冒険者/0037

  • <><><><><><><><> -- 2016-08-13 (土) 02:41:13
  • <><><><><><><><> -- 2016-08-07 (日) 23:31:02
    • くつくつくつくつくつ -- 2016-08-10 (水) 23:58:44
      • <コ:彡<コ:彡<コ:彡<コ:彡<コ:彡 -- 2016-08-11 (木) 00:56:28
  • (空は蒼く蒼く、どこまでも澄み渡り透き通っていた)
    (東国でも更に西、そして狭い海に面する国のそれなりに大きな港。行き交う船の数は多く活気に溢れている)
    (そんな港の桟橋の先の一つに、少女が腰掛け座り、海を眺めていた。その背は小さく目を離せば海に消えてしまいそうで)
    こんなどこまで行っても終わりが無さそうな海の先に…こっち側の地面よりもっともっとでかい、
    比べ物にならないくらいの大陸があるとかちょっと信じがたいねぇ…(などと、少々実感の無い声で呟き)
    [オメーが信じようが信じまいがこの先に陸地はあんだよ。んでそこまで行きゃ坊主どももそうそう追ってこれん]
    (低い声がそう言う。呆れたように)ほんとー?まーこっちで試せそうなことは大体やっちゃったしいいけどさー。
    [俺も大陸に縁はあったはずだが…ほっとんど覚えてねぇからなぁ…ま、そのときゃ西の果てまで行きゃいいだろ]
    (そしてしばらく、沈黙が落ちる。大きな白い雲がそのあいだにやってきて、海と空に白いコントラストを与えた)
    (少女はそれを見上げぶらぶらと桟橋で足を振って遊ばせていたり、湖風を感じ眼を細めたりしていた)
    -- 2016-08-07 (日) 21:39:15
    • (んー、と大きく伸びをする。関節が小気味良い音を立て、筋が伸びほぐれて)
      …いけないいけない、ちょっと眠くなっちゃってたよ(そうして首もぐるりと回し、そんなことを言って)
      [アホか!そろそろ船の時間だぞテメェ、これ逃したら次は半年後だ。その間また逃げ回るのか?アァ!?]
      起きたんだからいーじゃーん。…もしかしたらここの海ももう見ることもないかもしんないんだしさ。ちょっとくらいね。
      (そうして懐の渡し賃を確認する。これこそ足りなかったら一大事だ、なけなしのありったけ、二度用意できるか怪しい)
      楽しみだなぁ、あっちって全然違う国なんでしょ?言葉も通じないし、服も建物も違う。美味しい料理あるかなー。
      [オイオイ旅行気分か餓鬼。まー無駄にビビるよかいいが…あんま舐めんなよ、言っちまえばこっちはただの島なんだからな]
      んんー、それが分かんないんだよねぇ…こっちに来るまでも相当な大冒険だったじゃん…(などと不満そうな声を上げれば)
      (はぁ、とため息のような声)[…行って思い知れ。だからこそなんかの手があるかもしれねぇんだしな…それに]
      [こっちの妖怪は食い飽きた](そう言って、それきり声が消える。そうして、桟橋に響くのは波打つ音と、カモメの鳴き声だけになった)
      -- 2016-08-07 (日) 21:39:32
      • (蒼天は遠く、遥か彼方に雲は伸び、まだ見ぬ場所へ思い馳せ、瞳を閉じる)
        (十年前のあの日、終わるはずだった道行は今もここへ続いている)
        (そして海を越え、雲を渡りその先へ、遠い遠い西の先へと)
        (簡単な道のりではないだろう、その道には小さい壁も、大きな壁もあるだろう)
        (それでも、歩みを止めることはない、一時立ち止まっても迷ったとしても、その道を歩き続ける)
        (それがあの日、村の皆を喰らったにも等しくただ一人生き残り)
        (追われ狙われたにせよ幾人もの命を喰らい尽くし山野を逃げ延びて)
        (そして…この恐ろしき畏るべき人の手には余る鬼をこの身に"喰らった"己の成すべきこと)
        (生きたい。強く思う、生きねばならない。その思いも、また)
        (海風が強く吹く。独特の潮の匂いがした)
        (視界の端の一隻の船に、大きな帆が張られたのが分かった)
        (時が来たのだ。瞳を開けすっくと立ち上がり、腰の刀の位置を直し、ぱん、と両頬を叩く)
        …よっし!それじゃ行くとするか!(元気よく一声上げて…桟橋の少女の姿は港の喧騒に消えていった)
        -- 2016-08-07 (日) 21:39:49
  • <><><><><><><><> -- 2016-08-06 (土) 00:38:59
  • (じゃらん、と錫杖の遊環が打ち鳴らされる音がした)
    (辺りは深い闇に包まれ、周囲の様子はようとして知れない、しかし遊環を揺らした何者かは一向にそれを気にしていない)
    (月の姿は厚い雲に隠され空になく、星々の頼りない灯りのみが頼りであり、野外であることが分かるそんな場所で)
    「……あの娘はまだ仕留められぬか」
    (深く、辺りの闇にも負けぬほど深く重い響きを持ってそんな声が響いた)
    (そして、じゃらん、とまた遊環の音が鳴り響くが、それは先程とは違う方向)
    「人ながら僅かにせよ鬼の力を御し始めているようだ。生はかには行かぬ」
    (声の発せられる場所は違い、別の人間が言葉を紡いでいるのは分かるのに、その響きは先程の声と同じに聞こえる)
    「あれはそこらの化生ではない。大陸より出でた遙かなる昔には数えきれぬ国を滅ぼし、東へ渡った後も灰塵と化した国は数知れず」
    (そうしてまた一つ、金属的な遊環の音が闇夜に響く)
    「ある時、幻であったかのように消息を断ったと書物にはあったが…まさか、このような所に、な」
    (その時、さあ、と一陣の風が吹き、雲が一時晴れる。半月の月の光が辺りを照らす)
    (月光に冷たく照らされたそこは…少女に鬼が宿った、その場所だった)
    -- 2016-08-03 (水) 00:19:21
    • (誰も恐れて手を出さなかったのか粉々に砕けた封印石の欠片はいまだに辺りに散らばっている)
      (辺りはかつて以上に荒れ果て、生えていた木も全て枯れ果てていて)
      「この欠片に残った瘴気…それさえもがこの地を穢しておる」
      (月光に照らされた僧服の男たちは、円を組み時折遊環を打ち鳴らし、辺りの気配を読み取っている)
      「口惜しや、もっと早く我らがここを見つけておったら…あの娘も…」
      (じゃらん、と強く遮るように誰かが遊環を鳴らした)
      「…過ぎたことよ。過去に捕われてはならん」
      (しばしの間、静寂が訪れる)
      「そも、肉の身に押し込まれたからこそ、我らに調伏の機縁在り」
      「彼の鬼…荒ぶる鬼神を、今こそ」
      (そして、じゃらん、と一斉に大きく遊環の音が打ち鳴らされ…)
      (また月は雲に隠され、辺りは深い闇へ包まれた)
      -- 2016-08-03 (水) 00:19:33
      • (半日後。日も高く登り、誰もいなくなった忌み場に壮年の男が現れる)
        「チッ…なんか面倒くせえの抱えてやがんなと思ったら…こういうことかよ」
        (五分刈りの頭をがりがりと汚らしく掻き、男は景気悪くそんなことを呟き)
        「やれやれ…俺ァ知らねえ、知らねえっての…」
        (ぼやくように言いながら、着崩した僧服の襟から背中をぼりぼりと掻き、だが視線を跡地に強く飛ばす)
        「厄介事は、ご勘弁…っとォ」
        (しばしの間、そうしてその場に留まっていたが)
        (ふと手に持った酒をぐびり、と煽って、ふらりと去っていった)
        -- 2016-08-03 (水) 00:19:48
  • <><><><><><><><> -- 2016-07-22 (金) 22:17:18
  • (夜の帳が降り、辺りは暗闇が支配する世界となっていた)
    (だとしても、紅の左目にて辺りを睥睨すれば、空に落ちる三日月と星々の明かりだけで視界は充分)
    (そんなことよりも何より迂闊だったのは)
    (この辺りの峠が近隣一帯を支配する、鉄と石の大妖、巖翁の縄張りだということを失念していたことだ)
    [っだから言ったろ?麓の村で宿でもとりゃよかったってなァ]
    うっさい!宿なんて泊まるお金無かったんだから仕方ないでしょ!
    [野宿すりゃよかったじゃねーか。毎度の事だろ?俺の言うこと聞かなかったオメーが悪い]
    あーもーうっさいうっさい!それに宿なんて普通に泊めてくれる所のが珍しいじゃない!
    (経験上、金があろうとまず刺青に見える紋様を見た時点で渋い顔をされる。次に出てくるのは大体断りの声だ)
    (身から滲みだす妖気、追手の坊主共の御触れ、両者を知らなくとも刺青は東国では基本的に罪人の証、浴場なども何度断られたことか)
    (傍から見れば元気な独り言をしてるようにしか見えない、腰に身に似合わぬ大きな刀を下げた齢十ほどの少女が、肩を落として歩いていた)
    -- 2016-07-18 (月) 19:08:09
    • (山河険しい細い峠道を行く。ついこの間も坊主の追撃を受けたばかりだ、そういう意味でも一処に留まるのは避けたかった)
      (しかし、覚えていれば…少しは取った行動も違ったろう。この峠がそれ以上に危険だということを忘れていたばかりに)
      ああ…こりゃ… [いる、な](辺りは既に重い重い、それこそ鉄を思わせるような妖気に包まれている)
      (用心に用心を重ね、進んでいけば、ある時、崖の上から大岩ががらんがらんと落ちてくる)
      (それはおよそ五間に余る大岩。さりとて注意を払っていたのもあり、慌てて走れば、さして大事なく、道に落ちるだけ)
      (そのはず、だった)
      ……そういうこと? [そういうこったな]
      (大岩は、その勢いを考えれば峠道をそのまま転がり落ちてもおかしくなかったが、少女の目の前でぴたりと止まる)
      「ほっほぉ、食うに足りぬ小童かと思えば、なかなかの大物の気配じゃな。重畳重畳」
      (大岩からしわがれた声が響いたかと思えば…がり、がりと岩の削れる音がし、老爺のような…しかし見上げる岩の巨人と化して)
      ちょっと、責任取りなさいよ朶鬼。[オメーが忘れてたのが悪ィと思うがなァ。大分前に言ったろ巖翁のこと]
      (その会話を聞きつければ、少しの間動きを止めた巖翁が、かんらかんらと笑い出す)
      「まさかまさか!小童の内におるは彼の鬼か!こいつは運がついてきたのぉ、貴様を喰らわば…この国の妖かしの王にさえ手が届こうと言うもんじゃ!」
      「しかし…お主…石に封じられておったのでは…?それにお主は…」
      (巖翁は思い起こす。鉱物の化物として相応の時を生きた記憶を。それは古すぎてはっきりはしていなかったが)
      「出会うもの、目に入るもの全てを壊し喰らう、ただそれだけのモノじゃったはず。それが人語を介し、小童とお喋りとな?かっかっ!堕ちたものよなぁ!」
      (実に楽しそうに笑う巖翁。しかし、それも束の間のこと、笑いを止めれば…その太い足を、ずしり、と踏み出し)
      「食いやすくなっておるなら好都合。遠慮無くつるりと行かせてもらうとしようかのう」
      [ケッ…るっせぇよ、んなに簡単に食えると思うなよ?]
      (そして、少女が剛刀を抜き放ち、三日月の仄かな月光がその刃に光を落とし…僅か煌めいた)
      -- 2016-07-18 (月) 19:08:26
      • (朶鬼が封印石の中で聞いた噂は概ね間違ってはいなかった。その体躯による力と硬さこそ凄まじいが、小回りは効かず、動きもさほど素早い訳ではない)
        (それでも、あえて言うのであれば、という程度、一撃でもまともに食らえば全身の骨が砕け、その時点で勝敗は決していただろう)
        (紙一重で攻撃を避け続ける針の上を歩くような繊細な戦いを続けながらも、巖翁の体の各所の岩は削れ、その体内に細かに走る鉄の骨格も露出し曲がり)
        …くっ…!(あと一手、一手が足りない。激しい動きを続けていた少女の肢体からは汗が流れ落ち、疲労を感じさせる)
        (打撃は与えられているものの致命的でなく、相手の体力は無尽蔵。そのままではいずれ押し切られることは明白)
        [あの爺の頭だ、あの頭ァふっとばしゃどうにかなるはずだ!] んなこと言っても…!
        (腹を決める。試すしか無い。追手から逃げながらも試行錯誤を繰り返してきた。出来るはずだ、と)
        往相し還相せよ
        (距離を取り、呟く。それは坊主たちが唱えていた念仏のように)
        悔恨:歪曲:粛々と汚れ纏い
        (薄く、目を閉じ、自らの内に呼びかける。溢れる力を、更に引き出さんと)
        軋め:悪の路よ…猛れ『朶鬼』!
        (それは、鬼の言葉。少女が、鬼の力を初めて意識的に操った、その瞬間だった)
        (その言葉は少女の細腕に宿るには不自然な剛力、それ以上の力をもたらし、腕の肉をめきり、と鳴らした)
        -- 2016-07-18 (月) 19:09:13
      • (頭を潰した瞬間、巖翁の体躯はまさにただの岩となって崩れ落ちた)
        (骨代わりであったろう鉄の骨格の中に、ちらほらと武士達が使うような武具が混じっている。刀、槍、鎧、矢…)
        (その中に比較的原型を止め…かつ、妙な気を感じる籠手があった。それを手に取り)
        (なんとなく腕へ嵌めてみれば、じわりと大きさが縮まり、少女の腕に合う大きさとなり)
        お…これ便利だね。これって貰っちゃってもいいかな?
        [へっ、いいんじゃねーの。俺にゃこれがあるしな…フハッ!流石に歯応えがあってウメェなァ!]
        (錆色の魂、巖翁の魂がふわりと浮かんできた。それを左手が喰らい、吸い込んでいく。それに朶鬼は歓喜し)
        …ね、あんたって昔…(少女が遠慮がちに呼びかける、が。浮かれた鬼はそれを聞いていない)
        [ん?なんか言ったか?] いや…なんでも、ない。
        (そうして、峠の一夜は過ぎていき、辺りを包んでいた妖気は既に消えていた)
        (麓の村の住人が、夜の峠も妖怪を恐れずに行き来出来るようになったことに気づいたのは、数年ほど先のことであったという)
        -- 2016-07-18 (月) 19:11:21
  • <><><><><><><><> -- 2016-07-16 (土) 21:39:32
  • (紅に染まる夕焼けが、血の色に見えた)
    (目の前の荒れ地に広がるのはただただ、死体の群れ。甲冑をつけた男たちの躯が、打ち捨てられた戦場の跡)
    (噂には聞いていた。隣国との小競り合いに業を煮やした領主が決戦を挑むのだと)
    (腹わたをついばんでいた鴉が、かあ、と一声鳴いて逃げていった。どっちが勝ったのかは分からないし興味もない)
    (昼間の内に決着はついていたのだろう、そこはむせ返るような血の匂いだけが支配し、動く者はひとりとしておらず)
    (それでもここは未だ戦場だ。何故ならば)
    「自ら死地を選んだか鬼よ。殊勝な心がけだ。お主もこやつらと共に浄土へと送ってやろう」
    …うっさい…。誰が浄土なんて行くもんか…!
    (戦いはまだ、終わってなどいないのだから)
    -- 2016-07-11 (月) 23:02:42
    • (武装した僧兵共に追われ逃げた先、死の香り渦巻くそこで、新たなる戦いの火蓋が切って落とされる)
      (薙刀、弓、棍、諸々の装備を纏った僧兵の数は十の指で余るほど。大分振り切って数を減らしたが)
      (逆に言えば残ったのは単純な逃走では逃げられぬ手練だ、対するこちらは無手の奇妙な僧服を着込んだ年の頃七、八ほどの少女)
      (傍目から見れば異常な光景、しかし相対する者共にとっては至極当然の状況)
      (彼らの狙うは、少女そのものではなく…その内の鬼なのだから)
      「喝ッ!」(ばん、と後列の僧兵が弓を放つと同時にもっとも手前の僧兵が、薙刀を伴い突っ込んでくる)
      (真紅の左目で矢の軌道を読み、それを避けながら、薙刀の挙動も合わせ読む)
      (それらをくぐり抜けながら、細い細い童の左拳が僧兵の甲冑の胸を強かに打った)
      (男たちに比べれば枯れ木のようなその腕には十年の先よりは大分数の少ない紋様が走っており)
      (それでも十全にその力を発揮した結果、完全武装の男は宙を舞い、吹き飛んだ)
      くそ…!(しかし、浅い。鎧に威力を削がれ、致命打を与えるには至っていない。それでも、しばらくはまともに息もできまい)
      (まずは一人減らせたことを喜ぶべきだろう…全てを倒さねば、生きる道などこの血塗られた場所には存在しない)
      -- 2016-07-11 (月) 23:02:58
      • はぁっ…!はぁっ…!寄ってたかって子供に大の大人が恥ずかしいとは…はぁっ…!思わないの?
        (しばしの時が経った。少女はその四肢に少なくない傷を負ったが、まだ生きており、僧兵たちの数は半分以下に減っている)
        (だが既に息は上がり、食うや食わずの腹はとっくの昔に空っぽだ)
        「…自決せよ。さすれば我らも御仏の心のままにお主を成仏させ、鬼を滅し散ずるのみ」
        「このままではお主は地獄へ落ち、未来永劫果てなく続く責め苦を味わい続けることになるぞ」
        (少女の軽口に聞く耳を持たぬと、僧兵たちが引導を渡そうとするが)
        はっ!ちゃんちゃらおかしいね!どっちにしろ私が死ぬのは変わらないってか!
        (小さな相貌を、更なる怒りに吊り上げながら吐き捨てる。ぎり、と血に濡れた拳を握りしめた音がする)
        「仕方あるまい。鬼を封じし術は尋常なる手段では解くこと適わぬ。…器を破壊するのが、もっとも確実な手段なのだ」
        (重い声で、最も手練であり、体格のいい僧兵がそう言った。少女を殺すのは…本意ではないと)
        っふっざけんな!そんなこと知るか!!仕方ないで殺される方の気持ち…味わってみろ!!
        (吠え、駆ける。生きるのだと、何を踏みにじろうが、生き続けてやるのだと。そんな決意を、胸に抱きながら)
        -- 2016-07-11 (月) 23:03:25
      • (また、しばしの時が経った。少女の右腕は赤色で染まった雑巾か何かのようにボロボロとなっている)
        (僧兵たちの圧力に下がりに下がり続け、いつのまにかその身は戦場跡のど真ん中へ。追ってくる僧兵の数は…ただの一人)
        (一際大きな薙刀を手にした、追手の頭領であろう僧は、先ほど問答を交わした僧兵であり)
        (少女と同じく、全身の骨を何本も砕かれようとも、その眼差しには不退転の覚悟が滲んでおり)
        くそぉっ…!くそぉっ…!!(強い。絶望的な体格差、そして弛まぬ修行によって裏打ちされた武)
        「お主の内に巣食った鬼はただの鬼ではない。遠く遠く、千年よりまだ遠くより封じられてきたモノ」
        「そのままではいずれ遅くない未来にお主を食い破り、柘榴のごとく溢れでて来よう」
        「それを…この時代に…力なき灰色の時代に大きな孔を穿ちうるそれを…解き放ってはならん。許してはならんのだ」
        「…往生せよ」
        (数々の死骸が辺りを埋め尽くすそこで、僧兵が、薙刀を構え、歩を進めた。もはや言葉は要らぬと)
        (焦燥感が、少女を支配する。朶鬼の力に頼ろうにも、今の己では童の身に似つかわしくない剛力を振るうが精一杯)
        (あと少しなのに、今のままでは、負ける。負けて、死んで、しまう。それは嫌だ、絶対に嫌だ)
        う…うわぁあああ!!(無様に叫びながらも、極限状況にあった少女は、力を、目の前の障害に抗する力を求める)
        (そうして…二つの影は交差し)
        「……お主の行く道は…修羅の道…ぞ…」
        (どう、と僧兵が仰向けに倒れ、事切れた。その胸に生えるのは刀。無骨で重ね厚く、ただただ実用を求めた剛なる戦場刀)
        (いかなる因果か戦場に突き立っていたそれを吸い込まれるように手にし、僧兵へとがむしゃらに突き立てていたのだ)
        -- 2016-07-11 (月) 23:03:43
      • (呆然と、僧兵の死体を眺める。運が良かっただけだ、偶然駆け込んだ場所に、偶然刀が刺さっていて、偶然薙刀を掻い潜れた)
        (それでも、一時の生を得られたことを噛み締め…大きく、息をつく)
        (そうしていれば…僧兵の遺体から…ぽう、と淡い光の珠が浮かび上がってくる)
        (魂。既に合戦から時が立っていたために周りの武者の死体にはなかったそれが、寄る辺を失って目の前に浮かぶ)
        …どんな道だっていい。私は…その道で…生きていくだけだ。
        (それを…左手で掴む。鬼の…左腕で。途端、指の間から漏れる微かな光が弱まっていき、次に左手を開いた時には何も無くなっていた)
        …チッ。徳のある奴は不味いって朶鬼が言ってたけど…こういうことか。
        (ぶるり、と一つ震えを起こす。それは朶鬼の不平の現れか…それとも、己の手によって初めて人を殺めたからか)
        (そうして、僧兵に突き立っていた剛刀を抜き放ち、歩き出す。辺りを紅に染めていた夕日は、いつの間にか落ちていて)
        (ふらり、ふらりと幽鬼のように戦場跡を歩む少女の姿を、夜の暗闇が包み込んでいった)
        -- 2016-07-11 (月) 23:04:04
  • <><><><><><><><> -- 2016-05-31 (火) 21:18:36
  • (どしゃぶりの雨が振っていた)
    (冬の空気に白くたなびく自らの息が煩い。完全には息は上がっていないものの、ずっと前からまともに落ち着いて息を吸えていない)
    (鬱蒼と茂った森の中、行先も分からず走り続ける。右腕にじくじくとした痛みを抱えながら)
    (決して浅くない傷を負ったが、走ること自体には支障はない。既に治り始めていることもあり、無視をする)
    (だが、まずい。こんな所で山狩りを受けるとは思ってもみなかった)
    (山である事自体はこの際どうでもいいが、何よりもまずいのは食い物が無いことだ)
    (食える植物や果物はこの季節殆どなく、元よりその知識にも乏しい)
    (獣たちも雪の奥深くに隠れ、狩りにも不慣れな身では安定した食事など望むべくもない)
    (空きっ腹に倒れた時、たまたま運良く朶鬼が冬眠中の熊を仕留めてくれたが、まともに食えたのはあの時だけだ)
    (あれがなければ己は今こうして走ることさえ出来なかったろう)
    (ともかく、距離を取らなければ。今の私ではあの坊主どもには敵わないことはよく分かった)
    -- 2016-05-30 (月) 21:44:57
    • (そうして、歳の頃、十に満たない程度の半身を紋様に彩った童は、果てがないかと思われた木々の檻の奥に、一つの建物を見る)
      ……なんだ?寺…か?
      (多少は開けた視界に現れたのはもはや何年もまともな手入れがされていないことが分かる荒寺)
      […避難][休息][治癒]
      (まだ少女らしい膨らみの兆候さえない左胸が、途切れ途切れに言葉を発する。最近、言葉を覚えたからかその意味は分かりづらい)
      …分かってるよ、ちょっとは引き離したし今夜はここで休むとしようか。
      (そう言って、贔屓目に見てもボロ布のような服を纏った少女が、荒寺に上がり込み、その中でも比較的まともな場所に座り込んだ)
      ふぅー………。
      (深く息を突く。ようやく一息つけた。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで息を整え)
      [逃走][可能?]
      (感情のない声。朶鬼なりに身を案じているのだろう、それが己の身か、肉の身の方かまでは分からないが)
      …分かんない。…でも正直このままだと厳しいかも…。
      (最初に道端で遭遇した坊主をどうにか撃退したまでは良かった。だがその後がいけなかった)
      (逃げた坊主は門派の武闘派をぞろぞろと連れ帰り、その中には退魔の術を心得るものも多かった)
      (ただの坊主ならどうにかなったかもしれないが、こうなっては八方手詰まりだ)
      -- 2016-05-30 (月) 21:46:19
      • (どうにかこの状況を打破するすべを無い頭を回して必死に考える。生きるのだ。どんなに無様だろうと、愚かだろうと)
        (考えることに集中しすぎていた。時間がその間にも過ぎていくという当然の事実まで考えが回らなかった。そして)
        ああン?なんだガキ。勝手に上がり込んで何してやがる?
        (突然、響いた野太いその声の主が近づいていることにも気付けなかった)
        …ッ!!
        (飛び跳ねるように距離を取る。しまった、とこんなに近づくまで察知できなかった己に苛立ちを覚える)
        おおう…なんだオイ。随分元気だな。…落ち着けよ、俺ァなんもしねぇよ。
        (傘を外し両手を広げ上にやり、男は敵意が無いことを示す。だがその姿はよく見れば坊主の物だ、…なぜだか薄汚れているが)
        ……信じられるかっ!お前も坊主だろう!!私に近づくな…ただじゃすまない!
        (無手の両手に力を込めて叫ぶ。幼いながらもそこに込められているのは大の大人を吹き飛ばすに足る力だ)
        いや…まあ坊主っちゃ坊主だが……(そう言いつつ、坊主頭を剃るのをサボったような五分刈りの頭をがりがりとかく)
        (やはりか、と覚悟を決める。だがおかしい、見たところこいつには武の気配も術の気配も欠片も感じられない)
        ああ面倒くせェ。俺は戒名もなにもねぇただの男だよ。坊主じゃねェ。趺坐なんて一度も組んだこともねぇっつうの。
        …違ェな、一応あるわ。村人騙して布施巻き上げた時に組んだな俺。足痺れまくってアホだわ本職って思ったな…っと、ホレ。
        (男はそう言うと、右腕の傷を一見し顔を顰め、懐から一つの林檎を取り出して童へと投げた)
        (童は気怠げに吐かれた言葉に毒気を抜かれ、素直にそれを受け止めてしまう)
        食えよ、どうせ腹ァ空かせてんだろ?今の時代そんな目した奴ァ間違いなくそうだ。…腐るほど見たからな。
        (やれやれ、と言いながら男は童を通り過ぎ、寺の奥へ引っ込んでいく。少しの間、童は手の中の林檎を持て余していたが…直に噛み付いた)
        -- 2016-05-30 (月) 21:47:49
      • (茶なんて上等なモンはねぇよ、と言いながら奥から戻ってきた男が出したのは端の欠けた湯のみに入れられた湯だった)
        (林檎を齧りながら恐る恐る手を出して、湯を飲み、その暖かさで初めて自分の身が冷えに冷えきっていたのを感じる)
        じゃあ…なんでそんな服着てるんだ。坊主じゃないっていうんなら。
        (じろり、と睨みつけ言う。自分のことを知らないようだし、山狩りをする坊主の仲間ではないことは分かった、が胡散臭いことには代わりはない)
        …あン?そりゃあ決まってんだろ、坊主のフリしとくと色々便利なんだよ、色々とな(と、にやにやと笑い言う)
        なにしろ顰めっ面して立ってりゃ金くれるし、適当な念仏でも一発唱えてやりゃアリガタヤーってなもんよ、気分いいぜェ?
        ま、ヤバくなったらとっととこんな辛気臭い服は捨てて逃げさせてもらうがな!げははははは!
        (分かった。よく分かった。こいつはどう考えたって真っ当な坊主じゃないことは)
        別に私を殴らないならなんでもいいよ…(とこちらは呆れたように、疲れたように言う。どちらにしろ敵ではなさそうだ)
        ん?殴るってなん(だそりゃ、と続けようとした男の言葉は途切れた。荒れた境内の入り口に立つ一団が目に止まったからだ)
        (童はその反応を見て全てを察し、埃まみれの仏像の裏に素早く逃げこむ。そうして、どうしよう、どうしようと頭を抱え出す)
        -- 2016-05-30 (月) 21:49:45
      • (雨の音を切り裂き、しゃん、と錫杖の音がした。薄汚れた僧衣を纏った男は、汚れ一つ無い僧衣の一団を寺の前で迎え、対峙する)
        …御坊はこの堂の寺主であるか。
        (一番前に立つ僧は傘を被り、それでも分かる鋭い眼光を男に向ける)
        然り。しばらく前からこの寺の一切を仕切らせてもらってる。
        (しかし、男はその視線にまったく物怖じせず堂々と言葉を返し)
        この辺りで、鬼の子を見はしなかったか。拙僧らはその鬼を追うておる。
        (試すような視線は変わらず、静かに僧は言葉を紡ぎ)
        知らん。ここ最近じゃうちに来たのは腹ァ空かせた野良猫一匹だけだ。
        (と、面倒くさそうに声を返す)
        ……真か。隠し立てすると身のためにならぬぞ。
        (声に硬さが混じりだす。その言葉には限外に問答だけでは済まぬとの意思が混じっている)
        知らねぇモンは知らねぇとしか言えねぇだろうが。…なあ、あんたらあっちの方の後堂宗の人らだろ?
        うちはこんなんでもきちんと洛東宗の一派でね。何かありゃうちの僧正サンの耳に入っちまうかもしれねェなぁ…。
        (がりがりと、ふけを飛ばしながら五分刈りの頭をかいて言う。一瞬だけだが、その視線は鋭さを増して)
        (男が語ったその二つの宗派は本山をそれぞれ遠く離してはいるが、犬猿の仲で有名な宗派であり)
        (今は小康状態を保ってるものの、一触即発の状態であることが村人の食卓で話の種になるほど知れ渡っている)
        …………承知。邪魔をした。許されよ。
        (数刻の間、沈黙が落ち、雨音が響き続ける。それを破ったのは僧だった。踵を返し境内を去って行き、一団はそれに追随する)
        善哉善哉。誰だってモメごとは嫌だかんな。ああ、修行に場所貸すんならいつでも来てもらっていいぜェ?
        (薄ら笑いを浮かべて、一団を見送る。視界から完全に姿を消したことを確認し、さて、と呟いて男も踵を返した)
        -- 2016-05-30 (月) 21:50:59
      • (一連のやり取りは、仏像の裏から聞こえていた。いざという時にはいつでも飛び出せる覚悟は決めていたが、結果必要なかった)
        ……おいガキ。オメーなにやらかした。
        (びく、と突然かけられた声に驚く、そうして)……何もしてないよ。あいつらの仲間の一人を追っ払ったくらい(と反論する)
        本当か。仏や神みてぇな糞ったれじゃなくていい、テメェ自身に誓ってそう言えるか(真剣な声、今までとは違う)
        …うん(静かに答えれば、男は、そうか、と一言呟いてまた奥へ消えていった)
        (そうして仏像の裏から出て、なぜあの男はあんなことを言ったのだろうと考えていれば、今度は男が盆を持って現れ)
        あーあー、とっておきだったんだがな、言っとくがコレしかねぇぞ、俺だって金持ちじゃねェんだ。
        (食え、とばかりに置かれたのは粥。たっぷりと米の使われた箸が立つような粥だ)
        …なんで。
        (童から発せられた言葉はその粥に対してもだが、それよりは先程のやり取りに対してだ。助ける義理など、男にはないではないか)
        あー…?あー…(男自身も、その言葉に対して何事か考えるようにする、そうして、思いついたのか)
        ……まあ、あれよ。どんな理由があろうとガキに手ェ出す野郎は信用できねぇ。それが坊主だろうが貴人だろうがな。
        オメーは悪さしてねぇんだろ?なら気にすんな、子供は大事にされて当然みてェに思っときゃいいんだよ。
        ああ…それと(にやり、と笑みを浮かべ、若干の溜めを効かせ)坊主は、嫌ェだ(と言い切った)
        (その理由は、後付だったのかもしれない。あの時の男には何か深い考えがあったようには見えなかった、けれど)
        私も、嫌いだ(なぜだか素直に納得できた。そうして、何ヶ月かぶりになるであろう笑顔を浮かべた)
        -- 2016-05-30 (月) 21:52:20
      • (男は名を動念と名乗った。寺を乗っ取った時からの名らしいが、その方が通りがいいからと)
        (ついでに、と余っていた僧服を引っ張りだしてくれた。この寺を捨てた僧たちは一切合切の生活物資を残したままだった)
        (それが動念が寺に居着くなった理由でもあったようだが、どうも昔に戦があったらしい、と教えてくれた)
        (童が纏っていたボロ布を脱がして僧服を着せてくれたときは、女だったのか、と驚かれたりもしたが)
        そいつを着てれば沙弥だとでも思って飯恵んでくれる奴もいるかも知れねぇからな。
        物乞いする時ァ弱々しくオメーなら上目遣いでいかにも貰わなきゃ今すぐ死んじまう!って風にするといいぜ。
        逆にその服なら托鉢に見せかけるのも行ける。堂々ともらって当然って風に突っ立つんだ。信心深そうな奴見かけたらこっちな。
        (にやにやと楽しそうに笑いながら生きるための知恵をあれこれを教える男、それを半ば呆然と受ける童)
        (右腕の手当も雑ながらも行ない、その傷の深さに男は少し目を細めた)
        ああ、そうだ。一晩くれェならここに泊まってってもいいぜ。ずっとは…無理だな。あの坊主の様子じゃ多分保たねぇ。

        (そうして用意してもらった年季の入った薄い布団に寝転がりながら、不思議そうに、男を見る)
        ……あんたみたいな大人は、初めて見た。
        (隣に寝転ぶ男は、それを聞いて渋い顔をする)
        世知辛ェ世知辛ェ、うっせぇ黙って寝ろ。ただの気まぐれだこういうこともあるってだけだ。運が良かったなガキ。
        猫でだって気分が悪ぃのに子供なんぞに死なれたら夢見が悪ぃだけだっつうの。
        (男は背を向ける。童はこういう時にどうしていいか分からなかったが、頭を捻って一つの言葉を思い出す)
        …………ありがとう。
        (囁くように紡がれたその言葉が届いた薄汚れた僧衣の背から聞こえてきたのは、「ケッ」という短い一言だった)
        -- 2016-05-30 (月) 21:53:40
      • (夜がふける。童はぽつぽつと一晩中男に話しかけ続け、男も「うるせぇ」「寝ろ」と言いつつも言葉を途切れさせることはなかった)
        (だがそれも、疲れきっていたのか頻度が落ち、言葉は消え、沈黙が夜闇を支配し、静かになり)
        (夜が開け、前日よりも大分血色の良くなった童が、雨が止み晴れた日の元へ立つ)
        じゃあな、折角助けてやったんだ。死ぬんじゃねぇぞ。
        (昨夜のうちに男がいざという時の際に使うための抜け道を教えてもらっていた、恐らく大丈夫だろう)
        うん…(童が着る僧衣は大きさが大分合っていなかったため、所々を強引に紐で止めていたりしている)
        (不格好な僧衣を纏い、境内を行こうとする。が、何度も、何度も振り返り)
        (そのたびにさっさと行け、と男が獣でも払うように手で払って追いだそうとする)
        (しばらくし童が完全に見えなくなったころ)
        ……ま、ニセモンでも徳を積んで悪ぃってことはねぇだろ。
        (ぼそり、と呟いて、やれやれと五分刈り頭をかいて寺へと戻った)
        -- 2016-05-30 (月) 21:54:34
      • (季節が何度か過ぎる程の時が経ち、ある町に立ち寄った際、動念という男が死んだと聞いた)
        (噂では、流行病が蔓延りそれでも寺を離れず、訪れるものを看病し、その果てに己も病に倒れたという)
        (その功績を讃え、位が与えられたとも聞いたが、聞いたこともない名前でそれは耳を通り抜けた)
        …なんだ、結局本物になっちゃってるじゃん。
        (遠く、あの寺があった方向を見る。しばしの間、物思いに耽り)
        ねぇ、朶鬼。
        (しばらくの後、己の左胸に話しかけ)
        [何用?]
        (無機質な返答の後、数瞬の間があり)
        あんた、あいつみたいに喋れる?
        (何事もないように、そんなことを童が言った)
        […多分][可能][承知]
        (こちらも何かを考えるような間を開けた後、やはり無機質な声を返す)
        (そうして一見、僧服に見えないこともないような改造を施された服を着て、童は背を伸ばす)
        (遠くたなびく雲は、千々に切れて。高く広がる空は、今日も変わらぬ青さを見せていた)
        -- 2016-05-30 (月) 21:55:47
  • <><><><><><><><> -- 2016-05-08 (日) 03:32:00
  • (そこには、地獄が広がっていた)

    (目の前に広がっているのはただただ、赤、赤、赤)
    (紅蓮に燃え広がる炎が夜闇を切り裂き、辺りを焼き尽くさんとその身を踊らせ舞い散らす)
    (肌を焼く熱さも毛ほどに気にならぬその光景にひたすらに圧倒される)
    (今しがた音を立てて崩れ落ちたのはおとつい遊んだ草太の家ではなかったか)
    (向こうから聞こえるうめき声は沙耶の母親の声に思える)
    おとう…おかあ……どこぉ…?
    (思わず声が漏れる。意識したものではない、不安に押し潰された幼子の呼声)
    (家の中には居なかった、居なかったからこそ己は外に出、この光景を見ることになった)
    -- 2016-05-08 (日) 00:59:20
    • (足がこわばる。このまま戻って布団を頭からひっかぶり、全てを忘れてしまいたい気持ちに狩られる)
      (だが父と母の姿が無い事実がその足を引き止める。目の前の光景への恐怖、両親の不在への恐怖)
      (二つの恐怖に板挟みになりながら…顔面を涙でぐしゃぐしゃにして…それでも)
      おとぅー……おかぁー…あついよう…こわいよう……おとぅ…
      (いつも己を優しく包み込んでくれた暖かさへの思いがその両足を動かした)
      -- 2016-05-08 (日) 01:18:57
      • (どれだけ歩いたろうか、もう何日も歩いたようにも、十歩も進んでないようにも感じる)
        (炎はその合間にも無慈悲にその力を強め、肌を焼く熱も強まっている)
        (あれだけ流した涙を嘲笑うかのように、頬の涙はとっくに熱で乾いてしまっていた)
        あつぃよぅ…あつぃようぅ…ごめんなさい…ごめんなさい…
        (謝れば許してくれると思って、童はか細い声で懺悔する、許してくれる、誰が?誰だろう。分からない)
        ぉとぅ………おかぁ………。……ぁあぁ……。
        (痛い、熱くて熱くて、痛い。熱さよりももう、痛さしか感じなくなってきたその時)
        おとぅ…?おとう!
        (一際大きい屋敷、村の庄屋の家だ。その前に、見知った背中を見つけた、昨日もおぶさった、その大きな背中)
        おとう!おとう!こわかったよ!!こわかったよぉぅ…!
        (駆け寄った、熱に痛む肌も忘れ、駆け寄ろう…とした)
        ぇ…?(必死の形相で父親が振り返り大きく手を振るってかつて見たことのない大きな声で叫んだ)
        ("逃げろ"とその声が響き、童がその言葉を赤く熱に浮かされた耳で受け取り、混乱した頭で理解した瞬間)
        -- 2016-05-08 (日) 01:33:59
      • (父の胴体から上が、綺麗さっぱり無くなった)
        (農作業から帰ってくると痛い痛いとぶつくさを文句を言っていた父の腰。それだけがぐらりと崩れ、その上は、無い)
        (そのことに何も考えられなくなりそうになった、しかしその横にいつの間にか居た"モノ"がそれをさせなかった)
        (焔の照り返しを受け、赤黒く見える汚い毛むくじゃらの姿をしたそれが、顔らしきものを上げると、その口の端から、父の、手、が)
        ────ぁ(声にならない。そんな童を見てそいつはにたり、と笑った)
        (どさ、どさ、と音がした。そいつと同じような姿のどいつもこいつも汚らしい毛皮をまとった魔性のモノが何匹も屋敷の屋根から落ちてくる)
        -- 2016-05-08 (日) 01:47:53
      • (もはや恐怖の表情を浮かべることさえできない。体を動かすなど叶うはずもない)
        (絶望の具現たちが己が体躯を見つめ、どんな肉の味がするかを値踏みする姿をただ見ることしかできない)
        (ばちばちと木材が焔に舐め取られ音を立てている。燃え盛る炎は相も変わらず肌を焼くがそんなことはどうでもいい)
        (ああ、あの一際大きい化生の足に引っかかっているのは…母の着物か)
        (そんなことをぼんやりと考えていた童の脳裏に父の言葉が蘇る)
        あ……あ…ああぁあああぁぁあああ!!
        (またしてもその足を動かしたのは、両親の…父の最期の精一杯の思いだった)
        -- 2016-05-08 (日) 01:57:28
      • (走る、走る。小さな足を振り上げ、まだ崩れていない家々の間を抜け走る)
        (よく見ればそこかしらに"食い残し"が散らばっているのが分かる)
        (はあはあと大きく息を吐き、吸い、走る中、焼け付くような空気に一瞬、肉の焦げる匂いをその中に感じて)
        うぇっ…ぐ、ぐぅ…!(吐き気がこみ上げる。気持ち悪い気持ち悪いこれが、これが人の肉の匂いか)
        (跳ね上がる胃をどうにか抑えこむ。今悠長にそんなことをしていては己も食い残しの仲間入りだ)
        (駆けつつちらりと後ろを振りかえれば、赤く赤く燃える家々の間に黒々とした毛皮の化生たちが追ってきている)
        (だが明らかに遅い。小さいモノでも父の背の倍はある体躯の化生だ、本気の速度はあんなものではあるまい)
        (遊んでいるのだ)
        (容易すぎるほど容易に狩ることのできる"餌"で楽しもうとその腐れた頭で考えたのだ)
        (げっげっげっ、とその証拠のように、この世のものとは思えぬ穢らわしい鳴き声が、いくつもいくつも背中から聞こえて)
        -- 2016-05-08 (日) 02:11:38
      • (がちがちと歯を恐怖に鳴らしながら、それでも童は止まらない)
        (止まればその瞬間がこの遊びの終わる時なのは混乱しきった頭でもよく分かる)
        (村を突っ切り、外れに向かう。当てがある訳でもない、ただ燃える家の少ない方へ走っただけだ)
        はぁっ…!はぁっ…!(辺りがだんだん暗くなる。吸い込む空気が冷たくなっていく)
        (おかげで少し楽にはなったがまったくもってなんの解決にもなってはいない)
        (もう童の足は疲れきり、今こうして走れていることさえ奇跡的なのだから)
        -- 2016-05-08 (日) 02:21:53
      • あっ……!(足取りは乱れに乱れ、暗くなる周囲の景色がそれに拍車をかける)
        (当然の如く結果として童は木の根に足を取られ、勢い良くごろごろと地面を転がり)
        あうっ!(大きな岩にぶつかって小さな肺に残った息を全て吐き出し…止まった)
        ごふっ…ごふっっ(横たわりながら咳き込むように空気を求め、己が至った場に思い当たる)
        (そこは村人もそうそうは近寄らぬ忌み場、辺りの土壌ではあり得ぬ組成の岩が突き立つ村の外れ)
        (岩の周囲は草も生えず、辺りの木々もどこか岩を避けるように生えている)
        (その木ががさり、と大きな音を立てる)
        (げっげっげっとまた、あの声が聞こえてきた)
        (がさり、がさり、と音は広がり続け、下卑た鳴き声と重なり己を囲んだのが分かった)
        (暗闇に溶け込んだ化生共が包まれた絶望の闇色で塗り潰されていく)
        -- 2016-05-08 (日) 02:40:01
      • (力を振り絞り、上体を起こして岩にもたれ掛かる。だが、童に出来たのはそこまでだった)
        (足は折れたように痛み、一歩たりとも動ける気がしない。息も完全に上がってしまっている)
        (心の臓は早鐘のように鼓動を打ち、破れていないのが不思議なくらいだ)
        (あまりの恐怖に限界まで目を見開き、そのおかげかゆっくりと、一つの影が近寄ってきたのが分かった)
        (その影は童の頭を子供の腕ほどもある指でつまみ上げ、岩に押し付ける)
        う、ぁ、ああ……(ぎりぎりと頭が痛む。頭蓋骨が割れるようだ)
        (だから童は気づいていない。押し付けられた岩が先ほどよりも冷たくなっていることに)
        (化生は村人の血に濡れた牙を覗かせ朱い口を三日月型に広げ、餌がもがくのを楽しむ)
        (だから化生は気づいていない。童が背にした岩から闇よりも深い黒が滲み出していることに)
        -- 2016-05-08 (日) 02:54:46
      • (己は、ここで死ぬのか)
        (父のように、母のように、生きていたのに、辛くとも日々に耐えささやかに生きていたのに)
        (痛みが恐怖を紛らわせ、童の混乱していた思考が一つの方向に収束していく)
        (嫌だ、死にたくない。まだ食べたことのない美味しいものを食べたい、お日様の暖かさを感じて寝転んでいたい)
        (こんなところで、こんな暗く冷たい所で父と母を食い殺したこいつらに食われるなんて死んでもごめんだ)
        (心の底からふつふつと湧き上がるように高まる思いに応じ、岩からにじみ出る黒はだんだんその量を増していく)
        (とうとう化生もその異変に気づき、その背に悪寒が走る)
        (だがその手に掴んだ小さく柔らかそうな肉を離すことはせず、乱杭歯の走る口をぱかりと開けて)
        (結局はそれが、化生の命運を分けた)

        嫌…嫌だ…死にたくない……嫌だ…私は…私は…

        生きたい!!!

        (爆発するように童が叫ぶ。その瞬間、辺りは絶望よりも濃い、真黒に染まった)
        -- 2016-05-08 (日) 03:13:59



      • (幾日かの後、村をたまたま訪れた旅の僧が大量の亡骸に大層胸を痛め、残っている限りの遺骸を弔い墓を立てたという)
        (だが村の外れの忌み場も律儀に見分した僧の言葉によれば)
        (そこに残されていたのは粉々に砕け散った岩の欠片と)
        (大桶でぶちまけたような尋常でない量の血痕だけだったということだ)
        -- 2016-05-08 (日) 03:22:24

Last-modified: 2016-08-13 Sat 02:41:13 JST (2813d)