名簿/98224

烏屋家出身文鳥　（カラスヤ・ブンチョウ） 98224 †

100年も前の時代、この一画は手を伸ばせば先に届くほど低い軒下の連なる貧民街だった

寄る辺のない貧乏人やごろつきどもがせわしなくかけずり回っては踏み固めてきたむき出しの土は、今は磨かれた花崗岩の石畳の下で眠っている

その上を行き交う人々の装いは穏やかで、満ち足りた者も足りぬ者も、その顔は柔らかな灯し火に照らされている

誰であれ、己が何者かを疑うことはない

問えば誰かが名を答え、たとえ誰もいなかろうと、天を支えて見下ろす街が、沈黙をもって言葉を返す

緩やかな時の中を人々は歩き、彼らの寄る辺となったこの街の、かつてあった面影は老いた記憶の中にのみ漂っていた

そんな場所に、何かが落ちてきた

力なく落ち続けては、思い出したように速度を緩めて夜空に漂い、また落ちる

落ちて落ちて落ち続け、夜空を見上げる誰にも気付かれないまま、街並みの底に消えた