[[HNH/0021]]

-''第二話　そして星は回り出す'' --  &new{2019-02-18 (月) 20:34:10};
--「これで、おっわりぃっ！！」&br; 呼び出された巨大な拳が蠍の形をしたぬいぐるみを打ち払う。&br; 内側から発光するように消滅したそれは&br; 「よっと、また『星のイシ』だ！」&br; 光の粒子が四散する中、ひときわ輝くそれを空中でスピカがキャッチする。&br; 「でも、最初の奴より小さいね」&br; 「ウェズン。ドゥーベと比べたら小さいが、しかし前の奴よりは大きい」&br; 変身を解き、ポケットに星のイシを放り込むと街への道行きを歩き出す。&br; これまでに５体。スピカはガイスターを退けていた。&br; 季節は廻り、６月。ガイスターとの戦いは、まだ誰にもバレずに行えていて、変身自体もバレずにここまで来た。&br; 「でもね、流石にこないだ出た課題の討伐リストは……変身しないと難しいと思うんだよ〜…ね？」&br; 機嫌を伺うように、許しを請う様に、そんな声を上げるスピカ。誰に、とは言うまでもなく&br; 「駄目だ。人前で変身をしないのは、私との約束の筈だ」&br; 一刀両断。歯牙にもかけず、カペラはスピカの言葉を拒否する。&br; 「だよねぇ……わかっていたんですよ？　わかっていたんですけども〜」&br; ぶちぶちと言葉を紡ぐスピカだったが、カペラはそれどころではなかった。&br; 現在、５体ものガイスターを倒している。&br; そもそもガイスターとは自然発生するような類のものではない。&br; 『誰か』が力を注ぎ、故意に発生させられているものだ。&br; つまり明確な目的があって繰り出されている、いわば刺客。&br; 今回も街の外での戦闘だった。最初と同じ場所ではない。一見散らばるように敵がやって来ている。&br; だが実際は、街を囲むように。力を持つ者の所在を明らかにする様に現れている。&br; 威力偵察。そうだろう、ここに『星』の力を持つ者が現れたのはイレギュラーだ。&br; ゆえにどのような者が現れたか試されているのだ。それは、最初よりも明らかに弱いガイスターを送られている事からも明らかだった。&br; 「カペラ……カペラ、ねぇカペラってば！！」&br; 思考の海に落ちていたカペラをスピカの声が無理やり引き戻す。　&br; 「あれって、もしかして……！」&br; 途端、先程まで歩いていたスピカが駆けだした。&br; 「っ……！　急ごう、スピカ」&br; 夕闇が下り始めた空。星々が瞬きだす紫の世界。&br; 「遂に……始まった」&br; 夕闇を引き裂くように三筋の星が街へと降り注ぐ。&br; &br; 街についた頃には、大きな騒動が起きていた。&br; 子供、大人、人間、獣人、多様な種族と多様な人がひしめく街だ。&br; そこが今、襲撃されていた。何故襲撃されるのか。多くの冒険者が排出されている街だ。&br; 理由は単純だった。&br; 『星』の力に対抗するのは同じ力。『星』の力が必要だ。&br; 獅子、蠍、牡牛、それぞれの姿をもった巨大なヌイグルミが、街で暴れるその姿は喜劇的でもあるが&br; その被害は、悲劇と言うほかない。&br; 建物が焼け、怪我をし悲鳴を上げる人々。その光景は、この光景は&br; 「スピカ、落ち着いて聞くんだ……今すぐ、ここを」&br; 「逃げるって、言うの？」&br; 「スピカ」&br; 「こんな、こんなのを見て、逃げられるわけないよ！！」&br; 「スピカ、聞いてくれ」&br; 「ヒーローになるって決めたんだ。カペラ、僕は約束したよ」&br; 「スピカ！！」&br; 「必ず全てを救ってみせるって、ここだっておんなじだ！！」&br; 「逃げなければいずれ捕まると言っているんだ！！　君は！！　君だけは捕まってはいけないんだ！！」&br; 「僕は……それでも……！！」&br; &br; 「何をしているんだ君！！　早く逃げろ！！」&br; &br; 会話を遮る様に声が響く。武装をしており、兵士というわけでもなくどうやら冒険者の類だろう。&br; 「ここは危ない！！　避難しろ！！　今なら間に合う、早く！！」&br; 「で、でも……！」&br; 「あれがここに来ないうちに逃げるんだ！　俺達が押さえておく、いけ！！」&br; そう言ってガイスターが暴れている方向へと走っていく。&br; 「スピカ、彼の言う通りだ。この騒動の内に別の国に行く。今ならまだ…」&br; 「……カペラ、逃げて逃げて、どうするの？」&br; 　逃げた先が壊されて、壊されて壊されて、そんなのヒーローの」&br; 「スピカ、君はヒーローではない」&br; 「……っ！！」&br; 「君はあくまでも私に巻き込まれただけの人間だ。力を譲渡したのだって不本意なものだった&br; 　だから、私の言う事を聞いてる内であればその力を使っていいと言っていた&br; 　だが、君はその力を私に逆らって使おうと言う。わかるね、その力は大事なものなんだ……&br; 　スピカ……行くならその力を置いていってくれ。それならば、先に行く事を許そう」&br; それは、もはや引き止める気すらない言葉。『星』の力なしではどうにもならない。&br; だが、それがどうだというのだ。&br; 「うん、わかった。この力…『還す』よ」&br; 左手の紋章。スピカに刻まれた星の紋章が消える。&br; 「スピカ！！」&br; 「僕は、もう逃げない……これって僕の所為なんでしょ？　なら、尚更逃げれないよ！！&br; 　戦わないでする後悔なんて、もうしたくないんだ！！」&br; カペラの入った鞄をおろし、スピカはこの騒動の大元へと走り出す。&br; 『星』の力なしでは勝てない。わかっている事だ。それでも、一度した後悔を二度もする気はなかった。&br; この二か月で、色んな人に出会った。その人達に向ける顔さえ持てなくなってしまう。&br; ヒーローになると言った自分を、肯定してくれた人たちに顔向けできなくなってしまう。&br; 何より、救いを求める人がいる場にいるのに……背を向けることなどできるわけがない。&br; １人でも救う。この手が動く限り、この足が動く限り。&br; &br; Apart終了 --  &new{2019-02-18 (月) 20:35:05};
-''第一話　これは私の物語'' --  &new{2019-02-13 (水) 18:51:14};
--入学式からの帰り道。期待を大きく胸に抱いて寮へ向かう足取りはいつもより軽やかだ。&br; 「これからどんなことが起こるのかな、楽しみだなぁ！」&br; 鼻歌交じりでそう呟く。不安がなかったわけではない。&br; だがそれを上回る期待があった。希望があった。&br; それはきっと、スピカの表情を見れば誰しもがそう思うだろう。&br; 「だが、これからなにがあるかわからない」&br; 鞄の中から声が聞こえる。スピカは辺りを見回して誰もいない事を確認してから鞄を開く。&br; 「心配性だなぁカペラは。なにかあっても、僕は大丈夫。へっちゃら！」&br; 「根拠のない言葉をありがとうスピカ」&br; やや棘のある言葉を返すのは、鞄の中にあった星のぬいぐるみ。&br; 星に目をつけただけのものだが、表情豊かに、いやある意味では一つの感情だけを発露していた。&br; 「一度変身した以上、これからあなたには多くの災いが降りかかる&br; 　その困難をまるでわかってない」&br; 「そうかもだけど、僕はヒーローになるんだ！&br; 　その程度ではへこたれないので！」&br; カペラの言葉にも、スピカは動じずにそう答える。出会った時と同じ。&br; 「無垢だというのも考え物だ」&br; 「考えすぎたって前に進めないからね」&br; どう言われようとスピカが折れる事はない。&br; 「ようやく一歩進んだんだから！」&br; 「………」&br; 希望に満ち満ちたその声に、しかしカペラはなにも答えず。&br; 正反対の二人の道行。苦難を語ろうと、折れないと答えるそれはもはや会話にもならず。&br; そして二人の頭上、夕焼けが紫に変わりつつある空に一筋の星が流れる&br; 「あ、カペラ見てみて流れぼ……しって事は！」&br; 「スピカ、街の外に出よう」&br; 直後、スピカが駆け出す。&br; &br; 「敵が来た」&br; &br; Apart　終了&br; --  &new{2019-02-13 (水) 18:52:44};
---「ここまで来ればいいかな……？」&br; 「多分、大丈夫だろう。だが気は抜けない……スピカ、来るぞ」&br; 駆けて駆けて街の外。街道からも外れた荒野。&br; 場所としては申し分ない、とカペラは言うがスピカは少しだけ不満そうで&br; 「ヒーローなのに、隠れて戦うのってちょっと違う気がする…」&br; 「街での戦闘は極力避ける。２人で話し、了解した事だ」&br; 「そうだけど…」&br; 「承認欲求でヒーローにはなれない」&br; 「わかってるよ！　被害も出せれないのもわかってる！！」&br; 戦闘する事で起こるであろう二次被害。それを避けたいのはスピカとて同じだ。&br; 「ヒーローは、ままならな」&br; 「スピカ、来るぞ」&br; 「まだ台詞の途中なのに！！」&br; 巨大な音と振動を伴って光の塊が目の前に降ってくる。&br; 「ＧＡＡＡＡＡＡＡ！！」&br; それは、５ｍはゆうに超える巨大な熊のヌイグルミ。しかし、一見してもそれをヌイグルミと認識はできないだろう。&br; 何故ならそれは自分で動き、吠えている。そもそもが既存のヌイグルミのような可愛い外観をしていない。&br; それは怪物。モンスターとも呼ばれているそれに似ていた。大きく違うのは、その胴体に刻まれた星のマーク。&br; �遒だ韻離沺璽�が刻印されたその姿こそが「ガイスター」と呼ばれるヌイグルミの特徴だった。&br; 「カペラ！　なんか前よりおっきいのが来たよ！！」&br; 「ドゥーベ……どうやら、補足されてしまったようだ」&br; 「カペラ！！」&br; 「前と同じだスピカ。大きくとも小さくとも、あれらは変身した君にしか倒せない」&br; 「君だけしか頼れない。だから、願ってほしい。スピカ、君の希望を願ってほしい」&br; 「……うん！！　僕の、願いは！！」&br; とびっきりのヒーローに、誰かを守れる人になりたい。&br; &br; 「星に、願いを！！」&br; &br; 周囲を先程よりも強い光で溢れる。それはスピカを中心として溢れ、収束していく。&br; スピカの身体に温かなものが流れていく。やがて内から外へ。身体が光と共に変質する。&br; &br; [[僕が、「私」になる。>http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp034312.jpg]]&br; &br; 「さぁ、輝くよ！！　私！！」&br; 光の粒子を纏いながら、成長したスピカが姿を現す。&br; 「星の力」を使う事でおよそ２０歳前後まで強制的に年齢を引き上げる。&br; それは、現在のスピカでは「星の力」充分に使う事が出来ないからだ。&br; どれだけ全力で戦おうと、目の前のガイスターを倒す事は出来ないだろう。&br; だが、未来のスピカは違う。&br; 「メテオ、ストライクゥ！！」&br; 星の力を込めてただ殴る。それを技と呼ぶにはあまりにも暴力的だが&br; 「ＧＹＥＥＥＥＥＥＥＡＡＡＡ」&br; その一撃は目の前のガイスターを一蹴。近くの岩にぶつかっても勢いは止まらず吹き飛び続ける。&br; ガイスターを追ってスピカが駆ける。見る者によってはまるで目の前から消えたかのような加速。&br; 吹き飛び続けるガイスターに追いつき、追撃する様にメテオストライクを今度は踵落としでもするかのように浴びせる。&br; 浴びせられたガイスターは地面と激突し、轟音とも呼べる激突音を響かせ地面にぶつかる。&br; 衝撃で地面は砕け、クレーターのような穴が出来上がる。&br; ガイスターは別に弱いわけではない。冒険者の基準で考えても歴戦の猛者ですら苦戦を強いられる。&br; この巨大さでは、１パーティだけでは全滅すらありうる。攻撃自体も弱いわけではなく、凶暴に振るわれるその腕がぶつかるだけで人間の身体など木端微塵となるだろう。&br; 「ＡＡＡＡＡＡＡＡ！！」&br; 倒れながらもガイスターが更なる追撃を加えようとするスピカに人にとっては猛威となるその腕を振るう。&br; だが、それを意も介さず受け止める。ボールでも受け止めるかのように、避ける事もせず、むしろその腕を掴んでガイスターごと持ち上げる。&br; 「でいやぁああああああ！」&br; 持ち上げたガイスターを大きく頭上へと投げる。軽々と真上へと飛んでいく体躯はそれこそヌイグルミと呼ぶに相応しいものだったかもしれない。&br; 「これで終わりだよ。来て、サテライトウェポン・ポリマ！！」&br; 左腕を大きく引き、力を溜めるような構えを取る。事実「星の力」は急速にスピカに集まり、その左手に集中していく。&br; 「きらめく星にぃぃ還れえええぇえええええ！！」&br; 大きく頭上に拳を振り上げる。拳の先の空間が歪み、ガイスターをも超える巨大な腕が空間を突き破って現れ、 落ちてくるしかないガイスターは避ける事も出来ず成すすべなくその拳と激突する。&br; 「ＧＡＡＡＡＡＡＡＡＡ！！」&br; その巨体が内側から光を発して消えていく。スピカの召喚した巨大な腕、サテライトウェポンも役目を終えたかのように光の粒子となって消える。&br; 「ああっと、と！」&br; 消えるばかりではなく、ガイスターの中から宝石の如く輝く石が落ちてくる。手のひらに収まるほどのそれを スピカはキャッチして&br; 「カペラ、なぁに？これ」&br; 「星のイシ。「星の力」を込められた宝石だ。ガイスターはそれに願いを込める事で生み出される」&br; 「だが、それはよくない願いだからだ。正しい願い事で身の丈にあったものであれば、必ず願いが叶うものだ」&br; 「持っておくといい、何かがあった時に助けてくれるかもしれない」&br; 「ふぅん、なら！持っておくよ！」&br; そう言ってスピカは左手に軽く口を付ける。先程変身した時のような光が辺りに広がる。&br; 「でも、前のヌイグルミにはなかったよねこれ？」&br; 「以前のものはガイスターになっただけで消費しきっていた。今回はそうではなかった」&br; 「そういうものなの？」&br; 「そういうものだ。さぁスピカ、もう夜になる」&br; 「うん、帰ろっか。お腹も空いちゃったし、寮のご飯楽しみだなぁ！」&br; 　笑顔で元来た道を戻っていく。そんな二人を、遠くから見ている影が一つあった。&br; &br; 「……なんで、あなたが……スピカ」&br; &br; Bpart   終了 --  &new{2019-02-13 (水) 18:53:12};