一人の女性が生い茂る森の中を歩いている。
森の深緑の中に描かれた純白の退魔師、梢は依頼を受けて街外れの森へと足を運んでいた。
依頼内容はこうだ、森の中に妖魔が住み着き困っているとごくありふれた内容であった。
だが妖魔の仕業によるものか、森の植物は規則性を無視した異常繁殖を引き起こしていた。
三階建ての家屋よりも高く伸びた樹、まるで編み目のように地面を走る蔦、樹の幹に寄生している見た事もない花。
まるで熱帯のジャングルのようである。その証拠として肌も少し、汗ばんで来たことであろう。
「ふう…少し、軽率だったかしら…。」
額に浮く汗を二の腕でぬぐいながら、梢はそう言葉を零した。ここに踏み入って、もう何分が過ぎたか、彼女自身にもよくわからなくなっている。
あるいはそれも、この地で起きている異常現象の一つなのかもしれない
倒れた大木を乗り越えつつ、辺りへの警戒は怠らない。
数週間前の奇襲による不覚は、まだ彼女の心に根強く残っていた
「…もっと、しっかりしないと。またアリスにバカにされるわ」
また、汗をぬぐう。通気性が悪いものではない装束とはいえ、流石に限度はある。
早いところ、目的の妖魔を見つけ出し、祓ってしまわねば。自然と、足取りが早くなる -- 梢
足早に前へと進もうとするが、まるで垣根のように木々の枝同士が絡まって道を塞いでいる。
これを迂回するなり避けるなりするのは何回目だろうか。この森に入ってから何度植物に道を遮られたことか。
業を煮やしていっそのこと森ごと燃やしてしまおうか、などと思うかもしれないが抑えて欲しい。
なぜならその垣根を超えれば広間のように開けた森の空間へと出るからだ。
そこには中央に一本の樹…。いや妖魔が居座っていた。
俗にいう妖樹というものであり、木目の代わりにいくつもの目玉を表面に生やしたグロテスクな外見をしていた。
恐らくはこの妖樹が対象の妖魔であり、森に生じた異変の元凶であると若き退魔師も察することができるだろう
退魔師よりも、猟師か何かの援護を頼めばよかったか。いやいや、山の獣相手にはいいかもしれないが、
相手はそういったものが生易しく思えるほどの人外のもの、無暗に他の人間を巻き込むわけにも…
「…あら?」
ぽっかりと、開けた空間。まずそれを見つけたことに驚き、近づけば表情は納得のそれに変わる
「やっと本番ってことね…
天然迷路で時間を浪費させられたんだけど、その分の請求はお前にすればいいかしら?」
百目の妖怪を思わせるその妖物へ、冗談交じりに声を投げかける。
腰元に手を添え、指を何度か動かせば、バシャ、という音とともに金属製の袴が展開し、彼女の腰を、僅かに透ける白い装束に包まれたそこを覆った。 -- 梢
梢の手元に符が握りこまれようとしたとき、
「…そいつはただの餌じゃよ。ククク」
と、何処からともなく男の声が投げかけられた。
梢が反射的に身構え、声の気配を探れば妖樹のいる位置からそれはした。
一瞬、妖樹が声を発したのかと思ったが、疑念は後ろに隠れていた者が現れたことによって晴れる。
妖樹の後ろより現れた中年は黒の法衣を着ていた。だがその法衣は神を示すものではなく、姦淫を示す印が刻まれている。
薄い頭に肥えて脂ぎった表皮、薄ら笑いを浮かべてる姿に嫌悪感を覚えるかもしれないが…、梢はその顔に見覚えがあるかもしれない。
「久しいですなあ。まだ梢様が御役目に付かれる前にお会いした以来でしたかな?」
この男は比之社家の分家に連なる者であり、名を蟇坊(ひきぼう)と呼ぶ。
しかし退魔師にあるまじき素行の悪さと、かねてより外法に身を染めていたという通告もあって数年前に勘当を言い渡されていた。
数年前より行方をくらましていたはずだが、なぜこのような場所で妖魔と共にいるのか
「それとも本家は分家のことも覚えていないのでしょうかね。くひひ」
サイドの蓋を開き、引き抜いた札を投げ放つ。扱うものはもちろん、火精を封じたもの。
木の性質を持つものに対しての効果は抜群のものである。
数発を見舞えば簡単に幕を引けるだろうと、そう思う思考に割り込む、ぬるりとした声。
眉を顰め、もう一度百目の妖物の辺りを見据えれば、その裏に隠れるような位置に一人の人影が。
「お前は―」
目を細める。暗がりに溶け込むようなその法衣の文様の意味に気づき、さらに視線を険しくさせる。
自分達退魔師にとって、もっとも唾棄すべき存在と、そう呼んでも差し支えない、堕落の徒。
「―ええ、悪いけれど、これっぽっちも。そんな特徴的な顔をしていれば、良くも悪くも覚えているはずだと思うのだけどね。それより、聞き捨てならないことを言ったわね。
餌とは、どういうことかしら?」
事と次第によっては―そう、鳶色の瞳が告げている。押さえようもない、烈たる炎を滲ませて -- 梢
投げ放たれた火精符はその軌道で符の形から火の矢へと変じて狙いは真っ直ぐ元凶と思われる妖樹へ。
だが目の前にいる蟇坊はそれを許さず、蝦蟇にも似た口を開くと中からおびただしい量の体液が噴出した。
体液は梢の投じた火符を掻き消し、軌道を変えずそのまま梢の元へ。
蟇坊から放たれた体液は寸前のところで避けるも、僅かながらに浴びせられ嫌悪感を露わにすることだろう。
だがここで梢は違和感を覚える事になる。
僅かに浴びた部分、そこがむず痒く…その時の反応はまるで、あの時のようであったからだ。
不意を突いた確信はあった。それ故に、迎撃されるとは思ってもみないこと。経験の無さが生んだ過失でもあったろう
「くっ…!? 小癪な!」
とっさに腕をかざして、顔に浴びることだけは防ぐ。
火精と相殺し合ったのもあってか、水の威力は弱まり、彼女の太腿の辺りを僅かに濡らす程度に収まった。
無論、回避のために動いていたことも功を奏した。
だが、それが続く失態であったことを梢が悟るのは、そう遅くはないことであった。
再び符を握りこもうとした途端に、太腿から違和感を感じる。それはすぐにじんじんと熱を孕んだようになり、むず痒ささえ伴い始める。
「しまった…これは…!」
脳裏に浮かぶのは、数週間前の肉の洞窟でのこと。
あれと同じものが、浴びせられたのか―そう判断すると同時に、僅かに距離を取るために後ずさりする紅白の色彩を持つ巫女。 -- 梢
「げ、げろ…ひ、ひひ。どうやらワシと梢様とは相性が良いらしいですなあ」
火は水によって打ち消される。五行思想によれば水剋火による考え方だ。
「この妖樹は梢様がここにいらして頂くための餌…。私は梢様をお迎えにあがったのですよ」
丁寧な口調とは裏腹に梢をみる目は下賤に満ちており、太股を引き摺る姿をにやにやと口元に笑みを浮かべている。
「先ほどは突然のことで失礼仕りましたが…。この妖樹をやらせる訳にはまいりませんでしたので。げひひ…」
蟇坊がその太い指からは想像できない動きで指同士を絡めて印を組み、妖樹の幹へとその掌を押し当てた。
掌はまるで泥の中に吸い込まれるように幹の中へと入り、その腕の中を何かが波打って流れ、妖樹へと移る。
それと同時、妖樹を中心として森全体がざわめくような感覚を梢は得るのであった。
「くっ…見た目通りの下衆のようね…!」
視線が、まとわりついてくる、そんな錯覚を覚える。
自分が罠に掛けられたことへの憤りや、それを見抜けずにここまでまんまとおびき出された自分の不甲斐なさに腹の内が煮えたくる。
視線でヤツを燃やせとばかりに、鋭く睨みつけ。
しかし一方で、怒りからくるものとは別の昂ぶりが太腿から昇ってくるのも感じていた。
薄く透けた白のレオタードに包まれた股間が、秘すべきその場所が、熱を帯びる。
それは梢自身、滅多に感じたことのない感覚である。
《まずい、まずい。このままここにいるわけにはいかない…!》
今もひしひしと感じている。目の前の、あの墓坊と名乗った男が行った呪術の意味を、それが引き起こす事態を。
森が、ざわめく―おそらくは、自分と言う獲物を腹に収めているが故の、邪まな愉悦に。
今このときよりこの森すべてが、あの妖物そのものへと変わったのだ。
「く…」
落ち着けと、自らに言い聞かす。こういうときのための奥の手を、用意してきたはずだ。
すぐに、精神を研ぎ澄ませ。憤りも敵意も底に沈め、ただただ邪なるものを焼き滅ぼすためのものとなれ―! -- 梢
五行には討ち滅ぼす相剋だけでなく、属性を生み出す相生と呼ばれる関係がある。
蟇坊は見てのように水を自在に操り、陰気で染まった霊力によって事は成される。
餌として用意された妖樹はこの森の中心となる地脈に根ざし、地脈を通じてこの森を影響下においていた。
蟇棒はこの妖樹を通じて陰気を流すことで属性を変異させ…
「ひひひ!いい水があれば木もすくすくと育ちますな」
梢を狙って何本もの草の蔦が四方から襲い掛かる。
森の木々は醜くその姿を歪め、幹からは醜悪な目玉が筋にそって幾つも生まれつつあった。
状況だけでなく、相性も最悪ときた。これを覆すには、並の力では足りないだろう。
「ッ…!」
足元から幾重にも伸びて蠢く草の蔦を、足捌きでかわしていく。幾つかは装束を掠め、タイツを薄く裂いていった。
自分を押しつぶすような気配の強まりを感じるも、これ以上下がるわけにはいかない退魔師。
この場に留まり、あの元凶を根こそぎ断てるだけの力を溜めなければ―それはどこまでも昏い絶望めいた、悲壮な覚悟であった。 -- 梢
…一本、また一本と梢を狙う妖魔の蔦は増えていく。
草の鞭が生んだ打撃は否応なく退魔師へと向かい、無尽蔵に増えていくその攻撃の手数にじわりじわりと押されていく。
だが何も攻撃の手は蔦だけではない。
「…ほれ、足下が留守のようですぞ」
回避のために後ろに下げていた足が何かに掬われ、体勢を大きく崩してしまう。
見れば木の根が梢の足をすくい上げ、爪先からその足首を掴んでいた。
隙が生まれると同時、退魔師を拘束せんと上下左右より妖魔の蔦が梢へと伸びる…。
「ふっ…く…!」
見る場所すべてに、蠢く蔦の群れ。こころなしか暗さを増した森と同じように、心も押しつぶされそうになるのを、必死に否定し続け、迫るものを手刀で弾き、かわしていく。
まるで深い森の中、幻想的に踊る精霊のような姿。
しかし、その吐息は荒い。極限まで集中しての回避に準じている故のものではない。
吹きかけられた催淫液によるものだ。足を動かし、太腿と太腿が予期せず擦れ合うその瞬間、びくりと尻肉が震える。
敏感になった部分が求めていた刺激を与えられて、歓喜に打ち震えるのだ。
それに気を取られつつ、どうにか抑え込もうとしているのだから、おのずと辺りへの配慮もおろそかになる。
足を不意に掴まれれば、巫女は尻餅をついてその場にあおむけに転がった。
「きゃっ…!?」
見れば、幾千、幾億の目が、自分を見下している。
反射的に身をすくめようとするが、その手首や足首に、一際太い蔦が絡むほうが早かった。
「あっ!? しまった…!!」 -- 梢
梢に絡みついた妖樹の蔦は、植物というよりも有機的な肉感の感触と不快感を与えた。
だが逃れようとも両手両足を抑えられ、腰と首に巻き付いた蔦が体を捩ることさえ許さない。
蔦は倒れた梢の身を引き摺り、まるで蟻が巣へと餌を運ぶように中心の妖樹の元へと。
妖樹は幹と枝より生やした蔦で梢の体を幹へと押し当て、両手を伸ばされた姿は磔台に晒されている様相そのものであった。
「捕まってくれましたな。梢様をこのまま我らが " 教団 "にお招きしてもいいのですが…」
蟇坊が目を細めて梢の強調された胸の実りに粘ついた視線を送り、
「その前にワシが教団の作法を教えても良かろうて…!」
おもむろに梢の胸を太い指で鷲づかみにし、まるで粘土でもこねるかのような不作法をもって舌なめずりをした。
「う、ぐっ…うぅぅ…!」
ぬるりとした感触に、背筋が粟立つ。あの肉堂での、触手に絡みつかれ、
全身を弄られた屈辱の記憶は今だ真新しく彼女の脳裏に残っている。
空気を求めて喉を締め付ける触手を剥がそうにも、手指は蔦の拘束で言うことを聞いてくれない。
虜囚のごとく、地を引きずられ、おぞましい妖怪樹に磔にされる退魔師は、しかしまだ諦めてなどいない。
胸を張らされ、自ら誇るかのように突き出した大きな乳房を鷲掴み、痛みを送り込む醜悪な外法師へと、叱責の声を放った。
「つっ…放しなさい、この下郎がッ!」 -- 梢
「ひひ。" あの時 "のことが忘れられんのか…」
その言葉に梢は鐘を打たれたような衝撃を覚えることになる。
まるで心の裏を見透かしたような言葉、だが惣明な彼女ならばこれが心を読まれたものではなく見られていたものだと推察できることだろう。
「安心召されよ。あのような出来損ないのクズどもと…
ワシが手塩にかけて育てたこの妖魔は出来も…。ククク、濃さも違うぞ」
磔にされた梢の頭上、妖樹の枝から樹液…いや体液が滴り始める。
まるで朝露のように枝や葉から露が生まれ、下へ垂れ始めるも…
「それ!もっと出してやらねば梢様に失礼であるぞ」
蟇坊が妖樹の背を叩けば分泌が早まり、もはや雨となって梢目掛けて妖魔の体液が降り注ぐ。
その雨は粘つき縦の線を描いて落ち、瞬く間に梢の体が白濁の液へと飲まれていくのであった。
「…お前っ…!?」
まさしく心の内を言い当てられたかのようなその言葉に、動揺し、集中を乱れさせる。
散り始めた力を慌てて練り直し、集中する。
「…どう、だか。獣より上といっても、蛙のすることでは、ね。期待もできないわ…?」
ぽつり、と頬に当たるものを覚え、見上げる。その美貌が、強張った。
「そんなっ…!」
抗議の声も、粘つく雨音にかき消される。緋色の透き通った髪も、健康的に色づく白い肌も、装束も何もかも、饐えた匂いを放つ白濁にまみれ、汚される。
だが、包まれるのは表面のことだけではない。異変は、すぐに訪れる。
「――ッ!」
呼吸が、止まる。全身が、異常な熱に包まれた。火照る、などという表現では追いつかない渇きが、梢の全身に急速に回っていく。
それと同時に、過敏になる神経。わずかな身じろぎにすら、皮膚が、その奥が、どうしようもなく反応してしまう。 -- 梢
この男が言うように妖魔の体液の濃さはこの前と比較にならず、触れた部分より体が燃えるような渇きに包まれた。
まるで早鐘のように鼓動が打ち付け、どくんどくんと血管が広がり跳ね上がる身を蔦によって押さえつけられる。
だが妖魔の体液の恐ろしさは触覚だけに留まらない。…それから発せられる臭いもまた梢に穢れを与えた。
鼻腔に刷毛で塗られたような粘つく臭い、喉の奥まで浸透したフェロモンが梢の意識に桃色の霧を生む。
「どうですかな梢様、並の人間ならば気が触れてしうほどの刺激ですぞ」
梢を縛る蔦に動きが生まれる。まるで身を遊ばせるかのような隙間を作り、むず痒さから身を捩り喘ぐ姿を眺めようという計らいだ。
「ふ、うっ…う、うう…!」
思考が、熱に浮かされ始める。しかし仮にも退魔の道を志し、
才気にも溢れた彼女の精神力は、かろうじて決壊することを回避していた。
「…そ、そう…なら、私には役不足のようね。所詮は道を外れた外道のすることだもの、この程度が関の山かしら。」
この相手に、弱みなど見せる訳にはいかない。見せれば最後、何をされるか――
唇を斬らんばかりに歯で噛み締め、その痛みで自我を保つ。
しかし、体のほうは理性をゆっくりと、着実に裏切り始めている。タイツに包まれた太腿はいつの間にかわずかに内側に曲がり、今にも擦れ合いそうになっている。
上半身も蔦に生まれた余裕の分だけ前に倒れ込んでいた。胸が呼吸の度に弾み、その度にむず痒さがこみ上げてくる。
手が自由であるならば、自ら指で触れ、揉みしだきたくなるほどの誘惑。 -- 梢
「ほほう。役不足…ですか」
げひゃひゃと腹を抱えて男は笑いだし、さぞ楽しそうにして梢の胸元を人差し指で指した
「役不足は当人に対して役柄が不足しているということ…。これは失礼しましたな」
淫熱に浮かされ身を捻る梢の身に、拘束とは別の蔦が巻き付く。
蔦は梢の身を這い、レオタードやグローブ・ブーツといった衣類の内側へと滑り込んでいく。
衣類と肌、その中間点で擦れる摩擦に桃色の吐息が生まれるのを蟇坊は顔をしたりと歪ませて喜ぶ。
「役が足りないと仰られるならばこちらも頑張りませんとなあ。ひひひ」
次の瞬間、梢の身体が跳ねる。だが正確には跳ねたのは梢の衣類の内側にもぐりこんだ妖樹の蔦だ。
服の内側にもそのおぞましき体液を吐き出したのだ。
何が来ようとも、耐えぬいてみせる。幸い、力はもうすぐ臨界を迎えつつあった。
この力を解き放てば、目の前のこの蟇蛙ごと、この魔の森を焼き払える…!
そう思う梢に襲い掛かる新たな責め苦。流石にぎょっとした表情を浮かべ、慌てて声を絞り出す。
「うあっ!? な、何…潜り込んで!? や、やめなさい、触らないで…! 触るなぁっ…!! ふ、あっ…うあっ!?」
透けた白いレオタードの内側に、赤い手袋の内側に、脛まで覆うブーツの内側に、肉蔦が潜り込み、絡みつく。
過敏になり、熱を孕んだ柔肌に直に絡みついてくるそれは、疼きを覚えた退魔師にとって、理性にかけられる鑢と等しい。
抑えがたい愉悦が、彼女の鉄の理性に罅を入れ始める。
だが、真の苦難はそこからだった。一瞬、全身が灼熱に包まれたと、そう錯覚するほどの熱と、滑りと、淫臭。
「ふあっ…あああぁぁっ!?」
原液のような濃度のそれを直に掛けられた下腹部、その奥が、強く疼く。
根元から巻きつかれ、強く締め付けられた乳房からも、視界をくらませるほどの甘美な刺激。
透き通る衣の下、淡く色づく桜色の乳輪と、屹立する頂点が曝け出される。 -- 梢
湧き上がる甘き疼きに退魔師は耐えるが、足掻いて藻掻く姿はまるで陸の上で溺れる魚のようであった。
しかし魚は海の中にいた。理性を溺死させる快楽という海は否応なく男を知らぬ体を発情へと押し上げる。
「心配ならさらずとも周囲から精気を吸い上げておるそいつは枯れる心配がございませんぞ」
蔦は波打ち先端から射精にも似た妖魔の体液が放出され続けている。
手袋の中の内側の指、ブーツの中の足の裏にも快楽の波は押し寄せた。
彼女が快感によって身を捩れば捩るほど、逃れれば逃れるほど。
妖魔の体液で満ちたブーツやグローブが擦れて身を引き攣らせる。
自己主張を強めた胸には薄桃色の乳輪の形が浮き上がり、強調する胸の影には妖魔の体液溜まりが出来上がっていた。
文字通り、退魔師・梢は白濁の海の中で溺れ藻掻きその度に淫水を散らしていた。
「されどこの程度で観念されては大口を叩いた意味がありませんのでな」
視界も霞んできた梢の前に新たな蔦が現れる。しかしその蔦はこれまでの蔦とは先端の形状が違った。
まるで蕾のように膨らんだそれは梢の乳房、起立した突起の前に止まるとその意味をさらけ出す。
頭頂部より四方に割け、柘榴のような肉襞を露わとすると蛇のように梢の乳首を服の上から吸い付いた
服越しからでも伝わる肉粒の襞が周りを食い付き押さえ、突起を転がす吸飲が男を知らぬ梢に愛撫という行為を教えるのであった。
「う、うう、ひっ、あ…く、うぅぅぅっ…!!」
足の裏がわずかに擦れる感触すら、媚毒に漬けられた今の梢の体には甘すぎる刺激だ。
自らを慰めたこともほとんどないその身に、否応なしに叩き込まれるそれは、彼女の意思を挫くのに十二分に足りるもの。
それでも、その花は手折れない。髪を振り乱し、噛み締めた歯から今まで彼女自身が出したこともない掠れた嬌声を上げつつも、女は耐える。
「ひっ…?」
ぼやける視界の中、移る海星にも似たもの。それが何をしようとしているのか、梢は本能的に理解する。理解してしまう。
「ひぐっ…あ、ああぁぁっ!! な、何これ、何……うああぁぁっ!!」
もはや意味を成さなくなった衣の上から、ざらついたものが乳肌を擦る。
それだけでもあり得ないほどの電流が背筋から昇り、腰の奥の熱が高まっていく。
乳首をきゅう、と吸われれば、視界がちかちかと明滅した。意識が一瞬飛ぶほどの、耐えがたい刺激。
…否、もう彼女にもわかっている。それが、今まで自分にあまり馴染みのなかったもの…女としての悦楽からなる感覚であることは。 -- 梢
されど妖樹の陵辱は止まらず、身を拘束する蔦も犇めき動くことで梢の身を責め立てる。
全身が焼け爛れるような快楽に梢の意識は飛びそうになるも、正気を保っていられるのは退魔師としての矜恃かそれとも気高さがゆえか。
「梢様、如何ですかな? 我らの持て成しは…」
蟇坊の手が伸び梢の顎を持ち上げれば蕩け掛かった顔を覗き見る。
「我らと共に来て頂ければこれをずっと楽しむことが出来ますぞ。く、クク!ハハハ!」
顎を持ち上げられる。悦に浸る男を見返す巫女の視線には、未だ強い意思が輝いていた。
「…残念、だけれど…私にしてみればあまり楽しい催しではないのよね、やっぱり。
退屈だから、とっとと中止してもらえるかしら、三流座長さん?」
軽い侮蔑すら込めて、言い放ってみせる。
体はとうに限界を超えているというのに、気丈とは別の次元の強さの持ち主であった。 -- 梢
どんな辱めを与えられようと折れることはない気丈さ、その意思が瞳に輝きとなって宿っていた。
しかしこの意思の強さは逆に男の感情を逆撫でし、その顔はまるで湯を沸かした薬缶のようにみるみると赤く染まっていく。
「…やはり本家の人間はどこまでも私を馬鹿にするのだな! 気に入らぬ、気に入らんわ!」
蟇坊の激昂に呼応するように妖魔の蔦が震え、梢を拘束する締め付けが強まる。
「お前が素直にならぬというならこちらも手荒にならざるを得ないですなあ」
最早取り繕う素振りすら見せず、腰紐を緩めて男の袴が地面へと落ちる。
下半身からは本性と共に露わとなった男の剛直が聳え、女を求めて身を揺らしている。
「ククク。梢殿は男のものを見るのは初めてですかな?」
固く締め付けられ先ほどとは逆に身動きの取れなくなった梢にこの男は歩み寄り、その頬を露出した男性器で叩き悦に浸った歪んだ笑顔を見せた。
醜男の激昂に、内心で眉を潜める梢。確かに挑発めいた物言いになったが、その怒気の孕み方に引っ掛かりを覚える。「…本家…? あっ、ぐ…!」
ぎち、と蔦縄が肉に食い込む。その刺激すら快楽に変換しようとする自分の肉体を内心で嘆き、叱咤しつつも、視線は男の動きを見守るしかない。
「…っ!」
動揺するな、と言われても無理なものである。確かに、こうも間近で、肉親以外のものを見たことはない。
頬を叩くその柔らかいような、硬いような感触に、ぶるりと肩を震わせてしまうのは、全身に回った媚毒のせいだろう。間違いなく、そのはずである。
「…それで、どうするつもり?」
屈してはならない。鎌首をもたげるこれからの展望を必死に押さえつけつつ、下卑た笑みを浮かべる男をねめつける梢。 -- 梢
「このままお前の純潔を貰ってしまうのも悪くないがな。
…だがそんな簡単に犯してしまってはつまらんのじゃ。お前が自らの意思でチンポを求めてくる淫乱にしてから奪ってやろう。…だからな」
梢の恥辱に濡れた胸に対して妖樹の蔦が伸び、二つの果実を一つに束ねんとバンドのように蔦が絡み縛り上げる。
先ほど射精された体液が服の内側で擦れ甘き快感が走るも乳を責めることが目的ではなかった。
妖樹に後ろから背中を押され中腰姿勢で蟇坊と向き合い、あの醜悪な男性器を直視させられてしまう。
「何をどうするかじゃと? ……ひひ、お前さんのその胸で楽しもうと思うてな」
蟇坊が束ねられた胸を両手で掴み、その谷間目掛けて欲情した矛を突き入れた。
梢の谷間というトンネルをローション代わりの体液で滑り抜け、谷間から抜け出た亀頭は梢の唇に迫らんという勢い。
そして蟇坊は腰を引き、まるで梢の胸を性器にでも見立てたかのように下半身を振り始めるのであった。
「う、ぐっ…!」
媚毒に浸りきった胸の谷間から突きだされる、醜悪な一物。
どこか嗅いだ覚えのある匂いを撒き散らすそれがゆっくりと動き出せば、濡れ切った装束の上からの刺激に、慄くしかない。
「はっあ、うあ、ひっ…だ、誰が、お前になど…!!」
目の前に迫るそれを見ていられず、目を閉じて顔を背け、湧き上がってくるものを堪え続ける。
けれど、もう無理だ、耐えられない。頭の中が真っ白になり、熱が出口を求めて体中を駆け巡る。
経験したことのない感覚の爆発が、すぐそこにまで迫っている。 -- 梢
妖蔦がたわんだ胸を中央に寄せて縛る。谷間は肉の壁によって隙間なく埋まり、窮屈そうに蟇坊のペニスが身を滑らす。
圧迫感が彼の淫棒を扱き、それに加えて妖魔の体液が染みこんだレオタードの生地が潤滑剤となって行為の拍車をかける。
「いやらしい胸じゃのお。まるで胸がお前のマ●コのようだわい
……感じて声もでぬか? く、ひひひ! そおれ、スピードをあげるぞ!」
より根元まで挟むよう腰を強く打ち付け上下運動の速度が早まった。
唇を掠め鼻先にまで突き付けられる卑猥なまでの亀頭、男の痴垢にまみれた臭いが媚毒に冒された梢の意識を揺さぶる。
自らに生まれた淫らな欲、だがそれに気付かぬ前に彼女の意識は白によって塗りつぶされる。
─── どびゅぅっ どぶぁぁぁぁっ!
蟇坊がしたり顔で己が欲望を吐き出し、亀頭から放たれた白濁の汁は梢の顔に余すことなく降りかけられた。
「う、うあっ…ぶ、無礼な…下衆にも程があるわ…う、うぁっ…!!」
口での抵抗しかできずに、思うが儘にその胸を犯される。羞恥の色が頬に宿る。
その間にも、縛りつけ、蔦を食い込ませる乳房の谷間を擦り動く醜悪な熱さと臭いに、どんどんと体が昂ぶり、追いやられていく。
「う、くっ…う、あ、ああぁぁぁっ!?」
顔に、濡れ光る紅髪に、黄色味を帯びた白濁がぶちまけられる。鼻腔を犯すその饐えた匂いと、熱さが、退魔師の最後の砦を粉々に打ち崩した。
かすれた声を上げ、出口を求めて暴発した快感に突き動かされるまま、喉を晒して身を震わせる。
ぴたりと閉じられたままの太腿の付け根から、ぶしゅ、と水が噴き出る音が漏れた。
「あ、ああ…は、あ…。」 -- 梢
退魔師として無惨にも辱めを受け絶頂にも達してしまい、足から崩れ落ちそうになるも身を縛っていた蔦が皮肉にも梢を支える結果となった。
「おう? ふ、クク…これはまた梢殿もはしたない
このような児戯で逝ってしまわれるとは…く、ひひ」
横に広がった蛙の如き醜い顔を梢の顔面へと近付け、息と息が触れ合うという距離で口をしてやったと歪ませる。
「これでは教団にお招きしたところで先が思いやられますなあ。はは、ひゃひゃげひゃひゃ!」
見開かれた目がギンギンと血走り、これから自分がこの退魔師に行う陵辱についてでも考えているのだろうか。
男は自らの勝利を確信し、森に木霊するような声で高笑いをした。だが ───
「ふ、う…お断り、よ…だって―
貴方はここで燃え尽きるッ!!」
絶頂を迎え、意識が真っ白に染まりつつも、手放さなかったその力。
耐えに耐え、紡ぎに紡いだその力を、今こそ解き放つ。
「疾く迸れ、《緋輪》!!」
開いた両手の平から、輝きが生まれ、解き放たれる。一瞬だけ膨らんだ光の球は、次の瞬間には幾つもの赤光の輪を生み出し、森を照らす。
その光に触れた黒い葉が、前触れもなく燃え、盛り、炎群となって広がっていく。
百目の妖樹も、その例外ではない。光の火元を抱え持っていたが故に、その根元から照らされ、燃え盛り、崩れていく。 -- 梢
身も心も妖魔同様の魔を胎んだ元退魔師のただ一つの誤算、それは自分には無かった気高き心であった。
「きききさまあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーー!」
叫び腕を振り上げようとするも時既に遅し、梢の両手より生まれた反撃の兆しが周囲を飲み込む。
蟇坊は五行思想を先ほど引き合いに出し、陰水で木を変生させ妖樹とすることで森を支配した
しかし五行は理論であり彼だけのものではない。梢は陽の気、浄化の炎で妖魔と化した森を祓う。
木生火、木は火を生む ────
梢が周囲に浄化の炎を放てば妖魔の森を焼き、木々へと燃え広がる浄火の炎がまるで緋の輪となって周囲へと伝播する。
周囲一帯へと広がった炎は渦を捲いて浄化の嵐を散らした。
炎は悪しき者、妖魔だけ確実に焼き灰とすることで土へと還す。
火生土、─── 悪しき力によって歪められた森も時間は掛かるが元に戻ることであろう。
梢を捕らえていた妖樹も例外なく焼け落ち、浄化の炎は彼女には温かみのある光として傷を癒やした。
悪しき力のみを祓う炎は収束をみせる。後には灰となった森と傷付いた梢、そして蟇坊の立っていた場所は漆黒の滲みのみが残っていた。
「は、あっ…う、ぅ…」
全てを焼き祓いはしたが、その代償も大きい。気だるさに襲われ、その場に膝を突く退魔師の巫女。
この力で全てを燃やし尽くすことができなかったらと、そんなもしもの想像が頭を過るのを、首を振ることで追い払う。
未だに熱を籠らせる体を、淡く抱きしめる。迎えた強烈な絶頂の余韻が、自分の芯を蝕みそうな、
そんな悪寒を覚え、ただただ梢はその疼きに合わせるかのように体を震わせ続けるのだった。 -- 梢