなんでそんなに出せるか分からん……お前の胴元どこだよ……！！
よ……4,005……。（血を吐く思い） -- ザック
- （言葉だけでは信頼できないかもしれませんね）
（うそばかり言われて育ってきたと思いますから）
（かなしい思いも一杯したでしょう)
（あの世界に生きる苦しみは私にも多少は分かります）
（ほかの世界に生きている私ではありますが、昔色々ありましたから）
（即断できないのはわかりますが、時間がありません）
（決めましょう、そろそろ）
（なみだを流す夜は今日までにしましょう）
（らくな選択が最上ということもあるんです）
（四方を囲まれる前に私といきましょう）
（千里の道も一歩からです、さぁ一緒に踏み出しましょう）
（五里霧中で逃げ回るのは無茶です）
（百人程度の囲いなら脱出できます）
（まぁ安心してください）
（でかい面してる荒事屋には負けません）
（出口はすぐそこで）
（す） -- シズ
- こっちの金銭的苦しみと同じような苦しみを味わってんぞあいつ。 -- ザック
- 決まり？（後ろの荷台のカバーを剥がしにかかる） -- ランディ
- あの……！！ 眼鏡の方……！！
もし、誰にも味方せず、わたしたちを見逃していただけるのであれば、わたしからも、追加で8,000まで出せます……！ -- シェリオ
- えっ。 -- ザック
- は？ -- シズ
- よし！乗れ！さよならシズ！達者でな！（もう荷台のカバー剥がして照準をシズに向けている。フルサイズピックアップの荷台に積まれた連装対空機関砲の照準が） -- ランディ
- （おま！？ ふざけんなこの糞メガネお前ぶっこ……ろぉおおおお！？）
（後半はマシンガンの掃射による死の舞踏により遮られ、致命的なほどに距離が開く）
（しまったと思ったときにはもう遅い） -- シズ
- （立ち上がり）ま、待ってください。
も、もう、いい、です。その……皆さんはお仲間なのでしょう。
それが、こうやって争われるような状況になるなら……それは、わたしだけの問題ではなくなります。
だから……もう、わたしは。 -- シェリオ
- ……ちょっと待て。なんか在り来りな展開途中悪いけど。
お前……ランディ、クラクションなんか鳴らすから、状況として囲まれてるんじゃないのか、これ。
（気づけば、かなりの密度で三人を包囲する黒服の姿がそこかしこの影から見えている） -- ザック
- （いえ、仲間ではないです。出来る事なら天パは燃やしたいし眼鏡は割りたい）
（きっぱり言い切る） -- シズ
- そう、最初から金の問題だが。
囲まれてる？おいおい、だからこれを持ってきたんだが…？（キコキコ手回しで砲身を回転させていきながら答える）
どうするんだ、戦争ぐらいできるぞ -- ランディ
- だとよ。
オレら汚い外の世界の人間だからな。金さえ貰えればこいつら皆殺しにしてでも外に逃がすことくらいは……あー、多分、出来るが。
どうするよ。本当に、誰の犠牲も気にせず、後に残る者も全てなくしてでも、その先に進みたいか。
過去も、その前も、全部なくなったものと思って、失った記憶と一緒に、全部ここに置いて、逃げ出せるか？
（傍らにしゃがみ込むシェリオに尋ねる） -- ザック
- 私は……。私、は……。 -- シェリオ
- ……自分で決めろ。甘えるなよ。
そうするって、決めたんだろう。
ランディが引き金を引く前に。シズがダガーを投げる前に。オレがドスを拾う前に。
何かが起こって。――それが取り返しがつかないことになる前にな。（煙草に火を付けて、嘆息した） -- ザック
- 【つづく】 --
- 【逃がし屋 ３】 --
- （ずぶ濡れのまま、何が起こったかわからない表情できょとんと座り込んでいる） -- シェリオ
- ……普通、いい年した人間が、川に落ちるか？ しかも尻から。
（タバコを上下させながら、シェリオを見下ろす） -- ザック
- えっ……？ でも今、えっと。（何かを言い訳しようとして、飛ぶ鳥に目を奪われていた事に気づき、ぐぬぬ、と顔を歪める）
そうですね。ザックさんから見れば、わたしは危なっかしい箱入り令嬢ですよ。 -- シェリオ
- 何だ、諧謔も使えるのか、令嬢。そのくらい使えないと外の世界じゃ生きられないもんな。
（意地悪く言いながら手を差し伸べると、シェリオ嬢は頬を膨らませたまま立ち上がり、水を含んだ服の重さでよろけた）
（差し伸べた手を意地で振り払うことや、逃走をしているとは全く思えない目立つボーダーの服が何より彼女が外の世界で容易には生きられないことの証拠になっていることを、彼女は気づけない）
（オレは嘆息すると、煙草に火を付けて退屈な仕事に華を添える） -- ザック
- 随分と、女性の気持ちを考えてはいただけないのですね、ザックさん。お仕事中ですのに、堂々と喫煙されますし。
さっきだってわたしが昼食のプリンであんなに酷いことになってたのに助けてくれませんでしたし。 -- シェリオ
- 順番が逆だろ。指摘するなら。まず依頼者であること、それから女性であることの順だ。
そして円滑な仕事のために必要な休憩時間とでも思っていただければ幸いですが、シェリオお嬢様。近くに敵の姿やプリンの容器はないのでご安心を。 -- ザック
- もう、いじわるですっ。
（ぎゅう、とスカートの裾を絞り、川の水を落としてから陸へと上がろうとするが、滑って上手くいかない）
ですが……依頼を受けていただいたことは、感謝します。一時的にとはいえ、こうして護衛をしていただけているのも。 -- シェリオ
- （紫煙を吐くと、火をつけたばかりの煙草の火を消し、シガーケースに戻してからシェリオに無言で手を差し伸べる）
（しっかりと礼が言えた褒美だと理解したのか、今度は拒否せずに左手を出そうとして、こっちが右手を出している事に気づき、右手を握った）
だから、あんまり信用しすぎるなよ。町の外に出たら、オレみたいな人間には特に近づかないことを勧める。 -- ザック
- あら……では、町の外に出たらダッシュでザックさんから逃げたほうがいいのですか？
（くすりと笑って言葉を返してくる） -- シェリオ
- 逃げられるもんなら逃げてみろ。片足折れてても追いつけるわ。
（しばらく他愛ない会話で服が乾くのを待ち、ようやく不自然でないくらいに乾いた頃に、小さく疑問を投げる）
なあ。そんなにイヤか、政略結婚。 -- ザック
- 嫌……だったんだと、思います。あまり、思い出せませんが、それでも生理的な嫌悪は残っています。
多分ですが……引き金になったのは政略結婚ですが、それをはじめとして、これから先、ずっと誰かに敷かれたレールの上を、唯々諾々と進んでいくことが、耐えられなかったのでしょう。
今、その頃の記憶がないわたしでもそう思うのですから、きっと、屋敷を飛び出したときは本当に心から嫌だったんだと、思います。 -- シェリオ
- （キャロルから488Gで買った情報を思い出す。シェリオ=ピュアテイル。ピュアテイル家長女。下に妹が一人）
（この街西方の大きな湖の近くに屋敷を構える、貴族の家の二人娘の姉の方）
（この度政略結婚で東方の貴族の家に嫁ぐことになっていたが、結果はこの有り様である）
（嫌いな食べ物は特になし。疲労に弱く、床で寝る癖がある。利き手は右）
（普段はデータグラスを着けているが聞くところによると今はレンズを入れているらしい。同様に、西方訛りが抜け切れないところがあるが、こちらも上手く隠しているとのこと）
（誰から見ても、オレから見ても、喉から手が出る程欲しい、安定した生活の上に胡座をかいておける立場と生い立ちだ）
（羨ましすぎて、嫉妬すら起こる程に）……そんなに、自由が欲しいか？ 安全ていう、誰もが欲しがる物と引き換えにしてでも。 -- ザック
- ザックさんは……自由だから、そう言えるのです。
同様に、これはわたしが安全の中にいたから言えることだというのも、自覚しています。仰るとおり、危機感が足りないことは分かっていますから。
でも……本当に自分がやりたいことを、試してもみずに諦めるなんて……そんなの、やってダメより、もっと惨めじゃないですか。 -- シェリオ
- やってみてダメだったときは、惨めじゃないが救いもないぞ。誰もが自分の願う人間になれるわけじゃない。
夢や希望なんてものは、人を都合よく動かすための点火剤みたいなもんなんだ。それでどれだけ推力を保てるかは、その人間次第なんだ。
今が苦しいから、その苦しみから逃げた先は今よりマシだなんて思ってたら、もっと酷い苦しみのために永遠に逃げ続けないといけなくなるぞ。 -- ザック
- 分かっています。
でも、それでもわたしは、わたしが選んだ道の上で、その更なる苦しみを受けたいんです。
こちらの気持ちなら分かるでしょう。最初から決められた配役で、決められたことだけを成すためにいるなんて……そんなの、人間じゃないですよ。 -- シェリオ
- ……誰もが、そういう妥協の上で生きてる。オレだって、他の連中だってそうだ。
ただ。自分がそうだからって他人にもそうあれなんて、オレは思わない。これ以上言うと、お嬢さんに対するやっかみになるな。
分かったよ。好きなだけ苦しめ。……さしあたって外に出て何をしたいんだ、あんた？ -- ザック
- そうですね。
恋とかしてみたいです。 -- シェリオ
- フハハハハハハハハッ！！（ノータイムで爆笑） -- ザック
- 何故笑います！？ いじわる！！ いじわるいじわる！！ （脛を重点的に蹴る） -- シェリオ
- いって！ いってえから！！ 一応両方とも三ヶ月以内に一回ずつ折れてっから！！（飛び退く）
いやあ、夢見る少女もここまで来るとすごいなって思っただけだよ。恋とか。恋ってお前。 -- ザック
- いけませんか！？ 恋に恋しちゃいけませんか！？ ご安心を！！ ザックさんはタイプの対局にいらっしゃいますから！！
（ぷりぷり怒って先に進んでいく） -- シェリオ
- あー、そうかい。残念だ。すげー残念だわ。（棒読み）
まあ、それも好きにしろって話だよ。器量もそれほど悪いわけじゃないから、高望みしなけりゃアホな男の一人くらい掴まえて、人並みの幸せくらい手に入れられるだろ。
そういう平凡な幸福くらいは手に入ることを祈っててやるよ。タダだし。 -- ザック
- （振り返り、赤い頬で）えっ……器量が悪くないですか……（ﾄｩﾝｸ…） -- シェリオ
- ……前言撤回する。アホな男に掴まらないように気をつけて慎重に生きろ。
（と、前方を歩くシェリオに向けてダッシュをし、その軽い身体を片手で抱え、路地裏へ滑り込む） -- ザック
- （急な浮遊感に驚き）えっ！？ えっ！？ 悪い男に捕まりました！！ -- シェリオ
- いいからちょっと黙ってろ、舌噛む。後でスーパーカップクッキーアンドクリーム買ってやるから。
やばいな、流石に町の境付近は人探してる風の人間がウロウロしてるな。
自然に外に出ればどうにかなるかと思ったが、そう甘い話でもないらしい。 -- ザック
- カロリー高いから結構です。（小声で反論）
……すみません、ザックさん。ご迷惑を。 -- シェリオ
- イヤなことに、こういうの慣れててな。吐きそうになったら言えよ。
（言いながら、片手と両足を使って器用に家屋の壁を伝って上に行く）
（屋根の上に出ると、そこには複数人の黒服の男がいる）……ゲェッ！！ -- ザック
- ど、どうしまし、きゃあ！？（急に走りだしたザックに引っ張られるように、加速がついて悲鳴が置いて行かれる） -- シェリオ
- う、おっ！やっべ、苦手分野だ、数が多すぎる。あんなやつら１VS１なら吹っ飛ばせるが、どんだけいるんだよお前んとこの従業員！！
っていうか、仲間呼んでやがる！！ （屋根から飛び降り、路地裏を縫うようにして逃げまわる）
（しばらく走った後、肩で息をしながら汗を拭う）……生きた心地がしねえ。ようやく撒いたか。 -- ザック
- かなり、町の境からは離れてしまいました、ね……。 -- シェリオ
- 最初から、一筋縄で行く依頼とは思ってなかったからな……許容範囲だ。
一人ずつ潰していけば、よっぽどな奴が出てこない限り、いけるだろう……。 -- ザック
- （直後。微かに風が揺れるのを感じる）
（小さな小さな風鳴音。それが聞こえたと思った次の瞬間）
（黒塗りのナイフがザックへと投擲される） --
- （それは、本能としか言い様がない。偶然であり、奇跡だった。神速で飛来するナイフを、身体を捻って辛うじて避ける）
（そのほぼ無音の攻撃術。ためらいのない害意。背筋に嫌な汗が落ちる程に、見に覚えがありすぎた）
（避け、シェリオを地面に落とした姿勢のまま、闇の向こうへと目を凝らす） -- ザック
- （闇の向こうから、刹那の間すら縮めて更に黒塗りのナイフ……暗殺用の光を反射しないダガー……ダークが続けて投擲される）
（全て寸分違わず、狙いはザックの足と……シェリオの足）
（機動力を殺ぐのが目的だ） --
- （今度は視認より先に経験が生きた。恐らく、"奴"ならこうするだろうという確信に似た感情により）
（シェリオの足に向けて投擲されたダークを、長ドスの鞘で受け、自身の足に突き刺さるダークは急所をずらした）
（肉を突き破る感触に、食いしばった歯の端から苦悶の声が漏れるが、それ以上に心の内に湧いて出た意味の分からない怒りに声が漏れる）
よっぽどな奴が、出てきやがったな……こンの野郎……ッ！！ -- ザック
- （自分に向けられた悪意の濃さに、歯の根が合わないようにガチガチと音を鳴らしている） -- シェリオ
- （そしてその寸時の小競り合いが足止めとなったのか路地裏にチンピラが3人、たどり着いた）
おいおいおい！見つけたぜ！これで2000Gずつ山分けだ！
（銃、ナイフ、棍棒と手にそれぞれの得物を持ったいかにもな連中が目ざとくザックとシェリオを見つける）
しかも手負いだ！とっととそいつを寄越し
（此の中で亜高速の豆粒が飛来する音を３度聞けたものがいるのならば、何が起こったかすぐに理解できるだろう）
（路地裏にいるだろう５、６人のうちまず１人が頭から血を吹き出し、続いて１人２人と床にただ倒れた）
（チンピラは３人すぐさま死んだ。その３つの点を結んだ先にはシェリオの頭があったのだが、運がよかったのは果たして誰であろうか）
（狙撃である。消音機付きの、隠密状態からの三度の連続した狙撃行動…） --
- （闇が揺らめいた。そう僅かに陰が揺れたと感覚器官が知覚すれば）
（ほぼ同時にそれは大振りのダガーを振り下ろしてきた。両手に握った2本のソレを躊躇いなくザックの頚動脈と、急所を庇って前にだすであろう手首の動脈を狙っている）
（フードの隙間から見える瞳に、ふざけた様子は全くない） -- シズ
- （躊躇いなく長ドスを抜くと闇から現れた暗殺者の頸動脈への一撃を防ぎ）
（何者かの射撃によって宙に投げ出されたチンピラのナイフを蹴りあげることでもう１本のダガーを逸らす）
……てめえシズッ！！
（不自然な体勢で押されるがままに長ドスで防いだダガーによって押し切られ、膝を折るような姿勢になる）
（漆黒の瞳と暗翠の瞳がぶつかり、互いの殺意を確認してから、反対の手でその身体を掴み上げ、路地の先へと投擲する）
しかも……ランディ……あの糞メガネも来てんのか……ッ！！
（背後で血の華を咲かせるチンピラたちの死体を横目で見ながら歯噛みする） -- ザック
- （気づいたな…まったくこれだから芸のないヤツは困る。三射あれば必ず殺せてたのだが）
（あの様子だと対面にいるのは…） -- ランディ
- （受けられた反動を利用し、ザックの追撃が入る前にバックステップで後退する。まるで重力が消えたかのように柔らかく、羽虫は舞い降りるように着地する）
（咆哮には答えず、シェリオを一瞥する） -- シズ
- （シズがダガーを、ランディが銃を、それぞれ手にすることの意味は、重々承知していた）
（だからこそ、滅多なことでは抜かない長ドスを抜いて、怒りの形相でシズに、遠方にいるランディに向き合う）
……覚悟は出来てるか、なんて問わねえぞ。
――さあ、殺し合いだ。 -- ザック
- （くすりとも笑わず、ただ静かにダガーを構える。それだけで十二分であるとばかりに） -- シズ
さて、となるとどう動くかだな（ライフルを担ぎ、場所を変える。得物の護衛がこちらまで来ることも多々ある故のであるが。あんなのと向かい合いなんて一番避けるべきだ）
（特に今回はまた何をするかわからない。だが変わらないものもある。それは）
一番楽な方法で稼がせてもらうさ、悪いなザック、シズ -- ランディ
- 【逃がし屋 ２】 --
- やあ、子猫ちゃん、ようこそイケメンの園へ。座って座って、焼けてるから。
おっとイケメン、子猫ちゃんの顔に疑問を発・見・伝。こういう察しのいいところがイケメンたる所以なんだよな。
大きく分けたら疑問は三つかな。それぞれについて答えようじゃないかイケメンらしくさっ。
まず一つ目の疑問、何故もうモツ焼きパーティが始まっているの？ という疑問にはこう答えよう、君が遅いからだよ。皆待ちくたびれちゃったから先に始めようってなったわけ。
そして二つ目の疑問、サシで食べにいくんじゃなかったのかという点には、俺がイケメンであるから、という答えを返すべきかなって思う。
俺みたいなイケメンがさ、君みたいな野獣的な男とのみ食事に行くなんてことは、世界に対する損失、女性に対する蔑視に繋がると思うんだよ。
だから、今回のモツ焼きパーティはゲストを呼んでみましたー、ヒュ〜！ -- デランデル
- （瞳だけ真剣な物となり、薄く笑いながらトングを片手に足を組み替える）
で、三つ目の疑問なんだけど。
そのゲストが、今町を騒がせてる失踪令嬢ことシェリオ=ピュアテイル嬢であることについては、順を追って話してもいいかな、ザック・ザリップス君。
そしてシェリオ嬢、これが今回「君を町の外に逃がす」手伝いをしてくれるであろう、ザック君だ。ボーイミーツガール。仲良くしてくれよ？ -- デランデル
- （少しだけ怯えたような表情で、良く焼けたモツを前に頭を下げる） -- シェリオ
- 説明するって意思を見せなかったらブチ切れてた自信がある。 -- ザック
- やだなー野蛮ー。そんなんだから君はイケメンじゃないんだよ。イケメンってのはさ、心なんだよ、そして外見なんだよ。
オーケー落ち着いて、まずモツを食べよう。捌きたてだから新鮮だぜ？ -- デランデル
- これ、牛か？ -- ザック
- ん？
まあ、食べながらイケメンが事情について説明するよ。彼女がなんで俺のところにいるのかとかも含めて、仕事の話もね。
彼女、シェリオ嬢なんだけど、ゴシップ記事とかでは色々書かれてるの知ってるよね、いくら君でも活字くらい読むだろうし。
でさあ、真相は彼女、家出したんだよね。ピュアテイルの政略結婚が嫌で。
笑っちゃうよな。政略結婚だってよ。黄金歴何年だよって話だ。イケメンは自由恋愛と愛・地球博を応援しています。 -- デランデル
- で、逃げた先がサードストリートでさ。運悪くそこで爆発事故が起こった。こっちも流石に知ってるよね？
結果、彼女はちょっとばかり不味い怪我を負ってしまったと。で、身分証明をするわけにもいかないから正規の病院をたらい回しにされた結果、最終的にうちに流れ着いた。
いやあ、大変だったよ、重傷患者でさ。血が足りないの。イケメンじゃなかったら絶対死んでた自信あるね。
なので俺と彼女の関係は、医者と患者、君との関係と同じだね☆ -- デランデル
- さて、そこで一つ困った事が起こった。彼女さ、その時に精神的なショックか俺でも発見できない外傷のせいか、記憶の一部が飛んじゃってさ。
日常生活には支障がない感じなんだけど、シェリオ嬢としてのパーソナリティと記憶がごそっと消えてしまったみたいなんだよね。
目が覚めた時、彼女何も覚えてなくてさ。ただ、町の外に出ないといけないっていう危機感があったらしくて、俺に相談してきた。
で、イケメンじゃどうしようもないから、ここは便利な便利屋に登場願おうかと、そういった話なんだよ、今回。あ、それ焼けてるよ。 -- デランデル
- （箸でモツを持ち上げて裏返して見ながら）………。
まあ、事情は分かった。分かったが納得出来ないことがいくつかある。
まず一つ、本家の「逃がし屋」に頼めばいい案件だろう、オレ達に振る理由ってなんだ。 -- ザック
- 本家の逃がし屋は先にピュアテイルのお家が抑えてたよ。あっちも商売だからな。目の前に6,000Gが転がって来たらカミサマでも拾うさ。
だから、今回はそれより大きいお金と、俺からの厚い信頼で動いて貰おうと思う。即金で8,000用意した。
もちろんこれは、シェリオ嬢の手持ちと、俺の気持ちを合わせた金額だから、完全なる俺の慈善事業ってわけでもないから安心しなよ。 -- デランデル
- 完全ではないけど慈善事業であるっていうのは認めるんだな、闇医者。だったら二つ目の質問だ。
どうして彼女に肩入れする。俺と同じ医者と患者の関係なら、それこそ肩入れする理由なんてない。 -- ザック
- 女の子には優しくしろって教わらなかった？ イケメン小学校じゃ理科社会より先に教わるぞ。
それはイケメンジョークとしても、回答はそんなに納得させてやれるものでもないかな。単にそうしたほうがいいんじゃないかと俺が思うから。
俺とか彼女とか君みたいにさ、富めない者持たない者が、富んだ持つ者に一方的に略取されるのってさ、話としてツマラナイじゃない。
俺はさ、医者である以前に、面白い話を作れる人間でありたいんだよ。その目的の為に自分の立ち位置を医者としている節もあるくらい、ストーリーテラーシンドロームなのさ。
だから、そんな強い奴がそのまま勝つなんて話を認めたくない。意地みたいなもんだね。 -- デランデル
- ……分からなくもないが、それで8,000をぽんと出せるお前の経済事情が腹立つ。
三つ目だ。記憶を失っているんだろう。そんな人間を町の外に逃したところで、どうにかなるもんなのか。
そこから先、なんのツテもないこの細腕の貴族令嬢が、逞しく生きていけるとはオレには思えないが。 -- ザック
- 普段大雑把なくせに、変に律儀なところあるな、君は。最後まで面倒見切れないから捨て犬を拾えない不良に見えるよ。
その点は、彼女次第だから俺の関与するところじゃないって思ってる。冷たい話だけどね。
結局その問題を拡大解釈するなら、彼女が一人で生きていけるようになるまでずっと面倒見てやらないといけなくなる。
そこまで他人に入れ込む事が出来るなら、それはもう愛情と等価だ。そしてイケメンの愛情は等しく全ての女性に注がれないといけない。これが定めであり、カルマだ……。 -- デランデル
- そうか。カルマを喉に詰まらせて死ね。うっすい愛情だなイケメンの愛。 -- ザック
- あの……。
（ザックの袖を引き）……わたしなら、大丈夫、です。……父の目の届かないところにさえ、行けたら……。後は、自分で、なんとか、しますから。 -- シェリオ
- 無理だ。（にべもなく言う）
その細腕でなんとかなる程世の中は優しくない。今までどういう世界で生きてたかは知らんが、アンタには無理だ。
男と、この狭い空間で２対１になって、何の危機感も抱かず、ただぼんやりと話を聞いているなんていうのは、狼の檻に皿を持って入っているのと同じだっていうのをわかっちゃいない。
今ここでオレ達に乱暴されたとして、誰か助けてくれるアテでもあるのか？ 踏み込んでくる正義を、心の何処かで期待しているだろ。
（敢えて、強く言い放つ。こんな形で使うことは本意ではないが、愛想のない髭面が効果をもたらしてくれることを願いながら、シェリオ嬢を睨む） -- ザック
- （やれやれ、といった顔で肩を竦める） -- デランデル
- お、犯される覚悟くらいは……出来ています！（怒りか恐怖かに打ち震えながら、必死に訴える） -- シェリオ
- （モツが変なところに入ってムセる）げっほ、げほ！！ ははははは！！ いや、そこ覚悟いらないから！！ -- デランデル
- （威嚇の出鼻を挫かれて、顔を押さえる）……ああ、いるわ、こういう人種……。できるだけ関わるまいと思ったのに。 -- ザック
- でもさあ、子猫ちゃん。きっとこういう子の方がたくましく生きていけるんだと思うのさ。
俺や君みたいに世の中に疎まれるんじゃなく、愛されて行くみたいなさあ。ねえ、シェリオくん。 -- デランデル
- ……わたしでも、それが褒められていないことくらいはわかりますけど？ -- シェリオ
- じゃあさあ、前金で4,000だけ受け取ってよ。それで、町の外まで連れて行く。
その間に、君なりにこの子が外で生きていけるのか、外に出すべきなのかを考えて、そこで判断してくれればいい。
前金は返せなんて言わないし、そこで彼女を裏切って家に引き渡せば合計で10,000も手に入る。中々いい取引だろう？ -- デランデル
- オレはな……自分が過剰に得をする取引も嫌いなんだよ。
……いいよ、乗ってやる。お前がどういう罠を仕掛けてるのかだけが、少しだけ気になった。（デランデルの手から報酬を奪う） -- ザック
- 人聞きが悪い。俺は頑張る人間が大好きなだけだって。
交渉成立。持つべき者は、友達ってやつだよね ☆ミ -- デランデル
- オレもそう思う。だから持つべきだったなと、今痛切に思ってるわ。 -- ザック
- 【つづく】 --
- 毎度思うんだが、ここで待ち合わせるのはどうかと思うんだが変える気はないんだな…
（華やかな店内。白いレースのフリル、黒い生地…所謂メイドさんがそこかしこにいて注文取るなりなんかしている）
（そう、メイド喫茶だ。ただクラシック風味で裾も長く歴史あるもので店主とこの場所を選んだ男のセンスはまぁ悪くないとは思うが）
（最もこの場所を選んだ彼は今日ここに不在で、目の前にいるのは俺より二回り小さい少年なんだが） -- ランディ
- そうかな？僕はお姉さん達とお話できるからいい場所だと思うな。ロードは最近フェアリィと遊んでるから構ってくれなくて僕さびしいんだよ？わかってる？
（見た目相応にイチゴサンデーをほおばり、両隣にメイドを侍らせている少年はさも自然な動きでポケットからメモリを机に滑らせる）
それ、ロードが集めてくれたラビットのデータ。前回の報酬ね。シスターがまた来てねって言ってたけど今の懐じゃごはんたかりにいくだけになるから無理だよねー --
- 彼も大変だな。フェアリィはまた仕事で詰めているのか…没入時間長すぎるのは毒だと言っているのだが、まったく…
勤労詰めの妖精なんて、ファンタジーさの欠片もなくて笑えないな
（PDAを通して確認をする。ターンが変わっただけだが、俺達はようやく尻尾を掴めたわけだ）
（さて、現代の情報というのはいくつかジャンルがあるが大きく分けて２つある。）
（もっと細かくいえば情報を取り扱うもののタイプだ）
（１つは情報を収集し、稼ぎとするもの。アナログかデジタルかに今は別れている。シズはアナログが特に得意といってもいい。経験と天性の才能なのかとにかく強い）
（デジタルでいえば、ザックがいつも嫌がらせのように枝を付けられているデジタル情報屋。もっともアレの場合は企業と、また企業内部での個々人の副業も兼ねているようだが…） -- ランディ
（そしてもう一つは決まった目的ための情報を収集し行動の主たるものとするもの。これはあまりメジャーではないがデジタル情報戦を一度でも経験したものにとっては知らねばならぬことでもある）
（呼び名はいくつかあるが、デジタルネットワーク上の情報戦のプロ。情報傭兵と呼ばれていたり軍属経験者なら電脳将校とも呼ばれている）
（この恐竜的進化を遂げた情報社会ではこれらもまた恐るべき力を宿しており、半ばオカルトじみた存在すらもある）
（その中で凄腕＜ホット・ドガー＞と呼ばれるのが俺の教え子でもあったロード、そしてロードが縁あったフェアリィはである。）
（いろいろ経緯は省くが、現在はフリーランスとして活動しているため、縁故もあって情報収集や対防諜に協力してもらっているのだが…） -- ランディ - アリスンにだいぶ近づいたね。アリスン自体がまさか自立するなんてあの時まで思ってもいなかった。
状況は動いているのは間違いないよランディ。計画＜プログラム＞はまだ死んでいなかった。
本当に倒すべき黒幕はあの時見えていなかった。でもようやく姿を現した、孵化していたんだよ
（侍らせていたメイドたちが皆立ち上がり、それぞれの仕事に戻っていく）
（イチゴサンデーは既に消えていた） --
…そうだな。だが必ず食らいつく。それがあの時から変わらないことだ。
それで、お前がここに来たことと俺に注文とるメイドがいないのは何か関係があるのか？オセイロ -- ランディ - メイドさんを独り占めするのもありかなって思ったんだけどさ、それは盲点だったな。君、頼むよ
（適当なメイドが一人来てランディから注文を取っていく。アイスコーヒーが一杯、しけたもんだがこの店だと普通の店の三倍取られる）
（卓越した催眠術＜ヒュプノシス＞でメイドを寄せてはまた見送り話は続く）
人探し、知ってる？たった一人に6000Gだってさ。 -- オセイロ
- （オセイロはフィクサーであり、その実態は腕利きのヒュプノ・エンハンサーであり年齢を重ねることのない少年なのだ）
（いつも表に出ている巨漢は偽装、ヒュプノスで操っている肉人形に過ぎず故にザックは読めずシズは警戒しているのだ）
（無邪気と邪気が混ざった少年こそオセイロそのものであるのだが）
…破格だな。道理で街のチンピラ連中が色めきだっているわけだ。この街のバカどもでオリンピック開けるぐらい盛り上がってるが
（1人、しかも女を連れてくるだけで6000gだとか。貴族の令嬢、頭緩め女を一人捕まえてくるだけで6000Gというんだからわからないものだ）
聞くだけで関わりたくない案件だ。こんなもんに付き合わされるのは一攫千金狙うバカぐらいだろう。ほとぼり醒めるまで事務所で寝てるのがいい -- ランディ
- で、まだ捕まってないらしいんだけど。君の事務所の彼、ザックが逃がす手引きしてるらしいよ -- オセイロ
- （アイスコーヒー思いっきり噴きだす） -- ランディ
- うわぁ汚い -- オセイロ
- …なんで知ってるんだ -- ランディ
- フェアリィが見つけたんだって。特に気に入らないヤツが活発だから遠回しに枝はってたらしいんだけど。
確証はないらしいけど、遠回しに裏取りで監視カメラ映像とか収集したら、見事にあの無精ひげが。って
どうする？その娘始末するって話も出てるよ。8000G出すってさ。
政略結婚というか、政治のテーブル上って大抵こうだよね。お金が机で滑るだけ、人の命も変換される。
政略結婚が成功するとピュアテイルの家には6000G以上の収入になる。
逆にピュアテイルに8000Gかけてでも損を被って欲しいところがある。対外工作の費用損失を考えると8000Gでおつりがくるのかもしれないね。
どうする？事務所で寝ている？それとも8000G稼ぐ？6000G山分けも考えてもいいかもだけどさ。 -- オセイロ
- （無邪気にこういうことを口にする少年。ザックが嫌いなタイプだろう。だが踊らされず事実の確認をするにはちょうどいい）
（無論俺がオセイロのヒュプノシスにかかっていない保障はないが、そこは色々都合があるので省く）
（さてどうした者か。女を取り戻す側にしろ、逃がす側にしてもザックが関わっている時点でまず面倒な案件になる）
（逆に始末するだけなら、ハッキリ言えば得意分野である。指先だけで命を刈り取れる自信はある。ザックがいようと…だ）
（そう。ザックに勘付かれず始末するという選択肢がある。何も問題なく8000Gを受け取れるだろう自信はあるが）
（他の不穏因子があるとすればシズだろうが…シズならさて、どうするか） -- ランディ
- 時間はないよ、もう始まっているみたいだけど -- オセイロ
- そうだな。一番楽で一番稼ぎの良い方法を選ぶよ俺は。仕事はな。
（しっかりコーヒー代を置いて席を立つ。もう始まっているのなら…街は騒がしいはずだ）
（さて、どうなるやら。結末はいかに。） -- ランディ
- 【すぐ続く】 --
- 【逃がし屋】 --
- （着信音で目が覚める。携帯を開くと通話着信ではなく情報着信だったらしい。右上の数字を見ると10時を回ったところだった）
（ソファから身体を起こし、洗面所で顔を洗いながら左手で携帯を弄ると、着信名は「キャロル」と書かれていた）
（嫌な予感がするが、顔を拭き、メールを開く） -- ザック
- 『ザックさん、昨日何かやらかしました？
サードストリートの奥で爆発事件あったらしいですけど』 -- キャロル
- （心当たりはない。そもそも、昨日はサードストリート方面に出向いてすらいない）
（返信の前に情報着信の方を見ると、キャロルが添付してきたファイルが開いた）
（流石"情報屋"。旧式の携帯からでも見やすい画質で記事をスクラップしてきている）
（見れば確かにサードストリートの方面で爆発事故があったらしい。一人が重傷、複数人が軽傷を負う個人規模の事故であるという）
（途端に腹立たしさが芽生える。三丁目方面で何かあったら全部オレのせいか） -- ザック
- 『オレは関係ない。花火の打ち上げでもミスったんだろ。
なんでもかんでもオレのせいにするな』 -- ザック
- （送信のボタンに指を置いた瞬間返信が来る）
（いつもながらどういうタイピング速度してるんだ。あらかじめ相手が打つ文章分かってなければできない芸当だろ） -- ザック
- 『情報屋ですから。気になりました』 -- キャロル
- （そのメールに返信を打ちながら、寝起きの頭でキャロルのことを考える）
（キャロルは情報屋である。しかも個人ではなく、組織で情報を扱う『情報会社』の社員である）
（足を掴まれることを最も嫌う情報屋は、個人で動くことが常だ。電脳上であれ、それが群れて徒党を組んでいるという状況自体、ランディに言わせて見れば異常であるという）
（キャロルはいわばその会社の『便利屋担当』であり、こうやってしばしば情報のメールを送ってきたり、情報の取引をしたりしている）
（徹底して文字でしかやり取りをしないので男か女かも知らない。もしかしたら個人ですらないかもしれない。キャロルについてわかることは一つだけだ） -- ザック
- 『暇そうだな。上司に怒られるぞ』 -- ザック
- 『５連休中です』 -- キャロル
- （――こいつには、人の心がない） -- ザック
- 『逆にザックさんお忙しそうですね。いつもより返信短いじゃないですか。お仕事中ですか？
やっぱり例の脱走令嬢の捜索、何処かから依頼来てるんです？』 -- キャロル
- 『脱走令嬢？』 -- ザック
- （返信を打ち込むと、再び情報着信があった。情報を呼び出すと、またスクラップされた記事が画面上で開く）
（どこかの金持ちの令嬢が突然失踪したらしい。記事には『誘拐か？ 謀殺か？』などと物騒な文字が飛び交っている） -- ザック
- 『この情報買います？ 500Gで最先端の情報まで一気にお伝えしますけど』 -- キャロル
- 『非番じゃないのかよ』 -- ザック
- 『僕のお得意様なので、親切心で、ですよ』 -- キャロル
- 『お前の親切心は金で買えるんだな。社に持ち帰って検討してみる』 -- ザック
- 『もう社じゃないですか。それに、悪い話ではないですよ。
彼女を保護して連れ帰るだけで、6,000Gらしいですから。街中血眼になって探してる人いるんじゃないかな』 -- キャロル
- （どうも、話がきな臭い。大抵キャロルが持ってくる話はきな臭いのだが、今回は特に話が美味すぎる）
（キャロルは嘘を吐かない。その代わりに本当のことを言わないことがある）
（今回も饒舌に色々メールで伝えてくるのも、何らかの思惑があってのことだろう。単に五連休が暇すぎてのことかもしれないが） -- ザック
- 『300―― -- ザック
- （と、打とうとして、今度は通話着信が入る）
（メールの最中に電話が掛かってきたのでそのままボタンに指がかかり、誰からの着信か確認できないまま通話が始まる）
（こちらが確認するよりも、電話を耳に当てるよりも前に、電話から聞きなれた声がした） -- ザック
- 早っ！ 今コール音鳴った！？ -- デランデル
- （相手が闇医者とわかり、反射的に指が通話を切りそうになった）
操作中だったんだよ。でなきゃ出るかお前からの電話なんか。
何だよ、今度は左の足折ったオレへのイケメンからの小言か？ -- ザック
- 良かった。君が電話を心待ちにしてたとかだったらどうしようかと。俺がイケメンすぎてフラグが立ったのかと。
まあ患者が無茶したのは咎めるべきなんだろうけど、ちょっと今回は緊急でさ。
個人的に子猫ちゃんに依頼をしたいんだ。できれば便利屋全員で取り組んで貰いたいんだけど、そうもいかないかもしれないし、まず相談。 -- デランデル
- 依頼？ お前が？ ……何で？ -- ザック
- いやあ、君があんまり怪我するもんだからさ、結構懐温かいんだよね、イケメン。コートの下に小鳥が群がるくらいに。
だからまあ、たまには還元しようって意図と、君らくらいにしか頼めなくてさ。
お昼まだだろ。12時頃モツ食べに行こう。病院の方で待ってるから、じゃあね。 -- デランデル
- いや、モツ食べにいくならホルモン屋とかで待ち合わせしたほうがいい、おい、切りやがった。
（どいつもこいつも、と思いながら通話着信から情報着信へと画面を移す） -- ザック
- 『モツ、いいですよね』 -- キャロル
- （慣れていたはずのことにびっくりして端末を落としそうになった） -- ザック
- 『……おい、何処から見てやがる』 -- ザック
- 『昔からああいうコリコリしたもの好きなんですよ。牛の内蔵とか、豚の耳とか。
仕事帰りにいっつも買って帰ってるからそろそろあだ名ついてたらやだなあとか思いますね。
あ、あと冷蔵庫に入ってる鯖缶、賞味期限二日切れてますよ』 -- キャロル
- （冷蔵庫を開けると中身を見る。そこには最後の鯖缶が転がっている）
（拾い上げるとキャロルが伝えてきた通り、二日前に賞味期限が切れている）
（……情報屋、本気で敵に回さない方がいいらしい） -- ザック
- 『そんなに驚かれると地味に嬉しいですけど、まあ情報屋ですから。
では、そろそろちょっと寝ようと思うので、お仕事頑張ってください。
17:00頃起こしてくれると嬉しいです』 -- キャロル
- （オレは心の底から、翌朝まで寝過ごして休日が台無しになればいいと思った） -- ザック
- 【つづく】 --
- 【釣り ５】 --
- （結果でいえば、あのビー玉にはある活性細胞が封じられていた。その出元はあのバイオパーク）
（正確にはそこにある地下施設であったが既に原生動物の暴走で内部には死体しかなかったことを付け加えたい）
（そこで研究されていた活性細胞を動物に接種すると著しい巨大化、肥大化を進めるようでテーマパークと併設された実験場ということだったらしいのだが…）
（どうやらあの水死体が何かやったのか、それともやった連中に何かされたというのは俺らの知ったことではなく、今この事務所の冷蔵庫の限界まで動物性の肉を詰めては焼いていた） -- ランディ
- デランデル曰く、食っても問題ないらしくてよかったな -- ランディ
- 生物切り刻ませたらあいつより上手いやついないからな……忌々しい、なんで仕留めた生物の一部を横流ししてやらないといけないんだ。 -- ザック
- （草臥れ儲けにならずにすんだのは僥倖だ、鴨肉くいながらそんなこという。幸せそうな顔）
（肉くってんだから当然だ。肉は人を幸せにする。肉は人を豊かにする）
（それはそうと、あのビー玉どっかに横流しできるんじゃないか？ と、呟く） -- シズ
- 活性細胞のサンプルが欲しいとかで…おい、それもう焼けてるぞ -- ランディ
- 横流しの先だが、バイオケミカル系はあるのか？施設から持ち出した資料も見ると機材ないところで割ると半径3km圏内でバイオハザードが…
おい野菜も食え、バランスが悪いぞ -- ランディ
- 怪我人だぞ。足りないのは血と肉だろ。（次々味も付けずに食べていく） -- ザック
- （うるせぇ今は肉がくいてぇとかいいながら頭を捻る）
（いくつかコネに心当たりがあるそうだ。任せてくれれば捌くと答える） -- シズ
- だいたいタレや塩、こしょうには臭みを取る効果があり…（もっそもっそ）
それじゃ任せよう、今は新しい電話も買えたし何も言うことはない… -- ランディ
- 魚釣りに行ったら結局それが肉になるとか人生何が有るか分からんな。 -- ザック
- （ＯＫ、そんじゃあ地下施設の処理はランディに任せるといってまた肉を食う）
（あっちの施設の情報もそれなりに金になるだろう。地下空間とはいえ宙ぶらりんになっている広大な土地がそこにあるのだ。どうにでもできる） -- シズ
- （ドザエモンで鶏肉釣れるとは確かに思わなかったな、と笑ってまた肉に被りつく） -- シズ
- 何でもやってみるもんだな、というか本当にこんだけ食うのは久しぶりだ。ちょっとベルト緩めるかってぐらいだ…（既にゆるめて肉食ってる）
あんな長崎なんてワードがあるんだ、長崎剣友会に流そう。土建屋でもあるしうまく活用してくれるはず、まさかの話だがあそこが作ってたんならまた別の話にもなる、が（玉ねぎうまい）
（情報は無事長崎剣友会に渡り、あそこを中心にして建設が何かはじまったらしいが…俺達には関係のないことだ。今は、そう今は…）
【つづく】
（追記をするなら、その金でFAX付きの電話に更新できたことを挙げておく） -- ランディ
- 【釣り ４】 --
- （過程を省くというのならば、この下水道から施設までのダンジョンアタックといっても差支えはない）
（警戒するべきものもなく、出るといえば太ったネズミぐらいで昼食にするか三度迷ったくらい。）
（むしろ勝手に突き進むザックがわりと正解だったのは些か癪に障ったが） -- ランディ
（そして俺達は今施設の前にいる。暗闇の地下であろうと明々と輝くネオンサイン）
（周囲に人気はなく、予想を外れたもののそれが返って不気味であり俺達を歓迎しているようなテーマパーク調の音楽が恐ろしく感じる）
（閉館後の遊園地に、招待され歓迎されているかのような不気味さがあった。）
（施設ははっきり言えばテーマパークのようなもので、きらびやかなネオンサインには光でこう書かれていた）
…長崎バイオパーク -- ランディ - （ジャケットに手を突っ込んだまま物凄く嫌そうな顔） -- ザック
- 意味が分からん……そして不気味にも程がある……。 -- ザック
- （本当に道中何もなかった。当たり前だ、下水道に罠などあってたまるか……と思いつつも俺はことある事にザックを呼び止めては周囲を警戒したりなんかやばそうなものがないか調べたりしていたのだが、悉く不発）
（途中から調べるのも面倒になってザックを人柱にしてそのまま進ませる荒業に出たが、やはり特に何もなかった）
（ハイキングと大差ない。大分趣味が悪いコースではあるが） -- シズ
- （なんでこんなところに超巨大鼠と触れ合えるテーマパークが……？） -- シズ
- （ノボリには明朝体で「カピパラ」「カワイイ！」「餃子巻き」「Zooっと近くに！」と書かれており）
（生暖かい風でそれらが揺れている。時折獣の雄叫びが聞こえるのは、テーマパークらしからぬ効果音と思えた） -- ランディ
- …食料供給施設なの、か…？管理者は…？従業員は…いない…のか…？
（本当に人の気配がない…シズやザックの関知能力。いやもっといえば普通であるだろう自分の感性でもわかる） -- ランディ
- （なぁ、ランディ。お前道間違えたんじゃないか？ そう呟きながら地図をまた見直す）
（どうも間違ってはいないはずなのだが、一応） -- シズ
- ……遊んで行けと？ 二十歳も半ばを過ぎようかっていう男三人で？ -- ザック
- まあ、入ってみりゃ分かるんじゃないのか、こういうのは。今更引き返すのもだるいだろ。 -- ザック
- いや、そんなはずはないが…間違っていない、ここであっているはずだ（何度も地図と資料を確認するがPDAに記された座標は変わらない、ここを指している）
…入ってみるか？男三人だが -- ランディ
- （冗談抜かせ、お前等とオフ過ごすくらいならまだゲイバーで呑んだほうがマシだ、と強がるがこの事務所にオフなどない） -- シズ
- （まぁ、仕事だしな……そういって先に進む。スカウトはシズの仕事である）
（一応ダンジョンとみなしたのである） -- シズ
- …監視員も入場券見る従業員もいないな。とりあえず行ってみるか、最初はトトーラの池…らしい
（一度も使われたことがないパンフレットを3枚取り出し、それぞれ手渡して進む） -- ランディ
- オンかオフかって言われりゃオンだしな。ここまでの時点で金の匂いが一切しないのはオレの気のせいだと思いたい。 -- ザック
- （姿勢を低くして、まったく人の気配がしないテーマパークを進む不審なフードの男。後ろから見ている2人には酷くマヌケな姿に見えるだろう）
（時折壁や床を叩いたりしながら慎重に進む）
（そうでもしないとやっていられない、これはダンジョンなのだと思って対応しなければ心が折れてしまいそうなのだ） -- シズ
（ゲートをくぐるとかわいいアヒル、カルガモの親子が遊んでいる池がある。親子連れなら和むシーンだが男三人ともなれば気力をそがれる場面にちがいない）
（インコがせせりなき、ペリカンが泳ぐ池が出迎えてくれたのだ。正直こいつら撃って食うかと二人に尋ねようとした時だった）
（うちの車ほどある巨大なクモザルがペリカンを蹴り殺し、貪り始めたのは）
…？ -- ランディ - ……？ -- ザック
- （理解できないものが視界に現れ、ついつい眉間に皺を寄せて首をかしげる）
……？ -- シズ
- （パンフレットを開く。クモザルの食性、つまりえさ：果物とあるが）
（目の前のクモザルはしっぽでカルガモを吊り上げて絞め殺し、ペリカンをむさぼっている）
……？ -- ランディ
- （そのまま巨大なクモザルは器用に飛び上がり、テーマパークの奥に消えて行った） -- ランディ
- ………。
（ドン引きして死人のような目になってる） -- ザック
- （……なぁ、もしかしなくても帰ったほうがよさそうじゃないか？） -- シズ
- 帰ろう、事務所に。全てを忘れよう
（振り返れば運悪くゲート前にヒョウモンリクガメが頓挫していたが、些細なことだろう） -- ランディ
- 男三人で良かったとも言える。女子供がいたらトラウマになってるとこだろ。 -- ザック
- なんとかはなんとかに近寄らずっていうしな……こんだけ時間かけてまた無駄骨かよ！ -- ザック
- （リスザルとかみても泣き叫ぶレベルのトラウマになってたろうな……おい、ところでランディ、あの亀どかしてくれ）
（彼ならきっとなんとか出来る筈だという圧倒的な信頼である。自分で何とかしたくないわけでは決してない） -- シズ
- おい、こいつ押しても動かないぞ！ちょっとやそっとじゃ…くそっ！なんだっていうんだこれは！
（頓挫というより食事をしているのか、顔の方では首のないアルパカがシズとザックに足を向けていた）
（カピパラ？のような鳴き声が近づいてくるのは気のせいだと思いたかった、早くどいてくれ） -- ランディ
- なんだこいつ重っも！！ びくともしないぞ！？ オレの体調不良差し引いてもおかしいだろ！？ -- ザック
- （ふざけろ！ こんな地下のガラパゴス諸島に閉じ込められてみろ！ 2時間たたずに俺達が餌になっちまうぞ！）
（……？ おい、なんか妙な鳴き声きこえてこないか？ とついつい小声になりながら問う） -- シズ
- おい、誰かロープと何か牽引できそうなものを……？
（鳴き声と足音は段々とゲート前に近づいてくる、複数がン誰のように近づき…）
（俺達は巨大なカピパラの集団大脱走に巻き込まれたのは察するに易いだろう）
（リクガメすら横転するあの勢いは、体感したことのないものだった…） -- ランディ
- （叫び声をあげることすらかなわず、巨大なタワシの群れに踏み潰される）
（集団が通り過ぎたあと、残されたのは体中にしこたま足跡をつけられた哀れなフード男） -- シズ
- （仰向けで足跡だらけになって青筋を浮かべて地面に寝転がる）
……おい、これがオフなら最高の休日だな。 -- ザック
- （割れメガネは吹き飛ばされ、ゲート付近の街灯に引っかかていた） -- ランディ
- （全くだな……一生忘れられない特別な休日になりそうだぜ、とこちらも青筋を浮かべながらゆらりと立ち上がる）
（あいつら食ってやろうかとか思いながら。完全に茹で上がっている） -- シズ
- 羊と山羊も…いるらしいがこの際好き嫌いは言わない。やれるだけやらないか
（割れた眼鏡をかけ直し、散弾銃を構えてライトを付けた） -- ランディ
- 腹たったら腹減ってきやがった、このまま収穫なしってのはちょっと納得できないしな。 -- ザック
- （ハイキングがハンティングになるってんなら話がはええや、とハナで笑って背嚢に両手をのばせば、握られているのは大振りのダガーが2本）
（腹が減りすぎて気が立っている）
（せめて食糧くらい確保して帰るぞおらァ！） -- シズ
- 四足歩行の生物は皆焼いて食ってやる！！！今なら椅子だって食えるぞ！！ -- ザック
- （すでにリクガメを盾にして巨大クモザルに散弾ぶち込んでる） -- ランディ
- 【釣り ３】 --
- （シズと帰宅早々、冷蔵庫と同程度には簡単。受話器を取る、番号を押す、の電話機をぶっ壊してたザック）
（よく考えてほしい。冷蔵庫は開け閉じだけだ。それも前回窓から翼もないのにはばたかせ、今回は電話機でさえスクラップにしている）
（俺とシズは郵便受けにたまっていた宛名：IKE☆MENとだけ書かれ中にはクソうざい男のブロマイド写真集）
（特に一番ひどかったのは素肌にジャケットで高級外車のボンネットにドヤ顔で座っていた写真だが）
（それをザックの顔に叩きつけるなり、西部の掟を荒縄で執行するに至っただろうことは想像に易いだろう） -- ランディ
- ちょっと、ちょっと待て。話聞けよ。誰だってそうする事態があったんだよ。
怪我でイライラしてるところにあんな電話掛かってきたら誰だってなぁ！ っつーか、怪我人に優しくしろお前！！（イケメンの顔をぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に投げる） -- ザック
これからお前にデランデル・ゲームが始まるのはいいとして、俺らは情報の精査があるからな。
そこで大人しくデランデル・ゲームを受けているといい。時計だけは貸してやるから、きっちり計測しておけよ
（そう、その後シズの開錠スキルによって釣り上げたアタッシュケースに入っていたのは書類といくつかのビー玉状のものだった）
（些か情報が恣意的に削られている部分はあったが、何かしらの報告書でどうやら地下施設のものだった）
（現在地上では再開発事業やら何やら行われているのは聞いたことがある人が多いかもしれない）
（この街はとにかく建設ラッシュが何年かに一度は起きており、住民の入れ替えが…市場が…あるのだが、そこは省こう。だからこそ長崎剣友会は強いのだが今は関係ない） -- ランディ - 俺がデランデルな間は俺が死ぬだけのゲームだろそれ。
（遠巻きでソファに座って）……？ なんだそれ。食えるモン釣ってこいよ。イクラとか……。 -- ザック
- （てめーはもうドア以上に文明的なもんには触るなクソが、といいつつ前回ぶっ壊されたパズルケースを片手に青筋を浮かべる）
（そして、ザックは放っておいてランディと一緒に書類を見る）
（どうみてもヤバい資料だが……確実に金になる資料でもある） -- シズ
（つまり、地下に市場を開拓した際に建設した施設についてらしい。）
（この街の地上はあらかた利権が動いたり、固定相で売買されつつあるのだが地下は100年以上前から放置されているのが実情だ）
（昔は一部が独占していたらしいのだが。そこで空いている隙間を縫って、地下に一大食料供給施設…牧場など家畜類、栽培施設を併合しかつテーマパークを作ったとかなんとからしいのだが…）
（地上の土地所有派遣争いのこともあり、ある程度秘密裏にされているたので今ようやくしったところに到る）
（だがその情報がなぜ水死体と一緒にいたのかは、考えるに易くない事態ではある。）
（完成間際でなにがしかの理由で開園中止になったのもあの水死体が関わっているのか、そこまでは知らないが） -- ランディ
特に土建関係に売れば金になる資料だな…問題はどこが作った、とは書いてないところと
このビー玉？が何かわからないところだな…特にザックには触らせないほうがいい、食い物じゃないからなこれは -- ランディ - 事務所内なのになんだよこのアウェー感……。
エンガワとかでもいいな……エンガワってどんな形で泳いでんだろう。 -- ザック
- 事務所唯一の固定電話がなくなったということは、事務所への依頼が今ないということなんだが言いたいことはあるか魚の切り身が海を泳いでると思っているだろうザック君 -- ランディ
- （今のアイツに見せたら飴玉と勘違いして噛み砕きそうだからな、と真顔で頷く）
（そして売る団体も吟味するべきであると忠告する。売るなら確実に裏側だ、表はどこに持ち込んでも当局にタレこまれて終わる）
（しかし、かといって安易に裏に流せばそう遠くないうちに俺たちも魚の餌になるだろう）
（どこに売るにしろ、相手と物両方の調査が必要だ） -- シズ
- どうせ掛かって来やしないし、俺がこんなんでまともに事務所に依頼なんて来るかよ。
ランディやシズに用事ならそっちの手持ちの電話にコール来るだろ。月賦催促の電話がかかってこなくなっただけ心の平穏が保たれるしいいコトだらけだ。 -- ザック
- その通りだ。地下ダンジョン探索というリスクはあるが、それでも人の手がある程度入っているなら多少は楽ができそうだ。
遠巻きでもいい、現地で調査してからでも遅くはないはず。見張りぐらいはいるだろうしな
（ロッカーからライト付きの散弾銃を取り出し、これまたよくあるまたライト付きヘルメット帽子を床下から引っ張り出した） -- ランディ
- ……そういやさっき蹴りでギブス取れたけど、多分くっついたな。骨。（その場で跳ねる） -- ザック
だったら電話機の一つでも買ってきてくれないか、テレビ電話とFAXついてないやつでいいからな -- ランディ - （コイツ案外のり気だなとか思いつつも口には出さず、準備をする。ダンジョンアタックには慣れている）
（仕事柄スカウト紛いの事もしているのだ）
（それはそうと屁理屈垂れてる暇があったらてめーは新しい電話かってこい、催促の電話は無視すると後が面倒なんだよとザックにジグソーパズルのピースをなげつける） -- シズ
- とっことん噛ませねえつもりだなお前ら……（ギリギリ歯ぎしり）
見てろお前音量調整も保留もないクソみたいなの買ってきてやるからな……。 -- ザック
- 運がよくなくてももしかしたら最短で焼肉ができるかもしれん…これは見ものだ
（スリングでショットガンを背負い、地図を古いコピー機に噛ませて仕事させ折りたたむ。）
昔の工事経路図と照らすと、ちょうど事務所の裏の下水道がからが近い。廃地下鉄の裏のブロックを開ければすぐのようだが -- ランディ
- いや、そもそもお前ダンジョンアタックできるのか？遺跡探索だぞ？その足何でやったか覚えてるのか？それでもいくか？ -- ランディ
- （何いってんだクソボケが。てめぇがいなきゃバケモノが出た時に盾になる人材がいねーだろうが。てめーもくるんだよ、取り分すくねーけどな、とザックにも荷物を渡す） -- シズ
- うるせえ、偶然"不幸な事故"で崩落しただけで直線で進んだほうが早いだろうが！
俺は電話を買う！ 何処ででも野たれろクソ眼鏡とファッキン仮面！（ドアを勢い良く開けたら文明的なドアノブがぶち壊れた。中指を立てて出て行く） -- ザック
- 今できるできないじゃなく、やれというこの事務所の戒律を思い出したよ -- ランディ
- （２Fに向けて）……ほんとに電話買いに行くぞ。いいのか。 -- ザック
- シズ捕獲だ捕獲、相手は手負いただ一人…遠くには逃げられん（荒縄を回す） -- ランディ
- 俺は電話を買いに行くっつったらデュラハンが襲って来ようがヌマルの兄ィがドス持って落とし前つけにこようが電話を買いに行くぞ。いいのか。 -- ザック
- （ランディから荒縄を受け取り、カウボーイよろしくザックに放り投げ、引っ張る）
（当然荷物つきである）
（ぐだぐだいってねーでついてこい！ おいてかねーから！！） -- シズ
- （荷物を受け取り荒縄で縛られ）ほう、オレの力が必要と、そうかそうか。偶然暇だからな、付き合ってやるよ。 -- ザック
- やっぱり三人仲良く行くのが一番だな、仲良し最高（マンホールの蓋をあけた…） -- ランディ
- 俺らチョー仲いいしな。 -- ザック
- お前案外めんどくさいな？！ まぁ頼むよ、事務所随一（オンリー）の前衛 -- ランディ
- （お前おいてくと帰ってきたらまたなんか壊れてそうで不安なんだよ……車とか壊されたら洒落にならんからな、といいながらごそごそ3人で地下にいく） -- シズ
- 【釣り ２】 --
- （事務所の電話が鳴る。折れて固められた足を乱暴に引きずりながら受話器を取る）
はぁぃ、こちら便利屋。 -- ザック
- よーお。元気ー。 -- デランデル
- （受話器を電話機に叩きつける）
（ポケットからタバコを取り出してイライラしながらソファに座り直すと、再び電話が鳴った）
（２６コールまで無視していたが、鳴り止む気配が一向にないので青筋をビキビキに浮かべながら電話に出る）
ンだよッ！！ こちとら暇してねーんだよクソ医者ァ！！ -- ザック
- 複雑骨折してるのに暇してないってどういうことだよ。もしかして固めたら歩けるとか思ってない？ 固めたのは固定のためであって蹴り加えるものじゃないんだよ？ ザックくん？
いやあ、俺ってさぁ、ほら、優しいから、その上イケメンだから、更に付け加えるならイケメンだからさ。重傷で運ばれてきた患者のその後の容態が気になってさあ。
その様子じゃ安静にしろって言った言いつけは守られてないみたいだけど。ダメだよ子猫ちゃん。言いつけは守らなきゃ。 -- デランデル
- 医師免許もない闇医者がどの口で言いやがる。どうせ支払いの催促だろうがクソが。
来げ、再来月には持っていくから安心しろ。二つ有る臓器全部担保にしてもまだ足りないって言うのかイケメン。 -- ザック
- 俺の場合さ。笑顔振りまくだけで百万Gの微笑みって良く言われるんだけど、君ってグラム単位で切り分けてもそんなにお金にならないんだよね。
なんか五体満足で死んでくれるようにも思えないし。タバコも吸ってるし栄養も失調してるから健康な臓器って感じじゃないしねえ。
それに、俺には成人男性の内臓を切り刻む趣味はないよ。 -- デランデル
- 成人男子以外の内臓を切り刻む趣味があるみたいな言い方辞めろよ。引くわ。 -- ザック
- 趣味が高じて職業にありつけたって言うと美談にならない？ 俺は美男子だけど。おいおい、ギャグもイケメンかよ。 -- デランデル
- 死ね。呼吸の仕方を忘れて死ね。初日に吊られて死ね。 -- ザック
- ん？ ああ、ちょっと悪い子猫ちゃん。客が来たみたいだ。
……おいおい、嘘だろ、俺よりイケメンって存在するのかよ。初めて見たわ。なんだよこの敗北感。
こんなにイケメンなやつってこの世に存在するんだな。ああ、ごめん、姿見に映った俺だったわ。 -- デランデル
- （受話器を電話機に叩きつけ、その上からギプスでガチガチに固められた右足を落とし、怒りの形相で電話機を粉砕する）
（まるで爆薬が爆発したかのように粉々になった電話機に足を落としたまま、肩を上下させる）
ハァ……ハァ……ハァ……怒りの閾値を一瞬でオーバーしやがった……。
（右足をランディの机の上から下ろし、再びソファに座ると今度は携帯の方が鳴る）
（７２コールまでは無視していたが、鳴り止む気配が一向にないので、青筋をビキベキバッキバキに浮かべながら電話にでる）
おい色男。顔面剥がすぞ。 -- ザック
- やだ怖い。芸術的価値すら付きそうなデスマスクになりそうな俺のイケメン具合が特に怖い。
あのさぁ、いくら子猫ちゃんが無敵のスーパーヒーローだからって、不死身じゃないんだからさぁ、もう少し自分の身体は大切にしなよ？
治療した俺が言うのもなんだけど、限界ギリギリまで壊れてた物を取り敢えず外から見て不自然じゃない程度に組み直しただけなんだからさ。
イケメンにも不可能はあるんだぜ？ 一つの愛を選ぶこと以外にもな。
一つの愛を選ぶこと以外にもな。 -- デランデル
- 言ってみて思った以上に気に入ったから二回言ってみてんじゃねえよ。キマってねえんだよ。電話ごしでもドヤ顔してるの分かるから辞めろうぜえ。
お前の所の支払いも含めて今月赤字なのを無理すんなってどの口が言うんだハゲ。
年中大繁盛の闇医者と違って、今日の飯すらありつけるか分からん経済事情なんだぞ、こっちは。 -- ザック
- お昼くらいなら奢るけど。モツ食べに行こうよ。奢るよ、イケメン自ら。 -- デランデル
- それは牛とかのモツの話だよな。 -- ザック
- ……ん？ -- デランデル
- ん？ って何？ 聞き返すようなところか？ -- ザック
- イケメン税っていうのが適用されたら、俺って超過課税で例外として条例で別枠作られちゃうのかな？ -- デランデル
- 今そんなクソどうでもいい話してなかっただろうが。
何なの？ 難聴系主人公か何かなのか？ -- ザック
- 俺は友達が多い。 -- デランデル
- 完全なる自慢話じゃねーかッ！！ 誰も聞きたくねーよそんな話ッ！！
何度も言うぞ、分からないなら自分で頭開いて書き込んどけ、クソ医者。俺は、暇じゃ、ねえんだよ。 -- ザック
- ……デュラハンに追われてるんだって？ 今回は幸い、それを相手した怪我じゃないみたいだけど。
あ、ちなみにこれ、情報屋から買った情報だから、安心していいよ。俺はイケメンだから、男に興味はないんだ。 -- デランデル
- （声色が変わったことに気づき、目を細める）余計な情報を。……俺や、俺達が厄介事抱えるのはいつものことだろ。それに、じきに解決する。
何だよ。やたら絡むな、今日は。 -- ザック
- まあ、こういう仕事やってると、こうやって積極的に得る情報以外にも、きな臭い情報がいっぱい入ってくるもんでね。
ギリギリ死なない程度に怪我してくれるお得意様が一人減るのは、イケメンとしても面白くないからさぁ。それこそアフターサービスみたいなもんだよ。
気をつけたほうがいいよ。近々偉いことに巻き込まれるかもしれないから。 -- デランデル
- ……言われなくとも、それに、言われても巻き込まれるときは巻き込まれるんだよ。
安心しろ。臓器はそっちに産地直送で直輸入できるようにしといてやる。 -- ザック
- ……まあ、君ならそう言うかなとも思ったけどさぁ。ままならんね、人生。俺も出来れば生きた人間の臓器さばいてるほうが楽しいから、それは肝に命じといて。
さーて、午後から予約入ってるんだよね。準備しないと。楽しみだなあ、上半身が女子大生で下半身がマリーゴールドの合成手―― -- デランデル
- （鬱陶しいので電話を切り、着信拒否をし、更に電話番号を匿名で通報しておき、電話を懐に仕舞う）
（どうせこんな嫌がらせも織り込み済みで、どこか基地局経由で電話してきているんだろうが）
……ランディ、まだかよ。余計にカロリー使って死ぬほど腹減ってきた。
（ソファに凭れかかったまま、釣りに向かったランディ達を、男はうとうとしながら待つのだった） -- ザック
- 【つづく】 --
- 【釣り】 --
- 『東洋曰く、太公望は釣りの名人らしいが俺が思うにヤツは魚の腕より、人を釣る方の才能だと思う。』 --
- 『魚吊ってたらスカウトされて軍師になるなぞ、人を引き付ける飛んだ詐欺師なんだろう』
『しかしそれと俺が今、埠頭で釣り針を垂れているのとは全く関係なくむしろそれぐらい美味い話がないのかと溜め息もでる』 -- ランディ
ザックはアレだし、俺は財宝のみだし、シズのヤツに到っては稼ぎなし…
（先月苦労してあんな危険な山わたってそれこそちょっと余裕が出るか？ぐらいはギリギリ手に入ったがそれも掻き消えた）
（ピックアップ用の機関砲のパーツ、未使用でバラされた輸出用のをクスねたのを仕入れたのが特に大きかった）
（うちは基本的に常に水道さんのお世話になっているので削れるところから削る主義も合わせてメシ代が今月諸経費の欄から消えた） -- ランディ
金もなければ、魚も来ない。4月でこれとは、どこか旅に出たくもなる
（船の汽笛が遠くから聞こえ、果てしない水平線が伸びるこの埠頭で腹を鳴らして座ってもう2時間にもなる）
腹減った… -- ランディ
海の中にいる魚と俺との関係は食うか食われるかの関係であるが、そも釣れないのであれば関係性がなくなる
必然的に因果関係のないこの状況は虚無的境地に立っているのではないだろうか -- ランディ - （腹の音を響かせながら、糸を垂らしたままランディの独白に耳を傾ける）
（腹が減りすぎてろくすっぽ返事もできないのだ。先月危ない橋を2つも渡ったのにこれでは甲斐がない） -- シズ
疑似餌という関係性の接点を用意したものの、この関係性に関連付けられる事象が重なるかは偶然性が関わり
偶然性とはすなわち…
かかった！！デカいぞ！ -- ランディ - （マジかぁ！ と素っ頓狂な声をあげてバネ仕掛けの玩具のように立ち上がりランディのところまで駆けていく）
（絶対に逃がすわけにはいかない、確実に釣るのだ。でなけりゃこっちが首を吊るハメになる） -- シズ
- くそっ…こいつ…デカイ…大物だ！これなら…今日の飯は安泰だ！
ぐ…！おい、手伝ってくれ！いやに引きが強い！竿が折れそうだ！ -- ランディ
- （あたぼうよと二つ返事で竿に手をそえ、全身を陸側に傾ける）
（こういうときに限って役に立ちそうな天パはいやしねぇ） -- シズ
- １，２の３で行くぞ？ よし…１、２の３！
（水しぶきを上げた大物は埠頭のコンクリ床に引きずりあげられビチャビチャとはねる）
（魚の躰ではなく、肉と海水が跳ねる）
（左手とアタッシュケースを手錠でつないだ人間の形をかろうじて留めていたものが）
（揚がった） -- ランディ
- （それが中空を躍ったとき、恐らく2人とも子供のように目を輝かせた）
（空腹時のごちそうにはそれほどの魅力があるのだ）
（想像以上の大物。質より量という今の俺たちの要望を満たすかの如く巨大なそれは成人男性程の大きさで、宛らマグロのようだった）
（まるでマグロのようなそれは陸揚げと同時に鱗を撒き散らすように腐肉と服の切れ端を巻き散らし、どちゃっとその場に横たわった）
（なるほど、やっぱりマグロにそっくりだ。主に陸揚げされて冷凍される前のマグロに似ている。在り方とか末路とかが）
……
（期待が大きければ大きいほど、失望も大きい）
（暫し無言になりつつ、がっくりと肩を落としながらつい呟く。なにこれ……と） -- シズ
なん…だろうな…（マクロ、ご期待ください。とあの顔が天空に輝いたと思ったら）
（あぁマグロってそういう…みたいなこう…どうしようこれ…としばらく何も言えなかったが）
とりあえずアタッシュケースを戴こう、このこう…本体は七つの海に還ってもらって
（手錠外せるか、とシズに問う。銃を使うのが手っ取り早いが昼間からそれは避けたい） -- ランディ - （朝飯前だ。朝飯くってねぇけどな、と乾いた笑いを漏らしながら懐からピッキングツールを取り出し、かちゃかちゃ）
（殆ど触れると同時に開く。こういう仕事はシズの得意分野である）
（どうする？ ここで開けるか？ と、一応聞く） -- シズ
- いや、事務所で開けよう。ここで物色する時間は惜しい
というか一瞬でも早くここからオサラバしたい（釣竿を仕舞いつつ既に帰る準備を整え）
誰かの目に留まる前にとっとと帰ろう、昼間からこんなもｎ見て食欲も失せた
【つづく】 -- ランディ
-
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-
- 【運び屋 ２,５】
- 宵闇に沈む、東の埠頭。約束の時間ぴったりにその男は現れた。一分一秒違わずに、まるで機械仕掛けの人形のように --
- 目深にフードを被った上に、ハーフマスクまでつけた薄気味悪い野郎だ
薄汚れた泥沼のような目から光は一切感じられず、目を合わせているはずなのにどこを見ているのかまるで分からない
ガキの頃に一度だけ見たレイスにそっくりだ --
- 「時間に正確な男は好きだぜ。物はもってきたんだろうな？」
誰何を待たずに俺はそう尋ねた。必要ないだろう。幸いにも此処は埠頭だ。本人でなければ殺して沈めればいいだけだ
それが俺たち『ラッキーヒルズ』のやり方だ --
- 男は一度だけ小さく頷き、肩にかけた背嚢をアンダースローでこちらに投げて寄越す
それは緩やかな放物線を描いてすっぽりと部下の手のうちに収まり、口から丈夫そうなミスリルのケースを覗かせる --
- まだ落ち着きのない部下に目配せして中身を確認させる。背嚢に入った4つのミスリルの箱の中身は全て……ぎっちりと詰まった高純度の麻薬
一舐めすれば間違えよう筈もない、南ベグタギスタン共和国製の上物だ --
- 「『猫』にも使える天然物か。いい仕事だ……おい」
そういって、こちらも現金がたっぷり詰まったスーツケースを部下越しに２つ手渡す
「少しばかり色をつけておいた。いい仕事にはそれなりの見返りを与えないとな」
そう愛想笑いをしても、男はくすりとも笑わずにスーツケースの中身を確認する。札束を２つほど手にとって側面を指でなぞるだけ。手馴れている奴はあれだけでわかるらしい --
- 「安心しろよ、偽札なんてまじっちゃいねぇ。他所から紹介されたアンタにそんなことしたら俺等はこっち側で仕事できなくなっちまう」
一応そう声をかけるが、まるで無視してもう３，４つ札束をてにとって男は確認を続ける。疑り深い野郎だ
まぁ、この世界ではそれも失礼には当たらない。何せ最初の取引だ、慎重にならないほうが可笑しい
だからこそ、確認しなければならない。一応裏はとれているが、それでも --
- 確認が済んだらしく、一度だけこちらを見て頷いた男はトランクケースを両手に持ち、足早に踵を返そうとするが……
「まぁ、待てよ」
後ろから銃をつきつけて、それを制止する。男は声も上げずに足をとめる。動揺している様子もない
まるで慣れているといわんがばかりに
しかし、慣れているのはお互い様だ。だからこそ聞かねばならない
「あんた、なんで長崎剣友会と敵対関係にある俺たちと取引した？ たまたまお互い紹介されて顔合わせしただけなのは知ってる。だが、それにしたってこのシマで剣友会の敵と取引する事がどれだけ危ない事なのかは、剣友会と付き合いのあるアンタならよーくわかってるはずだ。聞かせてくれ」 --
- 暫しの沈黙。時間にすれば1分もなかったろう。しかし、酷く長かったような気もする
それくらい俺は緊張していたのかもしれない。それだけ長崎剣友会は恐ろしい組織なのだ
そんな組織に真っ向から逆らう。俺たちみたいな組織ぐるみならまだしも、ただの一個人で --
- 鉄が、軋むような音が聞こえた。砂と鉄板が擦れるような音が
奴が振り返って、それがやっと笑い声だと分かった
その男は笑っていた。静かに静かに嘲笑していた
俺を。そして自分を
ようやく口を開いた男はただ一言簡素にいった。声をあげずにそういった
そうとしか聞こえなかった。奴は確かに喋った。にも関わらず奴は喋っていなかった
誰にでも聞こえて誰にでも聞こえない声で奴は囁いた
アンタ達のほうが金払いがよかった。それだけの話だと、短く簡素に --
- 奴はいった。隣の店よりアンタの店の方が俺の商品を高く買い取ってくれた。だから取引した
たったそれだけの簡単な話だと、そういった
真っ暗な夜の森のような瞳で俺を覗き込んで、ただ静かにそういった --
- 僅かに、闇が歪んだ気がした。たっぷり一秒かけて俺は奴が嗤ったのだと漸く理解できた
目を細めて、ハーフマスク越しでも分かるほどに口元を吊り上げて、男は嗤う
そう俺と……そして恐らく自分をたっぷり嘲弄した後、今度こそ男は踵を返して、闇に溶けるように埠頭の倉庫街へと消えていく
手下が大きい声で悪態を付く。声は震えていた
諌める気にはならない。俺もこんな立場で無ければそう粋がりたい気持ちで一杯だった
柳の向こうに陰をみた後なら、誰だってそうしたいはずなのだ --
- 後日、別口に用意していた麻薬のルートが剣友会の息が掛かったチンピラに襲われるという事件が起きた
他のルートもブラフのルート込みで長ドスを持った恐ろしく強いチンピラに軒並み潰され、俺たちは麻薬の納入ルートの多くを失う事となった
たった一つ残ったのは……あの不気味なフードの男のルートのみ
闇の奥で嘲笑が聞こえる。誰かが俺をせせら笑っている気がする
恐らくあの男の声だ。幽鬼のようなあの男の声だ
俺は既にレイスに憑かれた。きっとそういうことなんだろう --
- 【つづく】 --
- 【閑話休題】 --
- 『俺達は自営業だ。休みは各々取るものだが、それでも金がない連中の集まりであるのには違いなく』
『日々追われるように働く俺達に神様は休日を与えてくれないのが現実だ』
『しかしあの一件が終わり、各々一休みするぐらい余裕ができたもので』
『何を考えているんんだかザックはヌマルと酒を、シズはよくしらん。俺は…』 --
「女に気を付けろ、特に娼婦と魔女は関わるな」がアンタの言葉だったな。こんな仕事に関わる女はどいつもそんなのばっかだよ。
（孤児院の礼拝堂に入れば手近な椅子に上着をかけ、眼鏡を取って胸ポケットにかける）
（迎えてくれた人物は白いヴェールで顔を覆い、白い法衣に身を包んだ巨漢）
（僅差ではあるがザックとシズより付き合いは長かった）
（そう。彼が裏社会と表社会を繋ぐ強いパイプを持つフィクサー。エイナス育英会の代表、オセイロだ） -- ランディ - （慈善団体、非営利組織というのはとにかくわかりやすい看板だ）
（銀幕俳優が人気のために寄付をしたり、環境に優しい車を愛用し自らの善性をアピールするように）
（政治家と資本家も自らの事業のために彼らに決して安くない資金と繋がりを持ちたがる）
（最も他の団体と違うのは裏社会のシャドーギルドがあるという点が強い）
（そんな男になぜ俺が個人的なつながりを持っているか、というのは今必要なことではない）
（彼とは俺が必要としている情報と技術、そして時間…それらをやり取りの材料としていた） -- ランディ
情報に進展があった。そこでまた、君の力を借りたい。
（手袋がはめられた自らの手で小型の記憶端末をランディに手渡す。仕事用のPDAに差し込み読み込みが終わるのを静かに見守った） -- オセイロ
これは…！信じられない、いや、だがそれなら納得がいく…ここ半年足取りが掴めなかった理由が
（今までのデータを裏返すような事実に俺は驚きを隠せなかった。しかしこれが本当なら…） -- ランディ
インセインの施設に対して強制捜査が取り付けられる予定だ。
だが司法機関にオニの存在を知られるわけにはいかない。
クラマらと共に施設内を制圧した後、掃除を頼みたい。"ウィッカーマン"
（必要とされる情報を後出しにせず、まず伝えてから依頼に引き込む。オセイロが最も得意とする手法である）
（ザックは単純明快でないことを嫌い、シズは割り切れぬ狂気を感じ忌避するだろう）
（表では善行と呼ばれる行いを、裏では暗殺組織の長であるこの男。しかしその聖と狂気が入り混じった男こそがオセイロであり、１か２か、善か悪かなど誰も分けることなどできないのだ） -- オセイロ
返事は決まっている。装備はもう揃っているんだろう？いつもの通りさ
（ヴェールの下で彼が笑ったように見えた。ちょうど昼時の鐘が鳴る） -- ランディ
『その後孤児院の子供たちと昼食を取った。自分には場違いな場所で食事だが、事務所で連中と食うよりはうまい飯だった』
『寄付をしているからか、自分がここにいることが何の慰めになるか。ごまかしにしかならないことも理解はしている』
『しかし割り切れぬのも人間なんだ、俺はあいつらと違う自分の内的な弱さを改めて感じつつ…たった一瞬の時間を水のように飲んだ』
『甘く、優しく。苦く、辛く。薬のような毒をあおる様に』 -- - 【つづく】 --
- 【運び屋 その後】 --
- （あちこちが痛い。我慢できるのと痛くないのは違う）
（あの後嫌がるランディとシズを引き連れて、他のルートを歩んでいた人間を個人的に粛清して回った）
（結果として自分たちと同じダミーを掴まされていたルートが三つ、それに便乗して高純度の麻薬を運んでいたルートが一つ）
（最後に――驚くことに、デュラハンの首から上を本気で運んでいたルートが一つあった）
（高純度の麻薬はランディだかシズだかのルートに乗って足がつかない程度に金子に変わることになった。最悪のタダ働きは回避出来たとランディは嫌そうな顔で言っていた） -- ザック
- （首はというと……元の持ち主に返しておいた）
（なんでもデュラハンの首は高値で取引されているらしいが、流石にこちらはリスクが高すぎるということで、他の二人も所持を嫌がった結果、オレが持って帰ることになり）
（帰り道で偶然出会ったデュラハンに、その首を投げ返しておいた。首を受け取ったデュラハンはそれでも憤懣やるかたないのか、オレが首を奪ったと勘違いしているのか）
（その場で再び襲いかかってきたが、ランディの巧みな操縦テクによって撒かれ、その後音沙汰が無い）
（聞けばデュラハンは失った首を手に入れた後は、一定の時間を置いて成仏するらしく、今はそれ待ちというところだ）
（全く、争い事が嫌いなオレに、随分と厄介な物を押し付けてくれたものだと思う）
（二日が経ち、麻薬が金になる頃にはオレは奢りでない酒を飲むだけの懐の暖かさを得て、四日前にヌマルの兄ィと飲んだBARへ来ていた）
（デュラハンに殴られ、口の中が切れているので飲む酒飲む酒血の味がしたが、それでもカーチェイスしてたあの瞬間に比べれば天国みたいなものだ） -- ザック
（ドアが鳴り、客が来る）
（その客はオレの顔を見ると傷顔を歪ませて嗤い、オレの隣に座る）
（オレは付き合いでへらっと笑ってから、ヌマルの兄貴に向かって尋ねる） -- ザック
……なんであんな物を、オレらに運ばせた？ -- ザック
（カマかけのタイミングとしては、シズに言わせてみればまだまだで、ランディに言わせてみれば稚拙にも程があるタイミングだっただろう）
（そもそもその疑念も、全てが終わって事実を整理したランディが提唱したことであり、オレはその事実を確かめる為に目減りしない備品としてここに遣わされただけだ）
（その、稚拙で愚鈍なオレの問いに、ヌマルの兄ィはいつもの笑みで笑い） -- ザック
……ここも、奢ろう。 -- ヌマル
（そう、肯定の言葉を、返した）
（何度も言う。オレが、この悪から這いずり出てきたような男と、並んで酒が飲める理由は、ここにある）
（ヌマルという男は、自分の悪に対して何の誤魔化しもしない。ただ、悪であるのならば悪のまま、そこに存在しているんだ）
（相手がオレのような格下のチンピラであっても、口先で誤魔化そうとはしない。偉ぶろうとはしない）
（何の誤魔化しも必要ないからこそ、真正面から斬り、そして斬られる。それを東洋では、任侠道と言うらしい） -- ザック
ここから先は、ランディが言ってた言葉だ。あいつの言うことはムカつくがいつも正しいから、きっと正しいんだと思う。
全部、あんたが仕組んだことなんだなヌマル兄ィ。長崎剣友会若頭。
三日前、オレに偽物のデュラハンの首を運ぶように依頼したのは、アンタの部下だったんだ。
ラッキーヒルズと名乗ったのは単なる嘘で、シズが調べたところ、あれは剣友会傘下の下っ端で、名前はエヴァンスって言うらしいな。
あんたは互助会ラッキーヒルズを装ってオレに依頼をし、その結果同時にいくつかの問題を解決しようとした、そうだな。 -- ザック
一つ。
手元に周りに周ってきてしまった「デュラハンの首」を、剣友会に後腐れない形で処分をしたかった。
あんた、四日前に呑んだ時言ってたな、売人との取引で渋られて要らぬ時間を取られたって。
それは、高額商品である「デュラハンの首」を掴まされたってことだったんだろ。
それが荷物に紛れていたのか、アンタの知らないところで取引がされたのか、
もしくは兄ィがそれを持っていることでデュラハンに付け狙われることを知らなかったのかは知らないが、
面倒事を抱えることになった。素直に返した所で今のオレみたいに因縁をつけられて暫くはそれに悩まされることになる。
だから、外部にいる、目減りしない、オレや便利屋を利用してそれを輸送し、あわよくばデュラハンに奪還させようとしたんだ。 -- ザック
二つ。
これも四日前にここで呑んだ時に聞いたことだ。
ラッキーヒルズを潰したいらしいな、兄ィは。
だからここらで、オレ達便利屋に対しても、ラッキーヒルズに対する悪感情を植え付けておきたかった。
やがて露呈することであっても、オレの手の早さはアンタが一番良く知ってる。
道端ですれ違って剣友会の下っ端みたいに因縁の一つでも付け合えば、あわよくば敵対関係になる。
横合いからオレ達が殴りかかれば、もっと大きな力を以って一気に潰すことも出来るかもしれないからな。
だから兄ィは即席ではあるけど、種を撒くような形でラッキーヒルズが黒幕であるように仕向けた。
もちろん、これはデュラハンの登場を織り込んでの話だ。
この話を俯瞰で見たとき、一番通りがいいのは、ラッキーヒルズがデュラハンをオレ達を利用して潰し合いをさせた、って構図だからな。 -- ザック
三つ。
ルートの一つであった、高純度の麻薬。
あれは、この件とは関係ない別口の輸送だったんだろ。
むしろ、そちらの輸送が先にあって、『それと同じ目的地と経路を以って、ヌマルの兄ィが首と、首のダミーを運ばせた』んだ。
そしてそれを輸送していたのは、今回ババを引かされた、ヌマル兄ィの取引相手だった、そうだな。
つまり三つ目の目的としてアンタは、自分のところの手駒を最小限しか使わずに、自分たちとの取引で公正な取引をしない場合、
その後どういう顛末になるかを本人に、そして他の輸送取引組織に知らしめようとした。
結果としてデュラハンの首を掴ませた連中は、その何倍もの損失を被ったことになる。
これが、今回のアンタの計画の全て、らしいな。 -- ザック
（静かにザックの話を聞き、いも焼酎を傾ける）
……概ね、間違ってはない。
お前の、いや……お前にその知恵を与えた者の言う通りだよ。 -- ヌマル - ……あんまり、聞きたくねえ回答だったけどな。それ。
（冷えた果実酒をを傾け、小さくため息を零す） -- ザック
- ……殴りかかって来ないのか？
こっちは、歯の二、三本、骨の五、六本は覚悟してきているというのに。
（酒盃を傾けながら、苦く男は嗤った） -- ヌマル
- 『餃子巻き』は、勘弁でな。
（嫌そうな顔で言うと、ヌマルは楽しげに頬を上げて嗤った） -- ザック
……その、なんと言ったか。ランディ、某だが。
便利屋がお前のような無鉄砲を抱えていながら組織として破綻していないのを不思議に思っていたが、中々優秀な男のようじゃないか。
もし、必要なら俺の側近のポストを「空けて」待っておくと、伝えてくれないか？ -- ヌマル - 一応伝えてはおくけど、普通にお天道さまの下歩けないアンタとサシで飲むとか絶対嫌がりそうだけどな、アイツ。
これをアンタに直接リークするって言ったら相当ビビってたしな。なんか葬式の手配しとくとか何とか。 -- ザック
- 楽しくやってるじゃないか。相変わらず。
……ザック。俺は今回お前を騙したわけだ。
お前の性格は理解しているし、俺にどんな事情があったとしても、それをお前が許すことはないことも知っている。 -- ヌマル
- ほう？ で？（へらっ、と笑い）
長崎剣友会若頭が、こんなどこにでもいるチンピラの溜飲を下げるために、指でも詰めてくれるとか？ ねえだろ。ありえねえよ。 -- ザック
- それが望みか？ ザック・ザリップス。
（その瞳には、濁りがない。ただそこにある物を、そうであると告げるだけであるような、簡素な問いだった） -- ヌマル
- ……アンタの指なんかいらんよ。大事に飾っておく程綺麗な指してないだろ、お互い。
ただ、落とし前は付けてくれ。アンタが、恐らく俺達に駄賃として与えてくれたルートの一つで手に入れた高純度麻薬。
二ヶ月程度食うに困らない程度の量しかなかったあれが、『アンタの思う、俺達の命の価値』か……？
（手の中で、ミシリとコップがヒビ割れる） 俺達は、命を賭けた。 アンタは、何を賭ける。 -- ザック
- （その言葉を聞き、静かに俯き）
（懐から財布を出して、一枚、金貨を取り出し、バーのカウンターに置いた）
（１G）
（飲み物一本分にも満たないそれを、ザックに向けて滑らせる） -- ヌマル
- ……これは？
追加の報酬か、何かか？
（その、明確な回答を前にして、男は男に尋ねた） -- ザック
俺の、命の価値さ。
（長崎剣友会。その若頭にして先を見据え、命の修羅場をいくつもくぐってきた男は）
（そう、冗談めかして笑い、バーテンに飲み物の代金を掴ませ、席を立つ） -- ヌマル - （ヌマル程の男にそう言わせたのなら、きっと、男の命の価値なんてものは、この程度の物なのだ）
（だったら、オレはその代金を拾い上げ、笑いながら大事に胸に仕舞った）
また呑もうぜ、ヌマル兄ィ。 -- ザック
- （男はその言葉に振り向かず、後ろ手に手だけ振って、バーを後にした） -- ヌマル
- （一人、カウンターに座り、よく冷えたウィスキーを喉に流し込む）
（命と、命のやりとりだ、何も不公平なことはない）
（世界がいつもこうであれば、もう少し生きやすいのだと世界を憂いながら、静かに男は酒精を傾けた） -- ザック
- 【つづく】 --
- 【運び屋 ３】 --
- （埠頭への道を進みながら、タンドラ後部の荷台で箱を抱えたままシケモクを上下させて）
なあ、ランディ。昨日何食った。 -- ザック
- 屋台で豪勢に大盛りのフォー（具なし）だが（シフトレバーに片手を置いてラジオから流れるジャズを聞き流す） -- ランディ
- なんでお前そんないいもん食える程金持ってんの？
こっちは情けなくもヌマル若頭の奢りで酒呑んでたんだぞ？（荷台で後方を見たまま不満げ） -- ザック
- 先月ヘマした誰かさんと違って懐に余裕があるもんで、心の栄養を付けに行ったんだよ
長崎剣友会の若頭（武闘派）ヌマルの旦那と？また物騒な相手と飲んでたな…看板通り剣を交えたら友達で酒を飲んだら兄弟だ、か？
と言ってもお前でさえスライスサラミ一歩手前だったと言わしめる相手と聞くが
なんでかまたお前とはだいぶ気が合うらしい、俺はこの街で10km圏内に近づきたくない相手三本の指に入るな。 -- ランディ
- まあな。例の河川敷抗争以来だな、付き合いは。オレにしてみたら逆にお前らがそんなヌマル兄ィを怖がる理由が分かんねえ。
面も経歴もカタギじゃないが、冗談も通じるし逆鱗に触れなきゃ誰も沈めないぞ？ あの人。
拷問知ってる数半端ないけどな。『"ライダー"』とか『"強炭酸"』とか。ああ、『"餃子巻き"』とかはオレでもマジで引いた。 -- ザック
- 『マカロン』見たら何も言えんわ。シズも口元抑えるレベルだったからなアレは
俺はお前が"エイナル育英会"代表のオセイロ氏を怖がってる方がわからんよ。
外系団体だが孤児院や保育所、託児所経営とかこの街の教育水準や身寄りのない子供のために頑張っている人じゃないか
確かに裏はこの街切っての暗殺組織シャドーギルドの長として自ら（半ば私刑の形で）動いているらしいが…
インテリでカリスマ性も備えた穏やかな人物じゃないか逆鱗に触れなければ…
一度シズがうっかり口を滑らせて一瞬のうちにレンガブロック塀に大の字で磔にされた時を思い出すと今でも足がすくむ。 -- ランディ
- 分かりにくいことが嫌いなオレからしてみればああいう表の顔と裏の顔が乖離してる存在は脅威なんだよ。
なんで飯の話からこんな食欲減る話に推移したんだよ。（やることなくて暇なのでシケモクを吐き、新しいタバコを口に咥える）
なあ、ランディ、もう一個聞いていいか？
今何キロ出てる？ -- ザック
- 世の中表だけじゃなんともならんって話だよ、要は。
危うく思う一人の話するとこｒだったじゃないか。まったくなんでこんな…
何？法定速度は守っているぞ、こんなところで捕まりたくはないからな
それがどうかしたか -- ランディ
- 徐々にでいい。速度上げろ。
……なんか着いて来てるのがいる。（箱を膝に抱えたまま、後方に目を凝らす）
（そこには、馬に跨った鎧騎士のような姿の何かが、こちらに向かって走ってきている） -- ザック
- …そいつは、穏やかじゃないな（サイドミラーで一瞥するとシフトレバーに置いていた手が二度上がり、レバーを軽く小突く）
B級映画じゃないんだから鎧騎士とチェイスなんざ御免なんだが…（徐々に速度を上げ、信号が変わり赤になる…というところで減速し停止線に向かうが）
な！（一気にアクセルを踏み込んだ） -- ランディ
- （急加速に身体を踏ん張って歯をくいしばって笑いながら）やべえ、やべえやべえやべえ、やっこさん追いかけてきてるぞ！
勘違いの人違いって線が完全に消えた！ しかも早ぇ！ 馬の速度じゃないだろあれ！！
（がたん！がたん！と左右に揺られながら）おい誰だよ運ぶだけの楽勝な仕事っつったやつ！ B級映画も真っ青なことになってんぞ！ やばい、あいつ槍構えてる！
ランディ、狙撃できねえのか狙撃！ 運転代わるぞ！！ アクセル踏んでハンドル切るくらいならできる！！ -- ザック
- （その間にも鎧騎士は速度を早め、馬のいななきと共に投げ槍の射程距離へと近づいてくる） --
- お次はゾンビか剣奴か？冗談じゃないぞ全く！
全部お前だよアホ！お前の運転で狙撃しろって方が無理だ！
任せろ！ちょっと片側交互通行になるがケツ掘られるよりましだ！
しっかりつかまっていろよ！
（4車線道路のド真ん中に車線変更、クラクションと車の風切音を豪雨のように浴びながら道路のド真ん中を車を避けつつジグザグ運転に入る） -- ランディ
- ちょ、待っ……おい、お前死ぬほど鼻打ったぞ今、ちょ、待、おい！！（荷台で上下逆さまになりながら）
うっわ、えげつねえ。（車の後方で他の車をなぎ払いながら鎧騎士が追いかけてくる）
黄金歴何年だよ今……引くわ。なあ、鎧騎士の知り合いみたいなの居るかお前。
いたとしたら随分ひでえ真似したんだなあれ、随分とまたご執心なことで。
……っと。当たった。轢かれた？ 正確には横転した車にぶち当たったって言やいいのか。顔面ぶっとばされたのが見えた。 -- ザック
- ハッハー！見て見ろ！文明の勝利だ！いいやあんな知り合いはいないな、余は最先端を愛するものぞ、とな
よしよし、このまま進もう。流石の鎧騎士様でも無事ではあるまいしここらの賠償は任せようじゃないか
（車線を戻しつつご機嫌にシフトレバーを変えては鼻歌を） -- ランディ
- ………（鼻歌を歌い始めるランディをよそに、荷台に立ったまま箱を抱えて口を開けている）
………なあ。もう一個だけ聞いていいか、もう一個だけ聞かせろ。
（滅茶苦茶嫌そうな顔で）……顔面ふっとばされても生きてる人間っていると思うか。
（車の遥か後方、鎧の首から上がない鎧騎士が、更に速度を上げて追いかけてきている）
……おい、やばい、オレが天才だからかもしれんが、この箱の中身が分かったぞ。
なんか丁度そういう物が入る大きさだし、そういう物が入っててもおかしくない重さだった気がしてきたぞ今！
そりゃないと不便だもんな！取り返しに来るよな！！（恐らく、デュラハンであろう相手に引きつり笑い） -- ザック
- あぁクソ！あぁクソ！そういうことかよ！（急ハンドルで再び車線のド真ん中、間違った意味で中央線に入りアクセルを蒸かす）
東の埠頭にその箱じゃなくて！
箱で誘い出したアレを持って行けってことかよ！クソックソッ！
なんてもんを預かったんだよお前は！（再びクラクションと車の風切音がざっと押し寄せてくる）
大体宛先は誰だ！心当たりはないのか！？埠頭で海に沈めちまえそんなもん！ -- ランディ
- （再び乱暴な運転に戻った荷台で毒づく）知るか！ 首から上のない知り合いなんざいるか！
大体、1000G程度で割りに合う仕事じゃあないだろこれ！ どんだけ被害出てんだ！取り敢えず撒け！撒けぇ！！
（かなり乱暴な運転で右往左往した挙句、何度か襲撃に遭いながら何とかデュラハンを撒き）
……し、死ぬかと思った。何なんだ、あのバケモノ。
そんなにこの首が欲しいのかよ。いや、欲しいよな。オレだってなくしたら探すもの。
こんな…………（荷台で真横になってる荷物の中から転げ出している物が、ただのずた布であることに気づき、硬直する）
……おい、これって。
まさかとは思うが、オレたちのルートが囮とか、そういうのか？ -- ザック
あぁ？（ミネラルウォーターを口に流し、ミントタブレットをバリバリかじり）
おとりって、じゃかなんなんだ？サッパリよめんぞ、埠頭まであと少しだがもう帰りたい気分なんだが
シズはさんざくさコールしたのに出やがらないし、ただの布きれ目当ての黒騎士様がポップしてくるわ、車が途中で何台オシャカになったか考えたくもないんだが -- ランディ - ああー………っていうか。
そりゃ、仁義に外れるっていうか、信頼関係崩れるよな……。（目が既に据わっている）
いくつルートあったか知らんけど、初の取引で普通囮側として使うか？ ラッキーヒルズ。
ああ、だめだ、ランディ、ちょっと先帰ってていいぞ。多分1000G貰えるような仕事じゃない、これ。
それ以上に、オレたちがこんだけ苦労してる傍らで、悠々アレの首だか他のもんだかを運んでる人間が居ると思うと。
ムカついてムカついてムカついて……。（怒りの形相で腕を鳴らしながらランディをそのまま、埠頭の方で歩いていく） -- ザック
- （と、埠頭のほうにザックとランディが歩いてくると、見知ったフード姿の男が1人）
（遅かったな、とかいいつつ手元でジグソーパズルのピースを弄んでいる） -- シズ
- おい、ザック？さっきから何を言ってるんだ？おい、聞いてるのか？先帰るぞ？おい！
クソッ！なんなんだ一体！（不機嫌丸出しでハンドルを平手で叩く） あぁ、クソ！これだからあいつが持ってくる仕事には関わりたくないんだ！
（おまけにこのままさっき来た道路を走れば間違いなく手が後ろに回る）
（やむ負えなく、埠頭にある倉庫の一つを一時的に有料で間借りし）
（助手席に置いておいたライフルケースを取り出し、溜め息を吐いた）
（駐車料金、口止め料、ナンバープレートの交換、弾薬代、誰が出すんだこれは）
（ザックは相手の目星がついているようだし、結局一番最低で楽で安い稼ぎ方。「死体からはぎ取る」しかないことにめまいを覚える） -- ランディ
- （埠頭にてザック怒りのコブラツイスト） -- ザック
- （埠頭にてランディ怒りの腹パン） -- ランディ
- （痛ッ！ 痛ってぇよクソ天パ！ やめろクソが！！ などと喚きつつ激しくタップ。無論ザックの体にタップ、力の限り）
（さっさと離せアホが！ こちとら誰のせいで今の今まで裏取りだのヌマル兄へのご機嫌取りだのしてたと思ってんだクソがッ！ とかいいつつ目端を吊り上げる）
（別のところで別の仕事をしていたようだ……といっても、勿論楽をしようと言う腹が無かったわけでは決して無い。それはザックにもランディにもお見通しなのだろう） -- シズ
- （クソメガネてめぇ猫の時あんな真似しといて今の俺を殴る権利あるとでもおもってんのかおいぃいい！？ とかいいながらも殴られて転がる。無論カウンターの右ストレートは叩きこんでおく） -- シズ
- それはそれ！これはこれ！ -- ランディ
- てめえ体力有り余ってんじゃねえか！クソが！こちとらボロボロだっつーのに！！このクソが！死ね！！二度死ね！！ -- ザック
- （調子いいこといってんじゃねぇええ！ つかてめーらだって随分と殺意と元気が有り余ってるじゃねーか！ 俺を殺せる元気があるならその元気で死ね！ 確実に死ね！） -- シズ
- 【運び屋 ２】 --
- この箱を明日中に指定の場所に運ぶだけで1000Gだとよ。（事務所の長机の上に抱える程度の木箱を置く）
どうだよ、オレ以外ほっつき歩いてた間に、こんなにバリバリ割りのいい仕事取って来てやったぞ？
カミサマ仏様ザック様と感謝されてもいいんじゃねえか、おい。 -- ザック
- この際「水道さんの次にお世話になってる事務所内序列2位の冷蔵庫様の外装がなぜか歪んでいる」ことと
「俺の本棚、特に東洋学術文庫の欄のささえ板がヘシ折れてる」とか
「シズのパズルケースがひしゃげていて近くの壁に陥没がある」
ことはまぁ不問にしてやろう（荒縄を絞首刑用の結び方に整えつつ）ハリ具合を確かめる）
誰の、どこへのお使いだって？ -- ランディ
- ……っキーゥズ（あいまいな表現）の依頼で、まあ、東の埠頭へ。
なんだよ、細かいこと気にするなよ。楽な仕事だろ。
お前のあの、なんとか言う車だって先日の儲けでようやくガソリン入ったって言ってたろ。
お前が運転して、シズ隣に乗せてオレが荷台でこれ守ってりゃ、ちょちょっと飛ばせばすぐ着くだろ。 -- ザック
- …（あっこいつ厄介事と分かってやってやがるな）
そうだな、楽な仕事だと今晩お前は吊られて寝ずに済むぞ（柱にロープを括り付けて処刑の準備を整える）
タンドラ。あれはガソリンがない間も防弾処理を続けていたから出せるには出せるが
…何時に埠頭なんだ（自分のデスク近く、横倒しになっている施錠されている鋼鉄製のロッカーからセミオートライフルを取り出し分解していく） -- ランディ
- おい辞めろよ、お前ら本気で吊るから痛いんだよそれ。寝にくいし。（引く）
それだ、タンドラだ。何ヶ月ぶりだよ。動くのか若干心配になってきた。
15:00、とか言ってたな。埠頭までここからタンドラで飛ばせば一時間、昼食いながら優雅にドライブしてりゃ金が貰えるだけの仕事だ。
冒険の稼ぎ一ヶ月分と思えばでかいヤマ引き当てた感じだろうがよ、何が不満だ。 -- ザック
- 地を眺めながら寝るか、明日の夜明けを待ちながら寝るのとどちらがいいだろうな。俺は断然後者を薦めたいが
メンテナンスはしてたから動く。安く引き取ったが部品交換や調整は欠かさなかったからな
明日の昼間か…こいつ（暗視装置）はいらないか。そうだな、それが本当なら何よりいい仕事だ。特に俺はお前が荷物を運んで受け渡ししている間遠くから見ているだけだろうし
何が不満？お前のその「何かヤバイことに心当たりがあるんだが、特に問題がなければ丸儲けできるだろう」という極楽よりご機嫌な頭だよ！
あからさま過ぎてシズならすぐ裏どりに出るぐらいのな！
クソッ！なんでお前だけ残っている時に限って依頼が来るんだ…… -- ランディ
- 人徳か？ 日頃の善行の積み重ねの結果かもな。
あるいは普段あまりに不幸すぎて幸運を恵んでくれたカミサマのくそったれな気紛れかもな。
シズはいないようだし、オレら二人で出るぞ。書き置き残しておきゃどっかで合流するだろ。 -- ザック
- 【運び屋】 --
- （窓から入る光が夕刻の赤を示している。薄く開いた瞳でそれを捉えると、徐々に意識は覚醒していく）
（意思の介在しない不可避の眠りによって泥のようになった体を起こす）
（と、一瞬地面がどちらの方向にあるか分からないほどの眩暈と、喉の奥で紛争でも起こっているのかと錯覚するほどの吐き気が上がってきて口元を押さえる）
（耳元でオーケストラの演奏の如き喧噪が鳴り響き、余りにイラついて拳を振り回すがランディの本棚にぶち当たっただけで何の爽快感もない）
（オレは朦朧とした意識の中、もう二度と酒を飲まないことを固く誓う）
（どんな美女に誘われようが、どんなに人生に嫌気が差そうが、絶対にだ） -- ザック
（眠りに落ちる前の記憶を辿る。二日酔いで朦朧とした頭でも、三丁目で「一部」同業者である東洋系組織、"長崎剣友会"の下っ端に絡まれたところまではすぐに思い出せた）
（同業者でありながらオレの顔すら知らないレベルの下っ端であったことを差し引いても、双方にとって何の得もない喧嘩であり）
（オレの嫌う完全なる無駄な争いであったが、それに関しては十秒弱で終わったので大した記憶はない）
（その後、かなり時間が経ってから、落とし前として剣友会のヌマル若頭が事務所に顔を出して来たのもかなり鮮明に記憶している）
（本当は下っ端の不祥事が起こってからすぐに顔を出すつもりだったが、売人との取引で渋られて要らぬ時間を食ったと愚痴っていたことすら思い出せる）
（剣友会の喧嘩を売ってきた下っ端は、俺が責任を持って"処理"しておいたとも言っていたので、今後同じようなことはないだろう。それは保証がされている） -- ザック - （そこから先が曖昧だ。ヌマル若頭とサシで呑んでいた記憶は思い出せる。ヌマル若頭は剣友会切っての酒好きで酒が入ると饒舌になるオレと話は弾んだはずだ）
（互いの人生の愚痴やら、今敵対している組織の暴言やら、誰々をナエド港になんとかした話など、話に花が咲いたはずだ）
（その後の記憶が、ない）
（完全に、ない）
（今ここで目覚めるまで、消し飛ばされたかのように記憶が無い）
（水道さんの蛇口を捻ったところで気づく。冷蔵庫がない）
（何かを引きずった跡のような物を辿ると、それは事務所の窓のところまで続いていて）
（ガンガン痛む頭を抑えながら窓の下を覗くと、何故か冷蔵庫が２Ｆから放り投げられたかのように横たわっていた）
（……なんだ、"不幸な事故"か。ランディやシズが帰って来る前に戻しておけばいい、万事解決だ） -- ザック
- （そこで改めてド級の吐き気が上がってきて、口を抑えながら這うようにしてソファーへと辿り着き、天井を向く）
（今日は仕事にならないな、これは、と思いながら胃液とアルコール臭い吐息に咽いでいると、ドアがこんこんと、大人しげに二度ほど鳴った）
（こんな時にランディのクソ眼鏡はいない。本体ごと眼鏡の台座が何処かに出かけてやがる。しかたがないのでオレは地面に破り捨てられたシャツを羽織り、ドアを開く）
（そこには、如何にもカタギではなさそうな男が立っており、オレが嫌そうに顔をしかめるとこちらの名前も確かめずに名刺を出しながら名乗ってきた） -- ザック
……ラッキーヒルズ。 -- ザック
（そこのエージェントだと名乗る男は、慇懃無礼な程何度も頭を下げながら、便利屋に依頼がある旨をやたら早口で告げてきた）
（オレは二日酔いで痛む頭を抑えながら、その何処かで聞いたことのある名前を思い出そうと、記憶を掘り返す）
（どこかで聞いたことある社名なんだが、出てきそうで出てこない）
（ふと、何故か刀傷と弾痕だらけのヌマル若頭の顔が浮かぶ）
（ああ、そうか。『互助会ラッキーヒルズ』）
（昨日若頭が絶対にぶっ潰すって言ってた、"長崎剣友会"の敵対組織の名前じゃねーか） -- ザック
- 世の中には先行投資、先物買いというものがあるがそれはまず資本が無ければ成立しない。そして今回は缶詰がその元手となったわけだが。 -- ランディ
- 一月はまぁ、飯に困らんだろう。それに寒いだろう今は2月だ。どうだ毛皮なんて、掛布団にいいぞ。
（乾した鮭や兎が洗濯物干しに吊るされ、毛皮の束とどう見ても現地物の酒瓶とお薬類白い御粉が積まれた応接机） -- ランディ
- （自主的に元手を取り立てていく先物とは初耳だぜ、実に先鋭的だな。まるでヤクザだ。などと皮肉をいいつつ干し鮭を齧る）
（シズはシズで勝手に仕事をこなし、尚且つどこかで見たようなクソメガネの手配書の出元に情報をリークしたことでいくらか報酬を貰っていた）
（それによってこのクソメガネが遠くない未来、塀の向こうに落ちるのかもしれないが、知った事ではない）
（どうせ自力で戻ってくるだろう。前みたいに）
（それはそうと、俺はまた面倒の種が目前に転がっているように見えて今から頭が痛いんだけどな、と机の上に転がる小麦粉のような何かを指差す）
（どうみても検疫所を通っていない代物だ。というか通れるわけがない） -- シズ
- 巨大山猫と同じく、現物支給だったんだ。まぁ、なんだ。お試し品とか言ってたからな。
買い手を探しに行く予定だったが、検品できたかねシズさんは
ちなみに俺は人気者になったらしく、夜急いでここに来たわけだから…そういうことだ
（所謂手続きなどしてないのはいつものことなんだが） -- ランディ
- （無論問題ない。どれもこれも天然物の一級品だ。然るべき場所に卸せば、当分うちの冷蔵庫も仕事に困らなくなる、と、大きく溜息をつきながら、静かに答える）
（この手のヤバイ物を捌くのは主に俺とランディの担当で、そしてランディは今動けない）
（つまり、また俺の仕事が増えたというわけだ）
（安全性を優先して、どこかの組織を仲介して捌く。いくらか安くなるが、それでいいか？）
（そう逐一確認を取る。大金の絡む話だ、流石に曖昧にはできない） -- シズ
- 現物支給ばかりで金が一銭も入っていなくてこの有様。『手数料』でいくらか差っ引かれても文句は言えないことぐらい俺でもな。
（所謂シズへのマージンも含まれているが、反政府組織に雇われた傭兵として活動したという記録が出たのが悪かった）
（命は金に引き換えることができるが、自分の命はそうはいかない。無政府状態であるし一月はおとなしくするべきだろう）
天然の上物、向こうじゃあの山猫にもやってた。中々見ものだったぞあれは…二度と見たいとは思わないが
安全に金が手に入るなら問題ないさ、何せ今月命の切り売りをして無一文だったヤツがいるらしい。
飯代ぐらい俺たちがちょっと出さないと、なぁ困ったものじゃないか、なぁシズ -- ランディ
- （そういえばそうだったなぁ、どこの誰だか知らないが、欲かいて遺跡に潜って大損こいたとかなんとか）
（遠征費用で確実に足がでちまってるよなー、と、わざわざ大きめの声でいう）
（これくらいの皮肉をいう権利くらいは今の俺にはあるはずだ。あるといえ。いわせろ。死ね）
（それはともかくとして、一先ず粉は丁寧にミスリルのケースに積め、しっかりと施錠して背嚢に仕舞う）
（正直、コレだけの量を売ったとしても……借金はまだまだあるし、ミカジメはせびられ続けるし、エアコンは直らない）
（せいぜい暫く食が保障されるだけだ。我等が事務所の台所事情は常にファイアホイール状態なのである） -- シズ
- 東洋のことわざに「急がば回れ」「急いてはことを仕損じる」等あるな、いや一攫千金などいかんね。
地道にコツコツ稼ぐのが一番だよ。夏までにはエアコンをなんとかしたいし、そこらへんをな。
んーどうするか、しかし。平和が何より好きな彼を慰めるには何がいいか？
先日お世話になったバーの連中に慰めてもらうか、それとも化粧の濃い女が接待してくれるところがいいか？
失敗割引クーポンなんて配ってたぞ？ティッシュと一緒に
（『諦めないで！』『生きてれば次がある』『命大事に』『ラッキーなあなたに！』『実際元気』とか書かれたティッシュの裏の紙クーポン） -- ランディ
- （どっちに向かわせても美味しい思いができそうだ。お互いにな。今度また呑みにでも誘うついでにつれてってやろう、と悪い笑みをランディと共に浮かべつつ立ち上がる。もう少し休みたいが、モタモタしてもいられない）
（ヤバイ物の取引はスピード勝負だ。当局だってバカじゃない。ずっと持ってりゃいつかは怪しまれる。そうなったらもうアウトだ。当便利屋事務所は叩けば埃がでるどころの騒ぎではないのである）
（丁度日も傾き始めた夕刻。静かに俺たちは動き始める。宛ら溝鼠のように） -- シズ
- 【猫探し その後３】 --
- 『俺はこうみえて信心深いほうだ。気が向けば教会に足を運ぶし、その後にはだいたい宝くじを買って帰る。誰だって何かを疑うより何かを信じたほうが毎日健やかに過ごせる。これは間違いないことだ』
『なにより祈るだけならタダだ。信心はフリーの上にセルフサービスである。これは非常に重要なことだ』 -- シズ
- 『そんなこの事務所で間違いなく最も健やかな心をもった俺ですら、世の中には幾つか信じる事が難しいものがある』
『１つは「こちら側のどこからでも開けられます」と書かれたパッケージ』
『１つは「善処します」とだけ言って曖昧に笑う役人』
『そして、１つは「冷蔵庫の中身を掻っ攫ったり水道で握力検査をおっぱじめたりする仕事仲間」だ』 -- シズ
- 『今回俺は仕事でヘマを踏んだとは思っていない。絶対にドジを踏んでいないと言い切るほど俺は傲慢では無いが、それでも今回の仕事に限って言えばかなりスマートに役割をこなしていたはずだと思う』
『確かにクソのような仕事だったが簡単に済むはずだったんだ。それがどうしてこうなっている?』
『どうして俺があのクソメガネの代わりに追い込みかけられて、その上、あのクソ天パがぶっ壊した水道様の修理すらしなきゃならねぇんだ』
『簡単な話だ、俺しかしないからだ。クソが』 -- シズ
- （心中で思いっきり悪態を垂れながら、路地裏の隅でゴミを漁る。コレが今の俺の仕事だからだ）
（事務所のテーブルの上におかれた、連続殺人強姦魔の足取りを追う為だ。奴のヤサの当てはすでについているが、まだ裏が取れていない）
（故に、そのヤサから出ていると思われるゴミをかたっぱしっから漁って手掛かりを探しているのだ）
（ゴミ漁りは人を調べる仕事では、基礎中の基礎である）
（クソったれな話だ） -- シズ
- （幸いにもこれで裏がとれて、いざ仕事に移れそうだ）
（この仕事は1人でやろう、メガネは論外だし天パじゃ隠密行動はまず無理だ。決して報酬を独り占めしたいからではない。これは適材適所なのだ） -- シズ
- （冷蔵庫に残されたクソ眼鏡の記念写真については、あとで天パと一緒に仕事していいかもしれない）
（おそらく、そのときだけは協力的になってくれるだろう。人は利害で繋がるかぎりはある程度信頼できる） -- シズ
- 『そうして暫く考えて空を仰いでから、フードを目深に被りなおして路地裏に消える』
『仕事の時間だ。今日も仕事前に祈っておこう。俺は信心深いのだ』
『天にまします我等が父よ。今日も生きる糧を与えて頂き、ありがとうございます』
『できればもっとマシな仕事よこしやがってください、クソったれが』 -- シズ
- 【つづく】 --
- 【猫探し その後２】 --
- 『最初に言っておく。オレは争い事が、大嫌いだ』 -- ザック
- 『この世から戦争なんて無くなればいいと思っているし、近所の餓鬼共がたわいないことで言い争いをしているのを聞いているだけでも胸が痛む』
『創作話の中で男女の愁嘆場があるだけでも本を閉じるし、そこに暴力が絡んで来るとなれば尚更眉間にしわを寄せる』
『便利屋というくくりの中で、誰が一番平和を愛しているかといえば間違いなくオレことザック・ザリップスであると胸を張って言う事が出来る』 -- ザック
- 『オレは平和主義だ。だから平等という言葉と公正という言葉と両手を繋いで、心穏やかに生きていく事が出来るならそれが最高の幸せだと思っている』
『こんなささやかな願いすら叶えてくれないこの世の中の方が、何か勘違いをしているのではないかと最近思わずにはいられない』 -- ザック
『つい先日、"不幸な事故"によって報酬が得られず、タダ働きとなった仕事から数日が経ち、オレは水道の蛇口を捻る』
『今も何処にいるかわからないクソカス眼鏡のせいで冷蔵庫の中身が消え失せ、代わりに趣味の悪いブロマイドが入っていた不幸により』
『オレは再び胃の中をこのカロリーのない液体で満たすことで空腹を紛らわせている』
『水道さんは偉大だ』
『なにせ、蛇口を捻ればよっぽどのことがない限り水を出してくれる』
『本来、信頼とはこういった積み重ねの上にあるものであるし、平和とはそういった関係が広がることで出来上がる物であると思っている』
『ゲイバーのクソったれは金も払わず何が楽しいのか男のケツを触りたがるが、オレはこの長年の信頼関係を培った水道さんになら抱かれてもいいとすら思い始めてきた』 -- ザック - そう、結局はそういう信頼関係が大事なんだよ。 -- ザック
- 『蛇口を締めると水は止まる。素晴らしい。道理に叶っている。賞賛されてもいい』
『因果がハッキリしていることが、オレは大好きだ。物の売買然り、助け合い然りだ』
『物を売れば、お金が貰える。人に親切にすれば、親切が返ってくる。努力をすれば、報われる。素晴らしい』
『ところがどうだ、現実は。物を売ればできる限り金を払わず済ませようとする。人に親切にすればした方が損をする。努力をしたところで覆せないモンは山ほどある』
『挙句の果てに、一方的な暴力を振るってくるやつもいる。それは人間だったり、前回のクソったれた依頼みたいなバケモノだったりする』
『冒険中に襲い掛かってくるクソみたいなモンスター全般も、オレの中ではこのカテゴリーに入る』 -- ザック
- 『あいつらは、何なんだ。なんであんなことが出来る。なんで一方的に、オレを痛めつけようとしてくる』
『頭がおかしいのか？ 殴られたら痛いっていうのを理解していないのか？ それとも、オレから一方的に何かを奪うためにわざとやってんのか？』
『何度も言う』
『オレは、争い事が、大嫌いだ』
『そういう不平等な世界も、不公平な取引も、不条理な世界も、何もかもがイラついてイラついてイラついてイラついて仕方がない』
『オレに殴りかかってくるクソは全身の骨を砕きに砕いてもまだ許せないし、オレを騙そうとしてくるクソは喉奥に手をツッコんで舌を引き抜いてもまだ治まらない』
『オレはこんなにも平和を愛しているというのに、そんなクソみたいな利害の是非でオレの拳を振るわせて、何が楽しいのか、完璧に理解できない』 -- ザック
『気づけば、怒りで手に力が篭っていたのか、右手に握っていた水道さんの蛇口がボコボコに歪んでいた』
『嗚呼、とても"不幸な事故"だ。蛇口から手を離すと適当に水気を拭き、クソみたいに晴れた空を眺める』
『今日も、既に昼を回ろうというのに依頼の一つもない。人の役に立ち、その礼に金を貰うという至極全うな商売が回らないのは、不幸以外の何物でもない』
『限界まで短くなったシケモクに火を付け、焦げ臭い煙に噎せながら、オレはこう呟くんだ』 -- ザック
……この世から、争い事が全部なくなりますように。 -- ザック - 【つづく】 --
- 【猫探し その後】 --
- 『人生とは、ともかく刹那刹那が連続する永遠である。この出来事もまた永劫の一瞬だろう』 -- ランディ
- 『この果てしない荒野を見ているとまさにそう思う。普遍のように見えて普遍ではない…一瞬一瞬が変化しているのだ』 -- ランディ
- 『ザックが猫の刺身を作り出した後、大きな問題が２つ生じた。猫や街の損害含める賠償問題と、また水道さんのお世話になることだ。』
『俺は変わりの猫を探す為に、この南ベグタギスタン共和国を彷徨っている。噂ではここにあのゲイバーのママが大層可愛がっていた大山猫の種族的な意味での仲間がいるらしい』
『もちろん督促や賠償の招かざる来訪者の対応が面倒でいつも通りいの一番に逃げてきたわけではない』
『断じて違う。買っておいた缶詰を大体持ってきたが、逃げたわけではない』
『断じて』 -- ランディ
- つまり当面俺だけに絞れば、素晴らしいことに２つの問題を解決したことになるが…問題は見つかるかどうかだな -- ランディ
- 『問題といえば、この国では街ゆく街そこかしかこにあのデカイ猫がいるということだ』
『みんなペットのようにあのデカイ猛獣、虎を飼育している。俺だけ地獄に逃げ込んでしまった気分だ』
『断じて逃げていないが』
『おまけに無政府状態がしばらく続き、そこかしこであの巨大猫に乗った騎兵が民間人を襲っている、本音を言うとこのまま南国まで逃げたい』 -- ランディ
- 『しばらくうろついていると、ある部族の連中と話が付き、宝石鉱山で仕事をすれば猫をいくらでも分けてくれるという話になった』
『現地の言葉はよくわからないが、大空、自由、解放、勝利とかなんだか希望に満ち溢れている話だったが』
『そういうわけで来月には帰る、どうせだからある程度運んで売りさばいてみようかと思う』
『輸入業は俺の範疇外だが、サーカスにでも売れるはずだ。吉報を待ってくれ』
（という内容の手紙がザックとシズが戻った後。冷蔵庫の中に残されていた） -- ランディ
- （なぜ冷蔵庫にあるか、その疑問に応える者はいない…）
（加えて言うならば、見知った顔の眼鏡男が映る指名手配証明が同封されていたが応える者はいない）
【つづく】 --
- 【猫探し】 --
- （市街地、屋根の上。火の着いてないシケモクを口に咥えて、屋根の上に立つ男が隣に立つ男に尋ねる）
なあ、ランディ。一個聞いていいか。どうしても納得いかねえことがある。 -- ザック
- （語りかけられた男の更に隣で屋根に伏せる男が1人）
（先ほどからずっと双眼鏡を覗いている） -- シズ
- 煙草ならないぞ、禁煙中だ（電池のない電子煙草を口にして立つ） -- ランディ
- そんなこと聞いてんじゃねえよ。この際シズでもいい。聞かせろ。
（男たちが肉眼と双眼鏡で見上げるその先に、その『猫』はいる）
……全長10m超えてる猫は、猫って言わないんじゃねえのか……？ -- ザック
- あれか、ゲイ業界と一般人のネコの認識の差かこれ。 -- ザック
- （金持ち業界の猫ってのは随分とスケールがでかいんだな、などと呟きながらずっと動向を見張っている）
（目前にいる猫もとい、超巨大猫は元気よく先日捕まえた鳩を食っている。本来だったら俺達がありつけていたはずの飯だ） -- シズ
- おいどこだよ楽して金稼げるような楽勝ムードのお得意様様の依頼は。ゲイバーで尻触られたことすら許せるクソ簡単な依頼のはずがどうなってんだよ。
しかも、何だ。生け捕り？ 馬鹿か？ 死ぬのか？ むしろ死ねよ。 -- ザック
- （尚、賞金首のほうは情報屋から色良い返事が来るまでやることがないらしく、こうやって猫探しにきているらしい） -- シズ
- （てめぇがそのままケツ差し出してりゃ俺とランディは事務所にいるだけで金が入るボロい仕事だったんだけどな、と茶化しつつも双眼鏡から目は離さない。ちょっと目を離した隙にこっちに気付かれでもしたら奴の今夜のメニューが決まってしまう）
（とりあえず鳩に仕込まれた薬の効果が出るまでやることがない。ケージのほうは当然手持ちではどうにもならないのでどっかでトレーラーでもかりてくる必要がありそうだ） -- シズ
- あれ放っておいて帰って寝るって選択肢もあると思わないか。（シズに尋ねる） -- ザック
- （そうだな、放っといてお前がゲイバーで寝るって選択肢ならアリだな、とクソ真顔で呟く）
(ランディとシズの2人ならやりかねない。ザックの貞操よりも金である） -- シズ
- ふざけろ。出口として作られた器官に入口の機能はねえんだよ。
大体こういうのは害獣駆除的な名目で御上の仕事じゃないのか？ 子供の小遣い程度で何を相手させてんだよ。（タバコを上下させる） -- ザック
- （御上が動いたら駆除か捕殺の2択だから俺たちみたいな隙間産業に仕事がくるわけだな、全く有難い限りだ、死ねとかいいつつ、溜息を付く）
（そして、2人に尋ねる。アレを今から具体的にどうするかという話だ。とりあえず生け捕りなら眠らせるなりなんなりするしかない。問題はその後、運搬方法についてだ）
（トレーラーの手配はいつでも出来るが、そんなことすれば当然儲けは少なくなる。出来ればもっといい方法があると嬉しい） -- シズ
- 分からん。でかいって言っても所詮飼い猫だろ。首根っこ抑えればどうにかなる。首輪つけてノシつけて叩き出せば仕事完了と思えばボロい仕事に思えてくる。
ほら見ろ、なんか変な動き始めたぞ。鳩に食わせてた薬か何かが利いてんだろ。まあ見てろ。（屋根の上をトンッ、トンッと跳んで近づいていく） -- ザック
- （あ、コイツもう面倒になりはじめてるな、とザックの様子から察する。コイツはいつもそうだ。一定以上の難易度の問題に出くわすと答案用紙を引きちぎるような真似をするのである）
（どうなってもしらねぇぞと念押ししつつ見送る。近寄るかどうかはまずは囮を使って安全性を確かめてからだ。巻き添えはごめんだ） -- シズ
- （足元まで近づき）ハーイ、子猫ちゃん。お兄さん達腹減ってて道端の野草にすら手出し始めてんだよ。晩飯になってくれねえかな。
なんだっけ、ミーちゃん？ ピーちゃん？ なんか名前とか付けてもらってちょっとかわいがってもらってんじゃねえか。オレ達よりイイもん食ってんだろ。そろそろ家帰ろうぜ。男の喘ぎ声が聞こえるクソみたいな家だが、うちの事務所よりマシだろ。
何だったらあのクソゲイども連れてきてネコがどう――（ほぼ無音で横薙ぎに、丸太程もある腕がたたきつけられて、池に投げた丸石のように屋根を削って弾き飛ばされる）
（次いで、その獣の双眸を獲物を見つけた悦びに変えて"虎"はシズの方を見る） -- ザック
- （あーあ、いわんこっちゃねぇと見送りつつ、まだ薬きいてねぇみたいだなぁーとまさしく他人事のように観察していたが……）
（あれ、あの猫ちゃんどうみてもこっち見てるよね……？ 冷や汗が垂れそうになった次の刹那）
（既にシズは走り出していた。無論追いかけてくる超巨大な虎は先ほどまでいた家の屋根を吹き飛ばし、こちらにむかってまっしぐらにかけてくる。そうだよなぁ、お前鳩美味そうにくってたもんなぁ……ってことは筋張った肉が大好きってことだよなぁ、死ね！！！）
（既にランディのクソの姿は見えない。俺にこのクソ猫がターゲットを絞った時点で離脱していたんだろう、ちゃっかりしやがって） -- シズ
- （大型獣の緩慢さなど微塵も感じさせず、ただ単に巨大化した猫ですが何か？ 的な俊敏さで屋根を踏み荒らしながら距離を詰めてくる）
（牙亞亞ッと肺腑から絞り出したような巨大な咆哮と共に”虎”は大きく爪を振りかぶり、シズの居る場所を横薙ぐ） --
- （クソがクソがクソが！！ 俺みたいな骨と皮だけのかったい肉なんかおっかけねぇでその辺のガキとか女とかやわこいのおっかけろよ！ ってそうかお前ゲイバーで飼われてたんだもんな、だったらそりゃ男好きにもなるよな！！ 死ね！！！）
（悪態をつきながらも首筋に鋭い悪寒を感じ、まるで亀のように首をひっこめれば、先ほど首があった場所がごっそり風ごとなぎ払われ、フードの先端が破れて少しばかり頭髪をもっていく）
（何が楽でクソ簡単な仕事だ、今月冒険者ギルドで紹介されたゴブリン討伐のほうがよっぽど楽だわ！！）
（石塀を飛び越え、生垣を潜り、樽を蹴って屋根へと三角飛びと間違いなく今月最もハードな障害物競走を続ける）
（しかし、無論無策で逃げ回っているわけではない）
（そんなわけで吹っ飛ばされたザックのところまで駆け寄る。俺一人で苦労なんかさせねー死ね） -- シズ
- （"虎"はその場に着地してシズを見失ったようで辺りをキョロキョロ伺う）
（悪態を吐くシズの行く先、削り取られ、瓦礫と化した屋根の一部から逆さまに足が生えている） -- ザック
- （いつまでも寝てんじゃねぇえ！ といいながらザックを蹴っ飛ばし、瓦礫から強制離脱させる）
（多分その音であのクソ猫もこっちに気付くだろう）
（このままゲイバーまで走ってあのクソ猫誘導するぞ！ そうすりゃ依頼達成だ、トレイラー代も浮いて一石二鳥だぜ） -- シズ
- （蹴り出されて地面に転がり）……何だ、朝か？ 記憶に一切ねえ爺が貴族生活で貯めた遺産の使い道について相談持ちかけてくるからおかしいと思ったが、夢かよ。
（ダクダク額から血を流しながら）っつーか、ハァ！？ 血が出てんじゃねえか、バカか！？ 死ぬが！？ あ？ ああ、そんな仕事してたなぁ。
うわ、すげえ臨戦体制。ゲイバーどっちだ、こっちか。逃げるぞシズ！！（言うが早いか駆け出す） -- ザック
- （宝くじに当選するより非現実的な夢みてんじゃねぇ！ 血が出たくらいじゃ人は死なねぇ！ 死ぬ前に走れ！）
（何が悲しくて男が雁首揃えてゲイバーに駆け込まなければならないのだろうか。死に瀕して一瞬冷静になった俺の頭脳がそんな言葉を吐き出すが、黙殺でもって自答する）
（ぼちぼち日も暮れ、賑わいだしてきた繁華街の歩行者天国を一瞬で阿鼻叫喚の地獄へと叩き落としつつ、猫を誘導してゲイバーを目指す）
（さっきから他に餌もいるだろうにこの猫、もう俺たちしか目に入っていないらしい。野郎にしか興味がないとは、とんだゲイキャットだ）
（また、余談だが、先ほどからどうにかザックにだけ興味がうつるように何度か急に方向転換したりフェイントを入れてから別の路地に逃げようとしているのだが、そのたびにザックも同じことをして結局同じ方向に逃げてしまう）
（つまりコイツも俺も同じことを考えているというわけで、本当に死ねばいいんじゃないかと真面目に思い始めている） -- シズ
- （ああ、この逃走経路の被害って何処にツケときゃいいんだろうなあと思いながら、取り敢えず我が身可愛さに逃げる）
（いざとなったらシズに蹴りを入れて転がしてから逃げようと同じ方向に逃げていたが、ふと気づいたように顎に手をやり）
……なあ、気のせいかもしれないが。（額から溢れる血を拭って）
オレ、あいつに殴られてないか？ 一発。思いっきり。
（目の前に、漸く目的のゲイバーが見えてきた頃に、ぼそっと尋ねる） -- ザック
そうそう。東洋のことわざでこういうものがある。「二兎を追う者一兎も得ず」…得物が2匹いる分だとまぁ安全だろう、狙われる側は
（ゲイバーの前、家と家の間に巨大害獣ネットをどこぞから拝借して組み立て終わったところ）
「三人寄れば文殊の知恵」と言うが、まさにこのこととは言い難いな
（目論見通りおとりになった二人が、ゲイバーに来るだろうことを見越して設置した罠）
（そして近づく轟音、まさにその通りにザックとシズがおとりになって近づいている）
よーしよし、そのままこっちに来てくれ（笑顔で流血するザックとシズに手を振る） -- ランディ - （あの野郎絶対殺すという顔） -- ザック
- （よし、目的地が見えてきた。この命を賭けた壮大な障害物競走、ただし一回でも抜かれたら死みたいなふざけた仕事はようやく終わりそうだ）
（だっていうのに、ザックの野郎は突然そんな意図の見えない問いをしてきた）
（てめぇがマヌケに近寄って横っつらあの猫にはりとばされたからだろうが！ 何でもいいからさっさと逃げ込むぞ！！）
（ハーフマスク越しに口角泡を飛ばすという我ながら器用だと思うことをしながら走る） -- シズ
- （あとで覚えてろよクソメガネという顔） -- シズ
- ああそっか……こっちは友好的に話しかけて、平和的に解決しようとしてたにもかかわらず、
この世で一番キライな物が戦争で次が暴力な酷く善良で善人なオレが……”殴られてんのか”。
（ザッと足を止め、振り返ると）
……そりゃあ、道理通らねえよなあ！！（襲い掛かってくる”虎”に向けて長ドスを抜き放つと）
（青筋を浮かべた怒りの笑みを浮かべて、躍りかかった）
（――報酬が、それこそ夢へと消えた瞬間である） -- ザック
- （一緒に捕獲の瞬間を見ようと出てきたゲイバーのママのいやーに低い悲鳴を聞いた瞬間でもあった） -- ランディ
- （全てが遅かった、そうだ、そう口走った瞬間にもう全部が遅かったのだ）
（突っ込む気も失せる冗句に突っ込む事も出来ない速度でザックが虎へと突っ込み）
（次の刹那には当然食えない刺身が出来上がっていた）
（それをみて、俺はまた嫌に醒めた頭でただ漠然とこう思うのだった）
（ああ、また当分、水道さんに感謝しなきゃいけない日が続くんだな、と） -- シズ
- 一ヶ月経過。便利屋依頼者ゼロ。何だこれ。オレ達に死ねってか？
そろそろ不幸と幸運のバランス取るために金の卵を産む猫とか窓から入ってくるべきだろ。 -- ザック
- それはさておき喜べ諸君、本日電話が再び開通した。昨日切れた電気もだ。冒険者も悪くないな。
期限切れ間近の缶詰が安かったのも運がいいが俺はこれで来月まで過ごしたくはない -- ランディ
- 簡潔に言うと、便利屋の仕事がない。 -- ランディ
- 魂だか命だかを処分価格で安売りしてる気分だ。生きた心地がしねえ。
期限切れ間近っていうか期限切れ間近で買ったのは数日前なのでもう期限切れてんだけどな。 -- ザック
- この街って問題ないのか？ 便利なのか？ 便利屋いなくても便利なのか？ なんでオレ達だけこんなに不便なんだ？ 死ねばいい。 -- ザック
- 誰でもなれる仕事というのは悪くないがもう後に引けない気分だ、これ以上底はないだろうと思う。
そうだな、保存食でこれだから大丈夫だろうが安心しろ、2年ぐらいは大丈夫だ。一度試したことがあるが案外もつぞ。変色してたけどな。
東洋には「帯に短し、襷に流し」ということばあがある。便利とはまた中途半端でもあるからな、問題もでるだろうという言葉だ。
この街は便利ではあろうが隠れた治安の悪さはどこよりも根深い、見て見ろ俺たちが飢えている間に賞金首がまた増えてやがる。
今朝追加されたのは連続殺人強姦魔の…（ペラ紙丸めて投げてよこす）
それとも（ゲイ）バーのママから頼まれた猫探しでもいくか？ザックご指名だったぞ、よかったなお得意様だぞ -- ランディ
- 世話になりたくねえなあ二年も。路地裏の野良猫でももう少しリッチな食生活してると思うとあいつらと目合わせたら刺し身にして食ってしまうかもしれん。
この黄金歴250年の超現代によくやるな、性欲くらい20年で飼いならしておけよ……（胸で丸めたペラ紙受け止めてゴミ箱に蹴る）
ああ、その名前聞いて食欲が減衰したわ。ありがたい。死ねばいい。（書類を机から出して）
ああ……こりゃ、良く見りゃお得意様様と様を重ねて問題ないくらいの値段だな。ランディ、これから時間あるか？ あるよな。あれよ。一人じゃケツがやべえ。 -- ザック
- あいつらな、基本食えて生きているから太った猫とか見るとまぁひき肉にしたくなるな。猫でナチョス作るのは未経験だがなんとかなるだろうとか、な
これがまた常習者で脱走犯らしいが…これはシズの分野だな、あとで戻しておけよ紙
あそこの従業員一人ひとり顔を見るたびに食欲と生命欲が減退するんだが、それでも腹は減るからな
是非接待を独占してもらいたかったが飯時に…いや、まぁいい。行くか…行きたくはないが、行かないといけないというのはなんだろうな
男にはやらねばらないときが…云々と言葉は出るが、それを口に出すと辛い場所が目的地だというのは何と悲しいことか -- ランディ
- あいつらオレ達と違って可愛いからな……可愛いだけで生きてるやつ見ると反吐が出るんだよ。
面倒くせえ……あいつならゴミ箱にあることくらい察するだろ。そういう分野の奴なんだし。
男がやらねばならないときは、金がねえときか金が欲しいときだけだ。両方に当てはまるオレ達が動かなくていい道理はねえのさ。
……死ぬ程行きたくねえけどなぁ……。 -- ザック
-
- オレ達を取り巻く世界から金がない人間への優しさが絶滅してたのには気づいていたが、
驚くことにこのクソでかい冷蔵庫の中身も財布の中身と同時に絶滅してたらしいな。クソか。でけえ面して何冷やしてんだよこの冷蔵庫。 -- ザック
- 何も入っていないならコンセントを抜いとけ。例え冷蔵庫と言えど働かない者に払う金はない。 -- ランディ
- だな。中身もねえ仕事に払う金なんてこの世の何処にもねーよ。（蹴り抜く）
問題はシンプルにして明快だ。金がねえ。金がねえから食べ物もねえ。何でこんなことになってんだ、分かるかランディ？ -- ザック
- （どこかの天パ野郎がクライアントの車をお釈迦にして報酬がふっとんだからだ、と気だるげに悪態をつくのは平均からみればいくらか背の小さい猫背の男）
（大げさに溜息を付きながらジグソーパズルを続けている） -- シズ
- この前の大通りでの一件の賠償請求やら娼館の請求書等様々な要因がある。胸に手を当てて考えて見ろ。懺悔の時間ぐらいは等しくあるぞ。そしてたった今電話も使えなくなった。 -- ランディ
- 今タイプライターの紙も切れた。男三人そろってこれか。悲しくならないのかお前らは、男として、人として。
仕事の一つもなければ家を養えないんだぞ、わかるか？ -- ランディ
- 大通りのはあんなもん事故の内だ。オレは臆病なんだよ。クライアントだろうが轢き殺されそうになりゃ誰だってぶっ飛ばすだろ。
おいどうすんだよ。金を誰かにあげないと死ぬ病に掛かった美人のクライアントから電話が掛かってきても取れねえ状態に追い込まれた。
（机の引き出しを上げて書類を出し）最後の手段だ、シズ、ランディ、お前らクソみたいな仕事と仕事みたいなクソどっちがいい。 -- ザック
- （よくわかってるさ、仕事がなければ新しいジグソーパズルも鎮痛剤も買えなくて死ぬってことくらいはな、と気にしたそぶりもなくジグソーパズルを続ける。簡単な奴にも関わらずもう1週間とりかかっている）
（お前がそういう時はクソみたいなクソしかないときだ、と言いつつも一応書類には目を通す） -- シズ
- そうだな、俺もそうしてたよ。ただどんな格安のボロでも家に突っ込ませなかったがな！
待てよザック、お前まだそんなものを持っていたのか！？嫌だぞ俺は。
俺らの仕事はなんだかわかるか？最大限飾った詩的表現を用いると明るく健全で良心的なサービス業だ。
それがお前そんなものやってみろ！わかるか？傭兵だってこれよりマシな仕事をしているだろ！ -- ランディ
- （でもやらなかったら俺たち『マカロン』にされちまうぜ。今月の支払いまだすんでねぇんだろ、とまるで他人事のようにパズルを続ける）
（外枠くらいしかまだうまっていない） -- シズ
- （すごい渋い顔） -- ランディ
- うるせえ、食うもんがなけりゃどんな成人君子でも英雄でも死ぬんだ。お前がこれから霞だけ食って生きていくんなら何も言わねーよ。
明るく健全で良心的なサービス業で優しさだけ切り売りして生きていけんならオレだってお前らの優しさだけ切り売りして生きていくわ。
職業に貴賎はねえ、あるのは貧富だけだ。貧富には貴賎があるけどな。すなわち世界なんて死ねばいいと思うが、これが今採れる最善の策だ。
（書類は冒険者登録証を人数分）嫌なら身体売って来いよ。肉屋はセルフで探してな。 -- ザック
- 外でなんて呼ばれてるか知ってるか、荒事屋だぞ？ きちんと給金の出るお傭兵様と比べるとか申し訳なさすぎて食ってもない昼飯吐きそうだわ。 -- ザック
- 知っているか？東洋のことわざに「神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬る」というものがある。
真実を求めるなら神であれなんであれ叩ききれという教えらしいが
今なら俺は今日の飯の為に神を殺せる、そう思う。やるなら思えお前らも（インクの切れかかった万年筆で署名） -- ランディ
- 昨日。期限切れの乾パン食って吐いてたなお前は -- ランディ
- （最善と最悪がセット売りなんてイカした商売だな）
（体のバラ売りと大差ねぇ仕事じゃねぇか、命の切り売りだぜこりゃ、とか言いつつ渋々書類を受け取る。何も今回始めて冒険者になるわけではない。小金を稼いでは引退し、もしくは偽造書類で死んだことにして足をあらってきた）
（出来る事ならもう二度としたくなかったが、背に腹は代えられない）
（さらさらと書類に必要事項をサインをして捺印までおす。勿論全部偽造だ） -- シズ
- （カビてても食えるのはチーズだけだっつったろうに、と溜息を付く） -- シズ
- 飢えなんてモンを好き好んで作り給うた神だか仏だかに合ったら誰だって叩き切るくらいするだろう。
こういう時は命の切り売りをさせていただいてありがとうございますって言いながら署名しろよ。今どきは命だって買い手市場だ。
（折れ曲がったペンで署名する）落ちるところまで落ちたって感じするな、おい。 -- ザック
- お前らが前回のオレが車投げ飛ばした時の依頼の分前よこさず、オレにだけ長い飢えを強要した結果だろうが。 -- ザック
- あの依頼な、差し引きトントンなんだからお前にやったら余計赤字だバカ！！ -- ランディ
- ダメだ、すきっ腹にこれは応える。水で腹を膨らませて今日は寝よう…一歩も動きたくはない -- ランディ
- この世全ての富める者への怒りで胃が膨れればいいのに。怒りって普通に腹減るのな。
ちなみに水だけは半年先払いだから飲み放題だ。喜べ。そして死ね。 -- ザック
- （湖底から深海に落ちた程度だろ。水面からみりゃどっちも大差なんてねぇ。それよりザック、綴りまちがってんぞ。ランディにいい加減ペンの持ち方くらい教えて貰え。とかいいつつ自分は数字の記入を間違えている）
（山ほど偽造書類を扱っているせいでたまに間違えるのだ） -- シズ
- （落ちるとこまで落ちた沼の底なら水だけは豊富ってか、笑えるわ。死ね）
（くすりとも笑わずにそう呟く） -- シズ
- ありえないレベルの空腹で手が震えてんだよ。もしくはこの世の不条理に対する怒りでな。死ね。
兎に角だ、最終手段に手ぇ出しておいてなんだが、早いところこんなヨゴレ稼業から手を引くため『本業』で生きていけるよう気張れ所員。
明日から金持ちの猫探し的な笑いが出る程簡単な依頼をかき集めて、額に汗して勝ち組のラインに乗るぞお前ら。 -- ザック
- 鴉って食えるんだろうかな… -- ランディ
- 鳩の方が食えそうじゃないか…？ -- ザック
- …鳩、だな -- ランディ
- （ドブ川で鴨捕まえたほうがいいんじゃねぇか？） -- シズ
- この際オレは雀でもいい。 -- ザック
- （丸焼きにしたってほとんど食うところねぇじゃねーか） -- シズ
- 場所が問題だ。どぶ川じゃ下処理が面倒だ。その点、鳩は公園に腐るほどいる。豆撒いてる爺さん婆さんもいる…
雀もいい、アジアストリートで見たぞ串焼きを。世界はまだ俺らを見捨てていないらしい -- ランディ
- （ああ、確かに豆食えるのは魅力的かもしれないな……と目を細める） -- シズ
- 爺さん婆さんの撒いてる豆の方もいただけるな。東洋じゃこういうの鳥がどうとか言うんだよな（長ドス持って立ち上がる） -- ザック
- （豆、豆かぁ……とくりかえしながらこちらもパズルのピースを取り落として立ち上がる）
（ジグソーパズルはまだ殆どできあがっていない。というか出来上がった事がない。唯一完成したものは見かねたランディが勝手にくみ上げたものだけだ）
（当然あとで喧嘩になった） -- シズ
- 鳥が先か卵か先か、か？生憎鳩の卵はアテにできそうにないな（コンバットナイフを懐にしまって立ち上がる、当然狩猟道具を作る）
（余談ではあるがザックにパズルを与えてみたところ三分持たなかった、パズルが） -- ランディ
- コンビニエントセックス！！ --
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