エリク・シュトライヒ 冒険者登録番号15477 黄金暦89年11月 巨大な怪物討伐依頼中に死亡 公式の記録に残っている中では、これがひとまず…彼の最後である。 それから、数十年後。 「すみませんが、そこの方…」 「はい、あ…俺ですか…?」 「ちとお聞きしますが、墓地はあっちですかな?」 「ええ、そこの道を真っ直ぐ行くと右側に。」 「それはどうも」 冒険者風の青年に道をたずねる老人の姿があった。 老人は一礼すると、杖をつきながら不自由そうに墓地の方へ歩いて行く。 比較的古い墓の多い一角で老人は足を止め、その青い目を細めながら 丁寧に墓碑に刻まれた名前を、一つ一つ確認していった。 暫く経って、没年も殆ど読み取れないほど古い墓の前に跪く。 名前は辛うじて読み取れる、といった程度だ。 「いや…随分と時間がかかってしまいましたが、何とか…約束は果たすことができました。  何せ、ここに来るのは初めてでね…ここに貴方が居ないのも、分かってはいるんですが…  どうにも、私もそう長くないらしいのでね…報告にと思って、来たんですよ」 ごほごほと咳払いをしながら、コートのポケットに手を入れる。 皺と古い傷跡だらけの手に握られた金色のコインを、そっと墓石の前に置いた。 これまたコインも傷や凹みだらけで、元の刻印は判別できないほど。 それでも金の輝きは失われないままだ。 「そろそろ、これをお返ししておかなきゃいけない時期でしょう。  なにぶん…長いこと借りすぎていましたから。…3ヶ月前に、娘が冒険者を引退しましてね  やっと、私の手元に戻ってきましたよ。」 古い友人と再会した時のような、穏やかな笑顔で老人は空を仰いだ。 「まだ貴方は、どこかで生きてるんでしょうか。 ねぇ…フェンさん?」 春の暖かな風に、白い雲がゆっくりと流されていく。 「おじいちゃーん! もう、こんな所に居たの?探したよ…」 遠くから、息を切らせて走ってくる少年の声。 空色の髪を揺らしながら老人のもとへ駆け寄ってくる。 「ん…? あぁ、ちょっと用事を済ませてたところだよ…それより、買い物は済んだのかい?」 優しく少年の頭を撫でながら、老人は問いかける。 「うん!ほら見てこれ」 腰に下げた真新しいショートソードを示し、得意げに胸を張る。 「それとね…ほらほら、冒険者登録してきちゃった!」 その胸に下げられたプレートには、冒険者番号とシュトライヒの名。 「な……あれほどやめておきなさいと、言っただろうに…」 「だって、母さんに聞いたんだよ?おじいちゃんだって昔は冒険者で、かなりの使い手だったって…!」 老人は呆れながらも、どこか仕方ないといった風な顔で、首を横に振る。 「やれやれ、血は争えんらしいですな……もう少しの間、これはお借りする事になりそうです。  返しに来れるかどうか…いささか心配ですがね。 ふふ…今度は孫を、宜しく頼みます。」 肩を竦めて、先ほど墓前に置いたコインを拾い上げ、少年に手渡す。 「おじいちゃん、何これ…?」 「それはお守りだよ。 私が若い頃、ある人に貰ったんだ…」 「そのお墓の人? えーと、なになに…フェンサー・アクリッド……?」 「あぁ。そのお守りのおかげで、私は何とか生き延びることができた…私にはもう必要ないが  今度はお前さんが、守ってもらいなさい。」 今度はコインの代わりに杖を拾って、難儀しながら立ち上がる。 その様子を見た少年が、老人に肩を貸す。 「おぉ…すまんね。 歳はとりたくないものだよ…」 「その足も、冒険での怪我のせいだって…母さんから聞いてるよ」 「なに、生き残れただけ運がいい。もう、あの頃の仲間も…随分少なくなってしまったよ」 重い腰を上げて、二人はゆっくり墓地を後にする。 「ねぇ、おじいちゃん…冒険の時の話、もっと聞かせてよ」 「それもだが、まずは剣の基本から…しっかり覚えてもらうぞ?」 「えー、もう訓練はさんざんやったんだよ!」 「私も…実戦形式で嫌というほど叩き込まれたものだよ」 むかしむかし、少年だった…とある冒険者の物語。 そしてこれから冒険者になる少年の、新たに始まる物語。 ・出演 エリク・シュトライヒ(15477) フェンサー・アクリッド(22188) あっさり死亡もいいけど、こんな手も有りか?という事で蛇足エンドを。 あくまでこれは中の人が提案する終わり方の1つであって、 エリクのその後の消息は皆の想像する数だけあります。 成長止まってた割にはどっと老けたのは、冒険者やめたせいかも …ウォルター・フェン?しらんな、そんな奴(進行度:G)