武装神姫 MMS AGL:bk.ARNVAL
イモリン・ザイコ(16999) 活動記録
黄金暦86年5月〜90年4月
※斜体になっている文章は、対象者の手で記録が作成された当時、暗号化により閲覧が制限されていた部分である。

黄金暦86年 5月
今日、私は猟師の職を捨て、この町にやってきました。
姉さん……シロッコ・ザイコを破壊したグールとゾンビに、復讐するために。
これより冒険を開始します。

黄金暦86年 9月
巨大女王蟻との戦闘で、同行者のヒョードル・エメリヤーエンコ(18304)死亡。
初めての依頼失敗。

黄金暦86年 11月
ゾンビチーフとの戦闘で、ルーデシア・ルーンバリス(17430)死亡。依頼失敗。
私も機能停止寸前まで追い込まれました。

黄金暦87年 5月
冒険に出て丸1年経過。一人前と呼ばれるようになりました。
と同時に、ごくありふれたクロスボウを入手。
このクロスボウを使って、いつか必ず姉さんの仇のグールどもを倒し
世界が少しでも平和になるようがんばっていきたいです。

黄金暦87年 7月
コボルドキャプテンとの戦闘で、スポポビッチ・オウアーオウアー(19017)死亡。依頼失敗。

黄金暦87年 8月
超巨大ムカデとの戦闘で、コンスタンチン・ウモ(23122)、スゴク・ガチムチ(21732)死亡。依頼失敗。

黄金暦87年 10月
冒険者となってから1年半。
人型の怪物討伐依頼にて、グールリーダーと手練れのゾンビらと遭遇。
頼もしい仲間の助けも借りて、討伐に成功しました。
シロッコ姉さん、仇は取りましたよ。

……ごめんなさい。ちょっとウソをつきました。
実はつい先月も、同じ組み合わせの敵を討伐したんです。
でも、その時はとてもあっけなく終わって、なんだか拍子抜けしてしまったんです。
本当にこれで終わったのかな……? 仇討ちって、こんなものなのかな……って。

でも、今回またグールやゾンビを倒した時、不意にCSCが熱くなったように感じたんです。
なぜかは自分でもよくわかりません。
姉さんを破壊したゾンビが、本当にあそこにいたのかもしれません。
もちろん真実は知る由もありませんが、勝手にそう思ってもいいですよね?

町に帰ってからも、その不思議な感覚の余韻が、まだ残っています。
熱くて、それでいて、何かがぽっかりと空白になってしまったような……。
正直な話、このまま冒険者をやめてしまおうかとも考えました。

でも、私、もう少し続けてみようと思います。
自分の弓で、苦しんでいる人たちを少しでも救えるのなら。
……おおげさですか? 確かに気負いすぎかもしれませんね。
姉さんに「あんたはいつもそうだ」って言われちゃいそう。
でも、私なりに行けるところまで、がんばってみるつもりです。

酒場に集まる人たちも、少し変わってるけど、みんないい人たちばかりですし。
居心地がいいって、こういうことなんでしょうか。

だから姉さん、これからも私を見守っていてください。

黄金暦88年 4月
冒険者となってから2年が経過。今日は主にオークとの戦いでした。
最近は、以前よりも酒場に顔を出すようにしています。
酒場に集まる面々のうち、ある人々は消え、それと入れ替わるように新たな人々が入ってくる中、
私はまだ無事でいます。
正直、自分でも驚いています。
最近は、自分よりも後から冒険者となった方たちと一緒に討伐に出ることが増えました。
私も、故郷を後にした時に比べると、ずいぶん力をつけてきたと思います。
(もっとも、罠を見抜けなかったり宝箱の罠をはずせなかったりということも、よくあるのですが……)
人ならぬこの身ですが、もし願うことがあるとすれば。
自分の、そして仲間たちの手で、ひとりでも多くの人々に安らぎを与えたい。
そう、思います。

黄金暦88年 5月
グールや狼男の討伐でした。
かなり手強い相手でしたが、幸い一人も欠けることなく依頼を果たせました。
でも、出発する前から、私には気がかりなことがありました……。

クロコさんのことです。
先月、酒場の常連だったリード・リードさんが亡くなったことに、
クロコさんはかなりショックを受けたようです。
酒場にはあまり顔を出さない私でも、あの熊さんのことは知っています。
いつも場を盛り上げ、誰からも好かれていたのではないでしょうか。
そんな彼が、もう酒場にいない……。
毎日もたらされる悲報の中でも、私にとっても大きな報らせでした。

その後、クロコさんの様子をうかがってみたのですが、
まだ立ち直れてはいないようでした。それどころか、今まで見たこともないような
険しい表情を浮かべているではありませんか。
正直、クロコさんを怖いと思ったのは初めてです。
でも、このままでは危険だ──私のCSCが、そう警告していました。

自分ではわかりませんが、私も冒険に出た当初は、あんな顔をしていたのでしょうか。
姉さんの仇を討つことだけを考えていた、あの頃は。

そこで、先日のお礼も兼ねて、わざと陽気に話しかけてみたのですが……失敗だったようです。
クロコさんは私に目もくれることなく、そのまま自分の依頼へと旅立っていきました。
私はそれをただ見送ることしかできませんでした。
酒場の皆さんがよく言う「空気が読めない」って、こういうことなんでしょうか。

自分だけでは処理しきれない情報を抱え込んだままでは、
いつかオーバーヒートし、果ては深刻な機能障害を負いかねません。
すぐには無理かもしれませんが、どこかで区切りをつけないといけないのです。
かつての私がそうだったように。
その区切りとは、決して悲しみや憎しみを忘れることではありません。
そうしたかけがえのない情報を胸に、新たに前を向くことではないかと思います。

そんな処理を分かち合ってくれる誰かがそばにいれば、きっと少しは……。
勝手なうぬぼれかもしれません。そんな権利が自分にあるとも思いません。
でも、同じ神姫として……いえ、冒険者仲間として、
クロコさんのために、私にできることがあるなら……。
それが何かは、まだ自分にもわかりません。
でもとりあえず、彼女が帰ってきた時、私がするべきことは決まっています。
「おかえりなさい」
そう言って、出来るだけの笑顔で出迎えることです。
時間はかかるかもしれないけど、少しずつ……。

[追記]
今日もまた、悲しいお別れが数多くありました。
私もいつまでこの記録を書き続けられるか分かりません。
それでも、私たちは進んでいかなくては。
それが、彼らとともに歩んできた証となるのですから。

[追記2]
酒場の再建を手伝っている最中、クロコさんが姿を現してくれました。
飲みすぎでフラフラでしたが、それでも建築の手伝いをする彼女は、
いつもの雰囲気に戻っていたように見えました。
まだ完全にとはいかないでしょうけど、少し安心しました。
後で酔い覚ましの飲み物でも差し入れてあげようと思います。

黄金暦88年 6月
ハナコさんが未帰還となったと聞きました。
あまりにも早すぎるその報らせに、私の情報処理はしばらく停止したままでした。
これで何度目になるのでしょう、こんな経験は。

自分自身の冒険では、組んだ仲間にしばらく犠牲者が出ていなかったこともあり、
この報らせは不意打ちのように衝撃的でした。
せめて、自分の手が届く範囲内では、守りたい。いつでも皆に笑っていてもらいたい。
不遜であることは承知の上ですが、そう考えずにはいられません。

それとも、そう思うこと自体、私の思考回路が我知らずおかしくなっているのでしょうか。
酒場に集まる面々の中にも、情緒不安定になっていると推測される方が
少なからず見受けられます。
冒険者とは、己の命だけでなく、“心”をもすり減らす仕事なのでしょうか。
だとしたら、私は……。

黄金暦88年 8月
怪物討伐の依頼。
何が出てくるかと思いきや、いきなりグールリーダーと遭遇し、
それを退治して終了となってしまいました。
味方に被害が出なかったのは良しとしても、あっけなさすぎます。
人々に害なすものは、一匹でも多く倒しておかなければならないのに。

そういえば、私と同じ頃に冒険者となった方たちの中には、巨大トカゲや
サソリといった、新たに確認された敵と交戦した方も少なくないのに、
私はいまだにそうした依頼を受けられずにいます。
さらに言えば、最近ご一緒する方々は、私よりも後輩であるにもかかわらず
私と大差ない実力を備えています。

これはつまり、私がキャリアのわりに弱いということなのでしょう。
しかし、もっと力をつけるには、強い敵と多く戦わなければいけないのに、
依頼は手応えのないものばかり。ジレンマです。

来月は、久しぶりにパーティのうち半分ほどが、酒場でよく見かける方たちです。
気を取り直して、まずは全員が無事に生還することを最優先にしたいと思います。

黄金暦88年 9月
人型討伐で、初めてコボルドキングと遭遇。
しかし、戦闘はこれを含めて2回のみで、またも肩すかしでした……。
来月もコボルド退治です。

黄金暦88年 10月
コボルドロードとの戦いでした。危なげなく勝てたのはいいのですが、
やはり手応えとしては今ひとつです。
次はゴブリン退治……正直、今さらという感じもしますが、油断大敵です。
敵が強くなってきているという実感はありますし、
気をひきしめてかかりたいと思います。

黄金暦88年 11月
今回はゴブリンキングとの戦いでした。
依頼自体はさして苦もなく終わったものの、途中で見つけた宝箱の
鍵解除に2回とも失敗してしまいました。仲間に対して申し訳ありません。
これも仕事に緊張感を欠いていた報いなのでしょう。
次の依頼は、久しぶりに巨大な怪物討伐です。
もしかしたら、超巨大ト

……私は、何を考えて……。
これではまるで、己が命を賭け金にスリルを求めるギャンブラー。
平和な世の中にしたい? 仲間を守りたい?
なんという偽善。なんという傲慢。
いつから私は……
違う。    違う。         違う。

今度の討伐から帰ったら、狩りに行こう。
そういえば、ここ数ヶ月、森から足が遠のいていた。
獲物を買い取ってくれる市場のおじさんにも顔を合わせていない。
命を奪うことに敬意を払っていた、あの頃の気持ちを思いだそう。
姉さんとふたり、慎ましく暮らしていたあの頃に帰ろう。
うん、きっと行こう。

いつの間にかワインがなくなった。買い足しておくこと。
ようやく眠れそう。

黄金暦88年 12月
ブラックプディング、超巨大ムカデと、2回戦闘をして依頼終了。
 
データの蓄積は微々たるもの。特筆すべきものもないが、強いて言えば
診断プログラムによる評価値において、私の器用度が200をオーバーした。
酒場の誰かが言っていた言葉を借りれば、ようやく一人前、といったところか。
単なる指数のひとつにすぎないが。
結果報告のついでに、酒場でワインひと樽を購入して帰宅。

その後、先月予定していた狩りに出発した。
だが、雪をかき分けながら数日間さまよっても、獲物は一匹もとれなかった。
私がクロスボウを構え、狙いをつけた直後に、獲物が逃げ出してしまう。
ログを何度確認しても、気温や飲酒などの要因による動作への影響は認められなかった。

エールは苦みが強すぎる。もう買わない。
専業の猟師だった頃より、確実に能力は上がっているはずなのに。
理解不能。

手ぶらで町に戻ってくると、ちょうどクリスマスのお祭り騒ぎの最中だった。
酒場はあいかわらずノイズだらけだ。いくつか酒を買って、早々に引き上げる。

なんて空虚なバカ騒ぎ。でもその理由も、わからなくもない。

よく考えたら、酒を買うのに、いちいち酒場に出向く必要はない。
なんと間抜けな。次からは普通に市場で買おう。

姉さんの気持ちが、今なら理解できる。お酒がこんなに美味しいものだとは知らなかった。
昔、酔っぱらうたびに口やかましく言って、ごめんなさい。

クロコさんが姿を消したらしい。
彼女の取った行動を非難できる資格は、私にはない。なんの力もない私には。
ただ、ここではないどこかに逃げ込める彼女が、少しうらやましい。

ブランデーは香りがいいが、ストレートでは飲めたものではない。捨てよう。

ふらついた拍子に、壁に穴を空けてしまった。イライラする。ワインで口直し。

誰かのためにって言うけれど、それって「誰」のこと?

機能低下アラートがうざったい。カット。

強くなりたい。理由は……

カット。

1年以上、パーティから死者は出していない。でも、それが何?

機械仕掛けである私は、忘れることはできない。

カット。カット。

やはりワインが一番いい。
推論………………不能。

いっそ、ただの機械になってしまえば
酒を飲む機かいなんてお笑いぐさだけど

[追記]
一晩寝て、その後もいろいろありました。
飲みすぎで調子は最悪ですが、どこかスッキリした気分です。
強くなることや、その動機なんて、もうどうでもいい。
(もちろん、強くなるに越したことはありませんが)
これからの私の生きる意味は、生きていくこと、それ自体。
あの人と(勝手に)約束しましたから。
それが果たされるまでは、機能停止したりしません。

ああそれから、もうお酒は控えます。

黄金暦89年 2月

クロコさんが、帰ってきてくれた。

黄金暦89年 3月
出てきたのが下っ端狼とゴブリンリーダーって……。
手袋を入手できたのはいいのですが、これほど拍子抜けしたのは初めてです。

落胆して戻ってきた私の耳に、ある報らせが飛び込んできました。
マックスさんホロさんダットンセイジンさん……今までパーティを組んだことのある方々が、
超巨大トカゲとの戦いで、一度に亡くなられました。
そして、これを運命の皮肉と言うのでしょうか。
私の来月の依頼は、初めての巨大トカゲ討伐でした。
強敵を渇望していた時期もありましたが、いざそれに直面すると、怖ろしくてたまりません。
自律機能が変調をきたしたのか、勝手に手が震えます。

でも、そんな時、私の聴覚に、マックスさんとホロさんの声が聞こえました。
死者の声が聞こえるなんて機能、私にはないはず。でも、確かに聞こえたのです。
……そうでした。ここは何が起こってもおかしくない酒場。

今はもういない彼らに向かって返答し、お墓参りを終えたころ、
私の震えは止まっていました。

思えば、来月は冒険者となってちょうど36ヶ月目。節目としては、ちょうどいい依頼ではありませんか。
どんな敵であろうと、私は負けません。

黄金暦89年 4月
南東に少し行ったところの洞窟へ、巨大トカゲ討伐に出発。
狼男と2度戦った後、予想通り、超巨大トカゲと遭遇。
メンバーが一撃で重傷を負うほどの攻撃力でしたが、なんとか倒すことができました。
罠などがなかったのも幸いしました。
生息地やモンスターの構成などから見ても、マックスさんやホロさんらを葬ったトカゲとは
別の可能性が高いですが、誰も欠けることなく退治でき、まずは重畳と言えるでしょう。

私は冒険者として4年目を迎えます。
姉さんの歳を追い越してしまうなんて、考えたこともありませんでした。
この3年間は、それまでの17年の稼働時間をさらに数倍した長さに思えます。
それほど毎日が濃密でした。
姉さんの訃報を聞き、矢も楯もたまらずこの町にやって来た時のことが、もう遠い昔のことのようです。
山にいたころ、私は他人とのつきあいを、どちらかといえば避けていましたから、
初めて見た酒場の喧噪は、まるで異世界。本当にこの先やっていけるのかと、不安でした。
(今でも、つきあいが上手い方とは思いませんが)
それから様々な人との出会いと別れを経て、友と呼べる方もできました。

この最悪にして心地よき場所。ここにいつまでいられるかは分かりません。
私にできることは、なるべく長くそれが続くよう、祈るのみです。

いつか私も、戦いの中に斃れることでしょう。
来月も、また神姫関係者に巨大怪物系の依頼が多く、それも心配のひとつです。
自分と姉さんのことだけ気にしていればよかった、それ以外に関心のなかったあの頃。
それに比べて、今は安否を気にする対象が、なんと増えたことでしょう。
毎月繰り返される高揚と落胆。
身体機能の上では、昔より確実に強くなっているのに、精神的にはどうなのでしょう?
自分では、解析不能です。

クロコさんのところへは、毎日のように足を運んでいます。
あの人のもとには、客足が絶えることがありません。
それだけ気にかけている人が多いということ。
少し寂しい気もしますが、私までちょっかいを出して、余計な負担を与えるよりはと思い、
最近は声もかけずに、外から様子を眺めるだけで、そのまま帰るようにしています。
クロコさんの情緒パターンは、復帰直後よりも豊かに……私のメモリーにある彼女に
戻りつつあるように見受けられます。

私がかつて、勝手に結んだ約束。ですが、クロコさんが帰ってきたことで、
その約束はもう半分以上果たされているのです。
あとは、あの悪戯っぽい笑みと、笑い声が戻れば。
クロコさんのまわりに集まる人々がいれば、その日は遠からず訪れると信じます。
私も、そのためにできる限りのことをしたい。
たとえその時に、私がいなくても。

黄金暦89年 5月
人型の討伐依頼にて、初めてリザードマンと遭遇。
先月といい、トカゲ型強化月間なのでしょうか。
それはともあれ、2回の戦闘で簡単に終了。
はっきり言って、今回のメンバーでは余裕でした。
ほかの神姫関係者も無事で、まずはひと安心です。

次はまた人型の討伐。恐らく、たいした敵は出てこないでしょう。

他の方が巨大な怪物などによって次々と野垂れ死んでいく中、
私はぬけぬけと、たやすい依頼を取る。
それについての、良心の呵責は、もうありません。
あの人のために、一日も長く生き延びること。それが、今の私の存在意義なのですから。

[追記]
朝になって記録を見返したら、愕然としました。こんなことを書いていたなんて。
昨夜は少し飲みすぎたようです。そのせいでAIにエラーが起きたのです。
そうに決まっています。
でも……私の中に、そんな浅ましい考えが潜んでいるの……?

黄金暦89年 6月
精鋭のオーク、オークロードと計3回戦闘。
冒険開始から獲得した報酬の合計が、金貨10万枚を越えたぐらいで、特に事もなし。
エウエウさんが、超巨大ムカデとの戦闘で大破したそうです。
彼女が探していたという相手が誰であったのか、それは永遠にわからなくなりました。
でも、私のよく知っていた人に似ている気がします。
機械人形である神姫が、もし天国というものに行けるとしたら、
彼女はそこで探し人に出会えるのかもしれません。

私はきっと、そことは違うところへ行くのでしょうけど……。

黄金暦89年 7月
コボルドキングと交戦。途中、罠にひっかかって敵が出現したおかげか、
能力評価において、珍しく合計10ポイント以上の伸びが見られました。

先月に続き、今月はメルポンさんが大破。
しかも、また超巨大ムカデに倒されたそうです。
あの絵が描かれたのは、ほんの1年ちょっと前のことなのに、
その中の3人が、もういません。

しかし、別れがあれば新しい出会いもあります。
エウエウさんが新たなボディを得て復活し、メルポンさんのお姉さんがこの酒場にいらっしゃいました。
引退したオリオナエさんも、ホウコさん、8号さんとともに暮らすそうです。
まだホウコさんの状態は安定していないようですが、将来の展望を語るオリオナエさんの顔は、幸せそうに見えました。

ですが、安心してもいられません。
来月はまたしても、神姫関係者に巨大系討伐の依頼が多く、
またヒコニャンさんまで討伐に向かうそうです。
皆が無事に戻ってきてくれることを祈るのみです。
かくいう私も、次はうさんくさい情報の怪物討伐。
いっそ、超巨大ムカデでも出てこないものでしょうか。

黄金暦89年 8月
がっかりです。今さら大蛇や下っ端グールなんて……。
まぁ、理性なきアンデッドは有害なだけですので、倒すのに躊躇はしませんが。
来月もほとんど同じ内容の依頼(うさんくさい怪物討伐)。
しかも悪いことに、先月よりさらに町に近い場所です……。
それより、今月は神姫関係者に犠牲が出なかったことを喜ぶべきでしょうね。

ひさしぶりにクロコさんのところへ行った。
勇気を出して、聞いてよかった。
私のおせっかいな考えは打ち砕かれたけど、彼女の意志を知ることができたから。
彼女は本当に強い人だ。私が何かする必要もないくらい、とっても。
これでもう安心。
いつか私も、彼女の思い出の欠片になれるのだろうか。
だとしたら、私はそれだけで十分。

ああ、今夜は星がとてもきれい。






[追記]
……いいえ、やっぱり違う。
約束はもう関係ないけど、根本的な問題が残っている。
私にできることは、まだあるはず。
でも、万が一うまくいったとしても、それは最悪の結末なのかもしれない……。

黄金暦89年 9月
予感的中です。今回は先月よりもグレードが落ちて、ゾンビ相手でした。
2ヶ月連続で大いに失望させられました。
来月は確定で巨大ムカデ。また町のすぐ近くなのが懸念材料ですが、
メルポンさんやエウエウさんのリベンジと思えば、まだやる気がわいてきます。

油断はしないつもりですが、しかしながら、この調子で簡単な依頼が続くようなら、
魔物討伐を続ける意義も薄れざるをえません。
引退……自分には無縁だと思っていたそんな言葉が、
今日から演算要素に加わりました。

酒場で聞いたのですが、先日の深夜、クロコさんやアーンヴァルさんらが
酔った勢いで……その……過激なことをしていたとか。
クロコさんも、もうすっかり元気いっぱいで、よろしいんじゃないでしょうか。
でも、やはりお酒は怖いですね。

そのうわさを聞いた瞬間、私の論理処理は著しく乱れた。
膨大なデータが一度に湧き上がり、AIがしばし制御不能に陥ったのだ。
オーバーヒート寸前でどうにか収まったが、その時の分析はいまだにできていない。
……クロコさんはたくさんの人から好ましく思われている。
そんな知り合いの幾人かと飲酒し、悪ふざけをした。事実を整理すれば、それだけのこと。
今まで何度となくあったことの一端にすぎない。すぎないはず……なのに、
なぜ私の思考はここまで乱れるのだろう。
行為が性的な内容だったから? アーンヴァルさんがその場にいたから?
なぜ私は、実の姉でもないアーンヴァルさんに、そんなにこだわる?
クロコさんが楽しんでいたのなら、それでいいのではないか……?
強い支持を発する要因はいくつか確認できるが、それらを結びつける原因が
突き止められない。理解不能。
確かに私の中で、クロコさんに関する処理優先度が高くなっているのは事実だ。
だが、だからといってこれは……。

……ダメだ。こうして記録しているだけで、また負荷が高まってきた。
いったん凍結。後日要検討とす。
今日はたまたま、傍目には少しの間ぼうっとしていただけのように見えたらしいが、
次もそうなるという保証はない。特に、あのふたりと顔を合わせたら。
しばらく、酒場に行くのは控えよう。

でも、ひとこと言わずにはいられなかった。ああ、私はなんてことを……。

黄金暦89年 10月
ムカデ討伐は、巨大と超巨大それぞれ1匹ずつ倒して終了。
あっけないものでしたが、上質なクロスボウを入手できたので、
成果としては満足いくものでした。
約2年半にわたって使ってきたクロスボウとは比較にならない性能です。
次の怪物討伐依頼で、さっそく試し撃ちといきましょう。

神姫センターに新たな登録者を確認。アーミリア・ハルム……この人は確か、
先日クロコさんと一緒だったという……。
でも、おかしい。私の聞き及ぶ限りでは、アーミリアさんはただの人間で、
神姫マスターでさえなかったはず。
端末から問い合わせてみましたが、事実関係の確認はできませんでした。
センターのバグ? それも可能性は低い。
放置しておくことは危険と、私の中で警告が発せられています。
ここはひとつ、本人に聞いてみましょう……。

黄金暦89年 11月
超巨大ムカデを倒して帰還。

今日の出来事を、どこから語ったらよいものでしょう。
帰ってすぐ、アーミリアさんの訪問を受け、途中でオリオナエさんが加わり……
とにかく、濃密な一日だったことは間違いありません。

私がひとりで背負おうとしていた罪。それを、おふたりは分かち合ってくださった。
自分の偽善に苦しんだ日々。それがもうすぐ、ひとつの結末を迎えようとしている。

あとは……あの人次第。

黄金暦89年 12月
巨大な怪物の正体は、超巨大ムカデでした。これで3ヶ月連続になりますね。
次の新年早々も巨大な怪物です。町から5日ほどの距離なので、少し警戒しておきましょう。
ちなみに、同行者にブレイクダンスが得意そうなセミ宇宙人さんと巨大アリさんがいるんですが……。
これで敵もムカデだったら、ムシムシ大決戦ですね。

冗談はさておき、今日は先月のあの時よりも、さらに長い日になりそうです。
……少し結論を急ぎすぎたかもしれません。あの人が戸惑うのも無理はないのに。
実行にせよ中止にせよ、あの人次第だとわかっていたはずなのに。
でも折を見て、もう一度行ってみなくては。

黄金歴90年 1〜3月
忙しさにかまけて、記録をつけることを怠っていました。
とはいえ、冒険の方では、特に大きな出来事もなく。
超巨大ムカデや超巨大トカゲを倒しては、すぐに町へとって返すのくり返しでした。
いつの間にか「練達」と呼ばれるようになっていたのですが、あまり実感がわきませんね。

黄金歴90?年 ?月 ?日

あの日の約束は、果たされました。

お帰りなさい、クロコさん。

ここに至るまでの経緯は、あまりに長く複雑で、私の散文作成能力では少々荷が重いです。
だけど、私にとっては大事な出来事。折を見て、記録の整理をしなければ。
とりあえず、その後のクロコさんは元気です。元気すぎるくらい、かな?
いくつかを得て、いくつかを失った。
クロコさんにとって、どちらがより重いものだったのか、私には知る由もありません。
でも、失ったものは、いつか新しい何かが埋めてくれると思います。
具体的に言えば……アミィさんが。

アミィさんと知り合ってからの短い期間に、私は多くのことを彼女から教わりました。
たとえば、私が抱えていた、未定義の感情の正体……「愛情」と「嫉妬」。
いざ定義がなされると、実に簡単な言葉ですね。
アミィさんと、クロコさん。ふたりの行く末に幸多からんことを。
そして私も、彼女たちの友として、できるだけ長くそれを見守っていければと願います。

……ただ、やはり少し悔しかったんです。
だから、ちょっとクロコさんを驚かせてきました(すぐに仕返しされちゃいましたけど)。
まったく、私にしてはずいぶん大胆なことをしたものです。
今こうして記憶を検索するだけでも、自律系の制御が乱れて、顔面部の温度が急上昇します。
でも、何もしないことで後悔はしたくなかったから。自分の中で、区切りをつけたかったから。
これで……もう終わり。

今日は久しぶりに、お酒を解禁しました。
いつものワインなのに、今までで一番おいしくて、
……ちょっとだけ、苦く感じられました。

黄金暦90年 4月
起動から21年が経過。一度トカゲを挟んだ以外は、6ヶ月連続でムカデ討伐です。
今回は、姉さんと同型の神姫と一緒になりました。
しかし超巨大ムカデと戦っただけでしたので、冒険中はろくに話もせずじまい……
かといって、何を話せばよいかも分かりませんでした。
向こうは私のことなど、どうとも思っていないはず。自意識過剰だと分かってはいるのですが。
冒険者になって丸4年を迎える依頼でしたが、去年のトカゲといい、
節目と呼ばれる時期には、何かしら科学では測定不能な偶然が起きるものなのでしょうか。

少し前から考えていたことですが、町の中に引っ越しをしようと思います。
人間は住環境を変えることで、気分の一新をはかる場合があるそうですが、
今の私も、そうしたい「気分」なのです。
こんな遠くまで足を運んでいただくかたにも申し訳ないですし、
私自身も、昔より不便と感じることの方が多くなったという理由もあります。
去年までの貯金はすべてエクセルさんに譲ったので、無一文に近いですが、
今年に入ってからの報酬だけでも、手ごろな住宅くらい見つけられるでしょう。

来月は巨大な怪物討伐。またムカデなような気もしますが、
同行者が私を含めて4人だけなので、少し緊張を覚えます。
無事に戻ってきたら、物件を探しに行くとしましょう。
新しい場所で、これからどうするかを、ゆっくり考えたいです。

86年5月〜90年4月の総合データ
冒険回数:48回
獲得した財貨:147364G
獲得アイテム:ごくありふれたクロスボウ/上質なクロスボウ/ありふれた手袋
獲得した称号:山岳の/駆け出しの/半人前の/弓術入門者/弓術初級者/一人前の
       /弓術中級者/弓術上級者/熟練の/懐が暖かい/練達の (獲得順)

戦闘データ
戦闘回数:138回(1依頼平均:2.875回)
とどめを刺した敵の合計:91体
ゴブリン系12 コボルド系18 オーク系6 リザードマン系4
下っ端ゴブリン1 コボルド5 オーク1 手練れのリザードマン3
ゴブリンの衛兵1 下っ端コボルド3 手練れのオーク3 リザードマンキャプテン1
熟練のゴブリン9 手練れのコボルド3 オークの精鋭1
ゴブリンキング1 コボルドの衛兵1 オークロード1
熟練のコボルド3
コボルドの精鋭2
コボルドキング1
アンデッド系17 狼・虎系17 不定形系5 ムカデ系1
ゾンビ3 4 ブラックプディング4 超巨大ムカデ1
下っ端ゾンビ1 下っ端狼2 オーカーゼリー1
手練れのゾンビ2 手練れの狼2
グール4 狼男5
下っ端グール6 熟練の狼男4
グールリーダー1
その他
大蝙蝠2
大鼠2
大蛇1
下っ端インプ1
巨大蟻5