CENTER:[[http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp019364.jpg>企画/吸血鬼xハンター]]~
*†エジャナイザ†【注意重点】†来訪される† [#vf126e3b]
CENTER:こちらは[[メイヘム>名簿/478353]]のSS置き場倉庫です
*一人遊び重点 [#e1b073ba]
 &br;''†††††††††††††††††††''
#pcomment(ドーモ。ヴァンパイア・スレイヤーです,1,below,reply,nodate)
~
** メイヘムハヴァンパイアヲコワス[#lec77dc4]
#region(第一話)
--- [[''Vampillia''>つべ:h5eqjBMqYqY]]&br;&br;クライロジニモーターオン&br;-吸血鬼の呪われた血肉が爆ぜる音- 男は鉛色の空を目深にかぶった帽子の隙間から睨む どんよりとまとわり付くような重たい空気&br;異様な巨体を薄汚れた路地に滑り込ませ、男は座り込んだ 大都市の片隅に影を落とすスラム街 そこにはまつろわぬ者達が、石ころのようにひしめきあう&br;男は・・・ 仮に、その名を「メイヘム」としておこう メイヘムはフリーランスのヴァンパイア・ハンターだ&br; 
---ほとんどのヴァンパイア・ハンターはクランに属している ハンターは特権的な職業であり、免許が必要である&br;クランに入れば免許は比較的容易に手に入る しかしなんらかの理由でクランに入る事ができない、もしくはそれを拒絶するならば相応の手間と金が必要だ&br;それ故、フリーランスであるというだけで一目置かれる場合もある だがメイヘムは悪を打ち砕くヒーローではなく、そんなものを望んでもいない&br;ただ、彼が他人と交わるという事を極端に避ける傾向があるためだった&br; 
---クランに属していれば、吸血鬼の情報を地元の警察などから優先的に情報を得られる だが賞金の支払いは吸血鬼を刈り取った者にだけだ&br;そして今回はハンター・クランよりも、「根無し」のメイヘムに分があった メイヘムは動物的な勘でこの地にそれが巣食っている事をかぎつけたのだ&br;汚れた排水の流れ込む路地裏 座り込むメイヘムの隣にもそのまた隣にも、薄汚れた身なりの浮浪者たちが、同じように座り込んでいた&br; 
---都市の浮浪者たちは、皆同様の心の病を抱えているものだ 病から浮浪者になったのか それとも浮浪者であるから病になったのか&br;皆、焦点の合わないうつろな眼をしている 長いこと誰からも石ころか何かのように扱われてきたためだ&br;大量のごみを大事そうに抱えている者 壁にむかってぶつぶつと説教をしている者&br;お互いにまるで意思の疎通していない事柄を話し合う者達 メイヘムはそのノイズに耳を傾けた&br;「死んでいく」「女ばかりだ」「モッチャン」「またアレだ」 いつの間にかメイヘムの真横で浮浪者の老人が感情豊かに独り言を言っていた&br;他人から拒絶され続けた者は、しかし、悲しいかな 他人から理解を求めるものなのだ&br; 
---「どこでだ?」 冷たい視線と言葉をメイヘムは投げかける 浮浪者はおびえた様子でもつれた舌で答える&br;「あ、あああ、殺されちまうんだよっ! みぃんな殺されちまうっ あっちの方だよっ 今日は雨?今日は雨?」&br;垢のこびりついた、しわがれた指を突き出す 汚れと皮膚病に覆われた手は、まるで吸血鬼に血を吸い尽くされた死体のようだった&br;路地裏に、巨大なシルエットが浮かび そして老人の指差す方向へ去っていった&br;  
---ゲッカノスラムニヒメイガコダマ&br;よくある事さ、誰も気にしない どうせ娼婦か薬中か そうでなければ家出娘 どの道こんな時間にスラムを歩く女などはまともじゃない&br;どんな目にあったとしても自業自得だ そう、たとえ吸血鬼に首筋の動脈を噛みつかれ ドクドクと噴出す血を吸われようと&br;''ヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィ''だが、一週間ぶりの甘美な食事は耳障りなモーター音に阻害される 吸血鬼は苛立たしげに女の首筋から顔を起こし&br;土気色の顔を暗闇に向ける した、した、した、した 不浄な水滴のしたたるスラムの路地&br;斜めに入り込む月明かりがその姿を照らし出す だぼだぼのコート 巨大な体躯 そして、唸りを上げる丸ノコ&br;明確な殺意とともに、メイヘムは血を啜る怪物の眼前に仁王立つ&br;「死ね」「吸血鬼は全部」「死ね」&br; 
---にわかに月を黒雲が隠す 街の汚濁を洗い流す雨 次第にそれは豪雨となり叩きつける&br;メイヘムはハットから雨をしたたらせ、建物の壁に身を預ける この豪雨は彼には逆に好都合だ&br;強力な嗅覚と聴覚を持つ吸血鬼 すくなくともこれで条件は同じはずだ&br;スラムの路地な排水能力などまるで考慮されてるはずなどなく、瞬く間に雨水が溜まりだす&br;巨体の男は路上に吸血鬼の生首とショックに震える女を置き去りにした&br;まだ仲間がいるはずだ それも、すぐ近くに 惨劇の路地にはしかし、一匹の黒猫が威嚇の声をあげるだけだった&br; 
---雷鳴 豪雨 ヴァンパイアハンティングには絶好の日だ&br;路地をさ迷う男の足取りは重く、覚束ない様子だった 立ち止まったその体から赤い血がしたたり落ちる&br;その様を背後からじっと観察する影が一つ 先ほどの黒猫だ&br;音も無く苦悶する男に黒猫は忍び寄り、突然その姿を変化させた&br;「リーブの仇はとらせてもらうぞっヴァンパイアハンター!!」人形となったそれは吸血鬼!&br;負傷したメイヘムを背後から襲い掛かり、その首筋に鋭い歯を突き立てた&br; 
---吸血鬼はその名の通り、生物の血を吸う 血に溶けた魔力や活力と供に吸い上げる&br;当然、血を失った哀れなひがいしゃは死ぬか、場合によっては新たな吸血鬼となる&br;吸血鬼はみな恐ろしい身体能力と魔力を持つ 動物に化けるのはもちろん、鋼をも引き裂き、体を霧と変える&br;吸血鬼の特別製の歯はズルズルと音を立ててメイヘムの血を吸い上げた…しかし、苦悶の叫びを上げたのは吸血鬼だった&br;「がっ、ぐあああっ!?なんだっなんだお前の血ぃ!? ぎゃあああああっ!!」 吸血鬼は男から体を離した いや、ずり落ちた&br;男を羽交い締めにしていた腕が切り落とされ、路地に転がった 男は、メイヘムは凶悪な唸りを上げる丸ノコをクロスさせ振り替える&br;「水銀だよ、注射しているんだ」メイヘムは暗く、濁った視線を吸血鬼に投げ掛ける その姿に吸血鬼さえも恐怖し後ずさる&br;「死ね」「吸血鬼は全部、死ね」この日、二度目の悲鳴は豪雨にかき消された
---''Vampillia・了''
#endregion
** サカバガカジダ[#m4d41762]
#region(第二話)
-[[''Zyklon''>つべ:jEioLZeSXrM]] 
--この街にいくつもある酒場の一つ「ハミングフロッグ」は一人の女将と用心棒兼任の男の二人で切り盛りされている&br;ぱっとしない店だが店主であるミネバの妖しい魅力と安い料金で一定の人気がある&br;その酒場の古風な木製のドアを開けて、明らかにチンピラといった風情の男が四人、入ってくる&br;男達は武装しており、威嚇するかのように店内を見渡した&br; 
---店の中には客はまばらで 数人の老人がテーブルに座って飲んでいる カウンターにはコートを着込んだ、妙に体格の良い男が座っているだけ&br;「へっ」誰も視線を合わせようともしないのを見て取ると、男達は優越感に浸る それはつまり、自分達を恐れているのだ 俺たち、「Zyklon」を&br;「いらっしゃい、ええと、四人? じゃ、そこのテーブルを使って」ウイスキーの瓶を手に、店主のミネバが顎で男達をいなす&br;わざとらしく大きく開かれた胸は自信のほどを表すように豊かに、一歩ごとに上下にゆれる&br;もちろん、チンピラ達はそれに反応しないわけがない「&br;へへ、へへへっ」銀髪を逆立てた男が胸を覗き込みながらいやらしく笑う 「それじゃぁ楽しませてもらうぜ」&br;男達はどかりとテーブルの椅子に腰掛ける 強い酒を注文する度にミネバへのセクシャルな悪戯は度を外していく&br;しかし確実にアルコールと飲み代は蓄積されいくのだった&br; 
---「おぅい、そこのでかいのっ」酒気を口から吐き出しながら、四人組の一人 黒いレザージャケットの男が&br;カウンターに一人で飲んでいた客に声をかける しかし男は無反応だ ジャケットの男が舌打ちする&br;「何をシカトしてやがる ビビってんのかっ!?あー? 知ってるかてめぇ、この街にゃあ吸血鬼が居るんだぜ!!しかも二人以上は確実だ!」&br;「そして!」今度は銀髪の男、客もまばらな酒場の中で高らかに声を響かせる「俺達が吸血鬼ハンター、Zyklonよ!」男は銀のナイフをちらつかせる&br; 
---Zyklonは数ある吸血鬼ハンタークランの中でも、一般にも浸透している最も巨大なクランだ&br;構成員は制式な者だけで数万、さらに経理や雑務、見習いなどの非ハンター構成員を含めればさらに何倍にもなる&br;いくつも支部があり地域によっては警察に成り代わる程の影響力がある 人気の秘密はとにかく、簡単にハンター免許が得られる事&br;ある程度の金を納め、簡単な試験にパスし、2年ほど実地を行えば晴れて免許所得となる&br;通常の条件で免許を所得するよりも遥かに簡単なのだ だが、巨大組織にありがちに末端まではモラルが届いていない&br;この四人組のようなマフィア紛いのチンピラも多い だが制式なZyklonの構成員と事を構えるのはやっかいだ&br;だから警察すらも事実上、野放しにしているのである&br; 
---「ちょっと、商売の邪魔はやめて、お酒は楽しく飲みなさいよ」ミネバがたしなめる&br;歳の頃は30半ばだろうか、場末の酒場を営んでいればこんな事は茶飯事だ&br;四人組は悪態をつきつつ、さらに酒を飲み続け……やがて深いイビキをかき始めた&br; &br;''†††††††††††††††††††''
---真夜中 酒場の周囲は暗闇に包まれ、いつしか酒場には眠りこける男達だけが残された&br;ギシリギシリ 四人組の一人、銀髪の男は妙な音に目を覚ました 木材が軋むような音だ&br;血液を駆け回るアセトアルデヒドの不快感が男の反応を鈍らせていた&br;鉛のような瞼をこすり、こじ開けるとそこに……「な、何をしてやがるっ!?」&br;すぐ側の床の上で女が座り込んでいる、しかも裸だ いや、女は跨がってた 四人組の一人の体にだ&br;だがその男は大の字を書いたまま、ビクリともせず、声をあげることもなかった 
---「お、おいっイヴァンっ!」男は傍らの仲間に声をかける しかし肩をゆすると音を立ててその体が崩れ落ち、男は悲鳴をあげた&br;「おい、アーノルド!」男は正面の仲間に声をかける しかし肩をゆすると音を立ててその体が崩れ落ち、男は悲鳴をあげた&br;慌てふためき覚束ない足で男は椅子を離れ、懐から拳銃を取り出す 吸血鬼用のシルバーチップ入りの弾丸を装填していた&br;「離れろっ化け物っ!!」しかし男が引き金を引くよりも早く、裸の女は飛び掛かり 男の喉を異常に伸びた爪で貫いていた&br;噴水よろしく吹き出した血を顔に浴び、舌なめずりした女…それはあの女店主だった&br;艶かしく、青白く脈打つ裸体を隠そうともせずに、女はもう一人の男に近寄っていく&br;カウンター席に眠り込んだ男……メイヘムの元に&br; 
---凄惨な血化粧をした女の刀のごとき爪が暗闇の酒場に煌めく&br;眠る男の首目掛けて突きかかったその時だった…'''ヴィイイイイイイイイイイイイ''&br;突如男の体が翻り、丸ノコが唸りをあげて振り回される しかし女は素早く真後ろに飛び退きこれを回避&br;首の皮を一枚咲いた程度だ 吸血鬼にとってはかすり傷ですらない「ホホホホッ、つれないわねぇ…ほら、あたしとファックしようよ?」&br;女は子供をあやすかの様な口調でおどけてみせる すでに臨戦態勢のメイヘムの足下に鎖が落ちた&br;「生憎だが興味はない 服を着ろ」(メイヘムの口調は感情を感じさせない 機械的に丸ノコを構え、ゆっくりと近寄っていく)&br;「おや、ベイブだったかい? それじゃあ一から教えてあげるわ」女が艶かしく腰を振り、胸を突き出す&br;だがそれにかまわず、メイヘムが丸ノコを突き出す、だが女は背を反らして回避&br;逆にバック転を利用して長い足でメイヘムの肘を蹴りあげる だが丸太のように屈強なメイヘムの腕はこれを簡単に受け止めた&br;メイヘムは片手で手近なテーブルを持ち上げ、ミネバの顔目掛けて投げつける&br;ミネバは楽々これを受け止めて直撃を避ける だがこれは罠だった&br;ミネバの顔の前で木製のテーブルが木片を撒き散らし、貫通した丸ノコの刃がせまる&br; 
---「くぅあぁっ!」ミネバが悲鳴を上げながら断罪の刃から顔を背ける&br;すんでの所で致命傷を回避!しかし肩口に刃が食い込み血飛沫が上がる 苦痛に絶叫しながら女は後退&br;見事なバック転を連続で決めて態勢を立て直そうとする しかしメイヘムは当然、この機会を逃がさない&br;右手にした丸ノコを女の着地転目掛けて投擲、たがミネバはまたも恐るべき反射神経で体をくの字に折り曲げ、丸ノコは背後の壁に突き刺さった&br; 
---(女は勝ち誇った顔を上げる すでにお前の手の内は判ったとでも言いたそうだ&br;しかし喜ぶには早すぎる メイヘムはまだもう1つ丸ノコを手にしている さらに、投げつけ、壁に突き刺さった丸ノコに変化があった&br;突然、伸びた鎖がピンとはりつめる 丸ノコに付けられた巻き取り装置が作動したのだ!&br;背後で起きる変化を察した女の顔に緊張が走った そのタイミングでメイヘムは左手の丸ノコを投げつけ、さらに右手の丸ノコを引き戻す!&br;丸ノコの挟み撃ちだっ「ぎゃああああっ!!」暗闇の酒場に火の粉と血が再び吹き上がる&br;しかし女はまだ死んでは居なかった、咄嗟に真上に飛び上がり致命的なダメージから逃れた&br;だがその傷は深く、吸血鬼でなければ即死だっただろう たが、放っておけばすぐに回復してしまう&br;メイヘムは肩で息を切らす女に無言で歩みよる…「かはっ……ぐぅ…まだ…まだよっ…ウィリアム!ウィリアム!私を助けなさい!」&br;''「ぐおおおおっ!!」''絶叫と供に酒場の奥のドアが吹き飛ぶ そこから現れたのは巨大なシルエット&br;8フィート以上はあろうかと言う巨大な吸血鬼だった&br; 
---背後から現れた新たな敵に、振り向きざまの丸ノコ投擲で挨拶する 何キロもある鋼鉄製の丸ノコが、ボールのごとく飛び掛る&br;しかし、ウィリアムと呼ばれた巨体はこれを悠々とかわし、あろう事かその鎖を掴み取る&br;メイヘムは舌打ちしてつかまれた丸ノコを奪い返しにかかる・・・しかし 振り回されたのメイヘムの方だった 驚くべき怪力で巨体はメイヘムの体を放り投げる&br;丸ノコの鎖はメイヘムの手首に巻きつけられている、すぐには外せない メイヘムは舌を巻きつつも体を起こし、もう片手に残る丸ノコを投擲する&br;2アウト!巨大吸血鬼はこれも回避し鎖を掴み取る そして二つの鎖を両手に束ね、力を籠めた&br;腕の血管がはち切れそうなほど盛り上がり、バキバキと音を立てて鎖が引き千切れるっ!&br;メイヘムは唖然とした顔でそれを眺めた・・・いや、そんな場合ではない&br;懐から白い錠剤を取り出し、飲み込むと、鎖のついたままの腕を顔の前で構える 実践空手の構えだ&br; 
---巨体の吸血鬼は不気味な笑みを顔に張り付かせ、巨大な蛇を思わせる腕をメイヘムに向けて降りぬく&br;素早く体を沈めてかいくぐったメイヘムは半歩、前に踏み込むと鳩尾、わき腹、そして顎へと続けざまに打撃を放つ&br;どれほどのパワーがあろうと当らなければ意味がない 呆れるほどの怪力の相手、逆にこちらは手数で勝負だ&br;吸血鬼は涎を散らしながらよろめくがすぐに体制を建て直し、猛烈なパンチを繰り出す メイヘムはこれを外側に向かって受け流す事で相手の体を開かせる&br;そこへさらに鳩尾への正拳 怯んだ隙をつき、さらにハイキックを顔面に叩き込む&br;樹木すらをもへし折る猛烈な一撃! だがそれでも相手は倒れない、口元から血の泡を吹きつつもつかみ掛かる&br;メイヘムは自分の腕を頭上に、雨だれのように弾き 再び渾身の拳を顔面に撃ちこんだ 自らの上体が前に崩れるほどの一撃!これで倒れない者など・・・&br;居た 体を大きくのけぞらし、苦悶の声を上げてはいるが吸血鬼は倒れなかった そして三度、パンチを繰り出す&br;体勢が崩れ、しかも連打に疲労していたメイヘムはかわす事ができず、致命的一撃を受けて数メートルも飛ばされた&br; 
---鈍い音を立てて木張りの床にメイヘムの巨体が叩きつけられる 衝撃で床材がいくつもへし折れるほどだ&br;脳が揺さぶられ意識が遠のくが、頭をふりつつなんとか立ち上がる 受けた一撃のダメージは大きい、常人なら死んでいただろう&br;起き上がった所に、今度は腹に前蹴りを受ける 最初のダメージで体が言うことをきかないのだ&br;またも後方に飛ばされる巨体、まるでピンボールだ 情けなく這いつくばり、立ち上がろうとする&br;あまり苦痛を感じていないのは麻薬のせいだ 口から血をしたたらせつつ、ある目標に向かって這い続ける&br;手を伸ばした先には鎖を千切られた丸ノコ 必死にこれを掴み取り、吸血鬼に向ける!&br;しかし、先手をとったのはウィリアムの方だった 丸ノコに構わず両手でメイヘムを掴み上げるとバーカウンターに向けて軽々と放り投げた&br; 
---メイヘムは丸ノコを掴んだまま、カウンターでバウンドして半回転 カウンターの中にまで突っ込んだ&br;吸血鬼が首尾を確かめるべくゆっくりと歩を進める 最早完全に勝機は掴んだ 得意の丸ノコは当たらず、腕力も空手も捩じ伏せられたのだ&br;吸血鬼がカウンターを除きこもうとした時、丸ノコが唸る音が響いた 不意討ちを警戒した吸血鬼は顔を引っ込める&br;だが丸ノコの狙いは吸血鬼ではなく、カウンターのすぐ後ろの棚の足&br;様々な酒瓶の積まれた棚が吸血鬼の頭に崩れ落ち、砕けた瓶があちこちを跳ね回る 吸血鬼は怒りの声をあげて棚を粉砕する ダメージは殆ど無い!&br;その間に起き上がったメイヘムは火のついたジッポライターを手にしていた ハットを深くかぶり直し、揺らめく炎の向こうから吸血鬼を睨む&br;巨大な吸血鬼は見た目の通り、頭の巡りは遅いようだがようやく危機に気付いたようだ そう、自分が強いアルコールにまみれている事を&br;逃れようと体を引く吸血鬼の胸元に投げつけられたライターが着火する&br;吸血鬼の体は即座に燃え上がり、ぐるぐると苦痛のダンスを踊る&br; 
---狂おしい悲鳴を響かせる吸血鬼を尻目に、カウンターから抜け出したメイヘムは丸ノコを構えて店内を進む&br;もう一人、瀕死のはずの吸血鬼の姿が無い… そこに突然、真横から飛び掛かる影!&br;メイヘムは倒れ込み、丸ノコが投げ出される、周りには事切れた四人組の死体 ウィリアムとの戦いで体はボロボロだった&br;丸ノコを掴み上げようとしたその手を女の足が踏みつける!うめき声を上げ、見上げればそこに女吸血鬼の恐るべき形相があった&br;吸血鬼は強力な回復力を持つ 二人が死闘を繰り広げている間に体力を回復させていたのだ&br;「勝負あったわね、ハンター!このクソ野郎!お前の首を切り裂いて血を啜ってやるわっ!!」爪を振り上げる女吸血鬼!だがメイヘムはまだ諦めては居なかった&br;「ああ、お前の負けだっ!」「なにっ!?」踏みつけられていない方のメイヘムの手には、四人組が着けていた銀のナイフが握られていた&br;どうやら四人は一応は本物のハンターだったようだ 吸血鬼は神聖な力を持つ銀に弱い&br;足にそれを突き立てられた女は絶叫しながら飛び退いた 渾身の力を振り絞り、丸ノコに手をかけて男は起き上がる&br;男の振るう丸ノコが女吸血鬼の首を一撃で撥ね飛ばした&br; 
---サイレンが酒場の周囲を取り囲み、銃を構えた警官が突入した時にはすで全てが終わっていた&br;酒場の中には5つの死体と、巨大な燃えカスがひとつくすぶっている 起きて立っているのは一人だけだ&br;「よーし、そのまま動くなっ、手を挙げろ!」スーツの警官が叫ぶ 意外にも男が素直に従った事に若い警官は安堵した&br;「俺はハンターだ 届け出もしてある、免許書がジャケットの内側に入ってる 確認しろ」&br;手を挙げたままの男を5人が取り囲み、スーツの警官がジャケットを探る 「…ふんっ、どうやら本物だ…で、どいつが吸血鬼だったんだ?」&br;「この店の店主の女と男だ…男はそこの黒焦げだ そっちの四人は殺された」&br;「なんてこった、安くて良い店だったのに…」銃を下ろしてスーツの男が悪態をつく その真横に居た若い警官が驚愕に震えているのに気付いた&br;「おい、どうしたリント、顔色が悪いぞ?まったく、だらしのな…」リントと呼ばれた若い警官が油汗を流しがらスーツの男を遮る&br;「ヤ、ヤベェよ俺、この女と…この女とやっちまった…そ、それからずっと体の具合が……」&br;男の顔は土気色になり、その目が妙な輝きを始めた 吸血症の最初の症状だ&br; 
---「何時だ!?」メイヘムが警官に詰め寄る 「み、三日前・・・」「くそっ!」そうこうしている間にも男の容態は見る間に悪化していく&br;異常に伸びた爪で自らの胸元を掻き毟り、制服を引き千切るっ 尋常でありえない腕力だ 周囲の警官たちはあまりの事に混乱するばかりだった&br;そこに、女吸血鬼の足に刺さったままのナイフを引き抜いたメイヘムがもがく男の肩口に刃を突き刺した!&br;「おいっ何をしやがるっ!」「てめぇ殺してやるっ!」警官達が一斉に銃をメイヘムに向ける!&br;「待てっ落ち着けっ!やめるんだ!」それを制したのはスーツの男 メイヘムと警官達の間に体を割り込ませる&br;「あれは銀のナイフだっ 銀で血を清めれば吸血鬼化の進行を遅らせられるっ!」スーツの警官が事態を把握できていない他の警官達に説明する&br;メイヘムは暴れまわる若い警官を巨体で押さえつけていた「何をしているっ!すぐに治癒師を呼べっ!間に合わなくなるぞっ!!」&br;やっとの事で恐慌状態を抜け出した警官達があたりを駆け回りだした スーツの男がメイヘムに加勢する&br;「おいっ あんた、名は?」 「免許証にあっただろう」「ジョン・スミスが名前の訳がないだろう?」「いや・・・本名だ」男はハットを深く被りなおした
---''Zyklon・了''
#endregion
** メイヘムノデバンナイ[#a985f1c2]
#region(第三話)
-[[''Dark Funeral''>つべ:OYYZnLGYAKs]]
--メイヘムの元に、一人の若い魔術師が飛び込んできたのは真夜中の事だった&br;「お願い致しますハンター様!すぐに吸血鬼を退治してくださいっ!すぐそばの町にお願い致します!」&br;魔術師は蒼白で酷く呼吸が早い 黒いハットの男は言う「吸血鬼は何人だ?」「はい、二人……」
---''†††††††††††††††††††''
---私がこの辺鄙なリゾート地の魔術大学に入学してもう2年ほどになる 私は一生涯を魔術の研鑽に捧げようと誓った&br;だけど、ああ、サティラ…サティラよ 私はこの名を何度呟いたのだろうか 砂漠の真ん中に放り出されたようなこの渇きを誰がどうして癒せようか&br;あまり裕福な家庭には産まれなかったが、私は熱意を買われて修学金をもらい、この大学へと入学する事ができた&br;都会の大学に通うほどの余裕は無かったのだ 貴族のリゾート地として栄えるこの町では大学生というだけでステータスになる&br;講師達は私を、魔術の物理的利便性や化学的側面だけでなく、思想的側面まで理解する優秀な生徒と評してくれていた&br; 
---私はただの学生で終わるつもりは無かった いつかはキラ星がごとく栄光に満ちた賢者の一人として、人々を導きたい そう思っていた&br;私の指導をしていた老賢者、ディム・ボルグルに言わせれば「欲は心を曇らせる」とたしなめられただろう&br;その賢者ボルグルが亡くなった 老衰だった 身寄りの無い彼のために私は彼の遺品の整理を申し出た&br;恩師のためにせめてもの恩返しをと切なる思いだった&br;それは恐ろしく単調な作業で、けれども真面目に私は取り組んだ そしてある時、黒い石の嵌め込まれた奇妙な円盤を遺品の中から発見した&br;円盤にはドクロが意匠されており、不気味なオーラを放っていた これは報告せねばと、第6感が告げていた&br;私はそれを付呪魔術の講師の元に運んだ 講師は円盤を掴むなり私に向かって放り返した&br;「汚らわしい!!」普段は温厚な講師によく通るバリトンで言われて私は竦み上がった&br;「そんなものはすぐに廃棄しろ、いや、焼いてしまいなさい」&br; 
---私はその反応にむしろ好奇心を持った 思えばすでに私はあの円盤の魔力にとりつかれいたのかもしれない&br;とにかく、私はボルグルの部屋に戻るとこの円盤の調査を始めた&br;「なるほど……そういう事か」いくつかの文献とメモや走り書きを解読するに、どうやらこれは死霊術士の道具だ&br;死霊術…高潔で知られた恩師が何故このような邪悪な研究を行っていたのか、私はあまりの事に狼狽した&br;どうやらボルグルは随分前に若くして亡くなった娘を再び呼び戻そうとしていたらしい&br;なぜだか私はその呪われた円盤を捨てる事ができずにいた&br;そしてそこに舞踏会の招待状が届いたのは、やはり何か巨大な魔力を感じさせずにはいられなかった&br; &br; 
---あの日以来、私の世界はすっかり変わってしまった&br;ああ、サティラよ なぜ私は貴女と出会ってしまったのだ 誰があの邪悪な円盤を私と引き寄せたのか&br; &br;
---舞踏会 あまりに古風なそのパーティーを執り行ったのは二週間前に「戻って」きたばかりという貴族だった&br;神聖なる祝日の祭典に神秘性を与えるために魔術師が必要だったのだろう ただそれだけの理由で私はまぬかれたのだ&br;気品ある荘厳な邸宅にふさわしく、気品ある人々が居並び、華やかにパーティーは開始された 私は法衣を身に、厳かに舞踏会へ足を踏みいれる&br;降り注ぐ盛大な喝采と煌びやかな上流階級のセレブリティ達の完璧な立ち居振る舞いに それだけで陶酔感を感じたのを覚えている&br; 
---パーティーの主役は若い未婚の女主人で、代々吸血鬼を狩りだすハンターの家系だという&br;最初の喝采を浴びたあとは、私はまるで相手にされなかった 当然の事だ なにせ私はディッシュの付け合せに過ぎないのだ&br;主賓は輝ける女主人と貴族達だ 私はまるで石ころか何かのように誰からも無視された&br;居心地の悪さを感じ、いつしか追いやられるように広大な部屋の隅に腰掛けていた所に 彼女が私の隣に座ったのだった&br; 
---「私はダメな女主人ね、本当ならパーティーの真ん中にいなくちゃいけないのに」女主人マーシャはそう切り出した&br;二十歳そこそこの、若く、しなやかな体付きをした可憐な女性だった 私は背中に緊張が走るのを感じていた&br;「で、では貴女が?」立ち上がりかけた私をマーシャが優しく制止する「いいのよそのままで、どうもあの方々とはお話が合わなくて…ま、当然よね こんな田舎者の小娘に」&br;マーシャは飾り気のない気さくな人物だった 貴族の金持ちと言えば上流人で、私のような人間を卑しい物だと考えているのではないか&br;内心そんなコンプレックスを抱いてた私には目から鱗だった&br;ステージでは余興としてまぬかれた落ち目のラップミュージシャンが忙しい音楽をかけ始めている&br;「少し別の空気を吸いにいかない?同い歳くらいの人がいてくれて助かったわ」やかましく気だるいヒップホップ音楽から逃げるように、私達はパーティーを離れた&br;一つ扉を隔て、階段を下りただけで驚くほど静かだった パーティーホールは完全防音なのだそうだ&br;警備員が何事かと近寄ってきたが、マーシャが手を振るとすぐに下がっていった「この部屋が私のお気に入りなのよ」&br;分厚い一枚木で作られた厳めしい古風な扉 この扉一枚でどれだけかかるのだろうか… あまり考えない方がよさそうだ&br;ああ、そして私達は出会ってしまったのだ&br;''†††††††††††††††††††''
---そこはパーティーに使われた部屋と比べればはるかにこじんまりした部屋だった&br;しかし、太古の英霊の眠る廟がごとく、冷たく神秘的な空気が流れ、奇妙な寒気に私は身震いした&br;「あれが私の母よ、あそこの絵」マーシャが指差す先に、数メートル四方の巨大な絵画があった&br;その絵を見た瞬間、私の体に電気の様なものが走った 強いインスピレーションは落雷のような感覚だと聞いた事がある&br;まさに私の体に巨大な啓示の下りたのだと感じた そこには醜く、黒い肌をした女吸血鬼と激しく争う&br;美しい女性の姿が描かれていた その姿は凛とした気品と何者にも屈せぬ強くしなやかな野生をあわせ持っている&br;あまりの美しさに私は呼吸も忘れ、話しかけるマーシャの事も忘れてしまった&br; 
---私の感受性はこの時、全身全霊で、この絵画を 美しい女性を我が内の中に引き込もうとしていた あまりの感動に全身が粟立つのを感じた&br;いたいどれほどそうしていたのだろうか・・・すぐとなりでまだ話続けるマーシャの声がずっと遠い昔の出来事をフィルムで流しているかの様に感じられた&br;「おおっこれはサティラ!」 背後からよく通るバリトンの声が響いた 背後に居たのは私と供に大学から参加していた講師の一人、賢者グリシュナックだった&br;賢者はいつの間にか姿を消してしまった私と女主人を探しにここまで来ていたようだった&br;「ご存知なのですか!?」「ええ、私がこの大学に赴任してきてすぐの頃にお会いした事があります」&br;「まだ貴女はその力強いお腹の中に居た 実によく描けている・・・ こんな事を言うのは失礼かもしれませんが、女神のようなお方だった」&br;「私にとっても女神よ ただの母親ってだけじゃない、憧れの存在よ」「強く、勇猛なお方でした 人々が恐れる吸血鬼をいくつも屠った」&br;「ええ・・・そして最後にはその吸血鬼を道づれに・・・」&br;悲しそうに目をふせる彼女に、ようやく私は我に帰った そんな私を賢者は笑った「どうした、まるで白昼夢でも見ているような顔だ」&br;まさに私は白昼夢に捕らわれていた 美しい女神の夢に、私は捕らわれたのだ&br; 
---サティラ、サティラ、サティラ その神秘的な名を、大学の授業中にもずっと繰り返していた 流れる美しいあの金色の髪 豊かで引き締まった肢体&br;そのどれもが、私の周りの女性には決して無いものだった これではまるで狂気の沙汰だ 絵画の女性に・・・&br;しかしその思いは強くなっていくばかりだった、思えば思うほど、焦がれるほどに&br;私は絵画の中のサティラに恋をしてしまった いや、それはより深く、抗い難いものだった&br;私自身、混乱していた まさかこんな事が起こりえるだなんてっ! ただ確信していたのは、またあの絵画を、サティラを見に行かなくてはならないという事だった&br;それから私は何度も通いつめた 何度も何度も その度に私はマーシャと数時間の間、とりとめの無い話をして、紅茶を飲み、散歩して&br;そしてサティラに会いに行くのだった 私はマーシャが他の貴族達とは違い、自分を友人として扱ってくれる事に感謝と深い罪悪感を覚えていた&br;私の穢れた妄想を知ったら、彼女はどんな顔をするだろうか それよりも、二度とサティラに会うことが出来ないだろうと思うと、私は・・・私は・・・&br; 
---私は自分が狂気に侵食され始めている事を自覚していた 日に日に思いは強くなり、学業はまったく捗らなかった&br;その頃には講師達も私の異変に気づき、あれこれとアドバイスや詮索をされた そんな日々が続いたとき、私はふと思い出した&br;賢者ボルグルの円盤のことを 私は何を思ったか、円盤を胸に押し当て、つぶやいた「サティラ」&br;その時、円盤は不気味な輝きを放ち、冷たい異様な空気が流れ始め そしてそれはすぐに消えてしまったのだった&br;私は確信した そう、あの絵画の中からサティラを連れ出す方法が一つだけあるという事を そしてそのための術が、今私の胸のなかにあるのだと&br;その日から、私は取り付かれたように黒魔術の文献を調べた 通常の手段では死霊術を調べることはできない&br;術的に近い部分のある召喚術や魔道具を使うための付呪の授業を私は優先的に入れることにした その一ヶ月間、私はほとんど食事も睡眠もとらなかった&br;私はすでに狂気の向こうへ行ってしまっていたのかもしれない&br; 
---それからの私は常に大量の書物を積み上げ 賢者とその助手達と毎日を過ごした そして疲れ果てた時にはまたサティラに会いに行くのだ&br;彼女の姿を目にすると疲労も忸怩たる悩みも、すべてが朝霜のように消えていった 私は自分を鼓舞し、叱咤し、また研究へとうちこむのだった&br;あの円盤を正しく扱う方法を 自身の魔力と知識が増えていくのにつれて、円盤の反応もまた強くなっていった&br;円盤を胸に抱き、サティラの名を唱える度 部屋は急激に冷え、そして必ず猛烈な腐敗臭があたりを満たす もうすこし もうすこしで術は完成する そのはずだった&br;&br;'''''熱に浮かされるように 私は強く、愛する人の名を叫んだ'''''&br;&br;その時、猛烈な稲妻が起こり、風が大学の窓を打ちつけた 暴風雨が街を襲い、窓ガラスが破裂し、街はあちこちで停電がおこった&br;そして気がつくと、足元にはひび割れ、歪んでしまった円盤が見つかった ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ&br;&br; すべてはむだにおわったのだ&br; 
---私は笑った 笑っていた なぜだか笑いが溢れてきた そして涙も 笑いながら嗚咽する私の姿は完全に狂気の沙汰であっただろう&br;私は自分が狂っていることを自覚していた そう、繰り返しになるが私は自覚していたのだ 故に本当の狂人ではないと言える&br;本当に狂ってしまえていれば、どれほど楽であったか&br;私は荒れ狂う空の下、大学を飛び出した 猛烈な風と雨が私の体を弄び、たたきつけた ずぶぬれの、思い体をひきずってよろよろと私は歩いた!&br;会わなくてはいけない サティラに会わなくてはいけない そして私はサティラを永遠の物にするのだ!&br;私はサティラの元へ急いだ こぶしを振り上げ、門を叩く私に、不安そうに哀れなマーシャは声をかける&br;罪悪感に切り裂かれそうな思いだった けれどもサティラへの思いはどうにもとめられずに居た 私はいつのまにか叫んでいた&br;「あの絵を!今すぐ絵を見せてくれ!ああっマーシャ!お願いだ!」&br; 
---「いったいどうしたって言うのっ!? こんな暴風の日に・・・ あなた、疲れているんじゃないの こんなにびしょびしょになって・・・」彼女は哀れむような目で私を見ていた&br;ああ、神様 扉は開き、私はまぬかれた 衣服は濡れていたがそんな事はどうでもいい&br;今はサティラに会いたい、会いたい、会いたい、会いたい、会いたい、会いたい会いたい!&br;そんな私の様子に異変を感じ取ったのだろうか マーシャはあの部屋の扉を前に先回りし、私を見据える「待って! いったい何なの?どうにかしてしまったの!?」&br;マーシャの強い眼光は悲しみと哀れみが混じりあった、凛としたものだった ああ、しかしそれでもサティラには遠く及びはしない 私はすべてを打ち明けるしかなかった&br;「マーシャ、私は・・・私はあの絵画を、君の母を愛しているっ 本当だっ!本気なんだっ! あのパーティーの夜、彼女の姿を見てから私の心はすっかり奪われてしまった&br;あの日からっ! 私は彼女を生き返らせるための魔術をずっと学んでいたんだ・・・ でもっでもっ!でもすべては失敗に終わった・・・ どうしてかわからないっ!&br;死霊術に一番大切なのは深い愛であるはずなのにっ! どうして失敗してしまったのだっ やり方は完璧だったはずだっ 私の魔力もっ!十分にあったはずだっ!」&br; 
---私は突然、顔面に衝撃を覚えた 瞳に涙を溢れさせたマーシャが私の頬を打ったのだ「出て行って! もう二度とここへ来ないで!!」&br;彼女は激昂し、扉をしめてしまった 「ああ、マーシャ・・・申し訳ない 私はなんという狂ったことをしてしまったのだ・・・だけど彼女への・・・サティラへの思いは何にも変えられないっ!」&br;しまる扉にむかって私はほとんど絶叫していた 「サティラですって?」扉の向こうから彼女の声がした 「そうだっサティラだよっ 君の母親のっあの麗しの君をっ!」&br;「サティラはあの吸血鬼の名前よ 母さんの名前じゃないわ」 また扉の向こうから声がした なんという事だ あの時、グリシュナックは吸血鬼の名を呼んでいたのか?&br;私は世界が音を立てて崩れていくのを感じた「イヤァァァー!!!」そこにマーシャの悲鳴が飛び込んできた&br;夢中で扉を開けるとそこに、立ちすくむマーシャと、その背後の黒い影が見えた 絵画は、あの名も知らぬ女神の絵は おお、変わらずにそこにあった&br;しかし、女神の滅ぼそうとしていたあの吸血鬼の姿が絵画からは消えていた 目の前の闇が音とならない声を上げる&br;ああ、サティラ サティラと私は口づけを交わした&br; 
---メイヘムの元に、一人の若い魔術師が飛び込んできたのは真夜中の事だった &br;「お願い致しますハンター様!すぐに吸血鬼を退治してくださいっ!すぐそばの町へお願い致します!」 &br;魔術師は蒼白で酷く呼吸が早い 黒いハットの男は言う「吸血鬼は何人だ?」「はい、二人ですっ……」 &br;私は目を閉じて服を脱いだ 私の首筋には深い歯型がついている それを見た吸血鬼ハンターは、機械のエンジンをスタートさせた&br;''ヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィ'' 円盤型のノコギリが回転を始める 男は確実に私の首を跳ね飛ばし、この苦痛と乾きを終わらせてくれるだろう&br;これで私の物語は今現在まで追いついた 願わくばあの怪物を、サティラを彼が永遠に葬ってくれる事を祈る 
---''Dark Funeral 了''
#endregion
** ワレオカシクシタイ[#k2c1303e]
#region(幕間)
-[[''Interlude''>つべ:LLAKcS-BUMg]]
--人種、いや種族のるつぼであるゴールデンロア・シティ 大勢の冒険者がひしめきあう、この不思議な混沌の街の中にあっては&br;男の姿はさほど異様ではない 男は喫茶店のテーブルに腰掛け、猫人の店主からコーヒーを受け取り、ペコリと頭を下げた&br;男が探しているのは件の女吸血鬼、ジュネ  神経質そうにカップを指先で持ち上げ、褐色の液体を喉にながす&br;&br;吸血鬼は殺す・・・一人残らず殺す・・・ 男の目には暗い炎がともっていた 目を閉じる度、まぶたの裏側、断片的に投影されるあの記憶・・・・&br;金髪の美しい少女 教会の壇上にあがる牧師 銃声 血 廃墟の村 丸ノコ そして、首を切断された、あの少女・・・・&br;手にしていたカップが小刻みに震えているのに気づき、ゆっくりとカップをテーブルに置く&br;吸血鬼ハンターというタフな仕事をしている男には似つかわしくないそぶりだ&br;そう、この男の本等の姿はこうなのだ  道に転がった石ころを避けてあるく&br;本に決して折り目や手垢をつけないように指先でページをめくり 誰とも目をあわさぬようにうつむいて道の端を歩く&br;憎悪と憤怒の影の奥には繊細で内向的な、未熟な男の姿があった
---まだ日が高い 日の光に弱い者が多い吸血鬼が行動を起こすのは夜だ 吸血鬼とは闇の恐怖が具現化したような存在&br;それを狩るという事は、己もまた闇の中に入る込むという事 男は今度はコーヒーではなく、アルコールを注文した&br;暗闇は本能的な恐怖を人間に与える 夜間飛行を行う飛行士や夜間航行を行う船乗りが 恐怖に耐えかねるのと同様に、男は酒と麻薬に溺れていた&br;殺す・・・吸血鬼はすべて・・・・ 血液の中にエタノールの混じれば、ニューロンは逆に鮮明に働き出す&br;男は眼前に広がる巨大な敷地を、目標の吸血鬼が居るという養成校を&br;真っ暗な瞳で睨みつけているのだった
#endregion
** キャバァーン![#eb538fdd]
#region(第四話)
-''NINJA MAGIC''
--メイヘム・イン・ザ・ネオ・サイタマシティ-
---BGM:[[「NSレイディオ」よりNINJA MAGIC: The way of life>つべ:K5-bmJDlIsg]]&br;
---「オイラン」「ほとんど違法行為」「高飛車な」奇妙なネオンアートがケバケバしく街を覆う&br;ここは退廃と汚濁の街 ネオ・サイタマシティ 眠らないこの街では喧騒は子守唄だ&br;バックストリートでは「空手」「叩いて痛めつける」と毛筆書きされたノボリを背にした男が、白い空手胴着を着けて仁王立ちしていた&br;「ザッケンナコラー!」男は奇声をあげ、不運な二人組のサラリーマンを殴打していた 男は強引にこうした決闘を挑み&br;勝利の代償として、痛め付けた相手から金を奪うのだった もちろん、普通に考えて許される訳はない&br;だがここはサイタマシティだ 許されずとも裁かれるとは限らない 罰を受けるのは弱者だけなのだ&br; 
---サラリーマンの財布から一万円トークンを奪った空手男を人々は遠巻きに見ているか、足早に去るだけだった 同情や正義感などトラブルの元でしかない&br;そこに、不意に大きな影が、倒れ伏したサラリーマンの傍らにしゃがみこむ空手男を覆った&br;「スッゾコラー!ダッテメコラー!?」凶暴なだけが取り柄の空手男は即座に立ち上がり、接近者に威嚇の声を上げる そして息を飲み後ずさった&br;空手男が見たのは7フイートはあろうかという大男 深く被った帽子もコートも全て黒 まるで闇から浮かび上がるようだったからだ&br;大男は手を口にやり、何かの錠剤を含み、それをスキットルの中の酒で流し込んだ 剣呑な殺気が無言のまま警告を与えていた&br;しかし、空手男はあろうことかファイティングポーズを取る&br;「ナンコラーッ!わしゃ空手5段ぞオラァーッ!!」空手男が言い終わる前に、大男が両手の掌を伸ばし、頭上と顔の前とに構えを作る&br;空手型のひとつ、ナイハンチの構えだ その圧倒的偉容に空手男は失禁して腰を抜かす&br;「アイエエエエエ!!」奪ったトークンを撒き散らしながら男は這って逃げていく 彼の這い回りが最高速をマークした頃には&br;大男はさらに深いサイタマシティの裏へと歩みをすすめる&br;違法オイランセンターが軒を列ね、スクワッターが寝床を奪いあい、浮浪者が廃品を運ぶ混沌の中へ&br;&br;''†††††††††††††††††††''
---情報を集めたければ酒場にいけばいい 娼婦や酔っぱらいや浮浪者は街の事をなんでも話す&br;男は生身の娼婦が相手をするマイコクラブに居た 隣には体のラインをことさらに協調した着物に身を包むマイコの姿&br;偉容な風体の相手にもきっちりと会話を合わせ、酒を飲ませるのだ「ふぅん、じゃぁおにいさんは最近ここに来たんだ 変わってるわねー お仕事は?」「…探偵さ」&br;「マジ!?かっこいー! それでどんな事件を追ってるの!?」「殺人事件さ 最近、妙な事件を知らないか?」&br;危険な香りの男が好き とマイコの頭部のLEDボードが輝く 実際には男は一刻も早くここを離れたかった&br;女は苦手だった 「そーいえばー この間、変な話聞いたわねぇ」マイコはすっかり探偵助手気分だ「ツチノコストリートの方で何人か、血を抜かれて殺されてるとか・・・」&br;&br;''†††††††††††††††††††''
---「ちくしょうっ!またかよっ これで三人目だぞっ!」「デスネー」「これじゃぁまた女房にどやされちまうぜ」「デスネー」&br;二人組みの「スーツ組み」の警官がすれ違い、路地の向こうへ消えて行く&br;運び出されてしまう前に死体に近づけたのは幸運だった&br;現場に近づく奇妙な男に、現場検証中の警官が声をかけた「おいっ、ここは立ち入り禁止・・アイエエエエ!」&br;大男が一睨みすると縮み上がった警官は即座に失禁した そしてその鼻先に吸血鬼ハンター許可証を押し付けるように差し出す&br;「最近、血を抜かれた死体が見つかったそうだな 俺には死体を調査する権利がある」&br;「い、いやぁそれは、確かにそんな死体はあがってるんですが・・・ それが、今回のは・・・・」&br;警官が顔を向けた先にあった死体 だがそれは人間のものではなかった そこで失血死していたのはやせ細ったバイオブタだった&br;''†††††††††††††††††††''
---「アイエエエエ!?血!?ナンデ!?アイエエエエ!」カドクラはおき抜けに大声で叫んだ 彼は人気アンタイ・ブッダバンド「滅法」のリーダーだ&br;ブッダテンプルに自ら放火し、写真をとりそれを1stシングル「誕生日は仏滅」のジャケットに使った事で話題になった 彼は自らにおきた突然の異変に叫んだ&br;その手、その口もとにべったりと血がついていたのだ これには流石のカドクラも肝をつぶした 大慌てでシャワーを浴び、血をぬぐうと&br;心を静めるためにテレビをつける「・・・ここ最近、ツチノコストリート周辺で吸血事件が相次いでおり、すでに四人が・・・・」&br;「アイエエエエエ!?」ニュース番組から流れた報道にカドクラは再び声を上げた&br; 
---「オーマイアスラ!聖なるクソ!」カドクラは叫びながら古臭いブラウン管テレビのスイッチを切る 吸血鬼事件だって?冗談じゃないぜ&br;今まさに自分の口についていたものはなんだった?血じゃないか! いやまさか、そんな事がありえる訳がない 落ち着けカドクラ、落ち着くんだ・・・&br;「ピンポーン」突然ベルが鳴り、その音にビクリと体を震わせた 反射的に隠れようとしたが、意味のない事に気付き、忍び足でドアスコープを確認する&br;まさかマッポがもうここまで?いや、おかしい、そんな事があるわけがない!&br;果たして、ドアスコープの向こうにいたのは同じバンドメンバーのヨーコだった「ドーモ カドクラ=サン スタジオで打ち合わせの時間よ、早くしてよねっ」&br;赤く染めたロングヘアーをツインテールにしているのは密かに見ている人気オイランドロイド「ネコネコカワイイ」の影響だ&br;黒字に「ブッダは実際悪い」と書かれたシャツは豊満な胸に持ち上がり、青白い腹と臍が見えている 彼女流のアンタイファッションだ&br;「あ、ああスタジオか・・・そうだったな いま行くよ」「リーダーが遅刻するなんて珍しいわね、早くしたほうがいいよ ベーシストのキザワがまた文句を言ってたわ」&br;&br;''†††††††††††††††††††''
---アンタイ・ブッダ・ミュージシャンの聖地とも言えるライブハウス「ヨタモノ」でのワンマン・ライブは盛況のうちに終わった&br;酒瓶が飛び回り、火をつけられ、暴動が始まり そして毎度のごとく警察がやってきて面倒そうに事態を収拾する&br;スモトリ・バーで「滅法」のメンバー四人は今夜のライブの打ち上げを行っていた 「なぁカドクラ」座るなり口を開いたのは顔をコープス・ペイントしたままのキザワだった&br;「お前、今日のライブも、打ち合わせん時も全然気合入ってなかったな なんだってんだよお前」&br;「ァッコラァ?な訳ねぇだろてめぇ!俺はいつでもエクストリームだ!」コープス・ペイントをしたままのカドクラがほえる&br;だが実際カドクラは今朝起きた自身の異変が気になっていた バンドの人気はうなぎのぼり&br;ブラック・アンタイ・ブッダ・メタルシーンの先頭としてカドクラは圧倒的なカリスマを持っていた&br;「ナンコラー!? てめぇ、次またこんな気合入ってなかったらリーダー降ろすぞコラァー!」&br;コープス・ペイントをしたままの二人がつかみ合いを始める ベーシストのキザワはリーダーであるカドクラと事あるごとに諍いを起こしていた&br;「ちょっと、やめなよ二人ともっ」コープス・ペイントをしたままのヨーコが二人をなだめる&br;「生中四つとスシ・ピザ」コープスペイントをしたままのドラマーが注文をとる&br; 
---この日も四人は酔いつぶれ、一番家の近いキザワの家に雑魚寝する事となった 「より多くのキッズ達に俺の歌を届けたいんだ」メジャー路線に舵を切り始めたカドクラ&br;しかしキザワの気持ちはちがっていた 敬虔なアンタイ・ブッディストである彼にとって、大衆に交わるような事は決して許されなかったのだ&br;メンバーが寝静まる中、キザワは一人目を開ける そしてこっそりと冷蔵庫にしまってあるタッパーを開く それは血だった&br;固まった血を鍋で溶かし、寝入るカドクラの口元に塗りつける・・・ キザワは残酷な笑みを浮かべた&br;最近ほうぼうで起きている謎の吸血鬼事件 それをニュースで知ったキザワにひとつのアイディアが生まれた&br;こうすればカドクラはびびるか、あわよくば犯人として捕まることになる&br;カドクラがいなくなれば、バンドのリーダーは自分だ 何千人というキッズの尊敬を一身に集めることができる 醜く、矮小な欲望を、彼は抑えることができなかったのだ&br;しかし彼自身も吸血鬼事件のことは気になっていた なにせ事件が起きているのは彼らが活動拠点にしているここムコウミズ界隈ばかりなのだ&br;ゆっくりと、血の満たされた鍋をもってカドクラに近づくキザワ・・・しかし、その手を何者かがつかみあげた!「アイエエエエエ!?」&br; 
---「血・・・血のにぉい・・・」キザワの腕を掴み上げたのはヨーコだった コープス・ペイントをしたままの顔を持ち上げ、恐るべき腕力でキザワの腕をひねり上げる!&br;「グァー!!」 「な、なんだっ!?いったいどうしたんだ!?」騒ぎに起き上がったカドクラが異常な光景に目を剥いた&br;目の前でヨーコがキザワの首元を食いちぎろうとしていたのだ&br;「ブッダ!ナムアミダブツ!」思わず口をついて出たのは仏陀への祈りの言葉 やめさせようとヨーコに掴みかがるが、逆に片手で突き飛ばされてしまう
--''NINJA MAGIC ♯2''
---メイヘム・イン・ザ・ネオ・サイタマシティ-&br;&br;BGM♯2 [[NSレイディオより Mononofu - Give Me The 7 Defects And 8 Agonies>つべ:sI-0rRc9Kx4]]
---「アイエエエエ?!」カドクラは目の前の光景が信じられなかった ナンデ? 何故信頼するメンバーが、ヨーコがキザワをっ&br;辺りにはキザワの手からこぼれた鍋から血がしたたり、異様な匂いが立ちこめている ヨーコの目は暗闇の中でぎらぎらと光輝き、うまそうにキザワの血をすすっている&br;「や、やめろっヨーコ!キザワをキザワを離せぇっ!」再びカドクラはヨーコを突き飛ばそうと突進する だが一撃でカドクラは弾き飛ばされ、アパートの壁に叩きつけられてしまう!&br;「フヒヒヒヒ・・・・あとでたっぷり血をすってあげるからねぇ そこでまっていなよぉ」ヨーコが不気味に響く声で答えた&br;「カ、カドクラ・・・逃げろ・・・逃げろ・・・ すまないっカドクラ、俺はお前をリーダーから追い落とそうとした・・・ これはきっと天罰なんだ・・・早く、逃げろっ」&br;「なにを言ってるんだキザワ!俺とお前で世界を制するんだって、あの時誓っただろうキザワ!」&br;半狂乱で三度ヨーコに襲い掛かるカドクラ!「グアァー!!」その肩口をヨーコの爪が貫いたその時っ ''ヴィヴィヴィヴィヴィッヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィ''&br;けたたましい騒音と供にアパートのドアが切り裂かれ、一人の男がアパートに入ってきた&br;「吸血鬼殺すべし・・・」黒いハットに黒いコート 二つの丸ノコを構える巨大なシルエット その影の名はメイヘム!&br; 
---「ア、アイエエエエエ!?」叫び声を上げたのはカドクラだった その墓堀人めいたおぞましい姿を見ては無理もない&br;「離れろ、吸血鬼」メイヘムは小さく言うとその手の丸ノコを解き放つ うなりを上げる丸ノコ しかしそれは吸血の両手にがっちりと掴まれる&br;「イヒヒヒヒヒヒ!」キザワの血に濡れ、吸血鬼ヨーコは凄惨な笑みを浮かべる 丸ノコを軽々と投げ返し、メイヘムに向き直る&br;すでにメイヘムは吸血鬼の眼前に迫っていた 投げ返された丸ノコを掴み取り、その首めがけて突き出す&br;「GGGRRRRRRAAAAAHHH!!!」すんでの所で吸血鬼は丸ノコを止め、逆に猛烈なパンチをメイヘムの脇腹に見舞う&br; 
---少女の細腕は吸血鬼化によって恐るべきパワーを持ってメイヘムの巨体を跳ね飛ばした それだけではない、いつの間にかその口の周りが赤いメンポで覆われている&br;その姿はまさに忍者を彷彿とさせるものであった「アイエエエエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」恐慌状態のカドクラが狂おしく叫びまわる&br;身を起こそうとするメイヘムに、さらに身を躍らせて飛び掛る! だがメイヘムは冷静にその爪をかいくぐり、逆にその腕を脇で掴み、後方に投げ飛ばす&br;その先には窓 吸血鬼は窓ガラスを突き破り、アパートの外へと飛び出した「その男はもう助からん 別れを言うんだな」&br;メイヘムは冷たく言い放つと、錠剤を口に含み、自らも窓から外へと消えた&br; 
---助からない、そういわれたカドクラは狼狽した 無残に血を流し、倒れるキザワの体を抱え起こす 「おいっキザワ!キザワっ!!死ぬなぁキザワ!」&br;キザワはすでに真っ青な顔をしていた、体は小刻みに震えている 血を失いすぎたのだ&br;「か、カドクラ・・・すまねぇ お前の口に血を塗ったのは俺なんだ・・・ 吸血鬼事件があっただろう? それで・・」&br;「もうしゃべるなキザワっ! い、いま病院に連れて行くからなっキザワ!」カドクラはキザワを抱え上げようとする&br;だがキザワはそれを震える手で制止した「あいつの言うとおり・・・俺はもう持たない ・・・カドクラ、滅法を滅法を続けてくれ頼む」&br;それだけ言うと、キザワは静かに目を閉じる かざされていた手は血溜まりの床に落ちた「キザワァァァァ!!!畜生っ!畜生ぉぉぉっ!!!」&br;男の叫び声はスラムの路地裏にむなしく響く この街ではそんな悲劇など、日常のことなのだ&br; 
---暗闇の路地を火花が照らす コンクリート塀に溝を作りながら走る丸ノコが吸血鬼の片腕を弾き飛ばす&br;「グワー!」吸血鬼は切断された腕の傷跡を押さえてうめく しかし血はでない これが吸血鬼なのだ&br;「まだだっまだ終わらないよっ!」吸血鬼は残った手をメイヘムに向けてかざす するとメイヘムの体から赤い霧のようなものが現れ、その手に吸い込まれていくっ!&br;「!?」百戦錬磨の吸血鬼ハンターでさえもこの謎の光景に驚愕した そして体から力が抜けていく これはまずいっ、そう感じたメイヘムは即座に丸ノコを投擲&br;同時に吸血鬼に向けて駆け出した「ハハハハハッ!どうだい、私のドレイン=ジツは!驚いたかい!」吸血鬼が手をかざすのを止めれば赤い霧は止まる&br;「あの霧は俺の血か・・・!」「ほほほ、その通りよ」吸血鬼は飛び退きながらその手のひらの上の赤い塊を見せつける&br;「これがお前の血・・・フフフ、さぁ干からびるがいいっ吸血鬼ハンター!」距離をとり、再び吸血鬼はその手をかざす&br;再びメイヘムの体から赤い霧が流れ出し、吸血鬼の手に集まっていく&br;血液と共にメイヘムの体から力が抜けていく そしてついにその体が傾き、膝を突く「さぁ、もうすぐ致死量だよ!」「グワー!!」&br; 
---突如現れた赤黒い影 強烈な飛び蹴りが真横から吸血鬼に襲い掛かり、なんと一撃でその首を跳ね飛ばした&br;「サヨナラ!」断末魔の叫びを上げ、吹き飛ばされた首が爆発四散する 「忍」「殺」赤黒いニンジャ装束に不気味なメンポ まっすぐに立ち、男はすばやくオジギした&br;「ドーモ。ニンジャ・スレ1101す01。」1100010110101010100110」
---11010001000101110101010
---''NINJA MAGIC 了''
--''OUTRO''
---BGM:[[Blackmore's night Warriors of the Rising Sun - Benzai-ten>つべ:Z5OS61qz6wo]]
---インディーズ・ミュージシャン御用達のネット・ミュージックショップ「円盤の団結」に新しい曲が配信されるや、サーバーを破壊する勢いでダウンロードリクエストが殺到した&br;ベーシストとギタリストの相次ぐ事故死から復活したアンタイ・ブッディストバンド「滅法」の新曲だ&br;彼らの新曲「実質は極楽浄土」はそれまでの闇雲なだけの攻撃的サウンドとはいっぺんし、新たなコスモロジーを喚起させるようなスピリチュアルなサウンドであった&br;「反抗の先にある、次の世界を見つけたんだ」そうリーダーのカドクラは語る その顔はまるで悟りを開いたブッダのようだった&br;その後、リリースされたすべての楽曲のメンバークレジットのベーシストの欄には必ずこう記してあった&br;四弦電気三味線-キザワ-
#endregion
** ダンス・バズソー・クロニクル [#c3c1492a]
#region(第五話)
-[[''Mayhem''>つべ:gVIHL8KVfcY]]
---山間の名も無き小さな集落&br;その集落は森深い山の中にあり、狭い田畑と木材の伐採とが数少ない収入源であった&br;人口は僅かに100人に満たず、しかもそのほとんどは老人で 彼のような若い男は数える程しか居なかった&br;娯楽といえるような物はもちろん無く、稀に険しく危険な崖道を超えて街へと降りる程度だ&br;その男はこの集落で生まれ、早くに両親を亡くし、今は一人で植林と伐採とを行っていた&br;まだ少年の影を残す彼は、身体は立派だったが寡黙で、気が弱く、読書を愛し、孤独だった&br; 
---その集落に新たな住民が加わったのは数ヶ月前の事だった 集落の長の遠い親戚だと言う男とその娘&br;娘は若く美しい女性だった その親子は二人とも身体が弱く、昼間は外に出る事すらできないのだと言う&br;空気の悪い都市よりも、田舎にいる方がその病の治療には良いという事だそうだ 彼等親子は村の外れにひっそりと暮らしていた&br; 
---まだ日差しの弱々しく、朝靄の向こうに霞む程度の頃に すでに門を開けている教会に彼は誰より早く礼拝にいく&br;信心深い男の、日々の儀式であり日課でもあったが、最近それに変化が現れた&br;その大きな身体をなるべく小さくして、男は十字架の前で聖書を黙読する&br;しばらくして、男と椅子1つを挟んだ隣に女性が座る&br;少しくすんだ金色のストレートの長い髪 鮮やかな紅いシャツ 細くしなやかな手足は痛ましい程に白く 軽いアトピーがあった&br;その整った顔立ちも立ち居振舞いも服のセンスも およそこの過疎集落には似つかわしく無いものだ&br;男は聖書を読みながら、ちらりと娘の横顔を盗み見る アーモンド型の、貝殻のような瞼と長い睫毛&br;ほっそりとした頬を危うげに青白く、とてもきめ細かい肌をしている 少し高めの鼻筋は娘を実際の年齢以上の艶かしさ感じさせる&br;まるで繊細で美しい細工物を見ている様だった 男は自分がバチ当りだとは認識していた&br;しかしどうにも止める事ができない 胸を針の先で突くような、痒みのような感覚が走る&br;不意にその目が開き、目が合うと、男は慌てて聖書に目を落とし、わざとぶつぶつと内容を読み始める&br;そんな男に娘はにこやかに微笑みをかける「いつもお早いですね、それではまた」 男は赤面した顔を隠すように頷くばかりだった&br; 
---娘が去っても、男はまだ椅子を離れられ無いでいた 娘と会うのが目的では無いのだと自分に言い聞かせるためだ&br;「美しい女性ですね、彼女は」そんな男の心の内を見透かすような声をかけたのは教会に暮らす牧師だ&br;彼は急な事故にあってしまった前任に替わって教会の管理をしていた&br;彼が集落に訪れたのはあの親子の引っ越してきたさらに一月前だ すでに街には無くてはならない相談役となっている&br;牧師に図星を当てられた男は緊張とばつの悪さに押し潰されてしまいそうだった 「ハハハハ、すまないすまない」&br;「恥じる事は無いさ、私も彼女には見とれてしまうくらいだ 不自然な事じゃあ無いよ それに君は若いんだから当たり前の事だよ」牧師は優しくフォローの言葉をかける&br;「すいません牧師様…きょ、今日は失礼いたします 父と子と聖霊に…」「エイメン」&br;その後も、娘の美しい横顔と、邪気の無い微笑みがずっと男の頭から離れずにいた&br; 
---集落の一日はとても単調だ 木を切っては運び、運んだ木をまた切り、また別の場所へ運ぶ&br;畑仕事や力仕事を手伝う事もよくあった 数少ない若者の中でも、男は人一倍身体が大きく頑健であったからだ&br;ここ最近、集落の男達の話題は街から来た親子の噂で持ちきりだ ほとんどは下品な妄想や奇妙な彼等の生活についてで&br;概ね彼等親子は歓迎されていなかった&br;
---突然やってきた、昼間はほとんど顔も出さず 日暮れにたまに散歩をしたりしている得体の知れない親子 酷い田舎の集落で話に上らない方が不自然だ&br;たしかに、男の目からも彼らは不気味で不自然な暮らしに見える しかしそれは病のせいなのだろうと男は自分を納得させた&br;興味を持って調べた医学書にもそういった例はいくつも記されている&br;生まれつき肌の弱い者ならば日中の日差しは凶器にもなる それに、あんな美しい女性が、なにかしらよこしまな事をしているなどど考えたくもなかった&br;男は自分の中に、あの娘が大きなスペースをもって入り込んでいっている事を認めざるを得なかった そしてその領域は日増しに広がっていっているのだ&br;初恋としては遅すぎるが、その想いを相手に伝え、その結果訪れるだろう事態&br;成否がどちらにせよ、それを受け止める自信を持つには彼の精神は幼すぎた&br;彼の中の女性像は、古めかしい映画や小説や、盗み見たポルノ雑誌の切れ端の中にだけしかなかったのだから&br; 
---そして異変は起きた まず最初にわずかばかりの馬と犬が変死した 井戸水に妙な匂いがするという者も居た&br;それは突然の奇妙な出来事に対する過剰反応に過ぎなかったが、小さく、閉鎖的な集団の中に置いてはそれはまことしやかな真実としてうけとめられた&br;刺激になれていない小さな集落の人々はまったく冷静さを失った 街へ出て警察に届け出ようとする者&br;しかしそれは集落の面子に関わるという意見 ただの事故だと窘める者&br;だがそれをあざ笑うかのように決定的な事件は起きた 人死にが出た、それも一家四人がいっぺんに死んでいた 遺体はどれも驚愕の表情で&br;そして青ざめて死んでいた さらに遺体の一つには首筋に噛み付かれたような痕があった&br;その時から、集落の様子はすっかり変わってしまった&br; 
---外を出歩く者は居なくなり、畑仕事もとりやめになった 納屋から銃や斧を引っ張り出して来る者もいる&br;老人達は三日間、夜通しで会議を開いた 街までこの悪夢を報せるべきか否か 反対が弱冠あった&br;集落の不祥事が知られれば悪い影響が出ると懸念しての事だ しかし結局は報せに行く事で合意となった&br;次に誰が行くかだ 街までの道のりは遠く、ただでさえ危険な道のりだ&br;しかも殺人犯が潜んでいる可能性もあった「私がいきましょう」名乗り出たのは牧師だった&br;「私なら警察にも教会にも顔が利く 私と、あと何人か男手を…私も正直恐ろしいですからね」この申し出にしばらく老人達は議論したが、他に良い案もなかった&br;翌朝、牧師と、武装した数人の男達とで街をでた 「街まではおよそ二日 事情を話して警察が動き出すまでと考えれば一週間はかかるだろう」&br;「それまで、皆で守らねばならぬ………」平和だった集落に疑心と恐怖の渦巻いていた&br; 
---牧師達が出発した翌日は激しい雨だった 電線が切れてしまうのは日常茶飯事な事で誰もが慣れていたはずだが&br;この時ばかりは集落の人々は恐怖に駆られざるを得なかった 皆牧師の居ない教会に祈りを捧げ、一人暮らしの者はより集まり、発電機の明りの下で眠った&br;「彼」は教会にいつも来るあの娘の姿が見えない事に不安感を抱いたが見舞いに行くのは躊躇われた&br;「た、大変だっ!うちの豚がやられちまってる!!」そして次なる事件 今度はあちこちの家で家畜が変死を遂げるというものだった&br;「こりゃあ人間やそこらの怪物の仕業じゃねえ……もっと、とんでもねえ何かだ!」集落は更なる暗黒と混乱に落ちていった&br; 
---昼間でも集落は暗かった それは降り続ける雨のせいばかりでは無い&br;何か恐ろしい事がこの集落に起きていた 集落の外れに暮らす豚飼いと皮なめしを営む男&br;人一倍小心な彼は猟銃を肌身離さず持ち歩いていた 歯並びが悪く、冴えない顔の小男であった豚飼いは妻もなく一人で暮らしている&br;酒癖の悪さと気の小ささが禍して、誰も彼を迎え入れてはくれなかったのだ&br;雨の降りつける真夜中、豚飼いは奇妙な音に目を覚まし、慌てて猟銃を胸に引き寄せる&br;確認しに行くのも恐れしかったが、そのまま殺されるのはもっと恐ろしい 豚飼いは意を決して立ち上がり、音の方へ進む
---何度も唾液を飲み込み、暗い廊下を豚飼いは歩く、一歩がとてつもなく重かった&br;まるで深い泥濘の中を歩いている様だ 猟銃の引き金に指をかけ、叫びだしたい気持ちを必死に抑えていた&br;しかし、豚飼いの不安は音の正体を知り安堵に変わった ただ、窓がかすかに開いており、そこに雨水が跳ねているだけだった&br;いやおかしい 窓は確実に閉めたはずだ 1つ残らず確認したはずだ&br;いぶかしむ豚飼いの前に突如人影が現れた!「お、お前っなんでこっ…うぐぅーー」豚飼いは人影に口を押さえられ&br;そしてその首をかみちぎられた 死体が見つかったのは朝の事だ&br;「吸血鬼だ……!吸血鬼の仕業に違いない!!」「どうするっ!?この中に吸血鬼がいるかもしんねえっ!」&br;「奴等ぁ、仲間をどんどん増やすと言うだぞ!」「もう集落はおしめえだぁ」
--''Mayhem♯2''
---吸血鬼の現れないとされる昼間、集落中の男達が集められた そして一人づつ、太陽の下で銀の十字架を額に押し当てる&br;もちろん、それだけで吸血鬼が見つかるとは限らないのは誰もがわかっている&br;これは踏み絵の儀式のようなものなのだ そうして集落のほとんど全ての男達が儀式を終え、そしてまた取り留めの無い「会議」を始める&br;会議はとげとげしく お互いの腹を探り合うようなものだった 彼は、大柄でいて気の弱い彼 あなたの良く知る男、「メイヘム」は&br;部屋の隅で黙ったままその会議を見守っていた 彼は懸念する事があった 彼らの狂奔があの親子に、あの娘に向けられやしないのかと・・・・&br;「おい、あいつはどこにいる? あの・・・ほら、あのよそ者だよ」「そういえば見てねぇ・・・ あの事件からずっとだ!」「あいつ、まさか吸血鬼・・・!」&br;メイへムの恐れていた事態は当然のごとく現実となった&br; 
---メイヘムは息巻く男達に口を挟む事は出来なかった 吸血鬼でなければ危害を加えたりはしないであろう 本当に吸血鬼なら……&br;その時はもうその時だ メイヘムは武器を手に手に、村外れの家を目指す集団についていくしかなかった&br;集団は民家が近付くにつれ静かになり、足取りも重くなっていった 誰もが吸血鬼が恐ろしいのだ しかし今更引き返す事は出来ない&br;皆、黙りこくりながら民家を取り囲み、大声で中に居るだろう住民に声をかける&br;返答はない しばしの間、誰が中を確かめるか悶着した後、意を決した若い男が扉に手をかける&br;傍らにはメイヘムも居た 扉はカギはかかっておらず簡単に中に侵入ができた&br; 
---家の中はひっそりと静まり返り、まるで人気のなかった 異常な事態に一向に不安が走る&br;なぜ居ない?もしや本当に吸血鬼なのか…?猟銃を抱えた若い男を先頭にしてさらに家屋の奥へすすむ&br;そして開けた部屋の中を見た一向は息を飲み込んだ 死体 それはこの家屋の住民である「よそ者」の男 男は首を食いちぎられていた&br;メイヘムは悲鳴を上げ、別の部屋を次々に開けていく 他の男達は呆気にとられたままだ&br;彼女はあの娘は……どこにもいない……&br; 
---集落の状況はさらに悪化していった もはや誰もが信用できない 猜疑心は果てしなく膨れ上がり&br;恐怖は攻撃性に替わっていった メイヘムは一人、森の中に居た あの家の中には彼女の姿は痕跡すら見つからなかった&br;どこかに隠れているのでは無いかと微かな期待と、何よりも集落に帰りたく無かった&br;平和だった集落は今や誰もが疑い合い、争い合う狂気の中へと迷い混んでいた メイヘムはそのまま、森の中で一夜を過ごした&br;翌朝、急な雨に目を覚まし、仕方無くメイヘムは集落への帰路へ着いた&br;銃声 集落な方だ メイヘムは反射的に身を屈め、這うように集落へ近づいた&br;銃声 銃声 あちこちで叫び声と銃声が響いていた メイヘムは混乱していた まさか吸血鬼が襲って来ているのだろうか、しかも恐らくは大勢…だがそれは間違いであった&br;殺し合いをしているのは集落の住民同士だったのだ 始めはちょっとした言い合いだった&br;だが恐怖という伝染病に蝕まれた人々は一気に発火点へ達した そして… また銃声、すぐ近くで呻く声が響き、誰かが倒れた&br;メイヘム自身の恐怖も臨界に達し、気が付けば走り出していた 脚は自然と、教会へと向く&br; 
---真っ暗な教会の中はまったく人気が無かった 聞こえてくるのは断続的な銃声と叫び声 そして叩きつけるような雨と雷鳴だけだった&br;おずおずと暗がりの中を歩くと何かに躓く 死体だった 集落の老婆が一人、事切れている 小さな悲鳴をあげ、這うようにメイヘムは十字架に向かう&br;そして彼は神に祈った '''あの平和だった集落を あの日々を そして彼女をどうか返してください その為になら、私はどうなってもかまいません'''&br;明かりが灯った 小さな蝋燭が暗闇の中に浮かび上がる 暖色の炎の明かりが美しい金色の髪を際立たせる&br;暖かい光の中でさえ、その肌の白さは痛々しくさえもある・・・ ああ、彼女だ 美しい、愛するあの娘だ メイヘムは奇跡に瞳を濡らす&br;なんという事だ ああ、神様、ありがとうございます 私の願いを願いを・・・願いを・・・ しかしその歓喜を娘の背後に現れた影の姿にかき消された&br;「相変わらず気味は信心深いね 毎日のようにここに来てそうして祈りをささげている・・・愚かなことだ」&br;影はあの牧師だった 何故だ、牧師様は助けを呼びに集落を出たはず・・・・「クククク、まだ気付かないのか? この集落を襲う吸血鬼・・・それは私なのだよ」&br;「この娘は実に美しいので、私の僕としたのだ・・・ 君も僕としてやろうか?」&br; 
---'''ああ、ああ、神様 貴方は、何故我らをかような絶望に立たせられるのですか'''&br;&br;走った メイヘムは走った 教会を飛び出し、闇雲に走った 背後からは牧師の笑い声が聞こえた &br;あちこちから響く銃声はすでに止んでいたがそれにも気付かなかった  土砂降りの中を走りまくり、外れにある自分の小屋へと駆け込んだ&br;頭の中にはただただ恐怖だけに支配されていた 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ 死にたくない、ころされたくないちをすわれたくないしにたくないしにたくない&br;彼は自分の小屋の中で唯一、武器になりそうな物 木材の切断に使う丸ノコを両手に抱え、必死に息を殺していた&br;あの牧師は必ずここに来る 血をすすられ殺されるのだ 逃げ道など無い ならば殺す以外に方法などない&br;ギシリ ギシリ 木板のきしむ音が聞こえた 猛烈に暴れまわる心臓の音が相手に聞こるのでないかとさえ思った&br;メイヘムは今、壁を背後にじっと息を殺し丸ノコを抱えている 壁は薄く、木製で、すぐ向こうにいる吸血鬼の息遣いまで聞こえてきそうだった&br;突如その壁から腕が突き出される! 吸血鬼の腕が壁を貫き、メイヘムを背後から襲ったのだ&br; 
---''ヴィヴィヴィッヴィヴィヴィヴィヴィ''電動丸ノコのスイッチを入れる 血走った目で丸ノコを振りかざし 吸血鬼の顔があるであろう辺りに力の限り押し付ける&br;木片が吹き飛び、血と肉片が飛びちる やがて木壁は崩れるように粉砕され、大穴が穿たれた&br;ゴトリ、首が落ちる メイヘムの突き出した丸ノコは偶然にも吸血鬼の首を切り落としていた 突き出され、いまだ痙攣する吸血鬼の手&br;その指先にはマニキュアが塗られ、すらりと細く、首を失った胴体はふくよかに丸みを帯び・・・・&br;転がった首はアーモンド型の、貝殻のような瞼と長い睫毛 まるで繊細で美しい細工物を見ている様だった&br;彼が首を切り落としたその吸血鬼は あの娘だった&br;狂ってしまえたらどれほど楽であっただろうか だが彼の精神は残酷なほどタフネスだった あと一歩のところでとどめは訪れない&br;廃墟と化した集落で、幽鬼のごとく一人佇む彼が警察隊に発見されたのはそれから三日後のことだった
---''Mayhem 了''
#endregion
**ダー・フェンザーノハナシハオシマイ [#d7023809]
#region(第六話)
-[[''Deathspell Omega''>つべ:FSf8TWn9DwY]]
--''登場人物紹介''&br;メイヘム:無愛想な吸血鬼ハンター&br;ニトラ:はすっぱな女剣士&br;マリッサ:若い女幻術師&br;ダー・フェンザー:腕利きの盗賊
---「つまり、こういう事でいいかい?町の西側の墓地が吸血鬼達に占拠されてしまっている&br;町の者達は既に彼等の存在を受け入れてしまっている…つまり、今まで何も対策をしてこなかった…」&br;低く、落ち着いた口調で猫のような顔の獣人が語る&br;「それをダー・フェンザー達に退治をさせたい… まぁ、ダー・フェンザーは金さえ貰えれば文句は無いよ」&br;「一体なんだって急に退治をしたいのよ?」ニトラが口を挟む 彼女は拳銃と刀とで武装した女剣士でベテランだ&br;「新しい教会を建てる必要がある それに邪魔になったのだ もとより、あそこは教会の管轄だからな」彼は今回の依頼主である神父だ&br;「それで…ハンターが二人と盗賊が一人…もう一人魔法使いが居るとダー・フェンザーは聞いているよ?」&br;「ああ、そうだ…少し遅れているようだな とても腕利きで恐ろしい力をもった幻術使いだと言うふれこみだ」&br;ガタンッ 大きな音を立てて会議場のドアが開く&br;「も、申し訳ありませんっ と、時計がそのっ、ちゃんと目覚ましかけてたはずなんですがっ!」一同皆、顔を見合わせた&br; 
---マリッサは純真無垢を絵に描いたような少女であった およそこれから命懸けの戦いに出掛ける戦士とは思えない姿だ&br;「ピクニックの相談所じゃないのよ?」ニトラは呆れて言った&br;さらに経験豊かなダー・フェンザーがダンジョンや吸血鬼の注意点を語るとマリッサはさも恐ろしそうに体を震わせる有り様だった&br;&br;「貴女、治癒の魔法が使えるのかい?吸血鬼は毒や病気をばらまく 傷を付けられた時には…」ニトラが道すがら尋ねる 「はいっ…ええと、まぁ少しくらいは」&br;「攻撃の魔法はどうだいマリッサ?」ダー・フェンザーが道すがら尋ねる「えと…その、勉強中です… あまり派手なものは…」&br;「で、でも、幻術ってとても便利なんですよっ!物体の物理構造は変えずに認識だけを歪める事ができて…」&br;ニトラとダー・フェンザーは不安げに肩をすくめたbr; 
---「そういえばあんた、さっきから口聞かないけど…ぶるってんのかいミスターダンディ?」ニトラが道すがらメイヘムに尋ねるbr;「……」男は無言でニトラをハットの奥から睨むだけで何も言わなかった&br;「やれやれね、まぁなんとかなるかしらね」ニトラはまた肩をすくめる そうして一向は墓地の門まで到着した あたりは既に真っ暗だ&br;「ふぅん……これはあちこちにいるね、ダー・フェンザーは鼻が効くんだよ 言っておくけれど戦いは君たちにまかせるからね」&br;その時、突如墓石の背後から吸血鬼が飛び出し、ニトラの背中に爪を突き立てようとした ダー・フェンザーとメイヘムが素早く武器を抜くが間に合いそうには無い&br;しかし、マリッサが早かった 彼女は素早く魔法を放つと赤毛の吸血鬼は的を外し、混乱をきたす&br;振り返ったニトラは怪訝な顔をしつつも吸血鬼の首を撥ね飛ばした&br;「どう、これが幻術よ?役に立つものでしょう?」マリッサは得意気に言った&br; 
---マリッサは純真無垢を絵に描いたような少女であった およそこれから命懸けの戦いに出掛ける戦士とは思えない姿だ&br;「ピクニックの相談所じゃないのよ?」ニトラは呆れて言った&br;さらに経験豊かなダー・フェンザーがダンジョンや吸血鬼の注意点を語るとマリッサはさも恐ろしそうに体を震わせる有り様だった&br;&br;「貴女、治癒の魔法が使えるのかい?吸血鬼は毒や病気をばらまく 傷を付けられた時には…」ニトラが道すがら尋ねる 「はいっ…ええと、まぁ少しくらいは」&br;「攻撃の魔法はどうだいマリッサ?」ダー・フェンザーが道すがら尋ねる「えと…その、勉強中です… あまり派手なものは…」&br;「で、でも、幻術ってとても便利なんですよっ!物体の物理構造は変えずに認識だけを歪める事ができて…」&br;ニトラとダー・フェンザーは不安げに肩をすくめた&br; 
---「そういえばあんた、さっきから口聞かないけど…ぶるってんのかいミスターダンディ?」ニトラが道すがらメイヘムに尋ねる&br;「……」男は無言でニトラをハットの奥から睨むだけで何も言わなかった&br;「やれやれね、まぁなんとかなるかしらね」ニトラはまた肩をすくめる そうして一向は墓地の門まで到着した あたりは既に真っ暗だ&br;「ふぅん……これはあちこちにいるね、ダー・フェンザーは鼻が効くんだよ 言っておくけれど戦いは君たちにまかせるからね」&br;その時、突如墓石の背後から吸血鬼が飛び出し、ニトラの背中に爪を突き立てようとした ダー・フェンザーとメイヘムが素早く武器を抜くが間に合いそうには無い&br;しかし、マリッサが早かった 彼女は素早く魔法を放つと赤毛の吸血鬼は的を外し、混乱をきたす&br;振り返ったニトラは怪訝な顔をしつつも吸血鬼の首を撥ね飛ばした&br;「どう、これが幻術よ?役に立つものでしょう?」マリッサは得意気に言った&br; 
---そうして墓地の深部 吸血鬼が住処とする古い地下墓地への入口に到達する&br;錠前をダー・フェンザーがこじ開け、いくつかのトラップを解除した「ふぅん……さっきの鍵もそうだが、この罠も新しいものだね」&br;つまり、最近使われているという事だ 誰がだって?そりゃあ奴等さ&br;闇の中から唸り声が聞こえるとメイヘムとニトラが武器を構える そこにマリッサが杖から光を放ち、闇の住人の姿を炙り出した
---飛び出すようにして現れた吸血鬼を、二人の戦士はあっという間に灰の山に変えた 一向はさらに現れる吸血鬼や魔物を次々と駆逐していった&br;マリッサの魔法は強力で、弱いモンスター達を完全に翻弄していた ダー・フェンザーさえ戦闘に加わり、地下墓地の隅々まで魔物を滅ぼしていった&br;そして一向は意気揚々と岐路につく しかし彼らは油断していた 墓地の奥底に眠っていた太古の魔物&br;凶悪な吸血鬼が静かに、ハゲタカのごとく旋回していた&br;
---吸血鬼は静かに狙いをすました、もし優秀な聴力をもったカジートがこの場に居なければマリッサは即死していただろう&br;背中に大きな傷を負ったマリッサは吸血鬼に突き飛ばされ、したたかに頭を打つ&br;ダー・フェンザーの投げたダガーを胸に刺したまま吸血鬼が怒りの叫びを上げた&br;三人は一斉にこの強大な吸血鬼に立ち向かった しかし三対一にも関わらず苦戦した&br;古代の吸血鬼は恐ろしく強く狡猾だったのだ だが意識を取り戻したマリッサの放った火球の一撃が吸血鬼の背に当たると流れが変わった&br;怒り狂い、我を失った吸血鬼にメイヘムが狙いすました丸ノコの一撃を繰り出す&br;見事に吸血鬼は首を撥ね飛ばされ、さらに十字架でその頭を潰された&br;さしもの吸血鬼も灰と化し、風にさらわれていった&br; 
---そして夜明け頃、傷ついたマリッサを担ぎながらようやく一向は町へと帰還した&br;マリッサの怪我はあまり思わしくなくそのまま病院まで運ばれていった その晩、一向は勝利を祝い祝杯を上げた&br;もちろん、彼等には四人分の報酬が支払われた「まったく、無愛想な男よね」br;自分の分け前を取るとさっさと消えてしまったメイヘムにニトラが肩をすくめる&br;「彼には彼の事情があるんだろうさ さて、マリッサの具合はどうだろうね」ホテルのニトラの借りた部屋、二人は顔を付き合わせる&br;「あら、今何か妙な音がしなかった?…… ねぇフェンザー、ちょっと提案があるのだけど」「提案?なんだいそれは?」&br;「マリッサの怪我…あなたはどう思う?吸血鬼にやられた傷よ、もしかしたらあの子も吸血鬼になるかもしれないわ」「……皆まで言わなくても判るよ そういう提案だね」ダー・フェンザーは部屋の隅を見ながら言った&br;「ダー・フェンザーは止めておくよ、そういうのは縁起が良くないからね ノクターナルの加護を受けれなくなってしまうよ」&br;「じゃあいいわ、私がいただくわ」「勿論、ダー・フェンザーは何も聞かなかった事にするよ さて、それじゃあ」「ええ、また…私もそろそろ休むわ」&br;金を持ってダー・フェンザーが部屋を去るとニトラもベッドに横になり、間もなく寝息をたてはじめた&br; 
---辺りが静まり変えった頃 テーブルに置かれたままの金貨が一人でに浮き上がり、そして虚空に消える&br;「言ったでしょ?治癒の魔法もすこしは使えるって」そうささやくような声が聞こえたあと、またひとりでに扉が開き、そして閉まった&br;部屋には再び静寂が戻る
---''Deathspell Omega 了''
#endregion
**ワタシレイプサレチャッタ [#c8e7fc2a]
#region(幕間) 
-''Interlude''
--BGM[[DRAGONFORCE:DIE BY THE SWORD>つべ:EF2AjCwSCnE]]
---Outside the battle ragining death upon us,&br;
No surrender unchained and free.&br;
Insanity will lead to blind destruction,&br;
Crush the evil, the foul disease.&br;
&br;
Our final destination, reborn in darkness,&br;
Watching awaiting, destroying with ease!&br;
The judgment day upon as, as dawn is breaking&br;
Mankind will fall to the spineless deceived.&br;
&br;
FLY THROUGH THE STORM, POWER OF THE STEEL&br;
STRIKING WITH VENGEANCE, FORCE THEM TO KNEEL,&br;
SOLDIERS UNITE, FORCE OF THE WORLD,&br;
FIGHT TO THE END, WE WILL DIE BY THE SWORD.&br;
&br;
Fight on in foreign feilds of mass destruction,&br;
Stand as one, no man left behind.&br;
Our final victory, tonight awaits us,&br;
Slain in darkness behind the lines.&br;
&br;
Raise the dead, right beside of me,&br;
Fallen heroes of a thousand moons,&br;
Blaze ahead, the price that we now pay.&br;
On the march to their doom!&br;
&br;
{CHORUS}&br;
&br;
Light the fires of freedom, on the shores of endless seas,&br;
Wings of glory guide us, on the path to victory,&br;
Light the fires of freedom, on the shores of endless seas,&br;
Wings of glory guide us, on the path to victory,&br;
&br;&br;
--道端でうずくまる大男に一人の女が声をかけた 女はまだ若く、すぐ近くの酒場で飲んだ帰りだと言う&br;そこは男がよく使う酒場であったが男は彼女を知らなかった だが女は大男の事を覚えており、いつも無謀な量の酒を飲むことを心配していたと言う&br;お酒はなるべく控えるようにと女は忠告したが、これは酒のせいだけではない 小一時間前に出会ったあの女・・・&br;突然、剣を振りかざし挑んできた獣のようなあの女 一体何者だろうか 吸血鬼ではなさそうだし、「Zyklon」の刺客でもないようだ&br;腹に受けた剣の一撃は思いの外深刻だ 何度か吐血と鼻血を繰り返している&br;しばらくは動けないだろう 男は体を休める場所を探している事を告げると 女は意外にも笑って案内を申し出た&br;どこをどう見てもまともな人間で無いことは自分自身でもよく判っている 男はやや警戒したが、結局ついていくことにした
---女の案内した場所はスラムに近い市内のアパートメントであった 安宿に案内されるものだと思い込んでいた男は疑心に満ちた目で女を見る&br;そこで初めて、女は自分が娼婦である事を告げた 彼女は娼館などに籍を置かない、いわゆるもぐりの娼婦なのだ&br;酒場にはその相手を求めて出入りしており、わずかばかりは知られた存在だそうだ 男はそんなつもり無いと断り、引き返そうと踵を返した所で再び吐血した&br;視界が暗くなり、動悸が早くなる 貧血の症状だ、男は女に抱えられるようにアパートの階段を昇っていった
---ベッドの上で寝たのいつ以来だったろうか 凶悪な吸血鬼からすべてを奪われて以来、男は眠れなくなった&br;昼も夜も幽鬼のごとく歩き回り 吸血鬼を探し回り あるいはひたすら酒を飲んだ 酒は鋭敏になりすぎた神経を鈍化させてくれる つかの間だけ、苦しみを和らげた そして麻薬&br;吸血鬼に対抗するためにその体に水銀を注射するなどはもはや暴挙としか言いようがない 男の体はボロボロだった とっくに死ぬか寝たきりになっていてもおかしくないだろう&br;男を突き動かすのはただ一つ、吸血鬼への憎悪 それだけだ、それだけのために生きてきた 殺伐とした修羅の道だ&br;&br;かすかな物音に、男は目を開けた なんと言うことだ、男は眠っていたのだ、安らかに いつも着けているコートも 丸ノコも無い 男はゆっくりとベッドから抜け出し、静かに音の方向へと向かった&br;そこにはまさに、男のコートから金を抜き出そうとしてる女の姿があった 女は泣きながら弁解した お金が必要である事、毎晩大量の酒を飲む男の事だから金をもっているだろうと踏んでいた事を正直に話した&br;だが声をかけたのはとっさの事で、純粋に心配していての事なのだと、震える声で訴えた 女には娘も居るのだと言う 娘は病気で入院しているのだと写真を取り出して見せた&br;その上、娘の手術費用のためにあくどい金貸しから借金をしており 明らかに過払いの状態にもかかわらず取り立てが続いているのだそうだ&br;男は泣きじゃくる女を無視するようにコートと丸ノコを着込み そして背を向けた その上、宿代にとあるだけの金を置いて&br;なぜそんな真似をしたのか、男自身にもわからなかった 不幸な身の上の人間など掃いて捨てるほど居るはずだ&br;その全員に施しをするつもりか?それとも何かの償い? あるいは女の色気に惑わされたか? 答えは無い&br;&br;その夜、街中のとある事務所で乱闘騒ぎがあり さらにその数日後 借金の完済証明が女の下に突然送られてきた その書類には血が滲んでいた
---''Interlude 了''
#endregion
**ハリウカ=サンパッションジュウテン!! [#od9b2f32]
#region(幕間) 
-''Interlude''
---雨の降りしきる薄暗い路地裏で男は立ち止まった 足元には打ち捨てられた、ひび割れた鏡 男はその破片を拾う&br;水垢のこびり付いた鏡を拭い、そこに移るのは酷く疲れた男の顔 窪んだ目には黄疸が浮き 頬に皺が刻まれていた&br;思わず男は鏡を取り落とした これが自分の顔だと? 薬と酒、そして体内に自ら注射した水銀は確実に体を蝕んでいたのだ&br;あの女 あの頭のおかしい狂犬 奴は確かに強い だが勝てない相手ではなかったはずだ&br;・・・だったらあの様はなんだ? 冷静さを失ったあの無様な戦いは?&br;''空手'' 丸ノコを外し、男は拳を構える''「悔しいなら強くなれ」'' 正拳 朽ちかけたブロックが破砕され砕け散った&br;''「貴方は充分強いわよ、ジョン」'' 上段回し蹴り、さらに体をひねったまま片足で飛び上がり追撃の蹴り&br;''ナイハンチ(鉄騎)'' 深く腰を落とし、体を捻る、手刀 組み伏せ 平行移動 ・・・男は大きく息を吐き おびえた目で自分を見る浮浪者を睨んだ&br;「錆付いたもんだ」男はひとりごちる
---いつ以来か、男は風呂屋に行き体の垢を洗い流し ついでに薄汚れた衣服も洗いなおした 内ポケットに残っていた錠剤は配水管に流した&br;床屋に行き、洗っていないモップの様な髭を剃り、髪を短く整える 床屋の店主は生きた心地がしなかっただろう &br;男は久しぶりに広場に出た まだ日も高い内にだ 黒いハットを外して日のあたる世界を見つめる その瞳は空の青を写していた
---''Interlude 了''
#endregion
** カラテ・キッケド・イン・ザ・トゥース[#a8f9f4fd]
#region(第七話)
-[[''ChthoniC''>つべ:heF_NPJbv8Y]]
---「さぁ俺に向かって打ってこい パンチだ、本気でやれ」白い胴着に黒帯をしめた男が、目の前に立つ大柄な男に向かって言った&br;身長2メートルを超える、薄汚れたシャツとGパンという出で立ちの男はジョンと名乗った&br;「強くなりたい」とただそれだけを悲壮な面持ちで伝えた それを聞いた道場主である師範はジョンの真正面に構え、まっすぐにジョンを見据える&br;まだ少年の面影を残すジョンは体こそ立派で見るからに強そうだが、その顔には覇気と言えるようなものは無かった&br;生まれてこの方、他人と暴力的な喧嘩を行った事など一度もなかった&br;「どうしたっ!早くしろ!」師範の激が飛ぶ 師範は決して小さくは無いがジョンからしたらずっと小柄だ&br;しかし日系人の血の入った短髪の師範の纏う覇気はその体を数倍に見せる&br;深い皺の刻まれた、精悍で厳しい眼光でにらまれただけでジョンは足がすくんでしまう&br;彼はなんとか、言われたとおりに拳を握り、口を強く結んで突き出した&br;だがそのパンチは師範の鼻先を掠めただけで止まった 師範は微動だにしていない&br;「お前にはまず闘争心が無い 強くなりたいならまず心を磨け」&br;その日から、ジョンの道場での生活が始まった&br; 
---道場の新入りの暮らしはどこでもまず掃除からだ 道場は半分がフローリングの板の間になっておりトレーニングマシンが置かれ、もう片方は畳だ&br;朝一で道場に入ると雑巾と箒でもってそこを掃き清める そして若い門下生達が集まってくると柔軟体操の後、一通りの型稽古が始まる&br;腰を深く落とし、肩幅に足を開いた独特の立ち方 拳の握り、様々な防御、声の張り方&br;そうしてひとつひとつ体の動かし方を学び、体に染み込ませていくのだ 高価な機械や複雑な動きの集大成である型 さらに実践的な組み手は新入りにはまだ早い&br;先輩達が道場内でそういった練習を始めた時は、ジョン達は道場の隅で正座でそれを見守らなくては行けなかった&br;大柄なジョンはそれだけで注目されたが、生来武術には不向きな性格で、動きに鈍い彼は笑いものされた&br;そして寡黙で心の内を明かそうともしない彼は道場の中で孤立していた&br;そんな日々が数ヶ月続いた&br; 
---型稽古とは、実戦のシミュレートであり、肺活量や筋肉の動かし方、集中力、様々な物を身につけさせる&br;素人のパンチはしっかりと狙いや腕の動きが定まっていないため、下手をすると自分自身が大きなダメージを受けてしまう&br;だがしっかりとした動きを体に染み込ませれば、自然とベストな動作を反射的に行うことができるようになる 最初の数ヶ月間、彼はひたすら型稽古を続けさせられた&br;ナイハンチ ピンアン クーサンクー パッサイ ジオン ナイハンチ &br;来る日も来る日も稽古は続く 上段前受け 下段払い 正拳 上段蹴り 下段蹴り &br;ジョンは寡黙で愚直な男であったが焦るような感情もあった こんな事をしていて強くなれるのだろうか?&br;道場の板の間では黒帯を締めた先輩空手家達が組み手を行っている 道場での組み手の形式は空手とうよりキックボクシングのそれに近い 顔面も金的もありだし、寝技も使う&br;血と汗の飛び散る先輩達の姿をジョンは羨ましげに目で追っていた&br; 
---「どうしたのジョン? 兄さん達が羨ましい?」声をかけたのは空手着姿の女性 ポニーテールに結んだ金髪でまだ少女と言える年頃だ ニッコリとえくぼを作り無防備に体を曲げてジョンを覗き込む&br;もちろん空手着の下にはアンダーウエアを着けているが、ジョンは彼女を直視する事ができなかった&br;「い、いや・・・」無意識に否定の言葉が出る 「・・・・その・・・俺も、組み手をしたいと思って」 「それなら師範に頼んでみたら?ジョンはだいぶ型も綺麗になってきたし、兄さんも褒めていたわ」&br;彼女はそう言って、組み手が行われている板の間の方を向く サラが兄さんと言ったのはこの道場でも一、二を争う強者でゆくゆくは師範となり道場を継ぐ事を期待されている有望な若者だ 彼の名前はダニーと言った&br;彼は今、ライバルであり同じく師範候補である男、ベルネマンと対峙している 短くカットされた黒髪に精悍で武人的なダニーとは対照的に、ベルネマンは髭を長く伸ばしドレッドヘアーで、挑発的なタトゥーをあちこちにしていた&br;互いの空手の技術はほとんど拮抗しており、そのレベルの高さに道場中の人間が固唾を飲んで見守るほどだった&br;しかし、ひたすらに鍛錬に明け暮れるダニーに対して、不真面目で暴力的なベルネマン その二人には決定的な優劣があった スタミナだ&br;毎日みっちりと型稽古を繰り返すダニーはしっかりとした体力と並外れた集中力が養われていた そして、ベルネマンが勝負を急ぎ乱れたハイキックを繰り出した瞬間を見逃さない&br;まだ伸び切れていないベルネマンの脚を中段受けで弾き、カウンターに肘を顔面に直撃させる 衝撃で激しく頭が振れ、ベルネマンはそのまま床に倒れこんだ&br; 
---さらに数ヶ月 ジョンが道場に来てから一年近くが経った 昼間は工場で働き、夜は道場でトレーニングを行った&br;元々筋肉質だった体はさらに引き締まり、大きくなった 激しい型稽古にも呼吸を乱す事なく、完璧な歩幅と姿勢を掴んでいただが苦手な物もあった それは、ようやく許されるようになった組手だ&br; 
---「セェァアアアアア!!!」道場の空気を切り裂く気合の声! 飛び上がったダニーは強烈な回し蹴りをジョンの頭部に命中させた 衝撃に大男がよろめき、膝を付く&br;「それまでっ!」戦いを師範が止める ダニーは決して小柄ではないがジョンの巨体と比べるとかなりの体格差に見える&br;しかし、洗練された技術と速度でパワー差を圧倒してしまった それだけではない、ダニー、そして師範はジョンの決定的な弱点を見抜いていた&br;「相変わらず、お前は拳を見れていない 目を閉じてしまっているな 相手を恐れていては、その時点でお前の負けだ ・・・優しすぎるんだよ、ジョン」「・・・・」 ぜいぜいと肩で息をするジョンには返す言葉もなかった&br;「ハハハハ!だらしねぇな!まるでクソ山だぜっ」下品な声を吐くのはベルネマン ジョンは彼の事を嫌っていた いや、道場のほとんどの者が、その技術は認めながらもこの乱暴者を疏んでいる&br;「ベルネ!」師範の叱責の声にもニヤニヤと肩をすくめる「よぉ、ジョン 今度は俺とやろうぜっ よかったなぁジョン たっぷり稽古ができてなぁ?」&br;それは明らかにただの「いびり」だ すでにジョンは二時間の型稽古を終え、たった今ダニーとの組手をしたばかりなのだ しかし、ジョンは立ち上がり板間の中央へと進む&br;「ヘッ 図体ばかりじゃ勝てねぇって思い知らせてやるぜ」ベルネマンもまた、ペイントの施された道着を着直して中央へ向かう 道義には空手を生んだ東洋の言葉で「嫌悪」と書かれていた&br; 
---「始めぇっ!」合図と同時にベルネマンの腕が振り回され、裏拳がジョンの顔面を打ち付ける ルール上は許されない行為だ 師範は顔を歪めるが試合は止めない&br;口から血を拭い、びっしょりとかいた汗も引かないまま、構えを作り直す ベルネマンはダニーよりも一回り大きく、190センチほどの身長がある それでもジョンとはだいぶ差がある&br;どっしりとした体格のジョンと比べるとベルネマンは非常に引き締まっており、身軽で軽やかなにステップを刻んでいる 彼は天才的なセンスで数々の格闘大会に優勝したスターでもある&br;キックボクシング・ムエタイ・カポエイラ 様々な相手と実戦形式で戦い続けてきたその適応力は相手を選ばない 唯一、ベルネマンが負け越しているのはダニーだけだ&br;&br;「っアア!!」 再びベルネマンが動いた、190センチの長身が伸び上がり床から足が離れる 飛び上がっての回し蹴り、先程ダニーが繰り出した物とまったく同じだ&br;しかしジョンはこれを何とか腕でブロック、ベルネマンは体勢を崩すがジョンは打ち込みには行かなかった 「甘いぜフランケンシュタイン」ベルネマンが挑発的に防御を解き、顔をつきだした&br;「そら、どうした、 打ってこいよ、強くなりたいんじゃなかったか!?」その挑発に、ジョンの闘志が静かにくすぶり始めた&br;空気を切り裂き、拳が突き出される 太い腕が唸る、超ヘビー級のパンチだ ベルネマンはそれを上半身だけでかわす だが、僅かに拳がベルネマンの鼻先をかすめた&br;「っあ・・・」ベルネマンは鼻から血を流しているのに気づき、それを払うと怒りの形相を向けた「てめぇ、ブチ殺してやるっ!!」&br;&br;5分後、ジョンは血塗れで板の間に倒れ ベルネマンもまた足を引きずりながら背を向けて退場していった&br;師範はあえてこの試合とは言えないファイトを止めなかった 倒れたジョンをサラが介抱するのをじっと見ていただけだった&br; 
---「悔しいかジョン?」仰向けに、歪んだ天井を眺めていたジョンの視界を、歪んだ師範の顔が塞ぐ&br;「悔しいなら強くなれ お前の空手は迷いが多い 動きは良くなった、技術も付いてきた だがお前には闘争心が足りない」&br;&br;空手 空手 空手 ナイハンチ ピンアン クーサン クー パッサイ ジオン ナイハンチ&br;「目を開け」「敵を見ろ」「腕を下げるな」「恐れるな」「前へ出ろ」&br;&br;血と汗の日々は、男の記憶から少しづつあの日の凄惨を流していった&br;&br; 
---「おや、お前、死なないのか?面白い…」老朽化著しいアパートメントの一室に男がたっていた&br;室内は荒れ果て、あちこちに血が飛び散っていた 男の足元には倒れ付した女の姿&br;「私の下部としてやってもいいが…お前は少し品がない 好きに生きるがいい」カソック姿の男は無慈悲に言い捨てると暗い部屋の闇に溶けて消えた&br;倒れていた女が突如起き上がり、ギラギラと赤い瞳を輝かせ牙の様に尖る歯を剥いた その首筋には深い傷痕が付いていた
--''ChthoniC #2''
---鋭い突きがダニーの顔面を捉える・・・しかし寸前でダニーはそれを躱し、逆にその肘関節を極めるべく腕を絡みつかせようとした だがそれはフェイク&br;ダニーは足を払われ、体勢を崩しかけたが即座にステップで持ち直す 「いいぞジョン!今のは良い、妹も見ているぞジョン!ハハハッ!」男は笑い、また構える&br;ダニーの相手はジョンだ 彼が道場に来てから三年近くが経っている 今や彼は新たな道場のスターになっている その巨体通りのパワーと慎重なファイトスタイルで頭角を表した&br;もはや道場で彼に太刀打ちできるのはダニーだけになっていた ベルネマンは数週間前に暴力事件を起こし、破門されてしまったからだ&br;  
---この日の組手は最終的にダニーに軍配が上がった 歴戦の強者は周到で冷静だった パワーやウエイト差を跳ね除ける技術を持っていた&br;だがダニーの方も無傷ではなく、大きく肩で息をし、乱れた胴着には痣が浮いていた かすっただけでもこの威力 まともに一撃でも受ければ危ない所だろう 相当に神経をすり減らしたはずだ&br;「この短い間にここまでできる奴を見たのは初めてだ もう一年もしたら俺もかなわなくなるかもしれないな…」&br;ダニーが珍しく弱気な事を言った それだけ、認められているという事だ だが感情の表現が下手なジョンはどうしていいか判らなかった&br;そんな時、いつも助けてくれるのはサラだ「何言ってるのよ兄さん ジョンは誰よりも努力してるのよっ 兄さんももっと頑張らないと!」&br;「ハハハ、そうだな 本当に、お前は頑張っているよジョン・・・ 一体なんでそんなに強くなりたいんだ?」それまで何度もかけられた問いかけ 男はいつも曖昧に返事を返すだけだった &br;「・・・ま、お前には期待してるんだ サラもいつもお前の事を褒めてるぞ?」「ちょ、ちょっと、何を言うのよ兄さんっ!」&br;ジョンははにかんで小さく微笑んだ 吸血鬼の事など、半分忘れかけていた このまま道場に身を置き、ダニーと共に師範の後を継ぐ そんな選択もあるのではないか そう思い始めていた頃だった
---''†††††††††††††††††††''&br;ベルネマンは今日も金が尽き、警察に追い出されるまでBARでとぐろを巻いていた&br;道場を破門され、職も失ってからと言うもの、彼は半ば自暴自棄になっていた 「痛てぇ!!おいってめぇこらっぶつかってんじゃねぇぞ!」 よろよろと歩くベルネマンの肩口にぶつかったのは四人組みのチンピラだ&br;「ナンコラァ!?スッゾオラー!」凶暴さだけは人並み以上の四人は即座にベルネマンを取り囲み胸倉を掴んだ だがその腕は逆に捻りかえされ、同時にベルネマンの頭突きが飛ぶ&br;一撃で鼻をへし折られた男は血を噴出しながら倒れこんだ さらに右、強烈な横蹴りが真横の男の腹を打ち付ける &br;左、L字に構えた肘が鎖骨を砕き、さらに掌底で顎を一撃 おそらく、きつい鞭打ちになったことだろう 残る一人はそれを見て逃げ出した&br;ベルネマンは堂々と三人の財布から金を抜き取り、夜の街へ引き返した 良い気分だった&br; 
---治安の悪いダウンタウンは真夜中ともなると全く人影が無くなってしまう 夜明け前の静まりかえる街をベルネマンはあても無く歩き回る&br;古いアパートメントの建ち並ぶ路地から漏れる奇妙な物音にベルネマンは立ち止まった &color(RED){ずるりずるり}; 何か啜るような音&br;「お、おい、何してんだお前……」ベルネマンは思わず声をかけた 路地にはしゃがみこんだ女と、その足元で倒れている誰かの足だけが見えた&br;&color(RED){ずるりずるり}; 物音はその女から聞こえてくる 振り替える女 その口許は真っ赤に染まっていた まるでトマトケチャップたっぷりのピザを頬張ったみたいに&br;
---ベルネマンが悲鳴をあげる間もなく、女は飛び掛かる 助走も無く数メートルを跳躍した&br;「な、なんだ なんだよお前っ!」掴みかかる女の腕を素早く振り払う 身体に染み着いた空手の動きは合理的な反応を行う レンガも砕く硬い拳が女の顔面に突き刺さる&br;普通の人間ならば頭蓋が砕けて死に至る可能性もあった 普通の人間ならば…&br;女は嘲笑うように口を歪め、ベルネマンに向き直る 血糊のこびりついた口 眼は白眼を剥いている&br;驚愕に震えるベルネマンに再び女は飛び掛かる 「やめろっ!!離れろ離れろぉ!!!」男の悲鳴はやがでくぐもった音に変わる 排水溝を水が流れていく時の音だ&br;女はこの日二人目の獲物の血肉を旨そうにすすった&color(RED){ずるりずるり}; &br; 
---&br;「惜しかったね、今日の」ジョンはサラと二人、夜の公園を突っ切ろうとしていた 買い物を終えた帰り道、道場への近道なのだ&br;今日の、というのはジョンとダニーとの組み手の事だ よいところまで押し込んだものの、あと一歩でダウンさせらてしまった&br;「兄さんとあなたが居れば道場は安泰ねっ 兄さんも、あの男意外に自分と張り合える奴が現れたって喜んでるわ・・・」あの男はとは、破門されたベルネマンの事だ 「もう、ジョンったら本当に無口ねっ!」&br;サラとジョンはいつもこうして、道場で炊きだす夕飯の買い物をしにいく 本来はすでにジョンのやる仕事ではなかったがなんとなくそうしていた&br;道場に来てから数年が経ち、何人もの弟弟子が出来ても、ジョンはいまだに一番に道場に来て練習に励んでいた&br;サラは明るく、健康的で活発な女性だった 決して美人では無いが底抜けに明るい笑顔と快活さで道場のムードメイカーだ&br;寡黙で人付き合いの悪いジョンとは対象的だが・・・・ 二人は徐々に惹かれあっていった&br;しかしジョンは…ジョンの心の中には拭いきれない闇が小さな渦となり染み付いていた それはあの時、自らの暮らしていた集落を突然に襲った恐怖&br;吸血鬼に奪われてしまった物はあまりにも大きかった その心の闇が、わだかまりとなってジョンとサラとの距離を隔てていた&br;「ねぇジョン… 今度さ、一日だけで良いから、道場の練習、休まない? たまには休日も必要よ! それでね、もし良かったら…」 &br; 
---「ただいま、吸血鬼警報が発令されました 該当地域は……」自治体の設置しているスピーカーから鐘の音が響く 同時にTVやラジオで警戒報道がされた&br;これは吸血鬼とみられる事件があった場合に自治体より発令される 同時に警察などを通じてハンターギルドにも連絡が行くシステムとなっているのだった&br;「おい、これすぐ近くじゃないか?」道場でジョンとサラの帰りを待つダニーはラジオからの音声を聞いていた 警戒地域に該当しているのはまさにこの道場のある区域 「胸騒ぎがする・・・サラ・・ジョン・・・」&br;ダニーは不安げに時計を見つめる 時間はすでに22時を回っていた&br;&br;「鐘の音・・・ 吸血鬼!?」公園の真ん中で鐘の音を聞きサラが声を上げる 吸血鬼 あの時の悪夢がジョンの中に蘇る&br;生まれ故郷を襲った悲劇 彼が警察により集落で保護された時、かれはただ一人の生き残りだった 彼の事を知る者はこの世に一人も居なくなってしまったのだ&br;「ジョン!?どうしたの、すごい汗よ? はやく道場に戻りましょう、ジョンっ!!」サラの声にジョンは我にかえった どうやら白昼夢を見ていたようだ 体中にびっしょりと汗をかいていた 嫌な予感がする・・・ &br;ジョンはサラに頷き、道場への道を進もうとしたその時だった &br; 
---''ひたり ひたり'' 二人に近づく黒い影 赤黒く染まったボロボロにほつれたシミーズ姿の、異様な風体の女が密かに忍び寄っていた…&br;「本当に大丈夫ジョン?気分悪いの?・・・そういえば私、貴方の事何にも知らないわ・・・ ねぇ、帰ったら貴方の事教えてくれる?」落ち着かない様子であたりを見るジョンにサラは励ますように言った 急な言葉にジョンが目を合わせる・・・ その時だ&br;''ドンッ'' ジョンの背中に杭を打たれたような衝撃が走る!そのまま前のめりにジョンは倒れてしまった 「''イヤァァァァアアアアッ!!!''」サラの悲鳴 顔を起こすと目の前には背を向けて立つ異形の女 そして爪で胸元を裂かれたサラの姿&br;ジョンは夢中で立ち上がり、本能の命ずるまま不気味なシミーズの女の肩を掴み、払いのける 果たしてサラは・・・ 無事だ 胸から血を流しているがそれほど深刻ではないようだ&br;「ジョンっ 気をつけてっ後ろっ!!」背後に迫る気配 すばやくジョンは後ろへ向けて肘の一撃を繰り出した! &br; 
---100キロを軽く超える巨体からくりだされる猛烈な一撃 どれほど鍛えた人間だろうとこれを受けて無事でいられるはずは無い&br;鈍い衝撃が腕に伝わる だが女は倒れないっ 首があり得ない角度で折れ曲がり、それを自らの腕で元の位置に戻す ゴキリ 低い音が鳴る&br;想像を絶する光景にジョンはたじろぐ…だがその背後には…傷付きうめくサラが居る 逃げれば彼女は……&br;ジョンは空手を構えた、腰を軽く落として足を肩幅に開く <<呼吸だジョン、呼吸をしろ>> 両手を高く構え、女の出方を伺う&br;女は思いの外若い まだ20そこそこくらいだろう 少しきつめの顔立ちだがどこにでもいる普通の女だ&br;不自然に顔色が悪く、唇が紫色である以外は、普通だ 女な真正面から爪を振り上げ突進してきた&br;ジョンは降りかかる腕を掴み、そこで動きが止まってしまった 顔を見てしまった 女を殴る事の抵抗感を隠せない&br;その隙に女は凄まじい怪力で逆にジョンを押さえ込み、鋭利な犬歯の並ぶ口を開けた 圧倒的体格差にも関わらずジョンが押されはじめる!&br;その口がまさにジョンの胸元に突き刺さらんとした時、女の顔に何かがぶつかる&br;指先ほど小さく、歪な形のそれは砕けたニンニクだ その独特の臭気がするや女は苦しみだす!&br; 
---ジョンの背後ではサラが座り込んではいるが体を起こし、買い物袋を手繰り寄せていた 中身は夕食に使うはずだった食材 サラの機転がジョンを救ったのだ&br;女は低級の吸血鬼だった ニンニクの臭いは吸血鬼にとって耐え難い物で、吸血鬼は悲鳴を上げてジョンから体を離す 即座にジョンは構えを作る しっかりと踏みしめた一撃は素人のそれよりも遙かに強力だ 正拳、回し蹴り 肘打ち 今度は全て打ち込む&br;打撃のたびに吸血鬼は血を流し、カエルの様な悲鳴を上げる そしてよろよろと後ろに下がると、脱兎のごとく走りだした&br;公園の植え込み 木や花の種類を示す木製の看板を蹴散らし、闇に消えていく ジョンは一瞬、サラの方を見る 彼女は体を起こしてはいるが立ち上がることも逃げることも出来ない様子だ しかし吸血鬼を逃したままにしておく事は出来ない&br;奴はまだこの近くで隙を伺ってるかもしれないからだ ジョンは真っ暗な公園の植え込みの中へと吸血鬼を追いかけていった&br; 
---遠くからパトカーのサイレンの男が聞こえる そして警報の鐘の音 木々のざわめく音 走り去る音は無い この近くに吸血鬼は潜んでいる ジョンは確信していた&br;しかし一体どこに? 彼はまだ未熟だった 周囲を伺うジョンのその真上から突如吸血鬼が跳びかかり、ジョンを地面に押し付けた &br; 
---ゴギン 凄まじい腕力だった 吸血鬼と化した人間はその肉体の限界を超えた能力を発揮する 普通の人間がやればたちまちの内に肉体の方が崩壊するだろう&br;だが痛みに鈍くなり、強力な再生能力を持つ様になった吸血鬼にとっては些細な事だ ジョンは吸血鬼に組み敷かれ、マウントを取られてしまっていた&br;ジョンの通っていた道場は空手ではあるが柔術的な投げや寝技、そしてそれらへの対処も教えていたがジョンほどの体格ともなるとダウンはほとんど想定していなかった&br;寝技にしても、体格差が顕著に過ぎては練習も一苦労だ そしてジョンに匹敵するような体格の者は道場には誰も居なかった だからジョンはこういった状況への対処が上手くない&br;両腕を上げてで必死に顔面を守る そのガードの上から滅多やたらに吸血鬼は殴りかかった 技術もヘッタクレも無い、純粋な殺意&br;低級な吸血鬼になる事で女は完全に正気を失っていた ただ、獣の如くシンプルな思考で動いている 慈悲も躊躇もない ジョンが死ぬまで吸血鬼は殴り続けるだろう&br;徐々にガードが下がり、力を失っていく 何度も振り下ろされる棍棒の様な打撃 腕が軋み、悲鳴をあげていた、骨も何箇所も砕けているだろう ジョンは死を覚悟した &br; 
---&br;こんな所で死ぬ?俺は一体なんの為に体を鍛えたんだ 俺は一体なんの為に生きてきた どうして俺はあの時生き延びた&br;&br;俺が死んだら サラは? 俺はまた失うのか? 自分すらも失くして、さらに失うのか?&br;&br;「ウオオオオオオッ!」ジョンの目に怒りの炎が燃え上がる 一撃を覚悟し、ガードを外して吸血鬼の脇腹を殴りつけた 吸血鬼の上体がぶれ、攻撃が止んだ&br;右手でさらに吸血鬼の腹を殴り続けながら左手は体勢を直そうと必死に地面を這う その手が何かに触れた… これだ&br;「グルァァァァァアア!」吸血鬼は苦悶と怒りの入り交じる声を上げる まさに雄叫びだ、野獣の吠え声だ 高々とその手を持ち上げ、ジョンの顔面に振り下ろさんとしたその時だ&br;&br;''ドンッ''吸血鬼の動きが止まる その胸に、尖った木の先端が食い込んでいた 吸血鬼が逃走の際にぶつかり、根本から蹴散らされていた木製の看板だ&br;吸血鬼は声にならない音を口元から発し、そのまま真横に崩れ落ちた&br; 
---ジョンはなんとか痛む体を起こし、胸に杭を穿たれた吸血鬼を見る みるみるうちにその体が崩れ落ち、干からび、骨となり、やがて灰の塊となっていく&br;後には血で固まったシミーズと 女が指に嵌めていたのだろう、小さな指輪が残された ジョンはその光景に目をそむけた&br;ジョンはよろよろと足を引き摺りながらもサラの元に戻った 誰かが異変に気づいたのだろうか 沢山のパトカーのサイレンがすぐ近くまでやってきていた&br;「サラ、大丈夫かサラ?」しかしサラの容態はおもしくなかった 顔が真っ青だ、体がひどく冷たい まさか、たったこれくらいの傷で!?&br;吸血鬼に傷を付けられると吸血鬼症を発症する場合がある 潜伏期間は長くて数日、数週間かかる事もあるが、即座に発症する場合もある その症状は様々で、吸血鬼の眷属となってしまう事もあり またショック死する場合もある&br;&br;「サラっ!サラッ!」ジョンは必死に冷えていくサラの体を抱きしめ、揺さぶった うっすらとその目が開く まるで小さな白い貝殻の様だ 「ジョ…ン… ジョン…… 渡したかった物があるの…」サラがポケットからくしゃくしゃの紙片を取り出す&br;「ジョン… あなたと一緒に……」その手をジョンは握り返す そしてそれ以上の言葉は彼女の口から発せられる事はなかった&br; 
---''†††††††††††††††††††''&br;その後、ジョンは道場を去り、どこへともなく旅へ出た 道場は妹を失ったダニーが、年老いた師範の代わりとして後を継いだそうだ&br;彼女がジョンに渡したのはコンサートのチケットだ 古いシャンソンのコンサートのチケット&br;血でくしゃくしゃのチケットはほとんど内容が分からないが、かろうじて読める曲目にはこうあった&br;[[愛の讃歌>つべ:rOSbWsgJ3X4]]&br;
'''Le ciel bleu sur nous peut s'effondrer''' &br;
青い空が落ちてきても &br;
'''Et la terre peut bien s'ecrouler'''&br;
この大地が崩れても &br;
'''Peu m'importe si tu m'aimes''' &br;
貴方に愛されていればどうでもいいの &br;
'''Je me fous du monde entier''' &br;
世界の事なんて 私は知らない &br;
'''Tant que l'amour inondra mes matins''' &br;
愛にあふれる朝が続くのなら&br;
'''Tant que mon corps fremira sous tes mains''' &br;
貴方の手で私の体が震えていれば &br;
'''Peu m'importe les problemes''' &br;
他に大事な事なんて何もない &br;
'''Mon amour puisque tu m'aimes'''&br;
愛しい貴方に愛されるなら &br; 
 &br; 
 &br;
'''J'irais jusqu'au bout du monde,'''&br;
世界の果てでも行きましょう &br;
'''Je me ferais teindre en blonde'''&br;
髪をブロンドに染めましょう &br;
'''Si tu me le demandais'''&br;
貴方が望むのなら &br;
'''J'irais decrocher la lune'''&br;
月をとってあげましょう &br;
'''J'irais voler la fortune'''&br;
未来も盗みましょう &br;
'''Si tu me le demandais'''&br;
もしも貴方が望むなら &br;
'''Je renierais ma patrie'''&br;
国も捨てましょう &br;
'''Je renierais mes amis'''&br;
友達も捨てましょう &br;
'''Si tu me le demandais'''&br;
もしも貴方が望むなら &br;
'''On peut bien rire de moi,'''&br;
どんなに人に笑われようと &br;
'''Je ferais n'importe quoi,'''&br;
どんな事でもするでしょう &br;
'''Si tu me le demandais'''&br;
もしも貴方が望むなら &br; 
 &br; 
 &br;
'''Si un jour la vie t'arrache a moi'''&br;
貴方が命尽き引き裂かれる日が来ても &br;
'''Si tu meurs, que tu sois loin de moi,'''&br;
貴方が死んで遠くに行ったとしても &br;
'''Peu m'importe si tu m'aimes'''&br;
貴方に愛されていればどうでもいいの &br;
'''Car moi je mourai aussi'''&br;
その時私も死ぬでしょうから &br;
'''Nous aurons pour nous l'eternite'''&br;
いつまでも貴方と共にいるでしょう &br;
'''Dans le bleu de toute l'immensite'''&br;
どこまでも広がる青い &br;
'''Dans le ciel plus de problemes'''&br;
空の中で心配する事は何もない &br;
'''Mon amour crois-tu qu'on s'aime'''&br;
私たちはお互いに愛しあっているのでしょう? &br;
&br;
'''Dieu reunit ceux qui s'aiment'''&br;
神が愛しあう二人を再開させるでしょう &br;
 &br; 
 &br; 
---''ChthoniC 了'' 
#endregion
**カレガメイヘムニナッタワケ [#ycde47d8]
#region(第八話)
-''[[MARDUK>つべ:_SRSYVweNn0]]''
--「ちくしょうっ!ちくしょうっ!」一体何がどうなってやがる!? 俺は上手くやっていたはずだ ハンターギルドにも警察に金をばらまいた 俺の事業が完璧だったはずだ!&br;俺の名はモルガン 吸血鬼の世界では少しは知られた名だ 俺が人間だった頃は医者だった 俺の医院に雇った女が吸血鬼で、俺はその女のせいで吸血鬼になっちまったのさ&br;俺はその女を怒りのあまりぶち殺しちまったが、そんな事をしてもどうにもならない 一時期は普通の人間になろうと色々努力もしたが虚しくなった&br;今はもう、吸血鬼として第二の人生を歩もうと決心を固めている 他にどうしろっていうんだ?&br;幸いにも、俺は外科医だ 知っての通り、吸血鬼には血が必要だ 医者なら輸血用の血液が簡単に手に入るんだ&br; 
---最初のうちは自分で使う分だけだった しかし暫くする内に吸血鬼の知り合いが増えてきた 職業柄もあってそこら辺とも付き合いが増えてきたんだ&br;彼らに輸血用の血液を分けてやってるうちにピンと来た これは商売になるんじゃないかってね&br;俺の読みは当たった ツテを使って血はいくらでも手に入る 吸血鬼のなかには大金持ちも居るしな&br;血の提供者の人種や年齢、性別、社会的地位に至るまで おれは細かく調べあげ、分類した それが「客」に受けた 金持ちの吸血鬼はいくらでも金を積む&br;金の力はなんとも偉大だ 貴族気取りのじじい吸血鬼共は金の使い方をわかってない
---俺はまず地元の刑事と接触した 古株だが欲深い男だ マフィア連中ともつながりがある マフィアにいきなり行くのは俺もビビった&br;だが警官ならいきなり撃ったりはしないだろうと思った 話は順調に進んだ&br;その男を通じてマフィアにも警察の上層にも そしてハンターギルドにもコネができた 俺の「ブラッディ・ルート」のあがりの6割は奴らに吸われたが仕方がない&br;まったく、どっちが吸血鬼かわかったもんじゃないな&br; 
---マフィア連中は俺のルートにいたく興味を持った 俺は運び屋の代行もするようになった 麻薬だとか武器だとかな&br;うなるほど金が転がり込んできた 俺は数年でしがない現場の医者から大富豪になった 警察も俺から金を受け取ってる&br;いざとなればその証拠をネタにしてやれば警察もハンターも信用はガタ落ちだ&br;まさか市民を守る正義の味方が、吸血鬼と取引をしてるなんて思わないだろう? だがそれが世の中のカラクリって奴さ&br;でかい屋敷も買った 空気の悪い街中よりも草木や夜景の美しい郊外の方が俺にはふさわしい&br;かつて貴族が暮らしていたという豪華な屋敷だ 俺は吸血鬼なんだ、だから吸血鬼らしく振舞うのさ 若い女の新鮮な血を飲んだことはあるか?&br;マフィアどもが娼婦にしようとしてた女を金で買った 貧民窟で借金のカタにされたらしい 酒もタバコも薬物も一切使った事のない生娘だ&br;最高のフィレステーキを完璧な加減で火を通して、濃厚なワインソースを垂らした様な・・・&br;とにかく最高に甘美な味だ 俺はたまにそういった女をマフィアから融通されるようにまでなった&br;俺の第二の人生は順風満帆・・・ のはずだった &br; 
---「どうなってやがる!?何でハンターが俺を殺しに来るんだよ!?裏切りやがったなっ!?」&br;俺は電話の向こうに怒りをぶちまけた 相手はハンタークランの幹部でこのあたりの支部長だ&br;俺はこいつに大金を払ってるんだ なのになんで俺の屋敷にハンターが向かってる!?なんで俺の護衛が殺されてるんだよ!?&br;「よく聞いてくれ、俺たちじゃぁ無い そのハンターはおそらくフリーランスの、成り立ての奴だ こっちでも情報をつかんでいない とにかく、今応援を回す」&br;「ふざけるなっ!!何がフリーのハンターだ! ただじゃおかないぞっ!」&br;受話器を叩きつけて俺は考えた くそっくそっくそっ!俺が雇った護衛は全部で10人だ&br;屋敷の周りを見張っていた4人と連絡が途絶えた 様子を見に行った1人は通信機から悲鳴を残してそれきりだっ なんで俺がこんな目に合うんだ!&br;「'''ギュイイイイイイイイイイイ ・・・ぁぁあぁーーー!!!!'''」&br;また一人やられた・・・ なんだよ今の音は? 畜生っ、もう屋敷の中にまできてやがるのか!?&br; 
---奴は実際狂ってる たった一人で乗り込んできた上に、ご丁寧に部屋をひとつひとつ火をつけて回ってる&br;全部ぶち壊して皆殺しにするつもりだ!畜生!畜生! 俺の屋敷が!役立たずの護衛もっ ・・・俺も焼かれるのか? 嫌だっそんなのは嫌だっ&br;この屋敷にはたくさんの通路と部屋がある 俺は当然その構造を把握してる 出し抜けるはずだ・・・・&br; 
---''†††††††††††††††††††''
---&COLOR(red){ モルガンの屋敷を襲った男は見張りの四人を瞬く間に惨殺した 死体にはどれも深く、巨大な切り傷が付けられている&br;血溜りを踏み越え、男は屋敷の正門へ真っ直ぐに近寄った 窓から数人の男が拳銃で銃撃するがまったく動じた様子も見せない&br;木製の古めかしい、一枚板の重厚な扉に男は両の手にした丸ノコを突き入れる&br;大量の砕けた木片が舞い散り、粉塵が周囲を覆う 切り目を付けた扉を、男はブーツで蹴り破いた!&br;スーツ姿に拳銃を構えた男がテーブルを盾に進入者に銃撃を加えた 黒いハットに黒いロングコートの不気味な男は銃撃にも怯まず腕を振り上げた&br;巨大な質量と残酷に回転する刃を持った金属塊がテーブルごと二人の体を切り裂き&br;「''ぁぁああーーー!!!!''」断末魔と共に崩れ落ちた&br;&br;男は徹底的だった 広い屋敷のいくつもの部屋をひとつひとつ回り、その中に火をつけてまわった まさに狂気の沙汰だ&br;数世紀の間、主を守り続け 郊外に佇む由緒ある屋敷 そこはいまや炎の棺桶だった};&br; 
---くそったれっ 護衛は皆殺られた!俺は護衛の一人の死体から拳銃を抜き取った 奴はあちこちに火を付けて回っている&br;あちこちから煙があがるが俺の目はそれでも廊下を見通すことが出来る 俺は今、奴の真後ろに居る&br;くたばりやがれっくそったれハンターめ! 俺は男の背中に向けて引き金を引いた おもちゃの爆竹みたいな軽い爆発音が鳴り 奴が前のめりに倒れた! やったぜ!&br; 
---&color(RED){煙と炎が巻き上がる、インフェルノ・レジテンス 高価な調度品や絵画も、男の前には全て無価値だった&br;男は全てを破壊し尽くすつもりだった 吸血鬼と、吸血鬼の所有物の全てを、男は憎んでいた まさに炎のように&br;煙と炎の中、バーバリー製の特注スーツを着込んだモルガンが拳銃を構え、ハンターの背中に三度、引き金を引いた&br;倒れ伏す男にモルガンは会心の声を上げた 男は拳銃を倒れたハンターに向けたまま、ゆっくりと近づいて行った&br;あちこちで木材の爆ぜる音や崩れ落ちる音が立ち始めていた もしもそれが無ければ モルガンは気づいていたはずだ 鋭敏化された吸血鬼の聴力で、男の心臓がまだ動いている事を&br; };
---&color(RED){モルガンは倒れ伏したハンターの巨体を跨ぎ、その後頭部に銃を向けたまま 自分を襲ったハンターの顔を見届けてやる&br;その体を蹴り転がそうと、革靴のつま先をハンターの肩口にかけたその瞬間、モルガンの手から拳銃が落ちる 拳銃だけではなく その手首から上がバッサリと切り裂かれたのだ&br;「''あああああああっ!!?''」 男は信じられないと言った顔で自分の手首を押さえた 反射的に胸のハンカチで傷口を縛り止血を試みる だがそれは無意味な行為だ&br;モルガンはすでに吸血鬼なのだ 普通の人間とは違う その隙に出来るだけ早く逃げるべきだったのだ 男の背後で黒いコートの巨体が、ゆっくりと起き上がる};&br; 
---&color(RED){モルガンの背後に立ち上がる巨体 その手には丸ノコが握らていた モルガンは驚愕の表情で振り返る「て、てめぇっ!一体なんなんだ!?何者だ!?」&br;叫ぶような声にも、男は全く応えようとはしなかった ただ低く、落ち着いた声で「死ね」「吸血鬼は全部」「死ね」&br;男はは知らなかった 男のコートは防刃繊維で、さらにその下にもプレート入りのチョッキを着込んでいた 拳銃弾くらいは楽に防げてしまうのだ&br;モルガンは男の放つ明確な殺意と猛烈に放たれる憎しみに絶句し、後ずさった 今まで闇の世界の「運び屋」として吸血鬼やマフィアと仕事をしてきた&br;それでも、これほど人を恐ろしいと思ったのは初めてだった 「うああああああっ!!」腹の底から、意思とは関係なく声が上がる&br;ハンターに背を向けてかけ出したその瞬間に、ハンターがソフトボールのピッチャーの如く、アンダースローで鉄塊を放つ&br;鋭利な丸ノコは正確に、モルガンの片足を切断し 男は悲鳴を上げて膝立ちに倒れこんだ};&br; 
---&color(RED){「アァァアアアアー!!!足がぁっ!足っ!ああああーーーーー!いっぃいい゛い゛い゛っっ!!!」狂わんばかりに泣き叫ぶモルガンを、男非情にもブーツで踏みつける&br;黒いコートの影に隠れた顔からは表情も伺えない「聞きたいことがある インタヴューだ、モルガン」 感情を感じさせない、冷たく、決然とした声だ&br;「貴様と取引のある吸血鬼を全て吐け 吐きたくなるようにしてやる」男はモルガンの腕の上に、重たく、唸りを上げる丸ノコを落とした&br;「ァァァアアアアアアーーーー!!!!!ァ゛ーーー!!!!!」しぼり出すような悲痛な叫びがあがり、モルガンの腕が切り離された 普通の人間であればショック死しているだろうが彼は吸血鬼だ、ただでは死ねない&br;「っっぁっ・・・どうなるかわかってるのかっ お前はっマフィアからも吸血鬼からも狙われるんだぞっ!!」答えを言わぬモルガンに男は無言で応じる モルガンの股間を硬いブーツの底で踏みつぶした&br;「ま、待てっ待てっ 言うっ全て言うからっやめてくれっ」&br;&br;消防隊が屋敷に到着する頃にはすでに屋敷のほとんどは焼きつくされてしまっていた 歴史的な建造物であった屋敷は一人の吸血鬼ハンターの凶行によって灰燼と化した&br;だがそれはただの始まりに過ぎない その後、その街のあちこちで同様の襲撃事件が発生した すべて同一の新人の吸血鬼ハンターの手によるものだ&br;街の内外に潜伏していた16人に及ぶ吸血鬼と、吸血鬼とつながりのあったマフィアグループ数十名 そして警官一名が殺害されたが全て吸血鬼との関連が実証された&br;ジョンと名乗る新人吸血鬼ハンターはそのあまりに破壊的なやり方からこう呼ばれるようになった 「MAYHEM」と };
-''MARDUK・了''
#endregion
**ガ−ン [#m510cd9c]
#region(幕間)

-''Interlude''
--メイヘムの傷は思いの外深かった あの男に抉られた胸の傷は止血剤と包帯をもってしても出血を完全には押さえられない&br;感染症の可能性も高い 男は仕方なく、満身創痍のその足で医者の元へと足をすすめた&br;だが普通の医者ではない 吸血鬼ハンターである男は常に狙われる身だ 傷を負った事実さえも隠さなくてはいけない だから普通の病院にはいけなかった
---「………それで、どの程度持つんだ」男は目の間の女医に問うた 女はとある娼館専属の医者で、外科治療はお手のものだ&br;まださほど歳は言ってないように見えるが・・・ 果たして、それは人間の尺度で考えていけない ここはゴールデンロアなのだ&br;「そうね、まぁあなた次第だけど一年か、運が良くて二年くらいかしら?」女医はまるで世間話でもするかのように明るく言った おそらく、彼女の性分なのだろう&br;末期ガン 男はそう診断された 怪我を縫い合わせる代わりに、別の深刻な傷を解かれてしまったのだ
#endregion
**ヘブンズ・ドア [#i209e345]
#region(最終話)
-[[''EMPEROR''>つべ:WnFqfI4jec8]]
--真夜中 都市の片隅にたたずむ小さなカソリック教会 聖書の一部をその意匠としたステンドグラスを月灯りが仄かに照らしている&br;教会の中ではスーツにストールを肩から下げた老人が電気スタンドの下で本を読んでいる そこに扉を開けて入ってくる人影があった 老人は入り込む冷たい空気に顔をしかめた&br;その男は全身黒尽くめで二メートル以上はあろうかという大男だった 黒いハットに隠れてその顔はよく見えない、不気味な男だ だが老人は落ち着いた様子で本を閉じ男を出迎えた&br;「こんな夜更けに、何かお困りですかな?」 男は数歩、老人の方に進みそこで立ち止まり言った「吸血鬼だ」 老人は顔をしかめた&br;「牧師さん? あんたは吸血鬼に詳しいと聞いている 俺はハンターだ あんたの話を聞きたい」 「ああ、なるほど いやはや、驚いたよ もちろん喜んで教えよう 神に背む呪われた、哀れな生き物達だ・・・」&br;「北の街に現れるという吸血鬼については?」「もちろん、よく知っているよ」老人は静かに語り始めた
---明け方近くまで話しこんだ後、男の方から老人に別れを告げた「数ヵ月したらまた戻る」&br;男は約束の通り、教会へと戻ってきた「あんたの情報はただしかったよ牧師さん ただ少し違う部分もあった&br;やつらは執念深く、様々な攻撃手段を持っていた 特に危険だったのは、奴等は実際には群れる事があると言う事だ」&br;「それは初耳だ」老人が言った「よく生きて戻った、大いに人々が助かっただろう 君は幸運な男だな」&br;「いいや、運じゃない」男が応える「俺は自分しか信じないんだ」&br; 
---「別の吸血鬼の話しを教えてくれ」男が問う「良いだろう、君はシバーニアの吸血鬼を知っているかね? 彼女の事を話してやろう」&br;「彼女は吸血鬼としてはまだ若く、姿も少女の様だ だがその姿に騙されてはいけない 彼女は無邪気に、その怪力で人を引き裂く&br;彼女に殺された吸血鬼ハンターも多い……君の様な手練れならば心配はないだろうが……」&br;老人と男との会話はまた明け方近くまで続いた 男は黒いコートを翻し、まだ暗い街へと消えていった
---数ヵ月後、男は教会に再び姿を現した「あんたの言う通りだった、だが取り逃がした&br;奴は素早く、凶暴で怪力をもつ だが殺せない相手じゃない、じきに追い詰めるさ」&br;老人はいつもの通り、真夜中に訪れた男に片手を上げて出迎えた「逃がしたのは残念だな」&br;「あの吸血鬼はジュネと名乗っていた…他にも知りたい事がある」「勿論、力になろう」&br;男はまた別の吸血鬼の噂話を老人に伝えた 霧のごとく姿を消す怪物だ&br;「ふむ、それはセメタリーだね そいつの事はあまり知られていない…あるハンターは銀の剣を素手で折られたそうだ」&br;「銀はつうじないのか?」「かもしれない、霧のように変化するのも本当の様だ…危険な相手だぞ」&br;「不死身かどうか、確かめてやるさ」
---そして数日後の事だ 真夜中の来訪者はまた無言で扉を開け老人の元へ行く&br;「どうだったね?」&br;「最近は吸血鬼以外の敵が増えた……やつは確かに銀は通用しなかった、だがにんにくは効果があった」&br;「ほう」&br;「だが殺せなかった、奴は霧となった…ダメージはあるようだが滅するには至らない…何かが足りない…」男は黒いハットを掴みかぶりを降った&br;「ふむ…」老人が顎を撫で下ろし、手にしていた本を置く「私は錬金術の知識もある…何か残留物などはないか?」&br;「探してこよう…」そうしてまた男は暗闇の中に消えていった
---また一月ほどが経ち、男は教会へ戻った その手の中には血濡れの布が握らている 男はあいかわら険しい目つきで老人を睨む&br;「手に入れてきた ・・別の吸血鬼の血も混じっているかもしれんが」男は老人の真横に布を放る&br;「ほう・・・別の吸血鬼も?いったいどうっやってこれを?」&br;「知り合いの吸血鬼が居る・・・ そんも吸血鬼と血が交じり合っているはずだ それでも判るか?」男は僅かに躊躇しながら言った&br;「知り合い? ははは、ハンターの君に知り合いの吸血鬼が居るとは ・・・ふむぅ、まぁやってみよう 錬金術の基礎は要素の抽出にある」カソック姿の老人は布切れを手に立ち上がる&br;老人は教会の片隅の部屋へと赴き、最近取り付けられたと思わしき簡素な錬金用具を操作し始めた&br;「君は一体何故それほど吸血鬼を狩るのかね ・・・君の身体は、ボロボロじゃないか」老人は受け取った布を小さくハサミで切り取り、得体のしれないアンプルに浸す&br;「金だ 俺には金が要る、それだけさ ・・・そろそろ潮時とは感じている」&br;「そうか・・・ ふむ、結果が判るまでもうしばらくかかるな・・・ 君は「ベールヴァルド」を知っているのかね?かつて強大な力を振るった吸血鬼の事を?」&br;そう言って老人は語り出した それは千年も前、ある地方に現れ、地域を恐慌に陥れた邪悪な吸血鬼 老人が語る所によれば最近、その封印が解けたとの事だ&br;「おどろいたな」巨体の男が珍しくそう言った&br;「そいつは少し前にでくわした・・・知恵の回る奴だ ・・・その吸血鬼の伝説は子供の時に読んだ記憶がある」&br;「ふむ、地域が近いのか?」老人は部屋の中にある書棚を開いた そして中から古い一冊の本を選び出す&br;「これをやろう この中にはあの怪物が、アウグスティン・ベールヴァルドの様々な記録が残っている 何かの役に立つかもしれない」
---その後、いつもの様に夜明け前まで老人と男は吸血鬼を殺す手段について議論した&br;そして男が教会を出て数ヶ月が経ち、また教会に男が表れた 傍目には変わらぬ姿だ&br;だがその歩みは明らかに深い傷を負っている風だった&br;「大丈夫かね、やられてしまったのか?」老人が声をかける&br;「いいや…ベルヴァルトと…セメテリーを殺した 正確にはセメテリーの力を奪った吸血鬼をな」&br;「これは驚いた……それで、あの東洋の吸血鬼はどうしたのかね?」&br;「そっちはまだだ まだ正体を見て居ない」男は嘘を付いていたが、抑揚の無い、感情を感じさせない声色だった&br;「そうか、あれは恐ろしく狡猾な吸血鬼だ 早く君の手にかかる事を祈る…だが今は少し休みたまえ」
---老人の言う通り、男の足取りは酷く危ういものだった 男は強大な吸血鬼と立て続けに戦い、そのまま次の獲物を追おうとしていたのだ&br;「まだ休む訳にはいかない・・・ まだ追っている吸血鬼が居る この街のどこかを根城とする吸血鬼がまだ居る・・・ そいつを探し出せねばならない」&br;「吸血鬼の居場所なら、吸血鬼に聞くほうがいいんじゃないかね? その君の「知り合い」に?」&br;最もな意見だったが男は答えなかった 今度の相手は恐らく、今までのようには行かない そう男は直感していた&br;自分を襲い、そして討ち果たした吸血鬼の語っていた「吸血鬼の同盟」 ハンターとしての勘がそれが嘘ではないと告げていた&br;そしてその相手は大きな組織を持ち多くの配下を連れているだろう だとすれば・・・だとすれば、その居場所をあの娼婦吸血鬼から聞くことは出来ない&br;彼女にとっては吸血鬼は同胞だ 多くの同胞を売り渡す結果となる それは男にとって心苦しいものだった&br;心苦しいだって? 何者も恐れに狂気と言われたハンター、「メイヘム」が心苦しいだって? とんだお笑い種だ 自然と男は口をゆがめていた&br;「他にもお前の知っている吸血鬼は居ないか?」&br;「そうだな あと一人だけ心当たりがある」老人が答えた&br;「それは古くからこの街に入り込み、人間の中にすっかり入り込んでいる それがとても上手い奴だ そいつはとても賢く、次々とこの地のライバルを消してきた・・・危険な奴だよ」&br;「そうか・・・そいつも見つけたら、俺が殺そう」そう言って再び男は教会を出た
---夜明け前 微かに東の空が輝き始めたころ、都市の片隅に佇む小さなカソリック教会&br;老人はそれまで読んでいた本を閉じ立ち上がり、個室へ向かおうとしていた そこに突然、音を立てて扉が開く&br;現れたのは黒衣の男 黒いハットを手で押さえながら大股で老人の下へと進んでいった&br;「久しぶりだ もう会えないと思っていた所だよ・・・首尾はどうだったのかね?」老人は男に向き直った&br;「あまりうまく無い・・・ やつの飼い犬を仕留めただけだ・・・」黒衣の男は尚も歩を進め、老人のすぐ前までやってくる その巨体から禍々しい気配が立ち込めていた&br;「それは残念だ・・・だが、そいつの力削ぐことはできただろう 無事で何よりだ ・・・そういえば「もう一人」の吸血鬼は見つけられたかね?」&br;「古くから街に住み着く、賢い吸血鬼・・・」&br;「そうだ・・・彼を見つけるのは至難の技だろうな・・・ さて、そろそろ時間だ、私はこれで・・・」しかし去りかけようとした老人を制止するかのように男から声がかかる&br;「見つけたさ」その答えに老人が懐疑的な表情を示した途端、男は丸ノコで老人の両腕を切断した そして悲鳴を上げる間も許さず、足で老人の体を押し倒して踏みつけた&br;瞬きをする間も無いほどの一瞬の出来事だった&br;「グアァァアアアアアァ!! 貴様ぁっ!何をする!?」老人は声を荒げ、男の足元でじたばたと抵抗する 男を睨み付けるその目は赤く燐光を放ち その口にはまごう事無き牙&br;「俺を忘れたか牧師? あれから30年だ・・・ 俺は今日までに95人の吸血鬼を殺した お前で96人目・・・お前があの村で殺した人数だ」&br;吸血鬼は男の告白に目を見開いた 30年後にやってきた刺客 まさかこんな所で現れるとは思ってもみなかった&br;「貴様・・・そうか、あの樵のガキか・・・ 俺が殺した村人の数だと? ククク・・・嘘をつくな、そのうちの一人はお前が殺したんだろう!?あのブロンドの女っ!&br;良い女だったなぁ お前みたいな糞ガキには勿体無い お前が生き残ったという事はお前が殺したんだろう!?」&br; 
---「そうだ だから「97人目」も必要だ 」&br;黒衣の男はそう言って口を歪めて笑った&br;その口には異常に伸びた牙が光っていた 「教えてやろう、カソリック教会には、牧師は居ないんだ」&br;東の空から陽光が 教会の壁に空けられた明り取りから十字の形に差し込むはじめる 黒衣の男は尚も抵抗する老吸血鬼を片手でつかみあげた&br;日の傾きにあわせ、ゆっくりと陽光が祭壇の十字に向かっていく その祭壇には二人の吸血鬼の姿があった&br;吸血鬼にとって陽は死&br;呪われた肉は灰となる&br;全てを消してしまうのだ&br;朝霜のように消えるのだ

---夜のヴェールが拭われ、白銀の光が街を照らし 闇が光に完全に払われたころ 人々が新たな一日の活動を始めたころ&br;寂れたその教会に動くものは何もなかった 教会に吸血鬼が巣食っていたことも その身を呪われた血へと変えた一人のハンターがそれを滅ぼし 自らも死んだことなど 誰も知ることは無いだろう&br;名も無き男 ここに眠る
---''†††††††††††††††††††''
---''EMPEROR 了''

#endregion