[[名簿/500244]]

-''月の都　《月宮》'' --  &new{2013-06-15 (土) 23:58:02};
--&br;月。地上から見れば空に浮かんだ輝く円。そこは、天人たちの住む異界である。&br;仙境、仙界、彼の蓬莱山のように、金銀瑠璃の水が流れ、黄金に輝く木々が茂る世界。&br;夢幻の如き様相が、月には広がっていた。高度に発達した文明は、地上の世界を汚らわしい世界と見下す。&br;そんな月世界の都の中心には月の王の宮殿――《月宮》と呼ばれるものが存在した。&br;奇蹟の限りを尽くして作ったような宮殿。あまりに眩い宮殿。それが、月の都の中心に屹立していた。&br; --  &new{2013-06-16 (日) 00:13:56};
---《月宮》――まさしく仙界の中に現れる城のように、それはあった。&br;彼の浦島子が訪れたというような、竜宮城にも似た雰囲気が《月宮》の周りを包んでいる。&br;天人の兵隊や天女さえも寄りつくことのできない、孤高の城。《月なる王の城》――&br;月の王の宮殿こそが、ここであった。&br;月を統治する輝ける君。&br;月を統治する偉大なるもの。&br;月にありて死すことも老いることもない神なるもの。&br;&br;――月読命 --  &new{2013-06-16 (日) 00:32:05};
---&br;《月宮》の奥の神殿――月読命が神として、己自身を祭る神殿――にて、一つの眩い影があった。&br;神殿の奥の高き御座に坐すものこそ、この月世界の支配者、月読命であった。&br;眩い光――それそのものが月であるかのような輝きを秘めた神であった。&br;不思議な月の装束を身に着けたその姿は形容しがたく、まさに輝きの君としか表現のできない姿である。&br;祭壇の頂上に鎮まる鏡は、まさに満月そのものであった。&br;《月宮》の神殿から眺められる地上――地球――の姿は、青い青いものである。&br;輝きの君たる月読命は、その瞳で、地球という惑星を眺める。&br;「――我が月なる輝きも、彼の国においては、夜闇を照らすにすぎぬ」 --  &new{2013-06-16 (日) 01:26:46};
---月読命の声が響く。冬のつららの如き冷厳なる響きが神殿を覆う。&br;刹那、高き御座に坐していた月読命の姿が消えた。「――なればこそ、汝が使命を果たせ。汝が月の輝きを彼の地に齎せ」&br;月読命は祭壇の最上部にまで移動していた。祭壇の頂上に鎮まる鏡がそこに在る。&br;「我が姫、我が娘」&br;月読命が鏡面に触れると、鏡面はまるで水面のようにゆらゆらと揺れ始めた。&br;「――かぐや姫」&br;鏡面は奇怪な共鳴音を出し始めた。凛とした弓の如き音色が、響く。&br;すると、それに呼応するかのように、祭壇の後ろを覆っていた巨大な黄金の壁が開き始めた。&br;その壁が開いた先は、房室となっていた。黄金色に輝く竹林がそこにはあった。&br;竹林の中に、小さな人間なら入れそうな大きさの籠が置かれていた。竹で編まれた籠が。&br;そのなかに、その中に封じられているかのように入れられているものがあった。&br;十二単を着こみ、長く豊かな黒髪を惜しげもなく垂らしている童女。&br;絵巻物の中の、物語の中の姫のように、非現実的な美しさを秘めた童女。&br;それが、捕らわれるがごとく、籠の中に収まっていた。&br;竹林に抱かれるようにして眠る童女、これこそが。&br;&br;――なよ竹の《かぐや姫》である。 --  &new{2013-06-16 (日) 01:57:10};
- --  &new{2013-06-15 (土) 23:44:56};