#navi(../)
* ディムホルゲルツ家出身 スアラセニア 459271 [#k096b685]
|ID:|459271|
|名前:|スアラセニア|
|出身家:|ディムホルゲルツ|
|年齢:|17|
|性別:|#listbox3(女,server,sex)|
|前職:|#listbox3(下級兵士,server,job)|
|理由:|#listbox3(故郷に錦を飾りたくて,server,reason)|
|状態:|#listbox3(冒険中,server,state)|
//////////
|方針:|#listbox3(探検を優先,server,type)|
|難易度:|#listbox3(実力相応,server,diff)|
|信頼性:|#listbox3(気にする,server,conf)|
|%%一度目%%:|&areaedit(){[[ステータス>ステ:459271]]/[[戦歴>戦歴:459271]]/[[名簿>名簿/459271]]};|
|二度目:|&areaedit(){[[ステータス>ステ:459361]]/[[戦歴>戦歴:459361]]/[[冒険中>冒険中/459361]]};|
|>|[[http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp010649.png>企画/幼馴染]]|
//
// ※ ご注意「//////////」より上は変更可能個所以外はそのままにして下さい。
// タイトルの「家出身」の記述も含まれます。
*3行!+α [#nbc63a13]
-幼馴染のあの子は伯爵の娘、でも地位とか名誉とか割と関係ないよ!
-でもある日、突然子爵になっちゃって、まさかの騎士様に。
-そんでもって冒険者になれって女王陛下が言うので冒険者始めました。
-[[そして、物語は唐突に動き始める。>http://notarejini.orz.hm/?Blitz-krieg]]
|この街で過ごした時期|この街で生まれ育ち、少しの間(数ヶ月ほど)街を離れていた。|
|その頃どんな子だったか|快活。多少傍若無人だが憎めないタイプだった。|
|家族構成|父と母との三人家族|
|その他知っておいて欲しい事一つか二つ|ゴキブリは死ぬ。|
#clear
**スアラセニア・ディムホルゲルツ [#offa2989]
#region(初期設定)
-[[''見た目''>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp011371.jpg]] 
-ウィプヘラ王国の辺境伯・ヴィルセルハルト・ディムホルゲルツの娘で、子爵。~
女王の命で父が居を構えた酒場の街で生を受け、「色んな人間と交友関係を持て」という教育方針のもと明るく育った。~
-性格は前述の通り快活。思慮に欠けるといったところはなく、むしろ根底の部分では落ち着いて物を見定めている。~
--最近は奇妙なほどの落ち着きと、明るさを織り交ぜた複雑な性格を垣間見せている。
-金髪・赤眼。顔の作りはパッチリとした目元を中心にわりと整っており、表情の豊かさがそれを際立たせる。~
身長や胸・尻のサイズは同世代の平均よりやや小さい。その代わり、「貴族の嗜み」レベルを通り越した武術の鍛錬で引き締まったウエストは自慢らしい(152cm・48kg B75・W56・H77)。
--冒険を始めてから、一気に成長した。割と筋肉質だが表に出ない(162cm・52kg B87・W58・H86)&size(8){&color(red){New!};};
-洋服は貴族らしいものからラフな普段着まで、割と何でも着てそれなりに似合ってしまうクチ。~
--[[ドレス>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst075060.jpg]]も一応は着るが、余り好まない。
-好きな物はシュークリーム。与えてもホイホイついていったりはしないが。~
食べ物以外なら、ペンギンやアザラシといった海洋生物が好き。子供の頃に連れて行ってもらった外洋や水族館が余程思い出に残っているのだろう。~
//自身の人の生死に対する観念が揺らぐことを恐れている。審判の輪によって、死への恐れが失われる危険性を本能的に感じ取っているため。
//それもこれも、女王が自身の胸三寸で人の命を弄んでいる(ように見える、またはそう聞かされて育った)姿に、嫌悪感を抱いているが故のことである。
//その点で言えば女王も苦手ないし嫌いなものに含まれるはずなのだが、実際には憎からず思っているところがある。
//とどのつまり、スアラはかろうじてながらも、女王を人として認めているのだ。
// だがその認識も、審判の輪による記憶改竄の一件から大きく変わる。
-貴族なので、教養も武術も一通り修めている。あくまでも通り一遍等のものであり、他者より抜きん出た才があるわけではない。~
--その上で、雑学方向に知識が偏っていたり、カンで攻撃を防いだりするあたり、なかなか掴みどころのない人間でもある。
--長々酒場の街で暮らしてきたおかげで庶民感覚がしっかり定着している。
#endregion

**使える力 [#c8da0673]
-''胎動する水晶トライバル''
--スアラセニアの体に刻まれた魔法のタトゥー。普段は不可視であり、魔術を使うときだけ顕在化する。~
タトゥーでありながら形は定まっておらず、蛇のようにのたうち、炎のように揺らめく青い水晶に例えられる。~
その能力は「エーテルのアストラル変換」。指定された座標・一定領域のエーテルを透明で頑強なアストラル体に変換する魔法。~
言い換えれば、魔力の物質化。物質化した魔力はスアラセニアの制御下に置かれる。物理攻撃の補助や防御に使用可能。~
応用として、相手の周囲にあるエーテルをアストラル変換することで魔術を封じることもできる。~
射程距離は7m。
-''鍵''
--複数の武器を携帯するための簡単な魔法。普段は手のひらサイズの鍵だが、戦闘時には元の形を取り戻す。~
本来はディムホルゲルツの別邸地下に封ぜられていた魔法武器の類であり、それぞれに固有の名を持つ名剣ぞろいである。~
ただし、今は大半がその名を失っている。女王の手によって破却されたとミーナレティは考えているようだ。
---''火の双剣'':せっかくの与えた手傷を焼き焦がして止血してしまうレベルの炎を常に纏っている。揺らめく陽炎に似せた刀身を持つが、武器として扱いづらいということはない。
---''火の双剣'':与えた傷をも焼き焦がして止血してしまうレベルの炎を常に纏っている。揺らめく陽炎に似せた刀身を持つが、武器として扱いづらいということはない。
---''氷の長剣'':強い冷気を帯びたロングソード。鋭い切れ味と魔法武器としての高いポテンシャルを持つ。見た目は普通。
---''風の短剣'':ブロンズダガー。風の魔力が投擲武器・暗器としての使い勝手を高めている。
---''雷の大剣'':魔術師の称号を得たために、その真価を最大限に発揮させることができる唯一の武器。重い。
---''鋼の刀剣'':シンプルな鋼鉄製の刀や剣。これらは魔力を持たず、特殊な力も持たない。出所も地下ではなく、流通品をそのまま使っている例外的なものである。~
ただし、冒険者の街の鍛冶の手によるものなので非常に粘り強い。数本ある。
---''A-SO-XC004 スレイヤー'':高周波振動ブレードと先端部についたアダマンタイト製丸ノコのコンパウンドウエポン。~
実は、アルタイでドアカッターとして設計されていた。
**審判の輪 [#p4e22448]
#region(アメジストめいた輝きを帯びた大剣は、影も形もなくなっている)
-女王が作った上級魔法具の通称。手にした者の運命を見通し、その才が花開くまで悪意に満ちた世界から守り続ける一種のアミュレットである。~
厳密には聖にも魔にも属さず、狭間にある「何者か」が審判を下すという。女王だけがその構造と原理を知る。~
//不老不死であるはずの自身の死を何らかの術で予見した女王が、その叡智を分散させて様々な人間に根付かせようとした実験の一環。
//これを持つ者は何らかの試練に立ち向かうたび、女王の知識を植えつけられていく。それは「成長」と言う形で発露し、その成長によって所持者の隠された能力を開花させるのだ。
//記憶の上書きを起こすことは絶対にありえないが、植えつけられた記憶によって、些細な違和感が生じることはあるらしい。
//ちなみに、母国では何らかの手段で必ず全ての国民に「審判の輪」が行き渡っている。
//ただし、努力なくしては才能の萌芽はなしえない。
//女王は等しく可能性を与えたのだ。階級にとらわれぬ、次世代を担う人材のために。
--その形は様々だが、原則的には細かい装飾が施されており、中枢には魔法石が誂えられている。~
スアラに与えられたのは大剣を模したものであるが、形を模しただけではなく実戦にも耐えられるよう、頑丈かつ重厚な作りの両手持ち両刃剣に仕上がっている。~
心金はミスリル鋼、外を覆う三層も魔術や霊的ないし神聖な力を帯びた金属を用いており、強靭。同時に、重量も相応のものである。~
--鍔は彫金細工が施されており、中央には赤い魔法石が輝いている。その真上、刀身の中央に据えられたシリンダーは「入れたものを斬撃に乗せて放出する」ためのもの。~
鷹の爪とか入れると木っ端微塵になった一味が物凄い勢いで飛んできたりする。小石の類は入れた量以上に増える。理由は定かではない。
//何らかの属性を帯びた魔法石を入れて、近接攻撃ないし飛び道具として属性を発動するのが正しい用法。
--女王の魔術を回避し、それに対抗するための方策を得るためにセータ・シークエンスに委ねた。
---以後、記憶の強制書込は行われない。同時に、生命保護の能力も失われる。
---ただし、能力開花は既に行われた可能性がある。
#endregion
*それなりのお屋敷の応接間 [#f513fe02]
|CENTER:[[http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst053491.png>編集:struggle for existence]] / [[http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst053492.png>差分:struggle for existence]] [[ログ1>http://notarejini.orz.hm/up2/upload.php?id=075061]]|
|#pcomment(struggle for existence,5,reply,below);|
**いつもの公園 [#kd2ef84d]

|BGCOLOR(#f0fff0):[[編集>編集:馴染みの公園]]|
|BGCOLOR(#f0fff0):#pcomment(馴染みの公園,1,below,reply)|
~
**script [#ieb392ac]
#region(プロローグ)
-酒場から随分離れた土地に、魔法石の大鉱脈で栄えた王国「ウィプヘラ」がありました。~
支配者である女王リュナは生まれ持った不老不死の力と、天賦の才で数百年に渡ってウィプヘラを統治しています。~
普段は穏やかに見える女王ですが、その実、当代きっての変わり者。親しい貴族や腹心には無理難題を申しつけ、そのうろたえぶりを見て楽しむ、底意地の悪い女だったのです。~
しかし、それを言いつけられる方も少なからず、そのことで安心していました。それも無理からぬことでしょう。~
全てに的確な助言を与えている女王が、国の経営に飽きてしまえば、内憂外患でこの国はあっという間に滅んでしまうのですから。~
ともかく、そんなこんなでてんやわんやなある日。~
とある伯爵が、黄金暦の街に居を構えることになりました。もちろんこれも女王の命、ならばやむなしと妻や使用人たちを連れて、伯爵は街での暮らしを始めました。~
そこでの生活は、驚きの毎日でした。特に、地位も権力も関係なく笑い合い、命がけで戦う冒険者たちの姿は伯爵の心を強く打ちます。~
「なんと強く、優しい人たちなのだろう。私も彼らのようになりたい」しかし、彼の願いはかないません。この地にいてもなお、彼はウィプヘラ国の伯爵の地位に縛られていたからです。~
ならばせめて、と。彼は授かったばかりの娘を、冒険者や街角の子供たちと同じように育てようと思いました。~
妻はそんな伯爵の意思を強く後押ししました。「夫」の意見だからではありません。なにせ、常日頃から、教育方針に関してどう切り出したものかと頭を悩ませていたほどですから。~
そうして、娘が17になった頃。伯爵の元に女王からの召喚状が届きました。~
「長に亘る外敵に対する示威活動に敬意を表し、汝を辺境伯、汝が娘を子爵とする。ついては叙勲式を執り行う運びとなったゆえ、以下の日付までに戻られたし」~
あまりにも唐突でした。示威活動など行った覚えはありませんし、何より、娘を子爵として取り立てるなどとは…まるで寝耳に水の出来事です。~
とはいったものの、女王には逆らえません。伯爵はそれなりに立派に育った娘を伴い、出国時には予想だにしなかった凱旋帰国を果たしました。~
叙勲式が恙無く済んだ後のことです。女王は伯爵と娘を残して、人払いをしました。~
「さて、めんどーごとは済んだの。スアラや、てを上げ」~
また無理難題を押し付けられるのだろうか、伯爵は内心ビクビクしながら、娘と女王のやり取りを眺めます。~
「は、先ほどは子爵叙勲という身に余る栄誉を与えていただき、恐悦至極にございます」腐っても鯛、伯爵の娘として堂々たる振る舞いを見せる娘に、~
「堅苦しいのはよいよい。今日はな、そちに一個頼みごとがあるのじゃ」女王は退屈そうな表情でそれを切って捨て、あまつさえまた無理難題を押し付けようとしました。~
伯爵のみならず、娘も事態がきな臭くなってきたことに気づきましたが、そこは女王の威光。とてもではありませんが、否定の言葉を返すことは出来ません。~
「…は、頼みごとと申されますと」ようやく出た言葉に、女王はにやりと口元をゆがめます。~
「そちに、冒険者になってもらいたい」~
「……え? いや、今なんと」呆気に取られる二人を尻目に、「二度も同じことを言わせるな」とばかりに口に指を当てる仕草をして女王は、~
「詳しい説明は大公より話があろ、うむ! 下がってよい!」みもふたもなく言い放って、二人を帰らせてしまいました。~
屋敷で待ち構えていた大公と一緒に、思わずため息をつく伯爵と娘。女王は無理難題どころか、娘に死ねと命じたのですから、事態は深刻――なはずだったのですが。~
大公は一振りの大剣を持ち出しました。銘は審判の輪、何でも女王が数十年がかりで作り上げた特別なマジックアイテムだといいます。~
「これは選ばれた者――今回はスアラセニア副伯にのみ扱える魔術具。持つ者の「能力」が開花するまでその命を守るものである」~
……一定の状況下で死を退ける道具。女王は娘にこれを携えて冒険者になれ、と言ったわけです。~
どうして先ほどの謁見の場で直接その事を言わなかったのでしょう? 伯爵と娘は、女王の腹黒さに半ば呆然としながらその大剣を賜りました。~
まぁなにはともあれ。晴れて伯爵は辺境伯に、娘は期せずして子爵の身分を得たわけです。~
そして同時に娘――スアラセニアは、まだ未知の領域である冒険者の道へと一歩、足を踏み入れたのでした。~
#endregion
#region(瀕死−1度目)
-謁見の間から遠く離れたとある塔の一室。吹き抜けから差し込む月光だけが照らすという神秘的な空間に、女王は佇んでいた。
「ほう、もう落ちおったか。幾ら駆け出しとは言えもう少しもつと思っておったに」~
くく、と喉の奥を鳴らすように笑う。手元の水鏡は、スアラの満身創痍の姿を映し出している。~
彼女は生来、嗜虐趣味の人であった。だがこと今回に限っては、そういったサディズムとは違う別の目論見を持っている。~
それは、腹心にも明かさぬ大きな企図であった。彼女自身やスアラのみならず、国の存亡に関わる一大事であるにも拘らず、である。~
何がしかの事情があって「言えない」こと。何もこれに限ったことではないが、彼女の持つ神秘性のベールの内側には、露見してはならぬ嘘と真実が幾つもあるのだ。~
「……やれ踊れ。せめて、わらわの掌の上におれる限り」どこか悲しげな声を漏らし、水鏡に指を浸す。~
ぴちゃりと、波紋がスアラの姿を掻き消す。月の光だけが、その光景を静かに、ただ見守っていた。
#endregion
#region(侍女長からの証言−母の憂慮1)
-お嬢様のご様子……ですか? そうですね、以前にも増してご闊達に出歩いていらっしゃいますよ。~
いろいろな人と触れ合って生きよ、ご主人様の教育方針が功を奏したのでしょうね……ただ、失礼を承知で言わせていただくと、~
辺境伯の娘・子爵としての立場を弁え、自覚を持っていただくべきかと……。ゆくゆくはウィプヘラの臣として重用される家柄なのですから。~
……お嬢様の事を慮ってのこととは言え、言葉が過ぎました。罰は受けて然るべきでしょう…申し訳ありません。~
'''(数分間のやりとり、どうやら罰を受ける気でいる侍女長を辺境伯夫人が諌めているようだ)'''~
……わかりました。~
あとは、冒険者を始めてからは剣の鍛錬に打ち込んでおられる時間が多いでしょうか。~
女王陛下より賜った「審判の輪」やサーベル、カトラスなど用いて、爵位に恥じぬ剣の腕を培っているようです。~
普段は一人で訓練を積んでいますね。いえ、勿論わたくし達も僭越ながらお相手を申し出たのですが……~
お嬢様自らその申し出を断られました。何か思うところがおありだったのでしょう。~
ともかく、剣術には励んでいるようです。体術や槍術にも冴えをお見せになるので、武術百般に通ずるのも時間の問題でしょう。~
'''(今まで一切表情を崩さなかった侍女長が、思わず笑みをこぼす。余程嬉しかったのだろう、辺境伯夫人も釣られて笑う)'''~
ええ、お嬢様は勉学にも力を注いでおられます。書斎の本は一通り、目を通されたご様子。これから深く読み込んでいくんだと意気込んでおられましたね。~
特に魔法書の類に興味をお持ちのようです。そうそう、ついこの間の話ですが、屋敷にあるものだけでは飽き足らなかったのでしょう。~
わたくし達が止めるのを振り払って、ご自分で閉架まで取りに向かわれました。あすこは、ご主人様の命でわたくし達も近づけぬ場所ですので、随分と難儀なされたそうです。~
あちこち傷だらけ、埃まみれで飛び出してきたお嬢様の姿は、奥様もご覧になられたでしょう?~
'''(また二人してクスクスと。その立場に差はあれど、心が通じているのだろう。柔らかな雰囲気に包まれていた)'''~
あぁ、そう言えば。スイライ方の環様のところから帰られた時の事、お嬢様は神妙な面持ちでぽつりと一言、私に仰られました。~
''「知識と記憶が一致してない」''と。……たったそれだけです。わたくしには、何がお嬢様を悩ませているのかはわかりませんでした。~
奥様、お嬢様はいったいどうしてしまったのでしょう……? ぽろりとこぼした些細な言葉とは言え、気に掛かってならないのです。 
#endregion
#region(口さがないものの噂話―母の憂慮2)
-あれは秋口、手芸道具を調達するために街へ忍んで出かけたときの事。~
「どっかの貴族の娘が冒険者やってるって本当かァ」「おうよ、確かディムホルゲルツんとこの…とんだ物好きもいたもんだよな?」~
何気なしに聞こえてきたそんな世間話に、私は耳を奪われてしまった。~
場所は冒険者たちが集う大衆酒場。人いきれに満ちた空間は、持て余しそうなほどの活気に溢れている。~
見慣れた光景だ。スアラセニアを身ごもる前は、私も冒険者の一人としてこの中で気勢を挙げていたのだから。~
剣を振るって帰ってきてはみんなで酒を飲んでは夜な夜な騒ぐ。そんな豪気な性を露にした私を、夫は笑って受け入れてくれた。~
だが、それも今は昔の話。私はめっきりと老け込んで、娘の噂話を盗み聞きするのが精一杯だ。~
#br
時の移ろいと自分の親バカさ加減に苦笑しながら、私はカウンターの隅の席に腰を下ろす。ここからでも、彼らの声は十分聞き取れる。~
「その上、そいつァまだまだ小娘。行き遅れじゃねえってのに、まあとんだ勇み足を踏んだもんだ!」虎髭を蓄えた男が、木製のジョッキを呷りながらがなる。~
老練の冒険者なのだろう、世間知らずの女子供に冒険者など務まらない…言葉の端々にそんな蔑みの色を見せる彼に、周りも同調した。~
「違いねえ、どうせ苗床になるのがオチだな!」「まあ18や19つったらもう孕める歳だからな」~
この街では珍しくもないこととはいえ、下卑た会話は聞いていて気持ちのいいものではない。ましてや自分の娘のこととなれば尚更だ。~
(これ以上は聞いてられない……)頼んだジンジャーエールにも手をつけずに、席を立とうとした時。~
#br
「……あの娘と一度話したことがあるんだが……少しおかしなところがあった」今まで口を閉ざしていたテンガロン帽の男が、おもむろにそんな話題を切り出した。~
「おかしな、って貴族の娘が冒険してること以上に変なことがあんのかァ?」彼の言葉を一蹴した虎髭の男につられ、取り巻きが粗野な笑い声を挙げる。~
それを皮切りに、酔っ払い同士の会話には往々にしてある、どこか焦点のずれたやり取りが繰り広げられ始めた。~
そんな様子を尻目に、テンガロン帽の男はウィスキーで口を湿す。まるで口火を切るための潤滑剤を舌に施すように。~
「……あいつは、知った風な口を利いているようでキチンとした知識に裏打ちされてやがる。街のことといい、よそのことといい」~
「んなこたぁ、本でも読みゃあ誰だって」「それだけなら、こうしていちいち横槍を入れたりはせん」言葉を遮るように男は続ける。~
「本に残らない歴史や知識ってのは誰にだってあるだろう。経験知って奴だ、実際にやらかした奴じゃなけりゃあわからねえような、な」~
人を食ったような物言いをする男に業を煮やしたのだろう、虎髭が食って掛かる。「わかんねえな、お前ェは何が言いたいんだ?」~
ますます騒々しくなる彼らを眺めながら、私はすっかりぬるまったジンジャーエールを飲む。話はいよいよ、きな臭くなってきた。~
「奴さんらの住んでたウィプヘラ、あれは大乱の後に平定された国家だ。……実のところ俺は、その大乱に一枚噛んでたんだよ。もちろん木っ端兵士だったがな」~
そういってシニカルに笑うテンガロン帽の男、よく見ればその耳は長く尖っている――エルフか、それともその眷属の者だろうか?~
「だからなんだってんだ、ハッキリしろよ、オイ」いよいよ酔いが回ってきた様子の虎髭は、三白眼をぎらつかせて言う。~
「俺はその大乱の時に、今の女王の命令で一人お偉いサンを隠密裏にぶっ殺したんだ。遠弓でよ、頭をズバンとな。……もう400年近く前のことだぜ。~
口封じされそうになってケツまくって、ようやくこの街に逃げてきたんだ。それをよ、あの娘は……俺の顔を見るなり、『誰を』『どうやって』『いつ』殺ったかまで、~
ハッキリと、当てて見せやがった」かたかたとグラスを持つ手が震えているのは、テンガロン帽の彼だけではない。私もだった。~
#br
ディムホルゲルツ家は、女王と長きに渡って親密な関係を保ち続けている名家の一つだ。だが、それは代々の当主に対して相応の地位が約束されているというだけのことに過ぎないのだ。~
少なくとも、国の成り立ちやあり方に秘められた、「真実」を共有できるような立場を与えられているわけではない。~
それは私も、夫である辺境伯も、勿論スアラセニアも、そうあるはずだった。しかし。~
私ははたと、侍女長の言葉を思い出した。スアラセニアの記憶に関することだ。もしかして、もしかすれば……あれは何らかの予兆だったのではないだろうか?~
――こんな騒がしいところでは考えがまとまらない。炭酸の抜けたジンジャーエールを一呷りで飲み干して、荷物を抱えて席を立つ。~
ふと目をやれば、虎髭たちはもう話題を次に移していて、テンガロン帽の男はいつの間にか、姿を消していた。
#endregion
#region(夢)
-赤い彼岸花が目の端を流れ、夕焼けは煌々とボクを照らす。~
世界はペンキをぶちまけられたようにひたすらに赤い。どうしてこれほどに赤いのか。~
「それは、君が殺した者たちの血だ 違うかい?」誰彼時に、聞きなれぬ声。声の主の姿は見えず、だというのに真っ赤な世界にしんと響き渡る。~
あえて答えるまでもなかった。ボクはこれまでにも幾多の魔物を葬ってきた、その手で、その剣で。そして、返り血に染まった手を洗うたびに考える。~
ボク自身が奪った命と、ボク自身が奪われそうになった命の事を。そして肝に銘じるのだ。「ゆめゆめ忘れるなかれ、自らの手に委ねられた生殺与奪の術の重さを」と。~
――赤が一層深まった。朱ではなくもはや蘇芳色に近いほどに暗く、澱んでゆく。ほおずきに灯が点り、彼岸花はあたかも燃えるように燐光を放つ。~
世界は淡々と命=赤に満ちていく。そして、膨張の限界を迎えたこの世界は、またもや崩壊を――~
-悪い夢、とも一概に言い切れない。これは、きっと自分に言い聞かせるための教訓みたいなものだ。~
殺す力を得た者は、殺される覚悟を持たなければならない。たとえ、何らかの庇護があるにせよ……けして忘れてはいけない。~
命は取り返しのつくものではない事を。この街では忘れかけられているそれを胸に秘めて、ボクは今日も冒険に出る。~
「――人同士での殺し合いだけはしたくないね、本当」冒険者らしい、どこかロジックの破綻した言葉を口にしながら。
#endregion
#region(ミコトとの会話から)
-ミコトの視線のニュアンスが変わるのが、ありありとわかった。ああ、ボクはまた、一つ過ちを犯したのだ。~
したり顔で他人に垂れた説教は、自分が常に己に投げかけている訓戒そのものだった。それを、他人を諭す事に用いたボクは、よほどの大馬鹿者だろう。~
人には人の、それぞれの事情がある。生まれ育った環境やその掲げる信条、重ねた嘘と秘密――十重二十重に塗り固められたアイデンティティという漆喰。~
それの上塗りされた層の全てを知るのは、本人だけだ。だというのに、ボクは友人に過ぎないミコトの、深いところに踏み入ろうとしてしまった。~
それも彼女のために紡いだ言葉ではなく、自分のために紡いだ言葉の刃を持って。~
結果としてはあの会話は、ボクに対する不信感を生み出しただろう。相手の事を何一つわかろうとしていないのだから、無理もない。~
いつだってそうだ、ボクは何かしらのミスをしてからその事に気づく。それも、決まって人間関係のことばかり。後から悔やんでも遅いというのに。~
「……ボクはみんなの言葉を、聞こうとしているだろうか? 誰かに、聞いてもらおうとしてるだろうか?」誰ともなく、ぽつりと呟く。~
小さな弱音は、しんと静まり返った部屋に溶け込んでいった。
#endregion
#region(女王の意図)
-「ふむ……随分ともつれているようじゃの、思ったとおりというべきか」水鏡を覗いて、女王は奇妙な笑顔を浮かべる。~
銀の水面は、審判の輪のもたらした知識と経験との齟齬の間で困惑するスアラセニアを映し出していた。~
物事の全てに道理がある。そして因果は然るべき流れにこそ通る。記憶を改竄することで生じる解れについては、女王自身承知していた。~
何も、彼女の先見の明がそれを知らせたわけではない。あくまでも経験に基づいた思考の結論である。~
#br
大乱の後の施政者にとって、支配すべき種族と人口の多さは大きなネックであった。複数の種族があればそれぞれに思惑があって当然であり、彼らはその思惑の赴くままに立ち回るのが筋である。~
無論、統一がなされた後も利権を巡った諍いは絶えなかった。女王のカリスマ性を持ってすら、万民を納得ずくに『国民』と為す事は出来ずにいたのだ。~
そこで、女王は大々的な魔術を用いて事態の収拾を図る。領土の中心に据えた自らの居城そのものを魔法具とした、記憶への介入――つまり「洗脳」である。~
絵空事としか思えないほどの壮大な計画は、しかし女王に与えられた全ての叡智と力によって一気呵成に遂行された。~
「ウィプヘラは万民の承諾に基づいて、女王の手で統治されている。」シンプルな構文が奏功したのだろう、魔術式は瞬く間に人々へ浸透していく。~
魔術式本体の刷り込みを済ませた女王は、種族によってその作用方法を細かく調整する作業を行った。たとえば比較的短命な種族には世代を重ねながらゆっくりと、~
あるいは、エルフ等の長命種に対しては違和感を生じさせる間すら与えず強引に上書きする、といったように。~
#br
「あれは容易かった……戦乱の後には人心に空白があるものゆえ」ふふ、と一人ごちて笑う女王に焦りの色は全く見えない。~
指で水鏡を弾いて、その波紋の広がる様を眺める。スアラセニアの姿がぐにゃりと歪んで消えて、代わりに市井の民草が走馬灯のように流れながら映りこんだ。~
彼らは、非常に活気に満ちた生活を送っている。剣やペン、あるいは鋏、鎚のように偽装された、審判の輪を知らず知らずのうちに手にしながら。~
――審判の輪は、持ち主に知識という種を植え付け、試練を水として萌芽させ、最後には彼らの秘めた才能を開花させる。そして、その花はいずれ、ウィプヘラの次代を築く「実」を結ぶ。~
複製された女王の知識は複製先の人間の中で解釈され、支配者としての思考を生み出す。結実すれば自浄作用によって寡数は淘汰され、善悪の垣根を越えた効率的な為政が行われるだろう。~
数千、数万、数十万の支配者たりうる人材と、その仲でも突出した才を見せる者による国家。女王の狙いは、自らを失った後にも続く磐石の国づくりにあったのだ。~
「ほほ。すっかり所帯じみてしもうたものじゃ、歳はとりたくないものじゃの……のう、スアラセニアよ。この年寄りのせめてもの道楽、しばし付きおうてもらうぞ」~
くつくつと喉を鳴らして笑う女王は、奇妙なほどに楽しげだ。スアラセニアがひどく心をかき乱されている事を知っているにもかかわらず。~
スアラセニアだけに与えた「違和感」。それは長い時を生きた者の些細な戯れか、それとも優生主義にも似たやり方への呵責からか。~
ともあれ。その真意は、女王のみぞ知る。
#endregion
#region(Dear Future)
-――あなたの世界は、平和に満ちていますか? 人々の間に、安らぎは溢れていますか?~
#br
いま私が暮らしている世界は、常に争いが絶えません。種族や信義や性別のもとに互いを傷つけあい、理解しあう事すら放棄しています。~
対話なんて絵空事。皆の言葉はいつも刃じみて、お互いの喉首を掻き切るために振りかざされるだけ。~
利己的に陣取り合戦を繰り広げる姿は、醜いを通り越して子供の遊びめいてすらいます。ただし、そこには必ず血なまぐさい闘争があるのですが。~
#br
毎日は、引き絞られた弓のような緊張の中にあります。疑心暗鬼でまなこの曇った、対立こそが正義と思い込んだ人たちのせいでしょうか。~
いいえ、もしかしたらそれだけではありません。「彼」が作った大いなる力は、種族の垣根を悪い意味で取り払ってしまったのでしょう。~
#br
ですが、猜疑心だけがこの世界に渦巻いているわけではありません。私と心を同じにする人は、国中のそこかしこにいるのです。~
とは言え、私たちがいかに一騎当千の力を持っていたとしても、個々にこの混迷を打破する力はありません。~
#br
いまの私たちにできるのは、争いの種をひとつひとつ解決することだけ。
まずは、「彼」を空へ帰そうと考えています。今からでもきっと、遅くはないはずです。~
きっと「彼」は寂しい思いをしているでしょう。誰もが目をそらし、言葉を交わせない一人ぼっちの状況に、夜な夜な涙しているかもしれません。~
だからこそ、私は「彼」の言葉を聞いて、「彼」が災いだけを振りまく忌々しい存在ではないと、証明してあげたいのです。~
あなたは笑うでしょうか? 私の努力を、無駄と切り捨てるでしょうか?~
答えは他の誰でもない、あなただけが知っていること。そして、いずれは私も。~
#br
ともあれ。~
どうか、「彼」も含めた全ての人々が、幸せでありますように。~
どうか、この世界の行く末が、幸せでありますように。~
願わくは、安寧のなかにまどろめる国を。~
#br
#br
――私の親愛なる未来へ、リュナヴィーサ・ベルニエットより。
#endregion
#region(開闢前夜)
その日の夕暮れは、奇妙に明るかった。黄昏時というには余りにも白く輝く空に、野良仕事を終えた農夫たちはみな一様に眉をしかめた。~
理由が知れぬ天変地異。見識に明るくない朴訥な彼らにとって、それは不吉な前触れとしてしか受け止められなかったのだ。――凶作の前兆か?~
天を眺める彼らの頭はしかし、元の通り垂れる事はなかった。次の瞬間には、彼らの脆い肉体は塵だけを残して消し飛んでいたからだ。~
何事があったかを知る余地もない。真実を知る者は、唐突な滅びを呼んだ張本人だけであったから。~
#br
焼け付いてガラス状になった土。深く、広く穿たれたクレーター。戦場のそれにも似た臭いが周囲を満たしていた。~
大禍刻をとうに過ぎているというのに、天は赤々と輝く。灰すらも燃やす劫火が夜空を衝いているせいだろう。全てが異常だった。~
住まうものたちを刈り入れ時の麦の穂の如く散らしたその元凶は、中心で自由の利かぬ身を必死に動かしている。何かを求めるように、手にも似た器官をうぞうぞと。~
しばらくして、動きも止まる。代わりに哮声にも似た雑音が発せられた。爆発的なノイズが荒れた地面を抉り、ただでさえ荒廃した焼け野原を更に惨憺たる風景へと変えた。~
#br
周辺の氏族が重い腰を上げたのは、それから数週間も後の事である。差し向けたそれぞれの軍勢が最初に目にしたのは、一方的に遣わされた滅びの残滓だった。~
澱んだ空気はまるで正気のようにたちこめている。糜爛した土にはぺんぺん草の一つも生えず、あるのはただ岩盤の成れの果ての屑だけ。~
生を全く感じさせないそんな魔境の中心に、何者かが蠢くのを一人の兵卒が目撃する。霧がかった視界に目を凝らし、それをじっと見つめる。~
彼の目に映る、異形。どろりと何かが滴り落ちた、血だろうか? それとも別の何か? 視線をそれに落として、それが赤黒い血と黄色い胆液の混合体であると正しく認識する。~
平の一兵卒の胆力はそこまでしか持たなかった。抜かした腰を強か地面に打ちつけて、失禁する。見上げたそこに佇む人肉と骨と内臓の塊に叫ぶ事も忘れて。~
目の前の醜い肉片は、その兵士の無様な姿を零れた眼球で空ろに眺めた。これも違う。――突き出した大腿骨を跪いた彼の首筋に押し当てる。~
ミシミシときしんで折れたのは白く赤い骨だったか、それとも兵士の首だったか。~
#br
奇妙な化け物が徘徊するその地に、大鉱脈がある事を突き止めた山師がいた。彼は瘴気漂うグラウンドゼロを、自身の勘と魔力探知の才に秀でた徒弟を1週間近く駆け巡っていたのだ。~
その間、怪物と遭遇せずにいられたのは正しく僥倖であった。とは言え、その影で支払われた代償は大きい。斥候として送り込まれる兵の命は、日に数十、数百と費やされていたから。~
だが、その代償も無駄ではなかった。何故ならば、山師の見立てではその鉱脈は金属のみならず宝石の類――それも魔力を帯びたものばかりが夥しいほどの層を成しているという。~
この鉱脈を掌中に収めれば、地方の小さな一部族が大国にすらなる。これは、そういった『奇跡』を誘起しうる大いなる資源であった。~
山師は心中で密かにほくそ笑む。この名誉を誰彼構わず吹聴して回りたい、とすら願った。だが、それはついぞ叶う事はない。~
彼は権利の独占を企図した者の手によって、徒弟ともども惨殺された。自身が見つけた大鉱脈の上で、誰に見取られる事もなく。余りにも呆気なく惨たらしい最期であった。~
ただ使われ、功績を誇る間もなく命を落とすとは。本人の無念は察して余りある。~
さもあらん、彼の血と恨みは大地に深く染み入っていく。その負の想念は魔力と共鳴して、怨嗟に染まった告発を全ての部族の長へと放った。~
#br
……彼が報いた一矢によって、世界はまた、混迷を深めた。血が流れ、積み重なる死肉。言葉ではなく、剣で互いの世界を刻みあう、そういった狂気が巷に満ちていく。~
全ての引き金となった、『星』の知らぬ間に。~
#endregion
#region(女王の召還、そして彼女と父との会話)
-王城、謁見の間。普段は訪問者がひっきりなしにやってくるこの場所は、しかし夜半ということもあってしんと静まり返っている。~
そこにいるのはたった二人。一人はこの城の主たる女王、リュナヴィーサ。マナ・ランタンの赤々とした輝きを後光に負うて、玉座に坐していた。~
対して傅くのは、ヴィルセルハルト・ディムホルゲルツ。ウィプヘラ王国の重鎮、辺境伯の地位にある男である。~
「この度の急な召喚、理由は到着次第知らせるとありましたが……」視線を落としたまま、まるで咎めるような口ぶりでヴィルセルハルトは言った。~
辺境伯という地位は、伊達や酔狂で名乗れるものではない。長に渡って国へ貢献し続け、その上で女王の目に留まってようやく与えられる、名誉あるものである。~
その上、その職責はもたらされる利益以上に重大である。「辺境伯」の称号どおり、僻地において侵略者へ常に目を光らせなければならぬ。~
そして同時に、高い地位にある者の宿命として、外交にも精を出し国の内政にも心を砕かねばならない。些事にうつつを抜かすいとまなどはないのだ。~
だと言うのにこの女王は、理由すら告げずにただ召喚状だけを送りつけてきたのである。~
「そういうな。わらわとそなたの仲、今更形式ばった文を送らずともよいと言うたに、誰ぞがいらぬ気を利かせおったせいよ」~
くつくつと笑う。ヴィルセルハルトが見てきた彼女の笑顔はみなそうだ。人を食ったような、悪く言えば小馬鹿にしたような含み笑いの成分が含まれている。~
民衆に見せる笑顔とはまた異質、腹心にしか見せない歪んだ感情の発露。今もまた、まるで謀りにまんまと引っかかった者を嘲るような笑顔を浮かべていた。~
「おおかた、大公殿下にでも仰せられたのでしょう。あの方は、女王陛下の言葉であればその一片も聞き落としはしますまい」~
「は。いよいよ皮肉まで言うようになったか、嫌味な物言いは老獪のなせるものぞ?」相互いに刺のある応酬。だが、そこには奇妙な信頼関係が透けて見えた。~
#br
その関係の発端は、王国開闢以前に遡る。ディムホルゲルツの始祖たるイノリ・ディムホルゲルツは、先の大戦においてリュナヴィーサの率いる軍勢の一翼を担っていた。~
敵陣を割って先駆ける、勇猛果敢な女騎士。リュナヴィーサはそこに自身の姿を重ね見、イノリもまた彼女に憧憬の念を抱く。~
さもあらん。二人の間に友情が芽生えていったのも、無理からぬ事であった。彼女たちは盃をかわし、互いを朋友と認め、共に戦場を生き抜くこととなる。~
ウィプヘラが国を平らげたのちも、イノリはリュナヴィーサの側近兼友人として常に侍り続ける。それこそ、老衰で命の炎が掻き消えるその間際まで。~
彼女の死後、女王はディムホルゲルツの血族を永代に渡って伯爵家として取り成した。往々にして語られる事の多い、ステレオタイプの出世話である。~
そういった事情もあり、代々の当主は女王に付き従って、『御用聞き』としてその役目を淡々とこなしていく。~
しかし、現当主は些か変わり者であった。伯爵家の血筋にありながらその事を幼き頃から疑問に思い、自分に問うていた。~
『女王陛下にとって我々は「初代イノリ」の残滓、幻影であり、あの方からすればただ飼いならされた番犬と同じに過ぎないのではないか?』~
元来持って生まれた反骨心は、外の世界を知ることでどんどん膨らんでゆく。女王は何故、一人で万事を取り決めてゆくのか。女王は何故、一人で国を治めているのか。~
#br
ヴィルセルハルトは、女王の命を唯々諾々と受ける盲目的な信奉者ではなくなった。疑心暗鬼は日に日に深まっていく、国外への出奔を念頭に置き始めるほどに。~
だが、その事も折込済みであったのだろう。女王は、なんだかんだで産土を重んじている彼の性格を看過して逆手にとり、血族の安泰と権力という手綱でヴィルセルハルトを縛り上げたのだ。~
家族や使用人たちにはほどほどの威厳と大きな寛大さを以って接している彼も、ウィプヘラにおいては結局、女王の駒に過ぎなかった。~
「お戯れを。女王陛下、僭越ながら申し上げますが……私もこう見えて多忙の身。出来る事ならば、お早く「お言葉」を頂戴いたしたき次第です」~
とは言え、駒は駒でもチェスのクイーンじみた万能性を持つ男である。反骨心が強いとは言え、手懐けてしまえば十二分に『切り札』足りうる。~
#br
「相も変わらず愛想のない奴よの……よかろ、近うよれ」女王は頬杖をつきながらにやりと笑った。――やれ、暴れ馬に鞭をくれてやろう。~
その笑みに、ヴィルセルハルトは直感的に何か嫌な物を感じ取る。首筋の産毛がぞわりと蠢くような、言うなれば本能的な「悪寒」である。~
奇妙な予感を、かぶりを振って打ち消す。小さな段差を乗り越えて、玉座の、女王の呟きすら聞き漏らせぬような距離まで歩み寄った。~
「……」やはり、どこか焼け付くような、焦燥感にも似た感情が心の中に渦巻く。それは女王の放つ威圧感によるものだろうか?~
隠し切れぬ狼狽を端正な顔に滲ませた男の姿を、しかし楽しげに眺めていた女王は、跪く彼の耳元で囁いた。~
「……そなたの娘に預けた『審判の輪』、どうやらきゃつの手を離れて他国の者の手にあるようじゃ」~
「まさか、斯様な事は……女王陛下から直々に賜った宝物、どうして自ら手放しましょうや」~
間髪いれず、反論する。娘がそんな事をするはずはない、と。だが、女王はその反駁を鼻で笑いながら玉座に凭れた。~
「わらわが、手ずから作り上げたものの在り処を把握できていないと思うてか? ふふ、随分軽く見られたものよな……いや、それもてておやの愛という奴か」~
ランタンの光が強まって、女王の顔に深く影を落とす。表情は全く読めず、感情は一切感じられない。夜明け前のそれより深い闇が、彼女のかんばせを塗りつぶして――~
その姿を、ヴィルセルハルトは正視できなかった。空恐ろしさが心を支配していくのを感じたからだ。彼がうなだれるように頭を垂れたのは、己が疚しきところを隠さんとするせめてもの防禦である。~
「この期に及んでもなお、口を噤むか? 賢しいの伯は。ならばわらわが直接言うてやろう。今度の一件……~
そなた、''最初から全て知っていたというに、気づかぬふりを決め込んで捨て置いたのではないか?''」~
瞬間、空気が凍てつく。図星をつかれ、脂汗が額に滲む。これは最早、地獄耳や千里眼というレベルでは済まぬ、神がかった指摘だ。~
遠く隔たった異郷の地で暮らしている「一人」の男の、心中の機微を読んで見せたのだから。~
何故気取られた? どこからどうやって? 徹頭徹尾、知らぬ存ぜぬを決め込んでスアラセニアにも相対してきたというのに、この女王は如何様にしてそれを知りえたのか。~
#br
「どうして知れたか。理由を知りたかろ? ……無論、教えてはやらぬがの。そなたをからかう口実がのうなってしまってはわらわも退屈でかなわぬ故」~
大げさな高笑い。典型的なヴィランの文法に則ったかのような、完璧な『悪党』のそれである。~
そう、彼女は昔から「そう」であった。いつだって、腹心の喉元にナイフを突きつけ、笑いながら問うのだ。『Why So Serious?』と。~
その答えと末路はどうあれ、彼女の内面にはそういった狂気が常に渦巻いている。救いがあるとすれば、その狂気を民草に向けていない、という事だけ。~
「……全てを知った上で、女王陛下はいかがなさるおつもりですか? さきに仰ったことを鑑みれば、私を処断するというお考えはないようですが」~
「さよ、察しのいいことよな。もっとも、その程度のことに思い至らぬようならこの手を煩わすこともなく、そっ首を掻ききらせたろうよ。とどのつまり、行き着く答えは最初から一つだけ」~
「万事を見逃す。ただし、以降は女王の監視下にあるという事をゆめゆめ忘れぬよう、立ち居振舞えと」そういう思し召しなら、と承服しようとするヴィルセルハルトを、女王は押し留める。~
「戯け、わらわはそなたの言うた事全てを肯定したわけではない。――よく聞き肝に銘じ置け、伯よ。そなたも、そなたの娘スアラセニアも、今まで通り好きにやればよい」~
にいと笑う、その口元を呆けた顔で見つめる。彼女は、今なんと。聞き間違いでなければ、今までの凶状を見逃すのみならず、これから行われるであろう反逆行為をも捨て置くと断言したのではないか?~
「――世は並べて磐石よ。その磐石において、女王としてのわらわの役割は楔。その楔もいずれは外れよう? わらわはその時、一人の女リュナヴィーサとして、スアラセニアと向き合いたい」~
故に、の。と零す。いつになく真摯な表情を浮かべながら、とうとうと語った女王の言葉に嘘の色は見えない。裏はあるかもしれないが、紡いだ言葉に偽りが混ざりこんでいるようには、感じられなかった。~
「とまれ、話はしまいじゃ。わらわもいつになく饒舌になってしもうた故、退屈したであろう? 早よ帰って、スアラセニアに書状でも書いてやるがよかろ」~
従者を呼ぶと、女王は彼らを従えて玉座を後にした。ぽつんと残されたディムホルゲルツは、たった一言、呟く。~
「あの方は、あまりにも底知れぬ……」~
#br
赤い魔力のランタンは、少しずつ輝きを小さくしていく。ディムホルゲルツが謁見の間を後にするころには、静寂と漆黒の闇が玉座を包み込んでいた。
#endregion
#region(学び)
「さて、別れの時か。終ぞ我が門下で学ぶ理由を聞かせてはもらえなんだな」声の主である老人は革張りの大きな椅子にその身を埋め、目の前に立つ女の顔をじっと見ていた。~
彼の背から後光のように差す日差しは、迫り来る冬を感じさせる釣瓶落としの強い橙色。秋冷の風が窓を小さく震わせたのと同時に、女は口を開いた。~
「重ね重ねの非礼、お許しください。ですが」そればかりは秘さねばなりません、と女は続けた。その表情はいささかこわばって見える。それに対して。~
「構わぬ、言うてみただけよ」朗々と笑うその姿は、至って鷹揚。好々爺然としたしわくちゃの顔を更にくしゃと縮めながら、しわがれた声で言葉を継ぐ。~
「奇人の教えを請う物好きが、いまだにおるとは思うてなかったでな。なかなかどうして、いい暇つぶしになったわ」~
楽しげに言ってみせる彼の表情に、嘘の色は微塵もない。白い顎鬚を扱きながら、老人は女の返答を待った。~
「……本当に、申し訳ありません。感謝のしようもないほど、お世話になりました」十数秒の後、ようやっと搾り出されたのは謝罪の言葉だった。~
老人はぽかんと口を開け、そして天を仰いでまた呵呵大笑する。「槍でも降りかねんな。今生の別れでもあるまいに、殊勝が過ぎる」~
視線を戻す。女の顔は、泣き笑いを形作っていた。~
老翁は何を思っただろうか? 師弟として過ごした、ほんの数ヶ月の結実をそこに見ただろうか?~
……彼は何も言わず、ただ笑った。それは冷やかしやからかいに端を発したものではなく、子や孫に向ける、慈しみゆえのもの。~
女は足を揃え深々と礼をした。万感の思いをこめて、また感謝の言葉を連ねながら。「重ね重ね、感謝いたします。このご恩は、一生忘れません」
#endregion
*手帳 [#ac2dc15f]
|BGCOLOR(#ff6666):|BGCOLOR(#ffcccc):SIZE(10):|c
|[[同志軍曹・ペトロ>名簿/457741]]|幼馴染は北風の人、赤い旗に映えるのは金の髪|
|[[海の少女・環>名簿/458701]]|幼馴染は潮風の中、大海原を無尽に駆ける成長期|
|[[吸血鬼探偵・ヴァルカン>名簿/459282]]|幼馴染はヴァンパイア、未だ思春期真っ最中?|
|[[セクハラ坊主・タグ>名簿/459282]]|幼馴染はセクハラ魔、両親亡き後、自ら険しき道を行く|
|[[ガンナー少女・セイ>名簿/457698]]|幼馴染はボクっ子被り、無愛想でも心は優しい|
|[[縦横無尽の衛兵・スパイク>名簿/457734]]|幼馴染は自警のプロ、衛兵以上に店員が似合う|
|[[眼帯の剣士・シュナー>名簿/457770]]|幼馴染は魔法騎士、奇妙な凝り性はいつ治る?|
|[[オリエンタルガール・ミコト>名簿/457885]]|幼馴染は東洋の香り、幼馴染の友情は爵位をも越えて|
|[[オートクチュール女装っ子・カザリ>名簿/457693]]|幼馴染は女装趣味、趣味というより英才教育?|
|[[ふんわりお姉さん・ジィ>名簿/457790]]|幼馴染は大人の女性、柔き表と鋭き裏と|
|[[ニヒルな衛兵・レナルド>名簿/457723]]|幼馴染は沈思の青年、物憂げな眼は何を見る|
|[[黄金暦の錬金術士・ミューリィ>名簿/457839]]|幼馴染は錬金術士、深くまどろむ眠りの姫君|
|[[フェミニンボーイ・マティアス>名簿/457707]]|幼馴染は可愛い少年、少し影ある|
|[[みんなの兄貴分・剣馬>名簿/457711]]|幼馴染は剛腕一閃、妹だけには頭が上がらない|
|[[静かなる少年・ジョシュ>名簿/457719]]|幼馴染は寡黙で一途、なんだかんだで優しかったり|
|[[エキセントリック・サイプレス>名簿/457695]]|幼馴染は華麗で豪奢、見た目と裏腹意外と真面目|
|[[お菓子屋さんの息子さん・ラージャ>名簿/457786]]|幼馴染は好奇の塊、幼心は夢にも満ちて|
|[[犬?・ラウリィ>名簿/457809]]|幼馴染は半神半人、犬にもなれるし女(?)にもなる|
|[[年齢不詳の美少年・九>名簿/457826]]|幼馴染は見目麗しく、酒に酔ったら一大事|
|[[絢爛少女・ローテローゼ>名簿/457820]]|幼馴染は優雅な美女、綺麗な薔薇には魔術の心得|
|[[本の虫・タマラ>名簿/457838]]|幼馴染はビブリオフィリア、古書店開く知性の女|
|[[武芸百般の顔役・ジュロウ>名簿/457752]]|幼馴染は豪放磊落、幾多の武術に通ずる男|
|BGCOLOR(#9999ff):[[エロ魔神・アナゴ>名簿/14705]]|BGCOLOR(#ccccff):冒険者は性欲の人、淫蕩に耽る御大尽|
|BGCOLOR(#9999ff):[[人魚姫・ラララ>名簿/457774]]|BGCOLOR(#ccccff):冒険者は人魚姫、泡を転がし東奔西走|
|BGCOLOR(#9999ff):[[冒険者の守護天使・カナエル>名簿/464777]]|BGCOLOR(#ccccff):冒険者は聖なる御使い、想いを束ねて力と成す|
*コメントアウト [#e6c62d75]
http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp011229.gif http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp011750.png
//恋愛スイッチ ON
//戦闘スイッチ ON
//文通スイッチ ON
//レイプスイッチ OFF
//セクハラスイッチ ON
//エロールスイッチ OFF
//ガチ死にスイッチ OFF
//引きこもりスイッチ OFF(出来るだけがんばります)
//シリアスキャラスイッチ OFN(ご自由にどうぞ)
//大人数コメ参加スイッチ ON
//
//各能力値が250を超えるまで、設定によりガチ死にいたしません。
//過ちて改むるに憚ることなかれ。

//一応舞台が整ったのでご報告を。聖杯終わってからにしようと思ったので長々待たせてすいません。
//もし時間があれば「VS剣馬」で戦闘をしてもらおうと思ってます。
//いかにも主人公気質なので、どういう運びにするかは先方との相談で決めて貰っていいんじゃないかなと思います。
//シークエンス叔父さん自体は「剣馬を使って門を開き、アグニを再び召喚する」って副産物の時点で既に目的達成なので、
//それ以降、本当に剣と腕輪を壊させるのか、スアラ自身がどうなるかはスアラが決めた上で相談してくれると嬉しいです。(セータ
// 了解しました。時間的にはまるで問題ないですが、剣馬くん側はどうなんでしょう
// それに、殴り合いとなるとやや難しい気もします。本当要相談ですね
// おじさんも他の企画等に注力するようであればのんびり進行でも構わないのですが……
// 腕輪と剣に関しては、これもまた思案が必要です……うーむ
//若干霊圧状況を鑑みて動かしていたので既にアグニは召喚済みです。この辺りは臨機応変に行こうと思っていたので。
//剣馬側の霊圧が確保できない場合は自分(シークエンス)で処理するつもりでしたが、剣馬にも霊圧がありそうので、絵的に下の世代で調整した方がいいかもしれないですね。
//一応力としての剣魔(アグニ)は今剣馬にも宿ることができるという状態なので。
//事情はアグニフラグの最中にコメアウでも相談してあるので、剣馬側も知っていますので、日時は直接剣馬の中の人に相談したほうがいいかもですね。
//僕自身は別にかまわんぞ、今霊圧3/10くらいで低空飛行してるしな……。まあ、こういう運びにしたいから僕(シークエンス)をこういう立ち位置で使いたい、っていう要望はいくらでも受け付ける。暇だし、シナリオに参加するの楽しいしな。(シークエンス
// 面目ない……素早い行動に感謝します。
// 調整という点では、まだ青写真にもなってませんが、幼馴染の世代交代を描写しながらシナリオを展開していきたいと思っています。
// いささか抽象的ですが、サラとセータの絡みが剣馬くんとスアラセニアとのユウジョウ!とが並ぶ形になるかと。
// 霊圧、霊圧は確保できるかなー……自分でやりたいといっておきながらあれですが、
// ゲーム山積小説山積、遊びたい盛り状態なのです。手前勝手な言い分で申し訳ない。
// ただ、他の人を巻き込んだ大きな話をやりたいと思っている事には違いないです。
// 剣馬くんのところともよく相談をした上で行動に移したいと思います。