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空が遥かに高くなり、世界が白く染まる頃。即ち先月のことであるのだが その頃に聞いた話がどうやら実際に動き始めているのは確かなことらしい 雪が水となって土の恵みとなり、山々の豊かさをもたらす日も近き今 愛しきバルタザール家のメルキオール館に住まう人々は冒険へ繰り出すことにしたようだ 年季ある私がこんなことを言うのも、混乱を助長させることになるかもしれない しかしそれでも、あえて平和を捨てようというのかと思う ここの賑わいもこれから薄れ行き、侘しさを楽しむ術を覚えなくてはならぬと思うと どうにも心ざわめかされる かつて三男として家を出てより、この家を頼ってきたものだが、それだけに尚更 どうか幸福な結末よ、終焉にて待ちたまえ
やはり冒険へと出ることは茨の道を行くが如く、油の川を泳ぐが如し これを書いている今の時点で、２人の者が未だ帰ってきていない ああ、セルジュ、フェリス、君たちがもたらすのは悲しみなのか メルキオール館からはにわかに笑みが途絶え、楽の音も聞こえない 涙の雨が我等の頭上にわだかまって今にも降り出そうとしている 今できることはただ待つのみなればもどかしく そして鏡に映る己の無力さを眺めて頭を垂れる 春の風よ、どうか我らに安らぎを吹きこみ、苦しみを散らしたまえ
なんとも嬉しい出来事が重なり、館は花が一斉に咲いた如く喜びに満ち溢れている 先月に行方知れずとなった２人は、無事にメルキオール館へ帰還し祝杯となった そして今月は一人として犠牲を出す事無く、揃い踏むことが出来たのだ おお、たくましきメルキオール館の住人たちよ！ それは喜びに他ならない 先日の乱痴気騒ぎは、これの先触れであったのだろう 花々は咲き乱れ、館は崩れもたちまちの内に蘇り 笑いの渦が館中に木霊していたあの瞬間 我が愛しきバルタザール家のメルキオール館よ、これからも末永くあることを
禍福はあざなえる縄の如し。今月もまた、訃報がメルキオール館の耳に届いた ミリィ、いや、トメさん。我らが食事を預かり、そして団欒の一時をくれた彼女 老いてなお健康なるその身は、いかなことになってしまったのか 我等の舌が鼓を打ち、楽を奏でる日の再び訪れんことを なればミリィ、君はその域にまで達したまえ 若くば先へと進み、より高くへ上って、辿りつく場は果てしなくと あるいは指揮者の交代だというのであれば、それが優れてあれ 我らは舌にて鼓を奏でることとしよう
赤い雨が館を濡らす ミュオレ、そして舘、二人はいかな手によって失われたのか デミオが敗者となっているのが発見された今、移動手段は限られ この館から遠く離れることは叶わないだろう 第一の犠牲者、ミュオレ・パンジャ 深く貫かれ、逆さ吊りとなり、逆十字となって彼女は発見された 象徴的なその手口、鮮やか過ぎるその傷痕 舘はいまだその行方が分らない 彼が犯人であるのか、あるいは彼すらも…… 共通する「しゃちょ」という言葉 そして警備隊の倉庫から盗まれたという弾薬の数々 一隊何を示すのだろう……
悲劇は休まるところを知らず。いや、これはまだ尚早な判断だ 先月のあの事態より、つい先日まで特に目立ったことは起きなかった そう、つい先日までは、だ 事件の後に館の中も落ち着きを取り戻し、皆に笑みが帰って間もない昨今 今この文章を書いている時点で、レュンァーの帰還が確認できない 周囲とそれほど触れ合っているわけではないが、そんなことは関係ない 大事な館の仲間の所在が知れなくなっている 重要なのはそこなのだ、何にも増して 今のところ、館は平静を保っている。これより明るくなればよい
おお！ この世に慈悲などあるものか！ 未だ、３名がこの館に帰り来ぬ。彼は、彼女は、今どうなっているのだろう。 恐ろしい事件がこの館を見舞ってまだ日も浅く 不安が陰鬱に覆いかぶさっている中で、この報告はさらにベールを被せる者となった 私は冒険において、いよいよ新たな段階に踏み出そうとしているが その喜びもこの悲しみの前には打ちのめされる 我らが友、我らが家族！ 君死にたもう事なかれと、あえてそう詠おう 死へと赴くごときこととは言えど、願いはつきえぬ
秋の風は、辛き出来事も夏と共に送ってくれたのだろうか 今月は誰もかける事無く、館に皆集うことが出来た 切なさの権勢は先月のうちに失われ、今はまた笑みがその力を振るっている 暴君に傅けどその心穏やかにあらず、賢帝にこそ平穏はある 我々人にとって、悲しみはあまりにも苛烈すぎる暴君だ それは時に貴婦人の宝石の如く、彩のなることもあろう されどもそれは諸刃の剣でないことは無く、傷を生まぬことは無い 喜びよ、力強くあれ。我らの元から吹き散らされぬように
美食、芸術、健康。そこには美がありて、秋には良く似合っている 今月は、再びセルジュ君の帰還が遅れているようだ 一度大いに遅れた身であるだけに、再びということは どうにも不安を煽られてやまないことである 舘の皆もこの事態に頭を抱え、心悩ませ、事態の推移を見守っているようだ ところで今回、私は光の魔導器を得ることが出来た 普段は精霊たちに加え、氷の魔導器で戦っていたのだが こちらのほうが戦果を期待できるため持ち帰ることとする 魔術師の位にまで達する長い時間使ってきた者ではあるのだが しかして、氷と光を組み合わせれば、私に良く似合うかもしれない 彩光中年……いやいや、「煌きの」という称号を考えてしまった
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