むかし、むかし、既に名前も忘れされられた王国にわがままな王様がいました。
ある日、わがままな王様は自分の三人の息子たちにこう申し付けました。
「不老不死の薬を探し出せ。見つけた者を次の王にする」
次の日、金色の髪を持つ一番上の王子は金の鎧に金の盾を身につけた兵士たちと旅立ちました。
また次の日、銀色の髪を持つ二番目の王子は銀の鎧に銀の盾を身につけた兵士たちと旅立ちました。
さらに次の日、最後に残った黒い髪を持つ末の王子が出発しようとしたところ、二人の兄が全ての兵士を連れて行ってしまったため、王国の中には兵士が一人もいません。
しょうがないので末の王子は誰も連れず、たった一人で旅立ちました。
(中略)
末の王子は一人ぼっちで旅を続け、ようやく噂に聞いた
「一口齧るとどんな傷も癒え、二口齧ると老いなくなり、三口齧ると不死になる」
という実がなる大樹へと辿り着きました。
しかし大樹の周りには大きな大きな蛇がとぐろを巻いていて、真っ赤な舌と鋭い牙を見せて末の王子を威嚇しました。
それでも末の王子は勇気を振り絞って腰に帯びていた剣を抜くと大蛇に立ち向かいます。
(中略)
三日三晩戦い続けてようやく大蛇を倒した末の王子でしたが、末の王子自身も傷だらけで今にも死んでしまいそうでした。
そこで末の王子は傷を癒そうと、木の実を取るなり一口齧りつきました。
すると木の実は大変素晴らしい味で、末の王子が今まで食べたどんなご馳走よりも美味しかったのです。
大蛇と戦い続けて何も食べていなかった末の王子は木の実の素晴らしい味に我慢できず、続けて二口、三口と齧り、あっという間に木の実は無くなってしまいました。
「ああしまった、たったひとつしかない木の実を食べ尽くしてしまった。これでは父上に顔向けできない」
末の王子が大層嘆き悲しみましたが、いつまで泣いていても仕方が無いと思い直し、
再び長い長い旅を続け、わがままな王様の待つ王国へと帰り着きました。
ところが懐かしい故郷の風景は変わり果て、わがままな王様が待っているはず城も見当たりません。
近くにいた老人に尋ねてみると、兄たちが全ての兵士を連れていってしまったため、
王子が留守の間に王国は他の国に攻め込まれ、あっという間に滅んでしまったとのことでした。
こうして帰る場所も失った末の王子は老いることも死ぬことも出来ずたった一人で彷徨うことになりました。
それから末の王子がどこへ行きどうなったのかは誰も知りませんでしたとさ。
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