夜間飛行

  • 瓦礫城 -- 2014-04-13 (日) 22:35:18
    • (ネオンサイン、石畳、木造建築、近代化された街路)
      (異なる風景が雑多に存在する瓦礫の城は、聖杯戦争の関係者が潜む穴倉としては、十分に候補に挙がる)
      (特に正体を隠匿しようと目論むものたちにとっては顕著だった)
      (打雲紙のキャスターとメルセフォーネは、自らのマスターが夢で出逢った"敵"が瓦礫城に居を構えているという情報を得、歪な積木の街へと足を踏み入れて)
      (運命が呼んだか、仇敵とも呼べる存在に邂逅する)

      あーあーあー、見つかってしまったよ。
      このままトンズラ決めこむ俺の計画がパーになったじゃねえか、どうしてくれるんだ?
      (出逢ったのは以前メルセフォーネをかどわかし、襲おうと目論んだ人物)
      (マスターでも、サーヴァントでもない使い魔という推論を立てられていたそれは、困ったように首を傾ける)
      (そして、明暗を思いついたように、やけに友好的に話し掛けてきた)
      なあ、取引しようぜ。
      一人のサーヴァントの情報と本拠地を教えてやる。その代わりに私を見逃せ。
      僕もね、この辺りが潮時だと思ってるんですよ。
      奴の影武者として仕立てられて動いたはいいが、いい加減付き合う義理もないんでね。
      確かに俺はゴーレムさ。命令を忠実に遂行してくたばるだけの、哀れな道化。
      そんな運命真っ平なんだよ。俺だってなあ、本当は、本当は……。
      (震える拳に力が籠る。以前遭った時とは異なる、真摯な面持がそこにはあった)

      お前たちをあんな目に遭わせたくなかったんだ!
      指令を与えられて、従うしかなかった! 俺も犠牲者さ! 自分の手を汚そうとしない、椅子にふんぞり返ったあいつの!
      だからお前たちに託すしかない。俺じゃ、あいつに牙を剥くことができないんだからな。 -- 偽のキャスター 2014-04-13 (日) 22:35:31
      • (《土地勘》がはたらかない。ここは、酒場の街とは異質な場所のようで、一際奇妙な文化がぶち建てられているらしい)
        (酸鼻たる臭気の立ち込める中にメルセフォーネを歩かせるのは気後れしたが、彼女は黙ってついて来てくれる)
        (伊達に修羅場は潜っていないということか、時折見せる彼女の逞しさには感心してしまう)
        (ビルが林立する町並みはコンクリートジャングル、ならばここは言うなればコンクリートの掃き溜めである)
        (急勾配の階段に、脈絡のな行き詰まり。迷うな、というほうが無茶な話で、景色が入れ代わり立ち代わりして目まぐるしく変わる)
        (困ったキャスターは、岐路の選択を主人に任せた。ここは左、ここは右。階段を登って隣の建物に入り通り抜けて向こう側へ。進んでいく)
        (すると)
        (行き当たる。見覚えのある人影である。ネオンに焼きついた幻影ではなく、確かにそれは、自分が絶命寸前まで引き裂いたその者だった)

        それは失敬?
        (メルセフォーネには、当初の予定通り《コンシール》でこの場所から隔絶した空間に避難して貰う。準備さえできていれば、絶対不可侵の空間を作ることも容易い)
        (令呪の効力は及ばなくなるが、以前のように闇討ちを仕掛けられる心配もなくなる)
        (道筋から、瓦礫城特有の構造も頭に入れる。身構え、あたりを《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》でよく観察しながら、“偽のキャスターの”申開きを聞く)
        へぇ。(相槌を律儀に返しながら進む話の内容を解釈してみると、なるほど理屈は通っている。心情もまた、理解ができる)

        キミの存在については、概ねこちらが予測した通りのモノだったようだね。僕の宝具の解析とも一致する。
        (善意を、絆されないよう細心の注意を払った。微笑みを浮かべながらも、猜疑心で頭を意識して満たしてゆく)
        思い返せば、キミはメルセフォーネを執拗に嬲ろうとせず、一突きで絶命させようとした。合理的で、また、過分な悪意を感じさせない。
        ……できれば避けたい戦い、なんてものは。わかるよ。本当にね。まァ仕方のない事情ってモノがあったんだろう。信じよう
        わかるさ。“聖杯戦争”だからね。この、終盤も近づいた戦いで、情報アドバンテージを得られるのも悪くない。

        で、さ。……ドウやらキミのご主人様は随分狡猾なお方のようだけど。そんなキミを見逃してくれるのかな? トンズラするにしても、どこへ行こうと言うのカナ?
        ……見てんじゃないの、この遣り取り、全部。キミはまだ、“道化”を続けてるんじゃないかって。すまないが、そう思っちゃうんだよね。どうしても。
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-13 (日) 23:11:28
      • (至極冷静な、現状を分析した打雲紙のキャスターの言葉は、理に叶うこと)
        (騙し打ち闇討ち、洗脳、無関係な多数の一般人を巻き込んだ戦闘など、罪状は数多い)
        (打雲紙の知る人型のゴーレムの活動は、ほんの一端に過ぎない)
        (しかし彼が疑いを持つには、交わった時間、マスターに何が起こったか顧みれば。十分だった)

        俺はな。
        (ふう、と大きな息を吐く。諦めたような悟ったような、薄い半眼を開いた状態で)
        (光科学のスモッグに覆われた外に輝いているはずの太陽の光を、享受した)

        (あの時間という流れから一切切り離されて感じる静謐な工房で目覚め)
        (血に塗れ、泥を啜り、幾度となく傷ついてきた)
        (何のために? 決まっている)
        (下された「この戦争に勝利しろ」という唯一無二の至上命令を遂行するために)
        (道具には喜びも悲しみも必要ない)
        (正に『命令を忠実に遂行してくたばるだけ』の歴史をなぞるに終始すればいい)
        (そこに疑問を持つ余地はなかったし、疑問を持って反逆するには、余りにも偽のキャスターは現実主義でありすぎた)
        (打雲紙のキャスターに語った言葉全てが嘘ではない)
        (事実自分のマスターと、創造主であるキャスターを自称するサーヴァントの情報を与えてもよかったのだ)
        (自らの主を戦地に赴かせることが、無数に点在する解法のうち最良の策であるのだから)
        (そうしなかった理由は―)

        そういえば、お前のこと嫌いだったんだわ。
        (高笑いがビルの谷間に反響する。交渉は決裂した。否、最初から交渉の余地など、なかったのかもしれない)
        キャスタァアアアアアアアアアアアアアア!
        (合図に呼応し、大気が氷結を始める)
        (発生した冷気が地表を、建築物の壁を伝い、標的へと向かって収束した)
        (その中心に座するのは打雲紙のキャスター。命までの導火線は短く、回避を許さず無数の魔力の弾丸が打ち込まれる)
        予め瓦礫城での戦いを想定して起爆式の魔術を仕込んであったんだよ!
        テメーらが来てくれるとは好都合だったぜ! -- 偽のキャスター 2014-04-14 (月) 00:00:50
      • (“本性を表す”とはなんと陳腐な言葉だろう。ただ表に出ていなかっただけ。肌一枚の下に、隠し切れないほど醜悪な魂が満ちていたのに)
        (「溝鼠のようだ」キャスターは思った。善良な彼らしからぬ、強い、否定的な言葉を心に浮かべた。彼自身もそれに驚き、胸を押さえる)
        (それだけで、収まるはずもない。苛立ちが沸々と湧いて出る)
        (この、強い嫌悪感の正体を突き止めることができない。口元を苦く歪めると、舌先が勝手に言葉を紡ぎだす)
        僕も、嫌いだ。

        (煤けた小便臭い壁を冷気が走る。息も吐かせず術式は展開し、全天を包囲する魔法弾が放たれる)
        (避ける隙間はないように思える。彼は、一瞬の間に魔力を集中し、一つの紙飛行機を折り出した)
        空まで届く平面位相幾何学(アンフルフィルド・ウィッシュ)》。
        ニンブル・ダガー。(紙飛行機は、三角形のシルエット)
        八次、『水星』の魔法陣【敗の面】《ロブマインド》、また、【盛の面】《クイック》。

        シュート!!
        (超高速で発進した紙飛行機は、彼の周囲をごく小さな円を描きつつ旋回する)
        (魔力の弾丸の一つ、一つまでもをその機体は受け止めた)

        キミは選択を誤っている。僕が“キャスター”だと識っているのならばなおさらのこと。
        ……力の違いを見せてやる。

        (英霊と、英霊に創られた被造物とでは、魔力量に絶対的差がある。歴然とした魔力差を押し切り、圧殺することは不可能)
        (魔力とはうつろいやすい力である。指先一つで、炎にも氷にも、紙にもなる。不安定で、どうしようもなく、気紛れなのだ)
        (“ニンブル・ダガー”は、冷気の陣による弾丸を浴びたにもかかわらず健在であった)
        (それどころか、そこに篭められた圧倒的な魔力は攻撃を粉砕し魔力へ回帰させ、それを吸収せしめた)
        (鈍い振動音のようなものを響かしている“ニンブルダガー”には何重にも増幅された魔力が、蓄えられている)

        (“ニンブルダガー”は旋回を終えると彼の手元へ戻った)陣の書き換え。
        十二次、『海王星』の魔法陣【興の面】《フリーズ》、七次、『金星』の魔法陣同じく【興の面】《セパレート》。

        離陸決心速度強制超過装置(ワン・ウェイ・トリップ・キャトーバー)》、セット。
        (中空に結界がレールのように展開される。そこへ紙飛行機が据えられる。ここまでの工程は刹那の間に終わり、狙いが定められた)
        (《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》が、動作をつぶさに観測し、得られた結果から微修正を行う)
        (《観天望気》があたりの空気の流れを察知する。冷気から、流れに変動が生じている。その冷気による気流をも利用し、不規則な軌道で仕掛ける)

        ──────遥か雲上より還る雹嵐(ヘイルストーム・カムズ・アラウンド・ゴーズ・アラウンド)

        シュートォォ!!!

        (射出された“ニンブル・ダガー”は《セパレイト》の魔法効果で、2つ、4つ、8つと鼠算式に増えて前方へ突貫する)
        (機体は氷結し、余波で水を撒いたように瓦礫城の構造に霜を立たせ、絶対停止の温度をその表面に纏わせながら、尋常を遥かに超越した速度で目標へ迫る)
        (吐かれた唾は、何十倍にも膨らんだ殺意を乗せて、偽のキャスターへ降り注ぐ!!)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-14 (月) 00:46:20
      • (正面から相対しての勝ち目がない以上、選択肢は奇襲しかなかった)
        (所詮はサーヴァントにも、もしかするとマスターの歯牙にもかからない使い魔が対等に戦おうとすることが、そもそもの誤り)
        (彼はこれまで水面下での活動を続けてきたし、物臭な主と異なり自由に動ける先兵を失うことは戦略上重大な損失だと理解していた)
        (危険に晒されない立ち回りを捨て、相手を焚きつけて戦闘を仕掛けたことは、命令にすら反する背信行為)
        (しかしながら、抑えきれなかったのだ)
        (妙な自信に溢れた、涼しさを絶やさないその頬骨のこけたなまっちょろい顔が)
        (どういう趣味か神経を疑う、前衛的なガラス細工の彫られた眼鏡が)
        (最高のタイミングで横合いから殴りつけてくる空気を読まない英雄然とした態度が)
        (キャスターという伊達男の骨子から腿肉もヒレ肉も、あらゆる部分において)
        (不快さを掻き立て、心をささくれ立たせ、本筋から外れた戦いへと誘った)

        (打雲紙のキャスターの繊細な指で織られる式神は、絶対的な死の象徴だった)
        (音速の壁に迫る紙飛行機を防ぐ術などありはしない)
        (編隊を組んだ紙飛行機たちは、繰る術者の意識の昂りのままに、得物を食み、啄ばんだ)
        (四肢が剥ぎ取られ、頭部までもが半分を削られてなおも、偽のキャスターは舌を突き出して笑っていた)
        (いつまでも、いつまでも)

        (笑わずにはいられない)
        (少々不本意ではあったが、どんな結果に終わっても、最終的なオーダーは全うしたと言える)
        (「この戦争に勝利しろ」)
        (それは偽のキャスターが受諾した任務)
        (同時に創造主が、そのマスターから与えられた命題)

        ああ、勝利してやるとも。
        (嬲られ続け顎と歯だけが残った状態でも、何故だかその言葉は発音できた)
        お前を倒して、だ。クソメガネ。
        (魔力の結合が解かれ、人の形に似せて保っていた偽装が解除される)
        (後に残ったのは人間の無残な死体でなく、バラバラに砕氷された青白い冷気を漂わせる結晶だった) -- 偽のキャスター 2014-04-14 (月) 22:10:57
      • (偽のキャスターが抱く敵意は至極真っ当なものだ)
        (しかし、打雲紙たるキャスターの抱く敵意は正体が不明瞭で、彼自身もその感情に戸惑っている)
        (主人を危険に晒した、という怒りは彼自身に向いている。「“聖杯戦争”だからね」先程に述べたその言葉は、全てを肯定する)
        (喩え獣のように形振り構わずそれを求めようと、手に入れれば、願いは叶う。その生存競争に参加する以上、闇討ちはされるほうが悪い)
        (敵意を向けられたから、それと同じ分だけの敵意を返そうとしてしまうのか。有力説だが、それでも違和感を拭い切れない)
        (「なんでこんなに、嫌な気持ちになるんだ……!!」)

        (紙飛行機の一群が、偽のキャスターを打ち砕いてもこの気持ちは消えない)
        (冷えた空気を吸い込み、大きく溜息をつく。瓦礫城は、その姿を“多少”酷くしただけだ。天気の移り変わりのようなものだ。砕かれて地形が変わる位は茶飯事だろう)
        (《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》で、凝結した水蒸気の煙を透かし、確認をする)
        (姿を捉える前に、声が届く。人の形をしていない、口先だけが残り散り散りのバラバラになった姿が語りかける)
        ……人を模して、いたのか。
        (ここに来てようやく、嫌悪感の正体を掴んだ)
        (彼自身の出生に由来するものだ。人造人間たる“アートマン=K5・テメノス”もとい“カー・ファイン”は、偽のキャスターの存在意義そのものに胸糞悪さを感じていた)
        (人造生命を道具として扱い、自らの手足とすること。偽のキャスターが命じられた任務の向こうに居る、“椅子にふんぞり返ったあいつ”への激しき嫌悪)
        (人の形をして造られ、人として必死に生き、人として一生を全うした彼は、それを見て苛ついたのだ)

        じゃあ僕は敗北するってコトか。それは、できない。……絶対に、できない。
        特にキミには、負けたくないんだ。
        (身構える。氷のような結晶の正体が掴めない。蒼白の冷気が届き、肌に触れる。死神に触れられたかのような、怖気が走る)
        (両掌に白紙を生み出す)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-14 (月) 23:16:29
      • (青結晶の正体は単なる氷塊に過ぎない)
        (魔力で生み出した氷を魔力で圧縮し凝固させた、ごく初歩的な魔法)
        (駆け出しの魔術師でも少し訓練すれば扱えるありきたりな構成術を打雲紙のキャスターが畏れる理由は、けしてありはしない)
        (それでいてキャスターは危機感を抱いている)
        (死神の鎌か。冥府の弓矢か。処刑人の斧か)
        (不可視の魔霧の正体は、何か)

        (「優秀な魔術師とはどんな者か」という問いは、しばしば暇を持て余した専門家たちの間で話題になる)
        (現在ではほぼ統一された見解が出されており、大抵「より強度の高い魔力を扱えるもの」との回答に落ちつく)
        (魔法とは心の強さを映す鏡)
        (年齢に応じて魔力は強まり、自らを成長させる人生経験を得てより成熟する)
        (だから魔力は一生涯で衰えることなく、年齢に比例してどんどん右肩上がりのグラフになる)
        (極稀に少年少女の多感な時期の方が強大な魔力を持っている人間もいるが、今は割愛する)

        (キャスターの肌を刺す魔力は、ゴーレムの体内に押し込められていた残滓)
        (人型の金型に隠れて露呈することのなかった生の魔力は、肌の上澄みを撫でる僅かだけでも悪寒を伴う)
        (地上が魔界に変貌したかと錯覚する瘴気が漂う空間において、防衛本能に突き動かされたキャスターの過剰な反応は、正しい)
        (どんなサーヴァントがゴーレムを創ったか、最低限の接触で十二分に伺い知れた)
        (キャスターの警戒心が一層強まった時には)

        (既に、凍てついた時計の針は次の段階へ跳んでいた)

        (いつの間に敷き詰められたのか、天蓋を覆う無数の氷の矢がキャスターへ降り注ぐ)
        (どしゃぶりの雨粒を全て置き換えたらこうにでもなるのか、一面を隙間なく埋めて、乾いたキャスターの体を満たすように、深々と)
        (しんしんと。ふかぶかと)
        (矢がキャスターの体を貫いてゆく)
        (その一本一本が禍々しさを纏っている。先程肌に染みて感じた怖気が、直接抱擁してくる)
        (舞台の仕掛け人を探す彼は、確かにその瞳に捉えた)

        (視線の先に、一人の女が佇んでいる様を)
        (黒衣に身を包み、多国籍に身を置く魔術師らしく何処の流行と特定できない風の頭髪と、黒い鋼のような髪色を携えて)
        (女は無感情な眼で、ただ惨状に身を晒すキャスターを眺めていた)
        (嘲笑するわけでもなく)
        (怒りに震えるわけでもなく)
        (慈しむわけでもなく)
        (女の時間そのものが止まっているのか錯覚されるほどに) -- 時守のキャスター 2014-04-15 (火) 00:19:31
      • (間もなく)

        (エレベーターが地階へ沈む時のような、浮遊感が辺り一帯に満ちて)
        (気づく。見上げれば、頭上一面に氷の矢が据えられていた)
        (張り巡らしたキャスターの警戒心に悟られず、これだけ莫大な魔力を、“一瞬にして”展開する)
        (冷にして湿たる水のエレメントの親類たる氷は、全ての生命活動を停止させる、死の冷気を伴っている)
        (「馬鹿げてる」)
        (世界に遍く満ちる法則を捩じ曲げ、己の望む法則を押し通す。ゆえに、“魔法”である)
        (それは法外のものである)
        (魔法の法を逸脱した、信じられないほど強大で禍々しい魔力が奔流となり打ち寄せる)
        (英霊とて、許容量はある。大量の水をいちどきに流せば、水栓は壊れる。目の前の光景は幻想ではないと観測結果が告げていた)

        《プロテクション》!!!

        (右手の紙で頭を、左手の紙で心臓を防護する。その他の全部位が氷の鏃で撃ち貫かれた)
        (瓦礫城の地面に彼は縫い留められる。四肢が動かなくなった。痛みはない。傷口は氷結し、凍傷を通り越して神経を砕いていた)
        (静かに、冷気が染みわたる)

        (現状を上手く認識することができない。恐らくは“してやられた”のだろうが、あまりに突拍子なく決着がついてしまったためか、心が呆然として立ち直らない)
        (彼は、無意識的にあたりを見回す。攻撃を逃れた思考までも氷付き、鈍っている。だが彼の本能は、このまま憮然として敗北を認めることをしなかった)
        (そして、見つける。瓦礫城の壁に映る、影のような女が居る。のっぺりとした表情を貼り付けて、彫像のように佇んでいる)
        (魔術師は、装いである程度の流派がわかるものだ。妖精使いならば、それを宿す宝石を多く所持するし、魔女はハーブの香りを漂わせる)
        (その女は、現代魔術師とも、混沌魔術師とも、捉えがたい服装をしている。“氷”の元素に特化していることだけが辛うじて解った)

        (空気まで凍りつかせる、冷徹な瞳だった。身動ぎもしない。なのに、予測される何もかもを同時に仕掛けられるような錯覚があった)
        (「危険だ」)
        (嫌悪感は、忌避感に変わる。忌避感は、恐怖心に変わる。恐怖心は、そこから、怯えに変わろうとしていた)
        (先程の“業”を見れば、こちらも迂闊には行動がとれない。感情を押し殺し、ここで、死なぬために、状況を脱して打ち勝つために、じっと、見つめる)
        ……キミが、黒幕か。
        (不意に口を衝いて出る、虚勢じみた言葉。偽のキャスターに感傷を抱いたわけではない。ただ、言わずにはおれなかった)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-15 (火) 01:31:39
      • (未だ勝機を失せず機を伺う熱の篭るキャスターに対し、女はやはり鉄面皮で平坦な感情を保ったままだった)
        (交錯する視線にも瞬きすらせず黙るだけだった女が、重い口を開く)

        黒幕という言葉に、どれほどの意味を込めて、どんな返答を期待しているのか理解しかねるけれど。
        先程破壊された不良品に魂を吹き込んだのは、確かに私。
        私を黒幕と呼んで、あなたが満足し得るなら、そうすればいい。

        (瞬きをする一瞬に、魔術の行使は終わりを告げていた)
        (打雲紙のキャスターが追い詰められた一寸と同じ、半透明の暗殺者による包囲網は、既に完成している)
        (滞空する数多の鏃は、糸を手繰る主の指示ですぐに着火できる位置を保っていた)

        紙飛行機のキャスター。あなたの敗北を認めなさい。
        私の"魔法"は、あなたの理解の外にある。その魔法の構成式を紐解き対応できなかった時点で、魔術師としても、サーヴァントとしても死んでいる。
        敗北を、自らの弱さを認め、硝子のような繊細な心が今度こそ罅割れることを承知して、再起する覚悟と強さがあるならば。
        今は逃げればいい。
        一時、背を向ければいい。
        牙を研いで私の前に立ち塞がればいい。
        私を許さないと怒りに吠えればいい。
        その上で私は、あなたの憎悪も感傷も受け止めて。
        培かわれた誇り、結ばれた絆、聖杯という砂上の楼閣の願望に縋っている希望。
        全てを須らく否定する。
        (鏃の全てが飛散した。誘導された軌道は標的のキャスターを意図的に逸らし、廃ビルの壁や電気の切れた看板へ突き刺さった)
        (次々と倒壊する建築物と灰煙の中に、女の姿は溶けてゆく)

        私はキャスター。あなたと同じ、キャスターのサーヴァント。
        (自己紹介の言葉を名刺代わりに残して) -- 時守のキャスター 2014-04-15 (火) 23:12:12
  • (今の今まで、すっかり忘れていたのだけれど)
    (自分の指に嵌められていた、左中指の魔術用の指輪が無くなってしまっていた事に気付く)
    (だって、魔術用のピジョンブラッドの宝石の付いた指輪で貴方を呼んだのだから)
     
    (そんな大事な事を忘れてしまうくらい、めまぐるしく色んな事が立て続けに起こっていたのだけれど……)
    (――……それに気付いてしまえば、無いのは色んな意味で気持ち悪い)
    (けれど……)
    (その日、この話を切り出すのは……何故かわからないけれど、ちょっと言い辛かった)
    (『キャスター、魔術用の指輪が欲しい』――……たった、一言の筈なのに)
     
    (キャスターの傍に寄れば、きゅ、と小さく彼の腕の裾を引いて……おずおずと)
    ……あの、キャスター……その……魔術用の……指輪が――…… -- メルセフォーネ 2014-04-12 (土) 00:13:36
    • (運命の手は魂を掴みとり、縛り付け、気紛れたように解き放つ)
      (終わって仕舞って。ジャックの存在は元がそうであったように夜空に消えて、ベネディクタの背中を雑沓に探し求めることもできない)
      (魔術でテキパキとテメノス孤児院跡の修繕を済ませると、なんだか気疲れしてぼうっとしてしまった)

      (「まだ、聖杯戦争の真っ最中なのだ」)
      (先日の“チェーンメール”の文面が脳裏に焼き付いて離れないのに、身にはどうも締りがない)

      (マスター・メルセフォーネの“英霊”であるところの“キャスター”として、自分の存在意義を確立していた)
      (しかしながら、“カー・ファイン”として振る舞える相手に出会い、そして、“カー・ファイン”として戦い、勝ち、滅ぼした)
      (すると、立ち位置を見失って足元が覚束なくなる。“英霊”の自意識が薄れたまま、感覚が戻ってこない)
      (エプロンをつけて腕まくり。梅雨の豊かな水を、蛇口から流して皿を次々に磨く。魔方陣で少し温めた水は、汚れをよく落とす)
      (もっとも、二人とも食事作法は整っていて食器は綺麗なものだけれど)
      (こういう、勘はまるで薄れない。半分からそれ以上無意識でも、危なげなくやってのける)

      (であるからして、裾を引くメルセフォーネの仕草に、少しばかり気づくのが遅れてしまう)
      (シンクを布巾でぬぐおうとした時に、ようやく気がついた)

      魔術用の、指輪?(鸚鵡返しをしつつ、その言葉の内容を読む)
      (生来聡いほうではない彼が、すぐさま、メルセフォーネの手指について気づくというのは難しかった)
      (何かしら言い澱んでいることは察した。魔術武器から聖別されたタロットなど、必要なものがあれば、素直に言う娘である)
      (なぜ言い淀むのか、今ひとつ考えが及ばない)

      ちょっと待って。……その前に、これを片付けてしまおう。(真新しい布巾を手渡す。濡れた皿を拭き、棚に戻す。慣れた作業であった)
      (シンクを拭いきって、そのあとにメルセフォーネが拭いた皿を受け取って次々に仕舞う)
      (やがて違和感に気がついた。いつもは、この作業をする前に、メルセフォーネは必ず“何か”をしていたはずだが、それがない)
      (食器が全て片付いた。白い食器が整然と並ぶ。「……あっ」)

      そうか、わかった。……ごめんね。気づくの遅れて。
      (微笑んで、左手をとる。そこには金属の輪の感触も、深い血の色をした宝石の輝きもなかった)
      (「そうだ」「いつもは、“指輪”を一端外しておいて、家事をする」)
      (二人を繋ぐ紅い星の不在。彼の覚束ない足元を表すようでもある。キャスターも一緒に、落ち着かなさを覚える)
      (しかしながら、“それ”がなくても、この手は繋がっている。それに少し安心する)

      メルセフォーネ。
      ……新しいものを、買いにゆこうか。
      一緒に選ぼう。
      -- 打雲紙のキャスター 2014-04-12 (土) 00:58:28
      • (ベネディクタとジャックの戦いから、時間はゆるりとだけれど、確実に過ぎてゆく)
        (彼の残した爪痕、戦いの痕跡はキャスターの腕により修繕が進んだけれど――……)
        (それらを全て終えたからと言って、聖杯戦争そのものが過ぎ去った訳ではない)
        (夢で時折マスターと出会う事もあるし、これからサーヴァント同士の対決で、他マスターと対立する事もあるだろう)
        (だからこそ……左中指の指輪は、どうしても欲しかったし、急を要した)
         
        (日常、いつもの風景として馴染んだ彼の洗い物をする後姿)
        (少し遅れて気付いて貰えて……鸚鵡返しをされれば、小さく頷く)
        (けれど、彼に伝わっておらず……考えている様子である事はわかったし)
        (口に出さないと、伝わらないのは分かってる)
        (今まで……それは嘗て宗爛様の元で星詠みをしていた時なんかは殆ど此方の言う事は伝わって無かったし)
        (はっきりと言わないと伝わらないのは、今までの事から分かってる)
        (……何で、言い辛いんだろう と、不思議に思いながらも『ちょっと待って、片づけてしまおう』と言われれば、手を離して一緒に片づけを始める)
         
        (ぼんやりと後姿を見ながら――……テキパキと片づけをこなす姿は、凄いなと思う)
        (自分は、こういう家事等にはめっきり向いていないから。ゆっくりと、割らないように片付けを手伝いながら)
        (その姿を見つめて、少しした所で、彼に言いたい事が伝わったらしくて、微笑みと共に手を取られる)
        (私には、それがとても嬉しくて、照れの混じったような笑顔になる)
         
        (指に輝く紅い星は、何故か貴方に守られている様で……故に、それが無いのは不安で仕方ない)
        (きっと、聖杯に立って居られるのも彼が隣で守ってくれているのが分かるから)
        (こうして、貴方に手を取って貰えるのが、とても嬉しいから)
        (それを守る為にも、戦いに立ってなければならないのだから……)
         
        (一緒に選ぼうと言われれば、嬉しくて嬉しくて)
        うん、行きましょう
        (頷いて、お出掛けの準備をして、一緒に出掛ける) -- メルセフォーネ 2014-04-12 (土) 01:25:29
      • (瞋怒雨の注ぐ日が最近あったが、ちょうど、今日この頃は梅雨の中休みである。雲は青天井の端にちらほらしがみついているのみであり、からっと心地が良い)
        (《観天望気》は終日の晴天を告げる。たとえ、明日の向こうに洪水を引き起こす程の大雨が控えていても、今日は陽が燦々と照りつけている)

        (孤児院を出たキャスターとメルセフォーネは、通りを歩いて行く。2ブロックほど隔てて中通りが見え、そこにケーブルとレールがあり、路面電車が這っている)
        (先払いだが、どこまでも乗れる。二人分の料金を支払いつつ、メルセフォーネの手を引き促し、二人がけの椅子に座った)

        (景色が流れる。キャスターの記憶にある街の風景とは違う。近代化が進み、鉄筋が目立つ。テメノス孤児院などは、もう、歴史的建造物に片足を突っ込んでいる)
        (今日は、そんな風景の中に、過去の面影がやけに目につく。アンティーク調の看板を掲げた洋菓子店は、辛うじて記憶のまま姿をとどめていた)
        (「昔は」「このあたりを、幼馴染らと走り回ったものだけれど」「この通りを真っ直ぐいけば、“馴染みの公園”だな……」)
        (「……」またも、ぼうっとした。メルセフォーネに微笑みかける)
        帰りは、ケーキでも買って帰ろうか。チーズケーキが絶品なんだ、あそこの店は。
        僕はおおむねこの街で育ったのだけど、14ぐらいで留学してね。で、帰ってきたときにあの店ができてたんで、常連になった。
        たまの贅沢に、1ホール買ってみたりしてたんだけど。……するとねえ、どこからか幼馴染連中が嗅ぎつけてきて、茶会になるのさ。
        そう……この前、カグラちゃんと飲んだみたいな、自家製のハーブティーを淹れて。……単なる節約のためだったんだけどネ。それは。

        (老舗となったその店を、遠い目で見遣る。路面電車は、進む)
        (幾らかの停留所を経れば中央へ、そこから2駅で商店の立ち並ぶ通りに出る。そこで降りる。メルセフォーネの手をとり、降ろす)
        (少し歩いた先に、それなりの規模の魔導器専門店がある。普段、メルセフォーネが利用する近場の店よりも品揃えは充実しているはずだ)
        (連れ立って歩く。天気のおかげか、人通りは多い。「人混みに紛れて襲撃をかけるのも容易だろうな」半径15km範囲に、大きな魔力の反応はない)
        ……そういえば。二人で、こんなふうに遠出をするのは。最初に逅ったとき以来だね。
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-12 (土) 02:10:19
      • (梅雨の雨天続きの中で、久々に日の光が高く上っていて、今日はお出掛けに丁度いい日だった)
        (彼の観天望気は凄くて、天気や星等の空の運行を全て把握しているから、こういう特に天気の崩れやすい時期は非常に助かるし、凄いなぁと感じる)
         
        (キャスターと一緒に通りを歩いて、少しだけ馴染んだ近所を歩いて路面電車へと乗る)
        (二人並んで椅子に座りながら、流れていく景色を見るのが凄く楽しくて、窓の外を夢中でワクワクしながら眺める)
         
        (近代的な町並みは、得意ではないけれど見て居る分には面白い……けれど、私としてはテメノス孤児院の様な、温かい建物の方が好きだな、とか思いながら)
        ねぇキャスター、あのケーキ屋さん? その、アンティークの可愛い看板の……可愛いお店ね(指を指しながら、他にもあの建物がどうだとか言いながら)
        (隣を見れば、ぼんやりとして――……何だか昔を懐かしむ眼で……ああ、そうか。ここは昔彼の地元で想い出が詰まっているんだ、と思いつつ)
        (微笑まれて、ケーキでも買って帰ろうかと言われると、笑顔になる)
        本当?……美味しいチーズケーキ食べたい(嬉しそうに頷いて、続く彼のお話を真っすぐ目を見つめながら聞く)
        おおむね……?(どうして?――……そう聞こうとして、詳細は分からないけれど、ベネディクタとの戦いで少しだけ知った彼の過去)
        (兄弟や母と離れ離れになる光景、碌に挨拶の出来なかった後悔の残っていた事を思い出して、口を紡ぐ)
        14歳くらいで留学?(どこに行ってきたの?どんな学校で何を学んだの?と、質問攻めをしつつ――……)そう、その時に出来たお店なのね
        もう、この辺りでは老舗の一つかしら?(昔のお話を楽しそうに聞きながら)
        幼馴染って、凄いのね……どうやってケーキを買ったのが分かるのかしら?
        (目を瞑って、この間の彼女達とのお茶会を思い出す――……)カグラちゃん達とのお茶会、美味しくて楽しかったわ。私キャスターの入れるお茶は優しい味で落ち着くからとても大好きなの
        ……節約の為だったの? でも、きっと――……今入れているお茶と同じく美味しいハーブティだったのだろうなぁとは想うわ
         
        (老舗の洋菓子店も、電車が進んで見えなくなると……そんなお話をした後だからか、何処か寂しい)
        (キャスターの案内に従って、手を取って貰って、降りていく……それだけの事なのに、何だか凄く幸せで贅沢な時を過ごしている気がする)
        (少し歩いた所に、大きなお店があって静かに驚く――……都会の中のお店は多いけれど、こういう場所もあったのだ、と)
        (人混みは好きじゃないし、以前襲われた事以来から避けて居たけれど――……今日はキャスターが居るから大丈夫)
        そうね……いつもは二人でテメノス孤児院周辺で用事を済ますし
        始めに会ったアルメナが、ここからずっと離れて遠い場所だったものね(頷きながら、眼を瞑れば――……鮮明にあの時の想い出が蘇る)
        (星の輝く空の下の神殿で、貴方と出会って――……彼の魔法でこの街まで飛んで――……私の人生は大きく変化したな、と思った)
        (自分の常識とは全然違って、発展した街並みや 平和で優しい町は……幸せだなと思う。それも全てキャスターのお陰なのだけれど) -- メルセフォーネ 2014-04-12 (土) 02:45:29
      • (天立魔術学院について、掻い摘んで話す)
        (魔方陣を専攻して学び、そこで身につけたものを今使っていることや、)
        (実技主体の戦闘訓練の中で、子供の頃からずっと投げていた紙飛行機と魔方陣の組み合わせを思いついたこと……)
        (仲良くなった女の子が居たけれど、その人が実は生き別れた姉だと、ずっと後に知ったことなど、語り、語る)

        ……うん、幼馴染って凄いんだよ。(照れくさそうに笑った。彼自身を褒められたような、嬉しい気持ちになったのである)
        誰にも何も言ってないのに、みんなわかるんだ。それぞれ全く別の人生を歩んでいるのに、どこかで一つになって繋がっている。
        “天球の音楽”、のような。そういう、見えない繋がりがあるんだ。絆とでも言うべきだろうかね。
        (そんな繋がりも、もう遠い。彼は幸せそうに微笑んでいたが、寂しそうに、流れる景色を、遠ざかる景色を見つめていた)

        ……ずっとこうしていられるなら良かったんだけどな。
        (喧騒に容易にかき消される、小さな言葉を呟く。出会いのその時に結ばれた、“別れの約束”の瞬間が近づいていることを感じていた)
        (一画目減りした令呪に、失くしてしまった指輪に、壊れかけて取り繕われたテメノス孤児院趾に、それから、ジャックをこの手で打ち倒したこと)
        (その先に何があるのか、明白だった)
        (彼は、メルセフォーネに笑いかける。その手を離さずに引きながら、暗い表情を浮かべたがる心を隠して、明るい歩みを止めずに進む)

        ここらも、昔から服飾店が並んでいてね。なんでも揃った。さすがに、店は入れ替わっているみたいだけれど、雰囲気はそのまんまだ。
        一度、イメージチェンジでもしようってんで、幼馴染総出でこのあたりに来たことがあった。
        パナマ帽を買おうとしたら、「その筋の人っぽい」なんて言われてやめたりしたっけなあ……。(遠い目)
        (人並みの質が入れ替わっていく。あたりには、ローブを着込んでいたり、身体に入墨を彫り込んだ人など、不思議な風体をした人々が多くなる)
        (ここに来ると、キャスターとメルセフォーネも馴染んだ。お互いに、魔に近い存在である)
        ……確か、このあたりに直営店があったはずだけれど。……そうだ。今のうちに。
        何か、希望とかはあるかい。石の種類、リングの材質。とか。
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-13 (日) 02:16:15
      • (彼の通っていた学校の話、魔方陣を専行して学んでいた事、それを紙飛行機と組み合わせる事を思いついた事を教えて貰えば)
        (彼の使用する魔術に納得する)……成程ね、珍しい魔術を使用するなと思ったら 組み合わせを思いついた、キャスターのオリジナル魔術だったのね
        (――……こうして、彼の事を知るのは非常に楽しいし、嬉しい。もっと知りたいと思う)
        仲良くなった女の子が、実は生き別れのお姉さん……何だかロマンチックな再開ね、どんな人かも気になるわ…… ねぇ、お姉さんってどんな感じなの?
        (等と、話を聞きながら時には質問を繰り返して、会話が弾んで行く)
         
        幼馴染って凄いんだ……(彼の言葉に、ワクワクが胸の奥で広がると同時に羨ましく感じる、自分も幼馴染が欲しいな――……どんな感じだろうかと思って)
        何も言っていないのに伝わるって 、何だか凄いわね…… 別の人生を歩んでいるのに、一つに繋がっている……?(離れてしまうのは寂しくない?と聞こうとして……彼の言葉に驚いたように目を丸くする)
        見えない繋がり、絆――……(ふと、空を見上げる……私も過去と、そして昔の人たちとの繋がりは途切れてしまったけれど……この空の下の何処かで、或いは空の上で……空を通して繋がっていると良いなと思って)
        (ふと、彼の幸せそうな頬笑みが、何だか寂しいのに気付いて――……彼のこのお話も、遠い過去になってしまっている事を思い出す)
         
        ……そうね
        (かき消されてしまいそうなほど、小さい呟きに、小さく返した)
        (今は、幼馴染の過去のお話を聞いて居られるけれど――……私達が、こうして一緒に居られる時間も徐々に『過去』になりつつある)
        (残された『今』と、彼と居られる『未来』の時間は……あとどのくらいなのだろう……)
        (少しづつ失われる令呪や指輪、テメノス孤児院跡……聖杯戦争の他の対戦相手――……)
        (私達が、こうして居られるのも、少なからずそうした犠牲の上に成り立って居られる関係と繋がりで)
        (それは、少しづつお互いに持っているものを等価交換しながら、或いは犠牲を払いながら一緒に居る時間を得ている様な錯覚を感じる……いえ、錯覚では無いかもしれない)
        (貴方とは……この先何を犠牲にすれば、或いは対価として支払えば――……ずっとこうして居られるのかしら? と、想ってしまいそうになる考えを掻き消す)
        (暗い胸の内を隠した笑顔に、同じ気持ちを抱えつつも隠した微笑みを返しながら歩いていく『私達、いつまでこうして居られるのかしら?』と思いながら……)
         
        この辺りは服飾店…… キャスターが生きて居た頃も、随分と昔の事だものね
        お洋服や自分の雰囲気を変えたい気分って、あるものね……幼馴染総出で……?賑やかそうな買物ね(想い出話に、沈んでいた心もまた楽しくなる)
        パナマ帽――……「その筋の人?」(遠い目をするキャスターの想い出話に、想像を巡らせてくすくすと笑う)
        (徐々に徐々に、流れてすれ違う人の雰囲気や服装が変わってきて――……魔術の匂いを何処か匂わせた人が多くなる)
        (交差する魔力は、各々の質は違えど、徐々に居心地が良いのは、そちら側の人間の空気だからか)
        直営店……(多分有名な魔術店の何処かなのだろうと思いながら)……希望
        (希望を聞かれれば、少し悩む……オブジディアンやオニキスが一般的だけれど、サファイアは最高の御守りになってくれる)
        (人からねだるのであれば、翡翠も良いかもしれないけれど――……やっぱり)
        ……ルビーが、いいかな…… この令呪みたいな色の(左上腕部の、一つ欠けた令呪を見つめながら答える)
        (数ある守護の宝石の中でも、彼から貰うならルビーが良いなと思いながら) -- メルセフォーネ 2014-04-13 (日) 03:03:43
      • 姉からは魔方陣の手ほどきを受けたり、その他様々な助言を貰ったりしたね。“異人”だというのでいまいち馴染めなかった僕が向こうで友人を作れたのも姉のお蔭。
        けれども、一体なんでそこまで献身的にして呉れるのかよく解らなくて。ほんのちょっと怖かったりしたな。……付き纏いレベルで一緒にいたし。
        ……まぁ、とにかく、きょうだいで一番優しい人だよ。皆のことを一番よく理解して、そのために身を粉にして駆け回れる人だ。和を取り持つというのかね。
        本当に。フォウが居なければ、きょうだい全員が、どんな悲惨な運命を辿ったものだか。……僕が今こうしているのも、きっと、そのおかげ。
        (いつになく饒舌に語る。『僕が“惑星の魔方陣”を遣うのは承知の上だろうけれど、彼女は“惑星の魔法陣”を遣う。魔力の性質が似ているんだ』)
        (『双生児のように、産まれたらしくてね。詳しい事情は僕も知らないんだけれど、もっと幼い、産まれたばかりの頃はずっと一緒に過ごしてたそうだ』)
        (など嬉しげに話したり、随分と“フォウ”を慕っていることが伝わってくる。他の幼馴染の話題など経由しながら、歩いている最中もそれを話していた)

        ルビーか。……さっき話してた僕の姉さんもね、ルビーのような紅い瞳をしているんだ。そのためかわからないけれど、一番好きな宝石だ。
        (ぽつりと語る、彼の横顔。奇妙な眼鏡の隙間から覗く彼の瞳は、サファイアのような蒼い瞳をしている)
        あんなふうに強い目ができたら、って。……あはは、ピンとこないよね。
        (過去の話に花を咲かせて歩く。やがて、店が見える。品の良い木造建築の、こじんまりとした店がある。看板には、『鴉の隠れ家』とある)

        (ドアを開ける。ころりとベルが鳴る。壁一面に、硝子に隔てられて宝石が陳列されている。そのどれもが、薄っすらと魔力を纏った“魔石”であることが頒る)
        (「いらっしゃい」奥のカウンターに座る少女は、どこか、カグラを彷彿とさせる外見をしている。幼い少女のような姿で、額にムーンストーンが嵌まっている)
        (カー・ファインの出生地“ミニアスケイプ”直営の、擬似生命石専門店である)
        (この“擬似生命石”とは、謂わば人工的に作られた魔石の卵。それ自体が生命を持ち自律して動く“生命石”を模したものであるという)
        (カウンターに座る店主もまた生命石であり、人化するほどの魔力と知識を蓄えた魔石なのである)
        (キャスターはそれらを掻い摘んで説明をする)

        (ルビーの棚に赴くと、彼はその一つを、店員に断ってから手にとった。一目見て、気に留まったらしい)これ……。いいかもしれない。
        (暗がりの店内で、それは薄ぼんやりと輝きを放っている。燃える石炭の光を内に宿したかのよう。大粒の楕円状で、曇りも瑕もない)
        ……“Will”と言うんだそうだ。(小さな木箱の中で眠るそれを、メルセフォーネに向けて見せる)……なにか、感じるかい?
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-13 (日) 21:57:01
      • お姉さんかぁ……何だか、いいなぁ(魔方陣の手ほどきや助言を貰うという、お姉さんらしいお姉さんという印象を持ちながら)お姉さんって、優しいのね……私も欲しいなぁ、お姉さん
        (『怖い?何で?』と、首を傾げる。人とべったりくっつこうとする自分の性質と思考から、そう言う人がもし居たら幸せだろうなと感じたから)
        (生前の彼の傍に良く居てくれて、とても優しい人だという事はお話からも理解すると同時に、複雑な兄弟中の和を取り持っていた重要な人である事も理解する)
        ……ねぇ、キャスター……悲惨な運命って、どういう事……?(聞いて良いか、踏み行っていいものか分からなかったけれど――……彼の事はなるべくなら全てを知りたいと思う)
        (私から見て、貴方は英霊であり、過去 この地に住んでいた幼馴染の人間で――……暗い過去が在る事は、今までの事から薄らとそれを知っている……けれど――……)
        (優しい姉の人柄、そして自分と使用する魔術の類似点『惑星の魔方陣』と『惑星の魔法陣』……魔力の性質の似ている事も、やっぱり双生児の様に、生まれが似ているからだろうか)
        生まれたばかりの頃からずっと一緒だったから、成長して再開した時もべったりなのかしらね?(お互い、一緒に居ると落ち着くのかなと思いながら)
        (嬉しげに『フォウ』というお姉さんのお話を語る彼は、いつも以上に饒舌で……大切な存在の人である事が非常に良く伝わってくる)
        (幼馴染の話と交えられて、お姉さんのお話を交互にされながら……親しく仲の良い間柄は、羨ましいと同時に素敵なつながりであると感じる)
         
        ええ、ルビー…… お姉さんの瞳の色も?(そういいながら、お姉さんと対のサファイアの瞳の彼を見つめる)
        (お姉さんのお話をしている彼の瞳には、幸福感が感じられて大好きだ……幸せな王子様もサファイアの瞳をしていたなと想いながら)
        ……薄らとだけ、貴方から流れて来た記憶から、少しだけどんなお姉さんか見えたけれど……小さくて、可愛らしい人だと想ったし、少しだけだから(もっと、お姉さんの映像が見えればよかったなぁと呟いて)
        あまりピンとは来ないけれど、キャスターのお話からも……優しくて芯の強い人だった事は、分かったわ
        (彼の1番好きな宝石と、彼のお姉さんの強さも……ルビーから授けて貰えるかしら?と思いながら、歩いて行く)
        (案内されて現れた『鴉の隠れ家』というお店は、小さいながらに品が良く、初見の客なのに何処か雰囲気の良さを感じさせる良いお店だと感じた)
         
        (彼に続いて、ベルを響かせながら扉をくぐれば――……様々な輝きや魔力を結晶化させた宝石達が並べられていて)
        (魔術店だからだろう、どの宝石からも魔力を感じ、その質も非常に優れている……店主は良い審美眼をお持ちである事が分かる)
        (声をかけられた先に顔を向け――……カグラちゃんの様な店主に、一瞬驚いてしまう。世の中には3人似ている人が居ると言われるけれど――……つい、本人かと思ってしまったかのような、他人の空似)
        (優しくミステリアスに輝くムーンストーンも、カグラちゃんの額の角と、何処か似ているから一層)
        ミニ…アスケイプ?(彼の説明を聞きながら、繰り返す――……ああ、そうか)
        (彼女は人化した魔石であり生命石なのか、と……通りで、宝石の質の良さと魔力を感じる魔石である事は理解した)
        (魔術用の指輪だから、なるべく質の良いものが欲しいけれど、ここなら望み通りの物が買えそうだ)
         
        (ルビーのある棚の前で、宝石達を見ていると……キャスターが選んでくれたのを見る)……わ、綺麗……
        (『いいかもしれない』と見せてくれたルビーは、本当に綺麗で……暗がりの店内からも、その輝きは良く分かる程)
        (それはまるで、暗い夜の下で輝く星の落し物の様な綺麗な輝き、大粒で傷もなくクオリティが高い)
        "Will"……(木箱に眠る宝石を見つめれば、嘗て彼を召喚して出会った夜空の下の事、蟹座の輝く空の下で、彼に守って貰った事)
        (それらが鮮明に思い出された最後に――……ふ、と 彼のお姉さんの顔が浮かび、そのルビーの瞳で微笑まれた気がした)
        (『will』未来を表す助動詞で在る言葉だけれど、未来はいつだって、不安定で怖いけれど……自分の意思で切り開いて、望みを叶える物でもあり)
        (ルビーは『誰かを守る為に、力をふるう石』でもある……それは、私にとってのキャスターの様に)
        (キャスターのお姉さん『フォウ』が、彼の事を想って、再開した後に大切に傍に居てくれたように)
        (石からそれらの魔力を感じたからか……彼との想い出やお姉さんの事が浮かんだのだと思うから)
        キャスターとの想い出……初めて召喚して出会った時と、以前のベネディクタちゃんの時の戦い――……そして、少しだけ貴方のお姉さんに微笑まれた感じがしたの
        凄く、良い宝石だと思うわ……私も気に入ったから、これが良いわ -- メルセフォーネ 2014-04-14 (月) 01:04:24
      • シンプル……?(続けられる彼の言葉は……とても、哀しいものだった)
        悲観して、末梢を……?(もし、彼が抹消されて居たら――……こうして今、出会う事も無かったのだろうか)
        (何故、抹消をしたかったのだろう。人も歴史も、時と共に風化して歴史書に連ねられる程度でしか記されないと言うのに――……)
        (人は100年もしないうちに朽ち果て、誰も自分を覚えている人なんていなくなる――……だからこそ、彼の二番目のお兄さんの行いは、酷く哀しかった)
        ……何で、悲観したの?
        (そう言いながら、彼女のお姉さんの願いが成就したお話から『笑いあえるという事は、幸せな仲に戻った事よね』と、問う)
        (『続きは後でね』と、言われれば 聞きたい気持ちを抑えて小さく頷く)
         
        (彼のお姉さんの事は、詳しく知らない)
        (彼のお話や、流れ込んでくる過去の片鱗から、微かにどんな人かを知ってる程度である……けれど)
        (もし、このルビーが彼女の姉の魔力と似ているのであれば……とても優しく人の背中を押してくれる)
        (暖かさと、誰かを守る優しい強さがこのルビーから伝わってくる)
        (『この宝石(お姉さん)となら、真っすぐに自分の試練も乗り越えられそうな、強さと気持ち』が溢れて来る)
        ええ……とても(頷く、きっと私がこの宝石から、この気持ちを貰った様に 彼もお姉さんから『勇気と優しさ』を貰ったのだろうと思う)
        (だから、彼のお姉さんと良く似たルビーに出会えて、とても嬉しいと感じた)
        (彼からの贈り物でもあるし、大切に大切にしようと想った)
        (頷いて、彼の言う通り店員さんに任せた)
         
        (彼の後に下がって、店員を見る 無愛想な所と此方の精神体を見つめる目が、初めて出会い警戒されていた頃のカグラちゃんと重なる)
        (問題が無いらしくて、内心安心しつつ……促されるままに奥へと案内されて、足を踏み入れた先は――……)
        (煌びやかな宝石箱の中に、アリスとなって迷いこんでしまったかのような 美しく幻想的な場所だった)
        (真紅のフェルトの張られた椅子に腰かけて、左手中指を出し立と思えば直ぐに終わって)
        (白い塊が取り出されれば、何が始まるのだろうかと思いつつも――……)
         
        ミスリル……
        (取り出された宝石と共に、魔法の様に美しく繊細な作業の元に作られた指輪を指に嵌める)
        (試しにぴたり、と自分の指に綺麗に嵌り付け心地も非常に良く、品のあるデザインも、ミスリルの輝きも……きっとこれから嵌められるルビーと非常に合うだろう)
        (出来あがりが、とても楽しみだった)お願いします
        (そういって、お辞儀をして……貰ったコーヒーチケットを持ち、二人で喫茶店に向かう)
         
        (小さな喫茶店の奥に落ち着いて、珈琲が運ばれてくれば、芳醇な香りが漂う)
        凄いのね……こっちは技術もだけど魔術の進歩も……お砂糖は要らないですが、ミルクはたっぷり欲しいわ
        (キャスターの珈琲とは反対に、ホワイト珈琲になるほど、ミルクを注いで口に運ぶ)
        ……!! (続きをしようかと言われれば、頷いて) ん、お願い……色々気になっていたから -- メルセフォーネ 2014-04-16 (水) 00:26:08
      • (珈琲の入ったティーカップを置いて、小さく頷いた)
        (入口からここは見えないし、周囲にお客も居らず人の気配も無い……他のサーヴァントやマスター等の耳に入る事も無いだろう)
        (この場所だけ、他の空間と違う様にゆるりと寛げるのも居心地が良くて良い場所だった)
        ……天使の子?
        (驚いて、小さく繰り返す……だって彼には神性は殆ど無い……とはいえ、彼から香る『残り香』から嘘ではない事もわかるが)
        (とても人間らしく、ましてや幼馴染のお話や彼の日常を大切にする所も……『人との繋がりを大切にする、平穏な人生』そのもので――……)
        (今までの彼の生活、そして彼のお話から聞いた過去からは……到底、思いもよらない過去だった)
        (雪の様にミルクで純白の珈琲の筈なのに、口に含むと苦みを感じるのは、彼の過去のお話の内容を仄めかしているかのようで……)
         
         
        (解釈が分かれると聞けば、頷いて彼の語る『天使』を聞こうと思った)エルダー?
        (成程、人間より寿命も長く、知識のある種属の事を指す名称の様な物か、と理解する)
         
        2400歳……随分長いのね。ヒト以外の時も……?例えば、どういう形の人が居るのかしら?
        (どうしても『天使』と聞けば羽の生えた姿等を想像しがちではあるが、きっとその形に拘らず……様々な容貌をしているのであろうとは思いつつ)
        貴方のお母さんは人の姿……(彼と同じ髪色等から、彼と似た雰囲気を持つ女性を想像する)
        (年についてはあまりピンとこなかったが、成人かそこらと言われれば、まだ年若い女性である事も理解した)……クロンさん
         
         
        貴方達の言う、天使 エルダーという長命種は、人の様に子供を成す事は出来ないの?
        (彼の言う『天使の子』とその意味は分かった、けれど『天使』と『天使の子』が違うものであるとするならば……『天使』達の子供がどうなるのかが気になった)
        (……もしかしたら、それらの能力を失って『天使の子』を作ったのかもしれないけれど……と思いながら)
        SF……?(あまりピンとこない言葉だったが、人造人間及び、天造人間と聞けば)……大体何しているか分かったわ、アルメナも似たようなことしていたから……
        (過去の自分の国、そして自分の過去を思い出しながら……珈琲を口に含む。どうしてこんなにミルクを入れているのに、苦いのかしらと思う)
        (きっと、それは自分の中に眠る嫌な過去と重なったからかもしれない)
        (彼の話に耳を傾け、羊水ではなく実験の培養駅から生まれたけれど、母も兄弟も優しかったと聞けば、少しだけ救われる気がした)
        テメノス研究所……孤児院の名前もそこから?
        完全な人間なんて、この世に居るとは思えないけれどね……(ボソリと呟く、彼を否定している訳ではない)
        (ただ、自分自身が『完璧な人間』を見た事が無い上に、占星術が人生で在るように膨大なネイタルのデータだけは自身の中に持っている事と学びながら想うことは)
        (『世の中には完ぺきなチャートなんてない』からだ、どんなに良い図の様に見えても、どこかしら欠点はあるし……何より長所は短所でもある)
        (ましてや、研究所の天使達の目指した『完璧な人間』なんてものは到底想像はつかないけれど――……)
        実験過程で、生まれた……(ちくり、と胸の奥が痛くなる……嫌な所を突かれたような)
        キャスターも詳しく知らないの……? そっか、二番目のお兄さんが……(ぐるぐる、ぐるぐると不穏な気持ちが渦巻く……それは、話のせい……?)
        ……やっちゃ、行けない事……(徐々に、気持ちが黒く沈んでいく)
        3歳くらいの頃にお別れ……寂しい、わよね……(目を閉じる。自分と重なる過去に……自分の過去を思い出さない様にして、閉じ込めるように)
         
         
        (目を閉じる――……けれど、しっかりと耳は傾ける)
        (彼の話は聞きたいし、知りたい、そして知っておかなければならない、逸らしてはいけない)
        (……なのに、何で私は、こんなに彼の話から逃げたいの……?目を瞑っているのが、恐らくその証拠なの……?)
        聞きたくない、知りたいけれど知りたくない、逸らしたい
        (母から他の人の手に移り、無理に続行して成果を求めて研究を急いで無理に続行して……資料不足に陥る所までそのまま聞いて)
        (最初に取られた行動の話を耳にすれば――……俯きながらも続きを聞いた)
        内部構造を把握する……その為の解剖に、一人目のお兄さんが使用されて、二番目の御兄さんがそれを見て知ってしまったのね?
        (おぞましい、何とも言えない身の弥立つ話に自分の中に眠る嫌な過去と共に嫌な感情が巡る)
        怒り狂うでしょう――……(なのに、嗚呼、彼は怒りを露わにしても、鎮静剤や拘束具で無理矢理抑えつけられたのか……)
        潜在能力……? けれど、その為に造られて命を与えられて……こんな実験をされて、化け物になって……仮死状態にされて
        その能力を得たいが為に、なんて酷い事を……やられている方は、溜まったものではないのに……
        (酷く、想う……優しさは無いのか、と)
        (酷く、願う……優しさがあれば、結末も変わったのか?と)
         
         
        ……嫌な、誤算ね……(表情を歪めながら、それだけ零して)
        いきなり兄弟が二人も居無くなれば……皆陰鬱にもなるわよね……
        (嫌な、空間だなと思う……8室の、拘束的な嫌な、閉鎖的な空間だな……と。或いは表に出ない研究でもあるし12室の方かもしれないけれど)
        意味の分からない試験……?(体力や心理、PSI能力や魔力テストはまだマシだと思った……耐久テストの内容は、聞きたくない)
        ……そんな中でも笑って居られるなんて、お姉さん本当に芯が強い人だったのね
        (きっと、自分も泣き叫びたい気持ちを我慢して……他の兄弟達の為に笑顔で居たという事が伝わって、胸が痛む)
         
         
        ……半年も? 何故3番目のお兄さん一人が……?
        (嫌だこの先は聞きたくない)
        (戦々恐々とする気持ちは嫌でも分かる……だってそんな軟禁状態の中で、嫌な試験の日々で研究をされていたのでしょう?)
        (聞きたくない)
        (……嗚呼、やっぱり無理矢理覚醒させられたのか……三番目の御兄さんは……)
        (治癒能力に適性があるからって、無理に過激な毒物を投与されて……副作用が現れたのか……)
        ("効き過ぎる"なんてものは、薬でもアスペクトでもそうだけれど、強ければ強い効果を持つ物程、劇薬であるし、凶の物だと解釈される)
        (『強い反応』を引き起こすものは、相応の『負を引き起こす』材料でもあるのだ――……)
        (薬でも、そうであるようにアスペクトも)
        (俗に言われる0度や180度、90度も、強すぎる為に負の側面が際立ち、使いこなすのが難しいからなのだ)
        (老人の様に深い皺を刻みながら、拘束具を引きちぎる程に筋肉が肥大し、理性を失ってしまうだなんて……)
        (言葉に言い表せないまま、俯いた顔を手で覆いながら……彼らの身に起きた運命に嘆く)
        (笑えないのなんて、当然だったと思う……聞いている私ですらそう思うのだから……ましてや、当時自分達の身や周囲で巻き起こった事なら尚更――……)
        (まだ無力で幼い、残された二人のきょうだいが、とても可哀想だと思った)
        (どうして、いつも神は無力な者達に、過酷な運命を虐げるのか――……) -- メルセフォーネ 2014-04-17 (木) 02:33:47
  • これが、僕の物語の顛末。ハッピーエンドだけれど、過酷な運命を辿った、僕らきょうだいのお話だ。
    ……本当はね。僕のこと、“幸せな日常を守る心優しいセンセイ”みたいに思って呉れればいいなと、思ってたんだけど。
    (「僕は」カグラに対する“D”の真摯な振る舞いが、全身全霊を賭してベネディクタを助けたジャックが、眩しく思えた)
    (ずっと、メルセフォーネの手を引き、離さずに導いていこうと思い続けてきた。だけれど、それは一歩引いた見方でもあった)
    僕は、“英霊”で、キャスターで、カー・ファイン先生で、五番目の“天使の子”(アートマン=K5・テメノス)でもある。
    その全てを……僕を、僕として、見て貰いたくなった。そんな運命と絆があって、僕があるのだということをね。

    (『あの』衝立の裏から、青白い宝石を額に嵌めた、“鴉の隠れ家”の店員が現れる)
    (『遅いんで、出来上がりを持ってきました』キャスターに化粧箱を手渡すと、そそくさと背を向ける)
    (『お買い上げありがとうございました。……まぁ、頑張ってください。“will”は強い意志には、素直に応えますから』)
    ありがとうございます。(背を向けたまま、二人の礼を聞くと、彼女は静かに立ち去っていった)
    ……ええっと。そんなわけで。……これは、僕からキミへの絆であり、キミから僕への絆でもある。
    キミがこれを持つ限り、絆は消えない。何があろうとも。

    (席を立ち、メルセフォーネの横に跪く。眼鏡を外して、現界を解く。目つきは鋭く威圧感を与えるが、目線を合わせて、照れくさそうに笑いながら化粧箱を手渡した)
    これからもよろしく。マスター。
    -- 打雲紙のキャスター 2014-04-17 (木) 23:49:22
  • (何度か聞いている姉の話や、今の彼の事から二人がこの後助かって成長するのはわかっている、けれど……)
    (それまでの経緯と上の3人の兄弟の末路を想うとやり切れない……俯いた顔を手で覆いながら、気持ちは沈んでゆく)
    (幸いなのが、彼の語り口が物語を紡ぐようであった事と、彼の表情から沈鬱なものを感じなかったから……また、彼が子供(私)の扱いも長けている事も幸いしているのだと思う)
    (質問に答えられれば、相槌を打ちながら聞く)ああ、『動物系の生物』に限らず大木等の姿まで様々なの……? 本当に姿は多種に及ぶのね
    子供の天使……成程ね、姿形は子供でも、それは身体が『不変』なだけかもしれないし、本当に精神もそのままかも分からないし……
    ……やっぱり、孤児院の名前は研究所から取ったのね……聖域、か
    (彼の話を聞きながら、研究所の非道な行いは到底『聖域』の名前からは遠い様に感じた――……それは、自国の故郷のアルメナも『神聖』の名を付けながら非道な行いが成されているのにも似て)
    そうよね(彼の呟きに頷きながら、想う『もし、完璧な人間が居たとしたら……その人は生まれてくる意味があったのかしら?』とも)
    (明るくなると聞けば、顔を覆う手を外して、キャスターの方を見つめて頷く。沈鬱さも薄れて、安心の色が見えてとれた)
     
     
    (きっと、言葉に表せない程に不安で、消えかける蝋燭の様に心細い日々が続いただろうと思う、頼れるのは互いの幼い姉弟だけ)
    (生命の危機を感じながら、怯えて日々を過ごす精神的な疲労も嘗ての自分の生活と照らし合わせながら、酷く共感する……いつ殺されても、何をされても可笑しくない状況は、気が狂いそうな毎日だから。笑顔が無いのも、遊ぶ気力も無いのも痛いくらいわかる)
    (日々の彩り、自由、笑いながら生活できる事……そして命を脅かされないという事は、こちらでは当たり前の生活の様だけれど――……此方の『ありふれた日常』というのは幸せの詰まったギフトの様な日々なのだから)
    …………? 状況が、変わる?(何故、と言いたそうな顔で)
    (理由を続けられれば納得すると同時に、研究所の中にもそう言った優しさを持っていた人が居た事に、少し救われる気がした――……いや、そういう救いがあったからこそ『彼ら』が助かったのだろうけれど)&br; (光の道筋の見えてくるお話に、コクリと頷く……厳重な警戒態勢をどうやって抜けだしたのかと思いながら)
    (安全な策を取る為に、慎重に一人づつ、そうして失敗して……姉と別れてしまった事から、彼と姉が離れ離れになったいきさつを知る)
    (――……同時に、仲間の恋人という人が酷く可哀想に思った。きっと酷い目に会ったのだろうと思ったから)
    (そして、姉と離れて一人ぼっちになってしまった幼少の彼の心が壊れそうになる事も、一人研究所に残された形となってしまったお姉さんの事も、心配だった)
    (互いの繋がりの鎖が途切れる事も、孤独の辛さも本当に耐えがたい事だから……まして、そんな事が起こっていた幼少の彼の心となれば一層、気の毒だった)
    テメノス孤児院に?そんな昔から……って 昔は名前が無かった廃教会だったのね
    3番目のお兄さんが……?何ていう偶然なのかしら……いえ、それは必然という運命かもしれないけれど……
    そう……厳重な警備を抜け出す事と言い、魔術には長けているようだし、何かの手段か、情報か、等を得ていたのであろう事は何となくだけれどわかるわ
    (もし、ここで3にんが再開出来て居たら――……と、想ってしまうけれど)
    ……難しい、わよね。お兄さんの事も……そんな過去があって、簡単に癒えるものではないし、ましてお姉さんは研究所に囚われたまま、貴方だけ助かったのが奇跡とはいえ――……
    (『何故自分だけ助かったのだろう』その気持ちも、ずっとその過去に縛られている自身の心と重なって涙が零れる――……)
    (あの時に助かったのが私じゃなくて、宗爛様だったら……もっと多くの人が救われていたかもしれないと思うから、尚更だった)
    記憶を……?(静かに驚く。自分を責め続ける彼の心を蝕む過去かもしれないけれど……記憶の封印という形で過去が消されるという事は、築き上げて来た自分を失うことでも……同時に在るというのに)
    それで……何も知らず『空の上に居る母』の事を見つめていた、という訳ね
    (パズルのピースが少しづつ埋まる様に、彼の過去と記憶が見えて、嬉しいと同時に、彼に眠る哀しさも知る事となった)
    (出来あがる人生という絵は、哀しさと幸せが美しく混じり合う様な絵の様)
     
    (頷いて『14歳ね』と答えるが)……!お姉さんはそんな場所で10年間も……?
    (丁重に扱われたとはいえ、気が狂うには十分過ぎる時間の様に思う……それでも、自分を保てていた姉という人の芯の強さに心底驚くと同時に尊敬の念を持った)
    先生が、貴方を逃がしてくれた『アイザック先生』だったのね…… そう、お姉さんの奪還計画を……
    (魔術に適性があると分かっていたのなら、学ばせてその潜在能力を伸ばす様に促す事は当然だろう。きっと先生も、彼の成長が楽しみだったはず)
    成程、ね……余計な記憶を取り戻しても混乱したりしてしまうし、時には知らない方が幸せだと思う事も……あるもの、ね
    (とはいえ。彼が魔術に適性があるというのであれば……遅かれ早かれ自分の無意識から、過去を知った可能性もあった気もして……隠す事の意味を成さなかった可能性もある気がした)
     
    えっ……? 実験でお姉さんも?(魔術に適性のあった話は、『魔法陣』と『魔方陣』を得意とする二人の話から察する事が出来たが――……)
    (まさか、同じ学校で互いに気付かず仲良くなっていた事に目を丸くする。驚きを隠せない)
    その頃に……あっ、それでステンドグラスの眼鏡を付けているのね、成程……(眼というのは、『魔眼』が存在するように魔術に関連深い器官でもある)
    (また、眼は脳に直接神経で繋がっており、魔術は『脳』を使用し、現実に変容する術でもあるし、影響も強く出てしまうであろうことは容易に理解した)
    目立つと思っていたら……流行っていたの?それ(また驚きを隠せないが、流行なんてのはいつだって時が過ぎれば風化してしまうし、その時のセンスというものもあるし)
    (魔術学校であれば尚更、奇抜な物も流行りやすいのかもしれないと思った)
    ……テンパる、というか凄い内心ハラハラしていたと思うわ……数か月とはいえ、落ち着かない日々だったでしょうね……
     
    (その後の話も、相槌を聞きながら)養成校で非常勤講師……そこで先生を始めてする事となったのね って
    テメノス研究所でそんな事が……?そう(欲を出して、良い結果になる事なんてある事が殆ど無いというのに……それは形の違うギャンブルと等しい行為)
    (それを引き金に、力を蓄えて居たお兄さんが全てを壊して生き残りの天使の子全てを滅ぼそうとして――……兄弟達を皆殺しにしようとしたのか)
    (お姉さんが無事逃げ出せて、この街で養成校という学校に入って……小さく頷く)再開したのね……魔術学院の時と同じ様に
     
    そんな思いや過去を抱えながらだもの、きっとお姉さんは必死で魔術を学んだのでしょうね……成長が止まったり、記憶が曖昧な中では筆舌に尽くしがたい苦労もあったでしょうに
    三年後のクリスマスに?……そう、お姉さんが来て記憶の封印を解いてから……全てが動き出したのね……いえ『間に合った』というのが正しいタイミングかもしれないわね
    (2番目のお兄さんが来るまでに間に合うようにと、きっと努力したのだろうな……と思いながら)
     
    (こくり、こくりと相槌を打ちながら真剣に話しに耳を傾けていたけれど――……)
    (ひと段落したからか、大きく溜息を吐いた彼が、真っすぐに私を見つめる)
    ……そう、お兄さんが正気に(それを聞くと、安心して口元が微笑んだ)
    (キャスターも純粋な笑顔で語る――……兄弟達が手にした『幸せ』の形なのだと知る)
    (その後の兄弟達の、1番上のお兄さんを奪還して、まだ意識が残っていて完全に死んで居無かった事等から、最後の心残りも取れて、私も笑顔になる)
    (満足そうに語る彼に、そして幸せを掴んで今に至る彼に『良かった』と想い、安心すると同時に心から『おめでとう』と祝福をしたい気分で)
     
    そう、これが貴方の人生という物語……なのね。ハッピーエンドでよかった
    (過酷な運命でも、ハッピーエンドで良かったと本当に思う、そしていつか……私にもハッピーエンドは訪れてくれるかしらと思いながら)
    …………? (『想っているわ』と続けようとして……続く彼の話に首を傾げる)
    (『幸せな日常』は、ずっとずっと、私が願い焦がれていたものの一つで……それを守ってくれる彼は)
    (Dやジャックの様な強さとは違うけれど、優しく暖かく、私を包むように守ってくれていると感じていたからだった)
    (けれど――……彼の言葉を聞けば、頷きながら微笑んで)
     
    私にとっては、貴方は……キャスターは
    あの夜空の下で私の呼びかけに答えてくれた時から
    あの苦しい日々から救ってくれて、新たな道を授けてくれた時から
    貴方の差しのべられた手で、それまでの私とは違う景色を見せてくれた時から――……
    私の、大切な英霊なのよ……
     
    (嗚呼……けれど)
    (彼を『英霊』でもなく『キャスター』でもなく、彼自身を、もっと見つめて大切にしようと想う)
    (彼の人生を知って、自分と重なる過去を知れば、英霊も自身の運命や絆と共感するからこそ――……その人に相応しい英霊が呼ばれるのかもしれないと思いながら)
     
    貴方と出会えて、本当に私も良かったと思っている……
    (そんなお話をしている所で、店員さんが現れれば……恥ずかしさに顔が赤くなるのを隠せない。そのまま固まりつつ、ぎこちないお辞儀を店員さんに返して)
    (『失礼だったかしら、そっけない態度だったかしら……?』と思いつつも、小さく「あ……ありがとう、ござい……ます」と固まりながらお礼をする)
    (『そんな訳で』と続く彼の方を、少し固まって紅潮した頬のまま向きつつ、頷く)
     
    (『……これは、僕からキミへの絆であり、キミから僕への絆でもある
    キミがこれを持つ限り、絆は消えない。何があろうとも』という彼の言葉が胸に響いて、木霊する)
    (言い表せない、甘美さと嬉しい気持ちが心の深くに暖かく灯される)
     
    (跪く彼が眼鏡を外す。険しい眼つきは『怖い』と思ってしまう様な容貌と、威圧感も相まって迫力のある顔だけれど)
    (一見、鋭く見える瞳の奥に隠されるかのような、照れと優しさが彼の瞳から見えて)
    (嬉しさと照れが混じりながらはにかんで)……ありがとう
    こちらこそ、よろしくね キャスター……ううん、カー・ファイン先生
    (手渡される小箱の蓋を、そっと開けて大切に指輪を自分の左手中指に嵌める)
    (ずっと、欲しかったものの象徴『誰かとの繋がり』がそこに在ると同時に)
    (『大切な人』が隣に居てくれる事は……なんて幸せなのだろうと)
    (自分と彼を包む幸福に、この世界に神様が居るのであれば、私は感謝を捧げたい)
     
    (『彼と、出会わせてくれた運命を、ありがとうございます』――……という祝福の祈りを) -- メルセフォーネ 2014-04-19 (土) 01:40:56
  • (魔力の枯渇。数々の魔方陣の展開に、滅びかけた肉体の再生に、宝具の連続使用、そして、固有結界を2回……)
    (精根尽き果てる。メルセフォーネは人間として規格外の魔力の持ち主でもあるが、キャスターとしてのキャパシティ共々、限界値が近づいている)
    (「もう」)
    (「これが解かれたあと、あの二人に干渉する力は、もう、ない」「間に合いもしないし、何も、できない……」)
    (魔力の供給が途切れ、降り積もる“手紙”が順繰りに消えていく)

    (固有結界は空に散り、形を崩し、消える。思いだけをその場に残して)

    (英霊“アサシン”、(ランバージャック)、もとい。ジャック・ヴィールズは空に散り、形を崩し、消える。その場に残ったのは、一振りの斧であった)

    (壊れかけた廃教会で、ステンドグラスから注ぐ色光を浴びながら、何者をも殺害してきた斧を、死ねなかった少女が抱えている)
    (この戦いの結末は、その光景で締めくくられた)
    (「ありがとう」幕引きにその言葉を残して、彼女は去る)
    (静寂が、テメノス孤児院に満ちた)

    (ベネディクタの元にジャックが召喚されたことは、宿命だった)
    (彼以外の誰であっても、この結末は導かれなかったろう)
    (「そして、メルセフォーネの元に僕が召喚されたことも、宿命だった」)
    (「僕は、相手がジャックさんだから、こんな戦いをしたんだ。聖杯戦争で僕とジャックさんが出逢ったのも、宿命だった」)

    (「……どうして、こんなに心が凪ぐのかな」)
    (「きっと。きっと……ほんのすこしの救いにはなったはずだって。心に確信があるはずなのに」)
    (静かな涙が、止まらない。彼は自分を情けなく思う。メルセフォーネの前だからと、見栄を張ろうとしてもできない。涙が濫れる)

    さよなら。
    ジャックさん、ベネディクタ。
    さようなら。

    (廃教会に嗚咽が響く。子供のような、赤子のような、泣き声だ)
    (メルセフォーネに縋り付き、泣く。そんな自分を情けなく思わないでもなかったけれど、どうしようもなかった)
    (彼は、祈るより他ない)
    (あそこで二人、死を共にすることが幸せだったと、思う時が来るかもしれない。幸せを確かに保障することなんてできない)
    (だから、祈るよりほかない。ここは廃教会。神の去った、教会の形骸である)
    (それでも祈らざるをえなかった。「ベネディクタが幸せでありますように」と)

    -- 打雲紙のキャスター 2014-04-10 (木) 00:16:00


    • (――その光景を一望出来る樹の上で、本を閉じる)

      (それは中々に完成された物語だった)
      (舌の上で味わうには最高のそれであったし、それを紡ぐ一助となれたのなら創作者としてこれほど嬉しい事はない)
      (まるで日向に干した衣類を身に纏ったような爽やかさに大きく深呼吸して、名前も必要ない最後の参加者は、ゆっくりと白紙の本を樹の虚に入れた)

      ――こう。かな?

      (男が指先を動かすと、『対抗魔術』によってキャスターがそうしたように、空中に白紙が出現する)
      (植物繊維を空中で原素へと還元し、その元素を細かく組み合わせて空中で紙を生成したにすぎない)
      (直ぐに忘れてしまうだろうが、こんなもの、一回使えれば十分だ。男は笑いながら思う)
      (こんなもの、俺に『使いこなせる訳』がないんだ)

      (指を動かすと、原素でインクを再現し、それはキャスターがしたのと同じように紙飛行機へと変わる)
      (不格好ではあるが、一番シンプルな紙飛行機の形になり、それは静かに空中を漂いはじめる)

      メルセフォーネさん。
      ――これがさ、俺の『創作』だよ。楽しんでもらえたら、何よりだね。

      (男は誰にも聞こえないようにそう呟き、まだ空中を漂っている紙飛行機を見て、笑いながらその場を去った)

      (たった一文だけの悪意――)
      (「――聖杯戦争へ、ようこそ」と、ただそれだけが書かれている紙飛行機は……)
      (やがて、その悪意を伝えるために、一人のマスターと一人のサーヴァントの元に届く道を、ふわふわと他人ごとのように泳いでいた) -- リジェン 2014-04-10 (木) 01:15:50
      • (しばらくして、涙は止まった)
        (人が二人寄り添った小さな場所に降る雨は、湿っぽい空気と、僅かに晴れやかな気持ちを残して去る)
        ……あはは。僕、甘えちゃったな、キミに。
        ありがとう。(態とらしく、空元気の笑顔をメルセフォーネへ向ける)
        (廃教会の床に残る深い溝は、“あの斧”によって作られたものだ。静かに。緩やかにそよぐ風が、その隙間へ吹き込んでいる)
        (彼はまた、泣き出しそうになり、空を見上げる)

        え?
        (それは先程起こった悪夢のような戦場の、再現に見えた)
        (崩れた壁の隙間からそれは飛び来る。両翼の揚力が釣り合い、そよ風に乗って悠々と飛行を続けている)
        (白い紙を折られて作られたその機体が、陽を照り返して柔らかい輝きを放つ)
        (《空まで届く平面位相幾何学(アンフルフィルド・ウィッシュ)》。彼の作る、紙飛行機)
        (または、先程にあった“手紙”の続きが、空を飛ぶ)

        (驚いたことに、そこから自分の魔力を感じなかった。確かにこの手で折り、この手で投影したかのような完成度を保った“マジックアロー”だというのに)
        (航路を、予測する。辿り着く先は、キャスターの手元である。すう、と。音を立てずに着陸する)

        (ぱたぱたぱた。折られた構造を戻していく。一つ、一つ戻すたびに、不安が強まっていった)
        (文字が見える。「僕の筆跡ではない」カリグラフィーで描かれた、装飾的ながら、端的な文字)
        (ただの一文。今、この時でなければ、読み流したであろう短い文面に、彼の瞳は惹きつけられ、離れなくなった)

        『──聖杯戦争へ、ようこそ』

        (呆然としていると、風が、手の上の“手紙”を攫ってゆく)
        (それは、“アサシン”の宝具により深々と彫り込まれた溝へと落ちてゆく)
        (最期に、この手紙が光なき底へたどり着くことまで、織り込み済みだとでも言いたげに)

        …………。
        (沈思する)
        (「僕と、メルセフォーネと、ジャックさんと、ベネディクタ」)
        (「この四人が聖杯戦争の舞台で出会い、戦うことは、宿命だった」)
        (「それにしても、話が出来過ぎていた」)
        (「絶望の底の底まで、全員引きずり込まれていた。そうなったことも」)
        (「今、メルセフォーネに、不格好ながら笑顔を向けられたことも」)
        (「綺麗な、綺麗な、物語として、一本筋が通っている」)
        (────舞台の幕の裏側で、裏方として手引をした、功労者が居た。と、いうわけだ)

        (その者が、その者たちが果たしたのは、ただめぐり逢いを幇助することのみ)
        (それがこの宿命を齎した)
        (冷や汗で全身がじとりとする。“これが終わりではない”という事実が、不安となって絡みつく)

        聖杯戦争。
        僕らは。……このまま、立ち止まることを、きっと、許されない……。


        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-10 (木) 01:57:50
      • (彼女達の最後を見届けて)
        (静かに頬を濡らす雨も、止んだ事に気付くと、そっと踵を上げて、最後の涙の痕跡を拭う)
        (今の落ち着いた表情の彼に、差し込む朝日の様に、笑顔で居て欲しくて)
        (彼の言葉に、小さく首を振る『ううん』と、言うように)
        (空元気な笑顔だけれど……こんな戦いの後だもの。と、思う――……けれど、彼の笑顔が見れて嬉しかった)
        (廃墟と化した教会も)
        (幼馴染のサーヴァントも)
        (みんな、みんな彼の中の大切な想い出だから――……)
        (風に靡かれながら、物想いにふける彼に、何も言えず黙って空を見上げる)
        (ぼんやりと、空を見ながら思う)
        (今はまだ、蟲毒の壺に放り投げられた運命の渦中にあるけれど――……)
        (私達も、この空の様に……いつか、未来に光は差すのかな って)
         
        ………… ?
         
        (ひらりと舞う)
        (貴方の魔術に良く似た紙飛行機に、私は目を見開いて、静かに驚く)
        (だって……その紙から感じる魔力は――……)
        ("貴方"ではなくて『黒き創作者』の物だもの――……)
         
        (ぞわり――……と、底知れぬ悪寒が全身に走る)
        (キャスターの手元に来た紙を、彼が読んだ後に自分も手に取る)
         
        『……………………』
         
        (その手紙の内容を目の当たりにすれば、怒りの様な……けれどそれとは質の違う)
        (どうしようもない激しい感情が、心の底から湧き出そうになるのを抑えながら――……)
        (忌々しげに、その紙をぐしゃりと手の平の中で握り潰した)
        (『出来過ぎた話』)
        (『それも、全て結局は彼の中のシナリオで……彼の掌の中で踊らされていたという事か……!』)
        (昔の、過去の嫌な戦争を思い出す)
         
        ……私達は……!
        私達の、運命は――……
        貴方達のコマとして存在する訳では……決してない……!
         
        (奥歯をぎりり、と噛み締めて、過去の想いと、黒き創作者への憤りが混ざり合いながら)
        (その事を口にするのが精一杯でありながらも、思う)
        (彼が『私達の運命を、こう仕組んだ』という事は――……)
        (それは彼の手で創られた『私達の運命』という名の、彼の創作なのだ)
         
        ……戦争で、死にゆく人たちの命は
        貴方達の遊びの道具じゃない――……!
         
        (ベネディクタ達との戦いを終えて、彼の残した『偽の手紙』で)
        (聖杯戦争は、まだ幕を開けた事だけを)
        (過去の戦争と重ねながら、知る事となった) -- メルセフォーネ 2014-04-10 (木) 03:10:44
  • (莫大な魔力を費やして、乾坤一擲、渾身の一矢を繰り出した)
    (太陽の光そのものを固めた光速のレーザーを喩え切り払えども、恐らく重傷は免れない)
    (気配遮断にも不完全ながら対応ができた。本人の姿を視認できず、また殺気からタイミングを読めずとも、“来る”ことに変わりはないのだ)

    ……え?

    (然して、彼は緊張を弛緩させた。もう、矢は放たれた。それがいかなる結果を導こうとも、これは聖杯戦争である)
    (旧友の姿を砕き、滅ぼすことを理解していた。ジャックは魂の輪廻に戻り、夢は潰える。そう思って射った)

    (ステンドグラスの後光を背負い、《レイ》の残光の欠片を網膜に焼き付ける)
    (その光の中心部にある、信じられないような光景も含めて)
    (彼は、残像か何かを見間違えたのだと)

    え??
    な、に……?

    庇護(かば)う、そう表現するのは適切ではない。自分から死にに来たように思えた)
    (メルセフォーネの夢越しに聞かされた青ざめた肌の少女の姿は、流れ星の軌道上にあった)
    (闇が吹き出で、その影は唐突に現れた。そして貫かれる。いとも容易く、針で布を突き通すように呆気無く)

    (一瞬、「そう思い詰めさせるほどのことを、僕はしでかしたのだ」と、一番尤もらしい理由が、目の前の映像に裏付けられた)
    (赭き輝きと、少女の放った命令がそれを否定する)

    (──────この、悪夢のように苦しい戦いは未だ終わらぬのだと)

    何だって?

    (発言の意図を飲み込めぬままに、地上に降りる。傷痕に似た軌跡を残して、令呪の光はジャックに吸い込まれる)
    (彼は、凍りついたようにそれを見ていた)
    -- 打雲紙のキャスター 2014-04-05 (土) 21:54:11
    • (構えた斧の先、殺意の線を、どこから現れたのかベネディクタが身を挺して遮った)
      (動揺するのも束の間のこと。その意図を考える猶予は僅か)
      (紅い魔力に乗せられた呪言に、そういうことか、と納得して)
      (その強制力のままに、正気を手放した)

      (再び元の暗さを取り戻した大聖堂の中、男は立っている)
      (これほどやるのか、という感嘆に満ちていた胸中は、紅い魔力により感情が捻曲げられて生じた怒りによって漆黒に塗り潰されていく)
      (ベネディクタの胸を刺し穿つ光芒が、脳裡に幾度も繰り返される)
      (重なってゆく。自分のせいで死んでしまった、若き日の恋人と)
      (あるいは、冒険の中で命を落としたあの少女と)
      (純朴な彼女達とは似ても似つかない存在ではあった)
      (けれど、その絶望と諦念に暗く濁った瞳を見る度、どうにかしてやりたいと思った)
      (そこから流されたひとしずくの涙に、応えてやりたいと思った)
      (そのことは最早できないのだと、『思わされた』)

      (湧き上がるのは、殺した相手への、そして守れなかった自分への怒り)
      (大切なものを失ったことへの、喪失感、絶望、哀しみ、憎しみ―――負の感情が胸の内で綯い交ぜになってゆく)
      (様々な色合いの絵の具を、一つの器にぶちまけたように、やがてそれは一つになる)
      (漆黒の感情がその身に満ちてゆく)
      (―――殺さなければならない)

      (幾度この感情に染まったろう)
      (幾人をこの感情のまま殺したろう)
      (これこそが彼の生。この殺意こそが彼の宝具。《止まらざりし復讐者(ランバージャック)》)

      (立っているのは最早男ではなかった)
      (人のカタチをした真っ黒な殺意とすら呼べるモノ)
      (『それ』は、殺すべき相手を視界の先に認めると、ゆっくりと斧を構え、そして)
      (先ほどとは比較にならないほどの速度で駆けた)
      (動作こそ獣のようではあったが、獣では到達不能な速度だった)
      (打ち振るわれる斧は力強く、纏う死の気配をより濃くしていた)
      (その余波だけでも命を奪うに十分な威力がある)
      (斧の刃の届かぬ位置から、幾条もの死神の刃がキャスターへと迫りゆく) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-05 (土) 22:29:10
      • (聖堂の中、少女は艶然と微笑む)
        (真っ黒な殺意に染まった彼は、まさに彼女が求めた英雄だったから)
        (罪深く、躊躇いが無く、圧倒的な暴威で標的を狩り殺す)

        (―――そしてそれは、私のために彼が怒っているから)
        (私が死んだというのは令呪による誤認だとしても、そのことによって彼が復讐心を燃え上がらせるのは)
        (宝具が発動したのは、彼が私のことを大切にしてくれている証左だ)
        (そのことが、ひたすらに嬉しい)

        (誰かに大切にされているという実感を得て、この時確かに、彼女は胸の内に幸福を覚えていた)
        (それが邪に歪んだものであったとしても)
        (彼女は彼の役に立ちたいと思った)
        (これはもう二人の戦いなのだから、一緒に戦いたいと思った)
        (今の彼には自分が見えていないとしても、その手助けをしたかった)
        (そう思うのは何故なのだろうと、少し考えて、やがて結論に行き着いて、くすりと笑った)
        (きっとこれが、愛情なのだと)

        (傘を広げ、天に翳す)
        (神を讃えるステンドグラスの光を厭うように、遮るように)
        (月光の陰から少女は叫ぶ。彼女に為しうる最も強き呪いを)

        愛欲者よ、貪食者よ、貪欲者よ、憤怒者よ、異端者よ、暴力者よ、悪意者よ、裏切者よ
        高慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、色欲、怠惰、あらゆる罪源によりて罪業を宿せし迷い奴よ
        此処は汝らの楽園、痛苦無き場所、安寧なる地
        星なき空、常暗の空、神座さぬ空に、歓びの聲、はげしき喝采を響かせよ

        顕現せよ―――――固有結界 《大罪者の庭》

        (空間が漆黒に塗り潰される。これは彼女の心象風景)
        (其処は紅の雨が止むことなく降りしきる常夜の荒野)
        (ここは大罪者の赦される場所。彼らに許された安寧の地)
        (罪を犯した者だけを夜闇が慈母の如くに抱擁し、彼らにその力を注ぎ込む)
        (潔白なる者は紅の雨に打たれて力を喪い、やがて罪の色に染まってゆく)
        (悪為す者を赦し、善なる者を憎む、ここは彼女の世界。その呪いで、神への憎しみで、礼拝堂を染め上げる) -- ベネディクタ 2014-04-06 (日) 01:09:49
      • (呪いが彼に力を与える。漆黒の意志が重なって、より強い殺意を燃え上がらせた)
        (移り変わる風景にも、何の感情を浮かばせない。それが標的を殺すのに障害となるものでさえ無ければいい)
        (紅い血液の雨に打たれて、横殴りに降る燃える鋼鉄の雨が力を奪われ、その火力を、勢いを減衰させてゆく)

        (一刹那に幾度振るわれたものか、それこそ雨粒を払うように軽々と、弾幕が分解されてゆく)
        (火口より噴出する無数の火山弾にも似た炎上する鋼鉄の編隊は、それが善なる者によって放たれたもので在る限り、この空間ではその程度のものでしかなかった)
        (その破片がその身を傷付け、血を流させても、紅の雨がそれを洗い流して、むしろ傷口から魔力を浸透させた)

        (鋼鉄の編隊を全て払いのけると、瀕死の青年に向けて、悠然と歩き出す)
        (歩を進めながら、鈍く光る鋼鉄の斧を漆黒の天に翳す)
        (それはさながら死神の鎌を思わせた)
        (一片の慈悲も容赦も情けも無く、ただ命を奪うだけのもの)
        (穂を薙ぐようにそれをするか、木を伐るようにそれをするかの違いしかない)

        (黒目が見える距離まで近づいた時、その表情が露わになった)
        (およそ人間の浮かべる顔とは思えない、さりとて獣のようですらない、蛙を睨む蛇、雄牛を捕える獅子でさえもこのような顔をしない)
        (それは麻酔でもなければ、威嚇でもなかった)
        (見た者を視神経から浸食して、脳髄を絶望に染めるような貌だった。ただ絶対の死を告げる顔だった)

        (宣告は終わり、私刑が始まる)
        (ただ踏み込みとともに血塗られた斧を打ち下ろすだけの刑が)
        (その頭蓋を柘榴のように叩き割ることだけを望んで)
        (標的を決して逃がさぬように、逃れられぬように。音も無く、闇色の光のように)
        (奪われたから奪い返すという、単純明快な摂理の元に。例えそれが偽りであっても)

        (復讐が、執行される) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-06 (日) 01:10:11
      • …………っ!
        (彼女の言葉に、強く心を揺さぶられるが――……同時に、それは真っ当な答えでもあるのだ)
        (秤にかけて、自分と彼女、そして彼女達とキャスターを秤にかければ……自分の秤だって、自身とキャスターの方を振れるのだから)
        (この争いに勝ち残れるのは一人だけ――……それは分かっている)
        (けれど、あの子(ベネディクタ)の事を知る度に、彼女の不幸を痛感するほどに……あの子に幸せが訪れて欲しいと思ったのも事実)
        (だけど――……)
         
        …………何? どう、いう……事……?
        (彼女の対立以上に――……彼女の令呪と共に発せられる命令に、耳を疑う)
        (『貴方は、何を言っているの……?』)
        (そう言おうとして、言葉が出ない 理解したくない、受け入れたくない彼女の台詞に身体と心が凍りつく様な感覚を全身に受ける)
        ……何――……を――……
        (ぐらりと、揺れて竦みそうになる足元を、何とか耐えて……続く呪文に、また彼女が何をしているのか、受け入れたくなくて頭が真っ白になる――……)
        どう…… いう……
        (理解が遅れながらも問いながら――……ぞっとするようなジャックの殺意にハッとして、振り向く)
        (同じこの場に、離れて居ても、全身の震えや恐怖の拭えない程の凄まじい死の恐怖――……)
        (生きながら、本物の死神を目の当たりにしている様なおぞましさ)
         
        (それ以上に、私を現実に戻したのは――……)
         
        !! キャスタぁぁぁぁぁぁぁっ!!
         
        (断末魔の様な、叫びを上げる自身のサーヴァントの姿――……一体あの空間で何が起こっているというの?)
        (理解したくなかった、いえ 目を背けて居たかった現実も 全て全て彼の声で眼が醒める)
        (彼と自分の間に、マスターとサーヴァントという絆があるせいか)
        (自分の持つ、元より感受性が高く、他者の感覚も共有してしまう性質があるせいか――……)
        (キャスターの苦しさと、痛み、純粋たる殺意に飲まれる死の恐怖を目の当たりにして……)
         
        あっ…… あぁぁぁぁぁ……
        (涙を流しながら、胸の前で手を組んだまま、ぐらつく足元がへたりこむ)
         
        (『ごめんなさい……! 貴方は全力を持って、私を助けてくれたのに!』)
        (『ごめんなさい……!! 全て貴方に委ねて、私は甘えていて――……っ!』)
        (『ごめんなさい……!! 貴方を頼りにしてばかりの、無力な私でごめんなさい!』)
         
        (そして、更に続く彼女の呪詛――……呪いの様な穢れで周囲を覆い、聖域を神の存在しない漆黒の空間へと染め上げられ)
        (鮮血の様な雨が降り注ぐ荒野と変化し、自身のキャスターへ罪人の様な惨い呪詛をかけられるのを見れば)
        (彼女へ抱いていた、優しさ、幸せになって欲しい気持ちも……ぐらついて揺れる想いも完全に固まる――……)
         
        貴方の事は、幸せを掴みたい気持ちとどうにもならない苦しい過去を見て
        貴方に幸せな結末は訪れて欲しいと思ったわ――……
         
        けれど――……
         
        キャスターにあんな酷い仕打ちをするのは赦せない!!
         
        キャスター!!
        (ルビーの様に輝く令呪を発動させながら、彼の方へと顔を向ける 『負けないで!!』と、心の中で強く呼びかけながら)
         
        '令呪によって貴方に命じる――……カー・ファイン先生!!
        私は貴方に救われるのを信じてる! 貴方を信じる私の祈りが……貴方への力へとなって!
        ' 
         
         
        (そして――……貴方がそうやって手を出すのなら……)
        (私は――……!!)
         
        (祈り、願い、信じる)
        (雄羊から始まり、魚で終わるサインは……全てのサインを呑みこみ、混沌としているサインであり、癒しや混乱を招くサインでもあり)
        (魚座は、太陽の日差しの様な、この闇を晴らす強い光の強さも無く、冬の最後であり、春の再生を待つサインで、この場を覆す輝きの強さは存在しないが――……)
        (『憐れみと贖罪の星座』であり、自己犠牲をも示し、そこには涸れる事の無い涙と愛があるのだ)
         
        (祈る)
        (夜明けの様に、闇への終焉を貴方には届けられない……けれど――……!!)
         
        "貴方の『善の行いを知る』私が、貴方に救いがある様に――……!!"
        "結界の中で、貴方を苛む贖罪と罰を、貴方の代わりに全て私が引き受ける!!"
        "だからどうか! 罪と罰に染められた空間の中でも、貴方は神の居ぬ地での贖罪から解放されて――!!"
        "貴方に まやかしの原罪は降り注がないで――……!"

        (祈る、彼の為に)
        (祈る、彼の代わりに成らん為に)
         
        (一緒に貴方と戦えるような、強いマスターで無くてごめんなさい)
        (これは、私にできる精一杯の、貴方への献身)
        (キャスターへの痛烈な贖罪の非難も)
        (ベネディクタの心の闇も)
        (全て全て――……私が引き受ける!!) -- メルセフォーネ 2014-04-06 (日) 04:17:52
      • (罪咎の漆黒で染まる聖域、罪過の血の雨)
        (彼女の心の象徴であり、具現化された聖域の中の闇、彼女の心に宿る罪悪を全てその身に引き受ける――……)
        (自分の中に、彼女の罪科と苦痛、心の叫び――……あらゆる過去と不幸と闇が自身の心を侵食していく――……)
        (流れ込む想いや心の闇が、苦しくて苦しくて――……)
        (耐えきれない程の苦しみに、私は涙が止まらない)
         
        (けれど――……)
        (私はキャスターに全てを委ねてばかりいて……頼ってばかりだけれど)
        (貴方が私の剣となり、生きる希望を与えてくれるのであれば)
        (私は貴方の盾となり、戦いで受ける傷を私が受け、貴方の立ち上がる力になりますように……)
         
        (それは、キャスターだけでは無くて)
        (あの子(ベネディクタ)の過去を見て、本当に心の底から彼女に幸せを願ったのだから)
        (貴方の心の闇も、私が引き受ける――……)
        (結果として、私は貴方の希望を砕き、絶望を与えてしまう事になるけれど――……)
        (貴方の事も、貴方の心の闇も、決して忘れない)
        (髪の毛の1本たりとも、貴方の存在を決して片時も忘れない)
         
        (闇が、私の中に流れ込んでくる)
        (黒が、私の中に渦となり、鬩ぎ合う)
         
        (全てを一心に受け止めながら……浄化と、貴方の苦しみが心の中に流れ込む悲しさに、私は涙が止まらない)
        (私が涙を流す程に、私が貴方の心を自身の心へ注ぎこむほどに)
        (固定結界の闇は消えて、浄化し……穢れ無き白い輝きに染まっていく)
          
        (涙が溢れて止まらない)
        (彼女の心の闇は、貴方の過去を見て知っているけれど――……)
        (それを受け止めて、貴方の存在を自身の心の中に、彼女の全てを受け入れるというのは――……)
        (あの子の心の闇を受け止めるのに等しくて――……)
        (じわり、じわりと私の心は黒く染まっていきながら……)
          
        (キャスターのトゥール・ハンマーによる強烈な雷撃で、世界が神の裁きの様な、輝きに染まるのを見ながら願う――……)
        (――……どうか、どうか――……)
        (ベネディクタちゃんの心の闇にも……光が差し込めますように と) -- メルセフォーネ 2014-04-07 (月) 01:20:16
      • (確かな手応えがあった。だが、『等しき死』を与えるには少しだけ足りない)
        (普通の人間でも、まだ辛うじて『生きていられる』傷だった)
        (もう一閃、放とうとしたとき、何かが彼を鈍らせた)
        (それは令呪というカタチで発揮された、少女の祈りが為したもの、きっと彼らの絆の力)
        (黒と紅の世界が、真っ白に塗り潰されてゆく)
        (純白の世界で、少女の呪詛も、アサシンの怨恨も打ち消して、青年が白紙に戻ってゆく)

        (だが、それがどうした)
        (自分はあの少女を弔わなければならない)

        (白紙の世界を黒い疾風となって駆ける)
        (今度こそその命を奪うために)
        (渡り鳥の群れのような、飛来する紙飛行機の大隊が迫る)
        (先導するのは一つだけ形状の異なる紙飛行機。恐らくは、それが要なのだろう)

        (湧き上がる紫電が集束してゆく。鳥の群れが、一羽の強大な雷の巨鳥へと)
        (それはさながら神の鉄槌の如き暴威を振るう、だが、無謀なほどの電圧を前にしても彼は退かない)
        (咆吼をあげて、真っ向からそれに立ち向かう)
        (どのようなものが立ちはだかっても、決して彼は殺意を止めない)

        (雷光に染まる白い世界で、紫電と漆黒が交錯し、弾けた)
        (神の雷は止まらずに、黒い世界の残滓ごと、黒い影を打ち砕いてゆく)
        (殺意を、怨恨を、清廉な光が打ち払ってゆく)

        (やがて雷に追い着いた轟音が、戦いの終局を告げる鐘となった)


        (白光が晴れたとき、礼拝堂の床の上、月光を三色に切り分けたステンドグラスの光の下、打ち棄てられたように、男の姿があった)
        (肉の焼ける匂いに包まれながら、黒く焦げた左腕をぶら下げて、支えにもならない筈の両脚で肉体を引き起こし、握力など無いはずの右腕に斧を握って、幽鬼のように立ち上がる)
        (彼の復讐は、彼が死ぬまで止まらない―――それが真のものならば) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-06 (日) 23:01:49

      • (私の世界が書き換えられてゆく。忌々しい、清廉で潔白な色に)
        (膨大な電圧が放たれる。神の如き威光が、私の英雄を、神さながらの残酷さで飲込んでゆく)
        (漆黒の闇が、討ち払われてゆく。砕け散ってゆく。彼が。希望が。)

        (悲鳴を上げた)
        (この世の全てが無くなってしまうときに、きっと人はこんな声をあげるのだろう)
        (得られなかった幸福が、追い求めた未来が、再び手の届かないところに消えていってしまうことへの痛苦が満ちて)
        (幼いままの肉体に、心に、入りきらずに、圧力のままに溢れ弾ける)
        (断末魔よりも哀しく、もっと生きたいという願いよりも、ずっと切実で悲痛な叫び声が)
        (遅れて届いた、雷の巨鳥の羽音に掻き消された)

        (大粒の涙に濡れた瞳で、未だ戦意を喪わずに立つ彼を認める)
        (その肉体は死の気配に満ちて、執念が動かしているだけの状態だった)
        (例え戦わせたとしても、もう勝ち目など無いと、その斧は青年の命に最早届かないと、一目で知れた)
        (私の幸福は、喪われてしまった)
        (胸の裡を、絶望と空虚が満たしてゆく)

        (よろよろと、傷ついて尚立ち上がろうとする彼に近づいて)
        (ぼろぼろになった彼を、がらんどうの心をおさめた胸で、背中から抱きしめて)
        (涙混じりの声を絞り出す)

        もういいの。
        貴方はこれ以上戦えない。戦っても、勝てない。

        (令呪の効力は、その誓句にあった通り、『戦いの決着まで』)
        (命令の主が終局を告げることで、彼は正気を取り戻し、焼け焦げた膝を床に落とした)

        (すまなそうに視線を向ける彼に、そっと笑いかけた。目尻から涙を零しながら)
        (これは彼の望んだ戦いだった。それで力及ばず負けても、それで私の願いが潰えても)
        (責めることはしない。ただ暖かく包み込む)
        (望んだのは彼、受け入れたのは自分。これは二人の戦いだから) -- ベネディクタ 2014-04-06 (日) 23:04:25
      • (《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》が、雷光の轟の中で《トゥール・ハンマー》がアサシンを撃ち貫くのを確認した)
        (彼の心中は杳として知れない。僕はとても、とても哀しくなった。勝利を片手に、メルセフォーネの思いを片手に。なのに、微塵も嬉しくなんてなかった)
        (固有結界で形作られた心象風景が、夢が、目覚めの時を迎える)
        (ベネディクタの願いは消えた)
        (メルセフォーネから聞かされたことを、できるだけ考えないようにしていたけれど)
        (消えた。「あの願いが」「あの願いを、僕が、消した」)
        (テメノス孤児院の床を改めて踏みしめる。床板が軋む。ぎぃ、と一つ泣き声を上げる。崩れた柱が作った瓦礫が、戦いの痕跡をありありと残している)
        (幽鬼の姿をして立つジャックに、戦慄する。悪夢は終わった。あの直撃でまともに立って居られる筈もなく、心核を砕かれて既に消えたのだと思っていた)
        (彼は、悪夢から抜け出たように立っている。焼け焦げて醜悪に崩れた身体にはなんの力も残っていないのに、その傷の大きさのぶんだけ強さを増しているように思えた)

        (ベネディクタが駆け寄って、ジャックを抱きとめる)
        (戦いの終わりが、他ならない彼女の口から告げられると、憑き物が落ちたようにジャックの瞳から殺気が抜けていく)
        (本当に身勝手な話だけれど、二人の姿を見て幾らか救われる)

        ……。
        (「だって、なんて言葉をかけたらいいか、わからないんだ……」)
        (手と、指先が震える。両手を握りしめる。強く、強く。握りこむ。血が滲む。涙が目に溜る)

        (遠からぬうちに、ジャックは消える。もう、今にもそうなっておかしくない)
        (幼馴染、という、言葉が。頭によぎる。友達とか、一言では説明しきれない間柄の、ジャックと、カー・ファインや、みんなの関係性が、頭に過ぎる)

        (「みんなは、今の僕らを見てどう思うのだろう?」)
        (影と同化する影の薄い奴とか、ワケあって女装してるとか、額に三つ目の目があるとか……)
        (悪魔に憑かれているという設定の単にアルビノで身体の弱い奴とか、そもそも生き物なのかなんなのかわからないナマモノとか……)
        (魔法少女とか妖精とか、魔剣使いで人外になっちゃった奴とか、身体に口が三つあった奴とか……)
        (いろんなヒトが居たから、“英霊”ってぐらいじゃ驚きもしないだろうけれど)
        (同じ幼馴染同士殺し合ってるなんて、そんなこと、聞いたら、きっと、驚くだろう)
        (「心の中にあるみんなの顔が、怖くて、見れない」)
        (すぐ最近に、懐かしさを抱きながらジャックと再会したことが、嘘のようだ。あの懐かしさも、嘘のようだ)
        (涙が溢れた)

        (この手で、射ったジャックは敗残を体言しながら、ベネディクタのそばに居る)
        (月光は、朝陽に変わりつつあった。ぼんやりとした曙の光がステンドグラス越しに、二人へ注いでいる)

        全力で。
        僕だけの力じゃない、全力で、アナタを斃しましたよ。ジャックさん。
        ……僕の、勝ち、です。

        (苦味を噛み締めながら言う。言葉のひとつ、ひとつが、喉につかえる。そのたびに苦しみ、心が痛む)
        (だけれど“聖杯戦争”の勝者たるゆえ。ベネディクタとアサシンへの敬意のゆえに、彼は、そう言わざるをえない)
        (「本当は戦いたくなかった」)
        (なんて、口が裂けても言わない。それは、自分が楽になるための言葉でしかないから)
        (「僕は、心の底から勝ちたいと思って戦って、勝った」)
        (「それで、いいんだ」)
        (「この場に居る、誰にとっても……そうでなくちゃ、ならないんだ」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-07 (月) 02:47:14
      • (世界が純白に覆われて、神の審判により刑罰を処されるように)&br: (高潔なる神の世界にて、罪人を赦されないかのように)
        (黒の疾風の死神を紫雷と共に打ち砕いてゆく――……)
        (全ての終焉を告げる鳴動により、私達と彼らの戦いに幕は閉じられた――……)
         
        (ステンドグラスから、いつの間にか暗い夜を覆っていた雲が晴れて、夜明けの輝きが降り注いで)
        (悪夢の様な戦いは終わり、テメノス孤児院にその爪痕を残しながら――……)
        (私達は、勝利した)
         
        (……本来なら、喜ばしい事の筈なのに)
        (私は、キャスターと繋がれた鎖は保たれて、それを勝ち取れて嬉しい筈なのに――……)
         
        (こんなにも胸が苦しく、嫌な悪夢から未だ冷めない様な想いに取り憑かれているのは)
        (何故?)
         
        (彼女がジャックの元へと駆けていくのを見ながら、私も重苦しい足取りでキャスターの傍に寄り添う)
        (――……ああ、私は)
        (あの子の心の闇と、どうしても叶えたい願いを知りながら)
        (あの子の幸せは聖杯以外に無いと知りながら)
        (あの子の希望を打ち砕いてしまった――……)
         
        (彼女が最後の別れを、彼とする姿が……あまりにも痛々しく胸を締め付けて)
        (また、いつか私にも近い未来に訪れる可能性の姿である事からも)
        (見ているのが、何より辛くなる光景だった)
         
        (ふと、隣のキャスターを見れば……彼の手が、震えていて)
        (涙が溢れていて――……)
        (私は、彼の震える手に、そっと自分の手を重ねた)
        (――……彼の表情を見れば、様々な過去の想い出や、複雑な現在の原罪が彼を苦しめているのが、わかるから)
        (そっと、彼の流す涙をハンカチで拭う)
        (かける言葉が見つからない……だって)
        (私があの子と戦いたくない以上に)
        (貴方の方が、ずっとずっと想い出を重ねて来たジャックさんと戦いたくなかったでしょうから……)
         
        (彼の、苦虫を噛み潰した様に発せられる『勝利宣言』に、私は俯いたまま何も言えないままだった)
        (勝って、貴方がこうして隣に居てくれる事は とても嬉しい)
        (勝って、聖杯戦争の道を一歩進んだという事は――……願いにもそれだけ進んだ筈だというのに)
        (『私達、本当に勝ってよかったのかな?』って、ジャックに駆け寄るベネディクタを見ながら……一瞬だけ、胸を掠めてしまった想いを振り切る)
        (――……それは、自分だけじゃなくて いえ)
        (ジャックやベネディクタ以上に……何よりも全力を以て、辛い想いをしながらも勝利を得てくれたキャスターに失礼だから)
        (なのに)
        (勝って嬉しいとも、良かったとも……思えないのは……何故?)
         
        (きゅ、とキャスターの服の裾を、力弱く握りしめて……ベネディクタとジャックの最後の時を見ながら)
        (ぐるぐると――……ぐるぐると――……複雑な思いが胸の中に渦巻いていた) -- メルセフォーネ 2014-04-07 (月) 22:52:55
      • (令呪の影響から逃れた男は思う)
        (全力を出しても及ばなかった。それほどに青年は強かった)
        (彼の紙飛行機の技はそれほどの域に達していた)
        (ベネディクタの令呪によって宝具を発動した自分でさえも、彼は打ち倒してのけた)
        (男は心の内にどこか、満足感を覚えていた。若者の成長を目にした年長者が覚える充足、あるいは感慨)
        (青年が苦々しく、どうにか吐き出した勝利の言葉に、心の中だけで自嘲した)
        (すまない、という言葉を噛み殺す。その言葉は、彼に対しては言ってはいけない)
        (彼の示す敬意を、穢してはならない)

        ああ。お前の勝ちだ。

        (それだけ言って、苦笑して息を吐く。負けは負けだ)
        (自分は遠からず消え失せる。それは少女が聖杯を手にする権利の消滅も意味する)
        (自分の我が侭の結果がこれだ。自分を抱く少女を見やる)
        (その涙を、焼け焦げた指でそっと拭ってやって)

        ……すまねえ。負けちまった。

        (掠れた声を絞り出して、謝罪すべきは彼女にだ。それが赦されるかもわからない)
        (その他に、この少女に何と声をかけてやればいいのだろう)
        (従者として短からぬ時間を過ごした自分でさえも、それがわからない)
        (暖かい笑みを浮かべる白皙の顔には、幾筋もの涙が流れている)
        (最初に出会った時に零した涙を思い出す。その源の、暗く紅い瞳も)
        (共に過ごす中で感情の光を取り戻しつつあったそれは、笑みとは裏腹に、今や深く静かな暗黒を孕んでいて)
        (瞳を通して、その空虚が胸の裡に入り込んでくるような思いがした) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-07 (月) 23:34:39
      • (ステンドグラス越しの光は、朝日に変わっていて)
        (悪しきものは討ち払われなければならないと、咎人の勝利を神様が否定したみたいだった)
        (その下で、謝罪の言葉を述べるジャックに優しく笑いかける)
        (自分の目には勇敢で一途に映った戦い振りを労うように、彼の想いを慈しむように)

        いいの。言い出したのは貴方でも、受け入れたのは私。
        二人で戦って、二人で負けたのだから。

        (臨死の苦しみが表情に浮かぶ彼の身体を、そっと横たえる)
        (彼の頭を膝に乗せて、逆さまに顔を覗き込みながら)
        (静かに、最期の時を過ごす)

        ねえ、ジャック。貴方の我が侭をきいてあげるかわり、
        私の我が侭もひとつだけ聞いてくれるって、約束したわよね。

        (既にそのための猶予は、彼が消えてしまうまでの僅かな間しかない)
        (二人ともそれがわかっていて、頷きの視線が交わされる)

        私と最初に会った時のことを覚えてる?
        貴方がした『何故俺を選んだ』っていう問いへの、私の答え。

        (『探したの。罪と悪徳に塗れていて、けれど子供には優しい人を』)
        (この街の歴史を隅々まで探して、探し当てた冒険者。私だけの英雄)
        (本当にその通りの人か、とても心配だったけれど)
        (それはその後過ごした日々で、確かめられていった)
        (真実、彼は罪深く、怠惰で、酒を食らい、眠りを貪り、強くて、頼りになって、そして優しかった)

        私は、私が望んだ通りの人が出てきてくれて、とても嬉しかった。

        (慈しむように、愛おしむように、彼の髭だらけの頬を撫でる)
        (その感触を、かたちを、掌に刻み込むように)


        でもね、あれには続きがあるの。


        (そう。彼は本当に、私が望んだとおりの人だった)
        (これから彼に告白することも含めて、真実、すべて)


        私が望んだ英雄は、

        罪と悪徳に塗れていて、けれど子供には優しくて。


        ―――そして、私を殺せる人よ。


        (破れた胸元から覗く令呪が、光を帯びる)
        (これが私の、最期の我が侭)


        ―――令呪を以て命じる。
        ジャック・ヴィールズよ。 その斧で、私を殺せ。


        (どんな者でも殺してのけた彼の逸話が結晶化した、あらゆる存在に『等しき死』を与える英霊の宝具)
        (それならばきっと、私を殺せる)
        (この苦しみに満ちた生を終わらせられる)
        (忌むべき吸血鬼として殺され続け、そして殺し続ける、いつ終わるとも知れないあの日々に、また戻るのは嫌だから。耐えられないから)
        (もしも途中で夢破れて聖杯への望みが絶たれたときに、最低限、私を終わらせられるように、私は保険をかけていた)
        (私を殺せる手段を持つ彼は、まさに私の英雄だった)

        (地獄への道行きも、貴方と一緒なら怖くはない)
        (いや―――貴方のいうことが本当なら、地獄なんてないのかもしれない)
        (それならそれでいい。安らかな眠りがそこにあるから)
        (どちらにせよ、生きているよりは苦しくないから)

        (だから)

        お願い、ジャック。
        ―――私を、殺して(救って)。 -- ベネディクタ 2014-04-07 (月) 23:35:50
      • (吸血鬼としての姿に戻った彼女の身体は冷たいはずなのに)
        (頬を撫でられると暖かかった)

        (すまない、という言葉が、その慈愛に溶けて消えた)
        (罪がなんだと叫んでいても、彼女は結局、優しいのだ)
        (そもそも自分はアサシンなのだ。それを活かせば、もっと非道いことを出来たはず)
        (殺せた機会だっていくつもあるのに、戦った相手より仲良く話した相手の方が多くて、ほとんど友達みたいになってしまって)
        (だから、そんな彼女から、『私を殺せ』などという言葉が出てくることが)
        (それを言わせているのが自分の敗戦故だということが)
        (己の胸の内に、張り裂けそうなほどの痛苦を与えて)

        やめろ。

        (絞り出すように、短く、言葉を紡ぐ)
        (紅の魔力が突き動かす命令に、必死で抗う)
        (持ち上げられた斧が、彼女の首に向けられたまま、震えて止まる)
        (自分の意志とは関係なく動く肉体を、歯を食いしばり、その意志力で食い止める)

        (確かに、我が侭をきくと約束したのは自分だ)
        (これは確かに我が侭だ。だが自分は、お願いを聞いてやるくらいのつもりでいた)
        (有無を言わさぬ『命令』が、我が侭の範疇に入るだろうか)

        (時間は長くは保たない)
        (だが、彼女にどういう言葉をかければ止まるのだろう)
        (生きていればまた機会がある?あるいは、戦争の最中でさえ友人が出来たように、生き直すことも出来る?)

        (敗北した自分の口からそれを吐くのは、欺瞞でしかないように聞こえる)
        (そうやって背を押すだけ押して、消えて無くなることの何と無責任なことか)
        (だが、自分は殺したくはない)
        (自分の手で、大事なものを殺せない)
        (―――カー・ファインの命ですら、自分は奪うことができなかったのだ)
        (俺は、殺し屋には戻れない)

        やめろ。
        ―――……やめてくれ。

        (だから、こんな言葉しか吐けない)
        (目の前の少女に、それだけはやめてくれと、懇願するしかできない)
        (これまで幾度となく命を奪ってきたのに)
        (『殺さないでくれ』と乞わない覚悟はあっても、『殺させないでくれ』と願わない覚悟は無かった)

        (優しげに笑む少女の底無しの紅瞳が、俺はこんなにも恐ろしい)
        (彼女の口から、膠着を破る言葉が続くのが怖ろしい) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-07 (月) 23:36:22

      • (キャスターの固有結界によって、再び世界が白く迫ってゆく。それは心と心を繋げる力)
        (ここは心の世界。現実にはほんの一瞬ではあっても、数多くの言葉を交わすことが出来る)
        (無数の手紙が降り積もる真っ白い空間の中で、苦しむ男を見つめて、琥珀金の少女は叫ぶ)

        「どうして、私を殺してくれないの!?」
        「だって、貴方は幾人と殺してきたはず」
        「なんで私なんかで、そんなに―――苦しそうな顔をするの!」
        「貴方なら、躊躇わずに終わらせてくれると思っていたのに!!」

        (張り裂けそうな胸の裡の衝動を吐き出して、泣き叫ぶ)
        (男が顔を上げる。この状況をもたらした青年に、内心で感謝の念を浮かべる)
        (この空間の中では、時間の流れが現実とは随分異なるらしく、そのせいか、令呪の強制力に抗わずに済むらしい)
        (まともに言葉が交わせるとなって、少し落ち着いた)
        (少女の頭を優しく撫でる。少女への答えは、決まり切っていた)

        「俺には、大事なものは殺せない」
        「お前と同じだよ」

        (白い空間の中、男は言葉を紡ぐ。ゆっくりと諭すように)
        (はっとして目を見開く少女を逃すまいと、正面から見据えて)

        「俺は歳をくって丸くなっちまっただけだが、お前は根っこのところで優しいんだ」
        「自分のことを救いようがない化物だって思い込んでも、それは違う」
        「お前が本当に、自分でいうような悪人なら、一緒に菓子を食ったあの子も、公園で月を見たあの子も、そこでお前をみてるあの子だって」
        「とっくに、殺しちまってるはずだろう」

        (やめて、そんなんじゃない、私は殺せる)
        (譫言のように呟きながら少女は頭を振る。向けられた懐疑を身から振り落とすような仕草だった)
        (それを向けられたら壊れてしまう。糊塗してきた何かが剥がれ落ちてしまう)
        (その『何か』の正体は、もう自分でわかっているのに、それを認めたくなくて、少女は必死でそれを否定しようとする)
        (しかし、男はそれを赦さない)

        「お前が自分の力を隠して血を吸わなくなったのは、本当に目立たないように身を隠すためだけか?」
        「人を食うなんてしたくなかったんだろう。誰も殺したくなかったんだろう」
        「だってお前は、ただの女の子に戻りたかったんだろう?」

        (目の前の少女は優しすぎるのだと、男は思う)
        (心を罪で塗り固めて、罪悪感で自分を罰して)
        (自分を『悪』と断じて、非情になりきろうとして、それが出来ていない)
        (父親を殺した。いくら気が違っていようが、自分の娘を抱こうとする父親なんざ、殺したって構うものかと男は思う)
        (それで自殺して、吸血鬼なんてものになったって、所詮は運命の悪戯でしかない)
        (吸血衝動に負けた。それが何だ。お前は子供だ)

        「子供のくせに、一丁前に責任なんざ取ろうとすんじゃねえよ」
        「どうしようもなかった。それでいいじゃねえか」

        「まだ15年も生きちゃいねえのに、人生に見切りなんてつけるんじゃねえ」

        「目の前にいる人殺しのろくでなしは、50年も生きちまったけどよ」
        「それでも、少しは楽しく生きられたぜ」

        (大事なものを無くしちまって、殺しに明け暮れて、その後は酒と煙草と博打に溺れる日々で)
        (30が過ぎて、気がついてみれば、同世代の連中はほとんどいなくなっちまってた)
        (だが、ガキ共と戯れる日々も、あれはあれで悪くなかった)
        (酒飲みに、割れ眼鏡に、娼婦の娘に、無邪気な世話焼き。個性に溢れたガキ共が、やいのやいのと)
        (―――あの頃は、改めて思い出せば確かに―――楽しかった)
        (この感情も、この空間ならば、きっとそのまま伝えることが出来る)

        「だから、もう少し生きてみろよ」
        「それでもどうしても辛いことしか、苦しいことしかなかったら―――」
        「コイツを使え。俺なんかに頼らずに、自分で始末をつけろ」

        (心象世界で、彼の得物、あらゆる者を、真祖である少女でさえも殺しうる決殺の斧が、差し出される)
        (この世界にいられるのも、もう長くはない。現実では着実に時間が経っている)
        (男の肉体は、少しずつ消え始めている)

        (消失を目の前にして、少女は涙をこぼす。涙の性質は既に違っていた)
        (絶望の涙ではなく、別離の涙。大切な人と別れなければならない時に流す涙)
        (少女が母親のベッドの脇でひたすらに流したあの涙と、同じものだった)

        「でも、その斧は貴方といっしょに消えてしまうでしょう?」

        (男は、黙ったまま、少女の胸を指し示す)
        (未だそこに残る、一画の紅を)
        (気付かされて、少女は笑った。目尻から涙を零して)

        「勝手な人だわ。もう消えてしまうからって好きなことを言って、私を一人にしてしまう」

        (少女が纏う雰囲気はどこか透明で、何か憑き物が落ちたみたいだった)
        (彼女を凝り固めていた何か、心の芯をセメントのように覆い固めていた何かが、取り去られたようだった)
        (少なくとも、男に命じて自分を殺させるような危うさは無かったし、窓から差し込む月光と闇との境目のような、仄暗い気配は帯びていなかった)
        (泣きながら無理に笑顔を浮かべる様子は、歳相応にあどけない)

        (二人の笑みが交わされる)
        (白い世界は、そこで弾けて、消え失せた) -- 2014-04-09 (水) 01:10:14

      • (再び元の姿を取り戻した礼拝堂で、斧を構えたまま消えようとする彼を抱きしめて)
        (少女は粛然として、誓言を紡ぐ)
        (耳元で囁かれるそれは、ひとつの契約が成った証だった)


        令呪を以て命じる
        ジャック・ヴィールズよ その斧を、私に遺せ


        ―――いつか私が逝くときまで、待っていて。
        地獄に堕ちるとしても、貴方と一緒なら、苦しくないから。

        だから、ジャック。いつか(・・・)また、逢いましょう。


        (男は最早、声をあげられない)
        (小さく頷いた気配だけを伝えて、この世から完全に消え去った)

        (傷ついた男の肉体が、魔力となって空間に溶けて消える中、その斧だけが消失しない)
        (令呪の魔力によって、所有権が彼女へと移る。その斧は、最早彼女のものだった)
        (それを重さなどないかのように拾い上げると、メルセフォーネと、キャスターを順番に見やる)

        (その瞳に最早闇は無い)
        (ステンドグラス越しの朝日の下、紅の瞳を細めて、そして清澄な笑みを浮かべる)

        (その唇が、最後に何事か囁いて)
        (朝霧のように儚く、日射しに溶け失せるかのように、彼女は姿を消してしまった)


        (―――『ありがとう』)
        (彼女の唇は確かに、最後にそう言っていた) -- ベネディクタ 2014-04-09 (水) 01:10:32
      • (彼の涙を拭いながら、初めて見る彼の子供の様な姿)
        (――……無理もない、幼馴染として、ずっとずっと過去を重ねて来た人と戦って)
        (夢の中で少し出会ったマスターの事を、少しばかりお話ししただけとはいえ――……)
        (私も彼女と戦うのは苦しく、辛さに胸が張り裂けそうだけれど――……)
        (優しい貴方には、そして、彼の事をよく知っている貴方には……この戦いが、この結末が……全てが、辛過ぎる出来事だと思う上に)
        (今正に、最も聖杯戦争の酷な一面を垣間見せられれば――……尚更ここから目を逸らしたくなってしまうから)

        辛すぎる 目を逸らしたい
        (いいえ 逸らしてはいけない)

        (涙を零す彼の涙を拭いながら――……自分も流れそうになる涙を堪える)
        (嗚呼――……駄目)
        (気が少しでも緩んだら、双眼は涙で溢れて、視界が滲んでしまうのに)
        (少しだけ彼……キャスターの過去、彼の母や兄弟との別れ……そして最期に満足に言葉を交える事の出来ない悲しさ)
        (その時に流した涙と後悔が……セピア色に染まった、アルバムの写真が1枚づつスライドするかのように……過去の映像が流れてきて――……)
        (堪えて居た涙と、彼の過去と悲しみを知って……また胸が苦しくなる)
        (嗚呼――……彼も、最後のお別れを、碌に言えないままに後悔を胸の奥に閉じ込めて居た事を知って)
         
        (『最後、あの人にもう一度会いたい』と、聖杯に願いたいと思う私には……別れる辛さや、その時に碌に言葉を交えられない悲しみや後悔は痛いほど胸に突き刺さって)
        (死にゆくジャックの、最後の時間がまるで砂時計が流れるように、彼に近づいてくる死の足音を聞きながら)
        (彼に膝枕をして、受け止めているベネディクタに降り注ぐ、美しい朝日の光景)
        (立ち行ってはいけない、踏み込んではいけない聖域の様な、天国に限りなく近い現実は、あまりにも美しくて――……)
        (切なくて、悲しくて、苦しくて)
        (キャスターと一緒に、静かに見届ける事を決心して、二人を見つめる)
         
        (聖杯戦争に、他にも多くのマスターやサーヴァントが存在するのに)
        (何故、幼馴染同士で、過去を重ねたキャスターとアサシン同士が)
        (何故、対照的の様に写りながらも、何処か根本は似ている少女のマスター同士が)
        (互いの存在が、過去が、混ざり合いそうな位近しく、時を共有し、願いの似通い、痛みの通じる所のある私達が――……)
        (『どうして?』と、運命があるのなら、問い尋ねたいくらいだけれど)
        (きっと、それらも深い因縁、深い関連性があるからこそ――……こうして互いに呼び寄せるようにして、共鳴するように運命を共にし)
        (時には運命のいたずらの様に思える様な『今』の様な出来事があるのだろう……)
        (幾度も幾度も、私は人の運命を詠んできた)
        (時には霊媒で、時にはホロスコープで)
        (人のホロスコープを見て、いつも思うけれど……強い結びつきを持ち、互いに惹かれあう人々は、本当に)
        (幾つも存在する星星の中で、互いの星と重なっていたり、何かしらの角度をぴったりと持っていたり)
        (偶然にしか見えない様な配置の組み合わせを、幾度とも見て来た)
        (きっと、彼らとこうして対立する事も)
        (私の元に貴方が現れてくれたのも)
        (何かしらの『繋がり』が、互いに深くあるからこそ――……こうして、互いの運命が絡み合うのだと思った)
         
        …………っ!
         
        (彼女の最後の言葉に、驚きを隠せない)
        (凍りついたように、その場で硬直して動けない)
        (ジャックの事は、キャスターから少しだけ聞いていた……けれど、それは『酒浸りでだらしない』駄目な大人の幼馴染の彼の事)
        (『楽しかった』彼との思い出――……少しばかり、殺し屋だった事も耳にしたけれど、それは本当に『耳にした』程度の話で)
        (彼の殺し屋としての偉業も、彼の殺し屋の重苦しい素顔も――……殆ど知らないに等しかった)
        (けれど)
         
        (――……私は、ベネディクタちゃんの事は、知っている)
        (あの子の夢に潜って、あの子の心の扉に入って、あの子の過去を体感して)
        (とても幸せで恵まれていた上流階級の令嬢としての想い出も)
        (一転して不幸に見舞われてしまった一連の流れも)
        (不幸が不幸を呼び、重なっていくかのように)
        (真組の吸血鬼となり、罪を重ね、人を殺して殺されて――……それでも死ねなくて苦しい思いをしながら)
        (『死にたい』と願っていた、凄惨な日々を)
        (令呪を発動させて、死を望む彼女に堪らなくなって、今すぐ駆け出して止めようかと思った)
        (何の為に?)
        (ベネディクタちゃんは死にたいと思っていたのに?)
        (私はそれを『もう見たくない、知りたくない』と思う程痛感して、自身の心が壊れそうになったのに?)
         
        (――……その上)
        (先日の夢で、バーテンダーさんやアドニスと対話した時に『もし』負けた時はどうするかと問われて)
        (『魚に成りたい(死にたい)』と、答えた私が、どうして止められようか……)
        (あの子はやっと、死ぬチャンスを得られたのだ)
        (彼女がどうして『彼』を、サーヴァントとして選んだのか理由はわかった)
        (きっと、あの子は最初から――……幸せな未来の結末が掴めなかったその時は――……こうして――……)
         
        (『死なないで独りで居る』苦しみも、現実から目を逸らしたい程に、痛感する)
        (だって、私もずっとずっと、何故一人だけ残ってしまったのかという苦しみが胸を支配しているから)
        (一瞬の刻の筈なのに、白く静寂で永い時間の様に感じる)
        (彼女の決断、令呪の発動と)
        (悲痛なアサシンの言葉)
        (大切な相手を、令呪の命で、その命に幕を降ろす絶望の淵を、凍りついたように見つめる)
         
        (私には、何もできない)
        (ちらりとキャスターを見つめて、苦悩している顔色を見つめる――……彼に、全ての決断を委ねて)
        (そして――……彼の言葉と共に、紙が現れて折られる)
         
        (ひらり)
        (ひらり、ひらりと舞い落ちていく紙の白で埋められて)
        (ひらりと舞う姿も、降り積もる姿も――……何処か雪の様に見えるけれど、いつもと違う所は)
        (紙に、幾つもの幾つもの『母に宛てた』手紙としての痕跡が見える事)
        (彼の"届かなかった手紙"たちにより作られる、固有結界が、雪の様に降り積もっていく)
         
        (彼の決断を、その手紙で知りながら)
        (彼の想いを、その手紙で知りながら)
         
        (はらはらと涙を流しながら――……私は彼らの結末を、静かに見守る――……)
         
         
         
         
        (白く広がる優しい世界の中で)
        (彼女と彼の、最後の世界は創り上げられる)
         
        (人の心を通わす温かみで創られた世界の中で、琥珀姫の悲痛な叫びが響く)
        (けれど――……)
         
        (令呪の発動も、彼の結界のせいか……)
        (目の前で繰り広げられそうになる哀しい死は、止まる)
        (顔を上げた黒い死神と称された男の表情は、とても穏やかで、優しくて――……)
        (死神と称されていた事、先程の戦闘の彼とは別人と思える程で)
        (駄々をこねる子供を諭す様に、静かな暖かさで彼女を包み込む姿は――……)
         
        (優しさで、彼女の心を覆う『偽りの虐殺者の仮面』を、心の斧で壊していく)
         
        (きっとそれは――……彼女とやはり、何処となく似ていた彼だからこそ出来た事でもあり)
        (彼だからこそ、彼女の心に響いて、心変わりをさせられるきっかけになったのだ と)
        (その光景は、間違いなく黒い死神)
         
        (タロットにおける『死神』――……Deathのカードは)
        (人に『変容』という名の、今までの自身に『死』を与え)
        (刈り取った死の代わりに『新たな始まり』という名の変容を同時に与える死神なのだ)
        (彼女の求めた結末よりも、人の血の通った、とても温かな死神だけれど――……)
        (きっと、それを与えられる彼だからこそ)
        (『本当の意味で、彼女に選ばれた相応しい英霊』であると、私は感じた)
         
        (生きるという事は? 命という事は何か?)
        (私自身もずっとずっとその答えを占いをしながら探しているし)
        (他の人も、他の形や方法で探しているものであり、答えの出ない問いの一つではあるけれど――……)
        (彼女の不幸から始まった絶望の物語は)
        (彼という名の死神に、聖杯戦争にて刈り取られて)
        (死神のカードの奥にある様に、新たに彼女の人生に、新しい日の光が上り、新しい夜明けが訪れますようにと)
        (願う)
        (全てを変える、新しい日の夜明けが)
        (彼女に死神からの変容を与えて)
        (彼女が絶望し、嘆いた過去に終焉をもたらし)
        (幸運なページの幕開けになりますように と)
         
         
        (優しさを残したまま、彼は光となって世界から消え去ってゆく)
        (令呪によって残された斧は、まるで形見の様にも見える)
        (大事そうに拾う彼女と目が合えば――……)
        (その瞳は、輝きを受けたガーネットの様に煌いていて、美しい)
         
        (動く唇)
        (『ありがとう』との、最後の彼女の言葉に気付いて)
        (私は笑顔で微笑んで)
        (『またね』と、心の中で呟いた)
        (消え去る彼女に『さようなら』というのは、寂しくて……そして、それは本当の別れの様に思ったから)
        (隣に居るキャスターに寄り添いながら、問おうとして……口を閉ざす)
         
        (『ベネディクタちゃん、これからきっと幸せになれるよね?』と、問おうとして)
         
        (――……私が彼に救われた、あの日、あの神殿での星空の下を思い出して)
        (代わりに、心の中で既に消えてしまった彼女に 心から思う)
        (『キャスターの作った空間で、貴方を護ってくれる死神の斧を受け継いだのだもの』って)
        (違う形で、彼女に英霊二人からの祝福は贈られたのだもの)
        (その先には、まだ私達にも……いいえ、彼女にも気付いていない、幸せの始まりのページが訪れる準備はもう、用意されているのだと思う)
        (後はきっと、どんな風に彼女がそのページを開けるか……なのだ)
         
        (微笑んで、彼女を見送ってから、隣のキャスターの横顔を見上げて思う)
        (私にも、そうだったように)
        (彼女にも、その空間を作った様に)
        (彼は、きっと『人に幸せを運ぶキャスター』なのだ、と) -- メルセフォーネ 2014-04-09 (水) 23:22:57
  • (ある日の夜。空には赤い月が不吉に登っている。向かう先はとある孤児院の跡。そこにジャックが言う『倒したい相手』……敵がいる)
    (閉じられた傘を片手に、サーヴァントを伴って夜道を歩く。とても静かな、凪いだ夜だ)
    (彼がこんな我が侭をいうとは思わなかった。でも、それをお願いされて、嬉しかったのも事実で)
    (私の我が侭も聞いてくれる、万が一負けそうになったら私も手を出す―――という条件をつけて、承諾した)
    (彼が倒そうとする相手のことは聞いた。彼の思いも)
    (この先戦い抜くためにはどうしてもそれが必要だ、という言葉とともに)
    (それを聞いて、私はさらに嬉しくなってしまった)
    (旧知の人とすら戦う覚悟が。それよりも私のことを思ってくれているということが)
    (その時じわりと胸に走った感覚を反芻しながら)
    (目的の建物の扉を開き、中に入る)
    (造りからして、元々は教会なのだろう―――少しだけ、忌々しかった) -- ベネディクタ 2014-04-03 (木) 22:23:46
    • (ベネディクタの後ろに続いて、踏み入れた孤児院、教会跡)
      (緊張は無い。来るべき戦いを前にした高揚感があった)
      (この戦闘を頼んだとき、ベネディクタは快く承諾してくれた)
      (自分はただ、彼と戦いたかった。その実力を目にしたかった。その機会を失いたくはなかった)
      (それに―――旧友すらも殺せないなら、行き着く先には自らの死が待つだけだ)
      (ベネディクタの願いを叶えるために、己は負けるわけにはいかない)
      (立ち止まるベネディクタを追い越して)
      (自分の望みと覚悟、彼女の願いと、その清算すべき重すぎる過去とを背負って)
      (目的の人物を前に、帽子を軽く上げた)
      よう。
      (その服装は所謂黒服―――彼の『仕事着』)
      (それを目にするだけで、目的は知れるだろう) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-03 (木) 22:24:26
      • (春靄に覆われた赤い月が、涙のように血のように、光をこぼしている)
        (雨降りの時よりも湿気が強く、ただ呼吸をするだけでも重たさが感じられる)
        (キャスターは空を仰ぎ見て思う。「なんて怖い夜なのだろう」月を傷口として、天蓋がまるごと血に染まってしまったようだ)
        (不安を消すように、よく知る星座を探し求めた。珍しいことに、最初に目に入ったのは蟹座だった)
        (全てが四等星以下で構成されたこの星座は、春の空では目立たないはずなのに。「……もととなった蟹は、友情に殉じて命を落としたのだったか」)

        (月光は、注ぐ。含まれた赤みがひときわ深まって感じられる。廃教会、孤児院跡、テメノスの白壁をべっとりと紅色に照らしている)
        (そして、闇の中から現れる人影が二つあった。彼は、条件反射的に身構える。しかし、そのうち一人の顔を見て安心し────)

        (────戦慄した)
        (生前から、ただ“噂話”の中でのみ覚え聞くその姿は、暗闇に沈むように黒く、また暗闇から這い上がってきたかのように黒く……)
        (何よりもそれを包む殺気が、『よう』なんて、日常的な挨拶で隠し切れないほど大きく広がっていて)

        ジャック、さん……。
        (彼は、呆然とした。本来ならば、主人の傍に寄り戦闘態勢をすぐさま整えなければならない状況である)
        (現に“キャスター”としての理性は「戦え」と警笛を鳴らしてやまない)
        (けれども戦いに踏み切れば、もう後戻りはできない。何かの間違いだとか、いわゆる威力偵察のような、“出方を伺っている”ような場合だとか、)
        (誰か卑怯極まりない相手が創りだした幻影であるとか……「ありえない」「本物だ」「ジャックさんも、その主人も」「そして、この殺気も……」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-03 (木) 22:44:24
      • (鮮血に染まるかのように赤い月が、不気味に明るく輝く星空なのに――……)
        (他の星星の輝きは、鈍く。何処か陰鬱さを拭いきれない不吉な夜の輝きを、私は窓から眺めていた)
        (ふと、目に蟹座が止まる……蟹サインは水元素の活動宮にある女性星座であり、家族や、幼馴染、仲間意識等を示し)
        (身内意識が高く、他者と共感し、情緒に溢れた性質を持ち、心の故郷を表すのだけれど――……)
        (何故、今日はこんなにも不気味に……赤い輝きは、火星の血を象徴するかのような輝きなのだろうか?)
        (それは、7月に太陽が巨蟹宮に入るが、7月の誕生石は火星であり、蟹には鋏がある事を象徴するように――……敵対した相手には、容赦の無い一面を思わせてしまうかのような錯覚を受けるのは何故だろう)
        (不気味な気配に不穏感が拭いきれなくて、何だか嫌な予感がする――……そう思っていたら、下にどうやら誰か尋ねる人が来た気配がして、驚きを隠せない)
        (『お客さん?』 ――……こんな時間に? 人気の無い場所の上に、ひっそりと住んでいるのに……?)
        (それは、一体何の為に――……?)
         
        (戸惑いながらも、嫌な気配がして玄関まで駆けていく)
        (そして、キャスターが立ち、開かれた扉の先には――……見覚えのある、銀髪が夜の輝きに相まって、夜風に揺れる)
         
        …………っ! ベネディクタちゃん……?
        (『どうして、ここに……?』と、言おうとしても……驚いて声が出ない)
        (自分の前に居るキャスターも、『ジャックさん』と彼女のサーヴァントの名前を言って、立ちすくんでいる)
        ジャックさんって……まさか、この人が……! 昔幼馴染で一緒に居たジャックさんなの!?
        (驚きを隠せないまま、叫ぶようにキャスターに問う)
        (そして、目の前に居るマスターである少女――……ベネディクタを震えながら見つめて)
        なん……で、こんな……嘘、嘘でしょう……? -- メルセフォーネ 2014-04-03 (木) 23:05:57
      • (メルセフォーネの姿を見て目を見開く)
        (そして、表情は静かに移り変わる。すなわち、笑みへと)

        こういう運命もあるのね。

        (ジャックが戦いを望む相手、カー・ファインのマスターが誰かなんて知らなかった)
        (でも、そのマスターが夢の中で幾度となく出会って、会話を重ねて、過去ですら教えた彼女であっても)
        (ジャックを止めることはしない。反対に、吸血鬼の力を恃んで襲いかかることもしない)
        (彼の望みを妨げるようなことはしない)
        (私が一番大事なのは彼だから)

        貴方は、私の願いも、過去も、知っているわね。
        ―――止まる気は、ないわ。

        (夢の中でしか見せていない、夜種としての気配の片鱗を覗かせる) -- ベネディクタ 2014-04-03 (木) 23:40:46
      • (マスター同士もどうやら旧知らしいが、今はそれを気にしない)
        (これは、ベネディクタが俺に許した戦いの場だ)
        (ジャックの右手に、実体化するものがある)
        (月光を受けて禍々しく剣呑に光る―――両刃の伐採斧)

        ちょいと思い出したことがあってな

        (軽いのはその口振りだけ。伐採斧の刃、研ぎ澄まされたその輝きに勝るとも劣らぬ鋭さで)
        (極限まで錬磨された暗殺者の殺意が、眼鏡の男へと向けられる)

        一回だけ、紙飛行機の曲芸飛行をちらっと見せてもらったこと、あったろ?
        不自由な得物でも突き詰めればこんくらいは出来る、って大口叩いて、斧の腕見せてやったっけ。

        (殺意はそのままに、昔話をさも懐かしげに語る。くつくつと笑う彼に隙は皆無)

        そいつを思い出したら、俺は気になって仕方なくってな。
        お前がどれだけ『やる』ようになったんだろう、ってよ。

        (見えないほどに僅かに、膝が落ちる。動作の溜が作られる)

        だから今日は―――確かめに来た。

        (放つ殺気が、さらに一段階圧を増した。より鋭く、触れずして切れそうな程に)
        (瞬時、疾駆する。その命を奪うために。聖杯に手を掛けるために必要な工程として)
        (俊足だ。平素の気怠げな様子は、天敵のいない肉食獣のそれなのだと思わせる) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-03 (木) 23:42:06
      • (『ベネディクタ』と、聞こえた)
        何だって?
        (黒、そして血の色の装束に包まれた白い娘は、そう呼ばれた)
        (英霊と化したジャックの傍らに居る、“マスター”と断定されうる者は、その名に答えた)
        (メルセフォーネから聞かされる夢の話に、悲痛な運命に見舞われた少女の物語があった)
        (願いを叶える聖杯に手が届くのはただ一人だけ。だからきっと、本質的にこの思いは間違っているかもしれないのだけれど、)
        (救われて欲しい、と、思っていた。メルセフォーネもきっと、同様に)

        (悪夢だった)
        (それはまさしく、彼の不安そのものだった)
        (聖杯戦争に参加していながら、戦闘そのものに積極的ではなく、ただ生きることにのみ時間を費やしてきた)
        (ジャックと偶然に出会ってからその方針はますます固まり、今の今まで曲げることはなかった)
        (この行動の根源にあるものは、恐怖)
        (親しみ深い幼馴染を、また、自分の主人が交友を育んだ者を、相手にすることへの限りない恐怖の露れ)
        (“日常”を守り、それに縋り付き、テメノス孤児院(こんなところ)に戻ってきてしまった、彼の弱さ)
        (目を逸らし、避け続けてきた“それ”が、いま、目の前にある)
        (考えつく限りの、最悪の結果を伴って)

        (腑に落ちない点が、幾多もある。ジャックのほうも、今はまだ仕掛けてはこない様子であった。彼は、心と魔力を落ち着ける)
        (耳を傾け、思い出話に記憶を想起させられる。「ああ、確かに、あったな、そんなことが……」)
        (構えられた伐採斧は、ぎらぎらと歪んだ光を照り返す。錆びは一つも浮いていないが、血の匂いが染み付いていることが感じられる)
        (言い分は聞き入れるが、それの理解ができない。「だからって、今、こうして襲撃することに踏み切るだけの理由になんて……!!」)
        そんな……。
        (そう。嘘か真か。それは、言葉よりもずっと確からしい現実をつきつけられ、真だと否応なく理解させられる)
        (殺気が場を支配する。“ジャック・ヴィールズ”の面影を覆い隠す。否、その面影の裏側が見えて、表が隠れただけに過ぎない)

        (呪縛された彼の意志は、それに突き動かされた)
        ─────《空まで届く平面位相幾何学(アンフルフィルド・ウィッシュ)》。
        (指先に巾広の紙飛行機があらわれる)……オムニシエント・オウル。
        (“アサシン”のその踏み込みは人智を逸脱した速度によって行われた。弾丸のような早さで、巨大な鉄塊の刃が迫り来る)
        (青褪めるほどに、彼の頭脳は冷えた。そして、急速に稼働する。「メルセフォーネを守る」「そうだ、何があろうとも……」)

        (指で弾かれた飛行機は、“キャスター”と“アサシン”のちょうど中間点で翻る)
        《ディレイ》と《コラプス》の二重方陣(ダブルキャスト)炸裂しろ!!
        (破裂した紙飛行機は、キャスター前方の一帯に動作を遅延させる魔法効果を持った破片を撒き散らす)
        (当然、英霊の躰ならば押し通される。しかし、その巨大な得物はきっと、攻撃の精細を欠く)

        中に戻れ、メルセフォーネ!!
        折紙投影(トレース・オン)ッ!!
        (彼は風を詠み、一瞬の隙を衝いて前方へ紙飛行機の集団を飛ばす。そのどれもが、火球と化して弾幕になり、“動作の遅延する空間”へ灼熱を停まらせた)
        (そのまま、彼も孤児院内へと退く。ある程度距離が開いていたのが幸いしたが、あの速度での攻撃を、何も障害物のない場所で食らってはひとたまりもない)

        (扉を潜ると、そこには、大天蓋に覆われた礼拝堂があった。長椅子が幾つも並べられて、向こう側に精美なステンドグラスが見えている)
        (石造りの大きな柱が幾つも等間隔で並んでおり、最奥には嘗て神父様が説法をぶっていたであろう台と、もう調律もされていないオルガンがある)
        (天井は高く、また、バスケットコート一面分ほどの広さがある。よく、ここでボール遊びをしては院長に叱られたものだ。そんな過去が、この悪夢の味付けをしている)
        (彼は、そのちょうど中心部に立って居た。その扉の向こうから、ジャックが来ないことを祈りながら)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-04 (金) 00:39:54
      • (キャスターの前に立っているのは、最早飲んだくれでろくでなしの『ジャック・ヴィールズ』ではなかった)
        (『樵』の異名で恐怖された、裏社会の殺し屋。あらゆる標的を伐採斧ひとつで解体し狩り殺す、血塗られた存在だった)
        (殺人者としての本能が彼を踏み留まらせる。灼熱と停滞の坩堝の直前で停止する。効果範囲を見切ったかのように、その斧の鋒すらも)
        (中に逃げ込んだ彼を、悠然と追い掛けた。紅蓮の炎の脇を抜けざま、ついでとばかり煙草に火を点けて、聖堂の中へと踏み入る)
        (キャスターの祈りは、聞き届けられることはない。誰にも)

        俺は一度死んでわかったことがある。
        神も地獄もありゃしないってな。

        (帽子を脱ぐこともしない。口元には煙草の火。紫煙を燻らせて)
        (神のいない礼拝堂の中を歩んでゆく)

        どんだけ罪を重ねても、天罰なんか下りゃしないのさ。
        その後でどんだけ酷い目に遭おうと、そいつは運が悪かっただけだ。
        だから誰をぶっ殺そうが呵責なんていらねえ。
        家族だろうが友人だろうが、必要なら殺るべきだ。
        殺し屋の教えにある通りにな―――そうする覚悟のねえ奴は、おっ死ぬだけだ。

        (その言葉は、果たして目前の標的に向けられたものか、あるいは)

        お前を殺して、俺は殺し屋に戻るぜ。

        (これが、確かめることの二つ目。殺したく無い相手をも殺せるかどうかを確かめる)
        (そのための試金石としては、彼の存在は運命があつらえたようですらある)
        (戦う理由はさっきの理屈で十分だった。これは―――殺す理由だ)

        (吸っていた煙草を吐き捨てたのを再開の合図に、再びの疾走。正面から。低く、獣のように)
        (先ほど見せたとおりの踏み込み、それだけで命を奪えそうなほどの強烈な殺気を放ちながら、猛然と距離を詰める)
        (だがこれはサーヴァント同士の戦闘だ。それだけの速度があっても、斧を振るうまでにはまだ一手、キャスターは動くことが出来る) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-04 (金) 01:18:18
      • (メルセフォーネとベネディクタは、大ホールの隅に居る。メルセフォーネに戦闘能力はない。本来ならば付かず離れずの距離を維持することが必要である)
        (然し乍ら、テメノス孤児院跡には幾つか魔方陣結界を施した場所があり、有事の際にそこで待機していてくれ、と予めコンセンサスをとってある)
        (防護の魔法効果はそうそう破られない。メルセフォーネに危険が及べば自動的に発動するよう仕掛けてある。現実的にはそれで安心だ)
        (「心の問題は、ともかくとして、だ」彼は、苦渋を噛みしめる)
        (ゆらりと廃教会内に踏み込んだ“アサシン”には一つの怪我もなければ、迷いも惑いもない)

        そうですネ。死んでも、母さんに会えなかったもの。
        楽園(テメノス)と名付けられた廃教会は、孤児院としての役目すら終え、ただの形骸のみをここに残している)
        (きっと、ここに神は宿らない。あるのは現実だけだろう)
        (悪夢のような、現実だけだ)

        (『殺し屋に戻る』)
        (一息に、理解をした。喉につかえていたものを嚥下できた)
        (「聖杯戦争に“ジャック・ヴィールズ”は必要ない」)
        (“日常”を両腕で抱え込んだ自分とは対照的に、闘争に身を委ねて聖杯を勝ち取ることを決めたのだ)
        (運命に導かれて、孤独となった少女を主人とする点で、二人は似通っている。ジャックは選択し、キャスターは迷った)
        (それがいま、この戦いを生んでいる)

        ……わかりました。お相手しますヨ。全力を以って。
        天罰なんてくだらなくても。僕が。ジャックさんを斃します。

        (身の上話などせずに、そのまま正面突破する心算で迫られたらきっと、彼は容易く両断されたことだろう)
        (“殺し屋”の理屈を語り、“キャスター”の精神が落ち着くのを待った。『全力が見たい』という言葉もまた真実のようだった)
        (きっと、ジャックとしての最後の情け。彼は覚悟を決め、指先まで魔力を満たした)

        (戦闘スタイルは既に知っている。一世紀昔に聞いた。そして、この眼で一度見た)
        (誰が、何が相手であろうと、その伐採斧で両断する。装飾もなく、威厳もなく、ただ切り倒すためだけに作られた斧そのものを体現した存在)

        折紙投影(トレース・オン)
        ニンブル・ダガー。小隊、ひとつ。

        (正三角形のシルエットをした紙飛行機が、10に満たない程度空中に生成された)
        (キャスターは風を読む。テメノス孤児院の大天蓋に巻き起こる空気の流れを、ひとつも余すところなく)
        (「正面からやりあうのはドウ考えても不利」「そして、類推するにクラスは“アサシン”」「距離をとったところで、気配を消されて接近される」)
        (近接距離での戦闘を強いられる。「僕の魔法はあんまり火力のあるほうじゃナイ」「一撃で沈めるのはまず不可能」)

        五次魔方陣、【興の面】《スチールコート》。四次魔法陣【興の面】《ギガンティック》
        小隊、半数、突進!!

        (5機の紙飛行機が、巨大化する。両手を広げても余るほどの幅となり、そして、その材質を鋼鉄に変える)
        (鋼鉄の“矢”は速度を伴って、それぞれがアサシンの踏み込みのルートを塞ぐように広がり飛ぶ)
        (キャスターはそれと同時に、横道へ移動する。長椅子を前にし、そして、第二の手を考える)

        空まで届く平面位相幾何学(アンフルフィルド・ウィッシュ)》、オムニシエント・オウル。
        (その一機を手で折り、そして空へ向かわせる。テメノス孤児院の天蓋にそれは旋回し、ステンドグラス越しの月光を浴びた)
        -- 打雲紙のキャスター &new{2014-04-04 (金) 02:04:00
      • (ジャックが語ったそれは真実、彼の胸中を表していたが、その実、カーを焚きつける目的もあった)
        (その目論見は成功したようだ。覚悟を決めた男の顔になった)

        それでいい。

        (にぃ、と笑って、迫り来る紙飛行機を視認する)
        (これに魔方陣を描いて飛ばし、魔術効果を発生させるのが彼の戦術)
        (地味で不自由にも思えるが、これでなかなか応用が利きそうだ。その引き出しの中身を見るのを楽しみに)
        (対するこちらの得物は斧一本。いつだってそうだった。慣れたものだ)
        (まずは近づかなければ話にならない)

        (正面から迫り来るのは、おそらく鋼鉄に変質した、巨大な紙飛行機の小隊)
        (鋼鉄程度ならば問題は無い。ルートの変更は無しだ)
        (斧が数回閃けば、それらの紙飛行機に亀裂が走り、断裁され砕け散る……走りゆくジャックを避けるように)
        (宝具故の切れ味?否。彼はその得物が宝具でなかった時でも、同様のことは可能だった)
        (だがこれは単にデモンストレーションに過ぎない。迫りゆく自分への視線誘導)
        (いたって無造作に、長椅子を斧の顎で引っかけると、そのまま振るう)
        (長椅子は床から引き剥がされ、キャスター目掛けて一直線に放り投げられる。己へ向けられていた視線へ、真っ向からかち合うように)
        (牽制、目潰し。その隙に『気配を消す』。長椅子に気を移したであろう瞬間に、切り裂くような殺意が消え失せる)
        (強い光を見続けた目が眩むように、大きな音を聞き続けた耳が利かなくなるように)
        (強烈な殺気を受け続けた彼の第六感を鈍らせる。暗殺者にしてはあからさますぎる殺意はこれが狙い)
        (視界が晴れた時には、ジャックの姿はそこに無く、どこにも感じられない。だが、この空間の中には確かにいるはず―――) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-04 (金) 21:29:14
      • (真っ二つに泣き別れした5機の紙飛行機は、鉄でできたその身をがらんじゃらんと聖堂の床に横たえる。巨大な10の鉄片が残り、アサシンには傷1つない)
        (予想図と同じ光景だが、アサシンの足が鈍りもしないことには焦躁した。ほんの一瞬でも時間を稼げれば、という甘い目論みは成立しない)
        (長椅子が投げられる。石材で固定されているはずのそれを、小枝でも持ち上げるかのように)
        (飛び来るそれへ、後詰に残しておいた小隊の残り半数、4機。もともとそのまま追撃させるために、タイミングを遅らせて前方へ飛行する予定であった)
        ……《プロテクション》!!
        (4機は横列となり飛び、長椅子を受け止めて衝撃を四散させ、その場へ落とした)
        (────向こう側に、アサシンの気配はない)

        (近接戦闘を仕掛けていれば、《気配遮断》を制限できるはず。という、目論みもまた崩れた。思考の柱がひとつ、ふたつと崩れ、揺れ始める)
        ……どうやら、戦闘センスではアナタのほうがずっと上のようですね。
        (上回られる。彼は、アサシンの行動を制限する心算で行動していた。しかし、現実に行動を制限され、後手に回らされているのは自分のほうだ)
        戦歴(キャリア)が違う。それをまざまざと見せつけられる。天蓋から、ステンドグラスを通り、視線はテメノス孤児院聖堂全域を巡る。どこにも気配はない)
        (《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》の探索も功を奏しないようだ。「……静かな殺意は、感じるんだ」「皮膚全体にぴりぴりときている」)
        (冷や汗が頬を伝う。一撃決殺の相手に対して、隙を晒しすぎている。そして、これから取れる手段もまた少ない)

        (「中隊規模以上を投影しようとすると、隙が大きすぎる」「一瞬で済むが、その一瞬を衝かれる」「相手は、いつでも仕掛けてこれるのだから」)

        折紙投影(トレース・オン)ッ!! 紙飛行機中隊、ハッピー・ゴー・ラッキ・ミュール!!
        (掌から紙が生み出され次々に折られ、大きく翼を横に広げた紙飛行機が飛び出し、彼の周囲を旋回する)
        (テメノス孤児院大ホールは、飛行し、悠々と旋回する何十機の紙飛行機群に満たされる)

        ……。(そして、待ち構えた。「機を窺う」「あちらも窺っているのだろう」)
        (折り込まれた術式は、“エレクトロ”という。触れた瞬間に電撃を発する。機雷のような役割を持たせて、どこから来ようとも自動的に迎撃を行える)
        (もう一つ。先ほど飛ばした、一つの飛行機、オムニシエント・オウルにも意識を向けて)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-04 (金) 22:26:53
      • (それから十数秒。焦らすように、動きは起こさない)
        (察知が不可能な状態であればすぐにでも攻撃は可能だが、それをしない)
        (どうやら紙飛行機はいくらでも生産できる。だが、それには多少のラグがある)
        (であれば、展開している手札が切れたところを確実に狙うべきだ)
        (猶予期間にしたことは、シンプルだった)

        (無数の紙飛行機が舞う室内、その静寂を破ったのは、建物を上下に貫き支える無数の石柱)
        (そのうち二本が時間差でずるりとズレて、キャスターへと倒れかかる)
        (機雷代わりの紙飛行機群を、一部は踏み潰し、残りは気流を乱して吹き散らしながら)
        (柱が倒れ込むインパクトの瞬間。その機に乗じて、全くの別方向から駆け込む。すなわち、彼の背後。命を奪うのに適切な位置)
        (柱は予め斬っておいたのだ。倒れるまでには時間がかかったが、その隙に場所を移した)
        (大掛かりな仕掛けは攻撃と陽動を兼ねていた。紙飛行機群の警戒網にこじ開けた大穴を通って、飛び違うようにその首を狙う)
        (声もなく、音もなく。冷徹に『仕事』をする) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-04 (金) 22:57:20
      • (手札はある。ただこの場ではブタだ。“魔術師”として無限の対応力を発揮できはするが、アサシンの持つ“たった一枚のカード”に真向から対抗できない)
        (柱が、“ずれ”た。錯覚とは違い、静かに大きな地響きを立てて倒れこんで来る。それが斧により齎されたことは容易に推測ができた)
        (カード・ゲームで喩えるならば、まるでジョーカー。一番強く、何物にもなれる。少なくともこの場ではそう思えるほどに強大だった)
        (彼は、“道化師”(キャスター)。彼は、“死神”(アサシン)

        七次、『金星』の魔方陣……【衰の面】《ハーモニック》!! 同調しろ!!
        (一つの紙に与えられた“変化”が伝播し、他の紙にも伝わる。それが《ハーモニック》。《エレクトロ》の裏側にそれがダブルキャストされている)
        (電位を完全に統一され、互いに増幅しあう《エレクトロ》が、ホールを飛ぶ数十の紙飛行機を互いに雷撃で繋ぐ)
        (数機が切り裂かれ無力化されようと、それを補完するように雷の鉄条網が張り巡らされる)
        (彼は、“アサシン”の気配を察知するのは不可能とみて、全域を巻き込み広域魔法にて迎え撃つ。彼自身もその煽りを受けるが、構わなかった)
        (そして、石柱も避けない。四次魔方陣《プロテクション》を施した紙を展開しはするが、攻撃のほうに注力していたため、無力化はできない)

        (キャスターの行動はただ一つの考えに基いて行われている)
        (「ジャックさんの斬撃を受けたら」)
        (「死ぬ」)
        (「一撃でも貰えば、殺される」それは、恐怖よりむしろ、尊敬に似ていた)
        (「ならば、それ以外のものならば何であろうとも受けよう」)

        (古い石材が瓦礫となり散り、雷撃が滝のように弾ける。彼は、生き延びていたが、腹部へ石片を食い込ませ、血を夥敷く流していた)
        (細かい瓦礫を踏みしめて、土埃の立つホールを見渡す。アサシンの姿は見定められない。当然、いまの一撃でトドメなどというのはありえない)
        ……《湧血(ブラッド・トランスレーション)》。3番。(“宝具”の輝きが彼の肉体に満ちる。肉体強化、生命力強化の類いらしく、発動するとすぐさま止血した)
        そして……。折紙投影(トレース・オン)、マジックアロー小隊……。
        (腕を上げると、鏃のような飛行機が10機ほど中空に生成される。魔力はまだ尽きない。メルセフォーネの信頼を躰の底から感じる)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-04 (金) 23:34:29
      • (陽動を避けない。ある種の正解ではあろうが)
        (この石の柱すらも避けないとは。この空間で使える攻め手としては最上だと思ってはいたものの、それを丸ごと防がれては)

        肉を切らせて骨を断つとはいうが……やれやれだ
        ちぃと考える必要が出てきたな

        (気配遮断で時間を稼ぐ)
        (電撃で焼け焦げた肉体に麻痺が残る。そのせいで斧の一撃を外した)
        (初手を外されたのは久しぶりだ。思わず広角が上がってしまう)
        (陽動からの奇襲は通じなかった。相手の方針は、自分への損害すらも厭わない広範囲攻撃で気配遮断の上から潰すこと)

        (だが、今の一撃、威力はそこまで大きくもなかった)
        (自分を巻き込めない都合上、そこまで高威力のものは撃てないのか、そもそも火力が低いのかは知らないが)
        (このままでは、どちらも致命打を与えられないまま延々と削り合いだ)
        (となれば、肉体へのダメージが攻撃のキレに響くこちらが不利か)
        (であるならば)

        基本に忠実に、だな

        (気配遮断の効果が切れるのは『攻撃態勢に移った時』)
        (攻撃の端緒が見えないのなら、広範囲攻撃のトリガーを引けまい)
        (間合にさえ入れれば、抜き打ちの斧の一閃でプロテクションごと斬り伏せてカタがつく)
        (奴が今見せた再生能力だろうと意味を為さない)

        (間合の内に忍び入り、刹那の早業で殺す。それが基本)
        (信じられないほど身軽な動きで、別な石柱を登り、中空に身を躍らせる)
        (今度は、直上からほぼ垂直に落下する。周囲に土埃が舞う中、真上への警戒は薄かろうと)
        (斧の届く位置までは、ただ落ちる。悠然と、無機質に。樹から落ちる林檎のように)
        (牙を剥くのは、間合に入った瞬間だ。剣呑な斧が、閃く) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-05 (土) 00:20:41
      • (自由落下の最中、展開されていく魔方陣を見る)
        (どれだけ仕込みをしようとも、攻撃の瞬間が察知できなければ、それを発動させるタイミングは掴めないはずだ)
        (自分がどこにいるのかも、相手には知れないのだから)

        (ただ、例外があるとすれば)
        (先ほどの一合で、こちらの呼吸が読まれてはいないか)
        (仕掛けのタイミングが察知されてはいないか)
        (青年がそれが出来るほどの域に達していれば、あるいは―――気配遮断を上回ってくる)

        (落下先、巨大な銀色の板が展開される。上からの攻撃を読まれた?そうではないのか?)
        (その下から光芒が漏れる。無数の紙飛行機が発射される。何が狙いだ?)
        (しかしもう己は止まらない。落ちていくしかない)
        (その下に感じられる膨大な魔力ごと叩き斬ろうと、大鏡を両断する。そこに居るはずの存在は、斧が届く寸前、一枚の差で『消失した』)
        (それが現れるのは、直上―――)

        空間転移かッ!!

        (青年は、キャスターのクラスで召喚されるほどの英霊なのだ)
        (その魔術の技量を見誤った。それが可能なほどの存在と相対したことは、ジャックといえども数えるほどしか無い)
        (集束する光芒。無数の鏡で集められた光は、ジャックの黒い姿を上空より灼いた)
        (ジャックの斧がどれほど速かろうと、光には反応できない。肉は焼かれる。だが骨までも灼かれる前に、本能が彼を動かした)
        (振り下ろした斧が敏捷に動く。斧は滑らかに斬るばかりではなく、砕くこともする)
        (足下の鏡を砕いて、破片を巻き上げる。肉体を灼く光はそれらに反射して、減衰する)
        (だが、続くであろう決めの一手は―――その隙間を縫うだろう。飛び退くには時間が無い)
        (斧で叩き切るには飽和する光量によってその軌道が掴めない? だが、それは否)
        (光で目が見えていなくとも、殺気は肌で視えている、ありありと)
        (殺意の道筋に刃を置いて、その魔術の構成ごと両断し無力化する。それは可能、だが、紙一重間に合うか―――) -- 伐採斧のアサシン 2014-04-05 (土) 03:53:56
      • (断ち割れた床、光の中でもなお暗黒を保つその亀裂の内から、闇よりもなお暗い漆黒の霧が吹き上がる)
        (それは琥珀金の髪を持つ紅の瞳の少女を形作った)
        (影から影へ、闇から闇へ。一瞬にして渡る、真祖としての能力をもって)
        (放たれんとする光の矢の、その軌道上へと身を投げる)

        (―――光芒がその胸を刺し貫いた)


        (わかっているでしょう、ジャック)
        (真祖である私は、このくらいでは死なないと)

        (約束したでしょう。『万が一負けそうになったら私も手を出す』と)
        (だから、ごめんなさい、ジャック)
        (これは二人の戦いだから)

        だから私は、貴方を使うわ。

        (この戦争に勝つために。勝って幸福を得るために)
        (たとえ貴方がこの戦いに込めた気持ちを裏切り、踏みにじることになっても)

        (光芒が貫いた部分の服が破れて、隠されたものが露わになる)
        (白い肌に浮かぶ醜い傷痕と、それを彩る三画の令呪が)

        ―――令呪を以て命じる。
        ジャック・ヴィールズよ。この戦いの決着まで、『今の一撃によって私がカー・ファインに殺された』と心の底から思い込め

        (その内の一画が、不吉な紅の光を放って解け)
        (ジャックの肉体へと浸透する)

        (令呪の魔力が、そこに込められた意味が、眠れる宝具を呼び覚ます) -- ベネディクタ 2014-04-05 (土) 03:57:08
    • (視線が交わり、彼女の表情が笑みへと変化するのを見れば。対照的に、顔面蒼白になり、立ちすくむ)
      嘘……やだ……(震える声で、それだけを辛うじて喋る事が出来た)
      何で、ベネディクタちゃんと……(『戦いたくない!』と、心の中で叫ぶけれど……それを声に出した所で、きっとそれは覆されない)
      (だって、彼女のサーヴァントで、嘗ての私のサーヴァントの幼馴染だったという『ジャックさん』からは、凄まじい殺気と、とても強い英霊なのであろう気配を感じるし)
      (何より――……マスターの彼女自身から、夢で見せられた夜種(捕食者)としての片鱗を覗かせて、隙あらば、私が彼女に捉えられてしまうだろうから)
      (聖杯の来訪者として、彼らから殺意の色が色濃く見える――……私達を、始末しに来たのだという現実)
       
      私は、ベネディクタちゃんの願いも、過去も知っているわ
      ――……聖杯を欲する貴方の気持ちは痛いほどわかるし、それを私は止められないのもわかるわ――……
      けれど――……
      出来る事なら貴方と私は戦いたくなかった!!
       
      (涙を流しながらも……遠くで残酷な運命の歯車の回る音が、心の中で聞こえて)
      (『あぁ……こんな事を言っても、それは無駄な事で、この戦いから逃げる事は出来ないのね……?』という事を知る)
       
      (今宵、ルビーの様な赤い月の宝石と共に輝く、蟹座の鈍い光が目立つのは……これを示唆していたのだろうか?)
      (ルビーは火星(争い)の宝石で、蟹座は『他者との共感』のサインである)
      (近しい身内や近所の幼馴染、仲間内を示し、心のホームは、キャスターとアサシンを示すかのように)
      (そして、蟹座は自身のルーツ(親や故郷)を示すという事は……それらを遡るという事は、自分の無意識へと繋がるという事)
      (それは、まるで夢の中で繋がる二人のマスターの繋がりを、示すかのように)
      (互いに共感し、溶けあう様に近かった距離、一時期の触れあいの全てを――……そして)
      (自身の敵には容赦の無く、排他的な一面を見せる、彼女の素質全てがそこに象徴されていたかのような星座の輝きが空に浮かぶ――……)
      (あの時、私は今日の星空を見て感じた嫌な気分に、もっと素早く反応して、この孤児院からキャスターと共に逃げ去れば……)
      (貴方とこうして戦わなくても、済んだのかな? という甘さが拭いきれないまま――……争いは幕を開ける)
       
      (戦いたくない……けれど、戦わなくてはならない)
      キャスターっ……!(彼の方を振り返る。黒い死神の様な『ジャックさん』と対峙している彼を見つめて叫ぶ)
      お願い、負けないで……! 貴方が居なくなってしまったら……私っ……!
       
      (強そうな相手なのは、分かってる)
      (けれど――……私はキャスターを信じて、ステンドグラスの輝く大ホールの隅で 祈る)
      (蟹座は古来より、聖地や寺院に設けられたサンクチュアリ(聖域)或いはアジール(避難所)と関係があり)
      (外敵の侵入を許さない強い防衛本能と、身を盾にしてでも誰かを守ろうとする性質を持つ事も)
      (この星空は、暗示していたのかなと思いながら……二人の戦いに視線を向ける)
       
      ――……早いッ!!
      (凄まじい殺気、高い戦闘力では収まらず、俊敏な身のこなしと、彼の肉食獣を想わせる雰囲気は)
      (まるで『狩人』として、獲物を捉えに来たかの様にも思えて、胸に不安がよぎってしまう――……) -- メルセフォーネ 2014-04-04 (金) 00:21:02
      • (メルセフォーネの悲痛な叫びにも、涼しげな様子を崩さない)
        (暗い紅の瞳が底無し沼のような闇を湛えて、狼狽える彼女を見据える)
        (視線でその場に縫い止めようとでもするように)

        私はそれを受け入れられる。
        だって、結局聖杯を手に出来るのは一人きりだもの。
        それに……私の願いが叶ったら、この戦いすらも起こらなかったことになる。

        (どれだけ私が手を汚そうとも、どれだけ私が罪を重ねても、どれだけ願いを踏みにじっても)
        (時間を巻き戻して運命を描き直せば、私はここに居なかったことになる。私が犯した全ての罪はなかったことになる)
        (彼との時間も無くなってしまうのだけは、少し寂しかったけれど)
        (両親と安寧に、何の罪もなく過ごす幸福には代え難い)

        (だから、私は、そのためになら)
        (私の過去の全てを打ち明けた彼女の願いをも打ち倒そう)
        (そのサーヴァントの死を望もう。ジャックが彼の命を断ち切ることを望もう)

        (大ホールの隅、ここは退避場。彼らの戦いは此処までは及ばない)
        (二人共が己のマスターを巻き込めないから)

        そう。戦わせないと、貴方の願いは叶わない。ここで終わってしまう。
        ……でも、私の彼は負けないわ。絶対に。
        私が選んだ英雄だもの。

        (戦いを横目に、目を細め幽婉に微笑む) -- ベネディクタ 2014-04-04 (金) 00:48:32
      • (涼しげな彼女の様子に 『どうして平気でいられるの?』と聞こうとして)
        (底無し沼の、暗く闇の中で蠢く蠍の様な赤い瞳は――……まるで蠍座の恒星、アンタレスの様な輝きだった)
        (闇の中で、私の死を見つめるかのような瞳に、捉えられる)
        (まるで、沼の底で蠍の獲物として捉えられたかのような錯覚に陥りながら)
        (足がすくんで、その場から動けない)
         
        (けれど、彼女の言葉から逃れられない現実と現状を、改めて思い知らされる)
        (――そう、私達は聖杯戦争の敵同士……いずれ、こうして対立し、潰しあわなければならない宿命を背負っている)
        その通りね、 この戦いに勝ち残れるのは一人だけ……
        (私が甘い事を言っているのは分かっている――……けれど)
        (もし、貴方の願いが叶って、過去の時間に戻る事になる時は――……貴方だけじゃなくて、世界中の全ての人の時間も巻き戻るのかな?)
        もし……貴方の願いが叶ったとして、仮に私達の時間まで巻き戻ってしまって……キャスターと出会った事も全て無に変えるのは、嫌だな……
        (それだけは、決して変わらない、譲れない私の本心)
        (そして、私もキャスターと一緒に居たい、離れたくない……もう、誰かと離れ離れになるのは嫌)
         
        (彼女の願いは知っている、彼女の冷たくて、眼を逸らしたくなるくらい苦しくて悲しい過去も――……)
        (そして、貴方がこの戦いに全てを賭けている事も……)
        (揺れる想いの中、芯の強い貴方との対立には不釣り合いかもしれない相手かもしれない)
        (キャスターの呼びかけに、直ぐにこうして中に戻って、二人の戦いの及ばない場所まで避難している)
        (心でも、現実でも……戦いから逃げている弱いマスターだけれど……)
        (けれど、私も彼との絆を絶ちたくない想いは譲れない――……キャスターと一緒に居たい!)
        (彼が居なくなってしまったら……私は――……)
         
        (もう、綺麗事は言ってはいられない)
        (もう、後戻りはできない)
        (もう、覚悟と決意を固めなければならない)
         
        (揺れる想いを、迷いを胸の奥底に閉じ込めて、対立する彼女に恥じないように胸を張る)
        そうね……ここで負けたら、私もキャスターとの絆が途切れてしまう
        貴方のサーヴァントは、貴方の誇りに相応しく、実力も凄く高い事は感じるわ……
        『貴方が選んだ』という事は――……きっと、貴方に相応しい英霊を望み道理に召喚で来て、顕在出来たのでしょう
         
        けれど、私も……『キャスター自身を呼んだ』訳ではないけれど
        私の手を取ってくれて、私の生きる道を指示してくれたサーヴァントなの。だから、譲れないわ
        私の呼びかけに答えてくれた、かけがえのない英霊だもの
         
        (戦いを横目に、何処か余裕を感じる笑みを見せる彼女とは違って――……)
        (内心では、戦いたくない想いと、彼女のサーヴァントとの高い戦闘力に不安を隠せない)
        (けれど、決意と覚悟を胸に、揺れる想いを押し殺して――……自分のサーヴァントを信じてこの戦いに)
        (そして、ベネディクタに恥じないよう、その場に立つのが精一杯だった) -- メルセフォーネ 2014-04-04 (金) 01:27:53
      • 心配することは無いのよ。
        嫌だという気持ちも消えて無くなるわ。

        (いつからこんな冷たい言葉も吐けるようになったのだろう)
        (壊れてしまっている。純粋な彼女を目の前にして比べると、余りにも、自分の歪みが浮き彫りになる)
        (思えばそれを確かめたくて、彼女と何度も会っていたのかも知れない)
        (罪深さく悪徳に染まった自分の存在を、意志を、確かめるために)
        (清らかな彼女から離れてゆくようにして、どこまでも黒く染まりきることが出来るように)

        (威圧する瞳にも竦むことなく立つメルセフォーネの、想いを変えた言葉からは)
        (彼女とキャスターとの強い絆が伝わってくる)
        (それを手折るのだ。刈り取るのだ)
        (幸福に手を掛けるための一歩として。彼の伐採斧で)

        (戦いに望むジャックの声が聞こえる)
        (半分はキャスターへ、半分は私へと向けられたそれを聞く)
        (面と向かって言えないから、ああいうカタチをとる。不器用で、優しい人だ)
        (その言葉は慰めか、あるいは私を変えてくれようとしてくれているのか)
        (自分を罪深く救われないものと断じる私に、神などいないと、罪を重ねて不死者と化したのも運命の悪戯にすぎないと言うことで)
        (この礼拝堂で、もしもジャックが勝ったなら、その言葉も信じられるような気がする)
        (私たちは神へと挑むのだ。そして聖杯を手に入れ、運命を、予定調和を覆す)

        なら、見守りましょう。戦いの趨勢を。
        どちらの想いが、英霊が優れているか。

        (再び火蓋が切られた決戦を見守る。きっと勝ってくれると信じながら)
        (だけど、もしも負けそうになった時は)
        (これは貴方だけの戦いじゃないから。私とジャック、二人の戦いだから)
        (その時は―――私もこの呪わしい力を振るおう。それを貴方が望まなくても) -- ベネディクタ 2014-04-04 (金) 01:59:56
      • ……ベネディクタちゃんは、嫌じゃないの?
        (そう問いながら、彼女も本心では嫌だと思って欲しいと思いながら――……)
        (現状に目を背けた、分かり切った問いを返す)
        (だって、彼女のサーヴァントが戦いに挑みに来た相手が私達だというのに、笑みを絶やさず、動じないまま涼しい顔をしているのだから)
         
        (彼女の事を、知る度に――……もっともっと、知りたいと思った)
        (彼女との距離が近くなる度に、彼女にも幸せが訪れて欲しいと願った)
        (互いに幸せになりたいと思う所だけれど――……そうもいかない)
        (それは、聖杯の『呪詛の様な希望』だから)
        (自分が幸せになるという事は、それだけ他者の不幸が重なり集まったという事)
        (……恐らくそれは、想いに揺れて、自分の本心すら定められない私よりも)
        (自分の願いの為には何をするのも厭わない意思の強さと、漆黒の罪深さを被ってまでも、願いを求める彼女の方が相応しいのだと思う)
        (……でも、私も譲れない)
        (そして、彼女と対立する事で――……やっと決意出来たのだから)
         
        (威厳のある瞳に、心の奥底で怖さで揺らぎそうになるのを抑えて、彼女の目を見つめる)
        (逃げないように 逸らさないように)
        (大丈夫――……私は弱いし、自分の心は揺れてばっかりで、誰かの支えが無いと、怖くて生きていく事も出来ないけれど)
        (貴方(キャスター)を信じる気持は本物)
        (だから、これだけは私の譲れない思いだから――……)
        (例え、貴方達が死神の様に、私の希望を刈り取ろうとする最後まで足掻くわ)
         
        (遠くから響くジャックの言葉に『幼馴染なのに、どうして戦おうとするんだろう』との疑問が解けた気がした)
        (嗚呼、そうか――……幼馴染だからこそ、真っ先に潰して自分の覚悟を固めて、殺し屋の道を歩む一歩にしたいのか、と)
        (そして、彼の言葉から、幼馴染とか仲が良いとか――過去の想い出とか、相手への愛着なんてのも全て捨て去らなければならない戦いなのだという現実を改めて知る)
        (でも――……)
        (キャスターだけでは無くて、避難している此方……ベネディクタの方まで聞こえるように語る彼の言葉から)
        (自身のマスターに立ち向かう強さを与えている様にも感じる彼は……根っからの悪い人の様には、どうも思えなかった)
        (それは以前聞いた、キャスターからの昔話のせいもあるかもしれない)
        (争いたくなかった相手ではあるけれど――……遅かれ早かれ、結果としてこうなることには変わりないのなら)
        (私は自分の運命を受け入れて、自分の運命とキャスターを信じるだけ)
         
        ……ええ(静かに静かに頷いた)
        私が出来る事は、自分のサーヴァントを信じるだけ……大丈夫。彼なら負けないって信じているから
         
        (大丈夫、相手はとても強いのは雰囲気からもわかる――……けれど、キャスターなら絶対勝てるって信じてる)
        (胸の前で手を組んで、彼の勝利に祈りを捧げる)
        (私は弱いマスターで、貴方の助力になる事は何もできないけれど……)
        (貴方を信じる想いなら、だれにも負けないから) -- メルセフォーネ 2014-04-04 (金) 22:46:06
      • 天秤にかけるまでもないことよ
        (嫌じゃないのか、という問いへの、これが答え)
        (天秤の片方には彼と過ごした時間と、育んだ絆、信頼が乗るだろう)
        (だがもう片方には、得られたはずの幸福と、清算されるべき全ての罪が乗るのだ)
        (どちらに傾くかは明らかだった)

        (彼を信じながら、二人の少女が戦いを見つめる)
        (メルセフォーネの真摯な祈りと、ベネディクタのどこか暗い信頼)
        (背に受けるものの差が、そのまま現れているような戦闘だった)
        (光を分解して纏ったような青年が、闇から現れる男を迎え撃つ)

        (先に一撃を与えたのはジャック。だが宝具によるものではなく、決定打にはならない)
        (続く攻撃は読まれ、返され、窮地に陥ってしまっている。無数の光芒に灼かれて)
        (上空で、射出装置に装填される紙飛行機が見えた)
        (込められた膨大な魔力を感じ取る)
        (それを防ごうと、ジャックは足掻いている)
        (でも、その一撃をまともに喰らえば、あるいは―――決まってしまうかもしれない。対魔力の無いアサシンならば)
        (瞑目する。『もしやられそうになったら』 厭な予感は当たるもの)
        (あるいは、これも、背を押すものの差なのだろうか)
        (罪深く呪わしい私と、無垢にして潔白な彼女の)
        (自嘲して笑う。それでいい、と)
        (そしてその笑みは、ジャックへと向けられる。静かな呟きとともに)

        我永遠の苦患を抱く滅亡の民なれど
        望みを捨つる能わざれば尊き主我が憂ひの都に入るを許さず
        邪なる我永遠に現世に在るなり

        (それは彼女の内に秘められていたものに目覚めをもたらす呪言)
        (ベネディクタの肉体が影に、闇に溶けてゆく)
        (それが再び現れるのは―――) -- ベネディクタ 2014-04-05 (土) 03:54:22
  • (冷水を注いだ瓶に差した、パセリの束を抜き、輪ゴムを外して適量とる。その他、諸諸の野菜を刻み、固形コンソメを落として煮込む)
    (2月の食卓には、手製のポトフが乗っている。湯気をたて、旨味のある匂いを振りまいている)
    (テメノス孤児院跡の日常風景に組み込まれた、二人の晩餐である。きょうも全く滞りなく、過度に豪勢でもなく、貧相でもない健全な食事を進めていた)
    (玉葱を口に含み、染みたスープごと噛み締めながら、キャスターは話を切り出した)
    時にマスター。すこし、真面目な相談があるんだけど。
    -- 打雲紙のキャスター 2014-04-01 (火) 23:33:33
    • (キャスターの調理が始まり、良い匂いがし始めて、彼が料理をしている事に気付くと――……)
      (いつも決まって、料理している彼の後ろにひっついて、料理している姿を見る……まるで、お父さんが料理をしているところに甘える子供、或いはお腹が空いて待ちきれない、嘗ての孤児院に居た子供達の様に)
      (寒さも一層酷くなった2月、暖かい家の中で、温かい料理を食べれるという事自体、なんて贅沢で恵まれているのだろうと思う)
      (特に、その料理の味がとても美味しいとあれば尚更――……)
      (食卓に並べられた、野菜とコンソメの良い香りを漂わせたポトフが食欲をそそり、待ちきれない)
      (手を合わせて『いただきます』の挨拶を交わした後に、スプーンですくって口に運ぶ――……煮蕩けた野菜の甘みと、コンソメの香ばしさが調和している優しい味)
      (味わって食べていると、真面目な話を切り出されて――……幸せそうに頬が緩む表情を引き締める)
      ……なぁに?キャスター -- メルセフォーネ 2014-04-01 (火) 23:43:03
      • (余談だが彼はよく作りすぎる。調理場に巨大な存在感を放つ寸胴鍋一杯に作る習慣のためか、余るほど作る)
        (そのたびに暫くメニューが固定されたり、一つの料理をアレンジし続けて陵いだりする破目になって、在りし日の子供たちの無限の食欲を懐かしく思うのである)
        (なお。きょうのポトフも作りすぎたので、後日に具とルウを投入してカレーに生まれ変わる予定である……閑話休題)

        うん、そうそれ。それについてのことだ。(レコードの音飛びのようにして急に話が飛び、キャスターは難しい表情で皿の上の馬鈴薯をスプーンで割った)
        それっていうのはね。僕の呼び名のことダヨ。……聖杯戦争も開幕から暫く経って、ある程度情報が入ってきた。
        ある程度は予測がついていたハナシだけど、今回はどうやら参加している組数がハッキリしてないようだ。参加者もそれを踏まえて慎重に行動してるようだネ。
        (直接襲撃は目立たず、談合や、監視、または手駒をけしかけるなど、鞘当がそこらで行われている。少し前の襲撃者もその手合いだった)
        ……まぁ、このハナシはあんまり関係ないんだけど。とにかく。僕の呼び名が“キャスター”ひとつじゃ困る場面が出てくるかもしれない、ってことだ。
        (程よく弾力のある、ふかふかしたパンを手で千切り、一口サイズにして口へ押し込む。「うまいな、このパン……」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-02 (水) 00:07:51
      • (孤児院で多くの子供達が居た名残だろう、巨大な鍋一杯に作られる料理の量は凄まじく)
        (基本的に小食なうえ、瞑想やら魔術をしたい事から、あまり食事を取らない自分も……量の多さと、彼の料理の腕の良さから、一緒になってから食べる量が増えて以前より健康的になった)
        (今日のポトフも美味しいけれど、飽きたら何になるのかな? カレーとか、ミネストローネ、リゾットやシチュー、パスタや肉じゃがもいいかもしれない)
        (特に彼のシチューは、以前子供達に評判が良かったというお話通り、絶品だし――……ああ、でもカレーが良いな 等と思いつつ)
        (彼の料理も、それから後日アレンジして生まれ変わる料理も等しく愛していた。全然違う料理にしちゃうなんて、凄いなって思いつつ)
         
        ???(急に話が飛び、首を傾げるが――『僕の呼び名のことダヨ』と言われれば『成程ね』と頷いた)
        数人キャスターも居るみたいだし……夢で出会ったマスターの数からも、既に本来の予定の数より多いから、1人づつ……という線はなさそうだと、私も思う
        成程ね『キャスター』だけだと、時と場合によっては混乱しちゃうって事ね?(そう言えば、以前自分を襲った敵もキャスターっぽかったと思いつつ)
        (スープの中に浮かぶキャベツを掬って、口に運びながら考える『呼び名……』 そういうのはあまり得意ではないからだ)
        (食べる手はゆっくりになりながら、考える)惑星方陣のキャスター……あ、駄目だわこれ、手の内がばれちゃう
        ステンドグラスのキャスター、紙飛行機のキャスター、超越紙のキャスター、打雲紙のキャスター……うぅん(悩み中) -- メルセフォーネ 2014-04-02 (水) 00:31:47
      • そうそう。なかったらなかったでどうとでもデキそうだけどね。肝心な場面で僕の名前を言い澱んだりしても格好わるいし?
        (冗談めかして含み笑いする。さて、彼の主人は悩ましげに候補を挙げてゆく)
        ……んー、そうだねぇ。僕も、自分でこれだというのが決まらないから。マスターに振ってみたというわけなんだけど。
        あんまり長いと呼び辛いだろうし、キャスターってのに拘らなくてもいいカモね。クラス名が含まれてるとそれだけで不都合な場面もあるし。
        そうなるともっと、悩んで為舞いそうだナ。(腕組みし、迷う。「なんか、生前の僕に二つ名でもありゃ良かったんだけどな」「……いろいろあるけどさ」)
        ……一応、正式名とは別に、テメノス孤児院とかここらの界隈ではカー・ファインで通してたんだけどネ。
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-02 (水) 00:57:20
      • (キャスターの言葉を聞きながら、考える……出来れば『キャスター』以外の呼び名は、自身としても欲しいかも知れない)
        そうね、キャスターという呼び名で慣れているけれど……敵に情報を与えてしまう事になってしまうし(以前の偽のキャスターの時に、今思えば余計な情報を与えてしまったと後悔しつつ)
        つまり、新しい名前的な、呼び名って事ね……?(更に迷う――……折角なら、良い名前が良いなとも思うし)
        テメノス孤児院は、わかるとして――……カー・ファイン?(まだ、彼の真名を知らないので、首を傾げる――……どういう意味かしらと思いつつ) -- メルセフォーネ 2014-04-02 (水) 23:16:02
      • まァ、謂わばあだ名みたいな、仮名みたいなものさ。……冷静に考えると、“カー・ファイン”を調べられたほうが、過去の僕に繋がる情報を引き出せそうだナ。
        養成校で臨時講師やってたときもこの名前だし。……そもそも、本名使って過ごしたのがごくごく幼いころのみだし。こっちが真名みたいなもんだ。
        (語気が弱まっていく。眼鏡を中指で上げ、小さく溜息をついた)この名で呼ばれるならまだ“キャスター”のほうが危険が少なそうだ。
        (話しているうちに、「そのうち、このあたり……僕の出自についても話さなきゃあな」「知って貰いたいし」と、思い始める)
        (「ま、きょうはやんないけど」潤いのある人生でもなかったが、一口に語り尽くせるほど単純なものでもない)
        (それは、それとして)難しいもんだ、名前って……。
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-02 (水) 23:50:38
      • あだ名……成程ね、確かに『キャスター』と言わない分、リスクも低くなるかもしれないわ(好戦的という訳でもなく、穏やかなサーヴァントは、そのまま普通に過ごしていれば、この街の一介の冒険者と捉えられなくもないと思いつつ)
        カー・ファイン……(繰り返す、彼の名を。自分の心に刻みながら。調べたら分かるかもしれないと思いつつ)
        以前、学校で講師をしていたのね……(彼の話で、本名では無い事を知りつつ――……幼い頃のみというのはどういうことだろうとも思う)
        (私は――……彼の事を、全然知らない)
         
        真名、みたいなものでは危険だしねぇ……(悩む、彼はどんな名前が良いだろうかと思いつつ、彼の過去も気になり始めて)
        難しいわね……(彼は火星との関連が強いなら、火星に関する名前が良いだろうか?)
        学校の先生をしていたなら『先生』とか、安直だけど…… 火星、火星……うーん(悩む) いっそのこと、キャスター何だし魔術師の名前から拝借するとか……?(真剣に悩んで出てくるワードがこの辺りばっかりだった)
        (そして『エイワスは太陽の精霊(?)というか影響だった気がするなぁ』とか思っている魔術馬鹿) -- メルセフォーネ 2014-04-03 (木) 00:29:01
      • (彼は、改めて思う。「この娘と僕には接点がない」歴史書に載るでもなく、学術書の編者であるわけでもなく、また子孫が居るわけでもない)
        (“知る由もない”ような儚い縁で繋がっている。だから、そんなふうに不安げに、残り香も消えた彼の過去へ思いを馳せる主人の様子も尤もだ)
        (こうして同じ食卓について、加工されていない生々しい動物性蛋白をメニューから出来る限り外すようになったような、そんなことが既に奇跡)
        (キャスターはメルセフォーネへ微笑みを向けた)……心配しないで。ちゃんと、教えてあげるから。そのへんも。
        (“聖杯戦争”であることに気を取られて、また、そんな中“日常”をこうして育めたことに安心して、その辺りを疏かにしていた)
        (「こういうのも、大事なんだよなァ。やっぱり」)

        魔術師の名前かぁ。
        その方向で行くと、『ハインリヒ・コルネリウス』とか?(余りにも自分に相応しくない名前に、吹き出してしまう)名前負けしそうだなァ。
        ……んー。でも、『先生』ってのはいいネ。孤児院でも、養成校でも、また個人的に教えてた子も居るし。慣れてる。
        普段はキャスターでもいいけど、外とかでそう呼んでくれると嬉しいカナ?
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-03 (木) 00:55:26
      • (互いに生まれた時代も、育った文化や環境も違う――……接点はない。けれど これもまた一つの縁)
        (彼と私の今を結んでいる絆は、たった一つ『聖杯戦争における、マスターとサーヴァントの関係』のみ……けれど)
        (僅かな時間だけしか繋がりは無いかもしれないとはいえ、確かに、繋がりはあるのだ)
        (一緒に生活を共にし、自分を支えてくれるサーヴァントは、以前どんな人だったのだろうかと興味を持って)
        (頬笑みが向けられて『教えてあげる』といわれると、嬉しくて嬉しくて、微笑み返した)うん、キャスターの昔のお話……沢山聞きたい
        (私自身も、あまり人と接するのを得意とせず、昔から引き籠ってばっかりだし――……夢でマスターと出会っている関係上、聖杯戦争にこの身を投じてからは、眠る時間は必然的に増えて、殆どを寝て過ごす日も少なくない)
        (純粋に、キャスターの事を、もっと知りたいし お話ししたり、触れあいを大切にしたいと思った)
         
        ……魔術師、ついそんなのばっかりしか出てこないけれど(と、言いつつさっきまで書物占い(ビブリオマンシー)に使用していた本を見せる。タイトルは勿論『法の書』)
        (著者の守護者のエイワスは、確か太陽に関連していたけど、火星だったら貴方みたいね? と、彼女なりの冗談を言いつつ)
        オカルト哲学の著者――……アグリッパね? 自分の道を突き進んで押し通す我の強さは、貴方の優しい所とは違うわよね(なんて、楽しく冗談を言いつつ)
        ん、じゃあ……『先生』で、決定(確かに、人を教えて居たり孤児院で子供の御世話をしていた彼に『先生』の名は相応しいかもしれない)
        (人に物を教えられる頭の良さも、面倒見もそうだが――……彼には『人を育むという教育の素質』がとても高いと思うから。慣れているという様に、しっくりくる)
        わかったわ、普段はキャスターで、外では先生ね? 今からそうするわ
        (『先生』と、彼を呼びながら思う――……いっそのこと、本当にこちらの方の進んでいる勉強や、まだ自分の知らない魔術を教えて貰うのもいいかもしれないと) -- メルセフォーネ 2014-04-03 (木) 01:27:32
      • ? ああ……。(苦笑いして目を逸らした。学生時代。留学して間もない頃。市井の寂れた古本屋で偶然購入した“法の書”)
        (開いたら災厄がどうのという文句にガチビビリしてそのまま本棚の肥やしとなった非常に苦い思い出が甦る)
        (「そうなの?」と、軽く逸らかしつつ、意図せず掘り起こされた過去を意識の底に堅く封印し、「こういうのは話さないでおこう……!」と決意を固めるのであった)

        オーケー。『先生』でお願いするヨ。改めてよろしく。
        (しっくりとして、落ち着いた気分になる。彼は“英霊”としての身分があまり自分と咬み合わないように思えていた)
        (限りなく一般人寄りに過ごし、そして、それをある意味で誇りに思っていた。出自の運命から逃れ、“まとも”に暮らすことが出来たのがどれだけ幸せか知っているから)
        (だから、今も“まとも”に暮らしている。聖杯戦争の渦中で、異常なほどに……。「もしかしたらこれが間違いだと思い知らされる時が来るかもしれない」)
        (「その時は覚悟を決めるさ」「でも、この大切な“日常”は壊さない」「壊そうとする奴が居るのなら、喩え、神だって、天使だって討滅してやる……」)
        (そんな気持ちは、舌の裏に隠して。「なんなら、そうだねぇ。まず、紙飛行機の折り方でも教えてあげようか?」なんて、)
        (メルセフォーネに語りかけながら、平穏な食卓を過ごすのであった)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-04-03 (木) 01:59:02
      • (この本の著者で有名な魔術師は、占いというと、この書物でのビブリオマンシーと易をしていたらしい)
        (実際、あの赤い紙の脅し文句はびっくりしつつ、それ以上に中身の想像を絶する意味不明さに驚くものだが……真面目に魔術の話知り始めると、凄い事書いてある上に魔術の『核』的な最も重要な事書いてあるから凄い重要だと思う)
        (……多分マスターも相当、アレな人種だから大丈夫な気がしないでもないが……)
         
        うん。『先生』ね(頷いて、覚える)
        (先生って言うのは、良いかもしれない。事実、彼は英霊でもありながら自分に色んな、生きる事で大切な事等を教えてくれたりもするし……彼の人柄にも、今まで彼が歩んできた道で在る故か、非常に似合うと思った)
        (彼の人生も、過去も詳しくは分からない……唯一知っている事は『テメノス孤児院の先生』だった事、先程『カー・ファイン』という名前で呼ばれていた事、養成校で講師をしていた事を知った程度である)
        (けれど――……聖杯戦争だというのに、面倒見の良い親戚の御兄さんの様な彼は『日常という、幸福の詰まったギフト』が、何より大切である事を、日々の生活を通して……教えて貰えるかのように、伝わってくる)
        (ありふれた日常で、他の人から見たら慎ましく質素な生活に映るかもしれないけれど……雨風を凌げる家がある事、日々食事を口にできる事、大切な人と一緒に暮らせて、命を脅かされないという事は……とても幸福な事だと、過去を通して私も思うから)
        (『紙飛行機の作り方を教えてあげようか?』と、言われれば 喜んだ――……以前、大爛帝国に居た頃、折り紙という遊びを知ったが、紙が高価でそんなものの為に使用できる紙も無ければ、贅沢な遊びだったから)
        (私はとても嬉しく思って)ホント!? あのね、私、キャスターが作る飛行機みたいなのとか、鶴とか折ってみたいの!
        (と、嬉しそうに語りながら――……今日の食事も美味しく、幸せに時が流れていった) -- メルセフォーネ 2014-04-03 (木) 02:36:27
  • (孤児院近くの小さな公園。時折、ドーナツの屋台が来る公園がそこにある)
    (近くを通れば芳しい匂いが届くその屋台の傍……そこに、奇妙な老人がよく出没するという)
    (出没する老人の名は……『キャスター』)
    (その老人はそう自分の名を吹聴してまわっているのだという) -- 2014-03-27 (木) 00:32:27
    • (“キャスター”は呆れ返った)
      (権謀術数が渦巻く聖杯戦争。“願い”という結果が狡猾な手段を全て肯定する)
      (「でもこれじゃあ権謀というより健忘だよ……」)
      (あまりにも雑。姿を晒して、その上で名告までして、自分の存在を喧伝するにはいささか繊細さに欠けている気がする)

      そんで、視察に来ちゃう僕も僕だけどさぁ。
      (九次『月の』魔方陣、『ステア』)
      (公園の空を泳ぐ紙飛行機には、その魔方陣が折り込まれている)
      (紙飛行機が“視た”光景が、そのまま鏡のように魔方陣に映しだされ、七次『金星の』魔方陣、『ハーモニック』により手元の紙で映像を転写)
      (公園から1ブロック隔てた古びた喫茶店で、窓から離れた場所に座っていても公園の情報が入ってくる)
      マ、期待はしてないんだけどネー。
      -- 打雲紙のキャスター 2014-03-27 (木) 00:48:44
      • (そんな風にキャスターが深い溜息をつきながら、紙飛行機に気を配っていると)
        相席、構わないかね?
        (突如、声が掛かった)
        (古びた喫茶店。席は多くない。だが、空席は当然ある)
        (にもかかわらず、そう声が掛けられたのだ)
        (そして、その声を発した人物は……)
        喫茶店にまできて1人で茶の湯をのむというのは、余り面白くないのでね
        (上背のある、眉雪の男)
        (キャスターが得た、公園に出没する『キャスター』の特徴を備えた老人)
        どうかな? -- 眉雪のキャスター 2014-03-27 (木) 00:56:20
      • (天井扇が音も立てず回っている。古木の椅子は年月を染み込ませている。補修と手入れが行き届き、すわり心地は頗る良い)
        (《ハーモニック》が、公園の響きを伝える。紙が振動し、賑やかな声が小さく再生される。見える景色は、平和そのもの)
        (百年昔、自分がそうしていたのと、まったく同じ笑顔が公園に満ちている────)

        (そこへ、影が差した)
        (彼は、目を疑う。色硝子の破片を乱雑に嵌め込んだような眼鏡で、疑うもなにもないだろうか。とにかく、それほど信じられない出来事なのだ)
        良いデスよ。ええ。
        (笑い皺から、“彼”の過ごした刻を想う。喫茶店の古木とはまた違う、丹念に錆びをとられながら長年存在し続けた金属のような──)

        ココは、僕の昔馴染みでね。オーナーはもう変わってしまっているけれど、コーヒーの味は変わらないようだ。
        どうです、おヒトツ。
        (“キャスター”に向かい、“キャスター”が話す。にっこりと、笑顔を浮かべた。裏側に焦りを隠して)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-27 (木) 01:09:14
      • (“キャスター”の懊悩を知ってか知らずか、『キャスター』は満足気に笑みを……何も知らなければ素直に好感だけを抱けたであろう笑みを浮かべた)
        (彩色の色眼鏡の対面に座る老人の姿は……金属を幻視した“キャスター”には鉄塊のように映るのかもしれない)
        (鈍色に輝く鉄は、天井扇が一回転するたびに僅かに顔に影を落とす)
        (気付けば既に夕刻。窓枠から染み込む茜色の光が2人の右顔と左顔をそれぞれ照らす)
        ああ、知っているよ
        この店は私も常連でね、結構利用させてもらっているんだ
        オーナーは大分変わっているようだが……ずっと変わらない、良い味だ
        (既に頼んだコーヒーが届き、老人は一口啜る)
        (笑みは更に、深まる)
        相席したのも何かの縁だ、何か奢ろうじゃないか
        好きなものを頼みたまえ -- 眉雪のキャスター 2014-03-27 (木) 01:23:11
      • (陽射しで店内は緋く染まる。これが未来の予兆。そんな考えが頭を翳めていく。「……未来を視るのは僕の役割じゃない」)
        (「今を、どうにか生きないとな」)
        サンドイッチでも貰おうかナ。卵の……。
        (注文は滞り無く通された。彼は、コーヒーカップの把手へ指をかけ、口へ運ぶ。濃い苦味が舌を流れてゆく)
        (ことん。と、テーブルへそれを戻すさい、カップの中身が大きく波打った。溢れてはいない)

        ……。 (少々の沈黙が空気に搖蕩う)
        (《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》越しに眉雪のキャスターを観察する)
        (「……魔力を感じられない」彼は、何らかの手段で実力を隠匿しているのだと推測した。所詮はEランク宝具である。多くは求めない)
        (しかし、それは魔術の準備をしていないということでもある。「本当に“キャスター”なんて証拠はどこにもないけど」胸を撫で下ろす)
        (「舌戦でも繰り広げに来たんだろうか」「聖杯戦争の序盤は情報戦がキモというしナ」「……厄介だなぁ、こういう手合い」)

        ところで、アナタが、キャスターさんですか?
        (逸らかしても、当然、逸らかした答えが返ってくるものと思い、彼は単刀直入に質問を投げかけた)
        そうだとしたら、同類ですネ?
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-27 (木) 01:53:45
      • ほう、いいね、では私はレタスサンドにしようじゃないか
        マスター、タマゴサンドと『いつもの』を頼む
        (2人分の注文を気安く老人は告げる)
        (いつもの。その単語を受けてマスターはなんでもないように返事をする)
        (本当に、常連のようだ)
        (つまり、老人にとっては公園も……否、その周辺も行動半径の一部なのだろう)
        (宝具で得られる情報が伝えるのは、老人のサーヴァントとしての能力の低さ。そして魔力の無さ)
        (さらにいえば……殺気の無さ。敵意の無さ。それらまで如実に伝える)
        (宝具の効果かどうかまではわからないが、少なくともそれらはしっかりと感じられた)
        (目前の老人は、少なくとも戦いにきたわけではないらしい)

        (そして、“キャスター”がそう訊ねると、老人は鷹揚に頷き、今度は苦笑いを漏らす)

        待っていたよ
        こうして、この辺りをうろついていれば、遠からずそちらから接触を持ってくると思っていたからね
        君からそういってきたということは……どうも間違いないようだ

        (直球には直球で答え、運ばれてきたレタスサンドをつまみながら今度は老人が質問する)

        君も、“キャスター”なのかね? -- 眉雪のキャスター 2014-03-27 (木) 17:45:19
      • (遥か昔。そう、一世紀も昔だ。テメノス孤児院の出身者がこの喫茶店で働いていた)
        (小規模な店舗だてらに、静謐な雰囲気を作り上げていて、文化人のサロンとして扱われることもしばしばあったと聞く)
        (“何度か顔を出した”程度で常連として扱われることはそうない。それは、現代でも通じるこの店の理念の筈だ)
        (「顔を憶えられている」カー・ファインは、精神操作系の能力を疑った。偽の記憶の植え付け、また、洗脳などはいかにもキャスターの得意とするところではないか)
        (こうして見当をつけてみても、魔法効果の痕跡を《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》でひとつも読み取ることができないことから、それが的外れだと結論づけざるをえない)
        (「……マズ、ここに頻繁に来ていることは大前提で」「話術に長けている? とか」「まさか、それだけのわけがない筈なんだけど……」)
        (この場面にある要素を全て分析しても、自分の頭が納得してくれない。「本当に、なんの力も遣っていない?」「嘘だろう?」)
        (老人からは、隠蔽魔術の匂いすら感じられない。本当に、ただの老耄に見えた)
        (少なくとも、この場ではそれが確かだ)

        ……サスガに、近所で不審者(サーヴァント)が出没してると聞いたらのうのうとしてられませんヨ。
        マ、こんな一発で不審者とわかる容貌の僕が言ってもしょうがナイですけどネー。
        (耳を落とした6枚切りの食パンの、片面にマスタードクリームソース、片面にデミグラスソース。半熟オムレツ状の卵を挟んだサンドウィッチを齧る)

        うむ、うまい。……いかにも僕はキャスターですヨ。筋骨隆々なわけでも、帯剣してるわけでもナシ? 槍や短剣、また何かに騎乗するでもナシ。
        魔力だけはまァ人並み以上ありまして、とある陣魔術にも精通しているもんで、隠したって消去法でわかっちまいますから。隠しません。
        “奇術師”なんて創作クラスに分類されそうでもありますケレド、立派にキャスターです。
        (カップを口元へ運び傾ける。ひとくち、間を置いて)
        それヨリも? アナタ、本当にキャスター? 自分でそう喧伝して出歩いているみたいですけど。ジツは名の知れた大魔術師だったりしマス?
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-27 (木) 21:43:35
      • (マスターや店員とも親しげに話す老人の姿を見るに、常連であることは間違いない)
        (少なくとも、この『結果』はそれを全肯定している)
        (そうあることが当然であると、状況全てが肯定する)
        (魔術の痕跡など、当然微塵も無い)
        (眉雪のキャスターは三稜眼鏡のキャスターが喋り終えるまでゆっくりとコーヒーをサンドイッチを楽しみ、最後に質問を受けてから優雅に喋りだす)

        隠してもすぐバレるようなことは隠さない、か
        なるほど、賢いね
        私もその意見には全面的に同意するよ
        なので、私も隠さないよ

        わかっていると思うが、私には魔力は殆どない
        つまり、私はね

        魔術の類は、一切つかえないんだ

        元々、キャスターのクラスに適性がないんだよ、私はね -- 眉雪のキャスター 2014-03-27 (木) 22:38:05
      • ……例えばいま、僕が魔術でアナタの胸に風穴を空けて。それで倒れたんなら信用しマスよ。エエ。
        “自分は無力だ”なんて宣う。いかにも油断ならなそうじゃあ、ありませんか。だから、そんな不躾なこといたしませんケレド。

        (冗談以上の何としても受け取らない。淡白な反応で、「そんなことを言い出すのだと思いましたよ」と言いたげにコーヒーを憮然と啜っている)
        知っての通り、“聖杯”に英霊として召喚された者は、往々にしてオリジナルよりも強化が施される傾向にアリます。
        そうですねェ。たとえば弓の名手と、狙撃銃の名手がいたとして? 生きた時代のスペックそのままに召喚されたのでは絶対的な力量差がある。
        然して、僕ら“英霊”はその時代の“英雄”足りうるべく、ベースラインの引き上げが起こるワケですよ。
        “宝具”、“スキル”、“能力”といったもので競えるようにネ? ワカリマス?

        (彼は、饒舌だ。眉雪のキャスターは、どうやら興味深げにこちらの話に耳を傾けている)
        キャスタークラスは、知っての通り……筋力、耐久力、敏捷性などといった肉弾戦に関る能力の引き上げは行われまセン。
        僕なんかひょうろくだまで、アナタは老いさらばえて、まァいいとこ一般人かそれ以下。
        そのかわりに“陣地作成”、“道具作成”といったスキルの獲得や、魔力の底上げがあるわけです。僕も一躍大魔術師です。生前にできないこともできるようになった。

        (サンドウィッチの一切れを口へ押し込み、コーヒーの二口で飲み下す。《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》の裏で、つぶさに“キャスター”の挙動を観察する)
        しかしアナタは「魔術の類いは一切使えない」「魔力が殆ど無い」と言う。
        いわば、剣ナシのセイバー、弓ナシのアーチャーですよ。いや、それよりも猶悪い! なにしろ、筋力の増強も対魔力の性質もないのだから!
        ……世渡り上手なんデスか、アナタ? もしかすると、他のサーヴァントのちょっとした撫でる程度の牽制で、ころっとやられてしまうじゃないですか。

        (彼は、眉雪のキャスターを藪睨みにして、コーヒーを追加で注文し、空のカップをウェイターに返した)
        よしんば、口先八丁で生き残ったとしましょう。どうするんデス、決勝戦。あなたと、もう一人、ここまで勝ち抜いたよりすぐりの英雄。大人しくやられて終わる心算でしょうか?
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-27 (木) 23:09:35
      • (一通り聞き終えてから、眉雪のキャスターはこれまた満足気に頷き、コーヒーを飲む)
        (空になったカップをウェイターに返し、同じように追加のコーヒーを注文して、指を組んで口を開く)
        (恐らく、三稜眼鏡のキャスターもそれを待っているだろうから)

        君の疑問は尤もだ
        実際、私はサーヴァントの牽制どころか、そのへんの子供に刺されただけでも致命傷を負うだろう
        生前よりも高い身体能力はあるにはあるが、それだって齢七十以上を数える高齢にしては高いという程度
        全盛期の戦士や冒険者には遠く及ばない
        真正面から闘うなんてとてもとてもできない
        私は口八丁手八丁で立ち回るほかない
        決勝に残った場合だって、まぁ執拗にマスター狙いをする他ないかもしれないな

        だがね、そんな事は瑣末事なのだよ

        それこそ、決勝最後の数組になるまで……いいや、最後の二組になるまで瑣末事さ
        私は弱いおかげで、それまでは無視してもらえるだろうからね
        なにせ、倒すメリットがない
        私を倒しても倒すために手札をみせるだけ……倒した奴が不利になるだけだ
        だから、安心なのだよ
        相手が真面目にこの聖杯戦争にとりくんでいればいるほど……私は安全なのさ

        君みたいな手合いを相手にする限りは特にね -- 眉雪のキャスター 2014-03-27 (木) 23:30:54
      • 倒さないメリットもありまセンよ。
        それに、アナタはいま、僕のクラスを知ってしまいました。
        いつかは露見するもの、と自分から暴露してしまいましたけれど、「キャスターと見せかけて実は……」なんて例もあるので、確定してないことは手札になります。
        “キャスターさん”からの漏洩を恐れて、無力なアナタをサラッと倒してしまわない確証なんてございます?
        さっきもイイましたけれど、“キャスター”に“対魔力”はないんです。基本的にネ。アナタを解析した結果がそれを裏付けます。
        たぶん、結界すら作れないんでしょう?

        (言葉は剣呑であるが、口調は軽く、そして真剣である)
        (無人島にひとつだけモノを持って漂着できるなら、何を持っていく? といった具合に、机上の空論を戦わせるような按配だ)
        (新しく届いたコーヒーに、角砂糖を二つ静かに沈める。銀のスプーンを差し入れ、半分に砕き、かき回す)

        まァ……。そんなコトぁしないんですけどネ。
        だって、僕、アナタのこと信用してませんから。

        (甘いコーヒーをひとくち。彼は、屈託なく微笑んだ)
        (テメノス孤児院跡での、“キャスター”との会話がフラッシュバックする。「彼も底知れないヤツだったけど、戦意がないだけで無力とは言わなかったナぁ」)
        (金髪の少年の姿に、不思議な魔力を秘めていた。そして、休戦協定の締結……「このご老人とは、そんなもの結べそうにないなァ」)
        (「だって、その弁が本当だとしたら休戦を結ぶメリットが僕にはないし」「嘘だったら、こちらを謀っているというところで信頼は寄せられない」)

        アナタが偽物(ダミー)だという可能性がある。ご本人に似せて、魔力を英霊としての波長に合わせてね。するとアナタに対して何をやってもこちらのソン。
        (先日、マスター・メルセフォーネと出会った聖杯参加者らしき刺客を思い出す。「……ありゃゴーレムかなんかだよな」)
        それよりもっと、僕が今ここで仕掛けたとして、アナタがその一瞬の隙を衝いて宝具を展開、一撃のもとに葬り去る、なんてことがないと誰が言い切れます?
        僕は、自分の魔導解析能力をそこまで信奉していませんから。いくら、解析結果が「こいつは無力だ」と告げていても、猜疑ります。

        (溜息をひとつ。それから、サンドイッチのもう一切れを齧り、卵のまろみとマスタードの辛味を味わい、コーヒーを啜る)
        “英霊”だからネ。アナタも僕も。
        その時点でもう、誰かにとって無力なんてことはありえないんデス。
        アナタのマスターが、アナタを“ハズレ”と断じて、命をチップにした聖杯戦争から脱落(フォールド)していないことが何よりの証拠。
        (彼は、自分の主人の顔を思い浮かべた)

        ……ホラ。くっく、く。(心底おかしそうに笑いを噛み殺す)
        僕みたいな手合いを相手にしているから、アナタは安心だ。あーあ。結局、アナタに僕は手出しできないワケですよ。困ったなぁ。
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-28 (金) 00:13:35
      • (おかわりのコーヒーが飲み終わった頃、丁度こちらの手番(ターン)となる)
        (窓から差し込む夕日の光がお互いの笑みを照らす)
        (かたや、碩学の笑み。かたや、老獪の笑み)
        (奥にある感情はどちらも読み取ることができない)
        (故に2人は言葉を重ねるのだ)
        (いくら嘘を重ねようと……言葉を重ねる限り情報は漏れていく)
        (その中からピースを組み合わせ、真実をお互いに汲み上げるために戯言を交わし会う)

        (再びコーヒーのおかわりを頼むため、ウェイトレスにカップを渡しながら、老人は前傾姿勢になり、組んだ手に顎を乗せて笑う)

        私を信用しないところは見事といおうか

        だが、安心したまえ。倒さないメリットはもっと簡単なところにある
        (そういって、右手の人差し指をたてて嘯く)

        此処で私を殺してしまうと……まずこの喫茶店がもう利用できなくなる
        外でも往来のあるところで殺せば君は面白くない状況に追い込まれるだろうね
        故に、私はやはり安全なのだ。君もまた安全だ。私は君を倒せない。君も私を倒せない
        健全な関係だろう?

        君が私を『疑ってくれる限り』、私も君も『絶対安全』なのだ

        だから私は安心して己の『無力』という武器を振るうことができる

        君の想像するあらゆる懐疑
        そのあらゆる疑念が君ではなく……私を守っているのだよ
        (愉快気に口元を歪め、椅子に背を預けて背もたれに腕を回す)
        ……ホラ、ふふふ
        私も君も……今まさに『信用ならない』という『信頼』で結ばれた友となった
        喜ばしいことだなぁ? -- 眉雪のキャスター 2014-03-28 (金) 00:59:56
  • (真夜中の散策の折。キャスターは、古く朽ちた、教会、或いは孤児院と思しき建物を見つけた。)
    (兵どもが夢の跡、という言葉を、本で読んだことがある。きっとこの孤児院も、昔は人が大勢いて、笑い声に溢れていたのだろう。しかし今は、人の気配は感じない。)
    (中は、どうなっているのだろうか。生活の痕跡を見ることができるかもしれない。お邪魔します、と誰とも知らない人に許しを請うて、キャスターは歩みを進めた。)
    (しかし、その時。足元に衝撃が走り、バチ、と火花のようなものが散った。)
    (─結界。不用心だった。) -- キャスター 2014-03-25 (火) 21:54:12
    • (清潔な空気が、孤児院跡に漂っている。壁から床まで、丁寧に手入れがされたことを感じ取ることができる)
      (しかしながら、人の気配は殆どない。それはある種、墓場のような幽玄さを秘めている)
      (開け放たれた正面玄関からは、ホールが見える。もとは礼拝堂だったのだろう、すこし色あせたステンドグラスから色とりどりの光が注いでいる)

      (────その魔方陣は、周到に隠されていた。多重の秘匿魔法(コンシール)により、物理的に、魔力的にこの世から位相をずらされている)
      (“ある一定以上の魔力の持ち主”が踏み込めば、それが現界して、罠を発動させる仕掛けだ)
      (マナが回路(サーキット)を走り、魔法効果が表れる。びきり、と音がして、キャスターの足は地面へ縫い留められた)

      三次魔方陣、『土星』の魔方陣。フリーズ。
      ……なんだネ、キミは。まぁ、聞くマデもないか、さっき仕掛けたての罠にかかるのだもの。
      備えがあれば、ハッピー、デスよね? ねぇ、同類。

      (ぬらりと、柱の影から男が顔を覗かせる。背格好は、細身の青年といったところか)
      (しかし、その男──英霊、キャスターの装いは常識を逸脱している。妙なファッションセンスもさることながら、三色硝子の眼鏡がひときわ目を引く)
      -- 打雲紙のキャスター 2014-03-25 (火) 22:13:59
      • (縛り付けられた足元に感じる魔力、間違いない関係者だ。頭のなかで、だよね、と自嘲の声が漏れた。)
        (手のひらを広げた両の手を掲げて、侵略する意図はないことを示す。)

        キミは、やる人?やらない人?
        僕としては、やらない人だと、嬉しいんだけど。変わった格好のお兄さん。

        (柱の影から現れた男の姿を流し目に捉え、両手を掲げたまま、語りかけた。) -- 2014-03-25 (火) 22:32:37
      • (《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》は、彼の表情を隠している。愉快に眼を細めているようにも、冷徹に“処理”を考えているようにも見える)
        (しかし反面、色硝子越しの彼の瞳は、侵入者を分析している。腰まで伸びた金髪に、少年じみた容姿、それから……とびきりの魔力量を見た)
        (「……だーいぶ、僕と性質は異なるみたい。デモ、クラスは一緒?」)
        ん?
        (侵入者の諸手が上がり、“フリーズ”の格好になった)

        信じるかどうかは勝手だケド。
        僕、きっとこの聖杯戦争で物凄ぉく、弱い部類に入ると思うんダヨネ。
        ここは僕のテリトリーだ。まぁ、今見せているソレのように、様々が僕の思い通りに運ぶと思ってくれたマエ。
        それでも、きっとキミと“やれ”ば僕は満身創痍だろうねェ。……だからやんない。

        (ふっ、と、侵入者の足を拘える魔方陣への魔力の供給が止まる。回路は速やかに停止し、剣呑な空気は弛緩する)

        ……敵情視察?(突慳貪に、彼は訊いた。つかつかと歩み寄り、長椅子の背もたれに手をかけて睨みつける。色眼鏡ごしに)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-25 (火) 22:43:31
      • いいや、特に何も。
        といっても、信じてもらえないか。

        僕はただ、人が暮らしている…いた場所ってどういうところなのか、知りたかっただけさ。

        (開放された足の感覚を確かめるように、つま先で地面を何度か小突いてから、打雲紙のキャスターへと向き直った。)

        別に、敵情視察をしていってもいいけど。キミのマスターは?

        (ここにはいないの?と、あたりを見渡した。) -- 2014-03-25 (火) 23:22:27
      • (声が、天井に反響し、言葉の余韻を残した)
        (「……」「いかにも妙なことを言うモンだ」「しかもいたって真面目にね」)
        (顔の前に手を添え、中指で色眼鏡を上げる。絆されつつある自分の心を意識して引き締める)
        マー。ここでは沢山のヒトが暮らしてたことは確かだネ。僕が保障しよう。
        ほら、あっちの炊事場と食堂なんか、狭いけど、子供たちがきゃいのきゃいの言いながら飯を食ってた場所ダ。
        貧乏だったけど、食事はなんとか栄養のあるもんをってね。クリームシチューが絶品だったさ。

        (侵入者の一挙一動を見るが、どうも、魔術の準備行動をする気もなさそうであるし、本当に敵意が感じられない)
        (彼の口元へ苦笑いが浮かぶ。「マジかい」)

        マスターの居場所は、キミがマスターと連れ立って来たら教えてあげるかもネー。
        (二階の、窓が広くとられた部屋にメルセフォーネの私室がある。たぶん、いまは瞑想でもしてる頃合いだ)
        (当然、教えない。「当たり前じゃん!」) ……キミ、ほんとに適当に歩いて来ただけ? 犬も歩けば棒に当たるんだぜ? このご時世、英霊が歩いてたら棒じゃスマないと思うけど。
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-25 (火) 23:37:24
      • でも、マスターと連れ立ってきたら、それって戦争じゃないか。
        それは僕の望みじゃない。

        (食堂を覗こうと踏みしめた床が、痛ましい声で鳴いた。)

        戦いたくないんだ。
        だから、特に何もと言ったのは、嘘じゃないよ。わざわざ挑発することなんて、しないし、したくもない。 -- キャスター 2014-03-26 (水) 00:37:01
      • わかんないよ? うちのマスターも好戦的なほうじゃないカラね。案外、平和にお茶会でも始めるかもヨ? 聖杯(カップ)よりもティーカップってね。

        (「十中八九、戦争だろうがね」侵入者の彼は“ひとり歩き”している。マスターの人物像は、読み取れない)
        (食堂を覘けば、古びた長机が三台と、簡素で丸い背もたれ無しの木椅子がちらほらと。埃は払われている。伽藍として、とても静かである)
        (しかし、コンソメの美味そうな匂いが漂う。キャスターの作った野菜スープである。生活感がわずかながら存在していた)

        気持ちはわからなくもないかなあ。マ。僕は、“英霊”らの力がどんなものか、知りたくあってその意味で闘いたいとちょっと思ってるケド。
        (のうてんきなことを言って、キャスターの動向を逐一気にしている)
        ふうん。一応、マナーとして「それが嘘かもしれない」と疑いつつ、信じることにする。ホントに、散歩に来たわけだな。

        でも、ここらに面白いもんなんてないヨ? もと孤児院だったから、物珍しいかもだけど、いま居るのは僕とマスターだけだからネ。
        (キャスターに興味が湧いたのか、彼は、話題を振ってみる。「……もと人間じゃない、とか? そんな?」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-26 (水) 00:56:37
      • 半分当たりで、半分はずれ。

        (冗談めいてはぐらかすと、そのまま歩みを進めた。聖杯戦争は、情報戦でもある。まだ話す段階ではない、ということだろう。)
        (そして、炊事場までひと通り見回すと、踵を返して、もとの広間に戻ってきた。)

        ねえ。キミは、話が通じるみたいだ。
        提案がある。僕らの間で、休戦協定を結ばないか? -- 2014-03-26 (水) 04:09:08
      • (《三色硝子の三稜眼鏡(ステインド・グラッシーズ)》は魔法術理の解析も可能である。常在展開の術式から、魔力組成までを見通すことができる)
        (だが、“彼”が持つそれはキャスターの知るどれとも違う。不思議なものであった。何かの元素(エッセンス)が躰の大部分を占めていることが辛うじて頒る)
        (同様に、行動原理も理解できそうにない。「全くの考えナシじゃなさそうだ」)
        (カーテンのない窓には古硝子が嵌まっている。ぼんやりと柔らかい光が、炊事場に注いでいた)
        (暫く好きにさせておく。信用とは程遠く、むしろ疑いを強めてはいるが、どうも気を張るのがバカバカしくなる相手だった)
        (「あ、戻ってきた」本当にただ見てきただけらしい)

        ……。
        (キャスターは言葉を噛み分ける。「僕、ヒトから信頼を寄せられるタイプでもないんだけどナー」)
        休戦協定。互いに顔を合わせても“戦争”には発展しないし、どちらカラも仕掛けに行かないってことでよろしい?
        マ、願ってもナイことだ。僕は弱いから、後顧の憂いが少なくなるのはとても嬉しい。
        でも、口約束だよ? この“協定”は互いの信頼関係によってしか維持サれないわけだ。信用しちゃっていいの、僕を?
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-26 (水) 22:03:43
      • さあ、どうだか。さすがに、信用に足るかどうかまではわからないさ。

        (それこそ、出会って一時間、立ったか立たないか、なのだから。)

        でも、持ちかけもしなかったらそうなる可能性はゼロだろう?
        反故にされたら、そのときは思い切り罵ってやるだけさ、信じていたのに!なんて言ってね。
        さあ。僕が聞きたいのはイエスかノーだよ。 -- 2014-03-26 (水) 23:18:49
      • (逡巡する。正面ホールは日差しでぼんやりとしていて、庭木にとまった蝉の喚きがみんみんと廃教会の建物に反響している)
        (「重ねた刻の数が信頼を深く刻みつける」)
        (十年来の付き合いであった幼馴染たちは、彼にとって深い深い信頼に値するものであった)
        (たとえ、百年隔ててもそれが色褪せないぐらいに。たとえ、互いがまるで別の存在に変貌していても形を変えないぐらいに)
        (「信頼を寄せられる道理はない」「むしろ、信頼なんてされないのが自然なんだ」「でも……」)
        (数日前に主人と話した。この聖杯戦争で友達ができたのだと)

        ……イエス。
        ま、休戦協定を結ぶ合理的な意味がある限りは、機能するだろうしね。この協定。
        (色眼鏡の裏で彼は微笑む。見様によっては、何か企みを内に秘めたヒトだと思われるかもだが、彼はいたって暢気である)
        信用、なんてものは後からついてくるもの。いわば、これは信頼の種。
        芽吹くかどうかもわからないし、よしんば双子葉が生えたとしても、指先二つでやすやす摘み取られてしまうような弱いものだ。
        花咲くかどうかはこれから次第ってことで。

        お友達からはじめまショう?
        (一つ歩み出て、片手を差し出す。半分ぐらい無偈にされることを前提に、握手を求めた)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-27 (木) 00:12:47
      • (唇に人差し指を当てて、伏し目がちに、何かを考える素振りを見せる。)

        お友達?それはちょっと…違うんじゃないかな?



        なんて。冗談だよ、冗談。

        (差し出された手に、勢い良く掴みかかる。拍手のような音が、広間に響いた。)

        よろしく、おかしな格好のキャスターサン。 -- 2014-03-27 (木) 01:01:35
  • (廃教会を改修し、児童養護施設としたテメノス孤児院は、沢山の子供を受け容れて賑わいで一杯だった)
    (それも、もう、過去のこと。湿気を含んだ空気でも隠し切れない埃っぽさが、テメノスの中を満たしている)
    (雨期の晴れ間)
    (ぼうぼうに伸びきった蔦へ、水晶色の露の玉が数珠繋ぎになっている)

    (キャスターとメルセフォーネは安宿を離れた)
    (立地条件はそれほど悪くもなかったのだが、そこを聖杯戦争の舞台とすることをよしとしなかった)
    (そして、いまはテメノス孤児院跡に滞在している)
    (老朽化した建物に、都心部から離れた辺鄙な土地だから、誰も使わなくなっても後釜の施設など立たなかったのだろう)
    (と、キャスターは考えた)

    (「ただいま」と言ってそこへ帰り。そして、いくらか寝泊まりしつつ内部を片付け、梅雨の晴れ間を狙って外の掃除も済ませよう)
    (そう思い、門のあたりを掃き掃除。そうしていると、彼は、昔に戻った気がして懐かしい気持ちになった)

    あー……。
    こうしていると、落ち着くなァ。(掃除好きの血が騒いでいる)
    -- キャスター 2014-03-24 (月) 21:27:14
    • (今は旧市街、と呼ぶのだろうか。何十年もの歳月が、街の様相をすっかり変えてしまっていた)
      (出来たばかりだった建物でさえ、今は廃屋と化しているものが珍しくない)
      (歩き煙草で、紫煙を後ろに靡かせながら、感慨深げに歩いている)

      (公園はまだある。さすがに公共施設、息の長いもんだ)
      (そういやミーニャがこの辺で酔い潰れてたような気ィする)
      (チップの母さんが商売してたのは……ああ、もうわかんねえな)
      (俺の古い塒が多分あそこで、ぼたんの家が多分向こうで)

      (……考えるだけ無駄か。馴染みの連中は、どうせもうみんな墓の中だ)
      (歩を進めるうち、孤児院跡に行き当たる。そういや割れメガネの住処はここだったっけ)
      (でももう随分ボロくなっちまって……)
      ……あ?
      (いる。なんかいる。見まごう事などあるものか)
      (あんなトンデモメガネを好んで身に付ける奴は、空前絶後で確定だ)
      ぶっ……はは、ははは
      (最初は小さく。やがて止まらない笑い)
      ダーーーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!
      お前ッ!そのメガネ、お前、ぶッハハハハハハハハ!!!!!
      何十年経っても超だせえ!!!!!!
      (爆笑であった)
      (それはもう、ひぃひぃと息を荒げて、腹筋がひきつれるほどの) -- 伐採斧のアサシン 2014-03-24 (月) 21:50:52
      • (恙無く、すみやかに孤児院跡に到着できた。この街の構造は、いくら変わっても躰に染み付いている)
        (「ええっと」「僕がこの街に帰ってきたのが黄金歴179年の夏で……」「孤児院やってたのが200年台だったかな」)
        (「現在、黄金歴274年の6月……うわっ」「半世紀ぐらい?」「いや、そんなもんじゃない、もっとだ」)
        (空気の味も変わったようだ。時流が、彼の知らない道具や機械を街に並べている。小型の端末を当たり前のように通行人が持っているなど……)

        (「レオン君、元気かなぁ。あの“記憶をする”剣とそれの精霊はどうなったんだろう」)
        (「セータ君も元気でやってるかなぁ。根拠はないけど……良い人生歩んじゃってるんじゃないかなァ」)
        (「そういえばミユキくんもどうしたんだろう。川端荘の行く末も気になるけど、みうちゃんとちなちゃんとか魔法少女組も、あっ、あのお屋敷イマどうなってんだろう」)
        (「レイルとかは幸せな結婚生活送ってんだろうなこんちくしょうって思うからいいんだけどサー」)
        (幼馴染の皆は生きていれば110歳ぐらい。「……きっと、見てもわかんないよなァ、それじゃ」)

        (「見ても……」)
        ……え?

        (酒灼けして嗄れた低い声に、無精髭、それからくわえ煙草)
        ジャックさん?
        (彼は己の目を疑った。色眼鏡越しに見るその景色は常時疑わしいように思えるが、いたって真面目に、白昼夢でも見たのかと思った)
        ってめっちゃ笑ってるこの人ォー!!??
        (“腹を抱えて”なんてまぁ大袈裟な表現だ。そんなに笑うことなんて日常的にない。だが、何事にも特例というものは存在する)
        (外見からして明らかに道化な彼、別に芸をしてもいなく、玉乗りから不様に落ちたわけでもない。何もしていなくても特例にはなりうるのだ)
        だ、ださくありません! よしんばダサかったとしてもこれは魔導器なんですヨ!! 師匠から言われ……じゃなくて、えっと、と、とにかく魔導器!!

        (「あっ、このやりとりすごく懐かしいな?」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-24 (月) 22:18:40
      • ああ、知ってる知ってる。ぶはは。
        いやあ泣くほど笑ったなのなんていつ以来だかわかんねえや
        (まだ少し笑いの残滓を零しながら、目尻に浮かんだ涙を右左と指で拭い)
        (紫煙を一度、大きく吸い、吐いて)
        よう。久しぶりだな。
        (片手を上げて、いたって気さくに)
        (数十年が数ヶ月、あるいは数週間と錯覚させるが如く、隔てた年月を感じさせない軽い調子)
        まだ時代が追い着いてないようで何よりだ。
        古巣のお手入れか?
        (伸び放題の草、剥がれ放題の塗装。いつから人の手が入っていないのか知れない)
        (元孤児院……その前は教会だったか?ともかく、現・廃屋。そう言い切って差し支えないほどの様子の建造物をぼんやりと見上げ)
        (その暫しの間の後)
        ……戦争に備えて。
        (肩を竦める。お互い、簡単に予測のつくことだった)
        (これまたごく軽く、当然のように。欠片の戦意も感じさせず、運命に呆れてすらいるように)
        (あっけらかんと言ってのけた) -- 伐採斧のアサシン 2014-03-24 (月) 22:29:40
      • ひ、久しぶり。
        (景色が歪む。ぼんやりと、昔の公園が背景に浮かぶ)
        (酷く懐かしい。涙を零しそうになるほどに。ほんの一瞬80年ほど時間が巻き戻った。色眼鏡の下の目をこする)
        ……ファッション、というのはあんまし変遷してない気がしますネ。みんな保守的で。
        (「違う」)
        (ぞっと、血の気が引く。心臓が騒がしく脈搏を早める)
        (「こんな、冗談を交わすなんて」「おかしいんだ、本当は」)
        (孤児院跡にある、煤けた白の建物を眺める。ジャックさんの視線を追って)
        (搖蕩うほんのすこしの沈黙は、言葉を待っている)
        (“残酷な運命”を告げるような、『ああ、しょうがないな』という諦めのような)
        そうですネ。……べつに、工房なんて持ったおぼえありませんし、ここをそうするつもりも、ありませんが。
        (ジャックの態度のせいか、彼もあまり動揺はなかった。まるで、“聖杯戦争(それ)”も日常の一部として扱うかのようにそう言った)

        …………。
        (キャスターが思うのは、自分の主人のこと。いまは、孤児院の中に居る)
        (「もし、いま……ジャックさんが、本気でメルセフォーネを殺しにかかったら、僕はそれを止められないかもしれない」)
        (「“手”を打てるのは、イマなんじゃないのか?」)
        (俯いて、黒い思考に囚れる。しかし、それを実行に移せる気はしなかった)
        ……お互い。
        お互い、“英霊”なんて。……信じられないような身分で、再会するなんて思ってまセンでしたよ。
        (「なんで、僕はこんな会話を続けようとしいるんだろう」自分にもわからないが、微笑みが浮かんでいた)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-24 (月) 22:56:14
      • 愛着在るとこだから戻ってきたんだろうが、
        だからこそ戦うための場所にはしたくねえ……ってのはちょいと矛盾しちゃいねえかね
        (塒は戦場になるリスクを孕む。そという老婆心)
        (分かってやっていることではあるんだろうが)

        (焦りに満ちた思考を、視線の動きや俯く身体の動きから……前者は独特の眼鏡で見えにくいながら、推測したのは年の功か)
        (単独行動の技能は持っていないだとか、だから落ちつけだとか)
        (そういうことは別段伝えない。微笑みを見れば十分だったからだ)
        (戦争といえど、ちょいとばかり偶然を楽しんで、久闊を叙すくらいの余裕はあってもいい)
        (英霊と聞いて、溜息混じりに紫煙を吐く)
        全くその通りだよ。
        どう考えてもそんなガラじゃねえだろ。俺もお前も。
        (悪名は確かに高かった。冒険に出てからは英雄と号されすらした)
        (しかし、男の自己認識は、只一言の「碌でなし」。これは今も昔も変わらない)
        俺がおっ死んだ後、何かビッグになってたら別だがよ。孤児院経営がどうやってそうなるって話だろ。
        (とん、と灰を落とす。掃き掃除なんかやってるんだ、ついでに掃いてくれりゃいい)
        (あらためて、孤児院跡を見上げて)
        随分ぼろっちくなっちまったな、ここも
        (最早すっかりと、老人が縁側でやるような、茶飲み話のトーンである) -- 伐採斧のアサシン 2014-03-24 (月) 23:22:37
      • (英霊に拠り所はない)
        (たとえ万国の英雄であろうと世紀単位の時を経れば、その生誕の地はすっかり様を変えて、ただ故郷と呼べるだけのシロモノに成り果てることだろう)
        (キャスターも、すっかり変わり果てたこの場所に、嘗ての残り香以外を求められない)
        (けれど、来てしまった。“愛着”とは、根深いものらしい)
        そうカモしれません。
        (そう、『分かってやっている』穏やかな笑みがそれを示していた)

        (被造物。“天使”によって計画された“完全なる人間”を人の手で創る研究。その、5番目の被験体であり、人造人間)
        (「……なーんて」特殊な出自をしてはいるもの、ここでは単なる冒険者であるし、テメノス孤児院の職員である他は、養成校の教諭をした肩書ぐらいしかない)
        (ちなみに、彼はあと40回ぐらいで英雄になれたが、王族護衛で手酷く失敗した。その点から鑑みても、ジャックより不適格な存在に感じられる)
        ですよねぇ。不思議なもんです。

        (「……相変わらずだ、そのへんも」煙草の先からはらはらと、灰が剥がれ落ちる。床に。彼はむっとした。生来綺麗好きなのだ)
        (たぶん、ここら一帯はチリひとつ落ちない空間になるだろうが、それはほんのすこし先の話)
        (彼は、口を開く。緊張は抜け落ちている。聖杯戦争の参加者である以上、“敵対”か“利用”かどちらかしかない)
        (だというのに、全く無防備に。それほどに、過去の記憶というものは鮮烈なものであり、どこか心の甘い部分でジャックを信用していた)
        ここだけじゃあ、ありませんよ。公園の遊具なんかは、植え替えられて新しくなってたりしましたケド。
        僕らの知ってる場所は、だいたい面影がありません。建物だけでも残ってるテメノス孤児院はぜんぜん、ましなほうですヨ。
        冒険者の街も随分様変わりして、なーんか、近代的というか、近未来的というかネ?
        一部の発展した地域でしか流通してなかったコンピュータもわりかし普及してるようですし。まぁ、ここらみたく片田舎ーって雰囲気のとこもありマスけれど。
        そんだけ、年月が経ってるってことですよ。さっき、計算してみたんですが、一世紀弱たってますヨ。いま。100年です、100年。
        ……英霊同士だから、ジャックさんも僕もわかりましたけど、幼馴染連中はひ孫とかそこらへんの世界です。びっく

        (彼は、口を止めた)
        ……。(「そういえば僕、伴侶とかいなかったナー……?」「あれ? 僕サーヴァントですよ? こんなことで泣いちゃう? ねぇ?」)
        (「へ、へへっ、別に僕、子供作れるかどうかわかんねーし! いいんだ!」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-24 (月) 23:47:19
      • (むっとした様子ににやりと笑った。そんなとこも変わってないらしい)
        (ぼたんが死んで腐ってたとき、勝手に部屋を片して行ったっけ)
        (綺麗好きって奴は難儀なもんだ。虫さえ湧かなきゃそれでいいだろうに)
        (……と、いうようなことをマスターに言ったら、不言実行できっちりと部屋の掃除をやりきりやがった)
        (案外俺より気が合うんじゃねえか、とか、益体のないことを考えながら)

        公園も見たし、この辺りぐるりと歩いてみたがね。
        区画整理なんかも微妙に進んで、道もちょいちょい変わってやがる。
        気が向いたから面影探しもやってみたが、これがなかなか大変だ。
        コンピュータだの、ケイタイだのな。オジサンにはわかんねえ世界だよ。
        テレビもなんか薄いんだろ?薄かったら叩けねえのにな。映りが悪くなったらどうやって直すんだ?
        (子孫の話になって、紫煙混じりの溜息をつく)
        (女運は悪い。良い仲になった女は、みんな……兎も角、こちらも子孫などいないのだ)
        ……昔馴染みもみんな墓の中、か。時間って言うのはえらいもんだ。
        ま、真っ当に生きてりゃ子孫の一人も出来るってもんだが、いないからってそう気にするもんでもねえだろうよ。
        (くつくつと笑って)俺だっていないがね。昔馴染みも子孫もいなかろうと、馴染みの酒と馴染みの煙草は残ってた。
        しぶといもんだ。こいつらがまた味わえるのはなかなかいい(ぶは、と煙を吐いて)
        生きてるって感じがする。たとえ身体が魔力でできた紛いモノでもな。 -- 伐採斧のアサシン 2014-03-25 (火) 00:10:17
      • (自分を憂いで見せたのは冗談のようなもの。本当は、無為に過ごし、ただ死んだわけではないこともわかっている)
        ……たぶんね。孤児院の子供たちは立派になってると思うんですよね。きっと、幸せに。
        どんな形であれ、次代に繋げることができたってのは嬉しいことデスし。
        あと。(スッ)(取り出されたるは洗剤)贔屓のメーカーの洗剤が、イマも売られていて感動を覚えたりしました。
        (変わりゆくものと、変わらないものがあるのではない。形を変えて、生きた時代は根付いている)
        (今見る景色も、彼らを置き去りにして変わり果てたわけではないのだ)

        (「“魔力でできた紛いモノ……かぁ”」)
        (郷愁の憂い、懐古の思い、煖かみ。それを感じているこの手が幻で、聖杯戦争が終わるまでの夢であることが信じられない)
        (反面、それを受け容れている自分が居る。今の時代を、今の世界を楽しみ、メルセフォーネのために幾許かの力になり、)
        (そして消えてしまうことを、納得していた)
        (「なぜなら、僕の物語は全て完結していまっているのだからね」)

        (穏やかな沈黙が流れ、鮮やかな青空へ浮かんでいく煙を眺める)
        (旧知の仲。親友なんて言えるほどじゃなかった。歳も離れていたし、生活圏の被りも浅かった)
        (だけれども、ずっとむかしからの顔見知りだ。こうしてただ話し、ただ風景を眺めるだけでも、気分は良かった) あのっ。
        (不自然に緊張した声が、そんな沈黙を破る)

        こんなこと言うとおかしいかもしれまセンけどネ。
        せっかく、もいちどこの世にコれたんだし。
        悔いのない、ように、しましょう。

        (深い意図はない)
        (キャスターは、純粋な気持ちでそう思った)
        (彼は、戦乱を経験したメルセフォーネに少し申し訳なくなった。彼女は“幸福だった”とは言ったが、“戦争”は甘っちょろいもんでもないと思ったから)
        (「でも、今だけは」)
        (「こんなふうに、昔みたいな気持ちに浸っても……いい、ヨネ?」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-25 (火) 00:39:25
      • (青空。風の音。遠くに聞こえる木々のざわめき、そして煙草の匂いと充足)
        (再び感じるとは思っていなかった、様々なものたち)
        (これは戦いのためにもう一度与えられた、限られた生だ)
        (隔たれた時間はあまりに長く、許された時間はあまりに短い)
        (明日には死んでいるかも知れない、という感覚は、冒険者なら慣れたものだが)
        (一回死ぬまでの生き方すら満足に選べず、納得のいく死に方すら出来たとはいえない男が、これをどう生きればよいというのだろう)
        (だが、それは決まり切っていた)
        (流れのまま、惰性のままに生き、そして死んだあの人生とは違って)
        (召喚された己には、はっきりとした目的がある)

        (己のマスターだけは……ベネディクタだけは、どうにかしてやらないといけない)
        (『救ってください』というお願いに、自分は頷いてしまったのだから)
        (まったくもって柄ではないが、ずいぶん丸くなったものだ)
        (いや……変わってないのか。子供に弱いのは)
        (内心に自嘲して。深く煙を吸い込み、そして吐く)

        思えば、俺の人生は悔いばっかりだったからな。
        最後の方なんか、悔しくて生きてたようなもんだ。
        一度くらい、すっきり死んでみたいもんだな?

        (くつくつと、冗談のように笑う。短くなった煙草を捨て、踏み消す)
        (和やかな時間はこれまでだと、区切るように)

        行くわ。
        俺としちゃ、もう会わねえことを祈るよ。

        (後ろ手に手を振り。悠々と歩み去っていく)
        (いつか見たとおりの背中で) -- 伐採斧のアサシン 2014-03-25 (火) 01:28:31


    • (偶然、その聖杯戦争参加者の背中を追いかけていた)
      (偶然、その孤児院に聖杯戦争参加者が居ることを知っていた)
      (そんな偶然は、ない――)

      ……引き寄せた必然なだけだよ。
      俺はさ。こういう物に対する嗅覚を養うためだけに……。
      何度も何度も何度も、途中で描ききれなくなりそうな何かを積み重ねてきたのかもしれないからさ。

      (金を、時間を、労力を、手間を、人を、噂を、欲を、希望を、願いを)
      (何もかもを利用して、漸く手に入れたこの真核たる事実と繋がりを、廃孤児院の横手にある古い荷車の上で弄ぶ)
      (静かにそれを胸の中に仕舞うように一回深呼吸をすると、まるで早朝に大きく呼吸をしたような爽快感が胸を満たした)

      ダメだろ、それじゃ。
      もうそれだけでも充分だけどさ、せっかくなんだぜ?
      こんな偶然を、どうして放っておける。もうこれは世界意思の代行みたいなもんだろ。

      (荷馬車から立ち上がり、両手を顔を覆う。完全なる喜悦を隠そうともせず)
      (ただ今から描ける真っ白なキャンパスに、思いを馳せながら、爛々と目を光らせて笑う)

      フッハハ!! ハハハハハハハ!! いいよ、俺は今さ。
      ――絶対に神に愛されてる自信がある。俺はやっぱり、愛されてるんだなあって実感するよ!!
      ありがとう!! そして、全うしてみせるから。 ――最高に楽しんでくれよ、神様ァ!!
      (両手を、両腕を広げ、居るとも思っていないその神に敬虔なる感謝を捧げて、悪魔は大声で叫んだ)

      (まるで赤子がこの世に生を受けたことを喜んで大声で泣くように――誰に恥じることもなく高らかに) -- リジェン 2014-03-25 (火) 02:24:32
  • (ギメルの径の、砂漠の夜の夢で――……)
    (出会ったマスターと、彼の言葉を引き金に――……過去の事を思い出して)
    (夢から覚めたと同時に、彼の問いに泣いていた)
     
    ……私の、私の……
    (私の、願いは――……)
     
    (あの時の、幸せだった時代に戻りたい……皆が生きている戦乱の時代に)
    (でも、過去に戻って何をするの? ……無力な事は痛い程に、わかっているのに)
    (……もう一度だけでいい……宗爛様の手を握りたい)
    (けれど、彼はもう処刑されて、この世に居ないのは知っている。叶うとしたら……それは私が死ぬ時)
    (……私は、死にたいの?)
    (いいえ、死にたくなんて無い――……生きたい)
     
    (でも、一人では生きていけない程に、私は脆弱な存在である事も……分かってる)
    (――……私が本当に望んでいるのは、何なんだろう――……)
     
    (啜り泣きながら、サーヴァントを呼ぶ)
    ……キャスタぁー……
     
    (あぁ……でもこれだけは分かる)
    (……独りでいるのは、嫌)
     
    (子供が、悪夢を見た後に……護って貰いたくて親のベットに入る様に)
    (自分のベットを抜け出して、隣に眠る彼の所に泣きながら来る)
    ……今日、一緒に寝ても……いい?
    (このまま寝たら、昔の悪夢に再び襲われそうで……怖かった) -- メルセフォーネ 2014-03-23 (日) 21:14:17
    • (どうも、僕は眠る必要がないらしい)

      (留学生時代の寮では、紙飛行機を折って飛ばすかそれとも寝るか、という程度には寝ることが好きだった)
      (夢の中では、母さんに会えたから。きょうだいが5人揃って、母さんが居て。そういう幸せな世界へ逃げていた)
      (眠気が収まるまで、と、言い訳をしながら。一日の三分の一は眠らなきゃいけないんだから、それぐらい許されるだろうと)

      (安普請ながら手入れの行き届いた宿は、嘗て住んでいた川端荘を彷彿とさせる)
      (ベッドもなかなか寝心地がいい。スプリングはそこまで効いていないが、清潔なシーツが気持ちいい)
      (眠ろうと思えばすっと眠れるんだろうけれど、眠気というものがない)
      (「……サーヴァントになったせいなんだろうかなぁ」「魔力を供給する小径(パス)も随分安定しているようだし」)
      (「油断ってわけでもないけど」「たぶん、きのうのきょうで襲撃なんてされないだろうさ」「宿選びも気を遣ったしな」)
      (「それに、僕も……目覚めてからいろいろありすぎて、疲れた……」これを、眠気ということにしてしまおう。そう決めて、瞼を閉じた)

      (たぶん、これは僕の記憶ではないのだろう)
      (メルセフォーネの記憶が、魔力に乗って流れてくるのだろう。ほんの微かに、異国の戦乱の地が見える。東洋だろうか……)
      (きっと、残酷な運命を用意された道筋だというのに、それを幸せに感じた。「……」「不思議な気持ちだなぁ」)
      (「あの、怜悧な瞳をした、将軍が“宗爛様”なのだろうか……」「きっと、凄い人だ」「僕なんか及ぶべくもない……」)
      (「こんな時代が、お話の中ではなく、存在していたのか」)

      ん……。
      (目が覚めて、目が冴えた。寝起きは良くないほうだと自覚していたが、これもまた英霊化の効能なのかすっきりと起きることができる)
      (しかしながら、頭に残留する主人の記憶や、これから僕らを待ち受ける運命を思うと、まだぼうっとした頭でいたほうが楽であるような気がする)
      (「泣き声……?」)

      あー……。うん、いいヨ?
      ……怖い夢を見たのかい。(右手を差し出して、握る。メルセフォーネの掌はかなり冷えていた)
      -- キャスター 2014-03-23 (日) 21:47:20
      • (安い宿とはいえ……昔居た自分の環境からすれば、清潔なベットはとても贅沢で)
        (質素ながらも居心地が良くて……キャスターの選んでくれた宿は、好ましいのに)
         
        (魔力を供給する小径も、相性がいいのか、彼女自身も魔術師としての才に秀でているからか……問題はなさそうだ)
        (敵の気配も……まだ感じない。宿選びに気を使ったお陰で、宿もとても休みやすくていい場所である)
         
        (――……目を閉じると、彼女の記憶が、過去が 夢の様に、閉じた瞼に広がっていく)
        (そこは嘗ての戦乱の土地、大爛帝国。その土地特有の装飾や飾りを施した民や兵の姿……そして彼女達が居た場所が移る)
        (血を血で巡る争いをする時の中で、彼女は独り、部屋に籠って 時には空を見て星を読んでいた)
        (時には、感じる自然と雲の流れ等から、天気までも)
        (……下手したらいつ、自分が死ぬかもわからない、多くの人が居る中で――……それでも彼女は幸せだった)
        (冷たい目をした、一見女の様にも視えなくは無い、黒髪のフィッシュボーンの将軍が、宗爛様なのだろう)
        (歴史の書物に記されている物語が――……ありありと脳裏に浮かぶ)
         
         
        ……うん(目を醒ませば、俯いて啜り泣くマスターの姿があった)
        (怖い夢を見たのかい、と問われれば、小さく頷いて答える。右手を握ると、氷の様に冷たい手)
        (温かさを、体温を……誰かの温もりを求めるかのように、キャスターのベットに入って抱きつき、暫く泣いていたが――……)
        (落ち着いたのか、夢の話を ぽつり、ぽつりとし始めた)
         
        ……怖い、夢を見たの……昔の夢 過去の夢……
        皆、まだ生きていて……戦が優勢で豊かな大地の時だった、幸せな頃の――……
        (――……けれど、その後私は、永い眠りについて……起きた時には――……)&br; (その先は言わない、言いたくない……思い出したくない)
         
        ……あと、ね
        その夢の前に一つ……違う夢を見て居たの
        ……令呪が、胸から見える男の人が、夢に出たの -- メルセフォーネ 2014-03-23 (日) 22:16:58
      • (自分を卑下する心算はない。それは純粋に尊敬であった)
        (「大爛帝国に生きた彼こそ、“英雄”と言うべき人なのだろう」「一冊、一頁、一行、どんな形でも、どんなに小さくても、確かに歴史に名を刻んだ“英雄”……」)
        (アートマン=K5・テメノスの歴史(データ)も、どこかの記録には残っているはずだ。けれど、きっと、歴史の表舞台に出ることはない)
        (こうして、敬われることもない。はずだった。いま、メルセフォーネに敬われているのはなんの冗談であろうか……)
        (「僕はその人のように、なれるんだろうか」)

        ……。
        (サーヴァントの身の上が不自由だった。経営していた孤児院のことも、エンソルチ天立魔術科学校の経験も、もはや過去の記憶でしかない)
        (“幼馴染”の皆は一体、いまどうしているのだろう? 「考えるまでもないか……」人間であればゆうに老衰死している年月が経過していた)
        (つまり、自分には“サーヴァント・キャスター”という肩書以外何もない)
        (これが、メルセフォーネの深い哀しみにどれだけのことをしてやれるかといえば、聖杯戦争を勝ち抜いて、願いへ歩みを進めるぐらいのことしか……)
        (それも。名も無き一個人が英霊化したものが、どこまでやれるか……)
        (「いけないな」「こういう考えは、いけない」)
        (キャスターは、主人の背中を大きな手で撫でた。嗚咽が収まるまで、その血の熱を伝えた)
        (「こうして触れるだけでも、いいんだろう。きっと。それが求める何よりのことなのだろう」「僕は……弱くなんてない」)

        え?
        (素頓狂な声が上がった)
        えっ、ちょっと待ってよ。どうしたの。それ。……その人もマスターだって、言いたい?
        (あくまで、パスを通しての記憶の流入は、過去の強く焼きついたものの一部を垣間見る程度のことでしかない)
        (その日見た夢がどうであるか、などは、全くの範疇外だった)
        令呪の共鳴か何かで、夢が繋がったと? それで……どうしたんだい?
        -- キャスター 2014-03-23 (日) 22:43:56
      • (大爛帝国に生きた彼は、帝の血を引いた者としては不遇な運命の生まれだったかもしれない)
        (けれど彼は、気高くて強い人だった……経験から冷たい目をしていたが、動物から好かれる優しい人でも同時に在り)
        (武勇に秀でた英雄だっただろう……不運な身の上が無ければ。……あのまま、戦いに勝ち進めて居たら)
        (きっと、今日での彼の評価も、歴史に記される本の内容も違うものだっただろうに)
         
        (アートマン=K5・テメノスの事も、またこの街の歴史に埋もれて居る)
        (それは、確かに戦乱の時代に活躍した武将でも、帝の血を引く様な高貴な身分も無く――……)
        (この街の一介の冒険者で、孤児院を経営していた彼は――……到底、英雄とは程遠い、普通の人生に見えるかもしれない)
        (けれど、確かに彼はマスターに呼ばれた『英霊』なのだ)
        (……武力では、負けるかもしれない ……血筋も、無い)
        (――……けれど――……)
        (あの時、あの祭壇の空の下で)
        (必死の呼びかけに答えて、彼女を救ったのは 紛れも無いキャスターなのだ)
        (それは、どんな武勇伝に登場する英雄よりも……あの夜から、彼女の中では輝く英雄なのだから)
         
        …………
        (キャスターの不安にも、啜り泣いて 碌に気付けないままだったけれど――……)
        (背中を大きな手で撫でられれば、徐々に落ち着いて安心していった)
        (弱くなんて無い)
        (だって、キャスターには、最も彼女の欲していたものがあるのだから……)
         
        (素っ頓狂な声を出すキャスターに『本当』と、短く答えた)
        ……私、時々予知夢見るの…… 最近は以前ほど、見なくなったけど……
        また、夢で誰かに会ったりする事も……多いの…… うん、多分いつかまた会うと思うわ、嘘じゃない……
        (すっかり落ち着いて、顔に残る涙をぬぐいながら答えた)
        うん、そうかもしれない……詳しくはよく分からないけど……お話をね、してきたの
        黒いお洋服で、全身を包んで、髪は黒くて、目と令呪が赤いのが特徴だったの……
        ……聖杯のね、マスターって言うよりも、獅子座だった(つまり、表現者の比喩である)
        彼はね……物語を紡ぐ人、ストーリーテラーだったの……
        (説明が下手くそなので、言葉のサラダかなぞなぞに近い様なアリスの会話が始まった
        ) -- メルセフォーネ 2014-03-23 (日) 23:06:42
      • 星詠みだけでなく、そういうのでも未来を予見してしまうわけだね。
        (夢の中で誰かと出逢うのは、これから先に現実で邂逅する先取りのようなものなのだろう)
        (きっと、黒装束で赤目のマスターは彼らの前に現れる。きっと、それは穏やかなものではあるまい)
        (なにしろ“聖杯戦争”だ)

        ……うん。
        うん?
        (キャスターは困惑した。「もしかして、星座占いのお話でもしてきて、夏生まれだったとか、そういうの?」)
        (「ないよね。わかってるわかってる」「ちょっと、ふざけてみただけさ」「……本当に、占星術が染み付いてるみたいだナ、この娘」)
        獅子座というと、創造意欲が高くて、ドラマチックなことを好む傾向があるのだったかな。
        劇作家とか、詩作家はその宮に金星が入る者が多いのだとか。……。(「それが、聖杯戦争のマスターとどう繋がるんだ……!!?」)
        もしかして、物語を紡ぐためにこの聖杯戦争に参加している、とか? その人。僕らが言えた義理じゃないけど、そうだとしたら好きものだね。
        -- キャスター 2014-03-23 (日) 23:38:47
      • うん……だから私は、宗爛様に使えていたし、飼われていたの
        (頷きながら、答える――……それは、近い未来に現実である事を知るだろう)
        (遠くで、まだ絡み合わないキャスターとリジェンの歯車の音が、静かになり始める……)
         
         
        うん、あのね。彼は獅子座の14度:表現の機会を待つ人間なの(そのまんまの意味を持つサビアンを言いつつ)
        (キャスターの困惑も、気付かない……というか頷いて知っていると思ったまま続ける、ちょっとボケた子)
        ううん、星座占いの話はしていないわ、彼が夏の生まれかも知らないわ?(首を傾げて、ふるふる否定するが――……完全に染みついている)
        うん、そう……獅子座は、自己表現のサインで、ドラマチックに人生を演出しようとする
        表現者にとって、獅子の金星はとても大切……けれど、えぇと 彼の誕生日も知らないのだけれど (頷く)――……そう、その通り……
        彼の世界は、真っ白で描き込める。そして……美しくて描き加える必要の無い世界が好きなんだって
        (アリスのなぞなぞは、解けた 彼は聖杯の参加者として、物語の一員で、楽しんでいるという事)
        ……物好き、そう、かもね……?
        (けれど自分は完全には、分からない……本当に彼が世界を要らないのか については)
         
        そしてね。私が知っているのも、聞いたのもこれだけ……他は知らない(首を振る)
        サーヴァントも、知らない -- メルセフォーネ 2014-03-24 (月) 00:06:17
      • (彼は占星術を“知識”として持っている。理由は単純な話で、自分の遣う魔方陣にも関わりがあったし、魔術学校で必修科目だったためだ)
        (彼女は占星術を“感覚”として持っている。脳のチェストから情報のファイルを取り出し、捲らなくても良い。躰と神経に焼き付いている。きっと、天性の才覚だ)
        (「いやぁ……真面目に勉強してて良かったなァ」「危うくサッパリわかんないとこだ」「有難う、我が母校。そして通わせてくれたザック師匠……!」)
        (話についていくことぐらいは、できそうだった。ゆっくり、記憶を紐解いて、その“赤目のマスター”とやらのアウトラインを創り上げる)

        生まれる前の魂みたいな。まっさらで、しかし、文字や絵を書き込もうとする気概に満ちあふれている……?
        ある意味で純粋な心の持ち主なのかな?(「“美しくて描き加える必要のない世界”」「なあんだかちょっと、畏怖してしまうね」)
        (おどろおどろしい、血眼の化け物みたいなものではなさそう。脳内に、ぼんやりと少年の像が浮かび上がる)
        …………。物好き。うん。

        いや、これは単なる想像なのだけれどね。ごましお程度に認識しておいてくれたマエ。
        彼が“美しくて描き加える必要のない世界”、または、“まっさらで何でも描き込める世界”が好きなのだとしよう。
        僕ら“英霊”はもとから物語を持って生まれてくる存在なわけだ。いわばここで行われることは全てエピローグなのだヨ。
        要するにだね、僕らは英霊になることで、僕らの物語に“何かを書き加えている”ことになる。
        それでいて、これらの“物語”は“白紙から始まらない”んだ。

        そんな“彼”が、この“聖杯戦争”という物語に参加しているのはなにかおかしいとは思わないかい?
        (キャスターの語り口は、非常に饒舌なものだった。どうも、喋り始めると一直線な性格らしい)
        “聖杯戦争”でなけりゃいけない……理由が、なにか、あるのかもしれない。想像だけどネ?
        あくまで、想像。そんな人物像かなっ、ていうね。(捲し立てたことに気がついて、あははは、とごまかすように笑った)
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 00:46:40
      • (話の通じるサーヴァントで僥倖だったのも、メルセフォーネも同じだった)
        (他マスターであれば「何それ訳分からねぇ」で会話がブツ切れる可能性も大いにある)
        (占星術の、理論と実践をミルフィーユの様に重ねた彼女には、根本から染みついているし、感覚的にも占星術の軸は強い)
        (才能はあるかもしれない……けれど、それ以上に実践を積み重ねた賜物であるのも確かで……)
        (ゆっくり紐解けば、キャスターにはなんて事無い会話だったし、なぞなぞを言っている訳でも無かった)
         
        んーと、それはね、彼自身が『僕の世界の扉を見つけて開いてご覧?きっとそこには何一つ無い真っ白な世界だから』って言っていて
        うん、その通り……『何も描かれてないキャンパスが好き』で『同じくらい、触れられない程綺麗に描かれたキャンバス』が好きって言ってたの
        ……で、彼は描き込みたいから聖杯なんていらないんだって…… そう言ってた
        だから、表現者なの……彼は聖杯のマスターである以上に、創作者だと思った。だから、獅子座(自己顕示欲)だと……私は思うの
         
        ……単なる、想像?ごましおは美味しそうだと思うの(コクリと頷く、ちょっと会話の歯車があって無いけど)
        (真っすぐ、真っすぐにキャスターの瞳を見つめて、話を真剣に聞く――……彼の瞳はまるで、あの時の夜空の様な美しい青)
        ……うん。彼の好み、白くて描き込めるキャンバスの世界や美しい世界
        英霊は物語…… あっ……!(成程、と言いたそうに頷いて)
        既に、私達の他愛無いこうした交流すら……物語で、これからの物語もまた紡がれていくのであれば――……
         
        『表現者の彼』が『聖杯戦争という物語』に表現している……という事は(こくり、と頷いて肯定する)
        (饒舌な語り口は、非常に面白く魅力的で……この先の話を、知りたいし聞きたいと思う。時折ながら頷いて、真剣に話しに食い入りながら聞く)
        『聖杯戦争』でなければいけない理由が……もしあるとしたら……(想像の世界へ、浸る)
        きっと、彼自身も『聖杯戦争に選ばれた演出家であり、ストーリーテラーであり、自分にふさわしい舞台はどこにあるのか、を模索している人…?』
        或いは『彼自身も聖杯戦争に選ばれた演劇役者の一人』であり『物語の一因……?』
        (彼女は感覚や直感に優れる一方で、右脳ばかりのお陰で左脳は足りない……考えていると、少しこんがらがったらしい)
        (けれど――……キャスターの言葉に想像を巡らせて、人物像と、運命を考えれば……)
        (彼もまた、聖杯という運命に投じられた表現者でありながら……『自分で聖杯という物語を選び、表現の機会を待っていた人間』――……なのではないかと感じる)
        キャスター……凄い。想像だから、真実は分からないけれど……きっと
        彼自身もまた『聖杯戦争という運命』を自ら選び、選択して……この場に立っている という事なのね? -- メルセフォーネ 2014-03-24 (月) 01:38:45
      • (彼女は表情豊かではないが、こちらの話に真剣に耳を傾け、真面目に言葉を返す)
        (声は風鈴のように涼やか。無機質でありながら有機的な、硝子細工の趣がある)
        (“神降ろしの依童”などと自らを説明していたし、此度の“夢”の話についても、魂語り(スピリチュアル)の領域に両足を踏み込み後戻りできないほど歩んでいる)
        (であるがしかし、“赤目のマスター”を軸にして聖杯戦争について思いを馳せていると、その姿は歳相応に、物語に胸を躍らせるように見えて)
        (キャスターはひそかに、すこしばかり安心をするのであった)
        (「この娘は人間性を喪っていない」「……戦乱の地を楽しいと思い、夜泣きをするぐらいそれに焦れる」「それもこれもきっと、人に恵まれたからなのだろうな」)

        うん。彼の意志でマスターになっているのは間違いないネ。
        ま、どっちにしろ……本人に会わないとわかんないよ。……楽しみだネ? 実際に会うの。
        (キャスターはくすくす笑いをこぼして、メルセフォーネの頭を撫でた)
        ……もう、怖くないかい?
        どう、一人で寝られる?
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 03:07:16
      • (表情の変化に乏しいが、話に真剣に耳を傾けて)
        (鈴を鳴らすような声で喋り……人の姿をして、血が通いながらも、何処か人と神の中間の様な清らかさを持っていた)
         
        (それは、魔術の道に身を染めているせいか、それ自体も含めて彼女の運命だからか……)
        (けれど、聖杯戦争といえど、何処か気負わず楽しそうな雰囲気を感じるのは、彼の思う通り、人との交流があるからだろう)
        (人間性を持っていないと同時に、感じない……それは彼女が人と触れあう事が少な過ぎたせいもある……生まれと予知の能力から仕方が無いのかもしれないが)
        (きっと、彼女は聖杯を通して……人に近づくだろう)
         
        そう……なのであれば、他の参加者と変わりは無いという事ね
        ……そうね。キャスターからしたら、まだ知らない人の噂話の範疇でしかないものね……うん、ちょっと私一人だと会うの怖いし、心細いけれど……
        キャスターが居てくれるなら、足も竦まずに居られると思うわ(笑いをこぼすキャスターに、微かに微笑んで……気持ち良さそうに頭を撫でられる)
        ……うん、平気
        ――……でも 今日だけ、一緒に寝たいの……お願い
        (一緒に寝ても、いい? と首を傾げて問う) -- メルセフォーネ 2014-03-24 (月) 03:35:14
      • そう。
        願いを持った……ひとりの、人間サ。
        (「人間とは限らないか」人型の悪魔は有り触れているし、もっと単純に亜人である可能性もある。少なくとも、夢を見る存在であることが確かなだけ)
        (彼は、自分の生みの親を思い出した。「“天使”も、人間の姿をしているのだし」「まぁ、“あの方々”は聖杯になんて願うべくもなく、望みを叶えられる立場なのだけれど」)
        (「母さん」乱脈な考えが寂しい思いを想起させて、少々、メランコリックな気持ちになる)

        ……うん、いいよ。
        (「僕も寂しくなってしまったし」「なんて、口軽には言えないなぁ」)
        (苦笑しながら了承する)
        (老いさらばえるまで生き、英霊となった。精神はすっかり円熟しているつもりだった。けれど、全盛の青年の姿で召喚されたためか、心も少しその時期に戻っているようだ)
        (最低限の気遣いとして僅かばかりの間を空け、メルセフォーネと添うて寝る。「れでぃー」「ダシ」「ネぇ?」)
        (春夜の暗幕は音もなく静かに降りている。二人は、寂しくなかった)
        (「僕が救われてちゃ、なんだか世話ないってハナシ。滑稽だなぁ」)
        -- 打雲紙のキャスター 2014-03-25 (火) 06:52:11

Last-modified: 2014-04-19 Sat 01:40:56 JST (3658d)