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ペア用/イベント用コメント欄  2014-04-17 (木) 01:40:27
お名前:
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif Ever After
    • ……やれやれ、帰ってきてそうそう大気圏突入を味わうとはな。アンゼロットの呪いかなにかか。
      (巨大なクレーターの穿たれた焼け野原。むくりと傷ひとつ無く起き上がった男は頭をかきながら呟いた)

      (ここ、ファージアース……いわゆる現代の地球に相当する異世界、アルヴィンの故郷は、世界そのものを結界が包み込んでいる)
      (人々の作り出す「常識」に従い、あらゆる非常識をはじき出すこの結界内に置いて、魔術という非常識を操るウィザードは存在を許されない)
      (そのため彼らウィザードは、己を包み込む極小結界<月衣(かぐや)>を纏うことで、世界結界の影響を避ける)
      (結果として彼らは、常識的な事柄から一切の影響を受けなくなる。宇宙で息ができないというのは「常識」に過ぎない、銃で撃たれれば人は死ぬ、ということもだ)
      (そして、「大気圏突入した生身の人間たちが無傷で起き上がる」という常識もまた、同様である。ウィザードの間で大気圏突入は通過儀礼とさえ言える)
      まさかと思っていたが、キリル。お前にも<月衣>は備わっていたみたいだな。起きられるか?
      -- アルヴィン

      • ……なにここ。
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028561.jpg 

        (ぽかん。“キャスター”がしそうな顔をしてむくりと起き上がった)
        (真っ白なドレスは燃える事もなく。消えかけていた体も元に戻っている……)

        (……しばらくぼけーっと座り込んで、すぐそばのアルヴィンの肩越しに月を見ていた)
        (良く似ているけど星の位置が違う…月の影の形も。落ちる時に気がついた違和感を確認する)
        (投げ出された場所はとてもとても高い所だった、というのは何となく把握できていた)
        (地面に沢山の星のようなものが見えたのも覚えてる……なにここ どこここ)

        (「懐かしい」アルヴィンはそう言った、ええとつまり……長い思考の末にやっと答えにたどりつく)

        あ、ああ。ここあんたの…世界、か?(ぽんと手を打ち)

        ……えっ あ!?っていうかなんであたし体大丈夫なの?!五体満足だぞオイ!!!!
        っていうかあの子は?!キャスターは?!確かに…この手でつかんだ……はず……。
        っていうか、「っていうか」何度目だあたし。あー…タバコ、タバコが欲しい。

        (間近で見えた笑顔を思い出す。胸の中で懐かしいあたたかさ……気配を感じた)
        ……魔獣の、気配
        (とても安定していているけど……)

        ……アル。この体……まさか。
        -- キリル
      • ああそうだ、あの時お前の身体を消し去ったというのは真っ赤な大嘘だ。
        あの場は時空魔法の影響で世界の帳が非常に薄らいでいた。だから、マリーエングランツの衝撃で空間に風穴を開けたんだ。
        それからは、あそこに俺が展開した月匣で密かに安置していた。……でなければ、ブレイズとの戦いで俺が結界をはらないわけがないだろう?
        (くくっ、と笑う)騙していたのは謝る。だがああでもしなければ、お前は前を向けなかっただろうからな。
        "名前のない怪物"がああして落ち着いた以上、今のお前の体に崩壊の危険性は全くないと断言していい。
        聖杯が手に入ればもっとスムーズだったが、おおよそうまくいった。さすがはメディエイターとブレイズ、俺の期待以上のパワーを叩き込んでくれたからな。
        (神の力と神殺しの力。その衝突によって自らたちが消え去った時、それを利用してキリルの魂を引き寄せたのである)
        まさかこちら側に弾き飛ばされるとは思わなかったが……史楼との飲みの約束はしばらく叶えられそうにもないな。
        ……ああ、それでキャスターのことだが……あいつはそこにいる、はずだ。
        (キリルの鎖骨下あたりを指さした)マルチナと同じようにな。
        しかしマルチナと異なるのは、キャスターの魂はあの状況で非常に摩耗していたということだ。
        かつてのお前達のように、入れ替わるような不安定性さえもない。となると……方法は1つしかないな。
        キリル(真顔で顔を合わせる。シリアスな表情。何を言い出すというのだろうか)

        子供を作ろう。
        -- アルヴィン

      • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028561.jpg 

        (ぽかん。ふたたび同じ顔)
        (あ、笑ったーとか、のんきな事を思う。今やレアでもなくなった笑顔なんだけど、笑うたびにそう思う癖は抜けなくて)
        (いや、それは今は置いとこう。心の中で何かを横に置くリアクション)
        (だって)
        ……え、だって、あの時のあの体、今にも封印が解けそうで…あんた、そんなもの保管して……っ?
        ば、馬鹿じゃないの…!!!あんた死ぬどころか国の危機だよ?!
        (息継ぎ)
        ……あー。そういやあんたはそういう奴だったよ…普段冷静な顔見せるくせにいざって時はしれっと無茶をしてさ…。
        そんな綱渡りの方法、上手くいったからいいけど…。
        ああ、あの子に名前がついて、一瞬完全な「神話の獣」になったから聖杯にあっという間に取り込まれずにすんだのかもね。
        ……キリルとキャスター、二重の曖昧な名前がついたことでこんなに安定するなんて思ってもみなかった…。
        (何もかも、偶然の積み重ね。いや、奇跡の積み重ねだ)
        (自分の胸を指差すこの男が引き寄せた……奇跡)
        (胸の奥で、彼女が微笑んだ気がした)
        (これでずっと一緒です、と、とても幸せそうに……)

        (……だから)
        (目の前で真顔になった男が何を言ったのか、理解するのにしばらく時間がかかって)


        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028562.jpg

        ……待って。
        (両手をホールドアップ。彼と同じ真顔だったのがぺかっと笑顔になる)
        ちょっと、この服動きにくいから、待って。
        (すごく今気にしなくてもいい事を口にして、スキルで自分の服をいつも着ていた普段着に一瞬で交換する)
        (ドレスを月衣に放り込んで「へーこれ便利だね」なんて口にしてみたりして…………………………………)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028563.jpg
        (にっこり笑顔を向けて)
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028564.jpg
        (だんだん顔は赤くなって)

        ………………………………………………………………………………っ。

        (グーで殴るか迷った。あほじゃないのか!!とののしろうかと思った。だけど)
        (反応は)


        ………………あたしさあ、まだあんたに言ってもらってないことあるんだけど。
        それ、言ってくれるなら………………………………………………………いいよ

        (年甲斐もなく、大変乙女なものであった)
        -- キリル
      • キリル。お前を愛してる。
        (あっさりと、その一言はもたらされた)
        (それも当然だ。だってそれは、アルヴィン自身が思っていることで、きっと、いや、必ず、これから先何度も、毎日のようにつぶやく言葉なのだから)
        お前のその勝ち気なところも、それでいて女らしいところも、周りに頼らない強情さも、本当は一人で立っていられないくらい弱いところも。
        全部ひっくるめて、好きだ。愛してる。
        だから一緒に歩いて行こう。俺の止まっていた時間と、お前のずっと一人で歩いていた時間を、俺達二人のものにしよう。
        ……そして、いつか。必ず、あいつも、キャスターも……その中に混ぜてやってさ。
        いろんな奴らと絡んで、世話になって、世話して、迷惑かけて。それでもふてぶてしく、生きていこうじゃないか。二人で。

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028555.png

        俺と一緒に生きて、幸せになって。そしていつか、最期まで歩いて行こう。最期まで、幸せに。
        ……ずっと一緒だ、キリル。どんな世界でも、どんな時でも。
        -- アルヴィン

      • (……きょとんとした顔は見せなかった)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           それは待ち望んでいた言葉だ。ずっとずっと、檻に入れられていた頃から……。
           顔も覚えていない誰か達に聞かされ続けた言葉。

           「……好きな人に言ってもらえたら、どんな気持ちになるんだろうね」

           タバコを燻らせて、娼館の狭い部屋で密やかに憧れ続けた言葉。

           好きな人に、抱きしめてもらったら、
           好きな人に、キスしてもらったら、どんな気持ちになるんだろう?

           ……愛してるって言われたら、どんな気持ちになるんだろう。

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (……憧れていたものすべて、知ることができたんだから)

        (ぽろぽろ涙が溢れてきて、答えたいのに答えられない。笑顔をもっと見たいのに、視界が滲む)
        (でも、急がないでいいのだ。もう)

        (ずっと、一緒にいられるから)

        ……うん。
        あんたのそういうびっくりさせるとこ、好きよ。
        クッソ真面目で、冗談もびっくりするようなのばっかりで不器用でさ、男の癖にあたしよりも面倒くさくて
        でも、約束は絶対に守ってくれる……応えてくれる、アルが好き。

        これから、あんたの子を産んで、キャスターにいっぱい兄弟作ってやってさ
        育てながら賑やかに暮らして……ウィザードってのもやってみたい。憧れててできなかったもの、全部やりたい。

        それで、それでね、いつか、一緒にしわしわの老人になってさ…

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028557.png 

        あんたは一日だけ、あたしよりあとに死んで。
        その一日だけは離れててあげるから……それ以外はずっと一緒にいて。


        ……愛してる。アルヴィン。




        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
        exp028566.jpg 
        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        (……憧れていたものは、実はもうひとつ)


        ……愛してる人に抱かれると、どんな気持ちになるのかも……教えてね?


        (うんと色っぽい声でそう言って……)
        (そして……悪戯っぽく、笑った)
        -- キリル
      • (それからの二人の足跡は、様々な世界に残されることになる)
        (様々な戦い。様々な旅。様々な苦難。様々な……本当に複雑奇妙なものだけれど、彼らの物語は必ず一文をもって終わっていた)
        (すなわち)

        ……ああ、これから何度でも。いくらでも、教えてやる。キリル。
        (そうして優しく愛する女の身体を掻き抱き。優しく髪を撫でてやった。いつまでも、いつまでも)

        (……すなわち)

        (めでたし、めでたし。と)
        -- アルヴィン

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  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028508.png <ありがとうございました!
    • まとめ版、無事に完成しました。
      念のためチェックはしていますが、表記データに誤りがある場合も考えられます。その際はお気軽に声をかけてください。
      ありがとうございました -- データ募集 2014-05-07 (水) 23:23:00
お名前:
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif Ever After
    • ……やれやれ、帰ってきてそうそう大気圏突入を味わうとはな。アンゼロットの呪いかなにかか。
      (巨大なクレーターの穿たれた焼け野原。むくりと傷ひとつ無く起き上がった男は頭をかきながら呟いた)

      (ここ、ファージアース……いわゆる現代の地球に相当する異世界、アルヴィンの故郷は、世界そのものを結界が包み込んでいる)
      (人々の作り出す「常識」に従い、あらゆる非常識をはじき出すこの結界内に置いて、魔術という非常識を操るウィザードは存在を許されない)
      (そのため彼らウィザードは、己を包み込む極小結界<月衣(かぐや)>を纏うことで、世界結界の影響を避ける)
      (結果として彼らは、常識的な事柄から一切の影響を受けなくなる。宇宙で息ができないというのは「常識」に過ぎない、銃で撃たれれば人は死ぬ、ということもだ)
      (そして、「大気圏突入した生身の人間たちが無傷で起き上がる」という常識もまた、同様である。ウィザードの間で大気圏突入は通過儀礼とさえ言える)
      まさかと思っていたが、キリル。お前にも<月衣>は備わっていたみたいだな。起きられるか?
      -- アルヴィン

      • ……なにここ。
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028561.jpg 

        (ぽかん。“キャスター”がしそうな顔をしてむくりと起き上がった)
        (真っ白なドレスは燃える事もなく。消えかけていた体も元に戻っている……)

        (……しばらくぼけーっと座り込んで、すぐそばのアルヴィンの肩越しに月を見ていた)
        (良く似ているけど星の位置が違う…月の影の形も。落ちる時に気がついた違和感を確認する)
        (投げ出された場所はとてもとても高い所だった、というのは何となく把握できていた)
        (地面に沢山の星のようなものが見えたのも覚えてる……なにここ どこここ)

        (「懐かしい」アルヴィンはそう言った、ええとつまり……長い思考の末にやっと答えにたどりつく)

        あ、ああ。ここあんたの…世界、か?(ぽんと手を打ち)

        ……えっ あ!?っていうかなんであたし体大丈夫なの?!五体満足だぞオイ!!!!
        っていうかあの子は?!キャスターは?!確かに…この手でつかんだ……はず……。
        っていうか、「っていうか」何度目だあたし。あー…タバコ、タバコが欲しい。

        (間近で見えた笑顔を思い出す。胸の中で懐かしいあたたかさ……気配を感じた)
        ……魔獣の、気配
        (とても安定していているけど……)

        ……アル。この体……まさか。
        -- キリル
      • ああそうだ、あの時お前の身体を消し去ったというのは真っ赤な大嘘だ。
        あの場は時空魔法の影響で世界の帳が非常に薄らいでいた。だから、マリーエングランツの衝撃で空間に風穴を開けたんだ。
        それからは、あそこに俺が展開した月匣で密かに安置していた。……でなければ、ブレイズとの戦いで俺が結界をはらないわけがないだろう?
        (くくっ、と笑う)騙していたのは謝る。だがああでもしなければ、お前は前を向けなかっただろうからな。
        "名前のない怪物"がああして落ち着いた以上、今のお前の体に崩壊の危険性は全くないと断言していい。
        聖杯が手に入ればもっとスムーズだったが、おおよそうまくいった。さすがはメディエイターとブレイズ、俺の期待以上のパワーを叩き込んでくれたからな。
        (神の力と神殺しの力。その衝突によって自らたちが消え去った時、それを利用してキリルの魂を引き寄せたのである)
        まさかこちら側に弾き飛ばされるとは思わなかったが……史楼との飲みの約束はしばらく叶えられそうにもないな。
        ……ああ、それでキャスターのことだが……あいつはそこにいる、はずだ。
        (キリルの鎖骨下あたりを指さした)マルチナと同じようにな。
        しかしマルチナと異なるのは、キャスターの魂はあの状況で非常に摩耗していたということだ。
        かつてのお前達のように、入れ替わるような不安定性さえもない。となると……方法は1つしかないな。
        キリル(真顔で顔を合わせる。シリアスな表情。何を言い出すというのだろうか)

        子供を作ろう。
        -- アルヴィン

      • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028561.jpg 

        (ぽかん。ふたたび同じ顔)
        (あ、笑ったーとか、のんきな事を思う。今やレアでもなくなった笑顔なんだけど、笑うたびにそう思う癖は抜けなくて)
        (いや、それは今は置いとこう。心の中で何かを横に置くリアクション)
        (だって)
        ……え、だって、あの時のあの体、今にも封印が解けそうで…あんた、そんなもの保管して……っ?
        ば、馬鹿じゃないの…!!!あんた死ぬどころか国の危機だよ?!
        (息継ぎ)
        ……あー。そういやあんたはそういう奴だったよ…普段冷静な顔見せるくせにいざって時はしれっと無茶をしてさ…。
        そんな綱渡りの方法、上手くいったからいいけど…。
        ああ、あの子に名前がついて、一瞬完全な「神話の獣」になったから聖杯にあっという間に取り込まれずにすんだのかもね。
        ……キリルとキャスター、二重の曖昧な名前がついたことでこんなに安定するなんて思ってもみなかった…。
        (何もかも、偶然の積み重ね。いや、奇跡の積み重ねだ)
        (自分の胸を指差すこの男が引き寄せた……奇跡)
        (胸の奥で、彼女が微笑んだ気がした)
        (これでずっと一緒です、と、とても幸せそうに……)

        (……だから)
        (目の前で真顔になった男が何を言ったのか、理解するのにしばらく時間がかかって)


        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028562.jpg

        ……待って。
        (両手をホールドアップ。彼と同じ真顔だったのがぺかっと笑顔になる)
        ちょっと、この服動きにくいから、待って。
        (すごく今気にしなくてもいい事を口にして、スキルで自分の服をいつも着ていた普段着に一瞬で交換する)
        (ドレスを月衣に放り込んで「へーこれ便利だね」なんて口にしてみたりして…………………………………)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028563.jpg
        (にっこり笑顔を向けて)
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028564.jpg
        (だんだん顔は赤くなって)

        ………………………………………………………………………………っ。

        (グーで殴るか迷った。あほじゃないのか!!とののしろうかと思った。だけど)
        (反応は)


        ………………あたしさあ、まだあんたに言ってもらってないことあるんだけど。
        それ、言ってくれるなら………………………………………………………いいよ

        (年甲斐もなく、大変乙女なものであった)
        -- キリル
      • キリル。お前を愛してる。
        (あっさりと、その一言はもたらされた)
        (それも当然だ。だってそれは、アルヴィン自身が思っていることで、きっと、いや、必ず、これから先何度も、毎日のようにつぶやく言葉なのだから)
        お前のその勝ち気なところも、それでいて女らしいところも、周りに頼らない強情さも、本当は一人で立っていられないくらい弱いところも。
        全部ひっくるめて、好きだ。愛してる。
        だから一緒に歩いて行こう。俺の止まっていた時間と、お前のずっと一人で歩いていた時間を、俺達二人のものにしよう。
        ……そして、いつか。必ず、あいつも、キャスターも……その中に混ぜてやってさ。
        いろんな奴らと絡んで、世話になって、世話して、迷惑かけて。それでもふてぶてしく、生きていこうじゃないか。二人で。

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028555.png

        俺と一緒に生きて、幸せになって。そしていつか、最期まで歩いて行こう。最期まで、幸せに。
        ……ずっと一緒だ、キリル。どんな世界でも、どんな時でも。
        -- アルヴィン

      • (……きょとんとした顔は見せなかった)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           それは待ち望んでいた言葉だ。ずっとずっと、檻に入れられていた頃から……。
           顔も覚えていない誰か達に聞かされ続けた言葉。

           「……好きな人に言ってもらえたら、どんな気持ちになるんだろうね」

           タバコを燻らせて、娼館の狭い部屋で密やかに憧れ続けた言葉。

           好きな人に、抱きしめてもらったら、
           好きな人に、キスしてもらったら、どんな気持ちになるんだろう?

           ……愛してるって言われたら、どんな気持ちになるんだろう。

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (……憧れていたものすべて、知ることができたんだから)

        (ぽろぽろ涙が溢れてきて、答えたいのに答えられない。笑顔をもっと見たいのに、視界が滲む)
        (でも、急がないでいいのだ。もう)

        (ずっと、一緒にいられるから)

        ……うん。
        あんたのそういうびっくりさせるとこ、好きよ。
        クッソ真面目で、冗談もびっくりするようなのばっかりで不器用でさ、男の癖にあたしよりも面倒くさくて
        でも、約束は絶対に守ってくれる……応えてくれる、アルが好き。

        これから、あんたの子を産んで、キャスターにいっぱい兄弟作ってやってさ
        育てながら賑やかに暮らして……ウィザードってのもやってみたい。憧れててできなかったもの、全部やりたい。

        それで、それでね、いつか、一緒にしわしわの老人になってさ…

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028557.png 

        あんたは一日だけ、あたしよりあとに死んで。
        その一日だけは離れててあげるから……それ以外はずっと一緒にいて。


        ……愛してる。アルヴィン。




        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
        exp028566.jpg 
        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        (……憧れていたものは、実はもうひとつ)


        ……愛してる人に抱かれると、どんな気持ちになるのかも……教えてね?


        (うんと色っぽい声でそう言って……)
        (そして……悪戯っぽく、笑った)
        -- キリル
      • (それからの二人の足跡は、様々な世界に残されることになる)
        (様々な戦い。様々な旅。様々な苦難。様々な……本当に複雑奇妙なものだけれど、彼らの物語は必ず一文をもって終わっていた)
        (すなわち)

        ……ああ、これから何度でも。いくらでも、教えてやる。キリル。
        (そうして優しく愛する女の身体を掻き抱き。優しく髪を撫でてやった。いつまでも、いつまでも)

        (……すなわち)

        (めでたし、めでたし。と)
        -- アルヴィン
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 聖杯


    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

         真っ暗な中、何かにとても大きなものの中、どこかへ体を引っ張られている。
         炎を纏った赤い髪の少女がその中で、体が崩れていく女を抱きかかえていた。
         女は少女と瓜二つ。夢を見ているような優しげな表情だけが少女と正反対だった。

         「消えてしまう。娘が消えてしまう…しっかりして…!!」

         「ずっと一緒にいたのに。
          あたしに名前をくれたのに……」


      http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028559.jpg 

      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 


      (抱きかかえられた女は呟く。瞳を閉じて)
      ……そんなに泣くなよ。あんたが悪いんじゃないだろう?

      ステイシアは、最後まで生き残れるかね。
      ……あの男がついていれば、心配は無いか。アルに勝った男だもの。

      駄目だったら……また逢えるかもしれない。それも悪くないな。
      その時はあたしはもうあたしじゃないけど……ただの獣かもしれないけど。
      きっとまた、あたし達……

      いい好敵手になれるよね。

      あー……切ないね、こんなんになってやっと素直になれて、好きな男に愛されるなんて夢みたいな事になってんのに。
      消えちゃうんだ。あたし。アルは大丈夫だといいな……。


      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

         「……大丈夫ですよ、消えたりなんてしないのです」

      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

      どうして…?

      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

         「マスターは約束してくれたのです。
          私達を助けてくれるって、心配ないって抱きしめてくれた…!!」


      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

      信じてるのかい。

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         「貴方は信じて無いんです?」

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      (女はくすっと笑って、瞳を開いた)

      ……ううん。こんなになってもまだ、信じてる。

      それにこのままじゃ死んでも死にきれなくてさ……あたし。
      アルにまだ言ってもらってないことがあるんだ……。


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         「ええ、大切な一言がまだなのです!」

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      だから……助けて、アル。

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         「助けてください…!!マスター!!!!!」

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      -- キャスター
      • 俺が最初に得た感覚は、消え行く己の自我に対する憐憫だった。

        魔術師である俺は、魂と現の狭間にあって、その中間に彷徨うエーテルの風を色のある糸のように認識していた。
        音もなく、光もなく、ごうごうと銀色のうねりが、どこからか現れ、どこかへと消えていく。
        ここは世界の狭間、薄くしかし払えない帳によって隠された、あってはならない場所。
        空を―――上下左右という既知世界の概念がないここにおいてその表現は主観的だが―――仰ぐ。青白くも見え、赤黒くも見える輝き。
        今なお、削岩機のように俺のこころと魂とを削り奪い去っていくうねりは、そこから現れ、そこへと消えていた。

        「あれが聖杯か」

        確信があった。
        今の俺の認識は俺だけのものではなく、様々な時代・世界・場所・人種の何か・誰かの記憶が流れ込み、消え、そこで俺の自我を攫っていく。
        ブレイズたちとの衝突によって消滅した俺達は、どうやらこの聖杯へと還元される英霊の魂のうねりの只中にいるらしかった。
        英霊召喚によって変貌した俺もまた、例外ではないらしい。
        己の体を包む輪郭はない。腕を伸ばそうとしても腕はなく、そもそも腕が何であるかを忘れかかっている。
        俺は誰だ。
        俺は何をしていた?

        忘我の大河に響く声があった。
        「俺は……」

        『俺は、お前達のマスターだ』

        「そうだ、俺は」

        『俺は、ただの魔術師だ』

        「俺は、アルヴィン……アルヴィン・マリナーノ、だ!!」

        (銀色の虚空が暗闇へと染まり、爆発するような熱と光をもって世界としての実像を得た)
        (銀と黒と朱と蒼と、あらゆる色の魔力が―――おそらくは英霊、そして聖杯を維持するための魂、あるいはそこに引き寄せられた哀れな犠牲者―――が、消えていく)
        (その流れに抗う。メイルシュトロームを切り裂き、無次元の海を、エーテルの風を意識の帆を張って駆け抜けた)

        キャスター、キリル、どこだ!!
        -- アルヴィン

      • おかしいよねぇ。
        あの人、あの戦いで消えちまったかもしれないのにさ、
        それか、ぼろぼろで意識も無いとかさ……。
        きっとそんなんになってるだろうに、消えそうなあたしを今にも見つけてくれるって思ってしまう。


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           「当たり前ですよ、だってあたしのマスターは一番強いんです!」

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        ……馬鹿。
        …ああ。でも近くに感じる。呼んでる。あの人が。幻聴ってやつかな?
        本当に、こんな時に来てくれる(ヒーロー)なんていると思う?


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           「いますよ。その人を信じているから笑っていられるんでしょう?
           どんな時も、助けてくれた。
           自分がぼろぼろになって、もう何も背負いたくないと言っていた時でさえ。
           あたし達に手を差し伸べてくれた。
           抱きしめてくれた。
           
           そんな人が、マスター(ヒーロー)以外の何だと言うのです?
           ……さあ、名前を呼んで。大きな声でです」


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        ……アル。

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        あたしはここにいる…!!!アル!!!!!!!!
        -- キリル
      • (聞こえる。愛しいあの声が。あの声たちが)
        (上下左右、前後も不確かな、はたして縦と横と奥行きという三次元的なものさえ持ちえているかも分からない世界の狭間)
        (意識を削り取る恐るべき渦のなか、それらの魔力を切り裂き、弾き、振るい、打ち据え、アルヴィンは進む)
        (何もなかったその肉体を薄靄のような輪郭が包み込み)
        (背中から奔る光。それはあの男、ブレイズの持つ不死鳥めいた炎のように)
        (己の熱量を払い奔る史楼のように、意志力を推力へと変換する)
        (強きエゴを持ちえる者達の力を、己のものへと変えていく!)
        キリル……!!

        (見えた。だが、その二人を阻むかのように、不可視の渦と暗闇とが走っていた)
        (右手を伸ばす)
        (届かない。あらゆる物事が、ただ一人で成し遂げられぬように)
        (聖杯の持つ暴風的な自己吸引作用が、キリルやキャスターはおろかアルヴィンさえも引きこもうと顎を開く)
        (その流れに抗い、手を伸ばす。マルチナとともにキリルを引き戻した時の記憶が蘇る)
        (名前を呼ぶべき少女はもういない。このままもうダメなのか)
        ……いや。
        (違う)
        (名を呼ぶべきはだれでもない、己なのだ)
        (己の。己のエゴイズムで、己の意志のみで。この帳を、超える!)
        ……来い……。

        来い、キリル!! 幸せになるんだろう!! 俺のもとへ来いッ!!
        俺の手の中へ……飛び込んで来いッ!!
        -- アルヴィン

      • 呼んでる。あの人が呼んでくれているのに……体がもう…指先くらいしか動かせないんだ。
        どうしよう……あの人が呼んでいるのに。

        届かない……。

        (ぼろぼろと足から崩れ落ちる。黒い灰になって、女は消えていこうとしている)

        (光が見えるのに)
        (手を伸ばせるのに……!!)


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           「……大丈夫」
           獣の化身の少女(キャスター)が笑った。ぎゅうっと力いっぱい女を抱きしめて。
           「あたしがいます……!!!


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        (そして少女は誇らしげな笑顔で……女を光の方へと思いっきり突き飛ばした

        キャスター……っ!!!

        (少女を振り返りつつも、光の方を見て……)


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           「受け止めて!!マスター!!!!!

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        アル……っ!!!
        (…………少女の必死の叫び声と同時に、愛しい男へと両手を伸ばす)
        -- キリル
      • (いまや薄靄のような体は輪郭ではなく実体を得、飛んでくる愛する女を両手で受け止めた)
        (全力でその身体を抱きしめる。光が二人を包み込み……そこではたと目を開く)
        キャスター。そうだ、あの子の声もしていたはずだ。あいつはどうした、一体……。
        (聖杯の引力に反抗するように、プラーナの輝きが闇を照らすなか、その彼方に少女の相貌を見た)

        (笑っていた)
        (キリルと似た、しかし違う赤髪の少女は、莞爾と笑っていた)
        (涙を流しながら。それでも、己の存在が何かを遺せたことに満足して、笑っていた)
        (聖杯の引力と真反対の力が二人を引きつける。どこかの世界へ二人を弾き出し、二人の道を歩ませようとする)
        違う、だろう……ッ!
        (その力よりも、聖杯の力よりも強き力が、ふつふつと湧き上がった)
        違うだろうッ!! 幸せな物語ってのは、そんな笑顔を浮かべて見届けるものじゃあ、ないだろうがァッ!!
        (だがその手は届かない。届かないのだ)
        (―――届かないから、なんだというのだ。そんな常識は、なんだというのだ!)
        この闇を祓うように、どこまでも届く光よ。我が手に宿れ。宿って、届け……!!
        太陽の輝き(Marien Glanz)よ、俺の手を届かせろォ!!
        (聖杯は万能の願望機。そこに望むものはいかなるものであれ叶うという)
        (多くの犠牲と屍の上にそれは成り立つ。だが)

        (そんなものがなくとも、そう)
        (《小さな奇跡》は、人にだって起こせるのだ……)
        -- アルヴィン

      • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           ああ、なんて幸せそうなあたし…。

           悔いは無いのです。
           マスターこんなとこまで来てくれた。顔だって見れた。
           ふふ、マスターのお顔、やっぱりかっこいいのです。ひとめぼれだったのです。ふふふ。
           初めのあの憂い全開のお顔と灰色の髪と赤い瞳も好みでしたが……でも。
           今が一番かっこいいです。
           金色で、青い目で……あたしたちが自由になった時見た空の色よりも綺麗なの。

           しっかり覚えていくのです。
           でも聖杯に入ってしまったらこの記憶も消えてしまうかな。曖昧な存在ですもんねぇ。

           ……覚えていたいな。そしたら今度呼び出されたらこう聖杯に願います。

           「あたしも幸せになれますように」って。

           今でも十分幸せですけどね?
           生まれてきてよかったって初めて思ったのです。なんて幸せな事でしょう。
           ……壊すだけの獣も、消し去るだけの獣も、ひとつだけ残せるものができました。

           なんて幸せ……。

           愛しい人がこちらにも手を伸ばしてくれる。自分が泣いているからだろうか。
           大丈夫、大丈夫なのに。キリルから獣が離れれば彼女は幸せになれるはずだから。
           もう十分幸せだから……。



           …………そう思っているのに。

           ……どうして、涙がとまらないの?
           ……おかしいですよね、マスター。

           ……あたしはキャスター。
           ………………“キャスター”は聖杯にいかなくちゃ。


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        (アルヴィンの腕の中で彼女にそっくりな女が彼と一緒に手を伸ばした)

        ……違うよ。
        あんたはキャスターだけど、キリルだよ。

        消える寸前名前をやった。あたしの名前を…!!
        だから、あんたはキャスターだけど……キリルだ!!!
        ……後の事とか、そういう難しいことはマスターに任せよ?ふふっ。

        一緒に行こう……あんたもあたしだ……!!


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           《小さな奇跡》
           聖杯の闇を切り裂く金色の光の中、二人が手を差し伸べる……それはあたたかい太陽の光。

           幸せな物語の中に、破壊の獣がいてもいいのでしょうか。
           壊すのはもう嫌なのです。

           でもあたしも……

        「あたしも一緒に行きたい…!マスター!!!!!!!」

           そうだ、さっき自分でも言ったじゃないか。
           マスターは約束してくれたと、私達を助けてくれるって、心配ないって抱きしめてくれたと。
           不安に思うことも、怖がることも、もう必要無いんだ……。


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        二人の手が……少女の手に、届く
        -- キャスター
      • (赤き月が上るとき、異界の門が開かれる)

        (空に上るは蒼き月。ウィザード達が背負う、正しき色の月)
        ああ……懐かしい輝きだ。
        (蒼き月を見上げ、アルヴィンは言った。彼らを包み込むのは星々の摩天楼)
        さて……キリル。
        (そして男は言った)
        君は何処に落ちたい?

        (世界の帳を越え、異世界ファー・ジ・アースの宇宙空間に投げ出されたアルヴィン達は、そのまま第一宇宙速度を越えて地球の成層圏へと突っ込んでいくのであった……!?)
        -- アルヴィン
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 最初の日。最後の日。
    • (決戦の時は来た)
      (限界へと進みつつあるキリルの魂、次々に脱落していく聖杯参加者)
      (そして、三度目の対峙。……これが、あの男と、あの少女との、最後の。そして最初の、決戦なのだ)
      ……オレ自身にとっても、正々堂々とした戦いという意味では、この世界では最後のものになるやもしれんな。
      (確信があった。舞台は教会、かつてはじめにブレイズと邂逅した、今はもはや茨の魔女のいないそこ)
      (あの男とは、けして相容れない部分がある。あの少女とは、どれだけ友誼をかわそうと、いや、だからこそつけねばならない決着がある)
      (その思いが、決闘という形で勝負をつけようという、聖杯戦争としておよそ似つかわしくない行為に彼らを走らせるに至った)
      ……すまんな、キリル。俺はお前達を振り回してばかりだ。
      だが、これが最後だ。……最後の俺の、この世界でのわがままだろう。付き合ってくれるか。サーヴァントとして。
      -- アルヴィン
      • いいよ、あたしがはじめたことでもある。何で謝るのさ、ふふ。
        (寄り添うように隣に立ち、顔を見上げてくすくす笑う)
        最初のわがままで、これからも言うっていうのなら、付き合ってあげる。
        あたしはあんたのサーヴァント。あの雨の日に…マスターになることを受け入れてくれた日から、ずっとね。
        (フードをかぶったかわいい少女と、そのマスターの青年が浮かぶ。優しい人達。胸が痛まないといったら嘘だ)
        (きっと誰と戦うよりも痛い。助けを求めて、その手をとってくれたというのに……せめて正々堂々と。エゴ極まりだな、と笑う)
        最後とかいうなよ。気弱なこといってるとひっぱたくよ?(自分がきっと一番気弱な事沢山考えてる。それを振り払うように口にして胸を張った)
        -- キリル

      • (決闘という物々しい趣旨を伝えられ、メディエイターとなったステイシアと来れば)
        (それとはまた違う空気が二人の間にあり、そして見ればわかる、キャスターの様子が)
        (マスターであるからこそ、その存在が既に危うい領域になっていることを)
        ……本当にいいのか、今更聞くべきことじゃないんだろうがさ
        (それは即ち。この戦いが終われば……)
        俺は二人について何も知らない。知る時間がなかったというべきか……それでも、そうだな
        これがお前達が望んだことなんだろうな。ならばこれ以上言うのも悪いか。
        今持てる力で、戦うまでだなアルヴィン。
        キャスター……いやキリル。
        サーフさんが。いや老齢のサーヴァントが心配していた。一人で抱え込んでいないかと。
        それはもう心配ないと伝えておいた。彼の最期の時に。

        俺から伝えられることはない。
        (後はもう戦うだけだなと、言外に伝えて傍らのステイシアに顔を向ける。伝えることがあるなら今の内だけだろうと) -- ブレイズ
      • (ブレイズと共に現れたのは、キャスターが思い描いたのとは別の姿)
        (フードを外し、黄金の耳と尻尾を風に揺らしながら少女はマスターの傍らに並び立つ)
        ―…私からも、何もないかな。伝えたいこと、学びたいことは…多分、戦いの中で済んじゃうと思うから
        キリル、アルヴィン。……ありがとね

        (それは何に対しての言葉であったのか。ただ、二人に向けて柔らかな笑顔を向けて)
        (それは、決闘の始まりには余りにも似つかわしくない笑顔。彼女達と出会い、学んできたことを思い起こし―) -- メディエイター
      • ……俺は。
        お前のことが今でも気に入らない、ブレイズ。全てを救えると、己がそれを可能だと思い上がっているお前がだ。
        いや、お前は正確に言えば思い上がってなどいない。人と人とが手を取り合う力、それを知っている。信じている。

        それは正しいことだ。俺も、それを信じている。だからこそ……俺は、お前などに聖杯を砕かせるつもりはない
        (決然とした瞳で見返す)お前は強い。お前は優しい。お前ならばきっと、それをなし得る。……だがそれは別に、お前でなくともいいだろう。
        そのための傷を、そのための苦しみを背負ってまで、お前と、お前の相棒が歩く必要などない。お前がそれを可能とするからこそ、俺はそれを否定する。
        それが、俺の意地だ。ブレイズ。そして……ライダー、と呼ぶべきではなさそうだな。
        (ステイシアを一瞥、頷いた)いい顔になった。俺はこれまで、ブレイズだけを敵と見据えてきたが、君も、あの男の相棒として十分なものだ。
        だがあいにく(ニヒルに笑う)俺のサーヴァントのほうがいい女だ。優劣はさておき、ここだけは譲れんな(そうだろう? と、キリルを伺って笑った)
        さあやろう。俺達と、お前達のエゴと、目的と、イデオロギーの戦いだ。善も悪もない、俺達はともに正義で、だからこそぶつかり合う。
        俺と、キャスターの……キリルの持つすべての力をお前達にぶつける。これが、俺達の、お前達との、聖杯戦争だ!
        キリル! 令呪をもって命ずる、己の意志に従いてそのために出来る全力を為せ!
        -- アルヴィン
      • またずいぶんかわいくなっちゃって…いいね、あんたは。いい人がいてさ。
        (お礼を言われるような事はしていない。こちらは沢山、沢山してもらって、その上で弓を引くというのに)
        (ありがとうと言う少女は眩しかった。二人の絆が、彼が彼女を綺麗に変えていくことがとても羨ましい)
        ……でも、今は
        (隣に立つ主を……アルヴィンを見た。いつの間にか良く笑うようになった人を)
        (あたしにも、この人がいる。負けて無いよ。沢山変われた)
        (「あたしのマスターが一番です!」って、キャスターなら迷わず言うだろうね)

        (……そう思っていたら、主も同じような事を言った。堪えきれずにぷっとふきだす)
        (笑って冗談まで言うようになった主。この人も初めてのでいの頃からは考えられないくらいの変化)
        (皆変わっていく。きっと、彼女の主も。それはとても幸せなことに思う)
        あら、言うようになったじゃないアルも。すっかりあたしの虜ね。嬉しいじゃないか。
        (これから殺しあうというのに、とても穏やかな気持ち)

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        (……………………アルヴィンの言葉とともに令呪が光る……………………)

        (片手に持っていた赤い日記帳が宙に浮く。思いっきり息を吸って)
        …………ああ。はじめよう、アル。あたし達の戦争を!
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           …………物語の糸紡ぎ……
           紡ぎましょう 誰も読んだことのない物語を……

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        (宝具解放のための言葉が唇から零れる)
        (あの時と同じ。体が勝手に応える)
        (アルヴィンを守る力が欲しい。二人で生きる力が欲しい。その心に応えて)
        (赤い日記帳に英霊召喚の真なる呪文が滲み出してくる)

        (どの物語の文章でもない。彼女だけの言葉)

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           ……糸車をさかしまに回し 混沌から純白の糸を紡ぎましょう

           呪いで落ちる真紅の血は契約の血
           銀盃花の咲く月夜の晩に 茨の檻に囚われた眠り姫に

           物語を一つ紡いで
           眠る前にどうか聞かせて

           あたしの英雄の物語を

           ………………その者は世界を超えてやってきた

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        (アルヴィンの頬に両手を伸ばし包み込むようにして囁く)
        (二人の足元に青い魔法陣が浮かび上がった)

        たったひとりの……あたしの英雄(アル)

        (その宝具は、可能性を引きずり出し憑依させるのではなく……創りあげる、力

        “英霊召喚”

        (髪と同じ鮮やかな色の紅を引いた唇が、主の唇にそっと重なる)
        (初めて無理矢理使わされた時の顔とは違う。幸せそうに、誇らしげに微笑んで……)


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        ……もう、契約のキスいらないんだけどね。ま、折角だし。
        (唇を離して、くすっと笑った)

        (足元の魔法陣が彼に吸い込まれるように、消える………………)
        -- キリル
      • ……買いかぶり過ぎだよ、俺を
        (アルヴィンに。今までと違う……そう。たった一つ、言葉をこぼして)
        (今。最早言葉は不要だろう。アルヴィンに応えるため……そう、これが彼らとの最後の戦いだろう)
        (ならば言葉で表しきれるものなど、何も意味をなさない領域)
        (ただの意地の張り合いなのだから)

        わかった。俺らも……いや、今できることで応えるだけだ。
        その意地と、意志に。憂いもない、後悔もない。ただ今お前達と戦うために。

        ステイシア、キト……すまないな。
        新しくなった存在の力を意地の張り合いに引っ張り出して。
        いいや……違うか。
        なんだろうな、これは
        まぁ……いいさ、笑って戦おう。
        上手い言葉が、見つからないからさ。
        (そう笑って、頼む。メディエイターとなった少女と、その彼に呟き……己の体を炎に変えていく)
        (炎渦まき、メディエイターを羽ばたかせる不死鳥の翼に姿を変えながら……)
        (まるで物語の1ページに加わるように)
        (憎悪でもなく、邪悪と戦うための怒りでもなく。救世の使命でもなく)
        (彼らの俺達の物語を……描くために) -- ブレイズ
      • ううん、気にしないでブレイズ。私も…この二人とはもう一度戦わなきゃいけないって思ってたから
        だから、いいの。私も…今持てる全力でぶつかるだけだよ。その先にきっと…未来があるから
        (炎の羽をはためかせ、ふわりと少女は宙へと浮き上がる)
        (以前のように炎を腕と脚の代わりにするのではなく。自らの足で、腕で、空へと舞い上がる)
        (舞い散る炎の羽はまるで夜空を彩るイルミネーション染みて周囲を照らし)

        私はメディエイター。人と神。人と獣。月と人。全てを繋ぐ者。……貴方たちとの間にも、この戦いを通して新しい繋がりが出来るって。そう信じてる -- メディエイター
      • クラスの変化、人柄の変化か。この戦争を通じて変わったのは俺達だけではないということだな。
        (魔法陣が消えた時、そこにいた男は、以前のように鬼めいた異貌にも、鋼の鎧を纏う者にも変じていなかった)
        (黒い外套がその身を包み込むように変化し、ざんばらな金色の髪が風に揺れる)
        (やがてその身を薄く包み込む金色の光)俺達の世界では、生命が持つ根源的な力をプラーナと呼ぶ。
        ウィザードである俺にとって、これ以上使い慣れた武器はないな。……行くぞ、ライダー。いや、メディエイター、そしてブレイズ!
        (個人結界<月衣>から引き出された異形の杖、マリーエングランツ。金属輪が展開したかと思えば、その杖自体がバラバラに解けて散った)
        (杖とも、剣ともつかぬ形状に変化したそれをこともなげに振るう。活力が満ちるのを感じる。己自身の力、己自身の肉体にだ)
        穿てッ!(それは圧唱ですらない、意志の発露。ただそれだけで渦巻く魔力は方向性を得て、10条の光芒へと変化し対手に飛来した!)
        (キュンッ、と虚空を貫いて奔るそれらは、メディエイター/ブレイズに接近すると同時に不可解な機動を描き、前後左右上下あらゆる方向・角度から襲いかかる。一撃一撃が必殺の魔力である!)
        -- アルヴィン
      • ≪蓋を開けてみればとんでもないヤツだったな……アルヴィン!これがお前の最高の未来の力か!≫

        (光り輝く力。血のようなどす黒い力でもなく、鬼の力でもなく)
        (意志の、生命の力)

        ≪今回ばかりはまともにぶち当たってやることはできない。ステイシア、一点突破だ!≫

        (光の包囲網。留まれば10条、貫かれ致死は免れない。ならばまさしく一筋の光明をたどるように)
        (その一本だけ叩き潰し、檻をこじ開ければ突破口は開けるはず) -- ブレイズ
      • (アルヴィンがどう変化するのか、それは宝具を解放してみないとわからなかった。緊張した面持ちで変化を見守る)
        (それはいつか見た光……不安だった心を吹き飛ばしてくれる眩しい金色)
        (彼は何に変わることもなかった)
        アル……
        (……望んだ通り、自分のたったひとりの英雄がそこにいた)
        (少し後ろで彼がマリーエングランツを振るうのを見守りながら、嬉しくて、ほっとして涙が滲みそうになった)

        ……メディエイター、か。あの子はもう欠けた子なんかじゃない。何もかも、満たされている……。
        (不安は無い。主の姿がすべて消してくれた。だけどこの消えかけた体でもアルを守りたい……あの子のように)
        (今までのスキルではきっと紙ほど役に立たない)
        (主に守られながら空へと舞う少女を見上げる)
        (人を超えた存在、炎の翼がとても美しくて眩しくて……そうだ。炎…!!

        (抱えていた日記帳が熱くなり始める……)
        -- キリル
      • っ、変わったのは…私だけじゃないってことだね!(変化したその姿を見て思わず笑みがこぼれる。あの悪鬼のような姿も、鋼の鎧も彼の本当の姿ではなかったのだ)
        (この光り輝く姿こそ、彼の本来の力の顕現―)

        (赤髪のサーヴァントの方を見やり、その名を、クラスを呼ぼうとして―)キャスター…ううん、キリル!貴方のマスター…すっごいカッコいいよ!
        (アルヴィンが呼んでいた名を叫ぶ。心からの想い。そうだ。私の好敵手のマスターなんだもの。こうでなくちゃ―)

        やりがいが、ないっ!!(空を蹴る。炎の翼を畳んで急降下。水中の獲物を狙う鳥の如く、空気抵抗を減らして加速する。迫る弾丸は10条。その何れもが必殺の威力を込めたもの。だけど)

        い、っけぇえええええええええッッ!!!
        (止まりはしない。ブレイズが道を切り開いてくれると信じているから。事実、彼は道を作ってくれた)
        (わずかな隙間を縫うようにして包囲網を突破。肩が、脚が、掠った光弾の魔力で焼け焦げる)
        (強化された耐魔力スキルがなければ、きっとそれだけ戦闘不能になりかねない威力)

        (光の檻を破れば、両腕を覆うように巨大な獣の爪を具現化させて眼下のアルヴィンへと迫る)
        (振るわれるその爪は正しく神の刃。万物を切り裂く光の爪が連続してアルヴィンへと襲い掛かる!) -- メディエイター
      • (振り下ろされる神の爪。受けるか? 避けるか? 逡巡している暇はない!)
        ミラージュウォール!(アルヴィンの精神に刻み込まれた防御魔装が発現し、鏡めいた不可視の魔力障壁が爪を「受け流す」)
        (しかしその剣風とでもいうべき衝撃は、それだけでも破滅的だ。神気を受け肌が、骨が軋む)以前以上に出来るようになったか……!
        (イメージを描く。獣を討つのは狩人の弓。あの神の獣を貫くことの出来る、神殺しの弓を!)
        (光と水、それがアルヴィンの根源属性だ。そしてその二つは、とらえどころがなく変化し、しかれどそこに存在するものである)
        (マリーエングランツをプラーナの輝きが伝うと、そこから生み出された綺羅水の魔力が弦のように張り、一種強弓のようなシルエットを生み出した)
        (虚空を指でなぞると、その軌跡に従い光の矢が五本。頭上より迫るメディエイターにその切っ先を向け、矢を番える!)
        ジャッジメントレイ……奔れッ!!(水の弦を引き、光の弓を放つ。先ほどと異なり直線的、しかしそれゆえに文字通りの光速となった矢が空へと疾走した!)
        どうやら俺をクラスで呼ぶなら、アーチャーが肌に合っていたらしいな、悪くない!
        -- アルヴィン
      • アーチャーか……意外だね。キャスターかなって思ったけど…ああ、でも前から拳で語る方ではあったな。ふふ。
        (思ったとおり、前とは比べ物にならないくらいの力。前だって負けていたのに、さらに圧倒的で)
        (それでも受け流せる目の前の主の力に驚く。新たな力を手に入れて…これ以上は必要ないのかもしれない)
        でも
        (でも もっと)
        あたしだって…あの子のように、ステイシアのようにアルと共に戦いたい……!!!

        (ボッと音を立てて、抱えていた本が燃えてなくなる)

        力を貸して……キャスター…!真のサーヴァントよ…!!

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           炎のたてがみ、炎のしっぽ
           体は全て真っ赤だけれど、瞳は綺麗な青い色。

           国を焼き、森を焼き、山を焼き、
           全てを焼き尽くしてから竜を招いた。

           獣の名前は誰も知らない。
           知っているものは皆燃えてしまったから。
           誰も獣の名前がわからなくなってしまって、
           いつしか獣は消えてしまった。

           誰も獣に名前をつけてはいけないよ。
           名前をつければ姿かたちを取り戻し、全てをまた焼いてしまうから。

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        ……だけど


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           だけど
           貴方はあたしに名前をくれた
           それは名前だけどあたしだけのものじゃない
           娘と子供とその他大勢をさす言葉で

           それでもそれはあたしの名前…!!

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        (抱えていた本の炎が全身に広がり、キリルの姿が炎に消える)
        (巨大な炎の塊が、光の弓を放ったアルヴィンの後ろに聳え立っていた)


        (その中から、少し幼い声が響く)

        マスター!呼んでください!あたし達を…!!!
        -- キリル
      • ≪ぶっつけ本番だったが……よくできる!≫
        (今は翼としてメディエイター、ステイシアの背にある。)
        (以前のような腕や、尾ではなく。故に彼女の部位ではなく一つの自ら意志を持つものとして操れる……)
        (焔の力)
        (それは翼と翼の関節の間から流れるように顕れ、集束し、円を描き燃え盛る)
        (それは循環し、燃え上がり、10条の光のうち1条を叩き砕いた)
        (円状の盾……いや、それは。向うアルヴィンからみれば……まさしく天使の輪)
        (人の世とはまたかけ離れた天からの使者の如き絵だろうか)

        ≪弓なら俺のほうが一日の長はある!≫

        (ステイシアの頭上というより僅か一つ先に輝く炎の輪。それは直線的な光、光速の矢に向けて飛び)
        (到達する少し前に収縮し、さらに広がれば。直線を外へ叩きだす力の輪となりステイシアを守る!)
        (竹を真上から四方八方に割るが如く、5本の矢を外へはじき出す。銃とは違う、矢だけの直線的に飛来する特性を理解してこそ!) -- ブレイズ
      • (頭蓋を打ち貫かんと迫る光の矢が、目の前で弾けて割れる。そうだ。自分は決して一人で戦っているのではない)
        (炎の羽を羽搏かせ、空中で後転しつつ距離を取り―)

        ―ま、ずっ!!

        (着地した瞬間に、その判断が間違いであったことを直感する。そうだ。一人で戦っているわけではないのは相手とて同じ)
        (此処に来てアルヴィンのサーヴァントが莫大な魔力を帯びた炎を顕現させている!)
        間に合えぇぇぇぇッ!!!

        (全身に満ちる魔力の全てを防御一点に注ぎ込む。<<正義>>の破壊の剣をも受け止めた魔術障壁を張り、来る一撃の備え―) -- メディエイター
      • (いまやアルヴィンは、風の一筋がどこから来たり、やがて何処へ行くのかさえも知覚できていた)
        (敵の動き。相棒の言葉、その願い。意図、魂、全てがわかる)
        (月衣が、プラーナの輝きが強まる。マリーエングランツを包む輝きが弓から槍……そう、チャージを仕掛ける騎乗槍めいた先端形状へと変化)
        (ふわりと浮かび上がり、アルヴィンは叫ぶ。光の槍を携え)
        それでいい。……征くぞ、キャスター! 俺とともに来いッ!!
        マリナーノの家に伝わりし魔術よ、我が根源たる光よ。いまこそ敵を貫く必殺の鉾となりて顕現せよ。
        わが宝具、神殺しの光槍(ディヴァイン・コロナ・ザ・ランス)ッ!! 一直線に、押し通るぞ!!
        (爆発的なエネルギーが高まっていく。自らの背後でわだかまる英霊の炎を待つように)
        -- アルヴィン

      • ……はいっ!!マスター!!!


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        (少女達は炎の中で…………………いつかのように笑った)

        (炎は形を変えていく。ただの塊だったものから獣の大きな足が出て)
        (炎はそのまま大きな狼の形になった。真っ赤な毛並みで同じ色の炎を纏う……それは)

        “名前の無い怪物”


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        (燃え盛る炎でできた狼は、飛び出した主を背中に受け止めるとそのまま空へと飛び上がる。駆ける!)
        (防御を取るメディエイターにまっすぐに突っ込んでいく……!!)

        あたしは武器になり、盾になり、足になる。
        マスターをひとりで戦わせたりなんてしない。あたしはあんたのサーヴァントなのだから…!!

        (神殺しの光槍に自らの紅い炎を纏わせて……)

        メディエイター!!!今度はあたし達の勝ちだ!!!!!!!
        -- キャスター
      • (迂闊だったか?いや、ここは違う。そう来たか!と嬉しくなる)
        (戦闘に狂ったか、頭のネジが外れたかと思う。違う……これは)
        (アルヴィンと、キャスターというサーヴァントの本当に繋がりがあるからこその、力)
        (そこの人としての姿を出していたら、泣いて笑っていただろうか)
        (だからこそ、胸を張って笑顔で、笑って言える。キャスターの力、気配を脅威に思うステイシアに)

        ≪心配ない!俺らだって二人だ!畏れる必要も、恐れることもない!そうだろう!≫

        (笑って、告げた。あぁ……戦ってよかった。彼らと関わってよかった)
        (だからこそ今彼らは、胸を張り誇りを持って、暖かさと共に戦っている)
        (それが、俺の 強さになることを……確かに感じながら)

        (炎の輪がラウンドシールド、盾の如く障壁に重なるように広がり渦を巻く)
        (流動的な炎の力で弾く障壁と加われば、積層の力場障壁となるだろう!) -- ブレイズ
      • ―そうだね。私たちだって、二人だ。二人一緒に戦ってる。だから…
        (前方に展開した魔術障壁に更に力を籠め、二層、三層と来る一撃に備えてその防御を確実なものとしていき)

        ―それはこっちも同じだよキャスター!!同じ条件で勝てるだなんて、気が早いッッッ!!!

        (叫び、腰を落としてインパクトの瞬間を迎える。炎を纏った獣と神殺しの槍が放つ絶対の一撃に、幾重にも重ねられた障壁が次々と破られていく)
        (2層、3層、4層。ブレイズが展開した炎の力場を持ってしてもその一撃を止めることは叶わない―)

        と、ま…れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!

        (やがて最後の一層が突き破られるその瞬間。莫大な魔力の衝突により発せられた光が、衝撃が、教会一体を包み込む)

        (やがて光と煙が収まった時)
        (其処にメディエイターの姿は無く)
        (アルヴィンとキャスターの一撃を受け、其処に立っていたのは一匹の獣であった)
        (月夜の輝きを背に、その毛並みを煌めかせ)
        (その身が千切れ飛ぶ程の威力の一撃を受けて尚、後退はしないと。そんな意思のこもった瞳で二人を見つめ)
        (煌めく毛並みのあちこちを血に染めて尚、獣は其処に立っていた)

        その咆哮は月夜を裂いて―ハウリングムーン―

        (メディエイターが有する第一の宝具。その身を金色の獣へと変化させ、己が身体能力を極限まで上昇させる宝具)
        (人の身なら耐えられぬ一撃であろうと、巨大な体躯を持つ獣の姿であるのなら、防ぎきることも不可能ではなかった)
        (無論、無傷というわけではない。全身から血を流しながらも尚、退きたくは無いという気持ちが勝った結果であった)

        GRRRRRAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHH!!!!!!!

        (今度は此方の番だ、とでも言いたげに獣が咆哮する)
        (戦場を照らす月の魔力を存分に込めた咆哮は、最早一種の魔力光線に近いものがある)
        (音波攻撃でありながら、莫大な魔力を乗せた咆哮は、ブレイズの炎と混じり合い、全てを焼き尽くす火龍の吐息染みてアルヴィンとキャスターへと襲い掛かる!) -- メディエイター
      • これで仕留めきれんか……そうでなくてはなッ!
        (障壁とせめぎあい爆ぜた宝具のエネルギーをマリーエングランツへ再収束させながら笑う。炎が髪をちりちり焦がした)
        キャスター、遠慮はいらん。全力で仕掛けるぞ。一撃一撃のあとなど考えるな!
        (魔獣の背に立ちながら虚空をなぞるたび、そこに力あるルーン文字が次々に浮かび上がりマリーエングランツに収束していく)
        (迫り来る恐るべき咆哮。だがかつて、炎の巨人ムスッペルさえも討ち果たしたアルヴィンにとってそれは恐れるに足りない)
        シルバーレインッ!!(バシュウ! と散弾銃のように放たれた銀色の水粒子が、その燃え盛る吐息と激突。魔力的な爆裂を起こし、両者に衝撃の風を吹かせた)
        っぐぅ……ッ(熱風に肌を灼かれながらも魔力を変質、かつて魔物使いである仲間の姿を思い浮かべる)
        統真、お前の力を借りさせてもらうぞ……!!(渦巻く炎に干渉し、その術式を書き換える。魔獣から放たれる炎が、さらにマリーエングランツを螺旋のように包み込んだ)
        我流呪文、宿り木の豪槍(ミストルテイン)。オーディンの分霊から学んだ神級魔術だ、貴様に耐えられるかメディエイターッ!!
        (全身を包むプラーナの輝きが光の翼めいて軌跡を描き、再度のチャージを仕掛ける!)
        -- アルヴィン

      • アル!!!
        (呻く彼を守るように炎の尻尾が熱風をさえぎる)
        その瞬間炎の獣はがくんと揺れた。見れば後ろ足が黒色に変化して、動かしにくくなっていた)
        (その足からは灰のようなものが落ちて、炎に紛れて消えていく……)

        (……そうか、そうだよな、宝具はあと一回が限界だった。でも、もうひとつ使ってしまったんだ……あたしは)
        (この戦いが終わるまで持つだろうか。主を、愛しい人を守りきりたい。ただひとつ、二人で獲る勝利が欲しい……!!)
        (やっとステイシアと…いいや、ブレイズとメディエイターと対等になれたんだ……!!)
        (限界などとうに超えている。それは主にもわかるだろう。それでもあたしは戦いをやめるなんて嫌だ…!!)

        ……あんたもあたしも獣の姿か。なんだろうね、正反対なのによく似ててさ……。
        (金色の獣の姿へと変化したメディエイターを見て、炎の獣は笑う)
        だからこそ、勝ちたいんだ……!!あたしもあんたのように変わったんだって、アルの力で強く変われたんだって証明したい!!
        ……あたしの方がいい女だってのも、ね。

        (主を背に乗せた炎の獣の周りに炎の輪が浮かぶ)
        (衝撃で離れた金色の獣の場所へと道を作るように炎の輪が次々と浮かんで……その輪を潜り抜けるように“名前の無い怪物”(キャスター)は跳んだ!)

        ……後の事とか、そういう難しいことはあんた(マスター)に任せるよ。ふふっ。


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           「行きましょう、征きましょう、幸せになるために。すべての力を使いましょう」
           「あたしは貴方の足となり」

           “名前の無い怪物”(キャスター)は炎の輪をひとつくぐるごとに走る速度が増していく

           「盾となり」

            主を取り巻き守るように炎が現れる。光に寄り添うようにして広がって。

           「武器となり」

           宿り木の豪槍に更なる力を与えて……

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        オオオオオオオオオオオオオ!!!

        (主の叫びと共に炎の獣が咆哮し、突き進む…!!)
        -- キャスター
      • (獣の背に乗り、巨大な光と炎槍を構えるアルヴィンに対するは)

        まったく、何と戦ってるんだかわからなくなってくるな!
        (人の身に戻るも、その力は健在。メディエイターが姿を変えた金色の獣の背に乗る男)
        (炎と同化し、自在に操る力を棄てて。人の姿に戻り限定させることでより強めていく……)
        (それは炎の翼でも光輪でもない。金色の獣の周囲には5本の焔の槍。男が構える弓に番えているものも加えれば6本)
        (そう、撃ち貫く力)

        その一槍!一撃!来るなら来い!
        (焔の大槍が五本。番える矢の周囲へ滑るように並んでいく)
        (それらが回転し、ライフリングのように渦を巻いて力を引き合わせ……)

        ステイシア、全力で叩きこむぞ!
        導となる焔は俺が撃つ!

        (自らのパートナーが迎え撃つに、最高のタイミングで……解き放った!) -- ブレイズ
      • 負けたくないのはこっちも同じ。意地のぶつかりあいなんだもん。この一撃の先に、立っていた方が―勝者だよ!

        (炎の獣はリングを潜り抜ける度にその速度を増していく。アルヴィンが構えた槍と合わせれば、その破壊力はライダーの最強宝具をも凌ぐと直感する)
        (ならば―)
        (迎え撃つには此方も全力を持って当たるしかない。退けば敗北。躊躇えば敗北。そうだ。先のことなど知らない)
        (自分たちサーヴァントに出来るのは、マスターが一歩を踏み出すために、己の全てを懸けて道を切り開くこと)

        ―朧月の夢物語―

        (展開される第二の宝具。かつて分割された獣の魂の伝承が昇華されたその宝具)
        (黄金の獣の姿が、ノイズに包まれ闇夜に溶けて。次の瞬間にはその姿が二つ。三つ。次々とその数を増やしていき)
        (視界を覆う程にまで分裂した獣の背には、それぞれマスターたるブレイズの姿。最早どれが本物かなど判別のつきようがない)
        (それぞれが必中必殺の焔の矢を番え―)

        ―彼の獣は人の心と共に―ライドオンザライト―

        (それら全てが一斉に第三の宝具を展開した)
        (炎の獣の進路に立ちはだかる無数の獣が放つ魔力の奔流は最早光の壁染みて迸る)
        (月の加護を一新に受け、一体一体がオリジナルと同等の力にまで強化された状態で放つメディエイターの最強宝具)

        行くよ、キャスター!!これが私たちの…全力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!

        (決着の時は来た。無数の獣が咆哮と共に一斉にキャスターへ向けて大地を蹴る)
        (一蹴りでその速度は音を超え光と化して)
        (無数のブレイズが放った天地を覆う程の焔の矢の雨と)
        (無数の獣がその身を爆発的な魔力で覆った光の弾丸)
        (それら全てが、一斉にキャスターとアルヴィンへと迫る) -- メディエイター
      • (足りない)
        (このバルドルをも殺せし宿り木の槍では、足りない。最大最強、己の魂の底から組み上げた力を、ありったけ込めてあの光には対抗しうる)
        (炎が迫る)
        (水を生み出す。妖かしの血ではない、己の生きる血潮から生み出した純粋なる水の力を、放つ!)
        キャスター、これが最後だ! ……終わらせるぞ、この戦いをッ!!
        (水の礫を放ち、そしてルーンを描き、己の全魔力をマリーエングランツに注ぐ)
        ディードリッヒさえも相殺せしめたこの光、俺の純粋たる根源魔力の全てを注ぐ。オーバーロード!!
        (光が、強まる。神をも、巨人をも焼きつくす光の力が!)

        神殺しの光(ディヴァイン・コロナ)ァアアアアアアアアッ!!

        (そこには一切の躊躇も、雑念も、何もない)
        (生まれて初めて。心の底から、誰かのために、己のために、己の持つ全てを出しきり)
        (光と光が、激突する。すさまじい魔力衝撃が大気を震わせた)
        (はたして、その後に残っていたのは……)
        -- アルヴィン

      • (動かしにくかった足の感覚がなくなり、黒化した体はぼろぼろと灰になって崩れ始めた)
        (自らの炎に焼かれて消えていくように)
        (それでも立ち止まったりなんてしない)
        (輝く深紅の炎は風よりも早く。少しでも主の力になるように炎はアルヴィンの周りに集中する)

        終わらせようアル…!!信じてるから……あたし……あんたが…… …
        (主の呼びかけに応える声、炎で途切れる)

        (……どうかお願い 神様 ううん、あたしの中の神話の獣よ。名前の無い怪物よ)

        (名前をあげる)

        (あたしの名前をあげるから……力を貸して…もっと力を!!!!)



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           赤い炎が、神殺しの光とともにあたりを埋め尽くすように広がった

           それはまるで赤い夕焼け

           夕日のような赤を塗り替えるのもまた、夕日のような金色
           まばゆく赤い光を飲み込んで、夜闇を引き寄せるように

           天空の星のように輝く獣達が夕日を飲み込んで行き………



           そして……
           ……黄昏の時間が終わる

           彼らが進んだその先 そこには もう
           夜闇の魔術師と紅い獣は跡形もなく消えていた………

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        -- キャスター
      • (そしてただ、今……夜空の星を眺めていた)
        (仰向けに。スラム街のこの場所で)

        ステイシア……?
        (まず体を起こし。自らの相棒の名前を呼び)
        アルヴィン、キリ……キャスター?
        (自分達が戦っていただろう相手を探す。あの二人を。)
        (そう。夢から覚めたように。教会の前で、茫然と……)
        (自身の頭を疑うが、それはありえなかった。メディエイターという存在がいる)
        (黄昏が落ち切った、夜の帳が落ちたこの場所で……笑って)

        全く

        ひどい奴らだ

        最後まで一緒で、一緒に消えてった
        (いいじゃないか、よかったと。笑って)
        帰るか、付き合いきれん

        はぁ……これなら2度ぐらい飯ぐらい奢らせるんだった -- ブレイズ
      • ―あ、起きた。おはよ、ブレイズ。身体、痛くない?
        (仰向けに倒れていたブレイズが目を覚ませば、傍らにちょこんと座っているサーヴァント)
        (夜の闇の中、其処に居るのは二人だけ)
        (紅い炎の獣も、宵闇の魔術師も何処にも居ない)
        (先ほどまでの戦いが嘘だったかのようにあたりには静寂が満ちていて―)

        …結局、何も言わずに終わっちゃったね?
        でも、いいよね。言いたいことは…戦いの中で伝えきったし。あの子たちが言いたかったことも、何となくわかった
        これで良かったんだよ。私たち。
        唐突に出あって、いきなり戦って。そんな私たちだもん
        終わり方も…きっと普通じゃなくて当たり前なんだ。これが…私たちなんだよ。誰が、何と言おうとね

        (笑うブレイズにこくり、と頷いて夜空を見上げる)
        (教会を照らす月だけは変わらずそこにあって)
        (同じ月が照らす空の下。彼女が魔術師の歩く道筋を照らす篝火となっているのを想い、くすりと頬を緩ませる)

        ―さよなら、キャスター

        (きっともう会うことはないだろう。けれども、これで良かったのだ)
        (だって、私たちは友達じゃないんだもの。別れの言葉も、悲しい涙も必要ない)
        (殴りあって、想いをぶつけ合って。それがお別れできっとちょうどいいのだ)

        (だって私たちは―好敵手、だから) -- メディエイター
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif あらしのよるに。

    • (マルチナが両親の元へと帰った後、キリルは時々ぼんやりしたり、何か言いかけてやめたり、という事が多くなった)
      (今日は大雨。誰も外へ出ないような嵐の日。偵察にはでてみたものの、キリルが倒れてずぶぬれで帰ってきてしまう始末だった)

      ……悪かったね、倒れちまって。あー…「キャスター」の時の無力感が蘇るよちくしょうめ…。
      (シャワーを浴びて、髪を乾かしながら戻るとアルヴィンの背中が見えた。動かない)
      (寝ているのかな)
      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
      exp028526.jpg
      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

      (そう思ってひざ掛けを彼の肩にかけて、寝ていたら起こしてしまうと思ったけど…そのまま後ろから抱きついてみる)
      -- キリル
      • ……(まどろみから目を覚ます。ぬくもりが触れていた)
        キリルか。起こしてくれてもよかったんだが……まあ、いい。眠ってしまっていたようだな。
        (特に嫌がるふしもない)うたた寝など珍しいことだ。俺としたことが気が抜けているというべきか、なんというか。
        -- アルヴィン
      • (目の覚めるような鮮やかな赤い髪がアルヴィンの肩に少しだけ流れて、いつもの香水ではなく石鹸の香りだけ)
        (金色の髪に頬ずりをして)ごめん、やっぱ寝てたね。起こしちゃった。
        疲れてるんだよ。前と体は変わったのだし……あたしがいつ倒れるかわかんないしで、前より余計に気を配るようになっただろ?
        気を許してるから…だったら嬉しいけどねぇ。
        (囁くような喋り方。くすくす笑う)
        ……ねえ、あれからどんな夢見るようになった?
        -- キリル
      • 故郷の夢をよく見るようになった。姉さんと二人きりで家に暮らしている頃の時間だ。
        ……もうすっかりあの悪夢は見ない。少し寂しくもあるが、だが……あのこころの削る光景は、そう何度も見たいものじゃない。
        お前は大丈夫なのか。このところ魔力の不安定化も進んでいるだろう。
        -- アルヴィン
      • もう一生分の悪夢は見ただろうから、これからはいい夢ばっかりなのかもね。
        (彼の話した夢はどうやら幸せな夢のようで、ほっとため息をついた)
        (眠っている時にうなされなくはなったようだったけど、夢の内容はなかなか尋ねにくくて)
        (共有してもいいのだけど……ここ最近は夜離れている時も多かったから。機会を逃していたのだった)
        ……あたしは大丈夫……とは言いがたいけど。あんたにこうやってくっついてると和らぐから平気。触れ合うのも魔力供給だからね。
        (強がりは言わない。だけど酷くなっているとも言わない。話題をそらすように)
        ねえ、あんたの故郷ってどんなとこ?詳しく聞いた事なかったからさ、聞かせて。
        -- キリル
      • ドイツは……そうだな、人によっては古臭く見える国だ。昔からの史跡や文化が今も息づいている。
        あのセイバー、ディードリッヒはもともと俺の国の一地域から生まれた伝承英雄だった。
        ファージアースの中ではこの世界に比較的近い国かもしれんな。悪い場所もあるが……まあ、故郷はいいものだ。いつか帰るべき場所だ。
        -- アルヴィン
      • (体をもたれかけながら、鎧を纏ったセイバーを思い出す。こちらの世界でも少し古めかしい雰囲気だった)
        ああいう鎧がある国だから…ふむ、確かに町並みもこっちに近そうだね。
        どこもおんなじだね、ああいう伝承もこちらにもある……違う世界だっていうのに似てて不思議。
        ま、そのおかげで……あ、あたしがそっちへ行ってもすぐに慣れそうだね、うん。
        (最後だけ、少し早口。何となく照れくさくて)
        ……もしさ、あたしの体が何とかなって、二人生き残れたらさ、あんたの故郷へ行って暮らしてみたいな。
        -- キリル
      • 悪くはない。だが、そうだといってファージアースは別に安全な場所ではないぞ。
        いや、むしろこの世界より危険かもしれん。なにせ週に一度は……いや、規模で言えば日に一度は世界の危機が起こる場所だ。
        俺達のようなウィザードにとっては、息つく暇もない場所だよ。それもまた、悪くはないがな。
        -- アルヴィン
      • なそ
        にん
        (プロポーズのような事を口にした気恥ずかしさ…というかそういうようなことはもう言ってたけど…とにかく恥ずかしさも忘れて、素)
        そんな殺伐としたとこでよく生きてたね?!な、なんだいマルチナもよくあっちにいってるみたいなんだけど連れ戻した方がいいのかい?!
        (のどかな風景を想像していたのに、あっという間に世紀末的な光景に変わる)
        ……ま、まああの夫婦がいれば大丈夫か…。あたしそっち行ったほうが死にそうだね…ふふ。
        ね、そのウィザードってやつ、あたしにもなれるのかな?家系?免許制度?(逆に面白くなってきて、ちょっとはしゃいだ様子で訊ねる)
        -- キリル
      • 英霊になるような素質があれば、望んでいなくとも世界の危機のほうがお前を引き寄せるだろう。
        ウィザードの中で言うなら、そうだな……魔物使いが近いか。人造人間や強化人間、転生者に仙人……ウィザードには様々な者がいる。
        まあ、もちろん表向きは普通の人間として過ごさなければならないが……そのためには、無事に戦い抜かなければならないな。
        -- アルヴィン
      • 魔物使いか…そう呼ばれるのも悪くない。閉じ込めたままの子も役に立つかね。
        普通にあんたの世話焼いて、普通に働いたりもして……世界ってやつを守る。本のヒロインみたいでなかなかいいね。そんな歳でも無いけどさ。
        (くすくす笑って)
        平和に暮らしたかったんだけどな……面白そうに思えるのがまた駄目だわ。あたしも根っからの冒険者なんだろうね。

        うん、悪くない……そんな生活を目指して がんば…る あれ……。
        (いつものようにまた、指先からノイズまみれになって消えてしまいそうになる)
        (いつものように……だけどついさっき倒れたばかりでまた、というのは初めてでった)

        (抱きしめていた力が抜けて、ずるりとソファーの後ろに倒れこむ)
        -- キリル
      • キリル?(普段と異なるその様子に声をあげ、ソファから立ち上がると倒れた女性の身体を起こした)
        (眉根を顰めて代わりにソファに寝かせてやり、対面に腰掛ける)
        ……限界が近いのか。(直截な言葉。聞かなくてもわかることだ)
        -- アルヴィン
      • (今度は倒れた事も自分では気づかなかった。気がつくと天井が揺れていて、アルの声が少し離れたところからする)
        ……あ…ごめん。 やだねもう。あんたを守りたいのに。足手まといだよこれじゃ。
        (眩暈がしてまわりがよくわからない。揺れる世界の中必死に起き上がって、声のするほうへ手を伸ばして)
        ……大丈夫…大丈夫だから、ちょっと抱いてて。今あんたの場所よくわかんなくてさ……。
        (せいいっぱいの、弱音と強がり)
        -- キリル
      • マルチナが言っていた。お前の今の状態では、おそらく英霊契約の使用は一度が限界だろうと。
        ……その一度で、倒すべき敵を倒すしかあるまい。それからのことは勝ってから考える。
        だからそんなやせ我慢はやめておけ。昔の俺のようだぞ?
        (言いながら、その手を取って頭を抱え上げてやる。せめてもの行いだった)
        -- アルヴィン
      • あの子が…そんな事…?ああ、あの時、かな……。
        (彼にマルチナを戻す手伝いを頼んだ時のことを思い出す。いつもついてくる子猫の姿の妹が、その日はついてこなかったから)
        (思い返しながらアルヴィンのぬくもりに包まれて、ようやく息をついた。強がっていたって結局この体温で安心したいのだ)
        ……ごめんね。筒抜けだったんじゃ世話無いね。
        (ぎゅっと手を握る。ようやく治まってきた眩暈。近くの彼の顔がちゃんと見えてきて、ほっとした表情)
        ちゃんと話そうとしてたんだけど……こういう事どうやって話せばいいかなって、ずっと悩んでて……。

        ……あんたの言うとおり、後一度、といった所かな。正直に言ってしまえばその一度も持つか怪しいもんだ。
        逃げ回って、参加者同士殺しあうのを待って、最後の一人に戦いを挑むって言うのもありだと思う。
        でも、さ、
        (弱々しく微笑んで、まだ少しぼやけるアルの頬に片手を伸ばす)
        ……あたしの打ち明け話はもうちょっと先がある。
        そういうのなんか悔しいじゃん。
        だからさ、あんたの一番戦いたいやつと、初めに戦おうって言おうと思ってたんだ。
        そいつらに勝ってから、その先を考えよう。

        あたしはあんたのサーヴァント。戦うための武器になり、盾になろう……あんたは誰と戦いたい?
        -- キリル
      • ブレイズ。
        ……俺はやつと戦わねばならん。もし負けるのだとしても、奴とだけは、絶対に決着をつけねばならない。
        鬼に乗っ取られてでも、大義に依るものでもなく、俺自身の意志として、アイツと向き合う必要がある。
        (蒼い瞳は決然と輝いていた)お前とてそれは同じだろう。ライダー……彼女とは、そうして決着を付ける必要が、あるはずだ。
        あるいは俺の目的も、あいつ達ならば果たしてくれるだろう(謎めいた物言い。薄く笑う)だから戦おう。今度こそ正々堂々と、俺達の意志で死力を尽くして。
        ついてこいキリル。俺と、お前の、二人が望む、二人で臨む戦いだ。
        -- アルヴィン
      • (くすくすと嬉しそうに笑う)
        ……そう言うと思った。
        あたしもあの子がいい。いつか戦わなくちゃいけないのなら、一番苦しいと思うであろう相手を初めに打ち倒したい。
        二人はとてもいい奴だよ、あんたのためにあたしのために命がけで戦ってくれた……それでも戦わなくてはいけないのなら、初めに。
        幸せになりたいと口にしてしまったのだから、望んでしまったのだから、もう後戻りはしない。

        ……どこまでもついていくよ。あんたと一緒がいい。どんな時も二人がいい。
        (眩暈はまだ少し続いている。だけど、弱々しい笑みもかわらないけれど、瞳には強い意思が宿っていた)

        …………所で、目的って?なんだい、隠し事はなしだよ?(ぷうと頬を膨らませてつないだ手を揺らす)
        -- キリル
      • さあな。成功するかどうかもわからん試みだ。勝てるならそれに越したことはない。
        (もし万が一、戦いに敗れたのであれば……そこでキリルを救うための策を練っているのだ)
        (伝えることはできなかった。そのために必要な工程で、彼は1つキリルに嘘をついているからだ)
        安心してくれ、俺は前に進むために願っているんだ。自分を偽りも、お前を遠ざけもしない。
        ……今日はそろそろ眠ろう。また明日から、戦いが始まる。いや、明日の戦いのために。寝付くまではそばにいる。
        (髪を撫でてやって、安心させるようにそういうのだった)
        -- アルヴィン
      • あたしがこんなに暴露したってのに…!!
        (くわっと怒ってみせる。けれど)
        (隠し事は気になる。でも不安というわけではない。二人で未来へ進む事を彼も願っている。それを信じているから)
        (それ以上は問い詰めることはしなかった)
        (何よりまた眩暈が強くなったから)

        (不安になりそうな心をなだめるように、アルの手は髪を撫でてくれる)
        (諭すように話す言葉も、声の低さも心地良く響く。とても幸せだった)
        ……うん、信じているから……。あんたもあたしを信じて。
        もっと、そばに……いて。目を覚ますまで、抱いていて。
        (しがみつくように手を伸ばす。意識が薄れていくのが少し怖い。眠るだけなのに)
        (彼の体温を感じてようやく安心する)
        (そうして、胸の鼓動を聞きながらゆっくりと眠りに落ちていくのだった……)



        「愛しているのでしょう、あの人を。
         愛されているのでしょう、その人に」

        「もう独りではないのです。それを忘れないで」



        (妹の優しい声が、聞こえた気がした)
        -- キリル
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 午前零時の魔法
    • ……それで、マルチナを元に戻すための手順はこう。
      (宿の部屋の備え付けのペンと紙に地図のようなものを書く)

      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

         まず、本体から距離を置いた所でマルチナとあたしのつながりを断つ。
         あたしの体のあった教会が場所的にもいいからそこに準備しておいた。
         でね、アルにはマルチナの体がおいてある場所…ハニー&バニーのあたしの部屋に行ってもらいたいんだ。
         午前零時に切り離しを行うから、その時にマルチナに呼びかけて欲しい。
         離れた魂がそちらに戻るように……。
         そばでやるとあたしの方へ戻ってきちゃうと思うからさ、あんたがあの子を呼んでやって。

         ……頼むね

      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

      -- キリル
      • (キリルがそうアルヴィンに頼んで、二人が別れてから数時間)
        (ハニー&バニーのキリルの部屋のベッドでマルチナは静かに寝息を立てている)
        (娼館の主は人払いをしてくれて、通路も含めて今は誰もおらず、アルヴィンと少女二人きり)
        (庭へと続く大きなガラス窓からは真ん丸い月が見えた。庭には甘い香りのする青い花が風に揺れている)
        -- マルチナ
      • (懐中時計で時間を確かめる。もう少しで午前0時だ。魔術儀式を行うには都合のいい頃合いである)
        (彼女たちの過去を思う。悲劇のなかから生まれ、英霊となった漢によって未来を勝ち得た二人)
        ……マルチナの父親には、謝らねばならんな。会うことが出来るのならば、だが。
        -- アルヴィン

      • (風が止まった)

        (さっきまで遠くから人のざわめきが聞こえてきていたのに、急に耳が痛くなるほどの静寂が訪れて)
        (部屋の古い柱時計の音が鳴る)

        (ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン……12回)

        (…………午前零時)
        -- マルチナ
      • ……(マリーエングランツを招来、《月匣》を展開し魔術空間へと変貌させる)
        (いまや上るのは蒼い月。重々しい呪文を唱え、マルチナの魂に呼びかけた)
        ……マルチナ、戻ってこい。お前がこんなところでいなくなってしまっては何の意味もないんだ。マルチナ……!
        -- アルヴィン
      • ……起きなマルチナ、いつまでも寝てたら育つ体も育たなくなるぜ。
        (はたしていつからそこにいたのか。アルヴィンの言葉だけでは引き寄せられぬと見えたマルチナの魂、それに呼びかけるもう一つの声)
        (ウィザード以外は立ち入り出来ぬ《月匣》において、アルヴィンに気付かれること無く存在していた金髪の男。であれば彼は……)
      • お前は……!?(目を剥く。いや、だがわかった。この男なら、彼女たちを救ったこの男なら、こんな時にいないはずはないだろうと)
        (上るのは蒼い月。世界と世界を繋ぐ月門のたもと、徐々に覚醒へと向かう少女を挟んで男二人は向かい合った)
        ……カテン・ナイトウェスト。お前には、言わなければならないことがある……(青と蒼の瞳が、向かい合っていた)
        -- アルヴィン
      • ああ、アルヴィン・マリナーノ。オレも手前ェにゃ伝えなきゃなンねェことがあるな。
        (タバコに青い炎をくゆらせ、その男は頷いたのだった)
      •  


      • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

        教会の前、姉との最後の会話。魔法陣の中二人で思い出話をした。とても他愛のない話)
        時間が来ても続けていて……

        ……暗闇の中、声が聞こえた。
        いつの間にかいた暗闇の中。帰らなきゃ、そう思うんだけどどこへ行けばいいかわからなくて。

        「アルヴィンさん…?どこ……聞こえるのに、どこにいるかわからないの……!!
         どうしよう、姉様…姉様もみえない……。」

        うろうろと闇を漂う。
        そして、怖くて泣き出しそうになった時……青い光が見えた。
        ……まぶしいくらいの、鮮やかな青い炎。

        それは……

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (ゆらゆらゆれて、いい気持ち。あれ、何をしていたんだっけ)
        (すごく懐かしい香り。よく知っている体温)

        ……おとう、さん…?
        -- マルチナ
      • おうマルチナ、おはようさン(小柄な少女を抱えあげる男はニヤリと笑った)
        ずいぶん気持ちよさそうに寝てたなァ、昔の夢でも見たか? ま、しょうがねェだろうな。
        (夜の道。優しく父は微笑んでそう言った)
        ……あァ、心配すンな。お父さンがキチンとアイツに喝を入れといたからよ。だからキリルのこた心配ねェさ。

        ヴィヴィが心配してるぜ、帰ろうや。ホーム・スウィート・ホーム。よく頑張ったな、マルチナ。
        -- カテン

      • ……おとうさん。
        (間近に、見慣れた顔があった。どうしてここに?そう訊ねようとしたんだけれど)
        (ぽろぽろと涙が零れてきてしまって、父の腕の中で泣きじゃくる)

        ……見ていました。昔の夢を。姉様とわたしがまだひとつの体だった頃の夢です。
        わたしたちはお互いを抱きしめることすらできなかったけど…幸せでした。幸せだったのです。
        とても危ない事をしたけれど、お父さんとお母さんにも心配かけたけど……もう一度姉様と一緒にいられて嬉しかった。
        ……ごめんなさい、心配かけて……ごめんなさい。

        (頑張ったな、その言葉でもう言葉すら出なくなってわんわん泣いてしまった。子供みたいに)
        (帰りたい。ずっとそう思っていたことに気づく。今はもう自分の帰る場所は二人の元なのだと、今更ながらに実感して)
        (嬉しくて、寂しくて)

        (……姉との生活にはもう戻れないのだ。でも……それはきっとこれからは幸せなことになると思う)
        (姉のそばにはもう、彼女を抱きしめてくれる人がいるのだ。自分よりずっと大きくて、力強い人が…………)

        ……帰りましょう。お母さんに薔薇のジャムを作ってもらうのです。
        迎えに来てくれてありがとう、お父さん……。


        ……ただいま…!
        -- マルチナ
      •  

      • (……それから)
        (二人が娼館から姿を消してしばらく、キリルが娼館の自室へとやってきた)
        (アルヴィンに駆け寄ると、弾む息を整えながら辺りを見回す)

        何とか上手くいったようだね……ありがとうアル。
        ……あれ?マルチナは……まだ歩ける体じゃないと思うんだけど……?
        -- キリル
      • 俺よりも相応しい男が連れて行った、もう心配はあるまい。
        ところで氷嚢でも持ってきてくれないか(腫れ上がった頬と折れた鼻を親指で直しつつ)さすがに痛む。
        -- アルヴィン

      • ……………………………………………………………へっ?
        (素っ頓狂な声。誰が?それを口に出す前に……思い当たった)
        (ああ……そうか)
        (…………そうか)

        (泣き出しそうになってしまった顔を、無理に笑顔にする)
        (片手に氷の魔法を集中させるとそっとアルヴィンの腫れた頬に触れて、もう片方はハンカチで血をぬぐった)

        なんでそんな顔になってるのさ。
        あー…あたしのせいかね……ごめんねアル。そっか、あいつが来てたんだね……。

        (ずっと会いたかった。もう一度出逢ったならばまっしぐらに走っていくと思ってた)
        (でも今は静かな気持ち。ひとつ胸の中で何かが消えていて…今は目の前の人を愛しく思う気持ちですべて満たされている事に気づいた)

        ……あたしのこと、何か言ってた?
        -- キリル
      • 「相棒を泣かせたら承知しない」と。他にも色々あったが、伝えるべきはまずこの言葉だろう。
        俺も殴り返してみたがさすが勇者だな、魔術師風情の拳ではびくともせん(冷たさに顔をしかめつつ)
        ……竹を割ったような男だ。俺もああなりたいと思った。
        -- アルヴィン
      • ふふっ、そうかい。あいつらしいと言えばらしいね。
        もうずいぶん泣かされたから…これから先は無いよ、きっと……あんたがいればもう泣かない。
        ……あーあこりゃすぐ帰って薬作らないとね。普通に手当てしたらもっとすんごい腫れるわ。あいつももう少し手加減すりゃいいのに。
        (なんだか酷く嬉しそうに話す。嬉しいのだ。自分の気持ちがはっきりとわかって。ううん、わかっていたことが確認できて)
        (当てて冷やしている手を、痛まないようにそっと動かして、頬をなでる)

        そのままで十分だよ。あんたとあの人は違うよ。アルはアルでいい。
        ………………………………ありがとう、アル。

        (もう一度、かみ締めるように呟く。青い瞳を見つめて。彼には何のことかわから無いかもしれないけど…………………………)

        好きよ。世界で一番、ね。

        (そして、月明かりの下微笑んで、腫れ上がった方の頬に軽く口づけをするのだった)
        -- キリル
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 赤い猫
    • にゃーん
      (この頃キリルがよくつれている赤い毛並みの猫が、ソファーに座っているアルヴィンの足にまとわりつく)
      (キリルはすぐそばの店へと買い物中。化粧品とか下着とか…そういうものを買いに。なのでアルヴィンに同行を強請る事はしなかった)
      にゃーん にゃー にゃー?
      (ソファーに爪を立ててよじ登り、膝の上へ。じーーっと青い瞳を見つめている。なにやら言葉のように鳴く)
      -- 赤い猫
      • ……(そういえばこの猫、いつからかキャスターのもとに現れるようになっていたが)
        (キリルの体内に飼われ、使役される魔獣にしてはいやに人懐こい。そしてやけに見覚えがある)
        ……お前、一体何だ?(loooooong catみたいに抱え上げて問うた)
        -- アルヴィン
      •  http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028522.jpg 
        (嫌がる様子もなくびろーんとのびる猫)
        わたしはただのねこなのですよー……えへへ(やけに聞き覚えのある幼い声…キャスターよりも幼い声でのんびりと返事をする)

        (次の瞬間猫は小さな少女の姿になっていた)
        (赤い髪をおかっぱに切りそろえて、ふんわりしたエプロンドレス。彼の良く知っている小さな少女)
        (……とは少し違い、猫の耳が頭のてっぺんに生えていたけれど、マルチナだ)

        お久しぶりなのです、アルヴィンさん。
        ずっとずっと一緒にいたのです。お話は通じなかったけど……。
        ……やっと人の姿がとれるようになったので……お話したくて。あ、あの、姉様には内緒なのです。
        (髪と同じ色の赤い猫耳を揺らして、表情をうかがう)
        -- マルチナ
      • その声……いや、その姿(さすがにあっけにとられた。この可能性は想定していない)
        マルチナか!? なぜここに……いや、その魂はキリルのなかにあったんだ、ありえないことではないが……。
        (キリルを呼ぼうとしたところで内緒、と言われ)……何故だ。あいつはお前のことを心配しているんだぞ。
        -- アルヴィン
      • 姉様にはもう姿を見せておいたので大丈夫ですよ。今日までアルヴィンさんには黙っていてもらっていたの。
        ごめんなさい、貴方も心配してくれていたのに……。でもわたしがいたら二人の時間邪魔してしまうかなって思って。
        元に戻る方法がちゃんと準備できたら貴方にもお話してくださいとお願いしていたの。

        元々わたしは姉様の中の魔物達と同じようなものでしたので、姉様の中に入ってもすぐに自分を保つ事ができたのです。
        でも姉様が私を覚えていなかったから、使い魔猫さんの姿を借りる事になってしまって…混ざってお話できなくなっちゃって困っていたのですが…。
        やっと少しの時間だけど、人になれるようになったのです。
        (耳を垂れたり、ぴんと立てたり、表情と同じようにくるくるかわって。ひさしぶりに話すのが嬉しくてしょうがないという様子)
        ……あ、いけない。つい関係ないことを沢山…!!
        じ、時間が無いのです。次は2・3時間後なので…ええと、ええと……。
        (おろおろと部屋の時計と彼の顔を見比べて……)
        まずは
        (ぐっと意を決すると、そのままぴょんとアルヴィンの首に抱きついた)

        ……ありがとうございます。わたしたちを助けてくれて……ありがとう。
        -- マルチナ
      • ……まだ全てが終わったわけじゃない。感謝するには早すぎる(怜悧な表情のまま、少女をそっと引き剥がした)
        それに救われたのは俺も同じだ。お前達の存在がなければ、俺は過去に囚われたままだっただろう。
        ……それで? お前がその人の姿を取ってまで、俺に伝えようとすることは一体何だ。
        (それはおそらくマルチナ自身とキリルにも関わることだろう。真剣な声音で問うた)
        -- アルヴィン
      • 沢山助けてもらいました。わたしも姉様も。だからまずはその分、なのです。
        おあいこどころではないのですよ、ふふ。アルヴィンさんはもっとこう、恩着せがましく偉そうになってくれていいのです。
        (床に降り立って、にっこりと笑う)
        (真剣なアルヴィンの表情に少し俯いて)
        ……姉様の体のことを。
        自分で言わないかもしれないから……。
        姉様は、もう宝具を何度も使えないと思います。もしかしたら…一回で限界かも。
        その後は今までの細々としたスキルだけ……それで貴方と一緒に戦う事になるかもしれません。
        姉様は無理して何度も宝具を使おうとするかもしれない。無理をしたら消えてしまうかもしれないのに。
        ……だからその時は貴方に止めてほしくて。

        わたしが元に戻る方法、姉様が昨日準備してました。今日貴方に話すと思います。
        そうしたらわたしはもう、姉様を助けてあげられない……。

        アルヴィンさん……姉様をお願いします。
        (エプロンドレスをぎゅっと握り締め、小さな頭を下げる)
        -- マルチナ
      • (深い溜息。宝具は魔力を大量に使用する両刃の剣だ。今のキリルが使えばたしかに大きな影響があるだろう)
        (それは本人も承知しているはずだ。しかしこうしてマルチナの口からそれが伝えられたということは、マルチナが察して話してくれなければ黙っているつもりだったのだろう)
        ……あれの頑固な点については今後矯正していく必要がありそうだな、まったく……(眉間を揉みながら二度目のため息)
        だが、お前の体についてはわかった。それについては僥倖だ、お前の魂を救い出せるならこれ以上のことはない。任せておけ。
        -- アルヴィン
      • ふふふっ アルヴィンさんも頑固という点では姉様とどっこいだと思うのですよ。
        (くすくす笑いながら頭を上げて)

        でも、もしかしたら自分で打ち明けるかもしれないから……もう少し待ってみてあげてくださいね。
        今までずっとそう言う事は自分の中に押し込んで、最後まで誰にも言えない人だったけど……。
        ……貴方になら、姉様の大好きな“アル”になら、ちゃんと言えるかもしれないって思うのです。
        そしたら姉様褒めてあげてくださいね。わたしはその時はもう撫でてあげられないだろうから……。

        えへへ、わたしの方もよろしくお願いします。無茶してごめんなさ……。

        (話の途中、ぽんっと煙が小さくあがって、そこには小さな赤い猫)

        (赤い猫は困った顔で、にゃーんと一声鳴いた)
        -- マルチナ
      • ……無茶をしたがるのは姉妹で変わらず、か。
        (肩の力を抜く。帰ってくる足音が聞こえていた。扉に目線をやり、来るであろう言葉を待つ。やらなければならないことは1つではないのだ)
        -- アルヴィン

      • ただいまー。

        (ノックもなしに部屋の扉がガチャリと開いて、さっきまでいた小さな少女を大人に成長させたような女が入ってきた)
        (そして彼と少女の予想通り)



        ……アル、ちょっと頼みがあって。実はその猫ね…… ……。
        -- キリル
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 眠り姫

    • ……アル、お願いがあるんだ。

      (何度目かの体の変調の後の朝、ぽつりと言った)

      (……あれから日増しに同じような事が起こる回数が増えていた。意識が遠くなり、手足にノイズがはしって消えそうになる)
      (マスターであるアルヴィンの傍にいる時はあまりおこらないことに気がついたので、一人で出かけることは少なくなった)
      (もう一人で出かける理由もあまり無い。ライダーに会いに行くくらいだった。それも体の変調が増えるにつれて減っていった)

      (けれど珍しく昨日の夜は一人で出かけていた。「少し気になることがあるから」と告げ、この頃よく傍に置いている使い魔の子猫を連れて)
      (帰って来たのは朝。思いつめたような顔ではなく、少し悲しそうに笑う)

      夜ね、あたしの体を見てきた……こう体がおかしいってことは本体にも何かあるんじゃないかって思ってね。
      ……封印がとけかかっていた。茨を引き裂いても再生しない。体に近づけるようになってる。
      封印が消えてしまえば、あたしは本当に死んで、あそこ一帯は魔物の海になるだろう。
      まあそいつらはすぐにどうにかなる。冒険者の街だからね。
      でも……マルチナがあたしとどうかする事になった原因の魔獣が出てきたら……どうなるかわからない。

      だからお願いがあるんだ……あたしの体を消滅させて欲しい。あんたの手で。
      あたしの創造主に頼めば上手く消し去ってくれるとは思うんだけどね。

      惨い事を頼んでいるとは思うけれど……お願い、アル。
      あたしは……あんたがいい。
      -- キリル
      • あれだけ守り通そうとしていた生身を、まさか消し去ることにあるとはな……。
        (だが、魂と肉体は不可分である以上、なによりも周りへの被害を食い止めるためには選択肢は、ない)
        確認しておくが、お前に躊躇いは、ないのか。お前は、帰るべき身体を……失うことになるんだぞ。
        -- アルヴィン
      • 躊躇って、残した結果がこれなんだ(自嘲気味に笑う)
        もっと早くこうするべきだったんだけど……あの時は体を消滅させれば魔物や魔獣があふれ出す可能性もあったから。
        …いいや、いつか体に戻りたいと思っていたから残したんだ…あの時は沢山理由をつけたけど、今となってはそれが理由だと思う。
        サーヴァントになる道を選んだのに……未練だね。
        (子猫を撫でながら呟いて)

        あんたの結界の中でさ、あたしが封印を強めておさえてるうちに、あんたが消滅させるという方法を取れば問題なくできるはず。
        キャスターとしての力……魔獣の力を借りて魔獣を封印するような感じだ。その上にあんたの力も加わる。だから失敗はないと思う…。

        その後は魔獣もあたしも完全にサーヴァント側に来ることになるから、少しは安定するかもしれない。
        ……もっと、あんたと一緒にいられるかもってことなのさ。
        だからいいの。
        (猫の手をもって近づいて、彼の服へとじゃれ付かせる。平気なのだと笑って見せた)
        -- キリル
      • ……それがお前の意志だというなら。それで前に進むというなら、俺は応じよう。
        だがこれは諦めるための選択肢ではない。最悪を消し去り、最善を掴むための道だ。
        だからそう浮かない顔をするな。それに、女を撃つのには慣れてる(アイロニカルな笑みで言った)……冗談だ。ならさっそく、あそこへ向かおう。
        -- アルヴィン
      • (思い出すのは彼の悪夢。繰り返し何度も見た、絶望の表情の少女を彼が…………)
        (だから一人でどうにかできないか、夜ずっと考えていた。創造主の元へと顔も出した)
        (でも結局……体を葬るのであれば、アルヴィンにしてもらいたいと思ってしまったのだ)

        (外へ向かおうとする彼の背中に軽く抱きつく)
        そういう冗談を言うもんじゃないよ……ごめんね、あたしが言わせてるんだよね。
        あたしは大丈夫だから。ほら、「あたし」はここにいるだろう?

        ……だから大丈夫だから……あれはただの抜け殻だから。人だと思って背負ったりしなくていいから、ね。

        (こういう風に言えば余計に気にするかもしれない。そう思っても言わずにはいられなかった)
        (振り向いた彼に、自分も同じように笑ってみせるのだった)
        -- キリル
      • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif スラム街の教会
      • (教会への道すがら、魔獣について話をすることにした。ゆっくり説明をする機会がなかなかなかったから)
        (……妹を失った日のことを思い出すから、避けていたのだと思う)

        ……「魔獣」「魔獣」と呼ぶには理由があってさ。名前が無いんだよね。
        あたしの故郷の、古い古い伝説にこういう話があって……。


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           炎のたてがみ、炎のしっぽ
           体は全て真っ赤だけれど、瞳は綺麗な青い色。

           国を焼き、森を焼き、山を焼き、
           全てを焼き尽くしてから竜を招いた。

           獣の名前は誰も知らない。
           知っているものは皆燃えてしまったから。
           誰も獣の名前がわからなくなってしまって、
           いつしか獣は消えてしまった。

           姿の見えない獣は名前が欲しいというけれど、
           名前をつけてはいけないよ。
           名前をつければ姿かたちを取り戻し、全てをまた焼いてしまうから。

           それは国を終わらせる獣。
           名前の無い怪物。

           誰も獣に名前をつけてはいけないよ。

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        …それに名前をつけてよびだそうとした奴らがいてさ。
        名前の無い獣の分体を見つけて、あたしに取り込ませて、中で獣を覚醒させてあたしの制御させる。
        そんな実験だった。
        国を焼いたって言う獣を人間が制御できるわけが無い。
        実験中獣は暴れだし、その事故で名前をつけた奴らが死んだ。
        あたしはその時奴に食われたんだけど…相性が良かったのかねぇ、名前がまた消えた直後だったせいかねぇ、逆に取り込むことができたんだ。

        誰も名前を知らない、名前を求める寂しい獣。

        ……それが、本当のキャスター。

        (教会の扉の前で呟いて、アルヴィンに笑顔で振り向く)

        ……んじゃ、よろしく頼むわ。


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028520.jpg 
        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (茨の中には笑顔の女と同じ姿の女が静かに眠っている……)
        -- キリル
      • 名をつけることはその存在を縛ることに繋がる。俺の世界でも、東洋における呪術の基本だったな。
        (恐るべき怪物。国を焼くほどの逸話を持つのならば、なるほどサーヴァントとしては的確だ)
        (その霊性のみを利用し、トラブルを招いた結果が今のキャスター。体の不調についても様々な納得が行く)
        ……ホムンクルス。ファージアースでも存在はしているが、この世界においてはなんとも度し難い実験が行われているらしい……。
        (だが、その外道に憤ることがいますべきことではない。月衣から異形杖マリーエングランツを引きずり出す)
        (いまや血ではなく己のプラーナによって稼働するマリーエングランツは、薄い金色の光をまとうと自ら展開し回転を始めた)
        (沈思黙考する。このまま、光の中にこの体を消し去ることは出来る。だがそれが正解だというのか? 思考する、ひたすらに思考する)
        ……キリル。お前は、1か10か、どちらかを救うと問われたのなら。どちらを選ぶ?
        -- アルヴィン
      • どこでもそういうのはあるんだねぇ。ふふ、つながってるって感じがして嬉しいよ。
        ……人の形をした人で無いものを創る動機なんて、大体「どこでも」ろくでもないものさ。
        人とそっくりに作られたのに、人ではない……
        (彼の杖の展開にあわせて青い魔法陣を自分の本体の上に広げる)
        (その青い色は名前の無い怪物の瞳の色。使う女の髪もその怪物のたてがみの色だ)

        (ボッっと音を立てて周りの茨が燃えはじめた。怪物が抵抗しているのだろうか)
        (自分の中で何かがうごめくような気配がした)

        ……でも、それを人として扱ってくれる奴がいるから……あんた達みたいな人間がいるから、あたしたちは人に成れる。
        なんだかね、ホムンクルスで生まれて良かったとさえ今では思っているんだよ。
        ……綺麗だね、あんたのその杖の光。血の色よりずっとあんたらしい。

        (彼の隣で微笑んで、顔を見上げる)
        (謎賭けみたいな質問に、少しだけ考えて)
        さあね。そういう状況になったら、どっちも救えるように必死で、選ぶなんて考えもしない気がするよ。
        ほら、あたしあんま頭よく無いから。
        (くすくす笑いながら、自分の体を懐かしそうに見た)

        ……ごめんね。あたし……でもいいよね。あたしはどんなものになったってあたしだから……。
        (語りかけるように呟く)


        (そして)
        ……アル。お願い。
        -- キリル
      • (マリーエングランツを包む金属輪の回転が最高潮を迎える)
        (渦巻く光の魔力。放てばそれは間違いなくキリルの身体を貫くだろう)
        あの時(ドリット)のように)
        あの時(ツヴァイスト)のように)
        あの時(炎血)のように)
        あの時(エミリー)のように)

        ……マリーエングランツ、引き裂けッ!!
        (過去を振り払うように、男は叫んだ)

        (光芒が闇を、茨を、空間そのものを引き裂き、貫き、全ての視界を覆ったあと)
        (そこに、女の肉体はどこにもなかった。そう、この世界のどこにも)
        -- アルヴィン

      • (燃えはじめていた茨ごと、硝子の棺ごと、「あたし」は消えた)
        (彼の夢で何度も見た光とともに……)

        (……泣いたらいけないのに)
        (別に「あたし」はここにいるのに、涙が零れた)
        (駄目だ。アルヴィンのほうがきっと辛い。そう思っているのに)

        ごめん、ごめんね……。
        (子供みたいに泣きじゃくりながら、彼に縋りついた)
        (ごめんねと繰り返すのは、彼にか、自分にか、どちらともにか)

        (いつの間にか後をついてきていた赤い子猫が、硝子玉みたいな瞳で二人を見つめていた)
        -- キリル
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 月の隠れた真夜中

    • (真夜中に女は帰って来た。小さな赤い毛並みの猫を抱いていつの間にか窓際に立ち尽くしていた)
      (修道女の服を着て、無表情で)
      (服は近頃よく行っていた教会のものだ。アルバイト兼、あそこにいると体の調子がいいなどと理由をつけて)
      ……ただいま。
      (抱いていた猫はよく見る彼女の使い魔の猫。足元に下りるとアルヴィンの足に頭を擦り付けて一声鳴いた)
      -- キリル
      • ずいぶんと憔悴しているな。あそこに行ってきた帰りのお前はいつも笑顔を浮かべていたが。
        (霊視による情報収集を終えたアルヴィンが目を向けた)何があった。……いや、何をした、と聞くべきか。
        -- アルヴィン
      • 別に…。
        (とは言っても教会の騒ぎはこちらにも伝わってるはずだし、何よりも主に隠し事はできないことは知っていた)
        (だから一度きりのチャンスを確実なものにするために何日も何日もかけて準備をして、主が知る頃には全て終わっているつもりだった)
        ……サーヴァントを、殺しそこなっただけ。それだけ。
        (全て筒抜けになっていることはわかっているのに、身を固くして視線をそらした)
        -- キリル
      • ……史楼の件にせよ。俺は基本的にお前のプライバシーを尊重している。だから全てを見通しているわけではない。
        ただ、ある程度は察しがつく。戦った事自体は否定せん。俺とて何度もそうしてきた(鬼としても己としても、と続け)
        だが。……お前は無関係の人々を巻き込んだな、キリル。一体なぜだ。それが、お前の意志だとでも言うのか。
        -- アルヴィン
      • (きゅっと唇を噛む。いっそすべて見ていた方が良かったのに。自分の口から罪を告白するなんて、何て残酷な)
        ……そうだよ。巻き込むことは計算に入れていた。そうでなければあの狸ジジイは出てこなかったからね。
        あんたなしで戦うには、そういう手段を使うことを躊躇ってはいけないと思った。
        だから……そうしただけ(ぽつぽつと呟くような言葉。じっとアルヴィンを見つめる)
        -- キリル
      • そうじゃない(頭を振る)お前は、「お前のために」そんな手段を使ったのか、キリル。
        俺はセイバーやブレイズ、そしてお前自身を、鬼とはいえ俺自身の意志で、俺自身のエゴのために襲った。
        それを偽るつもりはない。逃げるつもりもない。ただ背負い、だからこそお前達のことも背負える、背負うと覚悟できたんだ。
        ……答えろキリル。お前は「何のために」そんなことをした? 聖杯戦争に勝つためだというなら、それは「誰のため」だ。
        -- アルヴィン
      • (猫が鳴く。かすれた様な声で。彼女の傍に寄りそう)
        (一歩後ずさった)
        (言いたくない。でも失敗した。二度目は無い手段。だからもう後がなくて。でも、言いたくない。だってまた拒絶される……)
        (こんな醜い気持ちを知ったら。そのために手段を選ばなかった事を知ったら、やろうとしていた事を知ったら…!!!)

        聖杯を
        (言いたくないのに、唇は勝手に動く。こんな醜い気持ちを抱いていても)
        聖杯を、穢すために。
        サーヴァントを殺し、その命を持ってして呪わせるつもりだった。
        使い物にならないようにして……聖杯にたどりついても、あんたの、あたしの……願いが叶わないように。
        ……そして魔力を奪って、完全なサーヴァントになって…消えてしまわないように。
        もしかしたら、そうなったら、元の体にも戻れるかもしれないって思って………!!!

        あんたの願いが叶ったら、きっと手の届かない所へ行ってしまう…!!
        あたしの願いは変えられない。裏切れない。永遠にサーヴァントでいなきゃいけない!!
        諦めるには、聖杯が駄目になってしまうのが一番いいんだ…そうしたら、諦められる。あんたも、あたしも。
        ただの男と女になって。一緒にいられる……。

        あたしはあんたと一緒にいたいんだ…ずっと……!!

        (……こんな醜い気持ちを抱いていても、愛して欲しいから、全てを口にしてしまう)
        -- キリル
      • (乾いた音が響いた)
        …………(男は、平手を払った姿のまま、無言でキリルを見つめていた)
        (打った。女の頬を。目をそらすこと無く、はっきりと。力強く)
        甘えるな。
        (厳とした声だった)
        お前のそれは、願いではない。いや、俺のためでも、ましてや自分自身でもない。
        ただ逃げるためだ。この聖杯戦争という、エゴの闘争の場から逃げるために、自分以外の全てに泥をぶちまける行為だ。
        ただ戦争から身を引くだけであれば、それは臆病と誹られもしようが、誰かのエゴを踏み潰すことはない。ある意味では平和だ。
        ……お前のそれは、お前以外の、俺達以外の願いさえも踏み躙っている。そして、自分自身からも逃げている。……俺に向けた言葉からも、逃げているんだ。キリル。
        仮にそうしたとして、俺が今のままお前のそばにいると思えたのか? そして、誰よりもお前自身の心が、救われるとでも思っていたのか。
        俺は、こんなふうにお前を諭すことができるほどに人間が出来ちゃあいない。お前自身の命に、迷惑をかけもしたからだ。
        だがそれでも、キリル。俺は……俺自身を忘れても、俺自身の、俺の過去から逃げたことはなかった!
        ……俺は、そんなサーヴァントとともに戦うことは出来ん。よしんば成就したとて、お前の隣にいることもしないだろう。
        それが、俺の意志だ。
        -- アルヴィン
      • (目がちかちかする。生きていた頃には何度か味わった痛み)
        (打たれた頬を手で押さえて、やっと目の前の男が自分に手を上げたことに気づく)
        (加減はされている。それでも痛みはしっかりと残っていた)

        (子猫が足元を心配そうにうろつく。そのまま崩れ落ちてしまいそうになった)
        (逃げ出していたものを、すべて突きつけられて)
        (頬が痛い……それ以上に胸が痛い)

        ……わかって、るんだ。過去からは逃げられない。そんなの。
        過去から、後悔から逃げられない……だから、願いを変えられない。生き方を変えられない…。
        幸せになりたいのに。幸せを望めない…!!!

        (か細い声。後悔が、押し寄せてくる)
        (涙すら、出なくて)



        殺せなかった。



        (ぎゅうと、自分を抱きしめる)
        (金色の硝子玉のような瞳は揺れて)

        ……殺せなかったんだ、誰も。
        覚悟していたのに、あんたに軽蔑されたって一緒にいるためならなんだってやろうって思ったのに。
        殺せなかった……どうしても、誰かを犠牲にすることができなかった……!!

        馬鹿みたいだあたし。どれもこれも中途半端で、変えられない。ぎりぎりの所まで行っても墜ちる事すらできない…!!

        (涙が零れた)
        (あの時の、少女の姿だった時の雨のような)


        言ってよ。

        どうしたら愛してくれる?どうしたら一緒にずっといてくれる?
        あんたの望む事なら、何でもしてやるから。人形みたいに扱ってくれてもいい。
        そばにいて。また笑って。下手な冗談を言ってあたしを困らせて。
        抱きしめて、キスをしてよ。

        だから

        ……あたしを



        助けて………。


        -- キリル
      • 媚びも諂いも、人形も俺の望んだ存在も何もいらん。
        もっとだ。(両肩を掴む)もっと大きな声で。しっかりと叫べばいい。あの時みたいに、これからのように!
        俺はただの魔術師だ。英雄でもなんでもない。だがだからこそ、俺は誰かを背負える。どんなものとも戦える。
        お前達のことを必ず背負う。たとえこの戦いに敗北したとしても、マルチナと、キャスターと、そしてお前を救い出す。
        誰かを裏切ることも、卑しく踏み躙ることもなく。己の意志のものとにだ。だから……。
        ずっと我慢してきたんだろう。ずっと耐えてきたんだろう! だったら……!
        キリル。恥も外聞も、意地も誇りも全部捨てちまえ、お前の思うがように叫んでいいんだ。叫んでくれ。叫べ!!
        -- アルヴィン
      • (あの時は、記憶も半分もなくて、少女の姿だったから叫べた)
        (ただ助けて欲しいって、言えた)
        (少しずつ過去が心に増えるたびに枷も増えていって、言えていた事が言えなくなってしまった)
        (肩をつかまれて、青い両の瞳が見つめる。広い海みたいな、青い色)
        (見返す瞳は金色。縋るように)

        あたしの……本当の願いは。

        あんたと一緒に歳をとってさ……子供作って……普通に、幸せに生きて……死にたい。

        だから言って。

        幸せになってもいいんだって。言って。
        幸せになりたい…あんたと、幸せになりたいの。

        (彼の服をぎゅうっとつかむ。抱きしめてくれた日、どうしてもできなかった事)
        (言えなかった事を、今)

        あたしを救って…アル…!!!!
        あたしにはあんたしかいないんだ!!!!!!!!
        -- キリル
      • 当たり前だ、馬鹿野郎(ニヤリと笑う)俺はただの魔術師だ。だが、お前達のマスターだ。
        誰かがお前が幸せになっていけないと決めたなら、そいつを殴ってふっとばすさ。ありえないことを成し遂げる、それこそが魔法なんだから。
        (裾を掴む手首を握り、そのまま抱き寄せた)苦しみは二人で支え合えば少しだけでも緩くなる。前にそういったな、キャスターは。
        だから今度は俺の番だ。……成し遂げよう、その奇跡を。
        -- アルヴィン
      • (抱きしめられて、涙の止まらない顔を、胸に埋める。あったかくて、命の鼓動が聞こえる胸)
        (幸せになる事は罪なのだと、それは自分でつないだ鎖)
        (自分のせいで不幸になった、苦しむ事になった人間に、償うために……)

        ずっと、誰かに許して欲しかった。幸せになってもいいんだって言って欲しかった……。

        (……叶うのだろうか。不完全なサーヴァントと、人間の恋が。自分は明日にも消えてしまうかもしれないというのに)
        (ずっとあった不安がまた頭に浮かぶ)
        (でも、それなのに)

        (もう、何も怖いと感じなくて)

        ……少しだけじゃないよ。消えてしまったみたいに…心が軽い。
        奇跡……あたしにもおこせるだろうか。あの人みたいな、小さな奇跡を……。
        …………ううん、あんたといればきっと奇跡も起きる。今はそう信じられる……もう何も怖くない。

        ありがとう……アル。



        (子猫が二人の足元をくるくる回る。そしてとても嬉しそうに「にゃーん」と一声、鳴いた)
        -- キリル
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 何も無い日・夜
    • あんたほんとに芋の皮むき上手いんだね。
      あたしより早いとは…そりゃマルチナをカテンちに送り出した後はろくに自炊なんてしてなかったけどさぁ!
      (キーンと冷やしたビールをタンブラーに注ぎながらぶつぶつ言う。敗北感でいっぱいの女)
      (宿のキッチンを借りて調理する前にここで下ごしらえをしていたのだった)
      (テーブルにマッシュポテトと焼いたソーセージ、クラッカーの上にクリームチーズやらレバーペーストやらが乗ったカナッペたちもずらり)
      ま、いいや、味付けは自信あり!ビールにあうようにちょっと濃い目だよ。
      (向かい合わせに座って、タンブラーを軽くもちあげ)
      …えーと、何に乾杯しようかね。
      -- キリル
      • ドイツ人はいちいち何に乾杯、なんて細かいことは考えんものだ。代わりに大声で唄を歌う。
        Ein Prosit,Ein Prosit,der Gemutlichkeit!(さあ祝杯を、祝杯をあげよう。この素晴らしい一時に!)
        ……なんてな。まあ、もっともこんな粛々とした酒盛りで歌うような曲でもないが(グラスを片手に笑う)しかしそちらもさすがは娼婦、手際もいい。
        ……それとも「君の瞳に乾杯」とか、そういう歯の浮くような台詞でも言ったほうがよかったか? それなら劇役者でも当たってくれよ。
        乾杯だ(かちん、と控えめにグラスを合わせる。そしてイッキ飲み。そのままがぶりとソーセージにかぶりついた)……うむ。やっぱりこれが一番落ち着く。
        -- アルヴィン
      • (・_・) (←こんな顔になった。歌うのを見て、しばらくぼんやり固まって)
        ……あんた歌まで歌うの。
        (笑い出すのを通り越して、感心した顔だった)
        (アルヴィンが笑顔を見せるとようやく笑う。苦笑みたいな。でもどこかすごく嬉しそうな)
        あんたのユーモアのセンスって時々びっくりするわ。まあねー手際のよさならもっと別のが得意だけどねー。
        (若干下品なネタ。飲んじゃおうかな、そう思ったとき、思いがけない台詞に今度こそ噴出す)
        やめてよあんたがそんな事言ったらひっくり返る!はいはい乾杯……もーツッコミが間に合わないわ。何そのおっさんみたいな飲み方は!!
        あんたまだ27でしょ…枯れてない?(自分もぐいっとのみほすと、勢いよくグラスを置いた)
        ぷはー…こうやって落ち着いてのむのひさしぶりだね。いっつも騒がしい酒場だったから……どう?ひさしぶりの「酔う」感覚。すずしい顔してるけど。
        (そう訊ねるキリル自身のほほはほんのり赤い)
        -- キリル
      • ああ、それなんだが……もともと酒は強い方でな。よほど無理に飲まないと酔わないんだ。
        (おかげで姉さんと飲み比べをするときはいつも先に腹がいっぱいになる、と肩をすくめる)だがまあ、いいかんじだ。……とてもいい夜だ。
        旨い酒、旨い飯。……(しばらく悩んだ。このぐらいはいっても"らしい"だろう)いい女。どれをとっても欠けてない。
        ある劇作家の言葉だが、「どんな鳥でも最後には故郷を好む」という。俺にとっての故郷は、この酒であり、俺の心のなかにある思い出だ。それがあればどこにいようが、どんな世界にいようが問題はない。
        そう言うお前の方はどうだ。こういう何もない日は、退屈したりはしないのか。
        -- アルヴィン
      • ……あら。
        (いい女。その言葉に嬉しそうに笑う。噴出したりはしなかった。茶化す事もしなかった)
        (空になった二人のタンブラーにまた冷たいビールを注ぐ。頬が赤いのはお酒のせいか、嬉しいせいか)
        (そんな台詞娼婦の時に散々言われていたというのに……アルヴィンが言うととても特別なものに感じた)
        (ビールを今度はゆっくり飲みながら、頬杖をつく。さっきと同じ目を細めたままじっと見つめて)
        ありがと。もっと酔う性質だったらもっと言ってもらえるのかね。そう思うとザルなのが残念だよ。酔ってかわいらしくなったあんたも見てみたいのに。
        …故郷ってのは不思議なもんだよね。あたしの故郷は年中雪でさ、研究所で実験動物扱いだった思い出ばっかりなのに……雪が降ると恋しくなる。
        きっと、妹のおかげだ。あの子も明日あたり出してやらなきゃね…。

        (ぽつぽつと喋って、不意に立ち上がる)
        (タンブラー片手に彼の横まで来て、髪を押さえながら顔を覗き込んだ)
        ふふっ、退屈そうな顔に見える?……ほら、ちょっと椅子引いて。
        -- キリル
      • 娼婦はそういうものだろう。……いや、詳しくはないのだがな。言葉遣いや表情、そう言う部分で客を魅了するものじゃないのか。
        ましてやお前はサーヴァントだ。本来、魔術師に過ぎない俺が真意を図ることなんて出来やしない。
        (ぐいっとビールを煽って椅子を引いた)そもそも俺は腹芸も得意ではない。自分の思っていたことに気づきもしないのに、他人の考えてることなどわかるものか。
        ……しかし不思議なものだ。世界を超え、力を求めて殺し合いに参加した結果、こうして肩を並べて酒を飲む。ああ、そういえば史楼のやつにも約束をしていたな……あれも楽しい酒になりそうだ。
        -- アルヴィン
      • 史楼か……あの子に手を出したのは本当にすまなかったと思ってる。駄目だね。感情が抑えられない状態だったとはいえ。
        あわせる顔ないからさ、会ったら謝っといてよ……よいしょっと。
        (さも当然みたいな顔して、ぽすんと膝に座る。にんまりしてみせるとビールを煽った)
        (体を胸に預けて足を揺らす。子供っぽい仕草)
        確かに、あんたみたいな朴念仁に「あたしの気持ちわかってる?」って質問は野暮だったかもしれないけど……あたしはそんな器用じゃないよ。
        あんたの前では特にね。上手く営業スマイルですらできやしない時もある。子供の姿だった時の名残かね…。
        「あたしはマスター大好きです。マスターはあたしのことどうおもっているんですか?ききたいです!」
        (キャスターの声まねをしつつすぐそばの顔を見上げる。悪戯っぽい笑顔だけれど、頬は赤い。見つめる瞳は少しだけ緊張してる)
        -- キリル
      • マスターとしての俺がサーヴァントに抱くのは信頼のみだ。(涼やかな顔で答える)
        それで? 「お前」はどうなんだ、キリル。お前は、マスターではなく、俺をどう思う。
        キャスターの言葉じゃあない。お前自身の言葉を聞いてみたいものだな。魔力による波動ではなく、お前自身の言葉で。
        -- アルヴィン
      • 「ああーずるい答えですようマスター!!」(ぺっしぺっし。アルヴィンの頬を軽く叩く)
        あ…きついわ…ほんとあの子の真似辛いわ…なんていうの、あの子でいたときの言動だけ、言動だけ記憶喪失になりたい。
        (引きつった顔でまた胸に頭を預けようとして……)
        は?
        (真っ赤になってしまった顔を上げる)
        な、何、さらっとそんな事聞いてるんです?!ああ、まだあの子の口調残ってるんだけど!!死にたい!!
        じゃなくて えーっと……あー… なんだよ、まっすぐに聞いてくれちゃって……

        (言葉が途切れた。赤い顔からは笑顔が消えて、唇は言葉を紡ごうか、やめるかで迷いに迷って震えている)
        ………。
        (不意に体を伸ばして、青い瞳に金色の瞳が近づく………)
        (………そして、その唇を彼の唇へと触れさせた)

        …………………………好きだよ。

        (そのまま少しだけ顔を離して、囁く)
        アルは……あたしの事、どう思ってんの?
        -- キリル
      • 自分の想いをひけらかすのはあまり得意ではないんだが。……まあ、酒が口の周りを良くしてくれたと思ってくれ。
        お前と同じだ。はじめは一度だけ関わり、けして己の道と交わらせまいと想っていたが、今は……。
        お前とともにこの戦いを勝ち進めればいいと思っている。マスターとしてではなく、一人の男としてな。
        -- アルヴィン
      • ありがと(にしし、と冗談っぽく笑う。照れ隠し。でもすぐに幸せをかみ締めるような、そんな微笑み)
        うん……あたしがあんたに聖杯を手にさせてあげる。必ず(少しだけ目を伏せて囁いた)
        ……!!!(がばっと顔を上げる)
        ずるくね?「お前と同じ」はずるくね?
        ちょっとアル!女のあたしに恥ずかしいこといわせといてあんたははっきり言わないってどういう
        …………………………
        …………………………
        ……っ…………………………。
        (また言葉が急に途切れる。でも、さっきとは違う。すぐそばで見上げていた顔が強張ったものになる)
        (かしゃん、とタンブラーが床に落ちた。震えている手にノイズが走り、一瞬だけ消えそうになった……今は主に力を与えているわけでも無いのに)
        -- キリル
      • キリル?(突然のことに表情が陰る。魔術師としての知識が即座にライブラリを検索、原因を予測し始めた)
        (ノイズの走る手を握る)……魔力が欠乏しているのか、なぜだ? 径(パス)が閉じたわけでもない、俺の魔力はむしろ以前よりましている……。
        (となれば、可能性は1つ。キリル自身に問題が起きているということだ)……何があった?
        -- アルヴィン
      • ……大丈夫。すぐ治る(その言葉の通りアルヴィンが握った手はすでに元に戻っていた)
        (微笑んでみせて、握っていた手の指と自分の指を絡めて優しく握る)
        そんな事より、さ。
        聞かせて。あんたの気持ち。

        (……部屋の明かりが落ちた。魔法で明かりを押さえているのだ)
        (月明かりに照らされた金色の瞳は泣き出しそうなほどに潤んでいて)
        (それは恋する女の瞳だけれど……)
        (……初めて会って彼を誘った時のように、どこか怯えているような色が滲んでいた)
        ……ベッドの上で、聞かせて。アル。
        今は、そうして……朝になったら、話すから。

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028506.jpg
        -- キリル
      • ダメだ。
        (答えた言葉は簡素。そして強く、それでいておおらかだった)
        ……お前が答えなくとも凡そのことはわかる。俺は魔術師だ。本体の、お前の本来の身体の影響が魂にも現れ始めているんだな。
        サーヴァント化したとて、お前自身の自我で肉体とつながっている。可能性として危惧は出来た、とはいえ……。
        (絡められた手に手を重ね、そっと離し、首を横に振る)
        ダメだ。……俺は、お前のその気持ちを埋めるための緩衝材にはなりたくない。
        俺は、そんな気持ちでお前を抱きたくはない。……そんな思いを抱くお前を、抱きたくもない。
        ……出来ることをやろう。俺達に必要なのは、お互いを慰め合う行為じゃない。
        前へ。……前に進むための、意志だ。違うか、キリル。
        -- アルヴィン

      • ……あの時と同じように言うんだね。
        (離れた手を胸に抱く。驚いた顔も、傷ついた顔もしなかった。ただ静かに一粒の涙が落ちる)

        あの時も、初めて出逢った時も、こんな気持ちだった…。

        予想はできてた。覚悟はしてた。不完全なサーヴァントが、不完全で制御もできない強い力を使い続ければどうなるかなんて。
        このまま、もし負けることになれば、あたしが聖杯に吸収される事があれば、「あたし」はそのまま消えてしまうと思う。
        不完全なままの世界との契約は、あたしの「体」の魔獣の封印まで侵食し始めてる。

        体の中に魔獣を封印しているから、あたしはサーヴァントでいられる。「古い伝説の魔獣を体に封じ込めた女」として。
        封印がとける事になれば……「魔獣を体に封じ込めた女」の部分が消え、魔獣そのものがサーヴァントになるんだ。

        ……怖い。怖いんだ。消えてしまうのが怖い。
        マルチナがこの気持ちに耐えていたんだと思えば耐えられるはずなのに、怖くてつぶれてしまいそうになる。
        気持ちを埋めるためでいいの、一時でも忘れたい……!!
        (震えながら自分を抱きしめて、涙を流す。大人の姿なのに、その様は少女の頃と同じよう)

        ごめん……こんな気持ちで誘って……。
        -- キリル
      • ……いかんせん飲み過ぎたな。(ふと、月を見上げながらそう言った)
        俺はこのまま眠る。お前も遅くまで起きすぎないようにしろ、キリル。明日からはまた、戦争なんだ。
        (そう言って、二人この距離のままに眼を瞑る。手と手は離れたけれど、ぬくもりはそばにあるままに)
        -- アルヴィン
      • (涙をぬぐいながら、顔を上げる。座ったまま眠ることはよく彼はしていたけど、自分はまだ膝の上で)
        (……片付けしなきゃ。食器が綺麗に洗いにくくなる。とこんな状況なのに思う自分がいて、少し笑ってしまった)
        (でも……離れたくない。狭い部屋、ベッドのシーツを引っ張って二人で包まる)
        (……これは、拒否されなかった)
        (おそるおそる、体を預けて瞳を閉じる)
        (あたたかい…鼓動の音が聞こえてきて、心細さが少しずつ消えていく…… …………)


        (ふと、目を覚ましたら彼の腕が自分を抱いていた)
        (……嬉しくて、苦しくて。まるで少女だった時の気持ちと同じだなと自分を笑いながら、幸せな眠りに落ちるのだった)
        -- キリル
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 何も無い日
    • (アルヴィンが新しい自分の体……と言っても昔の体だけど……に慣れ始めた頃)
      (いつものように彼が短い眠りから覚めると、「見回り」と言って使い魔を置いて出かけていたキリルが戻ってきていて、顔を覗き込んでいた)
      (あれからずっと口数も少なく、ふさぎこんだ様子を見せていたけれど、今日は「キャスター」のようににこにこ笑っている)
      (服も今日は普通の女性が着るようなものと同じもの。ポニーテールにした髪を揺らして)

      今日はさ、何も無い日にしないかい。
      あたしもあんたも戦いのことは忘れてさ、一日だけ普通の人間のふりをするの。
      二人で市場に買い物に行って、夕食はあんたの食べたいものあたしが作るよ。お酒もいいの買ってきてさ。
      ……たまにはいいだろう? ほら、おきたおきた。さっさと着替える!
      (賑やかに喋って、ベッドの前に仁王立ち)
      -- キリル
      • (といっても、服飾・防具のたぐいはすべて個人結界<月衣>の中にあり、意識すれば瞬時に転用できるのがウィザードである)
        どうしてまた唐突にこんなことを言い出した。何か心変わりでもあったのか。
        ……まあ、俺は構わないが。いまさら性急になるつもりもない。戦うべき時は戦う、それだけだ。
        -- アルヴィン
      • ……やー風情の無い着替えだよね…それ、べんりだけどさぁ。
        (なんだか残念そうにして、ため息。それでもすぐに笑って)
        別に……何となく思いついただけ。
        久しぶりに、人だった頃みたいにしてみたいなって……サーヴァントがそんなのを求めるのは変かね。
        (腕を引こうと手を伸ばしつつも、問われると躊躇いがちに手を止める)
        -- キリル
      • それぞれの自由だろう。あの史楼のセイバーのように、受肉すること自体が目的のものもいるくらいだ。
        それに、戦いばかりでも心は荒む。かつての俺がそうだったように。息抜きも大事なんだろう。
        (蒼い瞳で見返した)それで? 買い物のあてはあるんだろうな。この間のように俺の資産ヲあてにされても困るぞ。あれは異世界間で使える借金というだけだからな。
        -- アルヴィン
      • (肯定してもらえるとやっとほっとしたように腕を組む)
        ありがと。あんたも折角もとの体に戻ったんだから、もっと楽しまなきゃ。好きな酒で酔いつぶれるってのやろうよ。
        使い魔も多く出しておくし、結界は見回りの時に強化しといたから。
        (宿の外へといそいそと連れ出しつつ、今日の空と同じ綺麗な青い色の瞳を見つめると……というかきょとんとしてる)
        (考えてもいなかったのです。キャスターだったらすでにそう言っているような顔)
        あっ
        あー……とりあえず、貸しといて?
        (営業スマイル的なものでごまかしておく。歩いているうちに市場の賑やかな声が聞こえてくる。丁度一番人のいる時間だ)
        んー久しぶりに「仕事」でもしてくるかね……アルバイトでも探そうかな。
        ま、そんな感じで。そのうちどーんと返すよ。ささ、そういうしみったれた話は置いといて、今日は何に食べたい?
        -- キリル
      • ビール。それとソーセージ、マッシュポテトだな。どこにいようがそれだけあれば問題ない。
        というか(なんで腕を組む、と言いかけたが、やめておいた。さすがに無粋だと理解した)……まあいい。お前の気の済むようにしろ。
        聖杯戦争の最中だというのに、のんきなものだな。俺達も。いよいよ彼らのことを笑えん。まあ、いいか。平穏は平穏で悪いものじゃあない。
        -- アルヴィン
      • 何その一時間もかからずに完成するラインナップ(驚愕の表情でアルヴィンの顔をまじまじと見る)
        一品くらいは作りがいのあるものを言うもんだよ……あんたにそういうのを求める方が駄目かね。
        じゃあカナッペこまごま作って……ん?何か言いかけた?
        (ため息はつきつつも、腕によっかかるようにして市場の中を見渡す顔は上機嫌だ)
        (店に並んでるジャガイモを手にとって品定め。キャスターの時からは考えられないくらいにてきぱき選んで包んでもらう)
        ほい、お金。払って払って。
        (こういうあっさりお金を要求してくるとこだけは違うけど)
        いいじゃない「たまには」ね。あ、あたしこういうこと妹としかしたことなくて、さ。普通のこい……あー、う、なんでもない。
        つ、次はソーセージとビールね、えーと…ソーセージはあっちの店がいいの売ってて、ビールもそこのあたりだったかなー。
        (いつの間にか顔が真っ赤になっていた。喋り続けながら)
        ……今日は、外でも名前で呼んで。アルヴィン。
        (ぽつりと、とても小さく最後に呟く)
        (彼女が求めるのは平穏ごっこでもあるけれど……本当に求めているものはもうひとつのごっこあそび)
        -- キリル
      • ……(嘆息)別にそこまで求めなくてもいい。キリル。お前はキリルだ。俺の名前は長ったらしいなら「アル」で構わん。
        (といっても別に瀟洒でウィットに富んだ会話が出来るタチではない。女の買い物に付き合う男はなおさらに無口になるものだ)
        ……蓮っぱな娼婦の好みは男と二人で市場行脚か。らしいというべきか、なんというかだな。
        -- アルヴィン
      • いや、でもほら、一応隠さないとだし?あたしそういうの嫌いだから名乗っちゃう時は名乗っちゃうけどさ。
        あんたが意図的に名前呼ばないようにしてたら、その、寂し………(どんどんごにょごにょ喧騒に紛れるように声は小さくなっていく)
        ……あんたの名前、綺麗な響きで好きだけどね。い、いこっか、  アル
        (短く、でもはっきりとそう呼ぶと、悪戯っぽい笑みを向ける。顔は真っ赤だったけど)

        (相槌すらも短いアルヴィンにあれこれ話しかけながら、買い物は続く。元々買い物は迷わない方だからあっという間に品物はそろってしまった)
        (それをどこか残念そうにしながらも、これ以上主に金をせびるのもな、と市場の出口へと向かっていた)
        (彼の言うとおり、こうした色気も何も無いことが好きなのだ)
        ……あたしこういうののほうが好きなんだよね。
        香水はマルチナの好きなのをほんの少し。抱きしめてようやくかすかに香るくらいに少しが良くて、服も動きやすいので。
        手料理で浮くお金でちょっといい酒買って……とかさ。
        だってさぁ、商売柄こじゃれた店とかバーとかうんざりするほど行ったし、わかれた後の独りで喰う屋台ラーメンの方が好きだったわ。
        ……アルも、こういうほうが好きかなって思ったんだけど……着飾っていいとこへ食事の方がよかった?
        -- キリル
      • 特に外出に好みがなくてな。暇があれば家の書棚をあさって魔術を調べる日々だ。
        ダンガルド魔術学校で、先生……マーリンから教えを受けていたころも、あまり級友とどうこうという機会はなかった。
        (そもそも身体が弱かったからな、と付け加え)だからこういうのは新鮮な体験だ。俺が相手では楽しませられんと思う、すまんな。
        -- アルヴィン
      • ……忘れてたわけじゃないけど、あんたクッソ真面目だったね。そういうとこもなんだね……まー体が弱くちゃしょうがないか。
        (ふう、軽くため息をつく。もしやこれは疲れさせているだけだったかと思って)
        (でも)
        あっ えっ いや、あたしはあんたと一緒ならどこだって楽し…あっ あー…謝る必要ないから!!
        (謝られてつい素直に気持ちを言ってしまった。しどろもどろになってようやく赤くなくなった顔がまた暑い)
        ア、アルのそういうクッソ真面目な反応が面白かったりもするから、さ。
        ……あ!あの鏡欲しい!!買って!!
        (市場の出口の所の小さな露天。アンティークの細かい飾りのついた丸い鏡を指差す)
        (照れ隠し)
        -- キリル
      • ……思い出した。何度目かの里帰りの時にもこうして姉さんに引きずり回された気がするぞ。
        (あの時も財布扱いだ、と溜息)女はみんなそうなのか。俺にはよくわからん。……だがまあ。
        楽しいかどうかで言えば、悪くはない。特にお前との時間は(かすかに微笑んで言った。なお、鏡は仕方ないので買った)
        -- アルヴィン
      • 女心わかってないねぇ。「一緒にいる理由が欲しい」から女は男を引きずりまわすのさ。
        (ため息をつくアルヴィンにそう得意げに言って、それは今の自分の気持ちを告白同然だった事に気づく)
        (鏡を買っている最中茹蛸状態のままほぼ固まっていた)
        (けれど、かすかな微笑みを見ると、そんな恥ずかしさもどうでも良くなってしまった)
        ……アル。そういうときは「お前といる時間はいつもとても楽しい」くらい言っとくもんだよ。
        (落ち着いた笑みでそっと彼の顔を覗き込む)
        ……ありがとね。大事にする。
        (露天のただの中古品とも言えるものをとても大事そうに懐にしまいこむ)

        さーて、帰ったら芋の皮むき手伝ってもらうかね。
        (頬は薔薇色。だけど心は温かい気持ち。買い物袋を抱えて腕を引っ張りながら岐路に着く)
        -- キリル
      • そんなドラマか何かの主人公のようなことを言えるなら、俺はそもそも鬼に心を奪われたりはしていないさ。
        (そういうのはきっと、ブレイズや史楼の仕事だろう。だからこそ、彼らのような眩しい人間に自分は憧れたのだ)
        ドイツ料理なら得意だ、伊達に自炊はしてない。まあ、任せてくれ(鷹揚に言って続いた)
        -- アルヴィン
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 月夜と教会
    • (それから)

      (ブレイズとライダーとの戦いの後、“鬼”から元に戻ったアルヴィンを運ぼうとしたけれど、弱りきって使い魔の猫一匹くらいしか出せなかった)
      (仕方が無いので、魔力が回復するまで教会の中にいることにする。ここまでは何とか引きずってこれた)
      (戦いで壊れた場所は茨が千切れていて、中に簡単に入れた。いつもだったら茨はすぐに再生するのだけど、自分が弱っているせいか……)
      (中央の棺には近づかないようにして、月明かりが差す長椅子に彼を横たえ、枕代わりに自分の膝に頭を乗せてやった)
      (子守唄を小さく歌う)

      ……悪い夢、見て無いといいけどね。ごめんね、ろくに傷も治してやれなくて。
      ほんと、見かけによらず不器用というか、直情的というか。なんだ、何て言えばいいんだろな、馬鹿……はちょっと酷い気がするね。
      (くすくす笑いながら頬をなでて、独り言)
      -- キリル
      • (黒金の髪はいまや長い長い、絹のような金の髪になっていた)
        (あれほどまでに弱り切っていた身体は、鋼鉄などどこにあったかのように白い肌の生身であり)
        (血色の良い瞼がぴくりと動き、呻きながら眼を開く。対照的な青い色。しかし、あの男とは違う、激情を含む青だった)
        ……キリルか。迷惑をかけた。
        (ふう、と深く息をつき、一言)ブレイズたちにも詫びなきゃならないな。色々と、迷惑をかけすぎた。
        -- アルヴィン
      • (ドキン)(名前を呼ばれて胸が締め付けられた。「キャスター」と呼ばれていた時もそうだったけど、それ以上だ)
        (月明かりの下で金髪が光るようだからだろうか、それとも瞳が青いから?運んだ時抱き上げた体があたたかかったせいだろうか)
        (誰かを思い起こさせる色。似ていると思った。でも、今はそうは思わない。アルヴィンはアルヴィンで…………カテンではない)
        (……そんな風に思う自分が不思議だった。重なるたびにどこかで喜んでいたのに。今は違う事が愛おしい)
        (青いく澄んだ水のような瞳を覗き込んで、柔らかく微笑む。額にかかった金の髪をよけてやりながら)
        ……おはよ。
        すっごい迷惑かけられた。あんたを探すために大量の使い魔をばら撒いたけど、いたる所で戦闘の痕跡が見つかってどんだけ肝を冷やしたか。
        だから言ったじゃないか。大人しくしてろって。まったく……あの二人にはもう一生頭上がんないよ?
        (くどくどと文句を言いながらも微笑みは変わらない)
        ……いいよ、もう。あたしはね。
        その様子じゃ全部覚えてるのかい?っていうかあんた体どうしたの。夢の中で見た昔のあんたみたいだよ。わかる…?
        (手をとって見せて、近づける。キリルの手が一瞬だけノイズが走った。相変わらず姿を保つのが精一杯)
        -- キリル
      • 待て。俺から魔力を返す。
        (瞑目して2秒。有り余るほどの魔力がキリルの身体に流れこんでいく)
        ……ああ、おおよそはな。なにせ、あの鬼は俺だ。どう言い訳しようが、俺の中から生み出された、俺自身に過ぎない。別人格や寄生体ではない。
        だからこそ、あいつが食らってきた感情(もの)も、あいつがさらけ出してきたものも、俺の感情だ。
        俺は羨ましかった。ブレイズや史楼のように、己の意志を己の者として吐き出せる人間が。
        ……だからこそ、そこに追いつきたかった。俺にもまた、俺の意志を、俺のものとして吐き出したい欲求があったからだ。
        強くなりたかった。あの二人や、他のサーヴァント達……そして、過去の仲間たち、俺に身体と心臓を託していった者達のように。
        ……間違いだったな(頭を振った)俺は求めるなんて必要なかった。俺の、俺だけのものは、最初から俺の中にあったんだ。
        ただ、それに従えばよかった。……27年間、遠回りをしてきた気がするよ。
        -- アルヴィン
      • あっ 馬鹿!! そんなことしたらあんたの体………………大丈夫、なのかい?
        (魔力が戻り、体が動かしやすくなるのと同時に大慌て。また喀血でもしたら……とひやっとしたけれど、どうやら大丈夫そうで)
        (大きくため息。まだ安心はできないけれど……。そんなキリルのそばに一匹だけ出ていた赤い猫の使い魔が寄ってきて一声鳴いた)
        (それを片手で撫でながら囁くように話し始める)
        ……こないださ、ほら、キ……じゃなくて、えーっと。そう、あんたが一日宿で寝ていた日。
        あたしが言いかけたことあったろ。記憶が思い出せないって話で途中で途切れちゃったけどさ。
        全て借り物だというけれど……それでも、今あんたがここにいて戦っているのはあんたの…あんた自身の積み重ねで生まれた意思だろって。
        ちゃんと続けて言えてたら、こうはならなかったかね。
        ああ、でもあんた結構…というかかなり頭固いからな。実感を伴わないとこういうのは気づけないよね、自分じゃさ。
        自分のことなのに、自分が一番よくわかってなかったとかよくあるし……いいんじゃない?
        死ぬ間際に気づくよりはずっといい……。
        (励ましているのか、そうでないのかよくわからないけれど、全て本心の言葉)
        (猫にしたみたいに頭を撫でてみる)
        あの鬼は、あたしの願望でもあった気がするよ。何しろあたしが与えた力だからね…。
        そっか、覚えているのなら……(自分が魔力と共に伝えていた気持ち。軽蔑されただろうか。言葉が途切れてしまう)
        -- キリル
      • それでいい、と俺はいうことは出来ん。俺にそこまでの度量はない。
        俺が、俺の淀んだ心の顕現である鬼をこうして受け止め、しかし己とは違うとはっきり決別しているように。
        ……だからこそ、こうして戻れたように。お前もお前自身を受け止めて、その上で戒めるべきだろう。出来なければその時は俺がお前を叱る番だ。
        俺は……本当は、ブレイズ達を笑えないくらいの青臭い人間だ。ずっと目をそらしてきたが、今ならそれがよくわかる。
        誰も死なず、誰も苦しまず、みんなが笑顔でいる世界。あらゆる悪が駆逐され、善のみがなされる場所。そういうものを心から求めている。
        (でなければ、全ての悪に対する復讐など誰が言い出せようか?)無理だと理性でわかっていてもな。
        それを己の意志として言うだけの強さが、根性がなかった。だから迷惑をかけた……(のっそりと起き上がる)だから身体も引きずられていた。
        はっきりとわかるわけではないが、おそらくマリナーノの血はそういうことなのだろう。魂の力に、荒々しいほどの激情を宿し、それを御そうとしたがゆえに短命の烙印を押された。
        姉さんは限りなく正解に近い選択肢を選んでたんだ。俺もそれに習った、結局はそこに落ち着いたのさ。
        ……この体は(令呪をなでた)そのご褒美みたいなものだろう。彼らも、もう役目が終わったと思ってくれたのか。
        あるいは、あの体でいた事自体が鬼の呪いだったのか。……俺の記憶が封じられていたように。
        -- アルヴィン
      • (一瞬だけ目を見開いて、その後少しだけ目を伏せる)
        (……どこか、拒絶されたような気がした。いいや、実際そうなんだろう。求めるだけの酷く利己的なこの気持ちは自分でももてあますものだった)
        (サーヴァントとして以上に求められたいという気持ちは……やっぱり、迷惑なものなのだろうか)
        (しばらくずっと黙って話を聞いていた)
        (彼が自分の求める理想を語る。そんなもの届くはずが無いと子供でも思うような、綺麗なもの)
        (……自分とは大違いだ)
        (どうしてだろう、前をむいてくれて、顔を上げてくれて嬉しいのに、まっすぐに理想を語れる彼の手に入れた「強さ」に不安を覚えた)
        (喜ぶべきなのに、教会の前で出逢った男…サーフ・ジュエルと名前をくれた男を思い出して)
        (彼が懸念したとおりの道をまた一歩進んでしまったのではと、急に怖くなる)
        (……遠ざかったのかもしれないけれど。触れていた手を引く。起き上がった彼の横顔を見た)
        (今までとは違う、力強さを感じる。サーフと同じ死の匂いのする儚さは消えていた。少しだけほっとする)

        ……なんだか見違えるように変わった。ふふ、それにしてもずいぶん綺麗な願いだね。
        自分の意思を願いを認め、口にする強さか短命の呪いを解く鍵とはなかなかロマンチックじゃないかい。
        きっと、あの体は呪いを解くために必要だったのさ。あんた頑固だから回り道しないと変わらないって思われてたのかもね。

        ……記憶、戻ったの?あの雨の日、思い出しかけた……。
        -- キリル
      • 俺はドリットを救っていたんだ。
        ……話すには複雑な事件だった。簡潔に言えば、魔王はドリットの魂をさらに利用しようとしていたんだ。
        俺はその渦中に立ち向かい……この手で、ヤツを(拳を握りしめる)あの魔王の写身を討ち果たした。
        ……ドリットの魂は、おそらく今は自分の過去生が何だったのかも知らずに転生しているだろう。
        ……俺はその記憶を忘れていた。いや、忘れさせられていたというべきか。(あの記憶の無限再生。そして記憶の封印。いずれもが"鬼"の手引だろう)
        もしかすれば、魔王の呪いであるのかもしれん。だがもうそれらはない。……俺はすべてを思い出した。

        キリル。(青い瞳が見返した)
        お前は言ったな、俺が望むならば己とも戦ってみせると。
        お前は、最後の一線を踏み越えなかったとはいえ、罪を犯した。あの少年を殺そうとしさえした。
        聖杯戦争であるということはお為ごかしにならん。お前は史楼の意志を、俺の意志を踏み躙ろうとしたんだ。
        ……それが俺のためであれ。いや、お前は「俺のため」と言って、ただお前の意志を貫くために俺を利用したと言っていい。
        ……その弱さ。乗り越えられるか。踏み越えてみせると、誓えるか。
        -- アルヴィン
      • (ドリットがマルチナのように転生して生きている。それを聞いて沈んでいた顔がほころぶ)
        よかった……消えてしまうよりはずっといい。生きてくれていれば…そばにいられなくても。
        あんたは真面目だから。看取った者達への自責の念から鬼が生まれて、過去の記憶も喰っちまったのかもしれないね。
        その魔王ってやつのせいかもしれないけれど……。
        (では、もうあの恐ろしい夢は見ないですむのか。赤い涙を流さないで眠れる日がきたのか)
        (心の底からほっとした)
        (同時にほんの少しだけ……夢から覚めた彼を抱きしめることはもう必要ないことを残念に思った)
        (……ほんの少しだけじゃない。とても、だ。自分が必要なくなってしまう、触れる理由がなくなってしまう……)

        (明るくなっていた表情がまた曇りそうになったとき、名前を呼ばれた)
        (びくっと震えて、青い瞳から目をそらせなくなる)

        ……知っていたのか。
        史楼にも…あんたにも、悪い事をしたと思ってるよ。
        (瞳をそらせないから、閉じた。そのまま俯く。ぎゅうっとドレスを握って)
        戦う……。
        (返事をしようとしたけれど、そこから先が出てこない)

        (だって)
        (怖いのは変わらない。この人が壊れてしまうかもしれないのが怖い。今だって不安で仕方ない)

        (涙が滲んできた。俯いた顔からぽたぽたと雫が床に落ちる)
        (緊張の糸が切れる。ほっとして、なんかじゃない)
        (引きちぎられたんだ)

        ……どうして……今そんな事をいうの。
        ずっと、あんたの事探してて やっと見つけたのに。
        一人で心細くて、あんたが見つからなくて、また暴走していたら、誰かに殺されてしまうことになったらどうしようって…

        ずっと……心配で、怖かったのに。独りで…必死だったのに…っ。

        なんで、抱きしめもしないのにそんなことは言うんだよ!!!!!!!!!
        -- キリル
      • だったら!!
        (叫んだ。臆すること無く、そらすこともなく目を見て)
        そう言えばいいだろう。ただ一言、伝えればいいだろう。
        私を求めろだとか、俺の苦しみを救うだとか、大丈夫かだなんてもんじゃない。
        俺に知らせず誰かを殺そうとするのでも、俺の意志を見ないふりしてまで俺を苦しみから解き放とうとするのでもない!
        俺の名前を呼んで、涙を流して、「助けて」と言ってくれれば、いいだろうッ!!

        キリル。俺はどうしようもない男だ、今までだって自分の意志1つ、自分自身を礎に吐き出すことができなかった。
        俺はお前達に救われた。迷惑をかけた。お前を殺しかけるところまでいったんだ。
        それでもお前は俺を選んだのだろう。選んでくれたんだろう。……だったら、言ってくれ。
        どうしようもない俺が、お前を、お前達を救って、支えられるようにするにはどうすればいいか。
        お前の意志を、俺に伝えてくれ。……そうしなけりゃ、俺はお前を抱きしめることさえできやしないんだ。
        (それだけ己の意志によって暴れ回り、心を荒ませ、痩せ細らせてしまったからこそ)
        (自分が、その哀しみを、痛みを癒していいのか。それさえもわからない。己の意志によって立つからこそ、今のアルヴィンは……上手い生き方など出来ない、不器用な男なのだ)
        俺は、お前を受け止めてもいいのか。……お前の涙を、お前を殺しかけたこの指で拭っても、いいんだな。
        -- アルヴィン
      • (立ち上がり、一歩後ずさった)
        (自分の口を押さえるようにして。喉まででかかった声を無理矢理飲み込んで……ゆっくりと首を振った)

        (助けて欲しい。ただ、愛して欲しい。永遠に続く孤独なんて怖い。そばにいて。あんたと一緒に生きたい)
        (今にも叫びそうだった。だけど……)
        (あたしだけ、幸せになんてなれない)
        (グリゴリをひとでなくした。あたしが手をとらなかったから手の届かないところへ行ってしまった)
        (その想いがここまで来たというのに足を止めさせる)

        (あれだけアルヴィンを求めていたのに、声が出ない)
        (幸せになりたい。貴方の幸せになりたい。そう思っているのに、伝えたいのに)
        (……気持ちはもう伝わっているのに、直接声に出して求める事ができない。どうしても)

        (縋るような瞳から、透明な涙がとめどなく流れ落ちる)

        ……伝わって、いるんだろ。あの時あたしの魔力と一緒に、全て伝わったはずだ。
             (愛してくれるなら何でもいいんだ。あんたが救われなくったって、人じゃなくなってしまったって)
        わかっているのなら、聞かないで。
             (またあたしに笑ってよ。抱きしめて、キスもしてよ)
             (狂ったっていい、あんたに喰われたっていい。望むのならなんだってくれてやる)
        あたしは…サーヴァントでい続ける。
        グリゴリをひとでなくした。あたしが手をとらなかったから手の届かないところへ行ってしまった。
        その彼をいつか、人に戻してくれると約束した人がいるんだ。
        だから、あたしは、待っていなきゃ。サーヴァントでい続けて、未来にいかなくては。
        だから……言えないんだ。
             (あたしを、愛して欲しい。幸せにして欲しいなんて)
        言えないの。



        だから……聞かないで、そうして。

        (もう一歩下がった。でもそれ以上は離れない。離れられない。気持ちからは逃げられない)
        (だからとても卑怯な手を使った)
        (意思は、言葉では伝えられない。でも、もう伝わっているのだから……アルヴィンから、アルヴィンの意思でそうしてほしいと)
        -- キリル
      • (自分はこの女性から、多くのものを与えられたのだと気づいた)
        (命を。救いを。前を向く意志を。与えられ、こうして救われ、そして己はそれを癒やすことも出来ない)
        (声を思う。あの、耳ではなく、心に直接流れこんできた声を)
        (今こうして目の前にいて、口を開くキリルの言葉よりもずっと心を打った声を)
        (自分にそうしていい資格があるのか、迷いがある)
        (そこを踏み出すのが怖いのだと、女はいう)
        (……ならば)

        (一歩を踏み出した)
        (もう壊してしまわないかを不安に思う必要はない)
        (その華奢に思える身体を、しっかりと両手で握りしめ)

        ……すまなかった。

        (発した言葉は、あの雨の中のものと同じもの。そして、その続きは)
        ……ありがとう、キリル。俺は、お前のお陰で踏み出すことが出来た。
        こうして、誰かに触れることが出来た。……お前達の、誰よりもお前の言葉と、想いで。
        ……不安にさせて、すまなかった……よく、待っててくれた……ありがとう……。
        -- アルヴィン
      • (卑怯者で無いのが自分の誇りだって笑ったことがある)
        (そんなの、真っ赤な嘘。この姿でいることがすでに卑怯者なのだ)
        (待つために逃げられない理由を作って、誰の手にも届かないところへ逃げたんだ)

        (それでも本当の気持ちから逃げる事なんてできない)

        (アルヴィンを失ってしまうかもしれないと思った時、全てをさらけだしてしまった)
        (あさましい気持ち。けれど偽り無くただ一人を求める気持ち)

        (もう一度口に出せばいいのに。いざ彼を前にすると、問いかけられると声が出ない。自分の罪を思い出して)
        (前に進むどころか遠ざかってしまって。それでも気持ちは変わりは無いから動けなくなる)

        (そこから自分で進む方法なんて無いんだ。無いからこんな風になってしまった)
        (いいや、あったかもしれないけど選ばなかったんだ。怖くて)

        (進む方法はただ一つ。とても簡単な事。そんなもの知るかって、ただ手を引いて抱きしめるだけ)
        (自分にはそういう人がいなかったというだけ)

        (他の女にはいたんだ。守ってくれて、助けてくれて、手を引いて、抱きしめてくれる人)
        (あたしにはいなかった)
        (これからもいないんだ)

        (自分の過去を思い返して……ああもう、逃げ出してしまおうか。そう思った)

        (……けれど、動けなくなった)
        (抱きしめられたから)

        (少女の姿の時とは違う。あの時はもっと、壊れそうなもののように抱いてくれた)
        (……いまは、苦しいくらい)

        (……ああ、ちがう。苦しいのは……あたしが泣いているからか)

        (あの時の雨みたいに、涙が降る)

        (抱き返すことはできない)
        (でも、はねのけもしない)
        (卑怯者)

        ……謝らなくていいよ。あの時も今も、ただのあたしのわがままじゃないか……。
        あんたに縋る事しか考えられない子供。選択肢があんたしかなかったから、選んだだけの子供。

        でも……今はそこだけはあの時と違うんだ。

        アルヴィン、あたしはあんたが好きで選んだの。

        あたしにはあんたしかいないんだ……だから、いなくならないで……。
        好きにならなくていいから、助けなくていいから。
        あんたが目的を果たすまではそばにおいて……それで十分だから…。

        少しだけ、優しくして。

        (泣きじゃくりながら。雨の中の少女と同じ事を繰り返した)
        -- キリル
      • (己は危うい均衡を脱した。鬼がいなくなったとは言わない。だがその心はもはや確固たるものである)
        (そして今、己の腕の中に、己以上に危うい均衡にある女がいる)
        (守りたいと思った)
        (救いたいと思った)
        ……ああ。
        (そのために必要なのは、きっと少しの優しさと……その優しさよりも強く、己を保つべき意志なのだろう)
        -- アルヴィン
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 迷い猫
    • ブレイズとライダーの下へ一匹の赤い子猫が迷い込んできた。

      二人に何故かとても懐いている様子の猫は、二人の前に座ると突然聞き覚えのある少女の声で話し始める。

      「マスターの様子がおかしいのです力を貸してもらえないでしょうか。スラムの外れの教会で待っています」

      首輪についていた水晶が声のするたびに点滅している。同じ文面をゆっくりと二度繰り返すと砂の様に水晶だけ崩れた。
      スラムの外れの教会。それはブレイズとアルヴィンが初めて出逢った場所。不自然に茨に覆われた教会。
      子猫は二人を案内するように歩いていく………。

      • 悪かったね。急に呼び出して。応じてくれて感謝するよ。
        ……久しぶり。その服、ずいぶんかわいいのになってるじゃないか。似合うよ。
        (教会の前にはライダーの見慣れた少女ではなく、初めて出逢った日にキャスターが姿を変えた女性の姿だった)
        (白いドレス姿の女は、かけてきた赤い猫を抱き上げ、教会の前で二人を迎える)
        (ライダーに笑顔を向けて仲のいい友達のように話すと、ブレイズとライダーを交互に見つめ)

        時間があまりなさそうだから。かいつまんで説明するよ。
        ……アルヴィンが帰ってこない。
        あたしを置いて出かけることはよくあるんだけど、何日もというのはずっとなかった。
        これだけならあたしが探すだけでいいんだけど……おかしいことはもうひとつあってね。
        あたしの魔力をアルヴィンが奪い続けてる。それこそもうしばらくしたら姿を保っていられなくなるほどに。
        初めて出逢った時の戦いで、アルヴィンが鬼のような姿になっただろう?
        ……あいつが鬼になって戦っている時の感覚が、この「魔力をアルヴィンが奪い続けてる」感じなんだ。
        つい最近その姿でも制御可能で戦えるようになったんだが、ちょいと大怪我しちまってね。
        それ以来不安定で……どこかで戦っているのかもと思ったんだけど、それらしい騒ぎは無いし。

        こんなこと頼める間柄じゃないってわかっているんだけど。
        正気を失ったままのサーヴァントがこの町に放たれた状態かもしれない今、なりふりかまってられなくてね。
        手をかしてもらえないだろうか。アルヴィンを探したい。自我喪失状態なら止めるのを手伝って欲しい。

        ……何か条件があったら、あいつを捕まえた後でいいならのむ。頼む。

        (そう言って、純白のドレスの女は頭を下げた)
        (顔を上げると、ちらりとライダーを見て)
        ……あたしのこの姿の事、マスター見つかった後で説明させてくださいね。
        (この女の見た目には合わない口調……彼女の横でよく笑っていた少女の声で呟く)
        -- キャスター
      • (正直、キャスターがあの時の姿になっているのには驚いたし、理由も気になった。けれど何より、彼女から告げられたことの方がもっと衝撃的で)
        (彼女の真剣な瞳と言葉に、マスターの判断も待たずに頷いた)
        ―分かった。出来る限りのことはするよ。…魔力探知なら私もそれなりに能力はあるし、捜索するための足の速さなら私の方が上だから
        だから…大丈夫。ブレイズが手伝ってくれるんだよ?きっと全部上手く行くからね

        (その姿は大人になっていても、最後の言葉はあの時の少女のままで)
        (だというのなら、気丈な言葉を吐くキャスターの中に、寂しさに、不安に震えるあの子がいるのではないかと思った)
        (だから、安心させるような言葉を紡ぎ―)

        いいよね、ブレイズ。……アルヴィンとあなたの…ううん、私とキャスターの決着がこんな形なんて、私は嫌
        だから…お願い、手伝って -- ライダー
      • (驚くことばかりだった。猫が喋るのはまだいい。だが先日あったはずのキャスターらしきサーヴァントは)
        (大人であるし。そもそもアルヴィン自身が来るなと言っていた教会に呼び出されたり)
        (なぜあのような姿になって暴れているか、とかなぜあぁなっているのかとか……聞きたいことは山積みで)

        もちろんだステイシア。
        キャスター、色々聞きたいことはあるが……まずはアルヴィンを探してからにしよう。
        俺はまだ……ヤツの願いを聞いていない。聞いた上で俺は、俺達は決着をつけなければいけない。
        だからこそ……

        (ライダー、ステイシアの言葉を待たずに己の精神力を集中させて気配を探る)
        (それはアルヴィンがあの鬼の、バーサーカーのような姿であるなら邪気を感じ取れるはず)
        (そう集中して……心と耳と、精神を研ぎ澄ませば……)

        なっ……!
        (わかる。その存在が、あの邪気が。こちらに向かって躍進していることに)
        (それは恐らく、サーヴァントである2人にも感じ取れたはずだ)
        (あのサーヴァントの如き力を持ったアルヴィンがこちらに向かってきていることを!)

        離れろ!ヤツだ!! -- ブレイズ
      • FWWWWWWWW…………

        ("それ"は舌なめずりをしていた。ぞろりと紫色の舌でぬめらかに己の牙を舐め清めていた)
        (無傷ではない、手負いである。はたしてこの数日、奴は衝動に任せどれほどの戦いをしていたというのだろうか?)
        (赤眼がカシャカシャと獲物を捉える。いまや完全に主導権を奪われたこの魂の本来の持ち主、アルヴィン・マリナーノの記憶と感情に従い"それ"は動く)
        (……だが、誤算が。そう、"それ"にとってはあまりにも嬉しい誤算があった)
        GRRR……グフッ、フ、フハハハハァ……
        (いた。女が。これまで、深層意識の奥底に押し込まれたアルヴィンの人格がかろうじて押しとどめ、"それ"が意識を向けないように除外されていた女が)
        (そして"それ"にとって一番の獲物。赤髪の英霊がそこにいた)

        (だんっ、と建造物を跳躍した"それ"。ごうごうと風を切りながら迫る。迫る迫る迫る――――彼方が此方を察知していることなど承知済み。むしろそれこそが面白いと言わんばかりに正面からだ!)

        ハハハハハッ、見ィツケタァアアアア!!
        (アルヴィンのものではない、鬼そのもののごわごわした大音声が叫び渡り、応じるかの如く変幻軌道を描く血の自在槍が十条降り注ぐ。当然、三人全員に向けてだ!)
        --

      • ……ありがとう。
        (少女の姿だったら泣き出してしまっていたかもしれない。気が弱っているせいもある。つんと鼻の奥が痛くて、涙が出そうで俯いた)
        (ずっと心細かったんだと、今更気づく。今はもう自分より小さくなってしまった少女がとても頼もしく見えた)
        (……彼女の主も、また)

        マスターはあたしを置いていく事が増えていたから、気づくのが遅れて…。
        今使い魔も放ってはいるからこれからマスターのいた痕跡のある場所……へ……。
        (言葉が途切れた。使い魔の気配がどんどんと消えていく。こちらに近いものが順番に……)

        アルヴィン…!!!!
        (ブレイズが叫ぶのと同時に、女も叫んだ)
        (はじかれたように見上げた先には主…だったものの姿。恐れていた通りの……!)
        (こちらを見る瞳には温かさなんてもう無い。むしろ)

        獲物を見つけたような目

        (急激に魔力が奪われていくのを感じた。主のものとは思えない声に意識を奪われそうにもなる)
        (たっていられない。降り注ぐ槍も避けられず、とっさに張った結界を貫通して太股を血の槍が地面に縫いとめた)
        ……っ!!!!!!
        (声にならない悲鳴と痛み。自分の主を初めて、恐怖に染まった瞳で見つめる)

        マスター……。
        -- キャスター
      • 虚空裂く幻影の獣―ハウリングファンタズマ―

        (動きを止めたキャスターと対照的に、ライダーの動きは止まることは無かった。即座に宝具を展開し、降り注ぐ槍を獣の咆哮を持って砕、き散らす)
        (だが鬼はそれだけでは止まるまい。奴は見るからにキャスターを見て目の色を変えた。一番の狙いは彼女でしかあり得ない)
        (で、あるのならば―)

        逃げるよっ!!走って!!
        (立ちすくむキャスターの意志を確認するより早く、彼女の手を取り強引に走り出す)
        ブレイズ、逃げようっ!!体制を立て直さなきゃ!
        (振り向かないままにマスターへと叫ぶ。しかし彼女は知らない。己のマスターと、この鬼と化した男の因縁を)
        (そして彼らが会いまみえた時、逃げるなどという選択肢は存在しないということを―) -- ライダー
      • ……いいや、ここでヤツを止める!キャスターを頼む
        (闘争心に炎が燈る。炎のマフラーが燃え盛り、風に靡き……巨大な鳥類の翼となって現出)
        (それが地のまま羽ばたき……降り注ぐ血の十字槍を弾き、燃やし、枯らし砕いていく)
        (キャスターの衰弱からもすれば時間はない……それに)

        宝具の打ち合い、英霊同士の戦闘ではこの教会にまで被害がでる!
        今ここで俺が止めなければ……全てが終わってしまう!

        (あの時アルヴィンは言った。この教会だけは決して、破壊しないでほしいと)
        (その約束を守るために……その約束をした、アルヴィン自身の手で破壊させないために)
        (ブレイズの焔の翼は……燃え盛り)

        かかって来い!
        (即時展開した弓に矢を番えて、天高く駆けあがる!ヤツの正気を取り戻すためには……あの邪気を削ぐ必要がある)
        (叩きつけるよりも、射抜き、貫き、削ぐ……)
        (加えて教会を守りながら戦わなければいけないため距離を取る必要も、即時移動できる素早さも必要……)
        (厳しい戦いになるのは明らかだったが、やるしかないのだ) -- ブレイズ
      • (血の自在槍が砕けてガラス片のように飛び散り、じゅうじゅうと音を立て地面から煙を上げる)
        (大地を揺らさんばかりに、いまやその邪気によって2m強まで膨れ上がった鬼が着地。土埃を巻き上げながら、赤い四眼がキャスターを追おうとし……)

        …………。
        (その勇ましき声に、振り向いた)
        (英霊に非ず、されど闘志は軒昂。敵が、炎の男がそこにいる。その瞬間、鬼の内部に荒れ狂う激情の嵐は矛先を変えた)
        ……Blaze……
        (守っている。己のサーヴァントを。いずれ相争う敵のサーヴァントを。そして、己が……否、違う、アルヴィンが壊さずを申し込んだ建物を)
        (自分はこれほどまでにも悪意に渦巻いているのに。怒りと、羨望と、妬みと、いらだちと、絶望感と、無力感に苛まれているというのに)
        (何故だ。何故お前は戦える。何故、何故、何故何故何故何故何故!!)
        (その瞬間、奥底に押し込まれたアルヴィンの意識体と、鬼の行動は一致した)

        ブレェエエエエエエイイイイイズッッッ!!
        (怒りだ。度し難いほどの怒りが巨体からあふれる。おぞましい咆哮をあげ、己の戦意を誇示する)
        貴様ノ力ガ妬マシイ!! 殺シテヤル、引キ裂イテヤルッ!!
        (ズダンッ!! と岩盤を叩き割るほどの猛突撃!)
        グゥルアアアアAAAAARRRRRRRGGGGGHHHHHH!!(振り下ろした爪を辛くも回避したブレイズが天上に上り、それをぎらりと四眼で睨み上げ跳躍)
        (教会への影響も厭わずにその壁を三角跳びして追いかけ、自らも血の翼をぞわぞわと蠢かせ空中戦を仕掛ける。妄執である)
        --
      • 悲しい奴だよ……お前は
        (同情でもない、共感でもない。侮り……嘲りでもない)
        (邪鬼の、暴れる姿は嫉妬。妬み、殺意、羨望……それとも、後悔か癇癪)
        (だからこそ、思う)

        鬼の姿にならなければ、自分を殺した先にしか心を晒せないなんて!
        (最初あったとき思った。どうしてこんな悲しい目をして。己を殺して、縛り付けているのか)
        (己の体を、命を削ってまで戦って。それでもどこかを守ろうとしている。何かを守ろうとしてる)
        (しかし、その果ての……力に縋った先が今ここにいる)
        (力におぼれ、感情をむき出しに暴れる。飲み込めなかった弱さと悲しみに……)
        (いや、自分の力にできなかった自分の弱さに心が押しつぶされていた)

        そうして力におぼれて!暴れて!自分を……自分を見てくれる人さえ傷つけて!
        おまえは卑怯者だ!
        そんな姿でしか自分の心とも他の人とも向き合うことができない!理解してもらおうとも思わない!
        向き合おうともしない!
        そのくせ話そうともしない!助けてほしいと!自分と他の人の間に距離を置いて……それでいいと勝手に思い込んで自分も他の人も守っているつもりで!

        いい加減に目を覚ませ!
        (叱責。叱責と共に矢が同時に4本飛び、鬼の四肢目掛けて放たれる!)
        (そして空中戦で羽ばたきから散る火の粉でさえも燃え盛り、炎の矢となって鬼向けて降り注ぐ)
        (矢の狙いは空中戦であっても正確に邪鬼へ向けられ、炎の矢雨の狙いは血の翼を蒸発させんと降り注ぐ!) -- ブレイズ
      • GRRRRRッ!!(放たれたそれらは血によって陰ることなく、むしろ自在槍を砕いて四肢に突き刺さる)
        (苦悶に呻くこともなく、ただ怒りに叫ぶ。奮える。これほどまでに強く、おおらかに、雄々しく燃え上がる炎)
        何故ダ……
        (何故だ。どうして、自分にはそれがない。どうして俺はああじゃない。なんでだ、どうして!)
        (強すぎる怒りと焦燥に、四眼がバチバチと明滅を繰り返し、赤と青が入り乱れる)
        (青はアルヴィンの意識の浮上を示す色。しかしガチガチと牙を鳴らすうち、再び四眼は禍々しい赤へと変じた)
        力ガ欲シイ……ブレイズ、貴様ヲモ殺セル力ヲ!!
        (爪をのばそうとする。届かずに、更に降り注ぐ炎の雨に、地面に縫いとめられ墜落した)
        (だが。土煙の奥、ぼう、と鬼火のように赤い目が浮かび上がる)
        そうだよなあ……ハハハ、力が欲しいんだよなあ。ならやるよ、もっとだ、もっともっとな、ヘヒヒヒヒ……
        (まるで、鬼自身が誰かに語りかけるかのように言った。今やアルヴィンの精神は、己でありながら己でない"鬼"に乗っ取られている状態なのだ)
        妬ましいってよお、羨ましいってよお、こいつが叫ぶんだよ。ブチのめしてやりてえ、力が欲しいってな! 復讐がしたいってよ!
        だから全員まっ平らだ。おい、ブレイズ。お前だってそうだろう? 聖杯を砕きてえのに、そのために戦うんだもんなあ? 矛盾だよなあぁあ?

        (あの時の哄笑のように、嗤笑しながら鬼が教会に向かい……壁の一部を、飴細工のようにひっぺがした)
        GRRRRRッ!!(2m以上はあろうかというその瓦礫をブレイズめがけ放り投げ、その影に隠れるようにして己も跳躍。死角から迫る血の銃弾!)
        --
      • 復讐か。奪われたものを、取り戻せないもののために奪うかおまえは
        (暴れている鬼。仕組みはわからない。だが……その嘲り、殺意を源にする嘲り笑いは邪気そのもの)
        (完全に飲まれているが故に、融合しつつあるが故にか。それは浅ましく、ただ醜く……)
        矛盾でもなんでもない。俺は命を奪わない。未来を奪わない。本当に幸せで……心から笑顔になるために
        みんなの笑顔の為に、俺は戦う。おれはそれを奪うこの戦いと戦い……そして、それを奪うお前自身とも戦う!
        俺が戦うのは貴様らだ!
        (墜落した邪気に向けるように、そしてその奥にいるアルヴィンに叩きつけるように言い放つ)
        (自分自身の未来さえも投げ打つお前に、何が成し遂げられるというのかと……)
        (そして……巨大な瓦礫と、血の銃弾を真っ向から受け止める形でそれらは刺さった)
        (鬼の力で放り投げた瓦礫も、鬼の力で産み出した血の銃弾も……)

        アルヴィン、力が欲しいと言ったな。
        力を望んだな……戦う力を。俺をも倒せる力を、と。
        (しかし、それらが炸裂しただろう場所にはブレイズはいない。だがブレイズの声は響く)
        (なぜならそこには……教会を囲むように、4人のブレイズがいたからだ。同じく炎の翼を輝かせて)
        (そう。炎と同化し、炎となり、それらを避けて、分裂し……また燃え上がり)
        (今、自身がその戦いのために複数の体を生み出し現出しているのだ)
        (そこに弓はない。炎が溢れ、炎がただ力となって虚空に靡いていく……)

        だがお前に俺は倒せない。
        人でありながらサーヴァントと戦えると慢心から出ている……そう思うか?

        違う

        お前が今、一人だからだ
        サーヴァントから……キャスターからサーヴァントとなる力を与えられていようと!
        キャスターと心を共にせず!自らの鬼に力を求め!一人力に縋り、力が欲しいと泣きわめくお前に!

        俺が負ける道理はない!
        俺は今ここに一人でも……ステイシアと共に戦っているからだ!!!
        (今ならそうだと言える、そう感じられると……4人のブレイズは螺旋を描くように飛び……)
        (四方へ散開した後、その四方から一斉に飛び蹴りを放つ!焔の螺旋となって!)

        砕けろ!!邪鬼!!
        目を覚ませ!!アルヴィン!! -- ブレイズ
      • ARRRRRRRRGGGGGGHHHHHッッ!!
        (予想だにしない四方同時攻撃を受け、飛び退ることもできぬままに鬼は威力を内包する)
        (竜巻のように荒れ狂う血の海を砕き、穿き、ブレイズ……いや、"達"の蹴撃が、鋼鉄の肉体を打った!)
        お為ごかしばかりよお、グフ、ハハハ、吐きやがるよなあ、お前はッ!!
        (手負いの身体を砕かれ、かろうじて最大のインパクトを垂直跳躍により逃れた鬼が、ボロボロの風体で笑う)
        お前がそうやって綺麗事を言うたび、この男が出来なかったことを成し遂げる度に、こいつは呻くんだよ。苦しむんだよ!
        悔しい、羨ましいってな。ハハハハ! 哀れなもんだろ? それを俺が喰らってやるてんだ、力をくれてやるっつってんだよ。
        てめえがどれだけ正義を喚こうが、負の感情が齎す力には……。……。

        (教会の壁に爪を突き刺し、屹立していた鬼の語気が緩んだ)何?
        (直後である。またしてもその4つの目が赤と青の明滅に揺らぎ、鬼は自らの内側から溢れる何かに苦しみ呻いた!)
        AAR……GG……BLAZE……ブレェエエエエイズッ!!
        (雄叫び。だがそれは鬼の嘲るようなものではない。まるでアルヴィン自身が、情動の赴くままに放っているかのような)
        力ガ無ケレバッ!! 貴様ノ言葉モ何モカモ虚言ニ過ギナイモノデアロウガッ!!
        貴様ニッ、俺ノ何ガワカルッ!! ブレェエエイズッ!!

        (血の槍による小細工も何もない、弾丸のようにまっすぐブレイズに突進しての強烈な殴打の嵐)
        (それは鬼が振るう暴力に比べれば真っ直ぐすぎるほどに直線的で、それゆえに速く、強力であった)
        -- アルヴィン、あるいは鬼
      • (そしてそれらの焔は、鋼鉄を打ち、熱を伝え、再び散会し一つになる)
        (存在の分裂。時間をかけられないが……それでも、叩き、伝えなければならない)
        (冷えた鋼鉄に、熱を伝えるために)

        そうして想いを正義と、馬鹿にして!手が届かないと諦めて……
        正しくあろうとする、心を諦めて!見限って!唾を吐いて!
        (苦しみもがく鬼、呻く己の口から呪詛を吐くアルヴィンを見据えて言葉を叩きつける)
        (もはや自分の焔の力で打つ必要はない。いや……打つことに意味はない)

        力が無くても、俺は変わらない!俺は力に縋ったりしない!
        苦しんでも、辛くても、俺は自分を封じたりしない!縛ったりしない!
        何も理解できないだろうと……耳をふさいて、目を塞いで!諦めたりはしない!
        救える人を見捨てない!救えないかも……いや、救えなくても
        この両の手……いや、俺の心がある限り!俺の手で……

        いや、俺と心繋がった人との手で!
        (そして、左手を……令呪が2画の刻まれた手を迫りくる鬼……アルヴィンに向ける)
        (鬼でも、サーヴァントでもないアルヴィンに向けて)

        ステイシアァァァァァァァァァ!!!!!
        (令呪を輝かせ、その力を以って……自らのパートナーを瞬時に呼び出す!)
        (その叫び、サーヴァントを呼ぶためのものではない。自らと志を共にして、思い描く未来のために戦うと決めた…)
        (仲間を。今ここに、呼び出し共に戦い……目の前の男に救う鬼を砕き、男を救うために)
        (ただ一撃をアルヴィンの攻撃ごと打ち砕き、その意志を……二人の意志を叩きつけるために!) -- ブレイズ
      • (男が発した叫び。それに呼応して男の手に輝く礼呪の一角。そして―)

        GARRRRRRRRRRRRRRRRHHHHHHHHHWWWWW!!!!!!!

        (次の瞬間、ブレイズの足元から金色の毛並を持つ獣が具現化する)
        (そしてその背には少女が一人。それはサーヴァント。主と共に歩み、主の願いの為に力を振るう者)
        (サーヴァントの力は己の欲望の為にのみ振るわれるものではない。全ては、主のために―)

        (本来獣の現出に必要であるはずの宝具の展開を全て無視し、伝承の獣は現れた。令呪の使用による爆発的な魔力のブースターを糧として)
        (ただ、主の呼び声に答えるために)
        (ただ、目の前の敵を打ち砕くために)
        (ただ、目の前の相手を救うために)

        ―行こう、ブレイズ。助けよう。あの時ブレイズが私に手を差し伸べてくれたみたいに。光は、此処にあるんだって。見せてあげるんだ!

        (金色の獣の背でステイシアがブレイズに語りかける) -- ライダー
      • アア……。
        (血涙が。赤く明滅する4つの目から、濁濁と血涙が溢れでた)
        (それは己を殺し続けた男の涙。それは人を救い続けた男の涙。それは人を守り続けた鬼の涙)
        (アルヴィンの、そしてアルヴィンに想いを託し、心と身体を与えた男達の涙)
        (力がなくとも人は強いと。ふれあい、支え合えば強くなれるのだと)
        (彼らは言う。己に示す。その輝きは、なんと尊くて……そこにはきっと、救いがある)
        (悪鬼と呼ぶべき"それ"は、紛れも無く己だ。己の内から現れ、己を喰らい、己とともに育ってきた)
        (ならば。それを砕かれ、ここで斃れることこそが救済なのだろう。もう、痛みにも、苦しみにも、悩まず、責められることもないのだ)

        (けれど)

        (本当にそれでいいのかと。借り物の力、借り物の言葉、借り物の目的で戦ってきた己だが、終わりが本当にそれでいいのかと。彼は自問した)
        己の意志はどこにある? 俺は何を為したいのだ。何を成したいと思うのだ。何を。ここで光に包まれ、救われればそれでいいとでも?)

        ……違ウ。
        (違う。守りたいと思うものがある、救いたいと思う人がいる)
        (戦いのなかで戦いを否定するブレイズの強さを思う)
        (それに付き従い、自らもまた救うために戦おうとするライダーを思う)
        (目的のため、己の命をも厭わないラセンの強さを思う)
        (少年の飽くなき願いを叶えるため、あくまで高潔にあり続けるセイバーを思う)
        (若き優しさで理想を追い求め、苦み走りながらもそれを隠さない史楼のいたいけさを思う)
        (彼の隣で朗らかに笑い、けれども芯の強さを失わぬあのセイバーを思う)
        (己の命を勝ち得るため、貪欲でありながら己自身を失うまいとするアラタの誇りを思う)
        (我欲のためであれど、あくまでも明るく笑い、このエゴの闘争の中でそれを貫けるセアラの心を思う)
        (一人では何も足らぬ彼女を守るため、深き絶望と慈悲を同居させる老いた彼を思う)
        (己の国の子どもたちを守るため、誰が相手でも話しあおうとするニーナの優しさを思う)
        (何度砕け折れようと立ち上がり、理由なき心のために己を厭わぬ、硝子のセイバーの強さを思う)
        (少年を見守り、彼を守るためにその生命さえも擲ったマユルの慈愛を思う)
        (一度は心折れながら、自分と異なる選択肢を取って歩き出した、少年アドニスの未来を思う)
        (夢の中、打ち倒すからこそその意味を知りたいと、静かに語ったメルセフォーネの姿を思う)
        (狂い、矛盾しながらもなお、ただ一人のマスターを戦うため己を善だと叫んだバーサーカーの正義を思う)

        (赤い髪の少女を思う)
        (赤い髪の少女を想う)
        (赤い髪の女を、想う。想っていた)
        (過去を思う。仲間たちを思う。自らが殺した、自らに賭した者達が殺した者たちを思う)

        (己の願いを。意志を思った)
        (誰の借り物でもないその意志は。「ここで倒れたくない」と叫んでいた)
        (彼女たちを守りたいと、叫んでいた)
        (棒立ちのまま、ただ。思う。思い続ける)
        (だが救えないと。力がなければ救えないと鬼は言う)
        (違う。救えるのだ。いや、救ったのだ。……そうだ。救えたのだ。救ったのだ!!)
        (己を思う。己の意志を思う。アルヴィン・マリナーノという男の、その魂が求めるものを、思う! 迫り来る光を前にして、避ける事もなく!)
        -- アルヴィン、あるいは鬼
      • あぁ!アルヴィンを救うんだ……本当の、本当にアイツとキャスターのために!
        (その体は再び炎となって、金色の獣の翼となり、またその力をなり……光となって)
        (鬼の力、サーヴァントであり、力に飲み込まれていたアルヴィンに突き進み)
        (光の中……アルヴィンの心に触れる)

        (そして、感じる。苦しみが、悩みが、自責から逃れることが救済なのかと)
        (死、消失こそが救いなのかと。光によって消え去るのが……救済で、救いなのかと)
        (鬼に飲まれて力におぼれた男の末路として正しいのだろうと)

        違う!
        そうだろう?お前はできるんだ!
        消えて自分だけ救われるとかじゃない。力におぼれて、屈して、諦めて、妬んで、膝をついて目を逸らすんじゃない……
        できるじゃないか!誰かを救うことが!お前の手で!
        救えたんだろう、救ったんだろう!いつまでも情けないことやってるな!
        膝を屈してる場合じゃないだろう!目を逸らしてる場合じゃないだろう!
        自分の足で立って……向き合え!!!

        自分の意志で! -- ブレイズ
      • (その身体は炎を纏い、光を纏い、一筋の軌跡を残して鬼へと突き進む)
        (力と破壊の権化と化していた鬼の外殻を破り、心を閉ざし、律していたアルヴィンの術式を破り、触れる)
        (視界に焼き付かんばかりの眩い光の奔流の中、アルヴィンの想いが、ブレイズの想いが直接届く)

        ―私は、貴方がどんな想いでこの戦争に臨んでるのかは知らない
        私は、貴方が過去に何を経験し、何を想ったのかは知らないよ
        けど、けどね
        これだけは分かるの!貴方を求めている人が居る!貴方の傍に居たいと願う人がいる!
        救いを求め、貴方に手を伸ばす人が居るの!
        それを…っ、それを無視してっ……そんなの、そんなの認めないッッ!!!

        貴方じゃなきゃ出来ないことを!貴方じゃなきゃいけないことを!貴方が成すべきことを思い出してよ!
        既に終わってしまった私と貴方は違う!貴方はまだ―
        何かを成すことが出来る筈なんだからぁッ!!!

        (叫ぶ。ブレイズの言葉と重なり合うように、己の想いを。赤髪のキャスターの想いを乗せて叫ぶ)
        (そうだ。彼はまだ生きている。既に舞台を降りた自分とは違う)
        (ただ先を見たいと思うだけの亡霊ではない)
        (未だ舞台の上に立ち、スポットライトを浴び続ける「命」なのだ)
        (彼の役割はまだ、終わっていない筈―) -- ライダー
      • オオオオオ……
        (そうだ。そうだ! ブレイズの、ライダーの、そしてキャスターの、キリルの言葉が、声が、響く。届く)
        (俺がやるべきことは、いや、俺のやりたいことは、こんなことではない
        (たとえこの体も、この心臓も、この魔術も、何もかもが借り物だというのなら)
        (己の意志で振るえば、それは全て己のものだ。己の力だ)
        オオオオオオ……!!
        (俺が望むこと、それは……)

        コンナトコロデ、救ワレテ終ワリナド……
        終ワリナド……認めるかァッ!!

        ブレイズッ!! 俺の望むことは……!!
        (キャスターのマスター、アルヴィン・マリナーノが望むことは!)
        (そう、ただ一度。この聖杯戦争で、アルヴィンは心の赴くままに「それ」をした)
        (その時。激情に任せ、灼熱の瞳を持つ男に対してしたこと)
        (魔術でもなく、借り物の力でもなく、行ったそれが心の中にずっと残っていた)
        (それこそが己の意志だったのだ。それこそが)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028490.png

        オオオオオオオオオアアアアアアアッッッ!!

        (あの時、リジェンに対してやってみたこと、すなわち)
        (己の思いのままに、その全力を込めて相手をブン殴ることである!!)
        (アルヴィンの身体にある全ての魔力が、活力が、ただその拳に集まり……迫り来る光に向けて、何の後悔も、憂いも、葛藤も無く叩きつけられた!!)
        -- アルヴィン
      • (純粋な意志。それがどういうものであれ、アルヴィン自身の意志)
        (力強い。如何なる力を纏っているか……それすら問題ないと言わんばかりの溢れる意志で)
        (それで、立ち向かってきている。ぶつかって来ている)
        (倒れるわけにはいかないと、己の意志で力を振るう……男)
        (一人の戦士として、戦う者としてそれは強い。今まで見てきた、遭ってきたアルヴィンの中で一番強い)

        (だが、それを受けても尚……炎と光はひしゃげない。潰れない。砕けない。)
        (この男の意志は一層強いもの。だが足りない。今……ブレイズとステイシアを打ち倒すには足りない!足りな過ぎる!)
        (なぜなら……今ここで戦う、アルヴィンが向かい合うのは二人。二人で一人の……戦士)
        (そして意志は一つ、力は二つ以上!想いは……三つ!)
        (たった一人で立ち向かうという意志を……いや、エゴを打ち砕く!)

        自分で救え!
        お前自身も!キャスターも!お前が救いたいと願うものを!
        その意志で、力で! -- ブレイズ
      • 貴様に言われるまでも、ないッ!!
        この力は俺のものだ!! 俺の意志のもとで振るわれるものであれば、誰のものであろうが、どんなものだろうが、俺のものだ!!
        この力をくれたキャスターも、それを願ったマルチナも、俺を望んだキリルも!! 俺が背負ってやるッ!!
        (ギリギリと砕かれ裂かれ鋼鉄の肉体が爆ぜながらも、男の眼は死なない)
        誰のためでもない、俺自身のために。俺の意志で! 背負う! 救うッ、突きィ進むァッ!!
        (足りなかろうが知った事か。キャスターの、キリルの、マルチナの意志はここにある。その力はこの拳に宿っている!)
        (大事なのは打ち砕けるかどうかではない。己の意志で、答えで、この男と、ブレイズという己の真反対にいる炎に、己の命という水を打ち付ける、ただそれだけだ!)
        これが、俺達の力だァアアアッ!!
        (完全に鋼鉄の肉体が砕け、血が爆ぜ、全ての魔力が左拳に乗せられ叩きこまれ)

        (強烈な衝突の音と衝撃のあと、全てを繰り出した男はそのまま大の字に倒れた)
        (いかなる御業か。その身は鋼鉄でも、妖異の血を宿すものでもなく)
        (男の、男自身の生身。澄み渡った空のような青い瞳を煌かせ、そして男は瞼を閉じた)
        -- アルヴィン

      • (炎と光の向こう、アルヴィンが倒れた。鬼ではなく……アルヴィンが)
        (考える前に駆け出していた。残り火も消える前に、その中に飛び込むように)

        アルヴィン…!!!

        (声が届いた。名前を呼んでくれた。心配で胸がつぶれそうなのに、今なら死んでもいいと思うほどに嬉しくて)
        (倒れた彼の前で膝をつくと、その重い体を必死に抱き起こした。体が消えかかっているというのに全力で)
        (死んではいない。それを確かめると、抱きしめて声を上げて泣いた)
        馬鹿野郎心配させやがって!!!……あんたがいないとだめなの……独りはもう嫌なの…!!馬鹿……!!!

        (わずかに残った魔力を傷の治癒に当てる。涙を必死にぬぐってブレイズとライダーを振り返った)
        ……あり、がとう……この人を連れ戻してくれて……ありがとう……

        (それ以上は言葉にならない。ぎゅうっと主を抱きしめてまた泣いた)
        (敵だというのに、助けを求めた)
        (その事に全力で応じてくれた)
        (とても幸せだと思った……妹が生まれた日と同じくらいに、幸せな日)
        -- キャスター
      • (男は、決して一人ではなかった。自分たちが二人の想いを束ねて放った拳は、二人の、いや。三人の想いがのった拳によって相殺された)
        (耳をつんざく轟音と、視界を焼く程の閃光がようやく収まった時。男はその場に倒れ伏し、女はそれを抱き起し)
        (少女は其処に膝をついていた)

        ……救う必要なんか、無かったんじゃん。最初からやることなんて分かってたくせに。手間のかかる人だね
        …キャスター、しっかり支えてあげてよね。……言うまでもないか
        (マスターを抱きしめ涙を流す姿を見てふ、と笑みがこぼれる。顔を上げ、傍らの己のマスターを見て)

        …ね、ブレイズ。これでもう、大丈夫なのかな? -- ライダー
      • 大丈夫さ、アイツはもう一人じゃない。
        一人じゃないことを……わかったはずだ。

        (一人じゃないことは、それだけで力になる。それを知っているなら……)
        (少女の傍らにいる男は微笑み、踵を返す)

        行こう。腹が減ったよ。
        次は飯でも奢らせるか……
        (そんな相手ではなかったろうに、今はそう言えるような心で)
        (彼女に男を任せて少女と二人……その場を後にした) -- ブレイズ
    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 廃墟ビル
      • (ライダーとキャスターの二人は、ブレイズを置いて少しはなれた場所の廃墟のビルへとのぼっていた)
        (いざとなればライダーが飛び出せるように、ブレイズと鬼……アルヴィンの戦いがよく見える場所へと)

        (ライダーに手を引かれて、痛む足を引きずるように走る)
        (彼の血でできた槍はすぐに砕けたが太股には破片が残ったまま。それが大量出血を防いでいた)
        (屋上より少し下の小部屋。硝子のなくなった窓から二人を見下ろす)

        ……ごめん、あんたのマスターひとり置いてこさせちまった……。
        いざとなったらあたしほっといていいからさ、ごめん……。
        (荒くなった息を整えながら、手をつないだまま何度も謝る)
        (離れているのに鬼の声はキャスターの声を掻き消してしまいそうなほど響いていた。震える唇をかみ締めて、主達に視線を送る)
        -- キャスター
      • ―大丈夫だよ。ブレイズが、あんな…人を捨てた奴に負けるわけがないんだ
        だから、大丈夫…っ(ぎり、と左手を握り締めながら眼下で繰り広げられる戦闘を見つめる)
        (本当なら今すぐにでも飛び出して行きたい。けれど、けれど何故だろう)
        (人とサーヴァントの戦いなんて正気じゃない。普通に考えればそんなことはしようとも思わないレベルの行いだ)
        (本来戦うのはサーヴァントである自分の役目。なのに、なのに―あの二人の間に、割って入れない)

        ……男の意地、ってやつ…なのかなぁ。私には、わかんないよ…
        (握る拳に力を込めて、眉間に皺を寄せる)

        ……傷つかない、血を流さないのが、こんなに辛いなんて。……貴方は、いつもこんな気持ちだったんだね…
        (傍らに立つキャスターに向き直る) -- ライダー
      • (窓の傍の瓦礫に腰かけ、ライダーを見る。丁度同じくらいの目線になった。少女の姿だった頃と同じ)
        (困ったように首をかしげて笑う)
        ……折角サーヴァントになったっていうのにね。守る力はもてなかった……ああやってマスターが苦しんでいる時も、何もしてやれない。
        ただ、武器を渡す事しかできない。その武器すら自分の意思で取り戻す事もできないなんてね。
        あんたが羨ましいよ。
        あの鬼はあたしでもあるんだろう。嫉妬に狂った鬼。
        ……あんただって女だ。守られたい時だってあるだろうに、戦わなくちゃいけない。だからきっとおあいこなんだろうにね、羨ましくてしょうがない。

        あの、ブレイズってマスター。いい男だね。
        きっと、アルヴィンと同じように鬼になることがあっても、あんたの声だけは届く。そんな気がするよ。
        (自分の声は届かなかった。そう続けようとしてやめる。認めるのが辛い)
        (大きくため息をついた)

        ……ごめんね。この姿に戻る前に会いに行きたかったんだけど…。
        ……何から話そうかな。まずはずっとあんたと話してた子供が何だったのか、からかな。聞いてくれるかい?
        -- キャスター
      • (語らずとも、互いが互いに対して感じている羨みなど等に分かりきったこと)
        (同じ状況にありながら、互いが違うものを望み、互いに焦がれ続ける。何と奇妙な縁もあったものだ)
        (眼下から響く鬼の咆哮と、己がマスターの言葉。眼下の二人もまた、自分たちと同じく互いに感じる所があるのだろう)

        ―うん。私も…気になってる。貴方という存在が一体何なのか
        貴方が持つ宝具の意味。貴方の願い。……聞かせて、キャスター) -- ライダー
      • あたしは、不完全なサーヴァントなんだ。なりそこない、といってもいい。
        サーヴァントに変化する寸前に無理矢理呼び出されてね、その時の障害で現界した時は記憶を持っていなかった。
        そのせいか、あんな姿と性格だったのさ。戦ったり、あんたと話したりしてるうちに少しずつ記憶を取り戻して…姿も本来のものにもどったってわけ。
        あの子だった時の記憶は全部あるから、あの子が消えたわけじゃない……これは、もう似合わなくなっちゃったけどね。
        (そう言って服の間からおそろいで買った髪飾りを髪に留めた。くすりと笑って)
        ……あの宝具は、あたしの願望。守られたい、救って欲しい…だから、“そういう存在を作る”エゴの結晶みたいなやつ。
        可能性の世界から、アルヴィンが英霊になっている世界を探し出し、その力を下ろす。そういうの。
        だからあの鬼は彼の記憶とか、願いとか、そういうのから生まれたんだと思う。

        (鬼が言う。力がほしいならくれてやると。あれは自分の願望のように見えた)
        (力が欲しいのならいくらでも与えてやる。だからあたしを何よりも必要として欲しい。復讐なんて忘れるくらいに……)
        (何もできないどころか、自分の願望が主をああさせているのではないかと、身が竦む)
        (喋っていないと、どうにかなってしまいそうだった)

        あたしの願いはね、サーヴァントでい続けること。永遠に守る側でいることだった。
        ……でも、今は。
        あの人を…アルヴィンを、苦しみから解放してやりたい。そう思ってる……。
        ライダー。あんたのことも聞かせておくれよ。
        -- キャスター
      • (どこまでも、どこまでも真っ白だと思っていた彼女の中には、人のエゴを固めたかのような淀みがあって)
        (そのエゴを宝具として昇華させるまでに、彼女は強く願い。だからこそこうまでにそのエゴを美しく、白く輝かせてみせている)
        (ただ、だからと言ってエゴはエゴでしかなく。その結果が、この暴走)

        (何も言え無い。彼女の願いは確かに個人的なエゴでしかない。けれども。だけれども、それは同時に自分も心のどこかで願っていたことであり)
        (その願いを誰に臆することなく主張することの出来る彼女はやはり眩しくて、羨ましく思えた)

        私、は―
        私は…この街の学生、だった。小さい頃から魔獣を体に封印されて、村の中で隔離されて生きてきた
        ある時から自由の身になって、この街で幸せを掴んで……それを、一瞬で、奪われた
        あとは実験動物として、身体を弄繰り回されて。要らなくなったらその存在ごと抹消された
        この世に生まれて、生きた証すら残せず、ただ消滅させられた…ちっぽけな、何て事の無い命。それが私
        ……だから、私は今願うの。あの時暗闇に突き落とされて見られなかった、道の先に何があるのか
        たとえそこにたどり着けなくても―ただ、先が見たい。私の願いなんて、それだけだよ -- ライダー
      • (驚いた)

        (彼女の生い立ちに。まるで自分じゃないかと)
        ……そう、か。
        そうか。何故、あんたと話していて落ち着くのかよくわかったよ。
        似たような生まれだ。生まれた時から隔離され、魔物との合成実験材料にされてずっと生きてきた。
        その後も…やっぱり似たようなもん。研究所を出てからは娼婦として自由に生きられはしたけれど。
        なんだろね、運が悪いのかね、妹を奪われそうになったり、好きな奴が死んだり……。
        そんで最後は身に封じてた魔獣がおさえきれなくなってきて、自ら命の幕を閉じようとした。

        (鬼を見た、自分の生んだ鬼を。悲痛な叫びを聞いた)
        (それと対峙する男が目の前の少女を呼んでいる)
        (……瞳をぎゅっと、一度閉じてから、少女に向き直る)

        ねえ、あんたが見たいと思ってる道の先。もう見えてるんじゃないかい。
        (微笑んで、窓の向こうのブレイズを指差した)

        行っておいで。あんたのマスターが呼んでる。あたしも行く。
        ………………あの人を……
        (その姿は一瞬だけ、少女の姿に変わり)

        ……あたしのマスターを助けてあげてください。
        -- キャスター
      • ―どうだろね?私には…まだ分からないよ。だって見たことないんだもん。今見えてるのがそうなのかどうか、判別つかないんだ
        …結局、この願いに終わりなんて無いのかもね。一歩進んで見えた景色は、当然見たことないもので。その先に何があるのかやっぱり気になるし
        ……だから、行ける所まで行ってみるつもり。それが…生きてる、ってことでしょ?生きてるんだから、前に進まなきゃね

        (キャスターの言葉にこくり、と頷いて)
        ―うん。行ってくる。あの人を止めて…帰ってくるよ。また、貴方とお話するために
        まだまだ貴方とは話したいこと、いっぱいあるもん。それが…好敵手、だから
        (かつん、と義足の音をビルの上に響かせれば、その身体は霊子となって空気に溶けていく)
        (足元から身体がほどけるように、光の粒子が眼下の主の元へと流れていき―)
        (最後にキャスターに向けたのは、柔らかな笑顔―) -- ライダー

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        (生きてる……そうまっすぐに言って笑ったライダーの笑顔は今までで一番綺麗で、かわいい。きっと彼女自身は気づいていないんだ)
        (ぼろぼろのはずの少女なのに輝いて見えた。純白のドレスで着飾っているあたしよりもずっと)

        (……走り出した。足の怪我はまだ治らない。姿を保っていられなくなって、指先に時々ノイズが走る)
        (それでも、主の元へ)

        どうして、こんなに違うんだろう。
        あたしたちはあんな風にはなれないのかな……手を取り合うように、支えあって。
        ……あたしはただの武器で、あんたを守るための力は無いから、二人に託すしかないんだ。
        求めるばかりの子供みたいな心は、そのまま力に反映されてしまった。忘れていたよ。聖杯っていうのはとても残酷な事をする存在だって…。
        あんたの事が大事だって言いながら、結局自分の事しか考えていない力しかない。

        あたしの願いは、あんたを、アルヴィンを過去の苦しみから解放すること
        (復讐なんて忘れて、人のままで笑って生きられるように……)

        (でも、それは)
        その先の、自分の幸せのため。
        (解放された彼はきっと、きっと隣にいたあたしを愛してくれる。そこへたどりつくための、ただの手段)

        (だから本当は、あんたが救われなくったって、人じゃなくなってしまったって、愛してくれるなら何でもいいんだ)
        (きっとあの鬼はそんなあたしの醜い気持ちの結晶だ)
        鬼でいい、狂ってしまえばいい。力を求めろ。何度となく過去を思い出せ、焦がれるほどに力を求めろ
        力はあたしが持っている。欲しければいくらだってくれてやる。だからもっと……あたしを求めろ!!!

        (……なんて醜い心なんだろう。そんなあたしがあんたの支えになれるはず、ないんだ)

        だけど

        だけど……!!!
        (残り少ない魔力を全てに言葉と気持ちを乗せて流し込む)

        あたしのマスターになってくれるって言ったじゃない!!!
        何も心配はいらないって、抱きしめてくれたじゃないか……!!
        ……初めてだった。
        宝物のように壊れないように、優しく抱きしめられたのも。冗談交じりでもキスをもらったのも。
        ……好きになった男にそうされるのは、初めてだったんだ。

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028488.jpg 
        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        諦めた幸せをまた欲しいと願ってしまうのは、あんたのせいだ。
        思い出せよ…あたしの、あたし達のマスターだという事を。またあたしに笑ってよ。抱きしめて、キスもしてよ。
        狂ったっていい、あんたに喰われたっていい。望むのならなんだってくれてやる!!!!

        (雨の中で、外套の下で肩を震わせて泣いていた少女がそこにいた。ライダーとブレイズのその向こうの、鬼を見つめて)
        (そして精一杯の声で叫んだ)

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028489.jpg 
        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        責任取れよ馬鹿野郎!!!アルヴィン・マリナーノを思い出せ!!!!
        見捨てるのか、受け入れるのかと問いかけた時、受け入れると選んだのはあんただ!!!

        あたしにはあんたしかいないんだ!!!マスター!!!!!!!
        -- キャスター
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 雨の日
    • (アルヴィンが倒れてから数日。宿を移してから結界を張って、姿を隠すように暮らしていた)
      (それでも主は眠らない時は外へ出ようとする。と言うか出る。ついていったり置いていかれたりは「キャスター」の頃とあまり変わりなかった)

      (キャスターの頃の方がまだついていっていた気がする。あの子は必殺涙目とか号泣とかがあったからな…)
      (今日も出かけるというので、思いっきり嫌な顔をしながらついてはいこうとした)
      (だけど)

      (主は宿の部屋から出たとたん喀血して倒れてしまった)
      (ベッドに引きずっていったのにまだ外に出ると言う)

      あんたねぇ…もう今日という今日は駄目だからね!!ここから出たら自害してやる!!
      (宿中に響く声でキリルはぶちぎれた。ここであんたの聖杯戦争を終わらせてやると地獄の底から響くような声も出した)
      (心の底から本気だったのが伝わったのだと思う。主は今もベッドの上)

      (長いドレスは邪魔だからと普段着をスキルで仕立てた。ざっくりしたセーターのワンピースで髪もポニーテールにくくっている)
      (サーヴァントとは到底思えないような格好で、あれこれ世話を喧嘩腰でやきつつベッドの横で林檎をむいていた)
      食べる必要ないんだろうけどさ。手持ち無沙汰だとまた外出たくなるだろうからね。
      うさぎがいい?あんたの目うさぎっぽいし。ねえ。

      (窓の外は雨。静かな雨音の中少しだけ穏やかな空気)
      -- キャスター
      • がっは、はぁ、ぐ、ふ……ッ
        (数度目の喀血。ぎらりと左目の赤のみは戦意と渇望に滾ってはいるが、もはや肉体のほうがついてこれない)
        ……令呪を刻まれた時から覚悟はしていたが、昔よりもひどくなるとはな……。
        (キャスターの声をよそに、観念したようにソファーベッドに横になっていた。時折咳き込んでは、再び死人のように身体を横たえる。その繰り返しだ)
        ……姉さんに看病されていた昔を思い出すな。まだ賦活呪文で自分を強化することさえ出来なかったくらい昔だ。
        よく、シズレクのサガやニーベルンゲンの歌を聞かせてくれた。ディードリッヒの……あのセイバーが出てくる、お伽話だ。
        (うわ言のようにつぶやき、目を閉じる)……穏やかだな。こんな時間はもうこないと思っていた。
        -- アルヴィン
      • ……林檎どころじゃないね。仰向けになっちゃだめだよ。
        (ベッドに主がいるようになってからは特に怒る様子も、刺々しい話し方もしなくなった)
        (咳き込む背中を撫でて、手を額に当てる。熱をはかるというよりは、ひんやりとした自分の手で落ち着くように)
        ああ、あんたの国の英雄譚だね。マルチナが少し知ってたよ。あそこの世界とはつくづく縁がある…。
        (妹に話すように優しく答える。雨音より少し聞きやすいくらいの声)
        たまにはね、こういう時間必要なんだよ。あんたは何もしないのが苦痛なんだろうけど、体はそうじゃないんだからさ。
        そういや姉さんいたんだねぇ…あんたみたいな頑固者を弟に持つと大変そうだよ。
        -- キャスター
      • (熱病に浮かされたように首を振り、手をそっと退ける)この変異は、アストラル的なものだ。
        ……心臓が再生してもおそらく収まりはすまい。俺の魂そのものの変異と言っていい。
        (本来であれば、こうして休息するのはあまり意味を持たない。それでも、闇雲に動きまわるよりはマシだろう)
        姉さん……クリステルは気の強い人だった。マリナーノの家の短命を嫌い、自分を鍛えるために家を出た人だ。
        久しぶりに出会ったかと思えば、あの魔剣シャルラッハロートを携えていた時は驚いたものだ……らしいとも、思ったがな。
        (瞑目)父さんと母さんは俺が10の時に死んだ。短命であるがゆえに魔術を修める家系……それが、俺の家だった。
        -- アルヴィン
      • (…本当に、あたしは自害した方がいいのかもね)
        (マルチナはまだ分離できていないし、そんなことをするつもりもない。だから口には出さなかったけれど、少しだけ俯きながら手を引く)
        (ベッドの横の椅子で膝を抱えて、話に耳を傾ける……)
        あの時の剣は姉さんのか。ずいぶん豪気な人だったんだね。あんたみたいに学者っぽい雰囲気の腺の細い人を想像してたよ。
        短命、か……何でまたそんな難儀な家系なんだい。
        (続きを促そうとして……ふと止まった)
        喋っていて平気かい?苦しかったら急に黙ったって大丈夫だからね。
        (主の意識が少しはっきりしていないせいだろう。キャスターのように素直に心配できた)
        -- キャスター
      • わからない。だからこそ、その理由を魔術から解き明かそうとしたのが、魔術師一族マリナーノ家のはじまりらしい。
        俺も、遺産を受け継ぐとともに魔術の研鑽に勤しんだ。……それしか選択肢がなかった。だから、俺にとってはこの魔術も、先祖からの借り物に過ぎん。
        (キャスターの言葉にはかすかに頷く)……この方が落ち着く。適当に相槌でも打っていてくれ。お前には興味のない話かもしれんからな。
        姉さんはお前にどこか似ている。勝ち気なところもそうだが、世話やきなあたりもな……いや、アリアのほうが近いか。
        ……この間は話しそびれたな。アリアは、俺がウィザードとして活動しているうちに出会った少女だ。俺より6つ下の……転生者だった。最初こそ、前世の記憶は持っていなかったが……。
        -- アルヴィン
      • なるほど……短命の呪いかねぇ。そういうあからさまなものだったらもう気づいているだろうか。
        (自分を作った少年に何か知恵が無いか聞いてみようかな。無駄に長生きしているし寿命や命というものに執着する子だった)
        (そんな考えをめぐらせながらも、彼の言葉にくすっと笑って)
        “マスターのことなら何でも知りたいに決まっている”……あの子だったらそう答えるよ。
        ただでさえあんたあんまり自分のこと喋らないしねぇ。というか喋らないっていうか…ま、珍しいんであたしは楽しいよ。
        似てるんならあたしのこと姉さんて呼んでもいいよ。ふふっ。内緒にしといてやるからさ。
        (笑い方はキャスターとまるっきり同じ。抱えた膝にあごを乗っけて)
        …ああ、その子のことならこないだちょっと聞こうと思ってたんだよ。転生者か…懐かしいな。
        (瞳を細め、誰かを思い出す)
        -- キャスター
      • あいつはじゃじゃ馬だった。何かあればすぐ騒ぐし、勉強はしない、考えるより先に飛び出す。
        ……そのくせ他人の機微に聡くて、困っている誰かを見過ごせない。弾丸みたいなやつだったな。
        (過去へと赴かせた心のなか、ほころぶ。その思い出の全てが、彼にとっての重みではない)
        そして、そんなアリアをたしなめるのが統真の役目だった。……あいつは魔物使いでな、イェーガーという狼を連れていた。
        誰よりもよく状況を見、そして直線的に突っ走って闘う男だったよ。俺はあいつに何度も……そう、何度も助けられた。あいつらに。
        山の神である蛟との戦い。輝明学園に召喚された神獣ニーズヘグの打倒。<黒雪姫>の討伐、そして……。
        ……《邪神》の神殿。俺がドリットを殺した、あの場所でも。あいつらは俺とともに戦ってくれた。
        ……俺はそんなあいつらの後ろ姿をいつも見ていた。俺の身体では、前に出てあいつらのように敵と打ち合うことは出来ない。
        だからこそ、誰よりも強い力……この魔法で、立ち塞がる敵を薙ぎ払い続けた。ともに戦うために。
        ……ドリットを殺した後、俺達がどうしたのかは、夢でも出てこないだろう。あの記憶には、続きがある。
        -- アルヴィン
      • あはは、そういう子心当たりあるよ。マルチナの母さんになった人。
        あたしはもーちょっと理性的だよ。いやほんと。
        (笑いながらそんな相槌。この姿になってからこんな風に笑ったのは初めてだった)
        (キャスターだったら毎日自然にできていた事が今はできない。主がそれを寂しく感じているのではと…少しだけ思ったりもする)
        (……せいせいしてるのでは、という気持ちの方が大きいけど)

        (主が眠るたびに夢を共有するものだから、彼らもすっかり昔から知っているような気持ちになっていた)
        (あのドリットという少女も……)
        ずいぶん一緒にいたんだねぇ。
        (だからこそ、今いないのがとても気になった、だけど訊ねるのも怖くて)
        ……ああ、あの子が光に飲み込まれる所までだ、いつも…
        (大人しく続きを待つ)
        -- キャスター
      • あの魔王……カミーユ・カイムンの狙いは、人造人間たちをあるものとシンクロさせることになった。
        この世界の人間であるお前に言っても伝わるかはわからんが……。ユグドラシル、有り体に言えば世界樹だ。
        アリアの記憶は、ある神の分霊であることを示していた。偶然なのかはしらんが、統真と同じようにな。
        ……アース神族との邂逅はなかなかドラマチックな体験だったよ。もっとも、その時には俺が戦いに関わる理由は、意地以外に何もなかったが。
        (分霊としての前世を持つ二人と異なり、ドリットをその手で殺めてから魔王たちの陰謀を追うアルヴィンには動機が何もなかった)
        世界を守るウィザードだから。戦う力があるから。二人の仲間だから。気に入らなかったから……それだけだ。俺には理由も、大義もなかった。
        ……俺はあの頃から、借り物ばかりで生きてきた。炎の巨人ムスッペルを吹き飛ばし、ユグドラシルの上で、ドリットの姉妹である人造人間、ツヴァイストと戦った時でさえ。
        ……俺はな、キャスター。ドリットと同じ姿をした少女を殺したんだ。ドリットだけじゃあない。ドリットを、死によって救おうとした姉妹さえ、殺したんだ……。
        -- アルヴィン
      • どこの世界にも似たようなものがあるもんだ。世界樹、人造人間……人が考えるものも似たようなもの。
        (あの少女達の生まれを想うと胸が痛んだ。用途も自分と似たようなものだ)
        ふふ、意地か。戦うには十分な動機だけど、戦い続けるにはだいぶしんどい動機だね。
        あんたの頑固さはそこで磨かれたのかね…。
        (冗談みたいな相槌を打ちながらも、気は重かった)
        (運命に促されてではなく、自分の意思で彼女らを手にかけてきたのだから)
        (夢で見続けた光景が脳死に浮かぶ……)
        ツヴァイスト…あの夢の初めにいつも出てくる子か。
        (ふう、と大きくため息をつく)
        (しばらくの沈黙)
        ……なあ、あんたが悪いんじゃないだろう。繰り返し見ていたからわかる。できる事を精一杯やっていただけだ。
        そんなに自分を責めるもんじゃないよ。こんな、弱ってる日は特にさ。
        (多分とても空虚な言葉。それでもいわずにはいられなかったので口にした)
        (自然と手が伸びて、主の髪を撫でる。夢の中では金髪だった髪……すぐに振り払われるとは思ったけれど)
        -- キャスター
      • わかっている。……わかっているんだ。誰よりも俺自身が。
        (振り払う気力もない。代わりに、その手に鋼鉄の手を重ね、握りしめた。壊してしまわないように)
        だがな、キャスター。殺したというのは結果だ。結果だけがそこにある。……それが、俺の意志での選択の結果ならば、まだよかった。
        誰かに強制されたものでもいい。俺は、その選択をした自分自身か、強制した誰かを、何かを恨むことが出来る。
        それすらないんだ。借り物の力で、借り物の理由にすがり、ただ戦った俺には、憎み、償う罪さえない。……お前に言えたあの言葉が、唯一の贖罪だろう。
        (雨の中、投げかけた「すまなかった」という言葉。それは、雨の中出会ったドリットに重ねての言葉だったのだろう)
        魔王たちの企みは阻止できた。記憶の齟齬に悩んでいた統真やアリアは、明日を見つけて歩き出すことが出来た。
        だが俺はどうなる? ……どうにもならない。俺はウィザードとして戦い続けた。それしかなかったから。
        ……そして、彼らに出会った。人を救うために闘う忍者、人を救うために闘う吸血鬼。彼らの死を看取った。
        受け継いだこの体と命さえも、所詮は借り物だがな。俺が自らの意志で選んだことといえば、そう……。……?
        ……なんだ?(眉を顰める)俺は、何かを忘れているのか? ……思い出せない、だが俺にとって、大切な戦いもあったはずなんだ……。
        -- アルヴィン
      • (握られた手はそのままに、目を伏せた。冷たい手。体温の低い自分に良く似た)
        (それでも自分の方が温かいから、温かさは気持ちを落ち着けるから、じっとそのままにしていた)
        ……借り物、借り物と言うけれど、人がすべて自分の力だ意思だと言いきれる物がどれだけあるかね。
        (気休めのような言葉かもしれないと思った。だけど、続けてみる)
        そんな事いったらあたしの今の力だって、体の中にいる魔物達の借り物さ。
        娼婦としての「技術」だってあたしを管理する魔術師達の趣味で植えつけられたものだし。
        この体だって、外見だって、創造主の借り物。
        命だって……人のものとは違うんだ。
        (……本当に、気休めのような事ばかり。キャスターだったらもっとまっすぐに言えたのだろうか)
        ……それでも、今あんたがここにいて戦っているのはあんたの……うん?
        なんだい。あんたまで記憶喪失なの……?
        具合が悪くて記憶の混濁……?(おろおろともう片方の手を伸ばす)
        -- キャスター
      • (そもそも。夜毎続くあの記憶の無限再生は、単純に罪悪感からくるものだといえるだろうか)
        (アルヴィンは常ごとに叫んでいたはずだ。やめてくれと)
        (まるで、己の意志ではないように。アルヴィンはしかし、本人ではその事実には気付いていないのだ)
        (……気付かされていないとでもいうのか? だが、だとすればだれがそんなことを行える? 聖杯戦争の前からである以上、マスターやサーヴァントの魔術ではないだろう)
        (行えるものがいるとすれば、それは彼自身だ。ならば、その記憶の混濁も)

        ……いや、大丈夫だ。(頭を振る)英霊化の影響かもしれん。
        俺は、俺自身の意志で、俺自身の力で何かを為したい。これほどまでに打ちひしがれ、歩き疲れても……戦うことからは逃れようとさえ想わん。思えん。そう生きてきたからな。
        だがお前は、お前達はそこに付き合わなくていい。マルチナも、キャスター、お前も……お前達は、救われるべきだ。救われねば、ならない。
        (キリルから聞かされた過去を振り返る。凄惨なものだ。それが、そのままで終わるなど、あってはならない)
        ……俺に、力があればな。この、背負うことへの恐れをねじ伏せるくらいの力があれば……もう少し、お前達のマスターらしく振る舞えるのだが。(すまない、と苦笑した)
        -- アルヴィン
      • (沢山のことがあって、逃避行動的に記憶が欠けるというのはよく聞く)
        (でも、大切な戦い…おそらくは良いものに近い思い出が欠けるのはなぜだろう)
        (不思議に思って……そこで初めて今までの夢への違和感を抱いた)
        (繰り返し、繰り返し、繰り返し。眠ると再生機のスイッチが入るように)
        (……いくら深い傷でも、あそこまで何度も鮮明に繰り返されるのはおかしいような気がする)
        (誰かが仕組んでいる事なのだろうか。ようやく浮かんだ疑問)

        ………。
        あ、ああ。あたしのせいかもしれないね(落ち着かせようと話しを合わせながらも、胸にトゲが刺さったような気持ちは消えない)
        (もう少しよく考えるべきだったんだろうけれど、彼が自分達の事を口にすると、そちらの方へ意識がいってしまった)
        (ぽんぽんと優しく頭を撫でて)
        いいよ。あたしたちはもう十分。マルチナだっておちついたらあたしの中から出してやれるだろうし。心配いらないよ。
        ……そう、もう十分背負ってもらった。助けてもらったよ。あんたは気づいて無いかもしれないけれど……。
        マスターになると言ってくれた。それだけであたしたちは救われたの。
        あんたはもうちょっと自分の事考えて。
        それがあたしのためにもなる。心配する身にもなれってんだよ。キャスターみたいに泣き喚いてほしいのかい?
        ……やってみようかね。
        (苦笑する主の頬をつついて)
        すまないって思うならもーちょいあたしに優しくしな。言う事聞いたりしな。
        ああ、お詫びのキスでもいいよ?この体になってからご無沙汰でね。
        (わざと品の無い冗談を言って、ヒッヒッヒと魔女みたいに笑う。魔女だけど)
        -- キャスター
      • (重くソファーベッドに横たわっていたアルヴィンの上体が、ふと起き上がった)
        (赤い片目とキャスターの瞳が近づく。かすかな空白)

        ……とりあえずひとつは叶えてやった。残りは善処するとしよう。
        (男の身体が再びソファーベッドに横たえられる)今夜はよく寝られるかもしれんな。

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028472.jpg

        (キャスターの唇に感触を与えた口元は、ゆるくいたずらっぽい笑みを結んでいた)
        -- アルヴィン
      • (起き上がったんでまた、喀血か!と身構えた。すぐに血を受け止める洗面器を用意しようとして)
        (あれ、でも)
        (別に苦しそうじゃなくて)

        (笑っ………)


        (無意識に瞳を閉じたら、唇に何か触れた)

        (……慣れた感覚)

        (それが何か気がついたときはもう離れていて、ベッドに体を沈める嫌な男が笑ってた)

        (娼婦が)
        (生まれたときから娼婦のようだった女が)

        (………一瞬で耳まで真っ赤になっていた)

        (それはさぞ見ものだったと思う)

        ……っ!!!あ、あんた、こういうこと ちょっと 馬鹿 クッソ真面目のくせして…っ!!
        (もう泣き出しそうな勢いであわてて)

        (だから)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028474.jpg 
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        (しかえししてやった)
        (触れるだけなんかじゃなくて、舌まで入れて。商売の………それよりはちょっと丁寧な、口付け)
        (それはほんの少しの時間だったけど)

        ……ぷは。
        キスってのはね、こーやんの!


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
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        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 



        (顔を上げた女は、耳まで真っ赤なまま自慢げに、笑った)

        ……寝ろよ、もう。あたしここにずっといるからさ。
        (その笑みは数秒も持たなくて、そっぽ向いてしまったけど)
        -- キャスター
      • その言葉には従おう。
        (あえて口には出さなかった。はじめて出会ったあの日、別れ際に自分に何を求めてきたか、については)
        (彼女のことを、好きなのかと言われれば首を振る。愛しているのかと言われれば、首を振る)
        (恋をしているのかと言われれば)
        (……その答えを出すべき男は、この世界に来てはじめて安らかに寝息を立てていた)
        -- アルヴィン
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 町の外れの古い宿
    • (戻ってきたのは朝焼けの頃。アルヴィンの重い体を支えてソファに横たえたら外が明るくなり始めていた)
      (運んでいる間は始終無言。何から言えばいいのか迷っていた)
      あー……その体、すぐに治るんじゃなかったっけ……もうちょっと魔力わける?
      (散々悩んでこんな言葉しか出なかった。とても心配なのに、うまく言えない。今までだったら泣きながら言えたのに)
      (そんな自分がおかしくて、しゃがみこんだままソファのひじ置きに頬杖をついて、赤い髪の女がため息混じりに笑う)

      ……あんたもさ、いつも冷静なように見えて、結構無鉄砲なとこあるよね。
      -- キャスター
      • いや、これだけあれば十分だ。これ以上はお前の現界に関わるだろう。
        (ソファに腰掛け、右目からモノクルを外しながら言った。その虹彩からは色が喪われており、左目のみがキャスターに向けられている)
        心臓の再生には時間が必要だ。再生能力は落ちるだろうし、直せない傷も出てくる。次に英霊化した場合、どうなるかはわからん。
        (淡々とした口調。賦活呪文を重ねたその生気は、以前よりは薄い)
        仲間たちにも言われたことがある。普段は統真のやつのほうが直情的だが、場面によっては俺をたしなめる役目に回ることもあってな。……懐かしい話だ。
        -- アルヴィン
      • あたしより自分の心配しな。心臓がしっかり再生するまでここから絶対出さないからね!!
        ……あ。っと……。(心配で思わず強い口調で言ってしまって、ぱっと手で口を押さえる)
        (気恥ずかしさから離れるように窓辺に移動して腰掛けた)
        (そらした目を戻すと、モノクルの向こうに見えていた目がよく見える…)
        ああ、夢で見た……もうひとり女の子もいたね。仲がよさそうだった。
        あの子達……
        (言いかけて口をつぐんだ。今はどうしてるのかと続けそうになって。もしかしたらもういないのではと思ったからだ)
        (さっきからぎこちない物言いばかり。ちゃんと話をしたいのに)
        いや、そっちの目…右目見えないのかい?
        -- キャスター
      • 残念だがそうもいかん。いつ他のマスターやサーヴァントの襲撃があるとも限らんからな。明日の未明にはここをあとにするぞ。
        (どこ吹く風できっぱりと答え、左目を窓の外へ巡らせた。こくりと頷く)ああ、どうやら《万魔排する黄金竜》の魔力が視神経を破壊したようだ。
        心臓がない以上再生も出来ん、あれだけの対城宝具ともなれば、通常の手段での再生は不可能と見ていいだろう。
        ……それに、最初の発動に比べて俺達の魔力の(パス)が広がっている。……いや、これは俺自身の変異か?
        (集中する。ラジオのダイヤルを回すように、宿の外の木々のざわめき、鼠の囀り、夜道を歩く待人の足音が聞こえた。感覚の鋭敏化……身体能力が増大しているのだ。今でさえ)
        おそらく、今の俺は直接お前の詠唱を受けないでも英霊化が強行出来るのかもしれん。あの時の令呪の効果も絡んでいるだろうな。
        (淡々と、己の戦況を分析する。それは最初期の冷徹な頃とも異なる、また別の怜悧さだった)
        ……それで? お前は、やはりあの姿には戻れずじまいか。……今のお前は、どう呼べばいい。キャスターか? それとも……。
        -- アルヴィン
      • キリル。
        (キャスターという言葉をさえぎるように言った。どうしてか、そう呼ばれると胸が苦しくなる)
        (少女の姿だった頃の自分の気持ちが蘇る。同じように振舞ってしまいそうになる。もう違うものだというのに)
        (……あれは幻みたいなものだ。あたしはあたし…自分に強く言い聞かせた)
        戻れなくはないとは思うけど……不完全なサーヴァントだからね、あっちに戻ったらまた記憶が無いなんてとか
        二度とあたしに戻れないとか、そういう可能性もある。
        ……あんたに力が行ったままなのが逆にあたしにとってはよかったみたいだ。不完全なあたしでも力を制御しやすい。
        今はだいぶ安定してる。もう少し安定したらマルチナも上手く分離できると思う。
        (自分の中を探るように瞳を閉じる。胸の奥の暖かさ…マルチナがはっきりと感じられた。彼を心配している)
        (また瞳を開くとアルヴィンを指差し)

        ……だから、今はあたしよりあんただ。
        サーヴァントの力が人間の中にある状態だ。その上弱ってる。片目も見えない。英霊化なんてしたら確実におかしくなる。
        あたしだって戦えるんだから無茶はするな。
        一度移動するのは賛成。その後落ち着いた先で姿を隠す結界を貼る。治るまであんたはそこにいなよ。死なれたら困るんだ。
        (心配なのだ。そう素直に口にできない。咎めるような口調になってしまう)
        (いらいらと頭をかいて)

        ………あー……違う、もう、なんであたしだとこんなんかな…!!
        心配してんだよ。キャスターみたいに「あたし」に泣かれたくなかったら言う事きいときな!
        -- キリル
      • ……いや、お前はキャスターだ。今後もそう呼ぶ。
        (静かに答えた)ある程度は治癒にも専念する、だが完治まで動かずにいるというのは難しい。
        お前はちぐはぐだな。あの姿の頃からの記憶が連続しているぶん、自分の中でも感情が処理しきれていないといったところか。
        (ディレンマに苦しむ様子は、全てを諦めて己を時の牢獄に閉じ込めた女にしては生き生きしている。それでいいと、彼は思った)
        ……せっかく記憶が戻ったんだ、以前から聞きたいと思っていたことを聞いてみるとしよう(世間話のつもりか、そう切り出し)
        キャスター。お前はなぜあんな茨の檻を完成させた? お前が事態を周囲に伝えれば、あるいはそれ以外の解決方法も見込めたはずだ。
        だのにお前は自ら諦めた。……いや、この結果を予期していたならば、それも自らの採った対策なのかもしれんが、な。
        マルチナの分離は当然として……お前が、なぜあの娼館や、知己を頼らなかったのか。俺はそれがずっと疑問だったんだ。
        -- アルヴィン
      • …っ…な、なんだよ、どう呼べばいいかってきいてきたのはあんただろーが!!
        (キャスター。その一言で耳まで真っ赤になった。なんだっていうんだ。小娘の姿だって自分の記憶はあったというのに)
        (姿が違うから演じられた。いや、素直でいられたのだ。でも、今はいい大人の姿。記憶も今までに無いくらいはっきりとしている)
        (……だからあの少女のようにはなれない。何度目かの大きなため息。ぐしゃぐしゃ髪をかいて、また整える)
        いいさ、好きに呼べばいいよ。あんたのサーヴァントなんだから。
        でも冷静にあたしを分析するのはやめて。感情が処理し切れてないのがわかるならわかるだろ……!!
        恥ずかしいんだよ!!今までの事が…!
        ……後悔なんてしてなんかないけど……嫌なわけでもないし……大事な……思い出になっちまってて。
        あ、あたし……あんな風に抱…あ あータバコ、タバコが恋しい。
        (ぶつぶつ、そっぽを向いてつぶやく。聞きたい事、といわれてようやくそちらを向いた)
        (またため息。でも今度はとても小さい。無意識のもの)

        (しばらくの沈黙の後、女は口を開く。少女のものとは違う赤い紅を引いた唇)

        ……また、呪印が浮かぶと思った。
        あたしにかかってる魔獣たちを封印する魔法の暴走のせいか、体が弱っていくのに魔力はどんどん上がっていたから。
        あたしはまた「マスター」になる可能性があった。こんな状態だってのにさ。

        (ぎゅうと窓枠を握る、主に背を向けて)
        ……もう、誰も巻き込みたくなかった。
        何とかなったかもしれないけど、そのためにまた誰かが死ぬよりも辛い目にあったらと思うと、助けを求める気にはなれなかった。
        マルチナだって新しい両親のもとで幸せだったからね……壊したくなかったんだ。
        こんなことになっちまって……すまないと思ってる。

        (振り返ると、少女と同じ、心細くて泣き出しそうな瞳をした女がいた)

        …………あたしの願いは……永遠にサーヴァントでいつづけること。

        いつかサーヴァントにした男への償いのために。
        いつか手を取れなかったために人の輪廻の輪から外れてしまった男を待ち続けるために。

        ごめん。キャスターでした約束……守れない。
        聖杯にすっと一緒にいたいと願うことはできない……あたしは……あの子とは違う。
        -- キリル
      • (愛用のパイプを銜え、ことさら皮肉げに片頬を歪めてみせる)ふ。邂逅した時のすれた気配が嘘のようだな、キャスター。
        だが、お前の願いがそれだというなら、お前は今口にした謝罪の心さえも無碍にしていることになる。
        マルチナはお前が元に戻ることを望んでいた。そしておそらくだが、お前たちを救った男もそれは望んではいまい。
        (己がどうなのか。それは口にしない。己の願望で他者の未来を決めることは、すなわち相手を背負うことだからだ)
        待ち続ける男がいるならば、お前はなぜあの時茨の監獄を作り上げた? なぜ俺にあれだけのことを話した?
        ……お前が恥ずかしがろうと否定しようと、あのキャスターもまたお前自身だ、キャスター。それは揺らぎようがない。
        永遠にサーヴァントで居続ける。それが本当にお前の望みなのか?
        俺には借り物の力しかない。武律や、レオや、お前自身から借り受けた力しかない。だから本当は、こうしてお前の真意を問うことなど出来はすまい。
        ……あくまでもそうだというなら。俺もやはり、お前の忠告や制止を聞くことはできんな。どこまで俺自身を保てるのか、試しながら力を使うほかあるまい。
        ……そう、俺には力がある。力があるならば使わねばならない。俺の、復讐のためにも。
        (黒黒とした戦意を滾らせ、言う。あるいはその向こう見ずな姿勢は、あの「鬼」とでもいうべき何かの影響なのか)
        -- アルヴィン
      • あたしをキャスターって呼ばないで…!!
        あの子は記憶がなかったからあんな風にいられたんだ…!!
        (つい声を荒げて、また目を背ける。片手で額を覆って必死に気持ちを落ち着けようとする)
        (ずきずきと胸の痛いところに入り込んでくる目の前の男を恨めしそうに睨んだ)

        ……そうだよ。あたしの願いはそれだけだ。

        (頑なな答え。強張った表情。少女の面影はもう無い)
        あんたに話をしたのは、ただの感傷。
        マルチナを酷く傷つける形になったことだけは、責められても何も言い返せないけど…。
        手紙くらい、書くべきだったとは思ってる……。
        (まだ「自分」を取り戻したばかりだから余計に揺さぶられる)
        (逃げ出してしまおうかと思った、でも)

        ……やめて!!体が治っていれば前より制御しやすくなるはずだけど、そんな状態じゃ駄目になるに決まってるだろう!!
        またあんな暴走の仕方したら相手によっては殺される…!!
        (ソファの前に、膝をつく。すがる事も、この姿ではできない)
        (復讐なんて忘れて自分のことを、幸せを考えてなんていえるわけが無い)
        あたしのことなんてもういいだろ。ちゃんとサーヴァントとしての責務は果たすから。
        キャスターでいるから。だから無茶はしないで……。
        (消え入りそうな声。キャスターの時よりもずっとか弱い声だった)
        -- キャスター
      • ……。
        今になってわかる。キャスター。お前の姿はまるで、俺自身を鏡で見ているようだ。
        己のことなど二の次だと、使命や誰かのために強いて己を殺す。……たよりなく見えるものだな。
        (自嘲の笑み。しかれども、制止と縋りつくような言葉にも戦意の炎は消えない)
        ……あの時、ブレイズたちと戦った時。表層に現れたあの「鬼」は、おそらく武律……いや、真の姿である雷血や、レオの吸血鬼としての妖性が混ざり合って生まれたモノだろう。
        今ならばわかる。あれは俺の、負の面なのだ。あれは俺であり、しかし俺ではない。境界線などなく、たしかに俺の中にある。
        ……戦い続けるならば、克服せねばならん。さらなる力を以って抑えつけるか、それも1つの手だろうな。
        だからお前も、己を受け止めろ。キャスター。俺は何度でもお前をそう呼び続ける。
        これは、俺達自身との戦いだ。
        -- アルヴィン
      • (座り込んだまま長い長い沈黙。ゆっくりと顔を上げると主の顔を見た)
        (今は片目の色は消えてしまっているけれど…赤い瞳と見えない瞳が力強くこちらを見ていた)
        (……この人を守りたい)
        (それはキャスターであっても、キリルであっても同じ気持ち)
        あんたを鬼に喰わせてたまるものか。あんたまで失うのは御免なんだ。

        ……本当の願いを言ったら、戦いをやめてくれるかい?
        あたしの願いは……きっと、あんたを苦しめるものだ。
        ただ、時間が欲しい……あたしはあの子みたいにすぐに素直になんてなれない。

        (金色の瞳にまた少女の面影が宿る。出会ったばかりの、彼を追いかけ必死に自分を保とうとしていた頃の「キャスター」)

        あたしは……あんたのサーヴァント。
        ……………………マスター望むのなら…あたしは戦う。そう約束した。
        ……ならば、自分とも戦おう。
        -- キャスター
      • 矛盾だな。願いを叶えるために戦いをしているのに、お前の願いを叶えるために戦いをやめることなど出来るものか。
        この戦いはお前が火蓋を切ったものだ。……俺は他人の業を背負うことは出来ん。俺は俺の業のもとに戦っている。
        (だから、お前の望みで戦いをやめることなどありえないと。言外にそう力強く伝え)お前の戦う意志、闘う理由は、お前のものだ。
        だがまあ、そうだな……俺とて、ただ俺自身に飲み込まれるつもりはない。夜明けまでは、休む時間が必要だ。
        (咳き込む。血を吐き、ぐいと乱暴に拭い、鋼鉄の肉体をソファーベッドに沈めた)
        苦しみは、もうとうに喰らい果てた……そう、ドリットを救えなかったあの時から……。
        (まどろみのなか、そう口にしてふと違和感を覚えた)
        (確かにドリットを救うことはできなかった。……だが、なぜだ? それはあっていて、同時に間違っているようにも思える)
        (まるで何かを、忘れているような。……その違和感の正体を掴む間もなく、その精神は再び罪業の夢へと堕ちていった)
        -- アルヴィン
      • 違う。全てをやめて欲しいわけじゃない。
        今だけでいいんだ。体が治るまででいい。
        お願いだから死ぬような事を自分からしないで…!
        (主の咳き込む声。女の叫びはキャスターの声と重なる)
        (意識が混濁しているアルヴィンの額に手を置いた。ひんやりとした手)
        (魔力供給を続ける。少しでも彼が楽になるように……悪夢を共有するために)

        (妹に良く似た少女の絶望の顔が浮かんだ)
        (使い魔の狼達が二人のそばに寄り添う)

        (長い夢がはじまる)
        -- キャスター
  • ……"酒場の街"郊外、<かぶさり森>。
    • (夜。瞑目し、しんと静まり返った木々の合間に己を佇ませる男がいた)
      (使い魔の鴉にはしかるべき時、場所を伝えた。あとはただ、こうして相手を待つのみ)
      決闘のために相手を待つ経験などはじめてだが。悪くはないな。
      (怜悧な面持ちのまま、呟く。目に見えぬ魔力の昂りが、彼の静かな高揚を知らせていた)
      -- アルヴィン
      • ふふ、勝利のお守りにあたしの袖でもお渡ししておきましょうか。くくりつける盾がないけど。
        (隣に控えた少女が笑う。白い拘束服の下に鮮やかな赤い薄布のワンピース。貴婦人にしてはちょっと品のない姿だ)
        (冗談を言いながらも、表情は固く、緊張している様子。どこか思いつめているようにも)
        -- キャスター
      • (木々の奥から近付いてくる、鉄の擦れ合う音。森の闇の中、枝葉の間から差し込む月光に騎士の甲冑が浮かび上がる)
        待たせたな、アルヴィン・マリナーノ
        (その傍らに、魔術師の少年が無言で佇む)
        ふむ…そちらの麗しき御婦人がお主のサーヴァントか、お初にお目にかかる -- 鎧のセイバー
      • 来たか、騎士(セイバー)よ。
        (モノクルをかけた右目を閉じ、左目で相手を見据える。月明かりに照らされ、いっそその威風は堂々として見えた)
        此方の勝手な願い入れに応じてくれたことを嬉しく思う。こちらは色々と災難続きでな、こうして"らしい"戦いはしたことがなかった。
        今宵、この時、お前達を相手にする今が、俺達二人にとって正真正銘の全力の戦いだ。だからこそ、正面から行かせてもらう。
        (キャスターに頭を巡らせる)いけるな。
        -- アルヴィン
      • (少年を見て少し驚いたような顔をした。思っていたより若い…自分の今の姿と同じくらいだろうか)
        (こんな子供が……命をかける戦いに、と思うと酷く胸が痛む)
        (ぎゅっと目をつぶって、開く。月と同じ、輝く金色の瞳)
        (少女は華やかなスカートのすそを少しだけつまむと、優雅にお辞儀をしてみせる)
        ……初めまして異界のお方、そしてその主様。今宵は我が主の願いを聞き届けてくださってありがとうございます。
        (微笑み、挨拶の言葉。少しつたないけれど、少女らしいものだ)

        (そして、主の言葉にゆっくりと頷く)
        ……はい。マスター!出し惜しみはなしなのです!!

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           素に銀と鉄。礎に石と契約の菫。祖に銀の二つ角。
           降り立つ風には壁を。自我の門を閉じ、愚者は神使より角笛を奪え………

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        (少女の足元に魔法陣が現れ……青く光る)
        (宝具開放のための詠唱が始まる……それは、参加者なら誰もが聞き覚えのある“召喚"呪文)
        (英霊を呼び出すときのものとは少しだけ違う。続きを淀むことなく少女の鈴のような声が綴り……)

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           汝、真紅の月。夜闇に紛れる異界の旅人。
           我は茨の檻で契約せし者。
           汝三大の言霊を纏う七天………………

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        ……マスター。
        忘れないでくださいね。あたしはあたし……貴方のサーヴァントです……!

        (囁くと……少女の姿が大人のものへと変わっていく)
        (すらりと手足が伸びて背も高く……服は花嫁のような純白のドレス)

        (変わらないのは金色の瞳。そして、少し低い大人の女の声が最後の一節を唱える)

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           ……可能性の世界より来たれ、英霊!!
           我の全ての力を汝に……!!

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        キャスターの宝具、“英霊契約”が発動する………


        ……残念だけど、今回はキスはなし。前ので契約済みだからね。
        (女は長い真紅の髪を風になびかせて、主に笑った)
        -- キャスター
      • うむ
        (少女のお辞儀に鷹揚な頷きで応える、これが舞踏会か何かであったなら、さぞ微笑ましい図であっただろう)
        構わぬ、正面からの果たし合いはむしろ望むところ
        互いに憂いなく、戦いのみに専念しようではないか
        (森の中で向かい合う四者、そしてその刻は来た)

        (少女の口から紡がれる呪文、華麗に変貌するその姿、そして彼女の主から漲り迸る膨大な力の脈動)
        それが―――お主たちの力か…!!
        (己が主を背に、剣を抜き放ち構える)
        (数多の妖魔を相手にしてきた英霊は、目の前に立つ存在が破格の脅威であることを本能で悟った) -- 鎧のセイバー
      • ……!
        (何かが来る、人間の身では到達しえぬような何かが)
        (逃げ出したくなるほどの気配、それでも一歩たりとて後退ることはするまい、覚悟ならばとうに終えてきた筈だ) -- ラセン
      • ぬ、ぅ……ッ!!
        (破滅的な魔力が己の内側で荒れ狂う。かつての契約の折に繋がれた(パス)を通じて送り込まれる力)
        (それに応じて、己の中の「何か」が胎動する。それはどろりと重く、ぐらりと雄々しく、そして恐ろしい何か。それはアルヴィンの持つあやかしの血であり、あるいはもっと何かおぞましいモノだ)
        (口の中で何重にも精神拘束術式を詠唱し、己の精神までもが変容していくのをこらえる)
        (己の感情を律し、戦意を、敵意を、目的意識を飼いならす。「それ」が持つ指向性を己の意志のもとに置く)オオオオオオ……ッッ!!
        (ぎちぎちと"鬼"へと変貌していく身体を、鋼の肉体から現れた仮面が包み込んだ)
        (いまや黒金の髪は力強い―――そう、脈々と魔力をほとばしらせる金の長髪へと変わり)
        (それが、兜の下からあふれだす。仮面に刻まれた四眼が……あやかしの赤を刻み、しかし青へと変じて瞬いた)

        これは、俺の力ではない……俺に救いを託し、朽ちていった戦士たちの、力だ……。
        (アルヴィンの声が響く。それは口惜しくもあり、誇らしくもあり、羨ましくもある。そんな声音だった)
        だが、借り物であろうが、この力で敵を討てるならば……俺は、それを振るうことを躊躇は、しないッ!!
        (全身を鋼鉄の異形に包み込み、水と天の力の代わりにバチバチと電光を迸らせる姿へと変貌したアルヴィンが、吠える)
        シャルラッハロートッ!!(彼の身体に流れる血が現れ、結晶化し、2mはあろうかという刃渡りの真紅の大剣となって顕現した!)
        行くぞ王騎士よ、その屍を踏み越え聖杯へと至るために!!
        -- アルヴィン
      • (変化してい主を内心祈るように見つめる。どうか上手くいって……!!)
        (「キャスター」と二人で積み上げてきた日々の絆の結晶。どうか……あたし達はあの時より変われたのだと形で見せて……!!)
        (…………そこには鬼がいた。以前と同じ…………いや、違う……!!)
        マスター……
        (ああ、神様)
        (マスターの声が聞こえた。いつも通り。ううん、ちょっと違う。強く感情の乗った声)
        (あの時みたいに、言葉を失ったりはしていない……!!!)
        (涙が込みあげてきた。これはきっと、「キャスター」の涙)

        (よかった……ご武運を、マスター!!)
        (明るく幼い声がどこかで聞こえた気がした)

        (さあ)
        あとは、戦うだけ……今度こそ勝とう、マスター……!
        -- キャスター
      • ……左様か
        (託された想い、倒れゆく戦士達、それらに響くものがあるのは、軍を統べる王であるが故か)
        応!! お主達の思い、その覚悟、我々が受けて立つ!
        いざ―――参る!!
        (踏み出す足は森に響く程に強く、重装とは思えぬ動きで繰り出されるは神速の突き、雷光の如き剣先の閃きが雷の鬼を襲う!) -- 鎧のセイバー
      • (始まった。相手がとったのは、マスター自身が前線に立ち戦うという意外極まる戦法)
        (果たして、あちらのサーヴァントはどう動くのか、彼女が動いた時に、自分は対抗し得るのか)
        (不安を抱いたところで意味は無い、今はセイバーの戦いを見守り、相手のサーヴァントである女に対し可能な限り注意を払う――) -- ラセン
      • (恐るべき踏み込みが大地を揺らし、そこから伝い根を這って木々の葉を雨のように降らせる)
        (だが今や、肉体全てを己のものではない存在に変えたアルヴィンからすれば、その突きは追うことは不可能なれど反応可能な一打!)
        推して参るぞ、セイバーッ!(肉厚の大剣を斜めに構え、斬る・突くのではなく払うように振るう。受けるは必死、文字通りの不可避たる刺突は、このようにいなすほかにない)
        (雷鳥の咆哮めいて、ギャギキッ!という高音と夜闇を照らす火花が散った。その煌々たる光の雨を、青の四眼が切り裂く!)
        オオッ!!(パリイング動作からの地摺り残月、振り上げた大剣シャルラッハロートを続けざま上段振り下ろし! セイバーのクラスにあえて剣技で挑もうという、豪胆!)
        ぜあッ!(地を割らんばかりの一撃から踏み込みの勢いを殺さぬまま、横回転からの横薙ぎ三連斬撃。はたしてこの五段攻撃、セイバーはどう捌き、防ぎ、反撃するか?)
        -- アルヴィン
      • (少年の視線の向こう、女は微笑む。そして、少女の時と同じようにドレスを広げて頭を垂れる)
        (無粋な事はしない。そういう意思表示)
        (主を信じて、佇む)
        -- キャスター
      • るあああああァァァア!!
        (劈くような気合と共に、常人の目には留まらぬ速度で打ち合わされる刃と刃、絶え間なく弾ける火花は雷光、連鎖する鋼の響きは雷鳴さながら)
        (剣の英霊は必殺の威力で打ち込まれる一撃一撃を弾き、逸し、また盾で返し、舞うかのような鮮やかさで尽く凌いでみせる)
        (アルヴィンのそれには及ばぬながら、騎士の振るう剣もまた長大、常人ならば両手で扱わねばならぬそれを、片手で羽のように軽々と振るう)
        はははははは!! 思い出すわ!この滾り!!
        (夜闇の森、咲いては散る火花。今は己が手にある、この「剣」の持ち主であった巨人騎士との戦い、まるでその再現ではないか)
        (だが、この相手は、あの巨人よりも更に強い―――!!)
        おおおおおおお!!!
        (三連撃の最後、受ければ鎧ごと胴を断たれるであろう、その一撃。刹那の見切り、迫る刃の腹を“篭手”で殴りつけるように高く跳ね上げて)
        その身に刻めぃ!!
        (刀身より燃え上がるは炎、振り上げた腕から返すは袈裟斬りから薙ぎ、逆袈裟へと続く、同じ“三連撃”。鉄をも斬り裂く激情の炎を宿した剣が、三重の軌跡を描く!) -- 鎧のセイバー
      • はァ……ッ(元来より魔術師であるアルヴィンにとって、この切り結びは決死と必殺の応酬である)
        (一呼吸の間に二度の死が通り過ぎ、瞬くたびに終わりを躱して破滅を叩き込む。それを可能とするのは、英霊としての力、そしてこの身体と剣に記憶された経験だ)
        武律、姉さん……力を借りるぞッ(今の彼を包み込む鋼鉄の肉体の持ち主―――退魔忍者・武律と、自らの姉、クリステルの力。それを借り受け、振るうことでかろうじて王騎士に追従する)
        (心のなかで荒れ狂う「鬼」の力を、ロデオめいて紙一重で制御する。己の身体ではないもののなかで、己のものではない精神を振るう……それを可能とするものこそ、彼の超絶たる魔術師としての素養に他ならない!)
        何ッ!?(盾での防御は予見していた。剣でのパリイングも考慮していた。しかし、篭手! これが、正道の騎士が持つ応用か!?)
        (だが、炎だ。炎を見た瞬間、荒れ狂うものがある。けして相いれぬ、しかし仇敵とは呼べぬ男の炎に重なる)おおおおおおおおッッ!!
        (ほとんど同時に見える三連斬撃。一撃目、首狙いのそれを弾く)
        (二撃目! 反発威力をものともせぬ足先狙いの一撃。獣めいた回転跳躍で回避!)
        (三撃目……胴狙いの真一文字剣閃。避けよう防ぎようなし。ならば、それでよし!)
        が、は……ッ!!(炎剣が左胴から叩きこまれ、鋼鉄を割り半ばまでを貫く。しかしぎらりと四眼が煌けば、振りぬくこと能わず。強引にそれを掴み……引き抜く。炎に続き森を洗う鮮血!)
        刻ませてもらったぞ、セイバーッ!!(四眼のうち、左上部が赤く染まり上がる。まだだ。まだ己の意志で、戦える!)
        おお、ォッ!!(大剣をやおら右肩に担ぎ袈裟懸け斬撃。対手との距離には若干足りぬそれは布石、剣閃が地面に突き立った瞬間、両手は柄から離れている)
        その骨身で覚えろ、雷撃の迸りッ!!(剣を握るように突き合わされた両手から紫電が迸り、鞭めいたしなりを持って極太のプラズマ剣が、袈裟懸け斬撃の軌跡をなぞり襲いかかる。フェイントを踏まえた二弾撃!)
        -- アルヴィン
      • ッ!!
        (胴を斬り裂く一撃を受けて立つその姿、なんという頑強さ、いや、それ以上に驚嘆すべきは戦いにかける意志の強さか)
        見上げた覚悟よ、アルヴィン・マリナーノ!!
        (剣を構えて待ち受けるは反撃の刃、しかしそれは、体に届くことなく地面に突き立ち)
        !!(雷、比喩でない本物の雷が剣となって襲いかかる!)
        がああああああああ!!!
        (反射的に掲げる盾、一瞬にして体を焼く雷。熟練の剣士の経験が仇となり、迸る雷電をその身に受ける事となる)
        少々……痺れたわ(――が、倒れない。彼の命を救ったものはクラス特有の耐魔力、そして宝具たる輝きの兜。焼け焦げた兜の下で、哂う)
        強いな、アルヴィン
        (騎士として、強者に対する純粋な賛辞。その言葉と共に再度炎が燃え上がり、再び演じられる壮絶な剣舞)
        (紫電の剣と炎の剣の激突の末、一際激しい撃ち合いを最後に輝きの兜は砕け、金の髪を乱した貴人の素顔が顕になる) -- 鎧のセイバー
      • セイバーッ!!
        (叫ぶ声。そう、相手は剣士ではなく、あくまで魔術師だったのだ)
        (それでも―――それでも彼は倒れなかった。致死の攻撃を受けて尚、闘志を震わせ立ち向かった)
        (あれが、あの姿が自分のサーヴァントであるならば、己もまた、信じてそこに立つ) -- ラセン
      • お前に言われると悪い気はしないな、セイバー……何故ならッ(業炎の刃を辛くも弾く。真紅の剣に雷がまとわりつき、飛沫を上げた)お前も強いからだッ!
        (自らが、生まれついての騎士であったならばとここまで狂おしく願ったことはあるまい。そうであるなら、己の力と意志、研鑽で彼と打ち合えたのであろうに)
        (だが、これは正々堂々ではあるが腕試しではない。見世物でもない。己の存在と意地を賭けた、闘争。闘争なのだ!)
        (攻撃を交し、打ち、反らし、斬り、防ぎ、放ち、喰らい、突き、弾きながら、多重思考めいてアルヴィンの意識が考察を重ねる)
        (あの生存力。対魔力および耐久度のみでは説明がつかない。割れ砕けた兜、あれが何かの魔力を使ったか?)
        ……兜だと?(心の奥底で蟠りが燻った。それはセイバーとの戦いに己を投じさせた「何か」。それが叫んでいる。貴人の鬼神じみた戦いを、自分は知っていると)
        ゴォン!!と凄絶な音を立てて兜が砕け散った。距離と取り、相手を見聞する。あの炎、不死身をもたらす兜。まさか、いや、まさか)
        お前は……いや、まさか、あなたは……(幅広剣と呼ぶには肉厚で長大な剣。まるで巨人に持たせたほうが似合うとでもいうべき……)
        (だがその懸念が真実であるならば。強いのは当然、それ以上にこれ以上の好機を与えてはならない)おおッ!!(踏み込む。右脇腹を薙ぎ払う横斬撃、その勢いを殺さぬままの縦斬撃。四肢を斬奪せしめる十字刃!)
        -- アルヴィン
      • (その戦いは)
        (いつか、研究所の鉄格子のはまった窓の下で読んだ英雄の物語のようで)
        (神に匹敵する力を持ち戦う物語に妹と二人で夢中になっていたっけ……こんな状況なのに懐かしい気持ちになる)
        (英雄と渡り合う主に見惚れながらも、信じているのに、一つ一つの攻撃を彼が受けるたびにひやりとする)
        (傷ついたのを見るととっさに回復のための魔術を使おうとして……ぐっと堪えた。これは決闘なのだ)
        (無粋な事はしない、でも……負けないで、傷つかないで…と胸の奥で少女の声がして、落ち着いていられない)
        っ……マスター…!
        (雷が輝く中、少年の叫びと女の呟きが重なった)
        (雷鳴が収まり、顔を覆っていた兜が砕ける……そこには皆が英雄に求める凛々しい顔立ち)
        あれが、英霊というものか……。
        (人を釘付けにして離さない、英雄の姿……!)
        -- キャスター
      • もはや、受けられぬか――!
        (命を護る宝具は砕けて散った、これ以上あの雷剣を受けることは限りなく不可能に近いだろう)
        ――致し方、なし
        (身を焼かんばかり決死の圧力を前に、ふわり、と盾を投げ捨てた)
        (高熱の雷は盾をも斬り裂くが、僅かなりとも剣速を遅らせられればそれで構わない、続く斬撃が届く前に一歩を踏み出し)
        どうした―――気が逸れているぞ!!
        (腹部目掛け打ち込むは篭手での殴打、敵手の巨躯を吹き飛ばさんばかりの勢いを込めて)
        (元より組み打ちは得意とするところ、ダメージを与えられずとも、今一度、間合いを開けられればそれで良い) -- 鎧のセイバー
      • がっは!!(常であれば防ぎ、踏みとどまれただろう。だが、今まさにアルヴィンは上段切り下ろしの一撃を放とうとしていた)
        (加えて、妖血が修復を行っていた脇腹の傷に拳がめり込む。再生力の加速が"鬼"の覚醒を推し進め、左下部の目が赤く染まり、兜にぎちりと牙の兆しが生まれた)
        グ、ゥウ……!!(食らってみてわかる。竜をも打ち倒しかないこの強壮な一撃。間違いない。間違いない! なんという偶然、なんという運命か!)
        この世界で、まさか寝物語の英雄に出会うことになろうとはな……!!(シャルラッハロートを構える。反撃は不可能。大木を背に打ち据えながら、全膂力を両腕に注ぐ!)
        ……ハァァアア……(深く呼気を下ろす。魔力を雷に変え、両手に蓄積する。必殺の一撃が来る。ここに来てようやく理解した。彼と、少年と正面から戦おうとした理由は1つ。彼の、異世界者としての第六感が、対手の正体を理解していたからだ!)
        ……来い、東ゴート王(オストロゴート・ケーニッヒ)
        -- アルヴィン
      • (耳に届く、久しく聞くことのなかった、その呼び名)
        懐かしい―――名だな……余の真名を知るか、ならば尚の事、遠慮は要るまい
        (対峙する、己の名を知る若者と。若き世代に討たれるならば、或いはそれも本懐であっただろう)
        (しかし今の己には、負けられぬ理由がある)

        ラセン!!
        (振り向くことなく、主に声を投げる)
        宝具を使う――――構わぬな
        (戦いの度に魔力の欠乏に苛まれる――この少年は本来、致命的に聖杯戦争に不向きなのだ)
        (己の宝具を使えばどれほどの影響を受けるかはわからない)
        (しかし、それでも、問う。その覚悟を、問う) -- 鎧のセイバー
      • ――――当然だ
        (答える声は明瞭)
        僕は死なない、妹を……アミアを救うまでは、決して死なない!誰にも負けはしない!! -- ラセン
      • よくぞ言った!
        (十全たる答えを聞き届け、大剣を大地に突き立てると、眩く輝く金色の光が溢れだす)
        (伝説に曰く―――その剣を大地に刺せば、金色の光と共に刀身を竜が駆け上がり)
        (また伝説に曰く―――それを手にすれば、竜は柄より剣先に向け駆け抜ける、生あるが如く)
        (大地の竜、即ち東洋で言うところの『龍脈』)
        (ドワーフの天才鍛冶師の手による宝剣、その正体は大地より巨大な龍脈のエネルギーを吸い上げ、己が力へと変える必殺の宝具)
        (大地の力を得て、真の姿を取り戻したその剣は、平時よりも更に一回り、二回りも大きく、正しく巨人の剣に相応しき威容を誇る)
        アルヴィン・マリナーノ―――余の最強の宝具をもって、お主に応えよう
        (高く掲げる剣は夜を溶かす程に眩く)
        ―――咆えろ -- 鎧のセイバー

      • 万魔征する黄金竜(エッケザックス)!!!!
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028448.png
        (放たれる、黄金の竜)
        (星を巡る力は破壊の化身となり、立ち塞がる全てを喰らい滅ぼさんと咆哮する!!!)-- 鎧のセイバー
      • (何度繰り返し読んだだろう。異国の物語を。妹と二人、英雄に花輪を贈りキスをすることを夢見て)
        (主は今、その英雄と戦っている。英雄の敵はいつだって打ち倒されるのだ)
        (彼らの闘いに水をさす事を恐れてはいるけれど、それ以上に主を失う事が怖い…!!)
        (音もなく足元に魔法陣が浮かび上がり、戦いを阻むべく詠唱を…………………………)
        (……………けれど、言葉はついに出ることはなかった)

        (主は今まで見たことのないくらいに力に、命に満ちていた)
        (英雄を前にして人の血を滾らせ、戦う様はなんて美しい。失いたくないのに、声ひとつ出ない)
        (物語を読む人間には物語を変えられない……そう神に言われているようだった)

        (…………その時、少年の声が聞こえた)
        (耳に響く妹という言葉。息をのむ。じゃあ、あの子は、昔のあたしと同じ…………)

        (金色の光が満ちる森の中……女は呆然と立ちすくみ……………………………………)

        っ…アルヴィン…!!!!!!!!!!!!!!!!!!
        (それでも必死に、主の無事を祈り、叫ぶ)
        -- キャスター
      • それでこそだ。それでこそ英霊。それでこそ聖杯戦争のマスター。そして、それでこそ! それでこそ……!
        (もはや疑うべくもない。真名開放。叙事詩に謳われた巨人も、竜をも屠りし対星宝具……それに対し、男は)
        (男の左手にあったものは)
        ……俺が俺でなくなるかもしれん。だがその一撃、あなたの物語を聞いて育った者として受け取らぬわけにはいかない!
        (ぎちぎちと音を立て変異が早まる。金色の髪が徐々にざんばらの白髪へと変わり、"鬼"が目覚め始める)
        (四眼のうち3つが赤へと染まり、アルヴィンの自我を示す青の輝きは残り1つのみ。その状態で、男の左手にあったのは……脈動する、心臓。その表面には、釘に穿たれたが如き痣。紛れも無き聖痕!)
        ekess Helz sia saic kornari, mobi geou qanesc ulsprungricheu(我が聖痕刻まれし心臓を生贄に、生まれよ原初の光輝)

        (ぐしゃりと。脈動する心臓を握りつぶした瞬間、あふれる。光輝が。抑え切れようのない光の力、アルヴィンの持つ原初の属性があふれる。ウィザード達が用いる天属性魔法、最強の一撃。その魔力がシャルラッハロートに伝う!)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028450.png

      • 神殺しの光炎(ディヴァイン・コロナ)ッ!!

        (雄々しき黄金竜に、原初の光輝が、激突した……ッ!!) -- アルヴィン、あるいは鬼
      • !!!!
        (ぶつかり合う、光と光、異界の英雄と異界の魔術師、その全力)
        (限りを知らぬ破壊力の激突により放たれる光の余波で、木々に背中から打ち付けられる)
        (と、同時に温度を失う体。強力無比なる宝具の開放により、これまでの比でない程に魔力が奪われ、瞬く間に意識までも刈り取ろうとする)
        (倒れてはならない、死んでなるものか、自分が死ねばアミアは助からないのだから)
        (強く保とうとする意識、目の前に流れる妹の記憶、白い花、遠き異界の国、荒れ果てた戦場)
        (その中で微かに一瞬、セイバーの名、その意味を真に理解するアルヴィンの事を)
        (少しだけ――うらやましく思った) -- ラセン
      • ……………
        (剣を支えに立つ、騎士の姿)
        (果て無き力の激突による余波は、周辺の木々を根こそぎ薙ぎ倒しては焼き払い、広大な森に円形の荒野を作り出していた)
        (満天に夜空が開け、頭上に輝く月は異界の戦士達を照らす)
        アルヴィンよ………余は、お主と戦えたことを心より名誉と思う
        (倒れた少年の無事を確認し、安堵。されど、最強の宝具を放った今、もはや戦う力は無きに等しい) -- 鎧のセイバー
      • …………。
        (はたして。月光のスポットの下、佇むアルヴィンは、鎧さえも纏ってはいなかった)
        (全身全霊の一撃。己に力を与えた二人の戦士のうち、"人を救い続けた吸血鬼"の心臓を魔術媒介にするという異形の技)
        (文字通りの切り札である。今やはだけたアルヴィンの鋼鉄の左胸にはうじゃけた傷口があり、かろうじて体内に残されていた血液……そう、不死の吸血鬼の血液が、己の焦点具たる心臓を遅々に再構成している最中だった。はたしてどれほどの時間が必要か、わからない)
        ……よくもまあ、五体が無事だったもの、だ……(膝をつく。全身がひび割れ、魔力は一縷として感じられない。"鬼"の暴威さえも、宝具の威力によりこそげ取られてしまったというわけだ)
        (ほとんど黒ずんだ髪をざんばらに流し、赤い色を失った右目を瞬かせる。二度三度、頭を振ると左目で対手を見つめた)
        ……ディードリッヒ・フォン・ベルン。よもや、あなたがこの世界に召喚されているとは夢にも思いませんでした。
        屠龍の王。ヒルデグリムを頂くフン族の闘士。まさかとは思っていましたが……あなたがたに固執した理由も、今ならよくわかる。
        (瞑目。東ゴートの王、テオドリック大王にまつわる冒険譚。かの不死者ジークフリートとの戦いも謳われるサガを知らぬドイツの男はいない。アルヴィンもまた同様だった)
        あれは今の俺が出せる、最大最強の魔法でした。……黄金竜は今俺を屠るべきだと判断しなかった。その幸運に感謝と敬意を払いましょう。
        (そこで咳き込んだ。キャスターが過去夢で垣間見た、あの頃のアルヴィンのように、喀血する。だが口元の血を拭い、何事もないように男は立ち上がる。ふらつきながら)
        ……今宵の決闘。ひとまずは水入り……と、いったところでしょうか。あいにくともう、俺に戦う力はない。そしておそらく、あなたにも。
        -- アルヴィン
      • (いつか自分達が英雄の物語に心を躍らせたように……主もまた。いいえきっとそれ以上に。だって彼は男だ)
        (自分の生まれた国の、物心ついた頃から聞かされてきた物語の英雄を前にして、全力を出さないわけがないのだ)
        (夢で見た、共有した記憶の中で見た動作。あれは自分すら焼く……)
        ……っ 馬鹿っ!!!
        (実際は違う技だったけれど、心臓を握りつぶした事には変わりない)
        (光に飲み込まれて、もう魔術で彼を庇う事もできない風に長い髪がばら撒かれて……)

        (……光でくらんだ目が戻った時、まず主を見て卒倒しそうになった。何とか生きてはいるようだった)
        (最低限の結界しか張れなかったせいで少年を守る事もできなかった。視線をめぐらすと…怪我はない、とは言いがたいけど、少年の姿を見つけられた)

        (はあぁ…と盛大にため息。自分の主の元へ駆け寄る)
        (手を出してはいけない。でも、もう戦いは終わったから……主を後ろからそっと支えた。白いドレスに血が滲む)
        (いいたいことは山ほどあるけど、今は口は出さない。ただ触れたところから魔力をじっと流し込む事に集中していた)
        (英雄の語らいを邪魔するのも嫌だったから)
        (あたしだって……こんな物語の英雄は大好きだったんだから)
        -- キャスター
      • ……嬉しいな、余の名を知り、我らの生きた記憶を継いでくれる者達がいるというのは
        (かつての王は知る。彼の時代を生き抜いた人々の軌跡、それらはまだ朽ち果ててはいない)
        (そして何よりも、かくも気高く強く、若き世代が育っている。それらは純粋な喜びとして、遠き過去の英雄の胸に染み渡る)
        ―――そのようだな
        (剣を鞘に収め、静かに主の下へ歩み行く)
        …今宵の勝負は引き分けとしよう、再び運命が巡るのであらば―――今一度、決着の時は来るであろう
        (少年の体を抱え上げ、決闘の終焉を宣言した) -- ディートリッヒ・フォン・ベルン
      • 寝付けない夜には、よく姉さんの語ってくれるあなたの冒険譚を聞かされたものです。劇を見に行ったこともある。
        (屈託ない笑い。しかしいかに憧れ親しんだ英雄であれど……いや、だからこそ。いずれ戦うべき,敵なのだ)
        (しかして、今宵はその時ではない。引き分けを告げる王騎士に対して一礼し、見送った)その少年にも、よければシズレクのサガを聞かせてやりましょう。時があれば、ですが。
        (そして振り返り)すまないな、キャスター。……戻るとしよう。戦いは、ひとまず終わった。
        (よろけながらも自らの足で歩き出す。恐れも、憂いも、何もかも。昇る月光のように、白々と失せていた。少なくとも、今この時だけは……)
        -- アルヴィン
      • (王に動作のみで挨拶し、二人を見送る。子供の頃から読んでいた本の主人公に会えたようなアルヴィンの嬉しそうな顔)
        (複雑な気持ちで見上げていた。そのまなざしはやはりキャスターとは変わらず、感情を豊かに伝える)
        ……いいたいことは山ほどあるけどね、今はいいよ。
        (短く呟いて、歩き出す主の背中を見て……大きくため息)
        一人で歩かないで。すまないって言うならそれくらいききなよ。
        (不機嫌そうな顔で言っておいかけて…無理矢理支えて歩く)
        (支えながら少しだけ振り返り……妹がいるという少年を想う。大きな怪我がないといいけど…そんな事を考えて、また主と共に歩むのだった)
        -- キャスター
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif きえてしまうもの。残るもの。
    • 「教会に人がいる…何かする気はなさそうだけど…ちょっと見てきますね」
      と、使い魔の狼を置いてキャスターは偵察に出た。
      すぐに帰ってくる距離のはずなのに、なかなか帰ってこない。
      辺りは静か。教会に魔術を使われれば反応するアミュレットも反応なしで、戦闘をしている様子もない。

      そして2・3時間たった頃……キャスターは何事もなかったかのようにひょっこりと帰って来た。
      • ただいまですー!アーチャーさんにお会いしましたよ!!
        ほらほら、前にマスターが瓦礫の街で会ったっていう「おじさま」です!
        あそこ聖杯開始と同時にああなったじゃないですかーなので気になって見に来たみたいです。上手く誤魔化して帰ってもらいましたっ!
        やー大人の人ーって感じで渋くて優しい人でしたよーマスターも将来あんな感じになるのかなーって思うと……
        (宿の窓に腰掛けて出て行くときと変わらない口調で一人で喋る。喋り続けた)
        (でもその笑顔はぎこちなく、瞳は少し赤かった。よく見れば泣いていたのだとわかるけれど、なるべく笑顔を作って見えにくくしていた)
        -- キャスター
      • アーチャー?(おじさま、という言葉を受けて頭のなかで検索する。セアラの連れていた「ジョンおじさま」か)
        彼は情報収集を怠らない手合いのようだな。魔術を能くするものであれば気付きもしよう。
        (右目を閉じたまま話に耳を傾けつつ魔術により遠見を行っていたアルヴィンだが、ふと顔を上げた)
        ところで。さっきからやけに喋り倒しているが、一体何があった。あれが即交戦に入る手合いとは思えんが、何かは起きたな。
        (いちいち充血した瞳などを見るまでもない。アルヴィンほどの魔術師ともなれば、サーヴァントの思考波を表層から読み取ることも契約していれば可能となる)
        ……まあ、彼はおそらく相当の戦場を渡ってきた英霊だ。聖杯戦争にも思うところはあるのだろうな。
        -- アルヴィン
      • まー不自然ですもんねあんな茨で一歩も中に入れない上に切っても切っても再生してくるし、
        それでも中にはいったら時間停止の魔法に巻き込まれかねないしで……変なところですもの。昔の聖杯戦争で戦いがあった場所ですしねー。
        (明るい口調で答える……今まで口にしたことのなかった、キャスターが思い出していなかったサーヴァント化直前の事を交えて)
        (記憶が全て戻っている。アルヴィンならすぐにわかる事なのに、言い出さない)
        (とても落ち着いた様子で、微笑む)
        ……沢山、お話をしました。あたし達の事、英霊の事……それだけなのです。マスターが心配する事は何もないのですよ。
        -- キャスター
      • …………。
        逆だキャスター。サーヴァントは従僕(サーヴァント)に過ぎん。隠し事は許されない。
        (術式を中断し)もっとも、お前の性格からすればそんなことは出来るはずもないが。
        あの教会に何があるか、そして何が起きたのか。俺はお前に話した覚えはない。いらぬショックを与える可能性があったからだ。
        (開いたままの左目でキャスターを見据えた)思い出したな。俺が直接いた時のことはおろか、例の戦いのことまで想起しているとは。
        だがなぜそれを隠す? ……お前は何を恐れている? キャスター。
        -- アルヴィン
      • (いつもだったら。ついさっきまでだったら、ごめんなさいと言って涙の訳を、思い出したこと全て主に打ち明けただろう)
        (けれど数時間前までの少女とは別人のように、同じように装っている何かのように、見据えられても動じる事はなく)

        話したくないといったら……令呪でも使って言わせますか。
        (挑発的とも取れる態度。でも)
        ……嘘。もったいないですものね(目を閉じて、一呼吸)……ええ、思い出しました。何もかも。
        ……英霊契約の時にマルチナが飛び込んできた事も………貴方と初めて会ったお祭りの夜も。

        ……あたしの願いも。

        まだ自分の中で整理できなくて。だから、黙っていようと思ったんです。
        (半分本当で半分は嘘。どうしていいかわからなくなったのは本当だから)
        (思い出した願いを口にしようかしまいか迷って、俯く。彼の言うとおり怖いのだ。これから何もかもが変わってしまう事が…)
        (小さく体をすくめて、黙り込んでしまった)
        -- キャスター
      • そうか。……まあ、恐れるのも無理はない。お前はもともと、マルチナの魂が混ざり合い、記憶の忘却という前提で構築された人格だ。
        それが記憶を蘇らせることで、今のお前という人格が消えるかもしれない。……あの時にも言っていたが、十分にあり得ることだろうな。
        (それを「わたしはわたし」と言っていたのは当の本人なのだが、実際にこうして思い出してみれば、喪失の恐怖に怯えるのは当然のことだろう)
        ……せっかく秘密を話させたんだ、この際だし俺も1つ嘘を暴露しておくとしよう。
        あの夜。俺がキリルと出会ったのは偶然じゃあない。俺はキリルがキリルだとわかって近づいたんだ。自然に出会ったのを装ってな。
        言い訳するつもりはない。だが、キリルを聖杯戦争という事実に近づけないためには、俺に対する印象を極力薄く、悪くした上で分かれなければならなかった。
        ……さすがに、その肉体の限界が近づいているとは俺にもわからなかった。結果としてはこのとおりだ。俺も、このことは黙っていようと思ったが……。
        (これでおあいこだな、と苦笑いした)キャスター。もしお前が今の状態で"英霊契約"を使ったなら、お前はどうなる?
        -- アルヴィン
      • あれは……偶然じゃなかった?じゃあ…ああ、そうか。聖杯のこと……そうか。
        あの時、小さく呟いた声。気のせいかなって思うくらい小さな…謝罪の。あれは…嘘をついたから……?
        (さすがに彼の話した事実には驚いて、顔を上げる。小さな疑問が一つ消えていった)
        そうか……あの時にすでに、あたしの事考えてくれてたんですね。
        (主と同じく、苦笑い。あの時の娼婦と同じ、大人の顔)

        多分……ね、次に宝具を使ったら、大人の姿に戻ると思います。この半端な姿も、あたしも消えてしまうと思います。
        ……ごめんなさい。そばにいるといったばかりなのに。あたしはあたしと言ったのに……貴方を傷つけるかもと思ったら怖くていい出せなくて。
        (体を小さくしながらも、彼をまっすぐに見る)
        (金色の瞳には強い意志。今までの少女になかったもの)
        でも、あたしが消えてしまう事になっても…宝具、使ってください。
        力を貴方に捧げさせてください……戦わせてください。
        あたし……貴方のサーヴァントでいたいんです。
        -- キャスター
      • ……だろうな。(推測できないわけがない。だからこそあえて聞いたのだ)
        (そこで彼女が嫌だ、というのならば、アルヴィンとしても他の方策を探すつもりではいた)
        (だが、帰ってきたのは痛々しいまでの献身の言葉。その想いが双肩にかかり、拘束術式で奥底に封じ込めた思い出を去来させる)
        お前がそこまで覚悟しているなら、俺もそれに応じよう。もとより、お前にこれ以上無理強いをするつもりはない。
        あの時の英霊契約以降……あそこで顕現したという存在。あれはおそらく、俺のこの体に残る妖魔の血が生み出したものだろう。
        (彼の身体はもともと別の人物の持ち主だった。鋼の肉体も、その血液も)
        俺はかつて、二人の男の死を看取った。一人は退魔のために己を概念にまで押し上げた男。そしてもう一人は、吸血鬼でありながら人を救い続けた男。
        俺は彼らの……果たせなかった無念を、その血と身体とともに受け継いだ。その残滓が、あの鬼を呼び寄せたのかもしれん。
        (次に使えばどうなるか。精神を集中し、安定させ、何重もの術式をかけた上で自我を残せるかどうか、ひとつの賭けだ)
        だが、この壁を乗り越えられなければ、聖杯戦争を勝ち抜くなど土台無理な話だ。
        ……すでに、決闘の約束を整えてある。あの鎧の英霊、なぜだかはわからんが他人とは思えん。正面からぶつからなければならないと感じた。
        ライダーとブレイズ、彼らと戦った時とも違う、正面から、俺達の意志で臨む戦いだ。……お前にも、覚悟してもらうことになる。
        -- アルヴィン
      • (縋るような瞳を、彼が苦しむとわかっていつつも、向けてしまう)
        (これで最後だから。大人に戻ったらもう、「あたしはあたし」……こんな風に純粋に、素直に振舞う事はなくなる)
        (だから伝えておきたかった。「キャスター」の気持ちを全て)
        ありがとうございます……ちょっとは無理とか言ってください。申し訳なくなっちゃうのです。
        (くすりと笑う。主の優しさが嬉しくて……憧れていた「絆」を感じて嬉しくて)

        (主の話した事は、夢で見たものにつながる。あの人たちはやっぱり死んでいたのかと知ると…胸が痛んだ)
        (まっすぐで、まぶしい人たち。あの人達を失った悲しみが、鬼を、あの姿を制御不能にさせているような気がした)
        (確信はない。宝具の発動が不完全だった可能性のほうが高い)
        不完全なサーヴァントのあたしが、不完全な状態で、貴方を信じられないまま宝具使ったから駄目だったと思うのです。
        ……今度は、きっと…大丈夫。
        記憶も全てある。不完全なサーヴァントには変わりはないけれど……貴方の力になりたいという気持ちがきっと、上手く「可能性」を引き出してくれる…。
        ……任せてください。この間お話してた騎士の方ですよね?

        (不安はある。足が震えるほどに。だけど……戦うんだ。この人のために)
        きっと、必ず、お役に立ちます。
        物語に出てくるような騎士と美しく戦えるようにしてみせます。
        だから……「あたし」の事、覚えててくださいね。蓮っ葉な女になっても。ふふ。

        これはあたしのわがまま。背負わなくていいから。あたしは変わらずそばにいるから。馬鹿な女をたまに「あたし」に重ねてください。
        貴方をただ大好きなあたしも、ひねくれ女の中にいるんだって、覚えててください。

        ……心の準備は、もうできているのです。貴方があたしのマスターになってくれた日から。
        -- キャスター
      • (ふっ、と。そう続けるキャスターの身体を、何かが包み込んだ)
        (冷たく硬く、しかししなやかでおおらかな、鋼の肉体。壊さないように不器用ながら、アルヴィンの片腕がキャスターの身体を抱きしめ、頭を抱いていた)
        ああ。俺はお前たち三人のマスターだといった。何も心配はいらん、キャスター。
        (恐れるのは自分だけでいい。慄くのも己だけでいい。哀しみを受けるのも己だけでいい。だからどうか、この少女の心には今しばらくの安らぎを)
        (神にも魔にも苛まれ続けた男は、今一度。この世界におわすであろう、何も知らぬ神にそう祈りを捧げた)
        -- アルヴィン

      • (不意に、視界がさえぎられる)

        (あれ?)
        (……あれ?)
        (涙で前が見えなくなっちゃったのかな。え、なんだろう、どこかおかしい?)

        (……しばらくは本当に、何がおこったのかわからなくて)
        (それが、マスターの腕の中だと気づいた時は、涙で本当に前が見えなくなってた)
        (もっとぎゅうっと抱きしめられてたら早く気づいたのに。びっくりするくらい優しく抱かれてて)
        (抱き返すのも、躊躇うくらい)
        (自分から思いっきりしがみついて、大丈夫だよ、壊れないよって、教える)
        (頭に触れる手も、体も冷たくて。でもそれは彼の特有のものだから、冷たさが嬉しくて)
        (彼がどんな気持ちで、どんな苦しみを乗り越えてこうしてくれるのか、それがわかるから)
        (嬉しい)

        マスターは、優しいです。
        ……だから、あたしは、貴方が苦しむとわかっているのに、それが辛いのに、求めてしまうのです。
        戦わなくても、きっとそのうちあたしは元に戻る。だけど……貴方の手で戻して欲しいって思ってしまった。

        (ああ神様)
        (生きてるときもろくに微笑んでくれなかった神様)
        (どうかこの人を守る力をあたしにください……心まで守れるちからを…!!)

        駄目なサーヴァントでごめんなさい……わがままで、ごめんなさい……。
        貴方のサーヴァントになれてよかった……。

        (泣きじゃくりながら、小さな少女は幸せを囁き続ける)
        (この先うまくいえなくなってしまうだろうから……)

        行きましょうマスター。戦争を始めましょう。
        (腕の中で、少女は微笑む。今迄で一番、幸せな笑顔)
        -- キャスター
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  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 楽しい日の帰り道
    • もー!!ますたーってば折角のお誘いを断っちゃって!!史楼さんしょんぼりーってしてましたよー!
      (主の後を小走りで追いかけながらぴょんぴょんはねる)
      あたしだってカレー食べたかったのに!!…ええもちろんついていくつもりでしたとも!!

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      exp028433.jpg 
      http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

      (賑やかにしゃべり倒したあと、ぴょん、ぴょんと飛び跳ねて後ろをついていきながら、少しだけ大人しくなる)
      (背中から遠ざかって、一気に飛んで追いついて、また遠ざかってを繰り返しながら)
      ……マスターの言う事がきっと、正しいのだと思いますけどね。
      今日は楽しかったですね!マスター、とっても楽しそうだったのです……あたしといる時よりも。ふふっ。
      -- キャスター
      • いや。
        ……お前や史楼の気持ちを考えたのであれば、俺の返答は間違っているのだろう。
        つまりあれは、俺の我儘だ。俺が、俺として考えて出した、結論だ。
        (振り向かないままそう答える。二人の距離はアルヴィンからみて半歩、キャスターからみて1歩)
        楽しかったのかどうか、俺にはわからん。だが、普段の必要最低限の栄養補給よりは有意義だったと思える。
        この体になって、酒に酔うことはなくなった。ただ慣れ親しんだ味と、過去の酔いという感覚に思いを馳せていただけだ。
        ……今日は、酔えたかもしれん。そういう意味では、ああ、たしかに有意義だった。
        (噛みしめるように言って)どうした。てっきり「どう振る舞えば私といるときにも楽しくしてくれますか。言うとおりにします」くらいは言うと思ったが。丸くなったな、キャスター。
        -- アルヴィン
      • (一歩分遠ざかって、ぴょん。一歩分遠ざかって、ぴょん。足元を見ながら)
        史楼くんは大丈夫ですよ。お酒の約束をしたでしょう?
        ちゃんと覚えてるといいですけどね…セイバーさんも聞いていたから上手くつたえてくれますね、きっと。

        (ぴょん)

        (主の、何かの言い訳にも聞こえるような自己分析にくくっと笑いをこらえる)
        (ずっと自分の感情を胸の奥に押し込んできた人なのだからこういう物言いになるのはよくわかるけれど…それにしても)
        ……マスターってクッソ真面目ですよね。だからそんな風になっちゃうんですよー。
        それが「楽しい」というきもちなのです素直に言えばもうちょっとかわいk……ぶふっ!!
        (さらに彼の続けた言葉に笑いがこらえきれなくなってしまってふきだした)

        前言撤回なのです。ユーモアは結構ありますです。なんです?あの時めっちゃ問い詰めた事まだ根に持ってるんです?!

        (ぴょん)

        …そう思わなかったと言ったら、嘘になると思いますけど。…気づいてました?マスター、史楼くんを見てちょっと笑ったのです。
        貴方もそういう風に笑うんだって思ったら嬉しくて…やきもちなんかわすれてました。
        マスターに必要なのはきっと、ああいう人達……一緒にいてほっとする、まぶしいくらいのいい子たち。

        ああでもーあたしも笑わせたいです!!「どう振る舞えば嬉しいです?言うとおりにします」!!
        -- キャスター
      • それを俺が答えたら面白くなかろう。お前なりに考えてやってみろ。
        ……だがそうだな。あえて言うなら、これから宿に戻ったからと言って「今日の晩御飯はカレーがいいです」などと言い出すサーヴァントは、俺は御免こうむる。
        (ぴしゃりと言って歩く。笑っていた。……自分なりの変化があったということか)
        だが、どれだけ心を通じ合わせたとして……いずれは闘う。戦わずとも、どちらかが、下手をすれば両方が倒れることになる。
        ……だからこそ、一時であれああした時間を求めるのかもしれんがな。俺にはなかなか出来んことだ。
        (戦う相手など、殺す相手など心を通じ合わせないほうがいいに決まっている。相手を理解すればするだけ、待っているのはそのぶんの時間を背負うという事実だ)
        ……俺は、お前との時間で自然に微笑めるようには、なりたくはないな。
        (聞こえるかどうかの程度で言葉が出た。相手よりもなによりもサーヴァントとの別れは必然だ)
        (ましてや、キャスターという人格はあくまで不完全な記憶と魂の螺旋がもたらしている一時的なものにすぎない)
        (それを一個の人格として数えたとしても、キャスター……キリルが記憶を取り戻せば、この天真爛漫な少女の相は見られなくなるのだろう)
        (それを背負うことは、怖い。いや、誰のものであれ、誰かの命や覚悟を背負うのは怖い。怖くて仕方ない)
        ……怖いからこそ、笑顔を求める。そういうものか。
        -- アルヴィン
      • わかんないから聞いてるんじゃないですかーううっ…カレーまで駄目なんです?!意地悪…!!
        (ぶーぶーと口で言って、子供みたいな歩き方を続ける)
        (彼は今笑っているのだけど、背中を追いかけているから気づけない。ほんのり怒った顔かもとまで思っていた)

        (アルヴィンの言葉に胸が痛む。彼の人生を考えればできなくなって当たり前だ)
        (回りくどい考え方をしなければ「楽しい」という感情に気づかないほどになるのも、当たり前だ)
        (だから余計に嬉しかったのだ。嫉妬なんて吹き飛んでしまうくらいに)
        (彼は沢山のものを背負って、その重みで下を向いているから、いつも暗闇しか見えない。)
        (だけど、あの子達といれば、その暗闇が少し明るくなって、歩きやすくなるんじゃないかって)
        (それが後に彼を苦しめる事になるとわかっていても……あの子達なら、この人をいい方向へ変えてくれるんじゃないかって)

        (それを口にするのは、何となく躊躇われて)(…だってとても漠然とした期待だ、自分勝手な)(黙ってしまった)

        (……………………だから、小さな声でも聞こえた)
        (嫌われてるのかな。一瞬そう思ったけど、そうじゃない。「彼の人生を考えれば」……それは)

        (もっと……「特別」だということ)
        (失うのがもっと怖いって、言ってもらったようなもので…………)

        ……マスターは意地悪なのです。     (あたしは、最低だ)
        どーせあたしはうるさいだけですよーだ。 (嬉しいと思ってしまった)

        (苦しめたくない。安心をあげたい…どうしたらいいか必死で考えて…………)

        ……意地悪な人には意地悪をしましょうか。
        ……ずーっとうるさいままでまとわりつくのです。
        聖杯を手に入れて、マスターがすごーーーくつよくなったあとも、ずっと。

        だから、怖くないですよ……笑ってほしいです。マスター。

        (少女はとても柔らかく、優しく囁く。他には規則正しい靴の音だけ)

        あたしはちょっと姿変わっちゃうかもしれないけど……でも、あたしはあたしです。

        (まだ「願い」は思い出せない。でも、きっとこの人と一緒にいることより大事な願いなんてあるはずがない)
        (……この時はそう、思っていたのだ)
        -- キャスター
      • 子供は独り立ちをするものだ。いつまでも俺のあとをついてばかりでは成長しないぞ、キャスター。
        (そういえば。父親などと呼ばれていたような気もした。だから、ちょっぴりその気になって小言を言う)
        当然、聖杯戦争自体もな。これから先、参加者たちは史楼やブレイズのような真正面な人間ばかりではない。
        あのアサシンのように、狡猾な手を使うものもいるだろう。そうした相手には、二人一緒にこうして歩いているだけでは対抗しきれん。
        (だから強くなれと。たとえキャスターという人格が溶けて消えるとして、おそらくはここまで得た記憶と経験は喪われない)
        (ならば、自らが緩慢なる死を迎えることを憂い、あのような荊の城に閉じこもったキリルの心にも、おそらくは変化が必要なのだ)
        (あの夜のことを思い出す。関わらせまいとしていたのが結果として、様々な要因の結果この形になった)
        (責任はある。それだけで戦えるほどアルヴィンは強くない。さりとて、彼女たちの魂を全て背負えるかといえば、それも難しい)
        (己の全てをさらけ出し、苦痛も何もかもを彼女たちに渡すことはなおさらだ。それは、自らが折れて朽ちるよりも恐ろしいことだ)
        (ふっと、二人の距離が変わった)
        (アルヴィンから見て一歩、キャスターからみて一歩と半分)
        (しかしその距離は、アルヴィンが立ち止まり、ひょいと飛んだキャスターの後ろにいたからだ)

        ……努力はしてみよう。
        (ぎこちなくそう言った彼の表情は、ほんの少し、どうしようもなく不器用だが……確かに、笑っていた)
        -- アルヴィン
      • (突然大きな背中が消えて、視界が晴れた)
        (立ち止まり、長くてボリュームのある髪を揺らして振り返る……)
        (その笑顔は)
        (とてもぎこちなくて)
        (……無理しないでいいですからっ!!ってあわててしまうような笑顔だった)
        (でも、あわてる事も、笑い返すこともできない。何も装う事ができない)
        (嬉しくて、心がむき出しにされてしまう)

        (……きっと、あたしは泣き出しそうな顔で見ていた)

        ……えへへ。(やっと返せた笑顔は彼と同じくらいぎこちなくて)
        「子供」じゃないですよー妻ですもん。宿の女将さんに評判の良妻なのです。
        (もっというべきことがあるのに、いつもみたいに冗談を言って)

        大丈夫です。迷うとは思います…でも戦います。
        貴方は戦わなくてもいいといってくれた。
        そんな優しさをくれた貴方のためなら…戦える。
        力を与える宝具しかないけれど…サポートだって人間の姿でもできるとおもうから。

        あたしは貴方のサーヴァント。それを今とても誇りに思うのです。

        (息を吸って、まっすぐに見つめて、応える)
        (薔薇色の頬をして胸を張って笑う)

        ……一緒に並んで帰りましょう?

        (その場で主をじっと待つ。一緒がいいのだ。楽しいのも、辛いのも、彼と)
        (後ろからなら支えられる。前からなら引っ張ってあげられる、でも……隣で全てを分かち合えるようになりたい)
        (そんな願いを こめて)
        -- キャスター
      • その背丈で妻というのはやめてくれ。別の疑いがかけられる。
        (やれやれ、とため息をついて言うと、そのままカツコツと歩き出す)
        (多くの言葉に応じる返答はない。だが、確かにキャスターの歩調に合わせてその足取りはゆったりしたものとなっており)
        (夕暮れの黄昏のなか。宿へと帰る二人の距離はゼロ。親子のようにも、歳の離れた兄妹のようにも見える背丈の差のまま、並んで歩いていた)
        -- アルヴィン
      • ……どうしてです?(いわゆるロリコンという言葉がなかなか思い浮かばなくて、きょとんとしている)
        (二人で並んで歩きながら、そのうち「まあいいかー!」とにこにこ主を見上げててくてくと)
        (いつの間にか、小走りじゃなくてよくなっていたことに気づいた)

        (あたしに合わせなくてもいいんですよ。マスターの歩調に合わせますから)
        (……そう言うつもりなのに、口から出なくなってしまって)
        (だって、マスターの歩調だったら宿にすぐに着いてしまう)

        (夕暮れ時の一番綺麗な時間)
        (いつもよりゆっくり歩いてるのは、きっともう気づかれているだろうけど)


        (今はまだ、もう少しこのまま…………)
        -- キャスター
  • 雲ひとつ無い、晴天の日 カラッとした空気の中 にぎやかな街中で

    • (黄金暦の何時か、気にも留めていない日常)
      (何時も通り、定期的に食材の買出しをしなければ、
      飢えでまともに戦えなくなっている宿命を背負った二人は、商店街のような場所で買い物袋の山を量産していた。)

      ああ、もう セイバー!お前もうちょっと計画的に買うものを選べよ!すいません、これあとで届けてもらってもいいですか?

      (そんな風に、店員と話をしていると。向かいから歩いてくる人影を見つける)
      (街中なのだから、そんなことは当たり前なのだけど、それは見知った姿で。)

      …こんにちは、アルヴィンさん。

      (鉢合わせしたオレは、気まずそうに挨拶をするしかなかった。) -- 史楼
      • (モノクルをかけた黒金の髪の男は、特に気まずさもなく二人を目視した)
        史楼、それに今日はセイバーもいるのか。……相変わらず、聖杯戦争の参加者としてはらしくない振る舞いだな。
        だが、だからといってそれを咎める必要もあるまい。令呪を曝け出したまま町中を歩いて挑発する輩もいるくらいだ。
        それに……(ちらりと背後を仰ぎ見た)
        今日ばかりは俺も偉いことを言える立場ではない。キャスター、早くついてこい。置いていくぞ。
        -- アルヴィン
      • どーせ全部胃の中に収まるのじゃろう?ならば無駄にはならんし問題はない。かかか、おやつもたっぷり買えたしのう。

        ん。お主は……。

        (マスターの後ろから、以前、話しかけられた聖杯参加者の顔を見て)

        ……ふむ、奇遇かこれは?まぁ、よいがの。
        ほう、そやつがヌシの女か。ドーナツはちゃんと渡せたのかのう?

        (からかうように笑った) -- セイバー
      • (ひょこ)ますたー(ひょこ)どなたですー?(ひょこ)
        (背の高いアルヴィンの後ろから前を覗こうと赤い髪がぴょんぴょんはねる)
        (ひょこ)(最終的には彼の横から覗き込んできた)

        こんにちは!あれっ ドーナツって…この間の……。
        (ある日主が持ってかえってきたもの。直後の戦闘のさなかにあっても奇跡的に無事で、つぶれてしまっていたけど二人で食べたのだった)
        (一瞬中のいい女性かと思って、むむっとなったけど……)
        ……お、おんなっ?!や、やだ、その通りかもですけど…えへへへへへっ。
        (また一瞬で上機嫌)

        (主も相手も敵意がない。自分だけが二人を知らない…話は聞いてはいるけれど)

        (んー…とちょっと考えて)

        ねっねっ、よかったらこれから一緒にご飯でもどうですか!!今から酒場に行くんですよー。
        (能天気に誘ってみる。主は呆れると思ったけど。自分も二人のことを知りたいと思ったのだ)
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 21:45:36

      • (令呪で挑発云々と聞いて、自分はそのような意図は無いにせよ、少しドキリとしながら)
        (アルヴィンの背後から現れた少女に視線を向ける、それはずいぶんと見下ろすことになった。)

        お、おお… オレはいいけど。あんたのマスターとセイバーが… どうかな…?

        (キャスターと呼ばれた少女のテンションに、若干飲まれながらも主導と他へ擦り付ける)
        (何故かって?アルヴィンさんが恐いからに決まってるだろ!?) -- 史楼
      • どうした、ずいぶん引け腰だな史楼。俺相手に啖呵を切ってみせた男だとは思えんが。
        (薄く笑いさえして冗談めかす。二度目の邂逅ではあるが、若干雰囲気から棘が抜けているように思えるだろう)
        お前達を相手に、聖杯戦争云々を語っても仕方はあるまいだろうな。
        キャスター。妙な勘違いをしていないで彼らを案内しろ。そもそも食事を提案したのはお前だ。
        (踵を返し、ふと)ああ、あれか。……まあ、紆余曲折はあったがな(セイバーに応じた。その結果の、このわずかな柔和さといったところだろうか)
        -- アルヴィン
      • (挙手。そして即答)

        わしは別に構わぬぞー。
        買い物も終えたしのう。ちょうど暇をしていたところじゃった。

        (アルヴィンから返事を返されれば、少々驚いたように)
        ほう。そうか。なんにせよわしのチョイスは間違ってはいなかった、ということか。
        よかったのう、キャスター。そんじゃあ、張り切って案内してもらおーかー。

        (サーヴァントだというのに特に警戒もしてない様子で、アルヴィン達の後ろにつく。ドラクエか、と突っ込みたくなるような縦一列が完成した) -- セイバー
      • (セイバーのほうはだいぶ年上なのだろうけど史楼と呼ばれた少年は歳は同じくらいだろうか)
        (同い年、というものと縁があまり無く生きてきたのでそわそわと珍しげに見上げる)
        (……普通の少年に見える。それっぽくない気がする)
        (だからだろうか、仲良くできそうという予感がした)
        (そういう参加者にまだ出会っていなかったから)

        (主は呆れ……あれ?)
        (自分から言ったんだけど。アルヴィンのあっさりした態度にくわっと振り向く)

        ……へっ?!いいんです?!
        な、なんです、マスター変なものでも食べた?!       あっ いや、いきましょういきましょう!!

        (気が変わらないうちに、と いそいそと先頭を歩き始める)
        (よかったのう、という言葉は一緒にご飯を許されてよかったな、という意味に受け取ったらしく)
        えへへ、はいっ!ご案内しますね!
        (嬉しそうな笑顔で振り向く)

        (ちぐはぐというか。お父さんと子供達のような集団が一列に歩く様は注目の的になるのだった)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif とある酒場

        (……………………………………そんなわけで酒場)
        (どこにでもあるような、ちょっと手狭で賑やかな丸テーブルが沢山のお店)
        (主の隣でめにゅーを見つつ、ちらちら二人を見る)

        マスターが、こんな風に他の参加者の人とご飯を許してくれるとは思わなかったのです。
        なんです、魔法でも使ったんです?あたしより気に入られてません??
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 22:39:03

      • いや、気に入られてはないと思うぞ… 実際最初にあった時殺されるかと思ったし…
        (机の対面から、耳打ちするようにキャスターにだけ向けて、小さな声で話す)
        (実際、そう思っていたし それを聞かれて眉一つでも動けば 命が危ないかと思った。びびりすぎである)

        (セイバーが独占する、こちら側に当てられたメニュー表を横から覗いて、オレンジジュースのフレッシュと
        量が多そうなフライドポテトや肉料理を適当に頼もうと、決めて)

        よくこういうところには来るんすか…?

        (問いかけてみた。自分も、こういう風に誘われるのも以外であれば
        外食をする姿も想像できず、ついておきながらも疑問で頭がいっぱいだった)

        (そうしてる間にもセイバーの注文が聞こえてくるが、あまり頼みすぎるなよ…と念を送る) -- 史楼
      • 聞こえてるぞ。
        (瞑目していたアルヴィンが史楼にぴしゃりと言う)
        そう構えるな。前にも言ったが、俺はお前達に勝てる気はせん。だから戦わない、それだけのことだ。
        誰よりもそれを望んでいない者がここにいる。それも理由の1つだがな。
        (言外にそれがキャスターであることを暗喩しながら、運ばれてきたエールを一口呑んだ)
        食事はあまり必要ない身体でな。だが昔の……前の世界にいた頃からの習慣で、こうして酒はよく飲む。
        ドイツ……ああ、俺の国のことだが、酒の旨いところでな。この世界の、この街の酒も悪くはないが、やはり故郷のドイツェンビールが一番口にあう。
        そういうお前達はどうなんだ。見たところ、かなり財政的には苦しそうだが。
        -- アルヴィン
      • ついでにコイツも、っていうかここのライン全部おなしゃーす。

        (当然そんな念は届くこともなく、追加注文が雨霰がごとく増えていく)

        まぁ停戦協定と受け取っておいていーんじゃないかの、それ。わしらは、あれじゃ、今は見に回っておるからな。様子見期間中じゃし。

        (むしゃむしゃと美味しそうに出てきた料理が平らげられていく。相当お腹すいてたんですね。)

        まぁ食べ盛り育ち盛りな男女が屋根一つ下で暮らしておるからのう、そりゃあ財政難にも陥るし、ご近所様から生温かい目でみられても仕方がないってわけじゃよー。
        あ。これ美味しかったからおかわりでおなしゃーーーす。(ウェイトレスさん呼ぶ) -- セイバー
      • (おっかなびっくりそっと耳打ちする史楼にくすっと笑う)
        そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ……でも気持ちはよくわかるのです。もうちょっと笑ったりするといいんですけど(ひそひそ)
        (主の態度もまたなんだかおかしい)
        (ここ最近少しだけ柔らかくなったって言うのもあるけど、勝てる気がしないとか、キャスターを気遣うような言葉とか)
        (自分もエールをぐびっとのみながら嬉しそうに笑う)
        あたしもお酒好きだし、マスターとこうやってお話しながら飲むと嬉しいのです。

        み、皆でいろいろたべましょうね!(セイバーの食べっぷりと財政難らしい雰囲気、気を使って自分も少しずつ食べる)
        えへへ、あたしは宿の人に聞かれたらマスターのお嫁さんっていっつも言うようにしてますよー所帯持ちという設定は結構便利なのです。
        おすすめです。生暖かい目からの開放です(こくこく)

        ……あ。誘ったのはあたしですし、マスターのおごりの可能性をそっと伝えておきます(史楼にまたひそひそ)

        お二人もお酒のみますよねー(酒飲みペアのためこっちはお酒をどんどん注文)
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 23:29:24

      • あっ あは、はははっ

        食事が必要ない…っていうとオレのまったくもって逆ですね… 少しだけうらやましくもありますよ
        言われる通り、オレのサイフって意味では見ての通りめちゃくちゃ辛いですからね… なっ? (笑ってごまかした)

        (笑いながらセイバーを肘でつつく。いや、つつくって言うか突く。)
        (アルヴィンと話し居る隙に注文されていた、大量の料理が席に届くごとに強めに突く)
        (良かったらつまんで下さいね、というジェスチャーをしながら。突く)
        (どれだけの店舗に、チャレンジメニューを突破したオレの顔写真が貼られていると思ってるんだ…?)

        (そんな風にセイバーに天誅をくだしながらもキャスターの話にうなづいて)
        (お嫁さんという言葉に、二人をもう一度交互に観察する。)

        (法に抵触するのではないのだろうか。)

        (そんな失礼なことを一瞬考えてしまった)


        …悪いことは言わないから、おごりはやめといたほうがいいよ… 見たらわかると思うけどな…
        ってちょっとまってくれ!オレはまだ歳が…!

        (と言ったところで、席に届くエール。好意を無碍にするわけにはいかず お酒との睨めっこを一人始めた) -- 史楼
      • やめろと言っているが聞かなくてな。(キャスターの言葉に無表情のまま嘆息)
        歳? ……ああ、この世界でも酒は20歳からなのか。奇妙な偶然だな。
        (気にせずに酒を飲む)まあ、俺はお前くらいの歳には姉さんに無理やり酒を飲まされていたが。おかげでこのとおりだ。
        軽くやってみるといい。何事も経験だろう。
        マスターのほうはさておき、サーヴァントのほうはザルに思えるが。であればなおさら、マスターが飲まねば立つ瀬もあるまい。
        (逃げ道を塞ぐような言葉。どうやらこの男なりの冗談らしい)
        -- アルヴィン
      • いたい、いたいって。やめて、そんなっ、突っつかないで……こんなところで……っ(ささやかな抵抗)

        まぁ、それはそれでありかのう。わしのこと嫁にすると世間体的にOKらしいぞマスター。
        その時は朝ごはんくらいはつくってやってもいいけどー?わし、結構料理得意じゃし。作るの面倒じゃからやんないけど。

        (けらけらと笑って。提案を持ちかける。なんとも上機嫌なのは間違いないようだが…)

        あー。酒な。まぁ、いざとなればわしがしっかり介抱してやるから安心してぶっ倒れるまで飲むがいいぞ。
        (となりで迷っている様をちら、と見てニヤリと笑っているサーヴァント) -- セイバー
      • セイバーさん料理もできるんですかー?いいなあ。あたしあんまり得意じゃなくて…
        (話しながらもぐもぐもぐ)(こちらのサーヴァントもよく食べる。よく飲む。気を遣っているそぶりだったのだけど本来よく食べる性質)
        (女性陣が大量に料理を平らげ、男性陣がおしゃべりを楽しむという、それ逆じゃないですかね?という構図になっていて)
        (……きた時と同じようにやっぱりよく目立っていた)

        だーいじょうぶですよーますたーはお金持ちなのです(エールを片手にぐっとサムズアップ。まあこれだけ飲めば酔う)
        おっまだしろーさんは飲んだことないくちですかー?だいじょーぶだいじょーぶ、お酒は今のうちに強くなった方がいいのですよー
        ほらほら、お父さんももこういってます!セーフ!!
        (保護者ポジションのアルヴィンをついそう呼んで、>▽< こんな顔)
        (三方から逃げ道を囲んだ形)
        -- キャスター 2014-03-30 (日) 00:10:19

      • (セイバーの抵抗に そして嫁だの何だのという言葉に 食べていたご飯をむせる)
        (つっかえを感じるが、目の前にあるのは… やはりエール。)

        (何でオレはこんなところで追い詰められているんだろう、わからない。味方であるはずのセイバーも何故か敵になっている。)

        ああもう、わかったよ!どうせこんなもんジュースみたいなもんだろ!

        (グイッと、初めてにしては豪快にエールを流し込む。)
        (そして… 『あっ 思ったより美味しくねえ!』と苦い表情を浮かべる。お酒の味を理解するにはまだ子供舌のようだった。)

        えほっ こんなもん、良く飲むな… オレはやっぱり、オレンジジュースの方が好きかな…

        (みんなが笑っているような気がして、顔が少し赤らむが、アルコールのせいにした。)
        -- 史楼
      • ふ。
        (軽く。本当に軽くだが、男は確かに笑っていた)
        (争い合う敵同士。そんな相手と卓を囲み、若い少年の未熟さに微笑む。これではまるで、ただの団欒のよう)
        ……すまなかったな、キャスター。
        (ふと呟いた。自分はこれと同じものを、彼女から一度は奪いとったのだから)
        ……ともあれ、だ。酒で舌も回ることになっただろう。せっかくだし、お前達に聞いてみたいことがある。

        (目を開く。真剣な顔つきの赤い双眸が二人を見据えた)
        お前達は何故に聖杯を求める? ……復讐と、記憶を取り戻すことを求める俺達と、いずれ戦い合うお前達の理由を聞かせろ。
        -- アルヴィン
      • (酒にくらくらしてる史楼を見て、楽しそうに微笑んでから)

        それじゃあ、わしから話そうか。大した事のない願いだと一笑に伏させるかもしれんがの。

        そうさなぁ、わしは人間に成りたいのじゃよ。人として、ただの人として。人の命を持って、人の生を歩んでみたい。
        まぁー簡単に言ってしまえば、所謂……受肉じゃな。さて、お主らからしてみれば弱い願いに見えてしまうじゃろうかのう……割と本気なんじゃがな。

        (酒の席であるから、軽い口調で軽く語る。本気とはいうもののやはりアルヴィン達と比べてしまえば確固たる意志があるようには見えないが……) -- セイバー
      • (史楼の期待以上の反応にきゃっきゃっと子供みたいに笑う)
        (男の子らしい意地という奴がかわいくて)
        いい飲みっぷり…!!!!そのうち飲めるようになりますよーまずは一歩なのです!!!
        (ぱちぱちと拍手して、横のマスターを見る)

        (……そのまま固まってしまった。だって笑っていたから)
        (……ああ、この人もこんな風に笑うんだって、驚くというよりも切ないような、そんな感情がこみ上げて)
        (微笑んで、首を振った)
        ……あれは貴方のせいだけではないのです…。
        (じんわり胸に広がる、嬉しいような苦しいような、心地いい気持ちをかみ締める。大事にされているような、実感)

        (セイバーの言葉も、意外なものだった)
        (……ああ、でもそうでもないかも。だって、史楼といる時、心のそこから楽しそうに見えるから……………)
        (色々考えながら、大人しくなる事にする)
        -- キャスター

      • オレの願いは… 義父の為に聖杯を得ること… つまり義父を根源に到達させることで。
        実は、オレは孤児みたいなもんで 義父に引き取ってもらって、育ててもらったんです
        その恩を、返さなきゃいけないし… オレは… 父に認められたいんですよ
        『良くやった、流石私の息子だって』言って貰えれば… 他に何も必要ない。
        くだらないですかね… でもオレには、ソレしか無いんです。

        (長々と語ったあと、はっとして 自分が場をしらけさせてしまったような、申し訳なさを感じる)

        あぁ…すみません、こんなこと言ってもしょうがないっすよね。
        (誤魔化すように、口へ運ぶエールの味は、さっきより苦く感じた) -- 史楼
      • いや。もとよりこの戦争は、己の願望のために他者のそれを踏み躙る利己的なものだ。
        いかにパブリックな願望であろうが、武力という形で相手を蹴落とし自らが勝ち進む。当然、命という対価を支払ってな。
        なによりもサーヴァントの存在だ。前提として死後、あるいは多数世界の可能性、もしくはエラー存在……なんであれ、彼らは人ではない。
        ……人では、ない(言い含める。受肉を目指すセイバーを前にしてだからこそ、あえて)ひとでなしが争う饗宴というわけだ。
        そんな戦争において、願望の貴賎などありはしない。お前たちの望みが、俺達に比べて上であるとか下であるとか、そんなことは語るも愚だろう。
        ましてや、当て所のない復讐などを標榜している俺ではな。……だが、いい話が聞けた。答えてくれて嬉しく思う。
        ……それを踏まえた上で、史楼。お前には一つだけ言わせてもらう。
        (しっかりと、赤い瞳が見据える)戦いの理由を自己以外の場所に置く者は強い。己を省みることがないからだ。
        だが、アイデンティティとしたそれが崩れた時……あるいは、裏切られたと感じた時。その報いが来ることは、覚えておけ。

        ……酒の席でする話ではなかったかもしれんな。だが、元をたどれば我々はつまり、そういう関係性だ。
        お互いが脱落しなければ、いつかは必ずぶつかることになる。それだけは忘れてはなるまい。
        まあ、聞きたかったのはそこだ。どのみち今は休戦状態、肩肘を張っても仕方あるまい。(雰囲気を壊してしまい悪かったな、と短い謝罪を述べて酒を飲む)Bier und Brot macht Wangen rot.(ビールとパンは人を健やかにする) 食事もひとつの戦争だ。
        -- アルヴィン
      • そーそー。今はいいけどのう。舞台が進めばそのうちな、マスターよ。お主の知り合いの願いですら踏み越えねばならん時が来る。
        それは似た願いをもったアドニスかもしれぬし、目の前のこやつらかもしれぬ。

        まぁ、強くなれ。強く生きることじゃ。酒に酔って足元も覚束無いような、そんな主殿になったとしても、わしは支えるよ。
        わしはお主のサーヴァントなのじゃからな。

        (しなだれてみる。特に酔ったわけではないが。なんとなく、傍に寄った)
        まー、寂しくなったらわしがいつでも添い寝しちゃるからな。寝かしつけるのは得意じゃ。

        ま、こんな話題にでもなれば、多少はそうもなろう。わしは特に気にしちゃおらぬけどな、料理おいしいし。
        しかし、気がつけば随分と食べてしまったようじゃなぁ。これで幾ら位になるんじゃろね。 -- セイバー

      • (それしかない。史楼の言った言葉にどきっとした)
        (マスターに優しくしてもらえるのなら何だってするから、と泣いた自分を思い出して)
        (心配になった。アルヴィンが忠告をするのもわかる)
        (あたしが崩れてしまったように、彼も崩れてしまうかもしれないのだから)

        ……でも、大丈夫ですよ、マスター。
        立っていられないようなとき、支えあうのがサーヴァントとマスターだと思いますから。
        (セイバーの言葉にも頷く)
        ……史楼さんには、セイバーさんがいます。
        あたしたちがただの武器の形をとるわけではなく、こうした人の姿や人格もある状態で召喚されるのは
        きっとそういうためなんだと思うのですよ。

        (残ったものをちょこちょこと片付けて、食器なども重ねたりして、良妻ムーブ)
        (そういう行動をとりたいのではなくて、主のために何かしていたいからだった)

        …あ、お会計行ってきますね。皆さんは帰りの準備をしてくださいな。

        …………………ごめんなさい。あたしは願い事、覚えてないんです。
        (申し訳なさそうに小さな声でそう言って、主の財布を預かり席を立つ)
        -- キャスター

      • (セイバーの言葉に、気恥ずかしさと 頼もしさ…というよりも嬉しさだろうか。)
        (兎も角、また少しアルコールが回ったかのような顔色になり、言葉に答える。)

        (そしてアルヴィンの言葉も、オレを案じてのものだろう。)
        (最初に出会った時の印象は、もう半分も残っていなかった、いや寧ろ…)


        ("その報いが来ることは、覚えておけ")

        (ぐるぐると言葉が回る。)
        (今のオレには理解できなくって、逃げるようにキャスターに視線を向ける)

        (彼女は、驚くほど弱弱しく しばらくの時間席を同じにした今でも)
        (この戦争の参加者とは思えない、ましてや願いを覚えていないというのだ。)
        (まるで、支えが無ければ、己で立ち上がれない朝顔のように、見えた気がした。)

        (会計に向かう。その言葉で意識が思考の世界から、席へと帰ってくる。)
        (そうだ、あのことを伝えよう きっと今の彼なら…)

        アルヴィンさん、今度オレの家で …カレーを食べる小さなパーティーみたいなもんをやるんです
        良かったらアルヴィンさんも… 来てくれませんか。

        きっと… 今日みたいに、楽しいと思うんです
        -- 史楼
      • ……悪いが、その誘いは断らせてもらう。
        お前には考える時間が必要だ。戦う経験と同じくらいに、己と、お前の隣に立つ従僕について考える時間が。
        ならばそのパーティとやらは、そのために使え。そこにいて、俺がお前に伝えてやれることは何一つありはしない。
        (そう言って席を立つ)酒の誘いなら応じよう。多少は多めに支払っておく、共々食い足りなければ楽しんでくれ。
        (まるで、「楽しい」という感情とは己はこれでまた無縁と成る、とでも言いたげに)
        (外套を翻し、踵を返した)
        間違ってもいい、だが倒れたなら立ち上がれ、史楼。……お前ならば、まだやれることがある。小鳥を殺さずに済むことも、出来るのだから。
        (そうして男と従僕は消えた。ほろ苦い酒の味と、別れの感傷を残して)
        -- アルヴィン
      • ま、このとおり酔っ払っておるからな、このマスター。
        多少は大目に見てくれい。

        (マスターの頬をぐにぐに指でつついて笑う)

        いやー。しかし、すっかり馳走になってしまったな。(勘定を済ませ去っていくアルヴィンたちを目で見送りつつ)
        ぬしも割と回ってる様に見えるからな。立てるか?おぶってやってもいいんじゃぞ?
        (ひとまず、肩を支えて。一緒に立つ。)

        小さな酒宴じゃったがな。こうして話し合ってみるのもいい影響になりそうじゃな……。あの二人からも学ぶ事はたくさんあるからな。
        精進せいよ、マスター。そして強くなってくれ。生き残らねば意味はないのだからな……。 -- セイバー
      • (戻ってくると。さっきの落ち込んだ様子はもうなく、明るい笑顔)
        ごめんなさい!マスターってば……折角のお誘いに…あっマスターまってくださいよぅ!!
        (ぶつぶついいながらも主の背を追いかけようとして…二人に振り返る)
        …おふたりとも、また一緒にご飯食べたりしてくださいね?

        今日は楽しかったのです。きっとマスターも、あたし以上に。
        (ぺこりと一つ頭を下げてふわふわと長い髪を揺らして小さな姿が大きな男を追いかけてゆくのだった)
        -- キャスター

      • (消化のスキルのせいで、アルコールをたっぷりと吸収してしまったオレはフラフラだった)
        (加えて、アルヴィンに誘いを断られ 意気消沈し… 酒の誘いには応じよう。その言葉には今は気がつけなかった)
        (ただ、ゆっくりと彼らの言葉は、史楼の中に染込んで。)

        (ぐったりと、セイバーの肩をかりて、ほほを突かれながら。席を立つ)
        (情けなくも ふらつきながら、オレは答えた)

        オレは強くなるよ… とりあえずは…まぁ、 お酒にな… -- 史楼
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif -- 2014-03-29 (土) 21:13:17
  • 夜。

    アルヴィンは、壁に背を預けうずくまるようにして寝ている。
    呼気はない。まるで死んでいるかのように微動だにしない。首元に刻まれた令呪が見えなければ彫像か何かと見紛うほどに。
    だがこれまでと違うのは、空間を隔絶する結界《月匣》を展開しているわけではないということ。
    72時間に一度の眠り。彼は無防備でいた。
    眠りにつく前に、何かをキャスターに語ったわけではない。
    だが。その臥所に近づくならば、覚悟が必要だと。その石像じみた姿が告げていた。
    • (……………………………………初めてちゃんと見る、マスターの寝顔)

      (いいのかな、外に出なくて……つまみ出されなかったし、いいのかな)
      (なんかちょっと眠り方違う。やっぱり体が違うからかな)
      (うろうろ落ち着きなく動いて)
      (それも眠りの邪魔だと思ったので、自分も彼の足元に蹲る)

      (……………………ほのかな幸せ)

      (……護衛の獣を召喚してはなしておいたから、何かあってもすぐ気づくはず)
      (アサシンのときの二の舞は避けないと)
      あれ………。
      (寝てはいけないんだけど、別に眠くないはずなのに……なんだろう)
      ……ん……。
      (ぼんやりと、月を見て………………)
      -- キャスター 2014-03-29 (土) 06:25:36
      •  

      • 雨が。
        雨が、降っていた。
        雨の中、男と少女が対峙していた。

        無機質に思える、硝子のような瞳。漂白されたような白髪をざんばらにし、その少女は異形へと変じた己の腕、その銃口を男に差し向けていた。

        正しくは男にではない。
        黒外套を纏う男、キャスターの知るであろう彼の風貌より5歳は若く、そして青い目をし、黒混じりのものではない金髪をまとめた、青年。
        ……彼の黒外套のなか、怯えすくむ、同じような姿をした少女に対して。その銃口は向けられていた。
      • 「マスター…!!」
        とっさに守ろうとして、自分の体が見えないことに気づく
        ……これは、夢?何かの幻術?
        それだったら放った魔獣が気づくはず。そういうものに鼻が利く獣だ。

        確信が持てないまま、見守る事しかできない。
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 06:33:28
      • 「その子がなんなのか、知っているのか」
        生体銃へと変じた腕を構えながら、少女は彼に……アルヴィンに言った。
        「ただのいたいけな少女、というわけではなさそうだな」
        張りのある声。けして精神拘束術式を施したものではない、凛とした声でアルヴィンは答える。
        彼が肩に羽織った黒外套の下、怯えながらその体にすがりつくもう一方の少女は、ただ同じ姿をした彼女を見て震えている。
        「その子は」
        銃を構える少女が言った。
        「もう、こうするしかないんだ。……死ね、ドリット!」
        魔力弾が放たれる。障壁での反らし、打ち消し、回避。アルヴィンは反撃をしない。
        出来ないのだ。怯えすがる少女を傍らに置いて、彼の魔術は……手に持った、黒く捻くれた、マリーエングランツと異なる機械杖では、それが出来ない。
        守るための戦い。やがて焦れた銃の少女が、舌打ちし姿を消した。

        紅い月が、消えた。雨はまだ降り注いでいる。
        気を失った少女の身体を支え、アルヴィンは呟いた。
        「この人造人間(ホムンクルス)の少女に、一体何があるというんだ……?」



      • 「  ホムンクルス  」



        聞き覚えのある言葉。主らしい男が心配で、はらはらしていた気持ちすら一瞬で掻き消える。

        記憶が揺さぶられる。少女に誰かの面影が重なる。

        「あたしは娼婦」

        「でも、その前があった………………」

        「そうだ、あたし……………… ………… ……」

        主の過去をめぐりながら、もう一つ、蘇る過去
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 06:46:32
      • 場面は変わる。
      • 「とりあえず、状況をまとめてみようよ」
        金髪をツインテールにまとめた、勝気そうな少女が言った。外は雨。ここはホテルの一室だろうか。
        「俺らのバカンス中に、あのホムンクルスの子供がいきなり海からやってきた。で、紅い月が昇ったと思ったら、あのカエル人間共が現れたわけだ」
        髪を逆立て、黒狼を手懐けるワイルドな風貌の青年が続けた。
        アルヴィンは二人の言葉に頷く。件の少女は、衣服を整えられすやすやと寝息を立てていた。
        「つまりこのホムンクルスの少女……ドリットは、エミュレイターと何らかの関わりがあるのだろう。統真、アリア、これからどうする」
        名を呼ばれ、青年と少女は腕を組み考える。彼らの間には、死線をともにくぐり抜けた者同士の連帯感があった。
        「どうするったってな……アンゼロットに伝えるべきじゃないか?」と、少女・アリア。
        「俺も同意だな。しかしまあ、アルヴィン。お前が子供に懐かれるなんてな」
        からかうような青年・統真の言葉に、アルヴィンはため息をつく。
        「懐かれた覚えなどない。彼女が眼を覚ました時、近くにいたのが俺だったから保護を求めただけだろう」
        「あー、とか、うーとかしか言えない子に、そんな意識あっかなあ?」と、アリア。
        「恥ずかしがってんのさ。普段は血ぃ吐いてまともなこと言ってばっかりだしな」
        「お前達な、いい加減に……げほっ、ごほっ」
        「ああっ、また血吐いた! ホント、マリナーノの家系って身体弱すぎだろ!」
        ふいの喀血もいつものことらしく、タオルを渡すアリア、快活に笑う統真、顔をしかめながら口を拭うアルヴィン。いずれにも悪感情は見られない。
        仲間同士の信頼と、絆。そこにはたしかにそれがあった。
      • 体がないのになんだか気持ち悪い。ぐるぐる目がまわるよう。
        沢山の記憶が流れ込んできて。
        マスターの、あたしの、記憶。


        ふっと賑やかな声。
        聞きなれない単語。まるで普通の人間みたいな主。

        眠る少女は真っ白なのに。赤い髪の、小さな子が重なる。

        「マスター!!血!!血ー!!!!」
        主の喀血にわたわた叫ぶんだけど、周りの子は笑ってる。

        「ふぇえ……だいじょうぶなんですかね…?!」

        笑い声。自分もその中にいるような気持ち。
        とても心地いい。
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 07:03:54
      • そこでふと、眠っていた少女が眼を覚ました。
        何をしでかすのかと見守る三人をよそに、彼女はきょろきょろと、くりくりよく動く眼で見渡し、テーブルの上に置かれていたウェルカムフルーツに目をつける。
        切り分けられたそれらをがつがつと食べ始めるその様子に、アルヴィンがため息を付いた。
        「とはいえ、一番の手がかりである当人がこの様子ではな。まあ、あの同型と思われるホムンクルスも気にはなるが……ん?」
        切り分けられたメロンを一切れ掴みとり、ベッドから降り……安楽椅子に身を沈めていたアルヴィンのもとへと。
        「ん」
        「……」
        なんだこれは、とばかりに見返すアルヴィンに、少女は「んっ」と、アップルやオレンジの果実で汚れたままの手、それで掴んだメロンを差し出す。
        アリアと統真は特に何もしない。いや、それどころか、困惑するアルヴィンの様子ににやにやと似たような笑みを浮かべていた。どうやらこの二人、仲がいいらしい。
        「……ふたりとも、何を笑ってる。なんとかしてくれ」
        「何とかしてくれも何も、食えってことだろ?」とアリア。
        「恥ずかしがるなってアルヴィン、子供に好かれんのはいいことだぜ」と、統真。
        アルヴィンはため息をつき、ドリットを見返す。少女の無垢な瞳が、それに応じる。さらに鼻先まで差し出されるメロン。
        沈黙が続き……アルヴィンは重たくため息をつくと、しぶしぶそれを受け取って食べた。
        「んっ」
        そこでようやく、少女は微笑んだ。
        あどけない笑み。……それはどこか、キャスターの記憶にある、あどけない少女のそれにも似ている。
      • 「ふふっ かわいいのです」

        少女の無垢な様子に笑みがこぼれる。
        ほほえましいのに、懐かしさで胸が締め付けられる。

        赤い髪の女の子。
        ああ、でも昔は違ったの。昔はあたし達銀色だった。
        初めて会ったときもこんな風だった。
        同じ製造方法でできた子。
        研究所の魔術師に抱かれてやって、食事の時間を同じにしてもらって。

        こんな風に一生懸命食べてたっけ。
        この子ほど喋れないわけじゃなかったな。

        「マスターもかわいいとこあるんですね」

        懐かしい光景。あたしはあんなに無愛想じゃなかったけどね。

        体がなくてよかった。きっと涙で何も見えなくなっていたと思うから。
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 07:24:22
      • 場面は変わる。
      • そこは、異界的な角度を持つぬめった遺跡だった。
        この世ならぬ邪悪な神を封じ込めるための神殿。海底より浮上したそこに、三人はいた。
        「おい、アルヴィン」
        統真の呼びかけにもアルヴィンは応じず、通路を歩く。両側には、見るだけで正気への挑戦を要求される不気味な壁画。
        「ドリットが連れ去られたっていっても、いつもとは大違いだな、あいつ」
        「……」
        二人の前を歩くアルヴィンの背中には、危うさがあった。

      • 「なんだろうここ……」
        あの子はどうしたんだろう。
        さっきとは一転して不安な気持ち。主の様子もおかしい。

        統真という青年の言葉に凍りつく。

        なんだか嫌な予感がした。
        そう、あの子が死んだ日と、同じような……。

        「……大丈夫ですよね。マスターがいるもの。助けてくれますよね」

        消えない不安。
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 07:34:19
      • 追想は進んでいく。

        やがて出た広間。人類のものとは明らかに思えない巨大なその壁は、壁ではない。門だ。この世ならぬ異界のものが封じられた、地獄の扉。
        愕然とする三人の目は、そこに鎖で磔にされたドリットの姿。
        いまや彼女の肌にはおびただしく禍々しい紋様が浮かび上がっていた。
        そしてそれらが脈動を始めるとともに、少女は覚醒し、聞くに堪えない絶叫をあげる。魂と、肉体を根底からねじ曲げられ、砕かれ、轢き潰され、混ぜ込まれる苦悶の声だった。
        「カミーユ……カイムン」
        底冷えするような、アルヴィンの声が「それ」の名を呼んだ。ドリットの横、空中に足場もなく立つ男装の麗人を。
        「"詐術長官"。エミュレイターの一員であり、魔王である貴様が、なぜ《邪神》を目覚めさせようとする!」
        「ドリットはもともとそのために作られたのさ。だから返してもらったんだ」
        女……いや、魔王は涼しげな顔で言った。彼女が指を鳴らせば紋様の輝きが消えてドリットはぐったりと気を失い、そしてまた鳴らせば地獄の苦しみが始まる。
        「突然逃げ出した時はどうなることかと思ったけど、ツヴァイストと君たちのおかげで取り戻すことが出来た。礼を言うよ」
        「……それならばなぜ、ウィザードである俺達をここに招いた。何を企んでいる、魔王ッ!!」

      • 聞こえてくるのは少女の悲鳴。悲鳴じゃない。もっと、怖くて、苦しい。

        「……いやぁあああああああっ…!!!」
        手は届かない。体はないもの。
        聞きなれない言葉が続く中、抱きしめるように少女のそばにいた。
        少女は何かの鍵なのだろうか。

        「助けて、マスター……この子を助けて……!!!!」
        届かない声で叫ぶ。
        ああどうか早くこの苦しみから救ってあげて……!!!
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 07:53:16
      • 魔王は言う。
        「ああ、なんということか。ドリットに共鳴し、《邪神》が目覚めてしまうじゃないか! ……今回は調整も、手加減もしてない。この扉自体もドリットも長くは保たないだろうね」
        「さあ、どうする? ウィザード諸君。君たちは世界を守らなきゃいけないんだろう? 夜闇の魔術師諸君。扉を閉じる方法は、君たちからすれば至極簡単じゃないか」
        すなわち、選択肢は2つ。ドリットを殺すか。それともドリットを拘束から引き剥がすか。2つに1つだと。

        アルヴィンの渾身の魔術でさえ、分体として顕現している魔王には通用しない。
        しかし弁舌と詐術を得意とし、人を籠絡することに長けた魔王は、直接手を下すことはしない。あえて彼らに選ばせようとしていた。
        助けることもできると、魔王は嘯く。いや、嘘ではないのだろう。
        だが、三人は思っていた。世界の破滅を引き起こしかねない封印の鍵となる少女。それを助けたところで、世界を守るべき者達はそれを許容するのかと。
        世界の守護者は、けして世界を乱しうる存在を許さない。邪神の狂気に心を壊され、いつまで生きているかもわからない人造人間一人を救って、何をどうするつもりなのかと。
        彼らは何も答えられなかった。
        ……そしてやがて、その時が来た。アルヴィンの持つ黒杖が展開され、ルーン文字と魔法陣が広がり、破滅の術式が蓄積されていく。その鋒は、苦しみ悶えるドリットへ。
        苦悶し、叫び、嗚咽しながら、それでも無垢に助けと救いを求める瞳を向けるドリットへ。アルヴィンの目と、術式は、向けられていた。

      • 「やめて」

        「マスターやめて」

        「殺さないで この子を殺さないで…!!!!」

        ライダーと主が対峙した時と同じように叫んだ。
        触れない手で少女に触れて、彼女の視線の先を見る。

        わかっているの。これは記憶。自分が何を言っても聞こえるわけない。

             『……この子は死ぬのか』
              ……血まみれで倒れていて、虚空を見つめる幼い少女が見えた。
              それを自分は見下ろしている。
              少女の唇がかすかに動く…………………………

        ……………………………一番思い出したくない記憶。
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 08:18:12
      • 記憶は螺旋のように交じり合う。
        せめて己の責務として救おうとする統真。ただ、アルヴィンの腕をつかむしか出来ないアリア。
        彼らを前に、アルヴィンは、血を吐くような声で言った。
        「俺は、ただの、魔術師なんだ」

        ……俺は、ただの魔術師だ。

        記憶が蘇る。赤い瞳をうっそりと瞬かせながら、「少女」にそう答えた男の横顔。
        彼は役割を強いていた。世界を守るウィザードとしての役割を。それを憎むことも、諦めることも、己の意志で選択をなすことさえも出来ず。
        光は放たれた。
        少女は目を見開いた。救いを求め、助けを求めた己に向けられた術式に。
        アルヴィンはそれを見た。けして救われる者のものではない表情を。
        「ドリット――――!」
        名を叫ぶ声は、届かない。

        光が、全てを飲み込んだ。
      • 記憶が交錯する。
      • 「どうして!? なぜ昔のように戻ってくれないの、雷血!」
        炎を装束のように纏う女に対し、鋼鉄の……鼠色の鎧を纏った男は、答えた。
        「くどいぞ、炎月。私は雷血ではない。私は武律、電光忍者・武律。妖魔を狩るものだ」
        「違う……違う、違う!! 雷血なんだ、あんたは妖魔の雷血なんだよ! あたしは、そんなあんたが、残酷に人間を殺せるあんたが、好きなのに……」
        「くどいッ!!」
        英霊契約によって変化したアルヴィンの姿、そして彼の鋼鉄の肉体と酷似した、けれどあの鬼と異なる、仮面を纏う忍者が一蹴した。
        「私とお前は相いれぬ。それでもなお妖魔としての私を求めるというなら、私自らがお前を討つ。それだけだ」
      • 記憶は交錯する。
      • 「殺しやがったな」
        少女から産み落とされた異形の《神》を前に、男は叫んだ。
        その赤い瞳が、夜の闇を受けていびつに輝く。
        「俺の仲間を、俺の前で殺しやがったな」
        《神》に貫かれ、動かない人形。少女の姿をした人造人間の成れの果てを見、男は叫んだ。
        そして己の左胸に、あろうことか片手を突き刺し、おびただしい血を噴き出しながら己の心臓を引きずり出す。
        だが男は死にはしない。吹き出した血はズルズルとうごめいてその体に戻っていく。
        聖痕の刻まれた心臓を握りつぶす。その活力は純粋な光の魔力となった。
        「ヒーローはやめだ。俺は、俺の意志でてめえを殺す。くそったれの神風情が!」
        光の魔力を浴びて、何よりもまず男自身の身体が灰へと変わっていく。
        その光に臆することなく。夜の一族である男は《神》へと挑みかかった。
      • 記憶は交錯する。
      • 少女の祈り。女の諦観。英霊の喜び。男の疑問。青年の嘲笑。意志の炎。光に消える少女。愛される者を討つ痛み。仲間を守れなかった苦しみ。光に消える少女。少女の祈り。救いを求める声。助けを求める声。救いを、助けを、求める声。求める声。求める声。
      • やめてくれ。
        (終わらない。光に消える少女のその眼差しが、救われる者のものではない眼差しが、蘇り、彼はそれを殺し、またそれが蘇る)
        やめてくれ……。
        (蘇る。殺す。蘇る。殺す。蘇る。殺す。蘇る。殺す。蘇る。殺す。蘇る。殺す。蘇る。殺す)


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        やめてくれぇえええ―――――――!!

        (少女と同じように)
        (己の記憶を追想し続ける男は、ただそう叫んでいた)

      • ずっと

        ずっと、白髪の少女に誰かが重なっていた。だけど、最後の最後でそれは変わる。

        『泣かないで、姉様』

        妹は、死ぬ瞬間、そう言ったんだ。
        こんな顔じゃない……マルチナは、こんな顔で死ななかった……!!!!!
        なのに少女はまだ妹に見えていて。

        「マルチナ…………!!!!」



        気が狂いそうだった。
        少女の顔が、頭から離れない。
        沢山の記憶が流れ込んできて、自我を保っていられない。
        このまま自分が消えてしまえばいいのにと思うくらいに。





        また、違う時間。
        ああ、あれはあの鬼じゃないか……でも、もっと理性的だ。
        東の島国の人間みたいな格好をしてる……。





        また、違う時間。
        主と良く似た再生の仕方をする男。
        赤い瞳の鮮やかさが、良く似てる…………。





        また繰り返し。妹に良く似た少女が光に消える。
        繰り返し、繰り返し。何度も。

        昔読んだ本で、地獄のひとつがこんな感じじゃなかったかね。
        ……ずいぶん難儀な男がマスターになったもんだ。

        こんなん背負って、あたしたちまで背負ったら、つぶれちまうんじゃないかね。
        なのに、あんなこといって……嬉しかったけどさ。



        馬鹿だね、あんた。

        つぶれちまった方が楽だよ?
        あたしみたいにさ。




        -- キャスター 2014-03-29 (土) 09:17:20

      • ……そうしたら、あたしが助けてやるよ。

        (その声は肉声だった。主の横で少女が目を細める)

        あんたを戦わせる力しか持っていないけど
        それはまた立ち上がるための杖くらいにはなるだろうさ。

        だってあたしはあんたのサーヴァントだから。

        もうどっちが支える側なのかわかったもんじゃないね。
        ……ま、それがマスターとサーヴァントか……。

        ……今はもっと深くお眠り。
        夢を見ないくらいに、深く……。

        (囁くのは子守唄。彼女が喰ったローレライの歌声で)
        (人を惹き付け惑わす歌。船乗りを眠りに誘い、水底へと誘う……)

        (主の頭を胸に抱いて、妹にするように優しく頭をなでながら)

        (自分の生まれの事、妹の事、娼婦だった頃。そこまでは思い出せた)
        (だけどその先がまだ霞がかかっていてわからない)
        (大人になっていたときはあんなに記憶がはっきりしていたのに、今はもう思い出せない)
        (あたしは何でサーヴァントになったんだろう。妹がいるのに………)

        (でも、きっとすぐに思い出せるだろう)
        (怖いけど、戦える)
        (アルヴィンがそばにいてくれたら、きっと)

        あんたの願いは何なんだろうね。記憶を共有してもわかりゃしない。
        ……まだなんか抱えてんのかね。
        まったく、やっと妹の事思い出せたってのに、なんて気分だ。
        ……酷いですよ、マスター。あたしはあたしで手一杯だって言うのに。

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        (少女の顔と、女の顔)
        (眠る主を愛しげに見つめる)

        (そろそろ起きる頃合だろうか)
        (抱きしめたままだったら怒るかな)
        (でも、夢の中みたいに泣いてしまうかもしれないし)
        (抱きしめていたら隠してやれるから…………………)


        (抱きなおすと、窓の外を見る)
        (金色の月を同じ色の瞳にうつして)
        ……ごめんね、マルチナ……あんたを忘れて…。
        (愛しい半身を想う)
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 10:29:14
      • ……俺は子供じゃない、よしてくれ。
        (ふと、目を覚ました男が静かに言った。手をどかし、ふいと頭を離し、両目から流れていたそれぞれの涙を拭う)
        ……俺は寝る度にこうなる。精神拘束術式は外からの干渉を防ぐためのものでしかない。
        (キャスターをこの眠りに近づけなかった理由。それは、この記憶再生を防ぐためだった)
        俺はがんじがらめだ。誰に与えられたものでもなく、俺自身が生み出したものによって。
        そこから解き放たれるためには、聖杯が必要なんだ。……俺の願いは、復讐だからな。
        -- アルヴィン
      • (悪びれる様子もなくいつものように賑やかに喋るのでもなく、するりと離れると薄絹を重ねたワンピースを調える)
        (拘束服のような上着を羽織ながら主を見つめて)

        男は誰だって、いつだって子供みたいなもんさ……って大人のあたしだったら言います。
        (蓮っ葉な物言い。大人びた微笑み。ため息をつく)
        (夢の中のもう少し若いアルヴィンを思い出していた)
        (今とは違う普通の金髪)
        (……青い目。研究所から初めて出た日の空のような色……)

        (どこか懐かしく思った)

        ……あんたの目って、本当は青いんだね。

        (少しだけ、声のトーンが大人のものになった。記憶が戻ってきているせいだ)

        復讐って、誰にするつもりなんです?
        …………まだ断片的に色々見ただけですけど……思い当たるものが多すぎるというか、なんというか…。

        (暗い部屋の中。金色の目が彼の心を探るように見つめる)
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 19:20:50
      • その全てだ。
        (変貌した赤い瞳が静かに瞬いた)
        人間では太刀打ちし得ない悪しき存在、たとえばそれはあの魔王であり、あるいは別の神であり……。
        俺は奴らを倒すための力がほしい。あの魔王カミーユカイムンだけではない、あらゆる魔を滅する力。奴らに対する復讐を成し遂げる、力を。
        終わることなどあり得ない復讐への道。それが、俺の求めるものだ。
        -- アルヴィン

      • (それは修羅の道へとさらに踏み込むための願いだった)

        (復讐なんてなんになるのさ、とか散々自問自答を繰り返してきただろうし)
        (言えることは何もなかった。黙り込んで、見つめるだけ)
        (終わる事などありえない……その言葉が何故か胸に突き刺さったからかもしれない)

        色々綺麗な言葉考えましたけど……何言っても、あの記憶の前では空虚です。
        ……願い、やっとちゃんと教えてもらえましたね。
        聞きたかったものだけど……ちょっとだけ後悔です。

        (苦笑して、そばにおいてあった赤い日記帳をなでる)
        マルチナに似ていました。あの子……。
        (ぐっと言葉につまってしまった。彼女が光に飲み込まれる姿が思い出されて……大きなため息)

        それがたとえ貴方を更なる不幸へ導く願いだったとしても。
        「それしかない」のであれば、あたしはマスターの願いのための武器になります。
        ……幸せを、幸せだと感じられないどころか、苦痛だと感じる人もいますしね。

        ただ。

        (拘束服をベルトで止めて、くるっと一回転。華やかな髪飾りの下に新しい髪飾り)
        (笑顔でちょっと首をかしげて)

        これからは、あたしも一緒に同じ夢を見ます。
        大丈夫ですよ、深く入り込まないようにすればこちら側の意識も保てるだろうし。

        あたしが貴方にちょっとよっかからせてもらっているかわりに、貴方と少しだけでも苦しみを共有したい。
        あたしは貴方のサーヴァントだから。
        辛い事があっても、二人ならちょっとだけ、本当にちょっとだけ、苦しくなくなるんですよ。
        ……あたしはそれをよく知っています。

        …………いいです、よね?

        -- キャスター 2014-03-29 (土) 20:32:54
      • 好きにするがいい。
        俺は選んだ。ならば、お前もまた選べ。何をするか、何を求めるか。
        お前にはその自由がある。……今だからこそ、な。
        (記憶というしがらみがないからこそ。選べるものもあるはずだろう、ただその意志だけを肯定した)
        そろそろ夜が明ける。情報収集に行くぞ、キャスター。
        (やがて二人は宿を去った。アルヴィンからみて0.5歩、キャスターからみて1歩の距離で)
        -- アルヴィン
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 
    • (結界が破れ、突然の大雨に通りには他に誰もいない)
      (主の横に座ったまま。硝子のような瞳で彼を見下ろしている)
      (宝具の効果が残っているのか、まだサーヴァントとしての力が戻らない)
      (回復する事もできずにその場にいた)

      (そんなもの、時間がたてば必要ないのだろうけど)

      ……なあ。
      道具にした女に庇われた気分はどう?
      -- キャスター 2014-03-29 (土) 02:21:15
      • (雨が降っていた)
        (もともと暖かみなどない身体を、鋼のそれを血が流れ出、代わりに雨水が染みこんでいく)
        (砕けた心には冷たい雨が。ずたずたの心にはひそやかな敗北が)
        (そして言葉が齎される。赤い瞳がキャスター……否、キリルを見返す。モノクルの奥の右目は左目に一拍遅れた)

        ……無事だったようだな。

        (問いかけへの答えはない。雨音にさえ掠れそうな声量で言い、あとはひゅうひゅうという呼気だけが漏れた)
        (賦活呪文に応じ、血と鋼が寄り添う度合いを深め、かりそめの命が彼を動かす。青白いを通り越し、土気色になっていた肌に赤みが戻る)
        (だがその表情は。精神拘束術式を失い、偽りの信頼を失い、敗北という穴を穿たれ、雨に冷えた表情は、硝子のような瞳よりもなお透明で)
        (何もかもに、打ちひしがれていた)
        -- アルヴィン
      • 帰りましょう、マスター。
        風邪を引いてしまうのです。

        (主がこちらを見返し、瞬きをした次の瞬間には女は少女に戻っていた)
        (だけど)
        (硝子のような瞳をして、人形のように微笑を顔にはりつかせて、主を見下ろす)
        (言葉も何かの本を読み上げているよう)

        (今までの彼女だったら泣き出して彼に縋っていたはずだ)
        (気遣う仕草をするはずだ)
        (でも彼女は固く赤い本を抱きしめているだけ。一緒にドーナツの袋も)

        ごめんなさい。あたしが運べたらいいのですけれど、まだ魔力がちゃんと戻ってくれなくて。
        (ただ感情の無い声で、今までと同じような言葉だけ)
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 02:51:05

      • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
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      • ………………。
        (雨が)

        (雨が彼の頬を伝っていた。二度、瞬く。一度目に少女への退行を認識し、二度目の瞬きで青く変化していた右目は赤に戻った)

        (《月匣》の中で起きた破壊は、現実世界のどこにも影響を齎さない)
        (冷たく硬い石畳の上、横たわっていた男が、身動ぎする)
        (ボロボロの両手に力を込め、起き上がろうとし、無様に転んだ)
        (べしゃりと音を立て、片頬から地面に倒れる。震える両手がぎしりと音を立て、かろうじて上体を起こす)
        (毟り取るように、己の鋼の肉体を包んでいた黒外套を剥ぎ取った)
        (雨を吸ってぐっしょり濡れたそれを、キャスターにばさりと被せる。整えようとしたが、また力を失い、もう片方の頬が地面にべしゃりと付いた)

        (掌が)
        (不動の、不壊の、鋼の掌が。震えていた。震えながら、キャスターに触れようとして……)
        (三度、倒れた。けれどそれは脱力からでも疲弊からでもなく、アルヴィン自身が。その心が折れたのだ)
        (精神拘束術式も、賦活もままならない状態。俯く男の口から出たのは)

        すまなかった。

        (その言葉だけだった)
        -- アルヴィン



      • (少女は手をかさなかった)

        (今までだったらきっと自分が押しつぶされても彼を支えようとしただろう)
        (頼もしかった主の姿は見るも無残なものだ)

        (外套をかぶせられてもその表情は変わらない)

        言ってください。

        (つながりのない言葉を呟く)

        貴方の好みはどういう女の子ですか。
        外見は変えられないのですが、振る舞いなら変えられるのです。

        どんな子がいいですか?
        もっと大人しい子がいい?貴方にはねのけられても笑っていないほうがいいですか?

        抱いてくれてもいいのです。
        娼婦だったから男の人がどうしたら気持ちよくなるのかよく知っているのです。

        そういう風に扱ってもいいから。
        そういうのがあたしはいいから。

        貴方が気に入るように、なんでもします。

        だからあたしを好きになってください。

        ちょっとでいいんです。
        ライダーのマスターみたいに大事にして欲しいわけじゃないのです。
        ニーナ・ミュウのサーヴァントみたいに守ろうとしてくれなくてもいいのです。

        そばにいさせてくれるだけで、ただもうちょっと優しくしてくれるだけでいいのです。

        役立たずでも、頑張りますから。
        あんなことはしないでほしいのです。
        だいじょうぶです、次はちゃんと、



        ころしますから。



        (ぎゅう、と、外套の端を握り締める)
        (金色の硝子玉は、誰も見ていない)

        どうして

        大事にしてくれないんだ。

        あたしはこんなにあんたに媚びてるのに。
        邪険に扱われたって笑ってみせて、いつだってあんたのこと一番に考えてただろ?


        ……謝るくらいならさ。

        ……謝るくらいなら、もっとあたしに優しくしろよ。

        それでいいから、それだけでもう全部許すからさ。
        記憶がなくて、力もなくて、からっぽで、大事な事を思い出すのも怖くてさ。

        頼れるのはあんただけなんだよ。

        頼むよ。


        あたしにはあんたしかいないんだ!!!


        (強い雨の音を打ち消すように、少女の叫ぶ声が響く)
        (全身を震わせて泣きながら、外套の中で縮こまって…………)
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 03:33:19

      • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
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        -- 2014-03-29 (土) 04:02:29
      • そうだな。

        (俯いた男の返した言葉は、はじめがそれ)
        お前は全てを忘れた。何もかもを失い、知らないまま、投げ出され、役目だけを与えられた。
        その前にいたのは俺だ。俺に使役され、俺を守り、俺についていく。それしかなかった。

        それしか、なかったんだ。
        お前には。

        俺にはそうではなかった。
        俺は選べたはずだった。お前を見捨てることも、お前を受け入れることも、どちらも。それ以外の全ても。
        (男の言葉は淡々としていた)
        (けれど今は違う。精神を拘束し、何重もの防壁のはてに出される、冷徹な声音ではなかった)

        選べた、はずなんだ。
        俺は選ばなかった。役割(Role)を、ただこなして(Play)いただけだった。

        そのザマが、これだ。

        (俯いたまま、首を横に振る)
        媚びなくていい。
        笑わなくていい。
        大人しくなくてもいい。
        抱けずともいい。俺に奉仕しなくていい。
        俺のことを一番に考える必要もない。

        殺さなくてもいい。

        ……泣き止まなくていい。俺を罵ってくれて、いい。

        許してくれなくて、いい。


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        すまなかった。
        (ただ、男はそう繰り返した)
        -- アルヴィン
      • (赤い涙)

        (どうして赤い涙が出るの)
             (あたしはそれすら知らない)

        (どうしてそんな冷たい体なの)
             (聞いたって答えてくれない)

        (マスターが少しだけ眠る夜。一番そばにいないといけないはずなのに、遠ざけるのはどうしてですか)
        (あたしがそんなに信用できないの)

        (独りの夜は怖いんです)
        (かわいい魔物を沢山出して、囲まれながら待っていても、寂しくて苦しくて)
        (マスターはあまり眠らないからたった数時間なのに、何日も離れているようで)
        (誰でもいいからそばにいて欲しくなって、それがとても嫌なの)

        (起きた貴方が結界まではってあたしを遠ざけるのはどうして)

        (どうしていつもあたしを置いてどこかへ行ってしまうの)


        (……あたしは貴方のサーヴァントのはずなのに……!!!!)





        (…………………………ぐちゃぐちゃの思考が、途切れる)



        (初めてこの人の声を聞いた気がした)
        (知らない人の声みたい。同じ声なのに)
        (酷く優しく聞こえる)


        (………………………雨の向こうに赤い涙を流す主が見えた)

        (それは、「人」の声)
        (それは、「人」の顔)


        じゃあ

        選んで


        (赤い本を抱いたまま、立ち上がる)
        (少女の声はもう震えていない)
        (彼を見つめる瞳は縋るような瞳ではない)

        (金色の月の様な瞳が)

        (まっすぐに、挑むように)


        見捨てるのか、受け入れるのかを


        今、選んで。

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        ……問おう。
        あんたが、あたしのマスターか。


        -- キャスター 2014-03-29 (土) 05:09:55
      • (喉が震えた)

        (こんなにも雨が降っているというのに、いや、だからこそだろうか。こんな雨よりもずっと、心は煮えくり返っていて)
        (けれど頭は冷たく。喉が乾き、舌が震え、吐き気が込みあげる)

        (胃がストを起こす。全身の臓器が裏返るような錯覚。心臓がひくついて踊り、瞳孔はどこかに絞られる)

        俺は―――

        (煮えたぎるマグマのように、重々しく。海へと流れ出る大河のように、ゆるりと。言葉が、喉を昇っていく)
        俺は……。

        ……俺は……!!

        ……。

        違う。

        俺はお前のマスターでは、ない。
        俺は、

        俺は、お前達のマスターだ。
        お前達二人の。そして、お前の。
        ……キャスター。お前達三人のマスター。

        アルヴィン・マリナーノだ。


        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028381.png


        俺は、アルヴィン。アルヴィン、マリナーノだ!!
        -- アルヴィン

      • (捨てられてもいい、そう思った)
        (心でちゃんと考えて、やっとあたしに接してくれたから)

        (ほら、やっぱり、役立たずのサーヴァントなんて駄目……)


        (………………それは、予想していたどの答えとも違っていた)

        (だけど)

        (それは)

        (……………………一番嬉しい答え)

        (……………………いつの間にか雨は上がっていて)
        (高く登った月が、少女の背に金色に光る…………)

        (逆行の中少女はかぶっていた外套を下ろし)

        ……きっと、「あたし」は記憶が戻ったら消えちゃいますよ?

        (明るく笑う)
        (屈託なく。無邪気に。純粋に)

        二人くらいにしとけばいいのに。

        ……でも、でも、でもね
        あたしはそんな貴方が大好きなのです。

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        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        改めて
        よろしくおねがいしますね、マスター!


        -- キャスター 2014-03-29 (土) 06:08:22
  • 繁華街 2
    • ……俺を……。
      (ありえないはずのキリルの再生。くちづけ。そしてめぐる力)
      (その全てを受けてなお、男を燃やすのは)
      俺を、優しいなどと。信じるなどと。言うな。

      (それは、怒りだ)

      俺を……俺の心を、探ろうと、するな……!!

      (がくん、と。黒外套の男がうずくまり、石畳をひっかく。鋼鉄の爪で)
      (ぎちぎちと音を立て。徐々にその指が、獣じみた爪に変わり、石畳にめり込んでいく)
      俺はもう、誰の命も背負うつもりはない。
      誰の心も、救うつもりは、ない……!!
      (それは誰へのものでもない。己自身へのがんじがらめの鎖、強固な檻)
      (己に誰かを救うことなど、守ることなど不可能だと、己自身を呪う言葉。燃え上がるその黒黒とした炎は、与えられた力に形を与える)

      ……ブレイズ……そしてそのサーヴァント……キャスターよ。
      俺は、お前たちが、どうしようもなく……。……ッ!!
      (がくん、と背がのけぞった。赤い瞳が大きく見開かれ、やがて横に裂けていく)
      (ざわざわと髪が伸び、色あせ、鋼鉄の鎧によって封じられているモノを明らかにしていく)
      (あやかしの血が活性化し、「それ」を呼び起こす。形作る。変異させる)
      これ、は……雷血、か……精神拘束術式が、効かぬ……!!
      (冷静な、本来の理性がよみがえる。だが遅い。「それ」はアルヴィンの悪感情を喰らい、施されていた拘束を脱して表へと現れた)
      お、オ、オオオ……!!

      (そしてやがて、変異の果てに現れたのは)
      (黒外套の魔術師の姿としては、あまりにも……そう、あまりにも似つかわしくない)


      http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028362.png


      オオオオオオオオオ――――ッッッ!!

      (灰色の角を生やす、鬼めいた魔人……鋼鉄の鎧と爪を持つ、狂える殺意の象徴。歪んだ英霊が、そこにいた!)
      -- アルヴィン
      • ……アルヴィン!?
        (サーヴァントの力を与える?否……あれは完全にサーヴァント化している)
        (魔術師だった男が……それはまさしく、バーサーカーとも言えるほどに)
        (それは……戦う相手と言えども驚愕を隠せない)
        (あの男から考えられない性質の……怒りと混沌)

        ……ライダー、あの≪審判≫に使う予定だったあの戦い方
        あれを試す。加えて今回は俺がライダーの機動力になる……焔の翼になって

        退かせるのも、倒すのも……正面からただやり合うだけじゃ無理だ。
        その先すらも届かない……!

        (そう決意するように己の存在自体を確認し……右手に握るライダー、ステイシアの手を確かめると)
        (左手に掴んでいた弓を放した。虚空に投げられたそれは箱という形に戻り落下していく)
        (そして)

        ハァァァ…………!!!!

        (ステイシアの手からは伝わるだろうか、熱が。全てを燃やす炎の熱ではなく……)
        (人の命、意志の熱意が。それはブレイズ自身をまさしく名の通り炎に変えていく!)
        (炎の不死鳥のように、羽ばたく姿で!羽ばたく不死鳥がライダーの背に合わさり、ライダー自身の力に変わっていく)
        (それは……己の体を炎に変えて、形を取り……仲間の力となる姿)
        (今、ライダーに新たな力は加わった。炎の……意志を持つ翼が)

        ≪ライダー、背中や意識を配れない場所は俺が補助する。今持てる全力で行こう!≫

        (令呪を通して伝えるように、ライダーへ声は伝わっていく)
        (キャスターがマスターへサーヴァントの力を与えるなら……これはマスターがサーヴァントの力になる技)
        (まったく逆の……戦い方も、マスターとサーヴァントの意志も性質さえも逆の二人が今、戦う…) -- ブレイズ
      • (眼下に捉える男の纏う魔力の質が変化する)
        (これは―)

        サーヴァントに、なった…?これが、あの子の宝具……
        (己のマスターをサーヴァント化させる戦法など聞いたことも、想像したことすらない)
        (サーヴァントはマスターが死ねば現界出来ないというのに、そのマスターを強化して前衛とするとは)

        分かった。お願いね、ブレイズ。私も……あの子には絶対に負けたくない。負けられないから
        全力で…行くよ!!
        (炎の翼をはためかせ、紅い月に照らされる眼下の鬼を見下ろして)
        先手、必勝…ッ!!!
        虚空裂く幻影の獣―ハウリングファンタズマ―
        (己の宝具の真名を解放する。あの体躯から察するに近接戦闘に持ち込まれれば圧倒的に不利)
        近づかれる前に、終わらせるッ!!(気合一閃。アルヴィンの上方から、左方から、右方から)
        (連続して不可視の獣の爪が放たれる。鉄すらも容易に切り裂く爪の連撃。果たしてどこまでこの鬼に通用するか―) -- ライダー
      • RRRRGGGGッッ!!
        (獣そのもののすさまじい咆哮をあげ、不可視のそれらを見るのではなく感じ取ることで察知)
        (左右同時に振るわれた爪を、己の異形の鋼の爪を轟! と振るい、破壊せしめた!)
        (しかし上からの攻撃には対応のしようがない。否、あえて突っ込んでいるというのか。ぞぶりと鋼鉄の肉を切り裂く爪。鮮血が飛沫く!)

        AAAAAAAAAAARRRRRRRRRRRGGHHHHHH!!!!

        (まさしく爪によって身体が両断され、乱れ……ない。真っ二つに切断された肉体が、切断面から触手じみて伸びた血液により縫合され、再接着!)
        GRRRRッ!!(振り下ろされるさなかの爪、不可視ではあろうが物質的に存在する"それ"を踏み台に、さらなる跳躍。なんたる己の身体を厭わぬ暴力的進行か!)
        (空のアドバンテージを取ったライダーへ、弾丸のような勢いで鬼が迫る。迫る迫る迫る―――)
        GAAAWWHHHッ!!(空中で不可解な横回転を加えてのソバット! 大木をも風圧のみでなぎ倒しうる蹴撃を避けようと防ごうと、続けざま勢いを殺さず縦回転を得た両爪の乱撃がライダーを切り裂こうと走る。奔る。疾走る!!)
        --
      • (初めて使用した宝具。どういうものかは自分の力なのでわかる。でも結果は自分でもわからない)
        (どのクラスで英霊化するのか指定できないからだ。そこはマスターの感情、生きてきた積み重ねから成るもの)

        (……まるで遠い異国の鬼のよう。自分の創造主の少年が話した祖先の昔話に出てくるような…)

        (意外だった。魔法を使用するクラスだと思っていた……いや。意外でもないのだろう、きっと)
        (自分はこの男のことを何も知らないのだから………)


        (姿のかわった赤髪の少女……女は空を仰ぐ)
        (ずっと霞がかっていた記憶がはっきりと浮かんでくる。少女だった時間の記憶もしっかりと存在していた)

        (赤髪の少女と同じ眼差しで……いや、その眼差しはむしろ、空を舞うライダーのような)
        (諦めの色が浮かんでいた。少女のようにもう、許しをこうことはない)
        (争う事は苦しくても、もう何も変えようとはしない……)

        ……もうあたしにはとめられない。ごめんね……。
        (純白のドレスが風に揺れる。呟く声は別人だが少女の面影は濃く残っていた)
        -- キャスター 2014-03-27 (木) 23:07:57
      • (まさしく狂気の鬼、バーサーカー)
        (想定したより……ずっと、心の悲しみが、痛みは深い)
        (それは獣の鬼のような……膂力、力、機動力。圧倒的な暴力の化身)
        (この存在と戦うのは欠けた少女と炎の翼だけか……否)

        ≪今俺とライダーは一体となっている。相手がいかなるもの手数だろうと、2人なら戦えない道理はない!≫

        (そして、その炎の翼が……翼のままはためきながらその先が五指のように別れていく)
        (宵闇の中、夕陽を背に両手をはためかせてかざし翼を描くように……)

        ≪足りない部分は俺が補う…今は、俺がいる!≫

        (だから不安になることも、怯えることも、恐れることもない)
        (全力で叩き付けろ!と炎越しに伝える)
        (この……紅い月が昇る世界で、あの月の下で!) -- ブレイズ
      • ―っ、分かった!ブレイズ、お願いッ!!
        (最初の馬鹿げた威力の蹴りを飛び越えるようにして躱し、続けて迫る連撃の処理をマスターへと委ねる)
        (鬼の爪と炎の翼が幾度も打ち合い、紅い夜空に紅蓮の花が散るかのように、幾つも幾つも炎が舞う)

        (マスターからの言葉が意味するもの。それは―)
        そうだ。月が出てるんだ。赤くても―月は、月だから!!

        万象満たす月の煌めき―クレッシェンド・ルナリア―

        (続けざまに解放される二つ目の宝具)
        (例え魔術によって生み出された幻影の月であろうと)
        (光が歪められた赤い月であろうと)
        (それが「月」であるのなら、その光は己にとって絶対的な加護となり)
        (同時に、敵にとっては破滅の光となる)
        (其を成すは少女の生涯について回った一つの伝承を由来とする宝具)

        (真名が解放されると同時に、周囲を覆っていたアルヴィンの結界がその性質を変えていく)
        (内部に居るものの魔力を、体力を、精神力を強制的に削り取る結界宝具!)

        キト!!やっちゃえ!!
        (少女の声に反応し、ライダーとアルヴィンの間を割って現れるは獣。決して幻想などではない。月の光を浴び、その姿を現した月の獣が咆哮する)
        GRRRAAAAAAAAAAAAAHHHHH!!!!!!!!!!!!
        (100年以上の長きに渡り、恐怖の対象として語り継がれた月の獣が咆哮すれば、爆発的な音と風の荒らしがアルヴィンに向けて吹き荒れる!) -- ライダー
      • GAW……HHH……AA……
        (攻撃の尽くをいなされ弾かれ、現れし恐るべき月の獣。紅い月さえも味方につけたその咆哮は、狂える鬼をして防ぎきれるものでは、ない!)
        (威力ある波となった音の嵐を全身に受け、風切りにより切り裂かれ破砕した鬼が重力に従い落下。轟音!)

        (地面に深くクレーターが穿たれ、もうもうと土煙が立ち込める。さしもの不死身とて、これだけ全身に衝撃を受ければ……)

        HAAW……HAHA……HAAAHAHA……

        (がしり、と。砕け散った瓦礫を爪が掴んだ)

        ハハハハハハハハハ!!

        (鬼が。土煙の中から、死者のごとく立ち上がる。飛び散った肉と血がズルズルと誘蛾灯へ引き込まれる虫のように引きずられ、付着していく)
        ハハハハハ! ハハハハハハ!!
        (鬼があげるのは哄笑。狂った笑い。はたしてそれは何を笑う? ライダーを? キャスターを? あるいは……アルヴィンを?)
        ハアアアアハハハハハハ! ハハハハハハ!!
        (鬼の背中、肩甲骨の付近がめぎりと歪む。ぶちぶちと鋼鉄の皮膜を破って現れたのは、血によって形作られし五指の翼)
        (まるでブレイズのそれを真似るかのように。しかし空を舞うには覚束ないそれを、威圧的に広げ、はためかせ)
        ハハハハHHAHAARRRRRRRHHHHHHHH!!!
        (退くことなどなく。己の魔力を、耐久力を削られなお、月の獣に跳びかかり、爪/牙/鎧/角で、血みどろの戦いを繰り広げる)
        (それはまるで、鬼にとって狙うべきは敵……つまり二人ではなく、より純然たる魔である獣であるかのごとく。自動機械じみた獰猛さでで獣と打ち合い、切り裂きあい、噛み付き合う)
        (ただでさえ結界宝具により力を削がれ、獣との激しい乱舞によりその力は低迷している。隙を突いた一撃を叩きこむのに、好機は今を置いて他にない!)
        --
      • (月の獣が鬼の肉を切り裂き、骨を砕き続けても尚、あの化け物は立ち上がり向かってくる。笑い声すらあげて)
        (幾ら傷を与えてもたちどころに再生するその様は既にサーヴァントという域を脱しているようにすら見える)
        ―っ、く、ぅぅ…っ!!
        (ブレイズが炎となることで魔力を消耗している以上、二つの宝具の同時展開に十分な魔力供給が行われているとはいいがたい)
        (限界が、近い)

        ―キト!!終わらせよう!おいでッ!!
        (血みどろの鬼と一進一退の攻防を繰り広げていた獣を呼べば、獣は粒子となり即座にライダーの手前へと移動する)

        これで、ダメなら……ッ!!
        (そんなことはあり得ない。信じるんだ。あんなサーヴァントを連れているマスターより、自分のマスターの方がきっと優れている筈だ)
        (彼は言ってくれた。光になると。今はまだその手を掴む勇気はないけれど)
        (ならばせめて、戦うことで。勝つことで意思を示す)
        (自分は貴方の為に戦うと。貴方の目的を叶えるために戦うと)

        (この身が朽ち果てようと構わない。元よりこの命に価値など無い。ならば、今燃やさずして何処で燃やすというのか―)

        月光は天を裂く―フェローチェ・ルナ―

        (展開されるは第三の宝具)
        (足も、腕も、目も失い、自分の足で歩くことすらままならぬ彼女が何故ライダーのクラスたり得るのか)
        (誰も知り得なかったその答えが今、此処に)

        やっちゃえキト!全部、全部消飛んじゃえばいいんだぁぁぁぁぁッッッ!!!

        (獣の背に跨れば、煌めく毛並みの獣が空中を蹴りあがり天高く舞い上がる)
        (一蹴りする度にその速度は倍増していき、やがてその姿は天に光の軌跡を描き出す)
        (煌めく光の弾丸となった獣が、更にブレイズの炎の翼をその身に纏う)

        (月を背に、灼熱の業火を纏う音速の弾丸が鬼目掛けて舞い降りる) -- ライダー
      • (それは獣)
        (今、ようやくライダーであるステイシアの本当の力を垣間見る)
        (不可視の獣に乗るからではなく……この光の獣がいるからこそなのだと!)
        (それは月の影響かもある、凄まじく強く……そして、悲しみも載せていた)

        ≪アァァァァルゥヴィィィンィィン!!!≫

        (そして、その獣が纏う炎の翼に今戦う男への意思を乗せて)
        (限界にも近い、魔力……いや、己の力を燃やして、ライダーと、キトと呼ばれた光の獣と共に……叩きつける!) -- ブレイズ
      • (獣から飛び退った鬼が、四脚立ちで着地する)
        RRRRRRRGGGGGGHHHHHHH……
        (ふしゅる、と蒸気じみた煙を口から吐き出す。赤い四眼がその奥で炯々と輝いた)
        (狙うものは一つ。魔。サーヴァントという、人ならざるもの。鬼はただそれだけを見据える)
        (だがその時、確かに聞こえた)
        (裂帛の気合。その名を呼ぶ声。男の咆哮。叩きつけられる炎の如き意志を!!)
        --
      • GGGWWW……グ、ウウウウ……
        (四つ目のウチ、右2つが赤い色を失った。そこに染まるのは青。明らかな理性の輝き)
        (ぎぎぎ、と鬼の鋼鉄の肉体がきしむ。そしてガチガチと牙を鳴らし、叫んだ)
        Bla……ze……

        ブレェエエエエエエエエエエエエエエエエイズッ!!

        (遺された最後の力を振り絞り、跳躍。否、上方に向け突進!)
        (光の速度に達しかねない強烈な加速をもって、鬼が、いや、彼が、一目散にその体を叩き込み……!!)



        ッドゴォン!! というすさまじい炸裂音。先よりも強烈な震動が地面を揺らす)

        AAG……GRR……
        (獣のものか人の呻きか、全身の骨と鎧をバラバラに砕かれた鬼は、再生すらもままならず地に磔にされていた)
        (その爪が、角が、徐々にボロボロと崩れていく。残ったのは、砕けかけた鋼鉄の肉体から止めどなく血を流す一人の魔術師だった……)
        -- アルヴィン
      • (目の前では懐かしいとも思えるサーヴァントの戦いが繰り広げられていた)
        (攻撃に巻き込まれないように結界を張り、傍観者となる)
        (体の不自由な少女……ライダーの戦い方は見事なものだった)
        (支えられ、信頼で結ばれているマスターとサーヴァントの戦い方)
        (かつての自分を思い出す。自分が聖杯戦争に参加していた頃を……)

        (………………いいな)
        (うらやましいと思った。あんなに孤独だと身を縮めた少女を)

        (自分は全部諦めてここに来た。ただの戦う道具になりに)
        (でも違うのだと気づいた)

        (信頼し、心も体も預けられる人間に……もう一度出会いたいと)

        (でも、どうだろう) (今の自分は) (なんて惨め)
        (マスターに助けられて、輝く宝具の獣と炎はなんて美しいのだろう)
        (沢山のものが欠けていても、それを補ってくれる人がそばにいる)

        (どうして自分はそうなれないのか。あんなにひたむきに好意を示しているのに)
        (記憶喪失なのに) (力も弱いのに) (どうして)
        (あたしのマスターは助けてくれないの!!!)
        (今だってこっちを向いてくれないの!!!!)
        (心の中で、記憶が戻り消えたはずの少女が叫ぶ)

        ……馬鹿みたいだな。あたし。

        (戦いの中、誰にも聞こえない声)
        (咆哮が聞こえた。今までとは違う、理性のある咆哮)
        (戦いをどこか遠くのもののように見つめていた心が、現実に戻る)

        (…………そこには、いつか聞いた物語に出てくるような鬼はおらず)

        (……ただ哀れな男が独り)
        (自分を必死に慕う少女を道具にした男。にくいと思うよりは今はただ哀れだった)

        (このまま見殺しにしたってよかった。でも…体が勝手に動いた)
        (おびただしい血を流す男の前に、立ちふさがる)
        (純白のドレスが血をすい、赤く足元から染まっていく……)

        (二人を見据えて)

        ……すまないね。止めを刺されてやるわけには行かないんだ、まだ。

        (苦々しく笑う、血のように赤い髪の女)
        (力は主に明け渡したために、人間の魔術師と同程度)
        (かなうはずなんてないのに)
        -- キャスター 2014-03-28 (金) 01:21:43
      • ―っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…
        (轟音が響き、大地が揺れ、爆炎が立ち昇る。この世の終わりを切り取ったような光景がようやく落ち着いたとき)
        (そこに鬼は無く、相手のマスターが今にも消えそうな程に弱弱しい魔力を帯びて存在していた。)

        っ、まだ、生きてたなんて…。あと、一撃…っ…(鬼と化した相手を打ち破ったとはいえ、此方とて最早攻撃に回せる魔力など微塵も残っていない)
        (こうして現界しているのがやっと。しかし。虫の息であるただの人間を殺す程度はわけはない)

        (しかし、それを阻むものが居る)

        今更っ…今更、出てきて何か出来るつもり…?自分は花嫁なんてバカみたいなものに憧れて…戦闘になったらマスターを危険に晒して…っ!!
        自分が血を流すこともしないで…夢見るだけで、そんなっ、そんな純粋なままで…何かを願うなんて、そんなの…っっ!!!
        (あまりにも)
        (あまりにも自分と違いすぎる)
        (その存在価値を戦うことでしか見出せない。未来を望むことも出来ない。過去を懐かしむことも出来ない)
        (何処を向いても見えるのは暗闇だけ。だから下だけを見ている自分とは、何もかもが違う)

        (だからこそ、その存在自体が許しがたい)

        っ…いいよ、そんなに…っ、そんなに死にたいなら殺してあげるよ。バカみたいな夢を見たまま…夢に溺れたまま、死んじゃえばいいんだ!!

        (一歩、踏み出す。最早宝具を使用する魔力などどこにもない)
        (だがそれでもいい。魔力を使い果たし消えようと、この不愉快な存在を消し去ることが出来れば―) -- ライダー 2014-03-28 (金) 23:27:45

      • ……帰ろう

        (そのライダーの、ステイシアの狂おしいほどの殺意を止める者がいた)
        (彼女のマスターだ。マスター・ブレイズが止めた。焔化を解いた人の姿で)
        (マスターではなく……サーヴァントに明確な殺意を持って挑む彼女を止めた)
        (サーヴァントとしての存在が危ういから、否……霊体を解くことを命じることもせず)
        (彼女の肩に手を置いて……止めた)

        (アルヴィンが倒れた今……魔術師が倒れた今。その結界は解かれた)
        (膨大な熱の残滓が大気中の水分を空へ押し上げ、雨雲を作っていく……)
        (それは急激な夕立を生み出し、大地に染みつけるように降り注ぐ)

        (何故、と激昂してステイシアが振り向けば見えるだろうか)
        (雨に濡れ……何も言葉に出さず。悲しみがどうしようもなく溢れた顔を)
        (涙を流しているかのように)

        (誰も望まれない。望んでいない。今)
        (あの鬼になった、なってしまったアルヴィンと……ただ見るしかなく、今立ちふさがるしかできない無力なサーヴァント)
        (絶望し、妬み、狂おしいほどの殺意を煮えたぎらせるサーヴァントと……その歪な心を救えず戦うしかない男)
        (それはあまりにただこの上なくあまりに無情な戦いだった)
        (お互い何故戦うのかのかすら……無意味になってしまうような、戦いになった今)

        (雨の中……立ちふさがる女のサーヴァントと、血まみれの男に振り向きもせず)
        (そのまま背を向けてその場を去って行った)
        (自らのに最も近く、最も遠くにいるパートナーと共に) -- ブレイズ 2014-03-29 (土) 00:06:50
      • (自分を殺そうとする少女は…………………………)
        (……ぼろぼろになって、痛々しかった。自分が少女の姿のままだったらきっと、謝り続けて泣いていただろう)
        (返す言葉もないのだ。一言も言い訳なんてできない)
        (さっきまでいた赤髪の少女も、今の自分もただ彼女と戦う事から逃げていただけだから)

        (雨の中少女を見下ろす。彼女は今は自分より小さい………………だけど強大な力を持つ)
        (それは酷く残酷な事だと思った)
        (見た目と力は関係ない。それでも彼女は本来守られるべき存在のはずだ)
        (だってこんなに傷ついていて……人に捨てられ人を信じられなくなった野良猫のよう)
        (……なのに、戦えるから、戦わなくてはいけない)
        (サーヴァントとはそういうものだから)

        (…………………この期に及んでも、この少女と戦う決意はできなかった)

        (彼女に殺される事で、彼女が楽になればそれでもいいとすら思う)
        (傷つけたのは自分だ)
        (ただこの男を見捨てる事もできない……自分の中の妹の魂を道連れにする事も)
        (そして、この少女の手にかかる事で彼女がさらに傷つくんじゃないかと…………………)

        (…………………………迷っていたその時)
        (ブレイズが捨て猫のような少女を止めた)

        (何故、と問うまでもなかった…………表情を見れば)




        (激しい雨の中、男と少女が背を向ける)

        (しゃがみこんで、自分の主の顔を見て)

        ……惨めだね、あんたも、あたしもさ。

        (呟いて、主の頬の血を手でぬぐった)
        -- キャスター 2014-03-29 (土) 00:44:27
  • 繁華街 -- 2014-03-25 (火) 21:56:32
    • (女性の服を多く取り扱っている店の並ぶ道。合間合間に甘いお菓子のお店があって、とてもいいにおい)
      (その中をライダーが歩いていると、真っ赤な髪が目立つ少女がショウウィンドウにへばりついて何かを見ていた)
      (ぼーっとしているので胸に抱いていた本から小さな栞が道の真ん中にひらりと落ちる。青い花の押し花の栞)
      ほぁ……きれいですねー…
      (それに気づかず、ただ夢中で………ショウウィンドウの中のウェディングドレスを見ていた)
      -- キャスター 2014-03-25 (火) 21:56:51
      • ……?(いつものように特に目的も無く、ご飯をくれそうな人はいないかと街をぶらついていたときであった)
        (道のど真ん中に手の込んだ押し花の栞が落ちている。拾い上げ、辺りを見てもそれらしき人影は無く)
        ……誰のだろ
        (栞に視線を落とし、顔を上げた所でショウウインドウにへばりつく赤髪の女性の姿に気が付いた。その手には、本)

        ……ね、これ貴方のじゃない?
        (かつ、と義足を鳴らして立ち止まり、キャスターの視線を遮るように栞を差し出して) -- ライダー 2014-03-25 (火) 22:00:34
      • (靴音とはちょっと違う、杖を突くような音。気がつけばにょきっと自分の作った栞が目の前に出て)
        わっ?!(びっくりして勢いよく彼女のほうをむいた。栞を受け取って)
        ありがとう…!折角作ったのになくしちゃうとこでした…!(大事そうに鍵のついた赤い本にはさむ)
        (そこで彼女の姿に気づいて少し驚いた顔をした。体の欠損のことか、同じ年頃の少女だったことか、それとも……)
        (赤髪の少女はまたウェディングドレスに視線を戻して)
        きれいですねー?あれ、明日どなたかが着るものなんですって。女の子の憧れですねー。
        -- キャスター 2014-03-25 (火) 22:18:13
      • ―(何だろう。どこか、懐かしいような)

        …そだね。多分、幸せなんだろうな。あんなドレス着られたら
        (並び立ち、ウェディングドレスに視線をやれば。何か古い記憶がよみがえりそうで)
        (這い出してきそうな幸せの記憶に自分で蓋をした)
        …貴方も、そのうち着るんじゃないの?女の子なら…大概は着ることになると思うけど。似合いそうだね、ドレス
        (このドレスを隣の少女が着ている所を思い浮かべる。小柄ながらスタイルの良い彼女なら、きっと純白のドレスも映えるのだろう) -- ライダー 2014-03-25 (火) 22:32:48
      • (緑の髪に幼い笑顔。遠い過去の思い出)
        (いつか彼女と同じ話をした少女に、この赤い髪の少女は良く似ていた……彼女の兄弟と同じ顔なのだ)

        えっ……ど、どうですかね…えへへ、ありがとうございます…っ(ぽっと頬を薔薇色に染めて、笑う)
        貴方もきっとよく似合いますよ!ほら、あっちの沢山フリルのついたふわふわの…。
        ああでも、ドレスを着るより、好きな人と愛を誓うほうが嬉しかったりするのかな……くう、いいですねぇ。
        (ここに来て同じ年頃の女の子と話したことはなかった。嬉しくてついついよくしゃべる)
        (そんな場合ではないのだけれど。そろそろ帰らないと、主が宿に戻る)
        (自分は戦うための存在なのだと理解しているのだけど……こういう「普通の」時間がどうしょうもなく愛しかった)

        (硝子を見ながら、なにやらもじもじと、間。そしてもう一度彼女のほうを向いた)
        あ、あのっ!
        ……ああいう感じのドレスに合うようなひらひらした髪留めが欲しいんですけど。
        この辺のお店に詳しくなくて……ど、どこかいい場所ご存知じゃないですか?
        (思いつきの口実。もう少し、普通の女の子の時間を楽しんでいたくて)
        -- キャスター 2014-03-25 (火) 22:53:25
      • そう、かなぁ。結婚なんて考えたこともないから……あんまり想像つかないや
        (示されたドレスを見れば、確かに可愛らしいと思う。こんなドレスを着たら誰だって舞台の主役を張れる)
        (それもそうだ。ウェディングドレスは、その日の、その舞台の主役のために作られたものだから)
        愛、かぁ……うん。そういうの誓った友達が居たけど。すごい、幸せそうだったよ

        (だからこそ、己には似合うことなど無いのだろうと心のどこかで呟いた)
        (自分は主役ではなく、ただの駒だ。この命は駒として生きることでようやく価値があるのだから)

        ―かみ、どめ?
        (不意の提案に首を傾げる。それは―)
        それは、うん。別にいいけど。……私、お金持ってないよ?
        (お金、大丈夫?と言外に告げる。自分が持ったお金は全て間食用であるが故に) -- ライダー 2014-03-25 (火) 23:09:01
      • あたしも憧れるけど…自分がほんとにこうなるとかぴんとこないです。
        そういう人は生まれが違うの、きっと。
        (胸が苦しくなるほどに憧れる。けれど自分は絶対にそちら側の人間にはなれないのだ)

        (……サーヴァントだもの)

        (しぼんでしまいそうになる気持ちを振り払うようにさらにはしゃぐ)
        (目の前の少女の言葉に「大丈夫!」とポケットの財布を見せて)
        お金は結構ありますから!…やったぁ!
        じゃあいきましょう!こっちの方がアクセサリーがいっぱいあるって聞いてるんですけど…
        (反対の通りを指差してとてもゆっくりと歩き出す。片足の彼女のペースにあわせるようにして)
        そんなに高くなくて、あたし達の年頃の子が買うようなので………あ。
        (そらからぱっと振り返って手を差し出す。満面の笑み。手をつなぎたいらしい)

        (彼女が体が不自由なのを気遣ってのことだったけれど……その体以上に)
        (どこか、全てをあきらめきっているような、そんな目が気になって)
        (おせっかいな少女は優しくしたらもしかしたら笑ってくれるだろうかなんて思ったのだ)
        -- キャスター 2014-03-25 (火) 23:34:06
      • ―そうだね。生まれが、違う。……きっと、世の中はさ。幸せになる人と、そうじゃない人と。生まれた時から決まってるんだよ
        (少女の呟きに頷き、もう一度ウェディングドレスを見る。あの友人たちは、こんな衣装を着て愛する人と一緒になって―生まれが、違ったのだ)

        (かつ、かつ、と義足が床石を叩く音が街中に響く。ぴた、と音が止まり―)
        ……これで、いいの?
        (彼女が差し出した手の意味。それを察し、左手で軽く握る)
        (伝わる温もりが酷く懐かしくて、とてもとても遠いものに思えた)
        (あの時、こうやって手を引いて買い物に出かけたあの友人は今何をしているのだろう)
        (会いに行くと約束をした彼女は今―)

        (胸に去来するやりきれない思いを、小さく首を振って振り払った。今の自分にはもう、関係のないことだから)
        …多分、この通りだと思う。前に来た時に、そんな話聞いたから
        (ん、と右手に見える通りを見やる。以前アリィと共に街をぶらついていたときに話題に出た場所だった)
        (立ち並ぶ露店にはアクセサリや小物が並び、少女達が楽しげに品物を手に取りあぁでもないこうでもないと言いあっている) -- ライダー 2014-03-25 (火) 23:54:12
      • (彼女の言葉のはしっこに、ズキンと胸が痛む)
        (自分で言ったことだった。それは悲しい考え方だとわかっていて言った)
        (そう思っているのは本当。でも、同じ考えを持つ子がいることに嬉しさよりも……悲しさを覚えた)

        (だから、差し出した手を握ってもらえないかもしれないと思った。こういうのは好きではないと)
        (……でも、自分より細い手で握り返してくれた)
        (嬉しくて……あたたかさにほっとした)
        (歩きながらさっきのお店のすぐそばのお菓子やさんがおいしかったとか、沢山しゃべり続けた)

        (彼女が連れてきてくれた店で、賑やかな少女達の声の中で品物を選ぶ)
        これいいですね!……あ、こっちのほうが使い回しがきくかなぁ……。
        (周りの少女達と同じように、自分も品を手にとっては振り返って、笑った)
        (つられて笑ってくれないかな、そんな気持ちもあったけど)
        (ただ楽しくて……)

        (目の前の少女の、抱える悲しみの大きさには気づけない)
        (無邪気な笑顔は少女の大切な思い出をしまいこんでいる箱を無理やり開こうとする)
        (それを望んでいない事を察するには、幼すぎた。舞い上がりすぎていた)

        (初めてだったのだ。記憶はないから気づかなかったけど……こんな風に、同じ年頃の女の子と買い物をするなんて)

        (研究所で生まれたときはもう大人の姿で、物語の中の少女に憧れた)
        (こんな青春を過ごしてみたかった。だから、それっぽいことができたのが嬉しくて……)

        ん!これにしよう。
        (しばらくすると、品物を抱えて会計を済ませてきた。露天のすぐ横で、包みを開ける)
        (……中には髪飾りが、二つ)
        (それを取り出すと、一つを自分につけて)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028350.jpg 

        (もう一つを目の前の少女のフードにくっつける)

        (赤毛の少女の格好にあうものと言うよりは、目の前のフードをかぶった少女に良く似合う)
        (……いや、ちょっと幼いかもしれない、花の髪飾り)

        ……えへへ、欲しいものがやすかったので!お礼におなじのを!
        (喜んでくれるだろうか)
        (屈託のない笑顔を少女に向けて……)
        -- キャスター 2014-03-26 (水) 00:28:15
      • (彼女が楽しそうに話す度に。彼女が笑顔を向ける度に、記憶の底に閉じ込めていた筈の光が漏れ出すのが分かる)
        (光など掴んだ所で何になるというのか。決して救われはしない。無価値な命が光を掴んだ所で、何かを成すことなど出来はしない)
        (こうして今、話しているだけならそれでいい。何時か終りを迎える時間を好きに過ごすだけならそれでいい)
        (けれど)
        (過去に見ていた光景が脳裏を過るのが寂しくて。未来に何かが待っている錯覚に陥るのが悲しくて)
        (結局、一度も笑えないまま)

        (やがて目当ての物を見つけ、赤毛の少女は会計を済ませて戻ってくる)
        (何をするのかと見ていれば、ぱちん、と音がして自分のフードに髪留めが止められる)
        こ、れって…(す、と左手で触れてみる)

        ―あり、がとう

        (口をついて出た言葉は意識の外で発せられたもので)
        (その表情は、赤毛の少女が望んだものとは真逆。いまにも泣き出しそうな、そんな顔だった)

        (いつも一緒だった人形とお揃いの耳と尻尾が欲しくて、自分で飾り付けた)
        (あの人に振り向いて欲しくて、自分で衣装を作った)
        (友達のために、アクセサリを作ったこともあった)

        (津波のように押し寄せる4年間の思い出が脳内をかき回す)
        (全部、全部―)

        (無意味だったじゃないか)

        (友人と築き上げた絆も、淡い恋心も、あの日の約束も)
        (何もかも一瞬で奪われて、何もかも意味をなくした)

        (この髪飾りもいずれは意味を失くすというのに。無意味だとわかっているのに)
        (嬉しいと僅かでも感じてしまう。全部、終わりが見えているのに―)

        (言い表しようのない感情の渦の中、既に無い筈の右腕が痛んだ気がして、左腕で肩を掴み、唇をかみしめた) -- ライダー 2014-03-26 (水) 00:52:49
      • ……ここにいたか。
        (往来を歩く黒外套の男。モノクルの奥の赤い瞳は雑踏の中でなお眼を引く)
        (遠くから、サーヴァントのそばにいるもう一人の少女の姿が見えた。痛ましい様相。だが、雰囲気は剣呑とは思えない)
        (このまま踵を返すか、とも考えた。片手に持ったものを見る。セイバーとの語らいで気の迷いに買ったドーナツの箱があった)

        (嘆息。これではまるで保護者か何かだ。主の元を離れたくないと言うくせに、子供のように気を抜くところは先の襲撃以来全く治っていない)
        ……そろそろ宿に戻るぞ、キャスター。日が暮れる。 -- アルヴィン
      • どういたしましてっ!あたしこそかわいいものが安く手に入ってよかったです!
        似合いま……… …………
        (期待通りの言葉をもらって)
        (赤毛の少女はぱっと顔をさらに輝かせて、少女の顔を覗き込むと)


        (……表情は期待どころか予想のしていないものだった)

        (悲しそうな、苦しそうな、泣き出しそうな……)


        ……っ ど、どうかしたんですか??
        も、もしかしてその傷かなり新しいものなの?
        ご、ごめんなさいつれまわしてしまって……ごめんね…!!

        (おろおろと少女に触れていいものか、傷にさわりはしないかと目の前をうろうろして)

        あっ そ、そうだ、あたし、傷とか魔力とか、少しだけど回復するスキルをもってて…
        飲み薬なんだけど…今……
        (作るね。そう続けようとした時)

        あ…
        マスター!!!ま、待ってください、この子ちょっと具合が悪いみたいなの……
        (主に声をかけられた。本当なら迎えに来てくれた嬉しさで舞い上がるであろうシチュエーションなのに)
        (手には好物の甘いお菓子まであるのに)
        (いまはただただ目の前の少女が心配で)

        痛まなくなるまで、あたし達の宿で休んで……………
        (主に一度振り返りはしたけれど、キャスターと呼ばれた赤髪の少女はまた彼女に手を差し伸べて)
        -- キャスター 2014-03-26 (水) 01:13:16

      • (今、この少女は何と言った。自分はこの少女の言った言葉の意味が理解できる)
        (理解出来てしまう)

        (疼く右肩をきつく握り、苦悶の表情を浮かべつつ顔あげればそこには―)

        ―何で、そんなに笑えるの

        (漏れ出す言葉を止められない。傷口の痛みを抑えても、心の中で煮え立つどす黒い沼から湧き出す瘴気を止めることは出来ない)
        (この赤髪の少女は)
        (己と同じ立場にありながら)
        (有限と定められたこの空虚な時間を。争うためだけに用意された二度目の生を、謳歌している)
        (何が違うのか。同じ年頃、同じ立場にありながら、なぜこうも彼女と自分は違うのか)

        ―生まれが、違う

        (心の中で先ほどの言葉が反響する。そうだ。彼女は幸せになれる立場の人間なのだ)


        ―うるさい
        (差し出された手を振り払う)
        貴方の助けなんか借りない。敵のサーヴァントの力なんか借りるもんか
        貴方は……敵だ

        (少女と、その後ろに見えるマスターを睨み付けて宣言する)
        (この敵意の出処が己の醜い心だとしても。きっといつかは戦う定め)
        (ならば―)

        今殺しちゃった方が、ずっと楽だ― -- ライダー

      • (手がぴりぴりしびれるように痛くて……それが自分の手が振り払われたせいだって気づくまで少し時間がかかった)

        ごっ ごめんなさい…っ 声、うるさかったですか…?
        (それでも弱々しい声でもう一度、手を触れようとして)

        ……………………敵、の……。
        (その手は止まり)
        (恐ろしいことを口にする少女に凍りつく)

        (憎悪に満ちた表情は、さっきまでとはぜんぜん違う人間のようで)

        そんな……あたし。 あたし……。
        (続く言葉を捜して、一歩、二歩、後ずさる)
        -- キャスター 2014-03-26 (水) 21:35:04
      • (後ずさるキャスターの足はどん、と何か硬いものにぶつかることで停止する)
        (そこに立っていたのはマスターであるアルヴィン。片手にぶら下げていたドーナツの箱をキャスターに握らせ、己が一歩前に出るとともに少女をぐいと後ろに下げた)
        敵と言ったか。なるほど、偶然の邂逅がこう繋がったといったところか?
        (意図しての遭遇であるとは、二人の振る舞いを見るに思えない。ことこの場において、アルヴィンはひたすらに冷徹だった)
        殺すと言ったな、手負いの娘。お前がどのような経緯を経て、その濁った眼をこちらに向けているかは知らないが……。
        (モノクルのレンズが光を反射して白く輝く。その奥の赤い瞳は……殺戮機械じみた戦意のみを映している)
        (マルチナやキャスターに向ける忌避感とは打って変わって、対照的すぎるほどに。同じ少女の姿をしているサーヴァントを殺すことを、この男はかけらも躊躇していない)
        (まるでそうであることが当然であるように。そうするしかないように。それ以外の選択肢を考慮するつもりなど、ないように)
        キャスター、術式を整えろ。奴はやる気だ、相手が何者かも知らないが迎え撃つ他にない。
        -- アルヴィン
      • マスターが…っ、人間がサーヴァントに勝てると思ってるの?
        (このキャスターと違い、マスターは明確な殺意を此方に向けている)
        (鋭い視線に射抜かれ、既に抜け落ちた筈の獣の野生がザワザワと背筋を走る)

        ―ッ!!
        (奴は「術式を整える」と言った)
        (整えてから本来の力を発揮するのであれば、それまでに叩き潰してしまえばいい)

        まとめて、死んじゃえばいいんだっ!!!
        (バックステップで距離を取ると同時に、左腕を上から一振りすれば、袖口からは無数のナイフがばらまかれる)
        (正確な狙いなど無い。無軌道にばら撒かれたナイフがキャスターとアルヴィンに迫る) -- ライダー

      • い、嫌です!!!!!!!!!!!!!!!!!!

        (その声は迷わずに出た)
        (ドーナツの箱と赤い本が地面に落ちて、マスターの背中にすがりつく)

        (自分のマスターの力を思い出す。こんな体の不自由な小さな少女が勝てるとは思えなかった)
        (彼女もサーヴァントだ。見た目どおりではない。そんなことわかっていたけど)
        (互角かもしれない、彼女のほうが強いかもしれない、それでも)

        ち、違うの!あたしが悪いんです!!傷が痛いのにつれ回して、能天気にへらへらしてたから!!
        ……敵じゃないの……あたしが悪いの……ごめんなさい。

        (すがりついて、必死に主を止めようとする。涙まで滲ませて)
        (こうやって純粋な少女のように振舞うことが、彼女を余計に傷つける事も知らずに)

        (さっきまでの楽しかった時間が頭から離れない)
        (ありがとうと言う小さな声が、彼女の泣きそうな顔が、離れない)
        (ただ笑顔が見てみたかっただけなのに)

        (全てをあきらめたような瞳。それは……かつての自分に良く似ている気がした)

        (今はまだ思い出せない。娼婦だった自分に)



        (……少女が投げたナイフ達が目前に迫っていた)
        (……!!マスターが動く前に、とめなきゃ…!!)
        風隠し!!!!
        (それを強い風を巻き起こすスキルでからめ取る!!)
        (ナイフの勢いを殺すと、すぐに術を解いた)
        (地面に金属音がばらばらと響く中で、キャスターは少女に向かって叫んだ)

        …………戦いたくないの!!傷つけたくないの…!!お願い、ひいてください…!!!

        …………友達になれるかもって、思ったのに…………。
        -- キャスター 2014-03-26 (水) 22:20:48
      • くだらん。
        (帰ってきた言葉はそれだけだった)
        戦いたくない、それはいいだろう。傷つけたくない、だと? キャスター、お前は何を言っている。
        お前はそもそも、自分自身で戦う覚悟をいつ決めた? お前は前にこう言ったはずだ、「俺の願いのために戦えればそれでいい」と。
        (先に邂逅した、救うために戦うと言ったあのセイバーを思い出す。主のためにあえて己を殺さなかったアサシンを。そして、「戦いは必要だが、今は戦いたくない」といったマスター達を)
        (彼らにはいずれも信念があった。その言葉を出すだけの覚悟と、想いと、理由があった。だからこそ自らもそれを羨み、敬意を払ったのだ)
        (だが。この少女は、ただ己が心を通わせた相手を傷つけたくない、それだけの理由で戦いたくないという。それもこの状況で)
        お前がどれだけそれを望んだところで、状況はそれを許してはくれん。俺にもそのつもりはない。
        (兎にも角にも、騒ぎは広まりつつある。それを察知したアルヴィンは、即座に個人結界《月匣》を展開し周囲を空間から隔絶した)
        (その気配は、以前そこに囚われた人間ならばすぐさま感知し、空間が隔絶される前に内側に飛び込むことさえ出来るだろう)
        (そう、この紅い月が上る世界で、アルヴィンと戦ったことがあるものなら)
        -- アルヴィン
      • (男は結界の中にいた。紅い月が悠然と上るその世界で)
        (その気配を感じ、自ら繋がるライダーの感情の起こりを察して)
        (紅い月が昇る空から……同じ真紅に燃え盛るマフラーを翼にして、焔を靡かせ降りてきた)
        アルヴィン、お前と再び戦うときが来るのはわかっていた。
        それが今この時とは……予想はしていなかったが。
        (弓を手に、男は降りてきた)
        (サーヴァント・ライダーのマスターがこの夜闇の世界に降りてきた)
        お互いサーヴァントもいる……以前とは違うな。
        (そのサーヴァント、特にアルヴィンのについてはその消極的な姿勢もまた予想とは違うなと)
        (敢えて言うなら。場違いではないかと思うほどに)

        ライダー、サーヴァントの実力はわからない。
        それでもあの男……アルヴィンは別格だ。
        (戦うことは決まっていた、決まっていると……)
        (最初からそのつもりで男は現れた) -- ブレイズ
      • 何……?
        (三重の精神拘束術式を経てなお、現れたマスターの姿は彼の想像を超えていた)
        ブレイズ……お前か。お前が、その少女のマスターだというのか。
        (だが、驚愕はすぐ研ぎ澄まされた戦意に取って代わる。この男が相手ならば、なおのこと戦いを避ける理由はない)
        (何かが。アルヴィンの中の、本人さえ気づかない何かが、この男と戦うことを狂おしく求めていた)
        (それは「聖杯戦争だから」でも、「義務だから」でもない。言語化不可能な……かつて感じたことのない、何かだ)
        キャスター、やはりお前の願いは叶えられん。あの男を前に背中を向けて逃げることは、不可能だ。
        それでも戦いたくないと言うのか、キャスター。
        -- アルヴィン
      • …貴方は何を言ってるの?貴方も私も、サーヴァントなんだよ?
        こうしてマスターが居て、お互いにやる気なんだもん。だったら、私たちが戦わないでどうするの?
        いいよ、貴方が戦わないなら2対1でこっちが有利になるだけだから

        (炎の羽を羽搏かせ、己がマスターが戦場へと降り立つ。令呪を通じて身体に魔力が満ちていくのが分かる)
        ―行くよ、キャスター。貴方が悪いわけじゃない。貴方は何も悪くない

        でもね、私は貴方が気に入らないの
        殺してあげる

        (赤く輝く月の下、ライダーの瞳が何処までも青く、深く煌めく)
        貴方のその迷いごと、砕いてあげるっ!!

        (左腕を突き出せば、袖口から飛び出すは巨大な鉄球。物理法則を無視し、殺人的な加速を以て圧倒的な質量がキャスターとアルヴィンを押しつぶさんと打ち出される)
        (先ほどの風程度では軌道を逸らすことは出来ない。精々速度を緩めるのが精いっぱいだが―) -- ライダー
      • (現れた男を見た。主が以前戦ったマスターだろう。何故か、声に聞き覚えがあった)
        (……教会を壊さないと約束してくれた人だ)
        (そんなこと知らないはずなのに。ふっと浮かんだ)
        (恐い顔。だけど、だけど……)

        (問いかけるマスターの声)
              (……戦いたくない)
        (ライダーと呼ばれた少女の冷たい言葉)
              (……あたしは、貴方のこと好き)

        (あの攻撃は防げない。前に出て、魔物を呼ばなきゃ)
        (でも、そんなことをしたら戦いがとめられなくなってしまう…!!!!!)

        (……ああ、赤い月を見ているとどうしてこんなに不安になるんだろう)
        (嫌だ 嫌だ だって、嬉しかったのに 女の子なのに 友達になれるって思ったのに!!!)
        (ぐちゃぐちゃの心のまま高速詠唱で魔物をよぼうと手を前に……)

        (………できなかった)
        ………………嫌…できない…あたしには、できない……!!
        -- キャスター 2014-03-26 (水) 23:24:04
      • 我が前に聳えよ大波(ザルジス・ドゥス)ッ!!
        (キャスターが術式を構築できないのを知っていたかのように、三重に唱えられた圧唱により高密度の水素が鉄球の前に立ちふさがる)
        (アルヴィンの表情は崩れない。変わらないままに二歩踏み出し、両手を重ね、防御術式を砕き迫ってきた鉄球を受け止める)
        グォオン!! という、すさまじい破砕音。上半身がまるぜ蒸発したかのように砕け、血と鋼鉄が飛び散り、一拍置いてズルズルとそれらが自発的に集合し、アルヴィンの姿を再生させた)
        (上衣のみは再生せず、首から下の機械の身体と首元の令呪を晒している。その令呪が、鈍く脈動した)

        si gavin thrcbenilt leupon meagc(令呪をもって命ずる)

        majac ndoke wer vers dil iic acr sior(キャスター、その力の全てをひととき我に与えよ)

        (そして、令呪の刻まれた一画目が、パラパラと崩れ解けるように消えていく)
        (魔力をもってくだされた命令。それは、戦わぬことを選んだキャスターから、戦う力を奪う無慈悲な言葉だった)
        -- アルヴィン
      • ……っ!
        (ライダーの戦闘的な行動を見て、尚相手のサーヴァントは動かないのは完全に予想外だった)
        (そう、そして目の前の男……アルヴィンが、あっけもなく鉄球に砕かれたのも……)
        (より衝撃を与えたのは。その体、機械化された体に呪術での復元か)
        (男は……蘇生していた。蘇生することすら見越したような施術で)

        アルヴィン、お前はそこまで……そこまでの覚悟を背負っているのか

        (それは……戦う相手としての賞賛でもなければ驚愕でもない)
        (悲しみ。自らの肉体が破壊されること、そこからでも蘇られるようにもしていること)
        (その覚悟はあまりにすさまじかった。自分のように力として得たものではなく……望んでそうさせた力)

        (そして続くのは、魔力を使う令呪行使)
        (それは……マスターという存在から考えればあり得ないことだった)
        (サーヴァント自体の戦力は不明、だがこのマスター……アルヴィンというウィザードがその力を持つのならば)


        掴まれ!ライダー!
        (危険だ。相手は拘束術式を使える。竜の形となって現れる……あの術式)
        (それすら今どうなるかわからない。ヤツの手にハマるのはサーヴァントであっても危険)
        (それは機動力のないライダーには致命傷になるのは間違いない)
        (自らの焔の翼を躍動させて、虚空に舞い上がりライダーへ手を伸ばす) -- ブレイズ
      • (本気だった。本気で彼女を殺すつもりで放った一撃にすら、彼女は抵抗しなかった)
        (気に入らない。気に入らない気に入らない気に入らない)
        (その甘さも、その純粋さも気に入らない)
        (自分と同じ立場でありながらも何故彼女はこうも光を見据えているのか)

        (歯噛みする。己の一撃を難なく受け止め、悍ましい過程を以てその身を再生するマスターにも)
        (負けたくない。こんなサーヴァントを持った相手に負けることは出来ない)
        (己のマスターの優位を示して見せる。私の方が―)
        (私の方がサーヴァントとして優秀であれば)
        (私のマスターの方が強ければ)
        (それはきっと、私の存在価値が上がることになる―)

        ブレイズ!!(伸ばされた手を掴み、共に上空へと舞い上がる)
        (眼下に見下ろす敵マスターから尋常でない魔力の高まりを感じる)
        (いったい、何が起こると言うのか―) -- ライダー
      • (主の体が弾ける。二度と見ないと誓った光景。自分の弱さの結果に言葉を失っていた)
        (だけど、主はすぐに元に戻るのを知っていたから、その恐ろしい光景を見ても取り乱さずにはいられた)
        (ただ、呆然と……どうしていいか、わからなくて)

        (だけど現実は待ってくれない。戦いは止まってはくれなかった)
        (……………………………………………………………令呪が光る)

        ………………っ!!!!やめてください、やめてください……お願い、やめて……。
        そんな、人形になんて……やだ……!!優しい人だと、思ったのに……信じていいと思ったのに……。

        (逆らえない少女はただ懇願する)
        (空へと舞った二人がこのまま逃げてしまえばいいのにと心から願い)
        (主の背中に縋り、記憶が引きずり出される……………………全ての力を彼に与えるために

        「……お前のその忘却もまた、おそらくはお前だった者達の望みでもあるのだろう。
         せめてその恐怖を乗り越えられるようになれ、キャスター」
        (そう言って、無理に思い出させないようにしてくれていて)
        (嬉しかった。この人のサーヴァントになれてよかったと思った)
        (なのに) (こんなのって) (ないよ… ……)

        (…………………………………………ふいに泣き叫ぶ声が消える)

        (それは一瞬の出来事) (少女の手足はすらりと伸びて、華やかな服は純白のドレスに変わってしまった)
        (そこには………………瞳を憎しみに燃やす、一人の大人の女)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028360.jpg 


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           素に銀と鉄。礎に石と契約の菫。祖に銀の二つ角。
           降り立つ風には壁を。自我の門を閉じ、愚者は神使より角笛を奪え………

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (女の口から零れ落ちたのは、聞き覚えのある呪文)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           満たせ 満たせ 満たせ 満たせ
           繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する……!

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (それは英霊の)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

           ……告げる   

           汝の身は我と共に、我が命運は汝の力に。
           聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従い応えよ………

           可能性を此処に。
           我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

           汝、真紅の月。夜闇に紛れる異界の旅人。
           我は茨の檻で契約せし者。
           汝三大の言霊を纏う七天………………

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 



        (英霊の、召喚呪文)


           ……可能性の世界より来たれ、英霊。
           我の全ての力を……汝に。

        (女は淡々と紡ぎ)

        (アルヴィンの顔を両手でつかんで乱暴に引き寄せる)

        いいよ、望みどおりにしてやるよ。
        やっぱり……酷い男だね、あんた。

        (顔をゆがめて笑い)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028361.jpg 

        (唇を重ねて)
        (突き飛ばすように、離れた)

        キャスターの宝具、“英霊契約”が発動する……!!!

        (……それは彼の言った通り、「サーヴァントの力全てを捧げる」力)
        (多重世界から彼が「サーヴァントになった」可能性を引きずり出し、その力を現界させる)
        (サーヴァントを創り出す、力)
        -- キャスター 2014-03-27 (木) 00:19:34
  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif -- 2014-03-25 (火) 13:12:43
  • (あれから)
    (アサシンがやってきて宿が大破した日から、キャスターは四六時中くっていて歩くようになった)
    (ちょっと離れた時にブレイズとマスターとの戦闘があったから余計に)
    (買い物にもくっついていく。自分の買い物もくっついてきてもらう。駄々をこねて)
    (欲しい物は作れる能力があるというのに、今日は突然「欲しいものがあるんです!」とマスターを無理やりひっぱしだした)

    (聞きたいことは沢山あって)
    (彼のことを何も知らないのはとても寂しいことに感じられた)
    (だけど、宿で二人きりだと上手く切り出せなくて……外ならばって)

    (てくてく、珍しいものが多い市場に歩く道。マスターの背中に声をかける)

    ねえマスター。マスターはどうして体が金属みたいになってるんですか?
    (まずはひとつ、直球に。さらっとしれっと世間話みたいに)
    -- キャスター 2014-03-24 (月) 21:23:26
    • (首だけで振り向き、赤い瞳がぎろりとキャスターを見下ろした)
      ……この際、霊体化を拒むのはよしとしよう。工房を作るつもりがないのも、特性と考える。
      だがいちいち俺のことをこんな往来で口に出すな。キャスター、お前は自覚が足りん。

      ……ついでに言えば、あまり人のパーソナリティに踏み込むような真似はするものじゃあない。
      (黒外套を翻し、再び歩き出す)
      お前は知る必要のないことだ。俺よりもまず己の事を考えろ、失った記憶を取り戻したほうが捗るものもあるだろう。
      -- アルヴィン
      • (見つめられるとびくっと肩をすくめる。だけど視線をそらすことはなく)
        ……ごめんなさい。
        (素直に謝る)
        知りたいんです。マスターのこと。ほら、体のことわかっていたら色々戦い方も考えられるし!
        いつもあんまり顔合わせてくれないし、すっごいききにくい雰囲気だし。
        自然に聞きやすいシチュエーションばっかり考えてたら……考えなしになってました…。

        あ、あたしの記憶は、きっとそのうち戻ります。こういうのは無理しないほうが、いいかなって……えっと。
        (どんどん声が小さくなっていく。自分の記憶のことに関してはいつもそうだった)
        (あからさまに消極的。彼の手前、頑張るとはいっているけれど)

        ……ごめんなさい。
        (自覚が足りない。その言葉が重い。こないだの記憶に押しつぶされそうになる)
        (もう一度謝って、黙り込んでしまった)

        (……聞きたいのに)
        (どうして体が人とは違うの。望んでそうなったの?)
        (どうしてあたしを見てたまにつらそうな顔をするの?)

        (……マスターの願いってなんですか?)

        (叱られるから口にはできない。だけど気持ちが胸いっぱいになって、無意識に外套をつかんで引っ張っていた)
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 21:44:14
      • (まるで生き物のように、掴んだ外套は引っ張る前にするりと掌から抜けていく)
        (アルヴィンからすれば1.5歩。キャスターからすれば3歩と少し。二人の間に開けられた距離、それは近いようでどうしようもなく遠い)
        聞こえのいい言い方をしていても俺にはわかる。お前は記憶が戻ることを恐れているな。
        (背を向けたまま、雑踏のなかでもよく通る声でアルヴィンが言った)
        ……俺はあえてそこで、お前に無理やり過去を思い出させるつもりはない。それで何が起きるかわからん、過去に似た例を体験しているのでな。
        なにより(過去を想うことが辛い、その気持ちはわかる。そう言いかけ、口をつぐんだ)
        (どちらにせよ、キャスターが過去を忘れている理由には思い当たるフシがないでもない。キリルの意識がおそらくの主因だろう)
        (だが、そうして自らの記憶を忘れ、怯えて目をそらしているキャスターに、己の過去を曝け出すつもりはアルヴィンには一切ない)
        相手が誰であろうが、俺は俺のことを答えるつもりはない。それは覚えておけ。
        (断固とした口調。取り付く島もありはしない。果たして何が、彼をそうさせるのか……それは誰にもわからないことだ)

        ……とはいえ、だ。
        (ふと、アルヴィンが足を止めた)
        記憶の退行や忘却が頻繁に起きては困る。お前が前向きになるためにも、なんらかの対策は必要かもしれんな。
        -- アルヴィン
      • (しばらく返事はできなかった。自分でだってわかっていることをこの人がわからないはずがないと思ってたけれど)
        (それでもまっすぐに言われると、胸が苦しい)
        (元々、思い出そうとすると何かブレーキがかかっていた)
        (その上……宿での出来事。垣間見た記憶)
        (あのアサシンに自分とは似たようなものだと口にしていた自分)
        (もしかしたら大切な友達を手にかけてしまったのではないかと言う恐れ)

        (思い出さなくては役に立てない。スキルも宝具もわからなくなってしまっているのだ)
        (覚えている、と思っていることがいざとなったらわからなくなっている。それは不便なだけではなく恐ろしいこと)
        (また……主を危険にさらすのは嫌だった。何よりも。だけど、どうしても)

        ……恐い……

        (無理にでも、とは言わない主の優しさをありがたく思いつつも、自分が卑怯者なのだということを思い知る)
        (卑怯者)
        (それは、何故か消えてしまうよりも嫌だ。嫌なのに……恐くて足がすくむ。堂々巡り)
        (こんなサーヴァントには秘密をわけてもらえないのも当たり前だ)

        (足を止めた主の背にぶつかりそうになりつつ止まる)
        あ、あたしもそう思っていてっ!!
        何か、かきとめるものが欲しいなって……自分の力で作ったものは、無意識に書き換えてしまうかもしれないし。
        魔力で作ったものでないものに手で書けば、そういうのは少しは防げるし、いいんじゃないかなって!

        ……たまに思い出しかけて消えていくことも、書いておけば役に立つかもしれないし。

        (買い物の理由は、主と話をしたい!というのが一番の目的だったけど、これも本当)
        (思い出したくない だけど 卑怯者のままでいるのも苦しい)
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 22:09:14
      • ……(外套の奥、かすかにだがため息の気配があった)
        他の興味の対象があれば、お前もいちいち俺にひっつくことはなくなるだろう。拒む理由はない。
        (あくまで淡々と言い、適当な文具店を見つけるとすたすたと歩いて行く)

        好きなものを選べ。路銀なら、この程度に惜しむ必要もない程度には抱えている。
        (買い物を楽しむなどという風情はない。むしろ、そうした日常的なふれあいを意図的に拒んでいるようにも思えた)
        -- アルヴィン
      • だっ だめです!!くっついて歩くのはかわんないです!!
        ただでさえなんかあたしたまにかくっと寝ちゃうし!!マスターがまた危険な目にあったら…っ
        いや、マスター強いし、あたしいなくてだいじょぶかもしれないけどっ!!
        (ばたばた。長い袖を振り回して歩き始めた主の背中に抗議しつつ追いかけていく)

        (……文房具店はなかなかに雰囲気のある店……というかほこりっぽい古いという感じだったけれど)
        (どこの店よりも所狭しといろんなものがおいてあった)

        ……わ…(それを見ると、ころっと態度を変えて品物に夢中になる)
        どれにしようかな。日記帳がいっぱい書けてよさそうですよね。鍵つきのがいいなぁ…。
        (箱を開けてひとつ一つ品物を見る。革張りの、布張りのもの。いい物を見つけると主を振り返った)
        (そっけなく返されるのはわかっていたけど)

        あ…この赤いのがいいな。
        (ひとつの表紙に目が留まる。布張りの赤い日記帳)

        (表紙を愛しげになでる)
        (そして)

        ……なつかしいな。
        こういうのに昔日記を書いてたんですよ。毎日たあいのないことを。
        伝言板代わりにも使ってて…ケーキを焼いたから早めに食べてとか。お酒はあんまり飲み過ぎないようにとか。
        ……そういうのをよくあの子がかわいい絵をつけて描いて。
        それが楽しみで、面倒くさがりなあたしが毎日……。

        (誰かとの思い出話)

        あ……。
        (話し終わって、ようやくそのことに気づく)

        (ぽたり、と表紙に水が落ちてきた)
        あれ………?
        (いつの間にか涙があふれていて)
        あれ……なんだろう。変なの……。ほこりっぽいからかな…?
        (ごまかそうとしたけど、どうしょうもなく、苦しくなって、肩を震わせ、涙を落とす)
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 23:06:33
      • …………。
        (話に相槌を打つでもなく、涙で濡れた日記帳を手に取るとすたすたと会計場に歩いていく)
        (銀貨三枚を放り投げ、踵を返してきた。赤い日記帳を差し出す)
        出るぞ。用は済んだ。
        (慰めの言葉はかけない。涙を拭うこともしない。……そんなことをする資格など己にはないと、彼は思っているからだ)
        (なによりも、二人の……今は一人となってしまっているが。その絆に踏み込むことを、躊躇した)
        それだけの思い出があるなら、大切にしろ。お前だけのものだ、それは。
        (背中を向けたまま、そんな言葉だけはかける。そのくらいの心はあった)
        -- アルヴィン
      • (声をかけられても、しばらくは涙で返事ができなくて)
        (あふれてくる愛しい気持ちがただ悲しくて、思い出せたのが嬉しくて)

        (愛しいと思う気持ちは、それを悲しいと思う気持ちは あたしの気持ち)
        (思い出せてうれしいのは、誰だろう。あたしではない気がした)
        (小さな誰か。抱き上げられるくらい小さな誰かが…………………………)

        (差し出された赤い日記帳を、その小さな子を抱きしめるように自分を抱いた)
        (主は背中を向けているからわからないかもしれないけど、何度も頷く)
        (そして追いかけて、店を出る)
        (涙はもう止まっていたけれど、心に広がるあたたかい気持ちはそのままだった)





        ずっと、思い出すのが恐かったんです。
        (帰り道、ぽつりといった。返事は期待していないから勝手にしゃべる)
        今もそう。思い出したくない。このまま、何も知らないで貴方のそばにいたい。
        どうしてかわからないけど…貴方は信じてもいいって思うから。だからそばにいたくて。

        (すう、と息を吸う)
        マスター……ここでも聞けること、ひとつあるの思い出しました。
        ううん、ずっと、考えていたけど、記憶に近づくのか恐くて、先延ばしにしてたこと。

        ……サーヴァントは、マスターに媒介を通じて召喚されるものです。
        媒介は……そのサーヴァントに縁の深いものが使われる……。
        あたしが貴方の所に来たのは偶然……じゃないですよね?

        ………マスターは、あたしのこと知ってるんですか…?
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 23:38:02
      • (内心、苦虫を噛み潰した心持ちになった)
        (キャスターはすべてを忘れている。そう、すべて……己の根源、願いさえもだ)
        (キャスターはキリルでありマルチナであり、しかしどちらでもない。彼女たちの願いを、思いを、踏みにじってさえいる)
        (身体の経絡を巡る、神秘的な呼吸をひとつ。精神拘束の度合いを深め、溢れそうになった怒気を押さえる)
        (忘却が意図的なものであれ偶発的なものであれ、全ては結果だ。考えるべきは、これからどうするか……)

        ああ、知っている。
        だからこそ、そうして振る舞うお前に、思うところもある。俺に託しておいて、忘れてみせたお前を恨みがましく思ってもいる。

        ……しかし、お前のその忘却もまた、おそらくはお前だった者達の望みでもあるのだろう。
        せめてその恐怖を乗り越えられるようになれ、キャスター。そうでなければこの戦い、お前が勝ち残ることは出来ん。
        (それはどこか、己に言い聞かせるようなものでもあった)
        (誰よりも恐怖から目をそらし、逃げているのは己だと。そう自嘲しているようにも思えた)
        -- アルヴィン
      • (またはぐらかされるかな、そんな想いもあったけど)
        (少し間があった。それがすごく長く感じられて……)

        ……お話、したことあるんですか。
        (目を丸くする。折角の日記帳を取り落としそうになった)
        (返ってきた答えは少し意外なもの。思っていたよりもずっと身近な関係だった)

        託したって、何でしょうか。聞いたらいけないことですか?
        恐いと思うのは……何故なのか、思い当たることあるんですか?
        あたし、そんなに酷い人生だったんでしょうか……思い出すのが恐いくらいに……!!
        (問いかけるというよりは一人ことのように言わなければ壊れてしまうかのように必死に)
        (思い出したくない気持ちは酷い人生からだったのだろうかと余計に恐ろしく……)

        ……あれ。
        (そこで気がつく)
        「お前だった者達」って……どういう……。

        ……そうだ。あたしの中に、誰かいる。とても小さい子……抱き上げられるくらいの。
        こうやっていつも日記を持って。

        (日記帳が浮かび上がり…………強い風が吹き、ぱらぱらとページがめくれる)

        お話が好きで。

        ……そうだ。
        ……沢山話した。

        (そして文字が浮かび上がる。どこかの国の…………彼女の故郷の文字だ)

        悪い魔女から身を隠す話。    (「魔女の針」という文字が浮かび上がった)
        不老不死になりたい男の話。   (「命の水」という文字が浮かび上がった)
        願いを叶える。人を助ける狼の話。(「灰色狼」という文字が浮かび上がった)

        (少女の長い髪を風が巻き上げる。熱に浮かされたようにぼんやりと日記帳を見続けて)

        人を連れ去る風のお話……"風隠し"。

        (目を開けていられないほどの風が吹き抜けて、少女の姿が掻き消える)

        ……っ!!!

        (直後、風は消え、代わりに少女の姿が戻った)
        (きょとんと日記帳を抱いたままきょろきょろ辺りを見る)

        あ、あれ、今…今の……あ…あれ……?
        -- キャスター 2014-03-25 (火) 02:15:28
      • これは……。
        (魔術師は目で見る以上にエーテルの風を詠み、燃素を感じる。それが告げていた、この力は魔術師であれあこうも即座に発動できるものではないと)
        キャスターのスキル……記憶の覚醒がトリガーになっているとでもいうのか?
        (顎に手を当てて考える。だとすれば、不用意に記憶を加速させることは、魔力のバランスを崩し、ただでさえ偶発的に生まれた彼女の均衡を破壊しかねない)
        ……「彼女」は言っていた。何よりも、そうして想いを綴りあった日記が宝物だったと。
        それは大切にしろ、キャスター。戦いに……いや。
        きっと、お前自身が戦っていく上で役に立つ、何よりも大切なものだ。けして、手放すな。

        彼女たちの記憶が、お前の力になるだろう。それだけはけして、忘れないようにしておくんだ。
        (そうしてまた外套を翻し、先を歩いていく。ただ……)
        (その距離はキャスターから見て二歩。アルヴィンから見て一歩)
        (ほんの少しだけ、縮まっていた)
        -- アルヴィン
      • (わたわたと乱れた髪を直しながら頷く)
        そ、そうみたいです…お話のイメージを浮かべると、力が使えるみたいです。
        ……そう、そうだ。知っている沢山のお話があたしの力……!!
        (ぎゅうと日記帳を抱きしめて、もう一度頷いた)
        大事にしますね、マスターに買ってもらった日記帳!

        今は真っ白ですけど…少しずつ、埋めていきます。
        大事な思い出が一つ帰ってきた気がします。ああ、まだうろ覚えでもどかしいけど…!!

        きっと、きっと、すぐに思い出します。
        そしてちゃんと、マスターのお役に立ちますから…。
        (かみ締めるように呟く)

        (……不思議と恐い気持ちが少し薄れていた)


        (そして主の背をまた追いかける。来るときと同じように)

        (だけど)
        (今ならつかんだ外套は、離れることはないんじゃないかって思うくらいに)
        (気持ちは少し近くなった気がした)
        -- キャスター 2014-03-25 (火) 02:33:33
  •  

  • 冒険者の街 深夜―宿付き酒場「ブルービー」二階 102号室 -- 2014-03-23 (日) 21:39:43
    • (暗殺者の仕事は、そう派手なものではない。)
      (サーヴァント、と化した今でも、まあ多少の変化はあっても。そう変わらない。)
      (気配遮断で近づき。寝ている標的の首を掻き切る。)
      (標的の素性などは知らなくていい。「組織」からの指示通り、速やかに手際よく落ち度無く。)
      (だから、今日の仕事も問題ない―はずだった。標的の男の首へ大鉈を振るう瞬間、気配遮断のスキルが解ける瞬間。視界の隅に、見知った赤い髪の女を見つけてしまうまでは) -- ソウフライ 2014-03-23 (日) 21:48:39
      • (アルヴィンのベッドの足元で膝を抱えてすやすやと安らかな寝息。眠らないでいいはずなのだけど、このサーヴァントは良く寝る)
        (今も主を守るためにそばにいたのに、ぼんやりしてるうちに眠ってしまった……ちゃんとしたサーヴァントではないせいかもしれない)
        ……っ!!! (ふっと目を覚ます。気配遮断?こんなに近くに来ていたのにわからなかった…!!)
        マスター!!(スキルを使うということも考えもせずにアルヴィンの上に覆いかぶさる)
        -- キャスター 2014-03-23 (日) 22:13:18
      • 何?(訝しむ声は、けしてアサシンに狙われたという結果に対する反応ではない)
        (聖杯戦争にルールなどあってないようなものだ。四六時中、どんなところであれ狙われて当然。その程度は魔術師として思考に含めている)
        (アルヴィンにとって計算外だったのは、己のサーヴァントはそうした状況を一切想定せず、ましてや対応として最善のものを選べるほど臨戦意識を持っていなかったということだ)
        ……チッ!(この反応は致命的、文字通り致命的な遅れだ。覆いかぶさるキャスターをさらにベッドの端に払い飛ばした瞬間。ソウフライから見れば草を刈るより簡単な場所に男の首はあった)
        -- アルヴィン
      • 貴方、なんで…ッ!
        (混乱は一瞬、仮にもプロである。状況判断。あの娘は愚かにも、反撃の絶好の瞬間を逃し結果的に標的の首を晒した)
        (なぁんだ、簡単じゃない。何処の誰かは知らないけれど、たらしこんだ女が悪かったね。そんな、心の中での憐憫よりも先に腕は動いて、大鉈は振るわれた) -- ソウフライ 2014-03-23 (日) 22:22:57
      • (一流の殺し屋は、己を前後不覚としあえて殺戮機械に心身を整えることでスムーズな仕事をなすという)
        (こと英霊となれば、それはもはや芸術だ。描かれた軌跡は剣客が見れば陶酔を覚えかねないほどに研ぎ澄まされ、蠱惑的な曲線を描き、過程が遂げられ結果が訪れた)
        (ごとん、と、重たい音が響いた。個人結界<月衣>から機械杖を取り出す暇さえなく、アルヴィン・マリナーノの頚椎はガラス面めいて両断され、間欠泉のような血が吹き出した)
        -- アルヴィン
      • (悲鳴を上げる暇もなかった。自分をマスターがかばうとは思ってなくて)
        (離れるマスターを守ろうと呪文の詠唱を……だけどもう遅い)
        (一息呼吸するまもなく 目の前で血が噴出して 白いシーツと自分の服が真っ赤に染まっていく)
        ……ぁ……
        (しばらく何が起こったのか理解できなかった。何かしなきゃ、と思うこともできない)
        ぃや…いやぁあああああああああああああっ!!嘘……嫌……マスター!!!!
        (血の雨が降り注ぐ中少女の悲鳴が響く)
        -- キャスター 2014-03-23 (日) 22:38:21
      • (ピーピー鳴いてんじゃないよ、と心の中で)
        (隙だらけ。全く嫌になる。人の死を見るのがはじめての生娘でもあるまいに)
        マスターって言ったね。
        (泣かせる暇もなくこいつの首も刎ねてやればそれでお仕事は終了。でも少しだけ、気になってしまった)
        死んでたんだね、いつの間にか。
        (口をついて出てしまう。そう、自分と「それ」の境遇はよく似ている、と気付いてしまったから)
        (同じ「世界」に生きて、いつの間にか死んで。また、英霊として―そんな上等な存在だったかは、甚だ疑問ではあるが―苦界に落とされた)
        でもこれで終わりだ。お前の聖杯戦争は、これで終わりだ。何も得ることはなく、ただ一人生者を道連れにして
        (慈悲によってではない。自分を抑えきれなかっただけ。) -- ソウフライ 2014-03-23 (日) 22:53:06
      • マスター…嫌、あたし…こんな……なにも…っ(まとまりのない錯乱した言葉。撫でてくれた手を震えながら抱きしめて)
        (彼を殺した女をぼやけた目で見る。サーヴァントがどうやって生まれるかは知っていた)
        (でも「いつの間にか」というのはどういうことなんだろう)
        (記憶がないのだ。サーヴァントとしてもイレギュラーな存在で、自分が何者かも知らない)
        いつの間にって…?あたし、は……覚えてない。
        何も覚えてないの……。貴方、は……あたし…知ってる…の?
        (ぼんやりと問う。体が動かない。動きたくない。自分のせいで人を死なせてしまったのは今の少女にとっては初めてで)
        (ただこの人からはなれることは考えられなくて。無防備のまま女をじっと見るだけ)
        -- キャスター 2014-03-23 (日) 23:07:15
      • ふざけっ…(思い直す。ここで、そんな演技をする意味は無い。サーヴァントとして、生前の記憶が無い、なんていうのもありえないことではない。)
        そうか…お前は、そうやって、悩むこともなく。昔に戻って、生きられたの、か…
        (その様子は、感傷に浸っているようにも。)
        ふざっけるな!(だがそれが逆に彼女の逆鱗に触れた!)
        お前は、ジブンが…ジブンが、もう「刺せ」なくなったことに「良かったね」なんて言ったお前は!
        何もかも忘れて、また新しく生きて?言葉通りに…お前は!
        (激昂。黒いヴェールに包まれた装束、頭に揺れる青い花。今、その役割を思い出したかのように)
        (まくしたてつつも動きは流麗。震える女の首を裁ち落とすべく、大鉈が振るわれた) -- ソウフライ 2014-03-23 (日) 23:15:44


      •     爆ぜろ(ウィルクヌーグ)

        (重い、重い呪文が響いた。それは何重にも凝縮された魔力を一瞬にして放つ、シンプルでありもっとも強烈な圧唱(クライ))
        (キャスターが抱きしめていた掌、そこが爆心地となり、抱きしめていたキャスター以外のすべて―――アサシン、宿室、そしてアルヴィンの肉体自身―――を、内爆的な水のエネルギーが吹き飛ばした)
        (いかにサーヴァントとて、意識外からの強烈な衝撃を受けては攻撃も行えないだろう。ましてや、部屋自体を吹き飛ばすほどのエネルギーの炸裂の前には、無事であろうと攻撃を行えるはずはない。それがアサシンという、暗殺に特化したクラスであればなおさらにだ)
        -- アルヴィン
      • (裁ち落とす。そう、考えた時には結果が後追いでついてきていた。それがいつもの仕事だがしかし)
        あっ…がっ?!(違う。今の状況は、違う!爆裂した部屋から、窓を突き破った上で隣の宿の壁に叩き付けられている、これが正確な今の状態)
        な…なっ、あいつ、時限で、死体を…?
        (わけがわからない。全く想定外だ、こんなのは暗殺者の仕事ではない。あの赫い髪の女が、そんな策を弄したというのか。時間を稼いで、いや…)
        (切り替える。戦闘は終わっていない可能性がある。向かいの宿の、部屋に空いた大穴を見据え、やっと体勢を立て直した今。やることは山ほどある) -- ソウフライ 2014-03-23 (日) 23:41:06
      • (女が何を言っているのかわからなかった ただ)
        (悩むこともなく、昔に戻って生きられたのかと、その言葉がとても気になった)
        (自分の記憶喪失の鍵に触れられた気がした。何故か彼を死なせてしまった罪悪感とは別の罪の意識が沸き起こって)
        (知らないと思っていた彼女に自分が何かを言っているシーンが浮かぶ)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

          あんたも色々あっただろうけどさ、あたしも似たようなもんだよ
          ここにいる女は皆そう。今更生き方なんて変えられないよねぇ

          ……ふふ、それ似合ってるね。懐かしいな、青い花。
          あたしたちも何もかもいったんなくして、名前すらなくして、生きなおせたらいいのにね。
          ま、しょうがないさね、抱えて生きていくしかないんだ

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (ぎこちなく笑った女の顔が彼女にかぶる)
        (それに釘付けになっていたせいで、大鉈を少女はよける仕草をすることもなく……)

        (……その時、誰かの声がした)

        えっ……
        (聞き覚えのある声。まさか。その瞬間目の前の彼女が掻き消えた。轟音……!!)

        (ぶちまけられた血。生きているはずがない。そう思っているのだけど、だけど)
        (思い出しかけていた何かも忘れて、抱きしめている腕を見た)
        まさか…(自分の考えがあっていることを信じて、その先を……)
        -- キャスター 2014-03-23 (日) 23:48:20
      • (水の魔術は原則として媒介となる水が必要となる。多くの場合、魔術師は水そのものを生み、あるいは招来することで呪文を可能とする)
        (アルヴィンの場合、用いるのは己の血だ。爆ぜた血はキャスターの周りを浮遊するように滞空し、そして床にびしゃりと落ちた)
        (……キャスター自身さえも汚した返り血が、「ずるり」と蠢いた)

        さしものサーヴァントといえど、不意打ちは効果があるようだな。
        (声が響く。それはキャスターの足元……そう、生首が転がっていった方から)
        行儀の良い暗殺者で命拾いをした。首ではなく頭部を両断されていたら、さすがにこんなことは出来ん。
        (もぞり、と、体が動いた。「それ」を掴みとり、拾い上げ、己の首―――あるべきものがない、ガラスのように切断された場所―――に、「それ」をぐりんと当てる)
        (二度三度、位置を調節するように頭部が……そう、首なし死体に拾い上げられた頭部が左右に動き、ぴたりと噛み合ったかのように接続された)

        (ずるずると蠢く血が、切断面へと上り、体内へと吸い込まれていく)
        さすがにこれはそう何度も出来る芸当ではない。二度目は来ないでほしいものだな。
        (平静そのものの様子で言うアルヴィンの首には、もはや切断された傷さえ見当たらない)
        (そう、あのエネルギーの爆裂に巻き込まれたアルヴィンの衣服ははだけ、普段黒インナーによって隠されている表皮があらわになっていた)

        (灰色の光沢を持つ、無骨な機械の体。令呪の刻まれた鎖骨やや上、そこから下がすべてその金属に覆われている)
        (胴体も。手足も、すべてが。生身ではなく、生気を感じさせぬ鋼鉄へと置き換わっているのだ)
        (その非生命的な見た目にそぐわぬ、生物的な動きで体内へと戻った血の痕跡は、いまや瓦礫の何処にもない)
        (鉄の体に、妖物の如き血、その2つを併せ持つ男の赤い双眸が、警戒的に細められた)
        キャスター。さすがに二度も奇術は通じん。奴が逃してくれるはずもない、ここでやつを仕留めるぞ。
        (出来るか、と。そのための方策はあるか、と、冷徹なマスターの瞳がキャスターを見据えた)
        -- アルヴィン
      • (悪夢のような光景の中。二度と聞けなくなったと思った声がする)
        (血に染まったドレスが真っ白に戻っていく。逆再生の映像のように)
        (また声がした。聞き間違いじゃない。恐ろしい光景よりもそれが嬉しくて)
        (滲んでくる涙のむこう、首を拾い上げる姿が見えた)
        (それは人によっては言葉を無くすくらいの姿だった)
        (だけど、彼は自分の頭を撫でてくれたあの人なのだ)
        (心の中で、恐がらなくても大丈夫だよと誰かが言った)
        (触れた手が冷たく、かたい理由がわかった。それだけなのだと……)

        …マスター!!!(真っ白なワンピースを翻して彼の元へ走る)
        (抱きついてしまいたかった。だけど)
        はいっ!!(自分は彼のサーヴァント。まっすぐに瞳を向けて)
        二度と同じ光景は見ません…!!あたしが足を止めますから…!!!

        (彼と女の間に立ち、手を横に凪ぐ!それが呪文詠唱の代わり……高速召喚!!)
        (銀色に光る狼達がキャスターの胸元から湧き出るように次々と現れると、向かいの宿まで飛ばされた女に向かって宙を走った)
        (黒い牙を女の手足につきたてようと真っ赤な口が開かれる……!!)

        (……それは北の雪国の御伽噺にでてくる魔物だった。氷の森に迷う人を喰らう伝説の獣達)
        ……マスター!!
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 00:26:18
      • (魔術師の戦闘において、時間はある意味徒手空拳での戦いよりも重要だ)
        (その詠唱というプロセスをほとんど無に帰するキャスターの魔力。いかにアルヴィンが魔術師として練度を高めど、マスターとサーヴァントという絶対的な線を超えることは出来ない)
        2秒、十分だ!
        (たった2秒。その間にアルヴィンは、圧縮言語による三節の詠唱を五重に終えていた。月衣から現れたマリーエングランツが轟々と唸りを上げる)
        一点集中でいかせてもらう……。

           砕けるがいいッ(ジクマァーダ)!!

        (卵型のシリンダにごぽりと貯めこまれた血が渦巻き、魔力を生み出し、それを外へと広げ、再び収束させる)
        (質量ある光となった魔力が、機械杖を両手で構えたアルヴィンの体を揺らすほどの豪速をもって放たれ、ソウフライの身体を真正面から射抜く……内側から霊体を破壊する、破滅の魔力をもって!)
        -- アルヴィン
      • ク…(おかしい。何もかもがおかしいから自然と笑みも漏れる。首を切り落としてやった標的は別になんともなくて。自分で自分の首を付け直しやがった、魔人というやつか?)
        (では「マスター」とは、単なる大魔術師への尊称で。あの赤い髪の女は、サーヴァントでも何でも無く人違いで―ダメだ、そんな益体もない話に割く思考リソースなんて無い)
        (キャスターとマスター、その会話を聞き判断する前に身体が動く。あいつらは敵で、自分は奇襲に失敗して、捕捉した、されたのだ。もう逃げる選択肢なんて無い)

        (キャスター?の召喚術。そんなものが食いつこうが、大鉈を投げ―だから、どこかで見たような、おそろしいけものが。まさかじぶんの手足に食いつく日が来るなんて、お伽話を怖がっていたあのひみたいで―混濁する、前後の記憶。)
        (一撃であった。霊核が正確に撃ち砕かれ、英霊としてのパーソナリティを崩壊させた場合―自我境界の霧散間際、しばしば走馬灯のように過去の記憶を映しだすという)

        (青い花弁が、赤い女の目の前で散る。黒い装束とともに、すぐに魔力の風に解けるとしても) -- ソウフライ 2014-03-24 (月) 00:38:22
      • (轟音と閃光をもって魔力の嚆矢は放たれ、向かいの窓の建物に大穴を穿つことを代償に霊体を雲散霧消せしめた)
        ……。(重い溜息を吐き出した。いかに機械の身体とあやかしの血を持つとはいえ、この威力の連続詠唱はサーヴァントならぬ身にとってはかなりの消耗を生む)
        ……なんとか、退けることが出来たか。とはいえ、マスターもなしに現れたサーヴァント……あれはただの英霊と考えないほうがよさそうだな。
        (マリーエングランツを月衣に収める。一見するとなんともないように見えるが、当然ながら非人間的な治癒と魔力の消耗は体力や霊的な耐久力を大きくそぎ落としているのだ)
        (しかし、その弱みを見せることなく敵を幻朧し圧倒することもまた、魔術師の戦い方。精神拘束術式による無面目はその方策でもあった)
        キャスター。
        (ふと、サーヴァントの名を呼んだ。赤い瞳が見下ろし、しばしの沈黙。そしてふと口を開く)
        助かった、礼を言う。……最初の横暴はともかく、な。
        -- アルヴィン
      • (振り返った主は絶対的な力で敵を打ち砕く。まるで物語の英雄のよう)
        (使う魔法は恐ろしいものだけど、体は人とは違うけれど、でも)
        (なによりも輝く存在に思えたのだ)
        (……あたしの英雄)

        (彼の魔法のその先を見つめる。花が散っていた。青い花が)
        (甘い香りが目の前で広がって………)

        (香りは過去を一番思い出させるものだという)
        (この香りがした、懐かしい思い出が……浮かぶ……)

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

          これでも結構本好きなんだよ。
          ……何だよそんなに笑うこたないだろ!!

          ……ふふっ。
          あ、いや、ごめん。あんたもそんなに笑うことがあるんだねぇ。
          そっちの方がいいよ。

          そういえば、あんたはこんな話知ってるかい?
          氷の森に棲む銀に光るの狼の話さ。ちょっと恐い話なんだけど。
          確か主人公があんたと同じ名前だったよなと思ってさ。
          ……そんな顔するなよ。恐いけど、最後はハッピーエンドだから。

          安心しなって!■■■■

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (女は笑っていた。あたしも笑っていた。ただそれだけなのにすごく嬉しかったのを良く覚えている)
        (狭い部屋の中で、青い花の香り。優しい記憶……)

        ……サーシャ……。

        (口から零れた、誰かの名前)
        (手を伸ばした。だけど、もう)
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 00:59:40
      • ……キャスター?
        (彼女はこちらを見ていなかった。その瞳にふと、彼女の……そう、キリルの意識が垣間見えたようにも、思う)
        (サーヴァントは本来、死した英霊。当然ながら彼らは神話を背負い、時にはサーヴァント同士で因縁を持つという)
        (本来であれば生きている彼女のしがらみ。イモータルに近い彼女ならば、それは自分には及びもつかないものもあるのだろう)
        ……キャスター、もういなくなった者のことを想うのはやめておけ。
        (なんてざまだ、と、彼は心のなかで己をあざ笑った。自分が、ほかならぬ自分がそんな軽薄な言葉を吐くとは!)
        俺のようになりたくなければな。
        (うっそりとした声でそう続け。破壊の痕跡に衆目の目が集まる前に、彼は歩き出した。もはや消えた英霊にも、郷愁に耽るキャスターを振り返ることもなく)
        -- アルヴィン
      • あ……マスター……ご、ごめんなさい。大丈夫。
        (呼びかけが聞こえなかったことに気づいた。伸ばした手を胸に抱いて)
        (歩き出す彼を追う)
        ……はい。
        (背中に向かって返事をした)
        (だけど)

        (そっと、もう一度振り返る)
        (ふり返らずにはいられなかった)

        (そこにはもう何もない。サーヴァントは死体なんて残らない)
        (青い花の香りすらも……)

        ……。
        (ぎゅっと目を閉じ、振り切るようにまた主の後を追うのだった)
        (この人も、誰か大切な人を亡くしたのだろうかと、考えながら……)
        -- キャスター 2014-03-24 (月) 01:14:52
  • 〜 -- 2014-03-23 (日) 21:33:36
  •  

  • ……ふう。
    (この世界に来てから、これまでとは違う展開の連続だったが、こんなことになるとはアルヴィン自身も思ってはいなかった)
    (まさか自分が、キリルとマルチナの両方を救うために魔術を振るうことになるとは。これではまるで……)
    ヒーローか何かだな、ふん(口元を露悪的に歪ませ、己を嘲笑う。……自嘲はさておき、意識を喪ったままのマルチナはあの娼館で保護してもらうこととなった)
    問題はキリルだ。妙なことになってなければいいのだが……(英霊化がどのように作用するのか検討もつかない。様々な思考を反芻しつつ、キリルが眠る宿のドアに手をかけ、開いた)
    -- アルヴィン


    • (ベッドには小さなふくらみ。アルヴィンが出て行く前と同じように見えた)
      (彼が中へ入ってきて、キリルの様子を見ようとベッドを覗き込めば……)

      (ぱちっ)

      (瞳が見開かれる。覗き込んだ顔に気づくと勢いよく起き上がり)
      (ぱーっと表情を輝かせて……アルヴィンにぎゅうっとしがみついた

      お帰りなさいマスター!!
      わーん一人で寂しかったですよー!!ここはどこなんでしょう?服もやけに大きいし長くて邪魔だったし
      かわりの服はどこにもないしで……あたしの……服は?   あれっ あれ……

      …………………………………………………………あたし
      ………………………………………………………………誰だっけ。

      ……あ、キャスターです。そうそう、それ。なんだけど…えっと……他が、よくわかんない です…
      ……………………マスター、知ってます?あたし。

      (現れたその女は)
      (すらりと伸びていた長い手足は少し短くなっていて)
      (口紅のよく似合った大人の顔立ちは、そんなもの必要ないくらいに瑞々しく紅く……)
      (……「女」と呼ぶにはまだ早い姿に変わっていた)

      (年のころは15か16といったところか、長い邪魔だといった服を床に投げ出して素っ裸の「少女」は)
      (金色の硝子玉のような瞳で男を見つめ、きょとんとしている)
      (髪と同じように薔薇色の唇から零れてきた声も、幼く高いものだった)
      -- キャスター 2014-03-22 (土) 22:38:05
      • なっ、(なんだ? と驚愕の声を上げるまもなく、何かがぶつかってきた)
        (いや、ぶつかってきたところではない。それはあろうことかしがみついてきて、なにやら明るい声でわーわーと喚き立てている)

        (「それ」がなんなのか、誰であるのか。推察するより先にまざまざと教えてくれたのは、他でもないその髪色と、記憶を失っているらしい言葉だった)

        ……キリ、いや……そうか、こう帰結したか。
        (少女の脇腹に手を回し、引っぺがす。素っ裸のままの彼女をベッドまで運び、床に投げ出された服を投げ渡し、適当な椅子に腰掛け、壁を睨み)
        くそッ!(いらだちの声を上げた。間違いない、これはキリルだ。英霊としての記憶を有していることがその証左だ)
        (何がどう影響したのか、あるいはこれが彼女の願望の片鱗だとでも言うのか。今の彼女は、かつての己の記憶を失い、見目麗しい少女の姿に退行していた)
        (令呪がじくじくと熱を持つのを感じる。否応もない、マスターだからこそわかる。これが、己のサーヴァントだというのだ)
        これを成功と呼ぶべきなのか? 少なくとも失敗ではない、だが、マルチナの魂は……。
        (虚空を睨み、思考にふける。すでに召喚と契約はなされた。己はマスター、彼女はサーヴァント。つまり、聖杯戦争への参加資格を得たということ)
        (であれば、誰かが自分たちを狙うかもしれない。そいて逆に、自分たちも誰かと戦わねばならない)
        (彼女はサーヴァントとして何が出来る。他にどんなマスターとサーヴァントがいる? マルチナの魂を取り戻すには? 彼女を元に戻すにはどう聖杯に辿り着けばいい?)
        (そんな複雑な思考演算のなかに、当然素っ頓狂な少女のことなどかけらほども存在してはいない)
        -- アルヴィン
      • えっ えっ ぴんきり?なんです?!キャスターがキリってことですか?!
        しっけいな……!!結構強いんですよマスター!!
        (抱き返すでもなくぽいっといったような感じでおいとかれて、マルチナに良く似た高い声で大抗議)
        わぶっ?!(純白のドレスが顔にひっかぶさるとじたばたもがく。もごもご何かいっているけど聞こえはしない)

        (……やっと抜け出せたと思ったらマスターはとても恐い顔で座っている)
        …………。
        (不安げにうろうろと視線をさまよわせたあと、とりあえず服を着たほうがいいのだろうかと思い立った)


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          「仕立て屋さん、仕立て屋さん。私の服を作ってくださいな
           妖精のお洋服は花びら六枚葉っぱが二枚。
           花のドレスに緑の靴を蜘蛛の糸で縫いあわせて……」

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        (唐突に楽しげに何かの童話の一説を話し始める)

        (いつの間にか、自分のサイズにあった白い服を着た少女がアルヴィンの前に立っていた)
        (さっきの独り言はどうやら呪文のようだった)
        (胸元が広く開いた白い短い上着はベルトでぐるぐる巻かれていて、下にはうす布を重ねた真紅のワンピース)
        (あまった布で作った髪飾りを赤い髪に飾って)

        (マルチナを思い出させる瞳が、すがるような瞳が、彼に向けられ……)
        あの……マスター……やっぱりあたしじゃだめですか?
        ……あ。
        (ぱっと目が伏せられた)
        ……ごめんなさい。こういう風に見られるの嫌だって言ってましたよね。

        (申し訳なさそうに縮こまる)
        (それは………マルチナしか知らない彼が言った言葉)


        (マルチナの魂は……ここにある。記憶を無くした少女の中に)
        -- キリル 2014-03-22 (土) 23:08:02
      • …………キャスター。
        (マルチナと呼ぶべきか、キリルと呼ぶべきか。迷った末に出た答えはその名前だった)
        俺はお前に対して怒っているわけじゃない。色々と混乱してはいるが……そう、落ち込むな。

        (赤い瞳を見せぬよう瞑目し、愛用のパイプを銜えながらそう言うのが精一杯だった)
        (やはりあの距離は近すぎたのだ。マルチナの魂はキャスター=キリルと同化する形でいる。となれば、当然のことだがキャスターを討たれることだけは避けねばならない)
        せめて夢使いでもいてくれればいいものを……(嘆息とともに、紫煙が窓の外へと流れていった)
        キャスター。お前は自分と状況のことをどこまで把握している?
        聖杯戦争と、この俺自身のことをだ。……そして、お前の願いはなんだ? 教えてくれ。
        -- アルヴィン
      • ……よかった。
        お前なんていらないっていわれたら泣いちゃうとこでしたよ。
        (ほっと安心した様子でため息。明るく笑ってはしゃぐ様子は子供のようだった)
        (この性格はマルチナの影響なのか、出会った時の気難しそうな女らしい仕草はどこにもない)

        (マスターを見つめるかわりに、窓の方へ歩いていって外を見る。夕暮れの赤い光を手に透かして)

        いろんなこと、よく覚えてないですけど、あたしが何をすればいいかはわかります。

        私の役目は……貴方の願いを叶えるために力を尽くすこと。
        他のサーヴァントを討ち倒し、あらゆる願いを叶える聖杯を貴方の手に渡すこと。
        あたしの能力についてはあとで詳しくお話しますね。他のサーヴァントに比べてあんまり数がなくて…
        忘れてるだけかなぁ……あ、で、でも必ずお役に立ちますのでっ!!
        (マイナスになりそうなことをいってしまって、思わずフォロー)
        (自分の能力は大体覚えているようだけれど…完全ではないらしい)

        ……マスターのことは、異世界から来て、ええと、意外と面倒見のいい人だなって……
        あ…そう!“夜闇の魔術師”!!紅い月の下でそう思ったのをよく覚えています。
        (マルチナの記憶を口にするとうんうん頷く)
        (マスターであるアルヴィンの記憶はマルチナのものがメインで残っているようだった)

        あとはー……願い……願いは…ええと。

        (長い沈黙)
        (彼に背を向けたまま、夕日を見つめている)



        …… …。
        思い出せない……です、ごめんなさい。
        でも、別に重要ではない気がするのです。

        貴方の役に立ち、戦い続けることができれば。それでいい。

        (振り返ってみせた笑顔は屈託なく。けれど夕日のせいかどこかとても危うく見える)
        -- キャスター 2014-03-22 (土) 23:39:41
      • そんな言葉は使うな。
        (ぴしゃりと、夕陽の中に浮かぶ笑みに対し、うっそりと幽鬼めいた男が言った)
        ……そんなことを言うのは俺だけでいい。お前は、お前の願いを忘れるな。そうでなければ、何も意味が無い。
        (そう、意味が無い。だが、本当に彼女達を救うためだけに戦うことが自分の望みだとでも?)
        (そんなわけはない。自己犠牲など嘘っぱちだ。真にエゴイズムを求め、他者を利用しているのは、己だ。その嘘に、矛盾に、男は心のなかでアイロニカルな笑みを浮かべた)
        (黒い手袋を嵌めた指先がこわばる。こわばるそれを無理やり押さえつけるように伸ばし……赤い髪の上に手をおいて、頭を撫でた)
        何はともあれ、飯だ。それから聖杯戦争の対策を立てるとしよう。

        (窓の外を眺める。赤い瞳が浮かび上がる、夜闇が訪れ始めていた)

        俺達が勝利するために。願望競争の始まりだ。

        (決然とした表情で言うその声音には、禍々しいまでに漲る何かがあった)
        -- アルヴィン
      • (夕日を背にする少女と、影に座る男)
        (男は光を見つめ、少女は影を見つめる)

        ……だって、思い出せないんだもの。
        思い出せないから、きっと、なくてもいい事なのかなぁって。

        (記憶があるのならば絶対に口にしないであろう台詞を少女はあっさりと言った)
        (妹のことも、自分のことも、何もかも必要ないのだと切って捨てるような言葉)
        (だけど、胸が何故かちくんと痛んでいる)
        (強気な言葉も出なくなり、彼をじっと見た。赤い瞳……)
        (……この人も願い事はないのかな。でも、だけど、呪印があるのは強い願いの証なのに)
        (嘘ついているのかな)
        (心配してくれてるのは本当のようだったから、こくんと頷く)

        (……手が動いて)
        (ああ、また撫でようとしてくれるのかな。でも、前はためらっていた…)
        (妹の記憶が浮かぶ)

        (……けれど予想と反して、その手は頭に触れて……髪を撫でた)

        (胸の痛みがふわんと消えて、柔らかな、ちょっとだらしない笑みがかわりに浮かぶ)

        はいっ!!
        マスターがそう望むのなら。まず願いを思い出すこと、頑張ってみます!
        必ず、必ず貴方のお役に立ちますからっ!

        あ、まずはごはんですねっー?任せてください!これでもお料理は食べる方が得意ですが作るのもまあまあなのです!

        (はしゃぎながらドレスの布のあまりで作ったエプロンを見せ、宿のキッチンを借りにばたばたと部屋から出て行く)

        (最後にみせた表情はなんだかとても気になった)
        (マスターはどうやら沢山のものを抱え込んでいるらしい)
        (それの力になれたらいいなと思いながら料理をして……)



        (……料理の手順が思い出せなかったらしく、しばらくしたら泣きながら帰ってきたのだった)
        -- キャスター 2014-03-23 (日) 00:20:13
  •  

  • ……この世界のビールはなかなか美味い。この状況でなければ、なおいいんだが。
    (男は呻きながら、空になったグラスをテーブルに置いた。ここは、<冒険者たちの街>にある酒場、"芋ころの煮転がし亭"である)
    (キリルが眠り姫となった数日後、彼はひとつの手立てを見出した。だがそのためには、マルチナの協力―――あるいは犠牲という―――が必要なのだ)
    他に手立てがないわけでは、ない。だが、確実性がもっとも高いのは、あの子の力を借りるほかない。……この世界でまで、同じことを繰り返したくはないが……。
    (沈思黙考。彼女には2日、考える時間を与えた。もし彼女が己の身を厭わない覚悟を決められたのであれば、ここが落ち合う場所となる……アルヴィンは半心で到来を望み、もう半分の心ではそれを拒んでいた)
    -- アルヴィン
    • (その話を聞いた時、迷うことはなかった)
      (だけど2日という「考える時間」は素直にもらった。心は決まっているのだけれど…母と父に、手紙を書きたかったから)
      (手紙には自分の今おかれている状況、姉のこと、アルヴィンの事。相談もせずに危険な橋を渡る事へのお詫びと……)

      『……どうか私を信じて待っていて下さい。お父さんとお母さんには今回は迷惑をかけたくないの』
      『姉様がきっと苦しむだろうから……』

      ……よろしくお願いしますね、長谷川君。
      (オーナーの使い魔だという烏を貸してもらえたので、その彼の足に手紙をくくりつける)
      (父と母に手紙を届けるには次元を超えなければいけなかったから、どうしようかと相談しにいったのだった。彼にはそれができるらしい)
      (黒い翼が空へと舞う。オーナーにも手紙と同じ内容を話しておいた。自分に何かあってもきっと姉と彼の力になってくれる……)
      (ため息を大きく一つ。そしてさらに大きく息を吸い込むと、アルヴィンの待つ酒場に向かう)


      (そして)
      (少女は約束の時間通りに現れた)
      (前回会った時の服と良く似ているけれど、真っ白な色のワンピース姿で。眠りについた姉をどこか思い出させるような……)
      (座っているアルヴィンの横に立ち、微笑む)

      お待たせしました。 ……初めから、答えは決まっていたのです。
      わたしは姉様のためだったらなんだってできるもの。
      -- マルチナ 2014-03-22 (土) 02:23:26
      • (ことにして、こういう時の魔術師のカンというのはよく当たる。ましてや彼は魔術を論理として捉える手合いだ)
        (だが、ここでマルチナの覚悟を翳らせるような物言いは適切ではない。三杯目のエールを飲み干し、パイプを銜えてマルチナに振り返る)
        そうか。なら、お前にできることを精一杯にやってもらうとしよう、マルチナ。
        ここではさすがに周囲に影響がある。道すがらに話そう。

        (そしてマルチナとともに、<街>の郊外へと歩いて行く)
        ……結論から言えば、マルチナ。俺達が試みるのは、お前たちがかつて彼……カテンを召喚した時の儀式のさらに応用だ。
        通常、聖杯戦争に現出するサーヴァントは何らかの理由で世界意志のようなもの、おそらくはそれに類する存在と"契約"し、「天秤」から招来されることになる。
        それはキリルも同じだろう。……もしこの契約が完全に成立したのなら、お前の目的である「キリルの魂を取り戻す」ことは叶わないと考えた方がいい。
        (モノクルをかけ直しながら、冷静に続ける。細かい理屈は抜き、必要なのは何をすべきか、何が起きるか。それを伝えることだ)
        かつて、ランサーはその「世界との契約」を行うことなく、自らの魂の力で英霊化を果たし、世界線を越えてお前たちの前に姿を表した。
        俺達にとって僥倖なのは、おそらくはキリルの魂と世界意志との契約は今なお進行中、という点だ。
        彼女が自身にかけた、時間遅滞の魔術がその枷になってくれている。つまり、キリルが世界意志の側に取り込まれるには、まだ若干の余裕がある、ということだ。

        要約すれば、今の機会を逃せばキリルは自らの願望と引き換えに完全なサーヴァントとなり、我々とは異なる次元、異なる世界の住人となってしまう。ここまではいいな?
        -- アルヴィン
      • (はい、と短く返事をして男の隣を歩く。なんだか懐かしい)
        (……ああ、授業を受けているような気分だからですかね)
        (お父さん」を「先生」と呼んでいた頃…姉様と一緒だった頃……もうずいぶん昔になる)
        (そんなほのかにあたたかくなる様な気持ちも、話を聞くうちに消えてしまった)
        (悪い感情に塗り替えられたわけではない。……希望が見えたからだ)

        ……じゃあ姉様はまだ人間の可能性があると…!!
        まだ手が届くかも知れないんですね……!!(逸る気持ちを必死に抑えながらも、歩調が早まる)
        だ、だいじょうぶです、アルヴィンさんのお話わかりやすいもの。
        そ、それで、わたしにできることって……(ぎゅうっと自分の手を握り締めて、教師のような男を見上げる)
        -- マルチナ 2014-03-22 (土) 02:53:13
      • ……(どうだろうな、という言葉を返しかけ、飲み込んだ。意気込む少女の希望を摘むような行いは、男の本意ではない)
        儀式の内容は、大まかにいえば、キリルと世界意志の契約に介入……つまり、横から入り込み、キリルの魂をこちら側に「引き寄せる」ことにある。
        つまり、召喚ではなく召還、と表現するのが正しい。……とはいえ、ただ魂を呼び戻すだけでは、彼女は元の肉体に戻るだけだ。

        (やがて、二人は郊外にある開けた空き地に立っていた。殺風景なそこには、わずかに茂る雑草以外何もない)
        世界意志へ近づくことは、儀式の参加者までもが「あちら側」に引き込まれる危険を秘めている。だが、令呪によって結ばれた俺ならば、ある程度は問題なく近づけるだろう。
        マルチナ。君にやってもらいたい役割は3つ。ひとつは、キリルを英霊として引き出すための媒介そのものになることだ。
        2つ目は、世界意志に向けられている彼女の意志をこちらに引きつけること。後のことは俺がやる。
        ……そして、3つ目は……。
        (マルチナの対面に立ち、一呼吸。心の揺らぎをシャットアウトするため、精神拘束術式が働き、怜悧な相貌を保たせた)
        「あちら側」に近づくため、お前の魂を賭けてくれ。
        失敗すれば、キリルだけでなくお前までもが「あちら側」に引きずり込まれる危険がある。
        成功したとして、キリルはどちらにせよサーヴァントだ。完全に彼女の魂を取り戻し、あの封印術式を解除するには、聖杯そのものを使って「あちら側」にアクセスせねばならん。
        危険な試みだ。……答えはわかっているが、もう一度だけ確認する。
        覚悟は出来ているな。
        -- アルヴィン
      • 媒介…お父さんのピアスみたいなものですね。確かに姉様を呼ぶにはわたしが一番確実です。
        (何度も頷いて過去の聖杯戦争を思い出す。あの時の魔法陣を通して「先生」と自分が繋がる感覚)
        (さらにその先に。魔法陣の向こう側へ行くような感じと言う事なのだろう)

        (そして、自分の役目の最後の一つを告げられた)

        (見下ろす瞳は揺らがない。それを見上げる瞳もまた揺るがないのだ)
        (覚悟はあるな。そうアルヴィンが言い終わった瞬間)

        はいっ!!

        (拍子抜けするくらいにすぐに大きく頷いた。笑顔すら浮かべて)
        (子供の姿だし、考えなしに思われるだろうか。不意にそんな考えが頭をよぎり、こほんと咳払いする)

        あ……別に舞い上がってるからこんな風に頷いてるわけではないのですよ?
        よくわかっていないからっていうわけでもないのです。
        こう見えても長生きですから…あ、ご存知だとは思うのですが、はい。

        (彼が一呼吸したのと同じように、少女も息を吸う)

        姉様は、わたしの命を救うために全てをなげうってくれました。
        沢山沢山苦しい思いをして、傷ついて……それでもわたしを必死に守ってくれたんです。
        ……今度は、わたしの番。

        大丈夫です。どんなに分の悪い賭けだって、勝ってみせます!
        この…わたしの魂は姉様が救ってくれたものだから、だからきっと姉様を救うことができると思うんです。
        そう信じているから……だから、お返事が早かったの。

        わたしは……姉様とわたしの絆を信じてる。
        (自分に言い聞かせるように瞳を閉じ胸に手を当てて、つぶやく)
        (覚悟はいいかと、もう一度自分に問いかける)

        (……答えは、初めから決まっている)


        (開いた瞳には何の迷いも、恐れもなかった)
        (ゆっくりと頭を下げる)

        ……姉様と、わたしをよろしくお願いします。
        -- マルチナ 2014-03-22 (土) 03:37:41
      • (自然と、笑っていた)
        (それは少女の眩しさに目を細める父性的な笑みでもあり、何かしらの自嘲でもあり、また別の何かでもあった)
        いいだろう。ならば……始めるぞ。
        (男が笑ったまま頷き、片目から血の涙を流した瞬間)

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028284.jpg

        (周囲は、その姿を大きく変えていた)
        (だが、マルチナならば覚えがあるはずだ。アルヴィンの背後に浮かぶ巨大な紅い月、それは彼女が覚えている限りは蒼い月だったはずだが……)
        (周囲を通常の空間から切り離し、別の結界で包み込むこの術式)
        (ファージアースのウィザード達が持つ、一種の固有結界、<月匣>(げっこう)の存在は)

        媒介であるお前自身が、彼女を召喚してくれ。その術式に俺が介入する。
        マリーエングランツ、展開。術式編纂機(スペルコンパイラ)起動。次元座標計測開始!
        (虚空から現れた異形の杖がひとりでに浮遊し、ゴウン、ゴウン、と重々しい音を立てて輪転を開始する)
        (柄から伸びた金属管がアルヴィンの両手首に接続され、そこから術式媒介たる血液を組み上げ、杖であり矛であり柱たるそれが、術式演算/編纂/構築を進めていくのだ)
        -- アルヴィン
      • (……まただ。ズキンと胸が痛む。どうして涙が赤いのか)
        (涙のせいだけじゃない。笑顔なのに、どこか、どこか……… ………)
        (そんな漠然とした何かを考える時間は今はなかった)
        (伸ばしかけた手がそのまま止まる)

        紅い………月………ここは……

        (いつか父が作ったものと同じ)
        (ここはもうさっきいた場所じゃない。父のこともあったからそれはすぐにわかった)
        (そうだ、この人もお父さんと同じ……夜闇の……!)

        ……わかりました。お父さんを呼んだ時と同じようにやってみますね。

        (動揺する気持ちを抑えるために大きく深呼吸)
        (彼の杖が展開を始めるのと同時に少女は両手をゆっくりと広げ………)

        (ふわりと雪のように白い粒子が足元に小さな魔法陣を描いた)

        (紅い月が少女の服も紅く染めていた。その中で開かれた瞳だけが鮮やかな青)
        (小さな唇が開かれて)


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028285.jpg 
        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        「……素に銀と鉄。礎に石と契約の菫。祖に異界の青い炎
         降り立つ風には壁を。自我の門を閉じ、愚者は神使より角笛を奪え」

        (懐かしい言葉。あの時は姉様と二人だった)
        (今は体がホムンクルスのものではない。少しだけ呪文を変える)

        (……姉様)

        「閉じよ(みたせ)!閉じよ(みたせ)!閉じよ(みたせ)!閉じよ(みたせ)!閉じよ(みたせ)!
         繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する!!」

        (想いがあふれて、呪文が途切れそうになる)
        (姉様、姉様、姉様…… ……)

        (震える唇をぎゅっとかみ締めて)
        (まっすぐに手を伸ばす)
        (そして……)
        -- マルチナ
      • (展開される魔法陣とともに、自らが構築した月匣への外側からの介入を察知する)
        門が開いたか……集中しろマルチナ、必要なことはこちらで行う。
        (両手を広げれば、金属管を通じた機械杖、マリーエングランツがアルヴィンの背後に浮かび上がる)
        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028286.png
        Anfang

        (アルヴィン自身の足元にも禍々しい赤い魔法陣が展開され、徐々に、徐々に、マリーエングランツの輪転に合わせ回転していく)
        -- アルヴィン
      • (会えるかもしれない。でも、会えないかもしれない。そもそももう手遅れだったら)
        (やっとここまできたって言うのに今になって弱い気持ちに押しつぶされそうになる)

        (ひとりで呪文を口にするのがこんなに寂しく感じるものだったなんて……姉様)
        (そう思った時、アルヴィンの声が聞こえた)

        (………ひとりじゃ、ない)
        (アルヴィンさんがいる。お父さんと同じ夜闇の魔術師が……!!)


        「……告げる!!!」


        (………わたしは今、ひとりじゃない…!!)
        -- マルチナ 2014-03-22 (土) 04:59:58

      • si lac gavil(告げる)
        -- アルヴィン
      • 「汝の身は彼の下に、我が命運は汝の剣に」 -- マルチナ 2014-03-22 (土) 05:16:18
      • shartleg drcheu ondot(聖杯の寄る辺に従い)

        sia geow(この意)

        sia logiseh Weun foigen(この理に従うならば……)

        waqh svem!(応えよ!)
        -- アルヴィン
      • 「誓いを此処に」

        「我は常世総ての善と成る者、
         我は常世総ての悪を敷く者」

        (……あの時も姉様とこんな風に呪文を交互に口にしてたな)
        (アルヴィンの方を見る)
        (出会って間もないけれど、真剣に力を貸してくれて……不思議な人)
        (お人よし、という風でもないし、かといってお父さんみたいな感じでもないし……)

        (どんな人なんだろう)
        (もし、姉様を呼べたら、お話を沢山してもらおう)

        (あの紅い涙のことも……)
        -- マルチナ 2014-03-22 (土) 05:26:53
      • ……!(まずい。その刹那、アルヴィンは知覚した。順調に進んでいた術式にわずかな遅れが生まれた)
        (だがここでもはや儀式を中断することは出来ない。マルチナの心に生まれた空白が何かを探すより先に、介入が先だ。構成しかけていた術式を即座に書き換え、呪文編纂機がめまぐるしく動き赤いルーンが脈動する!)

        shar,wnx werdcn candtek(されど、汝能わず)
        cadilan inl weh di wer wer treskrl("御座"との契りは未だ為らず、我ここに宣言す)
        wux gefaugen plathol tairals ekecs groberen(汝を包みし時の牢獄を解き放つ)
        si tepola vi meiis(我はその鍵を持つ者なり!)
        -- アルヴィン
      • (……これからのことを沢山考えていた。アルヴィンの気づいた事に少女が気づくことはなく)
        (ただ目の前の夜闇の魔術師を信じて、姉にまた逢える事を信じて)

        (どうしてわたしに何も言わないで行ってしまったのか、理由はわかる。姉様だもの)
        (わたしの幸せを壊したくない、自分のために無茶をしてほしくないって思ったんだよね)
        (ひとりで全部抱えて、ひとりで全部なんとかしようとしたんだ)

        (……でも、それは駄目なんだよ)
        (助けてって言ってくれなきゃ、わたしはもっと無茶するんです……!!)


        「汝三大の言霊を纏う七天」


        (姉の事を強く想う。あいたい。もう一度笑顔で名前を読んで欲しい。宝物みたいにわたしの名前を呼んでくれる人)

        (このままじゃあんまりです。神様。姉様を返して)
        (わたしのために犠牲になって、そしてまた人のために犠牲になろうとしてる優しい姉様を返して……!!!!)

        「抑止の輪に囚われる前に来たれ茨を抱きし獣の番人よ……!!!!」
        -- マルチナ 2014-03-22 (土) 05:45:22
      • 『やるしか、ないか……!!』
        (マルチナがキリルを引き寄せるための想いが強すぎる。急速に書き換えられた術式、強すぎる引力、それらは磁石のようにお互いを引き寄せてしまう)
        (だがもはや、口訣は到達した。魔法陣を通じて門が開かれ、サーヴァントの存在が……)


        ここだッ!! 呪文編纂機(スペルコンパイラ)逆転開始(スィーク)ッ!!

        (直後、ゆるやかに回転していた積層魔法陣が、「かちり」と噛みあった。機械杖を包む黄金輪がゴウ―――と音を立て、逆向きに高速回転を開始)
        (全ての魔術が、術式が、逆しまに流れていく! 月匣を展開する魔術そのものが再発動し、開かれた門を伝い、聖杯の御座……「こちら」と「あちら」の狭間を垣間見せるのだ!)

        マルチナ、心を強く持て! ……キリルの名前を呼べ、呼ぶんだッ!!

        (紅い月も何もかもが消し飛び、エーテルの風が吹きすさぶ白光の空間、すさまじい元素風の中、アルヴィンは叫んだ)
        -- アルヴィン

      • (あいたい)


        (少女のひたむきな想いは何よりも強い。精霊に愛されるような大きな魔力を持つ存在でも、魔法を学んだ魔術師でもないというのに)
        (強い想いは全てを狂わせる)
        (自分の魔法陣の光が強すぎることも、足がその中へと沈んでいっていることも気づかない)

        (アルヴィンの叫ぶ声が聞こえた)
        (真っ白な光に飲み込まれていきながら、少女は………………………………)



        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

        気がつけば真っ白い空間の中走っていた。
        前に進めているかもよくわからない。体の重さを感じないから。

        「……………………姉様、どこにいるの姉様…!!!」

        帰ろう。

        「帰ろう」
        「なんとかなりますよ、皆で何とかできるように考えましょう」

        だから、わたしの手の届かないところへ行ってしまわないで……!!!!

        姉様ぁ……!!!!!


        ………伸ばした手を誰かにつかまれた。
        ……細くて、やわらかくて…………さっきまで誰もいなかったのに。
        その人は真っ白なドレスを着ていて、花嫁さんみたいで。




        「こんなとこまで追いかけてきて…………馬鹿な子だね」

        http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp028288.jpg  

        泣き出しそうな顔でそう言って………わたしを胸に抱きしめてくれた。


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 


        (あたたかい。いいにおい。わたしが好きって言ったから、ずっとつけるようになったコロンの香り)
        (……姉様はまだ、人間だ。鼓動がするもの。吐息は薔薇の香りなの)

        (姉様は人間だ。わたし、間に合ったんだ………!!!)

        (必死に姉にしがみついて、声を張り上げた)


        ……アルヴィンさん!!!!
        -- マルチナ 2014-03-22 (土) 06:20:11
      • ぐ、ぬう……ッ!!
        (本来、「ここ」は定命の存在がいていい場所ではない。世界との契約を果たし、無窮の戦いに身を投じた英霊のみが存在を許される)
        (防護魔法にさらなる拘束術式と防御魔装を重ねに重ねに重ね、空間展開を五重にした上でこの径(みち)は開かれた)
        (ごぼごぼとマリーエングランツの血が泡立ち沸騰し、逆転させたことによりその魔力のバックファイアはアルヴィンの体を灼く)
        今日ほど、この体になってよかったと思うことは、ないな……!(目・鼻・口から血を噴いておかしくない魔力の逆流に苛まれながらも、炯々と赤い瞳を輝かせ笑い)

        マルチナ!?(声が聞こえた。魔力の気配は2つ。……近すぎる。マルチナが「あちら側」に踏み込み過ぎている!)
        (手を伸ばさなければ。受け止めなければ。引き寄せなければ)
        (だが、ああ。だが、この白い光は、まるで、嗚呼……アルヴィンの脳裏に去来したのは)
        (白い光の中、こちらに手を差し伸べる少女のシルエットに、目を見開く。記憶の残滓が今に重なり、ノスタルジィという毒が彼の判断を遅らせた)
        ドリッ……いや、違う、違うッ!!
        (精神の隙間から途端に流入した衝撃的な魔力の嵐をシャットアウト。血の塊を吐き捨て、見えない魔力の糸を両手で掴み取るように拳を握りしめ)
        ――――閉塞(トレルク)ッ!!

        (一か八かの賭け。マルチナごと、令呪の繋がりをキーとして、英霊化しつつあったキリルの魂を……「こちら」へと引きずりだした!)
        -- アルヴィン
  • (アルヴィンの目の前に現れたのはマルチナと……彼女をしっかりと抱きしめた赤い髪の女)
    (純白のヴェールにドレス。棺の中で着ていたものとそっくり同じで)
    (二人とも意識が無いというのにしっかりとお互いを抱きしめている)

    (……マルチナはキリルを捕まえることができたのだ)
    -- マルチナ 2014-03-22 (土) 07:06:47
  • (月匣を維持する魔力を失い、周囲の風景は解け、溶けてもとの空き野へと戻った)
    かは……っ(全身をベルトで巻きつけるかのように、何重も何条も施されていた魔装もまた解け、彼は片膝をついた)
    ち、昔のようにはなりたくなかったが……ぐ、ふ(こらえきれず片腕を突き、ごぼりと血の塊を吐く。すでにマリーエングランツは起動を停止していた)
    (対して体は頑強すぎるほどにしっかりとしている。震える唇が賦活呪文を唱え、肩で息を整えながら調子を取り戻す)
    ……(頭を振った。自分のことはどうでもいい、問題は二人だ。彼女たちはどうなった? 召還は成功したのか? だったとして、媒介となったマルチナは?)
    (英霊としてのキリルの召還は避け得ない。ならキリルの状態はどうなっている。記憶は? 意識は? クラスは、戦闘力はどうなっているのか)
    (尽きせぬ疑問も、顔を上げて抱き合う二人を見れば、重い吐息とともに消えていく)

    ……ひとまず、どこか休める場所を探さねばならないな……。
    (ふらつく体を押して立ち上がる。令呪の紋章から力を感じる……イレギュラーな方法とはいえ、契約を果たし英霊を召喚した結果だろう)
    聖杯戦争……か。
    (空を仰いだ。いつのまにか、空には本物の月が昇っていた)

    ……ドリット。俺は、またお前のような誰かを生み出すことになるのか……?

    (その言葉を聞いたのは、白々と輝き見下ろす月光のみだった)
    -- アルヴィン
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眠り姫 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif
    • 昼間の娼館「ハニー&バニー」はただの古い洋館にしか見えなかった。
      少し離れた店はわかりやすい外観だったから、ようやくあの夜と同じ店だと判るくらい。
      その店の前の大きな階段に座り込んで、小さな少女が泣きじゃくっていた。
      おかっぱに切りそろえた鮮やかな赤い髪に、青い色の上品なワンピース。
      娼館には不釣合いな雰囲気の少女は必死に涙を我慢して、
      それでも零れる涙を、赤い刺青のようなものが入った右手で何度もぬぐう。

      「姉様……姉様……」 -- マルチナ
      • (男がなぜそこに現れたのか。その理由を知るのは男自身の他には誰も居ない)
        (ただ今の時点で確かなのは、男はまさに今日、これからこの街を発とうとしていたのだということ。そして、泣きじゃくる少女を見た瞬間、その表情に変化があった、ということだけ)

        ……    ……?
        (声ならぬ囁きに唇が震え、何かの名前を呼んだ。赤い目が二度瞬き、記憶の流れから現実へと意識を引き戻す。短く嘆息)
        ……そこの君。泣くならせめて声をあげてくれ。そうすればまだ、子供の癇癪と自分を納得させて見過ごすことも出来た。
        (言葉とは裏腹に、労るような色を声音に含め、外套を翻して少女の前に立つ)
        その髪色、話には聞いている。君がマルチナだな。……キリルに何かあったのか。
        -- アルヴィン
      • (男に声をかけられて、ようやくそこに誰かがいたのだという事に気がついた。ぱっと顔を上げてその声の主を見る)
        (キリルをそのまま幼くしたような姿。彼女と同じターコイズブルーの瞳に男が映る)
        あ…ご、ごめんなさい。声を上げたら、誰かが心配してきてしまう。そしたら泣いて…るの、わかっちゃうから。
        だ、だいじょうぶです、ごめんなさい。
        (ごしごし、とポケットから出したハンカチでもう一度涙をぬぐう)
        (咎めているわけではなく、気にしてくれているのだとわかったから)
        (そうやってなんとか涙を引っ込めたのに、姉の名前が出るとまた涙が滲んできてしまう)
        ……っ ね、姉様、のお客様でしたか。
        わざわざ来ていただいたのにごめんなさい。
        姉様は……………………

        (言葉につまりながらも何とか喋れていたのに、涙で黙り込んでしまう)
        (顔を上げていられなくなって、俯いて)

        ……………………もういないの。
        ……このあいだの……お祭りの次の日に。
        目を…………覚まさなくなってしまったのです。

        (声が震える。ぽたぽたと地面に涙が落ちていく…)
        (姉をわざわざ訪ねてきてくれたのだから、ちゃんと説明して謝らないと)
        (……そうしないといけないのに。胸がどんどん苦しくなって)

        死んでいるみたいに、眠ったままなの。
        揺さぶっても起きなくて、呼んでも答えてくれなくて……!!
        オーナーは、もう永遠にこのままだって言うし…こうしないと姉様が化け物になるからって……!!
        でも、でも、姉様、わたしにそんなことぜんぜん教えてくれなかったから……!!

        (自分を抱いてしゃがみこんで、叫ぶような声)
        (悲しさに支配されて言葉がまとまらない。上手く説明することができなかった)
        (ただ、キリルは事情があって自分の意思で、アルヴィンと別れた次の日に目を覚まさなくなった。ということだけ)
        (それ以上は言葉にならず、堰を切ったように泣きじゃくる)
        -- マルチナ
      • キリルが、目覚めなくなった?
        (顎に手を当て、沈思黙考する。口ぶりから察するに、なんらかの進行を押さえるための措置か)
        ……たしか、彼女と君は……いや、以前の君は、合成されたホムンクルス、だった。そのはずだな。
        もともとその不安定な均衡が崩れかけた結果、君という存在が消滅しかかった。それはすでに彼女から聞かされている。だが……。
        (であれば、その母体であった彼女が、マルチナを切り離したからといって完全に安定化するか。それは否だ)
        (いや、あるいは安定化"していた"のかもしれない。だが一度落ち着いたからといって、ホムンクルスであるという前提がある以上その均衡は失われてもおかしくない)
        ……そのきっかけが(あの夜のやりとり、だったと? それはどうかわからない。だが、彼女はある程度自らの事態を理解していたのは確かだろう)
        …………(それを踏まえ、あの時のやりとりを振り返る。彼女の最後の誘いを)
        とにかく、ここで君が泣いていてもキリルが目覚めるわけではあるまい。
        街を出るにはまだ時間がある。袖すり合うも他生の縁、とは統真のやつの言葉だったか……まあ、いい。
        なんにせよ、キリルが目覚めていた時最後に会っていたのは俺だ。その縁もある、彼女のところまで案内してくれるか。
        (そう言って、泣きじゃくるマルチナをなだめようと手を伸ばしかけ……びくり、と体が恐怖に硬直したかのように手がきしみ、逡巡に、触れることなく引き戻された)
        ……ここで泣かれていると、それはそれで困る。せめて落ち着いてくれ。
        (外套の襟に顔を埋め、そうつぶやくのがやっとだった)
        -- アルヴィン
      • (ごめんなさい。嗚咽でほとんど言葉が出ない中言って、必死に涙をこらえようとする)
        (泣き声を押さえながら話を聞けば、彼はずいぶん姉や自分の事を知っているようだった)
        ……姉様が、あの話を誰かにするなんて…。

        (驚きで涙が止まる。姉が最後の夜に客を取っていたのはあとから聞いていた)
        (最後の客だから、話したのだろうか……)
        (男の手が伸ばされ、触れることなく引っ込む。丁度顔を上げたらそのしぐさが見えた)
        (……きっと、こういう人だから姉は話したのだろう。優しい人)
        (でも……何か事情もありそうだ。泣く子供を撫でるのをためらうのはそれなりによくあることだけど)
        (何か……)

        (涙に濡れて硝子玉の様な瞳がまた男をじっと見た)
        (姉に良く似た眼差し。何処か縋る様な、人を見定めるような、捨てられた猫がする目)

        (もしかしたら、姉を助ける手がかりが掴めるかも)
        (父と母は今は旅に出ていて連絡がつかない。他の彼女たちに関わっている大人はもう皆諦めていた)
        (でも…………この人は違うかも)

        (ううん、同じかもしれない。だけど予感がした。良いものか悪いものかわからないけど)

        ……大丈夫。もう大丈夫です、ご案内します。
        スラムの教会……わたし達の思い出の場所。
        姉様はそこで眠っているの。
        (男の外套を握り締めて、町のはずれを指差す)
        -- マルチナ
      • …………。
        (縋るような眼差しに、射すくめられたように男は動けない。外套を握りしめられ、ようやく我に返る程度には)
        ああ。だが、どうかひとつだけ頼まれてくれるか。
        (絞りだすように言う男の頬を伝うもの、一筋)

        ……そのきれいな瞳で、俺を見つめることは、やめてくれ。
        (その色は、白すぎる肌の上をなぞるにはあまりにも鮮やかで、そしていたいけな)

        qst085112.png

        ……思い出したくないものを、思い出してしまう。
        (赤い涙)
        -- アルヴィン
      • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst085113.png 

        (どうして)
        (どうして泣くんですか)

        (そう聞きたくても、声が上手く出なくて)

        (ただ、見上げることしかできない)
        (むねをぎゅっとつかまれる様な、男の人の涙)

        ……はい。

        (頷いて、男の前を歩く)

        (それ以上はいえなかった)
        (理由はわからなくても、自分のせいだという事はわかったから)
        (しばらく振り返るのもためらわれて)

        (姉の身に起こっている事を話しはじめたのはスラムに入ってからのことだった……)
        -- マルチナ
    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 街外れ、スラムの教会
    • 少女はスラムのでこぼこな道を慣れた様子で歩く。
      瓦礫をぴょんと乗り越えて、少しずつ姉の事を話しはじめた。

      「姉様は、もうずっと前から体の調子が悪かったんです」
      「待っていたい人がいるからって、体を長い間持つように作り替えてもらったばかりだったんだけど」
      「でも……姉様は奇跡的な魔術バランスで存在しているホムンクルスだったから、逆効果だったの」
      「生まれた施設で姉様が沢山食べさせられて、封印されていた魔物が……日に日に押さえられなくなっていった」


      「このままでは死んじまうんだろうね。「死」は生きている限り避けられないもの。
      ……仕方ない。あたしは生まれのわりには長く生きられた方さ」

      そう姉は笑っていたと、自分達の産みの親は言っていた。
      でも……。

      「……今の状態で死んだら、姉様の体から無数の魔物があふれかえることになります」
      「その中には、魔獣や神獣と呼ばれた獣もいる……姉様の魔力を喰い続けてどれだけ強くなっているのかわからないんです」

      「だから姉様は……眠ることを選んだ。自分に強い魔法をかけて……”永遠に、死の寸前でいること”を選んだ」


      廃墟のビルの合間、急に視界が開けた。
      そこは広い草原。
      白い銀盃花が咲き乱れ、風に揺れている。
      その手前に壊れかけた、古い教会。

      ……教会は不自然なほど茨が生い茂り、鳥籠のようになっていた。
      まるで全てを拒絶するかのように。

      「どうして…今日の朝にはなかったのに……!!姉様…っ!!」
      少女が姉を呼びながら駆け寄る。
      手を傷つけながら茨を引きちぎると、隙間から硝子の棺の中に赤い髪の女が眠っているのが見えた。

      「姉様…!!!!」 -- マルチナ
      • (茨を引きちぎるマルチナの肩を、先の硬直が嘘のように力強く握りしめる掌。それはまるで鋼鉄のように硬く、冷たい)
        (そしてぐい、と乱暴に言えるほどに引き)やめろマルチナ。君が傷ついたところで彼女が目覚めるわけじゃない。やめるんだ。
        (ほとんど無造作にマルチナの手を握りしめ、治癒魔術を流し込む。マルチナの傷を労るというよりは、そのひたむきな姿を見ていたくない。そう言いたげな振る舞いで)
        ……永続型の封印術式か。彼女一人でどう構築したかはわからないが、かなり強固な結界が貼られているな。
        (自らが一歩前に出ると、クオータースタッフに偽装したそれを地面に突き立てる。直後、男の体を表膜のように包み込むかすかな金色の輝き)
        (マルチナであれば、その輝きに見覚えは間違いなくあるだろう。それはプラーナ、異世界ファージアースの魔術師(ウィザード)たちが操る、存在力)
        (しかし父の、カテンのそれと異なり、アルヴィンが放つ輝きは冷たく、鋭く、そして……破壊の力に練り上げられている)

        Sia iejir ui vers der wacht(我が血に宿りし力を言の葉とし)
        (プラーナの輝きが杖へと伝わり、クォータースタッフの偽装が剥がれ、異形の機構杖の姿があらわになる)
        wer tawura, turalisjth, vur rotlelcud, nub krel Gedandc(作動し、展開し、輪転し、そして構築せよ)

        (杖の持ち手から現れたケーブルが手首に突き刺さり、灰色のチューブを赤い液体が流れていく。それは紛れも無くアルヴィンの血)
        (並々と吸入されていく血が杖の内部へと満ち満ち、ガラス状のシリンダーを経由して黄金のリングへと辿り着けば、刻まれたルーンが赤く脈動し、ガコン! と音を立て卵めいた柄頭が展開する)

        ria intent tenpiswo wer kax di orn autgerosm wascfcu(我が意は雨 全てを溶かし洗い流す銀の雫をここに)

        (ゴウン、ゴウンと音を立て、赤に彩られた金のリングが広がり、重々しく回転し、その内側に魔力を生み出し、輪廻させ高めていく)

        ……すまないが、マルチナ。実力行使でいかせてもらう!
        (リングの回転が最高潮に達したと同時、巨大な杖を強く地面に突き立てる!)

        (マスドライバーのごとく、渦巻いた魔力が空へと放たれ―――)

        注げ、魔力の雨よ!

        (ゾォウ!! と、すさまじい輝きを放った光の雨が茨の結界へと降り注ぐ! アルヴィン自身の血を媒介に高められた、封印破壊術式である!)
        -- アルヴィン
      • (今は離れて暮らす事が当たり前になってしまったけど、ずっとずっと姉と二人だけで生きてきた)
        (何もかも投げ打って自分を助けてくれた優しい姉が、どうしてこんな姿で眠り続けなくてはいけないのか)

        (姉妹で抱きしめあえるようになった時、これで姉も幸せになれると思った)
        (いつか誰かを愛して、愛されて……その人の隣で微笑むのだと)

        (あのひとは別に大層な事なんて何一つ望んではいなかった)
        (ただ、愛した人に愛されて、生きたかっただけ)

        (茨を取り除こうと小さな手で引き毟りながら、姉を呼び続け……)
        (……自分の手が血を流していることに気がついたのは、アルヴィンが手を握り治癒魔術をかけてくれた時だった)

        あ……ごめん、なさい(何度目かの謝罪の言葉を口にする)
        (さっき彼が流した赤い涙が浮かんだので、視線は少しそらして)
        (冷たい手……でもこの手は覚えがある。どこか懐かしい。安堵を覚える手……)

        (この懐かしさはなんだろう。ありがとうと言うのも忘れて、離れた彼の背中を目で追った)
        (手はもう痛みはない……聞きなれない呪文が聞こえてくる)

        (彼を取り巻くその輝きは、とてもよく知っているものに似ていて…………)


        ………………!!

        (おとう、さん)

        (けれど)
        (発動した魔術は父に感じるものとは違い恐ろしいものだった)
        (血を吸い取る機械のような魔法の杖……)

        (少女の声は茨を切り裂く音でかき消される)


        そうか……
        姉様が、貴方に自分のこと沢山お話した訳がわかりました。
        お父さんと同じ所から貴方は来たんですね。

        そして、この茨の生い茂った理由も……
        貴方は姉様の心を揺さぶるから、会いたくなかったのかもしれません。

        …………お父さんを、思い出すから。


        (切り裂かれた茨はばらばらと地に落ちる。棺の周辺だけやけに遅く、ゆっくりと羽根が舞い落ちるように)
        (棺の真上あたりは茨が止まっているようだった)

        (……時間の魔法。限りなく時がゆっくりと流れる魔法。外から見れば時が止まっているのと同じような、魔法)

        (そんな魔法のかかっている硝子の棺の中では、静かに赤い髪の女が眠っていた)
        (真っ白なドレスを身に纏い、幸せな夢を見るように)
        -- マルチナ
      • 時空が歪曲化しているのか……!?
        (いかにウィザードといえど、アルヴィンがかつていた世界でも時間の概念そのものを操ることが出来るものはそう多くない)
        ……!!
        (静かに眠る女の姿を見た瞬間、シリンダー内の血がごぼり、と沸き立つ。プラーナが輝きを増し、両手で杖を構え砲を撃つように先端を向け)
        マリーエングランツ、射抜け!!
        (ドォウ!! と、超高濃度の光弾が放たれる。先端部にある3つの突起から薬莢が排出され、その反対側からゴシュウ! と魔力の煙が吹き出した)

        (だがその光弾――――ジャッジメントレイは歪められた時間に従って徐々に徐々に速度を失い、やがて停滞すると、自らほどけ魔力の光の粒がガラスの棺を彩るにとどまった)
        ……ダメか、魔力障壁や防御魔装であればいくらでも無力化できるが……。
        (血を失った杖が展開状態からガシャン、ガシャンと重々しい音を立てて閉塞し、虚空へと掻き消える)

        ……彼女自身の魂はここにあるのを感じる。魂だけならば引き出すこともあるいは……。
        (顎に手を当て考えこむ最中、違和感に気付いたアルヴィンはその場に膝をつく)ぐっ……!?
        (首元に奇怪な熱さを感じたアルヴィンは、反射的に黒いインナーの首もとをぐい、とはだける)
        (マルチナがそこに見たのは、病的なまでに白い肌。そしてそこに、今まさに赤熱するかのように浮かび上がる……)
        -- アルヴィン
      • 姉様…!!
        (千切れた茨を乗り越えて、姉の元へ駆け寄ろうとした)
        (これだけ強力な魔法でもどうにもならないというのに)
        (今近寄ればあの魔法に取り込まれるかもしれない。それでも……)

        (けれど、不意にアルヴィンの呻く声が聞こえて、振り返る)
        (姉のために血を使って大きなダメージを受けているのではと慌てて近づくと)

        ……!
        それは……ああ……。

        (男の真っ白な首元に浮かんだ真紅の痣が見えた)
        (それはとても見覚えのある……契約の資格を持つ者の証)


        ”令呪“


        (膝をついたアルヴィンの傍にそっと寄って)
        (自分の右の手の甲を見せる。刺青のような赤い痣)

        ……これと同じようなものが……貴方の、首に……。

        (彼は聖杯戦争の話を聞いている。自分のことも……だからその言葉で十分伝わるはず)
        (少女は身を固くして、食い入るようにそれを見つめている……)
        -- マルチナ
      • 令呪……か。
        (じくじくと熱を孕むそれを抑え、インナーを戻す。ただ令呪が現れるにしては脂汗の度合いがひどい。蒼白に近い顔色が、呼吸を整えるとともに徐々に落ち着いていく)
        (唇を震わせるように口の中で唱えられるのは賦活の呪文。何重にも張られたそれがアルヴィンの肉体をドーピングし、3秒後にはもとの平静を取り戻していた)
        ……このタイミングで、俺の体にこれが現れたということは。
        (真白のドレスを着た眠り姫を見つめる。その赤い双眸に刻まれた感情の色は、筆舌に尽くしがたい……)
        -- アルヴィン
      • (アルヴィンの言葉にさらに身を竦ませる。自分の時も少し体がおかしかったのを思い出した)
        (……けれど、こんなに真っ青になるほどではなかったはず。すぐにもとの様子に戻っていったけど……)

        (何かから逃げるように彼を心配する自分に気づく)
        (……気づいてしまったら、逃げられない)


        (……この人にも沢山抱えるものがある)
             (血のように…姉の髪のように赤い涙を思いだす)

        (……この人にも強い願いがある)
             (自分の時もそうだった。生きたいと、生きて欲しいと姉妹で強く願っていた)

        (……この人には、今の自分にはない強い魔力、力がある……………………………………!)


        姉様……は
        (かすれた声で、言葉を絞り出す)

        「永遠に、死の寸前でいること」を選んだ。

        永遠に死の寸前に戻り、戦いを繰り返す存在………それを、サーヴァントと人は呼びます。

        姉様は……サーヴァントになったのだと……思います。
        資格はあるはず……時間を操る魔法を使うほどの強い魔力。体の中にいる魔獣の力。

        (途切れ途切れに、渇いた喉に言葉が響く)
        (茨がゆっくりと舞い降りる中で、さらに言葉を続けた)
        (すぅ、と息を吸って)

        ……そのしるしが貴方にあらわれたということは。この地に聖杯がまたあらわれるということ。
        貴方は、聖杯が必要なほど、強い願いがあるということ……魔力も。

        わたしには……資格がないの。今度は駄目みたい。

        (まっすぐで、硝子のような瞳が男を映し……俯くと、瞼を下ろした)

        (さっきの赤い涙を思い出したから。つらい気持ちにはさせたくなくて)
        (つらいお願いを弱みにつけこむ形で通すことはしたくなかった)
        (そんなの些細な事だって思うくらいのことをこれから言うのに……)



        (そして)

        (少女は)

        ………………おねがいが、あります。


        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst085114.jpg 

        姉様を貴方のサーヴァントにしてあげてほしいのです。
        きっと、きっと姉様は強いからお役に立つのです。
        貴方の願いのための戦いに、姉様はどのサーヴァントよりも一生懸命になってくれるはずです。
        強い願いを、聖杯を求めるほどの願いを持つ人の悲しみを姉様は知っているから……。


        ……そして……貴方の願いを叶える時に……姉様を、助けて……。
        -- マルチナ

      • qst085115.png

        約束は出来ん。
        俺の望みは、必ずしも彼女を救うものではない。何よりも、俺に誰かを救うことなど、出来るものか。
        (マルチナに背を向け、男は言った。自嘲するように)
        ……だが。
        (そしてもう一度見据える。真白の姫君を)
        俺には責任がある。せめて少なくとも、彼女がこの停滞の中で朽ちていくのを止める、その役目は。
        マルチナ、俺に祈るのはやめてくれ。
        俺は神ではない。ましてや英雄でも、戦士でもなんでもない。
        俺はただの、魔術師だ。
        ……魔術師なりに、やれることはやってみよう。
        (それだけ言って、姫君からも踵を返し、一人去っていく)
        (彼の向かう先は、少なくとも……街から去るための待合場とは、正反対の方角を示していた)
        -- アルヴィン
      • (いつの間にか祈るように両手を組んでいた事に気づいた)

        ……ごめんなさい。
        ……貴方が、また泣くのは嫌だったから、目を閉じてたら……。

        (瞳を開いて、またじっと男を見た)

        (都合が良すぎただろうか)
        (……そんなことわかってる)
        (でも、頼れるのは……この人しかいない)
        (出逢ったばかりのこの人しか……人の輪廻から外れてしまった姉様を助けることはできない)

        (だから、祈るように)

        (それでも受け止めようとしてくている人に頭を下げる)

        ……姉様をよろしくお願いします……。

        (教会の外で去っていく背中を見送る)
        (茨がまた教会を取り囲み始めた。少しずつ見えなくなっていく姉から目をそらすように、もう一度振り返った)
        (遠くに男の背中が見えると、零れ落ちそうになる涙をこらえることができた)

        わたしも……できることはしなくっちゃ……。

        (そうつぶやいて、少女はまた走る)
        -- マルチナ

死者の祭り  Edit

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    • その日はお祭りだった。

      お祭りと言っても花冠を作って焚き火の前で踊るようなものではない。
      冒険者の町のお祭りだ。
      今は亡き仲間や友人を、そしてかつての英雄を偲び、飲んで騒ぐというもの。
      よその町や外国から来た屋台がいたる所に立ち並び、
      魔法で色とりどりに染められた炎をともしたランタンが飾られ、それらを照らす。
      仮面をつけて仮装する者達もいれば、民族衣装で踊る者達もいて。
      祭りのイメージをごちゃ混ぜにしたような祭りなのだった。

      今年は夜中に天灯に火を灯して、空へと飛ばすという事もやるらしい。
      どこかの国の祭りの真似事だ。こうやってごちゃ混ぜの祭りにまた一つ別の祭りが混ざっていく。
      • (ただでさえ騒がしい町がさらに賑やかになる日)
        (この町で一番古い娼館「ハニー&バニー」も今日はいつもより落ち着かなくて)
        (どこにいても落ち着かないならいっそ、と思って喧騒の中に足を運んでみる)
        (煩い所は苦手だけど、「嫌い」というではない)
        (天灯に火を灯して、空へと飛ばすのは見てみたかったから)

        (それに)
        (きっと、これで……見納めだから)



        (人々は川原に集まり、薄い紙でできたランタン「天灯」に火を入れて小さな気球のようにして、いっせいに空へと飛ばしていく……)

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst085116.jpg

        (そんな光景を少しはなれた場所で、人ごみの中歩きながら見上げていた)

        (どんっ)
        わっ…!!
        (べしゃっとしりもちをつく。何かにぶつかったのだ)

        痛…っ ちょっと!どこ見てあるいてんだい!!

        (座り込んだまま威勢のいい声を上げる。どう考えても自分が悪いのだが つい)
        -- キリル
      • …………。
        (赤髪の女性を見下ろしていたのは、右目にモノクルをかけた黒い肌の男だった)
        (いや、そう見えたのも無理はない。彼の顔こそは色白の肌を晒してはいるが、深く着込んだ外套の下、指先や首元、わずかに露出すべきそれらは黒のインナーでしっかりと着込まれているからだ)
        (逆立てた髪は、黒に金混じり。いや、本来はその逆か。かつては在るべき輝きを誇っていたにも関わらず、年月と摩耗の末に輝きを失った金彫刻のように、くすんだ黒髪であった)
        失礼した。
        (平坦な声音。細く、しかし反対に鮮やかに映る赤い瞳孔がキリルの赤を映す。ねじくれた古いクォータースタッフに、旅装。この街ではありふれた、冒険者の装いである)
        気づかないうちに祭りに浮かれていたようだ。立てるだろうか。
        (必要以上に萎縮するでも、かみつくキリルを敵視するでもない態度。奥ゆかしく左手を差し出し、望めば手を取り助け起こす支えとする)
        -- アルヴィン
      • (男を見上げて一瞬驚いた顔をして、その後すぐに気まずそうな表情)
        (怒鳴り返されたりするのがこの界隈での日常。しかも自分が悪いのに謝られてしまったものだから)

        ……いいよ、浮かれていたのはあたしだし。悪かったね。
        (胸元が開いたゆったりとした濃い青のワンピース、透けるように薄い絹のヴェール。わかりやすい娼婦の格好)
        (おおよそ謝ったりするような人種には見えない女は素直に謝った)
        (こういうタイプには縁がない故に、素直に返すことしか思いつかなかったから)
        (困ったような顔で笑って立ち上がろうと……)
        大丈夫、自分で立て…………………………痛っ たぁ…っ!!
        (ズキンと足首に激痛が奔る。盛大にひねってしまったらしい)

        ……あ、ええっと…その……あの…。
        (男の手を借りても立ち上がれはするけれど、おそらく歩けない)
        (恥ずかしさで顔を真っ赤に染めて、どうしようかと視線を宙にさまよわせている)

        (自分の不注意でぶつかって、怒鳴って、動けないなんて……無様にもほどがある)
        -- キリル
      • 挫いたか。つくづく迷惑をかけてしまったようだな。
        (屈み込み、女の扇情的な格好に目くじらを立てるでもなく、赤く腫れ上がった足首を一瞥。じゃまになりそうなクォータースタッフは、気がつけば失せている)
        ……怪我をさせた手前だ、失礼する。
        (一言先んじて詫びると、足首に添えるように片手を当てた。黒い手袋越しには、男の手指としてもずいぶんに硬くしなやかで、冷たい感触。しかしそれも、淡い輝きとともに感じられなくなる)
        (ごくごく初歩の回復魔術である。夜の闇を泳ぐ、遊魚のようなランタン達に似た淡い輝きはすぐに消え失せ、代わりに腫れは幾分収まり、また痛みもある程度は引いていた)
        その場しのぎの呪文だ、きちんと塗り薬を付けたほうがいいだろう。とはいえ、この街には来たばかりだ。まだ宿の場所すらもわからない。
        (立ち上がり、一言。改めて片手を伸ばし、続けた)
        案内をお願いしてもいいだろうか。怪我をさせた手前、このまま放って去るというわけにもいくまい。どこか手当て出来そうな場所に、連れて行くだけでもさせてくれ。
        -- アルヴィン
      • いや別にあんた悪くないからさ!!そんな風に言う必要ないって…!
        (しどろもどろ。これでも冒険者歴は長いというのにこんなことで歩けなるなる怪我して。恥ずかしさが増す)
        (人に体を預ける商売女にわざわざ一言言ってから触る男に、言い訳の言葉も途切れてしまった)
        (こんな風に扱われるのは久しぶり)
        (冷たい感触が心地よかった。そして光と共に痛みが引いていく……魔術師なのだろうか)
        (どこか生気のない、人形のような雰囲気の男の顔をそっと見る)
        …すまないね。こんなことまでしてもらって。
        歩けそうだから一人でも大丈夫だよ(今度は手をしっかりとって、立ち上がる)
        (こういう堅そうなタイプを娼館に連れて行くのは気が引けた。だから笑顔で断ろうとして……)
        ……ああ、でも。
        宿とってないのかあんた。今からじゃみつからなさそうだね。
        よかったらうちの店とまっていきなよ。
        ちょっと雰囲気はよくないとこだけど、野宿よりはずっといいよ。
        (娼館、とは言い出しにくくて言葉を濁す。まあ自分の見た目でわかるだろうと思ったので)
        (手をとったままひょこっと足を引きずって、少し離れた場所にある古い洋館のような店を指差す)
        (改装したばかりのハニー&バニー。落ち着いた洋館風にしたものだから遠くから見ると娼館とはわからないかもしれない)
        ほら、あそこ。
        -- キリル
      • ……。
        (改めて全身を見分―――無論、相手の身分を確かめるためのものである―――する視線の気配)
        (2秒の沈黙があった。何か思索を経たのか、男は表情を崩さぬまま頷いた)ひとまずは向かうとしよう。
        (キリルが立ち上がればあっさりと手は離れ、カツコツと隣を歩く。よろけたりした時に支えられるように、という配慮だろう)
        (いつのまにかまた手元にあったクォータースタッフを抱えながら、男の目線は正面からぴたりともぶれない。声をかけられ、初めて洋館風の建物に視線が向いた)
        ずいぶんと落ち着いた様相だな。この手の建物にはあまり縁がないせいか、界隈に詳しくはないが。
        (だからといって躊躇する様子もない。さらに歩くがてら、ちらりと街をたゆたう天の灯火へと目を向けた)
        これはこの街の行事なのか。燈火を人の魂に見立てて送る習わしは以前にも見たことがある。鎮魂祭にしては騒がしいな。
        (血のように赤い瞳がつかのま細められ、瞬きするともとの色合いを取り戻していた)
        ところで、人を探している。キリル・トラフキンという女性を知らないか。
        -- アルヴィン
      • あんたは縁なさそうだもんねぇ…このあたりじゃ一番古い店なんだよあそこ。
        あたし今客とってないからさ、ふつーに泊めるだけになっちまうけど。
        (挫いた足をかばいながら歩いて隣の男を見上げる。ずいぶんと大きい)
        (持っている杖のようなものもまた大きい。そういえばさっきは一度見当たらなくなっていた)
        (やっぱり魔術師だな。見慣れないデザインの杖。珍しいものを見るのには慣れていたけど、それでも珍しいと思った)
        (……どこから来たんだろう)
        (いろんなことを考えながらしげしげと見つめていた)
        (男の肩越しに灯火が見える。それを視線で追いかけて…一瞬だけ男の瞳の色が変わった気がした)
        あれ…??
        (目をこすりながら答える。なんだかつかみどころがない男だ。浮世離れしている感じ)
        (鎮魂祭に現れた幽霊か何かといわれたら納得してしまうかも)
        あ、ああこの町の伝統的な行事じゃないんだ。多分誰かお偉いさんの故郷の行事なんじゃないかねぇ。
        色々な国の人間がここにはるから各地の鎮魂祭の一部が毎年増えて混ざっていくのさ。
        変だろ?でもこれが何年かすると昔からあったものみたいに馴染んじまってさ、
        あたしはそれが面白くて好…… ……

        (好きなお祭りのことだからつい饒舌に話して……けれど自分の名前を耳にすると男の傍から少し離れた)
        …………何。
        あ、あたしに何か用?!
        な、なんだっけ、借金なんてないし袖にした男なんて…あ、い、いたかな、わかんねぇ…と、とにかく何!?
        (目を丸くして、固まっている)
        -- キリル
      • (男の瞳はもとより血のように赤いまま。ただ、燈火を、送られる魂の色を見た時だけは、どこか異なる色をたたえるようにも思えた)
        (そしてその双眸が、退いたキリルにきょとんと向けられた)
        ……ふむ。なるほど。
        (意外そうに顎をさする。男も驚いた様子……それとわかって声をかけていたわけではない、らしい)
        いや、あいにくだが借金取りでも、そちらに恨みを持っている手合いでもない。ただ話を聞きたかっただけなんだ。
        (宥めるように片手を差し出す。キリルが物珍しげに見ていた巨大な機械杖は、ただの樫木のクォータースタッフにしか見えない偽装が施されている……それを看破されていることにも、その振る舞いで気付いた)
        風の噂で聞いている通り、だな。……まあ、積もる話は落ち着く場所でするとしよう。案内してもらえるか。
        (そう言って自ら建物に踏み込もうとして、結局名乗ってもいないことに気付き、振り向いた)
        俺はアルヴィン。アルヴィン・マリナーノだ。
        この地にいた転生者について聞きたいことがある。彼と、彼のたどった戦いについて教えてもらえないか。
        -- アルヴィン
      • (思わず自分だと言ってしまったことを後悔する。魔術師は自分がわからないように杖を偽装していたじゃないか)
        (昔いた研究所の魔術師が今更自分を実験材料として奪いにきたのかもしれない。そんなことまで考えはじめて……)

        (……視線が自分に向けられると、さっき一瞬だけ見えた瞳を思い出し、どきんと胸が震えた)
        (あの瞳、そして硬くて冷たい手。誰かを思い出すような……)
        (でも、あいつはこんな赤い色じゃない。手も少し違う気がするし……)
        (毒気を抜かれたように、こちらもきょとんとしてしまう)

        (建物に入ろうとする男の背中を見つめて、迷った)
        (近づいていいものか。悪いものなのか良いものなのかわからないけど、気持ちがざわつく)

        (……そんな迷いは彼が続けた言葉で消えた)

        転生者

        (……ああ、やっぱり)

        あんた、カテンを知ってるんだ。

        (距離をとっていた男の傍に寄る。腕を取って彼より前に出た)
        (見上げた顔は微笑んでいて、どこか思いつめたような雰囲気もあった)

        ……いいよ。話してやるよ。

        (こっちだよと引っ張って、娼婦の部屋にしては殺風景な部屋に男を招く)


        (本当は瞳も手も、どちらもぜんぜん似てないのかもしれない)
        (今日は特別だから、やけに思い出してしまうのかも、重ねてしまうのかも)
        (これで見るのは最後になる鎮魂祭。過去を想う祭り)

        (過去を想うと、一番に思い出す一人の男)

        (彼からその男の事を聞かれるとは)


        ……やだねぇ、これも運命ってやつなのかね。
        (部屋に落ち着いてから、ポツリとつぶやく)
        ……後であんたのことも教えておくれよ?
        さあ何から話そうか……
        -- キリル
      • っ。
        (腕を取られた時、ほんの少し。そう、ほんの少しだけ、男の相貌に揺れがあった)
        (それは驚きか。あるいは厭世感か、恐怖か、それとも……)
        (キリルがそれを窺い知ることはないだろう、すでにその想いは過去へと向けられ、先に歩いていたのだから)
        (ただ、その男が部屋に入る時、誰にも聞こえぬようつぶやいた声音は……)

        ……すまない。

        (誰に向けられたものかわからぬ、か細い謝罪の言葉だった)
        -- アルヴィン
    • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif
    • 「あたしは話が上手いわけじゃないから、長くなるよ」

      そう言って真夜中から英雄譚が語られ始める。

      「じゃあ、まずはあたしとあいつの出会いから。たまたま酒場でさ……」

      一つ一つ、噛み締める様に女は話した。
      自分の生まれのこと、妹の事にも触れる。
      彼の妻の話も、妻から聞いた話もした。
      すべて大切な思い出だという事は、どんな鈍感な人間でもわかるくらいに
      とても幸せそうに語る。



      そして話が終わる頃には、外は少し明るくなり始めていた。
      • 同じとこから来たとはね、道理であんた見てあいつ思い出すわけだよ。
        ……悪いね、アルヴィン。やっぱ長くなった。
        今日は過去を想う祭りだからね。ずっと昔のことばかり考えてたせいかねぇ。
        余計なあたしの身の上話も混じっちゃった。ごめん。
        (カーテンの隙間の月を見上げて、最後に彼に微笑む。どこか寂しそうな笑みで)

        (ベッドに座る男の隣に乗っかる。距離はとても近い)
        (瞳を覗きこむようにして顔を見る)

        聞きたい事、まだあるんだ。
        ……なんであたしにあいつのこと聞くの?
        部屋に入る時、謝る様な言葉がかすかに聞こえた……あれはなんでなんだい?
        -- キリル
      • ……分霊、同一存在のたぐいはファー・ジ・アースでも稀に存在しているが、その経緯はなかなか特異だな。
        (腕組みし、内容を反芻していた男の赤目がキリルを見返した)
        理由はいくつかある。まず、俺が先程も話したとおり、ファー・ジ・アース……つまり、キミのいうカテンと同じ世界の出身であること。
        ただ、俺は彼と違って偶然こちらに来たわけではない。ようは魔物退治の延長だと思ってくれていい、俺の故郷は様々な世界、様々な存在の脅威にさらされているものでな。
        (時折俺のように、世界を飛び越えるエージェントの必要も生じるわけだ、と続け、懐から古びたパイプを取り出し火を付けた)
        彼のように、転生の際に世界を超えるというのは珍しいケースだ。ましてやそこからプラーナを取り戻し、勇者として覚醒したとなればなおさらにな。
        そのレアケースに関しての情報がほしかった、というのがひとつ。もう一つは、君達が関わった事象……聖杯戦争、についてか。
        万物の願いを叶える「聖杯」を巡っての闘争。彼……カテンもが関わったということは、単にこの世界だけの話には留められないのだろう。
        万が一俺達の世界にまで影響するのであれば、調査と、必要であれば事前の対策が必要となる。そのあたりが3つ目の理由だな。
        (冷静に言い、煙を吐いた。呟いた言葉について触れられれば、ぴくりと片眉が動いた)
        ……さてな。逆に聞くが、どうして君は俺について知りたがる。興味本位でここまで踏み込むとは思えん。
        -- アルヴィン
      • ふーん…今のカテン達みたいなことしてるんだねぇ。
        確かにあれは下手したら世界のバランスを崩しかねないような代物ではある。
        異世界から来た人間が関わったということは、そっちにも聖杯行く可能性があるよって考えられるもんね。
        (頷きながら話を聞く)
        あたしはまた、聖杯が欲しいのかと思ったよ。
        叶えたい願いでもあるのかってね。
        (パイプの煙に赤い瞳が隠れる。自分とは違うタバコの香りがなんだか心地よい)
        (懐かしいと、また思った)
        (男の頬に触れようと、煙の中に手を伸ばして)
        ……どうして知りたいかって?

        カテンと同じところから来たからか…
        ……あんたが「今日」、あたしに会いに来たからか。

        あたしもよくはわかんない。
        ただ、あんたのこと知りたいって思っただけ。

        (問いに答えるというよりは、独り言のようにささやいてから娼婦らしい微笑を見せる)
        ね……アルヴィン。
        あたしの最後の客にならない?
        -- キリル
      • ……悪いが、俺はそのつもりでここまで来たわけじゃあない。
        (すい、と、近づいた掌の首元に手が添えられ、頬に触れる前に虚をなぞるようにいなされた)
        俺はカテンじゃない。あの祭りで送り出された灯火は、送り出すことで人々が前を向くためにあるんだ。
        俺はお前が過去に浸るための灯火ではない。……俺に誰かを慰め、癒やすことなど出来るものか。
        (どこか一人呟くように言えば、キリルの手首から手を離し、腰を上げる)
        もともとの目的は果たせた。会ったばかりの俺に話してくれたことには感謝する、キリル。
        (そして部屋からの去り際、背を向けたまま頭を半ば巡らせ)
        聖杯に賭ける願いがあるのか、と言っていたな。それは理由の4つ目だ。
        俺にも願いがある。俺が、命を賭けるに足る願いが。それが叶うなら、聖杯とやらに縋るのも悪くないかもしれない。そう思っていたのは、確かだ。
        (それだけ言い残し、部屋から去っていった。あとにはただ、苦い紫煙の残り香があるだけ)
        -- アルヴィン
      • (やっぱり、と思った)

        (だから断られて、俯きながらふっと笑った)
        (男から見たら傷ついたように見えたかもしれない)

        (……傷ついたのはどちらなのか)
        (むしろ自分が男を傷つけたような気がしたのは気のせいだろうか)

        酷い男だね、あんた。

        (離れた手を胸に抱く)
        (……それが男との最後のやりとりになった)





        (自分のものではないタバコの香りの中で、去って行った男を想う)
        (腕にはまだ彼の冷たい手の感覚が残っている)

        (商売でも恋心からでもなく、ただ慰めてくれる温もりが欲しくて求めたのは初めてだった)
        (見透かされたのかもしれない)
        (誰でも良かったわけではないのだけれど、別の男を見ていたのは本当だから)

        (くすくす笑いながら朝日に消えていく月を眺める)
        これがあたしの人生最後の日かぁ…ま、こんなもんだよね。

        あたしが好きになった男は、誰も抱いてくれなかった。
        だからその男を重ねたアルヴィンがあたしを抱かないのなんて、わかってたさ。
        こんな商売なのにさ……呪いか何かかよ全く。ねえお月様。

        ……願い事か。どんな願いなんだろう。
        もう知ることはできないから…魔法でふんじばってでもきいときゃよかったかな。

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

        …………ああ。
        でも…………きっと、また逢える。

        この土地にいて、願いが強ければ、魔術師ならば……きっと。



        その時、あたしは敵かもしれないけれど…………。

        http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

        -- キリル

Last-modified: 2014-04-17 Thu 01:40:27 JST (3662d)