「おじさん!出所してきたんだね!」  「ああ……坊主も大きくなったな!」  「おじさん……僕おじさんの言う事を聞いてさ、一日一日を大切に生きようと思ったんだ」  「そうか……偉いな!」  「だからおじさんも!一日一日大切に生きてよ!」  「坊主、おじさんよりも偉くなったな。おじさんからはもう何も言う事が無いよ」  「……おじさん、僕ね!おじさんが刑務所に入ってからは絵を描くことにしたんだ!」  「そうか、絵か……悩んだときにはこれを思い出して欲しい」  絵を描くことに詰まったなら、これはいいな!こんな絵を描きたいな!と思った絵を取り出す。  その絵のどこがいいのか吟味して、それを要素ごとにメモっていく。  たとえば主と副の関係やその距離、描写から陰影から色使いまで。  「お、おじさん!?」  そしてそれらをと平行して俯瞰、上から眺めた図を大雑把に描いておく。  だいたいでいい、だいたいだからこそいい!  「あの、おじさん!?聞いてる?僕の言う事?ねぇ!」  ここからが本番だ!丸写しだとトレスすればいいのだからこんな事をしなくていい。  これとは別にどういう物を描きたいのか、紙に言葉で記しておく!  上記で描きたい絵の題名をそのまま書いたりするのは駄目だ!  感覚的にではなく論理的に、何をどう描きたいのかを書くんだ。  そうだな、物が思い浮かばなければ色から始めるといいだろう。  「……」  そうして書き出したメモを基にして、こんな絵を描きたいなと思った絵から抽出したメモとあわせる!  それを基にして上から眺めた図を見て、どの角度から見た図にしようか決めろ!!  決まったのなら後は簡単だ!描け!  「おじさん……まったく変わってないね」  もちろん人物が主題なら視点をちゃんとこちらに向いているようにしろ!  無理やりになるならポーズごと変えてしまえばいい!  それが決まったのならもうお前の絵になってしまっている!  そうおまえはオリジナルの絵を書き上げたんだ!  「なぁに、パクリだと言い切ってしまえば芸術だという事で許されたりする」  「……僕もう帰るよ」  「おい、坊主!?坊主!……坊主」  それ以降、おじさんとはあっていない。  しばらくしておじさんは詐欺で逮捕されて全国ニュースに流れた。  絵を描く事、文章を書くこと。  おじさんはその根底そのものについては考えていなかったようだ、  ネズミ講とアムなんたらを混ぜたようなことをして荒稼ぎをしていた。  思い返すと僕はあまり良い環境で暮らしていなかった。  だからああいう人とよくあって話したりした。  いま、その故郷は再開発が進んで知らない人がいっぱい住んでいる。  おじさんのような人たちは一人もいない、新しい人たちばかりが住んで町の名前も変わってしまった。  故郷に戻る事は生涯なかった。