[[FA/0096]]

-あの災害が起きて以来初めてシェルターを抜け出し、曇天の薄明りの中で辺りを見渡した&br; かつての馴染みある世界は失われ、その代わりに歪んだまがい物たちが蔓延っている&br; &br; 全てを捨て置き、必死でここに辿り着いた。手元には武器も、食糧も、水も無い&br; この状況を生き抜くために必要なのは、自らの機転と強い意志に他ならない&br; &br; 昨晩は悪夢を見た。生者を羨み命を奪い取ろうと立ち上がる死者の群れ&br; 今は夢よりも更に酷い現実に直面している。見通しは非常に厳しい&br; &br; 眼前に伸びた道を見据え、遠くの民家へ向かって歩き出した&br; これから先、この絶望的な道を歩み続ける事になるだろう&br; ⋮&br; &ruby(DARK DAYS AHEAD){''暗黒の未来に向かって。''}; &br;&br;&br;
--〜''幕間''〜 --  &new{2017-10-21 (土) 00:52:07};
---&br; 37年目の冬、肌を刺すような冷気を防ぐ毛皮の外套が風に棚引く。&br; 外套の上からでもわかる異常に発達し、隆起した筋肉は熊を思わせる。&br; 直立2足歩行で人のシルエットをしているが、その身体は人のそれにしては大きく&br; 灰色熊…グリズリーと並び立って謙遜ない3m近い体格をしている。&br; &br; 彼を一言で現すならば、機械と変異の化物。そう言い現すしかないだろう。&br; &br; あの災害が起きてから今日まで生き抜く上で、手に入れたモノと、捨ててしまったモノ&br; それらを天秤にかけ比べることの無意味さはわかっていても、ふと時々思い返してしまう&br; &br; そんな人間らしい感情と感覚もまだ残っているならば、この姿であっても大丈夫だろうと&br; 彼は一人、大型のサバイバーマスクの下で歪な牙の生えた口角をあげて笑う&br; &br; 物資を求め、ウェストサイドを走る。彼の巨体では車にのるのも難しく短距離の移動には&br; 装甲車のホイールと頑強なフレームを組み上げた自作のバイクを使用する&br; &br; 長い月日でボロボロになった主無き建物、火事でもあったのか燃え尽きた喫茶店&br; かつての人の営みの残骸がところどころに残る街でバイクを止める。&br; &br; 男の視界の先にはかつては住人であり、人の形をしていたであろう死者の群れ。&br; そのなれ果てが数体徘徊している。&br; &br; 長い月日は弱い個体を駆逐し、変異が進んだものだけがこうして街に残っている&br; &br; 一番近い徘徊する死者の距離は…52m。Compact Bionics Module…略称CBMで機械化された小型望遠眼球が&br; 正確な距離を視界の隅に測り出す。&br; &br; 身体から緑色の酸性の液体を垂れ流し、虚ろな目でふらふらと遅い足取りの徘徊者を狙いを定めれば&br; 背中から蒸気を吹き出し、駆動音が肩から腕部にかけて鳴り響く&br; その音に気づいて振り向いた強酸垂れ流すゾンビの頭が一瞬で弾け飛んだ。&br; &br; 男は己に埋め込んだ油圧式の筋肉を駆動させ、足元の道路。砕けたアスファルトの塊を勢い良く投擲したのであった&br; 地面に緑の液体をぶちまけ、膝から崩れ落ちた1体に反応し、生者を怨むかのような声にならない声をあげ&br; 周りのゾンビも男のほうへむかって、歩き走り、襲いかかり始める&br; &br; 元は子供だったのだろうか、丈のあってない衣服に水死体のように膨れ上がった身体から&br; 紫色の発光する液体垂れ流すブーマーが男に向かって吐瀉物のように大量の液体を吐きかける&br; &br; 汚れるのは勘弁だとばかりに、肉食動物ばりに大きく跳躍し、液体を避ければ&br; ケブラー板で補強された右手のXLサイズのグローブを脱ぎ、コルクのような肌に爪の生えた右手を翳す&br; 掌中央の金属球、高電圧放電装置・チェインライトニングが輝けば青白い光の帯が一直線にブーマーへと走る&br; 熱せられたコーンのような小気味良いポンっと言う音とともにブーマーが液体を撒き散らし焼け焦げると&br; そのままに雷の帯はあたりを照らしながら、複数のゾンビに連鎖し、焼き払っていく。&br; &br; 呻き声も一瞬で収まり、肉の焼け焦げたような匂いがあたりを満たすだけだ。&br; &br; &br; 焼け焦げたゾンビの1体、元は軍人だったのだろう、使える素材がいくらかあるので、ケブラー繊維が使われた&br; コンバットブーツなどを拝借し、その場で解体する…&br; &br; 彼の37年。毎日がこのような日々である。死者を殺し、潰し、物資を得る。&br; その街から死者の一人も居なくなれば、また次の街を目指す…生者に最後にあったのは何年前だったろうか&br; 彼の姿を見るなり、大慌てで逃げ出した姿を少し思い出すが、生存者にとって危険予測能力は一番大事であり&br; 逃げ出した彼が今も生き残っていることをただ祈る。&br; &br; &br; &br; 焼け焦げたゾンビ達が、二度と立ち上がらぬよう、死体を全て集めると、バイクのガソリンをかけて&br; ポケットからライターをとりだすと火にかける&br; 燃え上がる死者に、どうか安らかな眠りを…と一声かけ、聖書に手をあて祈る。&br; &br; こんな世界になる前、彼はとても敬虔なる信徒であり。それは今も変わらない。&br; 壊れてしまった世界で彼を支える数少ない物の一つであった。&br; &br; &br; あたりに徘徊する死者の姿が無いのを確認すると、FOOD と大きく看板にかかれた店の残骸へと足を踏み入れる&br; &br; 男が、数年ぶりの生者。はじめは猫やネズミかと思うほど小さく温かい生き物…&br; 自分の身体の大きさのせいでそう見えたと、ふと笑ってしまったが&br; 白い肌、金色の髪、白いワンピース…赤いスニーカー。&br; それが眠っている人間の少女だと気づくのにそう時間はかからなかったのであった。&br; --  &new{2017-10-21 (土) 01:00:03};