[ただの日記、1ヶ月ごとに書かれている、あるいは手紙が貼り付けられている]
黄金暦280年 1月
ずいぶんと間が開いた為新たに日記を付け直す事にする
なにがあったかは覚えていない、白紙の本のページをひたすらめくっているようなものだ
気が付けばノルマの本が山のように積まれている、頭が痛い……
本は友達、本は友達、本は友達と念じながら本を開く
全部読むには半年はかかるだろう、しばらく寝れないが
それ以上に本とイメージを押し込めた瓶に部屋が圧縮されるのが憂鬱だ
なにも日記なんてものは長々と書けば良いものではない
ふと思い立ったときに書けば良いのだろうと思いつつ、長く書かれたページほど読み返してしまう
こんなものを読んでいる場合ではない、本を読まなければ
本は友達、本は友達、本は友達
こんな返事を返さない友達があるか!
しばらく文字は読みたくない……
……
[?]
だから私は思うのです
私がすることにどんな価値があるのだろうと
黄金暦280年 3月
前の日記はどんなものだっただろう、ふと見てみれば大半は労働だ
本を読む、しまう、時折本社に呼ばれ整理を手伝わされる
思えば前回の図書館大掃除は怪我人が5名も出た、パイプ無しがその光景を見て震え上がるのは
もはや毎年恒例の事だろう
そんなものも終わり、今は暇な時期でもある。だからこそ読むべき本がたまってもこうして余裕がある
ひとつ、読んだ本の事について書こうと思う
あまり日記に本自体のことを書かないのはそれはこれが僕の話であり
けして本の話ではないからだ
日記はそれだけでその人間の物語になる……というのは、前回の日記帳にも記したと思う
受け売りであるが意識をしていないわけではない
最近はよく恋愛物を読む、僕とは遠いものだがそれゆえにその現象をファンタジーとして認識が出来る
最初から知らなければそれに心を痛める事も、羨む事もない
しかし一度知ってしまえばそれは呪いのように付きまとうのだ
……というのは今読んでいる本のプロローグだ
愛を知らなかった主人公が一度それを知ってしまったがために愛に身と心を焦がし
もだえ、諦め、悟りを経てひとつの感情に対し向き合っていく
良くある思春期ストーリーというものなのだろうか、それを示すように主人公は10代前半の若い男性だ
こうして悩めると言うのは若者の特権なのかもしれないと、僕は結社に居る中年連中を見て思う
だけどそれは一概には出来ない事なのだろう
こう考えると、僕もきっとまだまだ若いのだ
僕は愛だの恋だのといったものはあまり関係ない
……そう思っていたのだが、最近良く夢に見る。ランタンがひとつ置かれた狭い部屋
どこか懐かしいそこで誰かが待っている気がする
僕を待っている存在なんてこの世に居るのだろうか? まさか恋愛物を読みすぎたせいで
妄想が徐々に思考を蝕んで行ったんじゃないだろうな……
……しばらくこのジャンルは控えよう
古代の本と言うのはどういうものなのだろう
例の「彼」が来た、最近金属パイプの銅に昇格した彼だ
彼は僕の部屋に来るなり開口一番「変わった本は見つけられたか?」と来たもんだ
おおかた見つけていたら読ませてもらうとでも思ったのだろう
まだ見つけていないのが分かるとそそくさと帰っていった
そういえば最近遺跡などで本が落ちている事が多いらしい
彼の言った本は街中にあるだけじゃない……という言葉は、そういう事なのだろうか
溜まった本が消化できたら、僕も遺跡へ行こうと思う
[二枚枯葉便り]
3月になり春の陽気が差し迫ってきた頃、皆様いかがお過ごしでしょうか
本社ではパイプ無しの候補生たちが春のうららかな陽気に負け本を持ったまま寝る光景がよく見られます
春眠暁を覚えずとはこのことでしょう
さて今月の優秀家門はクライラス家となりました
クライラス家の構成員には4月いっぱいの第3図書館への閲覧が許可されます
ルーデンベルク家のイー様が今月金属パイプの黄金に昇格なされました
皆様もこれを見習い、精進いたしましょう
[総帥の今月のお言葉]
キスのある描写とか恥ずかしくて読めないし……
それでは皆様、良い読書ライフを
黄金暦280年 6月
此処しばらくは日記をつけない日が続いた
なにぶん溜まった詰み本のせいだ、読むことに専念すれば書く事を忘れる
一日のうちに3つ以上違う事が出来る人が羨ましいと思う
おまけにここ最近部屋にこもりっきりだった故に書くことがない
なのでこの6月のページは、今月をあわせ、過去の振り返りに使おうと思う
そのため今回は日記ではなく、1日で書き上げた月記となる
まず最初に書くべきは特殊な本を手に入れた事だろう
これは特筆すべき事であり、僕の物語と掲げるからには、当然これを書かずしてなにを書くか
となることは僕自身も理解しているはずだ
本の名前は「異界見聞録」行きつけの古書店で見つけた所謂喋る本だ
喋る本と言ってもこれがまた人の形を取るほどのもので、本とは別にこの人型の名前をロロと言うらしい
著者の名前もロロと言うところから、この"本"のロロは、"著者"であるロロを模範した存在なのだろう
出会ったばかりでまだ彼自身の事をあまり知っているわけでもなく
また本自体が異界(もしくは異国)の言葉で書かれていて情報は少ないが
その少ない中で考えられるのがこれなのだ……と、探偵小説なんかだったらそう書かれるのだろう
実際僕も本のロロと言う存在が著者のロロに近いものだとは思うが
著者のロロと接触する可能性が低い今それがどうであるかなんてことは関係ない
なんと言っても僕にとって重要なのはそこではないからだ
僕にとって重要な事、それは本だ。本が興味を惹き、本が糸口を広げる
要するにこの異界見聞録は「自身喋ってしまうぐらい変わった本」で「僕の興味をたいへん惹く物」だと言う事だ
嫌な言い方をすればこの本の存在は僕の作り出すイメージの向上に役に立つかもしれない
本の内容はさることながらロロと言う特殊な存在の会話、これはただ漠然と本を読んでいるだけと言う行為では到底体験できるものではない
これは出世欲でも知識欲でもなく、僕自身の好奇心の為の行為だ
僕はこの特殊な本を手に入れ、利用する事で利益を掴めると考える
少々捻くれた性格だが、そこはある程度寛大な心で接していけばいいだろう
最初にロロは本である自分が人型を見せた事に対し、僕があっさり受け入れたのを少し意外に思っているようだった
思うにその姿を見せたのは初めては無いが、好意的な反応を返されたのは初めてに思える
本来は喋るどころか人の形を取る事すらありえない本がそんなふうに目の前に現れたんだ
今までその姿を見せた人間? あるいは人間以外の者が驚くのも無理は無いだろうと思う
僕だってその異質な本がそれほど変わった物だと思ってそれを手に入れたわけではない
しかしそれに対しなぜ僕が否定的な態度を示すだろうか
なにせようやく手に入れた「異質」な存在なのだ、話には聞いていたが話しに聞くばかり
ただの本の読みすぎた人間が妄言を言っているのかと思いかけていたところに現れた存在を
わざわざ手放すわけは無い
早速彼のことを教えてほしいと頼むと、意外にも交換条件として僕の事を教えてほしいと言ってきた
どうしてそんな事を聞くのだろう、とその時は思った
僕がロロの事を知りたがるのは分かるが、ロロが僕の事を知りたがるだろうか
ただの人間の事なんて、相手にはまったく珍しくも無いものだと思うけど
ともあれあせらず親交を深めていこうと思う
利用すると言う事はけしてぞんざいに扱う事ではない
[今日の書物情報]
毎月新鮮な本と執筆家達の情報をお届けする読書情報
一番最初のコーナーは「若き小説家達!」
近年読書ブームが巻き起こる中、業界をその文字と言う硬派な花で色染めていく小説家達に憧れを抱く人はたいへん多くなりました
そんな中最近デビューした「希望の新人小説家」をご紹介
まずは今年の3月見事「釘煮川」賞を受賞した新人作家
瑪瑙・H・ヒタキガワさんをご紹介
ヒタキガワさんは黄金暦278年からアマチュアにて執筆活動を開始
そこから第一作目の処女作「彼岸の園」を大型イベント同好マーケットへ出したところ
瞬く間に話題となりなんと会場10分で150部が完売
その評判を知り手に入れたいと言う人が続出
注文が殺到しましたがヒタキガワさんはこの注文を一蹴
以降処女作にはプレミアがついた事は言うまでもありません
そこからしばらく、第二作目を出してから沈黙していたヒタキガワさんは突如釘煮川賞に応募
見事賞を獲得しプロデビューを果たしました
この電撃的プロデビューを成した作品が第三作目
「琉球クライシス」という、一作目とも二作目とも、作風が大きくかけ離れた内容で
審査員たちをとても驚かせたそうです
ヒタキガワさんはとても職人と言った気難しい性格であり
釘煮川賞を受賞したさい、スピーチにてただ一言「ぜひもなし」とだけ残しなんと会場を後にしてしまいました
頑固と言うより変人ですね
しかしそんなミステリアスな人柄はファンの妄想を掻き立てるのかヒタキガワさん本人の人気も高いようです
さて次の新人小説家は……
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最後におなじみのコーナー! 「読書575!」
今日のお便りはインガル帝国在住のドワーフ「グー・イット」さんから!
読書して
鉄を打ちても
なお飽きぬ
それではまた来月お会いしましょう!
よき読書ライフを!
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