小鳥のおしゃべり・ログ Edit

小鳥の生まれた場所 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 小鳥の生まれた場所
    • ………ユーリに言えなかった事があるの。
      旅行中、何度も話そうと思った、ずっと抱えてきた気持ち。




      「ほんとうはね」
      「こんな国大嫌いだった」

      「壊れてしまえばいいっていつも思ってた」
      「だってそうでしょう?ジーニがこの国を好きになる理由なんて一つもない」


      生まれた時からジーニは国を守るための道具になるって決まっていた
      王宮の地下で国を囲むようにめぐらされた守護魔法陣に魔力を注ぎ続ける。
      死んでもいないのに魔法石と同じになるんだ。

      そうすれば、この国の人達は大きな自然災害に怯える事もなく、外敵に脅かされることもなく。

      そして何不自由ない生活、国を自由にするほどの権力が”二番目の一族”に保障される。

      たった一人の鬼の子の生け贄、それだけで沢山の人が幸せに暮らせる。


      自分達の幸せしか考えないで小さな犠牲から目をそむけるこの国の人間が嫌いなの。
      自分達の幸せしか考えないで子供に鬼を憎ませる貴族の大人たちが嫌いなの。
      真っ白な雪ばかりで冷たくて寒くて人の心まで凍りつかせるようなこの国も嫌いなの。
      そんなところへジーニを閉じ込めようとするパパもママも姉様も兄様も皆大嫌い。

      小さい頃からずっと祈ってた。
      神様、竜の神様。
      今すぐ大災害を引き起こして。
      かつてこの国を滅ぼしかけたもの以上の。
      皆、皆、壊れてしまえばいいんだわ。

      そしたらジーニは自由になれる!!


      だけど
      だけどね
      欠陥品を装って、この学園都市に来てからね、わかったの。

      北の雪国の人間はジーニを怖がるのに、
      お菓子屋さんはジーニがお菓子を買うと皆と同じようにおまけの飴をくれたの。
      北の雪国の人間はジーニを怖がるのに、
      子供と遊ばせてくれないのに、ひとりで遊んでるジーニが転ぶのを見ると助けおこしてくれたの。

      良心の呵責からそうしてたのかもしれない。
      そんな事でみんな罪は消えないって、わかってるんだろうけど。
      見ないふりすればいいのに。そんな事したってジーニがこの国のための生け贄になるのはかわらないのに。

      人は不器用にジーニに優しくしてくれて。
      ジーニはその小さな優しさがとても嬉しかったの。

      どうしても嫌いになりきれない。

      鬼を憎めと教えられて育ったのに、
      貴族のパーティで真っ白なドレスにお菓子の大きな染みをつけて、
      意地悪な人たちに皆に笑われて泣き出しそうになってたジーニに新しいドレスをくれて、
      自分が憎む存在なのだから、もっと堂々としていろと言った名前も知らない貴族の大人。

      理由は歪んだものだったけど、でもジーニを助けてくれた。
      優しくされて泣き出してしまったジーニの頭を撫でてくれた大きな手、
      パパともママとも違うその手のあたたかさがとても嬉しかったの。

      どうしても嫌いになりきれない。

      真っ白で、人を沢山死なせる冷たい雪。
      変だよね、それがどこにもない場所に行くと、恋しくなるなんて。
      氷の森の木々のきらめきが、あんなに懐かしくなるなんて。
      名前のない青い花。見飽きるくらいだったのに、あの花の香りがないとよく眠れないの。

      どうしても嫌いになりきれない。

      ジーニに全てを押し付けるパパやママや姉様や兄様。
      でもね、パパとママはいつもジーニを沢山抱きしめてくれて
      姉様や兄様は、いつもジーニを自由に出来ないか考えていてくれていたのを知っている。

      どうしても嫌いになりきれない。

      ううん、そうじゃない。ジーには

      ジーニはあの国が好きだった。


      離れてみて初めてわかったの。
      故郷って不思議ね、ユーリ。

      できればあなたにもこの国を好きになって欲しい。
      そんな事まで思ってしまって。


      結局ジーニはこの事を話さなかった。





      そしてジーニはまた一つ、この国を嫌いになれなくなってしまった理由が出来たの。

      かつてこの国に苦しめられてたママが、兄様が、どうしてこの国のために動くのか、ずっと不思議だった。
      どうしてって、兄様にきいたことがあったの。
      そしたら、兄様は

      「忘れられない大切な思い出がある故郷だから。嫌いになれなくて」

      そう言って笑ったの。



      今ならジーニ、その気持ちがよくわかるわ。
      故郷って呪いみたいね?憎らしいのに、嫌いになれない。

      ユーリとの思い出。
      忘れられない大切な思い出ができた北の雪国。


      http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp026154.jpg 




      ああ 私、この国が好きよ。


      -- ジーニ 2013-06-09 (日) 11:50:01

銀の小鳥と氷の森 Edit


http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079871.gif 
http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst083802.jpg

 --- 氷結樹の森にまつわる、昔々の御伽噺 ---


”氷結樹の森に子供が一人で行ってはいけないよ”
”寂しがりやの妖精に、さらわれてしまうから”

”その妖精は銀の髪の女の子、残酷で気まぐれで、だけどとても人が好き”
”けっしてついて行ってはいけないよ”

月曜日(パニジェーリニク)  火曜日(フトールニク)
月曜日(パニジェーリニク)  火曜日(フトールニク)

”時の止まった歌を歌う妖精たちと、永遠に森の中に閉じ込められてしまうから”



それは冷たい森に迷い込んで、子供を死なせないために作られた物語。

http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079869.gif 


一人ぼっちの少女にとって、その物語はとても魅力的だった。

「…だってさらった妖精が、ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」

ミハイロフ家の当主になる子供。
国を左右するほどの魔法使いの家だからと怖がられて、ただでさえ街の皆に距離をとられるのに。
当主候補なんてなおさらだ。
一緒に遊んで少女の身に何かあったら……大人たちは子供を少女に近づけさせない。

だから少女はいつも一人ぼっちだった。

「ジーニも友達が欲しいな…ずーっと一人ぼっちの当主なんかになりたくないのに」

氷の泉にうつった自分の姿に話しかける少女。

「……大丈夫、私が貴方を助けてあげる」

鏡のような氷のなかの、もうひとりの自分がにっこり笑った。

その姿は銀の髪
氷結樹の森の妖精と、同じ色。


……こうして、もうひとりの森の妖精(ジーニ)が生まれた。

小鳥たちの棲む森 Edit

小鳥のお手紙 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025446.jpg 小鳥のお手紙
    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 2月某日

      • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

        パパとママへ

        お元気ですか?ジーニはなんとか生きています。
        お手紙久しぶりになってしまって、ごめんなさい。

        兄様やリラ姉様から色々聞いていると思います。
        期待にこたえられなかったジーニでも、パパとママは好きでいてくれるでしょうか。
        ジーニもね、兄様から色々聞きました。兄様が知ってること、すべて。
        兄様からひどい事をしたのはママだって聞きました。

        でも、ジーニはやっぱりパパとママが好きです。

        ママのかけた最後の魔法、魔王を体に閉じ込める魔法。
        あれでユーリを助けるきっかけができたから。

        ジーニはママの呪いがなくても魔王に体を奪われてしまう運命にあったって聞きました。
        ママのあの魔法は、ジーニの最後の切り札になるようにくれたんじゃないかって。

        もうひとつ矛盾の魔王召喚の魔法陣発動のトリガーの話も聞きました。
        「ジーニが心から自由を望んだ時」
        自由になるためには魔王を必ず乗り越えなくてはいけない。
        だから、ジーニが自由になりたいと強い心を持ったその時に
        立ち向かわせてくれるための条件付けだったんじゃないかって。

        ママを嫌いになりたくないから、全部ジーニのためのものだったって
        そう思い込みたいだけかもしれないけど。

        でも、でも、ジーニはママに嫌われても、いらないって言われても、ママが好きよ。

        魔王にさらわれたお姫様が、騎士に助けてもらうお話の絵本を何度も読んでくれて
        「お姫様になりたいな」って言ったジーニに
        「なれるよ」って言って抱きしめてくれたママが大好き。

        ジーニは、なれたよ。あのお姫様みたいに。


        家を継ぐかどうかは、もう少し考えさせてください。
        選択権はジーニにある。
        「当主」とは、ミハイロフで一番魔力が強いということ。
        つまり、



        ジーニが本気で嫌がったら、誰も止められないね?



        それに、ジーニを守ってくれる強い騎士もいる。
        私は私の意志で未来を決めます。

        親不孝でごめんなさい。
        でも、ジーニ今一番幸せなの。

        ジーニを造ってくれてありがとう、ママ。


        追伸:素敵なピアスを見つけたので、同封します。ママに似あうよきっと。
            大丈夫、呪いなんてかけてないからね?


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        -- ジーニ 2013-05-29 (水) 20:37:04

      • 「ふふん」
        「娘からの宣戦布告なんて久しぶりだね」

        薄紅色の髪、黒いスーツ姿の派手な女に手紙を渡されて、
        ゆるいウェーブのかかった銀髪の女はそれに目を通すと嬉しそうに笑った。

        「なんて書いてあったのにゃ?」

        派手な印象な女が、その見た目に似合わない語尾で問いかける。げっそりした様子で。
        銀髪の女はぽいっとその手紙を投げてよこしたので、読む。

        苦虫を噛み潰したような顔が、きょとんとなって

        「………ほんとに、この子の言うとおり…あの魔法を…?」

        「さあ?どうだろうね?」

        飄々と、銀髪の女は薔薇のピアスをつける。
        金細工のチェーン、ピンクプラチナの薔薇が揺れて光を反射して綺麗だ。
        ちょっと女にはかわいすぎるデザインのようだけど。

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp026021.jpg 

        「…まあいいや、んじゃ僕帰るにゃー親父は早く死んでにゃ。できるだけむごたらしい感じで」

        「ごめん無理。あ、そうそう」

        「何」

        「ラズにさ、伝言」
        「私が頼んで描いてもらった絵本、ジーニにすごく好評だったって伝えて」

        「……………………………………………………えっ?」



        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

            ……本当のところは、この嫌味な感じに笑う女にしか、わからない。
            真実はいつだって、闇の中。

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        -- 2013-05-29 (水) 21:31:42

小鳥のおしゃべり・8 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025865.jpg 小鳥のおしゃべり・8

    • ふかふかもさもさうさぎの毛玉。
      魔力で出来た魔法の生き物。

      スニェグーラチカと同じね?

      「名前は何にしようかねー?」
      「名前は何にしようかしら?」

      「…ユーリ?」
      「それきっと怒られるわよ」

      『うーん……』

      つぶらな瞳で二人を見上げる毛玉を囲んで悩む声。 -- 2013-05-20 (月) 19:00:39

小鳥のおしゃべり・7 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025845.jpg 小鳥のおしゃべり・7

    • 真夜中のお茶会。
      場所はここではないどこか、不思議の国。
      Mad Tea Partyに似せて、森の中で白いテーブルを置きましょう。
      こんな感じでよかったのだっけ?
      ま、いいわ、気分よ気分。

      「とっておきの紅茶を入れましょうニェグーラチカ」
      「西の国のエルフのローズティーがいいわ」
      「カップは誕生日に兄様からもらった、薔薇の浮き彫りが入った真っ白のがいいな」

      翠色で、青いワンピースに白いエプロンののジーニ。

      「とっておきの食器にしましょうジーニ」
      「ハート型の白いお皿に、ピンクのハートのついた金のフォーク」
      「骨董品屋さんでみつけた掘り出し物よ」

      銀色で、黒いワンピースに白いエプロンのスニェグーラチカ。

      そっくりだけど違う二人。

      真ん中に桜のショートケーキをおいて、ハートの持ち手のナイフで半分こ。

      フォークでひとくち分すくって
      「スニェグーラチカ」
      「ジーニ」

      『はい、あーん』

      同時にぱくり。



      「あら」
      「あらあら」

      甘い生クリームの後味に、ほのかに香る桜の香り。
      ふんわりしたしっとりしたスポンジは、生クリームのために甘さ控えめで。
      それはとてもおいしいという事で、彼女達好みで。

      「すっごくおいしいわ」
      「困ったわね、これじゃからかえないじゃないの」
      「嘘はだめよスニェグーラチカ、全然困ってないじゃない。絶対おいしいって思ってたでしょう?」
      「うふふ、だってユーリは結構器用だものね」
      「そうよそれにジーニのために作ったものがおいしくないはずないのよ」


      くすくす笑いながら、お茶会の続き。
      二人で大好きな人の話をしながら。

      薄いピンクのショートケーキは、甘い甘い、恋の味。 -- 2013-05-20 (月) 17:55:43

小鳥のおしゃべり・6 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025817.jpg 小鳥のおしゃべり・6
    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 3月14日
      • 小さな小さな、勇気を一つ。
        その一歩を踏み出す事がどんなに勇気のいる事か
        知っているのはきっとジーニ一人だけ。

        14日、ホワイトデー。

        「はろーはろー。ジーニさんいます?」
        ……翠の扉の向こう側から、あの人が来る。

        その瞬間、時を止めて。

        「ジーニ」
        「お願いが、あるの」


        「いいわ、スニェグーラチカ、もう一人の私」
        「願いも答えも、お互いわかっているでしょう?」


        銀色の髪を翠に見えるようにあの人に暗示をかけて
        暗闇の空間を、花の香り漂う店の中へ変える。

        「…いらっしゃい。ユーリ。暇な店主ならここにいるわよー?」

        スニェグーラチカは、ジーニのふり。
        私たちはふたりでひとり。だから記憶も共有してる。
        だけどそれでも「スニェグーラチカ」でユーリに会いたかったの。



        お返しはね、きっとあってもクッキーとか、そういうものかなって思ってたの。
        かえってきたのは
        淡いピンクの薔薇の髪飾りと、桜のショートケーキ。

        嬉しかった。

        ユーリはこういうの疎いと思ってたのに。
        ああでも、皆が集まっているときユーリはいつも皆の事ちゃんと気にしてて
        細かいとこにも気付く人だったな。

        ジーニの好みもなんとなく気づいてくれてたのかもしれない。
        自分で選んで買った様なかわいさで。
        淡いピンクでパールの光沢のある薔薇に、落ち着いた金色の留め金。
        これを大好きなユーリが選んでくれたなんて。
        どんな顔で買ってくれたのかしら。想像するだけで幸せで死んでしまいそうなの。

        嬉しい。
        嬉しい…!

        あんまりにも嬉しくて…私は魔法を解いてしまった。
        私の中で、ジーニがくすくす笑ってる。
        髪飾りは、スニェグーラチカが先につけちゃった。ごめんねジーニ。

        『いいのよ。ジーニはあなた。あなたはジーニ』
        『ジーニの髪にも今、飾られているのよ?』




        ユーリは微笑む。
        「あぁ、初めまして。スニェグーラチカ。けど、きっと、前から居たんだよな?」


        そうよ ずっとずっと、私はここにいたの。 -- 2013-05-20 (月) 17:00:22


      • 「これが、ジーニの秘密」

        そして私は秘密をユーリに打ち明けた。
        でもね、それは私のことを知ってほしかったのもあるけれど
        もう一つ、理由があってね。

        「ジーニにも秘密があるの」
        「…………………ユーリと同じように」

        「…ユーリの秘密。バレンタインの時に言ったユーリを見かけたっていう話、さ」
        「バイトあのへんでしてたって、嘘、だよね?」

        「でもジーニの秘密教えたからユーリも教えてってわけじゃないのよ?」
        「ただ、ジーニにも秘密があるから、ユーリにも秘密があっても、それがどんなことでもだいじょうぶだよって」
        「……そう、伝えたいの。」


        嘘をつかれたことが嫌じゃないの。
        無理に聞きたいわけじゃない。
        ただユーリがどんな秘密を抱えていても、

        貴方が
        天使でも
        悪魔でも
        王子でも
        乞食でも


        「どんな貴方でも、好きよ」


        だから、嘘をつくとき、無理に笑わないでいいの。


        それでもユーリは笑っていたいって、笑った。

        「ありがとう」

        「でもさ。俺、本当にこの島が楽しくて、幸せだからさ」
        「ジーニと、みんなと。話してるだけで、いつだって俺は笑ってれるんだ」

        それは見たことなかった、穏やかな笑顔。
        ジーニとスニェグーラチカに向けてくれた、初めての笑顔。



        きっと一生、忘れない。

        ハッピーホワイトデー、ユーリ。 -- 2013-05-20 (月) 17:19:45

小鳥のおしゃべり・5 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025446.jpg 小鳥のおしゃべり・5
    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 3月

      • ”これは銀の小鳥だけの記憶。”

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025862.jpg 

        I want happiness(しあわせになりたい)
        I want happiness(しあわせになりたい)

        to cause your happiness(あなたとしあわせになりたい)
        to be your happiness(あなたのしあわせになりたい)

        so take me(だからつれてって)
        someplace far away(遠くまでつれてって)
        to a true Elsewhere(ここじゃないどこかへ)
        please take me there(つれてって私を)




        音の少ない雪の中、教会の鐘の上で歌う恋の歌。
        メロディが気に入って歌っていただけの歌。

        だから
        シュテルが来て歌をやめた時

        「お邪魔だったかな?空の向こうの恋人に、贈っていたのだろう」

        そう言われた時はどきっとした。きっと、その通りだったから。

        「…きっと聞こえていないでしょうから、いいの」
        スニェグーラチカは夢を見ない。
        遠くで歌う恋の歌が届けばいいなんて思わない。
        それはジーニのものだから。

        銀色のリングをかけて戦う事もジーニのため。
        スニェグーラチカを殺してくれるような強い人を探したくて。
        けれど最後の夜までそんな人は見つからなくて。

        どこかほっとしてる私がいる。

        どうしてそんな気持ちになるのかわからなくて
        私はシュテルに戦いを挑んだ。

        「ふふ、いいわ、歌ってあげる。なんだったら貴方の膝の上ででもいいよ?」
        「ただし…私、銀のスニェグーラチカと戦って、勝ったら」

        around

        「ああスニェグーラチカ。幸福のシュテルと、「決闘」していただけませんか?」
        「私でよければ、喜んで」

        戦う事は大好き。
        戦っている間は、忘れられるから。
        戦う以外の、何もかも。

        シュテルの『大勝利(Perfect Order)』とスニェグーラチカの『矛盾の魔王(Lord of Paradox)』が夜の雪の舞台で舞う。 -- 2013-05-20 (月) 10:56:06



      • 音叉の怪人と魔王の眷属の戦いは続く。
        夜の闇は『矛盾の魔王(Lord of Paradox)』を限りなく強くしてくれる。
        暗闇に溢れるこの場所なら、スニェグーラチカの魔力なら
        街を埋め尽くすほどの魔物の軍隊だって呼び出せる。

        勝てると思った。
        この自分勝手でいつも幸福だと口にする男に。

        勝ちたかった。
        何を考えているのかわからないのに
        自分のことしか考えていないのに

        「君の幸せを探したいんだ」

        私の想いを見透かす人に。

        「スニェグーラチカ。僕は君を見ているんだ、「スニェグーラチカ」。」
        「君はそれじゃあ、幸福になれない」

        スニェグーラチカはジーニの願いの名前なの。
        スニェグーラチカはただの仮面で、ただの魔力で
        「スニェグーラチカ」という個人なんて、いないの。

        「スニェグーラチカは、楽しく戦って、楽しく死ぬのが幸せなの」

        ジーニが魔力()を失えば、もう魔窟のような王宮に連れて行かれることもない。
        大好きな人をずっと追いかける事が出来る。

        「それは私にとっての幸せだわ」

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025720.jpg 

        そうよ。
        …………幸福のはずなのに。
        …………………………どうしてスニェグーラチカの胸はこんなに苦しいの……?



        スニェグーラチカを失っても、誰も悲しんだりしない。
        そう叫ぶ私にシュテルは「僕が悲しむじゃあないか」と言った。

        力を使い果たすほど呼び出した魔物の軍勢は、たった一人の怪人に敗れる。
        魔はいつだって人の強い意思に倒されるもの。
        ……かないっこなかったんだ。初めから。こんな自分勝手な「人間」に。


        「ねえ、シュテル」
        「スニェグーラチカも、ジーニと一緒に幸せになりたいって」
        「願っても、いいのかな。」


        ユーリの隣で笑うジーニの中で、一緒に笑いたいって、願ってもいいのかな。
        消えてしまわなくても、いいのかな。



        「スニェグーラチカ」は、生きていても、いいの?




        「君の幸福は願うがままに。誰にも否定させはしない。」

        温かい腕の中。優しくて、自分勝手な言葉が聞こえる。 -- 2013-05-20 (月) 11:31:11



      • 「何故諦めた?諦めは幸福とは違う、それは妥協に近い。妥協は幸福の敵だ」

        諦め…そう、諦めたんだ、恋のために。だってそれで十分だって思った
        憧れた恋が出来たから、その先なんて考えてなかった。考えるのが怖かったんだ。
        想いを受け入れられなくても、受け入れてもらえても、ジーニはきっと苦しむことになる。
        嫌なこと全部あの子に押し付けようとしていたのかもしれない。

        魔力が消えれば彼女の幸せが守れる。その考えに逃げていたんだ。
        「私も一緒に幸せになりたいの」
        その気持ちから。


        自分勝手な人間は、自分勝手でいいんだと誘惑する。
        これじゃどっちが魔物なのかわからないのだわ。
        人の心の闇から生まれた矛盾の魔王、その欠片を身に宿して生まれた私。誘惑は私の方が得意のはずなのに。

        私が負けたら私が歌うはずだったのに、シュテルは勝手に歌ってる。それはすべて命のための歌。

        夜を切り裂く眩しい朝日が昇る。
        世界はなんて綺麗なんだろう。
        人はなんて優しいんだろう。

        幸せだな。そう思った。
        急にユーリに会いたくなった。

        幸せだと思ったことを、綺麗だと思ったことを全部全部教えてあげたい
        ユーリの幸せってなんだろう。
        私にできることがあったらいいのに。


        もうすぐ、雪解けの春。雪はとけて消える運命。
        でも
        生きていていいんだって、消えてしまわなくてもいいんだって、雪は言ってもらえた。 -- 2013-05-20 (月) 11:47:31

小鳥のおしゃべり・4 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025446.jpg 小鳥のおしゃべり・4
    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 2月。 -- 2013-05-19 (日) 17:01:30
      • 落第街でユーリを見つけたの。
        真夜中に、リングを持つ子をおいかけて兄様に「来てはいけない所」と教えられた場所で。
        そこは人が死んでも誰も気にしない場所で。人が品物になっているような場所で。
        闇の中で誰かがひそひそはなしながらこっちを見てる。場違いな私。早くこの場を離れなければ。
        入り組んだ暗い道の向こう、ユーリが歩いてる。

        顔を見たのは一瞬だけど。
        どうしてこんなところにいるの?何かあったのかな…。

        「ユーリ!!!」
        声の限り叫ぶ。


        彼も私にきっと気付いたはずなのに。私の髪が銀色だったせいかしら。
        振り返ってくれなくて、いつの間にかその姿はなくなっていて。


        きっと夢だと言われたら、そうかもと思ってしまうくらい。
        現実感がない。でも、だけどあれは確かにユーリだった。

        帰っても眠れなくて、次の日彼を探したら、いつも通り学校で誰かと笑っていて。
        私はやっと安心できたのだった。


        あれはなんだったのだろう。
        人違いだよねきっと。


        「もうすぐバレンタイン」
        「ついでに聞いてみたらいいんだわ」
        「きっと何の話?ってきょとんとした顔が見れるから」
        -- 2013-05-19 (日) 17:01:51
      • 「あぁ、あれか。バイトバイト。配送のでさ。ちゃんと安全は確保してるから大丈夫だよ。ありがとな、ジーニ!」

        返ってきた言葉は、予想とは違ってた。

        嘘ついてる。
        なんとなく、そう思った。

        偶然思い当たるようなアルバイトがあったのかもしれない。
        もっと安全だけど、普通よりはちょっと危ない場所だったのかもしれない。

        でも、でも、嘘だと思った。
        向けてくれてる笑顔は嘘じゃないのに。

        チョコレートを受け取ってもらえた嬉しさで幸せでふわふわするのに、ちょっとだけ、地面に引っ張られる気持ち。

        「ジーニには秘密がある」
        「スニェグーラチカ、ジーニの魔力と願いの結晶、あの子の存在は秘密なの」
        「ユーリにはまだ言っていないこと。秘密の事」

        「ジーニに秘密がある」
        「同じように、ユーリにも秘密があるのかしら」


        笑顔の裏の、秘密。
        見えてるものが、すべてじゃない。

        もし、違うものが見えても、それがどんなものだとしても、私の気持ちは変わらないだろうか。

        天使でも
        悪魔でも
        王子でも
        乞食でも

        「…変わらないわ」
        「見えてるものがすべてじゃないけど」
        「ジーニが見た事、感じた事、体験したものすべては真実」
        「ユーリとジーニのすごした時間は、変わらないわ」


        「だからユーリに秘密があっても、それがどんなものであっても」

        「ジーニは、ユーリのことが好き」
        「スニェグーラチカはユーリのことが好き」 -- 2013-05-19 (日) 17:21:04

小鳥のおしゃべり・3 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025446.jpg 小鳥のおしゃべり・3

    • 「その時は友達として…って思ってたけど」
      「違うみたい。シェリーへの好きと、ユーリへの好きは、違う」
      「きっと、きっと、これが恋」
      ……これがジーニの初恋よ

      12月、クリスマス。翠の小鳥は恋を歌う。
      銀の小鳥と何度となく話し憧れた……「恋」


      「…だから、スニェグーラチカは、ジーニだけど、違うから」
      「…たすけるいみなんて、ないよ」
      「……ジーニ、いま、幸せなの」
      「……ジーニ、好きな人が、できたんだよ」
      ……はじめての、恋なの

      12月、クリスマス。銀の小鳥は恋に泣く。
      翠の小鳥と何度となく話し憧れた……「恋」


      二人は同じもののはずなのに。
      どうしてこんなに違うのだろう。


      恋を胸に運命を受け入れたいの
      恋の為に運命を打ち壊したいの

      どちらが私の本心なの?

      「スニェグーラチカ、もうひとりの私」
      「貴方の考えが私と違う事が怖い」


      「貴方はもう、ジーニではないのかしら」

      暗がりへの問いかけに、彼女は答えてくれなかった。 -- 2013-05-12 (日) 04:15:22

小鳥のおしゃべり・2 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025446.jpg 小鳥のおしゃべり・2
    • 「……もうすぐクリスマス。今年はユーリが手伝ってくれるからお店忙しいのも楽しみだね?」
      「お礼はいいって言ったけど、やっぱり何かあげたいよね。何がいいかなぁ」
      「まかないはぷれぜんとにはならないし。ユーリ何が好きなんだろ」
      「そういえば、ジーニ、ユーリのこと何も知らない」
      「知りたいな、ユーリのこと」
      「聞いてみよう、そうしよう。ジーニ以外の人生ってどういうものなんだろうね?」

      「生まれた時から自分の好きに生きてていいのかな?」
      「ユーリのパパとママはどんなひとなんだろう?やっぱりジーニのとこと違うよね」

      「早く来ないかなぁクリスマス」
      「シェリーにも何をあげるか考えなくちゃ。何かかわいいものがいいよね」
      「ねえスニェグーラチカ、シェリーにジーニ達友達だよねって言ったらうんって言ってくれるかしら?」


      「ねえスニェグーラチカ、もうひとりの私」

      「どうしたの、泣かないで」

      「どうしていつもはお姉さんな貴方が泣くの」
      「幸せなことを話しているのにどうして泣くの」
      -- ジーニ 2013-05-10 (金) 17:15:43
      • 「だって」
        「だってこんな幸せなのも、もうすぐ終わってしまう」
        「ジーニだってわかっているんでしょう?」

        「パパもママも兄様も知っているの。何もかも。ジーニが嘘つきだってことを」
        -- スニェグーラチカ 2013-05-10 (金) 17:17:25


      • 「ええきっと知ってるわジーニに魔力が無いのは、嘘だっていうことを」
        「秘密なんて初めから無い事を」

        ジーニの人生は生まれる前から決まっていて
        ジーニはそのために姉様の時のように「調整」されて産まれた。
        だからジーニに魔法の力が無いなんてありえないことを皆わかってた。

        幼いジーニがもう一人の自分を作って自由を勝ち取ろうとしていることなんて
        あの化け物たちにはお見通しなのだ。

        この時間は家族からの贈り物。
        哀れなまでに幼くて、拙い努力に免じての、ほんの少しの青春。



        「それでもいいの」
        「それでもいいと思えるようになったのよ」
        「きっときっと、出会ってくれた人のおかげ」

        「だからスニェグーラチカ、もうひとりの私、泣かないで」


        「精一杯、普通の女の子でいよう。嘘が暴かれる……その瞬間まで」


        -- ジーニ 2013-05-10 (金) 17:24:02

小鳥のおしゃべり・1 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025446.jpg 小鳥のおしゃべり
    • 「はいできた、後ろを向いてジーニ、つけてあげる」
      (欠けた桜貝のネックレスを翠の髪の少女の首にそっとかけて)
      「そんな欠けたのでいいの?形のいいのは他にあったじゃない」 -- スニェグーラチカ 2013-05-09 (木) 18:13:41
      • 「いいの、これはユーリにあげたもののもうかたっぽだから」
        (つけてもらったネックレスをアンティークの手鏡で眺めながらにこにこ答える) -- ジーニ 2013-05-09 (木) 18:15:39
      • 「男の子に桜貝はあわなかったんじゃないかしら、きっともてあましてるわよ」
        (まるで姉のようにジーニの曲がった髪留めを直す。同じ存在なのだけど、自分の方が姉役だ) -- スニェグーラチカ 2013-05-09 (木) 18:22:40
      • 「えっ そ、そうかな、綺麗なものは誰でも嬉しいと思ったんだけど…」
        「あ、二日酔いのお薬は効いたから、それでよしとごまかせないかな?」
        「悪戯はしたけど…えへへ」
        (青い花の砂糖漬けを口に放り込んでまた笑う) -- ジーニ 2013-05-09 (木) 18:26:25
      • 「薬といえば…ユメジには本当に効いたのかしら。あの薬」
        「あの子人がよさそうだから、効かなくても効いたというわよきっと」

        (自分も砂糖漬けを食べて、横に並ぶ。双子の姉妹のように寄り添って) -- スニェグーラチカ 2013-05-09 (木) 18:29:16
      • 「…!!だめだったらどうしよう。怖い夢は嫌なのよ。夢は楽しいものがいいのよ」
        「眠りは幸せなものでなければ。だって、ジーニは寝ている時は忘れられるもん…嫌なこと」

        「……ねえスニェグーラチカ、ジーニの雪」
        -- ジーニ 2013-05-09 (木) 18:32:13
      • (じっと猫のような瞳で見つめる自分と同じ姿の少女。続きは聞かなくても、わかる)
        (だって私達は同じもの)

        「いいわ、ジーニの願いをかなえるのが、私の役目だもの。」 -- スニェグーラチカ 2013-05-09 (木) 18:33:51


      • 「暗がりに祈りなさい。きっと優しい闇が願いをかなえてくれるから」
        -- スニェグーラチカ 2013-05-09 (木) 18:35:00

Last-modified: 2013-05-30 Thu 00:46:18 JST (3983d)