設定/ブラックゴート傭兵団

  • 【 3 】
  • 【 2 】

    • さて、話はそこから遥かに遡る。
      遥か昔、統一王朝がそれこそ現存した、いや…もしかしたらその前かもしれない。
      そんな気の遠く、神代と呼ばれるような時代からそれはあった。

      • それは人々は星の外まで届くかの如く、旅立って行ったとも。外なるものにより滅ぼされた時代でもあったとも。
        ともかく、なぜかは知らないがそこには存在していた。誰もわからない。
        そう…竜である。竜は確かにこの地に遥か以前から存在していた。
        それが当然のように、さも一つであり全であるかのように。しかし、それを問うものは出れど解けるものなど誰一人いなかった。
        故に、現在でもその解法などなく災害として我々は対処するにすぎなかった。

      • そしてその中の対処法の一つであり、歴史と共に消えたのが死屍操霊術である。
        古くは統一王朝が成立する前。新しくは統一王朝が成立した時には存在したという。
        統一王朝のもう一つの系譜、成立時の王の陰。もう一つの王。
        かの王の弟が影の王となりその術を確立せしめたとも、精髄したとも伝えられている。
        そのもう一人の王は、今では帰らずの砂漠と呼ばれている場所に移りただ研究を進めた。

      • 「古王朝、と私は読んでいるがそも文献がもう手持ちしかなくてな。他にどう呼ぶかわからぬが、統一王朝以前に存在していた国家がってだな。」
        「そこにあった、冥界と現世を繋ぎ死者を呼び出し率いる術が死屍操霊術の原型となる。」
        「おそらく竜と勝てると踏んだのだろうな、全面戦争に踏み切った末に滅びたのだろう。その後…統一王朝成立時に、当時の王の弟がそれらを引き継ぎ研究を重ねたようだ。」
        「そう、王の弟…名前はもう消えてはいるが。彼らが率いる神官か僧か、求めるものが諸国統一となればその強大な力を手中に納めたくなるもの。禁忌とも思えるものであってもだ」

      • そう。それは禁忌の術である。
        かつて死は身近なものであった。故に生と死の境界が曖昧であり、混濁した世界であった。
        しかし時が経つにつれ、人々はよく…悪く言えば賢く死を避け始める。生きることに執着する。
        そこから死はまさしく穢れとなり、死は隣り合ったものではなく隔絶されるべきものとなり。
        戦か政であるかは知れず、それらは解体され、影は影となり、また時が過ぎればローディアの陰の中に組み込まれた。
        しかしそれを残すものも、知る者もおらず。ただ血だけは引き継がれた。
        統一王朝の王族の血だけが引き継がれた。

      • これはまさに東西南北、四方侯である。
        それぞれ枝分かれした別の系統ではあるものの、かつての統一王朝の王の系譜だからこそ四方を司る…四方に分けられた王なのだ。
        その中でも、魔術に明るく強く影の部分を隠し持ち合わせていたからこそ南方領は南方王たる素質を持ち
        アルメナとの対外政策に置いて重要視されたのである。
        影の歴史であるが故に、ローディアでの発言力はなく。しかしアルメナとの戦いにおいてはまた強く壁となる城壁たらんものとして。

      • 「まぁそうだな、言ってしまえばバートレッドもウィルロットも王たる資質…血が故かな。存在していたんだよ、ローディアの王となる絶対的な証明が。」
        「故に前王はフリストフォンを確かにまぁ目をかけてはいたようだが、次代はウィルロットになるだろうとしていたのであろう」
        「といってもあれらはまた人としては不出来であったからな。移ろいゆき、バートレッドが王になったようだが。なんとも道化よのう。」
        「お前達には到底わからぬだろうが、自分の描く人としての美しさや正しさを凝りかためると自らを枠にはめる矮小さへと変わる」
        「さすれば人はただの置物以下にしかならんよ。つまらぬことだ。」

      • 「貴方達が宗のところにいた時によく言っていたわね、自由だの翼だの。人は自らが規定するより多くの力を持つと貴方は言うけれど、どれだけ人に期待しているのかしら」
        「ハハハハ!これだけいうとそうだな、夢想家か、愚か者だろうが…自らを広げて見ぬ限り人は小さきままだ。久しくあえば、また汝らもよい顔になったものよ」
        「あぁ、だからフリストフォン…本爛を焚き付けて外へ広げようとしたのね。ローディアの王とするために」
        「うむ。しかしそれが困ったものでな。あいつの興味といえば宗爛にしか向かぬ。惜しいことよ…故に死することとなった。殉じたのか、まぁそれはさておくが…やつがいなくなったことこそ、ローディアの歴史というよりも私にとって痛手であったな。」
        「あら私では不満かしら、妬けるわね」
        「こればかりはな、いやはやあいつがいればまだ南方領に留まる理由にもなったのだが…ようようにつまらなくなった。」
         
        「あいつがローディアの王となるのならば、大爛をも巻き込み大陸を制覇しその先に手を伸ばす以上に手を貸したものを。真に惜しい限りだ。馬鹿げた夢想と思うか?いやいや、果てなき夢とはよいものぞ。」

      • 話を戻そう。
        しかし血筋は残れどその技術は残らず。王族には不要とされたかその技術は消された。
        と、一応はされている。しかし闇の中から闇の中へ、血の中から血の中へ。
        その技術は口伝を以って隠匿され、その技術は血を以って隠匿されてきた。
        影の中から影へ、その伝えはローディアではなくアルメナに存在した。
        アルメナの最下層、ボロを纏った老人の妄言にしか聞こえぬ言葉が
        12歳となったラー・アルラーム・カイルの耳を通し血を打った。

      • かつての研究者の、神官らの血脈は秘匿とされアルメナに囲われ、何を伝えているかも分からず
        誰も理解するものもおらず、ただ妄言のように言葉を繰り返す傀儡のように生きていた。
        ラー・アルラーム・カイルはすぐさま全てをその言葉から、血から受け継いだ。
        アメクスはそこでようやくかの兄の子に抱いていたものを理解する。
        信仰、崇敬…畏怖、今のアルメナにこそ。ないものであった。
        すぐさまその老人らを側近として引き入れ、呪いの如き血脈に刻まれた術式を解き、人として覚醒させればその力を益々増していくこととなる。
        かの者は、確かに消え去ったはずの技術を現世に蘇らせたのだ。
        己の血を、力を以ってである。
        18となり、息絶えた者以外を連れて南方領に戻る時にはアルメナの内部であってもアメクスを伝いその権力、派閥を大きく広げ伸ばしていった。

      • 「そう、故に私はこの後のことを考えたわけだ。このような力、そうそう出されては困るからな。」
        「我が子を産む母体に施術をかけてな、我が力を引き継ぐ血を残すようにとした。」
        「口伝がなくとも来たるべき時に覚醒し全てを理解できるようにな。いやいや、後継者のためであるし後の世のため絶えさせてはいけないのだが、安易に外に出すものでもない難しいものよ」
        「アルメナからバルバランド、ローディア、スリュヘイムへとおくったが…はてさて、血は残るだろうかな」
        「なにせこの施術は多少強引なところもある、死屍操霊術の術式すら組み込んでいるからな。運が良ければ12程度まで生きられるが基本的に覚醒せねば魔力と死屍操霊術、冥府から漏れ出るもので自家中毒を起こす」
        「といっても絶えることはあるまい、これは男子だけにかかるもの。女子であればまた母体を引き継ぐものでな。まぁこの先私と同じ力を持ち赤髪を持つものあれば遊んでやってくれ」

        「あら、本日のゲストね。こうして会うのは初めてかしらね、宗。さてお話は大爛を軸に変えましょうか。」
        「ほう、お前からか。良きかな、愉しみであったしな。」
  • 【 1 】

    • ローディア連合王国は豊かな国である。統一王朝の分裂の時より勝利したその者らの特権の地である。
      北は雪に、東は砂漠に、西は外洋に、南は内海に接する広大な大地に豊かな実りが彼らを育んだ。
      しかしそれと同時に勝利者であるものは、また押しのけた敗者や押し出した者らと隣り合い続けることとなった。

      • 北はその過酷な土地にありながら家父長制度ならぬ家母長制度とも言うべきか
        得体のしれぬエルフを筆頭に粛々と、しかし獰猛に鋼という牙を鍛え、そして容赦なく戦わんとする狂戦士が出来上がっていた。
        エルフを筆頭にした執政が対外的に滞りなく生まれるのにさほど時間はかからなかったが、この分裂の時代においては北方からくる狂犬を打ち据えローディアを守る者が必要となった。

      • 東は東で、追い出した野良犬とも言うべきか飢えた敗北者が定めた国境付近にてうろつくようになる。
        敗北者の怨恨とは根深いもので、いかに愚行であろうと終わらぬ演劇のように紛争が後を絶たず
        いつしかそれらが古き良き騎士という形骸化しつつあるを存在を存続させるための茶番のような世界が出来上がる。
        故に彼らは英雄を欲した。騎士の英雄を望み、生まれ続けた。

      • 西は汚染地域に住み込んだ者らが難敵となった。武力に任せた実効支配などは行わず、静かにその手を闇から伸ばしていく。
        特異な土地というにはあまりのその質は強く、隠秘学や錬金術の狂信的なまでののめり込み等忌避すべき存在と化していた。
        表だって動かぬため、西方はその役割を対外執政または内政により国を富ませ盤石にすることで防いだ。
        内的な治安が最も優れているというのは、この時代から汚染地域に労働力を引き込もうとする奴隷商人らを取り締まってからであるとも聞く。
        とかく、この国に実質的な利を生み出す存在こそ据えられることとなる。

      • 南。この地は些か特殊である。北と東が軍事であるならば西は執政。
        地理的にみても東で賄える範囲であった。東がバルトリア一帯を治めればいい話であるのだが、ここにそれらを度外視しても南を据えなければならない理由があった。
        宗教である。南に隣接する地域にはアルメナ教が沸きだし教会が実権を握るコミュニティが出来上がる。
        その実態は少し頭が回る執政者や商人からすれば醜悪なものであり、その思想の強い流入を防がなければならなかった。
        そのためには東に求められる敗北者らとの戯れと合わせもつような二束の草鞋は
        【内的高潔さ】が必要とされるだろう使命と、【表面的な清潔さ】を防ぐという役目と合わせること自体愚行であり避けなければならぬ事態であった。

      • そしてここに、アルメナ教を防ぐという理由だけでかの地の果て近くに街は作られ、南方領が生まれた。
        バルトリア平原の一部から河川流域、ローディア南方山岳一部を含む四方で一番小さい南方領。
        それは豊かすぎず、また貧しすぎず。ただ思想の防波堤と独自の高邁さを求められた思想の防波堤
        結果として民は飢えず、乾かず。しかし満ちず、潤わずという非常に思想的に不安定な民を生み出し
        ある種の思想の流刑地、隔離された世界に遂げることとなる。

      • そこから長い年月を経て、いくつかの密約や条約が生まれ、武力も貧しく自警に留まる程度にしか持たぬ南方の地
        この日、当代のローディア連合王国南方公領主の第一子がこの世界に産声を上げたことから南方領は変容を始める。

      • 当代の領主は有能である。
        それは優秀な執政、武道ではなく。求められることを成し遂げ、存在するという…こと南方領においては必要とされるべきことを要領良くやってきた。
        四方領主の集まりでも変わらずどちらでもよい、関わらず。との故に触れず。形骸化したその役目をただ果たしてきた。
        昔から続いてきた果たすことの必要性を肌で感じ、アルメナよりの侵害を押し留めるだけの人柱を生み出してきた南方領主の家系。
        その役割を受け入れ、果たし続けてきたこの男を以ってしても唯一どうにもならなかった失策が存在した。

      • それは子である。
        南方領主には跡取りが存在しなかった。もとより若き頃より白髪が混じり始めた頭髪が、より白く変わるこの年頃まで子供ができなかったのだ。
        その原因は伴侶にあるものではなかった。自身にあることをこの領主はよく理解していた。ことその愛する伴侶から新たな命が生まれようとしているこの瞬間
        焦りでも期待でもなく、ただ過ぎ去りゆく時間の中にいるようなどちらでも起きることは変わらぬという諦めに満ちた青い顔が語っていた。
        それは、この南方領とアルメナのある取決めが大きく関わってくる。100年以上前よりか、決められた密約。
        最初に生まれた子は直ぐにアルメナへ預ける。よってアルメナと南方領の執政との結びつきは強くなると。
        いつからか決められたその取決めが、領主の心を幼き頃より蝕んだ。事実この男は第二子でありる。長子である兄はアルメナより帰ってこなかった。
        そして、二度と会わないと決めたのだ。生まれた時より分かたれた実の兄と再び見えた時。兄はアルメナを偶像化したような姿に変わっていたからだ。
        人にありて人ではないその姿に言葉を失い、それより一時言葉を失い続け、食事を拒んだ。
        そう。兄は、七眼六臂の化け物となっていた。

      • 床に沈んでいた赤毛の祖父は語った。
        「詮無きことよ、故に第二子がこの南方領を治めるのだ」
        第一子、長子が誰であれアルメナに取り上げられるのであれば仕方もないことであるから諦めろと
        これは儀式の一つなのだと、祖父は呻くように囁いた。それがこの領主の心に深く根ざし。愛する伴侶と共に望むべき次の世代へ引き継ぐ儀式を遅々として進ませなかった。
        しかし、幸か不幸かこの齢になってその命が。託宣のように降りてきた。儀式ではなく戯れのように続けてきた行為が、目をそらしてきた己への罰として送り込んだのかもしれない。
        知ったアルメナは医師らと一部の関係者をこちらに送り、妻を守るという名目のもと関わり始めた。
        母体から取り上げるのも彼らであれば、この南方領から第一子を取り上げるのも彼らである。
        今、城の一室を借りきって分娩を行っているのはこの南方領のものらではなく、かの国の者らなのだ。

      • かの者らが表れてから、より肌でアルメナの悍ましさを感じることとなった。それはあの兄を思い出しまた口を閉ざすことにも繋がる。
        妻はうわ言のように囁きながら腹を撫でることが多くなった。この南方領に嫁いできたころより、静かな女ではあったが良き妻であり、良き女であった。
        最近では子もいなこともあって、より影が伸び始めたかのような暗さが見えていたが、子が出来たことにより以前よりも笑顔が増えたこと…道理でいえば喜ばしいことであるが…
        その愛する者もまたアルメナとの密約を知っているはずであるのに異様に腹の子への執着を見せた。それが、恐ろしかった。
        取り上げられることが分かっているというのにここまでの変り様は危うさを感じた。
        表面的には祝福を、と述べるアルメナのものらもまたこれが当然かのように妻と接している姿はこの100年以上の長き時代にて変わらぬ儀式なのだろうと改めて恐ろしく感じた。
        当代、自分の番になってようやくわかるものというものがあるのかと。

      • そのような陰鬱な空気の中に思考を沈ませてからどれ程経ったのだろうか。執政官もまた、この何の報せもない事態を不審に思い始めたころである。
        「領主様!執政官殿!大変な…!」
        礼もせず執政室に現れた衛兵長を咎めるような視線がまず、彼に刺さるがその報告を行った彼の言葉が領主と執政官の顔色を変えた。
        「具体的に説明ぜよ衛兵長、何が起きた?」
        まさか妻の身に何かが、と席を立ちあがった領主すら注意に留めず衛兵長は叫ぶ
        「とにかく…来てください!」
        衛兵長は優秀な男だった。この城の防衛の責任者であり、その歴は長い。
        この度の出産の時も、一室を外で警備し万全を期していたはずなのだが
        その彼が、言葉にすることもできないという事態は何が起きているのか
        領主は、走った。久方ぶりであったためか足を幾度ももつらせ、壁に当たったが走った。

      • そこは、赤黒で染められていた。いや、赤黒でしかなかった。
        アルメナより来た司祭も、医師も、魔術師も皆口からドス黒いものを吐き出し死んでいた。
        それが内臓か何かかはわからなかったが、とんでもない血臭がこのフロアに広がり始めていた。
        聞いていた戦場とは違う、同じか、いや地獄なのか。何かが、そこにいた。
        愛する妻に抱かれた、赤子がそこで嗤っていた。
        「無事、産まれました。」
        妻の至って平静で、赤子を愛おしく抱く姿。この世のものとは思えぬ地獄の如き世界で、歪に見えた。

      • 「何故?母から私を、私から母を。父から私を、私から父を取り上げようとしたからだよ」
        「ハハハ、そう顔をしかめるな。当代ではな、長子をその場で神聖魔術にて傀儡にし母体をその儀式の贄にするよう手回しをしていたのだよ。」
        「その前までは長子を取り上げた後、傀儡にする予定だったらしいがいかんせん第二子が望める齢でもなかったからか早々に傀儡にした後、新たな女をあてがわせる予定だったらしい」
        「しかしまぁそうはさせぬということでな。連中にはその場で死んでもらった。何、あの場においては全て準備が整っていたからな。母以外を贄として私は目覚めたわけだ。」

      • 「ふむ、産まれる前からこの力というべきか。何かを使えたか。というのは難しい話ではあるな。」
        「素質自体はお前達二人と同じように生まれた時からあった。南方領の家系かな、それもまた関わってくるのだが」
        「実のところ、術として自在に使えるようになったのはもう少し後でな。それまでは思考の中より遊んでいた結果として使えたわけだ」
        「何?そういう話ではないと、いや同じだよ。私は母の腹の中にいるときより母の声を聞き、また母へ語りかけていた。」
        「例えば…そうだな、稀に母の中にいたことを覚えている者がいるようなもの…でもないな。とにかくできたものだからな、いや何暇で仕方なくてな、あそこは」
        「しかしこれがなかなか面白くてな…おぉいかんいかん。酒が冷めるな。大爛ではこういうのもあるのだから、飯もまた観光の楽しみよの。」

      • 「で、その後はどうなったのかしら。アルメナが黙っている理由などないでしょうけど。ところでこの蟹いけるわね」
        「茹で上がった蟹は逃げぬぞ香。さて、その通りでな。父上はここで書簡を送ったのだよ、アルメナへの。事実をあるだけ書いてな。」

      • その書簡を出してすぐ、アルメナよりの使者が訪れた。その使者とは領主の兄、アメクスだった。
        七眼の枢機卿は高位の司祭を引き連れて南方領に入領。自らの眼を以って遺体を検分した。
        書簡に書かれたことが事実であるかどうかを確かめるために。そしてその事実は覆しようがないものだった。
        まず外傷がなく、内からかき乱されるように殺されていたのが全てだった。赤子を取り上げられぬように衛兵や魔術師が手を下したようなものではなく…それこそアルメナの神聖魔術により殺されているようにしか見えなかった。
        体内の魔力、あるいはその根源的な力の暴走。アメクスはそれらを生まれた長子が行ったと決めた。
        あそこで行えるものの可能性として消去法で選んだのだろうと、領主は最後まで反論したがアメクスはその反論を否定し続けた。

      • そして、通例の通りに連れて行くことを決めた。しかし一つ例外を入れた。領主の妻、長子の母も連れて行くと。
        当然領主は反論したのだが南方領の妃は受諾。子と共にアルメナへ行くことを望んだ。
        領主は最後まで反論した。奇怪な事件に対する見せしめと、その人質として妻をも連れて行くつもりなのかと。
        南方領の領主らしからぬ言動であったため、それはアメクスや執政官に諌められた。
        新たな第二夫人を迎え入れて、今までの通り過ごせばよいと。
        領主は子を諦めていたはずのものから、さらに愛する伴侶も失い、また南方領主としての執務に戻り。
        長子とその母は、アルメナの首都アルマスへ送られることとなった。
        通例の通りに。

      • 「あら意外ね。次は施術の代わりに傀儡のための乳母でも宛がうのが定石と思ったのだけれど。ところでこの蟹、殻は食べられるのかしら」
        「六陵の蟹もいけるが、この浄玻璃の切子も良いな。アメクスは私が生まれたと同時にアルメナと南方領の通例が崩れたことを理解したらしい。」
        「故にこれ以上は手出しをするべきではないという部分と、通例の妥協点を考えてのことだったらしい。どちらにせよ母以外から乳を受けるつもりはなかったが。」

        「それにしても、宗ともお話したかったのだけれど都合がつかなかったのは残念だわ。飛の首塚見たかったのだけれど。大蠍の唐揚げは食べないのならいただくけど」
        「ふむ、アトル・イッツァ以来だったな。この先盤で戯れる機会もあろうかと思っていたが、聞くにありえぬやもとなれば遊ぶのもまた些事となってしまったのは残念なことよ。」
        「本の塚ぐらいは見てやりたかったが…さて、まぁ待て。本題はここからとなる。先に述べた通りそこから先の話でな…あれは私が12の頃だ。甘味はないのか、甘味は」

Last-modified: 2013-07-04 Thu 23:46:20 JST (3940d)