名簿/486240

  • 【黄金歴228年 1月 南方領北西山麓】 -- 2012-09-18 (火) 20:53:48
    • 『そして死に崩れる者が沈むは墓である。西爛戦争が集結し幾日か経ったこの日。』
      『南方候の主導により戦線に加わった柱の騎士、王らの葬儀が改めて行われていた。』 -- 2012-09-18 (火) 20:57:34
      • (場所はスリュヘイムとローディア、アルメナ方面を別つ山麓である。)
        (その場所、霊魂として昇れば頂より我等が護ったローディアが見下ろせるとの計らいである。)
        (葬儀は縁多いものから順に行われた。柱の騎士、王の精錬から生まれし解呪の法…対呪を組み込んだ兵装により静かに行われていく。)
        (南方候からの彼ら騎士への礼と遺族への謝辞、そして埋葬のための別離。)
        (対呪兵装は未だ完成にあらずであったがそれでも多くのものを静かに眠らせる程度には整えられていた。)
        (そうして最後の調整済みである兵装が役割を終えて…この場には遺族はおらず)
        (南方領軍とそれらを統べる太陽王の謂れを持つ南方候…そして彼女だけが残った。)
        (引き取った彼女には身寄りが無い。であるが意はさておき彼女はローディアのために、自分のために命を尽くした。)
        (よって対呪兵装ではなくこの手で葬るのが打倒と思われたのだ)
        (さて…どうすれば楽に逝かせられるか)
        (しばらく思案の時間となることと…なるはずだった) -- カイル 2012-09-18 (火) 21:05:43
      • (その思案を遮るように蹄の音が近づいてくる、それも二騎)
        (縁者においては全て解散したが、名残を惜しむ者が戻ってきたのであろうか)
        (いや否である、そしてその二人について南方侯には見覚えがあるであろう)
        (彼女が密に手紙をやり取りしていた相手であり、武具結晶の担い手であり、かつて彼を激しく糾弾した若き女騎士)
        (それが護衛と思われる獣人を連れ立ってこの場に現れたのだ、彼女は南方侯の姿を認めると馬を降り礼をする)
        (話を聞けばこうだ、フロフレック侯爵領内においての埋葬は終わったため、こちらもこの目に止めようと訪れたのだと) -- アリシア 2012-09-18 (火) 21:30:53
      • (姿を確認すれば、しかしなぜ現われたか…と些か疑問に思う)
        (まさか公務ではあるまい。そのような理由でここに来る謂れも許しもあるまい…)
        (遊戯でも物見有山で来ることはない、さて。となると)
        (赤と白の意匠が基調となる全身鎧、兜の下から声が響く)

        ロレンツ騎士候はその命を持ってローディアを護られた。
        その法が如何なるものであれ救われた兵士も騎士も多い…この葬儀の場ではあるものの
        私からも改めて言葉を贈らせて欲しい。その戦いと生き方と有り様は騎士であったと。
        (その命一片までを国と、領の民のために燃やした騎士への言葉、そして)

        ここにもまた一人。 看取る者も、縁あるものもおらぬ身ではあるが
        国のために命とその心を削ったものである…家族がおらぬ故手を下す者も
        またこの異形の術を焼く術も他の者らを埋葬するために使い果たした。

        アリシア・フロフレック候殿
        聞けば比類なき特異な武の力を持つと…その力、貸していただけぬか。
        これも縁と思い、この者を眠らせていただきたい。

        (武具結晶のことはさておき、こと彼女とは縁があるようだ。)
        (ゆえに、今自身が表に出れないのならば。フロッセを埋葬するのであれば、彼女が良いだろうと)
        (その異形の巨体を見上げながらアリシアへ頼んだ) -- カイル 2012-09-18 (火) 21:53:49
      • 今私は自分の意思でここへ参りました……戦争が終わり、その役を解かれた彼等を見届けるため、です
        ですから、南方侯閣下、僭越ながらその申し出を……拝命いたしたいと思います

        (南方侯が見上げる柱の女王の巨体、それに習うようにアリシアもまた眠るかのようなその顔を見上げる)
        (そして、一つの質問、いや確認を行った)
        ですがその前に一つだけ、彼女は……柱の王となる前の彼女は、フロッセと言う名はありませんでしたか?
        (その顔に特別な感情を伺う事は出来ない、だが生前親交のあった彼女の事、何処からかそれに気づいたとしてもおかしくは無い) -- アリシア 2012-09-18 (火) 22:17:08
      • (ではこのままアルメナに向かうか、とも思う。しかし出さず)
        (今はまだ、必要のない案件である。彼女は良しとしたのだから)
        (受けたアリシアに短く礼を持って振り返り、その質問に答えた)

        既知であったか、ならば彼女にここで出会えたのもまた運命か…
        身寄りの無いもので擦り切れた身で方々を旅していたという。
        最後に看取る知人がいたのであれば幸いであろう
        (獣ゆえに鼻が効くか、だがさておきこれは丁度いい。建前も何もかも揃ったのである)
        (賽が自ずからやってくる、そういうこともあるのだろう) -- カイル 2012-09-18 (火) 22:29:27
      • はい……フロッセさんとは多少なりと言え交友がありました、最後は出産に耐え切れずなくなったと手紙が来たのですが
        それまでの彼女がとても幸せそうで、それがまさかこのような形になっているとは思いもよりませんでした……
        (ゆっくりとフロッセであった巨体の前へと歩みを進める)
        (真銀の剣を抜き眼前に構える、それはまるで異形とされた彼女への祈りでもあるかのように) -- アリシア 2012-09-18 (火) 22:43:06
      • (静かに空を見上げていた異形の聖母が、ふと顔を下へ向ける。赤白の鎧の南方王と、そして獣相の女騎士を認め、慈母の笑みを深くした)
        (或いは過去自らを呼び習わしてた名前に反応したのかも知れぬ。だが、人の身に在る者にソレの内面を推し量る事などありはしない)
        (聖母は、唄うように言葉を紡ぐ)

        ────わがこよ いとしい わがこ────
          ────いずれ ははのうでにだかれ おねむりなさい────
            ────やすらぎは いつも わがもとに────


        (鎖の音を鳴らしながら、異形と化した両腕を剣に向け、母が子を胸に抱く時のように広げる)
        (その言葉は、何処までも)
        (何処までも子を想う母のものであり)
        (だからこそ)
        (その真意を知る生を生きる者にとっては、到底受け容れるべきものではないのだが) -- ”堕界の聖母” 2012-09-18 (火) 23:14:39
      • (その慈母の笑みにアリシアは思う、彼女は、フロッセはもうこの異形の中にはいないのであろうと)
        (例えその心が残っていたとしても、柱の王としての方向性を魔術によって植えつけられた彼女にはきっと届かない)
        (アリシアの耳を打つ異形の聖母の言葉がその思いをより強くする)

        (吐き気がする、決して憎しみが上等とは言わない、それでも、本来命を紡ぎ繋ぐために向けられる母親の無償の愛)
        (そしてそれに応える無垢なる子供の愛、その心を利用するよりは数万倍もマシに思えた)
        (あるいは女であるアリシアだからこそそう思うのか……いずれにせよこのような所業を行う者を好きになれる道理などない)

        (向けられる慈愛の表情、幾対もの腕、それに抱かせるようにゆっくりとアリシアは武具結晶の力を解放していく)
        (頭上に掲げられた剣は光を帯びやがて天に向かい屹立する光の柱となる)
        (聖母を照らす光、見るものによっては神聖さを感じるかもしれないその光景は、まるで正反対の様相を示していく)
        (振りかぶり振り下ろされるアリシアの腕、聖母の巨体に吸い込まれるように、ゆっくりと)
        て、やあぁぁぁぁぁっ!
        (それは両断され、大地の武具結晶の力により浄化されていく) -- アリシア 2012-09-18 (火) 23:37:24
      • (神々しいまでの光景であった。間近で見る者は他に居らぬとは言え、その光は麓からも見ることが出来た)
        (後に兵たちは、その光景に涙したと語っている)
        (救国の聖母が統一連合の地に殉じ、天に還る様はまさに我々の払った犠牲と涙とが、報われたようであったと)


        (しかし、間近でそれを見ていた者たちは?)


        (大地の力を受け、生半な攻撃手段で打ち滅ぼす事の出来ぬ異形はしかし)
        (結末を受け容れるかのように両腕を広げ、光へと還元されていく)
        (常に変わらぬ慈母の笑みを浮かべ、……否、ふと、アリシアにだけ解る、笑み)
        (いつかの宴席で見せたような、はにかんだ笑みは)

        「それでもは幸せでしたよ、アリシアさん」

        (光の中へ、溶けていった) -- ”堕界の聖母” 2012-09-18 (火) 23:46:19
      • (アリシアは振り下ろした姿勢のまま動かない、最後にフロッセが見せた笑みと聞かせてくれた言葉)
        (あれは正真正銘フロッセの心だったと思う、自らの罪悪感を紛らわせようとする幻聴、幻視の類と割り切るのは余りに寂しいのだから)
        ありがとう……
        (自然と口をついて出た言葉はそれだった、何に対する礼なのかは自分にもわからない、ただそう言いたかった) -- アリシア 2012-09-19 (水) 00:05:31
      • うむ…あぁ、ありがとうアリシア・フロフレック候殿。正しくこの公の場であるならば、私が引導を渡すには気が引けたのでな。
        立場で言えば現在存在しない夫である私が手を下すのも奇妙なもの、故にフロッセも報われただろう
        (そうして当人しかわからぬ、聞いていればアリシアもその師も何事かと思う言葉がただ流れ)
        (そして、仮面兜が取られ あの碧眼と赤髪が解き放たれ)
         
        改めて、ありがとうアリシア。立派な幕引きであったよ。
        (姿を現した) -- カイル 2012-09-19 (水) 00:32:15
      • (夫、その言葉は、ばらばらだったジグソーの塊を繋げるキーピース)
        (その線が繋がったときき頭を殴られたかのような衝撃に襲われる)
        (嘘とは思えない奇妙な誠実さを伴った声、そうだ、どこかで、どこかでこの声を聞いた)
        (アリシアがその疑問の解答を導き出す前に、南方侯はその顔を白日の下に晒す)

        ……ヴァイド、隊長……!
        (そんな、とかまさか、などと無為は言葉は口にしない、ただ、確認と自信に言い聞かせるためにその名を叩きつける)
        (深い、深い吐息を搾り出し)
        そう、ですか、黒山羊とはつまるところ、貴方の隠れ蓑、そして私兵団だったのですね
        (神国との繋がり、一介の傭兵隊を率いる隊長が持ちえるはずのない人脈、納得の嘆息が自然と漏れる)

        (ここで感情に任せ言葉をぶつけるのは簡単だ、だが、西方侯と交えた事の二の舞を踏むはすまい)
        (その意思がアリシアに平静さを取り戻させる)
        いえ……貴方の思惑がどうあれ、これは、私が成そうと思ったことです、ですからお礼を言われる事でもありません -- アリシア 2012-09-19 (水) 20:53:57
      • 貴族の遊興と思ってくれるな、我がローディアのため即応の精鋭が必要だったのだ。
        (かつて西方候であるフォンランが自身らに求めたように、またその経緯も同じ)
        (立場や国家間のしがらみより一歩外に出た実働戦力が必要だったのだ)
        (最も、それを自身が率いるのも有り得ぬな話で…またそれを必要とする諸侯が別にいたのも驚きだったが)
        (神国との繋がりもまた、当然のものといえる。そういう理を持って彼らも我等も自身の力を使っていたのであるから)

        知っている。
        だからここに来たのだろう…いや、ここから先に向けて自身らの領から放れた。
        (アリシアがなぜここに、いやアルメナに足を向けているだろうかなど当然の如く理解できる)
        (義憤、正義、人道、勇気、慈愛……それら全て美徳と言えるものに突き動かされているからだろう)
        (そんなもの最初に会った時から感じている。故に変わっていないということ…より強く突き動かすようになったその姿)
        (得がたいものがある。)
        (だからこそ、であるからこそ今言うべきことはある)

        アルメナと結びつきが強い我が南方領であっても柱の者らを戦後活かすものではないのは承知している。
        処置が済んでいるものは悉くこの地に眠ってもらった。今や残るは技術とそれを行使するもの…そして研究するもの。
        以後は我等が繁栄のために尽力してくれるだろうがアルメナは違う
        これからも保持し続け、昇り続ける風土、気風、文化がある。
        輸送船の計画も大まかにはできている…戦前のように旧神聖ローディア南方への征伐を行うならば
        柱に連なるものを作るのは当然であろうな、その強さを十分に理解している。
        (その顔は遊興とも王とも取れる悠然とした顔で、アリシアとその連れに向けられ)


        ここまではわかるだろう、であるからここにいるのだから。
        ならば今すぐフロフレック領に引き返すせ。
        嫌だというなら反論、今までへの罵りあるなら全て聞いてもやろう。あるなら申してみよ
        (どうした、何でも言って見ろという顔が微笑みを携えた)
        (アルメナに乗り込み暴れるような戯れはやめろ、とも表れていたのだ)
        (無駄なことはやめろ、という嘲りは含まず…別の意図もまたあるように) -- カイル 2012-09-19 (水) 21:18:43
      • いえ……遊興などとは思いません、かつては自らの悦楽のみに行動していたと思っていました
        それが少なからずあると今でも疑ってはいません、ですが……(大を生かすために小を犠牲とする)
        (フリストフォンも言っていた言葉だ、そして目の前にいる南方侯、ヴァイド、いやカイルもそうであろう)
        (それは先の戦争においての結果が全てを表している)
        少なくとも、それを無駄にせず今こうして犠牲となった者たちを開放した、それだけで……
        (十分です、とは口にしないあたり未だに先の事件はわだかまりとなって残っている、それでも前に進むためには認めなければならない)
        (これからは過去のためだけに戦う訳には行かないのだから)

        ……わかりました
        (自分に向けられた言葉を反芻した後アリシアはそう口にした、おそらくそれは南方侯にとっても意外な言葉であったはずだ)
        (しかし、自らの在り方を引き下げたわけではない、それは言葉や表情の端々に如実に見て、あるいは聞いて取れる)
        私はかつて西方公にこう問われました、小を犠牲にし大を生かす、これより良い方法、誰一人犠牲とせず勝つ方法はあるのかと
        ……結局それに対する答えは未だに出ません、誰もを守れるだけ強くあれば良いと考えた事もありましたが
        (それもまた違う、ならばどうすればいいのか、それを頭の片隅で考えながら戦い抜いてきた)
        この場において貴方と出会ったことで、もう一つ別の道を取る、との選択肢を視野に入れる事が出来たと思います

        (鋭い視線、怒りや憎しみといったものも感じるが、それ以上に先を見通す目)
        (アリシアは為政というフィールドにおいてその力を試そうとしている、そう、西方公や南方侯と同じ領域に踏み込み)
        (そこで成し得なかった答えを探そうというのだろう)
        (平時であれば一笑に付されるような非現実的妄想ではあるが、実績と名声、そして立場を得た今であればあるいは) -- アリシア 2012-09-19 (水) 23:08:07
      • ずいぶんやり込められたようだな、その様子は
        (先にあげた美徳を携えながらも強かに、強く生きている)
        (些か無垢な牙により噛み付かれる戯れがないというのが淋しいものではあったが)
        (そうであっても中々に頼もしい言葉である)

        次の戦いは近い。
        アルメナとの領土紛争、スリュヘイムとバルバランドとの外交…
        そして宗教紛争。大爛の戦いを皮切りに政治も軍も民衆も変質しつつある。
        フロフレック候
        これからの世はまだ混沌の中、その信念ともいえぬが心意と力を用い西方を支えて欲しい
        (連中が気に入らないのならば、これからがちょうどいいだろう)
        (君が行かずともすぐに始まるとも言いたげな言葉で告げる)

        それとな、犠牲がどうのとはフォンの遊びの一興であろう。
        そうして悩む姿を見ればわかる…まぁあいつからすればどちらでもよいのだろうが。
        (本当に面白いおもちゃにはよく手をつける男だったなと笑いながら思い出す)
        (もっとも俺からみればアイツも相当に面白いヤツだったが…)
        それらは国家運営、執政者としての考え方や有り様により変わる。
        汝が関わるというのであれば、自分なりの国家と国民、諸侯と王、領民と貴族の関係性について
        答えを出せるようにしておくといい。優美さが取りえの凡庸な成り上がりで終わるのは忍びない。


        私は…そうだな、死んでいったものら皆私の遊びに付き合ってくれた掛け替えの無い者と言った所だな
        いやフロッセはまた違うものであるな。戦時でなければ公式に側へ迎えたのであるが…惜しい女であった
        (ようは、どんなことであれ楽しんでやるのが私だと言わんばかりに。執政者に有るまじき言葉であった)
        (自ら娶った女を醜いあのような姿に変えておいて平然とのたまうのもまた人に有るまじきことだが)

        回答は汝次第だ、愉悦と享楽の徒となるか理想の騎士道に溺れるかそれともか
        (彼女はよく理解している、些か下向きではあるが上を見ているのは確かである)
        (これぐらいで十分だろう。そう思い再び兜を被り寄せていた馬に歩み寄りその体を乗せて預けた)

        必要なこと、足らぬものがあれば何時でも手を貸そう。金も時間も些か頼りないがな。
        (西方候が移った今、彼を支えるのにフロフレックが必要であるからか…それとも個人的な興味か)
        (とかく告げるだけ告げて馬の腹を軽く蹴った)
        (何も終わっていないのだと、その鎧の金音が告げる) -- カイル 2012-09-19 (水) 23:55:14
      • (やり込められた、と言われては苦い顔をする他はない、彼の言葉は何もかも正論であり、なおかつそれが正しかったとこの戦争においては証明されてしまった)
        (そしてそれは西方公フリストフォン・ラヴェルのみならず、今目の前にいる南方侯の行いにも当てはまるのだ)
        (歴史に、過ぎた過去に「もしも」はない、あのような事、フロフレック領内における集落の虐殺、ウラスエダールの滅亡、フロッセの件、恐らくまだ知らぬ陰謀もあったのであろう)
        (それらを行わずとも勝てたかもしれない、と言うのは意味を成さない仮定でしかない)

        (それ故に、燃え盛るような火色の瞳を向けながらも、その無垢なる牙を出す事はしない)
        (朗々たる南方候の言葉を飲み込む、自らが正しいと思う事を成そうとするなら政と言う物は避けて通れぬ道なのだから)
        「言われるまでもなく、領の民を、ひいては国を守ること、それこそ私たちの寄って立つ所でありますから」
        (しかしながら、アリシアの口から出たのは何の面白みもない判に推した様な言葉、それを聞き落胆するか否かは受け取り手次第)
        (義憤は善に属するものであろう、だが少し行き過ぎればそれは独善となる、そこまではまだ個人の範疇ではあるが、それが力を得た時大きなうねりとなろう)
        (生まれ持ち、騎士と言う家系により育まれたそれが果たしてどの様な変化をもたらすのか、独裁か、反乱か、あるいは目を出す事なく埋没するのか)
        (いずれにしろ目を離していいものではないのは確かだった)
        (そして、その方向性を想起できる要因が一つある、それはフロッセに言及した後の事)
        「貴方にフロッセさんを惜しいという資格はないと思います、この戦争の様に結果が正しいのであれば
         貴方は彼女をあのような怪物に変え、自ら剣を取って最後の幕を引く事をせずそれを私に任せた、言葉でどう取り繕おうと、それは許せる事じゃない……」
        (その怒りを南方候は理解し得るだろうか、恐らく理性では理解しても本質を理解する事は敵わぬであろう)
        (女であると言う事に起因するそれは、つまり、アリシアの行動原理の中で感情の占める割合が大きいと言う事の証左に他ならない)

        (奇しくも南方候が放った汝次第との言葉、そこまで深く考えていたかはさておき、理と利を以て戦争を裏から動かして来た四方公とはある意味対極に位置する者が力を持った時)
        (どの様な治世がなされるかと言うのは、興味を引く展望であるのは間違いないであろう……)

        (南方候が去り残されるは二人、山麓を抜ける風に晒され、思い出したかのように感じる雪の冷たさが心を鎮めてくれるようだった)
        (程無くして馬の嘶きと共に遠ざかる蹄の音が山野に響き消える、それはアルメナではなくフロフレック侯爵領へと向かう、新たな戦いに備えるために) -- アリシア 2012-09-26 (水) 10:51:21
  • 死は平等である。
    其処に至る過程は様々であり、平等とは言い難い。
    しかし、訪れる死という事象は等しい価値を持つ。

    統一連合の兵に”堕界の聖母”と呼ばれ、畏怖を集めていた異形は死に抱かれた者を子として愛でた。
    西爛戦争と呼ばれる戦。西方を血に染めた死の祭典。
    その最中で生まれた母は、平等なる死に愛された子らを何よりも愛した。 -- 2012-09-13 (木) 00:29:53
    • 万物は死に抱かれ、眠る。
      満ち足りて逝こうとも、怨嗟の声をあげながら逝こうとも、その死という一点は平等である。

      聖母は、顕現が唐突なら退場もまた唐突であった。

      大勢を決める戦いが終わり敗残兵も大方が狩り出されたある時、変わらぬ笑みを湛えた聖母は不意に天を見上げる。
      どんよりと曇った空は、何処かしら今後の西方の行く末を暗示しているようでもあった。
  • - 227年4月 旧東ローディア領内 とある街 - -- 2012-09-05 (水) 00:48:38
    • 東ローディア国内。『解放』されて以降帝国側につく者の多かった土地柄故、残党が潜伏するのも自然な成り行きであった。
      故に、帝国軍の残党狩りが苛烈な手段を以て行われたのも自然な成り行きであろう。

      この街においてもそれは同じであった。
      「東夷に与するものもまた東夷であり、血の報復は正当な権利である」と叫ぶ連合王国の兵士の主張は正しいものとして扱われたし、故に今この街において大人子供の別無く街の広場に集められ、一人ひとりに苛烈な尋問が加えられている事についても咎める者は居ない -- 2012-09-05 (水) 01:03:07
      • 或いは事実はどうでも良かったのやも知れない。ただ連合王国の兵も恐ろしいだけなのかも知れない。
        これまでの常識が通じぬ夷狄。何をしてくるのか分からず、災禍を残した大爛という悪魔。
        帝国軍の侵攻は、彼らにとってそれ程までに衝撃的なものだったのだと改めて察せられる。

        濁り水は杯を満たし、溢れ出す。
        零れた汚濁は弱き者から犯し、汚し、やがては総てを奪い去って行く

        そして、彼の地にて重々しい響きと共に封を解かれた者も、またその濁りからは逃れられぬ者であったか。

        悪夢の如き異形は兵士に傅かれ、集められた住民達の前に姿を現す。まるで聖母の顕現のように。 -- 2012-09-05 (水) 01:22:48
      • 一所に集められた住人たちはそのおぞましさに恐怖し竦む一方で、連合王国の兵は奇跡を目にした殉教者の如くその姿を仰ぐ。
        その様は対照的であったが、本質が何処に在るのか知る者は此処には居ない。

        「──── わがこや かわいし ────」

        鈴の音めいた声が、ソレから発せられた。 -- ”堕界の聖母” 2012-09-05 (水) 01:33:40
      • 尋問が終わる。責めを与えていた兵は、隊長格の騎士へと頷きを送った。

        「この者らは街ぐるみで帝国の者と通じ、あまつさえ蛮族どもを匿い逃したと言う。許されざる行為だ
         だが……背信の輩とは言え元を正せば我らと同じく統一王朝の血を退く民である。よって温情ある処置が適当と見做された」

        騎士の言葉に、住民達の顔にも何処と無く安堵の雰囲気が流れるが……しかし、続いた言葉はそれを打ち砕くに十分であった。

        「貴様等は聖母様の子となり、統一連合を守護する騎士となるのだ。
         これ程の喜びに勝るものはあるまいな?」

        広場に、ソレが立ち上がる。蠢く肉塊と鎖。
        慈母の如く両手を広げ、騎士の言葉が理解出来ぬと言った風の住人達へと微笑みを向けて

        「──── 嗚呼 いとしい わがこら ────
          ──── ははのもとへ おもどりなさい ────」


        一人の子供が、恐る恐ると言った風情でソレへと顔を向ける。
        慈母は広げていた腕を、赤子にそうするように差し伸べて



        腕が
        腕が
        腕が
        腕が
        腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が腕が

        蠢く表面から生え出た無数の赤子の腕が、少年の頭を、手足を、内蔵を、骨を引き千切り、肉塊へと引きずり込んで。
        悲鳴一つ残さず五体を引き裂かれた子は、血痕だけを残して綺麗さっぱり【ソレ】に咀嚼された。

        悲鳴が上がる。
        逃げ惑おうとする住民達の前に、ソレの膨れ上がった腹の罅から滲み出るように出現した黒い鎧騎士が立ちはだかり。

        虐殺が──否、それを虐殺と呼ぶべきなのかは誰にも判別がつかないものであったが──始まった。 -- ”堕界の聖母” 2012-09-05 (水) 02:01:28
      • さてこれが観劇であるのならば、観客は一体誰なのか。酸鼻を極める光景を陶然と見守る統一連合の兵なのか。舞台上で震える住民達なのか。赤白の鎧に身を包みその表情は用として知れぬ南方候か……

        或いは。

        小半時程で、街の広場は血溜りが残るのみとなった。
        この街に暮らしていた元東ローディアの民は、全てが黒騎士に喰われるか、聖母に直接嚥下され最早この世の何処にも居らぬ

        惨劇の跡が残る広場の中央において、ソレは広げていた翼を下ろし、天を仰ぐ。
        長い髪に隠された顔に覗くは罅割れ。おぞましくも美しい彫像のような姿で、慈母は世界全てを祝福するように微笑む。 -- ”堕界の聖母” 2012-09-05 (水) 22:32:35
    • (広場の様子を遠巻きに眺めている騎士と思しき一団がある、フロフレックの騎士団だ)
      (その先頭に立つアリシアの表情は厳しい、しかしながら叫ぶ統一連合の兵の言にも正しさがあるゆえ)
      よろしいのですか?
      (そう控えめに聞いてくる騎士に、いい、とだけ答え、本来の任務である帝国兵残党の掃討へと向かうため馬首を翻す)
      (丁度そのときだった、戦いにおいて研ぎ澄まされた警戒本能が警鐘を鳴らす、何かが現れる、柱の騎士にも似た何かが) -- アリシア 2012-09-05 (水) 01:41:14
      • (それら陣頭指揮を執っていたのは赤と白の鎧をつけた南方候であった)
        (兵に『彼女』を起こすように促し、その目線の先にふと映るのは…あの若き騎士、アリシア・フロフレックであった)
        (運命のいたずらか、騎士として…国に仕えるものの義務か…引き合わせたということか、運命が 『彼女』と) -- 2012-09-05 (水) 01:48:50
      • (現れるは異形、しかし腐肉によって形作られた柱の騎士や王とはまるで違う)
        (浮き足立つ配下の騎士を片手で制しただそれを見る、周囲で傅く兵士たちはそれが何なのか知っているのであろうか)
        ……一体、何をする気だ……?
        (柱の騎士は帝国の兵を打ち払うためだけに作られたもの、とすればあれもまたそうなのだろうか)
        (しかしここにいるのは帝国の兵ではない、協力していたとは言え数年前まではローディアの市民だった者達だ)
        (まさか……嫌な予感が膨れ上がる) -- アリシア 2012-09-05 (水) 01:59:16
      • (そしてその予感は最悪の形で顕現する)
        (戦場で幾度と聞いた人の体が砕ける音、悲鳴、血の匂い、それら全てがこの小さな集落の広場で、眼前で繰り広げられる)
        (虐殺か?否、これはショーだ、反吐を吐くほどに悪辣で過剰な演出がなされた芝居にしか過ぎない、故に……)

        (故に動けない)

        (アリシアが戦場で見た地獄とはまた別種の、見た事が無い、出来るならば見ずに過ごしたい部類の地獄がそこにあったのだから)
        (あるいは……あるいは彼女が女である故、子に対する無償の愛を、あのような形で使われ利用されていると言う事を直観的に感じたからか……)
        (いずれにしろ彼女はこの場で何も、何もし得なかったのだ) -- アリシア 2012-09-05 (水) 13:05:37
  • - 226年6月 ローディア連合王国西方領 -- 2012-08-30 (木) 00:47:44
    • (そろそろである、と使用人から聞かされ馬を走らせようやっと邸宅についた)
      (傍らには医者や護衛なども連れてである…他の使用人らに最低限の挨拶を返し、フロッセの様子を伺う)
      (大事ないか、と) -- ヴァイド 2012-08-30 (木) 00:51:34
      • (産婆に付き添われ、涙を零して陣痛をこらえながらも訪れた夫の姿に思わず笑みを零す。言葉を続けようとして、ぱくぱくと口が開くのみなのには参るが)
        ……ヴァイド、様……もうすぐ、もうすぐ、見られるんですね……私の、私達の……
        (痛みに身を反らし、途切れ途切れになりがちな言葉を続ける)
        (多忙を推して立ち会ってくれているのであろうヴァイドに心配をかけまいと、健気にも無理に笑みを浮かべて)
        -- フロッセ 2012-08-30 (木) 01:08:44
      • そうか、無事か…よい、気を確かに持て
        (そう迎えるフロッセに優しく語り手を握りその髪を撫でる)
        (医者がなにやら慌しく鞄の中から機材を広げ、産婆を下がらせた。危険な状態であると)
        (フロッセに聞こえているか定かではないが…魔術汚染の影響が…母体に…と産婆を説得し下がらせたのだ)
        やはりか…まさかと思い連れてきたが。頼むぞ。心配するなフロッセ、かならず無事産めるはずだ
        (そうして医者は着々と準備を進め…施術と投薬を開始した)
        (しばらくすればそれらはフロッセの意識を奪い…闇の中へ沈めるだろう) -- ヴァイド 2012-08-30 (木) 01:26:46
      • (医師の言葉を聞き産婆は息を詰めるも、何処か納得の行かぬ素振りで退出し……それを見る余裕はフロッセには無い)
        (ただ髪を撫でられる感触と、掛けられた言葉が心地良い)
        はい……かならず……
        (意識は拡散し、やがて痛みも薄れ。幸福な感覚を胸に抱いて、フロッセ・シュヴィムハオトは微睡みにも似た闇の中へと沈み込んでいく)
        (幸福とは今の自分であろうと、信じて疑う事などありはしないのだ。何故なら今が、その絶頂を迎えようとする寸前であるのだから)
        -- フロッセ 2012-08-30 (木) 01:33:03
      •  
         
        (後日、フロッセの葬儀がしめやかに行われた)
        (魔術汚染の影響か、出産した子も人の形をしておらず本人も出産の苦しみに耐え切れなかった…と)
         
         同時刻 ローディア連合王国 南方領 中央都市 
         
        (フロッセの意識は覚醒する。手術台かベットか、何かの上に寝かされていることが…徐々にわかるだろう)
        (周りを囲む医者らが慌しく動いている)
        「丁寧に施術を行うのだ。傷つけることは許されないぞ。カイル様の種であるから」
        「これより施術を開始…術長、検体が目を覚ましましたが」
        「計測より早いな…再度投薬、施術が終わるまでで構わない。暴れると中の子まで傷つける」
        「了解。0.78から1.2に上昇…9秒…7秒…」 -- 2012-08-30 (木) 01:47:09




      • (……なんだろう、と。単純にして素朴な疑問が、浮かぶ)
        (記憶は泡沫のように不連続で、先程まで何をしていたのかが思い出せない)
        (身動ぎして、横たわっている身体を起こそうとするがそれは意志の上だけのことで。実際には身動ぎ一つ出来ていない)

        ……。
        (疑問符が脳裏に浮かぶ。泡のように。泡のように)

        (そう言えば我が子はどうなったのだろうか)
        -- フロッセ 2012-08-30 (木) 01:56:03
      •  
         
         
        (再び意識が覚醒する。明かりにより部屋の全体が浮かび上がるその場所でフロッセの目は覚めた)
        (視線にまず入るのは…夫であるあの男であった。フロッセの腹のあたりに耳をあて、そうあの日のように佇んでいた)
         
         
        フロッセ…よく耐えたな…そしておめでとう、おはよう…
        「素晴しい!カイル様、数値は安定…いえ、計測量に間違いなければ女王よりも…おぉなんたることでしょうか!母であり女王であり…」
        「まさに聖母…この末世の時代に舞い降りた、聖母…天からの御使い!」
         
         
        (研究者は興奮し、医者は喜び、誰もが祝福した。巻き起こる歓声)
        (そう、まるで出産が無事成功したかのような…そんな祝福が、フロッセを迎えた)
        (ただひとつ。身近にいるヴァイドと違い医者らと研究者をみやったとき…自分の視線が高くなっているのか、というような視覚から入るイメージや徐々に覚醒してくる体の感覚を除いては) -- ヴァイド 2012-08-30 (木) 02:35:01
      • 女が次に目を覚ました時、そこにはたくさんの人間が居た。
        「……。」

        総ては祝福している。

        彼女を、そしてこれから産まれ出る子を祝福している。

        「────。」

        何もかもが解る。自らは母であり、そして間近に居るこの男から愛された存在なのだ。

        「────、」

        僅かな身動ぎと共に、女は表情を動かす。

        それは幸福であった。
        それは祝福であった。
        それは産声であった。
        それは歓喜であった。

        ────それは。


        「────あぁ よかった────

            ────かわいい わがこが────」
        -- フロッセ 2012-08-30 (木) 02:48:14

      •  http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp022275.png
        -- 2012-08-30 (木) 02:50:47
  • - 226年4月 ローディア連合王国西方領 - -- 2012-08-23 (木) 19:13:38
    • (ヴァイドと名乗った傭兵に召し上げられてから、慌ただしく日々が過ぎていった)
      (着の身着のままの根無し草が板についてしまった私にとって、その間の変化は目まぐるしくそして幸福であったと言っても良いだろう)
      (清潔な衣服、豊かな土地での小さいながらも館住まい、食うに困ると言った事もない)
      (何よりも、人間として扱われるという事が有難かった。もう長いことそのような生活から離れていた故に、人に暖かく接して貰うと言う事が涙がでる程に嬉しい)
      -- フロッセ 2012-08-23 (木) 19:18:49
      • (今もこうして少し大きくなった腹部を撫でながら、柔らかな日差しに包まれていると外を騒がせる戦乱も遠い事に思えてくるのである)
        (……否。「外の」という認識を持っているということ自体、既に自分が遠い所に置かれていると言う証左なのだろう)

        ……まぁ、でも。折角、幸せなんだもの……
        (子を宿した事を告げると、ヴァイドはいつもの落ち着いた所作ながらも喜んでいるのはよく分かった。妾という身ではあるが、あの時告げられた言葉は真実だったと実感できて)
        (愛おしげに、子の宿った腹を撫でる。一年前からは考えられぬ程の幸福)

        (今、自分は満ち足りていた)
        -- フロッセ 2012-08-23 (木) 21:56:03
  • 【225年 8月 ローディア連合王国 西方領 沿岸都市】 -- 2012-08-15 (水) 23:12:48
    • 『戦乱の間の束の間の混乱と静寂の中。大海である外洋はその波変わらずあるがまま』
      『道行く人々もまた大海に揺られる小船か、ただ時流に揺られるままたゆたうのである…夏の日差しが人々の足跡を道に焼き付ける夏』
      『女は漂い彷徨い、男は女を探し行き当たる』 -- 2012-08-15 (水) 23:16:46
      • さて…(と、馬を宿に預け街を歩く)
        (スリュヘイムでの適合者探しから都合のよい該当者が割り出されたがその者は宿なしと来ている)
        (加えて探し始めたころにはちょうどスリュヘイムを出たらしくそこからの足取りを探すのに苦労をした)
        (何にしても特徴あるものなので軽い聞き込みと、女の足であるからと馬を使ったのが働いたかこうしてたどり着くことができたわけだ)
        (あとはこの街を出る前に確保するのが望ましい。女の仕事は売春婦とあるわけであるから、夜の方が望ましいのではあるが人であるならば昼のうちから生活を追い探しても損にはならないだろう)
        (こうして男は水妖の特徴を持つ女を探し始めたわけだが…そう、表向きは魔術師を探すという理由で) -- ヴァイド 2012-08-15 (水) 23:22:47
      • (守られていた環境から抜け出し、あっちは危険そうだ、こっちは安全そうだと彷徨う女の生き方は、ある意味では波間に漂う海月にも似ていた)
        (公領も西ローディアに近い海側となると、魔術汚染も差し迫った脅威とは見做されなくなる傾向がある。女はまた、以前のように流れつつ花を売る生活に立ち戻っていた)
        (一時の安寧を得たことで、よりその後の胸に棘が刺さったような感覚は深みを増していたが……それも仕方のないもの、と諦めている)

        (沿岸都市の猥雑な街並みに紛れ、今夜の相手を探して。フードを目深に被り、夏の夕暮れの太陽が影を写し取るような辻の片隅に、今日も女は立っていた)
        (つと、視線を上げた先には、何処と無く気品を感じさせる、しかしそれでいて野趣も解すのが察せられる黒い装束の男。風体から言って、黒騎士であろうか)
        -- フロッセ 2012-08-15 (水) 23:24:27
      • (沿岸都市ともなれば漁師や船乗り、海兵相手に春を売るものというのは需要があるものである)
        (しかしながらそれらは大抵裏社会の団体などにより管理されているもので、例えば娼館や宿に常駐しているものら等…)
        (つまるところ、目的の女は流浪者であるから路地にいるであろうことが察せられた)
         
        (夕暮れ。人々が仕事から上がる時間帯。夜に入る時間帯の中…そう、夜との狭間。入り口に女は立っていた)
        (細く広く目を凝らせば見えてくる。はぐれというものは輪の中に加わることのできない片隅にいる)
        (避ける風体と、影。女の気配。雑踏に紛れながらかつ徐々に女に近づいていく)
        (目的の女かどうかを確かめるなど、通りすがりにちらりと横目でみるのでよいし。もし目的のもならば直接行けば怪しまれるだけなのだから…と、遠くをめざし足を運ぶ) -- ヴァイド 2012-08-15 (水) 23:40:05
      • (西ローディアの傭兵騎士はこの戦時にあって富裕と言ってもよい。目線の先の男も身なりが良い)
        (つまり、普通であれば女の客には成り得ぬのであるが……赤毛の男は人の間に見え隠れ。何かを探している素振りであろうか)
        (どちらにせよ自分が取れる類の客では無かろう……そう考えて、フードの下でため息をつく)

        (その拍子にはさりと、フードから長い青髪が零れた。慌てた動きでそれを戻す女の顔には、黒い罅割れ。異形の美貌が一瞬、覗く)
        (周りに見咎めるものは無かったのは、彼女に関心を払う人間が居なかったからであろう……そう、一人の男を除いて)
        -- フロッセ 2012-08-15 (水) 23:54:01
      • (なんのいたずあらか知らないが。ちらりとみやった先では青い髪と…特徴的なあの模様が)
        (見つけたと思えば早い。そのままの歩調で女に近づいて行く。もっとも…女のほうからすれば、咎められるか大声を上げてつるし上げられるか等…否定的な挙動につながりそうな突然さで)
        (男は女の前に立った。雑踏という闇の中から湧き出したような…唐突さで)
         
        (話には聞いていた。どんな異形の女かと思っていたが、これはどうして。人として整った顔をしていながらひび割れ薔薇にょうな亀裂が入る頬)
         (魔術汚染の弊害か奇形か病か。どちらでもよいが、成る程これは貴重、貴麗であるといえよう)
        (もっともこの世相の好みからずれた独特の価値観を持った男であるからこその感想だが…女の前に立ち、見下ろすようにただ黙って眺める時間が少し挿し入った) -- ヴァイド 2012-08-16 (木) 00:15:12
      • (ふと目を伏せたその一瞬。その一瞬で、赤毛の男は眼前に立ち、見下ろしている)
        (所作もだが、観察するような視線に感情は少し、怯えの色を得る。我知らず両腕でフードの下の体を抱いて)

        (咎められるか、それとも物好きな客なのか。判断は出来なかった。故に気を取り直す暇も無く、声をかけねばと反射的に言葉が口をついて出る)

        あの……? 
        一夜の花を、買って頂けは……
        -- フロッセ 2012-08-16 (木) 00:20:53
      • (途絶えそうな女の声をさえぎるか、続くかのように男の手が女の頬に触れる)
        (刻まれた皺を愛でるかのように撫でる手がそのまま女の顔を自分の顔に向けさせる所作となるのは意図か)
        (そのまま瞳を捉え、口をようやく開く)
         
        失礼。この花が欲しいのだが…いくらかな
        (と、優しく囁くように花を求めた。手は花を観賞するかのごとく添えたままに) -- ヴァイド 2012-08-16 (木) 00:33:54
      • (触れられ、上向かれた視界で正面から男の瞳を見る。不思議と抗う事は思い浮かばず)
        (切れ長の碧眼には深い知性を感じさせる。が、近づいてみれば何処か稚気もある……捉えどころの難しい人物という印象を得た)
        (見とれていたと言っても良い。応えの言葉もすぐに浮かばず、ようやく掛けられた言葉の意味を把握して慌てたように)
        っは、はい……!
        一夜に、これだけでございます……
        (そう言って指されるのは五本指。西ローディア金貨で五枚)
        (真っ当な娼婦であれば、安きに過ぎる値段であった)
        -- フロッセ 2012-08-17 (金) 00:34:39
      • (定型句とも言える値段の話か、しかし興味のない話かの如くそのまま顔を眺める)
        (手に触れればすぐにでも感じられた。魔術汚染の害か、差し込まれた異種)
        (無知なる者ならば毒と見るだろうが、この目から見れば時代と場所が産んだ芸術にしか見えないものである)
        (鉱石に花の模様が刻まれるように、これほどの奇跡の美麗が存在するのは稀であると)
        (頬に手を当てたまま、空いている手で女が提示した五本指を包み込むように握り)
        部屋にて愛でる花が欲しい。
        いくらかな
        (一夜だけではなくそのまま欲しいと、誰もが耳を疑う趣旨の言葉を向けた) -- ヴァイド 2012-08-17 (金) 01:30:41
      • あ、あの……? 騎士様……?
        (困惑顔で落ち着かな気に視線を彷徨わせる。流石にそろそろ、周りの目が気になる)
        (野次馬たちは遠巻きに、身なりの良い男とみすぼらしい娼婦の成り行きを興味深そうに注視している。どのように転んでも今夜の肴にするには十分な話題となる取り合わせだ)
        (が、次いだ言葉はあまりにも予想外で、野次馬達ですら一瞬理解の及ばぬものであった)

        ……え、……?

        (そしてそれは、当事者である女もその通りである。何しろ相手は、自分のような娼婦で無くとも──)
        ──わ、私は。後ろ盾も無くその日を鬻ぐのが精一杯の卑しい女で御座います。
        貴方様のようなお方のお側になんて……
        -- フロッセ 2012-08-17 (金) 22:25:29
      • ・・・美しい
        (その場にいる野次馬すら意に介さず、彼らこそ路の石であるかのように)
        (目線も心も目の前の女に傾く)
        (正直なところ・・・目的のために使うのは惜しいと思えるほどであった)

        野の花として枯れる様を見るは一生の悔いとなろう。
        一夜ではなく後生欲しい。根ざす土が欲しいなら私が与えよう。
        野で果てる理由がないのであれば・・・構わないか
        (意志は固く、一種の頑なさを感じさせる言葉を最後に添えた) -- ヴァイド 2012-08-17 (金) 23:53:15
      • (路傍の石たる野次馬たちがざわめき、女は色を無くす。詩吟の如く朗々と語られる言葉はつまり)
        (ざわざわと、聴衆は驚きの色を含み……そうして水を打ったように静まり返った。次なる女の応えを待つべく)

        (──つまりそれは。妾に、と)
        (そういう事であろうか。朧気ながらに理解が及んだ今の自分の事態、二号として召し上げられるという事態への困惑はあるが、しかし)
        (そう。漂泊の日々も限界ではあった。明日への希望は持てず、唯生きるために日々を生きる)
        (そんな生活が続いた事は、元は良家の子女であった彼女をそれ程までに摩耗されていた)

        ……高貴なお方、とお見受け致します。
        私は、スリュヘイムの魔術汚染にて異形と化した身です

        (──そう)

        そのような女で良い、と仰るのであれば……私は。

        (────その取引相手が、真実)

        ……貴方の慰めとなる花となりましょう

        (──────愉悦を仮面で隠した、悪魔であったとしても)
        -- フロッセ 2012-08-18 (土) 00:17:37
      • 己がなぜ咲いているかわからぬ花よ…汝が咲く大地、浴びる陽を知るときこそ何より輝く時であると知るだろう…
         
        (心底楽しそうに笑いながらその手を引き、聴衆など意に介さぬままに…その場を後にする)
        (では服も居も新たにしなければ、と沿岸都市故の交易か。服屋をめぐり等…今までの女から考えられぬ時間を慌しく過ごす)
        (その先に輝くのが漆黒の太陽であろうとも…今はまだ見えないのである) -- ヴァイド 2012-08-18 (土) 20:13:10
  • 225年 2月 スリュヘイム汚染公領、第一層状都市スリュヘイム中層

    下層とは比べ物にならないほど治安がいいとは言え一つ路地裏に入ってしまえばそこは闇だ。
    にも関らず羽織りに覆われた細い体躯、恐らく少女、がフラフラと路地の裏に倒れこんだ。
    そのまま蹲り咽いでいる。 -- アフィクルルカ 2012-08-10 (金) 01:06:43
    • (匿われている立場故に目立つ事は避けねばならない。出来る限り目立たぬように気をつけて買い物などに出ていた矢先に路地裏に倒れこむ少女を見かけた時、その事がまず第一に思い出された)
      (暫しの間、路地の入り口で立ち竦む。面倒事を抱え込む理由も、余裕も、自分には無い……だというのに)
      (足が進んでしまうのは、思わぬ再会でこの心が人の暖かさを取り戻したからであろうか……)
      あ、あの。
      大丈夫、ですか……?
      (フードを被りその下にはガスマスクを装着しているとはいえ、その下の服装は女と知れる。倒れこむアフィクルルカに対し、膝をついて問いかけた)
      -- フロッセ 2012-08-10 (金) 01:32:25
      • 「ぅ……………あ……」
        くらくらする。 眩暈がする。 世界が回る。 世界が暗くなる。
        意識を手放してしまいそうな時に声が降ってきた。
        声音は下卑たものではなく心配の色を含んだものだったが、少女はそこに気付くほど他者と関りを持った事はなかったし余裕もなかった。
        「誰!」
        咄嗟に顔を上げ魔術を使うために左手を引いた。
        その勢いでフードが外れて尖った長い耳が露わになる。 周囲には七色の蝶が舞う。 亜人だ。 今誰かに見られたらそれこそ大問題だ。 -- アフィクルルカ 2012-08-10 (金) 01:44:36
      • っ……
        (鋭い誰何の声に思わず顔を上げ、ぱっと舞った七色の蝶に目を丸くする)
        (成程人目を避けねばならない筈……彼女もまた亜人であると納得し、どうしたものかと考えを巡らせる)
        ……あの。大丈夫です。私も、亜人ですから……
        何かしたり、とか。そういう事はしませんから
        (そう言って、ガスマスクを外し、フードを下ろす。水妖特有の耳状の器官が目を引くが、それ以上に異様なのが左顔面に走る罅割れであった。スリュヘイムに住む者の大勢であれば、それが魔術汚染による異形化によるものだと知れる)
        どう、なさったんですか?
        -- フロッセ 2012-08-10 (金) 02:02:55
      • 失礼にも程があるほどまじまじとフロッセの様を見てから左手を下ろした。&br:汚染から生まれたといっても過言ではない少女にとって汚染は忌むべきものではない。
        「そう。 私と一緒。」
        第一声に比べたら幾分か棘の減った口調である。
        それからフードを被りなおした。
        「気分が悪い。」
        説明になっていない説明をして再び立ち上がろうと…したのは心だけだった。
        足は支えきれず感覚は追いつけず、フロッセへと倒れこむ。
        少女の髪は艶めいているし、羽織は上等な織り布だ。 フロッセが嘗て全て持っていた…そして今は失ってしまったもの達。 -- アフィクルルカ 2012-08-10 (金) 02:20:00
      • 気分が……体調が優れないみたいで……あっ!
        (倒れこんできた少女を我知らず抱え、その手に返る感触に記憶の何処かが刺激される)
        (久しく目にしていない上等な織物も、指の通りの良さそうな艶やかな髪も)
        (最低限の身なりしか出来ていない自分と比べてひどく、別世界の何かのように感じられて、それが少し哀しい)
        (「私と一緒」という先の少女の言葉を思い出して、心に棘が刺さったような錯覚を得るが……今は、そこに拘泥すべきでないのは分かっている)
        こんな所で倒れていては、凍えて死んでしまいますね……
        (そう言って、自身が着ていた外套──シュルスから借用したものである──を少女に被せる)
        とにかく、何処か落ち着ける場所に行きたいけれど……
        (下層であれば適当な安宿にでも寝かせれば良いのだろうが、生憎土地勘の無い中層では立ち往生であった)
        -- フロッセ 2012-08-10 (金) 02:30:15
      • 少女がフロッセの心の機微に気付くはずも無く、ざらついた鑢が如くに心を傷つけたとは思ってもいない。
        「大丈夫…必要ない、じきに治るから。」
        吐く息を白くさせて言っても説得力は皆無だが、被せてもらった布は温かかった。
        「知ってる香り?」
        ふと何かを思い出して首を傾げたがはっきりは分からなかった。
        そこでまた吐き気がきたため上等な羽織りの端を躊躇することなく破り口元に当てる。
        すぐに収まったのかまだ綺麗なままの布切れを捨てると立ち上がった。 -- アフィクルルカ 2012-08-10 (金) 02:48:51
      • 香り、ですか? 確かに、借り物ではありますけれど……
        (首を傾げつつ、少女の所作を見る。上等な服を惜しげもなくそのように扱えるということは、やんごとの無い身分の人なのだろうかと思い)
        (厄介ごとかもと頭の片隅で考えつつも、関わってしまったのだから今更、とも考えた)
        体調が優れないのを推してやらなければならないことがあるのなら、止めはしませんけど……せめて、もう少し落ち着いてからの方がよくは、ありませんか?
        -- フロッセ 2012-08-12 (日) 02:06:19
      • 「…………。」
        考え込む。 メイドじゃないしハノイでもないし、セリスウェティラのじじいどもでもない。
        誰だったか。 ぼんやり考えつつもまだ頭がはっきりしない。
        「急いでる。」
        そう言いつつも亜人で、汚染のある同士に会う事は屋敷では姉であるハノイを除けば全く無い。 このまま分かれてしまうのも惜しい気がした。
        屋外だというのに自分もガスマスクを外してフロッセの汚染の証である罅をじっと見ている。
        それは、蔑みの視線でも好奇の視線でもなく、安堵の視線に近かった。 -- アフィクルルカ 2012-08-12 (日) 02:28:01
      • (急いでいると言われては、それ以上の引き止め方が無い気がして。言葉にならないものを喉の奥に飲み下した)
        (と、少女がガスマスクを取る。はさりと溢れた豊かな緑の髪の毛と、何より隠されていた愛らしい顔に我知らず吐息が漏れ)
        ……?
        (次いで視線に気づく。宝石のように美しい瞳に映り込むのは、罅割れ、そして年月によって疲れた自身の顔)
        ……あの。あまり……見つめないで下さい
        (顔の左側に垂れた髪を一房指で摘み、異形を隠すような素振りを見せる。好奇の目でも、嫌悪の目でも無い視線は初めてだが)
        (それ故、所作に困った)
        -- フロッセ 2012-08-12 (日) 02:35:26
      • 「何故?」
        「私は会えて嬉しい。」
        隠された汚染の証に手を伸ばせばそれに従うように蝶もついてきた。
        「安心する。」
        少女は見た目は汚染と無縁に見える。 後から侵されたのではない、最初から侵されているが故に極自然に汚染が溶け込んでいるからだ。
        他人との付き合い方を知らない少女の無垢な瞳は残酷なまでにフロッセの「今」を映し出しながらも決して逸らされない。 -- アフィクルルカ 2012-08-12 (日) 02:52:33
      • うれ、しい?
        (鸚鵡返しに呟いて、小さな手が頬に触れるに任せる。嬉しい、とは……)
        (不思議な少女であった。周り飛ぶ蝶も、その印象を強くする)
        魔術汚染で、異形化した半妖なんて。
        (瞳に映った自らに語りかけるかのように、言葉が漏れた)
        誰にも好いて貰えないですよ……
        なんであなたは、それを。嬉しい、安心する、って……
        (温かい言葉と、しかし突き付けられる現実に胸が締め付けられるような感触を得た)
        -- フロッセ 2012-08-12 (日) 02:59:39
      • 「これも。」
        少女の指が罅をなぞった。
        その軌跡に僅かな熱が走ると小さな光が生まれやがて蝶の形を取る
        蝶は白から淡い蒼へと変化しながら発光。 フロッセの目前を過ぎった。
        「これも。」
        続いて水妖の証である長く黒い器官を撫でた。
        「同じだから。」 -- アフィクルルカ 2012-08-12 (日) 03:10:29
      • ぇ……っ
        (疑問の吐息と同時に訪れる、ほのかな熱。目の前を飛ぶ蝶に視線が移ると、耳元に細い手指の感触を得た)
        同じ、って……
        (困惑顔で、少女の顔を見る。亜人であることと異形であること)
        (その2つは、フロッセの中で常に別であった)
        (分たれていなければならなかった)

        (だが、……だが。)

        (少女の姿を見る。羽飾りに、透き通るような翠の髪。身の回りを舞う光の蝶)
        (彼女は一体、どのような亜人なのか。……蓋をした記憶、魔術院時代に学んだ知識から、泡のように思考がぽつぽつと浮上してくる)
        (そう、彼女はまるで、妖精のような──)

        ──あ、の。
        (唾を飲み込む。何かを言わなければ)

        あの。お名前を、お聞きしても……?

        (けれども、フロッセが選んだ言葉は。推測を口にすることではなく、この優しい少女との触れ合いを続けるという選択であった)
        (自らを苦界に貶めた魔術汚染と、目の前の少女を結び付ける事は、どうしても出来なかった)
        -- フロッセ 2012-08-12 (日) 03:23:24
      • 昔の話。 フロッセがまだ輝かしい毎日を送り、勉学に勤しんでいた頃。
        小耳に挟んだことくらいはあるかもしれない。
        汚染から生まれ出る悍ましい種族のことを。
        彼の種族は汚染を素に数々の特殊な能力を持つ。 中には稀な能力を持つ者もいる。
        目を伏せたくなる井出達とも聞いただろう。 「汚染」から生まれるのであれば、そうでなければ。 そうでないなら、汚染とは。 汚染とは何だというのだ。
        だが目の前の少女には一切汚染が齎す歪な異形化は見えない。 長く尖った耳に蝶を引き連れたどこか儚げな雰囲気は絵空事にでてくる妖精に近い。
        少女が言った同じという言葉を信じるのであれば、つまりは、後天的ではなく先天的に…汚染されていることになる。
        尤もそれが「汚染」というに相応しいかどうかは甚だ疑問である。
        思考の海に沈んでいるフロッセを静かに見守っていたが名を聞かれれば口を開く。
        「アフィクルルカ。」

        スリュヘイムでたまに噂に上る名前。 セリスウェティラが保護して(飼って)いる聖女とされる名前。 -- アフィクルルカ 2012-08-12 (日) 03:41:09
      • (下層で暮らしていた頃に聞いた名前だ。概ね下世話な噂であった)
        (曰く、希少価値の高い、美しい妖精を慰み者として飼っているだの)
        (曰く、聖女という箔をつけているだけの鍍金の置物だの)
        (曰く、全ては真実であり、彼女こそ予言の聖女として保護されているだの)

        アフィ、クルルカ。
        (ありふれたとは言い難い名前。我知らず、舌に乗せるにも緊張を要していた)
        (少女の上等な衣服や、手入れの行き届いたきめ細やかな肌や、艷やかに揺れる髪から、先の噂の人物が少女だということは真実味を増していて)
        (だが、何故)
        (何故そんな『聖女』が、人目を避け、調子の悪いのを推してこんなところに居るというのか)

        アフィクルルカさん、ですか。私は、
        ……私は、フロッセ・シュヴィムハオト。

        (一度目を逸らせば、しかし真実というのは容易に視界の外に追い遣る事も出来る。笑みを浮かべて自分の名を告げ、今はただの亜人同士として)
        こんな世相ですから。ちょっと、知り合いの所に匿ってもらっています
        -- フロッセ 2012-08-12 (日) 04:10:32
      • 問えば答えるかもしれないが、その可能性はとても低い。
        彼女がこんな場所にいること自体がおかしいことなのだ。
        ただの散歩ではあるまい。 何かしら裏がある。
        「フロッセ。」
        教えてもらった名前を同じように反復した。 世俗に疎いため出身家には聞き覚えは無かった。
        だが、だからこそ。僅かに笑みを浮かべて。
        「よろしく。」
        こんな世相というのは流石に分かった。 出歩き辛いし、人よりも長い耳が誰かに見られようものなら追い回されてとても面倒くさい。 殺すのも逃げるのも面倒くさい。
        「人間は嫌い。」
        「見つからないと、いい。」
        匿われているのなら少しは安全なのだろうか。 そう思いつつ心配の言葉をかけた。 -- アフィクルルカ 2012-08-12 (日) 04:23:45
      • はい、よろしくお願いします、アフィクルルカさん
        (きちんと、イメージした通りに笑えているかどうかが気になった。手を差し出して、言葉を交わして)
        心配して頂いてありがとうございます。でも、さすがにずっと、匿ってくれている方に迷惑をかけ通しっていうのも良くはないですから……近いうちに何処か別の場所へ引っ越そうとは思ってるんですよ?
        (安心させられる笑みを浮かべられているだろうか)

        (そうして、人間が嫌い、という言葉には曖昧な笑みになる。アフィクルルカが推測通りの人物であるならば、そう思うのも致し方無いとも思えたが)

        ……皆、怖いだけなんですよ。きっと。
        不幸になるのが自分なんじゃないか、一歩を踏み出せばそこは奈落なんじゃないかって……怯えているから。
        だから、自分たちと違う人に不幸を見出して、……良い人でも、そうなってしまうのは悲しいですね。
        (そっと目を伏せ、続ける)
        でも……そうでない人だって、きっと居ます。
        (皮肉な話だ。自らを捨てたこの街でそんな人間と出会い、故にこんな言葉を人嫌いの亜人にかけているのだから)

        いつか、あなたも。嫌いじゃないって言える人間に、出会えると良いですね
        -- フロッセ 2012-08-12 (日) 04:39:02
      • フロッセの少しぎこちない笑み。
        それは下卑た笑いや亜人を馬鹿にするものではなくて、そういった類とは別のもの。
        掛けるべき言葉が見つからなくてもどかしい。

        「……。 フロッセは優しい。 私はそうは思えない。」
        「人間は嫌い、大嫌い。」
        そう言って突っぱねるのが通常で、一番楽な方法。
        ただ目を伏せて続けるフロッセのために一言付け加えた。
        「ちょっとだけ考える。」
        その言葉を最後に背を向けた。 時間が無い。 体力も無い。 もういかなければ。
        「じゃあね。」
        またね、という言葉は知らなかったからそう祈りながら別れの言葉を告げた。
        話している間に体力は少しだけ回復した。 ガスマスクを付け直し深くフードを被って、少女は街の雑踏に消えていった。 -- アフィクルルカ 2012-08-12 (日) 07:57:11
  • - 224年 5月 スリュヘイム汚染公領、第一層状都市スリュヘイム中層 - -- 2012-08-02 (木) 00:04:49
    • 東夷と呼ばれる大爛帝国との戦争が長く続いている。戦時であるという事、その影響は戦地から遠く離れた此処スリュヘイムにも波及してきていた
      それはまるで、濁り水が肥沃な大地を穢していくかの如く。じわりじわりと、人心を荒ませ善良な市民を傲慢な者へと変えていく。或いは目覚めさせていく

      中層のとある辻、現状への不満のはけ口として暴行を加えられ、哀れな姿を晒す亜人族や東方出身の者は、治安が悪くなかったこの辺りでも見られるようになってきていた
      建物の間から細い手を伸ばし、若いゴーレム技師の裾を掴んだフード姿の女も、その例に漏れぬ弱者なのだろうか……
      一見して下級な売春婦とわかる、薄汚れた姿であった -- 2012-08-02 (木) 00:10:55
      • ……そこな、お方……匿って、下さい。何でも、なんでもします……命ばかりは……
        (哀れっぽい涙声で、息も絶え絶えに懇願する。情けない姿であった)
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 00:12:51
      • (ついに、中層でもこんな事になってきたか。それが一つきりの目で彼女を見た時の感想であった)
        (袖を掴まれ、それに対して警戒しなかったのは掴む手がよわよわしすぎたからだ)
        (正直、付き合っていられない。一人助ければまた一人…と増えかねないし、そんな事が出来るのは上層の貴族くらいであろう)
        (貴族はそんなことはけしてしないであろうが)
        (周囲に、似たような人が居ない事だけ確認。裾を丁寧に振り払うと、自分のフード付きの外套を脱ぎ、女に差し出した)
        …匿われる気があるなら、それで顔を隠してついてくるといい。それを持って逃げても咎めないよ。それなりにいい値段では売れるしね
        (今の彼に出来る譲歩はしてみた、後は相手の反応を見る。大かた、逃げるかと思っているが…) -- シュルス 2012-08-02 (木) 00:19:24
      • (半水妖の特徴的な耳状の器官を震わせ、顔を上げる。一見して魔術汚染による異形化と分かる肌の罅がシュルスの目に入るかも知れない)
        ありがとう、ございます……
        (正直な事を言えば。一人で何もかもから逃げるのは限界であった。何処へ逃げた所で新たに災難が振りかかるという事を受け入れられる程、彼女は強くは無かった)
        (だからこそ、差し出された外套を被りシュルスの背中に着いて行く姿勢を見せる。何をしても生き残りたいという気持ちと、どうなってもいいという気持ちが同時に湧き上がり、ある種の捨て鉢な行動に走らせていたのかも知れない)
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 00:24:47
      • …水妖か。知り合いの漁師は魚人ばかりだから久しぶりに見た
        (耳を見て何気なくそう呟くと、背を向ける。顔の事は気付いたがわざわざ言及しなかった)
        どういたしまして。亜人種はこの時期大変でしょうね
        (ガスマスクをせず、どうどうと顔を曝して歩いて行く姿は変人そのものだ。変人故に助けたのだと思えるくらいには。人通りの少ない道を選んで、シュルスの家の前まで来る) -- シュルス 2012-08-02 (木) 00:31:54
      • (水を向けられ、いくらか落ち着いたのか気弱な笑みを背に向けて)
        ……えぇ、特に私のような余所者は……
        (そうこうしている内に、彼の家に着く。小さくなりながら後ろから着いて入り、ほっと一息をついて)
        (何をされたとて、リンチにかけられて死ぬよりはマシだろう。そう胸の内で呟き、借りた外套を脱いで丁寧にたたみ)
        あの、本当に、ありがとうございました。お金はありませんが、お礼となる事ならなんでも──
        (そうしてやっと、自らを助けた男の顔を正面から見る。記憶の底から、何か蓋をしていたものが浮かび上がり、形を結んで)

        ──シュルス、くん、……?

        (時間が止まったように感じた)
        (雰囲気は、自らが知るものとは全く違った。眼帯なぞはしていなかった。だが、その声と顔は──)

        ……あ、ぁ、あぁ……厭……こんな、

        (当然、予測しておくべきだったのだ。故郷に戻れば意図せぬ再会の可能性が在るということを。だが、不意打ちで現れた過去は、あまりに唐突で、そして……今の自分の姿など、見られたく無いもので)
        (我知らず両手で顔を覆い、いやいやをするように頭を振る)
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 00:42:50
      • (家は広い。貴族には及ぶべくもないが、平民にしては破格の広さであろう)
        (最も、大半が作業場であるので人が住むのに快適かと言われれば悩む所であるが)
        (そして、知識のあるフロッセには、概ね工房の機能が分かる)
        (メインはゴーレムの生成とメンテナンス。オリハルコンの冶金。残りは錬金術のためのこまごまとした施設に倉庫であろう)
        (当然魔術院ほどではないが、これらも中々に高度な設備である)
        別に、今の貴女からさらに取る物はありませんよ、仕事の邪魔をしないでくれれば。座って休んでいていいです

        (自分を正面から見る顔を見返す。こちらには感慨は浮かばなかった。驚愕は耳から入る)
        今なんて…?
        (まだ、名乗っていないのに名前を呼ばれた。尋ねる口調ではない。明らかにこちらを知っている声に思わず)
        (苦悩するフロッセの様子に構わず、その両肩を強く掴んだ)

        僕の事を知っているんですか!?

        (肩を掴まれる強さと、その言葉。どちらが衝撃を与えるのかをシュルスは知らない) -- シュルス 2012-08-02 (木) 01:14:59
      • (悲哀と驚きに濡れた瞳が、シュルスの一つしか無い瞳を見る。彼もまた、驚愕に満ちた色で……それは最初、変わり果てた自分が誰なのか分からず、分かった時には哀れんでいるのかと思ったのだけれど)
        (続く言葉は、さらなる予想の埒外で)
        知っているんです、か……?

        (鸚鵡返しに呟いて、言葉の意味を咀嚼して)
        (現金なもので、人間狼狽えているときにより強い狼狽を見てしまうと意外に冷静さを取り戻すものであった。つまり、彼は)

        覚えて、いないの……?

        (美しく、歪んで罅割れた頬を一筋涙が伝う。それは何に対する涙なのか、もはや分からなくなっている)
        ……あ、痛っ……!
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 01:22:23
      • (藁をも掴む気分とはこういう事なのか)
        知っている事を教えて欲しい、一体僕はどこの誰で…!
        (覚えていない。いないから必死なのだと更に問い詰めようとした所で)
        (さすがに、流れる涙は目に入ったのか、慌てて手を離すと)
        すいません……
        (自分を落ち着けるように深呼吸し、こういった)
        今の僕は、217年より前の記憶がありません。名前だけは調べて掴みましたが -- シュルス 2012-08-02 (木) 01:28:36
      • ぁ……。
        (掴んでいた肩を離され、落ち着きを取り戻すまで呆然としたままで、男を見つめる。随分と変わってしまっているけれど、彼は、そう。私が幸せだった頃。その思い出の中に)

        ……うん。本当に、忘れてしまった、みたい……だね。
        (自然、口調はあの頃のものに戻る。かつての後輩に対する先輩としての口調。頭の片隅で、今更惨めだと言う声が聞こえた気もした。だけど、今はそれよりも)

        ……だいたい、十年前かな。私は魔術院で研究していた学生で。
        あなたは、新しく魔術院に入学してきた学生だった。私は、あなたが研究テーマを決めて本格的に学び始めるまでの暫くの間、学院の事とか、面倒を見るように教授に言われていて……
        (記憶は、驚くほどすらすらと再生された。蓋をしたと思っていたのに)

        ……おかしな話、だよね。その後私は魔術汚染による異形化で、最下層まで落とされて。魔術院も退学になったから、その後あなたがどうなったのかは分からないのだけれど……
        (と、そこまで話してようやく、彼が自分の事を忘れているなら名前も知らないであろうという事に気づき)
        ……私は、フロッセ・シュヴィムハオト。……思い出したりは、しないかな……シュルスくん。
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 01:40:13
      • (フロッセが落ち着きを取り戻すまでの間に、茶を入れて来る)
        (こういうものがさっと出て来る時点で、中々に裕福な暮らしをしているのは分かるかもしれない)

        魔術院の学生…なるほど
        貴女の後輩だったわけですね…どうもお世話になっていたようで(神妙な面持ちで、過去を簡単にメモにとっていく)
        …魔術汚染ですか。僕も人事ではありませんね(眼帯に軽く触れ) 異形化で学院追放は…(腑に落ちない顔をしていたが、そこは追及せずに口を止め)
        フロッセ・シュヴィムハオト
        (何度か、鸚鵡返しに呟いては見た物の…)
        …すいません、思い出せないみたいですね…昔の知り合いに会ってもこれか… -- シュルス 2012-08-02 (木) 01:49:22
      • (久しぶりに、本当に久しぶりに落ち着いて飲むお茶の味に目を細める。良い暮らしが出来ているのは良い事だと、単純にそう思った)
        (ごく短い間ではあったが、自分が面倒を見た学生がこのように魔術院で学んだ知識を活かしている、と言うのは。少し誇らしい気持ちと……今の惨めな自分との格差を女に感じさせて)
        (故に、自嘲の笑みを浮かべて語る)
        世話をしたと言っても大した事ではなかったし……それに、今の私は客にも困る、くだらない娼婦だから……
        本当は、あなたにこんな風になっている自分なんて、見られたくなかったの。……だから、なんていうか、その……
        (現実は、誰にも誇る事の出来ぬ暮らしを長く続け、その果てがかつての後輩に縋り付く姿か。あまりに惨めだった)
        (「覚えていられなくてよかった」と口にしそうになった事に、さらなる自己嫌悪を得て。俯き、癖となってしまったため息を吐いて)
        ……そう。早く記憶が、戻るといい……ね。

        (それきり、重苦しい沈黙が工房に下りる)
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 01:58:28
      • まあ、今僕は随分と魔術面では知識がしっかりしているようなので。基礎を教えて下さったならきっといい事だと思いますよ
        (感謝は装いではないが、あくまでの他人事の感謝だ…記憶と実感がないのだから、そうなるのも仕方ない)
        娼婦…か。形はどうあれ、生きていけているなら無駄ではないと思いますが…僕が言える立場でもないか
        (重い沈黙の中、さして重いと感じていないシュルスはこれ幸いと記憶を辿るが…芳しくなかった。思考を、現状に向ける)
        フロッセさん。尋ねる順序が大分変ってしまいましたが…これからどうされる予定で? 外が落ち着くのは、大分先になりそうですが… -- シュルス 2012-08-02 (木) 02:09:42
      • (そう、「生きてさえいれば」と。それだけを考え、生きてきた。生きてさえいれば……どうなるというのだろう)
        (最早人間扱いですらされないかも知れない。かと言って、どうにかして公領を出た所で明日をも分からぬ戦火は自らを焼くかも知れない)
        (いっそ焼かれるのならばまだマシであろうか。現実は、生き延びてさらに続く地獄への道と……)

        ……え、?

        (沈思から呼び戻され、戸惑ったような表情でシュルスの顔を見る。どちらにせよ、一時安全を得られた事は有りがたかったが……)
        ……そう、だね。私が此処に居れば、きっと迷惑を掛けてしまう事になると思うの。
        ……最下層ならまだ亜人族でも暮らしていけるだろうから、そっちに身を移すべきかな、って……
        (そして、落ちぶれた我が身をシュルスにこれ以上見られているのがつらいと言う理由もあるのだが)
        (とは言え、最下層で何の力も後ろ盾も無い女が一人で暮らすなどというのは、あまりにも不可能に思える事であったが)
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 02:20:44
      • (迷惑をかけてしまう…と言われれば可能性は否定できないが。続く言葉はさすがに、一応でも良識があれば眉をひそめた)
        最下層…?
        …それは文字通りの意味で「食われる」かもしれませんよ…?(冗談ではない。帝国と違い人を食う事等考えられない土地であっても…飢えが進めば別なのだ)
        さすがに、自殺しにいくようなものだと止めざるを得ません
        とりあえず一泊していってはどうでしょう。今後の事は明日考えてみるという事で、どうですか?
        (とりあえず断られにくいであろう無難な範囲での提案をしてみるのだった。打算も当然あったが) -- シュルス 2012-08-02 (木) 21:46:11
      • (記憶が無くても、心根の優しい所が変わるものじゃないんだな、と思い。ふと笑みを見せる。それはとても弱々しいものだったけれど)
        ……そう、ね。昔は、最下層でもなんとか暮らしていけたのだけど。
        確かに、今は……
        (何処に行こうが同じ事かも知れない、と思っているのは言わずにおいた。代わりに心に浮かべるのは打算。安寧を得るための、醜い駆け引き)
        ……それじゃあお言葉に甘えて。とりあえず、一晩お世話になってもいい、かな。

        (どの道、プライドなどというものは最早無いのだ。それならば、少しでも安楽な道を選ぶことを、誰が責められよう)
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 23:27:24
      • もうご存知でしょうけど。食糧事情が本当に不味いですからね…ただでさえ公国は保存食がほとんどなのに
        (溜息を吐きながら、茶を啜り)
        そうですね、何もしないと後ろめたいかもしれませんから。気が向いたら学院の昔話でも聞かせて下さい
        そうと決まれば寝床を決めないと…あ。フロッセさん、錬金術の知識はどの程度? -- シュルス 2012-08-02 (木) 23:34:55
      • 西ローディアも、段々厳しくなってきているみたいね……聞いた話では東の蛮族たちは、農地や人の住める場所を求めて侵略して来たようだからそちらを荒らすと言うことは無いのだろうけど……

        (カップに口をつけ、同じようにため息を一つ。その後に告げられた条件に首を傾げ、こくりと頷く)
        今の私の現状であの頃について語るのは少し、辛いといえば辛いけれど。でも、それぐらいで良いなら喜んで。

        (そうして錬金術に関して問われれば今度こそきょとんとした表情になり)
        えぇと……基礎はまぁ。私は魔石研究を専行していたから、地学とか、材料工学とか、その辺りにまたがった分野の方が強かったのだけど……
        -- フロッセ 2012-08-02 (木) 23:41:43
      • …どうでしょうね。彼らは水銀を武器として使ってるって話ですよ…毒性を理解して。西ローディアで食糧が取れなくなったらさすがに公国は…(首を振り)…考えても仕方ないですか
        すいませんね、嫌な話でしょうが…今は少しでも記憶を取り戻したいので。よろしくお願いします
        その分、滞在中は食事まで面倒見ますよ(安請け合いしてしまう。出来る程度には裕福なのだ)
        へぇ、魔石の研究ですか…過去と関係なく興味ありますね。と、基礎があるなら問題ありません
        錬金術用の設備や劇薬もあるので、危険物が何か分からない人には自由に行動させられないんですよ…その点は大丈夫そうですね
        その他何か、聞いておきたい事とかあればどうぞ(こちらから言うべき最低限は言ったはずなので、フロッセ側の要望などないか聞いた) -- シュルス 2012-08-02 (木) 23:53:52
      • ……そうね。或いは、水銀汚染の危険性を知っているからこちらに攻めてきた、と言うことも……
        (そこまで言って首を振り)考えても仕方のない事なのだけれど。どうせ、出来ることなんて何もないんだから……

        それは……(それは流石に遠慮する、とは言えなかった。何しろ客も取れなければ本当に生きていく手段を知らぬのだ)
        ……ごめん。ありがとう……
        (と、周りの機器を見渡す。実用一点張りとは言え随分立派なものが揃っているように見え……)
        ふふ。本当に記憶が戻っていないんだね。変な気分……昔のシュルス君なら、私にそんな事注意しようとしたりはしなかったと思うよ?
        (はらりと、花弁が散るかのような……自然だが、儚げな笑顔を浮かべて)
        うん、……大丈夫。聞きたいことは、無い、かな。
        -- フロッセ 2012-08-03 (金) 00:06:43
      • まあ、平民に出来る事はいかにやり過ごして生き残るかですね。早い所収まって欲しいものです
        (戦争自体をどうにかしようという意思はない。個人の意思も、自分の力も戦争に作用するもではないだろう)

        飢死を見過ごしても自殺させるのと変わりませんしねえ…
        …昔の僕はどうにも紳士的じゃなかったようですね。よかったのやら悪かったのやら(それを聞くと苦笑し)
        では、休める部屋に案内するのでそっちで。暇潰しは残念ながら学術書くらいしかないですが我慢して下さい
        (フロッセを普段自分が使っているベッドまで案内し、部屋の使い方だけ説明)(シュルスはどうするのか、と言われれば仕事が忙しいので、と仕事に戻っていってしまった。ともあれ、匿った初日に起きた事はこの程度)
        (フロッセに手を出そうとする事も無く、徹夜する勢いで仕事に勤しんでいたとか) -- シュルス 2012-08-03 (金) 00:19:18
  • - 224年 5月 スリュヘイム汚染公領、第一層状都市スリュヘイム -- 2012-07-31 (火) 03:47:23
    • 公国の兵列が帰還する。お世辞にも凱旋とは言えない、素人目にも解る程疲弊した姿で―
      疲弊といっても、元々死んでいる兵士にとって表情や足取りに違いがあるわけではない
      単純に、装備の欠損、損傷、そして虫食いのように開けられた欠員の数―アンデッドの行軍の関係上、「空きを判断して詰める」という動作を術者が仕込むのは負担が大きい―
      街灯に引っかかる新聞の記事には、「統一連合大勝!秘密兵器の威力」との文字が白々しくも踊るが -- 2012-07-31 (火) 03:54:15
      • (疲弊の色の濃い兵団を見て、あぁ矢張りと言う思いを得る。娼婦という仕事はコミュニケーションの職業でもある。雑多な噂話を聞く機会には事欠かない)
        (近頃のソレは、「果たしてバルトリア平原での戦いにおいて統一連合はプロパガンダ程の勝利を収めているのか」という疑問をフロッセに抱かせるには充分であった。東夷は見たこともないような兵器を扱い、風の様に戦場を駆けて中央へと浸透せんとしていたと言う)
        (その答えが眼前の、歯抜けのように欠けた不死兵の列であるというのなら、フロッセは充分に納得が出来た)

        (尤も、安心を得られる類の納得ではない。むしろいつこの国まで戦火が押し寄せてくるのか知れないと言う、真綿で首を締められるような恐怖が胃の腑から湧いてくる)

        (と、新聞の見出しに視線を留める)……秘密兵器?
        -- フロッセ 2012-07-31 (火) 04:04:25
      • 「心配は要らぬ、公国の民よ!」
        どことなく沈んだ雰囲気に響く声は、特に重装の鎧を着込んだ一団の先頭より発せられていた
        「儂は見た、混沌の最前線に駆けつける巨人騎士らの勇姿!彼の者こそは統一王朝の正統たる後継統一連合が騎士!」
        磨き上げられた鎧に固められた歩兵はアンデッドなのだろう、歩行にも支障を来たしかねない重装備に文句も言わず
        「悪意の侵略へ抗する意思は結実し力となるのだ!」
        そう、鈍い動きにならざるを得ないのだ 人が纏える重量でない以上 だが、馬上の騎士だけは違う―熱の入った、軍楽隊の指揮者のごとく雄弁に舞い、語る
        ガスマスクに絢爛な鎧は公国軍の広報戦略によるものだろう…「統一王朝の騎士」エルネスト・フォン・レーヴェンフックは違和感さえ伴ってそこに居た -- レーヴェンフック 2012-07-31 (火) 04:07:17
      • (喝破するような勇壮さを伴った声に思わず顔を上げる。重装の誇り高き騎士。統一王朝からの守り人)
        (公領に来てから新聞で、詩人の歌で、或いは睦言の後の枕語りで何度か聞いたその名高い騎士が熱弁を振るっている)

        ……あれ……?

        (話の内容事態はどうでもいいと言えばどうでもいい内容であった。軍事的な広告塔なのだ、と言う認識は、特に下層民には根強く在るし外の世界を見てきたフロッセにとってもその認識に異論を挟むつもりは無かった)
        (だが……かつてこの上の魔術院で学んだ彼女は、首を傾げる。アンデッドである筈の兵士が……否、生身の人間であっても、あれ程の重量が有りそうな鎧を着て、あのように軽快に動けるものであろうか、と)

        ……ミスリルやオリハルコンを使っても難しいし……魔石の応用にしても、あれ程のものを動かす出力は未だ出せてないと思うんだけれど……
        (自然、学者としての自分を思い出し苦笑しつつも、興味深げにレーヴェンフックの挙動を見つめる)
        -- フロッセ 2012-07-31 (火) 04:17:19
      • 「そして、新たに公国の民となった人々よ!」
        魔術院において、主力である屍兵の研究・改良は盛んである…それこそ、様々な方策による強化が試みられてきたが、一足飛びに実用化したのだろうか…?
        そもそも「意識のあるアンデッド」は希少、ほぼ皆無と言っていい例だ その特殊性に起因するものか?
        だが騎士の馬も同程度、正気を疑う重装である。事も無げに歩き、時には走る 騎馬と騎士、確かに広告塔となるだけの派手さを備えたユニットだ
        「公国は、公国法は、そして統一王朝の騎士は!諸君を歓迎する」
        捧げ筒、の歩兵らと動きを合わせて 行列は次の区画へ進んでいった
        「民の力、儂に貸していただきたい!」 -- レーヴェンフック 2012-07-31 (火) 04:38:10
      • (何事にも例外は存在するとは言うが、その例外を様々な条件を排除することにより再現し、説明付けるのは学問の一側面である。もちろん上の魔術院でもレーヴェンフックについて、彼を如何に有用に利用するかについての研究は進んでいるのだろうが)
        ……追い出されてからの技術革新が進んだ、とかでしょうか。
        (それにしても妙な違和感を覚える騎士だ。大時代的な物言いと言い、手足のように操るこれもまた重装の馬と言い……)

        (周りの市民達は沸き立って応える。公国法万歳、統一王朝の守り人万歳、と。その流れには馴染めず、漠然とした不安を感じつつも兵列を見送る)
        (気に掛かる事は多くある。彼のように特異な英雄を演出し、「新兵器」とやらを持ち出さねばならぬ戦争。果たしてこのスリュヘイム汚染公領も、安全と言えるのかどうか……)
        (自分のような一介の娼婦がそれを憂いても詮無い事ではあるが、湧き上がる不安はどうしようもない事であった)
        (自身を守るように腕で身体を抱き、ただ一人勇壮なレーヴェンフックの後ろ姿をずっと見送った)
        -- フロッセ 2012-07-31 (火) 04:49:45
  • - 224年 4月 スリュヘイム汚染公領、第一層状都市スリュヘイム - -- 2012-07-31 (火) 03:02:37
    • 2月より始まったバルトリア平原での統一連合と大爛帝国との間の戦い。
      その戦火はローディア西部難民保護区へと向かう難民の動きを否応なく速めることとなった。戦火で焼け出された彼らは、再びその最中に放り込まれる事を厭い、一刻も早く戦場から遠くへと離れたいと思ったのである。
      フロッセとてその例外では無かった。しかし、いつまでも難民と行動を同じくする訳には行かない……ただでさえ故郷を追われ、長い旅路の道程で彼らの気は立ち、細かな諍いも多くなっている。
      そんな最中で自らの異形が知れれば、自身がそのはけ口とされかねない…… -- 2012-07-31 (火) 03:07:23
      • そうして彼女が選んだのは、西ローディア中部より南下し、昨年より入国基準が引き下げられたスリュヘイム汚染公領へと入る事であった。
        幸いにして途中大きなトラブルも無く、3月の下旬にはスリュヘイム入りし旅を続けて来た。

        そうして、4月。
        彼女は今、自らを捨てた象徴と言っても良い第一層状都市を臨んでいる -- 2012-07-31 (火) 03:18:23
      • (心境は、複雑だった。戻ってきたと言う感慨と、戻ってきてしまったと言う後悔)
        (此処は、総てが有った幸福な頃の思い出と、総てを失った切欠の両方が存在する街でもあるのだ)

        (つと、国境付近で手に入れた粗末なガスマスクに指を触れさせる。公領でも無ければお目にかかる事も少ない異様な風体だが、周りの住民たちは違和感を覚える事も無く顔を隠して往来を歩いている)
        (人の間に紛れるには丁度良いのかも知れない。だけど……)

        (だけど、やはり考えてしまう。魔術汚染はこんなものでは防げない。ソレを知っている私が何故、異形化して)
        (ソレを知らず、無邪気にもガスマスクに依存する彼らが、健康に暮らしているのか)

        (言っても詮無い事であり、醜い嫉妬だという自覚はある。けれど、こうして戻ってくると不幸に見舞われた事に、何故、と言う思いを得てしまうのだ)
        -- フロッセ 2012-07-31 (火) 03:26:44
      • (下層を行き交う様々な人・亜人・死者を見ながら、そんな事を考えていると意図せずにため息が漏れた)
        (戦場は今や遠く。この国においては未だ脅威は魔術汚染のみと言っても差し支えは無いのだろう。事実、街行く子供は統一連合に参画したスリュヘイムの兵団が、東の蛮族相手に如何に勇敢に戦っているかということを熱っぽく語っている)

        (……実際に戦火に巻き込まれれば、そんな事考える余裕なんて無いのに。)
        (いっそ彼らも何かを失ってみればいいのだ。自分のように、)

        (と、其処まで考えて、自らの薄汚い想いに打ちのめされた。自分は、こんなにも……心まで薄汚れてしまったのか、と。)
        -- フロッセ 2012-07-31 (火) 03:42:08
      • (魔術院を追い出され、家族から、そして国からも見捨てられて、十年が経つ。その間に、意に沿わぬ行いは数え切れない程にしてきた。他人を傷つけたいとは思わなかったが、傷つく他人を見てみぬふりをして生き延びた事も一度や二度ではない)
        (そうまでして生き延びたかったのは、単に死ぬ勇気が無かったからだ)

        (死ぬのは怖い。死ぬのは嫌だ)
        (何のために生きてきたのかも分からず、虫けらのように死ぬのは嫌だ)

        (……気付けば、下層に落とされてから暫く、客を取っていた辻に居る。そう、死ぬのが嫌なら……生きるために出来ることをするしか無いのだ)
        そこの殿方……ちょんの間、哀れな夜鷹に夢を見させては、頂けませんか……?
        (フロッセは道を行く労働者に声を掛ける。媚びた笑顔で擦り切れた心を覆い隠して)
        -- フロッセ 2012-07-31 (火) 15:28:13
  • - 224年 1月 旧東ローディア国境線付近の街 - -- 2012-07-28 (土) 02:08:20
    • この月、先の大爛帝国による西侵とそれに伴う東ローディア首都ゾドの無血開城により、多くの兵と民が難民となり西ローディアに押し寄せていた。
      女も例外ではない。だが、フードの下の表情は葬列めいた難民の列において、周りの絶望に打ちひしがれたものとは少々趣が異なっていた。
      見るものが見れば解したであろう。女の表情は何処かしら、周りの難民と比して絶望の色は薄い。

      ……否、薄いのではない。諦観に慣れきった者特有の、より深く瘡蓋のように乾いた絶望がそこにあった。 -- 2012-07-28 (土) 02:19:53
      • 誰も彼もが我先に、国境線から遠ざかろうと足早に進む列の群れ。
        神なる視点を持つ者が見れば、その様はまさに神聖ローディア共和国という国を弔う葬列のようにも映るのかも知れない。

        やがて、流浪の身となった難民の列は西ローディアの街へと辿り着く。幸いにして西ローディアの王は、戦線から最も遠い西部に難民居留区を置くと言う。その施策を受け、街々で炊き出しも行われるのであろう。

        街に入り、恐らく大半がこのような長い距離を旅した事も初めてであろう──そして、その旅は西ローディア西部に辿り着くまで当面終わらないのであろう──亡国の民を尻目に女は列を離れた。
        最終的には食糧の配給に与るつもりでは有ったが、それよりも前に『仕事』の為の下調べをせねばならない。 -- 2012-07-28 (土) 02:45:15
      • 人通りの少ない、しかし皆無ではない。そんな道を器用に選び、歩を進めつつ。女は、此処数ヶ月を思い出す。
        東ローディアの街々で春を売り、転々として来たが戦火に巻き込まれなかったのは正しく僥倖だった。
        長い放浪と苦労が彼女を臆病にさせ、それ故に生き残ったとも言えるのかも知れない。
        彼女が去って数週間後、帝国の軍により「占領」された街も少なくはない。……ともあれ、生き残った。生きて、まだ安全と言える西ローディアの領内に入れた。
        我知らず安堵の息を吐き、建物の間を縫うように走る狭い通りを抜けると、少々他の辻とは毛色の違う通りが目に入った。
        倦怠感と退廃的なエネルギー。それなりの規模の街であれば、大抵色街と言うのは存在する。 -- 2012-07-28 (土) 03:23:20
      • 女は、注意深く辻を行き交う人を見る。時は夕暮れ。花を買いに来たのであろう客もちらほらと見える。
        「……。」
        国境線が近い事もあってか、帯剣している兵士が多い。
        傭兵……西ローディアに雇われた黒騎士も多いが、高給が出ている彼らはこぞって立派な娼館へと繰り出しているようだ。
        小競り合いの頻発する地域から遠ざかったとは言え、此処は未だ国境近く。有用な兵力を配置しているのだろう。
        ……してみると。
        女は視線を巡らせる。「客」としての狙い目は、恨めしそうな顔で黒騎士を見ている兵。統一された軽装の鎧に身を包んだ、この街の守備兵か。 -- 2012-07-28 (土) 03:38:17
      • ……とは言え。女は何度目かになるため息をついてフードの下の左頬を撫でる。首筋から頬を走る、割れた肌。
        異形を抱えた女を抱こうという男は、今までの経験から余程拘りが無いか、或いは女に飢えているかのどちらかであった。
        端金で買うにしても、彼らにとっては魔術汚染によって異形化した女はあまりにも心理的な忌避感が高い──例えそれが無理解による偏見が生み出した、幻想だったとしても。
        実際のところ、過去魔術院で学んだ女は知っている。「ソレ」はどうしようもないものではあるが、他者に伝染するかと言えば大抵の識者は首を捻るということを。
        しかし。スリュヘイム公領の魔術汚染と言うのは、事情を知らない者──否、知っている者ですら、強い嫌悪を抱かれる。抱かれて当然、と言う意識がある。
        現実の前にそのような理不尽に異を唱えても、どうにもならない。そのことを、女は心の底から知っている。 -- 2012-07-28 (土) 03:54:23
      • ため息。陰鬱な沈思の後、彼女はいつもそうする。理不尽であったとしても、今自分は生きている。そうであるなら、生きるために為すべき事をしよう。
        何度唱えたか分からないそんな言葉を思い浮かべ、女は色街を横切って歩く。極力、目立たぬように。
        当面は、「客」を招いて問題の無い宿を見つけて、自身も旅の疲れを癒したい。
        下調べを終えた女は、街の片隅の猥雑な風景に溶け込むように歩みを進める。
        今日は休んで、明日は客を取り、その先は……そんな先の事は、彼女には分からなかった。 -- 2012-07-28 (土) 04:01:54
  • セックス!! -- 2012-07-27 (金) 21:33:31
    • そこな殿方、ちょんの間の夢を買っては頂けませんか……?
      (かけられた声に応えて客引きの言を吐くも、聞き咎めるものは居らず。フードの奥で長年の癖となった諦念のため息を吐いた)
      -- フロッセ 2012-07-27 (金) 21:40:48

Last-modified: 2012-09-26 Wed 10:51:21 JST (4229d)