ある日、ある教室の前を通ると違和感にあなたは足を止めました。
「おい、確かここに住んでる奇特な人……いたよな。なんかすっきりしてるんだけど」
貴方はふと立ち止まり、連れ立っていた友人に問いかけました。

ですが友人は要領を得ないような顔をして
「はぁ? そんな奴いねーよ。お前、誰かと勘違いしてるんじゃねぇのか?」
と、答えます。

いつものように友人が自分をからかっているのか、と少し疑いましたが友人の表情は変わりません。
「いや、だってお前、この前……」
と、そこまで貴方は答え、そのあとの言葉が続きません。自分はいったい何を言おうとしていたのだろう。
思い出そうとすればするほど何かがかき消えていくような、そんな感覚を覚えました。

「おい、大丈夫か?」
とうとう友人が心配そうな言葉をかけてきます。貴方はぶるり、と体を震わせて
「……いや、大丈夫」
何やら夢から覚めたような心地でした。
いまだこちらを気に掛ける友人の視線を受けながら件の教室を見ると、いつもの教室があって。

「すまんすまん、ちょっと寝不足だったのかも」
「なんだよ。お前疲れてんのか?」
少し乱暴に肩を叩く友人に謝りながら、貴方は再度歩を進めます。


そしてあなたはもう二度と思い出すことはありませんでした。

Last-modified: 2014-01-23 Thu 22:21:44 JST (3716d)