*SS置き場 [#j9803278]
-過去話とか色々。
-まぁ設定と同じく複線でござるよ
-ロダに上げると閲覧数が怖いし、名簿に置くには長いので別ページに。
-ID間違えてた……
**少年と父親 [#s890f5d9]
 話があると父上に呼び出された執務室。&br;
「これを読め」とぶっきらぼうな言葉と共に差し出されたのは、王家の印璽が捺された封筒。&br;
「陛下からですか?」と確認を取ると「そうだ」と短い返答が一つ。&br;
身体の端々から機嫌が悪さが滲み出ている。&br;
何か問題のある内容なんでしょうか、と疑問を覚えながら封を切ると、&br;
納められていたのは俺を、とある場所の領事に推挙するとの書状が一枚。&br;
「ゴールデンロア……」&br;
一文字、一文字、確かめるようにその場所の名前を読み上げる。&br;
ゴールデンロア、知っている。数多の冒険者が集い、英雄が生まれる地。セルキウスを訪れる異国の吟遊詩人は口々にそう語る。&br;
けれど、あくまでそれは黄金の地の華やかな面のみを語ったもので、多くの血が流れる場所でもありますよね。と内心に頷いてから。&br;
「でも、どうして俺なんでしょうか?」&br;
同時に沸いた疑問を父上に問いかける。&br;
ゴールデンロア、遺跡あふるる異郷の地。&br;
大部分が内地と言う事もあって、二十年ほど前のセルキウスでは比較的軽視されていたが、&br;
彼の地の領事職にあった先代の国王が数多くの成果を持ち帰った事により、今日に置いては、貿易相手として重要な地位を占める。&br;
十五に満たない子供である自分の身には重い。そう判断しての言だ。&br;
「お前でなければいけない理由がある。胸に手を当てて考えろ」&br;
俺でなければいけない理由、胸に手を当てる必要は無い。先ほど答えに触れている。&br;
「リーベルト先王陛下……父の、事ですか?」&br;
歯切れが悪いのは目の前の、育ての親以外の人を父と呼ぶのに抵抗があるからだ。&br;
俺と父上との間に血の繋がりは無い。黒い髪がその証。確かな絆はあるのだけれど。&br;
人伝に聞いた話では、先王陛下が妻と呼んだ只一人も俺と同じ色の髪をしていたのだと言う。&br;
昔はこの髪の所為で色々と苦労もしたよなぁ。と思いを廻らせながら父上の次の言葉を待つ。&br;
「そう、リーベルト。十五年前の嵐の夜に国を捨てて行方を眩ました先代海王。&br;
 お前の父だ。此度はゴールデンロアでそいつらしき男が見掛けられたって話でな」&br;
「うさんくさい話ですね」&br;
「そうさな。だからお前が適任なんだ。&br;
 俺はお前に戦う術こそ教えなかったが、生き残る術はしっかりと叩き込んだからな」&br;
「それはもう痛いほどに」&br;
苦笑して父上に鍛えられた日々を思い出す。&br;
ナイフ一本で無人島に放り出された事もある。海賊船にスパイとして潜り込まされた事もある。&br;
それに比べれば遠い異国の地の領事なんて天国みたいなものだ。&br;
「まぁ、あくまで推薦なんだからお前には断る権利もある。&br;
 立場は多少悪くなるだろうが、お前の友達には陛下も頭が上がらないしな」&br;
友達と、父上にそう言われて俺は一度だけ目を閉じる。&br;
金の髪を靡かせ、澄んだ瞳を弓にして何時も変わらぬ笑みを浮かべる友の顔。&br;
何時か交わした約束と共に、その表情に思いを馳せて。&br;
「行きます!ええ、行きます!&br;
 ゴールデンロアの冒険者は強くなるのには最適と聞きますから」&br;
気が付けば肯定の言を口にしていた&br;
「冒険者ってお前、別に領事だけでも良いんだぞ。危険が危ない。下手すりゃ死ぬ」&br;
「俺は死にませんよ。生き残る術は父上に散々叩き込まれましたから。&br;
 友との約束もありますしね。それにリーベルト前陛下も冒険者だったと聞きます。&br;
 例え罠でも父の事を探るのなら冒険者になるのが一番じゃありませんか?」&br;
血を分けた父の事を知りたい。その思いに嘘は無い。&br;
そう伝えると父上は大きな溜息を一つ吐いて。&br;
「お前がそこまで言うのなら俺は何も言わん。これは選別だ。持っていけ」&br;
取り出したのは柄に精緻な装飾の施された剣と、銀のペンダント。&br;
剣の方には見覚えがある。何時だったか、父上が式典で身に帯びていたものだ。&br;
「この剣の銘はロンウェン、古代語で西方から吹く季節風を意味するそうだ。&br;
 うちの初代当主が建国王に賜った宝剣だ。お前に預ける」&br;
名剣ロンウェン、知っている。何時だったか親友が俺に話してくれた。バルフォア家の当主の証。&br;
「謹んで受け賜らせて頂きます」&br;
父上に頭を下げて、差し出された剣を丁重に受け取る。&br;
手にしてみれば鞘以外の重さは殆ど感じられない。名剣と呼ばれるだけの事はある。&br;
それに反して意味するところは余りに重いが。&br;
「今は預けるだけだからな。継ぐ気が無いんなら返せよ」&br;
「耳に痛いお言葉ですね。弟が生まれたら返しますよ」&br;
「お前なぁ。まだ新婚さんだぞ、俺は」&br;
軽口を叩いて、剣の重さを少し軽くする。このやり取りとも暫くお別れだと思うと少し寂しさも感じられる。&br;
「ペンダントの方はお守りみたいなもんだ。中に手紙を入れてある。自分が誰だか知りたくなったなら開けろ」&br;
「変な父上。俺はヒャルト、リーヒャルト・バルフォア。バルフォア家が現嫡子にして先王リーベルトの遺児、でしょう?&br;
 俺が誰かなんて、分かりきった事じゃないですか」&br;
「モラトリアムって言葉がある。今はそうやって大口叩いていられても。&br;
 向こうに行ったらお前は一人。何時かは思い悩む日が来るさ」&br;
「そう言うものですか」&br;
「そう言うもんだ。今日の話はこれで終わりだ。もう行けよ。」&br;
預けられた剣を腰に差して、首にペンダントを掛けると一礼をして執務室を後にする。&br;
その時、俺の胸にあった感情は二つ。&br;
これから先に対する不安と、同じだけの決意だった。
**少年と太陽 [#d2e934a4]
あいつと初めて出会ったのは俺がまだ“僕”だった頃。&br;
&br;
十歳の誕生日を迎える少し前、&br;
不慣れながらも教えられた礼儀作法を、何とか一通りこなせるようになった僕が、&br;
一人で行けるな?と父上に念を押されて訪れた王宮の舞踏会。&br;
&br;
その頃にはもう、俺が周りの貴族達と違う事は分かっていた。&br;
&br;
大広間の中、赤い絨毯に白いテーブルクロス、様々な楽器を手にした燕尾服の楽団が演奏を行って。&br;
でも、僕の視界に映るのは黄金色の髪をした身なりの良い人達ばかり。&br;
立派な椅子に座って、皆の挨拶を受ける男の人と女の人は王様とお王妃様だろうか。&br;
稀に茶の色は見られても、黒い髪の子供なんて、何処を見ても俺一人しか居なかった。&br;
&br;
だから一人、片隅に居た。&br;
天上から落ちる光が幻灯機みたいに眩しくて、&br;
煌びやかに着飾った周りの人々が影絵のように見えた。&br;
荘厳な演奏曲も、周囲の囁きと合わさると得体の知れない鳥の声にしか聞こえなくて。&br;
自分が一人、見知らぬ異世界にいたような気持ちだった事を覚えてる。&br;
&br;
でも、唐突に。&br;
そんな世界を突き破って、僕の前に一本の手が差し伸べられたんだ。&br;
真っ白な絹の手袋に包まれた綺麗な右手。&br;
覚えている。鮮明に、他のどんな記憶よりも。決して色褪せる事の無い、その思いを。&br;
&br;
顔を上げると、そこに居たのはとても綺麗な男の子だった。&br;
“中性的な”と言う言葉。当時の僕は知らないけれど、そんな言葉が良く似合う。&br;
薄い金色の髪は、肩の辺りで丁寧に切り揃えられて。&br;
手袋一つを取ってみても、広間の誰より豪奢なのに、決して見劣りする事は無い。&br;
&br;
取り分け僕の心を捉えたのは彼の瞳の色だった。&br;
瞳の中には、まるで青空を落としたかのような綺麗な色が広がっていて。&br;
太陽。そう、確かにその時、僕は彼の瞳の中に太陽を見たんだ。&br;
&br;
手を差し伸べると彼は言った。&br;
「今日は俺の誕生日なんだ」&br;
僕は思った。だから祝って欲しいのかな、と。&br;
でもね。彼は僕のそんな浅はかな思いを打ち砕くように、こう言ったんだ。&br;
「だから、君にも笑っていて欲しい」&br;
差し伸べられた手を取る以上の答えがあったなら、昔の俺に教えて欲しい。&br;
&br;
そして僕らは友達になった。俺の、始めての友達だった。&br;
彼に手を取られて過ごしたその一時は生涯忘れ得ないだろう。&br;
&br;
俺がそんな彼について、一つ勘違いをしていた事に気付くのは、&br;
屋敷に帰り、父上に今日の舞踏会は王女様が主役だったと聞かされてからの話。
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