突発ゆかいSSその2 〜『冒険中の光景ってだいたいこんな感じだよね? うん、間違いない』の巻〜 「こ…この程度で休息が必要になるとは…まったく、ディエス様に、は、困ったもの…で御座いますね…」 「明らかにお前が限界じゃねーか」 全身各部のメカメカしいパーツがロボであることを強く主張しているロボ娘、エプシロン・デルタは冷たく固い床に横たわり、息も絶え絶えな様子でありながら尚、ディエスに対し強気な台詞を吐いていた。 こんな状況でなければ、言われた吸血鬼も失笑していたことだろう。 とはいえ、そのディエスにしたところで余裕はない。 吸血鬼の最大の弱点である陽光を克服したデイライトウォーカー…と言えば聞こえはいいが、それって単にヴァンパイアの血が薄くて弱いってことじゃね?みたいな疑問を持たれても仕方のないへなちょこっぷりである。 もっとも、傷は再生できても疲労は回復できないのだから当然かもしれないが。 かつてない高額の報酬が示されたうさんくさい依頼。これまで経験したことのない広さの洞窟に、全員が疲れ果てていた。 「まぁったく、な、情けないわね。この、ぽんこつときたら!」 いらいらと罵る淫魔、イルゼも語調の強さとは裏腹にぐったりと、その辺に転がっていた岩にもたれかかっている。 つい先刻、罠で重症を負ったわりには元気と言えなくもないが、顔色の悪さは隠せない。 「ほんとに、この、役立たずがっ」 げしっげしっ。 「あっあっ、なにを御無体な」 ごろんごろん。 丸太のように転がってイルゼの蹴りから逃げるエプシロン。みんな、丸太は持ったか? おう! 「なにやってんだかなー…」 やれやれ、と首を振るディエス。ち、と舌打ちするイルゼ。 一人元気な野生児チャナは、いままさに一枚しか身に着けていない服、というか布を脱ごうとしていた。 「ナンか暑くネ?」 「ならなぜ脱ぐ」 すかさず突っ込むディエス。 「ゴ休憩して行かナイのカ?」 「ああ、休憩ってそういう… 隠語じゃねえよ馬鹿!」 再び突っ込むディエス。 いやぁ、ツッコミ役がいると便利だわー。マジ助かる。 そんな作者の感想はわりとどうでもいいです。 「……」 そうした騒ぎをよそに、目を閉じて一人黙然と座する紅衣の男の姿があった。 十字架を負いし咎人、背徳の召喚師ソエル。 「はん、いいわねーシリアスキャラは。イメージぶち壊すわけにもいかないってんでソレっぽく描写されちゃってさー。こっちはすっかりイロモノ芸人扱いだってのに」 刺々しいイルゼの言葉にも反論することなく、黙って聞き流す。 『いやいや、セリフのひとつもない俺より扱い上じゃないの。これで出番終わりかよ』 そんなことを考えているわけではない。ない、と思う。タブンネ。 「ところで私気が付いたので御座いますけれど」 ごろんごろん、と転がりながらエプシロンが口を開いた。気の抜けた声で応えるディエス。 「んー、なんだー?」 「…床が、傾いて御座います」 「床が…? !! ちょっと待ちなさい、それってつまり」 「おそらくは、で御座いますが」 「……」 す、と。音も立てず、影の如き男が立ち上がった。 自然に出来た洞窟であれば、内部で上下することなど珍しくもない。 だが、経験上確かなことがある。その洞窟のボス格の魔物は、深奥…もっとも地下深い場所にいるものなのだ。 道が下っているのであれば、その先は。 「おほっ☆」 無邪気な笑顔とは裏腹に、野生児は油断なく弓に矢をつがえた。 だんっ! 「なんだよ、そういうことかよ」 不敵に笑う吸血鬼は、そろそろ使い慣れてきた魔導器…指輪を嵌めた拳を音高く打ち合わせて。 「ところでひとつ御願いさせていただきましてもよろしゅう御座いますか?」 「おう、いいぜ?」 「起き上がるのが面倒ですので手助けしていただきたく…ああっ、何故蹴られるので御座いますか!?」 ロボ娘はいまだに転がっていた。 「はん… 終わりが見えてきたのなら遠慮はいらないわよねえ…!」 炎の色が洞窟を照らす。紅い髪が、ドレスが舞った。 もはや淫魔に先ほどまでの疲れた様子などカケラも見られない。 休息の時間は終わったのだ。 「さあ、あんたたち! さっさと片付けてしまうわよ!」 そして冒険は再開される。 「あの、私もいたんですけど…」 今回唯一名簿登録キャラではなかったため外見・性格一切不明の雷魔術上級者、サクヤ・コノハナさん18歳元占い師(http://gold.ash.jp/main/?chrid=426793)の言葉は、誰の耳にも届かなかったという…