名簿/456746?
- †
- (随分と依頼の帰りが遅くなってしまった。早く家に帰らないと両親が心配する)
(暗い夜道の中、少女は街路を歩く。でも大丈夫、手の中には大事な親友がいるから) -- ライラ
- (街頭がスポットライトのように路地を灯している)
(その一つに、紫紺のコートを羽織った男が、ライラに背を向けて立っていた) (ゴツ、と硬い靴底が大地を鳴らす 剃刀のように切れ上がった鋭い眼差しが、ライラを刺した) --
- (男の立つ街灯を通過した時、自分に向けられた冷えた感情に気づく。おそらくは殺意なのだろうが、戦いの経験の浅い一介の少女に理解しろというのは酷だ)
(男は自分より頭一つは高い。怖い。不安に駆られたまま、慌てて男性の前を通り過ぎようとする) -- ライラ
- 待て (ライラが通り過ぎようとした時、冷たい声を投げかける ヴィオラの嗅覚に、魔の残照が香ったからだ)
質問に答えろ 「欠片」を持っているのか (手には朱鞘の刀が握られている 答えを誤れば、一刀の元に切り捨てられそうな響きがその声にはあった) --
- 欠……片?(怯え、戸惑い、恐怖。およそどの表現にも当てはまりそうな物腰と弱弱しさを湛えた表情で振り向いた)
(手の中の人形は腕の中に抱かれ、ヴィオラから死角の位置にある) 何のこと? 私、知らない……。(何故こんな夜道で、自分は見知らぬ男性に問い詰められているのか、答えも分からないままに) -- ライラ
- (ヒィン、と刃鳴りの音がライラの耳に響いた 顔を上げれば、妖しい光を放つ日本刀が、眉間に突きつけられている)
そんな筈はない お前から匂う 鮮やかな光沢を放つ刃物の破片だ、次に欺けば、斬る (人を殺すことに微塵も躊躇わないような冷たさを湛えた瞳が、ライラを見下ろしている) --
- ひっ!(斬られれば死ぬ。この男は人殺しだ。何かしら気に障ることをしたのだろうか?)
知ら……(欠片。何のことかは不明だが、男は自分がその欠片を持っていると思い込んでいる) (真実を告げても、この調子では切り捨てられることが関の山だ。しかし足は委縮し、自分の意思を代弁するかのように凍てついている) やだ……やだよ……。(頬に涙が流れるも、そんなものでは免罪符にならないと分かっている) -- ライラ
- ・・・・・・・・・
(氷の眼差しが、ライラを見下ろし続ける) (妙だ、と胸のうちで呟く 詩を目の前にしたこの子供に、尚も偽る胆力があるとは思えない) (事実、崩れ落ちんばかりに怯えているのだ 演技だとは思えなかった) ならば確かめさせてもらう (パチン、と刃を納めると、コートから白鞘の大太刀を取り出した) (青白い妖気が立ち上り、ライラの瞳に映る) 何・・・?(しかし、そうしても尚、ライラから反応は帰ってこなかった) 何故だ (僅かな動揺が奔り、もう一度ライラを見据える) --
- (逃げるに好機は今だ。理由はともあれ、自分を殺し損ね、かつ精神的な揺らぎを見せている)
(働きが普段より鈍っている頭で考えられる状況は、当然であるはずの事柄を、男が見誤っていた。「欠片」という単語を探れば、もう少し深いところまで探れるとしても) (ライラはただ、逃げの一手に徹した。竦む自分を心の中で叱咤し、間髪入れず地面を蹴り前へ前へ体を押し出す) -- ライラ
- ・・・・・・(走り出したライラに反応するも、手を伸ばすのはやめた)
(確かに気配はしたが、子供から反応は現れなかった その事がこの冷徹な男を軽い混乱に陥れていた) どういうことだ・・・・・・(遠ざかっていく足音を聞きながら、もう一度呟いた・・・) --
- (手にした銃を暫く眺めていたが、やにわ懐に手を入れると、金貨を数枚掴み取り、放り投げた)
(轟く銃声、恐るべき精妙さで発射された無数の弾丸は、中に散らばった金貨をすべて弾き飛ばした) … (弾丸を真中に食い込ませ、地に落ちた金貨を眺め、もう一度手の中の銃を見る) 無粋な武器だ (そう吐き捨てると銃を地に放り捨てた) --
- (コートを脱ぎ、隆々たる体躯を晒して瞑想するヴィオラ その周りには、十本近くの巻き藁が立てられている) --
- はぁぁぁ…
(深く息を吐くと、左手に持つ朱塗りの太刀をゆるりと腰元にやり、鋭く鯉口を切った) (瞬間、全身の筋肉が唸りをあげ、目にも留まらぬ速さで光の軌跡がヴィオラの周りに煌く) --
- (風を切る刃鳴りが止み、一連の所作で生じた風圧が、埃を巻き上げ地に広がる)
(振りぬかれた刀の刀身が、濡れたように妖しく輝き、見事な波模様の波紋が、日の光を照り返していた) --
- (尖った筋肉が丸みを取り戻し、美しい動作で刃を鞘に収める)
(納刀の鍔鳴りが、静寂に凛と響いた) (それを合図としたかのように、周りに立ちめぐらされていた巻き藁が、幾線もの軌跡に分かれ、音もなく滑り崩れていった) --
- (地に崩れた巻き藁の残骸に目もくれず、紫紺のコートを羽織りなおすと、街に向かって蒼い瞳を向けた)
(夥しいセミの鳴き声をその背に受けながら、静かに男は歩き出した) --
- (ヴィオラが裏路地を歩いていると、暗がりから出てきた数人の男達に囲まれた)
(各々が手に獲物を持ち、ニタニタと笑いを浮かべながらヴィオラを囲む) 「ヨォすかした兄ちゃん、どこ行くんだい?」「ここらじゃ見かけねえ顔だなあ」「旅人さんかい?」 --
- (カツン、と靴を止め、己を囲んだ人間達をゴミを見るような目で見回す)
退け (抑揚の無い声が低く響いた) --
- 「どけですとさァー!」「俺たちとしてはぁー穏健に話し合いをしたかったンですけどぉー」
(男達はヴィオラの腰の美しい刀に用があるようだ。下卑た笑いを浮かべて、それぞれの手に持つ獲物を振り上げた) 「ぶっ殺せ!」 --
- (囲んだ男達が一斉に武器を振り上げた瞬間、男達の周りを青白い閃光がきら、きらと奔った)
(いつの間にかヴィオラの手には朱鞘の太刀が握られていた ヒュン、とそれを一振りした後、流麗な手さばきで静かに鞘に収める) (チンッ) (路地裏に、鍔鳴りの音が響いた) --
- 「・・・」「・・・」「・・・」
(男達は皆、時間が止まったように、武器を振り上げた姿勢から動かない) (そして、ヴィオラが刀を鞘に収めた時、ピシリ、と体中に赤い線が走った) (夥しい血しぶきが舞い上がり、肉片と貸した男達が路地裏の地面に散らばった) --
- (一瞬のうちに惨状を作り出した男は、臓腑を撒き散らした死体に一瞥もくれず、また静かに歩き出した)
(そのコートには、一滴の血痕も付いてはいなかった --
- (冷たい瞳で夜空を見上げ、月を眼に映す)
(古今東西の人が行き交うこの街なら、魔剣の破片の行方も調べやすいだろうという確信があった) (月を視線から外すと、路地の暗闇に、靴音を響かせ沈んでいった) --
- \キャー!イケメンヨー!/ --
- (喜色ばんだ声が上がった方を氷のような瞳でギロリと睨むと、フン、と鼻で笑った) --
- セックス!! --
- セ//ック//ス!!
(チンッ) --
- ち…ん……っ!?
(最期まで務めを全うし、二つの血煙を上げて沈んだ) --
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