--- 氷結樹の森にまつわる、昔々の御伽噺 --- ”氷結樹の森に子供が一人で行ってはいけないよ” ”寂しがりやの妖精に、さらわれてしまうから” ”その妖精は銀の髪の女の子、残酷で気まぐれで、だけどとても人が好き” ”けっしてついて行ってはいけないよ” ”月曜日 火曜日” ”月曜日 火曜日” ”時の止まった歌を歌う妖精たちと、永遠に森の中に閉じ込められてしまうから” それは冷たい森に迷い込んで、子供を死なせないために作られた物語。 一人ぼっちの少女にとって、その物語はとても魅力的だった。 「…だってさらった妖精が、ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」 ミハイロフ家の当主になる子供。 国を左右するほどの魔法使いの家だからと怖がられて、ただでさえ街の皆に距離をとられるのに。 当主候補なんてなおさらだ。 一緒に遊んで少女の身に何かあったら……大人たちは子供を少女に近づけさせない。 だから少女はいつも一人ぼっちだった。 「ジーニも友達が欲しいな…ずーっと一人ぼっちの当主なんかになりたくないのに」 氷の泉にうつった自分の姿に話しかける少女。 「……大丈夫、私が貴方を助けてあげる」 鏡のような氷のなかの、もうひとりの自分がにっこり笑った。 その姿は銀の髪。 氷結樹の森の妖精と、同じ色。 ……こうして、もうひとりの森の妖精が生まれた。 |