名簿/508964

  • 老人と私の出会い
    私が老人と、どういう繋がりがあるのか? を話そう
     
    老人が偽物の娘を作り、娘も緩やかに成長をし始めていた頃
    都会では魔女狩りが大流行していた
    噂も少しづつではあるが、徐々に徐々に広がっていき
    最後には、このろくに人も居ない山村にまで広がった
    まだ、噂だけで実害は無い
    老人も医師であり魔術師であったが、山村の皆から信頼され好かれていたし
    ……何よりも、彼だけが唯一の医者だった事も大きい
     
    以前、彼が山村の人々を助けたように
    噂を聞きつければ、今度は彼らが、老人を守ろうと固く誓っていた
     
    「……と、言う訳です。巷では魔女狩りと称して魔術師が片っぱしから連れていかれています
    村の外から知らない人が来ても、会わないでくださいね
    ……勿論。悪い魔女なんぞが逃げてくるかもしれませんし、気を付けて下さいね」
     
    村の中の、若い男の一人が そう、忠告する
    噂のせいか、山村にも何処か不穏な空気が漂っていた
    老人は、忠告を感謝して、同意した
     
    勿論、下手に人を匿う気も無い
    只の医者であり、魔術師であっただけなら良かった
    最悪、自分が連行されて殺されようと、寿命も近い
    老衰で死ぬか、連行されて殺されるか程度の違いだ
     
    ……けれど、今自分が連れていかれたら、娘はどうなるのだろうか
    存在自体が禁忌なのだ……もし、見つかってしまったら どういう末路を辿るかを考えるのもおぞましい
    あの子を守る為にも、厳重に、以前よりも自分の周囲に気を配る事を心に固く誓った
    -- 2014-02-14 (金) 18:09:59
    • そんな話があって、暫く経った頃だろうか
      巷に流行していた魔女狩りのせいで、私……クララ・アステル・フォーチュンも
      元の居場所を抜けだし、より人目につかぬよう
      誰にも気取られぬよう、奥へ奥へと進んで行き、この山村にたどり着いたのは
      魔女狩りのお陰で、私自身、頼る相手も、仲間もおらず
      どうにか生き伸びて逃げ切るのに精一杯の日々を送り、命からがら老人の家を訪ねた
       
      「……すみません。山の道に不慣れで迷ってしまったもので……
      1日だけで良いので、どうか今晩だけ、家の隅に居させて頂いても良いでしょうか……?」
       
      念の為、私も老婆に姿を変えていたが
      魔術師であった老人には、すぐに術で姿を変えていた魔女だと、正体を悟られた
      ……本来なら、私なんぞ匿う余裕も、老人には無かった
      下手をすれば、自分も告発されて、彼の行っていた罪も知れ渡ってしまう
      無情にも、老人は扉を閉めて私の事を見なかったふりをしようとした
      ……けれど、次々と家族を失い、仲間を失い
      人の命が無情にも目の前で朽ち果てて行くのを嫌というほど目の当たりにして、後悔の日々を重ねて来た老人には
      私を追い出すことが出来なかった
       
      「……入りなさい」
      静かに扉を開け、言葉を告げると 冷え切っていた私を火の近くに寄らせ
      その晩の夕食の残りであったのだろう。スープとパンを分け与えてくれた
       
      老人が、私に静かな口調で優しく尋ねる
      「君は、魔女なのだろう?わざわざ老婆に姿を変えて、ここまで逃げて来た
      ……違うかい?」
      私は「その通りです」と頷いて、名を名乗った
       
      クララ・アステル・フォーチューンと言えば――……
      The Wise of Wiseと称された偉大な魔女の一人であり、老人は驚きに一瞬目を見開いたが
      静かに私に忠告してくれた
       
      「ここの村には、医者と魔術師を兼ねてだが、そういう存在が私しか居ない
      山の奥深く過ぎて、他の魔術師の仲間達も、訪ねてくることは全くと言っていい程無い
      道もなく、険しい場所にあるからこそ、君がここに辿りつけたこと自体が、奇跡の様なものでもある
      ……そんな場所だからこそ、医者には飢えている
      明日から、私の弟子を志望し、助手として住み込みで教えを乞いに来た事にしなさい
      ……皆、きっと君を歓迎するだろう」
       
      それだけ告げると、老人は自分の寝床を私に譲り、自分は床で寝始めた
      私も暫くの間……魔女狩りのほとぼりが冷めるか、この村に危機が迫るまで好意に甘えようとした
      他に行く宛ても、安全な場所もなかったのだから
      ……こうして私の、その村での生活が始まった
      始めは、突如魔女狩りの噂が立ち上り始めた頃に、山村に現れた若い女を皆訝しげに思った
      けれど、老人は 村人に聞かれる度に、こう説明した
      「あの子は以前から、山を下りた所で、時折開かれる 薬草の研究会で、ずっと私に弟子にして下さいと頭を下げていたんだよ
      私の老い先も短いし、ろくに教える様な事を知っている訳でもないから断ってきていたんだが……
      こんなところまで追いに来られては、帰れとも言えなくてね。弟子に取って、私の助手をさせながら住み込みで働くことになったよ
      賢い子だし、皆の手助けになるだろう……山の生活には不慣れだし、皆も助けてあげて欲しい」
       
      始めは皆も訝しく思ったが、老人への信頼と、新しい医者をしてくれるものが着たことの歓迎の方が大きく、私を受け入れることになった
      冷静に考えれば、可笑しいと思う者も居ただろう
      ……だが、この村の唯一の医者であり魔術師の老人は、老い先が短いのも皆分かっている
      もしかしたら、明日にでも倒れて老人が居なくなってしまっても、可笑しくない年齢なのだ
      故に、皆、老人に代わり新しい医師となる可能性を秘めた私を受け入れた
      私自身も怪しまれぬよう、懸命に働き、周囲の人に尽くした事で、少しづつ信頼されて、その村に溶け込んで行った
       
      都会の魔女狩りの不穏も無く、長らく老人にお世話にもなっている
      私は是非、何かお礼を返したいので何か出来ることは無いかと尋ねたが
      老人は、首を横に振り感謝されることはしていない、と 始めは何も言わなかった
      ……けれど、確かに目の前に老人の心残りの種はあるのだ
      そして、それは私以外に頼める相手も居ない事を
      -- 2014-02-14 (金) 18:10:33
      • ブーゲンビリアの存在
        老人との生活を重ねながら、初日のうちに彼の娘のホムンクルスが居て、隠して世話をしながら生活している事を知っていた
        徐々に月日を重ねる事に、老人も少しづつ、少しづつではあったが、自分の生い立ちと経緯を私に話してくれた
        当然ではあるが 他に、自分の秘密を告白できる存在も今まで居なかったのだろう
        ……私に昔話と娘の話をする老人の表情は、心のつかえが取れている様だった
         
        始めのうちは、想い出話を耳にする程度で、お礼も何も気にしなくていいと 首を横に振っていた
        けれど、徐々に迫る老いと、自分の最後には抗えない
        徐々に老人の足腰も弱り、近所の診察にも億劫になり始め
        老人の代わりに私が近所へ診察をし、老人の代わりに その村で本格的に医者の代わりを務め始めた頃
        老人は、ぽつり、ぽつりと話をした
         
        「……君にこんなお願いをするのは、お門違いだし迷惑を被ってしまう事も重々承知しているんだ
        これは私の過ちで、いずれは私が自身の手で、幕を下ろすべきなのだ……けれど
        作り物とはいえ、その存在は偽物だとはいえ……愛娘を、殺せるものか
        何度も何度も躊躇って、彼女を殺して自らの命も経とうかと考えた事も幾度となくあるが……
        私には、どうにもそれが、出来そうにない
        ……迷惑なお願いだとは分かっているんだ。人の命を預かる責任を背負わせてしまうからね
        ……けれど、もしもだけれど……
        君にもし、迷惑がかからないのであれば……娘を弟子という形で引き取って、私の代りに面倒を見てあげてくれないかね?
        無理にとは言えないけれど、私のお願いが、たった一つあるとすれば、あの子の事だけだよ」
         
        私も、老人との生活を重ねながら、彼がお礼を人に求める様な人ではない事も
        もし、仮に自分が礼を返せるとしたら、あの娘の事だろうことは、簡単に察する事は出来ていた
        犬猫ではあるまいし、流石に人を託されるのは困る所ではあるが
        助けてくれて、匿った上に、村での居場所も与えられ平穏に暮らせた恩は大きい
         
        自身の命の代償は、あの子の命の代償として
        私はあの子の面倒を見ることを決意した
        「わかりました。貴方の死後は、私が代わりにあの子を弟子という形で引き取って、お世話をする事を約束しましょう」
         
        老人は、ありがとうと微笑んで、最後の心残りも無くなり 安らかな笑顔を見せた
        最後の最後、自分以外にあの子の世話をする人が居ないという心残りと気力から、生きてきたからだろうか?
        約束を交わしてからは、この世に未練は無いという様に、日に日に急速に弱まっていき
        暫くは私も周囲の診療と、短いながらも老人の世話で疲労する日々が始まりだした
         
        多忙な日々に追われ過ぎて、不穏な種には気付かなかった
        この村の青年の一人に、老人の家を よくよく眺めて居た者が居た事も
        隠して暮らして来た娘を、偶然に目撃してしまい、密かに恋焦がれていた事も
        ……その青年の隣に、嘗て私の弟子であった魔女の一人が恋人として存在していたものの
        隣の青年の熱が、老人の娘に向けられている事を知り
        嘗ての弟子の目は、老人の娘を、炎の様な嫉妬の宿る瞳で見つめていた事に
        私自身も、まさかとうの昔に破門した弟子が居るとは思っていなかった
        ……いや。その存在に気付かなかったんだ -- 2014-02-14 (金) 18:12:23
  • 菫との会話・スパイシーに送った手紙 -- 2014-02-08 (土) 20:04:26
    • 彼女の事は、誰にも秘密にして欲しい
      無論、あの子自身にも
      あの子は何も知らなくていい。知らないままでいい
       あの子は昔、私の弟子だった
      けれどそれは、君達の知っている彼女ではないけれど
       
      あの子は、この学園へ、私を追いかけて来たと思っているが、そうじゃない
      居場所のなくなった、あの子の最後の楽園に
      そして最後の幸せな思い出だけを、どうにかしてあげたくて、入学手続きを私が施して
      後は、全て忘れさせたつもりだった
      何故か、私の事を忘れてはいなかったのは計算外だったが
       
      君達の知っているブーゲンビリアは、この街よりもずっと原始的で
      森の奥の、ろくに人が居ない小さな村に住んでいた
      村人達も、ワイン作りや畑仕事、狩猟等を行い、その日暮らしもやっとの生活で、どうにかその日暮らしを成り立たせている様な場所だった
      そこに、一人の老人と少女が住んでいたんだ
      その少女が『菫嬢の知っているブーゲンビリア』
      そんな村の奥で、老人と家に二人っきりで、籠るようにして家の中で生活していたんだ
      家事をして、おじいさんと自分の身の周りの世話をしながらね
       
      老人は愛娘をとても可愛がっていた
      その老人も、武骨で無口で無愛想なのだが、根は誠実で思いやりに溢れているいい人だったよ
      老人と彼女は親子である……その事実は変わりは無いのだが
      『血の繋がり』を問われれば、怪しい話になってしまう
      『以前』は確実にあったのだが、『その時』の彼女にはないからね
       
      それは、老人の最初で最後の過ちであり、彼自身の救いだった
      ……彼女はね。とうの昔に死んでしまった娘を元に造られた存在だったのだから
      -- 2014-02-08 (土) 20:08:08
      • 老人の話 -- 2014-02-08 (土) 20:39:52
      • ここで一度、老人の話をしよう
        何故、老人がそんな事を行ったのか?
        何故、それが最初で最後の過ちであり掬いなのか -- 2014-02-08 (土) 20:42:01
      • ブーゲンビリアの存在を作った老人は、魔術師である
        山村の奥の、動物達が密かに『おやすみなさい』の挨拶を交える様な寂しい村で、人の数も少なく、その村の存在を知る人も殆ど居ない
        そんな村で唯一の魔術師であり、医者をしていた
        医者といえど、病気の人に調合した薬草を差し出す程度の事や、白魔術を施すぐらいではあったが
        他に医者も、医療技術も無いその村では大変に信頼され、周囲の人々から尊敬されていた
         
        それは、単に多少の治癒の心得があるからというだけでもなければ
        その老人の性格自体も、武骨で表情は乏しく、無口ではあったが
        とても優しく困っている人を自然と助け、優しさが自然と内から溢れだすような性格をしていたからだった
         
        今となっては彼も、そこそこの魔術師にはなったが
        元々魔術師を目指していた訳でもなく、気付いたら魔術師になっていた
        ……彼の経緯を話すとしよう -- 2014-02-09 (日) 17:23:33
      • 老人の過去 -- 2014-02-09 (日) 17:29:22
      • 彼は元々、魔術師ではなかったし、魔術師を志していた訳でも無かった
        気付いたら魔術師になっていたのである……
         
        老人は、元々は猟師だった
         
        -- 2014-02-14 (金) 01:25:29
      • 彼は、こことはまた違う山村の、猟師の子のうちの一人として生を受けた
        大柄で無口だが、優しくも厳しい父と、自分を含め4人の男の子を育てる母の間で生まれ育った
        こことは違う山村ではあるが、暮らしぶりは貧しい
        水で限界まで薄めたようなシチューが、御馳走になる様な生活であり
        何も口にできない日も、当たり前のように数日続く事もあった
        ……けれど、貧しくも温かな温もりに包まれていたんだ
         
        彼は家族が大好きだった
        幼いうちから父について回り、狩猟や山の植物の事を教わって育っていった
        日に日に父に似て、逞しく がっしりとした体格の大男になり
        見た目は無精で厳しい目をしていたが、中身はとても家族想いで優しかったんだ
        成長していく程に、父の生き写しの様に育っていった -- 2014-02-14 (金) 01:32:35
      • 年も良い頃になり、奥さんを貰い家庭を作る事となった
        元居た村を離れ、奥さんの居た村へと移り住む事になる
        田舎である事に変わりは無いが、以前彼の住んでいた場所から比較すれば
        近くに領主の家もあり、ずっとずっと都会だった
         
        村の主な収入源は、田畑の仕事である
        そこで彼も、田畑の仕事を中心に行いながら、時折狩猟をして動物の皮をなめし、植物を採取して食事や薬にする生活をしていた
         
        そのうちに子供達も3人でき、上の2人は男の子、末に娘を授かり、幸せの中に居た
        税の取り立てが少し厳しいくらいで、他に特に問題も無く 慎ましくも良い家庭を築き、良い父であった
        ……ずっと その幸せも続き、平和に人生を終えるだろうと思うくらいに -- 2014-02-14 (金) 01:39:07
      • けれど、その幸せも徐々に徐々に
        天候がゆっくりと変わって行くのと似ている様に、晴れの日差しも弱くなり
        雲が空を多い、雲の色も色濃く、嵐が起きる前兆の様に
         
        ……始めに、末の娘が死んだ
        妻に似て美しい子であったが、元々身体が弱く、いつも病気にかかってしまう様な娘だった
        いつも風邪をこじらせて長く寝ている様な子で、健康であった日は本当に少ない
        父だった老人は、心配で心配で、自身の父から教わった様々な山の植物を試したり
        次第に自分でも植物の調合をして、薬湯を作る等の工夫を施した
        ……医者の存在すらない村では、それが限界だったのだ
         
        けれど、その努力もむなしく 娘の命は若く美しい間に散ってしまった
        ……丁度14くらいの年頃だった -- 2014-02-14 (金) 01:45:05
      • 娘の死が、不幸の幕開けの前兆かと思うかのように
        その年から徐々に不作に見舞われた
         
        始めは大したことないと思った……1年、我慢すれば良い
        2年目になると、本当に厳しかった
        贅沢もせず、倹約を務めていたのに、領主は下々の苦労を知らない
        ……時代の流れも悪かった
        彼らは田舎にいるせいで、都会の様子を知らなかったが
        都会の方ではどんどん新しい技術や世代へと入って行き、発展をする一方で
        そのしわ寄せの様に、田舎では苦しい生活を虐げられてきた
         
        ……領主の都合からすれば、他の領主達よりも、税も少なく貧乏だったのだろう
        けれど、下々の者も都会の様子なんて知らない
        無論、領主の都合も
         
        下々の民からすれば、自分達は倹約を強いられているのに
        不作であり、作物も取れない事は事実であるのに
        血税を取り上げる、冷徹な領主でしかなかったのだ
         
        ……三年目
        食べる物も限界でそこを付き、明日からの暮らしも徒労にくれる村人達は限界に達した
        団結して、領主の所へと出陣する計画を綿密に立て、実行しようとしていた頃だった -- 2014-02-14 (金) 01:53:29
      • 老人の息子達も年頃で、本当ならもう、奥さんを見つけ家庭を築いても良い年だった
        ……けれど、その日も暮らす事も厳しい状況で、嫁すら貰えない
        生活もままならない
        戦いの陣に、他の村人と団結し、参加する事になった
         
        老人も、参加しようかと思っていたが……一つだけどうしても心残りがあり
        『もしも』の時を考えて、参加をするのは止めておいた
        ――……理由は簡単
         
        美しい妻を貰ったが、病弱で
        食べる物もままならない状況で、病は悪化し 一人では生活もままならなかったからだ
        ……もし、仮に自分が死んだら、妻の面倒を見る人は居なくなってしまう -- 2014-02-14 (金) 02:00:57
      •  
        雲行きは怪しくなり、雷鳴が轟き、風が舞う
        ……争いの結末は、言うまでも無かった
         
        民の血の叫びは領主には届かない
        領主に逆らう、反逆者共として、皆殺しにされ 死体を領主の家の門に並べられた
        見世物の様に、串で刺されて並べられて
        死体の肉を、鴉が啄んでゆく
         
        「自分に立てついた者は全て、こうしてやる」との警告の様に
         
        ……仲間を失い、友を失い、息子を失い、途方に暮れた父の老人は
        門の前で、呆然とした
         
        皆を弔う事どころか、肉を啄む鴉を退ける事すらできない……領主に逆らった、反逆者なのだから
        言葉も失いながらも、涙だけが無言で頬を伝う
        私も参加すれば、良かったのだろうか?
        けれど、そうしたら妻はどうなってしまうのだろうか?
        ……皆がどのような想いで争いを起こしたのか、知っていた
        けれど、それに参加しなかった自分は、卑怯者なのだろうか
         
        ……今も。こうして生存したというのに
        彼らを安らかに出来るのも自分くらいだというのに、手厚く見送る事すら赦されない
         
        -- 2014-02-14 (金) 02:20:26
      • 争いがあった後だからか、余計に税の取り立ては厳しくなった
        ……もう、日々の糧どころか、取りたてられても支払う税すらないのに
         
        本当に食べ物が無くなった
        明日をどう過ごして良いかもわからない。村の皆も全て困っていた
         
        自分は元々猟師で、多少は植物の知識もあり
        元の生活も貧しく、多少食べられないことには慣れていた
        ……けれど、妻が耐えられない
        元々身体が弱い上に、今は病気が重いのだ
        少しでも何か食べさせてあげたい けれど、それすら叶わない -- 2014-02-14 (金) 02:23:21
      • 自分はどうにか、幼い頃の経験や培った知識から
        樹の幹の皮を削り、煮てどうにか食べたり、土がゆを口にする事は出来た
        けれど、そんな生活をしていなかった妻には耐えられない
         
        只でさえ弱っている身体なのだ
        受け付けず、すぐに戻してしまう
         
        どうにか薬湯を作り、飲ませるのが精一杯だったが……それもすぐに限界が来る
        男は一人、残された
        家族を全て失って、途方に暮れる――……生きる希望すら無かった -- 2014-02-14 (金) 02:35:11
      • 育った村を離れ、妻を貰ってから、家族を作り長らく暮らしていた村であったが
        家族も全て居なくなり、そこで暮らす理由も無くなった
        ……自分の無念が、そこに住む事を拒む
         
        人目を避ける様に、徐々に徐々に、山の奥へと居場所を移していった
         
        -- 2014-02-14 (金) 02:37:22
      • 元々、食べる物も無かったので、山の植物を採取し、動物を狩り、何とか食いつなぎながら山奥へとどんどん入って行った
        ……途中、幾つかの植物で自分の身体を壊しかけ、死にかけながらも どうにか一つの山村に辿りついた
        それが、男の住処となった -- 2014-02-14 (金) 03:02:43
      •  
        始めは、獣道を歩いて行って、死に場所を探していたつもりだった
        けれど、気付いたら山奥の山村に着いていた
         
        男は医者でも魔術師でも無かった
        只の猟師で、父から植物の知識を教わり、病弱な娘と妻の為に研究をし
        最後には自分で、死に場所を探してうろつきながら 手当たり次第に植物を口にしてきただけだった
         
        けれど、医者どころか、ろくに人も訪れる事は無い山村で
        自然と培ってきた植物知識と効能に精通した男は医者だと思われ、重宝された
        病が治ったと、楽になったと、周囲の村人に感謝された
        元々、性根が優しい男で困っている人を助ける性分でもあり、丁寧に病人の経過を見たり話を聞いたりして過ごすうちに、医者とされていたのだった
         
        男は始め、人を騙しているのではないか?と思い
        何度も何度も自分は医者ではない事を伝えた
        けれど、村人からすれば、男は医者と変わりは無かった -- 2014-02-14 (金) 03:11:06
      •  
        始めは躊躇っていたが、次第に村人に感謝され、求められるようになると
        男はほんの少しだけ心を救われた気がした
        大切な家族すら護れずに、ずっと自分を責めて、不甲斐なく思っていた
        ……けれど、今は自分が人を助けられる
         
        償いで在ると同時に、自分の心の救いだった
        男は徐々に、自分の罪を浄化するかのように、村人たちの治療に専念し
        徐々に徐々に、本当に治癒魔術を独学で学び、研究していった
        次第に彼は、本当に魔術師になっていった -- 2014-02-14 (金) 03:15:34
      •  
        山村での独学も限界があり、また、植物採取の関係や、知識を持った人からより学びたいと思い
        時々山を下りて他の村へと足を運び、他の魔術師と少しづつ交流をし始めた
        始めは、互いにない知識を交換し合い、補っていたが
        徐々に魔術師の知り合いが増えるにつれ、口述でしか伝わらない話や、きな臭い噂、怪しい魔術の話等も耳にするようになっていった
         
        ……その中の一つが、ホムンクルスに関する噂と、当時流行した魔術論の一つだった -- 2014-02-14 (金) 03:21:21
      •  
        それは、完璧な肉体を手に入れる事で、自分の魂や精神の質も同時に引きあげようとする試みだった
        魔術修行は、どれも精神性を高めるばかりではない。真の魔術師は、同時に肉体も鍛えて作り上げていく必要がある
        また、人はより美しいものを選ぼうとする本能があり
        等しく『肉体』という器があっても、美しい方を優れていると、捉えてしまう本能がある
        事実、美しい顔立ちの人間の方が、DNA的に優れているとか、病気をしにくい等の話もあるが 今は置いておこう
         
        簡潔にまとめるならば、ホムンクルスとはいえ
        自分で作った美しい肉体という器に、自分の魂を移す事で、より完璧に近づく一つの手段であった
        ……という訳だった 
         
        -- 2014-02-14 (金) 03:35:14
      • 始めは只の噂だと思っていた
        今の自分も、既に老いぼれとなり、今もこうして多少なりとも魔術に手を染めているのは
        自分が家族を救えなかった悔しさを、自分が救うことの出来る周囲の人を助けて、自分自身を赦す為だった
         
        だから、別に自分の器なんていらない
        あとはゆっくりと死を待つだけの身なのだから
        ……けれど。半信半疑とはいえ
        いや、半信半疑だからこそ――……
        『あり得ない話』 だからこそ
        もし、それが本当なら という、噂の真偽を確かめる程度のつもりで
        死んだ娘の肉体を作ってしまった
        ……きっと、あのまま生きていたら自分の妻に似て美しかっただろう……と
        昔の想い出に浸るつもりで――……それは完成してしまった
         
        噂ではない事に驚くが、肉体が出来あがるだけなら それは只の人形と変わり無い
        口きかぬ躯と変わり無いが、生前では殆ど目にする事の出来ない健康な娘の姿だった
        作りものだから、当たり前なのではあったのだけれど……
         
        後悔の念もあったが、肉体が出来た程度では『只の人形』と大差ない
        誰にも見られないように、厳重に注意をして、作り物の娘を自分の家の奥に隠した
        禁忌に手を染めた後悔も多少はあったが、命を吹き込んだ訳ではない
        辛うじて自分の行った事を正当化する、理性であり、制御であったが
         
        作り物とはいえ、娘の肉体を他に捨てる事もできなければ
        作り物の人形は、死んだ娘がただただ眠っているだけの様にも見える
         
        それを時折眺めるのが、後悔しつつも新しく出来た楽しみであり、自身の安らぎであった
        ……筈だった -- 2014-02-14 (金) 03:48:34
      •  
        娘を選んだ理由は、簡単だった
        一つは、あまりにも早くこの世を去らせてしまった事
        一つは、全ての家族を失ったけれど……
        彼女は争いや重い税で苦しんだ記憶はない、まだ幸せのうちに死んでいった娘だったからだ
         
        人気の無い村だが、それでも慎重に、見られないよう悟られないよう、厳重に注意を重ね
        1日が終わり、夜が更けた時に、娘の顔を見るのは
        昔の幸せな時代のまま、時が止まったかのような錯覚に浸れて、愚かだと思いつつも幸せだった
         
        -- 2014-02-14 (金) 03:53:49
      • 過ちが起きたのは、嵐の晩のことだった
         
        その日はもう遅く、老人もそろそろ休もうかと思っていた頃だった
        必死に扉を叩く音と、自分を呼ぶ叫び声が聞こえる
        何事かと、扉を開けると、涙目になった女が目の前に立っていた
        ……手には、既に息の切れかかっている赤子を抱いて
         
        -- 2014-02-14 (金) 04:09:44
      • 男は、村で魔術師と医者を兼ねていた
        唯一の医者の所へ、すがるように母親は、まだ生まれて間もない赤子を助けてもらう様に乞うが
        老人は首を横に振ることしか出来なかった……助かる見込みは無かったのだから
         
        泣きながら震える母親は
        「……ならば、せめてこの子が安らかに眠れるように祈って下さい。天国へいける様に」
        ……と、老人に願い、泣き崩れた
         
        老人は、母親に
        「奥の部屋で子供の為に祈りを捧げてくる」と、短く告げる
         
        奥の部屋へ移ると、老人は心が揺れていた
        目の前には、死にかけの 助からない命がある
        ……けれど、この魂を使えば、作り物の娘に生命を宿す事が出来る
         
        罪の意識に苛まれながらも、禁忌に手を染めることは分かりきっていながらも……
        老人は、作り物の肉体の娘へ、死にかけの赤子の魂を移した
         
        扉の奥から出て来て、何食わぬ顔で赤子を母親に返し
        母親も、冷たくなっていく子供の躯に泣きながらも、老人の家を後にした -- 2014-02-14 (金) 04:23:36
      •  
        赤子の母親が去った後、老人は早足に娘の所へと戻っていった
        死んだ娘が蘇る奇跡が起きた
        悪魔の所業だとは心の片隅で思いながらも、家族を失って後悔していた老人には
        自分が魔術師になった経緯は、全てはこの為だと錯覚する程の奇跡だと、感じてしまうほどに
         
        -- 2014-02-14 (金) 04:30:59
      • 「ブーゲンビリア」
        愛しい娘の名前を呼び掛け、頬を撫でるが……様子がおかしい
        ……魔術の失敗なのだろうか?
        鼓動は動いてる。呼びかけると、それを分かってはいる様子ではある
        返事は無い
         
        ただ、ただ娘は小さく微笑むばかりだった
        それは、赤子が名前を呼ばれて微笑み返す様に
        器に盛った魂は、幼すぎた
        喋らない。ただ、ただ自分に微笑みかけるだけ
         
        ……出来あがったのは白痴の娘だった
         
        事実に驚愕し、自分の行いの過ちの大きさと、禁忌に触れた罪に身が震える
        なんて愚かな事をしてしまったのかと後悔をした
        時はもう、戻せない
        誰にも悟られぬよう、厳重に注意しながら……老人が娘の世話をする生活が始まった -- 2014-02-14 (金) 04:39:30
      •  
        始めのうちは、なんて恐ろしい事をしてしまったのかと後悔した
        白痴の娘が出来あがった時、これは自分に対する罪と罰だとも思った
        ……けれど、時が立ち、徐々に娘の存在と
        お世話をする日々に慣れてくると、喋らないとはいえ
        本物の娘が生きていた時代も、こうしてお世話をしていた日々だった事を思い出し
         
        あの時とは全てが同じ形ではないけれど
        あの時とは似て非なる、擬似的な作り物の過去に戻ったかのように錯覚する
        まだ娘が生きていた幸せな時代のまま 自分だけが時を戻した代償に年老いてしまったように
        時を重ねるにつれ、娘が喋らなくても 微笑んでくれる事実が嬉しくなってしまった
         
        -- 2014-02-14 (金) 04:53:14
      • 1年くらい経過した頃だろうか
        赤子が徐々に成長するように、あの子が歩き始めたのは
        始めは拙い足取りではあったが、徐々に少しづつ上手に歩けるようになり
        赤子が言葉を覚える様に、少しづつ言葉を覚えて、拙いながらも喋れるようになっていった
         
        老人は少しづつ少しづつ
        子育てをするように、娘に料理や家事を教え、時には自分のやっている事を話し
        大切に大切に可愛がり、時間をかけて 再び育て直すように、娘に接していった
        徐々に娘も、家事を覚え、ほんの少しの事なら、おじいさんのお手伝いを出来るようになっていった
         
        これが老人の過去であり、過ちと救いであり
        君達の知っているブーゲンビリアの生まれた経緯だった -- 2014-02-14 (金) 05:03:15
  • クララ・アステル・フォーチューンの日誌 -- 2014-02-05 (水) 03:35:58
    • これは警告をしているつもりで、自分の重荷を一人の少女に被せてしまう事になるのかもしれない
      けれど、今。現実に危惧していた事が起こり始めようとしている
      辛うじて保っているあの子の境界線を、これ以上曖昧にしてはいけない
      例え全ては揺らぎ蠢いているとしても
      ……せめて、あの子がこの学園の4年間を終えるまでは -- クララ 2014-02-05 (水) 03:39:00
  •   -- 2014-01-29 (水) 04:15:22
  • 私は魅惑的な筈です
    私は完璧で美しい筈です
     
    ……けれど、ブーゲンビリアさんは未完成で未熟なのです
    それはブーゲンビリアさんも存じている事です
     
    嗚呼、なのに何故――……
    私は美しくてブーゲンビリアさんは未完成で未熟なのでしょうか?
    それは、噛み合わない歯車 -- ブーゲンビリア 2014-01-29 (水) 03:38:54
    • 私は魅惑的な筈です
      私は完璧で美しい筈です
       
      ……けれど、ブーゲンビリアさんは未完成で未熟なのです
      それはブーゲンビリアさんも存じている事です
       
      嗚呼、なのに、私は冒険をしくじって
      グールに傷を負わせられてしまったのです
      それは、あっては行けない事だった筈なのに -- ブーゲンビリア 2014-01-29 (水) 03:42:58
      • 先刻の冒険で、私は生死の境目を彷徨う大怪我を負いながらも
        命がけで冒険先から学園に戻ってくる事が出来た
         
        混濁した意識の底の中を漂いながらも
        学友の回復魔法と、甲斐甲斐しいお世話のお陰か
        死の抱擁を思わせる、永い眠りの繭の中で
        ドロドロに溶けた蛹が蝶へと形作るかのように
        死の抱擁を通して、ブーゲンビリアさんは眠りの中で
        私は新たに生まれてくるかのように、瞼を開きました
         
        でも、私が目覚めたのにブーゲンビリアさんにはとても気になった事がありました
        『私の体には、どんな傷が付いてしまったの……?』
        ブーゲンビリアさんは、おぞましい嫌悪に襲われながらも鏡の前に恐る恐る立ち
        私の体がどうなってしまっているのか確かめないといけませんでした -- ブーゲンビリア 2014-01-29 (水) 03:58:24
      • 驚いた事に、私の体を鏡に映してみても
        傷一つない、艶やかな肌で 冒険に赴く前となんら外見の変化はありませんでした
         
        ……その代わりに、恐らく傷跡の痕跡として残っていたかもしれない部分は
        ブーゲンビリアさんの魔力とは異なる、つまりは自分の魔力では存在しかねる異質な魔力の存在がそこには残っておりました
         
        ブーゲンビリアさんは首を傾げましたが
        私は、以前焼き肉を食べに行った時に束の間の交流を重ねた方の魔力と同質であった事
        更に、その微かに残った魔力――……言い変えればオーラや気、エーテルに残された過去の蓄積を読みとる事から
        私はその方に治癒を施され、綺麗な体と生命を保てた事を知りました
         
        ……私の体に傷を付けてはいけない事
        傷を付けてしまっては、ブーゲンビリアさんはきっときっと、叱咤し
        私を失意の目で見て嘆くでしょう
         
        だから――……私はそれを回避できたことが、一種の祝福であるかの様な錯覚と感謝を抱いたのです -- ブーゲンビリア 2014-01-29 (水) 04:12:10
  • マゼンダのドレスにリボン、ピンク色の甘い髪とアンダードレスで身を飾った一人の少女
    彼女の名前はブーゲンビリア
     
    人工的に作られたかのように、可憐で魅惑的な容貌は、その名に冠する花言葉の様に育ったからか
    或いは、名前が初めて送られるギフトである事を象徴しているかのように
    精巧な人形細工を思わせる顔立ちと、肢体を合わせ持っていた
    そして、その性質も――……まるで機械仕掛けの様な少女 -- ブーゲンビリア 2014-01-29 (水) 03:13:06
    • 私が、この学園へ妙な時期であるにも拘らず、編入して来たのは
      『とある先生』の元で学びたいと思ったからだった
      そしてそれは、ブーゲンビリアさんの中では、特に大切な『想い』として残っていたものだったから
       
      殆ど全てを知らないと言っても過言ではない程、何も分からない少女は
      拙くも、拙くも、様々な人に訪ね、助けられながらどうにかしてこの学園に編入する事が出来た
       
      私はそれが、とても嬉しくて嬉しくて――……
      真っ先にその先生の所へと向かい
      『弟子にして下さい』
      と、頭を下げに行きましたが……
      生憎先生は、ただ静かに首を横に振る事しかしてくれませんでした
      私にはとても悲しかった事ですが
      ブーゲンビリアさんは、悲しみよりも疑問が先に沸き立つと同時に気付いたのです
       
      『何故先生が私を弟子に取らないか? ……ですって?
      簡単なお話だわ、単に私の実力が 今の段階では先生の弟子に相応しくないからなのよ
      The Wise of Wiseとまで称された方でしたら……相応の弟子では無ければいけないでしょう?
      ……ね? ほら、それだけの簡単なお話しなのよ』 -- ブーゲンビリア 2014-01-29 (水) 03:22:23
      • ――……こうして、再度ブーゲンビリアさんは、改めて先生の弟子になる事を目標に
        学園の中で魔術を学んでいく事になったのです
        期待の入り交じった気持ちを胸に、教室へと駆けながら
         
        『……ブーゲンビリア、ねぇ……』
        ――……そう呟く、先生を後にして -- ブーゲンビリア 2014-01-29 (水) 03:27:08

Last-modified: 2014-02-14 Fri 18:12:23 JST (3722d)