手をとりあって
- twizzy...twizzy...
- (黄金暦106年2月某日早朝 セリスの自宅)
(仄暗い雲が空を覆っている)
- 「ふ………っんぅ………」
寒さで目が覚めた。ふと気がつくと、隣で寝ていた筈の彼が居ない。 「……?あらぁ……?」 -- セリス
- セリスが部屋の暗がりの中で目を凝らすと、寄り添って眠っていたはずの男が、身支度を整えて静かにタバコを吹かしていた。
「おはよう」 顔も向けずにそれだけ呟くと、窓の外をぼんやりと眺めている。 -- 文鳥
- ………また、だ。昨日の夜にも感じた、この違和感。こんなに近いところにいるのに、彼が果てしなく遠く感じる、そんな感覚。
「……今日は早いのねぇ。いつもなら私が先に起きてるのに…どういう風の吹き回しぃ?」 不安や寂しさとも言えるこの感情を、ごまかすように言う。 -- セリス
- 「お仕事だよ。いつも通りのクソ仕事」
どこか遠くを見つめるように、文鳥の目が細まる。 「早めに出なきゃならんのだけど、かったるくてね。ちょっとだらだらしてた」 少しばかり赤くなった瞳から涙が滲む。 身体がつまらない嘘を誤魔化したくなったのか、大きなあくびが漏れた。 -- 文鳥
- そういえば今日は、彼が依頼に出発する日であった。そんなことも忘れていたのかと、セリスは少し自嘲気味に笑う。
「うふふ、そういえばそうだったかしら。 ………?」 ふと彼の言葉が引っかかる。長年の付き合いからだろうか、微かな異常でさえ、感じ取ってしまう。……まぁ少し、嬉しくもあることなのだが。 「………眠れなかったの…?」 -- セリス
- 「ちょっとね。色々思い出しちゃって」
昨晩の記憶が頭をもたげてくる。 窓から覗く曇天が、あっけないほどに清々しい心持を皮肉るように重い。 短くなり過ぎたタバコをもみ消し、すぐにまた新しい一本を取り出して咥える。 火もつけずに、ただぼんやりと。 -- 文鳥
気付いたときには、文鳥を後ろから抱き締めていた。 衣服は身に付けていなかったが、彼の背中から伝わってくる熱が、優しく心地よく私を包み込んでくれている。 「………っ」 昨日の夜、伝えるべきことは伝えた、はずだった。これ以上望んではいけないとは分かっている。…なのに。 抱き締めた腕が、彼を捕まえて離さない。 -- セリス
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