THE SUN
- (4月まで残すは一月と半分、といったところ)
(二人は家主と居候としての良好な関係を築いており、いざ別れの時となれば、どちらかが涙の涙を零すかという程度の可能性はある) ……そうか。いつの間にか、生活の一部の中にリリオが存在することが、当たり前になっていたんだな。 (居間は食卓以外殆どがリリオの居住スペースと化している。当初は多かった生活態度への口出しも、数ヶ月を過ぎると殆ど無くなった) (寂寥感を抱くことは当たり前だ。しかし、別れは必ず訪れる。最初から決定されていた運命なのだ) -- 賀良
- ただいまー、……あれ?
どうかしたん、賀良さん。 (卒業試験に付随するレポートなどの資料集めから戻ってくるなり、そんな疑問を投げかける。常に冷静に見えるこの家主のそんな微妙な機微を察せられる程度には、彼女もこの家に慣れていて) ははぁ。ウチが居らんくなると思て寂しいん? (冗談めかした口調でそう言うと、外套を脱いでハンガーに掛けた) -- リリオ
- おかえり。(慣れ親しんだ、外套を脱いでから座るまでの一連の動作を目を細めて見やると、リリオから投げられた言葉に素直に頷く)
断腸の想いだよ。一年前は魔物に怯えて逃げ回っていた駆け出しが、こんなに大きく成長したんだ。 君の変化を間近で見られたならば、教師冥利に尽きるというものさ。 (僕は学校医だけど、と付け加えて) 卒業した後は、やはり当初の予定通り研究職に進むのかい? -- 賀良
- (首肯されて驚いたように振り向くと相好を崩す。蕾が綻ぶような笑みで)
賀良さんが居てくれへんかったら、ウチはこんなに頑張れへんかったし……おおきにな? (問いについては首を傾げて)……正直言うて迷ってるトコやねんけどね。 (魔女の庭はともかく、魔法の国に戻ればこちらにまた来ることが出来るかは分からない。どうすべきか、迷っているのは本当のことで) -- リリオ
- よしてくれ、そう言う台詞は来月、君があちらへ帰る間際になってからだ。
そういえば僕からの合格祝いはまだ渡していなかったし、例えば服だとか、欲しいものはあるかな。 (変化が起きたのは力量だけでなく、自分に対しての態度もだ。何処か余所余所しく他人行儀だったリリオが、よく笑顔を見せてくれるようになった) (変わったと言えば自分もか。大人の立場を利用して上からの目線で頭ごなしに叱りつけるなど、随分リリオへ不快な想いをさせた) 何故悩むんだ。念願が叶おうとしているんだぞ。(内心を知らずそんな発言を) -- 賀良
- いやいや、そんなん別に気にせんでええのに。……でも、もしそう思てくれるんやったら、どっか美味しいもん食べられるトコ連れてってくれると嬉しいかな
(問いに対しては少し難しい表情で)……んー。 なんて言うか。ここの生活、楽しかったし。未練があるのはウチもやねん もっと色々賀良さんと出来たんとちゃうかなーとか、色々。 -- リリオ
- 食事か。来月までに調べておくよ。(高級ホテルがあったな、と思い出す。値段はともかく、あの中ならば気に入る料理のレパートリーは揃っているだろう)
色々というと例えば、遊園地に遊びに行ったり、海へ出かけたり、そんなことかな。 (勉学を第一に考えるよう教え聞かせただけあって、二人でプライベートに過ごす時間は皆無とだったと言っていい) (これほど早くに検定終了の通知が下りるなら、もう少し自由な時間を作って、リリオに付き合ってやってもよかった) もう一カ月と考えるのも、あと一カ月と考えるのも気の持ちよう次第だよ。幸いにも君はこれから試験で焦る必要はないし、少しくらいの我儘なら聞いてあげよう。 -- 賀良
- (卒業が決定した後もリリオは慢心することなく、より学業に専念するようになった)
(家に残るよりは図書館で魔術に関する本を読み漁ったり、フィールドワークに出掛けたり) (成長が感じられると共に、自分の下から巣立っていく準備を始めるリリオを見ていると、家族が一人いなくなるような喪失感を覚える) 今日は早いね。もう戻っていたのか。(脇にはロザリンデより預かった後輩へのプレゼントを抱えて) -- 賀良
- (その日もまたフィールドワークに出かけた帰りであった。今日のテーマは冒険者というものに対する認知について。彼女なりに冒険者について前向きな姿勢になったのかも知れない)
(ソファに座ってぼーっと中空を見ていたのだが、家主が帰って来ると首を上げて)…あ、おかえりなさい。 ベルンシュタインさんに会うてきたんやっけ……? (何となく、探るような目付きになるのに胸の奥に棘を感じつつも問いかける) -- リリオ
- ただいま。ああ、君が卒業試験に合格した報告をね。少々言葉には難があったけど、彼女なりには君を心配していたよ。
(鈍重そうな外観の黒塗りのハードケースを両手て持つと、リリオへ手渡す。受ける印象ほど中身は重くなく、むしろ軽い) 卒業祝いだそうだ。きっと君に相応しいものだと思う。 (リリオの瞳の奥に隠された感情に気づく様子はなく、何の気なしに) -- 賀良
- 内定とは言え、正式に結果が出るんはまだ先ですし……気ぃ早うないです?
(ハードケースを見ると意外そうな顔をして、首を傾げ) ……え。いや、何か……意外、ていうか。 -- リリオ
- 君から辞退でもしない限りは、取り消しされないだろうさ。
(もしくは学園の顔に泥を塗って放逐されるかだね、そう笑い) 最も早い段階で課題を達成した箔は中々強い武器だよ。 受験者は数多くいれど、通知が出ている子は君だけらしいじゃないか。 (豆鉄砲を食らったかのようなリリオの表情を見てまた笑う) 言っただろう、『彼女なりに」ってね。直接会って賛辞を述べない辺り、彼女の捻くれ方が伺えるね。 -- 賀良
- (賀良には珍しい冗談に釣られて笑い)そらそうやね。
……ん、そこはホンマに感謝してます。賀良さんがパートナーになってくれへんかったら、ウチでは望むべくもなかったやろうし っと、(ケースを開けると中に収められた杖にまた首を傾げ) ……なんやろ。そう言う感じの人には思えへんかったから……ちゃんとお礼言わへんとやなぁ -- リリオ
- さてどうだろうね。他の組に、君を僕以上に立派な魔女として育てられるだけの経験と実力を持った一流の魔術師がいたら、そう考えたことはないかな。
生憎僕は魔術の方面に疎くてね。君に対して教鞭を執ることはできない。 (リリオの発言も最もだと思う。それなりの付き合いの自分から見ても、ロザリンデがそう面倒見のいい人間だとは言い難いふしがある) 期待しているんだよ、きっと。そうでなければ、交流の薄い後輩のために推薦状なんて用意するだろうか? ロザリンデは、感情を素直に表現することを恥ずかしい、と考えているのかもね。つくづく、難儀な性格だ。 (それは自分も同じことか。内心で自嘲する) -- 賀良
- (賀良の言葉にきょとんとした顔で応え、ふとおかしそうに笑って)
そんなん考えたことも無かったわ。……いや、なんやろ。そういうことや無く…… (少し考え、帽子を上げて)そういうのはある意味、学校で習う訳やないですか。もっと別の何かを家主から学んでこい……とか。そういう事なんとちゃうかなーと思うんですけど (そう言って、恥ずかしげに帽子を目深に被り)そ、それにしてもなんや変な形の杖ですねこれ! (照れ隠しなのか、ケースから取り出した杖を回す) -- リリオ
- 別の何かとは難しい問題だね。君の人生に対する潤いや指針となり得る、僕の……。
(腕を組んで考え始めてしまう。学校医として保健室へ篭りきりだったので、特に生徒と親しく交流する機会もなかった) (いざ若者に対して座右の銘の一つでも訓示できれば、と頭を悩ませるも、答えは出ずに) 僕もまだ若い。君へのこれまでの注意喚起も、話半分に聞いてくれればいい。 他人に物を教えられるほど、僕は立派な人間ではないと自負できるからさ。 (杖を構えたリリオは中々様になっている。風体も相まって、魔女と言われれば納得できるオーラを発していた) 似合ってるよ。今度ロザリンデに会ったら、礼を言っておくように。 -- 賀良
- 突撃、あの人に聞いてみようのコーナー(どんどんどんぱふぱふー)はい、というわけで私、イヴェールは今成績ナンバーワンのペアの魔女っ子の方に来ています!(誰に言うでもなく独り言 かなり危ない) -- イヴェール
- あんたは芸能レポーターかいな。……あー、はい。
とりあえず死なんかったら試験はパスできるやろーと目されてる魔女っ子のリリオ・エストリャヴィエントです。よろしゅうに。 -- リリオ
- ちょっと憧れてた時期あって。えへへ。(てれてれ)
いいなー羨ましい、私はまだ19の超弱小ペアの家主の方、イヴェールですよろしく……(どよんど) さて、リリオちゃんの場合は家主さんが半端無く稼いじゃってるよね。それについてどう思う? -- イヴェール
- ……ま、まだ時間はあるし。そんな気ぃ落としたあかんで……
え。(色々と思う所はあるので肩を落としつつ) ……なんていうか。ウチの試験やのに情けないなぁ、とかは思いますけども -- リリオ
- ……、大丈夫!今から頑張ればまだ大丈夫な圏内!(持ち直した)
あああ、そういうつもりで言ったんじゃ……(わたわた)いやでも、本当すごいよね。その秘密とかって知ってる? -- イヴェール
- (持ち直したイヴェールを見てほっと胸を撫で下ろし)
なんやろ。……多分、冒険者としての経験とか、そういう感じとちゃうんかなぁ…… 何ヶ月か一緒に暮らしてるけど、ええ人で真面目や言う事以外はあんまりウチにも分かってへんし…… -- リリオ
- 実際どうなんだろう、今で19ってことは、折り返し地点だから単純計算で38。つまり残りの12を+αで稼がないといけないってことだよね……
冒険者としての経験、ということは結構熟練の冒険者さんなんだ。 うーん、そっかー……じゃあそれはその人に直接聞くとして、リリオちゃんはどーいう人なのか簡単に自己紹介をお願いします!(マイクの代わりに杖を差し出す) -- イヴェール
- こうなると討伐系縛りがネックになりそうていうか……学生やから無茶出来ひんていうのもあるし。あんじょう頑張ってや……
へ?(目を瞬かせ、杖の先端とイヴェールを見比べ)ウチ? いやそんな、ウチなんて……面白みも何にも無い子ですわ 使える魔法は冒険の役に立つもんとちゃうし…… -- リリオ
- だから私はついこの間探索に変えてみたんだけど、どうも反映されないの。人気だから取り合いになっちゃってるのかも……むう。
うん、だってリリオちゃんのところに来てるんだし、リリオちゃんのことを訊きたいじゃない? へえ、というとどんな魔法なの?知り合いの子はマナフィになる魔法とか全身から粘液が出る魔法とかやっぱり微妙なのばっかりだったけど…… -- イヴェール
- 物質変性……まぁ、言うたら石を宝石に兎を蛙に変化させたり、そういうのですわ
(遠くを見るような目付きでため息をついて)せめて魔導器使えたらーとかは思うんやけどねぇ…… -- リリオ
- えっ、それって結構すごいんじゃない?お金稼ぎとかすごい楽そう……!あと敵を弱っちいのに変えるとか、装備を紙に変えちゃうとか!
あー……拾えないよね、魔導器…… -- イヴェール
- 出来ても極短時間やし、冒険で倒さなあかんような知的生物を変性させよう思たら物凄い時間と魔力が必要やねん
……(肩を竦めて)そういう訳で、戦闘に応用とかは全然。ホンマに、魔導器さえ拾えたらもうちょい楽やねんけどね? -- リリオ
- あー、時間制なんだ。それは厳しい……投げた石をマグマに変えるとかできたら凄そうだけど。
魔導器があれば魔力の使用効率が上がるからねー……他の魔法を覚えてみようと思ったことは? -- イヴェール
- こっちの……て言うても、この酒場のある街からはえらい離れてるけど。”魔女の庭”言う魔術学園に留学してた時も戦闘関連に応用する研究はしてへんかったし。
……魔術はそら、他にも覚えたりはしたけどね。ウチの使える『魔法』はこれだけやから…… -- リリオ
- なんで?魔法といえばたしかに便利な魔法も多いけど、とりあえず初級の炎魔術とか研究しようかなってならなかったの?
うーん……つまり、ちゃんと使える魔法がそれだけってことかな -- イヴェール
- ウチらの使うてる『魔法』と、このせか…(こほん、と咳払い)
この辺りの地域の『魔術』では発動の法則が違うらしいんやね。魔導器を媒介にした六属性魔術の発現位はそらウチも習ったけど、肝心の魔導器があらへんと使えへんし。 …まぁ、そういう訳で。今のとこは初期剣が頼りやなぁ…… -- リリオ
- ほへー……なんだかよく分からないけど、規格が違うから出せませんみたいな感じでいいのかな……(まるでOSが違うと使えないソフトみたいだなあ、とは言わず)
で、剣……剣かー、剣はしんどいなー……っていうかそれまで近接戦闘をしたことは? -- イヴェール
- (弱気な笑みで笑って)ないない。剣なんて握ったのも初めてやわ
大分慣れてきたけど、やっぱりしんどいなぁ……あ、いや愚痴っぽうなって堪忍な? -- リリオ
- だよね、それまで魔法学校にいたんだもん……そりゃ2死もするよ、寧ろよく6匹倒せたりしたね?
いやいや、全然構わないよ!っていうか私から聞いたんだしねー……そだ、じゃあこの杖ちょっと使ってみる?(と、差し出すのは龍を象った氷の杖)たまには魔法も使っておかないと感が鈍っちゃいそうだし -- イヴェール
- あれはまぁ……おまじないが効いたと言うか。必死やったし。
(何故か頬を染めて俯いていたが、差し出された杖に顔を上げ) へ、いやいやそんな(ぱたぱたと手を振り) こんなん頂けませんて。そんな気ィ使うて貰わんでも…… -- リリオ
- なんとかなるもんなんだね……案外魔剣士として名を馳せちゃうのかも……
いやいや、あげるわけじゃないよ。今ちょっと魔法使ってみたら?ってこと。練習的な? -- イヴェール
- ……あぁぁ!そういう事で! ……物凄い恥ずかしい勘違いした気がするんやけどっ!
(赤くなったり青くなったり。ともあれ杖を受け取って集中し) 『──────────、ッ!!』 (力ある言葉を詠唱し、目を見開くと微妙に薄緑に色づいた氷の礫が近くの木の幹に突き立った) ……はぁ。使用は問題なさそやね…… -- リリオ
- あはは、まあまあ。私の言い方が悪かったってことで一つ。
おお?おお……っ!(神秘的な緑を発する氷は明らかに自分のとは異質な魔術を示していた) そだね、訛ってないみたいでよかった。あとは本当に、自分だけの魔導器を見つけるだけだねー……大変だけど、頑張って!(杖を受け取って) それじゃ、私はそろそろ帰るね?またねリリオちゃん!(軽く手を振るとほわほわその場を去って行った) -- イヴェール
- (杖を返して一礼し)まぁ、うん。頑張るわ……とりあえずあと半年、生き残らんとやしね
わざわざおおきにな、イヴェールさん(手を振り見送り、今更ながらに年齢不詳な感じの人やなぁと思ったとか) -- リリオ
- ウーム……ここか、試験をすでにパスしたというエリート魔女っ子の居所は……って、手前ェ賀良のとこにいるのか!? -- カテン?
- 二回も落ちてる生徒をエリートて言うてええもんなんか疑問やけど……はい?
(チンピラめいた外見の男を見上げて)……賀良さんのお知り合いなんです? -- リリオ
- ウチのも二回やられてっから心配あるめェよ。あァ、アイツとオレは同級生でな、ついでに言えば同じ職場の人間だ。
カテン・ナイトウェスト、よろしくな。アイツ、無愛想だけどけっこういいヤツだろ? -- カテン?
- どうも、リリオ・エストリャヴィエント言います。(ぺこりとお辞儀して)
そう……ですね。賀良さん居いひんかったら、ウチは試験にパス出来ひんかったやろし。 カテンさん言いましたっけ? ……同級生、言う事は『ベルンシュタインの機殻魔女』の事、知ったはるんですか? -- リリオ
- あのメガネ、無表情なように見せてアツいからな。学園祭とかじゃなにげに一番張り切ってたしよ。
ン? あー、それもしかしてロザ公のことか? 知ってる知ってる、一時期教え子だったし。何、あいつの知り合い? -- カテン?
- (その言葉に、朧気に残る命を助けられた時の言葉を思い出して)……そうなん、ですねぇ
あ、はい。ロザリンデさんの事やけど……いえ、留学先の卒業生やて聞いて、ウチに此処を推薦してくれたんはあの人なんですけど -- リリオ
- ほう、あの冷血魔女が……不思議なこともあるモンだ。それだけ信頼のおける相手ってことさな。
ロザ公もロザ公でかなりセメントだからなァ、手前ェみたいにひねくれてほしくねェってセンパイ心でもあったンかね? ま、なンにせよ卒業確定おめっとさン。その半分も辿りつけてねェウチとしては後塵を拝せざるをえねェな。 -- カテン?
- いや……どうなんでしょうねぇ。全然事務的な対応で。
あ、はい。おおきに。(再び一礼して目線を上げ)学園の教師、て理解でええんですかね? 同僚て言うことは。 -- リリオ
- ン? あーそうそう、つってもS科、つまり近接戦闘を主としてンだがね。
ま、あと……えーと、5ヶ月? 死なねェように気ィつけて、こっちの生活楽しみな。メガネもよくしてくれるだろうさ。ンじゃな、リリオ。 -- カテン?
- あ、はい。ほなね、カテンさん(後ろ姿を見送って、ふと)
……カテンさんと賀良さん、どんな会話すんねやろ。全然想像つかへんわ…… -- リリオ
- (『西に少し行った森の中の洞窟』)
(街の西に位置するそこは特に危険というわけでもなく、繁殖したモンスターの根城になっている、というだけの話であった) (ある程度の腕の冒険者が揃っていれば何ら危険なく終わるはずの依頼も、人材次第では達成不可能なミッションに変わる)
(リリオ・エストリャヴィエントがM.I.Aになったとの届け出が出たのは昨日の晩だ) (リリオが滞在先としてリーヴステイン家を登録していたおかげで、訃報が伝えられるまでそう時間は掛からなかった) (コボルトの群れに囲まれ消息は不明という証言を知るとすぐに馬車をチャーターし、リリオが未だ残されていると目される場所へ駆けつけた) -- 賀良
- (7月だというのに洞窟の中は薄寒く、じっとりと湿っていた。所々に黒々と残る染みは、コボルドの血痕かそれとも……)
(打ち捨てられた装備と服の破片が点々と残っており、奥へ移動したものと推測するのは全く容易い事であったが) --
- (カンテラを頼りに薄暗い洞窟を進むと、要所要所で人外と思わしき白骨や完全に色褪せたボロ布が目に入る)
(いずれも命尽きてから大分時間が経っているようで、とりあえずリリオのものではない) (遺留品が見つかる度に胸を撫で下ろすも、にじり寄る『死』に対する恐怖は絶えず鎌首をもたげる) (もしリリオの無残な遺体が発見されてしまったら) (自分の立場や傷みは二の次だ。リリオの家族や、お目付役として自分を推挙したロザリンデに申し開きができない) (「私の監督不行き届きでした」と下げた頭を金槌で割られても、当然のことだ) (ふと、これまでとは明らかに異なっている物品が発見できた) (血痕の残る黒い布は、他でもないリリオのものだ) (逸る気持ちを抑えるも、動悸は強くなるばかりで) -- 賀良
- (やがて賀良が行き着く先は洞窟の最奥。粗末極まり無い牢の中に彼女は居た)
(ぐったりと横たわるリリオの上に、疵痕から流れ出る血も生々しいコボルドが一体、今にものしかからんとしている所で)
(怪我の痛みからかぜぇぜぇと息をつくリリオは、覆いかぶさる影に気付いては居ない。ただ力無く四肢を投げ出していて) --
- (洞窟の道程は一本道だった。人一人覆う程度の大岩は何度か見つけたため、リリオは気配を誤魔化しつつ奥へ逃げ込めたか、あるいは……)
(1時間ほど歩いたか、カンテラの示した先には木で格子の作られた牢獄らしき空間が映された) (その中に赤い斑点の残る醜悪なコボルドと、小さな居候の姿を捉えると、カンテラを手の中から投げ出し、爆ぜた) うちの子から離れろよ。 (コボルドの返事はどこ吹く風で、木の檻へと近付くと、安全靴の底で枠組みへと力を込め、へし破る) -- 賀良
- (ぐるる、と喉を唸らせ、小柄なコボルドが振り返る。醜悪に引き歪んだ表情で、ぼたぼたと血を垂らしながら賀良に向き直る)
(侵入者を排除することを先決と考えたか、腰に下げていた粗末な剣を引き抜くと、牢を破った賀良に襲いかかる) (経験を積んだ冒険者からすれば、児戯にも等しい袈裟斬りであったが) --
- (コボルドの表情を彩っているものは怒りか、屈辱か。出血の様子を考えるとリリオからの抵抗にあった、というのが第一の線だ)
(リリオの発するか細い息が耳に届くと、最悪のケースは免れたようだ) (もう彼女を救うためには、足踏みする暇も惜しい。こんな愚物に構っている暇はないのだ) (腰に下げた剣を取るのも面倒だとコボルドの傍に接近すると、右の拳を握りコボルドの顔面に振り下ろす) (賀良はリリオに関して隠している秘密が無数にある。右肘から下が半機械化されていることは、そのうちの一つ) (生身の人間の腕から伝えられるダメージを超える金属の鉄槌が振り下ろされると、小柄なコボルドは石壁まで叩きつけられ、白目を剥くことで戦闘不能を表示した) リリオッ! 僕が分かるか、リリオ! (慌てて少女の体を抱き上げ、必死に名前を呼ぶ) -- 賀良
- (ぐったりと倒れたままで薄目を開け、賀良を見る。焦点が定まらず瞳が揺れて)
(何か声に出そうとしても喉からはひゅーひゅーと息が漏れるのみであった。腹に裂傷があり凝固した血液が肌の上で赤黒く張り付いている。…が、それよりも脱水症状が酷い) ……、…… -- リリオ
- (瞳を開くことすらままならないリリオは危険な状態にある) (目立つ腹部の傷口は血液が固まる程度には治癒されており、失血死の可能性は低い)
(逆に大きな可能性は雑菌の混入による感染症だ。怪物の住処という単語だけでも、衛生性の低さは折り紙つき) (もう一点の懸念は脱水による意識障害。この場でできる処置は、スポーツドリンクを飲ませてやる程度だ) 飲むんだ。 (温くなったペットボトルのキャップを開き、軽く頭を持ち上げて、少しずつ口腔へ流し込む) (次に水分を含んだガーゼを裂傷部に当て、泥や血痕を取り除く。それでも現在の状態では気休め程度の効果か) (最低限の処置ができるように医療キットは持ち出してある。しかしリリオの状態が不明瞭な以上、下手に手を入れることは憚られた) 骨折はしてないね。これ以上は帰って病院での治療を受けるんだ。 (その場に膝をつき屈むと、背中をリリオへと見せて) 洞窟を出るまでは僕が背負うよ。入口に馬車を待たせてある。 -- 賀良
- (弱々しくも喉が鳴り、水分を取り入れるとのろのろと身を起こし、倒れこむように賀良の背中におぶさって)
が……ら、さん…… (掠れた声で家主の名を呼び、背中で規則的な寝息を立て始めた) -- リリオ
- (洞窟を出るまで大きな障害もなく、無事にリリオは街の病院へと搬送された)
(「課題の達成が遅れる」と在宅療養を希望したリリオであったが、 賀良の強い意向で半ば無理やり精密検査のため一週間ほど入院させられ、ベッドの上でやや退屈な日々を送ることとなった) (短期の入院だというのに、家主は毎日のように見舞いに来てリリオを辟易させた) (そして退院後。二人の間では、会話をする機会が以前より増えた) --
- (疲労と傷の痛みと何より同行者が帰らなかったという恐怖からへろへろになって戻って来た) -- リリオ
- おかえ……。(破れた衣服、露出した肌から除く擦り傷、自分のものか怪物のものかも知れない返り血)
(みなまで聞かなくても、肉体と精神に深い傷を負ったことは伺える) (黙って席を立つと、部屋を出てバスルームにお湯を張り始める) とりあえず座ったらどうだい。すぐに湯が沸くから、しばらく湯船で温まるいい。 -- 賀良
- ……。(言われたとおりに座るとうつむき加減に床の一点を見つめ、首を振って)
ウチは……怖いんや。 (震える声でそう呟いた) -- リリオ
- 怖い? 何がだい?(恐ろしいモンスターや同行者の死は、冒険する上で不可欠のもの)
(これから1年過ごしていくためには、今のリリアは不安だと言わざるを得ない) -- 賀良
- 何で皆平気やねん……魔物や人間や言うても、死んでしもたら一緒、何も変わらへんやんか……
(震えは既に全身に渡り、両手で身を抱いて) ウチは強いて、そう叫んで剣振って……生き残っても来月はまた冒険や……こんなんよう耐えられへんわ…… -- リリオ
- (当たり前の話だ。そもそも冒険者という職業自体が命の廃棄場であるとも言える)
(他の魔法学園の少女たちもリリオと同じように不安な夜を過ごしているのだろうか) (今にも泣き出しそうなリリオの身体は、普段よりも遥かに小さく、枯木のように細い) それが当たり前の感情だよ。君のような『死』に触れたことのない人間なら尚更ね。 人は生きていく上で様々な『死』に直面する。野生動物や肉親、モンスター。君はただ、他の人間より『死』に出会う機会がほんの少し早かっただけなんだ。 (上手に言葉が出てこない。自分が15歳の頃はどうだったか、随分とませた少年だった気がする) もう帰りたくなったかい、リリオ。 -- 賀良
- ……お医者さんらしい言葉やと思うわ
(皮肉るような言葉を吐いて深く、長いため息をつく。タオルで顔を覆って) ……正直言うたらね…… せやけど、せやけどな…… -- リリオ
- 僕は君に無理強いしない。戻りたいなら、今が好機だ。
そもそも最初から、君は研究家としての道を歩くために学びを深めていたんだったね。 (リリオの葛藤も分かる。理想や夢だけを見て世の中の裏側から目を逸らせればどれだけ楽か) (ああそうか、死に対しての感覚が薄れていたのは……ようやく思い出した) (昔から最も身近な人間の一人が、死の匂いを振り撒いていたからだ) 死を背負えるのは、生きている人間だけだ。 君はまだ生きている。君の決断が、君にとっての良き結果になることを願っているよ。 -- 賀良
- (月に一度の成績表提出。結果は逐一魔法学園側へ報告するために纏められ、返送された後に賀良が確認することが常となっていた)
(成績表の二月目の欄には「もっと頑張りましょう」の不名誉なスタンプが押されている。当然も同然、リリオは下から数えた方が早い結果だったのだから) これは中々苦労しそうだ。 -- 賀良
- (怪我の応急措置もそこそこに戻って来て、賀良が成績表を眺めているのに気付き顔を逸らし)
ただいま…… -- リリオ
- おかえり。(隠していた赤店のテストが見つかったかのような表情に思わず苦笑する。その通り過ぎて笑いすらも渇いたものになる)
伸び悩んでいるね。怪物と戦うことは、もしかして初めてかい? (普段なら短い言葉だけを掛けて会話は終わる。これまでの二か月の間は、互いに干渉せずを不文律として貫いていた) (自分には自分の、リリオにはリリオのプライベートがある。家主と居候という関係の域で構わないと考えていたせいだ) -- 賀良
- ……普通はそういう経験無い人の方が多い思うんやけどね……
(ため息混じりに言うと冒険で使っていた剣を私物置き場に置いて、ソファに腰を下ろす) ……はぁ。どこもこんな調子やし、やっぱり一年で50体て無茶なんちゃうんかなぁ…… -- リリオ
- (小さく縮こまる様子を見ると、低ランクの判定が相当重症だったとみえる。技術、実力、度胸。何よりリリアに足りないものは、『自信』だろうか)
君の学園での実技試験は案山子でも相手にしていたらしいね。モンスターは生物なんだ、息もすれば一箇所に留まっているわけもない。 (そういえば何故リリアは剣を所持しているか気にもしなかった)そもそもだ、君は魔法をちゃんと行使できるのかな。 -- 賀良
- ……(流石にその言いざまにはムッときたのが見上げるように視線を鋭くして)
そもそもウチは学術系に行きとうて留学してきたのに、それを今更実技系の卒試やなんて……! 戦闘向きの魔術さえ使えるんやったら五体でも六体でも倒したるわ!!!(腕くんでバーン) -- リリオ
- 知識と経験を両立させろ、という学園側からの寛大な心遣いかもしれないね。
現場で働く人間は裏方の隠れた苦労を知らないし、裏方は現場の人間が危険と隣り合わせだと気づきはしない。 (大きな態度ができるくらいには元気が残っていた。来月はとりあえず安心できる) じゃあ、明日から使える魔術を僕が教えてあげよう。モンスターと出会ったら、『ウチは強い』と大声で叫ぶんだ。それだけでいい。 -- 賀良
- (そんな子供だましな、と言って懐疑の念を向けていたリリオであったが、翌月の結果で本当に出してきたのであった…) -- リリオ
- (リリオが現れて一月。居間は殆どがリリオのスペースと化し、彼女の私物も増えつつある)
(最初は気後れしていたリリアも、三日も経てば此処での生活に慣れたようだった。否、慣れすぎた) リリオ、ちょっとこっちに座りなさい。(ソファーで寝転ぶリリオに声を掛け、テーブルに着くように手招きする) 今日は君に一言物申したい。 -- 賀良
- (ソファに寝転んで何ぞ本など読んでいた顔を上げる。私物の多い性質ではあるまいが、それでも年頃の女子となれば諸々の物品で居間が手狭になるのも成り行きとしてはおかしくは無いのだが)
……あ、はい? (少し慌てた所作でテーブルに着き姿勢を正すと、こくりと頷いて続く言葉を待つ) -- リリオ
- まず朝が遅い。起こさないからといって平気で昼まで寝ないように、ハム姉さんといい勝負だぞ。これからの目標は毎日7時起きだ。
次に食器は自分で洗う。テーブルに食器を残さない。洗濯物は自分で干して畳む。僕の部屋を探検しない。 (世間一般での常識と思われる小言をつらつらと並べる) 最後に一つ。風呂とトイレに入る前は必ずノックをする。 (頭を抱える。リリオが来てからあんなことやこんなこと、あったでしょー) 君が現れたおかげで予想以上に僕の生活は破壊されてしまった……。 -- 賀良
- う゛
う゛う゛ う゛う゛う゛ (言われてみればその通りである小言に渋面を浮かべ、しゅんと俯いて) ……すんません。一人暮らし長うて、そのへん緩んでたみたいですわ…… (仰る通りな叱責に机の上でたれる魔女っ子) -- リリオ
- (リリオと同様にとんがり帽子もしなびているように見えるから面白いものである)
いや構わないんだよ。これから改善してくれたらね。君より手の掛かる大きい子はいい歳して迷子にはなるし夕食の時間には戻らないし、困ったものだよ。 (苦笑して一枚のチラシをリリオに見せる 『本日、魔法少女様御一行を歓迎して花見を開催……』) 君の他にも学園の卒業試験で来ている子がいるらしいね。似た服の子を街でよく見ると思ってたんだ。 -- 賀良
- あぁ……(家主が姉と言っていた人物の行動を思い出して苦笑を浮かべ)
はい、気ぃつけます。 (と、チラシに目を留めて) お花見、ですか。あぁ、何や酒場の方でもそんな人ら結構見ましたわ。ウチは結構前からこっちに留学してきてたんで、面識在る子はいませんけど -- リリオ
- ふむ。ということは一人で心細い想いをしているんじゃないか。
どうかな、君も花見に混ざってみては。同じ志を持つ仲間に出会えるかもしれないよ。 (とりあえず提案をしてみる。あまりリリオは外出している様子もなく、殆どを家で過ごしていた) (引き籠り、というわけでもないにせよ、外に友人を作ることで多少生活サイクルが改善されればと考えて) -- 賀良
- 別に、心細い言う事は有りゃせえへんけど……此処は結構賑やかやし。
同じ志言うても、試験が一緒なだけで。同行する機会があった時、声かけてみる位にしますわ (そこまで言って眉尻を下げ)……なんか、気ぃ使てもろたみたいで。すいません -- リリオ
- こんなもんでどうやろね; -- リリオ
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