それからの蛇足 Edit

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アルムと名乗ったその人は、どうやら自分の妹に当たるらしい
自分と彼女の存在について、たくさんの説明をされたけれど、理解できたのはほんの少しだけ
とりあえず、自分の命が助かったらしいことと…

それから、それは「お兄ちゃん」と呼び慕ったあの人の導きあってのことだった、ということ。

それだけしか理解出来なかったけれど、それだけ理解できれば十分だと思った。
これまでの自分が何者であって、何を背負って生まれてきたとしても
これから自分がやることは決まっているのだから


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長い長いアルムの説明が終わった後待っていたのは
自分を助けてくれたらしい錬金術師の長い長い説明だった。
この説明は本当に長くて、ついでに言えば難解でさっぱり理解出来なかった。
表情を見てそれを悟ったのか、錬金術師が深い溜息を一つつく。

「助けられたのは命だけ、君はこの先成長もしないし」
「…次に同じ状況に陥れば、助けることは出来ない。」
「彼女…アルムのような常人離れした再生能力はないし、魔力量も人並み以下だ」

…つまり、とアルムが錬金術師の発言を補足する。
『どこか良い住み込み先を探しましょう、そこで平穏に生きてください』
見た目相応、子供らしく危険から遠ざかって生きなさい
まるで決定事項のように言われて、ほんの少しむっとする。
命を助けてくれたのは本当に感謝していているけれど…

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「アルム…は街を出るんでしょう?」

私がした質問に、2人がひどく嫌な顔をする。
それから、私が「ついていく」と言い終わる前に却下の言葉。
「……じゃあ一人で街を出るわ」
「一人で街を出るより、アルムについていったほうが安全だと思ったけれど…」
「駄目というなら、一人で出るわ」

「広い世界を見たいの」
「…それに、強くなりたいわ」
いつか助けたい誰かを助けられるように
救いたいと思った人を救えるように

「助けてくれたのは本当にありがとうと思ってるわ」
「死にたくないもの、命は大事にする だからアルムと行きたいの」
「始めて私の意思で、好きなように生きたいと思ったの」
「だから、行くわ」

錬金術師が渋い顔をして、アルムが頭を抱える。
長い長い間があって
『……………駄目だと思ったら、どの街でも置いていきますからね』
恨めしそうにアルムが言う。


『……………………置いていけるのかな…いけないんでしょうね…』
『……こういう星のめぐりなんですかね…』
了承を得られた喜びに思わず飛びついた私の耳に聞こえたのは、泣き出しそうなアルムの呟き。
申し訳ないとは思うけれど、笑ってしまった。

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『いいですか、疲れたっていってもおんぶしたり抱っこしたりできませんからね!』
『旅の最中は甘いものなんて以ての外ですよ!』

「…もう10度目だわ」
11度目だったかもしれない。
遠ざかっていく街を見ながら、アルムの小言を聞き流す。

街はもうずいぶん小さくなっていた。
自分がいた森はどのへんだったのか、ここからはとても見えない。

思えば短い間に、びっくりするほど、ほんとうに色々なことがあって……
少し前の私にもしこんなこと言っても信じてもらえないだろうな、と微笑む
ポケットにそっと指を忍ばせて『それ』に触れる。
全ての始まりは『これ』からだった。

…いつかこれを返すことが出来る日が来るかしら

到底叶うわけがない、そんなことを考えれば目の奥が痛くなる。
涙が流れそうになるのを袖で慌てて抑えた。
『……大丈夫ですか?』
私の様子を見て不安になったらしいアルムからの問い掛けに顔を上げる。
「大丈夫」

「だって私はヒーローになるんだもの」

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──── おしまい ────
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Last-modified: 2012-06-01 Fri 11:52:46 JST (4346d)