:端書
- 芸舞場 --
- その舞台は、血の香りがした。 --
- 昨日今日、誰が血を流したわけではない。
清掃もそれこそ毎日されている。 それでも、その舞台からは、血の香りがした。 拭い去れないほど濃厚なその匂いが、滲みついていた。 --
- 遊興の為。練磨の為。あらゆる理由を持った兵共が幾度となく力を振るい、技を競った舞台。
開闢よりの数百年、血を吸い続けた舞台。 闘技場……その舞台の名は意に違うこともはなく、その在り方もまた至極わかりやすい。 --
- 石畳に吸われた生命の赤は酸化した死色の黒となり、刃毀れした得物の端は風巻く砂塵と区別がつかない。
最早、飛散した闘争の残滓は景色にすら滲み込み、いつしかそれも自然となった。 --
- 闘技場の名を冠し、望まれるまま其処にあった舞台。
闘争を肯定し、鮮血を貪り、暴にただ望まれるまま其処にあり続けた舞台。 そのような血塗られた舞台に残るのは、やはりその在り方を望んだ何者かでしかない。 --
- 黒髪蒼瞳のその何者かは、ただ佇んでいた。
まとめられた長髪と膨らみのある胸から、辛うじて女とは分かる。 逆にいえば、その部分しか、その女を女と判断させるものは一瞥して存在しなかった。 そう思わせるほど、その女の身体つきは完全な戦士のソレであり、放つ殺気は、餓えた肉食獣のそれだった。 引き締められたその身体に女性らしい丸みは無く、薄着の上からでもわかる筋肉を身に纏い、切れ長の瞳はギラギラと闘争への期待を漲らせる。 その有様は、ただ女というには余りに柔に欠けていた。 --
- 正しくそこに居たのは、戦の虜であった。
ただ女の姿を纏っただけの、物狂いであった。 血の香と狂奔。刹那と苦痛。 そんな至極下らない物の為に、何の躊躇いもなく生きる全てを棒に振れる。 そんな無様の成れの果てであった。 --
- だが、しかし、ここはそんな無様を肯定する場所。
そんな下らない物を認める場所。 ただ、闘争を求めた、兵共が夢の跡。
なればこそ、そこに斯様な物狂いが集うのは正しく道理であり……当然の帰結であった。
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「人待ちかい? えぇ? 姉ちゃんよォ」
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- 現れたのは、歪な深紅の大剣を握った偉丈夫。
怒髪が如く天を突く白髪と、鮮血を思わせる紅瞳。 そして……鮫を思わせる狂笑。 滲むような汚らしい笑みを浮かべるその偉丈夫からは、比喩なしに血の匂いがした。 --
- 血の香に誘われるように、問われた女は、ただ振り向く。
何でもないように、ただ自然に振り向き、ただ自然に……刃を抜く。 須臾の間は愚か、刹那の間すら惜しむが如く、刃を振れば。 正しく次の刹那……甲高い刃の悲鳴が闘技場に響き渡る。 透き通るような白銀の鎬と、汚濁の如き紅の刃が、喰らい合う。 --
「もし、先客がいるってぇんなら、悪ィんだけどよォ、ちぃと順番譲ってくれねぇかァ? もう我慢できなくってよォ。今すぐヤりてぇんだよ」
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- 不意打ちを悪びれる素振りすらなく、偉丈夫はへらへらと笑い、細められた目が弧を描く。
その間も体躯を生かした鍔迫りを容赦なく女に浴びせ、両手持ちの大剣ごと覆い被さるように圧をかける。 幾度となく刃と刃が喰らい合い、その度に偉丈夫の肩がいかる。 だが、女の方もせいぜい反動で腕が震えるだけで、依然、押し切られる様子はない。 その様をみれば、偉丈夫の汚らしい笑声はますます大きくなる。 --
「いいねェエエ! アンタみてぇな『喰いで』のありそうな女を見たらさァ!! どう考えてもやっぱ、オアズケだなんて無理だろォ!? 俺って略奪愛とか好きなタイプだからさァァアアァァア!! ヒィイッハッハハハハハッハハハハハッハハハハ!」
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- 大口をあけて、偉丈夫は調子の外れた大音声と凶笑を喚き散らす。
その大口に並ぶ乱杭歯はどう見ても人のそれには見えず、刃を食らいながら脈動するその深紅の得物もまた、尋常な武器には見えなかった。 魔剣を握りしめた魔人はその優位を余すことなく女に叩き付け、さらに体を折り曲げ、体重ごと全膂力を乗せて女に覆い被さる。 --
- その、偉丈夫は間違いなくまともではなかった。
少なくとも尋常から見れば、多少なり気が触れているといって差し支えない。 だが、戦におけるその選択は……言動とは裏腹に、明晰であると言わざるを得ない。 体格に理がある密着状態での力押し。真綿で首を絞めるが如き合理と殺意。 偉丈夫はどれだけ闘争の熱を帯びても、殺意の寒気は失わない。 そういう類の何かで、暴力装置だった。 --
- 熱の衝動を帯びながら、氷の殺意だけは忘れない何か。
それは正しく、場の持つ闘争と血の芳香に誘われた獣であった。 ただ意地汚く残滓にまでむしゃぶりつく餓獣であった。 戦だけを身に纏い、血と争いだけを求める愚昧の具現であった。 --
だが、それは……この女も同じことでしかなかった。
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「!?」
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- 偉丈夫の瞳が、驚愕に見開かれる。
その刹那。 僅かな呼吸の間隙を縫うように、刃を軸にして女が一歩右斜め前へと身入りし、あろうことかそのまま手に持った得物で斬りつけてくる。 普通なら、出来るはずもない。いかな豪力を誇っていたとしても不可能に近い。 なぜなら、そのまま内に入ればそこは拳の間合い。 いかに大剣よりも刀身が短いとはいえ、満足に刀を振るえる間合いではない。 だが、女はそれを成した。 間合いの利を強引に曲げて、それを成した。 そう、まさに無理を通して一歩前にでながら、強引に『わざと刀を折らせて』、大剣の軌道を逸らしつつ、間合いの内に潜り込み。 そのまま、折れて短くなった刃で無理矢理斬りつけてきたのだ。 懐に入れば、無論刀身は長いよりも短い方が都合がいい。 理屈では、筋は通る。 しかし、そのやり方はあまりに暴力的で、野性的だった。 --
「ちぃぃいいぃいいぃいいいッ!!」
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- 苛立ちを隠しもせず、偉丈夫は舌打ちし、咄嗟に腕を軌道に割り込ませて顔面への斬撃を避ける。
鮮血を迸らせ、深々と突き刺さる折れた刀。 最早刀としての機能を失っても、凶器としての機能まで失うわけではない。 信じられないような膂力で捻じ込まれたそれは容易く腕を貫通し、切っ先が眼前で漸く止まる。 だが、それは刃が止まっただけの事。 ただ手に持った武器が、止まっただけのこと。 その身に影響がないのならば、一度前に出た獣の身がまだ動くのならば。 果たして獣は、躊躇なく凶器から手を離し。 犬が如く、鼻先ごと相貌を捻じ込んで。 女とは思えぬほど、咢の限り大口を開けて。 正に獣に相応しく、牙で狙うは……その首。大動脈。 --
- 女の腕が伸びる。女の牙が迫る。
しなやかな女性の肉を、悍ましいまで闘争に最適化させ。 足りぬ膂力を眼を覆うほどの狂想で補って。 戦の化身が、獲物に迫る。 細められた蒼の瞳孔は、ただ相手を喰らう為だけに動き。 その知覚能力の全ては、ただ戦の為に振り向けられ。 それ故か。だからこそなのか。 あと一息。あと僅か。 ただ踏み込めば、喰らいつける。 そんな、寸でのところで。 --
「……ッ!!」
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- 女は偉丈夫を蹴りつけ、大袈裟に飛びのいた。
間合いは大きく開き、大剣すらも捉えられないはるか遠間。 そこで漸く対面しながら……2匹の獣は笑った。 --
「ヒヒヒ、ハァハハハハハハ! ざぁんねん、あとちょっとだったンだけどなァ?」
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- かたや偉丈夫。
腕から飛び出した骨の切っ先……そこに付着した『女の血』を舐めながら、深々と刺さった刃を引き抜く。 僅か刹那の邂逅で、斬撃で腕に突き刺さった女の刃と、それによって体外に突き出した自らの『骨』で女を斬りつけたのだ。 --
「……頑丈な奴だな。斬りつけ甲斐がある」
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- かたや女。
常軌を逸した偉丈夫の凶撃により左腕に傷を受け、互いの血が混じりあった傷口を舐める。 しかし、その笑みに翳りはない。 むしろ、さらに喜悦の色を深めて、腰に帯びた鞘から予備の刃を引き抜く。 --
- 互いの口の端、彩るは朱。飾るは笑み。
双方、相向かいに凶笑を浮かべ、その蒼と紅の視線を交錯させる。 自然と細まる眼光で、殊更互いの笑みが深まる。 --
「姉ちゃんアンタ……実はとんでもない歳だな? この血の味は年相応のそれじゃあねぇぜ」
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「女の歳を聞くなんて、随分と野暮なんだな。そういうお前こそ、人間じゃあないな。動きがデタラメ過ぎる」
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「ハッ! アンタだって大差ねぇだろ! この血の味はどうみたって百年ものかそれ以上だ。だってのに、アンタの見た目はせいぜい二十代そこそこじゃねぇか。完全に人間辞めてるぜ! ……と、いってやりたいところなんだけどよォ……」
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- 偉丈夫の目が細まり、僅かに分析の色を帯びる。
暴力の付属品としての洞察を示し、歪に笑う。 --
「アンタほんとに『それだけ』なんだなァ。他にはなぁんにもねぇ。時間叩き込んだ以外に何もねぇって感じだ」
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- 対する女は艶然と不敵な笑みを返し、口の端についた血を拭う。 --
「それで何か不都合でも?」
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- 女のその問いには、何の色もなかった。
何の悲観も、何の傲慢もなかった。 ただ、女は単純に、何の含みもなく、ただ言葉だけの意味でそう問うていた。 だからこそ、その女は間違いなく戦の虜囚で、間違いなく戦の奴隷で、間違いなく戦の信徒であった 戦に戦以上の意味を求めず、強さに強さ以上の意味を求めず、結果に結果以上の意味を求めない。 目的の抜け落ちた理由そのものが、既に目的と化した狂奔。 それが、恐らくこの女なのだろう。 だからこそ、こんなところに。 こんな血と闘争の舞台に誘われるのだろう。 --
- 故に、偉丈夫は笑った。
改めて、口の端を吊り上げて、それはもう楽しそうに笑った。 --
「ははは!! いいねぇええええ!! バカ過ぎて気に入ったぜぇ、姉ちゃん! ほんとに気に入っちまったからよぉ」
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- 偉丈夫は口元だけで笑い、値踏みするように瞳孔を細め……口の端についた血を舐めとるように、舌なめずりをする。 --
「次の『体』はアンタにするわ」
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- 肉と骨を思わせる深紅の大剣を突きだして、宣言する。
それを見れば、女もまた笑みを返し、口を開く。 --
「人を使う魔剣の類か」
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「御明察。人間様はよォ、物だのなんだのとか色々吟味したがるだろォ? 俺達みたいな剣をコレクションしてみたりとかさぁ? 俺はそいつがちょっと逆ってだけよォ。尤も、俺の趣味は集めるんじゃあなくて、専ら『喰う』ことだけどなァ?」
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- 雲に遮られて日が陰り、偉丈夫の体に影が落ちれば……染み出すように、偉丈夫の背後に無数の影が浮かび上がる。
怨嗟、悔恨……そして『強欲』に捉われた、亡者共の影が。 --
- それすら嘲るように、偉丈夫はより一層汚らわしく嗤い、未だ血の滴る腕を一振り。
骨の軋む音と肉の飛び散る音が響くが……血は飛ばない。 むしろ、再生装置を逆回ししたかの如く、傷口に滲みこみ、内側から塞ぎ、最後には完全に治癒してしまう。 --
「おかげさまで、見ての通り『血の巡り』もいい。便利なんだけど、死ぬほど腹が減る。んまぁ、そんなわけで……」
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- 「ちぃっと、ひと齧りさせてくれよぉ! その身体!
この暴食剣『ディバウリングリード』様が大事につかってやるからさぁぁあああ!!!」 -- ディバウリングリード
最も原始的な欲望を露わにして偉丈夫……否、暴食剣が吼える。 食欲と獣欲が綯交ぜになった殺意。 ただ蹂躙し、貪り、尊厳ごと踏み躙らんとする獰猛な強欲。 異形たる魔剣の顕現故にさながら権能として持ちえる、捕食者としての傲慢と威圧。 だが、そんなモノを前にしてなお、女は笑う。 --
「いいだろう、この身体。欲しいというならかかってこい」
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- ただ、心から、笑う。 --
「魔剣も人も関係ない。戦場で相見えた以上、勝者は奪い、敗者は失うのみ」
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- そう、ただ……心の底から。 --
「さぁ、私に……お前の戦場を見せてみろ、暴食剣」
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愉悦に、咽ぶ。
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「我流、カベルネ・フィヨルド……参る」 -- カベルネ
- そして、二匹の餓獣は駆ける。 --
- 女……カベルネの瞳孔は細められ、口角は吊り上り、覗く牙は刃が如く。
偉丈夫……暴食剣の目は見開かれ、大口は笑みを象り、猛る疾駆は猪突が如く。 互いに引かず、省みず、ただただ前へ。 彼我の間は瞬く間に埋まり、最早、間合いは一足一刀。 そう、互いに間合いの異なる得物をもっての、一足一刀。 即ち。 --
「っしゃぁあアアアぁああぁァア!!!」 -- ディバウリングリード
先に至るは、大剣片手の暴食剣。 真正面から気迫と共に繰り出すは、烈風纏う横薙ぎ一閃。利き手一本片手薙ぎ。 一見力任せの粗雑な攻めも、遠間から繰り出される剛腕の一撃ともなれば話は違う。 間合いの外から一方的に振るわれる、十分な膂力と遠心力の乗った暴食剣の一撃。 カベルネの体躯と得物では、受ければ必殺。躱せば再び射程外。 暴食剣のとるその手は、優位を疑わぬモノの定石。 王道という名の圧倒的暴力。 間合いの外から放たれる必殺の一撃。 あらゆる闘争において、闘争を終わらせるに足る理由となる豪撃。 --
- 間合いを制する者は戦を制する。
有効射程の差は歴然とした彼我の戦力差であり、絶望的な地力の差でもある。 あらゆる研鑽も、あらゆる覚悟も、偉躯という名の残酷な才の前には敢無く膝を折る。 それほどまでに、互いの優劣の差は明白であり、最早大局は決しているといって差し支えない。 --
そう、大局『だけ』は。
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故に女は……嗤う。
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- 浮かぶは凶笑。利き手は透き手。
躊躇う事なく身を屈め、腰を落として、舐めるように地に伏せる。 引かれるように後ろ髪が大剣に掻っ攫われ、毛先がいくらか宙に舞う。 --
- 暴食剣が、その目を見開く。
だが、カベルネは止まらない。 獣は踏み込み、左に握った刃を突き出す。 その括目の間すら、奪うかのように。 --
- それでも、大局は決している。
振り切った大剣を紙一重で引き戻し、鎬で突きを受け、すかさず蹴り。 体格差という圧倒的な差がある以上、間合いに優れ、その分、手数も増える暴食剣の優位は揺らがない。 蹴りを避ける為にカベルネが飛びのくことで再び間合いが開き、振り出しに戻る。 --
- それでも、カベルネは止まらない。
相手が構え直す前に走り出し、再び突き。 捻じ込むように身を捻り、手を伸ばすように腕を突き出し、喰らいつく。 結果などわかりきっている。 受けられて、また蹴り飛ばされるか反撃に一閃貰うだけ。 わかりきっている。それでもカベルネは止まらない。 --
- 大局は決している。
体格差と得物の間合いの差。 体格で優れているということは筋力に優れるという事であり、筋力は速度に直結する。 速度と質量があわさったときの破壊力については、今更想像するまでもない。 最早、結果は火を見るよりも明らかといえる組みわせ。 そう、大局は決している。
いつものように。
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- 女は、嗤う。
いつものように。 そう、そんなことはいつもの事。 いくら体を鍛えようが、いくら覚悟で補おうが、至らぬものは至らない。 足りない才覚が補われるわけでもなければ、天啓が即座に齎されるわけでもない。 女に生まれた以上、肉も骨も男のそれとは比べるべくもない。 それが覚悟で変わるなら、戦士の誰もが苦悩しない。 --
- 才には見放され、伸びしろもない。
望むものがその手に落ちることはなく、望む極地に至ることもない。 最初から、そんなことはわかっている。 そう、大局は、決している。 --
だが、それは。
諦める理由には、なりえない。
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「チィッ!!」 -- ディバウリングリード
苛立ち混じりに暴食剣が舌打ちし、再び鎬で突きを受け、即座に蹴り。 先ほどと同じ結果。傍目からはそう見えるかもしれない。 だが、違う。先ほどと違う。 一拍遅い。 蹴り脚が動いた時、既にカベルネは間合いの外。 バカの一つ覚えのように身を捩り、ただそれしか出来ぬと言わんがばかりに再び突き。 しかし、暴食剣は未だ、『構えていない。』 ぞくりと、暴食剣の背筋が震える。 先ほどより、詰めている。 確実に、詰めてきている。
足りぬ間合いを、速度と覚悟で詰めている。 --
「ハッハァ! 無理矢理こじあけるってかぁ!? 甘めぇよ! クッソがぁああ!!」 -- ディバウリングリード
- ――話がしたいね。 -- ラムロッド
メモに何やら綴っている若者の対面に、初老の男が腰掛ける。 --
まぁ、構わないぜ。断ってもアンタ勝手に喋るだろうしな。 でも、どうせほとんど独り言みたいなもんだろ。 そういう他人を使った自慰行為は出来れば余所でやってほしいんだがね。 -- ヴェイロス
- 自慰行為じゃない事が一体この世界のどこにあるというのだね?
なんだって結局は最終的に自分の『快』の為に行っているのが人間の営みじゃないか。 そこから目を背ける事が良い事とは、私には思えないな。 -- ラムロッド
- まずアンタが暗に自分を『人間』だと思ってるって事自体が最高に笑える最低のジョークだが、まぁそれはどうでもいい。
だが、それはそれとして、気持ちいいからって人前で恥部曝け出されたって見せられてる方の気分が良いとは限らないんだぜ。 自分に嘘をつかないことが悪いとは俺もいわないが、他人にはもうちょっと都合の良い嘘を吐けよ。 アンタの言に乗っかるなら、俺の『快』の為にもやめてほしいもんだね。 -- ヴェイロス
- おや? あくまで『己の快』に従うという私の『回答』に同意してくれるということかね?
君とは一生分かり合えないと思っていたんだが、意外な回答だな。 -- ラムロッド
- そりゃ少しは同意くらいはするさ。アンタの主義と俺の主義は対立するが、対立する以上、同調できないわけじゃない。
視界に入れば気に入らないと思える程度には理解しているってことだからな。 だからこそ、その上で、それだけ理解して同意して同調した上でアンタのその他者に『適当に同調して悦に浸る』っていう自慰行為は俺にとって不快だといっているんだ。 いったところで無駄な事も理解してるけどな。 俺の不快がアンタの快なのだとすれば、『自己の快』を優先しているという事実が互いにあるだけだ。 誰かを気持ちよくさせてやるより誰かを傷つけてやるほうが楽な事は俺もよく知ってるから、そこについては目を瞑ってやるよ。 そこだけは俺はお互いに同類だと思っているからな。 -- ヴェイロス
- なるほど、道理であるし私にとっても好ましい『回答』だ。
何より、話をしに来たのは私のはずなんだが、君の方がそれだけ話してくれると私にとっては実に楽でいいな。 君のそういう所が私は堪らなく好きだよ。 君の話は面白くないが、君との会話は面白い。 -- ラムロッド
- 話を書く人間への最低の賛辞をどうもありがとう。
俺からすればアンタの全てがつまらないけどな。 アンタが話を書いてないのが唯一無二の救いだ。 アンタが話を書いてたら今すぐにでも刃物を持ち出しかねない。 -- ヴェイロス
- おお、怖い。
元から話を書くつもりなど更々ないが、そう言われると尚更書く気がなくなってありがたいね。 話を書く必要なんて何一つ無いという私の考えと行いが正しいと確信できて日々喜ばしい限りだよ。 -- ラムロッド
- ハッ。『私の考え』だなんて、またよくもまぁ、いけしゃあしゃあと言ってくれるもんだな。
さっきから俺の言葉にただ相乗りしてるだけじゃねぇか。 だからアンタはつまらねぇんだよ。勝手にしゃべらせりゃ勝手にしゃべらせたで自己完結して、こうやって話したら話したで鸚鵡返しの連続だ。 アンタの話には芯がないんだ。その都度楽な方に舵を切ってるだけで、考えも行いもクソもない。 暖簾相手にシャドーボクシングでもしてたほうがまだいくらかマシってもんだ。 -- ヴェイロス
- ははは、君の云う事は全く持ってその通りだよ。逐一何も間違っていない。
でも、それこそが私なのだから『私の考え』はそれでいいのだよ。 その『楽』そのものが私の『快』であり『回答』であるのだからね。 だって楽じゃあないか。 私が言うべきことも、私が考えるべきことも、私が答えるべきことも、君達が勝手にやってくれるんだ。 私は外部記憶装置をうまく使いこなしているだけなんだよ。 -- ラムロッド
- そして最後にその成果物だけ掻っ攫って馬乗りして、『反論がなければ私の勝ちだが?』ってか?
確かに殴りつけるためだけとなれば死ぬほど楽な方法だろうな。 大半の人間はそれで自分は何もしなくても簡単に殴りつけて蹴り飛ばして『楽』に悦に浸れるってわけだ。 何一つ自分は持っていなくてもいいんだからそりゃあ楽ではあるだろうな。 大した面の皮の厚さだぜ。こんなところいないで盗賊にでもさっさと転職しろよ。 -- ヴェイロス
- 誰の手にも取られない成果物など誰の手にも届かなかったものだけさ。
しかし、他者の成果物を手に持ってそれを己のモノとするなど、それこそ私に限らず誰でもやっていることじゃあないか。 そして、私の知る限り、そうやって他者の発見した価値観に『相乗り』してそれを好き放題振りかざすなんてのは……むしろ、人間の習性の根本にしか見えていないよ。 中でも、それの最たるものは、まさに君達のような創作を行う人間ではないかね? 外部からの刺激をうけて、その刺激と感性を掻っ攫って馬乗りして、そこから生まれる『何故』とやらをぶつけているのが君達じゃあないか。 -- ラムロッド
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