黄金暦某年、某月 「ダメだ、こいつには歯が立たない!」 「こっちも…だめだった、彼はもう心臓が止まってるよ」 「畜生ッ! 退くぞ!」 「そんな…」 「急げ!俺たちまでああなるぞ…!」 ひどく、運の悪い時があった。 連戦に次ぐ連戦、罠だらけのダンジョン…その奥に待つ強敵。 みんなボロボロになりながらも、何とか依頼をこなそうと必死だった。 でも、どんなに頑張っても…どうにもできない状況っていうのはあるもので。 仲間の一人が死んだのをきっかけに、冒険を断念してパーティーは引き返した。 当然、依頼主はカンカンで、報酬もなし。 基本的に貯金という習慣のない冒険者にとって、これがどれほど厳しい状況か… 同じ冒険者の人なら分かると思う。 生きて帰ったのに、怪我の治療費もなく、結局そのまま死ぬ人もいるとか。 世の中、お金が全てじゃないとはいっても…お金が占める比重は、とても大きい。 おまけに家族には、送金がストップしたら、死んだと思ってなんて言っちゃったものだから…余計に。 「……で、お前さんはどうしても金が要るってわけだ。」 「ん…… はい、治療費と、家族への送金が…必要でして」 「泣かせるねぇ。 俺の方は無事成功なんでな、世の中…持ちつ持たれつだ  ヘマして大損こいたお前さんを、俺が助けてやろうじゃねぇの。」 「ありがとう、ございます… ひゃ…!」 とまぁ、そんなわけで…失敗の埋め合わせは、どこかでしなきゃいけない。 手っ取り早くて、過去の経験を生かせて、怪我をしててもまぁ何とかなる…この副業を選んだわけ。 「おおっと、傷に触れちまったか? 悪い悪い…」 今まさに、僕の上に覆いかぶさっている冒険者が、今夜のお客。 無精髭がちょっとやだ…あと、少し意地悪なとこが。 「勿体無ぇな、せっかくの肌が台無しだぜ…冒険者なんてやめちまえよ? こっちでも充分稼げるだろうに…」 強引に口付けしてから、包帯の巻かれた胸を軽く撫で…彼の手は、僕のズボンの中へ。 「そ、そんな……こっち、本業じゃないんです、よ…」 「…にしちゃぁ、初めてって訳でもねぇだろ。随分失敗してると見えるな、普通男相手じゃ反応しないだろ」 もどかしそうにズボンを下着ごと、するりと脱がし…僕の分身を弄くる。 「んっ…や…… だって…」 否定したくても、ここだけは刺激に正直。すぐに大きくなっていった。 「だって、何? おー…ちっこいけどちゃんと役に立つのか、毛も生えてねぇのに  一体今まで何人と寝てきたんだよ、お前さん」 「…そんなことばっかり、き、聞かないで下さいよ。」 ぷい、と顔を逸らして答えた。他人にそこを弄られるのは、やっぱり恥ずかしい。 自分でもあんまり弄らないから…尚更。 「余計な詮索は野暮か…んじゃ、楽しませてもらうとすっかねぇ」 足を開かされ、ねっとり焦らすように弄られる。 そしてある程度したら、お客の男性自身を受け入れる… 確かに、冒険者を始める前もこういう事…してたけれど。 好きでもない人としても、あんまり気持ちよくない。 だから僕は行為の間じゅう、目の前の相手を、好きな…いや、好きだった人に重ねることで誤魔化してる。 もう想いは届かないって知っているのに、こういう時だけ都合がよすぎるよね。 きっと本人が知ったら軽蔑するだろう。 けど、僕にはそれぐらいしか自分を慰める術がないし、こうしていれば多少嫌でも、我慢できる。 「はぁ、はぁ…… ぅ…んっ」 疲労と脳髄まで痺れるような感覚、僅かばかりに痛む足腰。胸がどきどきする。 「やっぱ慣れてやがる、中々良かったぜ。 ほれ、受け取りな。」 ぼーっとした僕の手に握らされる金貨の袋、お尻に残る異物感、お腹の上に僕が出した飛沫。 打ち寄せた波が引いていくように…少しずつ現実に引き戻されていくのが分かる。 行為が終わった後、そんな自分が嫌になって、いつもうんざりする。 せめて思い出に縋らずに、開き直れたらどんなに楽だろう。 お客は済ませる事を済ませると、さっさと服を着て部屋を出て行ってしまった。 後に残るは、生まれたままの姿の僕。 「…お風呂、入らなきゃ。」 とはいえ、裸で部屋を出る訳にもいかない。 まだ残る快楽の余韻とけだるい疲労感に、目を閉じたまま服をかき集めて着る。 心なしか、服がゆるい気もする。 きっと今の僕の顔を見れば、誰もが疲れてると分かるんだろうな… そんな風に考えながら、部屋を出て、階下のお風呂へと向かおうとした。 僕が部屋をとっている宿のお風呂は、階段を下りて…廊下の突き当たりを右。 ……のはずなんだけど。 「ん……?」 階段を下りたら妙に騒がしい。 「あれ?エリク……」 何かあったのかなと思ったら、ふと誰かに名前を呼ばれた。 偶然同じ宿にでも泊まったのかなと思ったけど、実際はそうじゃなくて。 「はい…?」 知った顔に、なんだか見覚えのある景色はいつもの酒場。 思い出した。今日は酒場の2階の、お客の部屋で寝たんだったよ… 「なにその格好」 「え……?」 言われて改めて自分の服装を見てみると、なにこれ。 サイズの合わない女物の服…一体誰のだかも分からない。 「な、な……わ、見ないで下さーい!!」 慌てて階段を駆け上がって元の部屋に戻る。 その後は自分の服に着替えて、どうやって見つからないように抜け出すかで苦労した。 ついてない日っていうのは、どこまでもついてない。 余談だけれど、間違えて着た女物の服は、その冒険者の人の私物だったんだって。 世界って広いね、ほんとに…うん。 ※本当は知人の誰かに出演してもらう予定だったけど、こんなSSに出すのも申し訳ないので  知ってる誰か、という設定にして一人称視点で書いちゃいました  まぁ見る人もそうそう居ないだろうしいいよね!