夜中、ドアが唐突で乱暴なノックで大きく揺れる。 「出て来い邪教の者め! 我ら聖騎士が神の盟約の元葬ってくれる!」 気がつけばいつの間にか松明を持った人間が8人程、家を囲っている。どれも10代前半から20代前半と若そうだ。 私のどこが邪教徒なのかは分からないが、とりあえず弁解の余地はなさげだ。 「開けないつもりか! ならばこの穢れた不浄の土地に立つおぞましい建物ごと焼き払ってくれる」 流石にそれはまずい、とりあえず素直にドアを開け話しだけでも聞いてみよう。何かの間違いかも知れないし。 「すいませんどなたとお間違いじゃありませんか、別に私はそんなことした覚えが…」 「ひぃぃっ! なんというおぞましいオーラ! これは魂まで悪魔に、いやそこらのしょうもない化け物に売り渡したような哀れな貧困民そのものではないか!」 なにを言っているんだこいつらは、よくみれば若者達はずいぶんと贅沢な格好をしている。 銀で出来た胸当てに、あれはシルクだろうか。それを見ればどこと無く若者達の顔もボンボンのように思えてくる。 「これはもう……処刑しかないな」 「あぁ処刑だ」 「処刑処刑」 ずいぶんと軽く人の生死を決めてくれるものだ……そう考えていると、ふと背後から熱気を感じる。 「見たか邪教徒め! 不浄の城は今落ちた!」 どうやら先ほどまで私が居た狭くとも幸せな家庭は一瞬にして火達磨と化してしまったようだ。もはや訳が分からない。 「いい加減にしてください、いきなり大勢で来て。こっちだって無抵抗じゃないんですよ」 もはやこれしかあるまいと、護身用のダートを取り出す。 それを見た若者達は自慢げに装飾が施された剣を引き抜き、構える。正直金で出来た剣はちょっと好みだった。 燃え続ける我が家、不気味に照らされた若者達の顔に囲まれ、ボンボン共と私の長い夜は幕を開ける。 「というのが起こったらどうしよう……」 既に調理され湯気をたて、皿に乗せられたコボルドの肉を前に少し考え込む。 しかしこれは人型の肉であって人の肉ではないのだ、なら共食いに入りはしない……と思いたい。 そう考えていると調理された肉の臭いが家の中に充満していく、多少独特な臭いだが嫌悪するほどではない。 「……見つかりませんように」 今は襲撃に怯えるより腹の虫のご機嫌を取ろう、そう頭で考え、肉を食べ始めた。