名簿/409918
- 《 了解っ! 》(足元にアンカーを撃ちこんで大胆に身を躍らせ、ワイヤーを頼りに外壁を走り抜ける)
(指示されたポイントに取り付き、徹甲弾を何発か叩き込んで扉(だった金属塊)を引きちぎって投げ捨て)《 ここ…ですよねっ! 》 《 突入します、念のため通信強度を上げといて下さい…! 》(ぽっかりと口を空けた薄暗い通路に踏み込んでいく) 《 ザ …あれ……か、誰… ザザッ ……どう… ザ …な…! …… ザーーー 》 (耳障りな音を最後に強制切断されるホットライン 機械人形を呑みこんだ巨艦は蒸気探偵を誘うように沈黙を守って) --
- さながらテロリストだな。(毎度ながら見事な手腕だ。シヨンが自分で学習したのか、ゼーデルホルムの趣味か。
学習したとすればシヨンの吸収率に、最初から刻まれていたのであればゼーデルホルムの用意周到さに、それぞれ舌を巻く) おい、どうし……。 (通信能力の強化に努めようとしたところでこの返事。断片的に聞こえた言葉と驚きを孕んだ声色からすると、予想だにしなかった『誰か』と顔を合わせたと取れる) やれやれ、もう一仕事か。 (気だるげに顔を上げると、こちらも合金ワイヤーを入口用に繰り抜かれた空間へ放つ) よし。(手応えから固定が確認されると、外壁をクライミングし目標地点まで到達し、奥へと一気に駆け出した) -- 有耶
- (ほとんど照明らしい照明も見当たらぬ通路、その果てにつづく艦橋には操舵コンソールにとりつく無数の小人たちの姿がある)
(その、手前には)《 曙光都市は機巧技術研究所製航海士機巧…通称、回船機関《キブンダイジン》 見事なものでしょう? 》 (操り糸の切れたパペットのように倒れる機械人形とその頭部に銃口を向ける人影があった)《 御機嫌よう 》 《 そして私どもの艦へようこそお越し下さいました 歓迎します、アリヤ・リーヴステイン 》(動くな、と視線で命じながらにこりと笑う) (フィエルが目配せしたのを合図に前方へと傾斜する甲鉄艦 轟音を立てて疾駆するそれは、今や明らかに地の底を目指していた) -- フィエル
- (トラップ設置の可能性は捨てる。艦内構造はそもそも機能的に作られているものであり、そこに襲撃者を阻むための装置を挟み込むことは、ひいては自分たちの不利益に繋がる。
掛け抜けて行く先に一筋の光明を見出しひた走る。そして謎の空間の守護者は、愛すべき妻を人質に、素知らぬ微笑を見せていた) ご挨拶だな。"私ども"の、ときたか。(疑いの余地は十分にあった。暗殺で最も有効な手段は、身近な人間に手を下させることだ。ゼーデルホルム失踪に一枚噛んでいるという可能性は残しつつも、意外な形で立ち塞がってくれるとは) 目的は何だ?(態々こんな回りくどい手段を取る以上、何かしら裏があるはず。停止したシヨンに気を配りつつ、耳を澄ませば地面を掘り上げる雑音が入ってくる) -- 有耶
- 《 それを知ってどうしようというのです? 》(落ちつき払った声で問う)《 どうだっていいじゃありませんかそんな事 》
《 どうあれ、あなたには全てを受け入れ、お付き合い頂くほか選択肢など残されてはいないのですから それに―― 》 -- フィエル
- (探偵の背中に押し当たる銃口 パン、と乾いた音がして青年の腹から赤いものが流れだす)…久しいなぁアリヤ君
こうして相まみえるのはいつ以来であろうな その後は変わりないかね? …おお、すまんすまん たった今怪我をしてしまったのだったな 君は言ったな…そう、目的を知りたいと! 何、簡単なことだとも 君にはそろそろご退場願おうというわけだ(突き倒す) さて、シヨン(機械人形の愛銃、レミントン・ニューモデル・アーミーを拾ってその手に握らせ)一仕事してもらうぞ、いいな? -- ゼーデルホルム
- 《 ………ぁ…?… 》(生気の失せたガラス玉のような瞳、耳元で何事かささやかれるのを微動だにせず聞き届ける) --
- いいかねアリヤ君 シヨンは君を欺き、喰らい、盗んだのだよ 心の機微の一つ一つを読みとり、記録しつづけたのだ
その蓄積は今や君というオリジナルを越えつつある! シヨンは真の人間性を獲得しつつある、と、そう言い換えてもよかろうな あとはきっかけさえ与えてやればいい 精神の死、決定的な挫折をな! …人は心の死を、試練を超克して高みへと至るのだ 彼女もまた然り! 君の死がシヨンを人間に、いいやそれ以上の存在へと高めるのだっ!! 光栄に思いたまえ! どうだ、本望だろう? -- ゼーデルホルム
- 《 …な……で……?… 》(自分の意思とはかかわりなく動き出す身体、銃口は無軌道にさまよって手負いの探偵へ)
《 ……どうし、て…こんな、ことっ! や、ぁ…嫌、やめ……て下さっ………い、や…ぁ、あ、ああああぁあぁぁっ!!! 》 (悲しみに歪む表情 狂気に陥ったかのように泣き叫び、目を見開きながら指はすこしずつ引き金へと近づいていく) --
- (唐突過ぎる展開に意識はついていかず、ゼーデルホルムの銃弾を避ける余裕も生まれなかった。
何故こんな場所に探し者がいる? 自分を撃った理由は? 脇腹の銃創のおかげでともすれば掻き消えそうな風前の灯の意識は、なおも冷静に現状を分析しようとする。 ゼーデルホルムの台詞を噛み砕けば、自分が死ぬことでシヨンが完成されるのだという。 それはかつて聞いた紛れもない彼の悲願であり、最初から運命づけられていたことだ。 すなわち、何らかの方法でシヨンを高みへ導くと。自分はそのための先導者であり、最後の生贄だ。 もう10年近く前になるか、老人と問答した際に、随分挑発してしまった。これはツケか) -- 有耶
- (死ぬつもりなどさらさらない。自分にも全てを捨てて成そうとする目的があり、その為にはシヨンが必要だ。
恋人として、パートナーとして、駒として。そして生命を分かち合った、もう一人の自分として) あんたの言い分は最もだな。人の成長に何が必要なのかをよく理解している。 (脇腹を抑え、血の混じった痰を床に吐く。少しでも集中を途切れさせれば、張りつめた糸は切れてしまう。 もし。もしもシヨンがアリヤ・リーヴステインを、常葉有耶を真に理解していれば、《Lífsteinn》は今一度輝きを見せるだろう。 挫折、昏迷、精神の死。人間が次の段階へ進むための糧は全て、溶け合った自分の記憶がシヨンに与えている) ゼーデルホルム、あんたの目的は既に― -- 有耶
- 《 ……この、人…は… 》(さまよい揺らぐ銃口 砲術機関の初期化を繰りかえしつつ破滅を回避するための反復演算を始める)
(演算の加速に比例して引き延ばされていく主観時間、何週間分もの月日が一瞬の夢のように過ぎ去って)《 ――私、の… 》 《 私の旦那さまはっ……こんなとこで死ねないんですっ!! 》(強烈な破裂音、異常な蒸気圧が手首から先をバラバラに吹き飛ばす) (ダメージコントロールが作動し晴れていく蒸気、銃は鋼鉄の床面を転がって探偵の近くへ)《 ……ですよね、所長…? 》 --
- ほう、これが答えかね?(指の欠片を拾いあげ、唾棄すべき物とばかりに投げ捨てて)…面白い、だが気に入らぬ 下らん、下らんぞっ!
吾輩はなぁ!! この男を喰らいつくせと言ったのだ! 血の一滴も余さず飲み干してやれとな それがこの体たらくとは!! いいかねシヨン、我が娘よ、君は真理を体現せねばならぬのだ そこにいる出来損ないなどは比べ物にならぬ真理をな! -- ゼーデルホルム
- (いつの間にか銃を下ろし、風景に溶け込んだ静物のように存在感を殺してたたずんでいる)
《 …………。 》(感情のない空ろな瞳、どこか寂しげに口の端を歪めて探偵に目配せした 彼を撃て、と) -- フィエル
- まるで駄々を捏ねる子供だな。自分の思い通りに事が進まないと、癇癪か。
ほら、研究は完遂したんだろう? もっと喜べばどうだ。 (言葉で挑発をしつつ、シヨンの手から離れた拳銃に目を泳がせた。 無駄に几帳面な性格からすると、突入時には全ての弾倉に弾丸の装填を終えているはず。 先程一発二発発射しても、間違いなく残弾は残っている。 フィエルの態度は罠を仕掛けるためのブラフと異なり、本心からの態度だ。 その気なら、満身創痍の蒸気探偵は既にあの世送りになっている。 成程、確かに"どうだっていいこと"だ。これから死にゆく人間の心中などは) 許してくれよ、俺はあんたの悲願を― (尚も捲し立てるゼーデルホルムを尻目に、不慣れな左手でリボルバーを掴むと) 達成させる手助けをしてやったんだ。 (引き金に掛かった指を、妻の父親である博士に向けて二度引いた) -- 有耶
- ふん、諸君は何か勘違いしておる様だな 吾輩がいつ人間になれなどと言った? 越えてみせろといったのだ 人間をな!
その一命をもって、心の輝きをもって真理を示せと――(薄暗い艦橋に響く二つの銃声、老人の長身が震えて傾ぎ…踏みとどまった) これ、は……ふ、そうか、そうだったな 甘いぞアリヤ君 否、いっそ理解に苦しむと言わねばなるまい!! この吾輩を撃ってどうしようと言うのだね?(振り向き、撃つなら撃てと言わんばかりに手を広げる その胸からは蒸気が漏れ出ていた) おお、何と嘆かわしいことか! 無理解もここまで来ると滑稽というものだ そしてフィエル、貴様もそうか、そうなのだな! この恩知らずの木偶人形め…!(哄笑、ぎらぎらと光る瞳は赤い狂気に染まって)いいかね諸君、吾輩のこの身はすでに―― -- ゼーデルホルム
- 《 人ならぬものである、と仰りたいのでしょう? ですが、もし 》(罵声を意に介さず、まなざしは静けさに満ちて)
《 最初からそうなのだとしたら いいえ、薄々気づいていたはずです 嘘を嘘で塗り固めた仮初の人格、機関に宿る数理の魂… 》 《 あなたもまた私と同じ存在なのだと 》(語る声は滔々とよどみなく、一切の反論を許さぬ威厳めいたものを秘めて)
《 ヴィクトル・ゼーデルホルム…遥かな異国にまで名声轟く当代一流の碩学にしてロボット工学の第一人者―― 》 《 蒸気都市に突如として現れた現代のプロメテウス、自他ともに認める父の正当なる後継者…ということになっていましたね 》 《 それもそのはず、あなたの理論体系は彼のものであり――あなた自身もまた彼の模倣に過ぎないのですから 》
《 晩年、父はひどく衰弱し…経済的にも困窮していました その名声は地に落ち、研究はおろか生活にすら事欠く有様でした 》 《 予算が下りなかったのです 私という実績がありながら…いいえ、私が存在していればこそ 》(言葉を切ってシヨンに目を向け) 《 私は彼のオリジナルではありませんでした 》(目をつむり、ゆっくり開いて)《 彼の遺児の人格をただ転写したモノにすぎず―― 》 《 ええ、断じて 人を創造主たる位階へと押し上げる人造生命、無窮の真理などではなかったのです 》 《 そして失意の父が最後に手がけた研究こそ――自身の複製を作り、夢をつなぐということ 協会の求めに応じてのことでした 》
《 ここまで話せばもうおわかりでしょう? あなたの名はヴァルガルド・リーヴステイン 私に次ぐ、二体目の… 》 -- フィエル
- 《 う… 》(父と信じた人が声を荒げるのが聞こえる 何もかもが遠い場所の出来事の様で、まるで理解が追いつかない)
(”彼”の注意が決定的に逸れたことで身体の拘束がゆるみ、瀕死の探偵のもとへ少しずつ這っていく)《 所長…っ 》 --
- くくっ…はーはっはっはっは! あやつは利用され尽して惨めに死んでいったというわけだ 成程愉快な話だな木偶の坊め
だがそれが何だというのだ? 生い立ちなど知らぬ 吾輩には関係のないことだ! 否、ならば吾輩は協会を利用してやるまでよ フィエル、貴様どこまで知っている…? 「計画」のことはごく一握りの急進派どもしか与り知らぬはずだが―― -- ヴァルガルド
- 《 そうですね…あなたがたが全市の機関網に細工を加えられたところまでは 》(銃口は痩身の老人へ)
《 人はいつか自らの手で、自身を超える知性を生みだせるのか? 機械は人を超克してしまうのか? 》 《 有史以来、幾多のルーウェリン王に眠れぬ夜を送らせた命題です その答えをあなたがたは示そうとした 》 《 機械仕掛けの都市神格《アルビオン》…蒸気都市に存在するあらゆる機関を脳細胞とする巨大知性、でしたか 》 《 そのOSには超越存在に相応しい精神が求められた 》(それがシヨンフヴェルヴィング、愛らしくも無垢な妹だ) 《 そして《モーダス》が真価を発揮する時…護国の巨人は産声を上げ、現実を枉げ、未来をも決定する権能を得る 》 《 都市の演算能力を結集して神格を建設する それがあなたの求めた真理――世界最高の重機関都市たるあの場所でなら、あるいは 》 -- フィエル
- 誰の差金だ? マロリーか? ブルーネルの奴か…? よもや陛下…という事はあるまいが…否、止め立ては無用だとも
貴様は黙って見ているがいい! 吾輩はあの惨めな男の願いまで叶えてやろうというのだ 邪魔をしてくれるなよ …それにな、アリヤ君(フィエルの銃を無視して振り向く)シヨンはここで終わらぬ 彼女の幸せというものを考えたまえ 君もまたシヨンともに永遠の生を約束されるのだ 本望だろう? ゆえに君は息絶えねばならぬ いささか長く生きすぎたのだ -- ヴァルガルド
- (胸の中央部は人間であれば心臓が収められている箇所、即ち銃弾で貫かれれば死を意味する。
人体を改造した例えば自分のような存在であっても、内部機構の破損は致命的な生命維持機能の欠落だ。 開いた孔から噴き出るのは蒸気。ゼーデルホルム、いやヴァルガルドとフィエルの会話は、疑問を晴らすには十分だ。 父の正体を知り狼狽するシヨンの態度からすると、全容を知り動いていたのはフィエルのみ。 シヨンはヴァルガルドを父親と信じて、来る日も来る日も、期待に応えようと時間を繋いできたわけだ。 瞳の焦点が定まらず傍に寄り添ったシヨンの肩を抱き、リボルバーを右手に構え直す 残された残弾は一発。下手に銃弾に頼るより、直接破壊してやったほうが大人しく止まりそうではある) 俺はまだ30余りだぞ。 そう易々と命を捨てる気はないし、シヨンと同じ時間は出来るだけ長く過ごしてやりたい。 しかしだ。 末期はこれまでの人生を省みて、一点足りとも汚点や曇りがなかったと豪語できるほど満足した状態で迎えたいと思っている。 (10歳の頃から、只管に信念に準じて走り続けてきた。 常葉有耶が有耶・リーヴステインになったとしても、それだけは過去から未来に至るまで約束された絶対普遍の真実である。 強すぎる芯の我は、外からの干渉を許しはしない) 俺は死ぬ。しかしそれは、やがて遠い日だ。 死ぬなら一人で黄泉路へ頼む。 (既に指は引き金に。このままフィエルが撃たなければ自分が止めを刺す) -- 有耶
- (夜が明け、果たして紙面に夜の馬の続報流れているのか。早朝から事務所を開け、新聞を取りに出たシヨンの帰りを待つ) -- 有耶
- 《 うー、それにしても寒いですね所長 暑すぎても駄目ですけどこう寒いのも… 》(手をこすり合わせ朝刊を差し出す)
《 さっそく警察が出動して現場検証に入ったみたいです 色々書いてありますよー 》 --
- 冬は寒いんだよ。珈琲でも飲んで温まったらどうだ。
(渡された朝刊を開くと目を通し、記されている情報に気を配る)……ほう。残念だが、俺とお前が紙面を飾ることは失敗したな。 -- 有耶
- 《 せっかくの写真もブレブレでしたからねー はぁ…もったいない事をしました 》(ストーブに手をかざして) --
- (寒いのか自分もシヨンの隣にまで移動し、ストーブに手をかざす)
問題はまだ解決されてもいない。『誰が』『何のために』 疑問点は山積みだ。それに、ゼーデルホルムとの関連も分からず仕舞いだしな。 -- 有耶
- (さりげなく寄り添い)《 まぁそう言わずに 後で警察の資料にも当たってみますから…いつもの方法で 》
《 それに、私たちにだって… 》(悪戯っぽく笑い、風変わりな弾丸を見せる)《 カードがないわけでもないんですよ? 》 --
- ああ、頼む。(いつもの、つまり機関通信を利用した情報ハックだ)
正体暴きか。あれだけの騒ぎを起こした以上、敵にも警戒されているな。 もうしばらく、進展があるのを待つか。(軽くシヨンの頭を撫でると、所長椅子に座る) -- 有耶
- 《 しかし、そもそも…よくわからないんですよね どうしてあんな風に追いかけ回されたのか、とか 》
《 だってそうでしょう? 今まで沢山の目撃証言はあっても、人が襲われたっていう話はありませんでしたから 》 《 もし車を運転しているのが私だと認識していたならば…そして、それが追いかけっこの原因ならば 》 《 私たちは知らず知らずのうちに眠れる獅子を揺り起こし…危険を招きよせてしまったのかもしれません 》 《 言い換えれば、今やこの事務所すら安全だという保証は―― 》(不意に響き渡る轟音、巨大な構造物が倒壊する物音が白昼堂々遠雷のごとく木霊して) --
- 概ね、行方不明者が発見されることは稀だ。それは単に姿を消しただけでなく、後の処理までされている可能性が高いからだ。
(しかし、今回のケースとは趣が異なっている)お前の言うように、何かしら夜の馬にバックグラウンドがあるのならば― (標的として見据えられたのは、シヨンだということになる。静寂を引き裂く、耳障りな轟音を背に、少々重そうな腰を上げ) 次は生け捕りにでもするか? -- 有耶
- 《 できるものなら 》(ガンベルトとトレンチコートを手に振り向く)《 とにかく今は…打って出るしか、ありませんよね 》
(立ち込める土煙に陰る往来、阿鼻叫喚の巷と化した街路の彼方に駆逐艦と戦車をないまぜにした様なシルエットがそびえたつ) 《 あれは…『陸の甲鉄艦』!? 》(天地を震わせる鬨の声にも似た唸りを上げて旋回する威容、船首はまっすぐにこちらへ向いて) --
- 守りに回るのはガラじゃない。攻撃は最大の防御、とも言うしな。
(知っているのかシヨン、というツッコミも忘れ、艦首にターゲッティングされていると分かればシヨンの手を引き一目散に事務所の扉を抜け、鉄階段を駆けて行く) 歪なオブジェだが、趣味の悪いあれに心当たりはあるようだな。 -- 有耶
- 《 心当たりっていうか…ウェルズですよウェルズ、科学小説の野心作です! 読んだことありませんか、所長? 》
《 スチームエンジンを積んだ陸上戦艦が生身の兵士をドーン!と蹴散らすっていうアイデアベースの物語で… 》 《 以前から一部の急進派碩学が実現に動いているっていう噂くらいはありましたけど 》(地響きに揺らぐ足場を蹴って) 《 まさかあれが実在…いいえ、すでに稼動状態にあったなんて…! 》 --
- 夢のない男でな。昔からそういう類のSF小説には縁がなかった。
そうは言うがな、戦艦と歩兵はゾウとアリに近い戦力差だぞ。盤上が覆るような、面白可笑しい結末が待っているのか? (階下への避難が終わると、往来を何人もの避難民が擦り抜けていった) 夜の馬といい、空想が実体化でもした奇妙な感覚に襲われるな。 (依然鋼鉄船の船首はこちら側へ向けられたまま、逆に鋭く視線を返し) 俺たちがアリの中でも特段上等の二匹だったのが、あのゾウの運のつきか。 -- 有耶
- 《 そのゾウを動かしてるのもアリなんです…搭乗員の人が中で操作してるんですよ、お話の設定では 》
《 サイズからしてそれなりの階差機関も積めそうですけど…誰かが操縦してる可能性だって、否定できませんよね 》 《 さしあたりの作戦目標は二つ 》(瓦礫を砕き、蒸気を噴き上げて動きだす移動要塞を遥かに望み) 《 「甲鉄艦」の制止、あるいは破壊…そして内部の捜索および搭乗人員の確保、といったところでしょうか 》 --
- なるほど、人力か。コンセプトとしては複座の戦車に近いな。
創作と現実を混ぜるつもりもないが、こうなると昨日の夜の馬ですら、内部に人間がいる可能性が高まってくる。 (鈍重さかつ頑健さを感じさせるフォルムは、初速こそ遅いが、すぐに加速を始め蹂躙を開始するに違いない) だな。被害の程度は忘れろ。目標の達成を最優先に動くぞ。近所には……菓子折りでも持って謝るか。 (言うが早いか、土煙の流れてくる街路へと身を翻し)俺が囮になって奴の足を止めさせる。お前はどうにか甲鉄艦にとりついて、内部の確保を頼む。 -- 有耶
- 《 わっかりましたーっ! でも…くれぐれも無理はしないで、気をつけて下さいね? 》
(手頃な建物にあたりをつけ、ワイヤー射出銃を放って軽々と屋根に飛び上がり)《 私は上から行きます…! 》 (見た目に反し、ものの数秒でトップスピードに乗った巨体が街路樹を根こそぎなぎ倒して驀進していく 直線上の目標、アリヤに向かって) 《 …ど、どうやってあんなのを止めるつもりですか!? ちょ、あぶなっ…逃げて下さい、所長ーっ!! 》 --
- 多少の無茶も織り込み済みでな。足を止めるだけならどうにでもできる。
(スピードに乗り直進してくる巨体、人間の手で塞き止めるには両手ですら余る代物だ) いいかシヨン、俺は【止める】と言ったんだ。猛獣を真正面から相手せずとも、 (右腕を地面に翳せば、周辺の地場に軽い振動が伝達される。精神の内側から流れ出た息吹は渦を巻き、形成された力は外界に現出する。 甲鉄艦の騒音を打ち消す怒声が上がったかと思えば、進行方向に巨大なクレーター、落とし穴が発生していた) 罠に嵌めてやるだけでいい。 -- 有耶
- (悲鳴のような軋みをあげて傾ぐ船体 前のめりに沈みこんだ衝角は大地を抉り、地表をバターの様に切り裂いていく そして…)
《 止まっ…た…? と、止まりましたよ所長!? 》(機関の停止にも関わらず吐き出され続ける蒸気で辺りは霧に包まれ) 《 あ、そうでした…今がチャンスですよね、行きますっ! 》(人間離れした動きで屋根伝いに跳躍し、沈黙する巨船の甲板にひらりと降り立つ) 《 どこかに出入り口か装甲の継ぎ目が……わ、わっ…また動きだしましたよ!? 》(微震とともに後退をはじめる甲鉄艦、猛然と噴き出す蒸気に視界は真っ白に塗りたくられて) --
- (とりあえず、牽制には成功したか。先行するシヨンに続き、無音の蒸気艦へと接近するも、地表に小さな振動を感じ)
所詮は一時凌ぎだ。すぐに稼働を再開するぞ。(前進が不可ならば、後退を。大穴を避けて進撃すれば済むだけのこと) 落ちつけ、視界に頼らず……(遠目ではあるが、蒸気の切れ間から覗く甲鉄艦の装甲の継ぎ接ぎらしき境目を発見する。丁度シヨンからは見えない位置だ) シヨン、機関通信で入口らしき箇所を送信する。そこを目指して外壁を伝え。 (軽い電流に近い衝撃を受け、情報がもう一方へ伝達される) -- 有耶
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