[[V/アトラス]]

-あの日、憧れたヒーローにはなれない現実を知り――&br; &br; あの日、憧れたヒーローになる為の力を手に入れた――&br; &br; あの日、再びヒーローになることを決意し――&br; &br; 今、なにもできずにいる自分がいた。&br; &br; そもそもの始まりが俺にとっては偶然だった。12歳、冬の日。クリスマスを控えた雪の夜。&br; あの日が全てを俺の下に連れてきた。幸も不幸も全てを載せて。&br; &br; story.1 side:A&br; 「awaken」&br; &br; 「んが、っあ〜〜……はぁ、まったく……やな夢見たな」&br; がりがりと頭を掻きながら起き上る。よく見る夢だが、しかしそういう日はだいたいいい事が起きない。&br; もはや予兆とも言えるこの事象は、残念ながら今回も外れる事がなかった。&br; いつも通りに学校に行き、授業を受け、放課後になり友人と騒いだ後の帰り道。&br; ひとつ、いつもとは違う曲がり角を曲がった。ただそれだけいつもとは違う事をした時、それは起きた。&br; &br; 「やぁヒーロー。元気にしてたかい?」&br; &br; 曲がり角曲がった直後、頭上から降ってくる声と背後に唐突に現われた不気味な存在。&br; 振り返り、まっすぐ向き合う。まるでそれはサンタクロースとでも言わんばかりの赤い衣装に包まれて、その顔にはピエロのマスクが付けられていた。&br; どう見ても、どこから見ても異質であり間違いなく変質者だが、そいつは、その男には見覚えがあった。&br; 3年前のあの日から、忘れることなど決してない。元凶。まさしく。言葉通り。徹頭徹尾間違いない。&br; &br; 「3年ぶりか、くそピエロ」&br; 「いやいや、僕は子供に夢を与えるサンタだよ。そういう服を着ているだろ?」&br; &br; どこがだ、と毒づいてやりたいがまずはそうじゃない。まずはそう――&br; 「とりあえず一発、殴らせろ……!!」&br; 今できる最大の攻撃、左拳から電撃が走り、持てる技術、力、全てを込めた光速の拳を叩き込んだ。&br; しかし――&br; 「なにっ……!!?」 「はい、ざーんねーん。いやいや全くもってこれはどういう事かなアトラス君。これは君、きみきみきみぃ!ちょー期待外れだよ?」&br; その威力は鋼すら物ともせず撃ち抜く威力であり、少なくとも破壊力だけは師匠にも認められていた。&br; だが、目の前のこの男は指先一本で受け止めている。驚きに目を丸くするアトラスだったが、瞬時に距離を離した。&br; 追撃はない、だが傍にいるのは危険だ。そう判断しての事だったが、男の方はその行為にすら興味はないようで、&br; 「君にその拳を与えたのはヒーローになってもらう為だというのにこれじゃあどうにもならないよ。アテが外れたかな? それとも……」&br; 「っんだと!? お前に、そんな事言う資格が…!」&br; しーっと、アトラスの口元を人差し指で抑える。距離は離れたつもりだった。少なくともワンアクションで詰められる距離ではなかった。&br; にも関わらず、またこの男はすぐ目の前にいる。まるでそこが定位置なのだと言わんばかりだ。アトラスは戦慄する。自分は、この男の掌で遊ばれているのだということに。&br; 一方、考えるような素振りをする男。やがていいアイディアが浮かんだとでも言うように手を打つと&br; 「やはり、敵がいないとやる気が出ないよね、ヒーローなんだから」&br; 「ヒーローには敵が要る。救うべき人が要る」 「シチュエーションとキャラクターは大事だ。何事においてもね。僕としたことがなっていなかった。まだ本調子じゃないようだ」&br; 「何言ってやがる、お前……! 何をする気だっ!!」&br; 「ヒーローショーだよアトラス君。主演は君で監督は僕だ。舞台も人物も僕が用立ててあげるよ。演出だってこなしてあげよう。君は存分に踊るといい」 ぽん、とアトラスの肩を叩き、耳元で告げる。&br; 「好きだろ? ヒーローごっこは」&br; 下卑た笑いを言葉に滲ませることを隠しもせず、一方的にそう告げた。&br; 「ふざけるなっ!! お前は、お前はいったい何様のつもりでこんなことをするんだ!!」&br; 「いずれ君が強くなったら教えてあげるよ」&br; そうしてまるで高らかに宣誓する様に、歌う様に、男は告げる。&br; 「時が来れば始まりの鐘が告げる。君にヒーローになれと。その時が来るまでしっかり強くなっておくといい。折れてくれるなよ少年。願った対価を無駄にするな」&br; そして、ぱちんと指を鳴らす音が聞こえたと思えば、まるでなにもなかったかのようにそこにはアトラスだけが残されていた。&br; 「わけわかんねぇ……なんなんだ、くそが」&br; 壁を揺らす程大きな音を立てて、左拳が壁を叩いた。 「……だけど、降ってわいたチャンスだ。絶対はなさねェぞピエロ。今度こそ、ぶん殴ってやる……!」&br; なにをしてくるのか、なにがしたいのかもわからない。唐突にはじまったそれはアトラスになにをもたらしてなにを失わせるのか。&br; --  &new{2015-05-26 (火) 00:31:01};