#menu(MenuBar/simple1500)
#navi(../)
* エルゼ辺境伯家出身 パリス・エルゼ 408842 [#r345fbcc]
|BGCOLOR(#B75724):COLOR(#FFDCBA):|BGCOLOR(#B75724):COLOR(#FFDCBA):|c
|>|CENTER:西の国に、男が居た。&br;男の名はパリス・エルゼ。平凡な名前の、平凡な男である。&br;彼は魔法の名手ではなかった。&br;彼の斧の一振りは、魔王を倒すには貧弱であった。&br;酒の強さだけは、誰にも負けなかった。&br;その程度の、男であった。|
|&ref(https://lh6.googleusercontent.com/-rMEMYPIxt8w/TwHxCBdg8YI/AAAAAAAAAIQ/M0rMFSnkhhc/s247/%2525E8%252596%2525AB%2525E7%25259D%252580%2525E7%252589%2525A9.jpg,nolink,300x221,photo);|奇しくもこの男と同じ名が、西の国の年代記には記されている。&br;その男は、貴族に生まれ、極東の名を持つ女を娶り、王位を簒奪した。&br;現王の祖と言われる彼は、魔に呪われたかの如く歪な腕を持ち、&br;その腕で先王の首をもぎ取ったという。&br;この男の経歴には余りにも馬鹿げた記述が多く、後世の歴史家は、&br;クーデターを起こした組織の幹部らをごたまぜにした結果ではないか、と推測を立てた。|
|&ref(https://lh3.googleusercontent.com/-aqpLAsUJW-Q/TwHxtyKabJI/AAAAAAAAAIc/0Hn0bAon5Nc/s425/qst066339.jpg,nolink,300x221,fin);|なにしろ貴族に生まれ、幼くして母を失い、齢15にして社交界で浮名を流した。&br;18歳で爵位を継ぎ、23歳で金のために冒険者となり左腕を失った。&br;28歳にして一度帰還し世界樹を切り倒し、&br;33歳にして帰ってくれば両腕が異形と化していて身元不明の伴侶を連れ、&br;37歳にして王位を簒奪し、歳を経れどその姿は呪われたように老いず、不定で、&br;49歳にして蛮族との戦争に終止符を打ち、95歳になり息絶えた。&br;彼の子の一人は王となり、幾人かは冒険者となり、幾人かは平凡な人生を送った。&br;さらに、西の国に機械を持ち込んだのは、この男だとも言われている。&br;&br;適当に抜き出しただけでこれである。&br;とてもではないが、信じられる話ではないのだ。|
|>|CENTER:子供の書く小説でも、もう少しましな話になるだろう。&br;寝物語の後の夢でも、もう少し整合性があろう。&br;だからその国の学院の教科書においても、男の話は数行で終わる。&br;&br;しかし、図書室で、奇特にも年代記を読み始めた子供は、時に男の虜となった。&br;そう。彼らの中でパリス・エルゼは、強靭な英雄となる。&br;学校では教えてくれない事の中で、今もパリスは忘れられぬまま、妻と共に生きている。|
&br;

&br;
&br;
&br;
#region(資料集端書)
・巨人の祝福&br;
古代の巨人に授けられた「我が祝福を受けた一族は、永劫歪められることはないであろう」という言葉から、エルゼの一族は薬病毒呪いに無限の耐性を持つ。&br;
ただし、アルコール、麻酔薬、回復の呪文の類も全て無効化するため、勝手が悪い。&br;
&br;
・丸太の毒&br;
粘膜から人体に吸収される、【体内の一部の細胞を未分化の幹細胞に変化させる】毒と、&br;【未分化の幹細胞を新たな形質に誘導する】毒の二つからなる。&br;
これを吸い込んだ人間は、頚部に新組織として瘤上の神経塊が形成され、独特の行動を引き起こす。&br;
(切った丸太と同じ欠損を己に与える、凶暴で破滅的になる、など)&br;
&br;
・エルゼの末路&br;
一般に、エルゼ辺境伯は老衰では死なない。&br;
基本的には、二十代から三十代ごろに現れる、特異な形状の丸太との戦いで、相打ちとなって死亡。&br;
死体も発見されないままであることが多い。&br;
当代よりも大きな体を持ち、一族最強と歌われた先代のエルゼ辺境伯は、人と同じサイズで大量の丸太が出現した際に、一部の軍を率いて殲滅に向かって死亡した。&br;
また、その前の辺境伯は、人心の掌握に長けていたが、機敏に動く一体の丸太の出現に対応しきれず、森の奥でその軍と共に死んだと伝えられる。&br;
更に前には、珍しく細身で身軽な辺境伯がいたが、彼は連携の取れた二体の丸太と相打ちになり、森に果てたそうだ。&br;
遡ると、双子の辺境伯、術に長けた辺境伯、身は小さく豪腕の辺境伯などと続くが、ことごとくその死骸は見つからぬままである。&br;
&br;
・パリスの両腕&br;
巨人の祝福の持つ特性である恒常性の保持と、丸太の毒の持つ新器官の形成があいまって生じた現象。&br;
幹細胞形成能を保持したまま体内に蓄積していた毒が、両腕の切断を切欠に巨人の祝福と反応。&br;
異形の両腕を形成した。&br;
なお、国に戻ってしばらくの後。王位簒奪の後、皮膚が剥がれ落ちるようにして、両腕は元の人間の形に戻ったらしい。&br;
そして彼が最初にしたことは、己の妻を抱きしめることだったとか。&br;
#endregion

#region(絵本の中身)
//|&ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst040777.gif,nolink);|~|~|~|~|
|&ref(http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp002538.jpg,300x300,自殺絵);|~|~|~|~|
|~|ID:|408842|CV判定:|[[稲田徹>http://www.youtube.com/watch?v=PQbMa5L4WNw]]|
|~|名前:|パリス・エルゼ|テーマ曲:|%%[[Wind>http://www.youtube.com/watch?v=ZUYzX5LjRr4]]%% [[SILENCE>http://www.youtube.com/watch?v=4j_eBDXmKro]]|
|~|出身家:|エルゼ辺境伯|左腕一本:| [[ステータス>http://gold.ash.jp/main/?chrid=408842]]/[[戦歴>http://gold.ash.jp/main/advlog.cgi?chrid=408842]]|
|~|年齢:|%%31%%|ご近所的に死亡:| [[ステータス>http://gold.ash.jp/main/?chrid=410689]]/[[戦歴>http://gold.ash.jp/main/advlog.cgi?chrid=410689]]|
|~|性別:|#listbox3(男,server,sex)|その他:| [[ステータス>http://gold.ash.jp/main/?chrid=419384]]/[[戦歴>http://gold.ash.jp/main/advlog.cgi?chrid=419384]]|
|~|前職:|#listbox3(樵,server,job)|その他:| [[ステータス>http://gold.ash.jp/main/?chrid=419686]]/[[戦歴>http://gold.ash.jp/main/advlog.cgi?chrid=419686]]|
|~|理由:|#listbox3(やむをえない事情により,server,reason)|なう:| [[ステータス>http://gold.ash.jp/main/?chrid=423944]]/[[戦歴>http://gold.ash.jp/main/advlog.cgi?chrid=423944]]|
|~|状態:|#listbox3(冒険中,server,state)|コメント:|[[こちら>http://notarejini.orz.hm/?%CC%BE%CA%ED%2F408842#x40bfe66]]|
//////////
|~|方針:|#listbox3(護衛を優先,server,type)| | |
|~|難易度:|#listbox3(実力相応,server,diff)| | |
|~|信頼性:|#listbox3(あまり気にしない,server,conf)| | |
//
// ※ ご注意「//////////」より上は変更可能個所以外はそのままにして下さい。
// タイトルの「家出身」の記述も含まれます。
CENTER:[[http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst063330.png>企画/貴人饗宴]]&br;&br;&br;


**三行でわかる旅立ちの理由 [#e62ec8a2]
金稼げとか王様頭おかしい&br;
とりあえずやるしかない&br;
がんばるか&br;
**三行でわかるエルゼ辺境伯 [#gc19c7db]
//**三行でわかるエルゼ辺境伯と[[自殺設定絵>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst065413.jpg]] [#wab06237]
染めないうちに髪がまた黒くなった&br;
なんか腕こうなってから老けづらくね…&br;
身長は190弱あるます&br;
//髪黒い→金に染めた(理髪師の陰謀で)&br;
//背高め&br;
//異形の両腕&br;
**三行でわかる最近の辺境伯 [#z56bfede]
樹木で出来たような両腕が生えた。戦闘中は以下のように肥大する。終わると戻る。&size(8){&color(RED){New!};};&br;
&ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst069689.jpg);&br;
[[高橋薫>名簿/419260]]はうちの嫁。
&br;
**頂き物 [#n57fc38b]
#region(判定。色々もらったな)
◆ドロップアイテム判定&br;
 【啓道の大斧】(AT+193 スキル「ダブルムーヴ」使用可能)
こんなでかい斧もって二回動けるのなんざ、中々居ないとは思うが……動けそうだと思ってもらえたのかね。うれしいもんだ。&br;
&br;◆隠してそうな性癖判定&br;
 気の強い女を躾けたい
うん。うn?マジか……&br;
&br;◆RP判定&br;
 強い拘りが感じられて、好印象
 会話の端にキャラ特有の個性というか、空気が漂っている感じ
 貴族周りってかなり良キャラ揃いですね
褒められるってのは慣れねえな。ありがとよ。&br;
&br;◆キャラ偏差値&br;
 キャラはお兄さんと言うよりおっさんと表現した方が良さそうだけどケモパパの絵がショタにも見えて少しだけ戸惑う
 キャラ自体はニヒルそうでいて気のいいお兄さんタイプで、会話の流れもテンポも良くて問題はない
 霊圧も高めなので絡みやすいはずだけど、キャラの過去と言うか深みが他キャラにほとんど伝わらない状態なのは惜しいかも
 キャラ偏差値は45 もう少し自分の設定に引き込む仕掛けがあればいいと思う
指摘してもらえるのはありがたい。設定に引き込む、なぁ……。&br;
とりあえず貰った絵は、過去の絵にしとくかね……デザインは好きなんだが。&br;
&br;◆サモナイ判定&br;
[[こちら最下段>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst065430.txt]]&br;
こりゃあまたいい数値で判定してもらってるな。&br;
こんだけダメージ出るまで鍛えられたらいいんだが…&br;
&br;◆RP判定その2&br;
 一貫した自分の空気を貫いてるのが好印象だね
 設定見ただけだと無骨で無愛想なイメージを受けるけど
 話してみればそんなこともなくしっかり親切な応対してるのが良いね
 会話もしっかり拾ってるしかなり話しやすいタイプだと思う
 あとは会話の中で相手に「もう一度来よう」と思わせられるかが勝負だと思う
 折角掴んだお客さんを離さないように頑張ってみればいいんじゃないかな
こんだけ褒められるとなんつーかこう……照れるな。&br;
でもまぁ、あれか。会話したいと思ってもらえる魅力を作れ、ってことか。こいつぁ難しいな……&br;
&br;◆恋愛可能度判定&br;
 いい青年と言うよりもおっさんに見える貴方、だけど恋愛に不向きと言う訳ではない
 気難しいと言う訳ではなく、むしろ相手の会話を良く拾う意味では好印象
 問題は恋愛をしたいと言う感じがRPでは見えない事、後は霊圧なども問題ないように見える
 恋愛可能度70% ただし男は意欲と押しが強くないと、可能であっても成立は難しい
恋愛をしたいという感じ、か。&br;
いい女は何時でも募集中、っつっても俺は応募する方だわな。&br;
意欲と押しか……ふーむ。&br;
&br;◆普通判定&br;
 腕が無い時点で普通じゃない
 あと貴族って時点で他の子と一線を画してて普通じゃないぞ!
 でもやっぱり地味ってのは否めないかもね!
 何かしら過去に絡めたRPだとか貴族ならではのRPをすれば
 キャラが立つんじゃないかな!
片腕片目なんざぁこの町には溢れてる気もするがなぁ。&br;
過去や貴族、か。重苦しいのは好かん奴が多かろうさ。&br;
難しいところだな、まったく。&br;
&br;◆もっと〜〜〜すればいいのに判定&br;
 あー、これは言いやすい…お前さんの場合は、もっと貴族背景を活かせばいいのに
 今のままじゃただの樵の兄さんだよ、たまには貴族っぽい所見せようぜ
完全にあってやがる……&br;
貴族ってなんなんだろうなぁ。枡次郎のが言ってたっけか。俺は貴族じゃなくて豪族だとか。&br;
なんともまぁ……&br;
&br;◆普通判定その2&br;
 昔の話がガチ渋い、読みごたえがある。見た目はモブの村人みたいで超が付く普通。いいね樵
 冷めた性格に見えて乳が気になってるところからも普通の片鱗が読み取れます
 とてもいい意味で普通
目の前にスタイル良い女が居たら、そりゃあ見るってのなぁ。男だぜ?&br;
昔の話を目にしてもらえたってのは凄ぇありがたいが、恥ずかしいもんだな。&br;
&br;◆恋人にしたい度判定&br;
 恋人にしたい度B−
 貴族キャラでまだ絵がないのはいいけど設定は?一番下のアレだけですか?でもいい 男っぽくはあるよね
 これから設定がもっとついてどんな動きをするのか分かれば十分恋人にしたい雰囲気はあるよ
検索して初めて判定されていたのに気づいた……申し訳ない&br;
設定か…設定増やして読む相手が居るかどうか、今となっちゃ難しい。&br;
あれから長い文章しか増えてねえや……&br;
&br;◆[[バキ判定?>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst066688.txt]]&br;
 『年上・筋肉フェチ好きならこいつが恐い!!』
 『貴族企画のおっさん・ファイター パリス・エルゼだ!!!』
おっさんじゃねえ!まだ二十代だ!最近の嫌いな言葉は四捨五入。&br;
筋肉なぁ……俺よりガタイいいのはこの町溢れてそうだが。まぁ、鍛えてると思ってもらえるのは有難いな。&br;
&br;◆[[格ゲー判定>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst066951.txt]](最下段)&br;
すげえ凝ってるな…しかも見るに、昔の話も見てくれてんのか。有難い。&br;
でもズラじゃねえぞ。残念ながら地毛だ。うちの一族は禿げん。&br;
&br;◆男らしいシチュ判定……?&br;
 またガチムチですか!?日に二度以上のガチムチは危険だとあれほど言ったでしょうが!
 くっ……このままでは優しいガチムチ同士が合わさって海のブルーになるんです……
 しかも貴族的な優雅さと樵のゲイ要素が揃っているとなれば四暗刻
 千点棒ならぬハッテン棒が飛び交う魔羅雀あるいは上連雀でご無礼ご無礼アナルジャスティス(AJ)
 ちなみに樵の高度なゲイ性についてはLumberjack Songでぐぐりなさい
(死んだ)&br;
この町には俺の知らない深遠がある。&br;
&br;◆甘々な恋愛判定&br;
 最初は貴族の知り合いとして出会いたい
 上辺だけの貴族の付き合いに飽き飽きしてた私は貴族らしくない彼に興味をもつの
 でもそれは箱入り娘が知らない物に抱く好奇心と同じものなのね
 いつも彼にくっついて回ってちょっかいを出しては適当にあしらわれる日々が続いていくわけ
 そんなある日私は気になって彼の過去を調べてみるんだけど、予想外に暗い過去に私はちょっと考えちゃうの
 そのせいでいつもどおりに接することの出来ない私にも彼はいつものように、貴族らしくない言葉を投げかけてくれるの
 そんな彼にある日こう聞いてみるのよ
 「貴方は樵なんでしょう?自分の心の木も…切り倒してしまったの?」
 彼はその問いに自嘲気味に笑いながらこう答えるのね
 「あぁ…そうかもしれないな。俺の心の木はとっくに切り倒されちまったのさ
 そうしたくもないのに…運命、って斧にバッサリとな」
 どこか悲しげな表情の彼に私はこう言うの
 「切り株にも芽が生えることはあるのよ。……私は、貴方の心の切り株に生える小さな芽にはなれないのかしら?」
 ってね!
ウイスキーのつまみになるくらい甘いな……!こんなロマンのある恋愛ができりゃあ良いんだがね。&br;
いつも本当に世話になってる。ありがとう。(男は深々と、頭を下げた。)&br;
&br;◆深夜のテンション判定&br;
 立ちすぎなんだよお前といいたくなるぐらいに勃KING
 ...言っといてなんだけど勃KINGって称号は今年の流行語大賞になるやもしれん
 「あれを見て!勃KINGが新商品のオナホを見てるわ!」
 「なんて凄い勃起なんだ・・・」
 みたいなCMを流すといいかもしれませんね。すごくいい笑顔でこちらを振り向くの
 男らしさ度数がマッドマックス。どけよ、今夜の俺は加減が効かないぜ
これが判定なのかどうか今の俺には判定できない&br;
#endregion
#region(絵。男の部屋に飾られている。)
http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst065188.png
&br;過去の肖像。&br;
[[&ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst066339.png,302x364,格好よく描いてもらっちまってまぁ……感謝する);>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst066339.png]]
&br;ある日の樵。&br;
[[&ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst067462.jpg,300x400,腕がなかろうと、やるこた同じだ。斧振るだけさ。);>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst067462.jpg]]
&br;樵、戦場へ。&br;
[[&ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst068747.jpg,300x300,SD樵!ぼんやりしてた足元まで書いてもらえて、凄く有難い。);>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst068747.jpg]]
&br;セブンス樵&br;
&ref(http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp000445.png,nolink,SD樵その2!ちょこまか動き回りそうで楽しいな。);
&br;SD樵&br;
&ref(http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp002461.png,nolink,200x200,腕がなかった頃の絵だな。随分昔のことにも思える…);
&br;呪樵2&br;
#endregion

----
*家なり庭なり街中なり [#x40bfe66]

// 特になければ辺境伯in自宅:古びた一軒家の庭。男は庭で斧を振っている。
[[http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst036512.gif>http://notarejini.orz.hm/?cmd=edit&page=%C5%DA%BD%AD%A4%A4%B4%C0%BD%AD%A4%A4]]   [[http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst036513.gif>http://notarejini.orz.hm/?cmd=diff&page=%C5%DA%BD%AD%A4%A4%B4%C0%BD%AD%A4%A4]]    http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst050525.gif[[【1】>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst068502.mht]] [[【2】>http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst069154.mht]]
//*庭から温泉が吹き出た一軒家 [#se57a12d]
// 総檜仕立ての立派な露天温泉。あたりは湯気でいっぱいいっぱいである。
#pcomment(土臭い汗臭い,3,below,reply)
&br;
&br;
*貴連館 [#u2529b4f]
CENTER:'''街を一望できる小高い丘の上に、貴族が饗宴の場とする荘厳なる館がそびえている…'''~
#showrss(http://pipes.yahoo.com/pipes/pipe.run?_id=6fd5505c416c06e47e8e56d5c4f645cc&_render=rss,,1,)
[[編集>http://notarejini.orz.hm/?cmd=edit&page=%B5%AE%CF%A2%B4%DB]]
#pcomment(貴連館,1,below,reply)&br;
&br;
&br;
*拙宅 [#r0ac4a5d]
#pcomment(樵とヤンキー,1,below,reply)
[[編集>http://notarejini.orz.hm/?cmd=edit&page=%BE%C1%A4%C8%A5%E4%A5%F3%A5%AD%A1%BC]][[差分>http://notarejini.orz.hm/?cmd=diff&page=%BE%C1%A4%C8%A5%E4%A5%F3%A5%AD%A1%BC]]
***新聞 [#l42659a0]
#include(info/new,notitle)
&br;
&br;
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&br;
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&br;
**昔の話 [#ob601107]
#region(旅立ち)
ミディオ・シーアを死罪とする。&br;
そんな声が、広間に響いた。&br;
ここは謁見の間。今のは、玉座に腰掛けた王が下した声だ。&br;
玉座の上に座る王は、三十を過ぎた程度か。神経質そうな細面に、目の下の深い隈。&br;
対して跪いた男は、王と同じほどの年齢。&br;
筋骨隆々とした体躯に、刈った金髪。古代の将軍といっても、おかしな話ではない。&br;
そして広間の中には、その二人の他にも多数の貴族たちが列席していた。&br;
誰もが視線を床へと落とし、狂った王の命令がこちらへ向かぬようにと願っている。&br;
&br;
「ちょっと待ってくださいよ。その程度で死罪ってーのは、筋が通ってねぇでしょう」&br;
ただ、静寂のみが占めていた広間に響いた声。&br;
それにつられるように、貴族たちの間にざわめきが広がっていく。&br;
「……誰が発言を許した。樵よ」&br;
王の視線の先、壁に寄りかかるように立っていたのは、優雅とは遠い一人の男。&br;
収まり悪くぼさっとした黒髪。頬に傷がある。&br;
腰に下げるのは華美な剣ではなく、無骨で肉厚の斧だった。&br;
広間に居る人間は知っている。その斧が、代々蛮族の首を狩ってきた事を。&br;
「先祖が俺らのために、散々丸太を狩ってくれたんだ。その呼び名はむしろ光栄なもんですな」&br;
樵のエルゼ。広間の一人が囁いた。&br;
男の名は、パリス・エルゼ。エルゼ辺境伯の跡継ぎである。&br;
未だ歳若いその男は、壁から背を離して、王へと話しかける。&br;
「ミディ……シーア伯爵が軍を動かしたのは、反乱鎮圧のためだ。あぁしなければ、どれだけ犠牲が出ていたか」&br;
「黙れ。樵如きが王へ語るな」&br;
王の暗い視線が、男へと向けられている。&br;
澱んだ光に負けることなく、男は王へと言い返した。&br;
「いいや。黙らねえ。今回の裁きは不当だ。流石に我慢ならねえよ」&br;
ざわざわと、広間中の貴族たちが動揺する。&br;
裁かれていた男。ミディオも、パリスの方を見て、唖然とした表情だ。&br;
『反乱か』『死ぬ気か、あの男は』『しかし樵の兵士が動けば被害が甚大に』『無駄に血気盛んな』&br;
「黙れ、耳障りだ」&br;
ぴたり、と。貴族たちのざわめきも止んだ。&br;
ここでパリスを殺せば、強健なエルゼの軍が動くだろう。すれば、被害は想像すら出来ない。&br;
しかし狂気の王は、それをしかねない。広間に満ちる緊張。&br;
&br;
「いいだろう、樵よ。ミディオ・シーアの死罪を猶予としよう」&br;
譲るような王の言葉に、貴族たちの間に驚きが走った。&br;
しかし、パリスは怪訝そうな顔で、王を見る。満面の笑みを浮かべた王を。&br;
「……猶予、とは?」&br;
「そうだな……金貨、三十万枚。お前が用意すれば、死罪を解こう」&br;
三十万枚。貴族の値段としては、安いくらいかもしれない。&br;
「いいぜ。すぐにでも―――」「ただし」&br;
次の王の言葉に、男は絶句する。&br;
「お前の手で、稼ぐのだ。樵は木を切るのが仕事だろう?」&br;
#endregion
#region(丸太斬り)
雄叫びが聞こえている。&br;
兵士が多数、森の中を駆けていた。&br;
剣を持つものはいない。斧、そして一部は鉈を。駆ける兵士は握っていた。&br;
ねじくれた木々は、彼らの行く手を遮る様に何本も生えている。&br;
その間を、兵士たちは身を屈め、跳ねて、通り過ぎていく。&br;
次第に見え始めた、行く手の明かり。森が開ける。&br;
森を出る寸前、兵士たちは木々を駆け上り始めた。&br;
ねじくれたその形を利用して、足をかけ、跳ね上がり、そして宙を舞って、森を抜けた。&br;
&br;
視界の先に立つのは、奇怪な灰色の巨人。&br;
節くれ立ち、まるで丸太の木肌のようなその皮膚。&br;
人をなぎ払いうる太い腕。&br;
そして首はなく、下半身から頭までがまるで一本の木のように。&br;
巨人は丸太と呼ばれていた。そして森を駆け抜けた兵士たち。&br;
跳ねたその勢いで、斧を、鉈を振り下ろす。&br;
巨人の数は十体程度か。巨人一体に、十人近い兵士が飛び掛り、そして刃をつきたてた。&br;
剣の刃では通るまい。兵士らの刃にも、硬い音を立てて弾かれるものが幾本もある。&br;
だが、彼らのうち、熟練したものは、巨人の腕を、身を、一刀両断にしていた。&br;
&br;
彼らの名は樵。&br;
斧を振るい、鉈を振るい、丸太を切り倒す樵である。&br;
切断した断片から、ぱぁっと空中に何かが散った。&br;
それを吸った若い樵のうち幾人かが、己の刃で己の身を、足を、腕を切る。&br;
奇しくも、目の前の丸太が切られたのと同じように、彼らは己を刻んでいた。&br;
気にする様子もなく、兵士たちは進む。&br;
樵の仕事は、丸太を切ることである。&br;
&br;
その中に、一人、奇怪なものがいた。&br;
己の切った丸太を駆け上り、勢いよく斧を振り回し、次の丸太の首を跳ね、それを足場にまた跳び、跳ねる。&br;
その姿は、獣か、人か。結んだ長髪が、まるで尾の様に跳ね回る。&br;
男はエルゼと呼ばれていた。樵のエルゼと。&br;
#endregion
#region(男は斧を振る)
「エルゼ伯!えーるーぜーはーくーしゃーくー!」&br;
館の庭で斧を振るう男の背から、声がかかる。&br;
だが、斧を振るう手が止まる様子はない。よほど集中しているのか、それともわざとか。&br;
声の主は、無視されたことに苛立った様子で、男のほうへと近づいて。&br;
「無視すんな!」&br;
男が斧を振りかぶったところで、尾のように伸びた男の髪を思いっきり引っ張った。&br;
「おぉい!?」&br;
バランスを崩す男。倒れそうになるのを危うく踏みとどまって、振り向く。&br;
「何しやがる!?ってあぁ、嬢ちゃんか。どうしたよ」&br;
男の視線の先にいたのは、背の低い女性。&br;
いまだ少女のあどけなさを残したその顔。しかし眉間には、皺が寄っている。&br;
「さっきから呼んでたの気づかなかったの!?」&br;
「や、気づいてたが」&br;
「じゃあ返事ぐらいしろぉ!」&br;
きぃぃ、と地団太を踏む女。それから、ドレスをまとった己の胸を叩いて。&br;
「それに私は嬢ちゃんじゃない!シャルって名前がちゃんとあるの!」&br;
腰に手を当てて、胸を張る。男は突き出される形になった胸を見て。&br;
「……まだ嬢ちゃんだな」&br;
「なにをー!?」&br;
シャルは顔をかっと赤くして、地団太を踏んだ。&br;
&br;
「で、結局なんだったんだ、用事は」&br;
庭の片隅のベンチに二人並んで腰掛けて、男は問いかける。&br;
問われた側、シャルはうっと一声あげて、口を閉ざした。&br;
「どうした?」&br;
「いや、その、さ」&br;
「うん」&br;
男は相手の様子に、口を挟まず言葉を待って。&br;
「その、仮にもさ。仮にも、だよ?」&br;
「仮にも、なんだ?」&br;
シャルは腿の上で両の掌をすり合わせ、指を動かして、落ち着かない様子のまま。&br;
「仮にもさ。私たち、結婚したわけじゃない」&br;
「おう、したした。お前は俺の嫁だわな。んで?」&br;
「だから、その……」&br;
シャルはもごもごと口ごもった。男は訳わからん、と言った様子で首を傾げて。&br;
あ、と思い至ったように声を上げた。&br;
「なんだ、嬢ちゃん俺といたかったのか。そいつぁ悪いことをした」&br;
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」&br;
あっけらかん、とした男の言葉に、シャルは顔を真っ赤にして、その頭を引っぱたいた。&br;
「いってえ!なにすんだ!?」&br;
「うっさい馬鹿!恥ずかしいでしょ!?それに嬢ちゃんはやめてっ!」&br;
ベンチから立ち上がって、男の前に立ってシャルは大きな声で叫ぶ。&br;
男は叩かれた頭を痛そうに抑えていたが、相手の言葉に少し笑って。&br;
「嬢ちゃんが、俺をエルゼ伯って呼ぶのやめたら、考えてやるよ」&br;
「な、なんで!?」&br;
「お前嫁から他人行儀に呼ばれることほどつらいこたぁねぇぞ?」&br;
男はわざとらしく肩を落として、溜息一つ。&br;
「だからさ。お前が俺を名前で呼んでくれたら、俺もお前を名前で呼ぶさ。な、俺の嫁さんよ」&br;
笑いかけた男の顔に、シャルは顔をさらに赤くして。&br;
馬鹿、と一度、館中に響く大きな声で、叫んだ。&br;
#endregion
#region(晴天)
部屋に駆け込んできたのは、背の高い男。&br;
ベッドの上に身を起こした女性の姿を目に止めると。&br;
「よくやった、シャル!」&br;
大声でその名を呼んで、駆け寄り、抱きしめた。&br;
&br;
&br;
館の一部屋。寝室にて、男は妻と並んで立って。&br;
「それにしても、なぁ」&br;
腕を組んで、うむ、と一度頷いた。&br;
「どうしたの?」&br;
「いや、まだ、実感がねえんだよな」&br;
「あぁ」&br;
男の隣で、シャルは笑った。夫の腕へと触れ、身を寄せて。&br;
「夢じゃないよ。残念?」&br;
「残念なはずないだろうが。馬鹿」&br;
男は組んでいた腕を解いて、隣の妻の肩へと、腕を回した。&br;
シャルはそれに逆らうことなく、夫へとより近づく。&br;
「ガキなのはシャルじゃなくて俺だった、ってこったな」&br;
「散々人のこと子ども扱いしてたくせに、ね」&br;
喉を鳴らしてシャルは笑った。かつてよりは大人びた、しかし未だ若々しい笑顔。&br;
男はあまり変わらない。昔から、年上に見られていたその顔は、そのままだ。&br;
そして二人の視線の先。柔らかな布にくるまれた、赤子が一人。静かに眠っている。&br;
&br;
シャルは夫のわき腹をつついて。&br;
「嬢ちゃん嬢ちゃん言ってたのに、今じゃあ子供までいるんだよ?」&br;
「やー。身に覚えがあり過ぎて困るわな」&br;
「ばか」&br;
シャルは夫のわき腹を少し強くつついた。くすぐったそうに、男は身じろいで。&br;
「やめろって。起きるだろ、こいつが」&br;
「大丈夫だよ。だって、毎朝毎朝私が叩き起こさなきゃいけない人の子供だよ?」&br;
ほらほら、と、シャルはつつくのをやめない。&br;
身を捩っていた男は、む、と一度唸った後。&br;
「そっちがその気なら、ほら」&br;
「え、あ、馬鹿っ!」&br;
男は妻の背へと、足へと腕を回して、抱き上げた。&br;
「夫にかける言葉が馬鹿とは何だ」&br;
「さっきはそっちが馬鹿っていったでしょ!」&br;
シャルは真っ赤になったまま、目の前の夫の胸板を、不安定な姿勢で叩く。&br;
しかし男は、それを意に介した様子もなく。&br;
「夫に酷いことをする妻には、お仕置きだわな」&br;
寝室のベッドへと近づいていく。距離が近づけば近づくほど、シャルの力も弱くなって。&br;
「今夜は寝かせない、とか言えばいいのかね」&br;
「似合わないよ……馬鹿」&br;
「うっせ」&br;
#endregion
#region(曇天)
庭に、斧を振る男の姿はない。&br;
その代わりにあるのは、体重の軽い足音。&br;
「かあさま、かあさま!」&br;
幼子が一人、拙い足取りで駆けている。&br;
両の手は合わされ、膨らませた両掌の間に、何かを抱えているように。&br;
幼子の走る先には、一人の女性の姿。二十歳を過ぎたくらいだろうか。&br;
庭の隅のベンチに腰掛けて、幼子の駆ける様を微笑んで眺めている。&br;
&br;
不意に、幼子が躓いた。口を開いたものの、声を出す間もなく。&br;
柔らかな下草に覆われた地面へと、転げた。&br;
同時に開かれた掌の間から、蝶がふわり、と空へ舞う。&br;
子供は泣かず、しかし痛そうに右の肘を擦ったあと。&br;
空を舞う蝶の姿を見て、顔をくしゃり、と歪めた。&br;
あ、で始まる泣き声が、庭に響く。&br;
見ていた女性は、おやおや、と言った表情で立ち上がろうとして。&br;
しかし、腰を下ろした。その代わり、幼子を背後から抱える人影。&br;
「泣くな。男だろ?」&br;
まるで尾のように、黒髪を括った男。&br;
その偉丈夫は、己の息子を抱え上げ、肩車をする。&br;
ぐずついていた幼子は、突然高くなった視界にきょとんとした後、表情を輝かせた。&br;
「こら、髪を掴むな。痛いだろうが、馬鹿」&br;
頭の上ではしゃぐ息子に、男は笑いながらそう言って。&br;
そのまま二人は、ベンチのほうへと歩き始めた。&br;
&br;
「どうだ、シャル。体の具合は」&br;
「かあさま、だいじょうぶ?」&br;
二人にほぼ同時に問いかけられて、シャルは笑みを浮かべた。&br;
「大丈夫。エルゼ伯夫人は、強い女で有名なんだから」&br;
力強くそういうシャルの顔には、しかし疲労が浮かんでいる。&br;
体調が悪いのは、一週間ほど前からだ。日課の散歩の最中に、シャルは突然倒れた。&br;
「そんなことより、どうなの?丸太の侵攻は。ずいぶん多いって」&br;
「そんなことじゃねえだろ。丸太の方はうまくやってるさ。俺が負けるように見えるか?」&br;
男はにやりと笑って、肩を竦める。&br;
「とうさまつよい!」&br;
「おう、俺は強いぞ。樵のエルゼは最強の代名詞だ」&br;
だいめーし!意味もわからないまま、幼子は叫ぶ。&br;
その様子を見て、シャルは笑う。&br;
幸せな家族の肖像。&br;
#endregion
#region(雨天)
その日は、酷く雨が降っていた。&br;
館の窓を叩く雨粒は、ここに住むものを憎らしく思うかのように、その身を叩き付け、散らす。&br;
&br;
少年がいた。年の頃は、五つになるくらいだろうか。&br;
廊下を進むその手には、花を抱えている。館裏の温室で、摘んできたらしい。&br;
父にも母にも似通ったその顔には、心配そうな表情が浮かんでいる。&br;
既にシャルが寝たきりになってから、数ヶ月がたっていた。&br;
眠っている間中うなされ続ける彼女は、日に日に衰弱していくように見える。&br;
父は、丸太の討伐で館にはいない。そろそろ帰ってくる筈ではあるが、まだ、その姿はない。&br;
息子は母の好きな赤い花を抱えて、廊下を少し駆け足に歩く。&br;
これを見て、母が少しでも、喜んでくれるだろうかと、期待しながら。&br;
&br;
両手に花を抱えたままでは、扉を開くのに苦労して。&br;
ようやくのことで、花を零さずに扉を開き、少年は部屋へと足を踏み入れた。&br;
「かあさ、ま……?」&br;
部屋の窓は開いていた。吹き込む雨風に、室内はじっとりと、濡れている。&br;
その窓辺に立つのは、少年の良く知った筈の女性。&br;
シャルは、窓辺に手を着いて、雨を受け入れるように、外を眺めていた。&br;
「かあさま、体、しんどくないの……?」&br;
少年は、戸惑うように声をかけた。&br;
シャルは、そこでようやく気づいたように、少年のほうを振り返って。&br;
「あら。どうしたの?そんな顔をして」&br;
ぞわり、と。少年の背筋に寒気が走る。抱えた花を、その場に取り落とした。&br;
一歩、己の意思に寄らず、足が後ろへと下がる。&br;
「まるで、怯えてるみたい」&br;
シャルは窓辺から離れ、少年へと一歩歩み寄った。&br;
それに合わせるように、少年は一歩後ろへ下がる。&br;
一歩、一歩、一歩。&br;
シャルの足は次第に速まり、少年の下がる動きも次第に早まって。&br;
&br;
雷音。&br;
&br;
少年は後ろを向いて、駆け出した。&br;
とうさま、とうさま、とうさま。かあさまが、かあさまが。&br;
涙を流しながら、少年は館を駆ける。&br;
その後ろを、まるで追うように、シャルは走って。&br;
使用人の横を通り過ぎた少年は、己の後ろから聞こえる悲鳴と、重いものの倒れる音を聞いた。&br;
館を駆け、階段を上り、下り、走って、走って、走って。&br;
気づけば少年は、庭にいた。雨の降り注ぐ庭の中、少年は駆ける。&br;
あの日、蝶を抱えて走ったその場所を、ぜぇはぁと耳障りな己の呼吸音を耳にしながら、走って。&br;
そして、行き止まる。気づけば少年は、庭の隅、館と生垣に道を塞がれていた。&br;
「どうして逃げるの?」&br;
背後から聞こえた声に、少年は、はっと振り返る。&br;
そこには、館に飾られていた宝飾剣を手にした、シャルがたっていた。&br;
刀身は血に塗れ、シャルの纏う白の寝巻きは、雨と血とで、酷い有様で。&br;
「酷いじゃない。花を持ってきてくれたんでしょ?」&br;
薄く微笑を浮かべながら、シャルは己の息子へと歩み寄っていく。&br;
少年は、ぺたり、と地面に腰を下ろした。&br;
もう走れなかった。足は悲鳴を上げ、肺が焼け付くように熱く、喉は掠れて。&br;
「綺麗な、赤い花。まるで、血の色のような」&br;
少年は、母の姿を見た。己へと向けて剣を振りかぶる、母の姿を。&br;
&br;
「……だめ」&br;
剣を振り上げたシャルは、不意に動きを止めた。&br;
じりじりと、ゆっくりとした動きで、剣をおろしていく。&br;
「この子は、決して、殺させない……っ!」&br;
何かと葛藤するように、まるで瘧のようにぶるぶると震えながら、シャルは腕を下げて。&br;
しかし、手から剣は離れない。少年へと剣を突きつける姿勢のままに、体は硬直して。&br;
「……逃げて。逃げなさい」&br;
目の前の息子へと、シャルは言う。雨音の中でも聞こえる、聞きなれた母の声。&br;
しかし、少年は立ち上がれなかった。声一つでない。&br;
体は既に限界を迎え、そしてこのような母を残していけるわけもなかった。&br;
徐々にシャルの腕が、剣を動かし始める。息子へとそれを突き入れるように。&br;
「お願い、逃げて……」&br;
シャルの瞳から、水が流れる。それは雨なのか、涙なのか、わからなかった。&br;
ぎりぎりと、剣が動き、そして。&br;
&br;
「シャル」&br;
声がした。庭の持ち主の男の声が。家族の一員の男の声が。&br;
シャルのずっと後ろに立つその男は、軽装鎧を纏ったままに、その腕には斧を握っている。&br;
恐らく戦場から、直に戻ってきたのだろう。&br;
少年から見た男は、雨の向こう、まるで死んだように無表情で。&br;
対照的にシャルの顔は、絶望の中に救いを見たように。&br;
「あぁ……よかった」&br;
「よかったじゃねえよ、馬鹿」&br;
男の口から出る軽口は、いつものままに。&br;
「お願い。私を……」&br;
「馬鹿。それ以上言うな。嫁にそんなこと言わせられっか」&br;
二人へ向けて、男は一歩、踏み出した。&br;
「ねぇ。もう、駄目なの」&br;
「何が駄目なんだ。お前は何も駄目じゃねえだろ」&br;
徐々に近づく距離。雨の中でも、二人の声は、少年の耳に良く届く。&br;
「私、幸せだった」&br;
「おい。人の話しきいてんのか?」&br;
「はじめてあったときは、親父くさいし、なんでこんな、って思ったけど」&br;
シャルは少年を向いたまま、言葉を継ぐ。&br;
「気づいたら好きになってて、私はあなたの妻で、幸せだった」&br;
「……」&br;
男は口を噤んで、足を止めた。&br;

雨はより強さを増したように、三人へと降り注ぐ。&br;
「ねぇ、覚えてる?そのベンチ。いつもそこで、三人で」&br;
「……」&br;
「そういえば、初めてキスしたのも、ここだっけ。懐かしい、ね」&br;
「……忘れるわけねえだろうが。忘れるわけねえだろうが!」&br;
「楽しかったね。楽しかった。だから、ここでなら、私は終わっても、いいの」&br;
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」&br;
無表情だった男が、歯を食いしばる。&br;
男の口から、ぱき、と、硬いものの砕ける音がした。&br;
「……シャル」&br;
「お願い。もう、限界。この剣を、私は」&br;
「わかった。もう、わかったから」&br;
「……ありがと」&br;
男は、握った斧を振りかぶった。樵のエルゼの獲物である、大斧を。&br;
「なぁ、シャル。お前は俺を、愛してたか?」&br;
「馬鹿。もちろんに決まってるでしょ」&br;
「……はは。だよなぁ。俺も、お前を愛してたよ。だから」&br;
「っ、もうだめ、早く、お願い、ロムナスっ!」&br;
シャルの体が、瀕した危険に反応したのか。瘧のような震えが、より酷くなって。&br;
「向こうで、待っててくれ」&br;
シャルの体が剣を突き出し、少年の喉を突き破る寸前。&br;
ロムナスの斧はシャルの首を跳ね、剣は少年の頬を深く抉り、館の壁に突き立った。&br;
&br;
ざぁざぁと。雨の音だけが聞こえる。&br;
己を抱きしめる父の向こう、母の体と首は、ベンチに寝かせられていた。&br;
「丸太の毒だ。それが、シャルを狂わせた」&br;
父の声が聞こえるが、理解が出来ない。&br;
「エルゼの血は、丸太の毒を無に帰す。だが、シャルは」&br;
視界の中の母の体は、首がなく。&br;
「俺が、俺が持ち帰った毒が、シャルを。すまない、すまない、シャル、すまない、パリス……!」&br;
まるで、母の体ではなく、他のもののように見えて。&br;
&br;
そうか、あれが丸太なのだと、幼いパリスは悟ったのだった。&br;
#endregion

**黄金暦164年夏 [#y1b63967]
#region(有朋自遠方来 不亦悲)
男は一人、庭で切り株に腰掛ける。&br;
一本きりのその手には、手紙が一枚握られていた。&br;
男の視線が幾度往復しても、その文面は変わることなく。&br;
当然だ。書かれた手紙の内容が、そう簡単に変わるはずもない。&br;
&br;
溜息一つ。男は空を仰いだ。&br;
曇天。夏の訪れを前に、空は梅雨の湿度を保つ。&br;
男の表情は、空に劣らず曇っていた。&br;
&br;
夏が来れば、木々の季節だ。&br;
熱と湿度を友として、木々が命を猛々しく叫ぶ季節だ。&br;
男が故郷を出てから、早幾歳。&br;
木々の猛りは限界だった。&br;
樵のいない森は、今や、間引きを必要としていた。&br;
&br;
男は手紙を握りつぶす。&br;
立ち上がれば、手の中に握った手紙を地面へと放り捨てた。&br;
空を仰ぐ。表情は、曇らず。&br;
強く睨み付ける様に、空を見上げた。&br;
&br;
ぽつり、と。水滴が一つ。男の額に落ちた。&br;
続き、二つ、三つ。&br;
そこから後は立続けに。&br;
放り捨てた手紙は雨水に滲み、文面は意味を成さなくなる。&br;
男は庭に背を向けた。&br;
確かな足取りで、己の屋敷に向かっていく。&br;
&br;
その日の夜。一頭の馬が町を出た。&br;
背には一人の偉丈夫。斧を抱えたその男は、夜道を一人、西へ駆ける。&br;
夏が、来ようとしていた。&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
遥か西の国。責務の半分、15万の金貨を王に納めた男は、一時の戦を始める。&br;
終われば短い、半年に渡る戦。&br;
樵と丸太の殺し合い。&br;
エルゼ辺境伯領は、血に染まる。&br;
#endregion

#region(里帰り)
幼子が一人、泣いていた。&br;
倒れ、動かぬ母へと縋り、空を見上げて声を上げる。&br;
わぁわぁと、高く、よく通る声。&br;
空へと届かんばかりに響くその声に、寄せられたように。&br;
不意に幼子の上へと影が訪れた。&br;
空を仰ぎ見ていたその瞳に写ったのは、偉業の姿。&br;
ぽかん、とただそれを見上げる幼子。&br;
偉業が、節くれ立った木肌の腕を、幼子を掴まんと伸ばす。&br;
そして、幼子の身が、浚われた。&br;
&br;
&br;
気づけば幼子は、宙にいた。周囲の景色が、瞬く間に流れ去る。&br;
「悪いな、坊主」&br;
馬上の男は、己の槍の先に引っ掛けた幼子を、己の前へと乗せた。&br;
そのまま馬を駆けさせ、影、丸太の近くから離れる。&br;
古びた長槍が、隻腕によって器用に畳まれ、馬の脇へと取り付けられた。&br;
「お前の母親たちの供養は、まだ、してやれそうにない」&br;
そう言いつつ振り返った男の瞳には、丸太がこちらへと身を向けるのが見える。&br;
相手が動き、追いつかれる前に、馬上の男と幼子は走り去った。&br;
幼子の母の、そしてその周りに散らばる、先刻まで生きていたであろう村人たちの亡骸を残して。&br;
&br;
馬は噂よりも速く駆け抜けた。&br;
領境を越え、村々を駆け、そして砦へと辿り着いた。&br;
つまり、多くの人々は、己の目で確かめたのだ。&br;
&br;
己の主、そして守り手たる辺境伯が、幾年を越えて、一時の帰還を果たしたことを。&br;
#endregion

#region(欠損)
砦の門が開く。&br;
馬に乗った男は、静かに己が砦へと帰還した。&br;
不具となった男を迎えたのは、まず最初に希望に溢れた、そして次に失望に満ちた視線であった。&br;
耳へと届く、囁き声。それは次第に広がり、砦に満ちる。&br;
『腕が一本なくては』『もう駄目なのではないか』『エルゼの血と言えども』&br;
男は肩に乗せた幼子を伴って、砦の奥へと進んでいく。&br;
砦の雰囲気に気圧された幼子は、男の頭にしがみ付いている。&br;
&br;
幼子を連れた男が足を向けたのは、砦の奥。&br;
扉を開けば、その中には、白衣を纏った女たち。&br;
医師や看護士の控えるその場所は、負傷兵の運び込まれる救護室だ。&br;
そしてそこでも、人々の視線は男の欠損した左手へと向けられる。&br;
「エルゼ伯……」&br;
「ニキアの村が潰された。生き残りだ」&br;
男は他者の視線を気にする様子なく、己の肩に乗った幼子を見る。&br;
ニキアが、と、驚愕の声が室内に広がった。&br;
&br;
幼子は男の頭にしがみ付いたまま、室内を眺めていた。&br;
男と同様、腕のない男がいた。&br;
腕、足、耳、そこにいる負傷者たちはその殆どが、体の一部を欠損させている。&br;
大きな力で抉られたような傷跡ではない。刃物によって切断されたような傷。&br;
まるで、己の獲物で切り裂いたかのような。&br;
&br;
男は幼子の頭を撫でた。医師の一人が、男へと声をかける。&br;
「それでエルゼ伯。その子を……」&br;
「ここで預かってくれ。他に場所がない。悪いが頼む」&br;
「し、しかしここは救護室です。おそらくこれから続々、怪我人が……」&br;
「他に、場所がない。頼む」&br;
男は頭を下げた。譲る気はないその様子に、声をかけた医師はうろたえた様子で。&br;
そこに、新たな声がかかる。&br;
「わかりました。我々で受け入れましょう」&br;
先の医師の後ろから歩み出たのは、初老の女看護士。&br;
男へと近づけば、そっと手を伸ばし、幼子の頭を撫でた。&br;
「この子の、ご両親は」&br;
「母親の遺骸に縋りついて泣いていた。そこを拾った」&br;
「……そうですか」&br;
幼子は、看護士の撫でる手の柔らかさに、少し緊張を解いた様子で。&br;
そのまま老看護士は、幼子を抱きかかえた。&br;
幼子は、きょとん、とした顔で、男の顔を見上げる。&br;
その様子に、男は小さく笑って、幼子の頭を撫でた。&br;
「坊主。まだ多分、色々分からないとは思うがな。……母親のこと、覚えといてやれよ」&br;
頭を撫でた手は頬へと滑り、幼子の柔らかな頬を、親指で撫でる。&br;
そして名残も見せずに手を離せば、男は背を向けた。&br;
「……エルゼ伯」&br;
「坊主を頼んだぜ」&br;
「はい、お気をつけて。それと、一つ……」&br;
「あぁ?」&br;
部屋の戸枠に手をかけて、男は訝しげに振り返る。&br;
「この子は女の子ですよ。坊主じゃありません」&br;
「……」&br;
男は無言で頭を掻いた後、今度こそ救護室を後にした。&br;
#endregion

#region(閑話休題)
紛糾する会議室の空気と一枚板の分厚く巨大なテーブルを、パリスの斧が真っ二つに断ち割った。&br;
半分に割られたテーブルは、重い音を立てて床へと崩れる。&br;
「……これで一つ目の議題は片付いただろう」&br;
静けさの中、パリスが呟いた。&br;
一つ目の議題。隻腕の男は果たして使い物になるのかどうか。&br;
無理だと騒いでいた歳若い士官たちは黙り込み、老いた士官らはさもありなんと頷いた。&br;
&br;
パリスは斧を床へ付いて、一言。&br;
「お前たちのせいで机がなくなった。用意しろ」&br;
若い士官たちへとそう言えば、慌てた様子で駆け出す彼ら。&br;
それを見て、パリスと老いた士官たちは、笑った。&br;
「相変わらずですな、エルゼ伯」&br;
「そりゃあそうだ。あんたらが俺に教えてくれたことは、何一つ忘れちゃいないさ」&br;
かつての己が師であり、今では肩を並べ、戦う男たち。&br;
久々に顔をあわせた彼らは、彼らなりの方法で、彼らの間に横たわった時間を埋めようとしていた。&br;
&br;
「伯が手に入れてくださった巻き上げ機、えぇと、エンジンと言いましたかな」&br;
床へと転がったテーブルに載っていた羊皮紙を、老士官の一人が手に取った。&br;
そこにはかつて、パリスが超黒蓮から手に入れた巻き上げ機の、詳細な図面が描かれている。&br;
「おう。量産に成功したんだろう?あの役に立たなかった発明家とやらに任せて」&br;
「えぇ。三つまで分解を許したら、嬉々として取り組みましたよ」&br;
その結果がこの羊皮紙なのだろう。パリスは図面を受け取り、ざっと眺める。&br;
「……ふむ。なるほど、要するに爆燃の圧で歯車をまわすか」&br;
「えぇ。伯の領土は鉱物も油も一定量取れます。量産には問題点はありませんでした」&br;
パリスは図面から顔を上げた。&br;
「量産には、ってことは、他にはあったのか」&br;
「しいて言えば使い手の問題ですな。先ほど伯が脅しつけた若者らです」&br;
「脅しつけたってのは酷い言い方だな、おい。で、どういうこった」&br;
老士官は肩を竦める。壁に貼り付けた、領土地図を指差して。&br;
「北東、滅びたニキアの近辺、赤い印が数点あるでしょう」&br;
「おう」&br;
「アレが、若い者たちが出撃した折の、投石器とバリスタの布陣です」&br;
パリスは地図を眺めた。顎に手を当てて、数秒。&br;
「……駄目だな、ありゃあ」&br;
「わかりますか」&br;
「一見高台だ。地の利を得たように見えるが、丸太の体格で通れる迂回路が多い。挟撃されかねん」&br;
パリスの台詞に、老士官らは満足げに笑った。&br;
確かに彼らの教えたことが、パリスの中に息づいていることが分かったからだ。&br;
「えぇ。その通りです。結果として、布陣した前線指揮官は死亡。運び込んだ投石器40台とバリスタ100機が破壊されました」&br;
「……相手が丸太でよかったな。エンジンを鹵獲されてたらえらいことだ」&br;
「とりあえず、残存する投石器とバリスタは、そう多くはありません」&br;
もう一枚、壁面に張られた戦力表。投石器が20、バリスタが60。&br;
それを見て顔をしかめたパリスに、老仕官の一人は静かに告げた。&br;
「若い士官たちは、丸太の毒を恐れすぎたのです」&br;
「………俺のせいか」&br;
「いいえ。確かに、丸太の毒の聞かないエルゼ伯の戦いぶりは、戦意の鼓舞には有用でしょう。&br;
ですが、それだけではなく、彼らを指導するのに十分な士官が、いなかった。それが原因かと」&br;
先ほどから室内にいる老士官。そして、先ほど出て行った若い士官ら。&br;
その間の年齢となる士官は、いない。&br;
「……親父の奴も、もう少し残していってくれりゃあなぁ」&br;
「無理を仰いますな。あの戦いの折、前エルゼ伯に心酔していた殆どの士官が、志願して行ったのです。仕方のないことでしょう」&br;
パリスと老士官らは、顔を見合わせて、苦笑した。&br;
それからともに頷いて。&br;
「……まぁ、仕方ない。次を考えよう」&br;
「そうですな。では、第二の議題を片付けましょうか」&br;
そこへ丁度、若い士官らが、新たなテーブルを運んできた。&br;
額に汗して重いテーブルを抱える彼らは、粉砕された机の代わりにそれを置けば、室内の僅か柔らかな空気に首を傾げる。&br;
それを見て、笑う老士官たち。そしてパリスが壁の領土地図を、右のこぶしでこんこん、と叩いた。&br;
「では、第二の議題に入ろうか。領土から丸太どもを駆逐するための方法を、考えよう」&br;
#endregion


#region(狼煙)
木々に紛れる様に、丸太たちは疎らな列を成して進軍する。&br;
かつての人の村を通り過ぎ、騒ぐ森の獣たちを追い立てるように。&br;
それらが通り抜けた後、木々は捩れ、禍々しく変貌する。&br;
一説では、山を三つ越えた向こう。丸太の領地は、大層奇妙な風景だという。&br;
まるで、植物の全てを己らと同じものへと変えようというかのように、丸太は進軍する。&br;
声はない。ただ、木々のざわめきのような音だけが、周囲に聞こえて。&br;
&br;
不意に雄叫びが聞こえた。&br;
丸太たちは歩みを止め、何処にあるのか分からない瞳で周囲を睥睨するように、身を動かして。&br;
声の主たちの現れるのを、待ち構える。&br;
&br;
まず最初に訪れたのは、予想に反して岩であった。&br;
周囲の木ごと丸太を薙ぎ倒さんと、宙を舞い来る巨大な岩。&br;
その数発が、丸太の何体かに直撃し、粉砕する。&br;
しかし丸太たちに、恐怖する様子は見られなかった。&br;
ただ、岩の飛んできた方向へと体を巡らせ、進軍する。&br;
&br;
その背後から、男たちは現れた。丸太によって捩れた木々を足場とし、森の獣のように、宙を駆ける。&br;
彼らの名は樵。&br;
斧を振るい、鉈を振るい、丸太を切り倒す樵である。&br;
巨大ゆえに旋回の鈍重な丸太を、男たちは背後から叩き割る。&br;
最後尾の丸太たちを粗方片付けた段階で、男たちの一人が叫んだ。&br;
「樵たちよ!刈り取れ!」&br;
「「「応!」」」&br;
声に応じれば、ざっと足音を立て、樵たちは駆け出した。&br;
向かう先は、目前の丸太の群れではない。捩れ曲がった梢の間だ。&br;
樵たちは丸太の目から隠れるように、木々の間へと紛れ込む。&br;
枝によって上空の視界を隠された中、こちらを探し動かぬ丸太と、捩れた木々の区別をつけることは、男たちには難しい。&br;
突然頭上から振るわれる丸太の腕に対処するのは、慣れた戦士であっても至難であった。&br;
だからこその、投石器である。&br;
男たちが姿を隠してすぐ。再び、岩が飛来する。&br;
今度の岩の飛来元は、先ほどまでとは異なる場所だ。&br;
岩は木々を、丸太を薙ぎ倒し、再び飛来が止んだ。&br;
今度はそちらへと、向きを変える丸太たち。&br;
再びその背後から、樵たちは現れ出た。&br;
&br;
岩々が丸太の姿を次々と露にし、樵たちが丸太を切り倒す。&br;
援護がなければ、森の中の開けた土地で戦わざるを得ない、丸太との戦い。&br;
そんな中で、投石器を打撃力ではなく、索敵に用いる。これが、樵たちの策であった。&br;
これまでであれば投石器に裂く人員の不足から、とてもではないができなかった、投石器の多方面運用。&br;
エンジンという新たな仕組みが、それを可能にした。&br;
&br;
&br;
「エンジンの熱を良く見ろ!爆発すれば、死ぬのは自分だということを、把握しておけ!」&br;
若い士官が、並ぶ投石器の近くで声を張り上げる。&br;
森の中、開けたその場所は、停止戦闘を行うための陣地というほどに構築されてはおらず、ただ投石器とバリスタ、加えて僅かな兵士が居るだけだ。&br;
丸太の毒を恐れたがゆえに、若い士官たちの間には、投石器やバリスタのという遠距離攻撃への信仰があった。&br;
それ故の先の大敗であったが、その信仰は確かに、若い兵士たちにエンジンという新たなツールへの親しみと、慣れを与えていた。&br;
焼け付きそうになるエンジンを下げ、予備を前に出す。&br;
そして巻き取り、岩を装填、投げつける。&br;
その繰り返し。&br;
次々と岩が空を跳び、そして一定量を投げ終えれば、一時の中断。&br;
丸太を惑わし、樵によって刈り取る時間を稼ぐ。&br;
&br;
不意に木々を掻き分け、投石陣地に丸太が現れ出た。&br;
ざわめく兵士たち。しかし、若い士官は冷静に声を上げる。&br;
「バリスタ隊!射ろ!」&br;
投石器の間に陣取ったバリスタ部隊が、エンジンを始動させる。&br;
三度のキックの後、エンジンは轟音を立ててバリスタの弦を巻き上げた。&br;
投石器へと迫る丸太。そこへ、バリスタから射られた1m近い矢が、次々と突き刺さる。&br;
同時、破裂した。バリスタの脇に控える魔術兵が矢へと籠めた魔力が炸裂したのだ。&br;
普通に魔法を放つのに比べ、遥かに効率的な魔力運用。&br;
魔力を炎へ、氷へ変えずに、ただ力として用いる術。&br;
迂回してきた丸太の本隊であればとても手には負えぬだろうが、恐らくは分隊だったのだろう。&br;
投石器へと赴いた丸太たちは、バリスタの矢を受け、壊滅した。&br;
#endregion

#region(出現)
それが現れたのは、突然であった。&br;
なぜ最初に気づかなかったのか、誰もわからない。&br;
あまりに大き過ぎたゆえ、現実感が乏しかったのか。&br;
それとも、本当に空中から湧き出たのか。&br;
唯一ついえることは、それは余りにも大きく、そして恐ろしい何者かであった。&br;
&br;
パリスがその知らせを聞いたのは、本陣のテントの内部で、地図を見ながら士官らと今後の戦局に関して話し合いをしていた時だった。&br;
既にエルゼ辺境伯領における丸太の、その殆どを駆逐しており、後は最後の詰めを行うのみ。&br;
投石器とバリスタの恩恵か被害も少なく、先の大敗を含めれば大勝とは言わずとも、十分勝利の部類に入る。&br;
そんな空気の中に、もたらされた報せ。&br;
&br;
駆け込んできたのは、若い一人の伝令兵であった。&br;
その兵は、テントに入るなり、何を言うでもなく、頭を下げるでもなく、ただ口元を震わせて。&br;
それを訝しげに思った士官の一人が尋ねる。&br;
「どうした。丸太に援軍が来たか?」&br;
伝令兵はその問いかけに、曖昧に頷いた後、震える手でテントの外を指差す。&br;
そこで初めて、パリスを含む一同は、外がずいぶんと静かなことに気が付いた。&br;
&br;
テントから駆け出た一同が目にしたのは、これまでに見たことのないものだった。&br;
硬直し、動けぬ一同。同様に、本陣に居る兵士たちも、完全に動きを止めている。&br;
そんな中、誰かが呟いた。&br;
世界樹、と。&br;

不意に、本陣の頭上に影が差した。パリスは咄嗟に上を向き、叫ぶ。&br;
「っ、陣から離れろぉぉぉぉぉぉぉっ!」&br;
言うと同時、駆け出す。&br;
その声は陣に響き、多くの者が硬直から解かれ、己らの主の声に従った。&br;
ただ、それに従えなかった幾人もは、その場に残り、目にした。&br;
己を押しつぶす、巨大な木肌の豪腕を。&br;
#endregion


#region(胎動)
森の夜。かつての本陣から僅か離れた場所には、火が焚かれていた。&br;
火の周囲に集まる大勢の兵士たち。その多くは疲労した表情を浮かべ、無言のままだ。&br;
丸太は自衛を除いて、夜には活動しない。だからこそ、こうして火を焚いて休むことが出来る。&br;
そして、未だ彼らは全滅せずに居られるのだ。&br;
突如現れた巨大な丸太は、恐ろしいほど冷静に、兵士たちを殺した。&br;
手を振り上げ、振り下ろすまでにかかる時間は長く、逃げ惑うこと自体はそう難しくもない。&br;
だが、その巨躯に呆然とした兵士や、せめてもの反抗といわんばかりに投石器やバリスタを打ち込んでいた兵士たちは、その振り下ろす腕から逃げ出すことは叶わなかった。&br;
夕刻になってようやくその蹂躙が止まって後、散り散りになっていた兵士たちは、ゆっくりとこの場所に集まった。&br;

周囲で最も高い木の枝。周りの木々の葉を抜け、周囲を見渡せるその場所に、パリスは座していた。&br;
視線の先には、月に照らされた巨大な丸太。いつしか誰もが世界樹と呼んでいる相手。&br;
月の下、そいつは一切動くことなく立っていた。&br;
「伯、ここにおられましたか」&br;
ふと声がかかる。木の下を見れば、歳若い士官が身軽に木を上ってくる。&br;
「あぁ。確か……」&br;
「ミラルです。ミラル・キント……階級はいらないんですよね?」&br;
「あぁ。堅苦しいのは好かん」&br;
「あはは。伯らしいです」&br;
士官は男の腰掛ける枝の近く、少し低い位置の、異なる枝へと腰掛ける。&br;
そして視線を向けた先は、男と同様、巨大な丸太。&br;
「兵たちは、噂しています。勝ち目などないのではないか、と」&br;
「………」&br;
「もしかするとアレは古い神で、我々は怒りに触れたのでは、と」&br;
「………」&br;
無言のままのパリスに、ミラルは溜息一つ吐いて、相手を見上げた。&br;
パリスはただ、強い視線で世界樹を見ている。ふと、口を開いた。&br;
「……ミラル。お前はアレに勝てると思うか?」&br;
「さて、どうでしょう。私には方法が皆目検討付きません。まぁ、森ごと焼けば可能かもしれませんが」&br;
「本気で言っているなら少し怒るが、まぁ、間違ってないな」&br;
パリスは苦笑し、ミラルへと視線をやった。&br;
ミラルは飄々とした顔で、パリスを見上げたままだ。&br;
「伯は、どう思われますか?」&br;
「俺が無理だって言ったら、お前はどうするんだ」&br;
「逃げますね。とりあえず首都へ」&br;
さらりとそんな台詞を吐くミラル。パリスは怒ることなく、笑った。&br;
「だろうな。俺でもそうする。っつーことは、俺は言わなきゃならんわけだ」&br;
「なんと?」&br;
「勝てる。俺が勝つ、ってな」&br;
パリスの台詞に、ミラルは苦笑を浮かべた。肩を竦める。&br;
「傲慢な台詞ですねぇ」&br;
「何か忘れられやすいが、俺は貴族だぜ?貴族ってのは傲慢なもんだろうさ」&br;
にやりと笑うパリス。木の上で立ち上がった。&br;
「……勝負をつけるなら、早い方が良い」&br;
「えぇ。伸ばせば伸ばすほど、兵士の厭戦感は加速するでしょうな」&br;
「だから、明日の朝には動く」&br;
「……策がおありで?」&br;
意外そうな表情で、ミラルはパリスに問いかけた。&br;
パリスの顔に浮かぶのは、不敵な笑み。&br;
「策なんて上等なもんじゃねえさ。パリス・エルゼ、一世一代の、大博打だ」&br;
#endregion

#region(鼓動)
朝靄の中、兵士たちは動き始めた。&br;
夏の朝は早く、世界樹を含む丸太が動き始めるのも早い。&br;
だからまだ薄暗い中、疲労感とともに、兵士たちは活動を始める。&br;
&br;
整列し、号令を待つ兵士たちの前に立つ男、パリス・エルゼ辺境伯は、大きく声を上げた。&br;
「作戦は、昨晩説明したとおりだ」&br;
声は、男のそばに立つ魔術師によって増幅され、兵士ら全員に届く。&br;
それを聞く兵士の中には、逃げず、この場に残ったミラルの姿もあった。&br;
「我々は今朝のうちに、あの世界樹を叩く」&br;
その声を聞く兵士たちの表情には、緊張と疲労が。&br;
若い兵士にはそれに絶望感が追加され、老いた兵士にはそれに確固たる確信が追加されている。&br;
「兵らの中には、無謀だと思うものも居るだろう。だが、やらねばならぬ。やらねばならぬのだ」&br;
パリスは、手元の斧を振り上げ、世界樹を指し示す。&br;
「我らは樵だ。だから、やるのだ。我々は、今日、世界樹を切り倒す」&br;
#endregion

#region(世界樹斬り)
雄叫びが聞こえている。&br;
兵士が多数、森の中を駆けていた。&br;
剣を持つものはいない。斧、そして一部は鉈を。駆ける兵士は握っていた。&br;
ねじくれた木々は、彼らの行く手を遮る様に何本も生えている。&br;
その間を、兵士たちは身を屈め、跳ねて、通り過ぎていく。&br;
次第に見え始めた、行く手の明かり。森が開ける。&br;
森を出る寸前、兵士たちは木々を駆け上り始めた。&br;
ねじくれたその形を利用して、足をかけ、跳ね上がり、そして宙を舞って、森を抜けた。&br;
&br;
視界の先に立つのは、奇怪な灰色の巨人。&br;
節くれ立ち、まるで丸太の木肌のようなその皮膚。&br;
人をなぎ払いうる太い腕。&br;
そして首はなく、下半身から頭までがまるで一本の木のように。&br;
巨人は丸太と呼ばれていた。&br;
丸太たちは、まるで守護するかのように、世界樹の足元へと集っている。&br;
そして森を駆け抜けた兵士たち。&br;
跳ねたその勢いで、斧を、鉈を振り下ろす。&br;
巨人の数は、数え切れない。巨人一体に、十人近い兵士が飛び掛り、そして刃をつきたてた。&br;
剣の刃では通るまい。兵士らの刃にも、硬い音を立てて弾かれるものが幾本もある。&br;
だが、彼らのうち、熟練したものは、巨人の腕を、身を、一刀両断にしていた。&br;
&br;
彼らの名は樵。&br;
斧を振るい、鉈を振るい、丸太を切り倒す樵である。&br;
切断した断片から、ぱぁっと空中に何かが散った。&br;
それを吸った若い樵のうち幾人かが、己の刃で己の身を、足を、腕を切る。&br;
奇しくも、目の前の丸太が切られたのと同じように、彼らは己を刻んでいた。&br;
気にする様子もなく、兵士たちは進む。&br;
樵の仕事は、丸太を切ることである。&br;
そして今は、もう一つ。己の主を、世界樹の元へと辿り着かせることである。&br;
&br;
彼らの主は、彼らに遅れて駆けていた。&br;
森が開けて後も、樵たちの葬った丸太の遺骸を足場として、徐々に、徐々に高い位置へと駆け上がる。&br;
その姿は、獣か、人か。金色に染め上げられた短髪が、朝の光を浴びて光る。&br;
男はエルゼと呼ばれていた。樵のエルゼと。&br;
&br;
男の道を、樵たちが切り開く。男は樵たちを信じ、進む速度を一切落とさない。&br;
徐々に、遅れる樵が出てきた。&br;
そのうち幾らかは倒れ付し、命を消したものであり、そのうち幾つかは、脇から訪れる丸太を相手取っている。&br;
見慣れた老仕官の姿があった。昨日駆け込んできた、伝令兵の姿もあった。&br;
エルゼ辺境伯軍は、今、その全ての人員を費やして、作戦に臨んでいる。&br;
&br;
そしてついに、樵たちは辿りついた。世界樹の足元だ。&br;
樵の一群が割れた。世界樹の周囲へと回り込むように、散開する。&br;
同時、風を切る音が聞こえてきた。&br;
世界樹の豪腕が振り下ろされる。&br;
その腕は樵を狙い、同属のはずの丸太ごと、大地を粉砕した。&br;
今の一撃で、幾人樵が死んだかわからない。だが樵たちは、動き回る。&br;
時に集まり、時に別れ、まるで踊るように。主の歩みを助けるために。&br;
そして樵たちの主は、彼らの遥か頭上に居た。&br;
&br;
&br;
パリスは駆ける。世界樹の足の上を。&br;
木肌のごとくざらつき、時に瘤のあるその肌と、所々に突き出た枝を足場として、駆け上る。&br;
その手に持った斧を肩に担いで。世界樹の振り下ろす豪腕の影響で時に揺れるその上を、危なげもなく。&br;
不意に、目の前に障害物。&br;
人のサイズの丸太が、世界樹の地肌から生えるように沸き出でた。&br;
パリスの行く手を塞ぐように、それらは一斉に向かってきて。&br;
そして、パリスの後ろから投擲された斧によって粉砕される。&br;
パリスを追い越した幾つかの影。その中には、ミラルの姿もある。&br;
雄雄しく叫びを上げ、己の斧を掴み、次の丸太へと向かっていく。&br;
「伯!ここは我らが!」&br;
異口同音に叫び、次々と丸太を粉砕していく。&br;
彼らの切り開いた道を、パリスは駆け上っていった。&br;
&br;
足から腰へ、腰から胴へと上るにつれ、きつくなる傾斜。&br;
木肌を駆けるのは難しくなり、枝に足をかけ、登っていく。&br;
最早ともに駆ける樵は居ない。&br;
先ほどよりは数も減ったものの、まだ湧き出る丸太たちを、男は粉砕し、先へ進む。&br;
肩口まで辿り付いた。一度足を止めて、上を見る。枝のない木肌。&br;
舌打ち一つ。己の背に、天狗の翼のないのを憎らしく思った。&br;
&br;
そこに遠距離から聞こえた爆音。耳慣れたその音は、バリスタの弦を引くエンジン音。&br;
次の瞬間には、男の近く、世界樹の顔に当たる部分に、長矢が突き刺さっていく。&br;
次々と作り上げられる足場。バリスタの威力にしても、余りにも強すぎるその威力。&br;
宙を舞う矢はその軌道の途中、後部を破裂させ、加速し、この距離へと上っていた。&br;
仕組み的には、丸太を粉砕するために用いた魔力炸裂弾頭を、前後逆転させた形だ。&br;
男はちらりと、矢の発射元へと目をやった。&br;
若い士官が周囲へと命じているのが、遠目に見える。&br;
テーブルを運んでいた姿とは大違いなそれに、パリスの表情には場違いながら笑みが浮かんだ。&br;
そして足場を駆け上がる。&br;
背に翼はなくとも、男には仲間がいた。&br;
&br;
駆け上った先、最後の一段が足りない。&br;
男は肩に担いでいた斧を、勢い良く投げつける。世界樹の木肌に深々と突き刺さる斧。&br;
手馴れたそれを最後の足場とし、男は世界樹の頭部、頂点へと上り詰めた。&br;
丘のように広がるその場所を、無手で駆け抜ける男。&br;
丸太が出てくることはなかった。男はただ、その場所を駆け、そして足を止めたのは、その丁度中心。&br;
腰の後ろから、男は棒を取り出した。それを振って、展開する。&br;
長槍。冒険で手に入れ、子供を救い上げた古びた長槍が、男の手の中に。&br;
そうして男はそれを振りかぶれば、世界樹の中心へと、突き刺した。&br;
深々と突き刺さる槍。しかし、この巨体の致命傷とはなりえない。&br;
男もそれは知っていた。槍へと背を向けて、駆ける。&br;
世界樹の頭の淵、先ほど突き刺した己の斧を引っつかみ、木肌を蹴り、宙へと舞った。&br;
落ちる。遥か高みから、男は地面へ向かって。&br;
&br;
&br;
それを視認したのは、地上に座した、年老いたローブ姿の男だった。&br;
魔力で強化した視野の中、宙へと舞ったパリスを見届けて、周囲へと声をかける。&br;
「伯はご自身の仕事を遣り遂げられました。はじめましょう」&br;
頷いたのは、老人の周囲に居た男たち。&br;
昨日までは、バリスタの隣に立ち、そこに魔力を注いでいた、魔術師たち。&br;
いずれもローブ姿の彼らは、ぱっと周囲に散った。&br;
そして己の位置へと杖を持ち、立つ。&br;
大地に描かれた、巨大な魔方陣の定点へと。&br;
中心に座した老人が、唱える。&br;
それに唱和する男たち。魔方陣が煌々と輝いた。&br;
老人を、男たちを結んだ光の線が渦巻いて、そして宙へと伸び上がり、天へと。&br;
雲一つない、晴天。&br;
次の刹那、神雷が落ちた。&br;
&br;
世界樹は、それに気づいた。&br;
己の頭上、巨大なエネルギーが展開されていることに。&br;
足元、丸太たちは数を減らしたものの、まだ戦っている。&br;
それを気に留めるでもなく、足を踏み出し、そのエネルギーから逃げようと。&br;
だが、開放されたエネルギーは、逃げる世界樹を追う蛇のように、その軌道を曲げる。&br;
もしもそれが落ちる先が、世界樹の腕であれば。足であれば。&br;
世界樹は痛手を負えども、生き残ったかもしれない。&br;
だが、パリスの突き刺した槍に描かれた文様が、雷を引き寄せた。&br;
そして、世界樹の頂点に、雷は直撃する。&br;
&br;
宙を落ちるパリスは、その光景を至近で目にした。&br;
天から落ちた雷が、世界樹を真っ二つに粉砕するのを。&br;
それと同時、ぱぁっと世界樹から、何かが散った。&br;
最も至近にいたパリスは、それを吸い込む。人を狂わせる、その毒を。&br;
だが、効かない。パリスの目には、理性が残っている。エルゼの血は、丸太の毒を無に帰す。&br;
パリスは大きく笑う。掴んだ斧を世界樹へ向けて、叫んだ。&br;
「怪物よ!世界樹よ!さらばだ!俺たちは、樵はお前を、切り倒した!」&br;
#endregion
&br;

&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
//>こっそり//にスイッチを置いてくる祭り!
//※()は各自で消すか、書き直して下さい また面倒な方は一部または全部消してくれてもOK
#region(置かれてたスイッチ。誰か読むのか?これ)
恋愛スイッチ (○)&br;
戦闘スイッチ (○)&br;
文通スイッチ (○ まずないことだけど、コメント表示件数も5件までなら増えてもきっと大丈夫)&br;
エロールスイッチ (○)&br;
コメアウスイッチ (○)&br;
ぽるのあスイッチ (○ 需要のないエロ)&br;
引きこもりスイッチ (× 一応出かける)&br;
長時間会話スイッチ (○ ただし文通になる可能性もあり)&br;
月刊ゴルロアスイッチ (○ 需要の以下略)&br;
ランダム判定歓迎スイッチ (○)&br;
せっかくWiki新しくなったんだし、昔みたいに何でもありで良いじゃない。ごるろあだもの。&br;
#endregion

#region(もしもボックス)

#region(黄金暦165年 1月 貴族護衛依頼)
元よりおかしな話だったのだ。&br;
エルゼ辺境伯を護衛せよ、などという依頼は。&br;
子飼いに命じた調査は結局間に合わなかったが、どう考えても、罠だった。&br;
&br;
熊、グリフォン、暗殺者。&br;
まるで図ったかのようなタイミングで、それらは現れた。&br;
熊を殺し、グリフォンから逃げ、そして、暗殺者に道をふさがれた。&br;
背後にいるはずの貴族、依頼書が本当であれば、エルゼ辺境伯の乗った馬車を守らんと、冒険者たちは果敢にも戦って。&br;
そして、既にパリスの周囲には、共に旅路を進む仲間たちの死骸が転がっていた。&br;
&br;
己を囲む暗殺者らを睥睨する。所々、手つきが危うい敵たち。&br;
恐らくはまだ、見習いといったところだろう。しかし、数は力だった。&br;
グリフォンから受けた脇腹の傷が、じくじくと痛む。&br;
熊にやられた左肩の痛みは、最早感じなくなっている。&br;
「他の連中を、巻き込んだのだけは、俺のミスだな……」&br;
歯を食いしばれば、奥歯がぎり、と鳴った。&br;
&br;
相手はこちらを見て、動かない。&br;
こちらが弱り、抵抗も出来なくなるのを待っているのか。&br;
このままではジリ貧だ。そう思い、担いだ斧を握る手に、力を込める。&br;
瞬間、不意に、背後の馬車から音がした。&br;
続いた声は、聞き覚えがある。&br;
「もういいんだ、パリス」&br;
「あぁ?」&br;
&br;
腹に響く衝撃。視線を落とせば、己の腹部から突き出す銀色のもの。&br;
パリスの口から、こぽり、と血が毀れた。&br;
ぎりぎりと音のしそうな動きで、視線を背後へと向ける。&br;
そこに立っていたのは、己の見知った顔。&br;
咳き込みそうになるのを我慢して、口の中の鉄臭い味を飲み下し、言った。&br;
「……おい。どういう了見だ、ミディオ」&br;
ミディオ・シーアの姿が、そこにあった。&br;
己の腹を貫く、剣を握って、そこに。&br;
&br;
崩れ落ちそうになるのを我慢して、立ち続ける。&br;
そして、気づいた。己の背後、ミディオ・シーアの目に、理性の色がないことを。&br;
あたかも丸太の毒に犯されたかのような相手の様子に、パリスは怒りと共に吐き捨てた。&br;
「王の、毒か……ッ」&br;
「世界樹を切り倒したお前を、野放しにはしておけんのだ、パリス。パリス・エルゼよ」&br;
ミディオはそう言うと、パリスの腹に突き刺した剣を、抜いた。&br;
その場に崩れ落ちそうになるパリスの体を、その首元を掴むことで支えて。&br;
「だから、お前はここまでなのだ。さらばだ、我が友よ」&br;
「……クソッタレ」&br;
暗殺者たちが動いた。一斉に跳びかかり、剣を突き出す。&br;
パリスの体を深々と貫いた何本もの剣は、背後のミディオの命ごと、パリス・エルゼを葬った。&br;
&br;
&br;
「教官。こいつらの死体はどうしましょう」&br;
「刻んで犬にでも食わせてしまえ。王に逆らったものたちの死に様が、綺麗なものであってはならぬ」&br;
「わかりました」&br;
#endregion

#region(黄金暦165年 4月 人型の怪物討伐依頼)
己の身へと、深々と突き刺さるモンスターの腕。&br;
体温の低いそれは、確かに己の急所を貫いていた。&br;
脇腹から抜き取られたモンスターの手に握られていたのは、恐らくは肝臓か。&br;
崩れ落ち、地面に横たわったまま、視界の隅に潰れるそれを見ていた。&br;
傷口は燃えるようで、体は凍るように。&br;
熱くて冷たい。不思議な感覚だった。&br;
&br;
傍らに転がった斧に手を伸ばそうと、力を込める。&br;
重い獲物を軽々と扱い、丸太を切り倒してきたはずのその体に、しかし力は入らなかった。&br;
指一本動かせない。体が重い。横たわったままの己の腕。&br;
こんなことならば、もう少し細い方が良かったのではないかとも思う。&br;
大きな体を持っていても、こういうときは逆に役に立たない。&br;
&br;
ひゅう、と喉から息が漏れた。視界が明滅し始める。&br;
薄らぼやけた風景の中、己の同行者たちが次々と倒れ伏すのが見て取れる。&br;
あぁ、糞。あぁ、クソッタレ。&br;
出ない声で、呟いた。&br;
&br;
帰ったら嬢ちゃんに飯を作らなきゃならん。&br;
口の中が鉄臭くて気分が悪い。&br;
親父の忌もそろそろだ。&br;
なんだ、やらなきゃならんことだらけじゃないか。&br;
嬢ちゃんはもしかすれば人型の相手を殺したのだろうか。大丈夫か。&br;
喉が詰まる。咳き込んだ。&br;
税収調査を手紙にして送らなければ。&br;
息苦しい。&br;
倉庫から絵本もまだ出していない。&br;
庭の倉庫を片付けたあと、何処に置いたんだったか。&br;
治水工事の資料を机の上に。&br;
林業の補填金を出さねば。&br;
夏の前に屋根の修理を。&br;
なんでこんなに暗い。&br;
暗い。世界が真っ暗だ。&br;
     。&br;
  。&br;
寂しい。&br;
    。&br;
 。&br;
………。&br;
&br;
&br;
がつり、がつりと音がする。&br;
男の身を食う音が。&br;
#endregion
#endregion
#region(黄金暦168年 2月)
かつて己の左腕を食いちぎったのは眼前の化け物だと、パリスは悟った。&br;
傷跡が疼いた訳でもなければ、目に見える痕跡があった訳でもない。ただ、分かった。&br;
あの日、惨めにも敗走した後、依頼主の住む村はなくなり、結果オーガの行方も知れなくなった。&br;
方角も距離も全く違う。だが、こいつだ。&br;
&br;
そして結果も、あの日の通りだった。違うのは、左が右になっただけだ。&br;
相手の持つ鈍い切れ味の刃物が、右腕を薙いだ。斧ごと飛んでいくそれを見る。&br;
次の一撃を回避するために背後に跳び、そこで、呼吸。&br;
は、という呼気と共に筋肉の緊張が緩み、切断面から、血が迸った。&br;
急激な血圧の降下に、意識が途切れそうになる。&br;
断たれた腕に力を込めて、血の流れを止めようとするが、止まりきるはずもない。&br;
斧を掴んだまま転がった、己の右腕。汚い傷口。あれでは縫い付けてもくっ付くまい。&br;
こちらの様子を見て叫んだ、名を思い出せない同行者が、頭を飛ばされた。&br;
それに動揺したもう一人も、上半身と下半身が泣き別れた。&br;
自分の間抜けを原因に、二人死んだ。歯を食いしばる。己で三人か。&br;
&br;
7年冒険を続けたからといって、化け物の表情が読めるようになったわけでもない。&br;
だから、背後の木に凭れ掛かった己に近寄る化け物が、どんな表情を浮かべているかなど、わかるはずもなかった。&br;
次第に視界が狭まってくる。視野の中心だけが明るい。&br;
振り上げられた相手の獲物が辛うじて見えたから。&br;
最早存在しない腕を掲げて、受け止めようとした。&br;
&br;
ぎゃりぎゃりと、硬いものを削るような音と、続いて背から伝わった振動。&br;
まだ意識がある。茫洋とした視線で、己の頭上を見た。&br;
途端、意識が覚醒した。&br;
見覚えのあるものが、そこにあった。丸太だ。奴らの、硬質の木肌が目前にある。&br;
驚き、その場から離れようと身を屈める。&br;
地に手を着き、横へ跳ねた。己の居た場所に残っているのは、大木に刃先を食い込ませたオーガだけ。&br;
丸太は、何処に行った。周囲に視線を巡らせても、何処にも居ない。&br;
不意に足元がふらつく。咄嗟に動いた結果、訪れた貧血に、男は頭を抱えて、そこで気付いた。&br;
&br;
なんだ、これは。&br;
かつては己の両の腕があった場所に生える、奇怪なもの。&br;
節くれ立ち、まるで丸太の木肌のような皮膚から成った、二本の腕。&br;
&br;
動揺する男の元へ、大木から獲物を引き抜いたオーガが襲い掛かる。&br;
そして男が咄嗟に掲げた腕は、硬質の音を立てて、オーガの刃を受け流した。&br;
鈍った刃では通るまい。砥がれた刃ですら通らぬ木肌だ。これを断つには、斧か鉈でも必要だろう。&br;
動揺し、頭の中が真っ白になったまま、男はかつての右腕の元へと駆ける。&br;
既に生きている仲間たちは逃げ出している。&br;
他のオーガたちもそれを追っていったようで、残るは己と、背後の敵だけだ。&br;
断たれた右腕が握ったままだった斧を、引っつかむ。&br;
左の手で右腕の残骸を引っつかめば、背後のオーガへと投げつけた。&br;
相手がそれに気を取られているうちに、男は木立の中に駆け込んだ。&br;
森の中であれば、男が逃げ切れないはずもなかった。&br;
男は斧だけを掴んで、ただ、逃げる。&br;
&br;
&br;
しばらくして。街道が見えたところで、男は座り込んだ。限界だった。血が足りない。&br;
ゆらり、と身が傾いで、仰向けに横たわる。くらくらとする意識の中、持ち上げた腕を見る。&br;
どう見ても、人の腕ではなかった。サイズも、以前の腕より一回りは大きくなっている。&br;
くそ、と一言呟いて。男の意識はそこで途絶えた。&br;
&br;
街道を行く行商人が、かつて護衛を頼んだ男の姿を見つけて町へと運んだのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。&br;
#endregion

***コメントアウト [#y85ad2b5]
///保存してがおーん!

///森のくまさんの話をしたら熊に葬られた
///何を言っているかわからないと思うが俺もわからない

//オーケー、やっと落ち着いた(ガタガt
//不運と踊っちまったってそういう…
//ツリーはお風呂中なんだよね…ううむ
//…〆るかいー?(やんきー

///まさかのタイミングにこの二日思考停止してたごめん
///どうしようね!とりあえずお風呂の返信を返さないと…
///元ヤン的にはどうしたいか聞いてもいいかい?<〆る
///こういうことはあんまり言っちゃいけないかもしれないのだが
///こっちには貴族しか現行キャラがいないので、続けるも〆るもどちらでもいけるのだ

//まぁ、お互い時間会わないで一日一レス会話だったからしかたない…
//1回のスパンが長いから、こうなる確率は以上に高く…!
//んー、薫としてはずっと幸せに…が理想だけど、
//お互い活動時間が上手く合わないからねー…ここいらで〆るのもありかなと思う
//夜早くに寝ることが多くてすまない…
//このままの感じで良いなら戻ってきて! 薫が引退か死ぬまで付き合うよ!
//〆るとしても、
//死亡引退でも、死亡死亡でも、引退引退でも、引退死亡でも付き合うよ!

///文通の途中死亡率はもう語るまでもないことでありました…
///活動時間に関してはもうこちらも土下座なので…むしろ遅く帰って早く沈む+寝落ち分、こっちに軍杯があがる…
///ではすみません、生き汚く戻って来ます
///冒険どうするかちょっと考えますー

//まさに あよ
//    るく
//実生活が一番なのよ! しかたないさー! 悪い所探しは無しだ!
//あいー、じゃあ、とりあえずお風呂どうしよう
//ちゃっちゃとあがるー?

///ただいま…(ぐったり
///おふろどうしようね。折角おいしいイベントで元やんさんお風呂の外にも何か仕込んでるっぽいのに…もったいない
///とりあえずちょっと考えて
///1)引退後イベントを前倒しする:もう冒険しない
///2)ずたぼろで帰ってくる:冒険しばらく休止
///3)血生臭く色々あったけど無事戻ってくる:即再登録
///の3パターン分岐しました

//このまま時間をかけてこのシチュエーションを終えるのもありだし
//結局シなかった後にパリス堕ちでも良いし
//引退後イベントとかなら、その後にめでたしめでたしでも良いし
//そこは、どれをしたいかをパリスが決めて良いのよ

///折角だしお風呂は何とかしたい!
///たぶん3)になりそう!でも死亡報告からちょっと帰ってこないまま一月とか二月とかが過ぎるヨ
///明後日まで仕事がちょっと詰まってて返信できないかもしれない本当にごめんなさい
!
///の三本でお送りします!(土下座

//(とりあえずどうなるかを死亡後から見守っている某洋菓子店店員。)

//(そして数週間ずっと5時起きで夜遊べないでうにょうにょするヤンキー
//(店員を抱っこしつつまつ

///やぁ貴族だよ!(瀕死で
///ヤンキーにはヤンキーコメアウを見て欲しい!(店員にお茶を出しつつ

//(身長的にもスリーサイズ的にも自分の方が上なのに、と思いながら大人しく抱っこされる店員。)
//(とりあえず、こちらは最後のあいさつが出来ればそれでいいので、お二人とも納得のいく最後になるよう祈ってます。)

///ま、まだもうちょっと続くんじゃ 多分…?

///かぜがなおらなくてつらい…

///いえにかえりたい
#endregion