90年6月 今回も成功に終わらせることが出来た 道中で見つけた武器は手に入らなかったが、まあ良しとしよう あの長剣、こちらの武器ではあるが興味あったのだがな 先月あの元娼婦……アンジェリカと言ったか 顔つきが変わったと言われた 自分ではあまり自覚がない。酒を水鏡にしても、映るのは見慣れた顔だ そういえば気になることを言っていたな なにか俺に頼みたいことがあるらしいが…… いずれ知ることになるだろうとはいえ気になるところよ 九尾から誕生日祝いに煙管を贈られる ありがたく使わせてもらおう 90年7月 懐が暖かいに越したことはない 成功の感激は失敗の落胆に劣るとしても、金が入る事実は変わらん そして金さえ入れば別にいいのだ 九尾からもらった煙管を銜えつつ ふと外を眺める 季節は夏となった 花も月も美しい頃。夜空に咲く一瞬の花も見ることが出来ればいいのだが 90年8月 仕事そのものは成功に終わらせたが、どこか虚しいものがある 報酬を貰った時にも、大きくため息をつく自分を見た 満足がいかなかったのだろうか、俺は。冒険のうちにさらなる強欲を持ったか 夏の夜風ほど、心地よいものはない しかしそれを静かに堪能できるほど、落ち着いてはいられないようだ 俺と九尾周りで、多くの者が去っていった 90年9月 同行したドゥーテーイの予想通り、まるで実入りのない仕事だった 敵に罠はあっても、鉱脈はおろか財宝すらなく ドゥーテーイも言ったように、殺意が湧いてきて仕方ない ……先月より、九尾は沈んでいる 人の噂に耳を傾けてみれば、軍靴を穿いた猫に因むらしい 酒場の隅で酒に溺れる姿、昔の面影を見出した 90年10月 爆発を浴びた傷が疼く。もう治っては来ているが、久方ぶりゆえに 今回は平凡な仕事だった。そこそこの罠に、そこそこの敵。そして成功 報酬は多くないのに嬉しく思うのは、先月のことがあったからだろう 野山が炎もなく燃える季節となった これをゆっくりと眺めたいものだが、そうそう大人しくもしていられん 見て回らなくてはならないところがある 90年11月 楽であり、報酬も先月より良かったが、満足はしていない やはり鼠ごときくらいしか斬れなかったのが根底にあるのだろうか 斬り刻む生活を続けるうち、そういう性分もついたかな 九尾の音沙汰が無い。相変わらず酔いつぶれたままとなっている 出来る限り傍にいてやった方がいいとは思うが、そればかりでは生活が成り立たん アヤメにも毛布の礼を言いに行った方が良いだろう ようやく九尾も立ち直ってきた 俺の胸の毛皮を濡らした涙は、今も心に留まっている もう少し時間はかかるだろうか…… 90年12月 此度の仕事は波乱万丈。成功した中では一番疲れたかもしれん 敵もそれなりに現れ、財宝も中々に見つかり、果ては雨にまで降られた そして懐が暖かいと思えるほどになったからな 仕事が成功に終わるとは限らないので、日々倹約は心がけている 失敗する公算が高い時には、さらに厳しく自らを律する 懐が暖かくなったことには、そのあたりもあるだろう 91年1月 罠に一度かかり、二度戦闘をし、一度財宝を見つけた 仕事としては平凡な方だが…… 財宝を見つけたから良い仕事だったといえる アンジェリカの言っていた頼みというものがなくなったらしい 一体に何だったのかは気になるが、向こうが明らかにしない以上あえては聞くまい 一応は冒険者としての仲間だからな、その辺は弁えている 91年2月 世の中には銀鉱捜索というものがあるらしいが、俺には関係のないこと 今回も成功に終わり、報酬を手にする 楽なことはよいことだ 今年も巡ってきたなバレンタインデイ…… そして手の中には九尾からもらったチョコレイト ……九尾は泊まることだし、どうなるかは……分の悪い賭けだ 91年3月 楽して金が入るのは良いが 敵を斬る機会がないとそれはそれで退屈なものだ 財宝の一つでも見つかっていればまた違ったろうがな 狐面の男が「狐さん」と呼ばれるのは俺だと言って来た 滑稽なことだ。そちらは狐面、こちらは狐人 名を知らぬものがいれば、そう呼ばれるのは俺のほうだろうよ だが別に張り合うつもりはない。そう呼ばれるのは珍しくないからな 91年4月 始めと終わりの間際で雨に降られ、素直に気分が良いとは言い切れない 罠は回避し、それなりに斬り、財宝も手にしたがそれでもだ 杖も俺の手に渡ってきたが、あいにく武門の出でそちらは疎い 以前に組んだキリュウが姿をくらました 袖すり合うも他生の縁というが、それに忠実に行くとはな 手紙では部屋の物を持って行って良いという、あとで赴こう 91年5月 平凡も平凡、特に何らかの感慨も無い。感情も揺らめかない。そんな仕事だった ただ今回で練達と呼ばれるようになった時は驚いた。思えば、それだけ続けているのだな 俺も28歳……随分と遠くへ来たものだ 28になったということは……もう4年もこの地に居る そして留まり続けようとしている まだまだ儲けも足りんし、あえてここを離れる理由も無い それにここを離れて、今より自分の生活が良くなるとは思えんからな