#navi(../)
|&ref(http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033867.png,nolink);|~名前|ドーニャ・ドリフトウッド|
|~|~性別|女|
|~|~年齢|13歳|
|~|~企画|[[&ref(http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033841.png);>企画/ファミリー]]|
|~|~役割|見張り、門番|
|~|~身長|142cm|
|~|~好物|ドーナツ|
|~|~BGM|[[◆>つべ:F64yFFnZfkI]]|
|~|~外見|[[全身>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033868.jpg]] [[私服>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033951.png]] [[部屋着>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033998.png]] [[水着>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp034063.png]] [[人形時代>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp034116.png]]|
|~|~RP傾向|無口、無愛想|
|~|~状態|文通モード|
**3行 [#p6a35224]
-見張りAは
-あまり喋らない
-……
**大抵は門前で見張り中、もしくは詰所の一室で休憩中、月に一回程度は家に帰るらしい [#z8b53549]
#include(info/カレンダー,notitle)
[[修正>編集:Sephirothic fragments]] [[ログ>http://notarejini.orz.hm/?Sephirothic%20fragments%20log]] &ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst088255.png,nolink,すごく可愛い……ありがたい……);
  ドーニャ>MF/0013 &br;
#pcomment(Sephirothic fragments,3,below,reply)
**設定 [#y938b4b4]
***簡潔に [#m6b3734b]
#region(さっくり)
-とある男が少女を連れてボスの元に依頼に現れた
-その依頼は少女をここに留まらせる事だった
-過去を決して語らない寡黙な少女は見張りの仕事を率先してやっている
#endregion
***詳しく [#v4591263]
#region(じっくり)
「これはこれはお会い出来て光栄です旦那。」~
~
30代後半とも取れる髭の男がそうボスに話しかける~
~
「申し遅れました。私の名はミンツ・モードント、しがない傭兵でございます。」~
「ええい、堅苦しいのは無しにしましょうか旦那。性に合わねぇもんで。」~
「早速ですが日没までに発たなければなりませんので依頼の話をさせて貰いますぜ。」~
~
矢継ぎ早に捲し立てる男は少し悲しげな顔をしながら隣にいた少女の頭に手を置いた~
~
「こいつをここで働かせてやってくれませんかね?」~
「何、こう見えてお喋りでも無く、我慢強いもんで。きっと見張りの仕事とかに向いてますぜ。」~
「依頼って言うんだから勿論報酬も付けます。ああ、これはこいつ自身の稼いだ金でもあるんで気にしないでくだせえ。」~
「無料で働き手が増えて尚且つ金にもなる、どうにか引き受けてやってはくれませんかねえ。」~
「ほら、お前も挨拶くらいしたらどうだ。」~
~
そう男が話すと少女は、小さくぺこりとお辞儀をした~
~
「そうですかそうですか。そいつは有難い話だ。じゃあ早速ですがお願いします。」~
「ですがね……ちょいとばかしこちらからも条件がありまして……ええ、3つほどです。」~
「一つは、こいつに過去の話をさせないでやってくだせえ。」~
「ガキが歩むには少しばかり辛い話なもんで……旦那にはすべてお話ししますが~
ええ、お仲間の皆さんには孤児を拾ったことにでもしてくだせえ。」~
「二つ目はこいつはこんな調子なもんで、出来ればあまり口を使わないような仕事をさせて貰えると有難いです。」~
「雑用だったら喜んでするようなやつですから、まぁ……喜んでるような顔はしませんがね。」~

ばつが悪そうに男は頬を掻く~
~
「最後に……こいつには"殺し"の仕事には関わらせないでやってくだせえ。」~
「ガキだと言う時分もありますが、まぁ……それはこれからお話いたしやすんで……」
~
……~
~
「それじゃあ私はここで失礼させて貰いますぜ。」~
~
そして少女には聞こえないよう男はボスに耳打ちをする~
~
「私はこれから戻らないかもしれない仕事に出ます。」~
「もし何かあった場合はこれを……」~
~
そう言って一通の手紙をボスの懐に入れて男は去っていく~
少女と目が合う。まるで感情など無い人形のようにそのまま首を傾げる~
~
「……ドーニャ・ドリフトウッドです。よろしく、お願いします。」~
~
捲し立てて去っていった男とは反対に、初めて口を開いた少女は深々と頭を下げたのだった~
#endregion
***性格など [#ic75e161]
RIGHT:&ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst088309.png,142x257,ミニキャラ! ありがとう……!);
-仕事の事以外で自分から話しかけることは滅多に無い
--まるでそれ以外のことに関心が無いように見えるが……?
//---自分の存在価値をそれにしか見出していないからである
-ボスも決して彼女の過去をファミリーに語ろうとはしない
--彼女自身も聞かれようとも答えようとはしないだろう
//---何故ならばそれは全くの無価値なものなのだから
-ほとんど表情が変わらない
--怒ると銃弾が飛んでくるので分かりやすいが、笑う事は決して無いだろう
//---楽しい事など、無かったのだから
-一人の時は「〜すれば、良かった」等と口癖の様に呟く
--己が性格を客観視出来ているようで反省としているようだ
//---今までの経験を踏まえて
-じーっと見つめることが多い
--それらは観察することであったり、様子を伺うことであったり
//---とある人物(?)に教わったことにより、物事を"視る"事によってその習得速度を上げることが出来るようになった
//貰ったものリスト
//薔薇の文様の入ったバヨネット、カラフルなウサギのぬいぐるみ(命名:ラビィ)、刺繍付きの桃色マフラー、ニンジンのプランター、猫文様のブレスレット、握力用トレーニングボール、銀製のスプーンとフォーク、フットマッサージャー
RIGHT:&ref(http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033925.png,250x467,描いていただきましたとってもとっても凄く嬉しい…);
***装備 [#y0d39886]
-[[ヴァルタリ>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033923.png]]
--とある銃匠の作った小銃をソードオフにカスタムしたものである
---コッキングレバーが上部にあるのが特徴であり、近、中距離での戦闘を想定されておりサイト等は取り外されている
---剣型のバヨネットも装着されており近接時には槍のように使うこともあるようだ
---彼女はこれを大切にしており、決して誰にも触れさせることはない
//初心者知識で描いたせいで構造とか説明とかアレなんですがあえて残しておく
***住居 [#h3285c14]
-良く立っている屋敷の近所にある詰所のような役割をしているアパートの一室か~
とある路地近くにある宿屋兼アパートのある建物の[[屋根裏部屋>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp033978.jpg]]のどちらかで寝泊まりしている
--詰所はシャワー食堂完備であり、少女は仕事の関係上、とある個室一つをほぼ独占している状態である。ほとんどは見張り中、護衛などの依頼以外はそこで休んだりして過ごしている
---よって見張り中、仕事中でなければ大抵はそこに居るであろう
---この部屋にはここで知り合った仲間から貰ったものが置いてあり、管理状態からしても大切にしている事がわかる
--屋根裏部屋に関しては住居として借りたは良いものの。仕事の都合上ほぼ帰ることが無く、月に一度の休みの日に掃除しに帰る程度である
---よって滅多にここに居ることは無い。聞かれもしない限りは案内はしないであろう
---ただここにはこの街に来る以前に持っていた想い出の品が多い為、決して部屋を手放しはしないであろう
**物語 [#wcfd69a1]
//#region()#endregion
***第一話 [#sc73d8d3]
#region(流木の少女)
ドーニャ・ドリフトウッド~
──少女は流されて生きてきた。波に揺られ漂う木片のように~
~
何てことはない建材工場の家庭に三女として生まれた彼女はドーニャと言う名前を貰いそれなりに祝福されて育ってきた~
ただ一つ殆ど泣かない所謂"良い子"としての価値を両親に見出されていた~
7歳になったある日、馬車とやせ細った男がやってきて自らを連れて行った~
連れていかれた先は製糸工場、そこでは労働が待っていた~
それでも困惑することも無く素直に現状を受け入れて働いた~
そこで働く同僚……似たような子供達の絶望とも悲観とも似た表情を見て初めて……
自分が売られたのだと悟った~
それ以降、ドリフトウッドと言う家名以外の記憶を捨てることにした~
~
工場の仕事は大変ではあったが辛くは無かった~
寮があるので共同生活もそこまで嫌いでは無かった~
──だが共に暮らす仲間はそう思ってはいなかった~
~
仲間のリーダー格である少女……歳は15といったところだろうか~
シャルロットと言う名の彼女は綿密な作戦を企ててこの牢獄から逃げ出そうとしていた~
彼女を慕うものは多く、沢山の仲間が決行の夜までに賛同していった~
それをまるで物語のように眺めていた~
きっと物語の主役は彼女たちのような強さで道を切り開いていくのだろう~
ただ自分自身とは全く別のモノに見えた……誘われたが乗らなかった~
~
そして決行の夜がやってきた~
~
──数日後、入浴を断るくらいの怪我を負ったのだろう。シャルロットの……彼女の明るく強い姿はそこには無く~
一言も口を開かず作業を続ける彼女の姿があった~
~
それを見て……何の感情も無かった。感慨も絶望も羨望も嫉妬も無かった~
ただそう言う物語だったのだろう、としか思えなかった~
#endregion
***第二話 [#s0333e9d]
#region(碧落を憎む魚)
──夢を見ていた~
水飛沫があがる、男が沈んでいく……ここは海だ~
男が沈んでいく……いくらもがこうと沈む速度は変わらない~
男が沈んでいく……いつしか動かなくなった……~
男が沈んでいく……皮膚にぽつぽつと斑点のようなものが浮かぶ~
男が沈んでいく……表皮は爛れ……こそげ落ち、指同士がくっついて離れなくなり~
それは水かきとなり落ちた皮膚の下は鱗が浮かび……目はまるで……~
~
光が届かなくなっていく……ここは……深海だ~
いつしか目が慣れて見えるころには海底へと落ちていく~
砂埃が大きく上がる、その中にはたくさんの人の指のようなものが紛れていて~
点々と存在している珊瑚礁からは赤い飛沫があがる……緋色の飛沫があがる~
男は……魚となった~
そこでは水底に隠れるかのように沢山の魚が居ることがわかった~
息が苦しい……まるでさっきまでとは違うかのように静寂だ……~
声が聞こえる……~
「苦しい」「苦しくはない」~
「ここは寒い」「ここは熱い」~
鰭を動かす……それだけなのに鱗が飛び散り血飛沫が舞う~
痛みが全身を駆け巡る~
~
~
~
「ココハ」 「地獄ダ」~
~
~
──急に揺さぶられて目が覚めた。同僚が慌てた様子でこちらに来た~
…………火事だ~
働いていた工場が燃えている……幸い寮とは離れていたので大事は無かったが避難することになった~
~
翌朝、仕事を失った我々はまるで捨てられるかの様に追い出された~
~
自力で帰るには幼すぎる人間も居る~
年上の人間が慰めるかのように抱きしめている~
ただ、子供には利用価値があるのだろう……また別の男と馬車が向こうに居るのが見えた~
少女はその方角とは反対に歩み去っていく……~
仕方がない事なのだ。何の感情も湧かなかった~
ただ……ただ一つ気になったのは火事になった工場を恐怖や茫然、困惑の表情で眺める子供たちの中で一人だけ……~
~
……シャルロットだけが笑っていた~
#endregion
***第三話 [#zaf3e515]
#region(呪われと出会い)
──四年が経った。アンティーク調の大きな屋敷に住む長身の老婆、アルベルタ・アルベルティーニ~
通称アルベルティーニファミリーの根城とされているそこに少女は居た~
アルベルタは白髪をまとめ、片目が義眼でありそこにドールアイのようなガラス製のそれを入れており~
それにしては質素なドレスを着ているその姿は一部では魔女とも呼ばれるファミリーのボスであった~
彼女は人形に対して執着しており、その性癖も歪んでいた~
攫った子供達を人形と称して"お人形遊び"を行う~
棒立ちにさせた子供を何度も何度も自らで着替えさせる行為だったり~
ポーズを取らせたままずっとそれを眺めていたり~
構成員は彼女の事を口を揃えて"イカれたババア"だと陰口を叩く~
子供たちが怯えたり、疲れによって声でも出そうものなら~
"人形は喋らないものなんだよ"と何度も何度も棒で叩き、止めるのが遅れ文字通りの"人形"と化してしまったものもいる~
その中でも取り分け老婆のお気に入りでかつ最後まで生き残った"1体"だったのが~
……ドーニャであった~
~
少女は老婆の想像以上に立派な人形振りを見せるだけでなく……~
"&ruby(マーダードール){殺人人形};"とも呼ばれ、文字通り……暗殺の仕事もしていた~
アンティークドレスやボンネットで着飾った姿で目標の元に現れ、拳銃を放ち去っていく~
彼女は決して強くはなかった、その姿に躊躇した目標の隙をついてただ引き金を引くだけ~
少女の仕事が成功する何よりの理由は……その躊躇の無さにあったのだ~
まるで死ぬことも殺すことも何も感じないかのように淡々と仕事をこなす様は老婆に大層気に入られ~
"お人形遊び"さえ我慢すれば何不自由の無い暮らしをしていた~
~
ただ……少しずつ体への違和感を覚えていた~
体がどんどん重くなっているような、関節が軋むようなそんな痛みだ~
それは人の命を奪えば奪うほど……悪化していった~
そして以前にも増して表情が揺るぎの無いものへと変貌していった~
その痛みにすら顔を歪めることは出来ずに……~
~
用事があるまでは決まって老婆の"コレクションルーム"の椅子の上で座って待つ~
~
そんなある日……屋敷内で乾いた銃声が何発か響く……いや、何発も何発も~
「お逃げ、ドーニャ!」~
聞きなれた老婆の声がするが……次第に騒がしかった屋敷が静かになっていく……~
~
──この部屋のドアを蹴り破る音がした~
~
「なんだぁ?」~
~
黒い中折れ帽に黒いスーツを身にまとった、これまた長身の女性~
帽子からはみ出る腰まで届く長い金髪を揺らしながら煙草をくわえたままこちらに近づいてくる~
目深に帽子を被っている為、視線は合わないように思えたが……はっきりとこちらを見ている気がした~
~
「噂のマーダードールってのを見に来たが、こんなチビガキなのか?」~
「……安心しな、殺しはしねぇさ。アタシはアンタを勧誘に来たんだ。」~
「ウチ、来るかい?」~
~
──少女は小さく頷いた~
#endregion

***第四話 [#k5c958af]
#region(ここはヴァルタリ)
「おいおい……」~
その長身の女は呆れたようにそう言った~
~
「二つ返事とは驚きだぜ。もうちょっとこう……仲間を殺されて激昂とかするのかと思ってた。」~
「文字通り人形なんだな……」~
~
そう言うと何故か女は目頭を押さえて……可哀そうにとそう呟いた~
~
「信じてくれ、悪いようにはしない。アンタを助けに……いや」~
「利用しに来た。そう言った方が信じてくれるかね。」~
~
帽子で目元を隠しながらにやりと歯を見せて女は笑う~
~
「アタシはシギィ。アンタは……ドーニャって言ったか。」~
~
「ドーニャ・ドリフトウッド……」~
~
「そうかい、そんじゃま……ついてきな。」~
~
………………~
~
……そこそこ大きな街の港倉庫、その一角にある一つ、更にその中の事務室の……更に板金の地下扉を開いた先に女のアジトがあった~
事務書類が山積みされていたり工具がそこら中に乱雑に落ちていたり、更には銃弾やナックルなどの武装とされるものが散らばっていたり……~
まさに混沌としたアジトの中を進めば~
そこには二人の女性が居て……ただならぬ威圧感があった~
~
「良く帰ったね、シギィ。」~
~
そう言って二人を大きな事務机越しに見つめるのは白衣を着た長い黒髪の女~
~
「これで誘拐成功ってわけだ、なぁ?」~
~
そう言って近くの椅子に腰かけて居るのは赤毛のボブカットのスーツ姿の女~
~
「一言多いんだよゴリラ女、こいつがあのマーダードールさ。」~
~
シギィを含めた彼女達三人が……少女の運命に大きくかかわる事となる~
~
………………~
~
「改めて自己紹介するよドーニャ。」~
「アタシはシギィ、シグリッド・シングルスター。」~
黒い中折れ帽に黒いスーツに赤のネクタイを締めて、紫煙を吐きながらそう言った~
~
「私はベス、エリザベス・エーコ。ベスで良いぜ。」~
そう気さくに話しかけるのは同じく黒いスーツの赤毛の女~
腕まくりしたその拳には手袋越しでも相当な威圧感があり、その筋肉質な体は女性らしからぬものにも見えた~
~
「んで、私がここのボス。イルヴァだ。まぁ……いきなりで困惑してるだろうけど力を貸して欲しい。」~
事務机越しに大きなキャスター付き革椅子に座る女はそう答える~
黒い長髪はあまり手入れされておらずぼさぼさでなぜかタイトスカートに白衣なその姿は医者のようにも見える~
そして三人が口を揃えて少女に話す~
~
「「「ようこそ、"ヴァルタリ"へ!」」」~
~
………………~
~
「んでさっきのゴリラ女ってなんだカマキリ女」~
~
ベスがシギィへと喧嘩をふっかける~
~
「じゃあブスの方が良かったかブス。」~
~
「なんだとこらァ!!」~
~
「そもそもよォ〜〜〜〜…………ベスとボスでちょっと"ス"が被ってんだよなァ!!」~
「アタシはバランス悪いのは気に入らないんだよなァ……なにがエリザベスだ! ブスに改名しろ!」~
~
「同じじゃねぇかァ〜〜〜〜!! 親に貰った唯一のもんなんだよ!」~
「私がエリザベスで何が悪い!!!! こんのヒョロガリカマキリが!」~
~
お互いを指さすようにしてベスとシギィが喧嘩している~
呆れた様子でイルヴァが~
~
「うるさいよあんたたち……本題に入ろう」~
「ドーニャ、あんた……"ウィル"って知ってるか?」~
~
唐突にそう聞かれて知らないと少女は答える~
~
「そうかい、あのババア、アルベルティーニもそこまでは知らなんだか。」~
「"ウィル"って言うのはな、意思の力だ。」~
「アンタ、沢山人を撃ってきただろう? おかしいと思わなかったのかい?」~
「そりゃあ初めはお人形さんみたいな女の子が銃を構えれば驚いて皆隙を作るさ。」~
「でもね、あんたは殺人人形……マーダードールとしてその姿は知られずとも噂は結構広まってるのさ」~
「事実、あんたに身内を殺されて恨みを持ってるやつもいる。だけどお前はそいつらもその意味を知ってか知らずか討ち取ってる。」~
「あんたへの対策をしっかりと取ってるのに、だ。」~
「はっきり言おう。ドーニャは"人を睨みつければ数秒間だけ完全に無防備にすることができる"」~
「それはシギィに調べさせたから確証は取れているよ。」~
……~
「そこでだ。あんたのその力を買って私達と共に仕事をしてほしい。」~
「これは脅迫では無くてお願いなんだよ。"ウィル"は自分の意思なしに使う事は出来ないからね。」~
「無理強いはしない。お前が普通の世界に戻りたいって言うなら私達が全力で身受け先を見つけてやるさ。」~
「そこから先からは流石にどうなるか、知らないけどねぇ。」~
~
少し悲し気にボスはそう言った~
~
「あんた、背負いすぎたんだ。」~
「そのちんまい体に沢山の命と恨みを背負ってる。」~
「"ウィル"は本来長年の修行を積まないと得られない言わば超能力のようなもの……」~
「あんたの"ウィル"は他人の意思を背負い続けた……言わば呪いのようなものなんだ。」~
「私はあんたを利用しようとしてるだけ。だけど、だけどさ……」~
「その背負ってるものを少しずつで良いから降ろしてやりたいのさ。」~
「昔の私とあんたは……似てるところがあるから。」~
~
「ボス……」~
「……」~
~
シギィとベスは静かに話を聞いている~
~
「…………わかった。」~
~
小さく少女はそう答えた~
~
「本当かい? 本当に良いんだね?」~
「辛い選択をさせてしまってすまないと思ってる。だけど……」~
「あんたは私達が守るよ。なんたって……ファミリーだからね。」~
~
今まで見た事の無かったとてもやさしく穏やかな表情……それは少女に向けられていて~
少女は……何故かここに居たい、とそう思えた~
~
「やったぜ! これで三人組だったアタシ達に新たな家族だ!!」~
~
「二人と一匹のゴリラ、な」~
~
「んだとこらァ!!」~
~
「まぁこいつらはこれが普通みたいなもんだから。宜しく頼むよドーニャ。」~
「それじゃあ仲間として家族として、改めて私達の"ウィル"についての説明でもしようかね」~
…………~
~
雑多な事務室の粗野な地下室で、組織に新たな絆が芽生えるのであった
#endregion
***第五話 [#y56324e4]
#region(シギィという女)
シグリッド・シングルスター~
──女は争い続けた、その先にある希望を目指して……~
~
スラムで育った彼女は、何もかも勝ち取らなければいけない環境の中、争い続けて、勝ち続けてきた~
その勝利の女神も、ボスの手で膝をつくことになり、なんやかんやでヴァルタリに居るのである~
彼女の"ウィル"は自身の持つ拳銃を空間に転送し360°どの方角からでも射撃できることであった~
~
「アタシがアルベルティーニの屋敷に単身突っ込んだ時、嫌に早く戦闘が終了したろ?」~
「あれは全部アタシがこう……背後から、バンってね。」~
「普通にやりあっても負ける気はしないがボスの命令だったからな。」~
~
その戦闘力はヴァルタリに置いてでも随一であり、ボスからの信頼も厚い~
長い前髪のせいでその瞳を伺える機会は少ないが偶に覗くそのアイスブルーの瞳は鋭い銃弾のようで~
~
「なんだァ、お前銃使ってきたんじゃないのかよ。なんだそのへっぴり腰は。」~
「これじゃあ弾薬の無駄だよ、構え……いや、鍛えなおしだよ。」~
~
彼女はドーニャと一番長く時間を共にして、彼女に銃の扱いと戦いに対する心構えを教えてくれた~
ドーニャは彼女の厳しい教えにも耐えて、ただ無心に銃を撃ち続けた~
~
「あいつ、また練習してるのかよ……」~
「弾薬の無駄って言ってるじゃねーか。ったく…………」~
「………………ったくよォ! しょうがねーな」~
~
中折れ帽に手をかけ大げさなアクションでそう言い放って、彼女はドーニャの元へと向かうのであった~
~
無類のギャンブルと煙草好きであり、ボロ負けした場合はベスに大声でなじられ~
逆に大勝した場合は皆に奢るのが常であった~
~
「おい、ドーニャ。結果だよ結果、過程なんてどうでもいいんだ。」~
「お前がこれまでどんな道を歩んできたかはアタシは聞かない。」~
「だけどよ、結果だ。あるのは結果だけなんだ。どんだけボロ負けしてても」~
「最後の最後で笑ってりゃあ、勝ちなんじゃねーのってね。」~
~
「私から金借りる癖に良く言うぜ。」~
~
呆れたようにベスが愚痴をこぼす~
~
「にっしっし。」~
「んでよ、何が食いたい? ピザか? 中華か? スシって言うのもあるぜ?」~
~
「…………なんでもいいよ。」~
~
「へっ、そうかい。」~
~
皮肉屋でもあったが、ドーニャに対しては厳しく、時には優しく接して妹のように可愛がってくれた~
~
~
「おおーっ? 今のは筋が良いじゃねーか。」~
「拳銃、ようやく使いこなせるようになったんじゃねえの? おめでとさん。」~
「……なぁ、笑えよドーニャ。」~
~
ある日酔っぱらった彼女がドーニャに絡む~
~
「笑ってりゃあツキが回ってくるってこともあると思うぜ」~
~
ふにふにふにふに~
~
「けっ、しけた面だなぁオイ。」~
~
「ほっといて。」~
~
「へっ、そうかい。へへへっ。」~
~
少女は彼女の事をとても大事な姉だと思った
#endregion
***第六話 [#k3d12fd1]
#region(ベスという女)
エリザベス・エーコ~
──女は自分に対して正直であり続けた、例えどんな道を歩もうとも……~
~
彼女は元はとある街でも有名な良家の令嬢であった~
アウトドア趣味であり園芸もこなし、お転婆だったが社交界でも活躍し~
その美しさでもファンが多い事で有名だった~
だが彼女は何よりも自分に正直だった。彼女は強さを求めた、それはどんな考えも貫き通すため~
それらの障害にあたる批判から身を守る為に肉体的強さを求めた……社会的な強さも~
その為にはどんな手段も利用した、しかしそれらを世間は認めなかった~
いつしか良家のお嬢様であった彼女は野心家で裏社会に通じる危険人物としてスキャンダルされ……家からも捨てられた~
だがそれでも良かった、それすら想像していたことでもあり、ただ開始地点が違うだけでたどり着く先は……~
~
「ただいま、皆。」~
~
「お帰り、ベス。」~
~
「あーあ、五月蠅いのが帰ってきたせいでアタシの一服が台無しだよ。」~
~
「おかえり…………」~
~
……きっとここだったのだろうから~
~
どうしようもなくなってからシギィと腐れ縁となり、なんやかんやあってヴァルタリに居るのである~
彼女の"ウィル"は肉体強化、硬質化、それこそ岩を砕き、銃弾すら体を通さない、シンプルで強力なものであった~
~
「私の力はわかりやすいから前線を張るのに向いてる、それにいざという時の囮にもね」~
~
実際、彼女一人を銃撃戦の中に放り込んでも時間はかかるが無傷で帰ってくる~
常識外れでもあるその力はボスからの評価も高い~
~
感情屋で涙もろい所があるが頭も切れ、決して脳筋と呼ばれるそれでもなく……~
初めてヴァルタリに来た"ドール"としてのドレスを着たドーニャに衣装を見繕ったのも彼女である~
~
「さすがにその恰好は目を引きすぎるだろ? ドレスよりもそうさね、コートを着なよ。」~
「今からちょっくらひとっ走りして買ってくるからよ、サイズはいくつだ?」~
~
アジトである倉庫の周りには彼女のものである小さな花壇があり、よく手入れされている~
料理番は交代制なのであるが、彼女の料理が一番凝っていてその上美味なようだ~
~
「シギィが作るとなんでも塩っ辛いしよぉ、ボスが作るのは全部酒のつまみなんだよなぁ……」~
「だからドーニャ、頼むからお前も料理を覚えてくれぇ……」~
~
イルヴァ曰く、あんな見た目だがあいつ一人でヴァルタリの女子力をすべてカバーしている、とのことである~
~
「うし、今日はここまでだな!」~
「お前は体重軽いからあんまり腕立てって意味なさそうだなぁ……」~
「筋トレよりも体幹鍛えてバランス良くした方が反動に耐えられるのかもなぁ」~
~
彼女はドーニャに体の鍛え方と肉体の上手な扱い方、身のこなし方~
そして何よりも自分に正直であることを教えてくれた~
~
「ドーニャ、自分に正直に生きなよ。」~
「私は嘘に塗れた世界が嫌になっちまったからここに居る……何もここまで真似しろとは言わないけれど」~
「必要な嘘ならついてもいい、だけどよ……ついちゃいけない嘘ってのもある。」~
「それは自分の気持ちを誤魔化す事だ。自分の事を押さえつける事だ。」~
「本当はこうだ、って思うのに叫びたいのに、そんな気持ちを押さえつけるのはすごく苦しいことだ。」~
「本当はこうしたい、って思っているのに出来ずに後悔することはすごく悲しいことだ。」~
「間違ってるなら間違ってると主張していい、思ったことは素直に話せばいい。」~
「悲しかったら泣けばいいし、苦しかったら叫べばいい、むかついたら怒っていいし」~
「楽しかったら……笑えばいいんだ。」~
「ボスからお前の過去の事は聞いたよ……ぐすっ……大変だったよなぁ」~
「だから無理に笑えとは言わないけど……いつか私達がお前の笑顔を取り戻してやるよ。」~
「……だからよ、ここでは……いや、これからは正直に生きなよ。」~
~
「…………シギィが、ベスの作ったおやつ全部食べてた……」~
~
「あんのクソカマキリ女〜〜〜〜〜〜!!!!!」~
~
少女は彼女の事をとても優しい姉だと思った
#endregion
***第七話 [#p520550c]
#region(イルヴァという女)
イルヴァ・ユミルドッティル~
──女は怒ることが多かった、暴れることが多かった。気に入らないことが多かった。世に蔓延る理不尽が嫌いだった~
普段は事務机の前で座り、ただ酒を煽り続けるだけの一見ろくでもない女~
そんな彼女も昔は、真っすぐ己の道を歩んでいた……~
とにかく気に入らなければ力でねじ伏せた。彼女は生まれつき強かった。その上に努力もした~
自分なりの信念の元生き続けた。その分孤独であった。孤高であった~
そんな彼女を更に力でねじ伏せる人間が居た。彼は東洋人だった~
彼女の強さを、肉体的強さではない精神的なもの。それを評価した人間~
彼に"ウィル"を教わったのだ~
~
「前に話したね、"ウィル"って言うのは意思の力。精神的な強さ……」~
「ちょいと難しい話になるが聞いとくれ。」~
「"先生"曰く、この世界には世界樹……Sephirothic Tree……セフィロトの樹と言えばわかりやすいかもしれないが、そういったイメージ、存在があり」~
「その世界樹の力を借りて人間がその力を使うことが出来るんだ。」~
「これもまたイメージの話なんだが、人間が生まれたとき、芽のようなものが心の、精神の奥底にあって」~
「それを特殊な鍛錬……精神修行と言ったところかね。それを積むことによって開花させ、能力を得るんだ。」~
「能力は千差万別、それこそ想いの力によって変わる、らしいが……」~
「ちなみに私の"ウィル"はカーテンと呼ばれる膜を張る能力。」~
「防護壁のようなもんだ。その強さは……まぁ弾丸"程度"なら防げるね。」~
「範囲はほぼ無限、主に人に向かってつけるものだからね、視界中なら空中でもできるが……イメージできる人物なら遠隔で援護も出来る。」~
「と言っても万能でもないけどね、離れれば小さいものしか出せないし、防げる回数も決まってる、その上出すまでに10秒ほどかかっちまう。」~
~
「それでもボスの能力は無敵なんだ、アタシ達の援護に回ってアタシが銃で攻めれば」~
~
「そう、これまで負けなしさね。」~
~
女に"ウィル"を伝えたその男は、力を正しく使いなさいとだけ残してまた他の人間の元に行ったと言う~
それでなんやかんやあってヴァルタリを作ったらしい~
~
「まぁ……私達を平たく言うと正義の賞金稼ぎ、ってところかね。」~
「凶悪な犯罪者、そいつらを捕まえて生業とする。私達もまた狙われる賞金首でもあるがね。」~
「馬鹿みたいな話だが聞いとくれ。悪い奴らを片っ端から捕まえて……そいつらが全員居なくなって」~
「もうこの世から悪い奴らが居なくなったら自首をする。」~
~
「できっこないぜそりゃあ」~
~
「やっぱりボスが一番イカれてるぜ」~
~
「ははは、それでも良いんだよ。私にはこれしかできねぇ。偉くも賢くも無いからね。強さでねじ伏せるしかないのさ。」~
「出来る限り殺しはしない、のがモットーではあるが。アルベルタのババアだけはどうしても放っておけなくてね」~
「あいつの悪事はひどいもんだった、それはあんたが一番わかってると思う。」~
「そして……これから辛いことを言わないといけないが、聞いておくれ。必要なことなんだ。」~
~
「……うん」~
~
「良い子だね。さて……先ほどの続きになるんだが」~
「率直に言うとドーニャ、あんたには芽と呼ばれるものが無い。枯れてるんだ。」~
「あんたは生まれて数年で捨てられた。その時に名前と苗字以外の記憶を捨てたと言ったね。」~
「そいつにはちょっと語弊がある。捨てたんじゃなくて、捨てないといけなかったんだ。」~
「小さなガキが自分以外に頼れるものを失ってしまった。本来頼るべき親と言う存在を無くした……」~
「よっぽどショックだったんだろうね。だから忘れるしかなかったんだ。」~
「そうやっていつしか、辛いことがあれば忘れるようにして、なんでもない、何ともないって思うようにして……」~
「いつしか、自分が自分じゃなくなっちまった。離人症に近い……現実感が消失しちまったんだ。」~
「自分で自分を俯瞰で見るような、自分じゃないから辛くても平気なんだ、って。」~
「頼れるものが居ないからそう思って、自分を外から応援し続けた。がんばれ、がんばれとね……」~
「そうするとどうだい、感情なんてどんどん薄くなっていくのさ。何も感動も感じなくなる。」~
「そうこうしているうちにアルベルタのババアに攫われるわけだ。」~
「そこで沢山ひどい目にあったんだろうね……可哀そうに。」~
「ドーニャ、もう一度聞くよ。人を殺したときどう思った?」~
~
「…………………………」~
「……………………………………………………」~
「…………わからない。何とも……思わなかった。と……」~
~
「違うんだ、思わなかったんじゃなくて。思えなかったんだ。」~
「人を殺したときに、あんたの"外"にいた"あんた"は……死んだんだ。耐えきれなくなって。」~
「どうしてこんなことをしないといけないんだろう。どうしてこんなことをするようになったんだろう。」~
「違う、違う……これは自分じゃない。私がやったわけじゃない。こんなの見せられるのはもう嫌だ。辛い。逃げ出したい」~
「もう見たくない。こんなのは嫌だ。こんなのは私じゃない。」~
「そう何度も思ううちに…………あんたの薄い感情の奥底に居た、本当のあんたは……死んだ。芽は……枯れてしまい……なくなっちまったんだ。」~
「だから……あんたは文字通り本物の"人形"になってしまった。覚えている記憶をなぞる、それだけでどうにか生きている。」~
「その仏頂面の奥底に隠れていた本当の気持ちなんて、無くなって……からっぽになってしまった。」~
「芽が無くなるなんて聞いたことが無い。だからその開いた隙間に…………殺された人間達の無念、恨みなどが入ってしまったんだ。」~
「だから、それは呪いと言う形で"ウィル"となって現れ……」~
~
「……ければ、良かった。」~
~
少女が口を開いて呟く。シギィが制止する~
~
「お、おいドーニャ……」~
~
イルヴァが続く~
~
「…………今、なんて言った。」~
~
「……こなければ、良かった。」~
「生まれて…………来なければ良かっ」~
~
「''馬鹿野郎!!!''」~
~
イルヴァは力を込めて少女の頬を張り倒した~
~
「………………」~
~
それでも少女は泣きもせず、赤くなった頬だけがその痛みを伝えていた~
~
「シギィとベス。こいつらはね……どうしようも無い馬鹿で。」~
「私がカーテンの効果内で済むように何度も思案して作戦を練っているというのに」~
「それは成るべくこいつらが怪我をしないようにするためだというのに」~
「''いつもいつも!! こいつらは死にたがる!! この死にたがりの大馬鹿野郎め!!''」~
~
「悪いのはゴリラのせいでーす」~
~
「とばっちりはやめろ!」~
~
「勝手に死ぬなんて私が許さないよ。あんたらはもう私のもんなんだ、有効活用させてもらう。」~
~
「……とか、言ってるけどよ。ボスはさ、ドーニャの事を聞いて居ても立って居られなくて、シギィに命令したんだぜ。」~
「"あいつらは皆殺しで良い、あの子を救ってこい"ってね。」~
ベスがウィンクしながらそう話す~
~
「……うるさいよ。」~
「ともかくだ。私の前で死ぬなんて……生まれてこなければ良かった、なんて言ったらぶっ殺すからね。」~
~
そう言って度数の高いウィスキーを一気に煽りだす~
~
「心の奥底が死んでも……きっと罪の意識はまだ消えないんだ。」~
「やり方はわからん。それにあんたが殺した人間の詳細もわからん、きっと抗争相手ばかりだろうが……」~
「……すまん。今までどれくらい、やったか覚えてるか……?」~
~
「………………13人」~
~
「そうか…………」~
~
そう呟くなり女はドーニャを抱きしめて~
~
「死んだ奴らは悪党だったかもしれん。私達なら何も感じないような奴らだったかもしれん。」~
「でも、それでもあんたにとっては辛い事だった……忘れられない事だったんだ。」~
「その罪の意識の呪縛……解いてやりたいよ。だから……」~
「もう少し、私達と一緒に、居よう……」~
~
「………………うん。わかった。」~
~
彼女はドーニャに"ウィル"の上手な使い方、最低限の学問~
そして何よりも、この世の中を生きるための強さを教えてくれた~
~
「ドーニャ、遊園地に行こう」~
~
……………………~
~
「……どうだった今日は?」~
~
「………………わからない……」~
~
「ドーニャ、動物園に行こう」~
~
……………………~
~
「…………どうだった今日は?」~
~
「………………わからない……」~
~
…………~
~
「出たよ、また……ボスの誘拐事案。今度は映画館だってよ。」~
~
「うるさいよアホ、ああやって少しでも感動して心の芽が出ないか探ってるんだよ。」~
~
「そんなこと言ってもよ……ドーニャ、ちっとも楽しくなさそうだぜ。」~
~
「わからんぞ。あれでも内心めっちゃエンジョイしてるかもしれん。」~
~
「…………だと、良いんだがな。」~
~
「ああ全くだカマキリ女。珍しく私も同意見だよ。」~
~
「うるさい、撃ち殺すぞ。」~
~
「おーこわ。どうした? また負けたのか?」~
~
「…………くぅ。」~
~
「笑える。」~
~
ドアが開く音が響く。二人が手を繋いで入ってくる~
~
「ただいま。」~
~
「……ただいま。」~
~
「おう、おかえり二人とも。」~
~
「なんだいシギィ、珍しく新聞なんて読んで。」~
~
「珍しくないですぜボス。こう見えてアタシは社会情勢とやらに興味があるんでね。」~
~
「絶対ただの気まぐれだぞこいつ。」~
~
「それにしてもあんたもドーナツが好きだよねえ。」~
~
テーブルの上に置いてある箱に目が行く~
~
「んんや、別に好きって程でもないんですがねえ。ほらあの店近いし、すぐ食べられるからよ。」~
~
「……どうしたドーニャ」~
~
ベスが少女の様子を気にかけて~
それを見たシギィがにやりと歯を見せて笑う~
~
「ん? 腹でも減ったか? 食べてみるかい? まぁいつも"なんでもいい"で済ませてるお前だから……気に入るか……」~
~
「…………(もくもくもくもく)」~
~
そうかい……と小さく呟いたシギィが一つの賭けにでた~
~
「おお、良い食べっぷりじゃねーか。にししし」~
「アタシ、実の所は結構ドーナツ好きなんだよね。色んな種類があってさ、可愛いじゃん。目でも楽しめてそんで食べやすくて美味い」~
~
「おめーがそんなの気にするほど女子力ねーだろ。」~
~
「あーー聞こえないーー」~
「ドーニャ、美味しいか?」~
~
「………………」~
~
少女は小さく頷いた~
~
「……こいつは驚いた。美味しい……だと……」~
「シギィに懐いてるのは知ってるが、こいつが好き、って言ったからかそれとも……」~
~
イルヴァは目を丸くして何度もドーナツと少女を見て分析している……~
~
「丁度良いや。なぁ……ドーナツなんて意外と簡単に作れるんだぜ。みんなで作ってみないかい?」~
~
ベスがナイスアイデアと言いたげに提案する~
~
「なんで皆なんだよ、ドーニャとゴリラだけでやってろ。」~
~
「いいや、全員でやる。私の命令だ。今日は全員でドーナツを作る、美味いものが出来るまでは絶対に諦めるなよ。」~
~
イルヴァがまたいつもの頑固を発揮する~
~
「…………マジかよ。」~
~
呆れるシギィに反面、少女とハイタッチするベス~
~
「いえーーーい、ドーニャ! 頑張ろうな! レシピは私が知ってるからさ。」~
~
「…………うん。ちょっと……楽しみ」~
~
………………………………………………???~
~
「たの…………」~
~
「たの……」~
~
「楽しみって言ったか……?」~
~
ベスは口をあんぐり開き、シギィは咥えていた煙草を落として、イルヴァは愕然とした表情をした~
~
「……今日は、ドーナツパーティだな……」~
~
呆れたようにシギィがこぼす。いつの間にか微笑んでいるイルヴァが少女の背中を押していて~
~
「ああ、良かった……良かったよお。お前にもまだ……きっと芽が残っているんだ。」~
「なんて今日はいい日なんだ……シギィの提案通りパーティだよパーティ!」~
~
少女は彼女の事を厳しくも優しく大きな愛で包み込んでくれる母だと思った
#endregion
***第八話 [#t2233e78]
#region(ありがとう、って)
イルヴァと共に倉庫内のとある区画、武器庫の中に居る少女……~
~
「何でも好きなものを選ぶと良い。あくまで護身用だけどね。ドーニャには無茶はさせないよ。」~
~
「じゃあ…………これ…………」~
~
そう言って少女が手に取ったのは古めかしい小銃で~
~
「おいおい……護身用って言ったじゃないか、それじゃあ大きすぎるよ。」~
「ちなみになんでそれを選んだんだい?」~
~
「わからない…………けど……これが、良い」~
~
「それさ、私が現役……まぁ、色々暴れてた頃の相棒でさ。」~
「一応手入れはされてるけど……いや、待てよ。」~
「そうだね、じゃあベスにちょいと装飾して貰って、シギィにカスタムしてもらってお前さん専用にしようかね。」~
~
………………~
……~
~
「ほら、持ってみな。狙撃しないで腰持ちで撃てるようにしたから、まぁ……精度は落ちるがカーテンと併用すれば問題は無いはずだよ。」~
「持ってみな。撃ち方を教えてやるからさ。」~
~
「……お、重い……」~
~
「はははは、そりゃあそうさ。私の……いや、私とシギィとベス。三人の想いも乗ってるからね。」~
~
「…………大事に、する……ね……」~
~
「…………ありがとうな、ドーニャ。」~
~
「…………?…………どうして…………?」~
~
「何でも無いよ。シギィと射撃訓練なんだろう? それ持って行ってきな。」~
~
………………~
場所は変わって射撃訓練場、シギィが珍しく目元を覗かせて、目を丸くしている~
~
「……驚いたね。まさかそのガタイで使いこなせるようになるとは。」~
「アタシは最初は駄目だったから諦めて他の銃にしな、って言ってたのによ。」~
「ずっと練習してるんだもんなぁ……負けたよ。」~
「ドーニャ、でもさ。それを持つってことは下手すれば殺すこともあるし死ぬこともあるって話になってくるんだ。」~
「アタシさ、今まで……いや、今でもさ……どっかでどうでも良いって思ってるところ、あんだよ。」~
「死んだっていい、ってさ。今はちょっと違ってお前たちと居るのも悪かねぇけどさ。」~
「一つポリシー? っていうかさ、まあそういうのがあんのよ。」~
「死ぬときはさ。恐怖に怯えたり、痛みに苦しむよりかはさ、一回笑ってよ。」~
「"クソみたいな人生だったけど、楽しかったぜ"って言えるようにな。」~
「そう言えるように、こんなクソの中自分なりにまっすぐ生きてるよ。」~
「ドーニャも、いつか死んじまうんだろうな。その時にさ、そう思えるようにしな。」~
「まだまだお前は若いんだ。やろうと思えばいくらでもやり直せる。」~
「こんなクソったれた世界でも、きっと…………な……」~
「らしくないねェ。べらべら喋っちまった。どうもお前と居ると壁と話すより話しやすいんだよなぁ。」~
~
「…………ううん、私は……嬉しいよ。シギィが話してくれて」~
~
「……嬉しい、か。そうかい……へへっ」~
~
「そろそろ飯時だろ、ベスと一緒に作るんだっけか。行ってきな」~
~
「…………うん。」~
~
「ありがとよ。ドーニャ。」~
~
「…………?……どうして……?」~
~
「へへへ、何でもないさ。気まぐれってやつだよ。」~
~
………………~
また場所は変わってアジト内のキッチンにて、ベスと共に料理をする。今夜はパエリアである~
~
「しっかしよぉ。お前が二番目に上手くなるとはなぁ……料理。」~
「可もなく不可も無く、地味……って感じだけどよ。」~
「いやまぁ……厳しく正直に言うと半分よりちょい下の基準……いや、言い過ぎか……」~
「ともかくだ、あの二人よりは遥か遥か先、超絶マシだから特に何も言うまい!」~
「何でもそつなくこなす……じゃなくて、"こなそうとしている"よな。ドーニャは」~
「苦手なことだってあるのによ。黙ってひたすらやり続けて……まぁ黙ってってのは性格もあるだろうけど。」~
「嫌われたくないんだよな、きっと……周りにさ。失望されたくないんだよな。わかるぜ。」~
「私も昔は華やかな世界に居た。何でも出来ないとひどく怒られたし失望された。」~
「だけどよ、失望されるのも悪くないもんだぜ。嫌われるって言うのもな。」~
「そりゃあ誰しもそんな目にあいたくは無いけどね。一回経験しておけばもう後は経験ってやつよ。」~
「だからさ…………気を落とすなよな。ドーニャ…………パエリア、丸焦げだけど。」~
~
「ご、ごめんなさい…………」~
~
「おー? その顔は落ち込んでる顔だぞー? 珍しいなー……! お前表情豊かになってきたなー! はーっはっはは!」~
「いいっていいって気にすんな! それシギィの分にしようぜ!裏っ返せばバレんし!」~
~
「ベス……たまに……極悪非道な事…………考えつく……」~
~
「ぐっふっふ……なんてったって私は"悪"だからな!」~
~
「そうだったの…………知らなかった……」~
~
「ついでに言うと皆"悪"だ。だから寄り添いあって生きてるのさ。」~
「お前がここに来てくれてよかったよ。ドーニャ。ありがとうな。」~
~
「…………どうして……?」~
~
「んーーっとな。お礼ってさ。ありがとうってさ。気軽に言えたりするけど結構重要なものでさ。簡単な言葉だけど……色んな感謝が籠ってるじゃん。」~
「私は好きなんだ。感謝することがさ、生きてることに感謝、出会いに感謝、とか。」~
「私のありがとうはかなーーり軽いもんだけど。ボスや、ましてやシギィのありがとうは重いもんになるな、滅多に言わねーし。特にあいつは私にはよー……!」~
「そうなってくるとー……ドーニャのありがとうは今まで聞いたことねーしめちゃくちゃ重要……?」~
「いや、悪い戯言だ。忘れてくれ……」~
~
………………~
食事を終えた四人。そんな中、少女が立ちあがって~
~
「ベス……いつも明るくて……楽しい……料理を教えてくれて、トレーニングしてくれて……ありがとう」~
「シギィ……いつもそばに居てくれて。黙ってても……嬉しかった。銃のこと、教えてくれて……ありがとう」~
「イルヴァ……私を……助けてくれて、ここに置いてくれて…………家族って呼んでくれて、ありがとう……」~
「皆の…………こと、私…………大好き、だよ……」~
~
………………………………~
………………………………~
………………………………~
~
「…………あれ……? 皆……どうしたの……?」~
~
真っ白になった三人……一人首を傾げる少女。その後アジト内がひっくり返るほど騒然したのは言うまでもないだろう~
~
ここに来て仕事をこなしつつささやかな生活を送る少女……~
心の"芽"は少しずつ、少しずつではあるが……元に戻ろうとしていた~
#endregion
***第九話 [#qdf24e3b]
#region(落涙を願う少女)
少女がヴァルタリに来てから一月半、短い期間ではあったがそれなりに仕事をこなし~
沢山の想い出を作り、少しずつではあるが感情の芽が出ようとしていたある日の事──~
~
依頼を終えて街中を歩く四人、イルヴァを先頭にそれを囲むようにシギィとベスが、そして~
二人と手を繋ぎながら少女が歩いていた~
~
「聞いたかよ今朝のニュース。地下鉄で通り魔だってよ。」~
~
「ああ知ってるぜ。まだ犯人、特定すら出来てないみたいだな。」~
~
「……あんなに人が居るのに目撃者すら居ないのが引っかかるな。犠牲者が7人、だと。」~
~
「…………もしかしたら……"ウィル"使いかもしれない…………」~
~
「…………まさか、な。」~
~
「とりあえず今私が一番気に入らないのはその事件だ、探るぞ。」~
~
「「あいよ。」」「……うん。」~
~
そうしてヴァルタリが良く使う情報屋へと向かおうとしていた矢先に……~
~
「……あれ……? 貴女……もしかしてドーニャ?」~
~
どこか垢抜けていたが、依然見た姿……金髪の美しい少女、彼女は……~
~
「私、私だよドーニャ! シャルロット!」~
~
「シャルロット…………ひさし、ぶり…………」~
~
「相変わらずねぇ……そんなんだから誤解されちゃうのよ。」~
~
イルヴァが不思議そうに二人を見つめ~
~
「なんだお前さん、知り合いが居たのか。」~
~
「"友人"ですよ、ね? ドーニャ。」~
~
「そうかいそうかい……ちょうど私らも忙しかったんだ。子守、お願いできるかい?」~
~
「ええ、喜んで。昔話も沢山したいから。ね?」~
~
「シャルロット……」~
~
……………………~
………………~
…………~
「良いんですかい? ボス、ドーニャを一人にさせちまって。」~
~
「……なぁに、せっかく友達と出会えたんだ。好きにさせてやりなよ」~
「あの子には確かに感情が芽生えてる、それを伸ばしてやりたいってのもあるし」~
「それにさ、いくらあいつの前で殺しはしないって言っても」~
「あいつもまだガキだ。遊びたい盛りだ……今くらいこんな私らの暗い世界の事忘れて」~
「子供らしく遊んで欲しいじゃぁないか。」~
~
「ボス…………! 流石はボス! その懐の深さ……一生ついていきます!」~
~
「…………へへっ、流石はボス……泣けるぜ」~
~
「とりあえずは件の封鎖された地下鉄周辺へと向かってみるかね。」~
~
「情報屋も当て無し、でしたからね。」~
~
「右に同じ、でさあ」~
そう言っても、シギィには何か胸騒ぎのようなものが感じ取られた~
~
『ちっ…………アタシの勘ってのはこういう時に疼きやがる……』~
~
………………~
…………~
……~
~
喫茶店。席に着きながらお互いを見合い、会話する~
~
「でさ、私もあそこを抜けてから色々あってさ、今も何とかこうして頑張ってるわけ……」~
「ってもー。全然あんた喋らないじゃないドーニャ。ほんと……変わらないわね」~
~
「…………ごめん」~
~
「…………ほんっと……反吐が出る。」~
~
「……え?」~
~
「''この裏切り者。''」~
~
「……シャル……ロット……?」~
~
「お前が、お前があの時…………」~
「告げ口さえ…………しなければ…………!」~
「''全て上手くいっていたのに………………!!!!''」~
~
「シャルロット…………」~
~
誤解、だ……と言いたくても言葉が紡ぎだせない……~
~
「お前には私が正義の鉄槌を下す、お前がつるんでた奴らにもだ……」~
「あいつらには殺し屋を差し向けた。お前自身は私が自ら……殺してあげるよ。」~
「…………? 何よ、その顔……」~
~
「……邪魔。」~
~
「…………………………え?」~
~
「……邪魔しないで。」~
~
「かはっ…………え…………何……体が…………息が…………くるっ……」~
~
「殺しはしない……出来ないから……でも…………ヴァルタリの、皆を傷つけるのは…………許さない。」~
~
「ごほっ……ごほ…………お前に……何ができる…………」~
「わたっ…………私は…………どうすれば……良かったのよ…………」~
「お前を憎むことでしか…………生きていけなかったのに…………」~
「ねぇ…………悪いのはあんたなんでしょ……? ねぇ、認めてよ……」~
「私の敵はお前だって、認めてよ…………ねぇ…………!」~
~
傍から見れば発作を起こして倒れたように見える彼女を放置して、少女は足早に……地下鉄へと向かった~
~
一方その頃──同時刻、地下鉄にて~
~
「おいおいおいおい、マジかよ……」~
~
「誰も居ないんだぞ、私ら以外!」~
~
「だが……これは紛れもない事実で、紛れもない現実だ。」~
~
この地下鉄のホームに…………透明人間が居る。~
~
「おい、隠れてないで出てきたらどうだ。」~
~
ベスがそう叫ぶ~
~
「いやですよぉ〜三対一だなんて超絶不利に決まってるじゃないですかぁ〜」~
~
『仕方がない……おい、ベス……シギィ……それぞれ分散しろ。』~
『私はカーテンを張って、あいつの行動範囲を狭めていく。』~
~
『了解! 私の肉体ならあいつのナイフや銃なんて容易く弾けますぜ。』~
『幸い、見たところ、攻撃力は高そうには見えなかった。つまり姿を消すだけの"ウィル"』~
『シギィは、隙が出来たら居そうなところにありったけの弾丸を叩き込め。』~
~
『言われなくてもわかってるさ、ゴリラ女。』~
~
『良いか。このまま突っ立っていれば相手の良い的だ……まずは分散して……』~
~
とある人物の視界がどんどん近寄ってくる……捉えたのは……赤毛のボブカットの女……~
~
「がっ!?」~
「なっ…………かはっ…………があっ…………」~
~
ベスの様子がおかしい、首を押さえ、息苦しそうにしたかと思えば……今度は胸を押さえて……~
~
「が……………………」~
~
そのまま地に伏せて動かなくなった~
~
「なっ…………!?」~
~
「くそっ!! てめぇ、ベスに何しやがった……!!」~
~
「私もわざわざ敵を目の前で作戦会議やらせる程〜暇じゃ〜ないんですよね?」~
~
「走れシギィ!!」~
~
「うおおおおおぁぁぁぁぁっ!!」~
~
お互いホームに向かって別れるように走り出す~
追ってくる気配がするのはイルヴァの方で……~
~
「くそっ、追ってくるのは私の方か……それにしても……」~
「なんて効果時間だ、ずっと見えない……それにベスのあの豹変っぷり……何かが……」~
「''何かがおかしい''」~
~
──ドンッ~
~
「ってぇ!?」~
~
「ぐっ……」~
~
「「あ……?」」~
~
「シギィ!?」「ボス!?」~
「どうしてここに……お互い反対方面に向けて走っていたはず……」~
~
そうしてホームに目をやれば倒れている見知った仲間の姿……~
~
「ベス……!?」~
~
「二人とも逃げ足、早いですねぇ〜」~
「でも、駄目ですよ。」~
~
「ぐっ……"カーテン"!」~
~
「させませんよ?」~
~
そう言って飛んできたナイフがイルヴァの腹部に深々と食い込む~
~
「がっ……ぐあっ…………」~
~
「''はい、お粗末様でした''」~
~
……………………~
~
地に伏せたベスとイルヴァ……残るはシギィのみで……~
~
「クソッタレが……なんで…………なんで」~
「自分で自分の脚を撃たなきゃならねぇーッッ!!!」~
~
シギィの耳から抜けるように何か、が飛び出して饒舌に語る~
~
「それはですね。私の"ウィル"はひとつの能力だけじゃないんですよー」~
「透明化、ではなくガス状の精神エネルギーを構築すること、物理的に干渉もできる、ね……」~
「そしてそのガスを吸い込めば相手の"身体の一部分"を操ることが出来る」~
「あの赤毛の女は……心臓を止めてやりましたよ。一番厄介なんでねえ……」~
「それでどうでも良いしょぼい能力の貴女を最後に残しました。さぁて……」~
「''……反吐が出るんだよこのゴミクズ共!!''」~
「私は醜いものが嫌い、全部消したい。綺麗なものだけに囲まれて生きたい。」~
「なのにお前らはどうだ。クソみたいな"ウィル"で偉そうにクソまいて群れてる。」~
「初めは叩きのめせって依頼だったけど、気が乗りに乗ってますねえ。全員殺して差し上げますよ。」~
「このゴミクズ悪党どもを私、正義の味方が世直しして差し上げますねェーーッ!」~

~
脚をやられて仰向けになったまま、タバコを吸いなおして長身の女は一言~
~
「てめー、頭がマヌケか?」~
「……さっきの言葉、悪いが返すぜ」~
「能力の説明聞いてるほど、アタシは暇じゃねーんだ。」~
~
「……なんだと。」~
「…………な、で…………出られな……」~
~
角度によって虹色に光る薄い皮膜……いわゆる"カーテン"がシギィの周りを包み込む~
~
「全く、ボスの作戦通りですけど。こいつは……痛えな。」~
~
「な、なんだと……出られない……くそっ……こうなったら……!!!!」~
~
「そうやって……」~
~
「…………は?」~
~
「アタシの体を乗っ取りに来るのも計算のうちなんだわ。」~
~
女は自分の指を拳銃に見立てて"バーン"と呟いた~
~
「……くたばれ、正義の味方。」~
~
──────────一際大きな銃声が響いた。弾丸は……女を貫いた~
~
「あばよ…………クソみたいな人生だったけど……楽し……かったぜ……」~
~
~
……………………~
~
~
静かになった地下鉄……封鎖されており、しばらく人が来ない、静まり返った場所~
ベンチにはやつれた白髪の女の死体が……蜂の巣のように弾丸で打ち抜かれていた~
そこに響くものが一つ。冷たくなった体を何度も揺さぶる小さな手がそこにあった~
~
「うそ…………だ…………や……だ…………」~
「シギィ…………ベス……イルヴァ…………」~
「い……や…………やだ…………よ…………どうして…………」~
~
帽子を目深にかぶったまま、返事をしない長身の女~
~
地に伏せたまま返事をしない赤毛の女~
~
そして……~
~
「がふっ……」~
~
血で赤く染まり切った白衣の女に慌てて少女が駆け寄る~
~
「イルヴァ!? い、生きてるの……よか、良かった…………」~
~
「ドーニャ…………なんで……ここ……に……来た……逃げろ」~
~
「な、なに……言って…………いやだ……よ……」~
~
「内臓がズタズタだ……細かいカーテンで誤魔化してるが……もう私も長くない。」~
「恐らく追手が来る……私らを狙いに……」~
「だがお前はまだ顔を知られてない……あのガキ以外には……」~
「万が一でも可能性があるなら……アジトのキッチンの下にシェルターがある……」~
「逃げろ……そこまで…………お前ならできる…………私の……家族……」~
~
「もう……しゃべらないで……イルヴァ…………お願い……」~
~
「うるさい、行け…………さっさと消えろ…………命令だ……ボスの…………」~
「お願いだ…………母代わりに、なれなかった……惨めな女の……最期の……願い……だ」~
「頼む……生きてくれ……そして……幸せにな……っ……って……いつ……か……笑っ…………」~
~
「いや……いやあ……いやだよ……一緒に、一緒にいる……」~
~
「''行けぇ!!!!''」~
~
大きく震えあがり、そのままおずおずと逃げ出すようにアジトへと走っていく少女……~
~
「そうだ、それでいい…………後は……頼んだよ……ミンツ……」~
「私は……上手く生きられたか……な……少なくとも……胸張って……こいつらを……送りたかったな……」~
「出来れば……出来ればだけど……あいつみたいな…………子供を産んで…………それから……」~
「畜生……あいつに…………三人分……また背負わせちまったのが……悔しいよ……」~
「ベス……シギィ……痛い…………もう……駄目だ…………みんな、こんな……頭で…………すまなかったなぁ……」~
「ミンツ…………愛してる、よ…………」~
~
~
~
~
~
~
~
………………~
あれからどれくらい経っただろう……わからない……こんな暗い、ひとりぼっちの部屋じゃ……わからない~
このシェルターは安全かもしれない。でも今はこんなの要らない。食料だってきちんとあるけど……こんなの要らない~
~
どうして……~
「う…………が…………あ…………」~
どうして……~
「が……………………あ………………」~
どうして泣けない、の……~
近くに落ちていた果物ナイフを手に取る…………これを胸に突き立てれば……皆と同じところに行ける……~
皆が待ってる……こんな空っぽの世界より、皆の居るところの方が大事だ……~
大丈夫……怖いのは一瞬だけ……大丈夫…………~
~
「…………!!!」~
~
…………虹色の壁が……それを防いだ……~
イルヴァの…………愛がそれを……拒んだ……~
どうしようもなく悲しくて……辛くて……苦しくて…………憎くて……かなしくて……~
なのに…………なのに……!!! 涙が……出ない…………なんで……どうして…………~
どうして…………私はからっぽなの…………どうして…………~
悲しませてもくれないの…………こんなにつらいのに……こんなに苦しいのに…………~
~
「あ…………ぁ…………あああ…………あああああああ!!……がああっ!!」~
~
命を奪えるような箇所はどこもかしこも"カーテン"が邪魔をする~
この世界にもう居るはずの無い彼女の"愛"が邪魔をする……どこもかしこも……~
…………………………………………あ~
…………見つけた。手、なら……"大丈夫"だ……~
~
~
「あああああ…………あああああ……ああああああああああああああああああああああ」~
「''ああああああああああああああああああああああああああああ''」~
~
~
''泣け、泣け。泣け! 泣け!! 泣け!!!''涙を流せ……お願いだから…………悲しませて……お願い……~
何度も何度もナイフを突き立てる、血しか、流れない! "血"しか……!~
……声を荒げても……その顔は変わらず……酷く醜く……不気味な……人形の顔……~
~
どうして……どうして生まれてきたの……どうして……出会ってしまったの……~
どうして…………どうして私なんかが生きていないといけないの……~
生まれてくるんじゃなかった……あんなところで働くんじゃなかった~
殺しなんてするんじゃなかった……あそこで殺されていればよかった~
こんな人たちと出会うんじゃなかった。仲良くなんてするんじゃなかった~
甘えるんじゃなかった……ありがとう、なんて言うんじゃなかった~
大好きだなんて、思うんじゃなかった。こんな……こんな……ことになるなら……~
''私なんて……生きていちゃいけないんだ''~
~
──シェルターの扉がぶち破られる音が響いた~
~
「おっと……やりすぎたかね。」~
「おい…………おいおいおい……ガリガリじゃねーか……」~
「お前さん、死にたいのか……?」~
~
「………………」~
「……''死にたい''、わけじゃない……''生きていたくない''、だけ…………」~
~
「そうかい。悪いな…………」~
「どっちも…………させてあげられないんだわ。」~
「俺はミンツ、ミンツ・モードント。自称正義の味方の……まぁ傭兵だ。ただの」~
「んでもって…………ヴァルタリっつったか。そこのボスの……イルヴァの……恋人だ。元な」~
「イルヴァの最期の"ウィル"……依頼を受けてきた。」~
「"お前をここから攫って来い"ってな。」~
~
──いつかの夢が鮮明に思い返される……~
────ここは────地獄だ──~
#endregion
***第十話 [#y5074d8d]
#region(徒(あだ)と痣(あざ))
「言っておくが……」~
「俺はあいつらみたいに甘くないぞ。」~
「立ち上がれ」~
「生きろ」~
「"生"から、"現実"から逃げるな。」~
~
髭の男が少女の腕を引き無理やり連れだす、半ば引きずられるようにしてアジトの外……倉庫が立ち並ぶ港まで連れ出された~
そして数分歩いていると…………一人の若い女性が待ち構えていた……~
~
「おやおや……」~
~
男は想定外、と言ったようにしてそう呟く~
~
「貴方、この子のお知り合い?」~
~
「んや、違うね。たまたま方向が同じだからついてきてるだけだよ。さぁご自由に」~
「俺は、全く関係ないですから。」~
~
女性の目を見て何か勘付いたのだろうか。男は二人から距離を取って眺めている……~
~
「そう、なら良いけど……」~
「見つけたわよ。ドーニャ・ドリフトウッド…………いえ、"マーダードール"」~
~
そう言うなり女性は少女に殴り掛かった~
~
「……許さない! お前が! お前が私の……私の父を!!」~
~
そう何度も恨み言を口にしながら女性は倒れ掛かった少女を踏みつけ、蹴り飛ばした~
……少女は、特に抵抗しなかった……腹を殴られた反射で身を丸くしたが立ち上がることも身を守ることもせず……~
その虚ろな瞳は人形のようで……傷が、血が流れることだけがそれを否定するように物語っている~
何度も蹴られ、踏みつけられても……声一つ出さずに表情一つ変えずに受け入れている……~
やがて女性も気味が悪くなったのだろう……手を止めた~
~
「何なのよ……気持ち悪い……気味が悪い……!」~
「私が……どれだけ苦しかったか、悲しかったか……お前を恨んでいるか、知っているの!?」~
「ねえ、"仕事"で人を殺すのは楽しかった? 父を殺すのは楽しかった?」~
「聞いてるでしょう。返事しなさいよ!!」~
~
「…………何も……思わなかった」~
~
「そう…………わかったわ。」~
~
そう言うなり女性は懐から拳銃を取り出して銃口を少女に向けて…………~
~
「死ね。」~
~
……と引き金が引かれる前に男が制止した~
~
「おっとっと……お嬢さん。やめておいた方が良いぜ。」~
「こんなクズの命を奪ってもきっと何もありゃしない。」~
「お嬢さんの経歴に傷がつくだけ……メリットはちょっとすっきりするくらいですぜ?」~
~
「何よ、邪魔しないんじゃなかったの……!?」~
~
「流石にねぇ……俺もねぇ、"じゃれあい"は良いけど"人殺し"の現場を見れば善良な市民として通報しなくちゃいけなくなっちまうんでね。」~
「この辺にしておきましょうや。ね?」~
穏やかな口調で話す男ではあったが、その眼光は鋭く、女性は身をすくませて~
~
「もう……良いわ。私だってわかってる。こんなことしても……父が戻ってこないことなんて。」~
「でも、忘れないで。お前のせいで苦しんでいる人間は沢山、居るってことを……」~
「子供の癖に…………」~
「残りの人生苦しんでから……死ね。」~
~
そう言って女性は去っていった……~
~
…………~
~
「よー、これでわかったか。人殺し。」~
~
怪我のせいで倒れたまま起き上がれない少女を見下ろして男がそう言う~
~
「お前は勝手に死んじゃいけないんだよ。」~
「生きて苦しみ抜く作業がまだ残ってるんだ。」~
「それにな……お前は、仲間を……家族同然のそれを殺されて、悲劇のヒロインぶってるかもしれねぇが」~
「今みたいな人間も沢山いるんだよ。"お前のせい"でそうなった人達がな。」~
「お前は……嫌われたくないんだ、捨てられたくないんだ。」~
「だから言いなりになってる。だってよ、殺したくないなら断れば良かっただろう?」~
「お前はあの魔女みたいなババアにすら"嫌われたくなかった"んだよ。」~
「その結果がこれだ。身につまされたろ? な?」~
「全ては結果だ。お前が苦しんだとか辛いとか、どうでも良いんだよ。」~
「お前は自分が流されて生きてるとか思ってるかもしれないが、全部お前の決断だ。」~
「それがこの有様…………お前が選んだから、こうなった。お前にもう少し自分の意思があれば」~
「……あの三人も死ぬことは無かった。」~
「お前があの三人"も"殺した……そういうことなんだよ」~
「逃げるな。」~
「苦しみから逃げるな。悲しみから逃げるな。生から逃げるな。」~
「苦しめ。悲しめ。これが現実だ。現実を受け入れろ。償え。贖え。」~
~
「……………………」~
~
「お前は……さっきも抵抗しなかったよな?」~
「あわよくば死んでしまってもいい。これで楽になれる、そう思っていただろ。」~
「だから、止めた。」~
「お前はな、独善的なんだよ。捨てられたくないから、独りになりたくないから言いなりになる。」~
「自分の事しか考えていない。何が感情が無い、だ。自分が都合の悪い記憶をただ押さえつけてるだけだろう?」~
「辛かったもんな? 悲しかったもんな? 独りは寂しいもんなぁ?」~
「……それが間違ってるんだよ。」~
「孤独を受け入れろ。どうせ死ぬときは皆孤独だ。孤独に負の感情を抱くな。味方につけろ。」~
「…………お前には、まだやるべきことがある。」~
~
「俺の"ウィル"は……触れた相手の"ウィル"を消すことだ。」~
「お前の"ウィル"を………………"罪"を……滅ぼしに行くぞ。」~
~
男は少女を背負い、歩き出した~
~
「…………」~
~
沢山投げかけられた言葉、それすら届かないほど……少女の心は、"壊れて"いた……
#endregion
***第十一話 [#q5a97e61]
#region(イサリビとナガレギ)
ミンツ・モードント~
──男は抗って生きてきた。荒波に逆らう船の様に~
~
幼い頃から彼は良く怒っていた~
それは世の中にある理不尽に、暴力に、弱者への虐げに~
何度も喧嘩をした、時には仲間外れにもされた。それでも許せないことがあれば~
己が信じる正義の為に抗い続けた。生傷の絶えない子供だった~
平凡な両親から言わせれば頑固者で融通の利かない所謂"悪い子"であった~
目の届く範囲、いや全ての泣いている人を救いたかった~
何故だかこの衝動は抑えられなかった。半ば意固地になっていたのかもしれない~
家から追い出されるように15歳で軍隊へと入隊した~
夢や希望を持って行ったそこでも……虐めや細かな不正は絶えなかった~
何度も上司と対立したが実力がある故に辞めさせられることは無かった~
困難な難易度の仕事も沢山こなして評価を上げてきた~
~
やがて実力を認められ、少し上の立場になった21歳の時……大きな戦があった~
ほぼ前線で自らも戦い、沢山の武勲を立てた~
戦線を押し進め、市街地戦となった~
……沢山の逃げ遅れた市民が犠牲となった。敵国とは言え無関係の一般市民だ~
そこで彼は……同じ軍の人間が集団で市民を虐殺しているのを目撃した~
信じられなかった……自分でも驚くほどの勢いで頭に血が上っていくのがわかった~
──気づけばその集団を皆殺しにしていた。この世の不条理を怒りに任せて天を睨みつけ、叫んだ~
…………それからは軍を逃げるようにして辞め、傭兵として生きてきた~
何が正義なのかわからない。金で雇われ、その仮初の仲間達と共に戦い続けるだけの日々~
それでも自分で選んで戦う分、マシだと思った……いつの間にかどこか、少しずつおかしくなっていた~
~
そんな最中、一人の女と出会った……名はイルヴァと言った~
女は不思議な力を使い、戦っていた。初めはその力の秘密を知りたいと言う好奇心からだったのかもしれない~
だが次第に、女自身の事を知りたいと思った。孤独な女だった~
そして自分も孤独だった。お互い……似ていたのだった。心にどこか隙間があったのかもしれない~
その隙間を埋めあうように、慰めあうように……惹かれあっていった~
彼女に"ウィル"を教わった。力を正しく使うと誓い……しかし、彼の能力は特殊だった~
"ウィル"を消すための"ウィル"……彼はこの力に惹かれる気持ちとは別にどこか心の奥底で、この力自身を憎んでいたのかもしれない~
男が迂闊に彼女に触れれば力が消える恐れがあった。だから……離れた~
お互いに、誓い合った……彼はその力とは別に相手の"ウィル"を辿ることが出来た~
それは不確かなレーダー……だが彼女の……イルヴァの"ウィル"だけは何処に居ても辿ることが出来た~
だから誓った。離れ離れでもその力が消えたときは必ず迎えに来る、と……~
~
手紙で何度かやり取りをしていた、彼女が組織を作ったこと。そしてそこに二人の女が入ったこと~
そして……少女がそこに新しく加わったこと~
女は自分が長くないことを知っていた~
いずれ殺される、だがそれは自身が選択してきた道の結果だ~
だが、あの少女だけは救ってほしいと、自分が死ねば少女は恐らく消えてしまうだろうと~
彼ならば少女は正しい道へと導くことが出来る、と……~
~
──彼女の"ウィル"が消えた。男は急ぎその場所へと向かった……がそこにはもう何もなく、全て他の機関によって"処理"された後だった~
彼女に会う事は叶わなかった。しかし、彼女の意思は生きている~
彼は異質な"ウィル"を感じ取り、手繰るように進み、やがて少女を見つけるのだった……~
~
~
「まぁあらすじはこんなところだ。」~
~
彼のセーフハウスで自身の机に脚を乗せ、対面に向かっての少女にそう言った~
年はもう30後半であり、少し茶色がかった髪はオールバックでスーツの上に着たコートは年季を感じさせるもので~
そしてその髭も手入れをしているのかしていないのか、立派なものであった~
~
「俺が触れば相手の"ウィル"は消えてしまう。」~
「つまり"ウィル"使いとしての特性を殺しちまうわけだ。対"ウィル"用の決戦兵器みたいなもんだな。」~
「だが俺が触れてもお前の"ウィル"は消えてねぇ。それはお前の"ウィル"じゃ無いからな。」~
「お前が殺した沢山の想いが"ウィル"となってお前の心の芽の隙間を埋めている。そんな感じだ。」~
「ついてこい、まずはあそこに行くぞ。」~
~
そう言って彼が向かった……いや戻ったのはヴァルタリのアジトで……~
~
「どこだったか……おおあったあった。」~
~
彼が仕掛けを弄れば本棚が動き出し……~
~
「あいつは工場で働いてたこともあったらしいからな、隠し扉ってやつだ。」~
~
そこには金庫があった~
~
「貯め込んでんなぁ……まぁこれだけあれば十分か……悪いな、貰っていくぞ。」~
「これ、全部使ってお前のウィルを消す」~
~
少女には意味が分からず、ただ茫然と見ることしかできなかった……~
~
それからは…………過酷な旅が続いた~
男は数日で被害者を調べ上げ、遺族が残っているものから優先して……少女をそこへと送り込んだ~
~
少女はただひたすらに謝罪の言葉と頭を下げ続けた~
沢山の恨み言を吐かれた。沢山の暴力も受けた。しかし何度そうされても少女は謝罪を続けた~
身体はボロボロになり、顔は幽鬼のように青白くなり、より一層少女を生から遠ざけるようだった~
反発していた遺族たちはやがて折れ、口を揃えるように~
~
「もう顔も見たくないから、来ないでくれ」~
~
と言った。そこで彼が現れて、慰謝料を振り込む手続きを済ませる……それでようやく墓参することを許された~
~
墓に向かい、彼は何やら唱え、そして酒をかけた。それはあまり見た事の無い異国の酒であった~
そして少女はひたすらに頭を垂れ、同じように酒をかけられた~
そうすれば少しだけ体が軽くなった気がした~
~
そう言った行程を10ほど繰り返した~
何度も殺されかけたが、本当に命の危機の場合以外、彼は手続きの手順が来るまで全く手を出さなかった~

──無心だった。少女はただひたすら真摯に従った。許されたいと思った~
しかし心の奥底では……許されてはいけないとも思っていた~
~
残るは身寄りの無い人間、三人分だった~
~
「海に行って流木を集めろ」~
~
少女は彼の言葉に従い海岸線をただひたすらに歩き続けた~
そしてその道中で沢山の流木を拾い、それを数日乾燥させた~
それを交互に組み合わせるようにし、高く積み上げ……~
夜になり、彼はそれに酒をかけ、火を放った~
彼はそれを"イサリビ"と呼んで、黙って念じ続けるように言った~
~
「思い出せ。記憶から逃げるな。殺した人間の顔を思い出せ」~
~
少女の体が揺れる、止まっていたいのにそれが抑えられない。それは思い返したくない記憶を拒絶する様で~
嫌な記憶…………忘れてしまいたい記憶……忘れることは得意のはずなのに……どれも……~
………………………………忘れてなかった~
~
──煌びやかなドレスに身を包んだ自身の姿、花束を持って相手に差し出す~
そしてその"引き金"を引いて…………~
血を流し倒れるのを……何とも思わないように見下す……~
その瞳には輝きは無く……それでも…………その散った命を……忘れたくない、と~
そう思って……見下ろして、居たのだ…………~
~
──煙が……渦を巻く様にして天へと昇っていく~
~
「………………」~
~
何も言えなかった。炎が大きく燃え上がる様は……どこか幻想的で~
黙っていた彼がようやく口を開いた~
~
「…………良くやったな。」~
~
とだけ言って~
~
~
──それ以降少女は"ウィル"を使う事が出来なくなった~
力を使うようにして睨みつけても、ただの無表情のにらめっこになるだけだった~
そして彼が突然頭を下げてこう言った~
~
「今まですまなかった。きつく当たったのは俺の心の弱さ故だ。」~
「イルヴァを失った悲しみをお前にぶつけてしまっていた。本当はお前を救わなければいけなかったのに」~
「……恨むなら殴ってくれ。だが……俺は間違ったことはしていないとだけ言う。」~
~
少女は何も、しなかった……出来ない程、空っぽになっていたのもあったが……~
どこか……男がいつもより小さく…………弱いものに見えたから~
~
~
──気づけば少女は13歳となっていた。彼と共に色んな街を周り、人助けをした~
彼は傭兵の仕事……戦に向かう事を辞め、細かな依頼。人助けになることを率先して受けていた~
普段の彼は陽気で、気さくで子供に好かれ、良く働き、そして良く人に説教をしていた~
少女に対してもそれは同じで、間違ったことをすれば怒られ、頑張れば褒められ~
……そして常に傍に居てくれた~
少しずつ、少しずつではあるが……少女は活動的になっていった~
彼に対して冗談を言うようにもなり、他人とも一言二言であるが会話できるようになって~
その姿を見てどこか満足気に頷く彼を真似するように少女も腕を組み、頷いた~
~
……彼は決心した~
~
~
「……ここいらで良いかな」~
「おいドナ。この街は初めてだよな。ここはとあるファミリーが取り仕切ってる港街だ」~
「ここのボスはちょっとアレらしいが、懐の広さで有名らしい。」~
「だからお前みたいなガキ一匹潜り込んだところで大して気にしないだろう」~
「そんな街の……なんていうかな、大きさが…………ここにはある」~
「俺もこんな街で生まれ育ってればな……」~
「ガキの頃は喧嘩ばっかりしててよ。良くお袋に怒鳴られてたよ」~
「俺は間違ってない。ってずっと思ってそして軍へ入った」~
「俺は俺の信じる道を進んだ。絶対的に……後悔はしない選択をしてきた」~
「馬鹿みたいだけどよ。俺が……世界を救う、なんて思ってた」~
「この世界で悲しんでいる人を少しでも減らしたかった。それが出来ると信じていた」~
「俺はヒーローだと思っていた。この世界を救うべき救世主。そう言い聞かせていた」~
「でも……俺はこの世界の主役ではなかった。俺自身も……人を泣かせる存在だったんだ」~
「そうしたら途端に何もかも嫌になっちまって……死ぬために戦い続けた」~
「でもよ。俺強いからよ……なかなか死ねなくてな。ひひひ」~
「それでお前を救う事にした。確かにイルヴァに言われたのもあるが、選択したのは俺だ」~
「確かに……俺は主役じゃないかもしれない。だが……これは俺の物語でもある」~
「ハッピーエンドとはいかないかもしれないが、それでも後悔はしたくねえ」~
「そして……お前の物語でもある。良いかドナ。」~
~
「──始めるんだ。お前の物語を……お前はまだ終わっていない。終わらせちゃいけない。」~
「この街でお前を雇ってもらう。そうしたら俺は自分の物語を進める」~
「お前はここに残れ、多分……仕事なら貰えるだろう。見張りとかな」~
「お前のやりたいことを見つけろ。それを全うしろ。仕事でも良い、そして遊びでも良い」~
「そしてお前も俺も、いつか死ぬ。」~
「その時に笑って死ねるように、死ぬほど努力しろ」~
「お前は流木だ。流されてここまで来た」~
「流木は深海と碧落の狭間。海面をひたすらに進む」~
「俺は船だ。自分で道を切り開いて進む。お前はどうだ?」~
「沈むか、浮かぶか、選べ……流木だってそれくらいしても罰は当たらんだろ。」~
「…………頑張れよ。お前なら大丈夫だ。負けるな。現実に負けるなよ」~
「……聞いてるのか。ドナ。返事しろ。」~
~
……行きたくなかった。彼と離れたくなかった。傍に居てほしかった~
私の物語は彼が居ないと駄目だったのに。でも彼は……自分の物語を優先した~
だから少女は小さく頷くしかなかった。それでも、彼に生きていて、幸せになって欲しかった~
~
そうして街の大きな建物……これから少女が門番として立つ建物へと……歩みを進めた~
──男は……その懐に一通の手紙を携えていた~
少女は……覚悟したように…………無表情の人形として、その物語を進めた
#endregion
***最終話 [#v9852580]
#region(天庭)
[[イベント形式で行いました>MF/0013/個人イベント]]
#endregion
** [#sa889519]
//スイッチバラまくマン!迷惑なら気にせず消してください

//恋愛スイッチ 流れ次第で…
//戦闘スイッチ 頑張りたいけどキャラ的に普通の子です
//セクハラスイッチ ハイライト消える感じでも良いなら
//エロールスイッチ 多分無理ですね…
//文通スイッチ 仕事の都合上交流を諦める週があります
//ガチ死スイッチ 個人的にはお話完結させて良い感じの所でイベント挟むつもりですが、悩みどころ

//一応ON/OFF表記ではありませんが指標としてご参考……って誰が得するんだろうか

#pcomment(どなどり,1,below,reply)