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* フローム家出身 エーリヒ・ミステリアスプラン 443473 [#h457065c]
|ID:|443473|
|名前:|エーリヒ・ミステリアスプラン|
|出身家:|フローム|
|年齢:|16|
|性別:|#listbox3(女,server,sex)|
|前職:|#listbox3(牧童,server,job)|
|理由:|#listbox3(故郷に錦を飾りたくて,server,reason)|
|状態:|#listbox3(野垂れ死に,server,state)|
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// ※ ご注意「//////////」より上は変更可能個所以外はそのままにして下さい。
// タイトルの「家出身」の記述も含まれます。

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[[見>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp010628.jpg]]
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*** 神の子供たちはみな踊る[#k3da2d5f]
 自らの頭部を撃ち抜いた感覚があって、それから次を考える。~
 「次?」~
 不思議な感覚ではある。~
人間はその頭部に風穴の一つでも空こうというものならば、魂魄とも言うべき自身の命も、精神もかき混ぜにして鉛の弾丸と共に飛び散ってしまうからで~
ある。そういった事は人間には限らず、自らに定められたであろう形状を保たなければ、何らかの威力によって歪み果ててしまえば、生き物は存外にぽろ~
りと死んでしまうものだ。~
 この場合の威力とは引き金により飛び出した鉛球で、これはお茶を運ぶ様な鉄板程度であれば風穴を開けてしまうものだ。~
生き物に当たれば、少なからず治療行為が必要にされる。ましてや、頭蓋骨の真ん中に的中すればどうなるか。ほんの刹那の猶予を持って、即死だ。~
それが定命のモノの定めだ。有限を使い切って終わり。さようなら。~
 そういう現実感を置いてきぼりにして、私は次を考えている訳である。~
 次とは未来であり、今と言う現象の地続きだ。死を賜って終わりと言う、あまりにもあっけなく脆い人生の最後。~
 「その、次を?」~
 思考の内部で刹那の時間を駆け巡るのが記憶だった。「次」の言葉によって想い起こされるイメージは崩れ落ちるピコ・デッラ、彼女そのものだ。~
やはり私は今起り、結果へ、過去へとなりつつある現状についてを、やや傾斜した視界の中にあって、単なる死への愛好に過ぎなかったのではなかったの~
かと思いつつある。全ては自暴自棄になった自我の結末でしかない。その事から見えてくる事実。残念な表現になるが、とてもくだらない。~
 「本当に、くだらない!」~
 名前は忘れたが、彼女と共に血に崩れる司祭に向かって叫ぶ。まだ若い神父が驚き顔をあげる。38口径の鉛弾を発射する装置を持っている。~
彼ももう、この世には無い。この後すぐに彼の兄弟と共にピコ・デッラの後を追っていってしまった。彼は自らの死を連鎖と称していた。~
 彼女はやはり詩でも朗読しながら死ねばよかったのだ。笑顔で死を求する彼女を、私は決して答えにはしないのだから。~
生命の果てを、誰しもが行き着くであろう終着点を前倒しにして得た答えとしては、あまりにもお粗末で腹立たしくあった。決して誰かを責めているわけ~
でもなく、ただ自分の持つ答えへの解が疎ましくある。自分の発した叫びより、犬の吼え声のほうがよほど心地よいとすら想えた。~
 だからこそ「次」を想うのか。安易な答えであったと、だから次が浮き彫りになる。~
 ━━この程度の答えで十年。~
 結局、その場でしか出せなかった答えだったのではないか。どのルートを通ってもある関門を通らずには導き手は無い。~
私は自己を否定してしまう事がとても恐ろしい事の様に想っていたのかもしれなかった。煮え切らない私に死を賜わったのはピコ・デッラ、貴女です。~
それは、山を降るのに今の今まで海に潜って彷徨っていた様なものだった。それが正しかったのかどうかは未だ分からず、そうであればこそ過去であった~
はずのイメージが、今そのものになる。立ち返るとすれば、やはりこの"今"なのだ。~
 記憶以上の鮮明さを濃厚な血と、懐かしい過去の匂いのそれらが単なる死する私への送迎ではないことを告げていた。随分と遠回りになったものだ。~
そんな私に、誰もオカエリナサイとは言えないだろう。常にそうであった様に寂しくは無い。~
後悔ではなく、あっけからんとした頼りなさがある。残された時間を浪費しての自己分析が完了すれば、例えようも無く虚しくもなるだろう。~
~
 それからSong of the Open Road.で謳う一節が想い起こされる。~
~
 '''『わが子よ!私はお前に私の手を与える!'''~
 ''' 金よりは少し貴い私の愛をお前に与える!'''~
 ''' 説法や法令の代わりに私はお前に私自身を与える!'''~
 ''' お前もお前自身を私にくれないか、しかして一緒に旅に出ないか、'''~
 ''' 生きているその限りにお互いにしっかりと依頼をしあいながら。』'''~
~
 生きている事よ、屍を残して行こう!~
 その場に項垂れて、しかし熱いものを底に感じていた。生命に触れられた気がしたからだ。~
 そして私は契約の間にあって、残された骸を想う。頭蓋骨の間から零れ散るのものは決して死ではないのだ。~
肉は手足から腐るであろう。心はもう抜け落ちて無いのだろう。されども、誰しもが屍であるとは思わずに首を傾げる。~
 私は生命を謳う。自らの頭蓋骨から抜け出す事で、だ。~
 心ならば、今この場に消える事もなくある。揶揄ではない。それが事実として生きているのだから。~
~
 ━━「次」は「終わり」では無い。~
 だがそれは、共にあって有る彼との秘密の計画である。~
~
#region
***舞踏会前夜 [#j3071587]
 最高の唯一の実在である神は思考によって知覚することができない。思考は所詮、思考。そういう枠を抜き出る事は決して無い。だからこそだ、だから~
こそ死とは生命存在に唯一を実感させ得た。ピコ・デッラの死はつまり実感の具象であったと言っても過言ではない。彼女にとって最高の善はどうやら、~
他者の唯一としての糧になることであった。生命の根源として……。~
「……」~
 掌をじっと見据える。われながら修道女をしている割にはよくこの小奇麗さを維持しているものだと思う。~
 汚れの無い手。~
 これは主観的知覚だ。何処か心の内で比較をしているので、汚れていないのだと感じている。~
 辺りを見回せば四角い箱の中に古いアンティークの家具が並べられているのが分かる。中々趣味の良い部屋である。当然これも主観的な知覚。~
 背景に鏡の中のこちらを怪訝そうに見遣る女の姿があった。彼女の背には何かが覆いかぶさっている様だ。実際に背中に体温があって生暖かい。これも~
主観なのだろうが、与えられていると言う感覚の方が受身的なので観するとしてよいか分からない。~
 ふと、首を傾げてみてから思う。ああ……、それにしても、と。~
 鏡越しの自分の姿はどうにも好きになれない。何か問題を抱えている訳ではないが、何処か違和感があるせいだ。幼い時分より見慣れているはずなの~
にその感覚は払拭されることがない。違和感というのも主観に頼るものだ。使い勝手のよい化粧台があるとすれば、チークは手に取りやすい場所に置か~
れているのだろうが、それは使用者の自意識に依存している様な気がする。~
 これまた随分と主観的だ。~
 煮え切らない感覚に襲われて思考を断念する。~
「……やはり人間は主観則からは決して逃れ得ない生命体なのかも」~
 独りごちてから負担に感じていた背中の生き物━━名前はムと言うのだけれども━━を何とか担いでベットに寝かしてやる。気だるそう身を捩る姿は人~
間に満ちていない様にも見える。~
 単に無防備なだけなのだろうが、その様はまだ生まれて間もない赤子に近い。随分と体躯の良い赤子もいたものだ。~
 ピコ・デッラの死後、私は彼女の屋敷に頻繁に入り浸る様になっていた。屋敷には彼女の子供が居た。子供といっても彼女は独身であったので、恐らく~
は孤児院で引き取った子供なのだろう。実際に、彼らは血が繋がっているらしい痕跡を見せなかった。それでも満遍なく彼女は愛情を注いでいたらしい。~
何度かピコ・デッラからそんな話をされた覚えがある。彼女が死ぬ日の前日の事だっただろうか。~
 直接的でなはいとはいえ、私が彼女の死の発端なのだから、彼女の子供らに対して負い目がない訳ではない。けれど恐らくそういう理由でここに居るの~
ではない。~
 私は理解したいのだ。~
 『necrophilous』~
 死を希求するという事を。~
 主観と言うのは価値体系の持続に頼る。思想も決してその拘束から逃れられない。人間は背景と言うバックグラウンドに依存しているところがある。そ~
のくせ大抵はその事実を関知することも無くのうのうと息をし続け、ふとした瞬間、それらが脅かされた時だけに主観と自己の曖昧な境界線に迷い込んだ~
りしている訳だ。……今の私がそうであるように。~
 主観が脅かされるのは無知の代償なのだろうと思う。代償ならばきっちりと償わなければならない。少なくとも今の私はそうと思い込んでいる。思い込~
んでいると言うのはそれに確証が欲しい証拠なのだろうか。~
~
 ぎぃ、と扉が軋んだ。~
 鏡越しに背丈の高い男が顔を出して笑みを見せた。子供っぽさのまだ残るたどたどしい笑み。~
「何を……考えていたの」~
 声変わりはもうしているらしいが、それにしても女々しく感じる。態度がそう感じさせるのだろうか。~
「色々よ」~
「……分かってる。ママのことでしょう」~
 どうして泣いたような笑い方をするものだ。血は繋がっていないはずなのだが、他の者達に比べてこの子供だけは彼女によく似ている、と思う。~
 心理学の解釈では愛情と言うものは親から子に引き継がれていくらしい。そういう部分に血のつながりはあまり関係ない。性格もその限りではないのだ~
ろう。少し曖昧な解釈だ。ああ、遺伝子学の本をもっと読んで置くべきだった。私は実親と己の折り合いを付ける為にある項目に目を通しただけなのだか~
ら。どうにせよ、実生活の中では心理学の方が役に立っている様に思っている。ただ、理屈っぽくもあるのだけれど。~
 ふと、思い付いて訊ねる。~
「……象の墓場。貴方はどんなものか知っている?」~
「さあ……。聞いた事はあったかも。シスター、それってでかいお墓?」~
「多分、そうなのでしょう」~
「ママの事に関係あるんだ?」~
「ええ」~
 肯いた。~
「それ、タローの奴には聞いた?」~
「いいえ」~
「あいつなら知っていると思うよ」~
「それはまた、何故なの?」~
「一番、先に居たから」~
 この子にも分からない部分が、その時間軸にあるということなのだろうか。~
「貴方は……?」~
「三番目」~
「三人目ね」~
「"俺達"ってたぶん孤児院に居たと思うんだけど。何かあいつだけ違う気がするんだよね」~
「等しくあるのは難しいことだと思うわ」~
「そーいうんじゃないんだって」~
 ばつ悪そうに言われる。いちいちはっきりしない。~
「それじゃあ……カインとアベルの関係のような?」~
「少し違くて……あいつが王子だってことなんだ」~
「年長だからではないの。それで貴方がカインなのね。歳の子供らしいではないの」~
「だからさ、そういうんじゃないんだって。……いやそうかもしれないけど、違うんだよ」~
 声を荒げて、すぐにその事を恥じるように目を背ける。見た目よりもずっと子供らしい。~
 言葉を待つ。一呼吸間があってようやく口を開いた。~
「王国の持ち主なんだよ……あいつ」~
 話し声の性だろう、ムが起き出してしまった。眠たげな視線を私達の間で左右させている。ムは三番目だという兄の姿を見て瞳を曇らせまた眉をさげた。~
私がここに来てから何時もそうだ。いや、ずっと以前からそうだったのかもしれない。何かを感じ取っている。~
「その王国に、像の墓場が有るんだと思う。多分、シスターの教会も。……この屋敷も」~
「……タローがそう貴方に話した?」~
「違う。あいつはそういう事を言ったりはしない」~
「それじゃあ……」~
「ヴィジョンだよ。ぶーんって鳴る奴じゃなくって。最近、そういうものが視得るって事。」~
 少しだけ嬉しそうに、それでも何処か哀しそうに言う。~
「ママが死んだ日にそういう思考が流れ込んで来て……その後に殺されたって聞いたから。~
直感見たいなものなのに、すごい信憑性感じちゃってる。その時に初めてママと繋がっていたって……思ったから。」~

 *~
「聖職者ごっこ、だったのさ。」~
 祭壇の前で頭をたれながらも、矛盾するような言葉をタローはにべもなく続ける。~
「十字架に掛けられることもなく、その重みで死ぬくらいならば磔刑を受けて清らかに死のう。そんな都合のいい死に方もないのにな。まあ、それがあの~
女の本望だったんだと思うけど。」~
 主の前でそれを言う。聖職者の衣を着た母親殺人の首謀者であるタロー・レッドウィングが。~
 口には出さない。その矛盾を突き出してもおそらく軽く誤魔化されるだけだ。それにどうや言葉通りに彼女を責めているわけでもなさそうだ。~
「……前々から感じていたけど貴方は随分と冷たいのね。彼女は確かに母親であったでしょうに。」~
「それもごっこだからじゃない。」~
 むっと腹立たしい想いがする。斜めに構えて、へそ曲がりの子供と話しているみたいだ。~
「母親だっていうのなら、敬う振りぐらいしてあげなさい。貴方の存在とその知識の根源は彼女なのだから。」~
「そうだな。マリア様には逆らえない。愛の有る叱咤だ」~
 仰々しくお辞儀してみせる。~
 ピコ・デッラの教育はなかなかのものらしい。人の気に障る部分をいちいち理解してこちらを試している。そうとうに忌々しい。~
 本題を切り出す。~
「貴方が王国の持ち主だと聞いたのよ」~
「そのことか。……だけどそれは母さんの妄言だろう、俺はそういうんじゃないんだ。」~
「私はそれを思想の塔であると考えたのよ。実在を虚像に移し変えて、それが王国。」~
「高尚な妄言だ」~
「古狸を殺すほどには、そうなのでしょうけれど。」~
「『わたしは何者の上にも我が家を建てなかったゆえに、全ての世界は我が物になった。』知っているか」~
「ゲーテの詩でしょう」~
「そうそう。まあ王国なんて必要なかったのさ。連鎖から逃れるための厚かましい王国思想。その考えそのものが連鎖していやがる。~
 子供の頃、それが嫌でしょがなくってさ。弟を連鎖から救ってやろうとした事があった。石を食わせてさ、こう、がつんと。」~
 タローは物を掴んで腕を薙いで見せた。~
「むごい事を……」~
「それも連鎖……だったんだけどな。俺、マンハルドに同じことされたから。俺は遠慮なく傷口を残してやったけど、マンハルド様は優しくしてくれたぜ。~
 あいつは単純にお楽しみだったからな。従属させようってのと解放してやろうってのじゃあ目的が違う。」~
「優しくなさる相手は一人ではないと言っていたわね」~
「閉じられた空間であいつは看守様気取りだったんだ。相手は鎖に繋がれた信仰者。もしくはちいさな弱者だ。」~
「きちんとお母さんには言ったの」~
「あんたらがレズってるあいだに俺はホモられていたんだぜ。」~
「……それ本当なの?」~
「ここにマリアさまに嘘を吐いたことをお詫び申し上げます。」~
 タローは続ける。~
「弟を解放してやろうとしたのが切っ掛けで母さんに知られた。すげえ、怒ってた。鬼みてーなの、いや悪魔か。すぐに殺されるかと思った……。けどマン~
ハルドの奴は尻尾を見せてなかったからな。素手で殴られてたら良かったって思ったよ。」~
「それからどうしたの」~
「ただ泣いた。……俺がね。母さんはよほど酷い目にあったのだろかと勘ぐってしまったようだけど、そうじゃなかったんだな。上位に腰を据えているあい~
つの性で、俺が無力であるせいで、この人を不幸にさせてしまっている気がして、だからだった。」~
 それでも私が納得しかねるといった様子で少し首を傾けると、了承したとばかりに話を続ける。~
「その事と母親殺しは勿論別件だよ。無関係ではないけどさ。前にも言ったろ、あれは咄嗟の判断。」~
 タローが見せ掛けだけの祈りを終わらせて、壁に掛けられた額縁に手を掛ける。中身をこちらに見せ付けると、こちらににやりとした視線を投げた。~
 ああ……母親殺しの拳銃……。必死に震えそうな声を抑える。~
「あれが咄嗟の…判断だった?」~
「だろ。」~
「偶然の出来事だった?」~
「ああ」~
「笑みだったわ」~
「笑み?」~
「死する人の笑み」~
 今度はタローが眉を潜めることになった。何事か言い掛け、口を噤む。どうやら同じ疑念を浮かべたらしい。それからタローは頭を掻いた。~
「まさか……。違ったっていうことなのか?思い違いをしていた?」~
「ごっこで、することではないでしょうね」~
 引き攣った笑み。~
「貴方は、タロー・レッドウィング神父。首謀者ではなかったのではない。」~
 それからタローは狼狽してあらぬ方向に直った。背に向かって振り向いた。。~
 己のした行為を立ち返り涙を隠そうと……。少なくとも私にはそう見えた。~
「母さん……なのか?」~
 悲鳴にも近い声色で彼がそう、叫ぶまでは。~
***風の條 [#a5393ad7]

 利己主義と自愛の織り交ざった春も近しい修道院に"出戻り"のアスピラントである私が戻ってもう一年になる。~
 大門から本院までの煉瓦で敷かれた道。昔懐かしの古ぼけた回廊。歪な生き物支配の象徴として存在している牧舎。幾ら時が過ぎ去ったとしても何一つとして代わり栄えの無~
い灰色染みた世界。修道院の入り口にはやはり見るものをげんなりとさせる、お節介な一言が添えられた紙が張り付けられているのだろう。~
 ……私は、何故またこの沈んだ場所に帰って来てしまったのだろう。~
 ある神父はこの灰色に象の墓場を見出していた。つまり大きく誇大化した灰色の何かの死骸が倒れているだけに過ぎないのだという。~
 私はずいぶんとその表現が気に入っていたが、恐らく私自身もその墓場で静かなる眠りを得たいと考えていたからだろう。そして今になってその感覚は、恐らく間違ったもので~
あったのではないかと、ぼんやりとだが感じている。結局、彼は灰色のずんぐりむっくりに押し潰された象飼いの男に過ぎなかったのではないか。~
 それも消極的に潰されただけの、ある種の自殺願望にも近いその思想故に。~
もしくは彼の意識を追うのを止めた時から、私にはまたここに戻って来ると言う予感があったのかもしれなかった。~
 修道院の入り口には果たして、白紙に一言が添えられていた。そういう類の張り紙には珍しく、ただ聖書の引用ではない言葉が書かれていてた。~
 アスピラントであったとはいえ指で数える事が出来ない程には昔のことであった、なので教育係が付いた。~
 それがエーリヒ・フロムだった。黒髪を腰まで伸ばした若いシスター。~
 エリーヒは幼年からこの教会という組織に居たらしい、篤かった信仰もすっかり灰色に飼い慣らされることで潰されてしまった様な、そんな典型的な少女の一人だった。少なくとも、~
出会って間もない時分にはそういう風に感じたという事だ。ただそうではなく深刻なほどに、彼女は真面目に信仰をこなそうとするたちであるだけなのだと知ったのは、つい先日の~
ことだ。飼い慣らされているというのは大分に偏見である。~
 私達はミサの準備を行なっていて。儀式のための道具を揃えたり清めるといった古くから決められた作業をしていた、多少の雑務は本来はアスピラントを付き従えてやらせてしま~
えばよいのだろうが、そうしない所が彼女らしくはある。余程、いい加減で済ませたくはないのかもしれない。~
「一つだけ聞いても宜しい?」~
 丁度、並々注がれた銀の杯の中身を零さない様にと、苦心して祭壇に置いたという所で訪ねられたので首を傾げて彼女に向き直る。~
「貴女は神に棄てられたという事でここに戻られたの?」~
 やや感情的な物言いだった。彼女自身もその発言に驚いている様でもあり、しかし引くに引けない何か裏打ちされたモノがある様子で、つまり灰色に対する違和感があるのだ。~
これまでの一年間でいくらか葉っぱを掛けたのがきいたのかもしれない。私が知る中で、彼女の信仰心は裏づけされている。真剣であるという事だ。~
しかし黒と白を決すると言うほどではない。壊れたラジオのスピーカーから洩れるノイズ混ざりの声を責めるような、そんな調子であった。~
 私達は決して通じ合った仲ではなかったし、何より私は彼女に嫌われてしまっていたから返事を考えるのには少しの間が必要だった。~
「……私は確かにそういった類の神を棄てました。だからアスピラントを止めて、修道女にもなれなかったのですから。~
 けれど不思議なことですが、今は以前より神に近付いたのだと予感しています。だから戻ってきたのです。」~
 私は付け加えた。~
「信仰ではなく、信頼を持ち得たのではないかと思っているのです。それを確認しようという試みの為に私はここに」~
「神に拾い直されたとでも?」~
「棄てられることはありません。見棄てられる事はもっとありえません」~
「貴女がそう信じていられるということは、分かりましたわ」~
「残念だとは思います」~
「……貴女は」~
「私は多分、あなたの知らない神を知っています。それが理由にはなりませんか?」~
 私はにこりとして、彼女を見やる。この灰色に戻ってきた理由が彼女なのだと言うことは随分と前から分かり切っていた。~
~
 私は、私は王国の犬だ。~
 けれどそれは実在する王国ではなかった。小さな子供のする空想が作り出した、あんまりにもちっぽけで毒にも薬にもならない王国。私はその王国で番犬の様な事をしている。~
得意の嗅覚でこのまだ若きエリーヒに部分を見出している。私は神をこの空の王国のみならず、自身の中にすらにも降ろせずにいた。~
先ほどからエーリヒに語っている神は、力場、重力に近しい。まずはその事を彼女に伝えなくてはならない。その先は彼女次第だ。~
彼女が中々納得を示さないので、切り込み方を変えることにする。~
「神が未だに人間を見棄てていないのは、その彼らに含まれているからではないですか」~
「含まれている?」 ~
「含まれています。例えばこれが神だと考えるからです」~
 腕をゆっくりと上下する。~
「分からないわ」~
「そうですね、それではこれが神です」~
 銀の杯を傾ける、禊の聖水が地面に零れる。~
 中身はともかく杯は価値のあるしゃんと作られた物だ。所有者はマンハルド大司教。この修道院にはよほどのことがない限り顔を出さないらしいが大司祭というだけで権力染み~
た力がある。~
「……よして」~
「おいたはしません、すみません。手短にある中ではこれが一番らしかったのです。それに、雄弁に語るよりはこっちのほうがエーリヒ様にはいいと思ったのです」~
「私がしたたかだから?」~
「そうです」~
「正直を言って下さるのね」~
「真摯でなければ、あなたは私から離れてしまう」~
 掴みはこれで良いだろう。私は予め用意していた神の部分を力学で捉える理屈を彼女に早口気味で言った。~
こういう時のモスカ神父の言葉は偉大だ。言葉だけで考察させるよりも体験を共有する。何よりも分かり易く、必要な言伝でもあった。~
「神をそうやって降ろして来るのね……」~
 エーリヒは首を傾げて私の理屈を検討している様だった。その隙に聖水を地面にぶちまける。さすがに不意を突かれたのだろう、唖然とする彼女を尻目に、銀の杯を振りかぶって~
十字架に向けて投げ付けた。球技に興味はなかったが咄嗟の行動にしては綺麗なフォームで投げられた様に思われた。十字架を標的にしてなければもっと上手くぶつけられたか~
も知れない。金属音は想像したよりも甲高い共振で、どうやら杯は十字架のIの部分をうまくすり抜けたようだ。~
地面を跳ねる音はない。垂れ布に巻き込まれて床に転がったのだろう。~
「命中しませんでしたね、壊れてもないでしょう。」~
「……ええ、多分」~
 さっ、と床に転がっていた杯を持ち上げて示すと息を呑んでいたエーリヒが、ほっとしながらぽつりと返事をしたのを見逃さなかった。~
「驚かれましたか」~
「当然よ。手伝いを申し出た人が突然そういう行為を及ぶんだから……」~
「ええ。ですがそのお蔭でやっと、価値を優先しましたね。物を優先したと言うのですか。ほっとなされているので」~
「私……奇跡を信じてはいなかった?」~
 胸に手を置いているが愚問なのだろう。肯いて応える。~
「奇跡よりも、運動が勝ちました。そしてエーリヒ様はそのことに安心したのでしょう。神はやはり無力なのだと思っているはずです。だから取り合えず落ち着いていられる。この場を~
乱したのは私ですが、神であるならばあなたも赦されないでしょう。価値を優先するのは人間ばかりです」~
「そうね」~
「そもそも私の不敬はマンハルド大司祭に向けられたものだったのですけれども」~
「大司祭に不満があるの?」~
「それなりにはあります。ただ話の上では蛇足です」~
 私はエーリヒと出会ってからずっと、彼女とは親密にならなくてはならないと思っていた。しかし普段の彼女は取り付く島も無い態度をする。扉を心の奥深くに根差している。~
小賢しい知恵を持つ私は彼女の笑みの意味を無関心の代替なのだと感じた。元より、全ての感情を微笑みに変換するには、何も感じなくなるしかない。彼女は関心の幅が極端に~
狭かった。このままでは彼女は石にでもなってしまうだろう。~
天気の話しをすると微笑みを浮かべて肯定する。洗濯籠に穴が開いたと、小言を話すと微笑を浮かべて困ったものですわねと言った。~
かといってミサの準備の手伝いを申し出ると微笑を浮かべて必要ないと断りを言われる。~
恐らく飽いているのだ。灰色の存在に。灰色は何一つとして感じない、ただのっぺりとしてる人を隔てる存在である。~
今は白か黒か、どちらかを彼女の前に差し出さなければならない。それが彼女にしてみれば真摯であるという事でもあるのだろう。~
「私はマンハルド大司祭に今日あなたに言った内容と同じ事柄を話したことがあったのです。当時、彼は神父でした」~
「信望をする人に?」~
「若さゆえの過ちであったと思います。宗教熱と情動を取り違えていたのかもしれません」~
 思い起こすだけで耳が赤くなる。それを見取ったのか彼女は眉を潜めた。~
「それでどうなったの」~
「厭な顔をされて、それきりです。それきりと言っても直接会ったのはと言う事になります。周りには純正ではないと知られたので」~
「想像は付く」~
「今になって考えて見れば彼は大司祭になろうという将来の自分にとって邪魔な思想を排除しただけだったのでしょう」~
「ここにいる貴女は、そういう事があったからなの?」~
「棄てられたと想いはしましたが、ただ不思議な物でより深く感じ入る自分に気付いたのです」~
「それが貴女の……」~
「そうなります」~
 沈黙や戸惑いは微笑んでいるよりも存在していると思わせる。~
 マンハルド神父も微笑んでいた。その微笑みは己のサディスティックを隠蔽するものであったが。~
 彼は弱者を弄んだ。大きな傷跡はケロイドの様になっている。傷後に出し入れされるのは痛みそのものだ。~
 幻覚染みた記憶で、銀杯を持つ手が小刻みに震える。だが悟られてはならない。~
 エーリヒ・フロム。彼女は潔癖だから。~
「ですが、私は彼を屈辱しようと思って戻ってきたのではありません」~
 今はただ。
 そう、今はただ王国の犬であることで精一杯なのだ。
「痛切なのね……」~
「痛切」~
 つうせつ。そうなのかもしれない。ずっともがき苦しんでいるのだ。地獄の焔の炎に焼かれようとしながらも。~
 ふと、エーリヒ・フロムが私に向かって微笑んだのを感じた。顔を上げて彼女を凝視する。するとそれは無関心のそれではない。同情のそれも無い。眉に戸惑も隠れていないので、~
拒絶かとも思ったが……違う。~
 ただ何かを、肯定する微笑み。その微笑みも何処か場違いであったと自覚したかのようにすぐに掻き消えた。~
 すると、何かが脳裏を掠めた。~
 連想。~
 連鎖的幻視。~
~
 彼女は関心の幅が極端に狭かった。このままでは彼女は石にでもなってしまうだろう~
~
 違う。それは私の方で彼女ではない。~
 言葉が出ない。~
 ふとして思い出す。修道院の張り紙。ただ痛切と書かれていた。~
~
 條の中途で神と共にあって彼方を待ち望んでいる救世主が居る、およそ棄てられしは彼を除く人々である。~
~
 *~
 誰かが嗚咽して涙を流していた。~
 誰だろう。嗚咽だ何てものずっと見た事なかったのに。~
***序 [#l437cd1d]
 修道院での生活を一言でまとめてしまうと、退屈、そのものだった。有象無象と割り切ってしまえばそれだけのことでしかないのだけれど、原因はもう少し別にある。
~
 信仰を同じくしているからこそ場を同じくしているのだと思っていたせいもあったのだろう。~
修道院へ身を寄せる事を決意して実行にまで扱ぎ付けた時分、今まさに自身が箱舟に乗り込む四足歩行の一匹で、皆も例外無くそれを意識しているのであるとすら考え~
ていて。他者であれ何であれ、共に敬虔と親和の先へと向かえるのであれば、それは救いに他ならなかった。~
 幾度かの四季を修道院で過ごすと、子供染みたその勝手な思い込み、期待はすぐに裏切られることになる。~
等しく与えられた生と死に揺られる孤独と恐怖から逃げ出そうとする試みが人間本能に忠実であるというように、自らの所有を犠牲にして神の奉げ者にしようというこ~
の一連の献身的ともとれる行為もまたその例外では無かったのだ。修道女達は自身を神に献上するのではなく、主に媚びへつらう形で十字架の前で両手を組んだ。~
彼女らが一同に会して祈る様はまるで乞食の所有で、清廉に見えるその姿もどうやら『神よ、どうか私に奇跡を下さい。私はこんなにも尽くしているのだから』と、暗~
に願っていたし、実際にこの願望の根強い修道女ほど善意のパーソナリティを発揮した。~
 彼女らにとって、人間は神に取って代わった監視役なのかもしれない。とはいえ、元々彼女達には神の存在何てどうだっていいことなのだろう。~
欲しいのは奇跡であり、不幸からの大いなる救済であろう。~
 しかし……。~
 私自身もその"彼女ら"の中の一人なのだから。何を思っても自傷的なのかもしれない。膝を折り手を組む彼女らをあざ笑い、自身だけを例外とする程の愚かさは持ち~
合わせてはいない。だからだ、眼前で修道服を見に纏うピコ・デッラが病人に施しを為していても、それが誰の為によるモノであろうともその無責任さを責めずに口を~
噤んでただ肯いた。~
「まあ、ピコ・デッラ様……!善い事をなさられましたね」~
 何人かの修道女が彼女を囲んで言う。~
「私も見習いたい所ですが、修道院の生活がそれを許さなくて……はぁ」~
 同意の声が上がる。彼女らは奉仕に給与を与えられているのではないのだから、当然と言える。身銭を切る場合、世俗との縁の名残りで支払うかもっと特別な収入か~
らしなくてはならない。ピコ・デッラは正式なシスターと言うには微妙な立場で、この話の流れで、私の方に話しの傘が向かうのは必然である。私にはどうしても余暇~
がある。~
「それを言えば、エリーヒ様も」~
「つい先日、孤児院に手元の金銭をほとんどお入られになられたとか。噂に聞くところお母君の形見の品まで手放しになって」~
「まあ、それは本当に?」~
「私にはそこまで出来ません。私は余った物を心添えとしただけなのですから」~
 褒め称えられていたピコ・デッラまでもが一歩引いて、一同の羨望の視線が向けられる。~
 ……全く、冗談ではない。~
「いいえ、私は何も難しいことをしていませんわ。形見と言っても所詮は物ですし。心に母の面影があればこそ、その様にしたのです」~
 本当は、母親の顔も記憶には無かった。ただ、その性で心が鈍る想いがして寄付という口実で手放したに過ぎない。保身を善意とするのなら、一体何が善い行いなの~
か分かったものではない。すまし顔で言うので、私が相当に謙虚であると勘違いしたのか。その場に居た皆がいたく感心した様子であった。~
 うんざりとして、用事がある事を口実にその場を後にした。私がその場を去った後も、そのことが語り草にされると思うとどうにもならない気持ちがこみ上げて来る。
~
 廊下に逃げ込む足も相対的に早くなろう。~
思い掛けない事だったが、ピコ・デッラが私につづいた。彼女も偶像崇拝者顔負けと言った乙女達に囲まれてしまうのを嫌ったらしい。茶目に舌を「べっ」と出して共~
犯の合図を送られて、私は困惑を隠せずにいた。~
「二人でこれからするべきことがあります。エーリヒ様」~
「……そうでしたかしら」~
「ええ、ただ憂さ晴らしに、と言うことですが」~
 見て取れる限り、企てられた彼女ら修道女の逃避は、敬虔とは程遠いであろう自己陶酔の為の善行を行なわせていたし、真摯であるはずの愛はアイドル化願望の隠れ~
蓑でしかない。そういう煩わしい世俗思想を回避したかった私は、彼女ら以上の厚顔を知ることによってのみ、うきうき気分の弱く幼い四足動物でしかないままの自分~
を守り通すことができたのだろう。けれど何よりも、それらを偽りのモノとしてしまった事が私を深く傷つける結果になってしまったのである。~
 所詮、毒は毒なのだろうと思う。小さいときに呼んだ絵本の中で、遠い星を望み見る王子様は真実というへびの毒に咬まれて死んでしまった。へびの毒は善意であっ~
たが王子様のために用意された愛ではなかったのだ。~
 墜落した飛行機を最後まで棄てられなかった男は、今もあの砂漠での出来事を思い出しては哀しみにくれているのだろうか。~
 この話の内で誰が置いていかれてしまったのか、今も尚判らないけれど。共に有りながら荒野を行こうとする、その煌めく星色の出会いは私の中で鮮明に見開かれて~
いる。~
 私は彼女と二人っきりになるとそのことをもらさずに話した。ピコ・デッラは聞く手に回ると仕切りに肯いていた。~
 大体の事を話してしまうと、どうやら後悔の気持ちが沸いて来てしまうものらしい。そもそも……何故、私は今になってこの人に告解を?~
「……ごめんなさい、話したことは忘れて」~
「それは出来ません、エーリヒ」~
「何故……でしょう」~
 最悪を想像する。つまりこの聞き上手の女は抜け目ならぬことに私を貶めたくってそれで後を追ったのだ。~
「エーリヒ・フロム。私はあなたの事をどうやら好きになってしまったみたいです。」~
「はぁ?」~
「ええ、たまらない気持ちです。あなたにはヴィジョンがあるからです。それがたまらないと思わせます」~
 ヴィジョン。何を示して言っているのか。~
「ピコ・デッラさん、貴女大丈夫?」~
「はい、幸せです」~
「そういうことではなくて…」~
「病気はなく、特に頭の方は健康そのものです」~
「…それじゃあ、ただ変な方なのね」~
「そうかもしれません」~
 私はその場から逃げようと隙を探した、この変な女には私を貶めるつもりが無いと分かっただけで結構なことだ。~
 それ以上の接触は不要、今日のことは無かったことにしよう。~
 逃げ出そうと言う気配を察したのか、ピコ・デッラは言葉を噤んで身を引いた。私は彼女の脇を縫って立ち去ろうとする。~
「この世界にメシヤはきっと現れません、エーリヒ・フロム。だからこそ王子様は倒れてしまったのだと思います。それって必然的なことです。」~
「誰しもが置いてかれてしまったのです。置いてかれてしまうのです。」~
 私はその場から逃げ出した。~
#endregion