#menu(MenuBar/Redevelopment)
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RIGHT:[[http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079748.png>企画/再開発史]]

&SIZE(15){''' Arnold Detective Office'''};~
&SIZE(25){'''''アーノルド探偵事務所'''''};~


http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp020398.jpg~

旧市街、汚れた川を背にして建つ薄暈けたビルの一室、「アーノルド探偵事務所」と表札のかかったドアを貴方が開けると~
椅子に体を埋め机に足を投げ出したままで[[男>名簿/480824]]がこう言うだろう~
「話は手短に。ノックは優しく。ここでのルールはその二点だ…で、用件は?」~

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**オフィス内 [#x4b329f6]
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**実際は… [#p5fc0678]
本人はハードボイルドな渋い探偵を自認しているが頭の冴えも腕っ節も今一つ~
これといった難事件も持ち込まれず、暇を持て余しつつ~
時折ちょっとした近所の用向きを頼まれる何でも屋となっている~

最近は助手と称する[[少年>名簿/479807]]が居着いている~

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// * こちら再開発史の運営担当役です
// * 此度ガイドマップページを立ち上げ、今回はそのお知らせに参りました
// * それぞれの地区のトップページがガイドマップのページとなりますので
// * 企画ページに記載したガイドマップ利用の手順を一読の上、ご利用ください


**事件簿 [#c62364d0]

//#region()
***Case File #01 ロザリオとアンパイア [#xf279485]

かっこよく生きてぇ。
そんなチャチな欲望が俺の全てだった。
探偵という職業を選んだのもそのためで、毎日が心地よい充実感に満たされている…はずだった。

「ここが現場だな」
荒涼とした雰囲気の公園の一隅、依頼人が言った通りのベンチがある。
今回の依頼は失せ物探し。対象は数珠ということになる。
「でもさー…この辺ならもうその客も自分で探したんじゃねー?」
こいつは助手のタマだ。
いつの間にか事務所に居着いた割には、することはソファで転寝ばかりで、留守番ぐらいにしか役立たない。
そのくせ生意気な口をきくので一度仕事の現場を見せて教育してやろうと連れてきたのだが…
「素人は点で探し、プロは面で探す。今日はお前にプロの流儀ってやつを叩き込ん…おい、どこへ行く!」
「二人して狭いところに張り付いててもしゃーねーだろー?おっさんがプロの流儀で探してる間に
 おれは向こうで聞き込みでもしてくるよ」
あいつはどうしようもない奴だ。せっかくこの俺が…全く、雄鶏と頭を取替えちまったほうがまだしも言うことを聞くはずだ畜生。
思いつく限りの悪態を口にしながら地面を掘り起こすようにしてベンチ周辺を調べてみるが、無論目当ての品は見当たらない。
脇の潅木の茂みに捜索の手を伸ばそうと意識を向けたところへ背後から声がかかる。
「何だおっさん、まだ探してんのか」
この野郎、もう許さん。
探偵の仕事の何たるかについてみっちり徹底的に説教してやる。口述筆記すればそのまま探偵入門書の出来上がりだ。
「…いいか?そもそも探偵の仕事は九割が地道な作業の積みかさ」
「数珠見つかったぞー」
「あ?」
「だからー、数珠が見つかったんだって」
「…何ぃ!?」

数珠を見つけ拾ってくれていたのは、少年野球の監督をしているというまだ少女のような容姿の女性だった。
折りしも公園横の空き地で試合中で、俺は礼を述べつつ返還を求めたが…
「そう言われましてもー、今日の試合でがんばった子に賞品としてあげるって約束しちゃったんですよねー」
数珠を?
「子供たちもすごく喜んではりきっちゃってー」
数珠で?
「だからそう簡単にお返しするわけにはー…今ちょっと点差が開いちゃってるけどがんばって追いつこうとしてるとこなんで…
 そうだ、お二人が試合に出て逆転させてくれるのでしたら数珠の件も考えてみますけどー」
スコアボードに目をやる。9回裏、50対0。
俺は目眩を感じた。
「なあ、一つ名案があるんだが聞いてくれるか?」
「なんでしょう?」
「今すぐ帰り支度をして街に出て、子供たちにアイスかピザでも奢ってやって試合のことは忘れさせろ」
「いいですねー、次回から採用することにしましょう。でも今日はせめて一矢は報いたいかなーと…
 せっかくピッチャーの子が9回まで完投してくれたので。賞品もその子にあげようかとー」
一体何百球投げれば数珠一つと釣り合うんだ?
増加する児童虐待の事例について思いを馳せていると誰かがコートの袖を引っ張る。
「おっさんおっさん」
何だお前か気持ち悪いな、俺はママじゃないぞ。
「そっちこそ気持ち悪いたとえだなー…いや、今回の仕事って依頼の品を”見つけてくれ”って話だったよな?」
「確かそうだな」
「だったら…一応依頼は達成じゃねーの?手に入れて持って来いってんじゃねーんだから。
 あとはそのピッチャーのガキの住所でも聞いといて、客に直接交渉してもらおーぜ」
「お前それは…いいアイデアだな」
というわけでピッチャーを呼んでもらった。50点を取られても投げ続けるのだからガッツはあるにちがいないが、
玩具だとか新しいグローブとの交換に喜んで応じる程度の分別も持っていれば依頼人も楽だろう。
「あのねー、玉いっぱいの輪っかもらったら紐ちぎってバラバラにして一個ずつ川に投げて遊ぶんだー」
駄目だ馬鹿だ。
しかしこうなると「依頼の品は今頃川の底です」と報告するわけにもいかない。
最善を尽くすべき時のようだ。

さっき9回裏と言ったが正確には9回裏ワンナウトランナー無しである。
次の打者が打席に立つ前に俺は向こうのチームと交渉して二点の変更事項を認めさせることに成功した。
一つは俺とタマが試合に出ること。
もう一つは9回に限りこちらが1点を取れば10点として加えること。
後者がすんなり受け入れられたのはそれだけ舐められているということだろう。
「それでどうすんだー?多分1点取るのだって難しいと思うぞー」
「ああ…まずはタマ、お前が打席に立て。そしてどんな手を使っても出塁するんだ、いいな?」
「無理言ってくれんなー…それができりゃ苦労はねーっての…」
ぶつくさ言いながらもバットを引きずって歩いていく。
その後姿を見送りながら俺は監督に尋ねた。
「ところで、こちらと向こうのチーム名は何て言うんだ?」
「あっちがジャイアンツでうちがベイスターズですよー」
「…ベイでもなければスターもいないようだが」
「でも中央区(セントラル)にあるし…」
わからん。
「ああそれから、さっきから審判の格好が気になってるんだが…あれ、シスターだよな?」
典型的な修道服、胸のロザリオに反射する光が時折目に刺さる。
「はい、近くの教会のシスターさんですよ。時々手伝いに来てくれるんです。
 たまに手作りのクッキーなんかも持ってきてくれますし、お世話になってます」
なるほど、地域の奉仕活動の一環ということだろうか。シスター服で審判のマスクを着けてる姿は
異様だが、子供たちのためにルールなども懸命に覚えたのだろうと思うとむしろ崇高ささえ感じる。
しかし…無駄話をしているうちに逆転の方策でも浮かぶかと思ったが、やはり無理だな。
打席で粘ってるタマには悪いが、せっかく数珠とロザリオと聖具が揃っていることだ、神に祈って
奇跡を待つしかないか…この時期の川浚いは身体の芯まで冷えそうだ。
短い悲鳴が聞こえ、タマがへたりこんでいる。当てられたのか?
駆け寄ると今にも死にそうな顔をしていたがこれは普段通りだ。どうやら胸元をかすっただけらしい。
むしろ審判の方がショックを受けている。
「だ、だいじょうぶですか?怪我は…」
見れば眼に涙さえ溜めている。タマがまるで肋骨がへし折れて心臓に突き刺さってるような様子なのが
いけないのか。いつまで座り込んでいるんだこいつは。
乱暴に引き起こそうとしてピンと脳裏に閃くものがあった。
逆に鄭重に助け起こすと小声で指示を出す。いかにも憐れを誘うように一塁までよろよろ歩いていけと。
それから審判に目で確認を取る。
「あ…で、デッドボール…です」
ようやく気付いてくれたようだ。
念のためもう一押ししておくか。
「哀れな子供たちに主の慈悲を…アーメン」サービスで見様見真似の十字も切ってみせる。
「…主はいつも私たちとともにおられます…」
シスターは本式の十字を切るとロザリオをぎゅっと握り締める。
願わくば俺のような不信心者にも慈悲のあらんことを。
こちらの仕込がすむと次の打者を呼び寄せる。
俺の思いついた作戦はこうだ。
内角の球が来たらわざとぶつかれ。いやまともに当たらなくていい、かするだけだ。そうしたら大げさに倒れて
苦しそうにしろ。審判がデッドボールの判定をしてくれるまで哀れそうに見つめていろ。
そう(監督には知られないよう)叩き込む。
相手がぶつけるのを嫌がって外せば今度はフォアボールが狙えるだろう。完璧だ。
打つことが無理なら打たずに点を取るしかない。せいぜいシスターの同情を買う演技をしてくれよガキども。
あのロザリオが逆転勝利へ伸びた一条の蜘蛛の糸なんだからな。

俺は地面に座り込んでスコアボードを見つめていた。
50対20。試合終了。
点数だけ見るとラグビーのようだな。心の中で呟きが洩れる。
まあ…やるだけのことはやった。
考えてみれば当然なのだが、死球作戦は早々に対策を取られて投球が外角一辺倒にされてしまった。それでも
2点…20点か。もぎ取れたのは上出来といったところか。ストライクゾーンでも死球判定してくれた審判に感謝だな。
それから2アウトになっていよいよ後がなくなったところでベンチに帰っていたタマが勝手に俺を代打に
起用しやがった。嫌がらせか。
いや、ここでホームランでも打てば確かにヒーローになるだろうが…自慢じゃないが俺は運動の類は全く身体が
ついてこないぞ。ガキどもそんな期待に満ちた目で俺を見るな。1ストライク。2ストライク。かすりもしねぇ。
3球目、奇跡的にバットに当たった。ボテボテだが俺は懸命に走る。コートは脱いでおきゃよかった。
一塁ベースが遠い。えい、ままよ。ヘッドスライディング…!
「タイミング的にはセーフだったんだがなぁ…」
「…おっさん手がベースに届いてなかったじゃんよ」
「…くそ、一張羅のスーツが泥だらけだ」
いっそこのままで川に潜ってバカガキに投げ込まれる予定の数珠を拾うか。少なくとも泥だけは落ちるだろう。
暗澹たる未来予想図を思い描いているとふと目の前に影が差す。見上げれば審判をしていたシスターだ。
マスクを外していると当たり前の話だが清楚で大人しそうな修道女にしか見えない。
「あの…事情はあちらの監督さんからお伺いしました」
間抜けな探偵が女子供から小物一つ取り戻せなかったことを、ね。
「いえ、私…感銘を受けました。もともとあなた方のほうに所有権があるのに、強引に奪っていこうとなさらず
 子供たちに付き合っていただいて、勝たせてあげようとあんなに一生懸命に…ですから、これも主のお導きでしょう」
シスターが掲げた手には依頼人が指定した通りの数珠が握られている。
「…どうしてこれを?」
返事よりも先に、審判のマスクの他にもう一つ彼女がその身から外しているものに気付く。
「ええ、同じ玉がいっぱいの輪っかだからこっちでもいいと…」
いや、しかしそれは…
「何事も主の思し召し…」
困る。
神様なんざ糞食らえとバカガキをはたいて取り上げちまうのが一番の解決法という気がしてきたところに
先ほどの監督が駆け寄ってくる。
「あーごめーん。ロザリオやっぱ返すねー」
あのガキが突如敬虔な心に目覚めでもしたんだろうか。
「いやー紐が引きちぎれないからやっぱいらないって。あんだけ投げた後じゃ握力なくなるのもしょうがないよねー」
…なんだそりゃ。
まあ、万事解決だ。そのガキには腕のケアをしっかりしてやることだ。それから、これでピザでも食わせてやりな。
そう言って俺は財布から金貨を取り出して渡した。
「ああ、領収書は切ってくれ。経費で落とすからな」

                  〜End〜

//#endregion

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