名簿/441276

1st stage 『状況開始』 Edit

  • 黄金暦183年 1月 〜街のとある通りにて〜
    • うへー、寒い…! 早く帰って火に当たらないと冬眠しちまうなこれ(冬の風に身を縮こまらせながら、歩く少年)
      (冒険帰りで、荷物や手斧も持ったままだ。時刻は夜、うっすらと月が上る頃のこと)
      -- リック
      • (その通りには、人はそんなにはいないようだ。店の明かりもまばらな、さびれた通りなのだろう)
        (そこを通っているというのであれば、少年にも、自分の後をついてくる足音があることに気づけるだろうか)
      •  …ん?(ふと立ち止まったところで、その足音に気づいた。何の気なしに振り返って、足音の主を確かめようと) -- リック
      • (そこにいたのは、鎧姿だった。月の光に照らされて、それは白い光沢を放っている)
        (全身が夜の闇に溶け込むような、黒い騎士甲冑。普通のと違うところがあるとすれば、鎧の背後でくねる尻尾がそれだろうか)
        (大人くらいの大きさであるその甲冑は、兜の目線を、ずっと少年に向けている)
      • (目にしたその鎧を見て、おー、と声をあげる少年。なんだかんだでこういうのは好きな部類だ)
        (ただ、喜んで観察する気分にはなれなかった。居心地の悪さを覚えて、完全に振り返りながら、少年が声をあげる)
        …誰だよあんた。俺に何か用か?
        -- リック
      • (問いかけに答える声はない。……行動ならあったが)
        (少年が声をあげたのを合図にしたかのように、鎧騎士が機敏に動き出す。手にはいつの間にか、剣を握っていた)
        (完全装備のその姿からは想像もできないくらいの素早さで、騎士は少年との間を詰める。そして振りかざした剣を振り下ろして、少年の頭から足元までを一刀両断にしようとする) -- 鎧騎士
      • おわっ!?(黒い弾丸が駆けてくるその姿に驚く。驚きながらも動き出せたのは、冒険者としての経験を積んだ証拠だったのかもしれない)
        (慌ててその場から横っ飛びに跳ねる。荷物が道の上に放り出されたが、気にしていられない。腰につけていた斧の持ち手を握って抜き放つ)
        なんだおまえ、通り魔ってヤツか!?
        -- リック
      • (獲物を逃がした剣が、道を打つ。たちまち舗装がえぐれ、土くれが飛び散った。見かけは変わり映えのしない長剣のようだが、威力はとてつもないらしく)
        (少年の二度目の問いかけにも、やはり言葉はない。再び剣を振りかざして、少年に切りかかる) -- 鎧騎士
      • うおっ!?(振り下ろされてくる剣から、目を逸らさない。ギルドの戦闘訓練で教えてもらった基礎に、少年は忠実に従った)
        (もう一撃を転びそうになりながら、それでもかわしきる。その直後、少年は反転してその場を駆け出した)
        こういうときは逃げるに限るー!
        -- リック
      • (再び地面を穿つ剣を持ち上げる騎士。すでに駆け出した少年とは、かなり距離が開いていた)
        (しかし、騎士はそれでも剣を振り下ろす。すると、その剣が瞬く間にいくつもの破片に分かれ、飛んでいく。細い紐で一つなぎにされたそれは、少年の足元へ、まるで蛇のように襲いかかる) -- 鎧騎士
      • げっ…!?(振り返った少年の足元に、その蛇が絡みつく。バランスを崩して、前のめりに倒れこんだ)
        (慌てて顔を起こして、振り返る)やばっ…!?
        -- リック
      • (振り返る少年のすぐ目の前に、それは立っていた)
        (半分くらいまで戻したらしい剣をすでに振りかぶっていた鎧騎士は、次の瞬間、それを振り下ろす。三度目の振り下ろしは、今度こそ少年を断ち切ろうとする) -- 鎧騎士
      • (気づいた時には手遅れだった。まだ握りしめていた斧のことも忘れ、目を閉じて身を固まらせる。右腕を差し出すように持ち上げていたのは、せめてもの抵抗だったのだろう)

        (――だが、それが今は功を奏した)
        (ガキン、という甲高い音が響く。腕にしびれを覚えて少年が目を見開くと、そこには剣を受け止める、自分の右腕があった)
        (コートやその下の服は切り裂かれているというのに、少年の腕は無事だ。その、月明かりの下でもわかる、硬い樹木のような腕は。
        -- リック
      • (必殺だったはずの一撃を受け止められたことにひるんだのか、鎧の動きが一瞬だけ止まる。次の瞬間には、警笛が遠くから鳴り響いていた)
        (周辺を動いていた自警団のものか。そこまで距離もなく、すぐにここまでやってくるだろう)
        (そう判断したのか、鎧騎士が踵を返す。地を蹴り、近くの屋根に着地すると、一度だけ少年を振り返り、すぐに逃走に入った)
        (月明かりから逃れるように、夜闇にまぎれるように、黒い騎士は消えていく――) -- 鎧騎士
      • ……は、はあ……はあ……っ!
        (体が、呼吸を、汗を忘れていた。どっと噴き出す冷たい汗をぬぐうこともできず、少年は尻もちをついたまま荒い呼吸を繰り返して)
        (そして自警団が駆けつけてくるよりも早く、荷物を掻き集めてその場を後にした)
        -- リック
    • 一夜明けた翌日 〜酒場の隅〜
      • (酒場は朝から人でごった返していた。朝食を頼む人に酒をかっくらう人、依頼のために待合せたり、確認を取ったりする人といろいろだ)
        (そういう人たちを全員飲み込める酒場の隅っこに、少年はいた)
      • (テーブルについて、少年は何やら紙を広げていた。文字が躍るそれに、視線を走らせて)
        …あった。『昨夜遅く、角牛通りにて通りがえぐられた跡が発見され――』
        (さらにそれを読み進める。通りが、何か重くとがったもので削られた以外には何もわからず、目下捜査中だという内容を確認して、一息)…俺がいたの、ばれなかったのかな。
        -- リック
      • ばれなかったって、何が?(突然、少年に声がかけられる) -- ウェイトレス
      • おああ!?(もちろん、驚くに決まっている。広げていた新聞紙を慌ててたたみ、隣に置くまでわずか2秒くらいの早業だった)
        ななななんでもない! 何しにきたんだよ!!
        -- リック
      • 何しに、ってご挨拶ねー。注文取りにきたにきまってるでしょう?(持っていたお盆でチョップのポーズをとりながら、ウェイトレスは笑っていた)
        朝から新聞広げてにらめっこなんて、リックらしくないねえ。いつもはすぐに注文でしょ? ほら、急いだ急いだ(メモを手に注文を催促する) -- ウェイトレス
      • うあ、ご、ごめん、えーとえーと…(しばらくメニューを広げて悩んだが、すぐにいつものを頼む。ハムエッグにトーストに、ミルク)
        (ウェイトレスが注文を伝えにいくのを見送ってから、ほっと一息吐くのだった)
        …なんだったんだろうな、あれ(改めて思い出す。あの夜、自分に襲い掛かってきた黒い騎士のことを)
        -- リック
      • (新聞に載っていないということは、捕まってはいないはずだ)
        ……また、俺を襲ってきたりするのかなぁ……(できればそんなことはあってほしくないのだが。右腕をコートの上からさすりながら、そう願わずにはいられなかった)
        -- リック
      • ……右腕、か……(もう一つ、思い出した。昨夜の鎧騎士の剣を受け止めた、右腕のこと)
        (包帯を巻き直したその腕を、コートの上からぎゅう、と握りしめる)
        他に人はいなかったはずだし…バレてない、はずだけど…。
        -- リック
      • (もっとしっかり隠さないとだよな……などと思いつつ、やってきた朝食を味わい始める少年だった) -- リック
  • 黄金暦183年 2月 〜共同墓地にて〜
    • (木枯らしが枯れ木を揺らしていく寒い日のこと。広い街のはずれ、薄気味悪い規則正しさを覚えるその場所に、少年はいた)
      …ここか、リリねーちゃんのお墓(足を止める。こじんまりとした、小さな石碑の前にしゃがみこんだ。記されている名前を確かめる。『リリト=ガーベル』)
      -- リック
      • (持っていた花を、石碑の前に横たわらせる。赤いガーベラ―立ち寄った花屋で名前を見て、そのまま選んだだけ。特に深い意味はなかった)
        (少しだけ身じろぎしてから、手を合わせる。しばらく、風の音だけを耳にして、少年は黙祷した)
        -- リック
      • (黙祷を終えてしばらくしても、少年はそこから動かなかった。ぼんやりと、石碑を眺めながら、一人思いにふける)
        …なんだかなぁ…。俺より力持ちだったじゃないか、リリねーちゃん…。
        -- リック
      • (そんな少年に、声をかける人物がいた)
        …君。墓参りかな? -- 神父
      • うえっ!? あ、う、うん。そーだけど…(急に声をかけられて、慌てる。立ち上がりながら振り返り、相手の姿をまじまじと見つめた)
        神父、さん?
        -- リック
      • そうだね、ここの神父だ。…まだ見習いだけど(黒い神父服に身を包んだ彼は、少年から見てもまだ若そうだった。彼は花を添えられた石碑に視線を移して、問いかけてくる)
        お知り合い、だったのかな。ここの人と。 -- 神父
      • う、うん…じゃなくて、はい。…ちょっとだけ、遊んでもらったんだ(つられて、自分ももう一度墓を見る。赤い花が、風に吹かれて揺れていた) -- リック
      • (少年の言葉を聞いて、大きく頷いた)そうか、それはよかった。…こうして訪ねてきてくれる人がいて、本当に良かった。
        (視線をあげる。規則正しく並ぶ石碑、辺り一面を覆い尽くす黒いその群れは、すべてが小さな墓だった)
        ここに来る人たちは、みんな身寄りがないのがほとんどだから…その歳で偉いな、君は。 -- 神父
      • (偉い、という言葉には曖昧に笑ってみせる。…ここに足を運んだのは、本当に気が向いただけだったから)
        (それよりも、気になることがあった。幾つも並ぶ墓、これらは確か全部が――)
        …冒険者、なんだっけ…じゃなかった、冒険者なんですか、その…ここのお墓、全部?
        -- リック
      • (少年の問いかけに、神父は大きく一度頷いた)
        身寄りがわからなかったり、消息不明の冒険者の人達がみんな、ここに集まってくる。
        一部例外もなくはないけどね。…もしかして、君も冒険者かな?(今度は自分から問いかけた) -- 神父
      • (少年が頷くまでには、少し間があった)
        …うん。もうすぐ一年になるかなってところ。
        -- リック
      • そうか…(そう口にしてから、しばらく口をつぐんだ)
        (ややあって、もう一度口を開く)君は―どうして、冒険者に? -- 神父
      • (今度の問いかけに答えるのには、さらに時間が必要だった)
        …俺、冒険者に憧れてたんだ。かっこいいなって、そう思ってたから…だから、俺も冒険者になりたかった。
        あと、有名になりたくて…見返したいヤツらがいたんだ、けど…(だんだんと、言葉が尻すぼみになっていく)
        -- リック
      • (少年の言葉に、一つ一つ相槌を打つ。すべて聞き終えてから、小さく息を吐き出した)
        でも、かっこいいばかりじゃなかったかい? -- 神父
      • (三回目の問いかけに、ややあってから、こくん、と頷いた)
        わかってたつもりだったんだ。俺だって、いろいろ痛い思いしてきたし…魔物にやられたり、罠にひっかかったり。
        でもさ…そんなことしてたら、死んじゃうのは当たり前なんだよな…。
        -- リック
      • …そうだね。それは当たり前のことだ(そう受け答える神父の表情は、とても穏やかだった)
        でも、それでも冒険者になる人は後を絶たない。死んでしまう人も、ね。
        彼らには、きっとそうするだけの理由があったんだろう。言葉通り、命をかけるだけの理由が(墓を見回すその目が、少しだけ遠くへ向けられる。青い空の光を受けて、それは少しだけ輝いているように見えたかもしれない) -- 神父
      • 理由、が…(その言葉を、呟く。なぜか、心に響くものがあった) -- リック
      • そう、理由。冒険者になって、危険なことに挑んでいく理由。
        …君が、冒険者をやる理由。それは、何かな?(じっと、少年を見据える。見透かすように、見通すように) -- 神父
      • (四度目の問いかけに、少年は答えられなかった)
        (口から出そうな言葉はあった。けれど、視線に口を縫われたかのようで、声が出なかった。ただただ、困惑した視線を向けて)
        -- リック
      • (その様子を見て、少しだけ相好を崩した。かがめていた腰を戻しながら、明るい口調で口を開く)
        …ごめんごめん、神父なんてやってるとついこんなことに。
        …でも、できれば覚えていてくれ。君が冒険者をやっていくその“理由”…それを、探し続けてくれ。
        最後のときに、後悔だけはないように…いいかい? -- 神父
      • ……うん。わかった(その言葉に、小さく頷いた) -- リック
      • …よし、いい返事だ。もし、理由が見つからないのなら…そのときは、一度考え直してみることを勧めるよ。
        こうして会った以上、君をここに、なんていうのは考えたくないし、ね。
        それじゃあ僕はこれで…風邪をひいたりしないようにね(そう告げると、神父は身を翻して、その場を去っていった) -- 神父
      • (去っていくその姿を見送ってから、少年はもう一度墓を見る)
        (赤い花は、やはりそこで静かに風に吹かれ、揺れ続けていた)
        -- リック
  • 黄金暦183年 11月 〜依頼先、霧の立ち込める森の中にて〜
    • (目の前を、巨大な何かが右から左へ抜けていく。当たりこそしなかったが、巻き起こった突風にあおられて、そのまま吹き飛んだ)
      (運悪く、背中から木にぶつかる)うあっ…!(声と、息が漏れる)
      -- リック
      • (倒れ伏す少年のはるか上から、それは彼を見下ろしていた。幾つもの足を蠢かせ、二本の触角を振り、木々と同じような太さを持つ体をもたげ、今にも覆いかぶさろうとしていた)
        (その無数にある足の一つ一つが、木々の枝と同じくらいに太い。大顎は、赤い色に染め上げられていた) -- 超巨大ムカデ
      • げほっ、ごほっ…!(上手く息ができない。咳き込めば、赤いものが地面に散った)
        (自分も含めて、考えが甘かった。甘すぎた。せいぜいが巨大アリ程度だと思っていたところに、この怪物が現れた)
        (最初の不意打ちで、仲間を分断されたのが響いた。暴れ狂い、木々をなぎ倒す怪物相手に、一人二人と跳ね飛ばされて、次は自分の番というわけだ)
        -- リック
      • (巨大ムカデは、向かってこない。足を蠢かせて、体をくねらせながら、少年を見下ろし続けていた。その口元から、赤いものがしたたり落ちる。少年が吐き出したものと同じ、赤い血の色) -- 超巨大ムカデ
      • (その赤いものを見て、ぎくりとする。その直後、手に何か、ぬめったものが触れた)
        (はっとなって自分の手元に視線を移す。赤い、赤い水たまりがそこにあった。どこからその赤いものがくるのかを知ろうと、視線を思わず向けて――)
        -- リック
      • (その少年の視線の先に、それはいた。木の根元に横たわるように、倒れている人の姿。依頼で少年と同行した、冒険者の一人だった)
        (首は不自然に折れ曲がり、そこから赤いものが噴出している。それは彼だけではなく、その足元に吹きこぼれ、そして流れ、少年の手元へ――)
      • …う…(自分の手を濡らしているものの正体に、今更気づいた。だがそれよりも、少年はその同行者に目を奪われていた)
        (誰がどう見ても、それは死体だ。さっきまで確かに生きていたはずなのに、今はもう、動きそうもない)
        (寒い冗談を言っては自分で笑ったり、叫びをあげて魔物に切り掛かっていたのに。もう、それは聞こうにも聞けない。なぜなら、彼は死んだのだから)
        (そして、このままなら――)…俺も…死ぬ…?
        -- リック
      • (答える声はない。あるのは、風と、少しの呻きと、ムカデの足が囀る音、それだけだ)
        (それは、少年の折れ掛けた心を、一気に蝕み、砕き、粉々に変えていく)
      • (頭の中で、光景が駆け抜けていく。横たわる冒険者。立ち並ぶ名が刻まれただけの石碑。今はもう会えない人の顔――)
        う、あ……ああ……あああああぁぁぁッ!(顔がゆがむ。押さえきれない声が毀れる。ふらふらと立ち上がりながら、少年はあふれ出る感情に従うまま、声を張り上げた)
        -- リック
      • (その声に反応したのか、ムカデの巨体が揺らいだ。次の瞬間には、まるで覆いかぶさるように、その巨体が落ちてくる。少年を、押しつぶそうとする動き) -- 超巨大ムカデ
      • ひ、ぃっ…!(思わず、両腕を組んで頭をかばった。そこを離れようとしなかったのは、腰が抜けたから。ムカデの巨体の前で、それはあまりにもか細すぎる抵抗だった)
        (――ただ、その右腕が、淡く翡翠色を宿していたことには、少年も気づいてはいないようだった)
        -- リック
      • (その光る右腕にムカデの頭が触れたその瞬間)
        (大音声が響き渡った。木々を揺らし、耳を貫くその高い声は、ムカデが奏でたものだった。見ればその頭から、煙が上っている。じゅうじゅう、と何かが溶けていくような音も聞こえた) -- 超巨大ムカデ
      • (その時には少年はもう立ち上がり、背を向けて駆け出していた)
        う、うう……うううぅぅぅっ…!(もつれそうになる足を、それでも懸命に動かして、時折転びながら森を駆けていく。それが逃走なのは、誰の目から見ても明らかだった)
        (顔をゆがめ、涙を流しながら、少年はただひたすらに逃げ続けた――)
        -- リック
      • (――結局、生き残ったのは少年を含めた二名のみ。巨大ムカデの行方はそれ以後、ようとして知れず)
        (少年がその体を回復させるのには、一か月くらいの時間がかかったという)
  • 黄金暦183年 12月 〜依頼先、北西のとある洞窟の中にて〜
    • あぐっ…!(洞窟の岩肌に、思い切り体が叩きつけられる。先月もこんなことがあったなと、沸騰したように熱い頭の片隅で、そんなことを思った)
      (地面に倒れる。土の味がするが、それよりも血の味のほうを濃く感じた)
      -- リック
      • (うずくまる少年を、犬頭の獣人が囲み始める。その数は、5匹。それぞれがメイスや手槍を構え、じりじりと近づきつつあった)
        (その得物にはどれも、赤い色が染みついている。言うまでもなく、少年のものだった) -- コボルド
      • …パルねーちゃんに、言われたばっかだったのに、なあ…(悔しそうにつぶやく少年の全身は、傷だらけだ。槍で突かれ、メイスで叩きのめされるその度に刻み込まれてきた無数の傷)
        (右腕を包んでいた包帯も、とっくに敗れている。褐色の肌よりも色濃い、木の肌。そこだけは、無傷のままだった)
        …もう、他の人たちともはぐれちまったし…俺も、ここまで…かな…(膝をつき、両手をついたまま呻く。しゃべるたびに口から血が零れ、地面を汚した)
        -- リック
      • (嘆く少年の目の前に、犬頭の一匹が立つ。錆の浮いたメイスを両手で構え、持ち上げて――次の瞬間、振り下ろす)
        (狙いはうつむく少年の頭、それをかち割るかのように――) -- コボルド
      • (覚悟していなかったわけではない。ただ、それが現実に迫ったときに、どうすればいいのか、少年にはそのための準備が欠けていた、ということなのだろう)
        死にたく、な―(涙とともに言葉が溢れ、次の瞬間、鮮血が飛び散った)
        -- リック
      •  
      • (横たわる少年を見下ろして、犬頭は軽く鼻を鳴らした。赤い毛を、さらに真っ赤なもので染めていく死体に、数匹が群がり始める。身に着けていたものを剥ぐつもりだ)
        (この獲物は自分たちで狩った、だからこれは自分たちのもの。主に差し出す前に、手斧くらいは持っていこうか、などと考えているところに、ふと、奇妙な音を聞いた) -- コボルド
      • (その音は、倒れている死体から響いていた。聞くものが聞いたなら、それは何かの燃焼機関が稼働しているもののように聞こえただろう)
        (低く、長く響く唸り。よくよく聞けば、その音は少年の口からではなく、いまだ無傷のままの右腕から響いているようだった)
        -- リック
      • (何事かと首をひねる犬頭。だがその時間もそんなに長くは続かない)
        (手斧を掴んだ一匹が、少年の右腕に近寄る。おかしなものは根元から断ってしまえばいい、と考えたのだろう)
        (刃を下に、しっかりと振り上げ、振り下ろそうとする。ふらつきながら、その斧は少年の木の右腕を断ち割ろうとする) -- コボルド
      • (しかし、その刃を止めるものがある。ほかでもない、少年の右手そのものだ)
        (まるで蛇が飛び上がるように俊敏な動きで、右手が斧の刃をつかみ、そして間を置くことなくそれを砕いた)
        (鉄片が飛び散る中、ゆっくりと少年が身を起こし、立ち上がる。その目は白目をむいたまま、どこを見ているかはわからない。左腕もだらりと垂れさがったままだ)
        (さながら、ゾンビかグールのような様相だった。――その、翡翠色に淡く輝く右腕を除いて)
        -- リック
      • (一番狼狽したのは、せっかく手に入れた斧を砕かれた一匹だった。警戒の声をあげると、残りの数匹も身構え、少年を見返す)
        (もう一度殺してやろうと各々の得物を構え、猟犬が死にぞこないの人間へと殺到する)
        (一番近くにいた一匹は、腰に構えていた手槍を抜き、そのまま突きかかっていった) -- コボルド
      • (その手槍を、またも右手が掴み、砕く。気づけばその右手もまた、異変を宿し始めていた)
        (腕と同じく、淡い光を宿した右手が、徐々に変化していく。腕と同じく、手のひらやその指先までもが、木となっていく。節くれだった枝そのものになった指先が、コボルドの顔面を掴もうと、さらに動く)
        -- リック
      • (その右手に顔を掴まれた途端、コボルドの口から苦悶の声が上がった)
        (じゅう、と何かが焼けるような音と、肉の匂い。それらを洞窟の中に振りまきながら、コボルドは激しく体を振り乱し――唐突に、その動きを止めた)
        (だらりと垂れさがった腕や足、尾。時折びくりと体を震わせていたが、それがもう命を宿していないことは明白だった) -- コボルド
      • (こと切れたそのコボルドを、投げ捨てる。先ほど彼自身がそうされたように、壁にぶつかるのを見届けることなく、ゆらり、と一歩を踏み出した)
        (今や、右腕のすべてが淡い光を放っている。左腕よりも一回り太く、大きくなったその歪な木の腕を前へ突き出しながら、コボルド達のもとへ、一歩、また一歩と進んでいく)
        (唸りをあげる右手、その指先からは、白い煙が上がり続けていた)
        -- リック
      • (少年が近づいてくるごとに、犬頭達は一歩を下がる。目の前の相手が、何かおかしいことにはさすがに気が付いていた)
        (ただ、逃げられない、と何かが語りかけている。自分達は今、手を出してはいけなかったものを前にしていると、本能が訴えかけていた)
        (一匹が、長い遠吠えをあげる。そして、メイスを手に少年へと突っ込んだ。遅れて残りも、その後に続く。破れかぶれの突撃だった) -- コボルド
      • (その突撃を前にして、少年の歩みは変わらない。ただ、一歩一歩、力ない足取りのままで進んでいく)
        (ただ、その口元はいつの間にか、小さく歪められていた。何か嘲笑うような、そんな笑みの形に――)
        -- リック
      •  
      • (――数時間後。その場所に、足音が響いた)
        (洞窟の中、反響する足音の主は、暗闇の中、輝くような黒い鎧をまとっていた。警戒する素振りもなく、鎧騎士は洞窟を進み、そしてある角を曲がる。そこには、惨劇が広がっていた)
      • (数匹のコボルドの死体。そのどれもが、焼けただれたような傷跡を顔や首、肩に持ち、そのすべてがこと切れていた)
        (そしてその近くに、赤毛の少年が倒れ伏している。かがんで首元の脈を確かめると、それはまだ一応生きているようだった) -- 鎧騎士
      • (しばらくの静止のあと、鎧騎士は少年を抱え上げる。一度右腕―木に覆われたそれを見やったが、またすぐに歩き出した)
        (肩に少年を担いだ鎧騎士が、その場を後にする。残されたのは、焼けただれた肉の放つ異臭に満ちた空間、それだけだった) -- 鎧騎士
  • 黄金暦184年 5月 〜宿の一部屋にて〜
    • …よし、これなら!(靴を履いたまま、何度か床を蹴る。それから満足そうに頷いた)
      松葉杖ともおさらばだ、あとで返しにいかないとなー(鼻歌交じりに動き出す。まずは部屋の片づけから…少しサボっていただけに、埃っぽい)
      -- リック
      • (ガラスを濡らした雑巾で拭いていく。腕を伸ばしたその瞬間、それが目に入った)
        (右腕の、包帯。前よりも、少し長いそれは、右の肘から手首までをしっかりと覆っている)
        -- リック
      • (それを見ているうちに、思い出す。目が覚めた後、自分を診たという医者との話を――) -- リック
      • (怪我の具合を確かめられ、その完治までの期間を伝えられた後、持ちかけられたのは右腕の話だった)
        (医者が言うには、この右腕は正体がまったくつかめなかった、らしい。呪いだということを伝えると、さらに表情を曇らせたのがわかった)
      • (目の前にいた自分の表情が曇ったのにも気づいたのだろう、医者は表情を戻して語りかけてきた)
        (そこまで心配することもない。この街にはいろんなものがある。呪いだというのなら、解除する方法もきっとある…だから、心配するな、と)
      • …ホント、いろんなのがいるよなこの街。天使も悪魔もドラゴンもお化けも、みーんないるんだもんなぁ。
        …腕が木みたいなヤツだって、そんなかのひとつなだけ、なんだよな(苦笑いしつつ、そっと包帯の上から腕を撫でて)
        -- リック
      • うそつきはきらい、かあ…(廃墟で聞いたあの言葉が、ひどく胸に響いた。見栄を張ったのもそうだが、それ以上の何かを見透かされたような気がした)
        …少しずつ、頑張ろう。まずは…この掃除、からかな(止まっていた手を動かして、窓ふきを再開する。ぽかぽかした陽気が窓の向こうから降り注いでいた)
        -- リック
  • 黄金暦184年 9月 〜学園の運動場、隅にて〜
    • (校庭を十周。それが、最初に考えたメニューだった。夏から始めたから最初は汗だくになっていたものの、こつこつ続けていたのもあってか、最近は少し余裕が出てきた)
      ふう、はあ…!(息を整え、汗をぬぐう。呼吸を整えてから、木人に向かって身構えた。手の中の斧(もちろんレプリカ)を振り上げ、振り下ろす)
      -- リック
      • (ガン、と鈍い音がする。跳ね返る斧がすっぽ抜けないように、握力をこめ直す。そしてもう一度、真正面から振り下ろした)
        (また硬い音がする。手からすっぽ抜けないように注意しつつ、一度距離を取った)えーと…ちゃんと腰を落としてー…(授業で習ったことを呟いて思い返しながら、基本を繰り返す)
        -- リック
      • (思い返してみれば、山で木を切り倒していたときとそんなにコツは変わらないような気もする。遠心力と、それに振り回されない下半身の力)
        せーのっ!(両手で握った斧を、フルスイング。結構いい手ごたえと、快音が響いた)
        -- リック
      • (数十回繰り返したあと、そこから離れる。いや、背中から倒れこんだというほうが正しい)
        はあ、はあっ…! ちょっと、休憩…!(息を荒げながら、空を仰ぎ見る。下がりつつある太陽と、吹き抜ける風が心地よく感じられた)
        -- リック
      • (そのまま空を見上げつつ、ふと右腕を掲げた。半袖の袖口から伸びる右腕の真ん中に、包帯がきつく巻きつけられている、いつもの右腕)
        …この腕、いったいなんなんだろうなー(ぽつりと、そんな言葉を漏らした)
        -- リック
      • 呪い。それは聞いた。…でも聞いただけだからなあ…(両親に聞かされたことを、そのまま鵜呑みにしてきた。けれど、もうそれじゃあいけない気がする)
        (前より、木になった部分は増えているし、何より――)…よ、っと(その場で起き上がり、斧を手放してから身構える。目を閉じて、右腕に意識を集中した)
        -- リック
      • (ぎし、と何かがきしむ音がする。それと同時に、腹の底から何かが渦巻き、右腕へと流れていく感覚――少し気を抜けばたちまち散ってしまいそうなそれを、必死に呼び集め、導き続ける)
        (しばらくして目を開ければ、視線の先には、翡翠の燐光を宿した自分の右腕があった)…こんなことまで、できるようになってる。
        -- リック
      • (なんとなく、気づいてはいた。ムカデを前に逃げ出したときも、この右腕は光っていた。それで殴りつけたから、あの場を逃れることができたのだ)
        (そしておそらくは――あの、コボルドに襲われたときも。この右腕が、きっと何かを起こしたのだろうと、そういう確信めいたものを感じていた)
        …なんなんだろうな、これ。魔法、とは違うのかなー…?(ぶんぶん腕を振る。燐光は、すぐに溶けて消えていった。それを見送りながら、息を吐く)
        -- リック
      • …やっぱり、よく調べてみないと。図書室とかにあるかな…頭使うの嫌なんだけどなあ。
        (ぶつくさ言いながら、木人を片付ける。そして、少年は校舎へと戻っていった)
        -- リック
  • 黄金暦185年 2月 〜冒険先、湿った空気に満ちる洞窟の中にて〜
    • (洞窟の狭い通路を埋め尽くす、土色の壁。目を凝らせばかすかに向こう側が見透かせるような、そんな壁。オーカーゼリーだ)
      (普通に見かけるものよりも、はるかに巨大な印象に思えるのは、通路を埋め尽くされているからだろうか)
      • くっ…面倒な!!(同行していた一人が、そう叫ぶ。鞭のようにしなる触手を剣で打ち払い、防戦一方だ)
      • (それを聞く少年も、似たような状態だった)
        て、りゃあ!(足元まで伸びてきた一本の触手を、振り下ろした斧で叩き斬る。意外と固い手ごたえに感じる高揚感を内心で噛みつぶしながら、後ろへ下がって他の仲間たちと合流する)
        -- リック
      • (6人全員が退いて集まったのを確認して、一番年長になる一人が、兜の内側から声を出す)
        どうする、依頼の目標はこの先だぞ! ここを抜けなきゃ話にならん!(手にした槍で、さらに伸びてきた触手の鞭を打ち払う。くぐもった声に、僅かな苛立ちが込められていた)
      • どうするったって、抜けるっきゃないだろ! まだ狼一匹も見かけてないんだし!
        (横薙ぎに振った手斧で、触手を三本まとめて振り払いながら、叫び返す。自分を超えて飛んでいこうとする触手を薙ぎ払うのも忘れない)
        -- リック
      • (その様子を見て、本を構えた妖精が薄く笑う。その触手が自分に向かって伸びていたのは気づいていた)
        まーそーだねー、お金もらえないのは困るしー。わたしがやるから、時間稼ぎ、たのめるー?(本を開きつつ、周りの5人に、そう訊ねる)
      • …仕方ないか。魔法を使えるのはお前だけだしな(槍使いが頷く。他のメンバーも、剣や槌を構えて苦笑いを浮かべた)
        触手は俺達が、全部打ち払う。盛大にぶちかませよ妖精!! …行くぞ坊主!!(手斧を構える少年に、そう声をかける。そして、一番槍とばかりに飛び出した)
      • わかってる!!(それを、追いかける。触手を打ち払い、囮になる役目だというのは理解していた)
        (――けれど、それ以外に試したいこともあった。ここ数か月、ひそかに積み重ねてきた練習、その成果を確かめる、絶好の機会だ)
        -- リック
      • (槍使いと剣使いが、第一陣の触手を防ぎきる。その二人を乗り越えて現れたもう一人の剣使いと槌使いが、上から唸りをあげて振り下ろされた触手を弾き飛ばした)
      • (その二人の脇をすり抜けて、少年が行く。手斧を腰に戻し、右腕を振りかぶりながら、ただ前を、薄い土色の壁を見つめて、息を吸う) -- リック
      • ―おいっ!?(それを見ていた槍使いが、声を荒げた)
      • (その声は、無視した。大切なのは、掴んだステップを忠実になぞること)
        (ステップ1。右腕に意識を集中―体中を廻る血が、右腕に集うことをイメージする)
        -- リック
      • (振りかぶった右腕が、唸りをあげ始めた。淡い緑の燐光を放つそれは、薄暗い洞窟を光で満たしていく。それはその場にそぐわない、暖かな光だった)
      • (ステップ2。意識を切らず、集中したまま、握った拳を叩きこむ)
        (踏み出した左足、その指先に力を込め、体を前へ。そして目の前に広がる壁に、光る右腕ごと、一撃を叩きこんだ)
        -- リック
      • (壁が、拳を受けて僅かに震える。だが、特に痛みを感じているというものではないようだった)
        (その証拠に、僅かな震えの音とともに、土色の壁からいくつもの触手が現れる。しばらくすれば、それが少年や、その他の仲間たちを襲うのは明白だ)
      • (それを見据える少年に、動揺はない。オーカーゼリーが、剣や斧、ましてやただの拳でそうそうダメージを与えられるわけがないのは、実際に経験して知っている)
        (それに、まだステップが残っている。最後のステップ3)
        ――集めたものを、拳の先から、流し込むッ!!
        -- リック
      • (叫んだ直後、光が爆ぜた。オーカーゼリーに突き込んだ右手が光を放ち、その光はすぐに壁全体を駆け巡る)
        (そしてその光が触手の末端へたどり着いたとき、その触手が次々に爆ぜた。液体が蒸発する音と、嫌な匂いが空間に満ちる。壁は今までにないほどに震え、その表面には泡がいくつも浮いては弾けていた)
      • 今ッ!!(右腕を壁から引き抜きながら、少年が振り返る。そして、そのまま踵を返しつつ前へ飛んだ。頭を両腕で庇いながら、次に来るだろう衝撃に備える) -- リック
      • (その少年の頭上を、冷気の大槍が幾本も駆け抜ける。その全てが土色の壁に突き刺さり、瞬く間にそれらを凍りつかせた)
        (静寂が、訪れる。だがそれも、凍りついた壁が粉々になり、崩れていくまでの短い間のことだった)
        …よーし、これでオッケーねー?(本を閉じて、妖精が口を開く)
      • …そのよう、だな(周囲を油断なく見据えていた槍使いが、妖精の言葉に頷いた)
        …立てるか?(と、まだ地面に突っ伏していたままの少年に手を伸ばしてくる)
      • ん、ああ、ありがとうおっさん(右腕を伸ばして、籠手に包まれたそれを掴みとる。光はもう完全に収まっていた。ただ、コートやその下の袖は、オーカーゼリーに叩き込んだときに溶かされでもしたのか、もうぼろきれのようになっている)
        (そしてその下には、木の模様を持つ肌が――)
        -- リック
      • (槍使いはそれを見て、少しだけ目を細めたようだった)
        さっきのは、その腕が?(そう、短く問いかける)
      • え? …あ(声に、自分の右腕を見る。そこでようやく、それに気がついた)
        …ん、まあ…そうなる、のかな?(相手をちらちらと見つめて、様子をうかがいながら、少年は小さく頷いた)
        -- リック
      • …そうか。いるところにはいるもんだな、そういうのは…やるならやるとはじめから言っておけ(そう苦笑気味に声を放つと、槍使いが前を見る)
        あの広間で少し休んだら、進むとしよう。まだ本命は先だ……気を抜くなよ。
        (おう、という声が返るのを聞き届けて、槍使いは再び少年を見る)…行くぞ、その腕、まだまだ使えるな?
      • …もちろん!(その言葉に、大きく頷く。先に歩き出した槍使いを追って、少年も足を踏み出した)
        (少し足を止めて、ガッツポーズを取る。うまく本番を成し遂げた自分に。……そして、受け入れられた自分に)
        -- リック
  • 黄金暦185年 7月 〜宿泊先にて〜
    • あ、ちぃ…
      (真夏。登り切った陽が窓から燦々と降り注ぐ。元から冷房設備なんてついていない一室に、夏の日差しは極悪すぎた)
      -- リック
      • ま、まずい、今年は一段とひどい…これは死ぬ、死んでしまう…!
        (窓は全開。ドアも全開。できる限りの薄着にしつつ団扇で風を送るが、それ以上はどうしようもない。ちりちりと、肌を焦がされているような錯覚を覚える)
        -- リック
      • (だが、大抵の場合、人間は追い込まれれば妙案を思いつくものだ。この日の青年がまさにそうだった)
        …そうだアレだ! アレがあった!! あいたっ!(慌ててベッドから降りたせいで、こける。鼻を押さえつつ、荷物を仕舞い込んでいるクローゼットを開けて中を探索し始める)
        (しばらくして)…あったあった! この前拾ってきた魔法の杖!!(それは透き通るような淡い青色の、一本の杖だった)
        -- リック
      • うへへこれさえあれば氷作り放題だうへへ…(ほんのりと冷気を放つ氷のようなそれに頬ずりしている姿は怪しさ大爆発である)
        (冒険で拾って鑑定してもらった、氷の魔力を宿した杖。振れば使えると聞いていたが、まさかここで初めて魔法を使うことになるとは。もういい歳だがわくわくが止まらない)
        えーと、振るだけで……振るだけでいいんだよな。……コールドアロー!(つい呪文を叫びたくなるのは人の性であろうか)
        -- リック
      • (杖を振り下ろした格好で、そのまま数分。……何も起きない)
        …あれ?(首を傾げながら、もう一度振る。今度は呪文なしだ)

        (だがしかし、何も起きない。聞こえるのはセミの音だけだ。手の中の杖は、冷たさ以外には何も伝えてこない)
        -- リック
      • え、ちょっ、どういうことだこれ!?(「振ればだれでも使える」、そう聞いていただけに、ショックは予想外に大きかった)
        (足で杖を挟んで手でこすったり、杖自体をぐるぐる回してみたりするが、やは結果は変わらない。何も出ないし、辺りが変化するわけでもない)
        …えー…?(じりじりとした日光。耳障りなセミの音。それらを受け止めつつ、青年は困惑した声をあげる他なかった)
        -- リック

2nd stage 『状況加速』 Edit

  • 黄金暦185年 12月 〜寂れた裏通りの一つにて〜
    • (年末。人も物もどことなく忙しくなるその時期。少年――いや、もう青年と呼ぶべきだろうか。彼は寂れた裏通りで一人、顔を手で覆っていた)
      (ここに来た理由はなんだったか。単に図書館で調べものをしていて日が暮れるのに気付かなかったから、近道で帰ろうとしたくらいだったはずだ。それが、こんなことになるだなんて誰が思うか)
      バッドにーちゃんじゃねーけど、俺不幸だわー…(悲しみ交じりの言葉を吐き出しつつ、覆った手の隙間から、ちらりと前を見た)
      -- リック
      • (青年の目の前、通りの真ん中に、それは佇んでいた。数年前の記憶が確かなら、その姿に見覚えはあろう。夜の闇の中に溶け込むような、黒い鎧姿)
        (まるで彼を待っていたかのように、それはそこに、ごく自然に佇んでいた) -- 鎧騎士
      • …最初に遭ったときからもう三年くらいだっけか? あれ以来何もなかったから、気のせいだったんだって片付けたんだけどなぁ…。
        …くるか? くるよな?(腰に挿していた手斧を手に取り、腰を落として身構える。周囲には自分のほかには人影はない。気兼ねは、微塵もない)
        -- リック
      • (騎士からの言葉はない。ただ、行動はそれを補って余りあるほど雄弁だった)
        (いつの間にか手にしていた抜き身の剣を自然に提げ、騎士が一歩を踏み出す。土畳を踏む音が強く響き、次の瞬間にはそれらが連続する。疾駆) -- 鎧騎士
      • ほら来た!(向かってくる鎧を見て声をあげる。抜き放った手斧を軽く横へ振り)
        (タイミングを合わせて、それを一気に振り戻した。躊躇いはない。タイミングもずれない。今まで積み重ねてきた冒険者としての経験が、戦いの経験がここにきて、活きた)
        -- リック
      • (夜闇にまぎれる黒い鎧とは一線を画す、白銀の刃。青年の放った一撃は、今にも振り下ろされようとしていたそれを、横から、確実に捉えた)
        (滑らされた一撃が、青年のすぐ脇、土を穿つ。決定的な、隙がそこにある) -- 鎧騎士
      • もらったぁ!(剣を弾いた反動で跳ね返りそうになる手斧を、腕力だけで強引に引き戻す。それはそのまま、鎧騎士の左肩を叩き潰そうとする一撃に代わり――) -- リック
      • (直後、甲高い音が響く。斧が、鎧にはじかれた音だ)
        (身じろぎもせず、まるでそんなものはなかったとでもいうかのように、鎧騎士は再び剣を握り締め、振り上げてくる。青年の胴体を薙ぎ払うために) -- 鎧騎士
      • げっ…!?(手ごたえの硬さにも驚くが、反撃にも驚いた。慌てて飛び退る)
        (服の裾が、切り裂かれてはらりと舞う。それでも、体には傷はない)
        -- リック
      • (そこへ、鎧騎士が追いすがる。右足を踏み出し、再び剣を寝かせて薙ぎ払ってくる。腰と、上半身を別離させるだろう重く荒々しい一撃が、夜風を裂いて飛ぶ) -- 鎧騎士
      • (放っておけば、今度こそ深手を与えてくるだろう鋭い斬撃を、それでも動揺することなく見つめた)
        (なぜなら――それをどうにかする手段も、この3年のうちに手に入れたからだ)
        こなくそっ!(斧を握ったままの右手を、コンパクトに振る。その拳が、淡い緑の光を放ちながら、鎧騎士の剣とぶつかった)
        (鉄をかみ砕く。そう表現すべき音が、夜の裏通りに響き渡った)
        -- リック
      • (剣が、折れる――否、腐る。あっという間に腐食したそれがちぎれていくのを、騎士はその兜の奥から見つめていた)
        (そこにあったのは、動揺か、それとも別の何かか――一つ言えるのは、明確な隙がそこにあるということ) -- 鎧騎士
      • もらったぁ!!(行き過ぎた拳を引き戻すことなく、そのまま回る。一回転分の遠心力を加えた翡翠の拳を、青年は再び鎧騎士へと叩き込む。必勝を、確信して) -- リック
      • (叫びに呼応するように、鎧騎士が動く。剣を振り切った姿勢から、その柄を手放して――握り締めた右の拳を、青年の拳へぶつけるように打ち放つ)
        (黒い籠手は、いつの間にか光を宿していた。青年の右腕のものとは違う、紅い、炎のような閃光を――) -- 鎧騎士
      • なっ……!(想像外のものを見せられた青年の口から、声が漏れる。今更体勢は変えようもない。右の拳同士が、ぶつかりあい――) -- リック
      • (瞬間、まばゆい光が裏通りを駆け抜けた。その光が収まったとき、通りには鎧騎士の姿はなかった)
        (投げ捨てられたはずの剣の残骸もない。だが、今までのことが夢幻ではないということは、穿たれた土畳の跡が如実に物語っていた) -- 鎧騎士
      • (勝った、という実感は薄かった。最後に見せられたものが、青年の心を占めている)
        …なんだったんだ、あれは…。俺と、同じような…。
        (触れた瞬間に、感じるものがあった。あの炎のような紅い光は、自分の放つ翡翠の光と似たようなものだということに)
        -- リック
      • …俺と、同じ…(つぶやいた言葉に、衝撃を受ける。自分と同じような人間が、他にもいるのか)
        (今まで、そんなことを考えたことは一度もなかった。これは、自分だけが被った呪いだと思い続けていた)
        …………(右の手を、握り締める。それを見つめる青年の瞳に、月明かりとは別の、強い光が宿り始めていた)
        -- リック
  • 黄金暦186年 8月 〜冷房の効いた図書館の一角にて〜
    • ふ、あー…すっずしー…(まるで天国にいるような錯覚を覚える。積み重ねた本の山の間に顔をはさむようにして、青年はしばしの涼しさに身を委ねていた) -- リック
      • …と、いけない。このまま眠り込むわけには…(ぐ、と体を起こして、本の山のうちの一つを引き寄せる。そして適当につかんだ本を一気に引き抜いた)
        (バランスがぎりぎり保たれる。そのことに微かな満足感を覚えつつ、古めかしい装丁の本を開いた)
        -- リック
      • えーと……(ぺら、ぺら、とページをめくる。こういうのは苦手だ、あと少しすれば眠気に襲われる…が、どうにか間に合った)
        【精霊】、か…。
        -- リック
      • 『――自然界の現象が意思を持ち、自由に振る舞い始めるもの、それを精霊と定義するのが今日の魔術体系での解釈のひとつである。
        呪いから生まれるもの、人工的に生み出されるものなどの例外もあるものの、多くは自然現象が多発する地域にて、ある水準以上の膨大なマナが溜め込まれた場合、そのマナと融合する形で精霊は発生、誕生する――』
      • ……この辺りは授業でもやったかな。ちらっと覚えてるな…(睡眠学習だったかどうだったかは覚えていない。この際どうでもいいし)
        んで、続きは…。
        -- リック
      • 『――自然発生した精霊に、特に目的意識というものは見られない。彼らは生まれたその直後から、己を構成する自然現象を振りまくべく動き出す。
        シルフであれば突風を振りまく。サラマンダーであれば火を撒き散らす。山火事などの自然災害の多くは、これらの精霊の産声が原因とされる場合もあるという――』
      • ……んーむ……?(文面に目を通しながら、首をひねって唸る。どうにも、腑に落ちない部分があった)
        自然現象を振りまくのが精霊…じゃあ呪いはどうなるんだ?
        -- リック
      • (手にした本には、『呪いから生まれることのある精霊』について軽く触れられているだけだ。精霊が呪いを振りまく、与えるといったことは、その本には記されていない)
        (それは、近くに抜き出したすべての本に通じることだった)
      • (数時間、慣れない読書に費やした結果がこれだ。崩れ落ちたくもなる)
        …どういうことだこれ…。呪いから生まれる精霊だっているんだろう?なのに逆の例はない、ってのか?
        …いや、もし仮に精霊が呪いと無関係だとして。…じゃあ、俺が受けてる呪いはいったいなんなんだ…?(掲げた右腕を見る。包帯に巻かれたその下には、今も人のものではない肌が根付いている)
        -- リック
      • …そもそも、自分の村の精霊の名前を聞いてないってどういうことなんだ…?(間抜けにもほどがある)
        (だが、事実だ。あの村では精霊様精霊様と恐れ敬ってはいたが、その肝心の名前を耳にしたことが一度もない。少なくとも自分は)
        ……これは…一度帰る、か? …って追い出されてるのに帰れるわけねーよなあ…(もう三年くらい経つけどさ、と呟いて。日差しの強い窓の外を眺めつつ、表情を曇らせる青年だった)
        -- リック
  • 黄金暦187年 6月 〜北西、季節外れの雪の降る森の中にて〜
    • (その日は、何もかもがおかしかった。六月に降る雪もそうだし、狼退治のはずなのに狼が一匹も出てこないし、一本道を進んできたはずなのにいつの間にかはぐれて一人になっているのもそうだ)
      (ついでに言うなら、なぜか雪が吹雪になりつつあって遭難の危機が現実に変わりつつあるのだからたまらない)
      • …だー! 六月に冬の吹雪用の装備なんて持ってきてるわけないだろがー!!
        (吹き付ける吹雪から目元をかばいつつ、やけになって叫ぶ。かろうじて周りの木は見えるが、十歩先は見通せない、そんなレベルの視界だった)
        -- リック
      • (もちろん、やけになって叫んだところで吹雪が弱まるわけでもない。下手に口を開けば、その喉奥まで雪が入り込んでくるような状況だ)
        (だが――まるで青年の文句に応じたかのように、吹雪がぴたりと止んだ)
      • んあ?(吹き抜けた最後の雪を払いつつ、素っ頓狂な声をあげる。すわ自分の中に隠されていた力でも目覚めたか、なんて思う年ごろではなくなったが)
        (それにしたって急ではある。目を凝らして、真っ白い景色の中に何か違和感がないか探し始めた)
        -- リック
      • (その注意深さは幸か不幸か。緑葉と白雪のコントラストが鮮やかなその景色の中、確かに一つの違和感がある)
        (宙を漂う、白い塊。時折風に逆らうようにして飛んでいることから、それが雪の名残ではないことはすぐに知れるだろう。さらによく見れば、それはまるで人の、小人のような姿をしているようで)
      • …………(その姿を、先日目にしていた覚えがある。正しくは、本の図解の中で)
        雪の精霊か、あれ……なんでこんなところで…?(雪の精霊であれば、雪の降り積もる場所に現れるのはおかしくはない。おかしくはないが、それを言えばこの雪自体がすでに異常だ。足を止め、揺れるその小人の姿を見つめる)
        -- リック
      • (揺れていたその動きが、ふと止まる。ややあって、精霊が青年へと振り返った)
        (あどけない子供のような顔が、しばらくして、笑みに変わる。口の端まで大きく裂けた、禍々しい笑顔)
      • やべっ――(背筋が凍りつくのを感じる。身を切るような冬の寒さとは違う、疑う余地のない悪寒)
        (とっさにその場を飛び跳ねる。前へと飛びかかるように、両手を突き出して)
        -- リック
      • (その判断は正しい。下がった青年の頭上を、何かが高速で行き過ぎていった)
        (続いて、轟音が響く。めきり、と何かが剥がれる音も)
      • (その剥がれる音を耳にした途端、何かが頭をかすめた。そのまま倒れ込まないように踏ん張り、木々の合間へ飛び込む
        (そのうちの一本の裏に隠れ、それから自分がいた場所を振り返る。何が起こっているのかを見据えるために)
        -- リック
      • (青年が通りを振り返ったその瞬間、目に入るのは倒れていく巨木だろう。まだ葉を残し、雪を積もらせたそれが、根元近くから折れていく)
        (そして、同じく雪の積もる通りを巨木が揺らし、粉雪を舞い上げた。精霊も、緑も何もかもが、白い煙の向こうへ消えていく)
      • うわっぷ…!(もちろん、その雪は青年の周りにも吹き込んでくる。思わずぺっぺっ、とそれを吐き出しつつ、短い思案にふけった)
        …こんなところで足止めなんて食ってられないよな…(せっかく出くわした精霊に、もう少し接近してみたいという気持ちもなくはない。だが、今は依頼中だ。はぐれている仲間とも早く合流しないと――そう思えば、取るべき行動はすぐにまとまる)
        ……よし(小さく頷いて、森の中を走り出す。通りに沿って抜け、精霊の背後へと抜け出る腹積もりだ。視線は、先ほどまで精霊がいた場所に注いだまま)
        -- リック
      • (その青年のもとへ、舞い立つ白い煙の向こうから、遅いかかるものがある。煙の壁を突き破り、飛び出てきたのは、白くて丸い塊だ)
        (握りこぶし大の大きさのそれは、青年や、その周囲へと幾つも放たれていく。そのうちの幾つかは、青年への直撃コースにある。このままいけばその腹や肩を打ち据えるだろう)
      • このやろっ…!(悪態を吐きつつ、青年は動く。向かってきた幾つかを、屈み、走り抜けることで回避していく)
        (そして進路上にあった最後の一つは)せいッ!!(踏み込んだ勢いそのままに、翡翠の燐光をまとった右手で撃ち抜こうと)
        -- リック
      • (光をまとった一撃を受け止めたその瞬間、白い塊が四散する。その冷たさや、感触から、青年には塊の正体がわかるだろう)
        (それは、今この場にいくつも広がっているものから生まれたもの――雪玉だ)
        (落ち着きつつある白い煙幕の向こうからは、さらに無差別に白い塊が発射されている。まさに手当り次第、というのがふさわしいほどの、白い弾幕だった)
      • (ああなるほど、確かに雪の精霊らしい、と思う暇もあったかどうか)
        わ、と、とと…!(続く一斉射撃をどうにかかわしつつ、通りの先へ急ぐ。今はとにかくこの場を離れたい)
        (最後にちらりと視線を白い煙幕のほうへ向けてから、青年はそのままその場を去っていった)
        -- リック
  • 黄金暦187年7月 〜北西、季節外れの雪の降る森の中にて、再び〜
    • ……精霊討伐だって?(ギルドのマスターから打診された話を耳にして、放った第一声がそれだった) -- リック
      • そう、精霊討伐依頼だ(マスターの頷きは軽くもなく、しかし重くもない程度のものだった)
        (ぴらぴらと、依頼の仔細が書き込まれた紙切れをつまんで揺らしながら、彼は言葉をつなげる)
        お前が報告してくれた例の精霊の件な、あれに国の魔導研究機関がえらく食いついてな。即刻手を打ったほうがいいってんだよな。 -- マスター
      • そんなところともコネあるのかよ、わかっちゃいたけどとんでもない規模だよなここ…(あきれたような、感心したような声をあげつつ、もう一度紙切れを奪う。目を通していきながら、独り言のように言葉を発した)
        …でもいいのかよ? 精霊退治なんて…信仰の対象になってる時だってあるって言うじゃないか。まずくないのか?
        -- リック
      • そのあたりはもう先方と協議済みだとよ。根回しの早いこった。
        表向きには、「直接・間接的に人里に危害を加える可能性のある怪物のため、排除を最優先とする」って、それにも書いてあるだろ。
        精霊じゃなく、何か別のものを討伐したって、世間に広めるつもりだと思うね俺ぁ(腕を組み、自信たっぷりといった表情で、貫録のある男はそう言い切ってのけた) -- マスター
      • …ううん……なんだか納得がいかないが…どうせ従うしかないんだろうな(ため息交じりに言葉を吐き出した。組織に属するというのはそういうことだと、元少年にも納得できるだけの年月は経っていた)
        …あと一つ、俺がこの依頼に召集される理由ってのは…やっぱり、直に見たからか?
        -- リック
      • ま、そういうことさな(問いかけに、マスターはすんなりと頷いた)
        一度相手を見てるっていうのは大きい。それに、一度あそこに出向いてるっていうのもだろう。道案内を頼まれたもんだと思えばいいさ。
        他のメンツは歴戦とかそのあたりだ、お前の出る幕はそんなにはねえんじゃねえか?(かか、と豪快に笑い飛ばして) -- マスター
      • …だと思った(肩をすくめてから、杯の中身を呷る。酒の味にも、だいぶ慣れてきた)
        わかった、引き受ける。俺も、もう一度見ておきたいと思ってたんだ、渡りに船だ。…退屈な船旅になりそうだけど。
        (冗談交じりに、それを了承するのだった)
        -- リック
      •  
    • 〜数日後〜
      • …まだいたか。もしかしたら、なんて思ってたけど…(まだ雪が降り積もっている森の中、茂みに身をひそめながらつぶやく)
        (防寒用の装備に身を包んではいるものの、吐き出す息は白い。先日よりもさらに寒い銀世界の中、探していたものを見つめる)
        -- リック
      • (青年の視界の先に、それはいた。白銀の世界、雪の積もる枝から枝へ飛び移るかのように、身を回して宙を踊っている。雪の、精霊――)
      • …あれが、精霊か?(青年の隣で、同じように茂みに身をひそめながら、その女が訊ねる。手にしていた短い杖の具合を確かめるように振りつつも、視線は精霊に注いだままだ) --
      • んあ。…そう、間違いない。前に俺がこの森で見たのと同じ、はず…(自信はない、と付け足して。視線を精霊から、女の方へと移した)
        (…名前は、なんだったか。確か花の名前だったような気がする)…いけそうか?
        -- リック
      • 大丈夫、と断言したいところだが。さすがに、精霊とやりあうのは初めてだからな…迂闊なことは言いたくない(肩に乗せた緑の妖精の顎を撫でながら、女は苦い笑みを浮かべた)
        ただまあ、勝算が0だってわけじゃない。ギルドのマスターもかなり凄腕をまとめてくれたし、どうにかなるさ、きっと(あたりに、視線を走らせる。今、精霊を囲むような位置に、他のメンバーがひそみ、開始の合図を待っていることを、女は知っていた)
        そっちこそ、いけるのか? 案内も終わったんだ、ここから避難していたっていいと思うが。 --
      • いやいや、どうせだし最後までつきあわせてくれって。自分のことは自分で守るしさ。
        俺だって、一応冒険者だしさ。ああいうのには飛び込んでいきたい…!
        -- リック
      • …本当、冒険者っていうのは因果なものだよな(苦笑いを濃くしつつ、杖を握り直す)
        そうまでいうなら、好きにするといい。私もフォローするしな。ただ、過信はしないでくれよ? --
      • 了解……!(茂みに潜んだまま、身構える。向こうの茂みから、合図の代わりとなるものが飛び出したのを見たからだ)
        (火矢。燃え盛る炎をまとった風が、一斉に飛び往く。その結果を見届けるより早く、青年は茂みから飛び出し、駆けだした)
        -- リック
      • (その様子を見てから、女は息を吐き出した)…集中、集中。こんなところで下手を打ったら、母さんに笑われる。
        行くぞ、パスフィル――フレジア・A・イーモールとして、この任務、完遂する。(振り回した杖から、光が零れる。花の名を持つ結界師は、自らの僕である妖精を従えて、己の力を遺憾なく広げた) --
      •  
      • くっ…!(声を漏らしながら、その場を跳びのく。さっきまで立っていた場所に、雪玉が数発食い込んだ)
        (だが、青年の視線を奪うのはそれではない。辺りに広がる、その光景のほうだ)すげえ…!
        -- リック
      • (それは、さながら、空を舞う透明な花びらの群れのようだった。狂ったように、照準もなく放たれる、幾千を超える雪玉の嵐を、滑るように動く透明な花が迎え撃ち、そのほとんどを破壊する)
        (それらすべてが、一人の結界師の仕業であるとは、にわかには信じられない光景だろう)
      • すまない、数発逃した! 無事か!?(杖の中ほどを握り、回し、掲げ、振り下し―その一連の動作に淀みはない。時折肩に乗せた精霊のほうに頷きつつ、彼女は青年へと声を飛ばしてきた)
        (その間にも、己に向かって飛来する白い弾丸を、寄せた無色の花で受け止め、防ぎ切る) --
      • こっちは大丈夫! 助かってる!!(声を荒げて叫び返す。そうでもしないと、雪玉の着弾の響きに負けてしまいそうだった)
        (改めて斧を構えつつ、その場から走り始める。自分を追うように放たれる雪玉には意識を向けないように努力しつつ、全力疾走だ)
        (そうしながら、青年は敵を見る。狂ったような笑い声をあげる白い精霊を)
        -- リック
      • (精霊の姿は、痛々しいものへと変わっていた。白い体の所々が、千切れ、貫かれ、砕かれている。冒険者たちが与えてきた傷だ)
        (血を流す、という様子はないが、誰がどう見ても、相応の負傷だとわかるだろう。それだけに、なおも狂ったように笑い続けるその姿は、不気味で空恐ろしい)
      • (と、次の瞬間、風を切って何かが飛んだ。目に見えぬほどの速さで駆け抜けるそれは、そこまで大きくはないはずの雪の精霊を、狙い過たず撃ち抜く。突き立つ、矢羽根)
        (隙を縫うように放たれた冒険者の弓の一撃だと、見ていた誰もが気づいた)
      • やった…!? -- リック
      • いや、まだだ! 来るぞ!! --
      • (女の声が示す通りだった。矢羽根を自らに突き立たせたまま、妖精は空を見上げてその小さな腕を広げる)
        (周囲に、音が満ち始めた。微かなものだったそれは、一秒過ぎれば轟音に、さらに長く大きくなってはその場にいる全てのものの腹を打ち据えるほどの大音声となる)
        (そして現れた光景は、冒険者達を怯ませるには十分に足りるものだった)
      • なんだ、あれは…!? 壁か!? -- 冒険者
      • (冒険者の一人が指さす先に、白い壁があった。空に届かんばかりの高さを見せるそれは、さらに大きく高くなっていく。自分たちの方へそれが動いてきているのだと気づくのには、少しばかり時間を必要とした、それほどの巨大な壁)
      • 雪崩か…!!(一足先に気づいたのは、結界使いの女だった。杖を高速で振り回しながら、彼女は焦りをにじませた声で叫ぶ)
        早く私の後ろに回れ! 全力で結界を張る!! --
      • (その叫びと、崩れた壁が森を、大地を飲み込み始めたのは、ほぼ同時だった。轟音が、辺りを支配していたのは、数分だったか、数秒にも満たない間だったのか)
        (己の引き出した白き破壊の権化を見下ろして、白き妖精が歪な笑い声をあげた、その瞬間)
      • お…おおおおおおッ!!
        (空から、かすれた咆哮が降り注いだ。服の裾を風にはためかせ、真剣な眼差しを小さな手負いの妖精へと向けて、青年は空から舞い降りる)
        (頭を下に、手に握った無骨な斧を振り上げて、断撃の構えでの意思表示)
        -- リック
      • (妖精も、それに気づいた。空を振り仰ぎ、浮かべる表情は憤怒か、あるいは狂喜だったのか)
        (小さな手を空から降る敵へと振る。大地を覆っている白い絨毯から、いくつもの雪玉が生まれ、青年と注がれる。それはまるで、天地を逆にした豪雪のように圧倒的で、隙間のない弾幕だった)
      • (目の前に迫る白い幕を見つめ、青年が採った選択は無謀の極みだった。斧の持ち手から右手を外し、それをそのまま前へと突き出す)
        (だが、青年は知っている。その右手が行えることを。自分がここまで飛ばされてきた、その本懐を果たすためにするべきことを)
        (曇天の空に、翡翠の煌めきが奔った。青年の右腕から迸る輝きは、触れる雪の弾丸を片端から溶かし、崩し、散らせていく。その最中にも両者の距離は、加速度的に縮まっていく―)
        -- リック
      • (自身に向かって一直線に舞い降りる翡翠の彗星。それを見つめる妖精は、さらに腕を振り上げた。白い大地が盛り上がり、次いで二つのものが飛び出す。大地にそびえたつ白き巨塔。その鋭い切っ先が、蛇のようにうねりつつ、青年を贄にしようと迫り)
      • (しかし、そのどちらも、青年をとらえることはできなかった)
        (かいくぐるように落ちながら、青年は輝く右腕を振りかぶり――)
        これで…終わりだぁッ!!(咆哮とともに、それを目前へと迫った妖精、その狂喜のはりついた顔へと叩きつけた)
        -- リック
      • (終幕は、それこそ布を引き裂くような感覚で訪れた。腕ごと叩きつけるような強い一撃を受けて、妖精の身が大きく震えた。その直後、白い身がひび割れ、崩れ、白い粉雪へと変わり……瞬く間に、風へ乗って消えていった)
      • (確かな手ごたえを掴んで、青年が頷く。だがその直後、目を大きく見開いた)
        うわ…うわわわっ!?(そう、彼は落下し続けている。となれば、その旅の終わりは――)
        うぶっ!?(こうなるのは必定だ。顔から勢いよく、雪の絨毯へと突っ込んだ。雪煙が舞いあがり、辺りを覆い隠す)
        -- リック
      • …大丈夫か?(そんな雪煙の中、通る声が一つ)
        (他の冒険者とともに、雪原に立ちながら、彼女は頭を雪に突っ込ませたままの青年へと声をかけた) --
      • んがっ、んぐ…ぷはっ!!(何度か試行錯誤をして、ようやく頭を、雪から抜け出させることができた。真っ白な顔を拭いもせずに、雪の上に大の字で寝転がって)
        …まーなんとかー。いきなり空に打ち出されたときはどうしようかと思ったけどさ。
        -- リック
      • 「ああいうのには飛び込んでいきたい」んだろう? よかったじゃないか、念願が叶って。
        (思い思いに身を休める冒険者たちと同じように、取り出した煙草に火を点けながら、口元だけで笑う)
        (あの瞬間、彼女が結界を張る以外にしたことは、とても単純なことだった。すぐ近くにいた青年を、発条状にした結界で、空高くに打ち上げる、ただそれだけのこと) --
      • ありゃ飛び込んで、じゃなくて落下して、って言うんだ(寝転がったまま、ふてくされたような表情を浮かべる。彼はそのまま、言葉をつなげていった)
        それに、いきなり「頼むぞ」って言われて空に打ち上げられたって、失敗したらどうするつもりだったんだよ?
        -- リック
      • 過ぎたことは考えないほうが人生のためだぞ。それに…ちゃんと、やってくれただろう?
        (手を伸ばし、青年の髪を散らすように撫でながら、女は笑った)よくやった、助かったよ。 --
      • …よせやい。もうそういう歳じゃないってのさ(うっとおしそうに、伸ばしてくる手を払いのける。その頬は、若干紅色に染まっていた) -- リック
      •  
    • 〜幕間〜
      • ―よう、どうだった?
      • ―…本当に、あれが精霊なのか? 私には魔物の類にしか見えなかったが。
      • ―しょうがねえさ、あいつらだって好きで狂うわけじゃないんだから。信仰家に言わせれば、「それが運命」っていうやつさ。
        それより、俺が言ってるのは精霊の方でなくてだな…。
      • ―なんだ、そっちのほうか。…筋はいいと思う。戦い方は荒削りだが、度胸は及第点だろう。
        性格もひねくれているわけではないようだし、これからの鍛え方次第じゃないか?
      • ―おーおーそうだろーそうだろー。何せ俺が見出したんだから当然当然。そろそろ頃合いかねえ。
      • ―楽しそうだな…。まあ何かあったら言ってくれ、手が貸せる範囲で手伝う。…精霊の狂った様も、ようやくこの目で確認できたしな。あれは見過ごしてはいられない。
      • ―はは、頼もしいね“氷砦女帝”。あんたならそう言ってくれると思ってた。
        ま、とにもかくにも、あいつが自分の力を使いこなせるようになってくれんとな。あの右腕とかさ。
      • ―影の支配者気取りはそこそこにな、“魂合竜帝”。お前はやっぱり暴れまわっている方が似合うと思うよ、私は。
  • 黄金暦188年9月 〜霧の立ち込める森の中にて、数年越しの再訪〜
    • …相変わらず、霧が立ち込めてるんだなここ。全然前が見えない…。
      (張り付く前髪を取り払うように、額を上着の裾でぬぐう。じっとりとした感覚が、肌に辛い)
      -- リック
      • こういうところとは、早くおさらばするに限るよなあ。さぁて、どこにいるのやら…?
        (軽口めいた口調だが、表情は笑ってはいない。近くにそびえたつ大樹の肌をなぞる手指も、妙な震えを帯びていた)
        -- リック
      • (重い足を、それでも無理やりに前へ進める。そうしながら目を閉じた。木の葉を踏み鳴らす音を遠くに感じながら、記憶の底を反芻する)

        (ここは、敗北の記憶が宿る場所。数年前、まだ未熟だった自分が、《死》というものを見せつけられた場所)
        (こうしてここに立てば、あのときの情景が、感じた匂いが、はっきりと思い出せる。胃の中がむせ返るような吐き気を、ぐっとこらえた)
        -- リック
      • (ここに足を向けようと思ったきっかけは、単なる噂話だった。曰く、『巨大なムカデが棲息する森があり、最近被害が頻発している』というだけのもの。噂の出所を確認してみれば、記憶の蓋の奥にあった場所と一致してしまった)
        (そう、ただそれだけのこと。『思い出したから』。ただそれだけのこと)
        -- リック
      • ……本当に?(自分への、疑問。それを口にした直後に、青年の目はそれを見つけた)
        …これは…(見つけた、というよりはそこに在ったものに、手が触れた、というのが正しいのかもしれない。今しがた、自分が触れたものを、改めて見返す)
        -- リック
      • (それは、元は大樹のようだった。ところどころを何かに削り取られたかのように、歪な形のまま、そこにそびえたっている。どことなく、生命の偉大さを感じ取れる、そんな姿)
      • …すげーなあ…ちょっと小突いたら折れそうな気がする…(かなりの高さにあるえぐられ傷を見ながら、感心するように声を発する)
        (恐る恐る手を引いて、そのまま大樹の全景を収めようと後ずさりしていく)
        -- リック
      • (その時だった)
        (地面の奥底から、腹の中を打ち据えるように響く、一続きの轟音。それが、青年の耳に飛び込んできたのは)
      • (聞こえてくる音に対する反応は、即座のことだった。腰を落とし、提げていた斧を手に取って、辺りを睥睨する。音の出所を探っていたその視線が最後にとらえたのは―)
        …そこか!?(今しがた、自分が眺めていた、崩れかけた木の根元)
        -- リック
      • (まるでその声に呼ばれたかのように、木の根元が膨れ上がる。そして次の瞬間、大地が爆ぜた)
        (礫や石を跳ね飛ばし、痩せ木を倒しながら現れるのは、大きな顎と、節くれだった体、そして無数の足を蠢かせる、巨大なもの)
        (青年には印象強い、百足の怪物。それが今、顎を開いたままに彼の身を弾き飛ばさんばかりの勢いで迫る)
      • うわっ…!(自分でも不思議に思うくらいに、反応は上々だった。地面に倒れるような勢いで、横に跳ぶ。足先を、わずかに堅いものが掠めていったような気がした)
        (少し転がってから、身を起こす。手に握ったままの斧に一瞥をくれてから、青年はその場を駆け出した。草葉を踏みつけながら、木々の合間を縫うように走る)
        -- リック
      • (無論、そのまま逃げ切れるはずもない。青年が身をかわした後、そこに立っていた巨木に、真っ向から激突する。轟音は、拍子をずらして二度鳴り響いた)
        (次々と、木々を薙ぎ倒しながら、巨体が青年を追う。その光景は、狩猟などとは違う、蠢く津波を思い起こさせるだろう)
      • このっ…!(三度目、四度目の突進を辛くも回避し、五度目のそれで反撃に転じた)
        (前に跳んだその勢いで、樹木を蹴りつける。その反動で高く跳び上がり、行き過ぎたムカデのその節くれだった体に、勢いよく斬りかかった。無骨な斧の刃が、空気を断ちながら落ちていく)
        -- リック
      • (鈍い音が響く。硬質の外皮が、斧を弾き返す音だ。分厚い鉄の板に思い切り斬りかかれば、こうなるだろうかと、そう思わせる手ごたえが青年には伝わることだろう)
        (そして、それだけでは終わらない。身をくねらせ、振った胴体での体当たりが、手痛い反撃として彼に襲い掛かる)
      • ぐえっ…!(まだ地に足をつけていない青年に、それを堪えることなど到底無理な相談だ。蠢く脚の叩きつけも同時に食らい、勢いよく弾かれる)
        (そして背中から、太い木々へと激突した。肺の中の空気が、一気に押し出されて息が詰まる。思わずその場に手を突き、咳き込んだ)がはっ、げほっ…! ちくしょ…!(わずかに感じた鉄の味を振り切るように、立ち上がる)
        -- リック
      • (そこへ、さらに追い打ちが奔った。振り上げられた無数の足が鞭のようにしなり、風を裂いて地面へと、そこに立つ青年へと振り下される)
        (そのどれもが、必殺の威力を持つだろうことは、想像に難くない。容赦のない死神の鎌の連撃が、青年の命を刈り飛ばそうと迫りくる)
      • ――!(それを目の前にして、声をあげたかどうか。たとえ上げたとしても、風の唸りにすべてかき消されていただろうから、些細なことではあったろう)
        (僅かな時間差の中で、連撃が青年の元へ降り注ぐ。舞いあがった土煙に、その場は一気に包まれた)
        -- リック
      • (立ち込める煙の中、ずるり、と身を回し、持ち上げながら、ムカデはその顎を擦り合わせて鳴き声を上げる。自らの勝利を確信したが故の、耳障りな凱歌)
        (しかしそれは、すぐに終わりを迎える。自らの身体に、不自然な揺れが生まれたためだ。足先から伝わる微かな違和感は、すぐに目に映るほどに大きなものになる)
      • 何を…ぎちぎち、鳴いてるんだよ…!!(晴れていく煙の中、現れる青年。淡く発光する右手に左手も添え、節くれだったムカデの足の一本を受け止めていた。その手が触れている部分からは、薄く煙が立ち上っている。腐食の痕)
        (ムカデが動き出すより早く、反撃に移る。足を投げ捨てるように横へ外しながら、青年はそのまま前へと飛びかかった。振りかぶり、力を溜めた右拳の一撃を、目の前のムカデの脇腹に叩き込んだ)
        -- リック
      • (悲鳴とも、驚愕ともつかない叫びが、森に木魂する。自らよりもはるかに小さな人間の一撃に、大ムカデは狂い、悶絶した)
        (僅かに浮いたその巨体が、次の瞬間には大地へと堕ちる。幾つもの木々を揺らし、へし折りながら、ただただ闇雲に暴れる)
      • くっ…!(両腕で顔を庇う。飛んでくる礫を防ぎながらも、そのまなざしは強く力を宿していた)
        (目の前には、身を持ち上げる大ムカデの姿。樹木よりも遥かな高みから、自分を見下ろすその姿を見上げ返すことに、震えは覚えなかった)
        (いや、震えていないわけではない。今も腕、肩、腹の底に微妙な力の揺れ動きを感じる。ただ、それは恐怖から生まれ出でるものではないと、頭の片隅で、何かが理解を示していた)
        …ああ、そうか…(不意に、得心を得る。この身の震えが何を訴えているのか。どうしてこの地に再び足を踏み入れたのか。その答えを、青年は感覚から理解した)
        -- リック
      • (思考の中断を促すように、耳障りな轟音が響く。顎鋏が空気を裂いて、青年の頭上から降りてきていた)
      • (一手、遅い。踊るように、その場で身を回して避けきった。巻き起こる風に髪を躍らせながら、すぐ目の前にあるムカデの頭に向けて、牙を剥くような笑みを向けた)
        いつぞやのリベンジマッチ、やらせてもらおうか!(瞳が、爛、と輝く。紅く剣呑な光をその双眸に湛えたまま、己を突き動かすものに従って、青年は一歩を踏み出した)
        -- リック
      •  
      • (轟音が、場を支配する。木々を薙ぎ倒し、大地を穿ちながら、一人と一匹は己の身を武器に戦い続けていた)
      • このっ…!(縦横無尽とばかりに放たれる足槍をかいくぐり、目の前にある壁へと、右の拳を叩き込む。水が蒸発するような音と、異臭が満ちた) -- リック
      • (一瞬、壁が揺らぐ。だが、それだけだ。その直後には、殴られた反動を利用するかのように、壁が青年を弾き飛ばす勢いで迫る)
      • ぐっ…!(咄嗟に腕を持ち上げ、盾にする。鈍い音とともに、数歩分を押し返された。両腕にも痛みが走るが、骨が折れたそれではないと、感覚で理解できる)
        (そのまま、青年は踵を返して走り出した。仕切り直しのための、間合い取り)
        -- リック
      • (もちろん、百足がそれを黙って見ているはずもない。その巨体をゆらめかせ、次の瞬間には木々を押しのけるようにして前へと出る。鋭い顎を開き、小さな獲物を噛みちぎろうと押し迫る)
      • (振り返り、そのタイミングを計っていた青年。地を蹴り飛び上がり、飛びかかってきた百足の顎牙へ爪先を乗せ、さらに上へと跳んだ)
        (そして、眼下を抜けていく百足の体へ落下していく。節くれだったその体に、両の指を引っ掻け、しがみついた)く、く…!
        -- リック
      • (それに気づいたか、百足の動きが大きくなる。ほとんど直進だったはずのそれが、だんだんと大きく身をくねらせて、蛇行じみた軌道を取り始める。自分にまとわりつくものを振りほどく、その目的を抱いてのものとしか思えない、その動き)
      • (それに、振り落とされまいと耐える。左右、上下に揺らされて、吐き気を覚えるが、どうにか堪えた)
        (しかし、一方で焦りも膨らみ始める。どうにかしがみついたところで、ここからどうするべきなのか、そのビジョンがない。頼みの右手も、それほど効果を期待できない現状で、他に採りえる手段があるのか―その思考に耽ったのは一瞬。だがしかし、それは十分すぎる隙)
        -- リック
      • (まるで図ったような勢いで、百足の身が跳ね起きた。上下への揺さぶりは、それまでの中でも最高の落差を生んで、青年の手を無理やり解かせる)
      • しまっ…!(痛恨の失敗を犯したと、そう思える時間があったかどうか。気づけば森の木々の天井を超えて、さらに高く打ち上げられていた)
        (回転する視界の中、それを見る。身をもたげたまま、堕ちてくる自分に向けて、顎を大きく開く巨大蟲の姿を)

        (状況は絶望的だ。宙に跳ね上げられた身では、頼れるものなど、それこそ己しかない)
        (だが、何もしなければ、自分はこのまま噛みちぎられるだけ―)
        ―ッ!!(黒く塗りつぶされる自分の心の中。その一角に、さらに色濃い闇が芽吹いたのを感じるのと同時。青年は、その右手を握り締め、目の前に迫った顎刃へと、それを叩きつけ―)
        -- リック
      •  
      • (始まりは、この森の中には似つかわしくない、堅いものが砕ける音だった)
      • …!?(右手に返る、普段とは違う感触と、まだ落ち続けている自分の体の無事に、驚きを覚える。着地に備えて体勢を整えながら、自分の右手に視線を走らせた) -- リック
      • (それは、いつの間にか、青年の右手の中に在った。枝が寄り集まり、一つの棒になったような、それの先には、見覚えのある形状の突起がある)
        (改めて言葉で示すのであれば、それは《斧剣》とでも呼ぶべきもの。無骨な、木製の剣が、その手に握られていたのだ)

        (そこから視線を外して見上げれば、百足が身をよじっているのも見えるだろう。顎刃は砕け、破片が降り注いでいる光景も、だ)
      • (結果と呼べる光景から、経緯を、現象を推測する)
        ……こいつなら、やれるのか…!(心に、光が差し込む。木剣を握る右の手に、力が籠った。瞳にも、強い光が宿り始める)
        -- リック
      • (その光を覆うように、潰すように、百足がその身を落としてくる。まばらに見えていた青い空さえ覆い尽くして、天井が、彼を押しつぶすために迫りくる)
      • (それを見上げながら、青年は腰を落とす。提げた斧剣を両手で握り締め、呼吸を整え―)
        ふっ…!(呼気を一つ、武具を一気に振り上げた。轟、と風の渦巻く音を響かせて、樹の塊が百足を迎え撃つ)
        -- リック
      • (結果は、痛快の一言に尽きる。質量差などというものを完全に無視した、弾き返し。巨大な百足の体が、明らかに打ち返され、空を舞った)
        (地響きを立てて地面に落ち、暴れまわる。ぎち、という鳴き声は、苦悶のそれとしか思えない)
      • (その光景を眺めながら、頬や口元の汗をぬぐう。落ち着きを取り戻した今、いろいろと浮かんでくるものがある。それこそ、今自分が握っている剣のことが、第一)
        …まあ、それは後、だよな(剣を握ったまま、右の肩を回す。ついでに首も振って、緊張からの固さを解し)
        …おっし。反撃開始…!(獰猛な笑みは、勝利を確信したものだけが浮かべることのできるものだった)
        -- リック
    • (その光景を、木々の隙間から見下ろす姿が、一つ)
      • (蝙蝠か、悪魔か。異形の翼をかすかにはばたかせて、宙に浮かぶ黒い鎧騎士)
        (眼下で繰り広げられる戦いを眺めていた彼が、ふと声を零す)
        …やっとこ、《尾剣》まで来たか。少し長かったな…。
      • そろそろ、マジに頃合いだな。あとは…あいつ次第か。
        …頼むぜ、後輩。飲まれてくれるなよ、そいつに
        (百足を相手に剣を振るう、小さな姿を見下ろして。鎧騎士は、翼をはためかせると、何処かへと飛び去って行った)
  • 黄金暦188年12月 〜街の一角、金山羊通りにて〜
    • …うーん(時刻は、正午をわずかに回った頃か。冬の寒い風にさらされつつ、街の大きな通りの中でも活気の落ち着いたほうであるその通りに構える喫茶店の軒先で、青年は背もたれに体を預けながら空を見上げて唸っていた) -- リック
      • 結局何なんだかなあ、これ…(青と白で描かれる空から視線を外し、今度は両手で掲げていたものを見る。杖ほどの長さの棒の片側には、斧のような形の出っ張りがついていた)
        (素材は樹木。見ようによっては枝が何本も寄り集まって作られたように感じられるだろう。黒みがかった茶色が、陽光に照らされて、僅かに光を返している)
        -- リック
      • (…いや、なんとなく、わかってはいるのだ。これが、自分の右腕、呪いの息づいたそれと同じ気配を持っているということは)
        (ならば問題は、どうしてそれが生まれたのか、ということであるが…)
        …うーん(もう一度、唸る。樹木を下して、今度は自分の右手を空にかざした。久しぶりに包帯を巻きつけた、白い右手を)
        -- リック
      • こいつもなー、最近はちょっと…おかしいよな、やっぱり。力が溢れすぎるというか、なんというか…(指を握り込み、開き。意味もなくそれを繰り返しながら、独り言を風に流していく)
        (きっかけは、何だったか。恐らくは、あの雪の降る森での、精霊との一戦だろう、とは思う。あれを、この右手で制したときから、妙に力が駆け巡っているような、そんな感覚を覚えるのだ)
        (気を抜けば、勝手に動き出してしまいそうな、そんな錯覚すら覚えてしまう。左手が、いつの間にか右腕を強くつかんでいることに気づいて、苦笑を零した)
        本当に、そろそろ調べないとだよな。明日は図書館と医者に行くとして…今日はあれだな、久しぶりにりっちゃんところに遊びにいくかねー。
        (おそらくは今日も暇を持て余しているだろう天使の名を口にしつつ、立ち上がろうとする。その瞬間、首筋にちり、と何かが掠めていく感覚を覚えた)
        …!(弾かれたような動きで、青年が通りへと振り返る)
        -- リック
      • (人がまばらに歩いていく昼時の大通り。そこに、一際異彩を放つものが佇んでいる)
        (光を弾き返すのではなく、そのまま吸収していってしまいそうな、深い黒色の全身鎧。鋭角な装飾を目立たせたその鎧騎士は、まるで最初からそこにいたのだとでも言わんばかりの自然さで、そこに身を晒していた)
      • (瞬間、思考が猛烈な速度で回転し始めた)
        (これで三度目か? こんな真昼間に? どうしてここに、俺のところに?)
        (それらの思考が形を成しえるより先に、体が動く。テーブルに立て掛けていた木製の斧剣の握り手を掴むと、それを自らの眼前へと振り上げた)
        -- リック
      • (それが、青年自身の身を守った。目の前へと迫っていた刃を、下から弾き返す。キィン、と金属質の高い音色が、空へ届きそうな勢いで響き渡った) -- 鎧騎士
      • く、ぬ…!(ぶつかり合い、勢いが衰えたおかげで、そこまで体勢は崩れなかった。柄を両手で握り締め、力任せに振り下す) せぇりゃっ!! -- リック
      • (再び、激音。先程の青年と同じような構えで、鎧騎士が振り下しを迎え撃つ。すぐに攻守が入れ替わり、高音が何度も響き渡った)
        (数度の打ち合いの後、お互いに振り下した得物をぶつけ合う。一際大きな激突音が鳴り響いた) -- 鎧騎士
      • (そこで、ようやく周囲がそれに気づいたようだった)
        (まず最初に起きたのは、店から外へと出てきた妙齢の女性の甲高い悲鳴だった)
        (悲鳴が連鎖し、次の悲鳴を呼び、加速していく。人通りの少ない通りではあったが、それでも数十人が慌て惑い、転びながらもその場を離れていく)
      • (それを視界の端で見送りながら、青年は両の腕に力を込め続ける。気を抜けば一気に押し返されそうだった)
        てめえ…! いい加減にしようぜ、何が目的だ…! 俺をやるつもりか!?
        (疑問を投げかけつつ、剣を跳ねあげ身を引く。手近にあった椅子を、鎧騎士の方へと蹴り飛ばした)
        -- リック
      • (疑問に返る言葉はない。あるのは返礼じみた行動のみだ)
        (飛んできた椅子を回避するようにサイドステップを踏む。それと同時に提げていた剣の切っ先を、白いテーブルの下へと潜らせた。次の瞬間、それを跳ねあげる。テーブルが、回転しつつ青年目がけて直線的に飛んだ) -- 鎧騎士
      • (対する青年は、右に剣を提げたまま、採るべき行動を僅かに迷った。相手が、この飛んでくるテーブルの裏でどう来るのか、すぐには予測がつかない)
        (恐らくは次の攻撃が飛んでくるだろう。それは右か、左か、それとも―)
        ―ままよ!(選んだのは、左右のどちらでもなく、真正面だった。唸りをあげて飛んでくる白い机に、持ち上げた樹剣を突き込む。破砕の音を響かせて、テーブルが砕け散った)
        -- リック
      • (テーブルを砕き、しかし勢いを緩めることなく突き出される堅木を、しかし受け止めるものがある。騎士が携えていた剣だ)
        (つまりは、彼も同じ行動を採っていたというころだ。飛来するテーブルに隠れ、そのまま真正面から、遮蔽物ごと相手を貫く)
        (結果として、お互いに攻撃の一手は相殺されることになったが、次の一手は鎧騎士のほうが早かった)
        (まだ破片が舞う中、剣の切っ先を回して、樹木の横腹に添え、そのまま内側へ倒す。樹木を自分の剣の下に敷き、そのまま押さえ込む構え) -- 鎧騎士
      • うおっ…!(致命的になる前に、反応できたのは我ながら上出来だったと思う。剣を手首の動きだけで、即座に上げ、押さえ込みにかかる相手の剣をかち上げる)
        (外側へ流れていきそうになる剣を手放さないように堪えつつ、相手を見据えたまま、数歩を下がった。間合いや体勢の仕切り直しから、今度は自ら打ちかかる。上段からの振り下ろしを、黒い鎧騎士へと見舞い)
        -- リック
      • (はっきりと見えるその挙動に、追従することはたやすい。当然のように、横に構えた剣を盾代わりにして、それを受け止めた)
        (のみならず、そのまま剣を斜めに傾け、受け流そうとする。このままそれを許せば、返す一撃が青年に飛んでくるだろう) -- 鎧騎士
      • く、ぬっ…!(そうはさせまいと、両手に力を込める。そして刃を無理やりに引き戻し、再び叩きつけた)
        (音は一度では止まらない。角度を小刻みに変えた叩きつけが鳴り響き、加速する。小細工もわずかな、力任せの怒涛のチャージ)
        -- リック
      • (それを受ける鎧騎士は、同じように剣の角度を変えて、叩きつけのことごとくを受け止める。そして―)
        (受け止めたその瞬間、騎士が剣を上へ押し上げた。青年の一撃を返し、よろけさせたその上で、そのまま右から左への薙ぎ払いを見舞ってくる) -- 鎧騎士
      • (攻守の入れ替わり。弾かれた樹棒を回し、構え直して、迫る一撃を受け止める)
        (―その直前、背中を震えが駆け上った。何か、致命的なことをやらかした、そんな焦りが、体を勝手に動かしていく)
        (結局青年は一撃を受け止めることを避け、その場をバックステップで飛び退いた)
        -- リック
      • (その青年の胸元を、騎士の剣が掠めていく。いつの間にか、その刃には紅の色彩が宿っていた。空気が焼かれる匂いが、鼻孔をくすぐる気がする)
        (揺らめく炎。それを纏った剣を構え直し、鎧騎士が攻勢に転ずる。下から上へ、斜めの斬り上げを見舞い) -- 鎧騎士
      • くっ…!(その斬撃の鋭さよりも、揺らめく炎が、青年の精神を揺らがせる。身を仰け反らせ、下からの一撃は回避した)
        (が、息を抜くのはまだ早い。翻って上から振り下ろされる二撃目も、さらに下がって回避する)
        (炎の熱が肌を掠めていくことに、身を固くさせる。すり足で動き、必死に回避運動を続けながら、一方で思考は回転を続けていく)
        (繰り出される一撃に、恐怖とは別の、閃きにも似た何かを感じている自分がいる。否、これは得心か。自分にできることを理解した、それゆえの心の動き)
        (途端に、足元がふらついた。砕けたテーブルの破片に、踵が当たる)しまっ…!!
        -- リック
      • (その隙を、騎士が見逃すわけがない。一瞬の振りかぶりの後に、左からの一撃が走った。直線的な炎の刃が、青年の胴を確実に薙ぎ払おうと迫りくる) -- 鎧騎士
      • (体勢を整えるのは、間に合わない。回避などできない。―防ぐしかない!)
        くっ…!(姿勢を崩し、左の膝を地についたまま、自分の右から迫ってくる刃に向けて、上から下へと立てた樹木を置いた。肩でそれを支えながら、右手に意識を集中させる)
        (普段と同じプロセス。違うのは、集中させる力の場所。己の右腕ではなく、その先―)
        -- リック
      • (その思考を断ち切るような勢いで、炎の刃が唸りをあげて迫りくる。些細な障害など意にも介さぬ、それほどまでの燃え盛りを以て、剣は樹木へとぶつかり―爆発した) -- 鎧騎士
      • (焼ける、という感覚は感じなかった。ただ、眩さが酷くて、一瞬だけ瞼を閉じる。手ごたえは、確かに樹木を握る両手に伝わっていた)
        (それ以外に、己に伝わってくるものはないと、そう確信するまでには若干の時間がかかった、はずだ。目を開いて、自分の右を見る。未だ燃え盛る炎と、それと十字架を成す緑の輝きが、視界に映った)
        …はは(知らず、笑みが零れる。やはり、という感覚が、体に染み込んでいくのが、心地いい)
        (剣を受け止めたまま、ゆっくりと膝を上げ、立ち上がる。そして腕に全力を込めて、炎刃を弾き返した)
        -- リック
      • (それに逆らうことなく、鎧騎士が一歩を跳ぶ。重装備とは思えない身軽さで間合いを仕切り直すと、燃え盛る剣の切っ先を提げて、腰を落とした)
        (周囲には、すでに人影はない。遠くで聞こえる声は、自警団か何かを呼ぶものだろうか)
        (だが、いかなる邪魔が入ったとしても、この相手はそうそう止まらないだろう。そう思わせるだけの固い意思が、構えからうかがえた) -- 鎧騎士
      • (対して、流麗な程の淡い翡翠の光を放つ剣斧を眼前に構えながら、青年は息を吐く)
        (得心が、さらに先の高みへと至ったと、彼自身がそう感じ取っていた)
        (記憶が、経験が、次々と脳裏にプレイバックされていく。ぶつけ合った右の拳、輝く剣、偶然とは思えない自分への三度の襲撃。ピースが、つなぎ合わされていく)
        (そして得た結論を、青年は口に上らせた)

        ―お前も、俺と同じなのか…!(“呪い”を得て、人から外れた者なのか)
        -- リック
      • (問いに返るものはない。あるのは、痛烈とも呼べる一撃だけだ)
        (炎に照らされ鈍く輝く鎧騎士は、先までより一層鋭さを増した斬撃を、対峙するものへと放つ―打ち合いが、再開した) -- 鎧騎士
      •  
      • (斬り結び、離れ、打ちかかっては受け流す。歪な舞踏のようなそれを何度繰り返しただろうか)
        (舞踏の変化は、踊り手の二人ではなく、部外者によってもたらされた)
        (通りの向こうから、数人の足音が響いてくる。視線を向ければ、それが具足によるものだとわかるだろう。皆一様に同じ意匠の軽鎧を身に纏っていた)
      • 騎士団か!(その一団の姿に、安堵を覚える。日々騒動が絶えないこの街の治安を司る組織の一角だ。その能力の高さは、少し慣れてきた冒険者ならよく知っている)
        (これで少しは状況も変わるだろうと、そう思いつつ、腰を落として相手を見据える)
        -- リック
      • (その視線を向けられた鎧騎士の行動は、これまでとは打って変わった異質なものだった)
        (剣を提げ、隙のない構えを取ってはいるが、その全身から放たれる気迫が、妙に揺らいでいるように感じられた)
        (それを言葉で表すのなら、焦り、戸惑い、といったようなものになるのだろうか) -- 鎧騎士
      • (これには、さすがに青年も眉をひそめた。何か、見逃してはいけない違和感を覚えたような気がする)
        (とはいえ、どう出ていいものかもすぐには判別できない。そうこうしているうちに、騎士団と思しき集団は、すでに自分たちの側にまで近づいてきていた)
        -- リック
      • (集団のうち、先頭に立っていた男が、さらに一歩前へ進み出る)
        どうも、失礼する。乱闘騒ぎを起こしているという通報を受けてきたが、君たち二人のことで間違いないな?(壮年、と呼んでも差し支えないだろう男が、青年と鎧騎士を交互に見遣りながら、堅い口調で問いかけてくる)
      • (それに対する騎士の返答は、寡黙にして雄弁だった)
        (そちらを見返すこともなく、再び青年に向かって打ちかかる。それも、今までとは質の異なる連続の剣打だ) -- 鎧騎士
      • うお、わ、と、くっ…!(打撃がいきなりに過ぎた。それでもどうにか防ぎ切るのは、戦いに慣れてきた証だろうか)
        (慌てつつも数歩を下がる。押し込まれ、はじき出され、店の敷地の外へ)
        -- リック
      • (そのまま青年を追って動きつつ、騎士が片腕を振る。黒い腕が弧を描き、それを追って紅色の色彩が生まれ出た)
        (それは、天まで届きそうなほどの、燃え盛る炎の壁。騎士団の面々と、彼らを分かつための、火花を散らす大きな壁だった) -- 鎧騎士
      • …へえ…(呟く間にも、四方が焔に遮られる。そこまで広くはない空間の中、青年は鎧騎士と向き合った)
        (これは、つまりは―どうしても、自分とやり合いたいということか。そう感じながら、改めて斧剣を振る。風が、唸りをあげた)
        いいぜ、そっちがそういうつもりなら、こっちもとことん付き合ってやる。今度こそ、返り討ちだ…!
        -- リック
      • (その言葉に刺激されたのかもしれない。鎧騎士が身を屈め、前へと踏み出した。ドン、と大地が震え、空気が音を生む。青年の足元を薙ぐように、低い横振りの一撃が飛ぶ) -- 鎧騎士
      • おっと!(軽く飛び退り、その一撃を回避する。それだけに収まらず、左足を勢いよく落とし、すぐ下を通過しようとしていた剣を踏みつけた。そしてそこから、上段からの振り下しを見舞う。斧の刃が、鎧騎士の兜を叩き斬ろうと迫る) -- リック
      • (対する鎧騎士の行動は迅速だった。彼は即座に剣を手放したのだ。そして空いた両腕を交互に重ね構え、振り下されてきた一撃を受け止めた)
        (一瞬だけ沈み込んだそれを、勢いよく跳ね上げる。そしてその勢いのままに、両手を振り下した。袈裟がけにも似た、肩を狙った双撃だ) -- 鎧騎士
      • がっ…!(重い一撃が、肩を打ち据える。声をあげたところに、さらに掌底をぶち込まれた。顔面を強かに打ち据えられて、再び仰け反る青年)
        このっ…!(反撃とばかりに、再び剣を打ち込む。ただし今度のそれは振り下しではなく、切っ先を寝かせた、突きの一撃だ。引き絞った弦から放たれる一矢のごとく、強烈な勢いで突き込まれたそれが、鎧騎士のバイザーを撃ち抜かんと迫る)
        -- リック
      • (その一撃を、首を傾げて回避する。金属が金属を削る嫌な音を響かせつつ、剣が行き過ぎるのを見送る素振りもなく、そのまま騎士が前へ出る)
        (そして引き戻した右腕を、再び突き出した。金属に覆われた剛腕の一撃が、青年の腹にめり込む) -- 鎧騎士
      • げうっ…!(胃の中のものを吐き出さずに済んだのが異常だと、そう思えるほどの重い打撃。腹を抱えてよろめきながら、数歩を下がった)
        …やっぱり、強え…(掌底を受けたときに切ったのか、唇の端から血が流れていた。それを拭いつつ、悪態じみた言葉を吐く。やはり、目の前の相手は手強い)
        -- リック
      • (空さえも炎に覆われた狭い空間の中、光を宿して鎧騎士が立つ。地に落としていた剣を掴み上げ、大きく回してから構え直した。悠然、という表現が似合う、そんな行動) -- 鎧騎士
      • (ダメージを抜こうと息を整えながらそれを見ているうちに、青年はふと疑問を覚えた)
        (どうして、今この機に攻めあげてこないのだろうか。これほど決定的な隙など、そうあるわけがない)
        (自分を殺すつもりなら、今、攻めてくるべきだというのに―)
        …そうだよな…(自分の思考に、つい頷いてしまう。そうだ、その通りだ。このままならば、自分は確実に、この騎士に敗北する。あれから力を付けたからこそ、感じ取れた力量差)
        -- リック
      • (がしゃり、と鎧騎士が動く。燃え盛る炎を背景に、白と黒の色彩を持って迫るその姿は、言いようのない威圧感と、恐怖を見るものに与えるだろう) -- 鎧騎士
      • (しかし、それを見返す青年に、その影響はわずかだった。まったく感じていないわけではない。だが、それ以上に揺らぐものが、青年の内にある)
        絶対に、勝つ―!!(それは、闘争心、というべきものなのか。それとも別の何かなのか。心の奥深くから沸き起こる熱いものが、青年を身構えさせた)
        (意識を、右腕に集中させる。生半可なものではダメだ。今までよりももっと深く、強く、力を引き出さなければ、あの敵には届かない―!)
        (包帯が消し飛び、翡翠の色に輝く右腕が露わになる。だがそこから、青年はさらに意識を引き絞った)―もっとだ…! もっと、輝けぇぇ!!
        -- リック
      • 《――――》(その瞬間。何かが、青年に応えた、そんな感覚がした)
      • !?(思わず、自身の右腕に視線を走らせる。その青年の視界の中、翡翠色に輝いていた腕の色彩が、急激に変化していく)
        (神秘的なものを宿していた翡翠が、禍々しい程に色濃い闇紫へと摩り替っていき、それに比例するように、青年の意識に靄がかかっていく。何かに覆われ、包まれ、息苦しさを覚える)
        ぐっ…!(力の集中を止めようとするが、間に合わない。膨れ上がった紫の光が青年の身を一瞬で包み込み、体を動かすことを阻む。意識だけではなく、全身すらも何かに包まれていくのを感じるのが、今の青年にできることだった)
        -- リック
      • 《――喰――》(再び、何かが青年に応える。先よりも明確になったそれが、ただでさえ朦朧となりつつある青年の意識を圧迫し、掻き回す。吐き気すら覚えるほどの、窮屈な感覚)
        (一方で、身を包んでいた紫の光が一瞬で晴れる。そこに在るものは、今までの青年の姿からはかけ離れたものだった)
        (闇紫の色彩を持つ、歪な甲冑。表面を走る節くれは、血管のように見える。だが間近で見ることができたなら、それが曲がりくねった樹木の枝だということがわかるだろう)
        (炎の照り返しの中、紫の鎧騎士は赤に閉ざされた天を仰いだ。そして――)
        《Grrrrrrrrrrrr!!》(獣じみた咆哮を、上げた)
      • (その声に応じるように、黒の騎士が動く。地を蹴り、右に握った剣を、勢いよく突き込んだ。僅かに捻りを加えた一撃が、啼き終えて身を前に戻した紫の、その首元を目がけて突き進む) -- 鎧騎士
      • (それに応じる紫の動作は、とても穏やかにさえ見えるものだった。彼は持ち上げた右の腕を、その手に握っていた剣を、無造作に横に払ったのだ)
        (その途端、彼と、迫りくる騎士の間の地面が、めくれ上がる。石畳を突きあげて現れるのは、五本の木の根。ありえないほどの太さと鋭角さを持ったそれが、次の瞬間には黒い騎士の上、五方向から、押しつぶさんとばかりに迫りゆく)
      • (これには鎧騎士も、さすがに前進を諦めた。剣を引き戻して樹木の檻を打ち払い、その包囲から抜けるために飛びのく)
        (だがそれでは終わらない。一瞬にして炎を宿した剣を一閃し、地に突き立った樹木の檻をまとめて切り払い、焼き尽くす) -- 鎧騎士
      • (その、灰になりつつ崩れ落ちる檻を打ち崩す勢いで、炎を越えて紫が打ちかかる。大上段からの一撃を、力任せに黒い騎士へと叩きつけた)
      • (騎士はそれを受け止めず、ステップ一度で回避する。破壊された石畳の破片が鎧にぶつかるのも構わず、一撃を振り下した姿勢のままの紫の鎧の右の腕を目掛けて、剣を振る) -- 鎧騎士
      • (その一撃に、紫は即座に反応。握っていた柄を離し、広げた五指で、迫る刃を掴みとった。ぎゃり、と金属がこすれ合い、刃が掌に当たるが、それだけだ)
        (一方で、支えを失って傾き始める斧剣の柄を、左の手でかっさらう。そのまま右指から刃を解放し、左回りからの遠心力を以て、黒い騎士の右から強襲をぶちかます)
      • (それをそのまま見届けることなく、黒の騎士も身を回して回避に徹する。そして放たれる剣撃は、剣斧に阻まれ、逆に阻み、音を鳴り響かせる)
        (断続的だった激突の音は、次第に連なり、一つの音のように響いていく。止まることのない音の嵐と熱の中、騎士は何度も互いの武具を振り、打ちつけ合った) -- 鎧騎士
      •  
      • (その光景を、青年はおぼろげな視界で見つめていた)
        (視界の端に見える紫の腕は、紛れもなく己のものだ。だというのに、指一本を動かすことすらままならない)
        一体、何が…くそっ!(意識だけで悪態を吐く。その間にも、自分ではない自分が、黒い騎士と激闘を続けていく)
        (剣が振るわれ、阻まれる度に、青年の思考が揺らぐ。否、揺らいでいるのは彼のものではなく、彼の思考を覆っている何かのようだった)
        (苛立ち、怒り、渇望―言葉で表現するならばそういうものになるだろうか。痛みさえ伴う揺さぶりに、意識が飛びそうになる。どうにか耐えるが、焦りが心の内を浸食していくのを止められないのもまた、事実だった)
        どうすりゃいいんだ、どうすりゃ…!
        -- リック
      • (焦燥に駆られる青年の思考に、水を差すものが飛び込む。それは、聞いた覚えのない男の声だった)
        《―よう。なかなか派手にやってるじゃねえか、ハッピーか?》
        (軽口めいた言葉が、ただでさえ意識のみの状態である青年の神経を、逆撫でする)
      • そんなわけあるか! 誰だお前は!?(叫び返す。意識が膨張し、破裂しそうな錯覚すら覚えた)
        (その間にも、炎の檻の中での激闘は続く。石畳はほとんどがめくれあがり、蛇のように蠢く樹木の群れと、それらをことごとく焼き払う三日月めいた炎の閃刃が飛び交う、異能の戦いと化していた)
        -- リック
      • 《だよなあ、やっぱり》(意外にも、声はすんなりと抗議を受け入れた。その上で、それはさらに言葉を紡いでいく)
        《とりあえず、早いとこ止めたほうがいいぜ。このままだとお前さん、二度と目覚めなくなるからな》
      • (その言葉は、すんなりと青年の耳に、頭の中に滑り込んできた。抗議の言葉を思いつくより先に、それが抗いようのない現実だと、心のどこかが認めていた)
        本当に、誰なんだお前は。なんでそこまで言い切れる?
        -- リック
      • 《その詮索も後にしといてもらえるか? こっちも、そんなに余裕があるわけじゃない。このチャンス、逃すわけにはいかねえ》
        (追及を阻む声には、僅かな焦りが見え隠れしている。声の主はさらに言葉をつなげ、青年を促した)
        《いいか、まずは自分を強く持て。自分以外のものにのっとられるということを意識し、拒むんだ。やれるな?》
      • いや、そんな急に言われたってな!?(視界の中では、さらに激闘が続いている。他人事にしか思えないその光景に、しかし彼はだんだんと実感を覚え始めていた)
        (視界の端で振るわれる剣が阻まれる感触が、手指の先から伝わってくる、気がする。これが、のっとられ始めているということなのかと、青年は漠然とながら実感した)
        -- リック
      • 《いっつも右腕でやってるようなのと、ほとんど同じだ…とっ! 意識を集中しろ、全身に力を流し込め、纏わりつくものを振り払え…! くっ!》
        (声の合間に、呼気が響く。それとほぼ同じタイミングで、視界の中の黒騎士が、剣を振り、攻撃を凌いでいることに気づくだろうか)
      • あ、ああ(言われるがままに意識を絞る。散らばりそうになっていたものを掻き集め、全身へと流し込むのを繰り返しながら、視界で捉えたものについても思考を走らせる)
        お前、まさか―!
        -- リック
      • (青年が意思で叫びをあげかけたその瞬間、光景に大きな変化が訪れた)
        (炎の一撃を打ち込む黒い騎士の、その背後から、巨木で造られた槍が迫る。気づいて振り返るが時すでに遅く、騎士はそのまま槍に脇腹を強打された)
        《ぐうっ―!》(苦悶の声が響く。苦しげに息を吐き出しながら、声は青年へと呼びかけた)
        《そろそろこっちも限界だ、仕掛けるぞ! 準備はいいな!?》
      • だから準備ったって何のだよ!?(自分が置いてけぼりにされているような感覚に、焦りがさらに募る。疑問の声をあげつつも、視界に映る黒い騎士が、ゆらりと立ち上がるのを注視した) -- リック
      • 《自分を取り戻す準備に決まってんだろ!》(声が叫ぶと同時、立ち上がった騎士の背から何かが生まれ出た。紅い壁を遮るそれは、帳めいた黒い翼だ。蝙蝠の持つそれと似通った翼で空を叩くと、黒い騎士の身が宙に舞い上がる)
        (そして炎の檻の天井付近で一度その身を留めると、再び翼で空を打った。突き出した右足を下にしながら、黒が急降下する。自分を――青年を目掛けて)
      • (自らに向かって堕ちてくる、一筋の黒い流星を見上げ、闇紫が吼える)
        《Gaaaaaaaaa!!》(その声を合図に、闇紫の足元の石畳がめくれ上がった。極限までしなった樹木の根が、次の瞬間には跳ね上がり、その上に乗っていた騎士を空高く打ち上げる)
        (そして斧を手落とし、自由になった右の手を拳として、勢いよく突き出した。闇色の光を纏った打撃が、黒騎士の蹴りを迎え撃ち、ぶつかり合う)
      • (堕ちるもの、昇るもの。両者の一撃は拮抗する。金属が身を押し付け合い、擦れ合う耳障りな音と、燃え盛る炎の二重奏。だがしかし、それも長くは続かない)
        ――!(呼気を一つ置いて、黒い騎士が新たな動きを見せる。闇を散らして自分を押し上げようとする紫の拳、その先に右足を突き込んだまま、それを軸にして身を回し始めたのだ)
        (錐揉みじみた回転はすぐに高速化し、足先から陽炎が揺らめく。そして、すぐに緋が噴き上がった)
        (黒が、紅を纏う。二色が絡み合い、螺旋となって、宙にたなびく。二色が形作る流星が、紫の生み出す闇を削り、吹き飛ばし、唸りを上げる)
      • (拮抗を破り始めた相手の一撃に、紫の騎士が息を呑む、そんな気配を発する)
        (すぐに左の手も突出し、広げた両手で蹴り脚を受け止めようとする。だが、その判断は遅かった。遅きに過ぎた)
      • (ギィン、と一際大きな高音が響く。紫の騎士が防御のために突き出していた両手が、回転に競り負け、外へと弾き返されていた)
        (時が止まったように感じたのは、ほんの一瞬のことだったろう。次の瞬間には、ガードを外され、がら空きになった闇紫の鎧の、その中央に、紅黒の流星が突き刺さった)
        (そして、それだけでは終わらない。宙にある両者が、荒れた大地へと、一直線に落ちていく。流麗な螺旋を描いていたその姿は、今や紅の一色だ。炎を纏った一撃が、紫をその嘴にとらえたまま、大地へと突き立った。空気が、爆ぜる。爆音が、空気を確かに打ち据えた)
        (その爆音に負けない大音声が、鋭く響いた)《―今だ!》
      • (その声に、背中を押される。引き絞った力を、一気に意識の外へ放出した)
        お、お……おおおおおおッ!!(声を上げる。意識のどこかが、自分のあげるその声を、まるで産声のようだと感じていた。翡翠の輝きが、おぼろげだった全身から溢れ、それを包んでいたものを押しのけていく)
        -- リック
      • (視界を染め上げる翡翠の中に、異彩が一瞬だけ浮かび上がる。それは意識を爆発させる青年を、強く睨み返していた)
        (紫の色彩を持つ、長い体を持ったそれは、大きく顎を開き―そして、翡翠の向こうに消えていった)
      • ――(それに向かって呼びかけることも、できそうにない。己が発しているはずの光を眩く思い、瞳を閉じた)
        (そして次の瞬間、青年の意識は、闇に落ちた)
        -- リック
      •  
      • ……は……(意識が震え、体がそれを受け止める。瞼を開いた青年は、弾かれたように体を起こした) -- リック
      • (視界に映るのは、壊れた街並みと、青白の空。鼻をくすぐるのは、何かが焼け焦げる匂い)
        (それらが、先に繰り広げられていた光景が夢幻ではないのだと、青年の五感に訴えかけていた)
        (そして、その中に映る、黒い鎧姿――)
      • てめっ…!?(その姿を認識した途端、体が動く。…否、正確には動こうとして、失敗した)
        (飛び起きようとして足を滑らせ、そのまま背中を強打する)〜〜ッ!?(声も出せず、その場で右に左に転がり始めた)
        -- リック
      • 《あーあー無茶しやがる。大丈夫かよ?》(その一部始終を見ていた鎧騎士が、首を振りながら言葉を発する。その声音は、先ほど青年の意識に直接語りかけていたものと、まったく同じものだった)
        《無理すんない、しばらくは歩くのも億劫なはずだぜ。肩くらいなら貸すから、な?》(歩み寄りながら、そんなことをのたまう。拒否することも許さず、青年の腕を掴んで起き上がらせた) -- 鎧騎士
      • いてぇ!?(思わず悲鳴を上げる。熱を持った右肩が、激痛を発し続けていた。思わず浮いた涙を悟られないようにと祈りつつ、己の肩を担ぐ黒い騎士を見返す)
        (聞くべきことはいくらでもあるはずなのに、言葉が上手くまとまらない。結局、口にできたのはこの言葉だけだった)…何者なんだ、あんた。
        -- リック
      • 《わかって聞いてるなら時間の無駄だろ?》(笑いさえ含んだ言葉を投げ返して、鎧騎士が歩き出す。遠く、呼び笛の音が響いた方を一瞥して)
        《予想外に張りきっちまったからな、とにかくここから離れないと面倒だ。騎士団が来るまでに終わらせるつもりだったのに、うまくいかないもんだ…》(愚痴めいた言葉を零しつつ、足は建物の間、路地裏へと抜けるルートを選んでいく) -- 鎧騎士
      • …ほんと、後で説明してもらうかんな。散々人の命狙ってきやがって、かと思えばこれかよ…!
        (悪態を告げるのが精いっぱいだ。すでに、意識は二度目のブラックアウトを間近に迎えている。足が動き続けているのは、ただの惰性に近しい)
        -- リック
      • 《わかってるよ、せっかくできた後輩だ。懇切丁寧に説明してやる。この先輩―ヒュルト・ガングリード様が、な》
        (自分の名を告げる。建物の陰に溶け込むように消えていく二人の足音は、すぐに遠ざかり、消えていった――) -- 鎧騎士

Last-modified: 2012-02-04 Sat 23:58:01 JST (2870d)