名簿/498160
残 念 で し た
- (黄金暦250年2月某日)
(風紀警察本部。準上級保安官執務室にて。目の前に居る人物の情報を頭の中で並べてみる)
(風紀警察準上級保安官『リーゲット・アルタ』研究科4年。男子。白髪赤目。)
(昼行灯。と自他共に評するフォスの上司である。線が細くひょろひょろしている。背は高いので超もやしっぽい)
(異能対策支援部の発案者。放置かと思えば、4年の間思ったより色々と手を尽くしてこちらを支援してくれた。部費とか)
(もっぱら事務方専門だといって憚らず現場に出ることは一切ない。それどころが必要がなければ執務室と自室の往復しかしないという)
(そのせいか、留年7年目だとか。)
『少し速いが、ファルス君。4年間ご苦労様だったね。卒業を希望しているという事だが』
(彼の異能は統治会、公安委員会他、様々な部署から注目されている。通常、なんらかの手段で都市内に留まらせる力が働く物だ)
(しかし)
『単位も問題ないし、大丈夫だろうね、素行も問題なし。ただ一つ頼みがある』
(それを押してフォスを卒業させたのは彼の権力か。それだけではあるまいが、それを語る者はこの場にはいなかった)
頼みですか…?
『ああ。支援部に後輩が入って存続する事になったらしばらく指導係をしてほしくてねぇ。引継ぎみたいなものさ』
『卒業生のままでいいから一つお願いするよ』
『そうそう、近々君達に圧力がかかると思うから気をつけて。これ以上は言えないが、頑張りたまえ』 --
- ★御伽噺の続き
これは、御伽噺の続きです
困った世界に呼ばれるガラスの塔の話です
旅人は、呼ばれます
耳に聞こえない 音ではない声を聞き届けて旅をします
世界の悲鳴を聞いて
そうして、機械の兵士の世界を救い
竜の、世界樹の、魔法の、人形の、紋章の
それ以外にも色々な所を旅しました
そして、ガラスの塔から旅した世界を眺めて笑います
そこにいる人が幸せそうなのを見て
よかったね、と笑うのです
そうして、旅の途中である世界に辿りつきました
そう、この世界にも──
- ★その力。
- 例題です
- ─いえ、是は御伽噺です
遠い遠い、遠い国の御伽噺です
─あるところに
一人の若者がいました
世界が好きで、友人が好きで、でもどこにでもいるような若者でした
あるとき、そんな彼は剣を拾いました
若者は剣と多くの事を体験しました
出会いと別れを繰り返していつか、選択を迫られるのです
絶対の滅びをどうするのかという問いかけに。諦め以外の選択を見つけるのかどうか
それで、どうなりましたか?
若者は、知らずのうちにその力を得ました
そして若者は、ガラスの塔に入りました。
何もかもを救って。ただ一つを救い逃して
そして、旅人になったのです
- 間話。兄と姉
- (多脚式歩行機械に座ると姉、兄の会話)
- 『またフォスと話していたのか。二週間に一回とは過保護じゃないか兄さん』
- 「毎月必ず装備の予備と部品の予備を欠かさず送っているアルほどじゃないだろう?」
- 『…心配なのはお互い同じか』
- 「その男喋りやめないかアル」
- 『ごめんねお兄ちゃん☆』
- 「すまない俺が悪かった、許してくれ妹よ、俺の灰色の脳細胞と正気が失われる」
- 『全く。だが心配なのは分かる…結局フォスは何も思い出さなかったな。あの時のこと』
- 「そうだな。どうしてだろうな…父さんと母さんが死んだ時のこと。何度話してもあいつは思い出せなかった」
- 『…理由は分かっている。分かっているんだ…でも、私も兄さんも信じたくないだけだろう』
- 『生きているだけでいいと。そう思った…何せ、な』
- 「あの時、フォスは…いや。フォスも…」
- (妹が初めて動いた。兄の言葉を遮るために。手を伸ばして)
- 『…その先はいうな。私達は奇跡に救われた側だ。だったら…』
- 「…いいたくなんてない。だが、心配だからこそな。生きててくれればそれでいいが…」
- (しかし兄は深く考えない。兄は、家族の幸せをただ思う)
- 『フォス。お前はあの時……──何を掴んだ?』
- (姉は深く考える。あの時、生き残ったのは、本当は2人だった事を)
- ACT.0 記憶にない記憶 --
- ──例題です --
ここに、一人の少年が居ました
少年は負けてしまいました
お父さんが黒い影のちらつく獣に首を刎ねられても
お母さんが黒い影のちらつく獣に腹を食いちぎられても
--
何もできません
こどもだからでしょう
お兄さんは泣いています
お姉さんは凍り付いています
--
黒い影のちらつく獣は近づいてきます
少年は、動けません
お兄さんは、脚が痛くて動けません
お姉さんは、動く気力もありません
このままでは皆食べられてしまうでしょう
--
──どうすべきですか?
--
少年は、助けを求めて叫ぶべき?
少年は、家族と共に逃げるべき?
少年は、諦めて目を閉じるべき?
--
──それで、どうなりましたか?
--
助けは呼べましたか?
逃げられましたか?
目を閉じていただけですか?
--
──回答です
こどもには、何も出来ませんでした
ごくありきたりの話です
--
はい
そうなのでしょう。
そういう風にしか、世界はできていないのでしょう
--
残 念
で
し
--
世界介入
--
いいえ。
いいえ、まだ終わりません
光が通り過ぎたのです
輝きが通り抜けたのです
それは何者をも傷つけぬ
目に痛くない
しかし視界を埋める白光でした
--
黒い影のちらつく獣は消えてゆきます
お兄さんは妖精に怪我を癒され泣き止みました
お姉さんはうさぎに頭を撫でられ顔を上げました
--
少年は光を見て…
その手を 伸ばして
--
それはただの可能性。
善にも悪にもなるもの
それは今は私のもの。
でも、きっといつか… --
- ──例題です --
- ここに、一人の少年が居ました
少年は、また負けてしまいました
自分から決めた戦いでした
それでも負けてしまいました
--
- 少年が弱いから?
敵が強いから?
個人の力ではどうにもならないことだから?
--
- 少年にはわかりません
体も痛いので上手く考えられません
--
- それにほら、まだ敵が動いています
恐ろしい炎を纏って暴れています
誰かを傷つけようと
こちらにくるかもしれない
見知らぬけど、無実の人を傷つけるかもしれない
それはきっと恐ろしい事でしょう
--
──どうすべきですか?
--
- 少年は、瞼を閉ざして諦めるべき?
少年は、助けを求めて叫ぶべき?
少年は、立ち上がってもう一度戦うべき?
--
──それで、どうなりましたか?
--
- 助けは呼べましたか?
何も出来ずに眠りに落ちましたか?
そうして諦めてしまいましたか?
--
それとも──
--
- ACT.1 --
- (痛みに染まりきった体の中で、目だけがようやく開いてくれた。顔を上げる)
(落第街の一角で起こった違反学生の取り締まり案件)
(新米の一年生を連れて行ける程度には難しくないと見込まれていたその違反学生が暴れているという事件の解決は)
(補導対象の中に異能学生が混ざっていたことで破綻した)
(爆炎を撒き散らす異能。新入生の風紀警察員交じりの部隊は蹴散らされる)
(トンファーを防御に構えたフォスも例外でなく倒される)
(かろうじて持ちこたえた上級生が応援を通信で呼ぶ中、意識がゆっくりと落ちていく…) --
例題です
--
- (目を開いた。随分寝ていた気がするのに、それほど経っていないらしい)
(何かを見た気、聞いた気もするが、今は分からない。分かっている事は、立てるということだけ)
(立ち上がって。まだ炎を巻いて一般生徒を、上級生を追い詰めていた異能学生に駆け寄る)
(少年は気づいていない。握りこんだその両手が白く輝いている事を。瞳に碧の光が灯ったことを)
(それを、『異能』とこの都市では呼ぶことを)
(爆炎を球体にしたものがまた放たれる。少年に向かって。着弾すれば爆発するそれを)
(思い切り右手で殴り飛ばした。発光と爆発、しかし指向性を得たようにそれは少年からそれ空に咲いた。誰も傷つかない空に炎を追いやる)
(周囲の驚愕を置き去りに、本能と薄い意識で走る少年は左手を振り上げ…)
(振りぬいた)
(その後の事は。覚えていない。次に目が覚めたのは保健室だったからだ─)
(少年の初めて遭遇した事件は、そんな風に終わった) --