この手紙を最初に読むのが、手紙を引き出しの奥にすっかりしまい忘れて、冒険者を引退した僕である事を祈ります。 あの時の僕は何を血迷っていたんだろう、って…恥ずかしい思いをする程度で済むことを。 これを読んでいる方が、僕の友達なのか、それとも宿屋の人なのかは分かりませんけど とにかく、僕はそこへ戻れない状況にあるんだと思います。 でも不思議なことに、これを書いている最中の僕は、むしろちょっと笑いそうなんです。 冒険を始めたばかりの、何ヶ月かの間が…本当は一番死に近かったはず。 それなのに、今更になってこんな文章を書いている自分が、なんだかおかしくて。 あれこれ余計なことを考える余裕が出てきたから、死を身近に感じるようになったんでしょうか。 さて、脱線しない内に本題に入りたいと思います。 僕は毎月、冒険で得た収入の一部を家族へ送っていました。 冒険者になる時に予め、送金がストップしたら、僕が死んだと思って欲しいと伝えてあります。 ですから、その点は何も問題ありません。 宿の僕の部屋にある私物は、欲しい人が好きに持っていくなり、処分するなりして下さい。 あまりお金にはならないかもしれませんが、酒場で飲む時の足しにでもどうぞ。 そして僕の事はさっさと忘れて、次の冒険、次の次の冒険の事を考えてくれると幸いです。 死んだ人間のことをいつまでも引きずっていては、幸せが逃げていってしまいます。 これは、僕自身の経験からです。 でも、心の片隅に留めておく程度なら、ありかなとも思います。 とにかく…えーと 気にしすぎはダメです! それと、できればお墓は作らないでくれると…ありがたいです。 僕自身、知り合いのお墓を見ると、その人がもういなくなった事を実感してしまいそうで お墓参りに行くのも嫌なんです。 もしかすると、万が一にも同じ思いをする人が居るかもしれないですし… 空っぽのお墓でも、作るのは一苦労でしょうし…その分の手間が省けたと思ってくれれば。 …なんだか、甘い事ばっかり書いてますね。 色々あって…今ではそれなりの腕になったのに、こういう部分の弱さは結局直せなかったみたいです。 ミヤコさん 何だかんだで、陰ながら気にかけてくれてありがとうございます。 最近は調子がいいようで何よりです。もう大きな怪我をせずに、どうか幸せを掴んで下さい! 本当は、僕もこっそり心配してたんですから。 リーファーさん 最初の出会いはとんでもない形でしたけど、いい飲み友達になってくれて嬉しかったです。 今だから言いますけど…最初の戦いの時は、正直冷や汗ものでした。 あれだけの腕があれば、きっと大丈夫です。でも僕はフロストよりウォーラスの方が好きかな… ジャンナさん もうすっかり、僕では追いつけない高みにいるんですね。 腕が上がるたびに露出度が上がっていく服装に、いつも目のやり場に困ってしまいました。 できれば最強の夫婦を目指してください!一度ぐらいもふりたかったです… ホタル君 あんまりお話することはできませんでしたけど、色々とお世話になりました。 あなたのくれたお酒のおかげで、僕は大事なものを見失わずに済みました。 恋人を大切にしてあげて下さいね。 アイビー君 僕には、あなたの気持ちがよく分かります。 それはきっと、どうしようもない感情で、押さえ込む事さえ困難なのだと思います。 けど、同じ人を好きになった者として…言わせてください。 生きていればきっと、掴める幸せもあるはずです。心を強くもってください。 フェンさん あなたのおかげで、僕はここまで生きてくることができました。 あんな事言っちゃいましたけど、本当は好きで好きでたまらないんです。 だから、いつまでも幸せに生きていってくださいね? あ、コインは借りたままでいいですよね? いつも身につけてるから、なんだか返せそうにない気がしますし… 今までほんとに、ありがとう… 15477    Erik Streich