ああ、今度ばかりは死ぬかな……。 腹に大きな穴が開いた時よりも、全身が砕けるような痛みで苦しんだ時よりもこれは決定的だ。 だって、はは……左胸、なにもないよ? これは死ぬなぁ、これは、どうしようもない。 けど、まだだ。 僕以外の人間で、生き残ってる子が一人いる。 彼女は、生き残らせなければならない。 僕は死ぬから、彼女は生きなければならない。 だってさ、そうじゃないと……なんか、悲しいじゃないか。 生き残れるのなら、生き残ってもらわなきゃ嫌だ。 動くはずがないと思ってた体に力が宿る。 これなら、立ち上がる事は、できるかもしれない。 よろめきながらも僕は立ち上がり、生き残った彼女に逃げるよう伝える。しかし、錯乱にも似た状態に陥ってる彼女にはその言葉は聞こえなくて、目の前のワイバーンに斬りかかる。 辛うじて一太刀浴びせるけど、それは怒りを買っただけだった。 ワイバーンは彼女へとゆっくり進んでいく。 それを目の当たりにして腰を抜かした様にその場にへたり込む彼女に、僕は再び逃げるよう促す。 生き残るよう、出せる限りの声で叫んだ。 ようやくその場から離れていく彼女。 それを追う様に進むワイバーンの前に、僕は立ち塞がる。 いや、立ち塞がるという程格好のいいものではなく、既に剣として機能しない剣を持ち、数分も持たずに死んでしまいそうな僕。 壁にもなりやしない。けれど、ワイバーンは動かず、そしてゆっくりと僕に近づく。 その近づく振動で僕は体を支えることもできなくなりその場に倒れこむ。 ああ、本当にもう死んでしまう。どうしようもないんだ。 ごめんね、アコレット。僕はこんな所で君と別れてしまう。 もう少しだけ、成長していく君を見てたかったけど、無理なのか。 嫌だなぁ。死にたく、ないなぁ。 ふと、目の前が暗くなり、それは僕を押しつぶそうとする何か。 命ごと押し潰そうとする何か。 くそぅ、ちくしょう、死ぬの……こ そして、彼の思考ごと怪物は彼の体を踏み潰した。