企画/叙事詩
 
 
 



 


 


 

 

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(ゼナンでの戦いの後、帝国軍本隊から離れた飛爛達は南方の荒野を行軍し続け、そして
アトル・イッツァの街に入ったのは224年がもうじき終わる頃であった。)
 (通り道にあった都市国家群もほぼその配下に加えることに成功して、この街に到着した
時点で飛爛達が命じられた南進は一応目的を果たしたことになる、だが彼女はすぐに本
隊に戻ることはせずに、率いた部隊とともにしばらくその地にとどまっていた。)

 (薄い蒼色の下に低く綿雲が羊の群れように流れ、多少波はうねっている、陸に囲まれ
た内海とはいえ冬はそこそこ波も高いものだった。)
 (しかし、太陽は雲の間によく輝いていて、盛夏の頃を連想できなくもない。)
 (肌寒いが爽やかなものだった。)
 (その海をしぶきを上げて、2本マストの帆船が進んでいく。メインマストから斜めに張り出し
た2枚の三角帆と、細長い船体はどこか羽を広げた鳥のようにも見える、甲板の上には小麦色の
肌をした水夫達にまじって、飛爛の兵達も乗り込んでいた。)

うはーめっちゃ揺れるー!あははははっ、何あの鳥初めてみた
 (金髪に染めた髪を海風になびかせながら、マストの上を飛ぶカモメを見上げて)
(飛爛は楽しそうに笑っている。) -- 飛爛

……あ(対照的に海をじーっと覗き込んでいる少女が一人。別に吐きそうなのではなく魚を見ているのだ)
(ある意味自分のルーツでもあるのでとても興味深いのだろう) -- フェロミア

泳ぐの?
 (黄色いドレスのスカートとその下の白いレースまではためかせて、海面を覗き込むフェロミアの)
(横にぴょこりと飛爛が跳ねてきた。デッキの手すりにかけた両手の間で胸元の大きな)
(リボンが風に揺れてふわふわとうごいていた。)
 (見た目が子供っぽいからといって、子供服が本当に似合いすぎなアラサーであった。) -- 飛爛

泳いだ事、ない(ようやく顔を上げて答える。こちらの服装はと言えばノースリーブで丈の長めな上着のみと言った風情、以前盗んできた服と似たような形なのを見るにあれが気に入ったらしい)
ただ、魚って飛ばないんだなって……(暫くゆれるリボンの動きを目で追った後再び水面に目を落とす。ちょっと寂しそうにも見えた) -- フェロミア

 (うつむくフェロミアの肩に飛爛の手が乗った、むき出しの肩を袖口のレースがくすぐる。)
うーん・・・こっちには居るかなぁ?
 (きゅっ肩に置いた手に軽く力がこもる、ふわりっと飛爛は手すりの上に飛び乗って)
(額に手をかざして遠くを探すように海原を見始めた。) -- 飛爛

(急に肩に乗った手にびくっとする。さらに軽くとは言え掴んでくるのだから、何か悪い事でも言っただろうかと不安になるのも仕方なかった。ドキドキして変な汗が出る)
な、何がいるって……って言うか危ない、危ないって(手すりの上で立つ飛爛の姿に今度は別の方向のドキドキ、と言うかハラハラを感じながらわたわたする。もう魚どころじゃない) -- フェロミア

 へーき平気、だって下全部水じゃん落ちても痛くないって
 (帆走してる船から落ちたらまったく平気ではないが、断崖育ち高いところは大体遊び場)
(というこの姫様には危機管理能力が欠乏しているのかもしれない。)
あっ…っとっおわっ!………よっとと…ああーッ
 (案の定船が波を大きく超えた揺れでバランスを崩して、手すりから甲板に落ちた。) -- 飛爛

痛くなくても置き去りになるって……(声色が心配半分呆れ半分になる。人が心配してるのに暢気な!と言う苛立ちも少し含まれていたかもしれない)
って、あっ、あーっ……(よろめく飛爛を助けようと掴みにかかるが落ちた方向は想定とは全く逆。勢いあまって転んだまではまだ良かったが、思い切り下敷きになった) -- フェロミア

もーこの服動きづらいから嫌いよ、ってあああごめんっ大丈夫!?
 (慌てて、潰れたフェロミアの上から飛びのく飛爛。)
(飛爛は小柄とはいえ、下敷きになったフェロミアはさらに小さいのだ。)
 (うっかり犬の足を踏んだ時のように、様子を伺う) -- 飛爛

うぅ……(生身とは言え義手義足、胴体も強化されているので特に怪我はない。ないがやっぱり痛いは痛い)
頭打った(上体を起こしながらぼやく。涙目なのは決して泣いている訳ではなく、刺激に対する反射みたいなものだ) -- フェロミア

 いやぁ…ははっ気をつけないとね
 (涙目になるフェロミアの頭を飛爛の手が撫でる。飛爛は海の危険を一つ学んだ。)
 (そうこうしていると、船の喫水線の当たりで何かがバシャリッと跳ねた。しぶきを立てて)
(進む船の舳先目指して、海面を何かが沢山群れて跳ねている。) -- 飛爛

(撫でられると「子供扱いするな」と言う視線が飛ぶが、眉はどちらかと言うと気持ち良さそうに弛緩している。複雑な心境なのだろう)
……ん?(そうこうしている内に何か異変を感じ取る。あの音は一体……目を向ける) -- フェロミア

 (海面から一際高く飛び出した一匹がついに甲板の高さまで越えた。座り込んだ二人の)
(視線の先を銀色の大きな羽を広げて、飛魚が水平線の上に弧を描いて飛んでいる。)
 (さっきから水面をバシャバシャと叩いていのたは飛魚の群れだったのだ。勢いをつけ)
(風に乗った細長い魚が船と併走しながら波の合間から無数に飛び出して滑空していた。)
 (沢山の魚の銀の腹が鏡のように陽光を乱反射して銀の紙ふぶきが舞っているようだ。)

(声は出さないが、その光景を見て「おー……」とでも言う様に口を開けて目を輝かせる。自分とはフォルムが全く違うが、それらも飛んでいた)
飛んでる……飛爛見て、飛んでる(魚が空を舞っている。どう見たって滑空しているだけなのは自分でも分かるが、海を飛び出して空を行くと言う、その事が重要なのだ)
(作られた存在である自分。不自然である自分。そんな自分と自然にある世界の共通点を見つけて行く事はとても嬉しかった。ここにいてもいいんだ、と思えるから) -- フェロミア

飛魚居たねぇ、私も本物見るのは初めてだよ!探してたらちょうど出てきてくれるとかラッキー!
 (空を飛ぶことのできる魚も居ると、教えてあげたらよろこぶだろうかと、何となく思った)
(のは正解だったようだ。)
 (端から見れば分かりづらいフェロミアの感動だったが、飛爛はそれがよく分かって)
(フェロミアと並んで楽しそうに笑った。)

 ちなみに味も結構いいらしいよ!
 (そういって横を向いた飛爛の視線の先では、長い竿の網を持って船乗りが飛魚を取っていた。)
(実に手馴れたもので、ほいほいとまるで飛魚が自ら飛び込むように大きなすくい網の中に)
(飛び込んでいった。職人技である。) -- 飛爛

うん……ラッキー(本当に幸運だと思う。この魚に出会えたことは嬉しかったし、何より飛爛が嬉しそうだったから。感情を持たなかった少女はついに感情を分かち合うと言う事を覚えて)

えっ(飛爛の言葉と船員の動きを見て思わず思考停止する。挙句の果てに魚達が料理されてる光景を見た日にゃ)
えー!?(先程までの感動も何処へやら、「ガーン」と音が聞こえそうな表情で絶望の声を上げるのだった) -- フェロミア

 (そして夕餉に出された飛魚料理をフェロミアが悲しげな顔をする横で飛爛はおいしく)
(いただいたのだった。)



 



 

 

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 (あらすじ:飛ちゃんはG.A.225年1月某日、スリュヘイムで迷子になりました。)
(フェロミアの鎧を修理するための技師や材料を確保する途中、注意力散漫、知らない人にはついていく、知らない犬猫にもついていく)
(衝動重点、後先無考の悪い癖が出て、彼女は仲間からはぐれ路地をもぐりかってに人んちのドアをくぐり)
(マスクを脱いだ笑顔一発で、誰にもとがめられることなく、自主的に社会科見学をなさっておられた。) -- 飛爛

おうフロイライン!此方は公国立魔導錬金研究所付…重鎧工房であるぞ!
(鉄床の一つにもたれかかっていた、まさか人が入っているとは思い難い鎧―どこかで、見覚えがある―がフレンドリーに話しかける)
学習熱心なのは良いが、一人歩きは関心せん…うむ、杖を取ってくれるかな?
(見たところ、左足の外装が無く…その下の衣服?に力が入る様子もない。脚を悪くしているのだろうか)
-- レーヴェンフック

ぴゃぅッ!?
 (飛爛は変な悲鳴を上げた、金髪に染めた長い髪までゾワッと浮き上がる程驚いたのだ。)
(その奇妙な鎧には見覚えがあった、忘れようとて容易に忘れられぬ奇怪きわまるスチ)
(ームパンク的なひし形兜と、分厚い鉄板感あふれる装甲である。)
・・・わたしは別に1人でも危ないことないもん
 (これ、ぜったいゼナンで見たアイツだよなぁ・・・と思いながら、肘のところから漏斗型)
(に広がったドレスの裾から出た小さな手で、傍らに置かれていた杖を取って差し出した。) -- 飛爛

そうは言うがな(杖を受け取ると、立ち上がる 彼女の身長は腰ほどまでしか無い)
どろどろに煮え滾った鋼、その身に受けんとも限るまい?
(出来るだけおどろおどろしく、怖がらせるような口調で)
であれば、護衛の騎士の一人も付けて然るべき。儂はそう思うのだよ
(特に公国の未来を担う、知的好奇心に満ちた子には、と付け加え)
-- レーヴェンフック

 (デカイッ!?と飛爛は再び驚いた、前回見た時はココロアの背の上かあるいは空の上から)
(だったので、見上げるとその威圧感を改めて感じる。)
 (『こぉれ、私が大爛の皇女だってバレたら死ねるわね…』と思った。その心配はこの街)
(入るときにするべきだったことであり、事ここに居たってようやく気付く飛爛は相当考えな)
(しであった。)
私はフェイリス・カーターと申します、では騎士様、私をお守りいただけますか?
 (慣れた様子でローディア式におじぎして笑いながら騎士を見上げる飛爛。)
 (戦場で会った解きは飛行帽とゴーグルで顔は隠れていたし、幸い正体ばれてないようだ)
(なんだか話しの通じない感じでもないし、これでうまくいくといいなぁとか飛爛は思った。) -- 飛爛

フロイライン・フェイリス!この統一王朝が騎士エルネスト・フォン・レーヴェンフックが誇りにかけて、貴方を御守りしましょうぞ!
(片杖の騎士は勇ましく名乗りを上げると、一礼し…全く驚くべきことに、彼女の正体について記憶を探りもしなかった)

公国の重甲冑に興味があるとは、中々女子には珍しい趣味であるが
(出征する兄君殿に良いモノでも見繕いに来たのかね?と聞きながら、鋳型の作成工程を見まわる一人と一騎)
-- レーヴェンフック

え、と…うん、そうなの!お兄様のじゃないけど、壊れた鎧を直すために色々探してて
 (嘘は言っていない、実際ここならフェロミアの鎧を完璧に直せそうな感じがしたので興味を)
(もってもぐりこんだのだ。)
ここは他の工房より設備が立派だし、みんな親切に通してくれたから
 (嘘は言ってない、ごまかしが聞かなさそうだったスタッフはアクロバティックにスルーした)
(だけなので。)
うわぁ、おっきな炉!作業場も色んな器械でいっぱい・・・
(溶鉄の光に照らされたその工房の中は、飛爛が知る風車と歯車で動くカタクァの工房とは)
(まったく異なる情景だった。ここなら、空を泳ぐフェロミアの鎧も完璧に直せるかもしれない・・・)
 (どうにかして彼らに自分達の正体をばらさないまま仕事を引き受けさせる方法はないものか)
(考える・・・考える・・・答えがでないので、それより横の騎士の事が気になった。集中力が足りない)
ね、その足怪我してるの? -- 飛爛

まあそんなところであるが…重くはないさ、心配せずとも直るケガである
(なおる、のニュアンスが微妙に違ったのが伝わったかどうかは定かではないが、引きずった脚に悲壮感はあまりない)
公国の製鉄技術は世界一!信頼の置ける技術者に設備、全ては人の努力の結晶なのだ
(技術と言えば。先日戦場で助けられた航空部隊に推進爆弾などの新兵器群、部隊伝手で問い合わせても…それらしき運用試験部隊は見つからなかった)
(勿論704戦試に許可された機密クリアランス以上に秘匿された兵器であるならば当然の結果ではあるのだが…)
(こちらも少し、集中を乱されたか。火花散る鍛造工程は秘伝を守る職人の眼が光り、あまり長居は出来なかったので彫金工程に移る)
-- レーヴェンフック

お医者さんも腕のいい人がそろってるみたいだしね
 (騎士の鎧からはみ出した皮のブーツ?を穿いた左足は風船のように芯の無い便り無さ)
(と違和感を飛爛に与えていたため、そんな異常な足を問題ないと言いきれる公国の医療)
(技術の高さに素直に感心した。)

 (そして飛爛の無邪気な笑みも通じない強面職人達の鋭いまなざしに苦笑いしつつ騎士の)
(あとをいそいそとついていく) -- 飛爛

魔術汚染による影響で症状が多岐にわたるゆえ、常に医師は不足しておるのが悩みの種ではあるのだ…
(なので、外出時のガスマスクは欠かさぬように、とおしゃれマスクを指差して言った)
ここは彫金工程である。華やかな文様であろう?
(壁一面の模様見本板。そして、種々さまざまな小刀にヘラ、低融点金属の鍋…顔料棚は、色に溢れてすらいる)
鎧の装飾は戦において重要な因子である、主に敵味方の識別、将の位の判別、士気の高揚…
遠回りな効果じゃない?という顔をしておるな だが、こういうモノもある
(見せられたのは、平らな平面で構成された脚甲と…これでもかと彫金による装飾が施され、表面には波型のうねりすらある脚甲。)
(果たして、二者は重量からして違った。同一の板を使用しているのだ、体積は…曲げた方が、大きくなる)
(更に表面装飾が補強リブの効果を果たし、強靭さは比べるべくも無い。ハンマーで叩いた程度で、そこまで伝わったかは定かではないが)
-- レーヴェンフック

 (マスクのことを指摘され、背負うようにして首にかけていたおかめ型のガスマスクを肩越)
(しに弄る。飛爛用の子供サイズのそのマスクは、ドレスと揃いの黄色いリボンや、)
(キラデコシールで飾られていた。彼女の手製である。)
え、これ元は一緒なの?ほんとに??あはっすごい!
 (そして次の工程場で見せられたのは見た目にも分かりやすいビフォアー、アフター。)
(再び感心する今はフェイリスな飛爛。)
うむぅ・・・ここの職人さん2〜3人連れて帰れないかしら・・・
 (わりとマジで考え込む、元々今回スリュヘイムまで出向いたのだって、飛爛達の下にいた)
(昔スリュヘイムで治金を学んだという職人の提言を受けてのことだ。)
 (曰く公国の科学技術は世界一ィィィィ!!このセリフさっきも聞いたような気がする。) -- 飛爛

-国策としてこの地に留まって貰っておる都合上、動くことは難しいが…領内への、工房ごとの出張ならば 案件の重要度によっては可能かもしれぬ
(と、ふと気になって 連れ帰りたい、のニュアンスに違和感を覚えたからだ)
フェイリス嬢、住まいはどちらかね?場所によっては、お送りしようではないか
(壊れた鎧の修理と言っていた。それほど大掛かりな修理工が必要ならば、それは機密度の高い―公国に、大小無数に存在すると言われる秘密兵器―モノであるかもしれない)
(そんな意識が、少女の社会見学に対する緊張感を少し強めた)
-- レーヴェンフック

(何か気配というか空気のようなものを敏感に感じ取ったのか、あっヤベ、と思った飛爛は)
(しかし表情には出さす、ほんわりと微笑むと。)
ローレンシアですわ、お送りいただくには少し遠すぎますね。実はここへは普段から我家と
懇意にさせていただいている騎士様のために最高の職人を探しに参りまして・・・・・・・・・
その、私、恥ずかしながらその騎士様の大ファンですの!ですので無理矢理旅に同行
させていただいちゃいましたぁ〜
 (しれっと言ってのけた。しかも両手で頬まで押えて、身をくねらせる。お忍びの旅とはいえ)
(よくやるものである、フェイリスこと飛爛、この年すでにアラウンドサーティー・・・) -- 飛爛

騎士がため、想う心を支援に変えて…何とけなげな!
(受けた。クリーンヒットである…騎士物語にありがちなその設定は!)
騎士殿とて婦人のガードとあらば苦になりますまい!むしろ羨ましい限りですぞ
(先ほど「連れて帰りたい」などと言っていたことはあっという間に不問とされた。それ程の気に入り具合)
同行…お近くに居られるのであれば話が早い。公国立魔導錬金研究所付属第228重鎧工房の総力を結集し、明日と言わず今日と言わず!
(そう、そのインパクトは全面的な協力を取り付けるほどに…!)
-- レーヴェンフック

えっホント!ヤッター!
 (思わず両手を挙げて跳ね喜ぶ飛爛、胸元の黄色いおおきなリボンがウサギのしっぽの)
(ごとくはねた。)
さすがは公国一と歌われた騎士様です!
 (全力で自分達の身分等を調べられたら、海賊船で密入国でおまけに大爛の皇女で、)
(連れてる騎士は脱走兵と役満倍満どこの話しではないが。この時、修理が出来る!と)
(いう事実がところてん式に不安材料を飛爛の頭から押し出してしまっていた。) -- 飛爛

そうであろうそうであろう!ガハハ、フロイラインの命とあらばこの統一王朝の騎士!いくらでも頼って構わぬ
(トントン拍子に話は進んだ。公国有数の工業力を持つ重鎧工房に搬入されたからくり武者らしきモノは、数日の後)
(多少厳つい外観になったものの、機能を回復するまでに修繕されることになる)
(話を取り付けた当の騎士はと言えば、その姿を見ること無く工房を飛び出し、またもや戦場に向かったとか。)
(なお、手続き上の不備は「現物修理優先」として完璧にスルーされ、後々納入先すらダミーの海運会社であったことが発覚するのだが…これはまた別の話)
-- レーヴェンフック



 



 

 

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 ローディアで第二次バルトリア会戦が起こった少し後のことだった。黒光りする掌ほどの石が隙間
無く敷き詰められた広場を群集が埋め尽くしていた。台地の上にあって、冷涼なカタクァの首都だが
このときは集った人々の熱気で酷暑が生まれていた。汗が陽光にぎらつく、それ以上に集った彼らの目がぎらつく。
 その手には投槍があり、使い古された剣があり、包丁を箒の柄に縛り付けただけの粗末な槍もあった。彼らの多くは数年続いた凶作と反乱により生まれた帝国難民で、
それに混じりカタクァ軍の正規部隊の姿もある。だがシャツァルの姿はない、飛行兵ではなく歩兵部隊がそのほとんどだった。
 郊外の草原からでもその姿をはっきりと見て取れる巨石を積み上げた塔の前に彼らは集った。
その目的は一つ、反帝国の反乱を邪魔する貴族や王族たちを捕らえるためである。
 225年夏、カタクァ首都マクン・バシルにおいてクーデターが始まろうとしていた。

「コレだけの数の民衆が動いた以上、姫様とて引き返すわけにはいかなくなるな、
 止めようとすれば必ず内輪で殺し合いになる、あいつは愚かしいまでにやさしい王様だからな」
 石造りの塔の入り口の裏に背をつけて、群集をのぞき見るのはクラトだ。いつもの飄々とした軽い様子はなく、金装飾と宝石で飾られた王族の正装に身を固めて、蒼い瞳を鋭くさせていた。
「ははっ那岐李、事がなればお前は1歩兵部隊長から将軍だ、大出世だな」
 不意に、横にいる那岐李に向けてクラトが笑いけた。 -- クラト

(クラトの傍らに立つ那岐李の口元が歪に吊り上る。愉悦の表情を露わにしながらくっく、と小さく笑う)
将軍ともなれば…我等カガチの誇りを世に知らしめることにもなりましょう。願っても無いことです
しかしかく言う貴方は大出世どころの話ではないでしょう…?名実共にカタクァの支配権を握ることも夢ではなくなる
それにしても…悪いお人だ。飛爛様が不在の間に此処まで大胆に事を起こすとは、ね
(クラトからクーデターの話を持ちかけられたのは何も最近のことではなかった)
(前々から帝国への反乱の下準備と称して様々な黒い仕事を任されていた那岐李である。クラトの中に燃える自身と同じ黒い怨念を察知するのに時間はかからなかった)
(民族の誇りを取り戻した那岐李の心に燃える復讐の炎が、クラトの中で静かに燃えていた種火を燃え上がらせた形になったのだろうか) -- 那岐李

あいつはいつも感情に任せて突っ走るだけで、決断を下すのは苦手だから、すこし手伝ったまでさ
 (人前では姫様と呼び傅く飛爛のことをあいつと呼ぶのは、クラトの方が年上の親戚筋にあたり、)
(なおかつ同位のカタクァ王位継承者だという自負からだろうか。あるいは那岐李が見抜いたよう)
(に、突然現れて王の座をかっさらっていった飛爛に対する暗い思いもあったかもしれない。)

 (時間はさかのぼる、目を血走らせた群集が首都の太陽広場を埋め尽くすより半年近く前、)
(カタクァの軍勢が南進の末、荒野から冬の風が吹きつけるアトル・イッツァの街に入った頃だ。)
(『隊長、クラト様がなんか呼んでますよ』と、士官用の部屋を宛がわれた 那岐李を部下が呼びに来た。)
(この頃戦功を認められ那岐李はカタクァ軍に食客ではなく、歩兵部隊の中隊長並びに特務官)
(という肩書きでカタクァ軍に迎えられている。)

 (そして那岐李が呼び出しに応じれば、用件は簡潔で『私と一緒に本国へ戻らないか?』)
(という話しであった。)

―本国へ?
(余りにも唐突な言葉に那岐李は思わず眉をひそめた。ようやく拠点となる場所を見つけてそこに入ったばかりだというのに)
(何故このタイミングで本国へ戻るという選択肢が出てくるのか、すぐには理解しかねた)
(しかし、普段飛爛の側近として彼女に付き従うクラトが単独で本国に戻るとなればそれなりの要件の筈である)
(ふむ、と暫しの間をおいて)…何故か、とお聞きしても? -- 那岐李

何、この街では特別面倒を見なければいけないことが少ないのですよ、ずっと前から仲間が色々
とやってくれてましたからね。
 (机の上に山積みにされた書類や資料を手早くまとめながらクラトはにこやかに答えた。)
それに・・・・・・・・・あのフェロミアという少女騎士が戻ってきて幾分マシにはなりましたけど、
姫様の心のバランスは今も危ういです、兄君や弟君の事でも悩んでおられる様子・・・。
元々感情の起伏が激しい方ですから、休めるときには休んでおいてもらいたい、と
 (分厚い書類の束に判子を押して脇に置くと、あらためて視線を那岐李に向けた。)
そしてその間に、本国で計画を邪魔立てする者達をどうにかしておきたいとも思いましてね。 -- クラト

…成程。姫様の手を煩わせることなく、ことをスムーズに運ぶため…ですか
飛欄様はお疲れのご様子ですしね。我等が先んじて彼女の進む道を切り開いておくというのも必要でしょう
(穏やかなクラトの言葉の裏に垣間見える本心に内心ほくそ笑んだ)
(表面上はあくまで姫様を気遣っての行動ではある。しかし、「反乱に反対する派閥を飛爛の居ぬ間にどうにかしてしまう」というのは)
(要するに彼女が本国に戻った時に最早後に引けぬ状況を此方で作り出しておくということに他ならない)
…分かりました、お供致しましょう
(そう答える表情は笑顔。クラトが浮かべる穏やかな物とは違い、本心を隠そうともせぬ歪なものであった) -- 那岐李

 (那岐李の野心をむき出しにした笑み、クラトはこの男を出会った日に殺してしまわずに本当に)
(よかったと思った。)
 中央山脈を越える旅になりますからね、防寒対策は怠らないように。すでに姫様には話しを
つけてありますから、ナギリの準備が整いしだい出発としましょうか。
詳細は道すがら話しますよ。 -- クラト

えぇ、ではまた準備が整い次第伺いますよ。長い旅路になりそうですからね
(そう言って再度ほくそ笑む。長くなるのは何も旅路だけではない。この男との付き合いはもっともっと長い物になるとこの時那岐李は既に確信していた)
(長い歴史を誇るカタクァと、ルーツを同じくするカガチ。二つの民族の優位性を示すのが今の自分の生きる目的でもあった)
(なれば、飛爛よりずっと反乱に積極的なこの男に協力しない道理は無いのだから)

(それから数日の後。二人は予定通り中央山脈を越える道の途中にあった)
(身を切るような寒さを堪えつつの行軍。その最中のこと―)
しかし…カタクァの方々が一枚岩でないというのは最初は少々驚きでしたよ
こうして行動を共にする前は、飛爛様というトップのカリスマによって統治された誇り高き民族…というイメージでしたからね
(反乱に消極的な派閥や積極的な派閥が水面下で牽制しあっていたのは意外であったし、)
(こうして独自の思惑を持ってクラトが行動するということも意外であった)
(確かに飛爛という存在はカタクァが一つの民族として纏まる上では重要なのかもしれないが―) -- 那岐李

偉大な先王シャグナ・カルパ様が諸部族を一つにまとめる前はみなバラバラでしたからね。
 (シャツァルに乗せた背嚢からクラトは藁に包まれた石炭を取り出して地面に置く。)
(手ごろな石を並べて簡単な囲炉裏にすると、腰に下げた短銃の引き金を何度か引)
(いた、普通の火打石よりも強い火花が散り藁が燃えて、やがて石炭も燃え始める。)
 (下界がようやく寒さの峠を越えたこの時期、雲を突き抜ける山脈の上は極寒の世)
(界だった。山を飛び越えることのできるシャツァルを用いても、ひとっとびとはいかず)
(高い山と山の間、雪の無い地点を選びつつ、飛び移るようにして山を抜けていく。)
 (クラトと那岐李以下、同行するのは10名程の人間と数羽の巨鳥達だけだ。)
(冬の中央山脈を越える旅は非常に過酷なものだった。荒涼とした酸素の薄い高山)
(には岩と石と雪以外存在している物質はほぼ皆無であった。)
 (岩陰に立てかけるようにして風除けを張った簡素なテントから見えるのは、はるか)
(遠方まで続き、霞んでみえる切り立った山壁と。足元の小石が一度転げたらどこまでも転がり落ちていく、惑星が口をあけたような大渓谷だけ。)
 (渓谷のはるか下にまだらに降り積もった白い雪が、夕焼けに染まる空より一足先)
(に夜を迎えた谷底の中で、ぼんやりと光って浮かんでいるように見える。)

カタクァ中興の祖である先王を皆今でも慕っていて、姫様はその直系のひ孫だ、だれも
逆らおうという気はしないし・・・何よりあの性格だ、誰彼となく無条件に好かれるのです
よ姫様は。・・・たとえ祖父と父が帝国皇帝であろうとね。
 (赤々と燃え出した石炭を見つめて、クラトは毛皮のフードを下ろしながら、寒さに)
(ちょっとひきつったような笑いを浮かべた。) -- クラト

成程ね…彼女の存在が様々な派閥を取りまとめていることは事実ではある…
しかしながら、彼女自身が彼女の意志で、彼女の力で取りまとめているわけではないということですか
(こうして言葉に出してみて成程、と一人うなずく。確かにクラトの言うように彼女は誰からも好かれるような人間だ)
(事実、自分のような人間でさえも彼女のことは悪くは思っていないのだ。祖のルーツが同じだ、という縁を抜きにしても、である)
(だが、だからといって彼女が皆を率い、一つに纏めているわけではない。「皆が自発的に」彼女を尊重し、従っている状況―)
つまり…水面下では色々と…?
(パチ、と火の粉が弾ける。含みを持たせた言い方でクラトの真意を探りにかかった)
(「この後も、反対派閥を抑えただけでは終わらないのだろう?」 暗にそう問うているのだ) -- 那岐李

一つのカタクァでいることは有利だということは、誰もが認めていますが、それでもやはり
血は水よりも濃いということでしょう。
 (まるで獲物を狙うヘビのように抜け目無い男だ、とクラトはふっと笑う。)
帝国領内で、南方を押さえていた都市を排除でき、アトル・イッツァに進軍できたことでもう
十分に目的は果たせたという穏健派が6族、急進派が私を含めた2族…残り1つはずっと昔
に滅びた諸族の寄せ集めで、王宮の議場に席はありますが族長などは居ません。
 (手ごろな枯れ枝なども無いので、クラトは地面に銃口をつかって図を描き始めた。)
(銃砲は貴重品なはずなのにライターにしたり、筆記道具になったり、ぞんざいな扱いである。)

これらの9部族で要職を担い、実質的に平民の登用枠である9族目を除き、部族長から
順次高い位についていきます・・・が、血脈というのは当然河のように枝分かれするものです。
 (地面に描いた大きな円の中に書かれた9つの小円、そのうち6つの円の中を銃口がさらに)
(細かく円に区切っていく。)
決して一つにはなりようもないが・・・うまく噛み合わせる方法はいくらでもありますからね。
幸い、私達には強力なシンボルが後ろについている。
 (もちろんそれは飛爛の事だ。) -- クラト

(やはり、幾多の派閥があろうとも彼等が体面上は一つにまとまっているのは飛爛の存在に依る所が大きいようだ)
(であるならば、国全体を反乱へと導いていくためには飛爛の号令がかかることが望ましい)
(単にクーデターで無理やりに国を動かすのではない。彼女の口から、彼女の意志で反乱への号令をかけてもらう必要がありそうだ)
……となると、今回の目的。敵対派閥の始末ですが…どのような理由で行うおつもりで?
単に武力で始末しただけでは世論も、姫様も味方には付きますまい。何かしら理由が必要になりそうですね
(帝国との内通の疑いでも吹っかけてしまうのが手っ取り早いか、などと考えつつ)
…しかし、9つの派閥のうち6族を抑え込むとなると…大分、席に空きが出来そうですね
上手く回るでしょうか…?(穏健派が6族も居るのであれば、その全てをどうにかしなくとも、幾つかを抑え込むとなるとパワーバランスに亀裂が生じるだろう)
(9つの一族による合議制が敷かれていたのであれば、その席に確実に空は生じる筈―) -- 那岐李

確かに、王宮内は穏健派が大多数だ。しかし・・・一歩街を出れば、帝国への不満の種は
いくらでも渦巻いています。
 (災害による経済・食料基盤の崩壊は四半世紀にわたりカタクァの発展を支えていた経済)
(活動に大きな打撃を与えた。つまり他の都市と交易を行っていた商人の仕事が減り、彼ら)
(の生み出す富の恩恵に浴していた、職人や農民達もとたんに暮らし向きは苦しくなる。)
 (さらに帝国の救済策は血統によるひいきを隠そうともしない、カタクァの民はひしひしと)
(感じているだろう、自分達が帝国にとって、まつろわぬ蛮族扱いだということを。)
 (そこに帝国中から、わずかばかり水銀や粛清の害を免れたカタクァめがけて)
(土地を追われ、あるいは帝国と戦い敗れた者達が流れこんだのだ。結果は火をみるより明
(らかだった・・・。)

邪魔者を排除する手立て、クーデター後の安定、どちらも民衆のたかぶった熱量を
もって焼き固める・・・。
穏健派の代表格であるクル・カワンカという老大臣は先王様の時代からの重臣で姫様の
信頼も厚く、有能な人ですが・・・。
有能すぎるが故に、帝国への反乱という大博打を打つことができない。それゆえ彼の慎重
さを歯がゆく思っている人間は少なくない。特に先年の凶作からこちら、民の生活は
苦しくなる一方だ。
 (そとは日が暮れて気温が下がる一方だったが、クラトの語る言葉は熱くなっていく。)
今にも爆発しそうになっている者達に王の意思という大義名分を姫様と同じく先王様の血を分けられた私が与え。
暴発を恐れるあまり、その熱意を押さえつけ、内乱を引き起こしかねない老人達にはご退場願う。
この計画の総根幹を担うのは、貴族や王族ではない、抑圧された民草だよ。
・・・声なき者の声を拾うことこそ、王の真なる務め・・・でしょう?
 (クラトは笑った。いつしか二人きりの粗末なテントの中は汗がにじむほどに暑い。)
 (王に意見できるだけの人物を失えば、反対派は力づくでも反乱を阻止することなどは)
(できず。支配民達の圧力が彼らにも趣旨換えを迫るだろう。)
 (そして蜂起する民衆の正当性を保障するのは、飛爛についで王座に近い自分だという)
(のだ。つまりかれは、封建社会のこの世界において、貴族の力を頼まず政治には関係で)
(きないはずの民衆の力を束ねることで支配階級の足元からひっくり返してしまおうと画策)
(しているのだ。) -- クラト

それではまるで―(次ぐ言葉を言うことに幾許かの躊躇いを覚えた。民衆の力で支配を覆す―それではまるで)
革命、ではないですか…!(クラトが抱いていた計画の全貌は自身が想像するよりもはるかに大規模であった)
(せいぜい自分が闇討ちでもして、その後にそれらしい理由を付けて世論をゆっくり扇動するものだと思っていた)
(自身の立場をも利用し、民衆を直に扇動して無理やりに方向転換を図るとは)
随分と…大それた計画を立てたものですね。…いえ、帝国に反旗を翻そうというのです。このぐらいはやらなければ、ということか
(クックック、と肩を揺らして笑う。やはりこの男が胸に秘めた野心は並大抵の物ではない)
(飛爛とは比べものにならない程、この帝国への反乱への想いがある。その想いは一体どこから―)
(そんなことを考えながらの行軍となったのだった) -- 那岐李



 



 

 

  〓 〓  

 

(あらすじ:飛爛とフェロミアはスリュヘイムで迷子になった。)

……どこここ(ぐるぐる回るコンパスの針) -- フェロミア

いやぁ…ほんとどこだろうねぇ -- 飛爛

 (経緯を説明すると、内海交通は元々アルメナが牛耳っていた、海路で東ローディアから)
(スリュヘイムへ行くにはアルメナの交易船に乗るしかない。)
(しかし東ローディアがほぼ大爛帝国に支配された今では当然、渡航禁止である。)
 (そこで飛爛達は密貿易をしていた東ローディアの海賊を船ごと買い上げるという荒業を)
(敢行、海路スリュヘイムへと向かったが、当然正面から入港できるわけもなく。切り立った)
(断崖を片手に暗礁を避けながらソロソロと秘密の入り江へと投錨した。)
 (そして、スリュヘイム名物、積層都市構造体の下層から、廃坑や遺跡伝いの危険な道を)
(進んでいく予定だったのだが…。)

まさかあの矢印を踏むとが坂の上めがけて爆走していくなんて私には思いもしなかったのだ!
 (あさっての方向を向いてドヤ顔してるのは、短い白ワンピの下に白いズボンとブーツな)
(いつもの動きやすい格好をした飛爛だった。)
 (積み上げられたピザのような断面を見せる深い竪穴にかけられた、今にも崩れそうな)
(桟橋の上に黄色い『>』型の矢印を見つけた飛爛がこれなに?と言いながら踏んだ瞬間)
(猛スピードで一向から離脱したのであった。ちなみに『|』印を踏んだらジャンプした。) -- 飛爛

これとこれが並んでたらとんでもない事になってたな、多分……(指で宙に>と|を描きながら)
それはともかくどうしよう、とりあえず街に出ないと命が危ういな……(ふと何かを見つけて)いいか、あれは踏むなよ?絶対だよ?(大きく?と描かれた床、見るからに怪しい) -- フェロミア

 (非常口に向かって走る緑の人。まさにそんなポーズだった、当然飛爛もフェロミアの二人供)
(正式名称『通路誘導灯』さんの事など知る由もないが。この時、飛爛がしていたいのはまさに)
(そんなポーズだった。)
 (大きく?と描かれた床をしっかりと右足で踏みしめながら。あっやっちゃったみたいな、)
(困り眉でにんまりと笑っていた。) -- 飛爛

……………(黙って飛爛の隣に行ってワンピの腰の辺りの布を掴む。母親から離れまいとする子供のような所業)
(実際、何かが起こってもはぐれたりしないようにとの配慮から来る行動だった。死なばもろともとも言う)
そのわざとで私だけどーにかなったりしたら呪うぞ(もっとも運命とかその辺をである) -- フェロミア

大丈夫だって、さっきの矢印とかもさきっと昔坑道の中を素早く移動するための魔法陣とか
だったんだよ、だからコレもそんな悪いことにはならないって。
 (一応、頭を使ってはいたようだ。不安げに服の裾を掴むフェロミアの手握る飛爛。)
(ほんわりとやさしく笑う様子から、悪気は一切感じていないようではあるが。)
 (不意にフェロミアの手を握る力がキュゥッと強まった。笑顔が引きつった。)
な・・・なにあれ!?
 (飛爛の視線の先にいたのは、巨大建造物マニア好みの放水路にも似て、巨大な柱が)
(パズル迷路のように組み合った、古代の巨大坑道跡の闇に浮かぶ緑のクラゲ。)
 (透明なゼリーの体に緑色の臓物がうごめき、燃えるように赤い三つの球がその中に)
(浮かぶ・・・、下部から突き出した4つの牙のような爪があきらかに捕食口めいて、友好的)
(とは到底思いがたい何ががゆらゆらと浮かんでいた。) -- 飛爛

いやでも思い切り?って書いてるし、何が起こるか全く分かんないし……(手を握られたら仕方ない、ちょっと不安は口を突くが文句とかは言えなくなってしまうのだ)
……っていたっ、ど、どうしたの……(飛爛の視線を追って同じ方向を見る。元々笑顔でもない表情が引きつった)
知らないけど……逃走を提案する(たった二人、碌に武器もなく自分の技は体力を削る。一体や二体ならともかくいくついるかも分からない未知の怪物相手に戦おうなんて思わなかった)
し、刺激しないように、そーっと…… -- フェロミア

私空を飛ぶクラゲってはじめてみたわ・・・
(フェロミアが飛爛の方に視線を戻すと、今度は飛爛の背後に緑のクラゲがプカプカゆらゆらと・・・)
(数えるのがいやんなるくらい群れていた。飛爛は泣きそうだった。) -- 飛爛

私だって初めてだし喜べないよ……(何かもう囲まれてた。これ逃げるのも無理なんじゃないかな……)
やっぱ呪う……(運命を。運勢を。) -- フェロミア

ココロアが居れば楽勝なのにー!
 (逃げよう、逃げた。あのまま突っ立ってたら頭かからかじられそうな気がするんだ。)
(戦場には散々行ったくせに、そうとう怖いのかフェロミアと手を繋いだまま走りだす。) -- 飛爛

あの矢印踏むから!(飛ぶくらげに襲われてるのもココロアとはぐれたのもそのせいだろ!と言う心からの主張である)
あ、あっち!(包囲が手薄な所を見つけては飛爛と手を繋いだまま互いに誘導しあっていく。恐がってはいても戦場や高地で駆け回っていただけの事はある、手を繋ぐという場合によっては不安定な体勢でも何とか逃げ回っていた) -- フェロミア

ひーっ次こっちぃ!?・・・・・・・・・あっ!
 (行く手の床に見知った矢印模様。しかも今度は>が3列並んでいる。一つで加速)
(二つで超加速、三つそろうと・・・牙をむくかもしれない。)
私にいい考えがあるわ!
 (走りながらフェロミアにイイ笑顔をする飛爛、大概ロクでもないことだということは確かだった。) -- 飛爛

えっ?……あっ!(これはまずい、これを踏んだらどう考えても真っ直ぐに吹っ飛んでまたどっか訳の分からないところに行っちゃうに違いない)
うん……(ひしひしと悪い予感がする。けれども半分諦めたかのような笑顔を浮かべる。いい結果になると信じている訳ではないが、考えがあるならそれに付き合ってあげたいと思いつつこう答えてしまうのだ)絶対、手ぇ離さないでね……? -- フェロミア

大丈夫!絶対離さないから!・・・・・・・・・ひゃぁっ!?
 (飛爛の髪先をクラゲの牙がガチンッと掠めた。もたもたしてるとまずい、乾坤一擲、運を)
(天に任せて床に並んだ『>>>』の列に足を踏み出す!)
 (飛んだ。生身の二人が地の底まで続くかと思われる坑道の深い竪穴の上を舞っていた。)
(いざ行かん無限の彼方へ!これはかっこつけながら落ちるときに言うセリフである。) -- 飛爛

ほんとだよ?ほんとだかんね!(一応確認だけはしておいた。かの有名な「押すなよ!絶対押すなよ!」めいたフリでないことだけは声の真剣さで伝わったと思われる)
ええい、ままよ!(古めの覚悟を決めるときの台詞を吐いて飛爛に続く。)
(飛んだ。ちょっとすごいダッシュするだけかと思ったら飛んだ。普段から飛んでるので慣れてるだろ、とお思いかもしれないが推進力がないので却って不安が煽られるのだ)
ひゃあー!?あー!(行き先に持ち主の子供が乗ってる車がある訳でもない、落ちたら間違いなくゲームオーバーな深い深い穴の上を飛ぶ。と言うか高速で前進しながら落ちている) -- フェロミア

 (浮遊する緑の大群を引き離し、竪穴を飛び越えて向こう側へ着地!)
 (・・・・・・・・・したと思ったら、さすがは古代遺跡めいた巨大坑道型構造物である。)
(二人が着地した衝撃で足元が崩れ落ちて、奈落の底へまっさかさま!もはや終わりかと)
(思われたその瞬間である、二人は吊り上げられていた。釈迦がたらした蜘蛛の糸のごとく)
(何者かの釣り糸に引っ掛けられ二人は上へ上へとあがっていく。)
 (誰が引っ張り上げているのか、上を見上げても綿飴みたいな白い雲があるばかりで)
(まったく分からなかった。)
 (二人はエルギネルペトンとかリオプレウロドンとかの化石に混じって巨大ロボのようなもの)
(まで埋まっている謎の地層を横目に地上へとひっぱりあげられていった。)

(もうここまで来たら何が何だか分からない。優秀な兵器たる自分ですら疑問と突っ込みに疲れ果てている事が実感できた。)
(首吊り死体の如くぐったり脱力して口から半分魂めいたものを吐きながら吊り上げられていく)
(もう何処に行くとかここの歴史は一体なんなんだとか、そんな事はどうでも良かった。疲弊した脳が思うのはもう早くこのぶら下げられ地獄から解放されないかな……くらいのものである) -- フェロミア



 



 

 

  〓 〓  

 

 (二人を降ろしたのち綿雲はどこへともなく飛び去っていった。飛び去り際、金貨を釣り上げて)
(いたようだが、おそらく飛爛の財布から抜かれたのだろう。)
 (ずいぶん長く上へと上ったような気がしたが、降ろされたのはスリュヘイムの海の玄関口)
(である海港の高台だった。あの謎の坑道がよほど地下深いところにあったのだろう、あるい)
(は同じ道をたどってもたどり着けない類の不思議スポットなのかもしれない。)
 おー!めっちゃ港が見えるなー船がいっぱいだー、あっちから上陸できたらすぐだったのに
ね、まぁ面白かったからいいけど!
 (眼下に見下ろす港街は、汚染領の名前からは想像もつかないくらいに爽やかな活気に)
(満ちていた。煉瓦作りの大きな建物が立ち並び、倉庫街では沢山の人の黒だかりが船から)
(荷物を釣降ろす木製クレーンの足元にひしめきあって働いているのが遠目にもよくわかる。)
 (そのさらに向こう側には、飛爛達の乗ってきた船の何倍もあろうかという大型帆船や、ガレー)
(船、艀船に小型のヨットまで、大小様々に青い波間に浮かんでいた。) -- 飛爛

(あ、お金もってかれた……と自分のでもないのに悔しそうなのは、今の所生活の殆どを飛爛に面倒見てもらっているからである。普通の食べ物もそこそこ食べれるようになってきた)
(ともかく、あそこが何処だったのかは置いといて何とか戻って来れた。芳しき潮の香り、慣れてはいないが何だか懐かしい気がする)
あー、うん……面白かったね……(内容とは正反対に疲れた声で言葉を吐き出す。一緒にいられて楽しかったと言う事も出来るがそれ以上に心配事が多すぎた)
それにしても……(と地面に転がっていた上体を起こして)結構きれーだな、もっとこう……どんよりかと思ってた
直せるかな、鎧 -- フェロミア

公国の科学力は世界一らしいよそれに、なんとか元に戻せそうな所まではアトルの街でやったしさ。
 (といっても装甲の一番外側の部分や簡単な部品の交換で済む駆動部分をすこし)
(直した程度であり、内部の複雑な機構にはお手上げ状態であった。)
大丈夫!絶対直すから!また一緒に空飛びたいし
 (そういって笑いながらフェロミアの頭を自然と撫でてる飛爛) -- 飛爛

でも、今のままじゃ……(別に今のままでも何とか戦えなくは無い。動くくらいなら出来るし火槍だって撃てるだろう。)
(でも飛べない。自分のアイデンティティの喪失の危機でもあるし、戦場で飛爛の近くにいられない。由々しき事態である)
むー……(内心では言葉と頭撫でにそれはもう喜んではいるのだが、恥かしいのでそんな事は顔に出さない。子供扱いするなと言いたそうな目で見上げるのみである。ちょっとだけ撫でやすいように頭を傾けたりはしているが) -- フェロミア

 (若干ムスッとした顔されても飛爛はなでるのをやめなかった。もちろん、相手がまんざらでも)
(なさそうだということを見抜いた上である。あと本人が知ってるかどうか分からないが、)
(意外とさわり心地がいいのであった。)
 とりあえず、みんなと合流しないとねぇ。滞在先に先回りしておけばなんとかなると思うの
というわけで・・・・・・・・・まずは怪しまれない格好を調達しにいかなきゃね!
ほらあっち!あの辺絶対市場だよ!間違いないわ!
 (猛禽並みの目をもって高台から飛爛が見つけたのはいちばである、ショッピングする気)
(であり遊ぶ気まんまんである。)
 (むしろ、遊びたくてわざと一向からはぐれたのでは?と思えるほどにこの姫様、心の翼)
(を全開であった。) -- 飛爛



 



 

 

  〓 〓  

 

 (那岐李とクラトがカタクァ首都、マクン・バシルについたのはまだ、早春の夕刻のことだった。)
 (冬の中央山脈を飛び越えたクラトの騎鳥グナンがその主人と那岐李を乗せて、マクン・)
(バシルの上空を飛ぶ。右手の方向にうっすらとオレンジの光を残して沈む夕日が南部)
(密林地帯の深緑の中へ消えようとしていた。)
 (地上からはすでに夕日は沈み夜が見えているのだろう、低く垂れた冬の雲に近い場所)
(を飛ぶシャツァルの背の上からだけ、夜の藍と夕日の紅をコントラストにした空が見える。)
 (薄暗がりの中に輪郭線を失ってぼんやりとする地上に、まばゆい光の群れがあった。)
(空から見下ろすと、暗く色を失っていく地上の中に満点の星空が閉じ込められているようだ。)
(高度が下がるにつれて、何百mも離れているにも関わらず、それが馴染みの深い)
(人々の営みの灯り―――家の明かりや通りに点された街頭の火、あるいは道を行くラバに)
(引かせた馬車のランタンだと言うことが手に取るように分かった。)
 (高く切り立った断崖の上に築かれた都市と言えば、小規模な村落のようなものを想像)
(するかもしれないが。首都のあるテーブルマウンテンの大きさは小国一つくらい収まるほど)
(巨大で、その上にある首都には30万人近い人々が暮す大都市で。)
 (辺境の地にあるが故か、今だ戦乱の空気を感じさせず穏やかな日常の中にその街の灯は)
(灯っているようであった。)

(密林に沈む夕日、夕焼けと宵闇の狭間が作りだすコントラスト、遥か下に見えるカタクァ人々の灯り)
(羽の上からしか見ることの出来ない、絶景と言うべき美しい景色を見て那岐李は自然と笑みを溢した)
……美しいものですね。この風景は空の支配者であるカタクァの民のみに許されたものと言えますよ
(そして彼等だけに許された風景というのは同時に彼等の誇りの体現であるようにも思えた)
(この美しい光景を作り出すカタクァの人々の暮らしも、そしてその光景を眺めることが出来る特権も、彼等の血と歴史が紡ぎ出したもの)
…やはり、カタクァはただ帝国の一部として支配されるべきではない
(改めて思う。そのための第一歩を今から自らの手で作り出すのだと思うと、那岐李の笑みは先程とはまた違った色を見せ始める)
カタクァの新しい歴史を紡ぎ始める大業をこの手で行えるとは…虐げられてきたカガチが新しい歴史を作る担い手の一人となると同義。ク、クク…
(美しい光景に心を打たれた素直な笑顔とは違う。己の血と誇りを誇示したいという歪んだ欲望に支配された笑顔であった) -- 那岐李

ははぁっ!あなたのその貪欲さには感心するばかりですよ
 (光の粒をばら撒いたような地上を遥か下に見下ろしながら翼で風を切るグナンの手綱を)
(握りながら、クラトは笑った。) -- クラト

 (憧憬を誘う夕暮れの景色も、乾ききった戦場のローディアと違い、やさしく森の湿り気を)
(帯びた大陸東側の空気も、心和ませはしないものであったらしい。)
 (やがて供の者を乗せた巨鳥数羽を引き連れたクラト達の一向は、煌く夜景を点す首都)
(のほぼ中央に屹立する、巨石を積み上げた高さ40mに達する塔の灯りに誘われるように近づき)
(その中に着陸した。)

 (G.A.225年3月の頃、二人の男が降り立ったこのとき、様々な火種を抱えたままではあった)
(がカタクァの街はまだ平穏の灯りの中にあった。)
 (そしてその年は街が静かな春を迎える最後の年となった。)

(危険な冬の山越えを敢行してまで本国へと急いだ甲斐あって、カタクァの第二王位継承者で)
(あるクラトを介して、反逆のための反乱を為すべき人脈は急速に固められた。)
 (今までの年収の3分の1以下の稼ぎが2年連続で続いた商工ギルドの組合員達、)
(飛爛の指示の元保護はされたが、飢え死にしないというだけの生活を強いられる帝国難民、)
(そして反乱を疑問視する穏健派部族内で位階は低いが血気盛んな若い子弟達など。)
 (あらゆる野望や渇望、負の欲望の渦巻く者達へあるときは利を説き、あるいは演説で炊きつけ)
(不満を抱える総ての人間へ帝国憎しの芽を植えつけて行った。)
 (特に帝国難民には那岐李の存在は大きく影響した。かつて帝国民の立場から不可触民として)
(蔑んだカガチ人の末裔が、帝国に街も財産も奪われた後に唯一の寄る辺となったカタクァの王族)
(と肩を並べて自分達を見下ろしていたのだ。)
 (その屈辱と不安はいかばかりだったか。)
 (そしてそのカガチの男が、温和に我々は供に帝国の暴虐に晒された被害者だと訴えれば)
(その安心と共感はどれほどのものだっただろうか。)
 (那岐李の心情とまったく関係なくその帝国の暴虐を非難し、出自の一切を問わず、ただ平和と)
(平穏を未来に願うものに寛大であると飛爛を褒め称えさせたのはクラトの指示だったが。)
 (実際その煽動はうまく行った。弁が立つというだけでなく、西の最新兵器である柱の騎士との戦い)
(で、那岐李の持つ力が目覚しい活躍をしたという事実もいっそう無力に打ちひしがれていた難民達)
(を纏め上げるのに一役買った。)

 (実際は一役買ったというより、二役も三役も売りつけられたという方がただしいかもしれない。)
(かつて帝国に国と同胞の多くを滅ぼされたカタクァの民にとって、遥か1000年以上もの時を越えて)
(現代に再開した同じ祖先を持つ民族の末裔というのは実にヒロイックな存在だった。)
 (盛大に英雄として宣伝されたのである、ことに西側の最新兵器である柱の騎士に対して、他の帝国)
(軍が苦戦を強いる中で、1人で何体も切り伏せた那岐李の戦果は多いに受けた。)
 (特に、シャツァルに乗る事のできない貧しい家の出身が多かった歩兵達を中心に絶大に受けた。)
 (そして英雄として名を広める那岐李の側に常にクラトはいた。)
 (事態が急激に動いたのは第二次バルトリア会戦の終了直後の225年6月初夏の頃、)
(野心を抱いた二人組みが竜害の戦場を跡にし、再びカタクァの空へと飛んだ頃だ。)

 (那岐李に対し、クラトから直接暗殺の命令が下された。)
(いや、命令というよりは依頼だったかもしれない、ターゲットは穏健派部族の代表格である)
(クル・カワンカであった。)

 (カタクァ人には珍しく長身で並の男より頭二つ高く、長い白髪に白ヒゲを蓄えた筋骨た)
(くましい、先王のおしめを変えたこともあると噂の老臣は、今だに政局の中で強い影響力を)
(持っていた。そして、飛爛の不在中、クラトよりもずっと議会への影響力の強いこの老臣は)
(連日に続く会議においてずっとクラトと反対の立場を取っていた。)
 (中央山脈を越えることが難しくなる秋が来る前にシャツァル部隊を最大限、東ローディアへ)
(送り込むべきだというクラトの意見を老臣は拒み続けていたのだ。)
 (シャツァル部隊の総てを西側へ送ると言うことはすなわち、西爛戦争の最中で帝国の兵力を)
(不意打ち的に急襲し大いにその力を削ぐことを可能にするということであった。)

こちらが奴の屋敷の図面です、おそらくあなたならどんな壁でも問題にならないでしょうがね・・・
では、最後に手はずを確認しておきましょうか、あなたはすでにカワンカ邸に忍び込んでいる
密偵の手引きにしたがって、目標が襲撃に最適なポジションに来た瞬間に、シャツァルから投下
そして殺害の後、3つ用意した回収ルートのうち一つを適宜選択して撤収。
<<その際はこの通信石による連絡が便りですから、くれぐれも覆面は無くさないように>>
 (目の前にいるクラトが飛行帽子に口を近づけてしゃべると、那岐李の持った同様の装備の耳あて)
(部分からクラトの声が聞こえる。) -- クラト

<<了解です。死体の処置などに指定は無いのでしょう?お任せを>>
(クラトの言葉に、同じように通信石を用いて返す。詳細な手順の打ち合わせをつつがなく終え、決行の時を待つこととなった)
(己の刃が革命の狼煙となる。歴史に名を刻むこととなるその栄誉を想ってか、那岐李は言葉少なに愛刀を磨くのだった)

(決行の夜。手筈通りに密偵と連絡を取り合い、館上空を旋回するシャツァルの背中にて待機していた)
(月光に照らされたその顔は覆面によって覆い隠されて表情はうかがい知れない)
(が、間違いなく笑顔であることはクラトには容易に推察出来るだろう) -- 那岐李

 (翼の下にある町並みは市街の中心地だというのに、灯りもまばらで暗い。那岐李が春先に)
(この街へと入った時よりも明らかに街の灯の数が減っていた。高まる反帝国の熱気と逆に)
(ここの所の政情と治安は不安定化の一途をたどっている。)
(確実にしとめさえすればそれでいい・・・)
 (クラトが那岐李へ渡した条件はそれだけだった。)
 (2階建ての回廊と、回廊に四角く囲まれた中庭に灯る少ない松明以外灯りのない館に)
(不意に緑の灯が灯る。新月の晩だ、暗い地上でその輝きはよく目立った。)
(数秒間だけ灯った緑色の光が合図で、羽ばたきの音をさせることなく、巨鳥は滑るように)
(館の屋根に舞い降り那岐李を降ろす。) -- クラト

(館の屋根に舞い降りたシャツァルの背から音もなく屋根へと降りると、指定のポイント周辺へと目をやった)
(密偵の指示のタイミングは正に完璧であった。何も知らずにターゲットが指定のポイントへと向かってくるではないか)
(獲物を見つけた那岐李は愛刀に手を掛けた。ただ何も知らぬ相手の命を奪うだけの任務など造作もないこと)
(屋根の縁へと静かに歩を進め、ターゲットが真下を通るのを息を殺して待つ―)
(クル・クワンカが僅かでも警戒をしていたのなら、那岐李から発せられる怖気の走るような殺気に気づいたかもしれない)
(しかしマトモに戦闘態勢を取る暇は無いだろう。クル・クワンカが那岐李の真下を通ったその瞬間)
(那岐李は愛刀を抜き放ち、その身をクル・クワンカの背後へと滑らせたのだ)
―クル・クワンカだな?その命、我らが理想の為に散らしてもらう
(手にした刀をクル・クワンカの喉元へと背後から突きつけ、覆面越しに囁く) -- 那岐李

そういう君は誰かね・・・いや、言わんでよろしい心当たりなら腐るほどある、最近はすっかり嫌われ者じゃからな
 (齢70を越える老人とは思えない力強い声が石積みの回廊に染みた。言いながら、手にした杖の先端を)
(いつの間にか背後に立つ那岐李の腹へ向けていた。杖だと思われたのは仕込みの投槍。その黄金の穂先)
(が暗闇の中に光っていた。)

―成程。その歳にして今尚議会に影響力を持つというのも、過去の栄光に縋っているだけというわけではなさそうだな
(突きつけられた仕込み杖の先端と、老人の落ち着き払った態度に覆面の下の口元を歪める)
(互いに動けば即座に致命傷を負うという均衡状態の中、那岐李は尚も余裕の態度であった)
だが…やはりあなたは時代遅れだ。今やこの国に必要のない存在なのですよ
我が力を知っていたのなら、このようなチンケな仕込み杖での脅しなど意味をなさないことにも気づけたであろうものを
(言い切らぬ内に、那岐李の身体からぞぶり、と黒い霧が溢れだす)
(銃弾をも弾く魔性の霧が仕込み杖と那岐李の身体を分かつ絶対的な壁となって吹き出したのだ)
これからは貴方に変わり、我等がこの国を…カタクァの民の誇りを守り続けよう
地獄の底で悔やむと良い。…帝国の影におびえた矮小な自分の言動をな
(黒い霧を身にまとったまま、クル・クワンカの喉元に突きつけた刀を素早く引く) -- 那岐李

 (あごひげを散らせた刃が老人の太い首を断ち切らんと奔った瞬間、石畳の上をクル・カワンカの手にした)
(投槍が滑り火花が散った。暗闇に一瞬火花に照らされ精緻な刻印を刻んだ黄金槍の穂先が三角錐の)
(影を壁に投げかけた。)
馬鹿者がっ大層に言いおるくせに、君の誇りとは人目を忍んで行うものかね!
 (一体あの状況から、どう抜け出したのか、並の人間ではその動きを目で追うことすら難しい那岐李の刃を、)
(至近距離で突きつけられながら、この老人は抜け出して杖から抜き放たれた黄金の投槍を構えていた。)
 (回廊の松明の明かりが、彼の長身の影を石畳の上でゆらす。)
悪くない腕だな、だがワシの若い頃はな、命がけで決闘はしても闇討ちなんぞはせんものだったぞ
 (しかしすぐに槍の切っ先は下がった。石突が地面を叩き、老人は槍を杖に膝を突き、その足元に胸を)
(大きく切り裂かれた血が滴り落ちた。その切っ先は肺腑まで達していたのだろう、彼は喀血した。)
がはっ・・・!はっ!そうか、その黒い刃、お前クラトの坊主んとこの剣士だな?かっ・・・!
まったく、あの倅めも親父そっくりに卑屈に育ちおってからに・・・どいつもこいつも、何に怯えて自分で
自分の首を絞めおるか・・・・・・・・・
 (ぶつくさ愚痴った後に一際大きく血を吐いて老人は顔を上げ那岐李を睨み上げる。)
おい小僧、お前カタクァの誇りを守ると抜かしたな?まったく気に食わんが・・・っ!
ならばワシと戦い見事討ち取ったこと、隠さず誇るがよい、お前が薄汚い夜盗とは違うと言うならな!
 (再び長身の老人は立ち上がった、杖にしていた黄金の槍が投げられて、那岐李の側の床に突き刺さった。)
持って行け、先王様とともに戦場を駆けたワシの槍じゃ、お前が皆の前で堂々とそいつを自慢できる時まで
地獄で笑いながら見ていてくれよう
 (それは皮肉であり諧謔でもあった。暗殺と言う手に訴えたお前達がそれでもなお自分達の行いを隠さずに)
(誇れるのか?という問いかけであった。)

(老人が並の人物ではないことは想像がついていた。実力如何によっては一の刃を躱されるであろうこともだ)
(だが那岐李には確実な称賛があったのだ。この老人は今まで一度も自分が操る黒い霧の力を目撃していない)
(如何な達人であろうと、切っ先から自在に方向を変えて敵を穿つ蛇の咢を初見で見切ることは難しい)
(そしてその読みは見事的中した。常人離れした動きで一の刃を躱した老人は、直後に放たれた黒き蛇の牙にその胸を切り裂かれ、地に膝をついている)
……クッ、ハハハハ…!喜んで頂戴しよう、無力な老人よ
我が身体に流れる血が、誇りが、貴方の矮小な…現状を守ることに甘んじた愚かな誇りを上回った証として!
民衆は示された都合の良い言葉だけを信じたがるもの…先王とともに戦場を駆けたカタクァの誇りの結晶とも言えるこの槍は、
反乱の旗印として多いに役に立つことでしょう。その様を見て尚笑えるというのであれば―
(床に刺さった槍を引き抜き、改めてクル・クワンカの喉元へと突きつけて)
―その時は、貴方の勝ちだ。クル・クワンカ老
(愉悦に歪んだ表情のまま、その喉元へと深々と槍を突き刺したのだった) -- 那岐李

 (暗い街に赤々と火柱があがった。最初の手はずどおりに闇夜の中を音も無く滑空していたシャツァルから投下)
(された焼夷弾が屋敷を炎で包み込み半世紀以上に渡ってカタクァに仕えた老臣は火の中に消えた。)
 (その火が積み上げられた薪に投げ入れられた。クラトの言ったとおり、民衆の不満という燃料は、真実よりも)
(ただはけ口を求めて暴発したのだ。経済も人口も大規模に成長を続けていた途上で災害と戦争によって、繁栄)
(から一転困窮に追い落とされた民衆に忍耐を許容させていたのは、他の誰でもない、カタクァの繁栄を支えた)
(クル・カワンカという老臣の存在があればこそだった。)
 (同時に強力なリーダーを失った穏健派の部族達は混乱のうちに分裂し、急速に支持を失っていく。)
(必然的に、飛爛に近い位置にいるクラト達反乱派が祭上げられていくことになった。)
 (皮肉な事にこの時すでに、これ以上戦いを広げることに疑問を感じていた飛爛が戦場で活躍すれば)
(するほど、本国で民衆の熱気は高まり。釣られる形でもはやカタクァ以外に行き場の無い、粛清を生き延びた)
(元帝国武人達も否応無しに結束を強いられる。)
 (総てが反乱へと傾いていった。)



 



 

 

  〓 〓  

 

(対立派閥を一層する大規模なクーデターが起きてから数週間)
(カタクァの世論は、民衆の熱は反乱に向けて熱狂ともいえる盛り上がりを見せていた)
(皆一様に、自分たちが未来を勝ち取るには反乱しかないと信じ、施政者である飛爛の号令を待ち焦がれていた)
(彼女が一声発すれば即座に侵攻が始まるという臨戦態勢の最中。ついに民衆が待ち焦がれた飛爛の帰還の日がやってきた)

(王宮へと降り立った飛爛と愛鳥を迎えたのは那岐李を初めとする反乱へ積極的な派閥であった)
(道を作るように両サイドにずらりと並んだ兵達が、彼女が巨鳥の背から地に下りると同時に一斉に傅いた)
お帰りなさいませ、我等が王よ!
(顔を上げることなく、兵達が一斉に声を上げる)
―ご帰還をお待ちしておりました。飛爛様
(ワンテンポ遅れて、那岐李が飛爛の前へと歩み出る) -- 那岐李

 (本国での急変を知らされて飛爛がカタクァへと舞い戻った。黄金暦225年10月の事だった。)
(街の中央にあるマクン・バシルの広場はすでに、兵士達に埋め尽くされていた。)
・・・クラトは・・・・・・・・・居ないんだね
 (フェロミアを従えて出迎えを受ける飛爛の表情は、怒りでも戸惑いでもなく、ただ厳しく、)
(居並ぶ兵士達の列の真ん中を通って、王宮へと進む。その後を立った今中央山脈を飛び)
(越えたばかりのココロアが羽を畳んで歩き従った。)
 (那岐李の横を通りすぎる飛爛の背が無言のうちに、ついてこいと言っているようだった。) -- 飛爛

(王宮への道となる兵士たちの列は、かつてのカタクァでは見られないものであった)
(これを那岐李が指揮したのか、それとも反乱への気運が高まったことで、王である飛爛への忠誠…いや、崇拝にも似た感情もまた高まったが故のものか)
(そのどちらかははっきりとはしないが、帰還した飛爛に本国の変化を突きつけるには十分なものだったといえるだろう)

…クラト様は飛爛様不在の間、諸々の政を引き受けておられました。今も雑事に追われているのでしょう
(飛爛の後に続き、静かに那岐李も歩を進めながら答える) -- 那岐李

なるほど、自分でこれない代わりにこの出迎えね
 (この出迎えをクラトが指示したのかは分からないが、形式ばったことの嫌いな飛爛にあわせて)
(今までは王宮での行事も祭礼を除き、極力シンプルに為されていた。それがここに来て突然の)
(仰々しさである。あきらかに今までとは空気が違っていた。)
 (言葉数も少なく、古代遺跡を思わせるカタクァの王宮の門をくぐる。)
 (飛爛はすぐに那岐李以外に人払いをさせると、自室へと向かいながら話を続けた。高くて)
(狭い、回廊に二人分の足音が響く。)
・・・大体のとこは分かってるんだけど、一体何がどうなっちゃったの? -- 飛爛

…端的に申し上げます。クル・クワンカ老が難民等による過激派グループに襲撃されて命を落としたのはご存知ですね?
犯人達はその場で処断しましたが事件により国内の世論が反乱へと傾いているのです…
カタクァ以外に拠り所の無い難民にとって、我等が反乱を成功させることのみが安寧を得る手段なのでしょう
…さらに、それに呼応してカタクァの民達も反乱への気運を高めています。…すでに、一触即発と言えるかと
(王宮へ向かう回廊を歩きながら淡々と語る。すべては己とクラトが作り上げた状況なのだが)
(如何にも「不本意である」と言いたげな口調だった) -- 那岐李

そうならないように、クラトとあなたを本国に戻したのに・・・・・・・・・
 (後ろの那岐李を振り向かないまま飛爛は不意に立ち止まった。細長い石造りの窓縁を掴んだ)
(指が僅かに震えていた。)
 (飛爛の曽祖父である先王に長年仕えた老臣は飛爛にとっても重要な家臣であり、飛爛が帝都)
(より戻ってすぐの頃、シャツァルの扱いと武芸を教わる近しい存在でもあった。) -- 飛爛

…力及ばず、申し訳ありません(そんな飛爛の様子を見て那岐李もまた、苦々しげに口を結ぶ)
(しかし、内心今すぐにでも笑い出したい気分であった。こうまで上手く策がハマれば笑いたくもなるというものだ)
(彼の悲願が成される時はもうそこまで迫ってきている。あとは彼女が心を決めるだけ―)
……飛爛様やシャツァル部隊が戦場で活躍すればする程、カタクァの民は反乱への希望を強めています
これだけの戦果をあげられるのであれば、きっと帝国にも打ち勝てる―
皆、そう思っているようです。…皮肉な、ものですね
……飛爛様。退くにしろ、進むにしろ、国民には貴方の言葉が必要です。……ご決断を
(必要な最後のピースを嵌めるために、飛爛の心を揺さぶりにかかる)
(進退の決断を任せるような言葉ではあるものの、国内の情勢を省みるなら答えは一つしかない。それを分かった上で、決断を彼女にゆだねる)
(幾ら進退窮まった状況を作り出そうと、あくまで反乱の狼煙は王自らが上げなければならないのだ) -- 那岐李

そんなに簡単に言わないでよ!!
 (声が石造りの回廊に反響する。振り向いた飛爛はその空色の瞳を涙に滲ませていた。)
・・・・・・・・・那岐李あなたはなんだかまるで、今の状況がうれしいみたいに見えるの
そりゃ、最初に出会ったときから私達が、帝国をよく思ってないことを知ってて付いてきたんだから
当然かもしれないけど・・・
 (まるで戦場を駆け抜け続けたとは思えない、小さな手が那岐李の腕に伸びる)
今新しい戦いを始めれば、あなたもあなたの下に居る部下達も、さらに激しい戦いをさせることになる
んだよ。戦争だから仕方ないとかそんなことじゃ無い・・・ねぇあなたはこの戦いに何を見ているの? -- 飛爛

(突然の問いに暫しの無言。返答に困ったからではない。彼女からこんな問いをされることが意外だったのだ)
(が、そんな驚きもすぐに掻き消える。口を開いて出てきたのは―)
私は…このカタクァを大切に思っている。数千年の時を越えてようやく邂逅を果たした同胞とも言える人々です
そんな彼らを死地へと赴かせることに抵抗が無いわけがない。皆が生きて帰れる戦争などある筈もない
(飛爛の瞳を見据えて言葉を紡ぐ。カタクァのことを想う気持ちは本心からのもの)
―しかし。私はこの身体に流れるカガチの血を、誇りを穢されるのは我慢がならない
同様に、祖を同じくとするカタクァの誇りを無碍にされるのもまた堪え難い屈辱なのです
…この反乱の先に、カタクァの歴史と血脈を正しく誇ることが出来る未来があるのなら
…そして、カタクァの人々が何者にも侵されず、自らの歴史と文化を守り抜く安寧があるのなら
…私は、この反乱は無駄ではないと想っています
(語られる言葉は偽りのものではない。こう想う気持ちはまさしく本心であった)
(しかし、それは表層の物。その心の奥深くに滾る帝国への復讐心と歪な自己顕示欲は表には出さなかった) -- 那岐李

 (戦うに足る理由、その身の飢えと満たされぬ心の渇きに根ざすその言葉を飛爛は帝国でもローディア)
(でも聞いた。そして否定する言葉を持たなかった。仕方が無いとあきらめたわけではない、それが世)
(の摂理だと割り切ったわけでもない。)
 (それがどうしようもなく人が生きるのに必要なものだと、この戦いで身を持って思い知らされたから。)
 (だが、それでも彼女は思わずには居られなかった。)
・・・・・・・・・それは、他の誰かから奪って成し遂げられるものじゃないよ
 (同時に、命も生に付随した誇りも何者にも奪われてはならないと、痛いほど理解している。)
(そして心の渇きを理由に人が戦うとき、心はどこまでも歪な形にひしげて悲鳴を上げているということも。)

 (今まで怒りに震えているようだった飛爛は、今はどこか悲しげだった。同情でも哀れみでもない)
(澄み渡ってはいても、何も無いからっぽの空のようなうつろな目だった。)
少し・・・1人で考えてくる -- 飛爛

……分かりました。ただ、時間の猶予があまりないことは覚えておいて頂きたい
クラト様や私の言葉だけで抑えるにも限界があります。民衆は貴方の言葉を求めているのだから
(去り行く背中にそう告げて、飛爛を見送る)
(回廊に一人残された後、歯噛みする)……では、我等がカガチの誇りは如何にして取り戻せばよいのだ
幾年にも渡り蔑まれ、踏みにじられてきた我らの誇りを取り戻す術が他にあるというのなら…今すぐにでも示してみせろ
それが出来ぬというのなら、流血も、死も、我は恐れはしない。帝国兵の死によってのみ、我らの誇りは再び示されるのだから…!
(積もり積もった差別によって生まれた憎しみの種は、最早那岐李の体を、心を幾重にも締め付ける蔦となって彼を縛っている)
(飛爛の心がどうあれ、彼には最早反乱の先にある未来しか見えてはいないのだった―) -- 那岐李



 



 

 

  〓 〓  

 

 王都決戦の最中、南から王都ローレンシアへと向かう一団がある。
焼け落ちた城砦を飛び越え、屋根が落ち灯の消えた村の上を羽ばたきが吹き抜けていく。大平原を西へ
沈み行く夕日をめがけて巨大な翼の群れが飛翔している。カギの字に編隊が茜色の空に鱗のような線を
その巨大な影で描いていた。
 千羽にも達するかという一糸乱れぬ空の隊列は巨鳥シャツァルに乗ったカタクァ飛行兵達、青く染めた
旗に翼と太陽を描いた新たなるカタクァの旗を掲げて。爛の名を捨てカタクァ王シャンタクァとなった少女
を先頭に一直線にローレンシアへと羽ばたいた。

そして彼らは夜を越え、夜明けの中に翼を広げた。眼下を埋め尽くす帝国軍の包囲をさらに大きく
取り囲み、千の翼と、南方の駱駝騎馬隊の蹄が空と大地の両方を震わせて、戦場へと突き進んだ。

轟音。果たして戦場にて巨鳥の群れを出迎えるのは、火砲の類であったか?
いや、違う。遠く、遠く戦線の端から放たれた砲弾は、先に音だけを届け―
次に、豪放な声を届けた
「ガハハハハハ!おう、ヘラ殿ではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
邂逅はほんの一瞬。王城前へ続けて撃ち込まれる砲弾…というには余りにも大きなシェルたちを、引き連れて
何処かで見たことのある騎士らしき鉄塊が、文字通り空を飛んで前線へ急行する現場に、居合わせた -- 有人徹甲弾

 突然飛び込んできた砲弾に編隊の一部が水を撒いたようにさっと飛び散る。
「その声・・・」
あれは敵ではない、と味方へ通信石を通して指示を飛ばすと。周りのシャツァルよりも二周り大きな
蒼い翼が空をカッ飛んでいく砲弾を軌道を合わせた。
 他の編隊の巨鳥達はその速度についていけずみるみるうちに後方へ離れていく。
「エルネスト!あっはは!久しぶりね!」
 カタクァ飛行兵で最速を誇る飛爛とココロアでもさすがにその砲弾の速度についていけずに、並走
したのも一瞬、距離はどんどん離れていく。
「飛爛はもう止めたよー!私の名前は・・・シャンタクァ!あなたにも空を行く者の守りがあらんことを!」
 強風の吹きつける上空にも関わらずシャンタクァは飛行帽を取ると、大きく頭上で振った。 -- シャンタクァ

束の間の顔合わせに、超高速の空で親指を立て 了解の合図だ
「シャンタクァ!君の翼に良き風が吹かんことを!」

声だけが、小さく残り。狂気の砲弾は地面への衝突を―
否、その一瞬前に外殻を爆破、衝撃を殺し転がるように着地
質量をそのまま乗せた鋼板は必殺の威力を持って弾着付近を踏み荒らし、次々と不死歩兵を乗せた後続弾が続く
グスタフ空挺作戦―後に、公国の電撃戦術として確立されるモノの端緒が、この王都決戦にあったことはあまり知られていない
そして、その場に「カタクァ」の反乱王女が居たこと―冗談のような、本当の話 -- レーヴェンフック

 砲弾の軌跡の上にに再び鳥達編隊を組む。飛行帽を被りなおしたシャンタクァは強く手綱を握った。
<<第二第三編隊左右展開!第一は私に続き直進!>>
 広大な草原が途切れ、眼下に人馬の群れが海原のごとく広がる。ついに翼の群れは戦場の際を
風切羽の下に捕らえた。
 南部で反乱を起こし、攻め上ってきたカタクァ軍にとって、初めて遭遇する帝国の大部隊との交戦が
今まさに始まろうとしていた。
 だが、シャンタクァとなった飛爛の心の中は不思議なほど落ち着いている。思わぬ訪問者の影響も
あっただろうか。ただ、彼女は率る総ての空と地上の兵士達が抱いた怒りも渇望も、蹂躙された地に
残された爪も翼も持たない人々の恐れも、そして飽くなき生きることへの激情をその翼に乗せて、今
この空を飛んでいる気持ちになった。
 幾たびも己を内から引き裂こうとしてきた、暴風のような感情の奔流がまさにこの瞬間凪いだのを
感じたのだ。それは、初めて彼女が空を舞う巨鳥の背の上で、叩きつける大気の圧力が消え去り、
あまねく生命の生きる地上を包む空の中に浮かんでいるのを感じたときと同じ気持ちだった。
 だから今ためらいなく号令を下す、渇き、奪いあう戦いに終止符を打つ決意とともに。
<<解放の戦火を放て!散開!!>> -- シャンタクァ

同胞よ!幾多の犠牲を踏み越え、我らはついにこの時を迎える!
愚かにも地を這いずる帝国兵の死を持って、我らの誇りを天地に示せ!
我らには翼がある!奴等には無い絶対的な利があるのだ!負けよう筈もない!
胸に抱いた誇りを剣に乗せ、行く手を遮る物すべてを切り伏せよ!突撃ィィィィッ!!!
(開戦の狼煙となるシャツァルからの爆撃を確認するや否や、後方から歩兵部隊が戦場へと雪崩れ込む)
(勇ましき雄たけびを上げながら帝国兵へと突撃するその姿は西方諸国にどのように映ったのだろうか)
(それを確かめる術はないが、今はただようやく訪れた報復の時を、帝国兵の鮮血をもって彩るのみだ) -- 那岐李

 (平原の彼方に山のように聳えるローレンシアの影を仰ぎ見る帝国軍の頭上をシャツァルの翼が起こした) 
(風が吹きぬけたとき。彼らは真の意味で空を翔る者が持つ圧倒的な戦術的優位を思い知ることになった。)
(戦いの趨勢をきめるのは地上を行く騎馬であると頑なに信じたツケを払うことになったのである。)
 (空を埋め尽くすシャツァルの鉤爪が落とした爆薬は帝国兵の頭上で爆発した。一拍の間が空いて、)
(地上を包み込むように無数の爆発が巻き起こる!)
(投下された爆薬はもはやただの火薬の塊ではなかった、敵の頭上で無数の小型爆薬となって四散し)
(降り注ぐクラスター爆弾とも呼べるものにまで進化していたのだ。)
 (それは爆撃を避けて駆け出した騎馬の脚よりも早く、空から飛来する敵を待ち受けていた陣後方の)
(弓兵達にまで容赦なく鉄と火薬の散弾を浴びせた。)
 (200羽近いシャツァルから放たれた弾薬が数kmに渡って爆破の帯を地上へ叩きつけた後、
(無数の騎馬が全身を血まみれにしながら倒れのたうち、鎧を突き抜けた鉄片の全身に食い込んだ兵士)
(は激痛のあまりに地に倒れ臥した。)
 (翼の下に従った那岐李達、地上部隊の進撃を阻めるだけの冷静さを保っていたものは皆無であった。)

(爆撃の後に残った僅かな残存兵力を、圧倒的な戦力でなぎ倒す。最早これは戦闘ではなく一方的な蹂躙でもあった)
(空からの一方的な爆撃というアドバンテージがある、という安心感によりカタクァの兵達もまた強気に攻めこむことが出来た)
(多少の傷など気にも留めず、勇猛果敢に突き進むその姿は正しく遥か昔から伝えられる誇り高き部族そのものであった)
(その中にあって那岐李もまた、己の、部族の誇りを取り戻さんと刀を振るう)
ハハハハハハハッ!!!これが、このような矮小な雑魚が我らを長年苦しめ続けた帝国か!?
最早帝国など取るに足らん!やはりカタクァは、カガチは貴様ら如きに支配されるような民族ではなかったのだ!
我が名は那岐李!貴様らにかつて虐げられたカガチ人の末裔なり!これが貴様らが虐げてきた民族の持つ本当の力だ!
思い知れ…!血を持ってその罪を贖え!恐怖と絶望の中で己が行いを悔やみ、地獄の底で己が行いに相応しき罰を受け続けろ!!
(叫びながら振るわれる刀が怯える帝国兵達を次々と切り刻んでいく)
(その身に宿した蛇神の力が、己の存在を誇示するかのように周囲を蹂躙する)
(鮮血と嘆きに満ちた戦場に於いて、那岐李はただ笑いながら命を奪い続けた) -- 那岐李

 吼えるな!薄汚い裏切り者に非人共が!!
 (空からではない、地上で砲哮が上がった。)
(無力化された先陣蹂躙する、駱駝騎兵と、空より降ろされたカタクァ歩兵達の行く手に砲撃により)
(舞い上げられた黒土の雨が降る。)
 (壊滅した先陣の後方に控えていた部隊の中から、後詰の兵を率いた帝国武将が水銀の矛を)
(振りかざし、砲撃の中を数十騎引き連れて突撃してくる。)

この圧倒的な力の差を前にして尚気勢を削がぬのは評価しよう…だが(突撃してくる部隊に目をやり、歪に口元を吊り上げる)
最早この戦場で貴様らが我らに勝る場所など何処にもないのだ。天は我らがシャツァルの翼が…
そして地は、この蛇神の力によって支配されている。ただの人間に過ぎぬ貴様らには到底贖えぬ力の差を知るがいい!
(迫りくる矛の群れに相対して尚その顔は笑みを浮かべたまま。手にした刀を地に突き刺すと、中空に印を結ぶ)
太古の昔より恐れられてきた竜の力の片鱗…蛇神の力を受け継ぎし我らカガチの真の力、見せてくれようぞ!!
(瞬間、大地に突き刺さった刀から騎馬隊に向けて亀裂が走った。まるで生きているかのように、大地の裂け目は幾重にも枝分かれし、的確に騎馬へと突き進む)
(敵兵の足元に網目状に走った亀裂から黒い霧が牙を成してその足元へと食らいついた)
(噴出した黒い蛇は騎馬の足を骨ごと食いちぎり、落馬した兵もまた別の蛇の牙の餌食となっていく) -- 那岐李

 (黒い小波となって大地を覆い尽くした蛇が敵部隊を飲み込む、流された血一滴、その黒い畝の中から)
(出る事は適わず、末期の悲鳴すら覆い隠されていった。)
 (幸運にも爆撃を生き延びた帝国兵の前に畳み掛けるように、再び恐怖が繰り広げられ、突き進む)
(カタクァの軍はいよいよ勇んで槍を弓を放ち追い立てる。)
 (そして左右から再び轟く爆轟が地を揺らす。完全な連携で分離と融合を繰り返す一つの生き物の)
(ようになって空を行くシャツァルの編隊が時間差でもって、敵の左右の陣を焼き払ったのだ。)
(大地を埋め尽くす帝国軍の陣の一部がほんの僅かの間を持って完全にひき潰されていた。)

ックククク……ハハハハハハ!!!(天と地、双方からの攻撃で肉塊と化していく帝国軍を見てさも楽しそうに声を上げる)
さぁ誇り高きカタクァの戦士たちよ!我らには天を舞う翼がある!地を絡め取る牙がある!何を恐れることがあろうか!
進め!今こそ愚かな帝国兵達に我々が如何に優れているかをその身をもって知らしめる時ぞ!
先王も、かのクル・クワンカ老もこの槍と共に戦場にある!汝らの行く道を切り開き、その身を守ってくれようぞ!
(天高く掲げた槍はカタクァを案じた老人の遺品。それにこめられた意思を捻じ曲げ、扇動の道具として振るう)
(あぁしかし、高揚した兵達は那岐李が発する言葉を疑わない。先王と老兵が守ってきた誇りを捻じ曲げて兵達は突き進む)
(そして先王と老兵の思いを捻じ曲げた張本人は、ようやく訪れた悲願の成就に狂喜して敵兵を切り刻み続けるのだった) -- 那岐李

 

 

 (戦局は大きく変わろうとしていた、早馬の数倍の速さをもつ巨鳥の伝達によって皇帝崩御の知らせは)
(帝国軍よりも早く飛爛達カタクァ軍の元に届けられた。)
明日か…遅くてもあさってには帝国軍に知れ渡るわね…
ふぅーむ………そっか、死んじゃったかぁ結局最後まで顔を拝むことはなかったなぁ
 (天幕の中でかがり火に照らされた飛爛は驚くでもなくその知らせを聞いた。)
(地面に敷かれたカタクァ独特の毛織敷物も今は大分使い古された感じになってしまっていた。)
(4年の長きに渡り続いた西爛戦争に今大きな節目がもたらされようとしている。) -- 飛爛

(天幕の中、知らせを聞いて言葉を漏らす飛爛の傍に控えていた那岐李が声を上げる)
シャンタクァ様、これは絶好の好機です!皇帝崩御の知らせが帝国軍に知れ渡れば奴らは一目散に本土に逃げ帰るに違いない
この知らせを奴らより先に得られたのは僥倖と言う外無い。逃げ帰る帝国に先回りし、殲滅するのです!
我らの力を示すにはこれは絶好の機会…!ご決断を。天は我らに彼奴らを討てと言っている……!!
(語気荒く、詰め寄るようにして飛爛に進言する。瞳に映るかがり火が、彼の燃え上がる復讐心を示しているかのようだった) -- 那岐李

 (居並ぶターバンを巻いた南方都市国家の将達も那岐李の言葉にうなずいた。彼らにしてみれば)
(帝国軍の退路を達、連合の反攻に加勢して恩を売っておくことは、これからの自分達の身の)
(振り方を考えても当然のことであった。)
殲滅ね…まぁ、どっちみち最初からこうなった場合はそうする予定だったし。
みんなを叩き起こして、夜明けまえに陣地をもっと東へ移動させるから、準備させて。
 (それだけ言うと飛爛は天幕を後にした。ただ移動を命じただけである。) -- シャンタクァ

(飛爛の指示に歯噛みする。今命ぜられたのはただ「移動せよ」というだけだ。帝国への対処は何一つ命ぜられていない)
(違う。これでは手ぬるい。今、此処で帝国を討てと命じなければ王としての力を示す意味でも、民の心は掴めまい)
(都市国家の将達は特に疑問に思っていないようだが―)……っ!シャンタクァ様!お待ちください!
(立ち上がり、飛爛に続いて天幕を後にして)
…シャンタクァ様。どういうおつもりですか。なぜあの場で「帝国を討て」と命じなかったのです…!
これが奴らを壊滅させる千載一遇のチャンスだということは貴方も分かっているはずだ! -- 那岐李

分かってる
 (追いかけてきた那岐李に振り向かずに答えるシャンタクァ。爛の名を捨てた今、彼女は)
(名実共に帝国に敵する者だ。帝国軍を討たねばならないことは十分にわかっていた。)
 (天幕から離れて陣地の中を抜けていく。向かっているのはココロアが羽を畳んでいる)
(シャツァルの獣舎の方だ。)
 (那岐李だけがついて着ているのを確認すると、彼女は静かに言葉を続けた。)

私が戦わなきゃいけないのは分かってるんだ。でもね、やっぱりその前にあなたとは
ちゃんと話して置かないといけないなって思ったんだ。
今のあなたはカタクァの中でとても大きな存在になってるから。 -- シャンタクァ

―話?何を今更…私のことは反乱前にお話したとおりだ。私は誇りを守るために戦うのみ…
他に、何か話しておくことが…?今話すべきことなど何も無い筈だ!私と貴方の目標は…理想は同じ筈!
帝国を討ち、カタクァの誇りを世に知らしめること!それ以外に何が必要だというのです!?
(飛爛の言うことが理解出来ない。この状況で何を改めて話すことがあるというのか)
(すでに反乱は起きた。賽は投げられているのだ。あとは敵を討つ。敵の血を持って誇りを示す)
(それ以外に何があるというのか―) -- 那岐李

 (不意に彼女は足を止めた。夜風が長い黒髪を揺らして月光がその先端に反射した。)
うん…私ずっと考えてたんだ。私は新しい戦いをはじめさせてしまった。
だから、必ず終わらせなくちゃいけない。みんながたどり着く場所を決めなきゃいけないんだ。
…それが私の言葉で人を戦場に駆り立てた私の王としての責任だから。
 (振り返りる、姿形は幾たびも戦場を潜り抜けてもやはり、少女然としたままだが。シャンタクァと)
(なった彼女に以前のような幼い雰囲気は無い。)
だけど那岐李…あなたは未来の事を見ていない気がするの、誇りを示すこと、帝国を討つこと…
その戦いはどこに終わりがあるとあなたは考えてるの? -- シャンタクァ

(言葉に詰まる。考えたことが無かった。否、考えないようにしていたことの答えを唐突に求められる)
(今の自分を動かしているのは帝国への復讐心のみ。その復讐心が消えるには?どうすればいい?積もり積もった民族の恨みを晴らすには―)
…私、は……。私はカガチの誇りを取り戻したい。カタクァの誇りを守りたい
そのためには帝国に力を示さねばならないのです。我らは消して帝国の下に甘んじているような民族ではないと。帝国に思い知らせなければならない……
二度と我らを蔑み、誇りを踏みにじることが出来ないようにしなければ…我らの誇りはまた、失われる危険がある…!!その危険の芽を摘むために私は―!
(違う。今の自分にとってそんな崇高な目的は建前に過ぎない―)
(本心はもっともっと幼稚な物でしかない。要するに自分を認めて欲しいだけなのだ
(あの時、自分を受け入れてくれなかったあの少女に。あの時、自分に石を投げた者たちを見返してやりたいと)
(そんな幼稚な願いが歪な形となり、怨念となって今の彼を支配している。それを見抜かれたくは無かった。だから、またも彼は本心を語らない―) -- 那岐李

 (言葉をとぎれさせた那岐李を真っ直ぐに見つめながら彼女は言葉を続けた。)
きっとそれは敵を作って倒すことを繰り返してたら終わらないよね…ほんとうにどっちかが死に絶える
まで憎んだり恨んだりして、戦うために別の戦いを起こして巻き込まれてく人が増えてくだけだ…
 (そういって少しバツが悪そうな顔をして笑った。)
たぶん那岐李の経験したのよりずっと優しい事なんだろうけど…私もさ宮廷にいた頃は蛮族の子供
だって、散々他の兄弟やその側近達にバカにされたり疎まれたりして嫌な目にあったんだよね。
だからカタクァがもっと強くて立派な国だったら良かったのに、なんて恨みすらしたし…。
…帝国が嫌いで、弱い自分が許せないって気持ちは分かる気がするんだ。
 (反乱が始まって以来、めっきり笑うことの少なくなった彼女だったが、今は笑っている。)
痛いくらい分かるから、止めるのが正しいのか気が済むまでやらせるのがいいのか、迷ったんだ。
迷ったけど、やっぱり誇りは示すものじゃない。自分の内に持つものだと思う。

 (はっきりと言い切るシャンタクァの空色の瞳に迷いはなかった。)
恐れや打算なんかじゃない、ここまで一緒に戦い続けてくれた那岐李が立派な人なのは私達が
誰より知ってる。だからこそ、帝国の人間を憎むんじゃなくて、未来のために戦って欲しいの。

西も東も今この空の下は人として当たり前に生きることができない苦しみで満ちてるから…。
ただ、飢えているからとか、貧しいからって問題じゃない。那岐李や昔の私を苦しめたような
他人を同じ人に見えなくさせて、知らない内に殺し合いに駆り立てる見えない怪物が私達の本当
の敵なんだ。
そいつらから、私はみんなを解放したい。………もちろん、あなたも -- シャンタクァ

(言葉が出ない。彼女が語る理想に何も確たるものなどないと分かっている)
(そんなあやふやな物を敵として、そんなものをどうやって打ち倒せというのか。仮にそんなふざけた目標を達成できたとしても―)
(その後自分はどうすればいい。未来のために、と彼女は言った。しかし自分には未来など見えない。どこに居ればいいのかも、どこなら居てもいいのかも分からない)
(今の自分が築いたカタクァの地位も所詮は反乱のための戦力としてでしかない。その反乱を彼女が終わらせるというのなら自分は―)
………っ、私には。貴方の理想に心から賛同することは出来ません
未来を見て欲しいと貴方は言うが…私には、見るべき未来など無い。すべては、我らが誇りのために…そのために、剣を振るう生き方しか私は知らない
…ですから、どうか。…どうか、このまま反乱を中途半端に終わらせるということだけはしないで頂きたい
(心中に渦巻く複雑な感情を押し殺し、取り繕った言葉だけを残し那岐李はその場を後にする)
(刀を振るい、力を行使して敵兵の血にこの身を染めればきっとこの不快な感情も消えるのだとそう信じて―) -- 那岐李

 賛成できないかぁ…あはっまぁそりゃそうだよねぇ
 (那岐李の去ったあと、シャンタクァは1人眠るシャツァル達の間を抜けていく。)
(自分でも正直めちゃくちゃ言ってるなぁとは思った。皆が幸せになれる世界があればいいと)
 (わかって居ながらどうしようもできなかった結果がこの戦争だ。)
(飢え抱き、奪わねば生きていけない人々を沢山みてきた、それは行く先々の地に満ちていた。)
(強く欲望を持たねば生きる資格をもてない人々も知っている、弟もその犠牲者の1人だったんだろう。)
(人であることすら認められず虐げられる人々が居た、自分も含めてそうした人々は息をひそめながら)
(ただそのルールを強いた者達に怒りを募らせる。)

 (そんな持たざる者たちを今救うための回答が奪い合うことしかないことは明白だ。)
(総ての人たちを幸福に満たすにはこの地上は狭すぎる。)
 (だけど同時に思わずには居られないのだ、自らの誇りのために命を投げ出すことができる者たちが)
(同胞を救うために命を差し出せる者たちが、何故敵を作らねば戦えないのかと)
勝ち得なければ幸福は訪れない…そう、それは当たり前。だけど少しだけ違うんだ。
 (奪い合うだけで満たされるモノはない、奪われた者はいずれ奪い返しにくる。)
(それを止めなければいけない、それも力でもって正義を示すやり方以外で。)

ココロア…
 (月光の下にも蒼い巨鳥の前で足を止めた彼女が呼ぶと、声にこたえて鳥は首を持ち上げた。)
私はやっと、あなたの翼が飛ぶべき空を見つけた
 (かつてカタクァの民が手にしたその翼は、長い歴史の中で鉤爪を持ち、蹄を持つ者よりも早く遠く)
(翔けることができながら、戦に使われることはなかった。)
 (その命は奪い合うために生まれてきたのではない、地に落ちた星屑の末裔たちに、ふたたび天空)
(を行く自由を与えるためのものだから。)
世界は変えられる、力無き人々に、理想を夢見ることすら許されない人々総てに、私はその希望を
与えたい。
 (巨大な鳥は立ち上がった。そしてその翼を地面に下ろし唯一心を繋いだ羽を持たぬ姉妹を背に)
(昇らせる。)

 (やがて地上にたまった夜気を吹き飛ばし、月の夜空に風切羽を煌かせて、空を抱く翼はどこまでも)
(高く高く上り、やがて暗がりに瞬く星の中に小さく溶けていった。) -- シャンタクァ

 

 

 時間はすこしさかのぼる、包囲戦が行われていたゾドからカタクァ軍は突然撤退した。
というより再三に渡る出撃命令を無視し続け、とうとう勝手に軍をアトル・イッツァの街まで下げたのだ。
カタクァの反乱はこの時すでに始まっていた。

 夏の朝日が昇る少し前、皆が眠りにつくなかで、アトルの街にあるカタクァの館の一室にだけ灯りが
ついていた。高層な建物が立ち並ぶアトルの街の中でも頭一つ高いビル屋上のテナントハウス。
それはシャツァル専用に作られた獣舎だった。
 真夏だというのに暖炉が焚かれ、中はかなり暑い。その暖炉の程近くで巨鳥の羽と藁がうずたかく
積み上げられていた。

 飛爛とフェロミア、そして数名の飼育員達がその暑い小屋の中でじっとその羽と藁の山を見守っている。

………(暑い小屋の中、汗を拭いつつじーっと山を見つめている。今から始まるのは恐らく自分にはなかったであろう生命の営みだ)
(戦争中だと言うのに兵器を自称する少女が戦場へ行こうといわない理由がこれである。非常に興味深い。こんなに暑くまでして何をしようというのか)
……まだ?(視線を動かさず声を出す。誰の方を見ている訳でもないが、周囲の誰もが知っている。少女の言葉は大体飛爛に向けて発せられていると言う事を) -- フェロミア

もうちょっとだよ、静かにしててね
 (そういいながら、飛爛は暖炉で暖めた手を羽と藁の山の中に突っ込んだ。もう何時間も)
(ずっとその行動を繰り返していた。彼女の額に巻かれた鉢巻も汗にぐっしょり濡れている。)
 (今夜まさにシャツァルの雛が卵から返ろうとしていたのだ、今まで何度もこの地で孵化が)
(試みられていたがまだ成功例はなかった。)
………あっ!
 (夜半に開始され、沈黙のまま続いてきた作業の静寂が不意に破られる。) 動いたっ殻を叩いてる!
 (その声を合図に一斉に藁がどけられ、光沢を持った巨大な卵の姿があらわになった。) -- 飛爛

(言われたとおり即静かにする。無言でこくこくと頷いて飛爛の行動を見守る)
(普段なら苦しそうな事をしていれば自分が代わると言うのだが今回は違う。何せ全く知識がないのだ、自分が全部台無しにする訳には……見守るしかない。一応タオルとかは持っているが差し入れるタイミングすらつかめていなかった)

……えっ?(期待に満ちた声を上げる。そろそろ完成か)う、動いた?(身を乗り出して覗き込む。膝や手が汚れるのもお構い無しに地面にはいつくばって卵を観察する) -- フェロミア

雛が殻を破ろうとしてるの
 (そう言いつつ、飛爛は骨製のノミを卵にあてると慎重にヒビを入れた。本来は親鳥がする)
(孵化の手助けを人の手で行うのだ、力加減を間違えないように少しずつヒビが入れられ…。)
 (薄い色のくちばしが見えた。巨大な殻の中から懸命に殻を叩いて外へ出ようとしている。)
(そしてその動きに合わせるように最後のノミが入れられたとき、ついに雛は分厚い巨鳥の卵殻)
(に通り抜けられるだけの穴を開けて、外界へと這い出した。)
 (目も開いていない、ピンク色の肌と黒い毛に覆われた子犬ほどの大きさの巨鳥の雛は)
(皆が固唾を呑んで見守る中、キィキィと小さく鳴いた。)
-- 飛爛

(ハラハラしながら見守る。人型兵器にも生まれたばかりの生き物が脆いものだと言う事くらいは分かっているからだ)
(何故か自分がノミで叩かれているかのように一叩きごとにびくびくしながら覗き込む。そして待望の瞬間へ)
(生まれてきた雛鳥。小さくてまさか人を乗せて飛ぶようになるなんて思えない。自分も「フェロミア」になる前、まだ生き物だった頃、こんな風に生まれて小さな体で泣いたのだろうか?)
(お疲れ飛爛とか、可愛いとか、何か言えばいいのだろうかとも思う。でもやっぱり、今の感情は言葉に表せないのだった) -- フェロミア

〜〜〜〜やったぁ!あははっ生まれたぁ!生まれたよフェロミア!!
 (巨大な鳥のあまりにも小さな雛が、それでも鳴き声をあげ、しっかりと息をしているのを見て、)
(うれしさの余りに、横に居たフェロミアに抱きついて歓声をあげた。)
 (その直後、すぐに姫様お静かに!と飼育員に怒られて、むぐっと口を閉じた。)
(だがその場に居たすべての人は一様に安堵と喜びの表情をしている。親鳥の羽でつくられた寝床の)
(中で元気よく鳴く雛は、これ以上は無いというくらいに丈夫で健康な身体だということが一目で分かった)
(からだ。) -- 飛爛

うん!うん!生まれた!(その重要性や神秘性は分かっていなくても、目の前で生命が誕生する瞬間に感動するくらいにはなっていた。飛びついてきた飛爛にぎゅっとしがみつく)
(確かに8割がた飛爛が嬉しそうだから自分も喜んだのではあるが)
……(直後、飛爛と同じ様に口をつぐむ。自分は直接怒られてはいないがそのくらいは空気を読める。何より飛爛がその言葉に従っていたから)
(少し緊張感の和らいだ空気の中、再び雛に目を落とす。例えばこの雛を殺せと命じられたなら。それが例え誰の言葉であってもきっとためらうだろうなと思った。ほんの少し、女性型ゆえの母性本能が目覚めた瞬間だった) -- フェロミア

 (その後羽毛の寝床に包まれた雛の状態が落ち着いたのは夜明け間近のころだった。)
(東の地平線がすでに明るいが、まだ飛爛達はその獣舎の中にいる、台地の頂上という)
(寒い地域で子育てするシャツァルは母鳥は孵化後2週間はずっと雛を抱き続けて寒さから)
(守るため、その代わりとなって温度を管理する仕事はこれから暫く昼夜問わず続く。)
 (だが、安堵と喜びの方が大きいらしい、飛爛は疲れた表情はしていない。)
ね、フェロミア雛抱いてみる?
 (長いすに腰掛けて休憩している最中にふと、そんな事を言い出す。) -- 飛爛

(結局一睡もせず雛を見つめていた)
(飛爛が寝てるとか寝てないとか、その辺りは今回は関係ない。ただ興奮して寝付けなかっただけである)
(今まで自分の前にいた生命とは違う部類の存在な気すらしていた。種族を限らず赤ん坊なんて物ははじめて見たのだから)
(よく分からないなりに飛爛の手伝いをして、休憩していたその時、抱いてみないかと言う提案があった)
え……(戸惑う。自分が触れていいのだろうか。壊してしまいそう、と思っている訳ではない。兵器の血に濡れた手が無垢さを汚さないか)
(そこまで具体的に言葉になっていないが、漠然とそんな不安を感じているのだ)
いいの……?(でも、飛爛がいいと言うのなら。私が触れても汚れないと保証してくれるのなら。この手で触れて、感じてみたかった) -- フェロミア

もっちろん!
 (遠い異郷で自分達の象徴とも言うべき巨鳥の雛を初めて孵すことに成功したという喜びを分かち)
(合いたいというのが半分、あとの半分は初めて雛を触ったらどんな顔するだろうと、おもしろがった)
(のが半分。)
 (眠っている雛を両手でシャボン玉を壊さずにすくい上げるようにしてそっと持ち上げる。)
両手のうえにそっとのっけてね
 (そうして身体に青い羽を乗せたまま眠る雛がほんとうにゆっくりと手渡される。)
-- 飛爛

じゃ、じゃあ……ちょっとだけ(言われたとおり、以上にそっと、恐る恐ると言ってもいいくらい慎重に雛を支える)
(機械の脳のの一部が様々な可能性を弾き出していった。静かに支えなければ、と思うほど落としてしまう未来のシミュレーションに手が震えて)
(傍から見ていたらそれはもう面白かった事だろう。実際の所ちょっと震えたくらいで手から落ちるほどに不安定ではないのだから) -- フェロミア

大丈夫、私も支えてるから
 (おっかなびっくり両手に雛を乗せるフェロミアの手を外側から支えるように飛爛も手を添えた。)
(柔らかな産毛はまだ少し湿っていて、伝わってくる体温はとても暖かい。)
この子がこの西の地で生まれた最初の子だよ、そして対になる人の兄弟と一緒になって
沢山増えていく、その最初の一羽なんだ。 -- 飛爛

う、うん(少しは緊張も和らいだがやはり固い。雛の暖かさもこれをほぐすのには時間がかかりそうだ)
そっか……そうなんだよね、これから一杯……(その最初の一羽の誕生に立ち会えた事はとても幸運に思えた。空を飛ぶと言う点では自分の仲間。それがこれから沢山増えていく)
皆、ちゃんと飛べるかな?(少し心配そうに言う。心配は自分の方が上手いと言う自信の表れ。上手く飛べない子とは一緒に飛んでやらなきゃな、なんて思って少しにやけてしまった) -- フェロミア

フェロミアもうれしそうだね
 (そういう飛爛もうれしそうに笑っていた。)
飛べるようになるには3回くらい冬を越さないといけないけど、その頃には戦いも終わってると
いいな…そうしたらこの子と一緒にフェロミアも空を飛べるよね。 -- 飛爛

3回かぁ……すぐだな(飛爛と出会ってからの事を考えるとそんな風に感じた。3年なんて戦ってればすぐだ)
戦いが終わるのは……うん、それでもいいかも(戦争がなくなれば自分は無用の長物。鞘に納められて然るべき存在。それでも飛爛は、飛爛ならきっと眠らせずに側においてくれると思う)
(ただ一緒に空を飛んで、海を泳いで、鳥たちと歌って眠る毎日。そんな昔なら無意味と切り捨てた生活に憧れを抱き始めていた。戦争の非情さも、世の中の理不尽も忘れて) -- フェロミア

戦いが終わっても、あなたの居場所はなくなったりなんかしない。
 (であった頃は戦うことに何の疑問も持たなかった彼女が今は、飛爛の守ろうとしているものに)
(共感を抱いてくれている。その事がうれしい、そして今までの世界を何か変えられそうな、そんな)
(希望ももたらしてくれる。だから自然とそう言っていた。)
野生のシャツァルは人を襲うこともあるくらい強くて怖い生き物だけど、
こうして人の間に生まれて、私達の側に寄り添っていてくれることもできるんだ。
だからフェロミアもきっとフェロミアのままで私達と一緒に生きていける、
生きるために何かを失う世界より、この子達には矛盾したものを一杯抱えながらでも
大きく包み込んでくれるような、そんな世界を上げたいんだ・・・。
 (笑った、本当にうれしそうに。)
それに私、フェロミアが戦ってるところかっこいいから好きだしね。 -- 飛爛

うん……(嬉しい。人間として扱ってもらえるのがただただ嬉しい。思えば鳥たちもただの戦争の道具ではなかった。彼らにとっては仲間である)
(だから飛爛の言う事を信じられた。自分は鳥たちと違って兵器として生まれて来たけれど、それでも彼女達の側で戦って、笑って、生きていく事が出来る)
(飛爛は手の中の雛に、そして自分に、そんな世界をあげたいと言う。だが、自分はくれるのを口を開けて待っているほど雛じゃない)
(そう、戦う姿が格好いい戦闘兵器フェロミアなのだ。持ち主を助ける為に時には剣、時には盾、そしてまたある時には弓となる)
(だからこう答える。戦わなくていいと飛爛は言ったけど、雛じゃない自分を知らしめる為に。)任せて。私が、飛爛を勝たせる。
(約束。決意。確信。色々な要素が混じった言葉。何だかとても、誇らしかった。) -- フェロミア



 



 

 

  〓 〓  

 

【 城門前 】

(流星は不死の兵団と統一王朝の騎士を齎し、やがて舞う風が砂埃を払う。やがて詳らかになるのは、城門を背に油断無くマスケットを構える兵と、六刀を手にした阿修羅と、重甲冑に身を包んだ騎士)
(そうして、身体の至るところから血を吹き出しながらも、悠然と立つ仮面の将)

仕切り直しだぜ、野郎ぉー共。
(圧倒的不利。だがそんなものは、戦いを止める理由になどならぬ。片手を上げて、部下達に準備の指示を送り──)
火砲用意!ブッ散らばれやぁ、西の兵ども!!

(──進軍に追いついた火砲部隊が、火薬の詰まった砲弾と龍勢を、雨霰と城門の敵へ浴びせ始めた)

っははははぁ!! いーぃ花火じゃねぇーかよぉ! あぁ!? -- 阮焔

…急に賑やかになっちまったな、まさか戦場で知った顔がこうもいっぺんに出てくるたあ
…!ここへ来て、まだそんだけ持ってんのかよ!!(駆け出しざま、城へ向け龍勢を放つ兵の一人を斬り倒す)
っづ!だぁくそ、近づけねえ…!(雨の様に放たれる火砲と龍勢の炎の余波は、それだけで人を寄せ付けぬ熱気の壁となる)
(着弾の度に人がゴミの様に吹き飛び、地面に叩きつけられた玩具の如く、バラバラになる)
これじゃ近づく前にお陀仏だぞ…おい何とかならねえのか騎士様よ!?(怒声に近い叫び声で、レーヴェンフックに問いかける) -- 胡久美

見誤っては居らぬか?修羅よ
(火の粉を浴びながら、最前線に立つ。決して「個体数」は多くない戦列歩兵―重装甲の、歩くことがやっとの不死兵らを引き連れて)
横隊行進、公国の盾が硬さを思い知らせい!
(横一列に並び、砲撃を受けながらも…確実に進み、マスケットを撃ちかける)
(装甲は強固、なれど鈍重 防衛戦闘に最適とも言える公国の兵は、王城を前に本領を発揮した)
(「吹き飛ばない」のである。行進は止まらない―じりじりと、距離を詰める 城壁が崩れるのが先か、横隊が砲兵の喉元に迫るのが先か ギリギリの勝負である) -- レーヴェンフック

(鈍重な重装歩兵。しかし見よ、その城塞のごとくの盤石さを。彼らにとっては爆風も、砲弾も、戦場の恐怖ですら何ほどのものでもない)
(横に広がった戦列は徐々に、帝国兵に接近する。この放火の中では、接近してその排除など望むべくも無い)
(このような時頼りとなる空からの爆撃が可能なカタクァの兵は既に蜂起し、敵対勢力となって久しい)

参ったねどぉーも……梃子でも動かんってかァ
(顎髭を撫で付けつつ、思案する。そんな阮焔の傍ら、帝国兵としての装いの女副官が、何事かを耳打ちした)
……致し方ねえな。どぉーにも。

(爆音の最中、その呟きはこの男にしては珍しく、苦渋を孕み……)
(首肯の仕草をするなり、後方から破城槌──それもただの攻城兵器ではない。動物の内蔵に油を充填し、多量の火薬を満載した代物である──を複数構えた隊が、雄叫びを上げながら駆け抜ける)
(お先に、と言う彼らの言葉に鷹揚に頷く指揮官。特攻兵達は鈍重故に隊列を変えづらいと判断し、重装不死兵へと一心不乱に突き進む)
(マスケットから撃ち出される弾丸が少なくない数の兵を地に臥せるが、その速度は止まる事はない)
(死を代価とした自爆特攻を目にして、仮面の将は唯、無言。) -- 阮焔

(決死の思いで敵兵目がけ駆け抜ける兵士達、その心境たるや如何なるものか)
(壁となる不死兵達が吹き飛ばされるなか、駆け抜ける兵士が一人、不意に倒れる…その体を、真っ二つに斬られ)
キキキ!遊ぼうぜえお面野郎がよ!!(阿修羅が迫る、死を賭した想いを無惨に、無慈悲に踏みにじり、切り刻みながら)
(手に携えるは6本の死神の鎌、それらは自在に振るわれ、爆破させる間もなく特攻兵の命をかりとり)
ぉぉおおおお!!(青年は仮面の兵に迫るや、その六本の腕全てを振り抜き、阮焔を斬って捨てんとする!) -- 胡久美

…む、あれは いかん、な
(数本の大丸太、死出の装飾が施されたそれの足取りには迷いがない。効果のないモノに命を賭ける兵は中々居ないものだ)
(騎馬は横隊の最前列を飛び越える。横目に、不死兵に辿り着けずに…阿修羅に斬られ、半ばに散った兵らの暴発した破城槌を見れば)
(確信に変わる。目前に、残りの杭らが迫る!)
統一王朝が騎士!エルネスト・フォン・レーヴェンフック!(先頭を、「掴む」 決死の突撃に、踵から火花を上げつつも止まり)
鍛冶師アルメタル・アンヴィルが遺志の宿る、龍鉄の鎧を纏い!(「持ち上げる」 梃子でも手を離さぬと、荒縄にて身体を括り付けた兵ごと、地を軋ませながら)
王朝が末子、その城を守るため…ただいま参上!(「投げ飛ばす」波状に押し寄せる、玉砕覚悟の直線軌道を描いた敵兵に)
東夷の兵よ!我が力恐れぬならば、かかって来い!
(全く長い、これまででも特に長い名乗りを言い切り。軍勢を引き連れた騎士が咆えた) -- レーヴェンフック

ったく戦って奴ぁ本当によぉ……!!
(これだけ部下を切り捨てて尚、笑う。戦闘という状況に魅入られ、最早抜け出す事など考えにも及ばぬのは羅刹そのものか)
(両腕の牙が閃く。剣閃に合わせ振るわれる腕は最早神速。鋼鉄と獣牙がかち合い、啼くような響きが轟音渦巻く戦場に木霊する)
(一合、二合、三合、四合、五合。)
(致命傷は髪一重で避ける。致命傷でなくなった斬撃は五体を切り裂き血煙を吹き上げるが、しかし)

(六合)

(首の皮一枚を切り裂いて、一撃が逸れた)
(同時に両腕に着けた手甲が、度重なる連戦によっての──そして胡久美の魔技を受けた事による負荷で、砕け散る。そして六合目を逸らした左腕は……深々と刃を縫い止めた)
(迸る鮮血と、破片が舞う。その一瞬こそが勝機)
........aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!
(右肘が畳まれ、右手の五指が揃えられる。風鳴りすら残して、形作られた貫手が槍となり)
(咆哮とともに、攻撃後の胡久美の喉元へと突き出された)



(一方)
(爆音。最悪の形での同士討ちを経験した死を賭した兵達は、しかし)

「見事なり、統一王朝が騎士エルネスト・フォン・レーヴェンフック!!」
「だが然し刮目せよ!! 我ら大爛の兵にして六稜軍宗爛閣下麾下小越奴兵隊、されど我らが王は天壌帝に非ず!!」
「我ら大爛に在りて滅びし西句(タイカゥ)を想う者なり!! 然り、我ら既に死し者なり!!」
「汝らが不死の兵であるのなら、我ら死して尚猛る獅子なり!!」

「……我ら、河南(ハナム)王が子、最後の西句の主阮嗣暎(グエン・ジーブ・アイン)に仕えし死兵、小越(ティウ・ベト)なり!!!」
「活目せよ統一王朝の騎士!! 我らが在り方、滅びし西句(タイカゥ)の兵の在り方を!!!!」


(叫ぶ。そして突撃する)
(最早目標は一人。残った三の破城槌は、統一王朝最後の騎士を最大の障壁と判断する)
(横列に広がった重装兵の隊列よりも、誇り高き騎士こそが最大の障壁だと判断し)
(故に、そうした。血を流し、最早笑い、主の敵を砕くため)
(重装のレーヴェンフックへと、突撃する) -- 阮焔

ひゃははは!!あんたやっぱいいわ!!くっそ、毒何かでへばってたのが勿体ねえ!!
(羅刹に相対するは阿修羅、六本の腕は文字通り人外の速度と手数を以て、阮焔を仕留めるべく必殺の太刀を振るう)
(だがしかし、その一撃は悉くいなされ、防がれ、あろうことか逆にこちらへ向かい必殺の一撃を放ち、仕留めんとすらしてくる)
(これには愉悦を感じるなというのが、青年にとっては無理な話だ)
(合間を狙い突き立てられんとする獣の牙を、己が武器で軌道を逸らし、弾く。回避不可能のものは少しでも戦闘に支障をきたさない場所で会えて受け、耐える。)
(正直、手数がもう後に本足りなければ逆に押し込まれていたかもしれない、そう思わせる程の気迫が、技術が、力が…何より執念が、目の前の敵からは感じられた)
…!(そして訪れたその時、受ける場所も限られてきた体は、甲冑は血で赤く染まり…だがそれでもなお、決定的な勝機を生み出す)

(だが、その勝機を感じ剣を振るわんとした攻めっ気も、その後の一瞬で致命的な油断となる)
…!!?(迫る、阮焔という男の、全てをかけた必死の一撃が、乾坤一擲というならばまさにこのような一撃を言うのだろう)
(紙一重で避けた筈のその喉は、素手の一撃にも関わらず、まるで刃で切られたかのような深い切り傷を負わされる)
ごほっ!…っは、はっ…(首元を左腕の一本で抑えながら、溜まらず距離をとる)
(流れる血は止まらない、意識が急に揺らいできたのは、下手をすれば軌道も傷つけられたか)
(よくよく、自分は獣と縁があるものだと、不意にそんな呑気な事が頭に浮かんだ) -- 胡久美

(一騎打ちが始まっている。兵と兵が、砲と砲が潰し合うこの戦場の中心は、皮肉にも人と人の格闘戦なのだ)
(その中で、攻城兵器と―騎士が。釣り合わぬはずの戦力が、激突している光景は奇妙ですらあったが)
(両者に共通するのは、誇りと、意地である)

西句の兵よ!亡国の死兵らよ!敵の走狗となりて果てる身の不幸痛み入る!
(破城槌、2本は同時に騎士の懐へ至り しかし、その両腋に抱え込まれる)
(一体何十人分の推進力を、受け止めているのか…その膂力は計り知れない)
貴君らの誇り、統一王朝の騎士が…この儂が!伝説と共に伝えよう
(そして最後の一本は…白い、淡く虹色に輝く胸甲に突き刺さる 瞬時に発火し、爆裂する破城槌)

儂が、貴様らが、人々が…死してもなお、物語は残るのだ 供養にはなろう
(「熱」は騎士の力を増幅する重要なファクターである。爆破に寄る衝撃を殺すことさえ可能であれば…龍を鋳込んだ、当代最強の装甲であれば)
(煤けた重鎧は、サーコートだけが焼け爛れて。僅かに残る杭の残骸を地に突き立てる)
グエン・ジーブ・アイン!西句の王よ!
貴様の兵ら、このエルネスト・フォン・レーヴェンフックが前に敗れ去ったり!

(どこまでも届くように、彼等の死に様を伝える。動揺を誘うためか、伝説に色を添えるためか?)
(否、これは戦場に彼等の死を記録するためである―とは、本人にしか分からぬことなのではあるが) -- レーヴェンフック

(仮面の羅刹は、阿修羅に一矢を叩き込んだ姿勢のままで視線を上げる。最早満身創痍と言っても過言ではない)
(流れ落ちる血は、砲撃でめくれ上がった城門前の石畳を染め上げ、肉を持って刃を縫い止めた左腕はだらりと下げられている)
(騎士の高らかな言葉に、引き結ばれた唇が僅かに動く。なんと呟いたのかは、推移を見ていた副官にすら分からなかった)

(だが、此処が分水嶺であった。勝利をもぎ取る為には、奴兵は此処で止まる訳には行かなかった)
(睥睨する。最早弄せる策は無い。だがしかし、打倒するために、己の敵を睥睨する)

(獣のような唸りが喉から発せられた。全身の筋肉を再び緊張させ、未だ倒れぬ敵を倒す為……)

(だが。男はふと、空を見た)

(爆煙で煙る、戦場の空だ。そこに、駆ける者は) -- 阮焔

 (大海原に聳える島のようなローレンシアの城を飛び越えて巨鳥の編隊が乱戦の真上に飛来した。)
(地上を舐める黒煙を羽ばたきがふきとばし、優に10mを超える翼の群れが頭上の光を遮った。)
 (崩れた城壁を掠めるように、数十羽が急降下をはじめた。城門前で乱戦を繰り広げる兵士達が)
(吹き抜けた突風に振り返る前に、蒼穹が染みこんだような蒼い翼の鳥を先頭にした編隊は遥か)
(上空に高度を取っていた。)
 (爆薬が水滴のように落ちていき空中で一度目の破裂音。爆薬が小片に弾け飛び、それは落ちた)
(水滴が王冠型の小雫を周囲に撒く姿にも似ていた。)
 (そして宙に小片がばら撒かれたのを見た者たちの視界を炎が覆いつくす。)
(城門前で接戦を繰り広げる阮焔達の背後を一瞬巨大な炎の壁が遮り、爆風と共に戦場を焼いた。) -- シャンタクァ

かは、ひ、ひひ…!!まだだぁ、まだまだ、遊び足りねえよなあ…なあ羅刹よぉ!!
(裂かれた喉を押さえ、口から血を吐きながらも血走った目で阮焔を睨みつける、ぶつかり合う視線は、次が恐らく最後の一合である事を、互いに感じさせる…)

(だが、直後にまたも戦場は大きく様相を変える)

(空から雨の如く降り注ぐ爆弾破、瞬く間に戦場を焦熱地獄へと変えていく)
ん、だぁこりゃあ…!(見上げた先には、あの帝国の巨鳥を駆りし者達の姿)
くっそ、いいとこで邪魔しやがってぇ…!(勝負を邪魔され、殺意の満ちた目で遥か上をゆく巨鳥と、その兵達をする)
おらぁ、出てこいや羅刹、逃がしやしねえぞ…(構わず炎に突っ込もうとする胡久美を、寸での所で傭兵達が引きとめる)
…がぁああ!くそ、今日のとこはお流れだ…次こそは勝負決めっからな(血を流し、吐きながら何とも締まらない捨て台詞を残し、なだめられながら去っていく) -- 胡久美

(一般的に、不死兵は炎に弱い。よって、隊列の行進は止まる…それよりも、威力のある爆撃に晒されれば追撃の必要もあるまいが)
(レーヴェンフックは違う。熱は、このミクロの騎士―バクテリア―を駆動させる重要なファクターだ)
(進む、炎に照らされた地獄を)
シャンタクァ!彼の者らに祈りを!
(この被害ではひとたまりもなかろう、と 勝利の凱歌をあげた) -- レーヴェンフック

(これまでの爆発を遥かに凌駕する紅蓮の炎。降り注ぐのは滅びの火焔か、大爛の傲慢すらも焼き尽くす天意か)
(今の少越奴兵隊に、その爆撃はひとたまりもなかった。悲鳴と怒声は阮焔の後ろより多重に響き、すぐに小さくなる)
……阿修羅に、騎士さまよぉ、どぉーにも此処は、俺らの負けらしい
(紅蓮の炎をバックに、肩を竦めて。)
(決死の思いで馬を飛ばした伝令兵から副官に伝えられた言葉は……)
(天壌帝の崩御。大爛という怪物を地に縫い止めていた楔が抜けた事を示す報告)

(失った部下は、そしてこの戦いの趨勢は……巡らせた思いに頭を振る。引きずられていく胡久美を見やりながら、振り返り部下に指示を出そうとして)
……っはは、参ったな。
(生きて、なんとか爆撃を逃れた部下は全体の二割程である事に、苦笑いを浮かべる)

……後退だ。六稜軍の残存部隊との合流を最優先に。
宗爛大将連れて、ゾドまで撤退だ手前ら!

(流石に、声には苦い響きが混ざる。撃ち掛けられるマスケットの射線から逃れつつ、黒煙たなびく空をバックにした王城を見上げて)

これだから戦ってのはよぉ……

(そう呟いて、撤退を開始した部隊の殿を務めるべく脚を動かす)



(後の歴史書には、城門前にて傭兵隊とスリュヘイムの精鋭が大爛の奴兵隊と交戦、これを撃退という一行にしか残らぬ戦いであったが)
(しかし生き残った者が居るならば、両軍の雄の立ち働きを記憶する者が居るならば)
(語り継がれる事があるのかも知れない) -- 阮焔



 



 

 

  〓 〓  

 

【 カタクァ独立 】

 そこはゾドのずっと南、東ローディア南部、砂漠の中にある都市国家の一つだった
その街のすぐ側にある統一王朝以前の宮殿遺跡の広場に人々は集まっていた。
武器を手にしたカタクァ歩兵、駱駝騎馬兵達はカタクァに同調した南部部族の者たちだ。
兵士が広場に居並ぶ。だが、その場に居たのは兵士達だけでは無かった。故郷を追われ戦列に
加わった兵士達の家族や、老いた者や子を連れた母も居た、親を失った子供達、怪我をして
戦えなくなった男達も居た。
 これからついに西にも東にも居場所の無かった彼らが大規模な攻勢に出ようというときに
なぜこれほど多くの戦えぬ者たちがこの場に呼ばれたのだろうか、誰もが疑問に思っていた。

 やがて砂塵を払っただけの遺跡の広場に集った人々の前、崩れかけた宮殿の柱の奥から
飛爛、今はカタクァの王シャンタクァと名乗る彼女が姿をあらわす。
 彼女にとって軍人、非軍人を問わず戦いへ駆り立てる言葉を投げるのはこれで2度目、最初
はカタクァ本国でおきた反帝国蜂起の時。その時は圧倒的な怒りと熱気に押され、ただ望まれる
ままに帝国を討てと命じることしかできなかった。
 だから今この時、どうしても伝えなければならないと堅く決意して………。
「戦いに出る前に聞いて欲しいことがあるんだ」
特別な衣装ではない、かつて彼女が飛爛であった時と同じ、短い白のワンピースとズボンという
本当にいつもどおりの格好で彼女は静かに語りかけるようにはじめる。その広場に小さな声で
も総ての人々に聞こえるように仕掛けがしてなかったら届かないような声だ。

「私達は奪われたものを取り返しに行くんだけど、それは街や家や財宝を奪い返すためじゃ
 ないんだ」
「本当に取り返さなきゃいけないものは誰もがこの地に生まれ落ちたときから、王も貴族も
 富める人も貧しい人も虐げられ、迫害される人々にも与えられているはずの自由」
およそ、これから出陣しようという時にする演説の型とは違っていた。広場の集った人々は
静かに語りかけるシャンタクァの声を黙して聞いている。

「たとえ姿が異なっていても、信じるものが違っていても。どんな人の上にも太陽がのぼり
 月と星の輝く空があるように、自由は誰もが与えられた大切なものだから」
「だけど、今のこの地上はそんな当たり前の喜びすら得られない、悲しさで満ちているんだ」
「誰もが争わずに、その手に人を殺す武器じゃなく、生を繋ぐための道具を持って生きる
 喜びを知っているのに、分かり合えない辛さも仲間を得ることのうれしさも知っているのに
 誰もが生きるために、欲望を満たすために奪い合いをして、とうとうそれはこの大陸全部に
 まで広がってしまったの」

「でもそれでいいのかな、北の山脈はこの戦いで誰も住めない地になった。多くの人達が
 戦場で死に。ただ平和な暮らしを守りたかった人達が、喜ぶことも歌うこともできない憎しみ
 の塊になって屍となってなお戦うような大地の上が私達が生きるべき場所なの?」

沈黙の中に一息、間をおいて彼女は言葉を続ける。
「それは、違うよ。この戦争の事だけじゃない、私達はみんな知らないうちに、欲しければ誰か
 から奪えばいい、それが当然の競争なんだって思い込まされてる」
「奪われた者はいずれ必ず奪い返しにやってくる、憎しみは消えない。私は誰かから奪いとった
 糧で子供達を育てる事が本当の幸せだとは思えない。」

「誰かと殺し会うために私もあなた達も生まれて来たんじゃない。本当の平和を地上の上に育て
 るために生まれて、自由を手に幸せになるために生きてるんだ」

 宮殿遺跡の暗がりの中から、ゆっくりとココロアがシャンタクァの元へと歩み寄った。彼女が語る
壇上は集った人々に程近い場所にあり、いっそうその巨大さを蒼さを印象付ける。
「だから、私は奪わない。渇いた大地には水と耕せる土をつくる術を、今飢えて苦しむものには食を
 正しき怒りには翼と爪を。」
「私は支配を与えない、私はカタクァの王だけど、ここをカタクァの地とする気はないの。」
「流れる血も貧富の差も、強きも弱きも、誰もがただ空の下に己の信じる国と民族の誇りを持ち
 命育むことを許される、地に境を引かない新しい国を与える」

「私の名前はシャンタクァ、カタクァの神話で世界の終わりに舞い降りる鳥の名前の王様。」
「だから、私はこの憎しみと奪い合いに満ちた世界を終わりにする。だからみんなで、新しい
 新しい命と自由に満ちた世界を作って欲しい。」
「それが、終末の名を冠した私がみんなに一番あげたいものだから」

 ココロアが大きく翼を広げた、その背に飛び乗ったシャンタクァを乗せて、ついに下された出陣
の合図に鬨の声をあげる兵団の上を一陣の風となって舞い上がった。
 この日ついにカタクァは独立を宣言し、終の地となる戦場へと進軍していことになった。

 ローディア、大爛の山脈を隔てた二つの地で大規模な反乱が始まった。 彼らは「新たなるカタクァ」の名の下に帝国、そして大陸に支配を置いていた総ての
勢力に対して解放の戦火を広げたのである。

(シャンタクァの演説が民衆を沸かせるその最中。那岐李はその熱狂の中には身を置くことは出来なかった)
(この演説が、この決断が彼女の言っていた「未来のための戦い」なのだろう。それは、分かる)
(彼女が己の理想の為に行動を起こしたその勇気も、その崇高さも十分に理解できる。それだけのカリスマが彼女にはあったし、それを理解するだけの時間、自分は彼女達と共に過ごしてきた)
(だがしかし。やはり心の奥底を縛る茨がギシリ、と音を立てて胸を締め付ける想いだった)
(彼女が語る未来は理想論とも思えるが、それでも彼女なら成し遂げてしまうのではないかと思わせる何かがあった)
(だがしかし―)
……私には貴方のおっしゃる世界が見えない。私は…怨嗟の想いのみで此処までたどり着いたのだ
その私が…綺麗事を並べて刀を振るうなど、出来る筈も無い。……そんな私に、貴方の作る国に居る資格などない
…ならば、私はあくまで怨嗟のために刀を振るおう。それが結果的に貴方の道を切り開くのならばそれで良い…
どのみち眼前の敵は全て切り払わねば理想は叶うことはないのだ…それで、いい……
(シャンタクァの演説に同調し、鬨の声をあげ進軍する歩兵の先頭にあって、この男は尚も己を縛る鎖からは抜け出せないで居た)
(彼女が語る理想は空を舞う翼があるからこそ得た答えだ)
(地を這う愚かな蛇如きには理解の及ばぬものだと。そんなことさえ考える)
(やはりカタクァとカガチは決定的に別の民族だったというのか。己を支えてきた芯が揺らぐのを押し殺しながら、次の戦場へと向かうのだった) -- 那岐李



 



 



 



 



 


Last-modified: 2012-10-10 Wed 00:43:29 JST (3271d)