#navi(../) #menu(empty) * ヘモッグ家出身 ラムトール 373305 [#t1190a6a] [[ステータス>http://gold.ash.jp/main/?chrid=373305]] / [[戦歴>http://gold.ash.jp/main/advlog.cgi?chrid=373305]] / [[続き>名簿/382612]] #contents ---- **145年1月 [#g3d3eb64] &br;&br;&br;&br; &br;&br;&br;&br; &br;&br;&br;&br; CENTER: アイスニャンが、死んでしまった &br;&br; &color(#006){曖昧な意識のまま ラムトールは混乱していた}; &br;&br; アイスニャンが、ずっと一緒にいたアイスニャンが死んでしまった &br;&br; &color(#006){認めたくなかった&br;&br;ラムトールはぼんやりと思う&br;どこかに入り込んで出られなくなっているのかもしれない}; &br;&br; ほらいつだったか ギターの弦を張り替えている間に&br; ギターホールから胴の中へ潜り込んでいた事があったじゃないか &br;&br; アイスニャン &br; ねえ 何処に隠れたの アイスニャン &br;&br; &color(#006){勿論 返事はない&br;&br;&br;&br;&br;最後にあの不思議な 猫のような風船のような生き物を見たのはいつだろう}; &br;&br; 思い出せ 思い出せ &br;&br;&br;&br; そう &br;&br;&br;&br; 弓を持った女が まるで人形のように &br;&br;&br; なんてあっけないんだろう &br;&br;&br; あれは蠍だ 巨大な &br;&br;&br; 丸太のような尾が &br;&br;&br; まるで雪球でも砕くように &br;&br;&br; アイスニャンごと &br;&br;&br; 僕を &br;&br; &br;&br; 僕は &br;&br; &br;&br; &color(#006){ラムトールは気づく}; &br;&br; 僕は死にかけているのか &br;&br; 寒い &br;&br; 寒いよ &br;&br; でもなんだか &br;&br; それも だんだん &br;&br; どうでもよくなってくるね &br;&br; 死んじゃったら 同じところに行けるのかな &br;&br; &br;&br; そうだといいな &br;&br; &br;&br; &br;&br; ああ &br;&br;&br;&br; あの白い光はなんだったのかな &br;&br; ここは何処だろう 洞窟に居たはずなのに &br;&br; アイスニャン &br;&br; ねえ アイスニャン &br;&br; 返事してよ &br;&br; ねぇ &br;&br;&br;&br; ねえってば &br;&br;&br;&br;&br;&br; &br;&br;&br;&br;&br;&br; なんだろう あの音 &br;&br; 冷たいような暖かいような金属音 &br;&br; ポーン ポーンって &br;&br; 凄く響くね &br;&br; 綺麗な音 &br;&br; 天使が来たかな &br;&br;&br;&br; あはは &br;&br; すっごいしかめっ面 &br;&br; しかめっ面の緑の小人だ &br;&br; いつも不機嫌だった従姉妹のケイシーに似てる &br;&br;&br;&br; ああ &br;&br; ああ綺麗な白い猫 &br;&br; 凄く綺麗 &br;&br; アイスニャンの友だちだといいのに &br;&br;&br;&br;&br;&br; &color(#333){ねぇ待って}; &br;&br; &color(#666){何処に行くの なんだか見えづらいんだ}; &br;&br;&br;&br; &color(#999){待ってよ}; &br;&br;&br;&br; &color(#ccc){僕もそっちに・・・・}; &br;&br;&br;&br; &br;&br;&br;&br; &br;&br;&br;&br; **145年2月 [#s9e4bedb] ***故郷へ続く空 [#ka8011d9] 白猫の背にまたがった緑の小人が&br; 時折ぽーん、ぽーん と鉄琴のようなものを鳴らし居場所を告げる&br; 幽鬼のようにふらり、ふらりと後を追うのはラムトールだ&br; &br; 時折こちらを振り返る白い猫を追いながら&br; ラムトールはまたぼんやりとした頭で考えだした&br; &br; アイスニャンは普通の猫ではなく 妖精や精霊のような魔法的な存在だった&br; だから、死んだのではなくてこの場所に居られなくなっただけで&br; きっとどこかで僕の事を待っているのだ&br; &br; アイスニャンは寒いのが好きだったからきっと &br;もっと雪がいっぱい降る場所に居るかもしれない&br; &br; 思わず北を見上げる&br; もちろんその方向が北だったのかはわからないが&br; 木々の合間から見える空はどんよりと曇で満ちていた&br; &br;&br; あの混沌とした街をずっと北へと辿っていくと&br; 彼が生まれ育った、雪に覆われた一つの国にたどり着く&br; &br; もしかすると&br; 故郷へ帰ればアイスニャンが待っているのではないだろうか&br; &br; ふらり、ふらり 北だと感じた方角へ何歩か進んだ後で&br; ラムトールは目を閉じ、首を振った&br; あそこは精霊の忌み地なのだと聞かされた事を思い出し、ため息をつく&br; &br;&br; そして&br; &br;&br; 自分がすっかり白猫と小人を見失っていることに気が付いた &br;&br; ***珍しい茸 [#h6ffa988] 白猫と小人は何処へ行ってしまったのだろう&br; 極端に狭くなってしまった視界で右を 左を&br; いや&br; &br; そもそもそんなものが居たのだろうか&br; この寒いさなか 猫が こんな所に&br; もしかして幻でも見ていたんじゃないだろうか&br; &br; そうだ あの音&br; 僕が後を追えるように鳴らしていたよく響く鉄琴の音&br; 耳を澄ませてみよう また聴こえるかもしれない&br; &br; &br; あの金属音の代わりに時折聞こえてくる奇妙な音が&br; 彼の胃が萎縮する音である事に気が付くまでに&br; かなりの時間が経過していた &br; &br; &br; 「恋愛しましょう」&br; 途方に暮れるラムトールの背後で声がしたのは突然の事だった&br; &br; 通称、恋愛しいたけ&br; 自らの脚で歩き回る巨大なしいたけ&br; ブラックエルフ、茸エルフの一種ともいわれる不思議な生き物がそこに立っていた&br; &br; もうどのくらい食べていないのだろう&br; 何か腹に収めなければ、自分は間違いなく餓死してしまう&br; &br; 「恋愛しましょう」&br; &br; 恋愛しいたけは焼くととても美味である&br; だがしかし、火種はない&br; それに何より、この恋愛しいたけには毒があった&br; &br; 「恋愛しましょう」&br; &br; 恋愛しいたけを食べた者は恋の病に落ちる 中毒を起こし稀に命を落とす者も居るという&br; 俗に言われる恋愛中毒というものだ&br; 今ここで恋愛しいたけを食べるわけにはいかなかった&br; &br; 「恋愛しましょう」&br; &br; しかしラムトールは知っていた&br; 茸エルフの居る近辺には季節を問わず茸が群生している&br; もしかすると食用に適した茸が見つかるかもしれない&br; &br; 「恋愛しましょう」&br; &br; 後をつけてくる恋愛しいたけを他所にラムトールは茸を探した&br; 駄目だ これには毒がある あれも それもだ&br; 食べれる茸は 食べれる物はないのだろうか?&br; &br;&br; ***天の牙 [#m73495f1] 毒性の有る茸の中に混じって一風変わった茸が生えているのをラムトールは見つけた&br; 赤に銀色じみたストライプの奇妙な茸&br; ベニテンガダケだ&br; &br; 味は酷くまずく食用には適さない&br; むしろその特殊な形状を利用し&br; 泊りがけの猟師などが性欲処理に使ったと云われている&br; 今となっては幻の茸だ&br; &br; 生のまま、ついた泥も気にせず むさぼるように食う&br; &br; うん 不味い&br; &br; もう一本&br; &br; 味は兎も角、長靴いっぱい食べたい そんな気分だった&br; &br; 薬草学を学んでいたラムトールはこの茸の事を知識として見聞きしてはいたが&br; 本物を見、口に入れるのは初めてだった&br; ましてや文献や口伝の内容に伏せられた部分が有るなどという事は知る由もない&br; &br; ベニテンガダケは食すると幻覚を見るのだ&br; &br;&br; ***幻覚 [#qb9230a3] グォコココ&br; バーカ!&br; |&br; カ&br; !&br; &br; 頭上を飛んでいったアレは一体なんだろう?&br; あんなものに捕まったらきっとひとたまりもない&br; ラムトールは逃げる&br; &br;&br; 木々の合間にうごめく影 そして囁き声&br; ハークル&br; ハークル&br; ハークル&br; ハークル&br; &br; 一つ目の毛むくじゃら&br; あんなものに捕まったらきっとひとたまりもない&br; ラムトールは逃げる&br; &br;&br; 冒険者を形取ったメカ夫婦&br; 独自に増え続け地に満ちる&br; あんなものに捕まったらきっとひとたまりもない&br; ラムトールは逃げる&br; &br;&br; 宙を泳ぐ狂気の魚類が語りかける&br; 「」さん ドラゴンズレアは最高ですよ&br; あんなものに捕まったらきっとひとたまりもない&br; ラムトールは逃げる&br; &br; AGOの長いIKEMEN&br; ラムトールは逃げる&br; &br; 目がおっぱいのエルフ&br; ラムトールは逃げる&br; &br; 異様な風体のメカクダン&br; ラムトールは逃げる&br; &br; 逃げる &br;&br; 逃げる &br;&br;&br; 逃げる &br;&br;&br;&br; ほのかな紅茶の香り&br;&br; 白磁の茶器&br;&br; クラシカルなテーブル&br;&br; 気が付けばそこは野薔薇の庭園&br;&br; 青いエプロンドレスが目にまぶしい&br;&br; 「お茶会へようこそ」&br; そう語りかける黒髪の少女&br; &br; 狂気をはらんだかのようなその視線に耐えられる気力はもう&br; ラムトールに残されてはいなかった&br; &br;&br; **145年3月 [#qc4217c5] ***異臭 [#r912891a] いつからそこに居たのだろう&br; ラムトールは薄暗いどこかで2人の男に挟まれ途方に暮れていた&br; 右側には角帽を被った男 左側には鎧に身を包んだ男&br; &br; 酷い有様だった&br; 角帽の男はひたすらに吐き続けていた&br; 鎧の男はひたすらにメルトし続けていた&br; &br; スカトロ趣味など持ち合わせていない自分が何故こんな目に会っているのだろう&br; この状況はいつまで続くのだろう&br; 生暖かい感覚がジワリ、ジワリと脚から上へ這い上がってくる&br; &br; ああ、こうして吐瀉物と排泄物にまみれて自分の人生は幕を下ろすのだろうか&br; ていうか君ら大丈夫ですか&br; かわいそうに 2人ともきっと苦しいに違いない&br; &br; そう思った刹那&br; 天空から降り注ぐ光と祝福の歌声が3人を包み込む&br; &br; 「ビューティライズ」&br; &br; 力強く、そして美しく響き渡る声&br; 美の巨人が舞い降りたのだ&br; &br; 角帽の男の吐瀉物はバニラクリームに&br; 鎧の男の排泄物はチョコレートソースに&br; みるみるうちにその姿を変えた&br; &br; ラムトールは思った&br; 2色アイスみたいだ&br; &br; そうだ&br; アイスニャンは何処に居るのだろう&br; &br;&br;&br; 自分の視界に広がっている何かが&br; 知らない部屋の天井であることに気が付くまでに&br; 随分と時間がかかった&br; &br;&br;&br; ***猿面冠者 [#fd57eeb9] ここは何処だろう&br; 僕は今どうなっているのだろう&br; &br; 自分は今横たわっているのがわかった&br; 体には藁のような物がかけられている&br; 何かがはぜる音 あたたかい 火があるのか&br; &br; ゆっくりと上体を起こす&br; 東国造りの部屋にラムトールは居た&br; 部屋の真ん中で火が燃えている たしかこれはIROLIとかいう東国の暖炉だ&br; &br; 「気が付いたか」&br; 声をかけられて初めて気が付く&br; 白い猿のような面を着けた男が暖炉の反対側に座っていた&br; &br;&br; 男は竹輪仙人と名乗った&br; 山中で倒れていたラムトールをここまで運び、介抱してくれていたらしい&br; &br; 仙人と名乗る位なのであれこれ不思議な事を知っているに違いない&br; そう思って白くて風船のような猫のような不思議な生き物の事について訊ねてみたが&br; 残念な事にラムトールを喜ばせるような答えはかえって来なかった&br; &br;&br;&br; ***チクワソウ [#ced111ab] ラムトールが滞在していた間 出された食事は全てチクワだった&br; チクワといえば魚をすり身にして固めた食べ物だ&br; 仙人はいったいこんな山奥でどうやってチクワを得ているのだろう&br; &br; 不思議に思い訊ねたラムトールを&br; チクワ仙人はある植物が生える場所へと連れて行った&br; &br; セイタカチクワソウ&br; 単子葉植物イネ科タケ亜科に属するササの仲間だと仙人は言った&br; 一見ササの木のように見えるが、チクワにそっくりの実がまるでバナナのようにぶら下がっている&br; &br; ラムトールは驚いた&br; 一応は薬草・山草学を学んでいたが こんな植物が有る事は今の今まで知らなかった&br; 仙人が言うにはこの実に模して魚肉を使い作られたのが一般的に知られているチクワなのだそうだ&br; &br; 仙人はチクワソウの実を3房ほどラムトールに持たせると&br; 種の抜き取り方と街への道を教えてくれた&br; 街へたどり着けば何かアイスニャンについて知っている人がいるかもしれない&br; &br; 重ね重ね礼を伝えるとラムトールは山道を下った&br; &br;&br;&br; ***閉ざされた門 [#m14bd193] 成功者の街、という話を知っているだろうか&br; &br; ある男が、成功者達が集まるといわれるその街の事を聞きつけ&br; 成功の秘訣を教えてもらおうと何もかもなげうってその街へとたどり着く&br; しかしその街は成功した者しか立ち入る事が出来なかった そんな話だ&br; &br; 仙人に教わった道をひたすらに進み街へとたどり着いたラムトールはその門の前で足止めされていた&br; 聳え立つ城塞に囲まれ閉ざされた都市&br; そこはガチキャラしか立ち入る事の許されないガチキャラの街だったのだ&br; &br; 雪混じりの冷たい風が寒空の下で一人たたずむラムトールの体力を奪っていく&br; この風に乗ってアイスニャンが自分のもとへと飛んできてくれるのではないかと彼は期待したが&br; 風はただただ吹きつけるだけだった&br; &br; 結局ラムトールがその門をくぐる許可は下りなかったが&br; 番人の一人がこっそりと酒の入ったスキットルを手渡し&br; 東の山に今は使われていない樵小屋が有る事を教えてくれた&br; &br; 春までどうにかそこで凌ごう&br; &br;&br;&br; **145年4月 [#m12a282e] ***樵小屋 [#hb4198f9] この樵小屋には先客が居た&br; 男は物静かでいて、どことなく狼を連想させる雰囲気を持っていた&br; 彼は数年前から、無人だったこの小屋を手入れし一人で住んでいるそうだ&br; &br; 小屋の中には木彫りの置物がいくつか置いてあった&br; &br; 熊や狐、野うさぎや栗鼠、そして狼といった山の生き物達を模ったそれらは&br; けして精巧なつくりとは言いがたかったが どれもよく特徴を捉えており&br; ラムトールの目を楽しませた&br; &br; ナイフで小器用に木を削る男に、ラムトールはアイスニャンの事について訊ねてみた&br; 男は彫刻の手を休め、ラムトールの言葉一つ一つに頷きながら話を聞いていたが&br; 飽くまでも伝え聞きである事を前置きした上でこんな話を始めた&br; &br; 幻獣と呼ばれる魔法生物が居る&br; 彼らは肉体を持った動物としてこの世に生まれて来る事はないが&br; そういった幻獣を実体化させる術があり&br; その術を得意とする一族がこの世のどこかに居る&br; &br; 本当にそんな一族が居るかどうかは判らないし&br; 出会えたとしても全てがうまく運ぶとは限らないだろう&br; &br; そう男は念を押したが&br; ラムトールは再びアイスニャンと会えるかもしれないという興奮で&br; その晩はとうとう眠る事が出来なかった&br; &br;&br; ***地上の双星 [#l8030f73] やや遅い春が訪れ、ラムトールは再び山中を歩いていた&br; &br; あの樵小屋の男は酒に酔うと時折小さな声で「おっぱい」と呟く癖があった&br; ラムトールは時折その光景を思い出し笑いしていたが&br; そのせいで何度か脚を滑らせ転倒しそうになったものだ&br; &br; 幾日か歩いた頃、ラムトールは男から聞いた近場の集落にたどり着いた&br; &br; 不思議な村だった&br; 春とはいえまだまだ肌寒いにも関わらず 男も女も裸に近い格好で暮らしていた&br; 裸同然の格好で「ナンカサムクネ?」と挨拶を交わしている&br; &br; 寒いのならもっと服を着れば良いのに&br; それに何故彼らは両の胸に・・・・いや、乳首に星を模った何かを貼り付けているのだろう?&br; そうだ アイスニャンの事を聞かなくては 幻獣使いの一族についても誰かしらないだろうか&br; &br;&br; 予想通りアイスニャンについては誰も知らなかった&br; 幻獣使いについては何人かが聞き覚えが有るという答えを寄越したが&br; 樵小屋の男の話よりも詳しい事は判らなかった&br; &br; 胸の星について興味本位で訊ねた事がいけなかった&br; 村の男がにこやかに答える&br; &br; 君もこの御守りに興味があるのなら&br; ほら あそこで行われている成人の儀式に参加していくといい&br; なあに ちょっとした通過儀礼というやつさ&br; &br; 彼が指し示した先では 若者達が脚にロープを結び次々に河へとダイブしていた&br; いわゆるバンジージャンプというものだ&br; ラムトールは丁重にお断りしようとしたが&br; 屈強な若者たちによってあれよあれよという間に高台へと連れて来られてしまった&br; &br;&br;&br; 何事が起こったのかは容易に想像がついたが&br; 正直とてもそれ所ではなかった&br; ラムトールは河に投げ出され 結構なスピードで流されていた&br; &br;&br; ***カニ帽子 [#ie851c56] それからどのくらいの距離を流されたのだろうか&br; ラムトールはカニのような帽子を被った義眼の漁師に拾い上げられた&br; 岩や流木に激突して落命しなかったのも運が良かったとしか言いようがない&br; &br; シズオカーナ&br; お茶とミカンとサッカーと温泉と宿場の町&br; あの冒険者達の街に比べると可愛いものだったがここには色々な物がある&br; &br; ラムトールは暫らくの間 漁師の手伝いをしてこの町で暮らすことにした&br; 仕事は厳しかったが、おこぼれを狙う猫達に癒されさほど苦に感じなかった&br; &br; この町の名物にウナギパイという食べ物がある&br; ウナギをパイ生地で包んで焼き上げたものだが これが随分と美味しく&br; 仕事のない日にはカフェに出かけ コレを食べる事がすっかり習慣になった&br; &br; 一方でいつテレビのスイッチを入れてもキテレツ大【都合により一部削除】科が放映されていて彼をうんざりさせた&br; 新聞の4コママンガはちびま【都合により一部削除】子ちゃんが連載されていたが、これがまたすこぶるつまらない&br; 残念ながらこういった方面に期待の出来る土地柄ではないようだ&br; &br;&br; アイスニャンの手掛かりは相変わらず得られなかったものの&br; この町を訪れた旅の虚無僧からこんな話を聞いた&br; シズオカーナを東へひと月ほど行った地域で巨大な幻獣同士が戦っているのを目撃したらしい&br; &br; カニ帽子の漁師は旅の供にとエビ(本当にエビなのかどうか怪しかったが)をくれようとしたが&br; 旅の間に面倒を見る事が出来ないであろう事を告げると、代わりに自身が被っていたカニ帽子をくれた&br; 漁師に別れを告げラムトールは一路東を目指す&br; &br;&br; 頭上のカニがラムトールの頭髪をワカメだと思い食べていた事に&br; 彼はとうとう最後まで気付かずじまいだったという&br; &br;&br; **145年5月 [#nc4483d7] ***お椀 [#o6873f0b] 果たして正しい道を進んでいるのか、ラムトールは不安で仕方がなかった&br; 何しろ、幻獣の郷はこちらです等と書かれた誘導看板があるわけではないし&br; アテになる地図があるでもない&br; &br; 休息場所もその都度確保しなければいけないので&br; どうしても進める距離に限度が出てくる&br; その上さらに彼を困らせたのは食べられる野草が減ってきた事だ&br; &br; 魚でも採ろうと川で魚を追ってみたりもしたが&br; どちらかといえば彼はどんくさい方だったので&br; ただただ衣服を濡らす結果に終わった&br; &br; そんなある日&br; &br; 今日も川で魚を追っていると 川上から何か小さな物が流れて来る&br; 何かと思って目を凝らして見ると&br; それは黒くて小さな、蓋のされたお椀だった&br; &br; こういった物が流れてくるという事は&br; このまま川上の方へ遡っていくと村でもあるのかもしれない&br; そっとお椀をすくいあげ 何気なく蓋を開けてみた&br; &br; するとどういう事だろう&br; お椀の中で小さな小さな子犬が一匹座っていて&br; 彼を見上げ尻尾をしきりにふっているではないか&br; &br;&br; 子犬の愛らしさは彼の沈んだ心を癒したが&br; いかんせんラムトールはこの珍客に夢中になりすぎた&br; 今夜食べる物を得られていない事を思い出した時には&br; すっかり陽は傾いていたのだった&br; &br;&br; ***蕎麦 [#e29213ac] 焚き火にくべる枯れ枝をあらかじめ集めていた事は幸いだった&br; 陽が落ちてからあちこち歩き回るのはやはり危険な行為である&br; ラムトールはゴロリと横たわりそっと子犬を撫でた&br; &br; そういえばこの子は大丈夫だろうか お腹を空かしてはいないのだろうか&br; もしそうだったとしたら不憫だ そうラムトールは思ったが&br; どのみちそうであったとしても 今は何も与えてやれないのだ&br; &br; くう、とラムトールの腹が音を立てた&br; 朝が来たら川沿いに歩きながら 何か食べる物を探そう&br; 自分の分とこの子の分 きっと探せば何かしら有るだろう&br; &br;&br; そんな事を考えていると&br; 子犬がお椀を鼻を使いラムトールの眼前に転がしてきた&br; &br; 器用に蓋を咥え そのお椀に被せる&br; その前に行儀よく脚をそろえて座ると&br; 初めて ワン! と声を出して鳴いた&br; &br; ああ やはりお腹が空いているのだろうな 可哀想に&br; そっと子犬の頭を撫でた時&br; 何処からともなくなんとも美味しそうな香りが漂ってきた&br; &br; この香りは何処からやってきたのだろうか&br; 辺りを伺うが違う もっと近いところ まさか・・・・?&br; &br; ラムトールが恐る恐るお椀の蓋をあけてみると&br; お椀の中にはツユにひたされた蕎麦が入っていた&br; &br; 子犬はラムトールが蕎麦を食べるのをじっと待っているようだった&br; この蕎麦は何処からどうやって出てきたのだろう 一瞬そんな事を思いもしたが&br; ラムトールは別段怪しんだりもせず ありがたく蕎麦を頂く事にした&br; &br; 蕎麦は本来ならあまり噛まずに飲み込むような食べ物だが&br; 小さなお椀に入った蕎麦 さほど量があるわけではない&br; ラムトールは蕎麦をゆっくり租借して食べ ツユを飲んだ&br; &br; おいしかったよ どうもありがとう&br; そう言ってお椀を置こうとした時 子犬が再びワン!と鳴いた&br; &br; 小さなお椀は蕎麦で満たされていた&br; &br;&br; ***童話 [#k003fc29] 子犬が出す蕎麦のお代わりをいただきながら&br; ラムトールは子供の頃に聞いた不思議なおなべという話を思い出した&br; &br; 食べる物に困った母娘の元に現れた不思議なおなべ&br; このおなべに魔法の言葉を囁き蓋を取ると&br; 空っぽだったはずのおなべの中は美味しいおかゆで満たされている&br; そんな童話だ&br; &br; 幼い頃にこの話を聞かされたラムトールは幼心に&br; こんなおなべが有ったら 食べ物が無くて困っている人が助かるだろうな&br; そんな事を思ったものだった&br; &br;&br; 蕎麦のお代わりが六杯目を数えた頃にはもう&br; ラムトールの腹は充分過ぎる程満たされていた&br; 沢山振舞ってくれるのはとても嬉しかったのだが&br; これ以上食べるのは少々辛かった&br; &br; ありがとう もうたっぷり頂いたよ&br; &br; ワン!&br; またもお椀の中に満たされた蕎麦を見つめながら&br; ラムトールは童話の続きがどうなったのだったか思い出そうとしていた&br; &br; 美味しいおかゆを生み出す不思議なおなべはその後確か&br; 娘がおなべの魔法を止めるのを忘れていつまでもおかゆを生み出しつづけ&br; とうとう街中をおかゆで埋め尽くしてしまう所で結末を迎えていた&br; &br;&br; 蕎麦のお代わりを止めないと大変な事になる&br; おなべの魔法を止める合図はなんだっただろう&br; そうだ 確か・・・・&br; &br; ごちそうさまでした&br; そう言ってラムトールはお椀に蓋を被せ 手を合わせた&br; 子犬は嬉しそうに尻尾を振ると お椀といっしょにすぅーっと見えなくなってしまった&br; &br;&br; **145年6月 [#qaacc006] ***壁画 [#y68199ed] きっとあの子犬は自分のようにお腹をすかせた旅人の所をあんなふうに回っているのだろう&br; アイスニャンにせよあの子犬にせよ この世界には色々と不思議な存在が居るものだな&br; ラムトールは呑気にそんな事を考えながら迷路のように入り組んだ岩々の間を進んでいた&br; &br; 巨大ムカデとは明らかに違う巨大で得体のしれない何かを&br; 山の間に見たのはもう1週間以上も前だ&br; 距離的にはもう充分に近づいたはずなのだが あてが外れてしまったのだろうか?&br; &br;&br; また、この壁画だ&br; &br; その日ラムトールは岩壁にかまぼこのような芋虫のような&br; 何を描いたのかよく判らない壁画と何度も遭遇した&br; &br; 何度か目に見た時にはもしかして自分は同じ箇所を&br; ぐるぐるグルグルと回ってしまっているのではないか?&br; そう不安に陥り いくつか目印を見繕いながら岩の迷路を進んだが&br; どうやらそういう訳でもないようだ&br; &br; なんとなく岩壁の絵に先回りされているような錯覚に陥ったラムトールは&br; 疲れが溜まっているのだと自分を言い聞かせ&br; 手ごろな場所を見つけると今日は早い目に休む事にした&br; &br; 鞄の中からスモモに似た果実を2つ取り出し片方にかぶりつく&br; 甘酸っぱい味が口の中に広がっていく&br; 自然の恵みに感謝しつつラムトールはゆっくりと果実を味わった&br; &br; 彼の背後で突然声が響く&br; いたい!&br; 子供のような声だ&br; &br; 驚いて振り返ったラムトールが見たものは&br; 岩壁から滲み出した奇妙な壁画がその手ひれをカニ帽子に挟まれているという&br; なんとも不思議な光景だった&br; &br;&br; ***石造りの村 [#w26e2315] これはなんだろう なんだろうこれは&br; いや おちつけ ふんどし!混乱している場合ではない&br; 壁画の手からポロリと果実が落ちるとカニ帽子も手を離し転がり落ちる&br; &br; 壁画は岩壁の表面をつたって逃げていく&br; 追わなければ!確かに今あの壁画は人の言葉を発した&br; 何かを知っていれば聞くことが出来るかもしれない&br; &br; 慌てて鞄を肩にかけ果実を拾おうとすると今度はラムトールがカニ帽子に手を挟まれた&br; たまらずに爪を振りほどいた拍子にカニ帽子は宙を舞い岩の影へと転がり落ちていく&br; しかし構っていられない 逃げ足は速くないようだが見失うわけには行かないのだ&br; 今度こそ果実を拾い上げると ラムトールは動く壁画の後を追った&br; &br;&br; やはり途中で壁画の姿を見失ったが いつの間に岩の迷路を抜けたのか&br; 眼前には石造りの家々が並ぶ集落が広がっていた&br; &br; 褐色の肌の人々がものめずらしそうにラムトールの様子を伺っている&br; 外部の人間がなかなか立ち入る事がないのだろう&br; 大歓迎をされているわけでもなかったが 危害を加えられる様子もなさそうだ&br; &br; 動き回る壁画の事を訊ねてみると&br; 村人はにこやかに集落の奥にそびえる神殿のような石造りの建築物を指し示す&br; そこには石壁から抜け出した奇妙な生き物の頭をそっと撫でる赤いコートの少年が居た&br; &br;&br; ***満月 [#z40fb66f] 赤いコートの少年こそラムトールが探していた幻獣使いその人だった&br; その少年の一族は幻獣達を操りこの神殿を代々守り続けているという&br; あの動く壁画も少年が操る幻獣の一頭で 平面空間に入り込む事がその能力なのだそうだ&br; &br; ラムトールが幻獣にそっと果実を差し出すと&br; ありがとう いただきます ありがとう&br; そう言って嬉しそうに果実を食べ始めた&br; &br;&br; 残念ながら一族以外の人間にこの術を伝える事は禁じられています&br; 少年はラムトールの話にそう答えを返し さらにこう続けた&br; &br; でもあなたの友だちが猫のような姿をしていたのなら&br; 猫の神に訊ねてみればきっと何か判るでしょう&br; この村で満月の夜を待ってください&br; &br; きっと満月の夜になると猫の神が現れるのだろう&br; ラムトールはそう思って幾日も月が満ちるのを待ち過ごす&br; &br;&br; そして訪れた満月の夜&br; ラムトールは壁画の幻獣と共に光の巨人の手のひらに乗り空を飛んでいた&br; &br; 猫たちは満月の夜 人々が寝静まると&br; その不思議な能力で月までジャンプして 猫の神に挨拶をするという&br; &br; 月までジャンプする&br; 猫ならぬ人の身のラムトールには勿論叶わない事だが&br; 食いしん坊な壁画幻獣の巨大な友人が力を貸してくれたのだ&br; &br; 月明かりに照らし出された村が 岩山が 陸地が&br; 全てがみるみるうちに遠ざかっていくのが見えた&br; そしてグングンぐんぐんと丸い月が近づいてくる&br; &br; こんなにも月というのは近いところにあったのだ&br; そうラムトールが錯覚する程短い時間で彼は月に降り立ったのだが&br; 空に巨大な青い星が浮かんでいるのを見て&br; とんでもなく遠い所まで来てしまった事を理解した&br; &br;&br; **145年7月 [#p9224cfd] ***少女騎士団 [#vfe42a75] 飛び去っていく光の巨人と壁画の幻獣を見送ったあと&br; 暫らくの間ラムトールは青い星を眺めていた&br; &br; 地上から伸びているあの真っ直ぐな線がきっと軌道エレベータ塔だ&br; その近くに漂っているのがスペース酒場というものだろうか&br; &br; 立方体を二つつなぎ合わせたような物が沢山規則正しく並んでいたり&br; 古いマンガにでも登場しそうな円盤型宇宙船や人工衛星が飛び交っていたり&br; 案外空の上も賑やかなものなのだと彼は思った&br; &br; &br; それから大した時間もかからずラムトールは月の街へたどり着いたのだが&br; 住人たちは何故か女性ばかりで彼の行動を鈍らせた&br; 異性と会話をするというのはどうにも面倒くさい&br; &br; しかしそうも言っていられない&br; どうにか猫の神の居所を聞き出さねばならない&br; だがここへ来て言葉の壁が立ち塞がった&br; &br; 何人かに話しかけてみはしたがどうにも聞いた事の無いような言葉で返事をされる&br; &br; どうしたものかと思案しているうちにラムトールは数人の少女に包囲されていた&br; 全員小さな体に不釣合いなややサイズの大きい鎧を身に纏い 帯剣している&br; この街の治安維持組織なのだろうか&br; &br; 見た目の微笑ましさとは裏腹に 実にものものしい雰囲気であることが&br; このどうにも鈍い男にもヒシヒシと感じられた&br; 何か誤解されているのであればそれを解かなくてはならない&br; &br; 彼はリーダーらしき少女に&br; 自分が猫の神を探しているという事を告げてみたが&br; だがしかし これがいけなかったようだ&br; &br;&br; 自分の使った言葉が彼女たちに不快を与える何かを連想させたのか&br; それとも猫の神について話をする事が禁忌とされているのか&br; はたまたあの街が男子禁制女性専用街だったのかそれは判らない&br; &br; 少女たちはポーヒポーヒと鳴き声をあげる得体の知れない生き物をけしかけ&br; ラムトールを執拗なまでに追い立てる&br; なんとも形容しがたい生き物だったが&br; アレに捕まるとろくでもない目に会うであろう事だけは理解できた&br; &br; いくら自分が動物好きだとはいえ&br; あんな生き物とはとてもじゃないが仲良く出来そうにない&br; ラムトールは力の限り逃げ続けた&br; &br;&br; ***占術 [#md550b59] どうにか少女騎士団の追跡を振りほどいたラムトールの目の前に奇妙な物が聳え立っている&br; 見覚えがあるとも言えるし見覚えがないとも言えた&br; 喩えて言うならばこれは 巨大なケツの切身だ&br; &br; これは一体なんなのだろうか&br; どう見ても尻だ&br; やはり巨大なケツの切身としか言いようがない&br; &br; 切身の傍らに看板が立っていた&br; 「占い師養成施設占術訓練所・ケツの穴」&br; コレはあれだろうか&br; もしかして穴とケツをかけているのだろうか&br; &br; 全力疾走の後だったせいか&br; それともこのシュールな光景のせいか&br; ラムトールは眩暈を覚えた&br; &br;&br; 何かお探しのようですね その言葉に振り返るとそこには&br; 縦笛を持ちシルクハットにスーツ姿といういでたちの&br; いかにも紳士ですと言わんばかりの男性が立っていた&br; &br; 猫の神について訊ねようとするラムトールを制して紳士はこう告げる&br; &br; 訊ねられた道を教える事はたやすいかもしれない&br; しかし本当に探している何かは結局のところ&br; 自分自身で見つけなければなりません&br; &br; さ迷う心を照らす一助の光をあなた自身の手に&br; さあおいでなさい 共に占術を身に付けるのです&br; &br; 紳士が縦笛をひと噴きすると ケツの切身から怪しげな光が放たれ&br; ラムトールはその巨大な尻の中に見る見るうちに吸い込まれてしまった&br; &br;&br; ***秘密 [#f3c45d8e] トランプ タロット 手相 人相 おみくじ 星座 そんなありがちな物は勿論の事&br; 施設では色々と風変わりな占いが訓練されていた&br; &br; 花弁占い 下駄占い おっぱい占い&br; &br; コーヒー占い イワシの頭占い 白蛇占い&br; &br; 貯精占い エネマグラ占い メルト占い&br; &br; ザリガニに負ける占いはいったいどういう占いなのだろう&br; &br; 血の滲むような基礎訓練の日々がいつ果てるともなく続いたあと&br; ラムトールに与えられた占い方法はキノコ占いだった&br; &br; これはただ単に彼の髪型がカニ帽子によって&br; すっかりマッシュルームカットにされてしまった事にヒントを得ていたのだが&br; 当の本人は勿論そのような事は知る由もなく&br; アナル占いが振り当てられなくてよかったと胸を撫で下ろすのだった&br; &br;&br; どのような訓練を積みどのような手法で占うのかについては企業秘密につきここに記す事は出来ないが&br; 努力の甲斐あってか とうとうラムトールは猫の神が住まうといわれる&br; 猫の神殿へとたどり着いたのである&br; &br;&br; **145年8月 [#i35f3784] ***猫の神 [#d2afaf84] 沢山の猫たちが神殿に向かい歩いていく&br; 時折怪訝そうにこちらを見る猫も居たが&br; ラムトールが必要以上に近づいて来ない事を覚ると&br; また何事も無かったように歩いて行く&br; &br; 猫達のための神殿というのならばもしかすると&br; 人間が入れるような造りでは無いのではないかと心配もあったが&br; それはどうやら杞憂に過ぎなかったようだ&br; &br; とても天井が高い そして猫特有の獣臭さが漂っている&br; 人間が立ち入っても良いものだろうかと一瞬躊躇したが&br; 神殿に足を踏み入れても特に気にされる様子はなかった&br; &br;&br; 猫たちの後に続いて暫らく奥へと進むと&br; なにやら巨大で白い繭のようなものの所へとたどり着いた&br; &br; 風の流れを感じふと見上げると&br; この部屋だけ吹き抜けになっており&br; そこからあの青い星を眺める事が出来る&br; &br; 星へ向かってタンポポの綿毛のような白い光が&br; ふわり ふわり と舞い上がっていく&br; 目を凝らして見るとそれらはとてもとても小さな仔猫の姿に見えた&br; &br; 仔猫たちは白い繭からどんどん舞い上がっていく&br; 一方で猫たちは繭の前で立ち止まった後&br; 二度ほど頭を垂れてから吸い込まれるように繭の中へと吸い込まれて行った&br; &br; もしかすると&br; ラムトールは猫たちを踏みつけないようその場から注意深く離れ&br; 繭全体を見渡してみた&br; &br; 白い繭のようなものは横たわる猫の姿をしていた&br; だとすればこれが幻獣使いの少年が云っていた猫の神に違いない&br; 再び足元に注意を向けながら今度は横たわる猫の神の頭の傍へと近づいてみる&br; &br; 猫の神がじっとこちらの様子を伺っている&br; 余り近づきすぎない方が良いだろうか&br; それになんと言って声をかけるべきだろう&br; &br; そんな風に思いをめぐらせていたラムトールの前に&br; すうっと何物かの姿が現れた&br; &br;&br; ***再会 [#keb92277] 灰色の艶めいた毛並みに金色の瞳&br; やはり灰色のスーツを着て左胸を薔薇の花で飾った猫獣人は&br; ラムトールに一礼してから彼に判る言葉で話しかけてきた&br; &br; いらっしゃいませ 本日はどういったご用向きでしょう&br; &br; 獣人は楽しげにニヤニヤと笑みを浮かべているが 不快感はない&br; そもそも猫の顔というのは心なしか笑っているように見えるものだ&br; &br; ラムトールは話し始めた&br; &br; 自分の事を&br; &br; アイスニャンの事を&br; &br; アイスニャンを探し&br; 長い時間をかけ&br; ようやくここまでやってきた事を&br; &br;&br; 灰色の猫は表情を変えず&br; ラムトールの言葉を頷きながらじっと聴き&br; 目の前の青年の頭の天辺から足のつま先までをゆっくりと眺めてから再び口を開いた&br; &br; それはそれはラムトール様 長い苦難の旅でございましたね&br; しかしご心配には及びません&br; 貴方のお探しの氷の猫は どうやらずっとここに居たようですよ&br; &br; 灰色の猫の指先がそっとラムトールの胸を指し示す&br; &br;&br; えっ?&br; &br;&br;&br; なにそれ&br; &br;&br; ここまで散々引っ張っておいて&br; アイスニャンは君の心の中でずっと生き続けているってオチですか&br; 大空に笑顔でキメですか いいんですかそんなんで&br; &br;&br; ズキン&br; &br;&br; 混乱するラムトールの胸が痛んだ&br; &br; ズキン&br; &br; 灰色の猫のニヤニヤ笑いが&br; 青い星を目指しふわりふわり飛んでいく小さな仔猫たちが&br; 巨大な猫の総合意識体が&br; 神殿が 月が ついでにケツの切身が&br; 見る見るうちに遠ざかり 全てが暗闇に包まれる&br; &br; ズキン&br; &br; なんだろう というか何故僕は何も着ていないのだろう&br; &br; ズキン&br; &br; 胸が痛む 胸が&br; これは&br; これはアイスニャン?&br; &br; 彼の胸に&br; 蠍の尾針に貫かれたはずの胸に&br; アイスニャンの形をした白い痣がある事に&br; ラムトールは今ようやく気が付いた&br; &br;&br; ・・・・ずっと、ここに居たんだ&br; ごめんね&br; 長い間気が付かなくてごめんね、アイスニャン&br; &br;&br; ***目覚め [#v0974fe7] 誰かの話し声がする&br; &br; 何を言っているのだろう&br; &br; 聴いた事のあるような無いような言葉&br; &br; 誰だろう&br; &br;&br;&br; ゆっくりと薄目をあけたラムトールの視界にボンヤリとなにかがうつる&br; なんだろう あれは&br; ああ アロエの鉢植えか&br; &br;&br; そのアロエの鉢植えが自分に話しかけたような気がして&br; そんな自分がなんだか可笑しく感じられラムトールは少し笑った&br; &br;&br; いや待て やはり誰かが話しかけている&br; &br;&br; ラムトールは何かの液体で満たされた透明な容器の中で目を覚ました&br; 子供の頃読んだ胡散臭い本に記されたリトルグレイに似た生き物が2人こちらを覗き込み声をかけたが&br; 今ひとつ何を言っているのかが理解できなかった&br; &br; 彼らはグリーンエルフだった&br; エルフたちの話す言葉はラムトールからすると訛りが強く理解するのに苦労したが&br; けして異質な言葉というわけではなかった&br; &br; ラムトールはエルフたちの栽培していた特殊な茸をたらふく食べてしまい&br; 意識を失っていた所を彼らに保護されたのだという&br; &br;&br;&br; では今までの事は夢だったのか&br; ベニテンガダケを食べたその後の事は全て幻覚だったというのか&br; &br;&br; いや&br; あの旅は&br; アイスニャンを探し歩いた旅は夢だったのかもしれない&br; &br; しかしラムトールの胸には確かに&br; あの不思議な猫の形をした白い痣が残っていたのである&br; &br;&br;