CENTER:&size(14){''※洋上学園都市の正式ページではありません。&br;一人遊びとありますが、一応参加者募集中です!''};~
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*それはいずれ打ち鳴らされる鐘 [#j10ce1a3]
-学園都市上層、尖塔にある巨大な鐘。それが鳴り響いたその瞬間、この都市に《歓喜の時》が訪れるという。~
《歓喜の時》とは何か、その具体性を知る学生はほとんどいない。~
なぜなら鐘をいただく尖塔に入り口はなく、また統治会メンバーでもない限りはそこに近づけもしないからである。~
&br;
その正体は死蔵されたレプリカ、忌まわしきデッドコピー。~
&br;
Ding-dong, Ding-dong. あまねく世界に顕現した、幾つものの相貌の一つ。~
怨敵を打ち倒すためではなく、ただ観測と快楽のために生み出された虚像。
#br
-この《鐘》はこの世界における解答の一つに過ぎない。《鐘》は他世界にも、そして同一世界においても「違った形」で存在している。~
全てに干渉せず、また阻害されない。全てを受け入れ、また許可される。
*何をする場所なんです? [#m73196db]
-元ネタにちょっとだけ近づけるために、ほぼ一人遊び用シナリオを考えてる場所です。~
+''人狼事件''
-それは悪戯をする子供を寝かすための方便に使われるような、恐ろしい存在。~
学園都市にそれは突如として現れ、そして殺戮を繰り返す。~
その名は、人狼。悪しき人食いの野獣。
#region(登場人物)
#endregion
+''違反学生による機械テロル''
-警ら活動中のヴィジランテが発見した廃工場。そこには旧式の自動警備兵による&ruby(マシナリー){機械化小隊};が待ち構えていた。~
辛くも彼らを退けたヴィジランテは、その残骸から更なるテロルの予兆を掴む。~
先の人狼事件に関わった人物、そして行動的探偵にその情報をリークした彼の目論見とは?
#region(登場人物)
#endregion
+''メスメルとレイピア''
-統治会構成員「ビッグフォー」。シニスター・シックスとは違う形態をとる彼らに戸惑うアンヘリカに、~
ついに招待状が届く。それは統治会の中でも鷹派と目されるピエレッテ・ジャネ女史からであった。~
半ば決闘状じみたそれに、いよいよ状況が深刻になりつつあることを察する魔女をに振りかかる災難とは?
#region(登場人物)
#endregion
+''盲信者、そして狂戦士''
-離反者アンベールに相対する、ビッグフォーのジェンヌ・ドゥ。彼女はビッグフォーの中では最高の実力者であり、理事長とその忠実な下僕に飼われた犬でもあった。~
鐘に願うは事の成就。そして、その先にある破滅。なればこそ、歓喜の時が来る前に、~
愉悦に浸る快楽地獄を楽しもうではないか。殴り合いの泥仕合。
#region(登場人物)
#endregion
+''誰がために鐘は鳴る''
-叶わぬ願いが鐘を満たし、ついにそれは覚醒する。アウトナンバーを名乗る褐色赤眼の男は~
鐘の声に導かれるように、それと同化する。そして顕現するのは、ウルターラホテプ。最上の存在、呪われた神。~
だが鐘はいう。ここは偽りであり、模造品であり、再現にすぎないと。そして、全てが終わればこの地もここに住まう生徒も、用済みであると。~
なればこそ《薔薇》とは違った趣向を用意した、と告げる。それはあまりにも不気味な宣告であった。~
勝算はあるのか。あの《白い男》を一度は葬り去った埒外の化け物に。~
それでも、学園生徒は立ち向かう。自らの輝きを剣にして。~
#region(登場人物)
#endregion
**0 何もかもが始まる前、魔女のお話 [#wcd74947]
#region(いつかどこかの、アンヘリカ)
-これは子供の頃の夢だ。&br;夢というのは喩えで、言うならあれは夢のような思い出というべきか。&br;&br;私には家族がいた。お父さんとお母さんと兄さん。&br;小さな集落に、何家族かが寄り添うようにして暮らしていたあの頃。&br;ちょっとしたことが楽しくて、ちょっとしたことで喧嘩して。&br;&br;穏やかな日々だった。穏やかな日々が続いて、私はここで人生を全うしていくのだとばかり思っていた。&br;きっと両親も、兄さんも、他の家族のみんなでさえそう思っていただろう。&br;&br;そうであるはずだった。&br;私の眼が、黄金に輝くその日までは。&br;運命が流転する。希望に満ちていた未来は逆転する。&br;&br;村人は私を、正確には私の眼を奪おうとした。《銀の星》がどうとか、《旧神の印》再現のための生贄のためだとか。&br;何を言っているのかはわからなかったけれど、とにかく自分の身が危ないことだけはわかった。&br;いつも喧嘩の仲裁をしてくれる兄さんは数ヶ月ほど旅に出ていて、私を守れるのは父さんと母さんと、私自身だけ。&br;&br;鎌を手に、包丁を手に、剣を手に、私はまるで狩りの獲物のように追い立てられた。&br;裸足のまま駆け出したせいで、砂利がとてもいたくて、とにかく泣きじゃくっていた。&br;&br;ようやくたどり着いた、村外れの森の祠。&br;――みんなといたずらして遊んで、**おじさんに怒られたっけ。&br;もう名前も思い出せない。思い出せるのはそのおじさんの目に宿っていた狂気の火だけ。&br;「父ちゃんと母ちゃんを生かして欲しけりゃ、その眼をよこせ」「安心しろ、約束は守る」&br;「大丈夫、一生この村で暮らしていけるさ」理不尽ではあるけど、助かる手段はある。そういうことだろうか?&br;&br;でも、彼らの後ろで「いいモルモットが手に入った」と笑うお医者さんがあまりにも恐ろしかった。&br;絶対に嘘だ。眼だけじゃすまない。直感していた、その時は気づいていなかったけどきっと、&br;この左目は真実を知らせるために閃いていたに違いない。&br;&br;祠の前がにわかに騒がしくなってきた。&br;いつの間にか集まった村の人の前には、血だらけで虫の息のお父さんとお母さん。&br;私をかばって、みんなをどうにかとめようとしてくれたんだ。&br;&br;今でも覚えている。ボロボロになりながらも「逃げろ」と血で掠れた声で言うお父さんの姿を覚えている。&br;何も言わずに、私を安心させるために笑うお母さんの優しい目を覚えている。&br;&br;――私は、諦めようとした。お父さんやお母さん、そして兄さんを守るためなら私の日常なんて――&br;&br;「何してんだ」冷ややかに、そして沸騰するような怒りを孕んだ声が強か耳朶を打つ。&br;「お前、――!」村の誰かが兄さんの名を呼ぶが早いか、血飛沫が舞う。&br;ひしゃげる音。何かが勢い良く風を切り、風の先にある肉と骨を横一文字に断つ。&br;兄さんの手には刀。どこか東のほうに伝わるサムライの武器。&br;&br;「落ち着け! これは邪神を奉じる者たちを滅ぼすためで…!」「やかましい」&br;「我らの悲願へたどり着けるかもしれないのだぞ! お前は何故!」「黙れ」&br;「堕ちた天使もどき、先祖返りを起こしたか…!」「そうだ」&br;村の人が兄さんを諌めても。&br;「…ならん、そればかりは…」「やめて…――…殺してはダメ…」&br;父さんと母さんが兄さんを諌めても。&br;「…狂ってる。僕も、この村も全て狂ってる。わかっているよ」&br;まるで通り雨のように、等しく鉄の刃が閃いた。&br;&br;血の臭いがした&br;土の湿った匂いを覆うように&br;思い出の場所を赤く染めて&br;みな死んだ&br;物言わぬ塊になって死んだ&br;父さんも、母さんも&br;&br;私は誰もいなくなって、すっかり静かになった祠の前で座り込んでいた。&br;赤い池の中で一人、ぼんやりと。&br;兄さんは私の名前を呼んで、最後にこう言った。&br;「遅くなってごめん」&br;「ねえアンヘリカ…僕のように、堕ちちゃだめだよ。衝動を抑えられない獣にはなっちゃいけない」&br;真っ赫な眼をしていた。前は私と同じ、青い眼だったのに。&br;返り血とかそういうのじゃない。ただただ赫いその眼を見て私は、なぜか泣きたくなって。&br;とにかく泣きじゃくった。血だらけの兄さんに抱きついて、ひとしきり泣いて。&br;その時の兄さんは、いつもどおりの兄さんだった。優しく抱きしめて背中を叩いてくれる、兄さん。&br;&br;多分そのまま気を失っていたんだと思う。誰もいない自分の家で目を覚ました時には、3日くらい経っていた。&br;枕元には手紙と、黒曜の剣。&br;&br;『アンヘリカ、君の心は人らしくあれ いかにその血に人ならぬものがあったとしても、心に人を宿し続けろ』
#endregion
#br
#region(酒場にて、冒険者)
-「わたし、たまに思うんだよね」~
「この街には神様も魔王もごまんといるけどさ」~
「それとは別口に、見守っててくれる何かがいるんじゃないかって」~
「そりゃ冒険者だもん。うっかりすれば死にかけるし、実際死んじゃう人もいる」~
「そういうのが続けばやる気もなくなって、引退しちゃいたいって気持ちになっちゃうこともある」~
「でもさー。そんな時に限って、誰かが背中を押してくれるんだ」~
&br;
「ううん、特定の誰かじゃないよ? そりゃ旦那も後押ししてくれるけど、それとは違うの」~
「ギリギリのところでちょっとだけ情熱を回復させてくれたり、致命傷もらったはずなのに何とか勝てたり」~
「そういう、形のない何か」~
「見返りとかなしに、冒険を続けさせてくれる誰か」~
&br;
「絶対いると思うんだけどなー、ね? ね? そういうことあるでしょ?」~
「やっぱり。みんなそういう経験してると思うんだ、冒険者なら一度くらい」~
「…もしかして守護天使、とかそんなのなのかな。でも、かなり気まぐれな…」~
「あっ、今笑った! ちょっと、私本気で言ってるんだからね!? んもー!」~
#endregion
#br
#region(世界の埒外にて、盲の魔女)
--あたしは彷徨っていたあの子に、道を教えた。めくらが目明きに道を教えるというのも奇妙な話だが。&br;ともかく、魔女としての生き方しか知らないあたしが、あの子の前に敷いてやれたのは魔女としての線路だけだった。&br;&br;でも、奇妙な事にそれは大正解だったらしい。&br;――ある点においてあれは確かに生粋の「魔女」だったんだ。おのが知識を他人のために用いる徳高きもの。&br;対価を求めず、ひたすらに誰かに手を貸そうとする。自らの許容量を無理矢理に広げながら、知識を溜め込み力を得てゆく…言い換えれば聖人やも知れぬ。&br;&br;だが、あれはあたしたちとは根本的に、何者かもが違う。あの子が用いるのは人の理が生み出した教え。未だ科学によって解明されてはいない奇跡の顕現。解読され得なかった、幻想の残り香。&br;中世に伝わる魔女像と瓜二つの中庸なるもの。異端、この世界を創造したものの置き土産。&br;――だからこそ誰にも止められまい。あれが戦いに赴くことを、誰が止められる?&br;邪神と、人の輝きを信じる者。互いにけして相容れぬ存在なのだ。誰も止められまい。&br;あれ自身が自分の正体を判じかねていようとも、己の道を見失いかけていたとしても、彼女は戦いを避けては通れぬ。&br;背に黄金暦の街を負う彼女には退転の二文字はないのだ。&br;ここが、他ならぬ冒険者たち――彼女の愛する朋友の集う大切な場所なのだから。&br;&br;さて、どうする? 我が愛弟子よ。既に賽は投げられているというのに、躊躇している暇はあるのか。
#endregion
**1 物語の始まり、夢の切欠 [#ecdde389]
-物語は全て、各地で多発する異常な異能犯罪に端を発した。~
それをきっかけに諾々と誘導催眠の中にたゆたう学生たちの中から、この歪な都市の裏側に興味をもつものが立ち上がる。~
遠い昔、革命生徒と呼ばれていた彼らは改めて闇の中を手探りで進んでいく。~
-遠い世界で《電気王》が打倒した《鐘》と、その影に潜む真理へ、少しずつ、ゆっくりと。
#br
-彼らより先んじて、一歩真理に近づいていた者たちもいる。~
彼らは最初からその違和感に気づいていたか、または違和感の根源を把握していた。~
ついに、本格的な活動が始まろうとしていた。
**2 冒険者の魂、輝ける光 [#gea050f2]
-黄金瞳は導かれるべくして学園都市へと集う。それぞれの視界に、それぞれの善悪を覗き見ながら。~
#br
-2級生徒の失踪事件が多発する。誘導催眠。不自然を自然と認識させる刷り込み。~
彼らは皆、《鐘》と呼ばれる存在の修復のための生贄にされていたのだ。~
だが、ある時。元より存在を肯定されていない彼らのひとりが、救いを求める慟哭をあげようとする。~
…声は出ない。声は届かない。何故なら心の何処かで、その運命を受け入れようと――~
#br
-&size(14){'''''世 界 介 入'''''};~
#br
諦めは時に救いを呼ぶ。だが若人よ、果たして君はその諦めに納得がいくのか?~
この理不尽に、この無慈悲に、君は何ら関係ないというのに。~
…戦え。抗え。その気持ちに、手はさしのべられる。~
#br
いや。たった一言、心の底から「助けて欲しい」と希った。~
それは勇気。その勇気に英雄は顕現する。かつてどこかで、《薔薇》に立ち向かった《白い男》のように。~
#br
-''「ああ、応じてみせるさ。お前は俺が、俺たちが助けてみせる」''~
理不尽を退け、輝きを守る者がそこにある。この世界における諦観の破壊者、何よりも尊いものたちの意志の具現化。~
――彼の者は何人にも縛られぬ自由と、幾多もの犠牲によって鍛え上げられた力強い剣。~
そう、それこそが''《&ruby(ゴールデンロア){黄金の伝承};》''と呼ばれる存在であった。~
**3 人狼の牙 [#q7a10dd1]
#ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst083701.jpg,nolink,around);
-一つの事件が魔女を誘う。それはいわゆる人狼事件であった。~
彼女は夜と夜とを渡り歩き、幾つかの手がかりを元に最後の夜へと辿り着く。~
#br
それは狂った異能使い、歪んだ統治会メンバーの一人。「ジークハルト・ザイン」による犯行であった。保全学科2年生、若き天才と目される眉目秀麗な青年だ。~
#br
彼の出自は学園都市からそう遠からぬ、自然豊かな貴族自治領。農耕と牧畜で生計を立てるものが暮らす、温暖な土地。~
彼は自然を愛する両親の薫陶のもと、3人兄弟の長男としてすくすくと育った。~
その間にも世界は変遷を繰り返す。蒸気機関や碩学による装置の普及。~
大災厄、大消失。繰り返される破壊に、遂に彼の住む地域も衰退し始める。~
父母は自らの立場を以て、どうにか青空を守ろうとした。森を、健全な大地を、動物を、救おうとした。~
しかし、ならぬものはならぬ。趨勢には逆らえぬまま、両親は心労がたたって床に伏すことが多くなる。~
――憤りは隠せなかった。両親を追い詰めた者どももそうだが、自然を打ち捨てて文明を選ぶ人間の愚かさを彼は許せない。~
#br
「兄さん、あまり思いつめないで」~
弟の諫言も届かない。復讐に囚われた彼は、それを果たすまでは孤独でいようと問うに誓っていたから。さながら、狼のように。森を駆ける、牙のように。~
#br
無論、学園都市においても貴族という身分は通用する。彼はそれを利用した。両親が反碩学派であるということをも隠し、彼は行く。~
復讐を果たすため、あえて敵地へと乗り込んだのだ。噂に聞く《鐘》を逆手に取り、全てを破綻させるために。叶わぬならせめて、自分が守るべき家族が住む、あの地だけでもと。~
--&color(red){'''いやいや、実に佳い。その義侠心は賞賛に値する。&br;そうだ、それは全てが無意味なのだ。自然に非ざるもの、人に依るもの、全てが虚構&br;さればどうする? 君は何を選ぶ? なあ、ジークハルト・ザイン。自然を愛する優しき青年よ'''};~
-心が歪む。燻った火種が、理性という葦を焦がして燎原へと変えていく。~
この異常な世界に、この異能で終止符を。ああ、この力《変質因子》はきっとそのために。~
#br
男は遂に、その衝動のままに闇に身を投じた。~
人狼達を引き連れて、一般学生も異能学生も風紀警察も皆まとめて眷属に変える。~
増える、増える、増える。いずれは統治会すらもこの自然のもとに瓦解するであろう。~
そう思っていた矢先のことであった。魔女が、現れたのは。~
#br
-彼の心の赴くべきは、人の営みすらも自然であるという事を認めることだった。~
もし世界が人を否定するなら、その時こそ彼らは裁かれるだろう。他の誰でもない「自然」によって。
#br
-拳が強か、ジークハルトを打つ。人の営みの果てにあるものが、人に非ざるものを討ち果たす。~
権兵衛の輝きは、オートマタの輝きは、歪んでしまった希望を正しく取り戻した。
#clear
//http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst083418.jpg
***3 人狼の牙-Epilogue [#c9d3e443]
#region(急ごしらえの墓地にて、ジークハルト)
-幾ら詫びても許されることじゃないことはわかってる」男は毒気が抜けたような表情で、本来の穏やかな態度のまま墓標を見つめる。~
#br
統治会区はずれ、人の目が届かぬ秘密の墓所。
一帯に並び立つ十字架に刻まれた命日のそのほとんどが、去年から今年にかけてのもの。~
死亡退学がほとんどないとされるこのアカデミアにあって、この光景は異常と言えた。~
「誰が煽ったにしろ、種火になったのは僕自身の弱さに違いない。だからこの罪は一生をかけて贖うつもりだ」~
#br
灰色の空、淀んだ空気に独白が流れては消えていく。この場で殺人者の懺悔を聞くのは、物言わぬ死者たちだけである。~
「…血で染めたこの手で、何を贖えるのかわからない。僕の一生で君たちの一生を穴埋めできるとも思ってない」~
もちろん、誰も彼の苦悩に答えてはくれないし、彼の罪を許してはくれない。~
#br
統治会は、今回の事件の首謀者を落第街の地下活動家と断定した。~
もちろん全て欺瞞である。存在しない人物と存在しない活動のでっち上げだ。~
だが、人々はその報せと終息宣言に胸を撫でおろし、深く追求をしようとしなかった。~
民衆とは時に真実よりも、安心という泥濘を選ぶもの。ましてや未成熟な学生ならば、尚更である。この都市では、好奇心よりも自分の生活が優先される。~
#br
業の大きさに打ちひしがれるように、彼はうずくまって目を伏せ、唇を噛む。~
――この懊悩は時間が解決してくれるだろうか?~
わからない。今の彼にはまだ、明確な答えなど出せなかった。
#endregion
#br
#region(飛行船発着場にて、瀬里)
-「良かったわね、瀬里」夜の飛行船乗り場に二人の女がいた。片方は大荷物を背に、妙に晴れ晴れとした表情の旅姿。~
もう一人は黒いアンティークなドレスを身に纏っている。旅姿の女を見送りに来たのだろう。~
「はい…一時はどうなるかと思ったけど&ruby(極東){あっち};の家族が無事だってわかって、本当に良かったです…本当に」~
「ええ」彼女――アンヘリカは事件の調査がてら、瀬里の証言を頼りに八方手を尽くしていた。特別義理堅いわけでもない魔女がそこまでしたのは、~
助力を得るための方便ということ以上に、家族の存在を大事に思っている一面が如実に現れたためだった。~
友人も知己も失った彼女に、せめて家族との繋がりを取り戻してやること。~
それは家族との絆を断ち切られて久しいアンヘリカの、唯一の恩返しであったのだ。~
#br
アンヘリカが瀬里と呼んだ少女にたおやかな笑みを向けたのと同時に、係員が彼女に出立の準備を促す。~
「あっ、そろそろ行かなきゃ…それじゃあアンヘリカさん、またいつかどこかで…よかったら実家を訪ねてきてください!」~
「そうね。またいつか…それじゃあ、さようなら」~
#br
――すべてを忘れて、穏やかに。この学園都市で彼女を襲った悲劇の記憶は、これからの彼女には必要あるまい。大切な家族と過ごす時間に、血の色と臭いはいかにも相応しくない。~
「…ああ、瀬里。最後にこっちを見て。あなたの顔を覚えておきたいから」~
「えー何言ってるんですかもう。今生の別れじゃあるまいし」~
くるりと振り向いた彼女に、心の中で一つ謝って。~
懐から羊皮紙を取り出し、封蝋ごと魔法の火にくべた。メスメルの誘導暗示の中でも、とりわけ手品じみた芸当。記憶を「焼失」させる技術である。~
もちろん焼失というのは比喩表現に過ぎないが、耐性のない人間には十二分以上の力を発揮する。~
――それこそ、刷り込みがうまく行けば効果が一生に渡るほど。~
#br
「ごめんなさい、少し名残を惜しんだだけ。それじゃあ」~
「…」対して帰ってきたのは瀬里の訝しげな視線。それは知り合いに見せるそれではなく、他人に声をかけられて驚いた時の、困惑の光を宿している。~
ややもせずに、瀬里は振り返って飛行船へと乗り込む。あたかもアンヘリカから逃げるように。~
結果的に誘導暗示は成功していた。とはいえ成功であるのに、あまり快くはなかった。当然だ、繋がりを一方的に断つというのは、そういうものなのだから。~
#br
(自己満足、か…本当に私は何をやっているんだか)~
そんなふうにため息一つ。一人口て、飛行船を見送ると飛行場をアトにする。~
願わくは、彼女が元の家族のもとで穏やかに暮らせますようにと祈りながら。
#endregion
#br
#region(統治塔にて)
-「全く、お前さんの後始末には手を焼いたぜ。アレを殺さず『元に戻す』のは骨が折れる」&br;統治塔、最上部。眼下に学園都市を望むこの場所に、二人の男がいた。片方の男は明るいオレンジに染めた短髪と眼帯が特徴的な、陽気な笑顔の男。&br;朗々とした声で先に語りかけたのも彼だ。対して、もう一方の銀髪の男は黙ったまま陰鬱な表情を浮かべていた。&br;高級な木材で設えられた大円卓の上座、都市を見下ろせる全面ガラスの向こうに向けた視線は、一体何を思ってのものか。&br;彼の片方の眼窩を埋める黄金瞳さえも、それを語ることはない。ただ静かに、光を揺らめかせているだけ。&br;&br;微妙な空気感であった。明らかに気に障ったか、もしくは「傷」に障ったか。&br;「おいおい、黙るなよ! ユーモアにしてはブラック過ぎたって。飴やるから機嫌直せ、な。ジーク」&br;だんまりを決め込んだ銀髪――ジークハルトにピンクの飴を無理くり握らせつつ、オレンジ頭は内心苦笑していた。&br;――あれから随分経つってのに、こいつは未だに引きずっているらしい。まあ、無理もねえ。&br;&br;――人狼事件。統治会メンバーの一人であるジークハルト・ザインが起こした同時多発的テロル。&br;落第街を恐怖の底に陥れた、残忍きわまる連続殺人事件。&br;その猟奇的な犯行と生存者の証言から、犯人には『狼男』『人狼』の異名が付けられた。&br;オカルティズムに傾倒する部活の面々曰く、「学生の中に狼男が混ざっていて、種族を繁栄させるために噛み付いてまわっている」とか。&br;環境マネジメントに熱心な活動生徒が言うには、「人間によって淘汰された動物たちが、自然を取り戻そうとしている」だとか。&br;当時は様々な噂――真相の一部をかすめた物も含め――が飛び交っていたものの、種を明かせば何のことはない。&br;ジークハルトの異能。自他・無機/有機を問わず、「狼」に変質させる《&ruby(マイグレーション){変質因子};》。&br;彼が何かしらの執心によってそれを悪用したことが、全ての原因であったのだ。&br;だが、今ここで項垂れる彼にその執着が見て取れるか? 統治会による暗示迷彩で文字通り「なかったこと」にされた事件を、&br;今も悔やみ続けるこの男にあの夜の危害があるだろうか? …否。&br;&br;「…誘導暗示だろ? てめぇの意思が鼻くそみたいなサイズでも、そいつを煽り立てて掻き立てるってやつ」&br;そういってオレンジ頭はまた飴を取り出すと、今度は自分の口に放り込む。&br;「またあのメスメル女の仕業だよどーせ。俺にゃ効かねえからどうでもいいけど」&br;――どうでもいいけど、&ruby(ダチ){友人};にトラウマを残してくのはムカつくな。&br;彼はその言葉を飴と一緒に噛み砕く。それを口に出したら最後、対立は決定的なものになってしまうからだ。&br;彼の言うメスメル女とは、統治会の一員であるピエレッテ・ジャネのことだ。高名な貴族の裔、微笑みの乙女、レイピアとメスメル学の天才。&br;アカデミア内の影響力で言えば、自分とジークハルトを足して100を掛けても敵わない程の存在である。&br;向こう見ずは自負しているが、彼女にちょっかいを出して10万生徒とジークハルトを危険な立場に追い込む気はさらさらない。&br;&br;一瞬の間に色々な考えが頭をよぎったが、首を振って打ち消した。こういうのは自分の柄ではない。&br;「まーまー、俺からネタ振っといてなんだけど。ともかくよ、肩の力抜けって。お前のせいではあるけど、10割じゃねえんだ」&br;そう、自分には笑いながら彼の背中を叩いて、景気付けしてやるくらいがちょうどいいのだ。バシンと。&br;「気張れ! 気張りきれなかったら、俺でもお前を殴った魔女でもロボットでも、誰でもいいから泣きつきゃいいんだぜ!」&br;&br;「…すまない、アンベール」一瞬目を閉じて、また開いて、ジークハルトはオレンジ頭――アンベール・ベルトンに向き直る。&br;まだ迷いと疲れ、そして後悔の残る表情に少しの笑顔を覗かせていた。おそらくは強がりだが、さっきよりはよほど前向きに見える。&br;&br;アンベールはそれに答えて、またカラッと笑ってみせた。
#endregion
**4 偽りの電光、赤き雷 [#oc39a548]
#ref(http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst083702.jpg,nolink,around);
-カダスは高度な文明を生み出した。しかし、それを扱う側が同様の速度を以て進化できたわけではない。~
人の手に余るものも、時には生まれる。~
それに目を背けて、逃げ去る者もいるものだ。~
#br
――仮にそれが人類の役に立つものだとしても、機が熟していなければ正当な評価を受けられないこともある。~
――時に何かが世界を変えるとわかっていても、固定観念によって好機を失ってしまったりもする。
-世界は不条理のもとに彼ら先駆者を犠牲に選ぶのだ。~
代わりに、遅々たる歩みという安寧をその他大勢に与えて。
#br
-アカデミアで数秘機関と蒸気機関の研究に没頭する理学生エリフ・トムソンも、そういう「不条理の犠牲者」の一人であった。~
彼女は碩学と称されるには経験不足が否めないものの、天賦の才によって様々な発明を行なっている。~
#br
そう。数多くいる理学生の中でも、頭ひとつ抜きん出た秀才。そんなエリフの立身出世に至る道程には幾つかの障害がある。~
例えば性別とか。~
エイダ主義の浸透によって女性の権利の保全が少しずつ広まりつつあるとはいえ、~
完全実力主義と年功序列が幅を利かせている機械学の領域においては、歳若い少女への風当たりは相変わらず強い。~
#br
「何故あんな小娘が」~
「赤髪の田舎娘に何がわかる」
#br
そんな言葉を何度聞いただろう。それでも彼女はめげずに研究開発を続ける。憧れへ近づくため、ひたすらに。~
そして、発表しては一蹴されるのだ。それがいかに先鋭的で画期的なものだったとしても、内容とは関係ない性別や髪の色を理由にされて。~
それでもなお、前へ、前へ、空高く飛ぶあの鳥のように。
#br
――合衆国の先住民の伝承に、サンダーバードという存在がいる。~
――曰く、雷と嵐の化身。力の権化。何者にも挫けぬいかづち、閃く閃光。~
――生まれ育った南部で、私は何度もそんなお伽話を聞いた。~
――誰にも負けない輝き、誰にも負けない力。私も、そんな力がほしい。~
#br
ただ、現実とは無情なものだと彼女も知っている。夢物語に出てくるような奇跡は、所詮その中だけのまやかしなのだと。~
絶望ではなく、諦観。過小評価。卑下。子供の頃に身についた学習性無力感は、全てにおいて彼女をひねくれさせ、ねじまげ、よじれさせていた。~
#br
「ジンジャー」と蔑まれ、嫌われ、疎まれた幼少の頃のコンプレックスはそれ程に大きかったのだ。~
#br
――自分は何故、普通の見た目に生まれなかったのか。黄色人種や黒人よりまし? だから何。私は彼らともあなた達とも同じ人間なのに。~
――でも負けちゃダメだって言い聞かせて、コンプレックスをバネにして、雷の鳥と同じ高みを目指した。~
――傲慢だったのかな? 私はイカロスのように翼をもがれ、溶かされ、地へと投げ出される。
――時代や世界という抗いようのない大きな太陽の熱に焦がされて、また迷宮へ…~
#br
---&color(red){'''いやいや、君のその献身的なほどの歪みは非常に魅力的だ。承認欲求を押し殺し、古いだけで役に立たぬ者どもの犠牲になろうというのだから&br;愛おしいほどの道化。何の役にも立たぬ人柱&br;しかしどうだ? 君のその才覚は時代の礎として埋もれるべきか、いや断じて否&br;君が、君のようなものが認められずして何が自由世界か、何が公平なる社会か&br;――私は力を貸そう、君の歪みを夢に変える力を。&br;いやさ、歪みではない。君にとっての真実を、世界にしらしめる力とでもいえばいいか&br;さあ存分に浸るといい、何者にも縛られぬ己が才能の発露に'''};
#clear
*とある時、とある場所。 [#m9bb9bd6]
|BGCOLOR(white):1000|c
|BGCOLOR(white):1250|c
|BGCOLOR(brown):COLOR(white):CENTER:''と あ る 夜''|
|[[世界介入>編集:偽りの鐘、鳴り響く]]|
|#pcomment(偽りの鐘、鳴り響く,1,reply,below,nodate)|
* [#k7cdb2bf]
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