名簿/507663
- 黄金暦270年 5月 大雨 --
- ヴェントさんとの試合は僕の負け。ヴェントさんは納得していない様だったけど、それなら、またお互いに、真正面から競える。良い友達になれそうだと思う。
その数日後に花見があった。あったけど、あったけど……らっか は ちょう こわい ……無事でよかった、僕 あと、のぞきはいけない事だと思う。いや、まぁ、うん、いけない、よ、うん。……むっつりじゃない!! ところで、ジョンが最近、気になる相手がいるみたい。応援したいけど、ついついからかっちゃう。でも、少し羨ましい。僕は初恋もまだだ。 リクとラブラブ天驚拳の練習をする。出ない。心に愛がなければスーパーヒーローじゃないらしい。(メモ:コスパでカツラをおーだーめいど!)
屋上で部長から怒鳴られた。自分でも驚く位ショックを受けてたみたいで、数日分の授業ノートが真っ白だった。 寝る前にも、拒絶の声が頭に響いて辛かった。自分が何をそんなに仕出かしてしまったのか判らなかったから、しばらく、部活から足も遠のいていた。 それを解決してくれたのはユヅルさんだった。部長の秘密を教えてもらう。……僕を襲わなかった理由は、何なんだろう。 ……もしかして、部長は僕を(ここで数文字分がぐじゅぐじゅとインクで消されている。) 来月だ。部長とちゃんと話さなきゃいけない、そう思う。……本当に、嫌われていないだろうか。それだけが心配だ。 --
- 黄金暦270年 3月 花曇り
- 山篭りして風打ちの何かを掴めた気がした。その代償は、3か月分の休学。普段の素行が良いと言う事で、進級はさせて貰えそうだ。
戻ってみると、バレンタインの時に投函されていたチョコが入っていた。 部長からのハートのチョコレート。疲れた体にしみこむ気がした。 考えてみると、母以外の女性からそう言う物を貰った事が無い事に気づく。義理だろうけど、気恥ずかしくて、嬉しい。お返しは何にしよう。 ラヴラさんとピリエスさんからもそれぞれチョコレートをもらう。お返しは、それぞれが好みそうな物を考えた。喜んで貰えただろうか。 女性へのプレゼントは、何が良いか全然分からない。朴念仁、なのかな、僕は。 来月はみんなで花見。山篭りで掴んだ空気を操る感覚を発揮させるチャンス。少し荒療治だけど、きっと大丈夫。……たぶん。 --
- 黄金暦269年 9月 晴れ、夕方から雲が出てきて曇り -- ノイ
- 入院した。初めての病室だけど、実家に連絡が行ったらしく、目が覚めたら個室に入っていた。
お蔭で、見舞いに来てくれた人とはゆっくりと話せた。ムスタファ先生のくれた水羊羹が絶品で、食べきっちゃうのが勿体無かった。今度どこで買ったのか教えてもらおう。 オルガさんには、恥ずかしい所を見せてしまった。……でも、なんだか凄くスッキリした。僕自身で気づいてなかった、弱い場所を受け止めてもらえたからだと思う。 強くなって何がしたい、と言うところまで、考えたことが僕は無かった。強くなると父さんが喜ぶ、父さんが認めてくれる。そればかりだった気がする。 でも、違う。その強さで何をするか、何を守るか。それを初めて、教えてもらった。本当は、自分で気づいて、自分でつかむものなのに、まだまだ僕は甘えている。 心に愛を。それがちゃんと判った時、僕は強くなれるのだろうか。……まだ、分からないけれど。 ヌビアさんのかけてくれた治癒のお蔭か、2週間以上早く退院できた。何かお菓子でも持っていこうかなと思う。 --
- 黄金暦269年 7月 霧雨、夜から大雨 -- ノイ
- 月初めには、初めての部活。オルガ部長と組み手をした。ベルリンの赤い雨を教えて貰ったけど、まだ使いこなせない。要練習。
顧問のディアナ先生にも挨拶を済ませた。学園にいる間に、少しでも多くの経験をして、強くなろうと心に決めた。 しかし、心に決めただけでは駄目だった。 突然の襲撃。突然の遭遇。僕は結局、一撃しかやり返せなかった。それも、隠し玉を使って奇襲をかけて、やっと一撃。 また、僕の目の前で人が死んだ。今度はましてや、一緒に戦う覚悟を持ってた人じゃない。僕に助けを求めてきた人だったのに。 悔しい。怖い。折られた脚が痛い。でも、その痛みを塗りつぶすほどに、血が熱い。何よりも、自分の弱さが憎くて、怒りを覚えた。 もっと、もっと力を。何者にも負けぬ力を。屈せぬ力を。
(筆圧が高くなり、ペン先が割れた跡がある。新しいペン先に変わって文が続く。)
弱い者を守る為の物が武であると教えられた。 なら、弱い僕はまだ武人じゃない。僕が振るうのは武じゃない。 もっともっと、上を。 今は、その為に休む。いつか、あのガズマスクの男を、倒してみせる。 --
- 黄金暦269年 6月 鯨晴れ -- ノイ
- 学園に入学して2ヶ月、色んな人と出会った。クラスメイトとの仲は良好で、友達も出来た。
ラヴラさんは隣の席の女の子。褐色の肌と長い耳。快活で人好きする明るい女の子。 一緒に来月は冒険だけど、話好きな彼女を含めた仲間との旅なら、道中楽しいだろう。 でも、シャツのボタンはもう少し留めてほしい。……いや、あのままでも、悪くは。でもやっぱり胸……(ペンで塗りつぶしてある。) ヌビアさんは、僕が初めて見かける獣人さん。落ち着いた物腰と、不思議な目隠しをしている。背が高い、とても羨ましい。 オルガ先輩とフレキは超人プロレスの部長さんとその飼い犬。犬?モフモフして良い毛並み。 僕の知る戦い方は組み技が無い。組まれるほど近くに寄られたらそれでもう未熟者の証拠だからだ。だけど、組技の間合いも制することが出来るなら、きっと強くなれる。 ムスタファ先生は力強く、熊のような人。男らしいとか、男くさいとか、良い意味でそう表現したくなる人。 指導は厳しいけど、質問にはしっかり答えてくれるし、実直で信頼が置ける先生だと思った。 まだきっと、これから色んな出会いがあるだろう。楽しみで、夜眠りにつくまでの時間が酷くもったいなく思える。 明日も頑張ろう、そう思えた。 --
- 黄金暦269年 3月 快晴、鯨曇り -- ノイ
- 4ヶ月。その間に4人の死を見取った。
冒険から戻って調べても、分からなかった仲間の名前。流れ者だったとの話だけど、聞いておけば良かったと後悔する。 冒険は危ない。そう知っていたはずなのに、いざ実際に死を目の前にすると足がすくむ。思い出すだけで今も筆を持つ手が震える。 強くなろう。強くなりたい。強くなる。 まずは自分の命を守れるくらいに、そして、出来る事なら同行した仲間の命も守れる位に。 実家を破門された今の僕には何も無い。なら、何かを掴まなければならない。その何かが、きっと強さなんだと思う。心も、技も、体も。 ……学園都市エリュシオン。来月から、そこに住む。冒険者としての勉強をする。不安と同時に、期待も大きく胸を埋めている。 頑張ろう。ここからだ。 --
- 黄金暦269年 1月 薄曇、夕方から雨 -- ノイ
- 町を散策。闘技場と図書館を見た。やはり故郷よりも規模が大きい。
闘技場のように人に見せる為の戦いを、父は馬鹿にしていた。しかし、実際に見てみれば、命と名誉を自分の腕に賭けて戦う人達を、僕は馬鹿にはできない。 舞台を眺めていたら、酔っ払ったおじさんに声をかけられた。少しの会話だったけれど、なんだか気持ちが上向きになった。 もしかすると、あの人も昔は冒険者か、戦士かだったのかもしれないと思う。 図書館ではカラスとであった。司書のような仕事をしているらしい。 入り口こそ小さな書店の佇まいだったけど、入れば大きな城の一間に本棚がひしめいていた。聞けば、空間を捻じ曲げて湖上とつないでいるとのこと。 故郷を出て二ヶ月、もう、こんなに色んな驚きを覚えている。もしかすると、僕は、兄や父の知らない世界を、知ることができるんじゃないか。 いや、知りたい。兄や父が知らないこと、僕だけが知ってること、色んなこと。沢山の事を。 --
- 黄金暦268年 11月 雪交じりの晴れ -- ノイ
- 冒険者の町に着いた。僕の故郷よりも沢山の人が歩いている。
色んな肌、種族の人が居て、とても賑やかな町だ。冒険者の町というのもあって、武器を持ち歩いてる人も多い。 皆強そうだ、僕と違って……。腕一本で身を立てて、魔物と渡り合って。そんな自信に満ちている。冒険者。 数ヶ月、そんな人たちの居る町で過ごして、年明けの4月から、空中に浮かぶエリュシオンという学園都市に引っ越して、そこに入学する。 破門された弱い僕が、どんな人生を歩むのか分からない。道場で育って、道場の師範や、兵隊として過ごすのだとばかり思っていたから、将来の展望なんてゼロだ。 ……不安しかない。僕は、これからどうなるのだろう。 --
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