名簿/498731
- <冒険を始めたい人も冒険を続けてる人も出会いは冒険者ギルド!冒険者たちよ、集え!>
(……というチラシが届いている) -- チラシ
- (不在そうだったので、チョコを梱包して置いて行く) -- エル?
- おっと、こりゃ絨毯爆撃だな。ま、おこぼれってのも悪くはねえ。貰っとくか -- シゲマツ
- ……カリスマ運。千客万来商売繁盛って感じで悪かねえが、どうせなら金運がダイレクトでよかったね -- シゲマツ
- (夜。ゆえあって落第街の建物の合間を跳んでいた少年)今日は流石に出てこないか……。ん?
(ふと、歩いているシゲマツを見つけて顔をしかめる)うぇー。あれも学生なのかなあ? 学生っていうよりうだつのあがらない違法労働者にしか……あ(本人に聞こえる声量で口に出していることに今気づいた) -- レジェム?
- (夜道を歩くシゲマツ。その口に咥えられた煙草はひしゃげていて、風情のない蛍火めいた光が「真っ当に生きていませんよ」と全面に主張するかのような顔を夜闇に明るませていた)
(無言でレジェムにデコピンしてから視線を合わせて)オイこら悪ガキ、早く帰ってねんねしねえと背伸びねえぞ -- シゲマツ
- たっ(デコピンされて涙目になりながら恨めしげにシゲマツを見上げる。チビと言われるとかぁっ、と真紅の前髪と同じくらい顔が紅潮して)
誰がチビだこのならずもの!(おもいっきり助走をつけてすねを蹴飛ばそうと足を振り上げる) -- レジェム?
- おぅよく見たら気合入った髪してんなお前。背伸びか?ん?(とか言ってたら脛蹴られた)
ダァーッ!!!コイッツ!(涙目で脛抱えて飛び跳ねる。煙草を落としたのに気付くとすぐさま拾い)三秒ルール(吸う) で、誰がならずものだって?ならずものにしちゃどこから見たって男前だろうが -- シゲマツ
- うわっばっちぃ! えーんがちょー!(子供そのものの振る舞いであの指を向ける)ていうかいぎたないなあ……。
いやあ、控えめにいってもごろつき、正直に言ったらならずもの、ボク以外が見たら社会不適合者かなって。 まあ、こんなところだから当たり前なんだけど(落第街の町並みを見渡し)でも、悪ガキ相手に忠告してあげるくらいには優しいんだね?(出会い頭の言葉を思い出してくすりと笑った) -- レジェム?
- えんがちょ切った!……って俺がやらなきゃダメじゃねえ?(ほら切れ、と例の指をする)
待て待て、言葉のボディブローを連打するのはやめろ。そいつは俺に効く。バッチリ有効打(煙のせいで溜息が可視化されてしまっている) そうさなあ……例え悪ガキでも子供は子供だろ。子供ってのは無条件にいいもんだ。何より未来がある。 あとはそれよ(レジェムの笑った表情を指さし)いいか。子供ってのはそうやって笑ってるもんだ。何の不安もなく、な。 ま、現実はそうもいかねえんだが……それでもよ。お前もこんなとこ一人でうろついてねえでよ、友達とかと遊んでた方が似合いだぜ。いるんだろ、友達 -- シゲマツ
- んー(考えこむ)ボクが友達と考えてる人たちならたくさんね。でも、友達って多分そういうことじゃないんだろうなって(えんがちょ切りつつ)
でも少なくとも、ボクはそうやって、子供の笑顔のなんたるかをきちんと言える人と喋ることは、嫌いじゃないかなあ。 (くすくす笑い)だからといって、ならずもの風情は前言撤回しないけど。見た目よりずっと、大人らしいこと言えるじゃん。 名前、聴いてもいい? 友達とかと遊ぶのが子供の義務ならさ、ここで友達作れば問題なしでしょ? -- レジェム?
- だろ?人生経験が違うのよ(相変わらずうだつは上がらないが、内面をそのまま映したような笑顔で笑って)
……お前、ガキのくせに口上手えな? シゲマツだ。シゲマツ・クルーグハルト。 俺と友達になったからって、ガキの夜歩きはOKにならねえぞ?(言って、握手の手を差し出した) -- シゲマツ
- ならずものとは経験が違うんだよね、経験が(得意げにハンチング帽を一回転させ、フフンと笑う)
(そして握手……というよりは、快活にハイタッチをして)よろしく、シゲマツ。このあたり詳しいでしょ? そのうち力を貸してもらうかも。 あ、ボクはレジェムね。……さってと、そろそろ別の区画行ってみようかな、万が一ってこともあるし。また遊ぼうね、それじゃ! バーイ!(手近な塔に鎖を巻きつけ、そのまま風の様に飛んでいってしまった) -- レジェム?
- 言いやがるな、ガキのくせに。……おっと。握手はちょっと大人だったか。
まーな。俺より詳しいやつはそうはいねえ。日頃駆けずり回ってっから (最近はもっぱら店の外で働くことが多く、用心棒というより半ば便利屋や何でも屋と化してきていた) 万が一?……おう、またな。……おーおー身軽な奴。子供は風の子って、ちょっと違うが、ありゃ大して心配することもねーな -- シゲマツ
- シゲマツくん今年もダブったってマジ!? ダブルマンなの!? (悪意は無いが若干嬉しそうな様子) -- キョウコ
- 大マジのマジよ(ふんぞり返ってる)っつーかダブルマンってなんだ、宇宙人じゃねえぞ俺は
つーかお前は進級できたのかよお前は -- シゲマツ
- モチのロンよ! (4年生の学生証を片手にピースサイン) あのヴィルくんやルベっちだって進級出来たんだよ!
シゲマツくん今年はルベっちと同級生だから、これはダブリーペアきちゃうね……。 -- キョウコ
- マジかよ!?あのサメ男とゴリラ女にそんな脳ミソあったのかよ!(たいへんヒドい言い草)
追い着かれるこたねえと思ってたのにな…っつーかペアにすんな。あ、進級できたんなら単位余ってねえ?くれよ、金にすっから(笑顔) -- シゲマツ
- 二人とも実習で頑張ってたからね! 継続は力だよ!
単位? うーん……私も卒業に備えて単位を65535点確保しとかなきゃいけないけど……しかしお友達の頼みとあらばしょうがない! 単位200点あるから全部あげるよ! (単位カプセルに詰まった「20点」「5点」などと書かれた紙切れを笑顔で渡す) -- キョウコ
- カンスト?カンストまで?まさか伝説の単位無限アップの裏技を?教えてくれ!!頼む!!(縋り付きながら)
うわああああやったあああああああこれでパンツが買える!!俺のパンツ!!(抱え込む。プライドなど無い) -- シゲマツ
- (居た堪れない表情) ……シゲマツくん。私、今まで考えないようにしてたけど、シゲマツくんのリアクション見て急に冷静になってきたよ。
その単位カプセル、ただの紙切れで何の効力も無いんじゃないかな……。総務課に提出しても受け取り拒否されたし、私とルベっち以外集めてる人見たこと無いし、なにより吉岡さん発の情報らしいし…… (沈痛な面持ち) -- キョウコ
- (色を失う)……(単位カプセル持ってトイレへ。水洗音(大))
(そのあとしばらくキュポンキュポンいわせてからもう一度水洗音(大)) ふぅ……(爽やかな表情) -- シゲマツ
- シゲマツくん……それでも明日はやってくるよね…… (シゲマツの肩に手を置いて、空の彼方に向けて果てしない目)
ああ、冒険実習は結構稼げるから期待してるといいよ! 今月だけで金貨8000ゲット出来たからね! (励ましの言葉を残して去っていく) -- キョウコ
- ああ…早起きは三文の得っていうからよ、今日はもう寝ようと思うんだ(遠い目)
マジで!?(瞬時に脳内で行われる500万ひく8千の計算。すごく冷静な目になる)うん、じゃあ、またな…。 -- シゲマツ
- いいぜ
- どんと来い
- 土産は煙草か金がいい
- 第零話『元・正義の味方』
―――黄金歴247年3月 眠らない雑踏、ネオンサイン。ここは落第街。学園都市の吹き溜まり。 「セックスさせろや姉ちゃん……いいだろぉ?」 運悪く迷い込んだと思しき女子学生がチンピラに絡まれている。この街ではよくある光景。誰も止めない。咎めない。 「待てよ、兄ちゃん」 だが、この日は違った。やさぐれた男が割って入る。酒臭く煙草臭い。真っ当な学生では無い。 「誰だよオッサン。これからボクたちいいトコなんですケドォ!!」 チンピラが凄む。肩を怒らせて威嚇する。対して、男は動じない。 すっと右手を差し出す。女子生徒へ。 「3万だ」 「は?」 「3万で助けてやる」 -- シゲマツ
- 女子生徒はにべもなく逃げ出して、男とチンピラが残された。
二人の間に流れる奇妙な空気。 視線が交差する。 男が笑いかける。 「おぅフ!」 チンピラの拳が男の顎に突き刺さる。その場へ崩れ落ちる男。ノック・ダウンだ。 そう。地面に這いつくばってるのが俺。 元・正義の味方―――シゲマツ・クルーグハルトだ。 -- シゲマツ
「イーチチチ!!染みる!染みるってば!!」 「薬だってタダじゃないんだ。そう暴れるんじゃないよ」 ここはバー『子犬の尻尾』。俺が雇われてる違法酒場だ。 担当の風紀警察には賄賂を渡してうまくやってる―――俺じゃなく、コイツが。 「さあ済んだ。さっさと治しよ、用心棒が生傷なんざ、格好つかないからね」 彼女はシェリー夫人って呼ばれてる。ここのオーナー。俺の身元引受人だ。 この人がいなけりゃ今ごろ俺は魚の餌だ。口に出すことはないが、感謝はしている。本当だ。 「じゃ、開店までに店内の掃除頼んだよ。トイレもね」 「ゲー」 ……本当だ。 -- シゲマツ
開店時刻。バーは賑わう。いろんな人が彼女を頼って、語らいに来る。 あっちのハゲは麻薬とか売ってる怪学生。そっちのデブは大手違法部活の顔役。 ただのチンピラから、裏社会を牛耳るギャングまで。 分け隔て無く包み込むのが彼女だ。 シェリー夫人は言葉で酔わせる。裏社会のロクデナシどもの誰しもを。 ―――そこに鳴り響くグラスの割れる音。 この店では喧嘩はご法度だ。 そして、俺はこういう時のためにいる。 -- シゲマツ
- シェリー夫人から放られる金貨一枚。
時には回りの客からチップが放られることもあるが、今日はこれきりだ。大したことがないから。 キャッチして、ベルトのバックルに放り込む。自販機めいて硬貨投入口の現われたそこに。 異能『正義は金なり』が発現し、俺は一時の高揚感に包まれる。「何でも出来る」という気持ち。 この瞬間だけは、あの時の気持ちを思い出す。 やってることはまるきり違うが。暴力を振るうということ以外は。 喧嘩を始めたチンピラ達―――見たことが無いからたぶん一見だ―――に、一発ずつ叩き込んでオネムにさせる。 財布からキッチリお代の分だけ抜いて、叩き出して終わり。 簡単な仕事だ。 今の俺はこれで食ってる。借金は減らない。 いつまで続けるのか、それはまだ分からない。 未来のことなんか考えなくていい。俺はもう、正義の味方じゃないから。 明日のことは明日考える。それでいい。 続く -- シゲマツ
- 第一話『無い袖は振れない・前編』
―――黄金歴247年4月 桜が咲き誇る春。学生街のメインストリートを新入生達が浮かれ歩く季節。 ここ落第街にはそんな華やかな気配はない。 せいぜいが迷い込んじまって『餌』にされちまう運のねえ奴を見かけたり、 二級学生が新規入荷したとかいう話を聞いたり、そんな程度。 春は別れと出会いの季節だ。 だが、別れたかった奴と出会っちまうこともある。 -- シゲマツ
- 「いやァ……今月の新入生は随分ケモノ臭いっていう話ですな。ココもどうなってしまうやら」
俺の目の前で延々とどうでもいい世間話に興じている糸目の男。 嫌に喋り好きなくせ、キンキンと耳障りな声をしているから、聞かされる側はたまったものではない。 「いいから用件を言え、キツネ。お前の顔は月に2回も見たくねえ」 「キィヒヒヒ、いやねェ、旦那?さっさと返すもん返して貰わねえと、こっちも困るってもんでしょ」 この男は借金取りのキツネ。俺にとっては疫病神だ。 「だがよ、今月分はなんとか納めたハズだぜ?」 -- シゲマツ
- 「えぇ。夫人のおかげの特別金利で」
相変わらず皮肉をたっぷり効かせて言ってくれる。 バーのテーブルにふんぞり返って、鷹揚に茶を飲んで続ける。 「ですがねェ……今月はウチも入り用でして」 「入り用ったって無い袖は振れねえよ」 本当だ。おかげで俺は明日の飯にも困っている。 「ああ勿論、無い袖は振れねえってのもわかってるんで、ご安心くだせえ。勿論―――仕事はご用意してやす」 -- シゲマツ
「で。これが仕事ってえのかよ」 おんぼろトラックの荷台。幌の隙間から顔を出し、車外のキツネに問いかける。 「そうでがす旦那。旦那はそこに入っといていただいて、万が一何かあったら死ぬ気で荷物を守って下せえ」 「ただなあ……荷物ってのが、これかよ」 俺は幌を開いて見せる。トラックに満載されているのは袋詰めのカキノタネだ。 「わー!わー!!いけません旦那、閉めて!閉めて!!」 それだけでキツネがいやに慌てる。俺は何度説明されても納得いかない。 「いったじゃないですか旦那……これは違法カキノタネだって」 -- シゲマツ
- 違法カキノタネ。異常な中毒性で知られる和風スナックだ。
味も美味いのだが、それだけでは説明のつかないほど食べると癖になり止まらない。 学園都市に初めて輸入されたときには授業中にも貪り食うほどの中毒者が現われたという話だ。 そのせいかは分からないが、麻薬成分が入っているだのいないだのという噂も流れ、ついには禁制品に指定されてしまった。 古くは忍者がどうとかいう話があるとかないとか、俺にはよく分からない。 「これは前金で。例のヤツのお金もそっから出してくだせえ」 「でもなあ……余らせても全部持ってっちまうんだろ?」 「その分借金が減るんで」 俺は何も言えない。 -- シゲマツ
倉庫街の闇倉庫に仕舞いこんでたこの違法カキノタネ、 どうやら足がつきそうになったとので一旦落第街まで移送しようと、そういう仕事だ。 ちなみに末端価格は金貨にして一〇〇万枚以上だという。 もし俺の過失で失敗したら、俺の借金が六〇〇万枚になりかねない。 こんなカキノタネが……と思うと未だに納得いかないが。 そうこうしているうちに「じゃあ頼んましたよ!」という声が聞こえてトラックが発車する。 さて、何事もなく終わればいいんだが。 ちなみに俺がこう思ってるとき、何かが起こらなかった試しはない。俺はそういう男だ。 続く -- シゲマツ
- 第二話『無い袖は振れない・後編』
―――黄金歴247年4月 倉庫街から路地を飛ばして10分。 表だって運べない荷を載せている以上、落第街へと向かうには通常のルートは使えない。 したがってここ、入り組んだ旧市街を通らなければならない。 50年も歴史を経れば、こういう廃墟めいた区画も現われる。 ここが一番の緊張のしどころだ。 身構えた瞬間、トラックに走る振動。急停止。 どうやらおいでなすったみたいだ。 俺は外に出る。 -- シゲマツ
- 待ち構えていたのは、ニンジャめいたマスクで顔を隠した大男。
どうやらトラックを正面から抱えて止めたらしい。 やれやれ、今回は大仕事に―――ん? 「げっ」 げって言いやがったなコイツ。 俺は無造作に近づいてマスクを取り上げる。やっぱりだ。 「今度は何やってやがんだよ、トカゲ野郎」 「恐竜だ」 「似たようなもんだろが」 -- シゲマツ
- コイツは恐竜怪人イグアノス。名前の通りイグアノドンがベースの怪人だ。
元は二級落ちした学生で、借金のカタにジョッカーに売られ、 草食恐竜の中でも華がないのと混ぜられちまった哀れなヤツだ。 「見たとこアレか、ジョッカーも無くなっちまったし食うに困って、どっかの組織の使いっ走りか鉄砲玉にでも収まったか」 「うるせえ、それもこれもお前のせいだ」 「図星かよ」 「うるせえ!!」 イグアノスは鱗で覆われた拳を俺に突きつけて構える。 「ここで会ったが百年目、今度こそ決着つけてやる!さっさと変身しやがれ!!」 「無理」 「え?」 「だって金ねえし」 -- シゲマツ
- 「ダーハハハハハハハハハ!!!!金無くて変身できねえって!!ダハハハハハハハ!!!」
涙出るほど笑ってやがるので思いっきり蹴り入れてやった。 もっと腹の立つことに全然効いていやがらない。 「つまり復讐の大チャンスってわけだ!……くらえ!!」 右ストレートが俺を襲う。受け流して懐に飛び込み、土手っ腹に右拳をお返しする。 異能『正義は金なり』。さっきキツネから貰った前金を全部ぶっこんでやった。 これで少しは……あれ? 「効かねえなァー!!」 「どぉわッ!!」 俺は左拳をモロに食らって吹っ飛ぶ。 -- シゲマツ
- 「くそったれ!」
異能のおかげでダメージは大したことがない。 すぐ立ち直って殴りかかるが、そのたびにパワー負けして吹っ飛ばされる。このままじゃジリ貧だ。 何度目かの交錯で、俺はトラックの荷台に叩き込まれる。 起き上がろうとした右手にカキノタネ。 こいつで隙を作って、顎に一発。脳を揺らしてノックアウト。これしかない。 -- シゲマツ
- 「さしものチャージマンもここでお陀仏!気分がいいぜー!!」
不意打ちで飛びつき、浮かれた大口に封を切ったカキノタネを投げ込んでやる。 こいつは噂が本当ならとんでもなく美味いはず。 美味さでトロけたところをガツンだ。 「う、美味ェ……ケヒ、ケ、ヒヒ……もっと!!もっと食わせろォ!!」 「は?」 血走った目で突っ込んできたトカゲ野郎に吹っ飛ばされて宙を舞う。 その後の記憶なんざありゃしない。 -- シゲマツ
「で……給料は?」 「出るわけないでしょ」 開店前のバーで、俺はキツネとさしむかい。頭に巻かれた包帯が鬱陶しい。 「お互いに無い袖は振れないこってすし、借金が増えなかっただけ我慢してくだせ」 「それは嬉しい」 「代わりに借金仲間が増えましたけどもね」 そうだ。その後、トカゲ野郎はカキノタネをたらふく食って寝ているところをあえなく御用となったのだ。 御用といってもキツネの仲間のほうにだが。 こいつらは俺に借金を加算するより、借金の奴隷を一匹増やすことを選んだようだ。 「食い散らかした分の請求がアイツにいって、当然払えるわきゃねえから借金持ちと」 「取れるとっから取る。金貸しの基本で」 「なんとまあ哀れなヤツだ」 「旦那にいわれたかねえと思いますよ」 まったくだ。 続く -- シゲマツ
- 第三話 『奇貨居くべし』
―――黄金歴247年12月 今日はクリスマス。誰も彼もが浮かれ騒ぐ一夜。 日頃華やかならぬ落第街も、この日ばかりはどこか明るい。 クリスマスだからって、プレゼントを期待しているわけでも、奇跡を信じているわけではない。 ネオン街が聖夜に浮かれた客で少しは賑わう。この場合は性夜とか精夜とか言ったほうがいいのか、まあ、そういうことだ。 そんなものにてんで縁のない俺は、そんな日に身ぐるみ剥がれたオッサンを拾った。 こんな俺でも銭湯の金の二人分くらいは持っている。風呂上がりの一杯まで含めると自信は無いが。 「で、どうしたってあんなところで」 クリスマスに、ひげ面のオッサンと並んで銭湯(しかも俺のオゴリ)とは、つくづく溜息の出るシチュエーションだ。 せいぜい小話の種くらいにはさせてもらおうと、俺はオッサンに事情を聞く。 -- シゲマツ
- 「いやお恥ずかしい話で、私実はサンタなんですが」
「バイトの?」 「いえ本物の」 「またまた」 この街は滅茶苦茶なところだから、サンタの一人くらい居てもいいくらいの懐の深さはあるとは思う。 思うが、納得できない理由はいろいろある。すぐに出たのがこれだ。 「本物のサンタが身ぐるみ剥がされるわけねえだろう」 「それが私にも何が起こったのかさっぱりで」 話を要約するとこうだ。 まず、サンタってのは仕事中は見えなくなる。らしい。 非実体化っていうのか、ともかく幽霊だか妖精だかに近いものになるんだそうだ。 で、誰にも見られず人知れず、クリスマスの夜に集団で―――サンタってのはいっぱいいるらしい―――プレゼントを配って回るんだそうだ。 人間より霊感の鋭い犬なんかにもほとんど気付かれないくらいだそうだから、周囲に警戒なんざ払ってない。 そこを、恐らくは何かの異能者にガツンとやられて、目が覚めたら全裸で凍死しかかってたと。 -- シゲマツ
- 「服と袋、どうにか見つけてくださいませんか。子供の夢がかかってるんですよ」
弱いところを突きやがる。俺は溜息を吐いた。 「しゃあねえな。のぼせねえように待ってろ。番台の爺さんにいやあ浴衣くらい貸してくれる」 クリスマスにサンタの服捜しをやるとは思わなかった。 こういうのは、正義の味方時代に胸張ってやりたかったもんだ。 「ちなみに袋からプレゼント取り出し放題だったりしねえの?」 「呪うぞ。……取り出せるのはサンタだけですからご安心を」 俺がまず脚を運んだのは質屋だった。 落第街にあるのだから当然真っ当な店じゃない。盗品上等の闇の質屋だ。 他人の身ぐるみ剥がすなんて奴は大抵金が目当てだ。とすればこういうところで換金する。 プレゼントの袋が空でさぞかしガッカリしたに違いない。二束三文で叩き売って…… 「本物のサンタセット金貨30万枚……馬鹿じゃねえのか」 「本物だからそんくらいはするヨ。入荷したてヨ」 「袋がねえみてえだが」 袋もセットで売っちまえばよかったのに。 「なんか売ってくれナカタヨ。ウッカリ『これは本物ダ!』って驚いチャッタのが良くナカタネ」 「あんた商売下手だな!?」 そりゃなんとかしてプレゼントだけでも取り出そうとする。俺だって取り出せないの知らなきゃそうする。 「ちなみに持ってきた奴の人相は?」 「手足の長いアフロの男。丸っこいグラサンかけてたネ」 ……アイツか。 -- シゲマツ
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