名簿/484800

  • 黄金歴230年 5月 歴史から退場
    • 冒険者の街から8日ほど行った洞窟にて戦死した…とも、大戦中に患った病がもとで命を落とした…などといわれるが
      実際どこに居て、何をしていたのか。そもそも本当に死んだのか。真偽は確認されていない
  • 黄金歴227年12月 東ローディア某所 撤退中
    • (カタクァの殲滅後。散り散りに逃げ続けた六稜軍は多くの部下達を失い、そしてまた本隊と各隊長の部隊もはぐれていた)
      (それぞれ一塊で逃げたのではあいての追撃の手を一手に集中させてしまうからである)
      (それぞれがゲリラ的に活動を続けつつ、バラバラに逃げていたのである)
      (無論、薬師隊も本隊とは別行動をとっていたのだが、ふとした切欠に物資の中に紛れていた暗号文書が発見される)
      (2ヶ月ほど前に分かれた本隊の……宗爛からの手紙であった)
      • 『この手紙を読んでいるということは、薬師隊は未だ健在であるようだな』
        『生きているのなら、もう国境要塞は目前だろう。お前達の六稜への帰還は半ば約束されていると思われるので、そういう前提でこの手紙を書く』
        『これは手紙であると同時に命令書だ。お前達の薬師隊としての任を、正式に解く』
        『六稜総督府に生きて戻り、提出すれば受理されるはずだ。既に捺印もこの手紙にはおしてある』
        『例え俺が生きて戻らず、六稜総督が変わっていたとしても……この書状は有効なはずだ』
        『お前達の人数次第でもあるが、十二分な退職金も準備されるだろう。今後、帝国はどう傾くか分からない。もし俺がいなければ、六稜もどうなるかわからない』
        『そのとき、お前達がどう扱われるかも……俺には分からない』
        『長く、泥船に乗り続けることは無い。もし、既に帝国に残る気がないのなら、この書状を提出して亡命なりなんなりするといい』
        『あまりたいしたものが準備してやれなくてすまないが、長く、そして最後までこの戦争に付き合ってくれたせめてもの礼だ』
        『今まで、俺の無理に付き合ってくれてありがとう』
        『六稜で会えるならまた会おう。さらばだ』 -- 宗爛からの手紙
      • 「おお、宗爛皇子の書状が? ……恐ろしいお方であったが。そう在らざるを得ない哀しみを湛えたお人よ
        我ら中隊、最期まで御伴できなかったこと、無念に思いますぞ皇子」
        史書によれば、薬師隊は激しい撤退戦とカタクァ殲滅戦において、かなりの被害を蒙ったのは間違いない。全滅しなかったのは奇跡である
        そしてその後、生き残りの大半は六稜に帰り着いた……という記述もあるが、薄荷と数名の部下だけは戻らなかった、いや戻れなかった……とも
        -- 薄荷
  • 黄金歴227年2月 王都ローランシア決戦にて敗走、後退先のゾドにて
    • (ゾド要塞。最深部。六稜総督宗爛にあてがわれた城塞……その更に地下)
      (六稜軍の持ち物になってから、新たに作られた秘密の地下室である)
      (拷問の為。幽閉の為……そして、秘術の実験のために設けられたそこは通常よりも低温である。理由を語る必要はない)
      (薬師隊は性質上、ここの出入りを許可されており、最早薄荷などにとっては馴染みのある場所でもある)
      (そこの最奥で、いまひとつの死体を前にして2人は佇んでいる)
      ……保存及び、術式による加工は着々と進んでいるようだな
      今後も極秘裏に、尚且つ早急に進めてくれ
      もう、時間がない
      (顔の部分だけ幾重にも仮面を被されたその死体の相貌をうかがい知る事はできず、またその仮面を外す事もできない)
      (強力な呪術により脱着不可能になっているのである)
      (脳をいじる都合があるので頭部はむき出しだが、既に剃髪されており、生前の面影をうかがい知る事は叶わない)
      その死体には無数の情報、秘術、秘奥は詰まっている
      丁重に扱ってくれよ

      ああ、あと、アレの準備もしておけ
      脱出の際に恐らく使うことになる -- 宗爛
      • 「抜かりなく」
        帝国、いや六稜にとって戦略的に最重要ともいえる人物の遺骸である
        皇帝崩御に起因する難儀に在っても主の期待に沿う、確実な仕事ぶりを見せる中隊の面々
        薄荷は後に語る。この時、遠征の終わりが垣間見えた気がした、と
        無論、それは新たなる戦乱の局面を迎えるだけで、放牧と交易、製薬の穏やかな日々に戻ることを意味するのではない、とも

        「そちらも心得えました。我らは何としても帰らねば。すべきことが山ほどございますゆえ……」
        薬師隊の肚は決まっている。皇帝亡き後、従うべきは宗爛を置いて他にない。その最期の時まで、1兵たりとも逃亡者を出さなかったとされる
        一蓮托生、忠烈であり。あらゆる利が一致したためともいえる
        肌寒く薄暗いその場に 大小二つの影。灯りの揺らめきに合わせてノイズが走るが如く、小さく揺れた
        -- 薄荷
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  • 黄金歴226年9月 西ローディア首都へ向けて進軍中
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  • 黄金暦226年 3月 大爛帝国西方領 ゾド要塞
    (近く、恐らく篭城戦になる)
    (兵糧の蓄えが心もとない。なんとか補給線が完全に塞がる前に食糧と薬をかき集めて欲しい)
    (この事は内密に進めてくれ。おそらく、おおっぴらにやれば我々の集めた物資は本隊に接収されてしまう)
    (そうなれば、最初に餓えて死ぬのは我々だ)
    (慎重に頼む)

    (そう、暗号によって書かれた文が送られてきた)-- 宗爛
    • 「御意に」

      人一倍食事を摂るのが常な男であったが、戦況は最早それを許す状況になかった
      自ら調合した満腹中枢を誤魔化す薬を使い始めていた男は少し、やつれている
      暗号による下知を受け取り、解読と同時にそれを篝火にくべた

      帝国主導の戦線はすべて後退
      南はゼナンを手放し、北に至ってはウラスエダールの潰滅後にバルバランドがまさかの補給線を引き、強襲をかけてくる始末
      ゾドにて結集した帝国軍は15万。有力な皇族・将が率いる各々の軍は当然、一枚岩ではない
      宗爛の懸念はもっともなもので、薄荷はさっそく動いた
      いや、正確に言うと、下知が届く前にすでに六稜軍のために動き始めていた

      いざとなれば軍蟲、軍馬などを捌く他なくなるが、それは避けたい。人肉食の習慣があるとはいえ、それに伴う病などのリスクもある
      もとより、同胞を喰うのはあまり褒められたものではない

      ゾド近郊における「昆虫採集」をこっそりと行う姿が時折見受けられた薬師中隊
      それらを粉末状に加工し、どこからか接収・買い付けた雑穀などと混ぜ合わせ、少しの水分で団子にできるものを大量に生産
      またトラバまで足を伸ばし、薬剤の知識と引き換えに、乾燥肉、魔術的に圧縮された水、薬の原料なども秘密裏に収集していた

      大規模な戦闘が一時止んだことで、これらの活動を長く、着実に積み重ねることができた
      いざ籠城となった場合にも、六稜軍を一週間から10日ほど余分に持ちこたえさせることができるくらいの物資は確保できた、といっていい

      「このくらいあれば宗爛皇子の憂いも少しは晴れよう。しかし……
      この戦、勝てると踏んでいたが。……足並みを揃え、各々の持ち味を活かした西は実に手強い
      本陣(ローランシア)を叩くことができれば押し切ることもできようが、このままでは……部下を生きて六稜の地に帰せるといいのだが」
      ハゲ頭をつるり、つるりと撫でる大男である
      -- 薄荷
  • ハッカさん、すみません 風邪薬ってありますか?(戦が小康状態のある日、顔を出した女が尋ねる)最近、なんか空咳がひどくて -- アベル
    • 「風邪と思い込むのはよくない。もっと重篤な病だったらどうするね? レッドフィールド隊長」
      と言いつつも、咳止めの粉薬を何袋か出してはくれる
      「一度、専門医に診てもらう方がいい。この戦続きで毒を吸引してしまっているかもしれない」
      -- 薄荷
      • 重篤って言っても、此の方、風邪すら引いた事のない健康体なんで(窘められて、叱られた子供のように笑って)
        専門医……んー、大体ハッカさんのクスリで間に合ってるし、戦医はその場その場に居る人に頼んでるし、あんまり、之、といった人を知らないんですよね
        (用法容量を聞いて、早速一袋服用)うへ、苦…… ……毒?でも、俺、水銀武器は使ってないですよ?要塞攻めに参加してませんし……
        (知識があまりないのか、少し軽くおもっているようだ 首を傾げる) -- アベル
      • むせずに薬を飲んだアベルに満足げな笑みを浮かべた……気がする。実際良く効く薬だ。数種の薬草を混ぜ合わせた、古来より伝わる確かなもの
        迷信とは一味違う、安価で確実性の高い薬
        「健康な女、か。きっと引く手あまただ。ここいらがこんな状況じゃなければ。いや、戦を起こした我々が言うな、って話ですなあ」
        肩を竦めて苦笑する
        「土地や河川の水銀汚染が酷くなってきています。水銀だけじゃない、互いに使い合った毒が大気中に薄く広がり、動植物に害を与えているとの報告も
        ならば、一息ついたら自分が診て差し上げましょうかね。アベルどのをね。……いや待てよ、やはり女子(おなご)の部下に診させた方が……」
        禿げ頭をぴしゃりぴしゃりと手で張って、何やら思案中である
        -- 薄荷
      • (いつも笑顔のような顔のハッカを見れば、満足そうなのも判らず、ともかく)良薬口ににがしとは言っても、出来れば飲みたくないもんですね にがい……
        健康でも、女と見られるかは別ですよ ひひひ、戦場最前線で剣を振るって敵を切り倒しまくる姿を見れば、女なんて見られ方もされなくなりますよ
        戦だって、別にこんな世の中、どこでだってありますよ 今更物言いを気にする必要もないでしょう(そう言って軽く笑った)
        ふぅん……?ん、じゃあ、ちょっと、隊の皆にも検診を受けさせた方が良いかもしれませんね 人数が多いから、時間がかかるけど、次の前線配備までに……
        へ?(基本的な気配りを受ければ、目を瞬かせる女 それから思わず吹き出して)お医者様に見せる位なら別に恥かしかないですよ
        むしろ、それで変に腕の悪い医者に回されても馬鹿らしい ハッカさんでも、ハッカさんが信用できる医者様でも よろしくお願いします -- アベル
      • 「だがそれがいい、という男も。男ってやつの好みも様々、女の魅力も色々。世の中うまくしたもの」
        今度こそにやりと笑った気がする。そして、アベルと同じように笑いだす
        「やはりアベル隊長は気の良い女だ。ならばレッドフィールド隊の検診、腕の良い軍医に心当たりがある。彼らと我々とで担当させてもらいましょうかね」
        日時は後ほど報せに行く、と述べて、ひとまず咳のおさまった彼女を送り出したのであった
        -- 薄荷
  • 黄金暦224年 11月 大爛帝国南西領 ゼナン要塞
    (ゼナンを落とす際の毒攻めで多いに活躍した薬士隊を労うため、宗爛から多くの物資が届いた)
    (トウテツをはじめとした新兵器も戦場で順調に戦果をあげており、それも含めた労いだ)
    (しかし、同時に今までと同じか、其れ以上の期待を寄せられているということでもある)
    (今後の戦局がより熾烈になるということを、暗に示していた) -- 宗爛
    • 新兵器を配備したとはいっても、劇的な効果が表れている、とまでは言い難い。西の足並みもそろい始め
      柱の王に率いられし柱の騎士たちは未だ脅威のままである
      ……更なる期待に応えるべく、淡々と毒の精製に入る中隊。この戦を勝利のうちに終え、六稜に凱旋するのだ
      -- 薄荷
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  • 黄金暦224年 6月 大爛帝国西方領 山岳要塞にて
    (その要塞は、高い山とそれによって生まれる深い谷に守られた天然の要塞であった)
    (突如……その要塞への薬士隊の出頭命令が出された)
    (1人残らず、全員である)
    (宗爛の名の元集められた彼らは要塞の最深部にまでつれていかれ、そこでそれを見た)
    (前線の決死隊が文字通り決死の思いで確保した、柱の騎士の残骸……)

    既に弩砲、火砲、火薬、地教術が有効であることはわかった
    どれだけバラしても、どれだけ損壊させても構わん。徹底的に調べろ
    ……お前たちの働き次第で、戦況は様変わりする。たのんだぞ -- 宗爛
    • 山羊、長蟲、大蠍。悪路踏破力に優れた乗用生物に跨り、六稜軍総大将の召集に馳せ参じる

      そして宗爛の示したモノを一同、固唾を飲んで見つめた
      「これは……! 先の会戦で我らを退却せしめた怨念!!」
      「なんてことだ。肉片に澱んだオドがまだ燻っている。おい、兆臥。その臓腑に素手で触るなよ」
      「見覚えのある顔面が付いてやがる。天凛と智海を殺りやがった奴だ……」
      それらのどよめきを片手を上げて制する薄荷

      「御意。表皮を損壊させるだけではその進軍を止めるには足りず、基本は動けぬまで、完膚なき破壊……
      ……肉片1つ、骨片1つ無駄に致しませぬ。さっそく、取り掛かります」

      これを確保するのにどれほどの犠牲を払ったのか……激しい退却戦に思いを馳せつつも宗爛直々の命に沸き、早くも解析に動く隊員たち。活気に満ち満ちている
      この時より、ゾドから補充された10名ほどを加え、ほとんどの隊員が交代制で昼夜の別なく、柱の騎士の解析と、対策に掛かり切りとなった
      -- 薄荷
  • 黄金歴224年4月 東西ローディア国境線

    「点呼!」
    何の前触れもなく現れたアンデッドゴーレム『柱の騎士』たちの不意打ちにより、薬士隊は実に37名の犠牲者を出した
    踏み潰され、引き裂かれ、投げ飛ばされ、衝突されて……撤退があと僅かでも遅れていれば、全滅の憂き目に遭っていた可能性が高い
    「マナの澱みを感じた時にはもう、遅かった。……西の計略なのか? なんという圧倒的な! これでは帝国の勝利も危うい」
    副隊長が嘆きの声を上げる中、用心深く追撃が無いことを確認する隊長の薄荷

    その日の夜。陣にて隊の損害を立て直す間も無く、負傷者への手当てに追われる薬士隊、残り50余名
    ……運命の歯車は、狂い始めていた
     
    • 六稜隊の将・宗爛皇子の命令により、速やかな退却の妨げになる重量薬物はすべて、使用済みである
      しかし、柱の騎士たちを怯ませることすらできなかったモノが、大多数であった
      混乱に陥らず、生存者、負傷者の手当てに尽力している部下たちを労いながら、あれらに有効打を与えられる薬品の精製に意識は傾き始めていた
       
  • ツァイ・ハッカさんはこちらで?(後方陣地のツァイの陣幕を尋ねる者がいた)
    (赤い長髪に緑目の異国人)宗爛将軍旗下 紅原奴兵大隊長 アベル・レッドフィールドです 前線への薬品の運搬手続きに参りました
    (ピシッとした帝国式の礼をしてみせる ツァイの耳にも聞き覚えがあるかもしれない 最前線の兵だ) -- アベル
    • 「自分が蔡(ツァイ)です。ご苦労様ですレッドフィールド隊長」
      数名の兵と共に、ラベルを貼った金属製の小さな缶や、ガラスのビン、陶器の容れ物などを区分けして並べながら、首だけがアベルの方を向く
      薄荷が指示をするまでもなく、ひょろ長い背丈の部下の1人が、彼女の前に薬品を満載した幾つかの木箱を持ってくる。が、さすがに一人では持ちきれない量である
      「うちの隊にも貴女の元居た隊に討ち取られた者がいましてな
      いや、戦場でのこと、恨みなどなし。東ローディアと黄盾大隊の戦(いくさ)働き、しかと見せてもらいました。恐るべき敵が今は味方
      こんなに頼もしいことは無い。……ただ」
      革の留め具の付いた広い背中の山羊が2頭、静かに現れ、それに紅原奴兵大隊用の薬入り木箱を載せてゆく 薬士中隊の兵たち
      「貴女方が今の境遇を、快く思っていないのも当然でしょうな。かつての知人や戦友とも刃を交える戦いがこれから始まる
      我々のちょうど風下に貴女の隊が配置されている、ということは気に留めておいていただきたい
      念入りなことです。……すみませんねぇ」
      ようやく手が止まり、アベルに向き直る男。表情は窺い知れず、常人の4倍以上は体積がありそうだ
      -- 薄荷
      • (うわでっかい)うわでっかい
        っと、失礼 あんまり見ない体格だからつい 噂はかねがね、腕の良い薬士だと聞いてましたけど……はぁ、前線に出ても強そうだ
        (そんな感想を隠さずに口に出す しかし、剣呑で陰鬱な内容の言葉を聞けば、片眉を挙げて其れを聴き送る 成る程、と思う 一つ、嫌味位は言いたくなるだろうな、と)
        よく、似たような事を他の隊の人にも言われますよ やれ、俺の隊はお前の後ろだだの、やれ、持って来た兵糧に毒が入ってないと良いなだの
        (その言葉に、わずかに反応する薬士中隊の兵 其れに気づいてか否か、振り返った薄荷を見上げる女の様子は変わらず)
        他の部隊がそんな事をやろうもんなら、捻じ伏せる事は出来るけど……どうにも、治す人は敵に回したくないもんでね どうぞ、その気は起こさないでくれると嬉しいな、ツァイ・ハッカさん
        何故ならー……(頭を掻けば、少し笑い)俺達が死んだら、正規兵の盾がなくなる そうなると、そちらさんが大忙しになっちまうからね
        其れはお互い、望む事じゃない(口の端に覗くギザっ歯 首を傾げ、細い目を見た)
        (自分の立場は判っている その上で、自分の隊がやるべき事も判っている 肉の壁なのだ、と 其れを自ら認める事で、正規兵達の溜飲を下げたのだ) -- アベル
      • 「はっきりとものを言う人は好きです。腹の探り合いばかりじゃあ……疲れますからな。少なくとも自分はそう」
        紅原奴兵大隊用が在ると無いとでは、戦況は大きく変わる。それに、彼女らが六稜兵を捻じ伏せることができる──というのが大袈裟でないことは重々承知である
        先の戦で目の当たりにしたのだ。その戦ぶりに畏怖し、敬意すら持った

        「我が名誉にかけて、アベル隊の者に不利になる様なモノは寄こしませんとも
        むしろ……ただの獣骨の楯どころか、鋼鉄のスパイクシールドになって頂きたい
        美学にこだわり散るのは良い。後世まで語り継がれましょうな(東ローディアの戦ぶりのことである)
        だが面子に拘って自滅するのは美しくない。愚か者と謗られ続けるはめになる(帝国軍の指揮系統・兵の意識を言っているのだろう)」
        薄荷はともかく、東ローディアの勇猛な兵士・騎士に倒された薬士の中にはもちろん快く思ってない者もいる。いるが、薄荷の教育は行き届いているらしい
        誰一人として、彼女らの行軍を阻むような者は居ない。味方であり続ける限りは、この先ずっと、である

        不意に帝国式の敬礼を返す大男。その表情は笑っているように見えた。馬鹿にしたような笑いでなく、どこか楽しげな
        -- 薄荷
      • (その言葉に、目を丸くする そんな表情はまだまだ子供のようで ついで、吹き出して笑った顔も、敵として帝国兵に畏怖された物とも思えぬ程に無邪気だった)
        (大柄な男に、真似をするように綺麗な帝国式の敬礼を返した 体格も、人種も違う二人が同じ仕草で向き合う様は聊か滑稽だったけど、その場で笑う者は誰も居なかった)
        貴方方がそれを成す限り、私達はそれを成そう 国を渡り戦を渡る傭兵・奴兵の、それは揺るがぬ物であると此処で言おう 信じていただけたら、これ以上の事は無い
        (凛と響く声は、まるで指揮を執る様に 真面目な顔のまま、真っ直ぐに薄荷の目を見つめて 最後に、少しだけ笑った)
        またお会いしましょう、ツァイ・ハッカさん 前線で緊急に作れる応急薬があるなら、講義をして頂きたい物です(薬を設置準備した薬師兵に礼を言い、山羊を引いて行った) -- アベル
  • 黄金歴224年2月 大爛領ゾド・西方「バルトリア平原」 帝国陣地

    「西方・統一連合軍5万、我が方3万。数の不利は火を見るより明らか
    しかし間者がもたらした情報を分析した結果、西の指揮系統は未だ揃わず、好機である……だそうだ」
    桶に張った水を塊にして浮かせ、水の妖術がまともに機能することを確かめる薄荷。その口から世間話でもするかのように紡がれる戦況
    薬士隊およそ100名に張り詰めたような緊張感はなく、平常心を保っているようだ。よく訓練された兵である

    メルセフォーネの予知がふと、脳裏をよぎった
    「死の結晶に注意せよ、だったかな。その意味するところは……」
    蟲を引け、と命ずれば吹かれる蟲笛。しばらく地を擦る音の後、草の長蟲 ─グラスウォームと呼ばれる巨大な芋虫じみた生き物─ が、のそりと顔を覗かせ静止する

    「我らの役目は1に六稜軍負傷者の後送、西軍が接近してきた場合に限り薬と蟲で退却させろ。積極的に斃そうなどと思うな
    2に戦況戦術の把握だ。旗印と部隊構成、用いられた戦法を記憶せよ
    いいか、英雄になろうとするんじゃない。持ち場を守り、生還するのが優秀な兵士だ」
    半分以上は先代隊長の受け売りだが、薄荷はその通りだと思っている。隊への愛着だけでない。兵を育成するには手間と暇、金がかかるのだ

    「ああそうだ……」
    つるりと撫でる自分の禿げ頭
    「小便は今のうちに行っておけ。合戦が始まれば休憩まで長い! 尿臭い兵はな、それはそれは嫌われる」
    笑いに包まれる場。すぐ後に十数名がその場から離れ、草陰に移動していくのであった
     
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  • 薄荷さん、今お時間は宜しいでしょうか?
    (顔を出して近くによれば、兎が挨拶するような小さな囁き声で尋ね始める)
    その……蟲毒って御存知でしょうか?もし、御迷惑でなければ私も行ってみたいのです……宗爛様から薬物呪術の一種だと教えて頂いて…… -- メルセフォーネ
    • どんな物音も聞き逃すまい、とでもいう風に動く耳。直後に振り返る顔
      「どうぞ、さあもっと奥へどうぞ」
      歓迎するような優しい声に、読み取れない表情
      しかし蠱毒と聞けばその細目を微かに開けて、眉間に皺を寄せ、難しい顔をする。いや、した気がする
      「もちろん知っておりますがね……。有り体に言って気味の悪い蟲は平気ですかお嬢さん? それに毒蟲の扱いは細心の注意を要します
      何せ、とても強力な呪毒
      我らが宗爛皇子を殺すことだって不可能ではない。使用にはいくつかの許可も要るのです。目的は何か、材料にどの生き物を使うか……」
      お勧めはしないが、どうしてもと言うなら協力しましょう、自分の持つ知識と道具を差し出しましょう、と香りの良い霊芝茶を出しながら、答えた
      -- 薄荷
      • (彼の優しい気配りが心地よいからだろうか)
        (薄荷と話すときは緊張をしても、他の人と比べれば幾分と表情が柔らかい)
        (歓迎するような優しい声に促されて、緩やかな表情で言われるがままに奥に寄る)
        (……けれど 彼にしては珍しく、どうにも芳しくない事を発言してしまった事だけは読み取れて)
        え?ええ……蟲を触るのは平気です(迷いも無く頷いて)
        ……宗爛様を……殺すこと……(それでやっと、彼の鈍い反応が理解できた)
        ……その……単に興味を持ったというだけでは不足でしょうか……?(困ったような瞳で問う)
        (宗欄を殺める考えなど、あるわけがない)
        (寧ろ、自分自身が捨てられたらどうしようかと内心強い不安を抱えているのだから)
        (それを周囲に言うわけでもなければ、今ここで殺めるつもりは無いと言っても動乱の世の中だ)
        (薄荷が用心するのも理解できるし、私が宗欄様を絶対に殺めない確証を示せるわけではない)
        (だからこそ、素直に成り行きと心情を)
        (たまたま見た蟲毒自身に興味を持った事を、霊芝茶の芳しい香りと共に伝える)
        (聞けば聞くほどに只の興味だ)
        (しかし、同時に占いは極めればいつか魔術に辿りつく。この二つは連動しているのだから)
        (占術も、術の名が付き魔術の一種)
        (彼女の行う占術とは関連性は一見無いように思うけれど、魔術という分野で見れば またそれは繋がっているのだ) -- メルセフォーネ
      • 元を質せば呪術も占術も同じ範疇に属し、重なり合う物……それゆえ興味を持ったこと、そしてどうも皇子の興味を惹くことを大事としていること
        彼女が蠱毒を用い六稜を危うくすることはおそらくはないだろう。これは直感と、彼女を取り巻く環境からの推測である
        「不足ですな。しかし……ちょうど次の戦の予行演習ために蠱毒を用意する手筈が整っているのですよ
        しかも、それに携わる予定だった配下が1人、水銀中毒で臥せっている」
        後はお判りでしょう? と細い目が笑っていた
        薬士中隊の蠱毒予行に、内々に参加できるよう、取り計らったのである。もちろん、記録にはメルセフォーネの名前は残っていない
        薄荷の部下の名が連ねられているだけである
        隠して、その数日後、彼女は蠱毒の実践に参加するだけでなく、その手順や素材に至るまで、こっそり得られた、という話もある
        薄荷がこれほどまでにメルセフォーネに便宜を図るのは、一体何故なのか。その意図するところは……今の処、定かではなかった
        -- 薄荷
      • …………(気まずそうに、沈黙の薄荷から目線を逸らす)
        (何か可笑しいことを言ってしまったのだろうか?失態だったのだろうか?)
        (薄荷が口を開いたとき、酷く怯えたような様子を見せた様な気がしたのを薄荷なら逃さなかっただろう)
        (彼女は人のそれとは違うもので人を読むが)
        (人が察知し意図するもの――例えば言葉の真意を読むことが出来ない)
        (言われたことを、真に受けるからだ。含まれる隠された真意を拾えない)
        (だからこそ、"不足"を示すように薄荷の唇が動いたときは酷く落胆したのだ)
        ………………………はい
        (続く言葉と優しい目元。緊張の糸が解けて緩やかに微笑んで返し、師に敬意を込めて頭を下げて礼をする)
        ご指導、宜しくお願いいたします……至らないところは何なりと指摘申して下さいませ
        (薄荷の厚意のお陰で、蟲毒を真剣に学び、常人とは比較にならない貪欲さと熱意を持って学び)
        (一睡もせず、星詠みと書物占いの日課をこなす他はすべてそれに費やす日が続いた) -- メルセフォーネ
  • (薬の精製中、集中していて気付かなかったかもしれないし 気付いてても害にもならないから放っておいて作業を進めていたのかもしれない)
    (メルセフォーネが実に興味を持った様子で、エメラルドの様なきらめきを思わせるような輝いた瞳で興味深そうに薄荷の手元へとまっすぐ視線を落とさない) -- メルセフォーネ
    • 薬研(やげん)を用いて薬草をすり潰している
      翠玉の双眸に観られていることに気付くと、薄目を開けて、しかし特に振り返るでもなく彼女に語りかけた
      「こいつはね、お嬢さん。どんな苦痛も春の淡雪のごとく消し去ってしまう、それはそれは有り難いものなんです」
      芥子汁だろうか、モルヒネのようなものだろうか。戦場にて兵士の痛み止めに使われる強い薬のようだ
      「今日はどこへお出かけで?」
      彼女が出かけたいから自分を呼びに来た、とでも思ったのだろう。いつでもお供しますよ、という意味で振り返った
      -- 薄荷
      • まぁぁ……帝国にもそんな素晴らしいお薬があったのね、知らなかったわ
        (驚いた様子を一瞬見せるが、薄荷に無邪気に微笑みを向ける)
        (それは、多幸感と強い痛みどめとして使われるそれらの齎す副作用を知らない様子)
        ええと……今日は、古本市の行商が街に来ると耳にしたもので
        既に絶版となっている魔術書があるかもしれないと思ったのですが――……
        古本市よりも……今日はこうして、薄荷のお仕事を見て居たい気分です
        何だか不思議だわ、薬草からこんな風にお薬に変わるなんて…… -- メルセフォーネ
      • 精製した薬を別の容器へと移し替えながら、にこりと笑った。いや、常に笑っているような顔つきなので気のせいなのかもしれなかったが
        その様子から、この薬のことをおそらくは知らないであろう彼女に、これが使われるような事態が訪れることのないよう、祈らざるを得なかった
        動乱のときはすぐ近くまで迫っているのだ。帝国内地もすでに内外の敵と自然災害により安全ではなくなっている
        「ほほう!古本市!もうそんな時期ですか。すっかり暦の感覚が抜けていましたなあ」
        頭をつるりと撫でて愉快そうな声
        退屈かもしれませんが、と前置きしたうえで、帝国臣民の為、六稜のため。薬の精製を続けるのであった
        -- 薄荷
      • (傍目から見たら、いつもと変わりのない表情の様だけれど)
        (薄荷の雰囲気が柔らかく変化したのを捉えて、小さく微笑み返した)
        (無知な笑み。浅はかであると同時に純真な瞳。知らない事は幸せなのだろうか?) (先日の宣戦布告の事も、暫くこの少女は死んだように眠りに囚われて、長らく眠りについたままだったのだから)
        (元々世間知らずで俗世を知らぬ彼女だが、視方によっては世の方が彼女を動乱や世俗的な事から引き離しているかのような錯覚も受けるかもしれないけれど)
        そうなの、私も教えて頂いて知って……薄荷も立ち場や役割があって忙しないものね。なかなかお休みも頂きづらいでしょうし
        (ふんわりとした雰囲気で楽しそうに笑う)
        ありがとう、邪魔はしないわ……あっ、でも。私が邪魔しているつもりが無くても、薄荷にとって邪魔だったら遠慮しないで指摘してね
        迷惑をかけてしまっては申し訳ないから……
        (そういうと、邪魔にならない位置で薄荷の手際や手元を見る。その間に、見知らぬ薬草についてこれは何か、どういう効果を持つのかや、出来あがった薬がどんな効果があるのかと、好奇心を抑えきれず何度か尋ねながら) -- メルセフォーネ
      • どこか世俗とは乖離した印象を受けるこの女人
        彼女のことは薄荷も詳しくは知らされていない。ただ、彼の小隊が彼女の護衛を拝命してから時間が経ち
        互いに随分と打ち解けてはいる
        薄荷の部下の若衆などは彼女に話を聞いてもらいたくて、あるいは彼女の話を聞きたくて、当番が回ってくるのを楽しみにしている者も少なくない

        「邪魔だと思えばはっきりと指摘して差し上げます。指摘しないということは邪魔になっていないという事。安心して、何でも見ていってください
        秘伝や機密ということもなし、あなたに隠しだてするようなものは、とくにありませんからな。こいつは極々、普通の薬です」
        尋ねられれば懇切丁寧に解説する。単体での効能から、組み合わせての効能。調合時の注意、人以外の種族への使用に際しての注意……等々
        薬草群は不気味なものから、そのあたりに群生している雑草にしか見えないもの、美しい花を咲かせているもの。どう見ても枯葉。観ていて案外飽きないものである

        それにしても、メルセフォーネという娘。最初は宗爛皇子の愛人か何かと思っていたが、どうやらそういった関係ではないらしい
        彼女の身の上に興味は尽きないが、自分から尋ねることはあまりなかった。彼女が語ってもいい、語りたいと思えば自然と聞くことができるだろう。それに───
        我らが主、宗爛という男は、こと戦を勝利に導くことにかけては優れた男である。が、やはりそのためには冷徹に在らねばならぬ
        その冷徹さを示すエピソードについて枚挙に暇がない
        そんな男の従えている女について、あまり踏み込んだ質問をするのは得策では無いようにも思えた

        手を動かしながらふと思い出したように言う
        「手前共も、東ローディアへ向かいます。彼の地は多くの血を吸うでしょうな……六稜と帝国軍の凱旋を願っていてくださいよ」
        この戦について彼が個人的にどう思っているのかは、知れない。しかし、手段はどうあれ何かしら手を打たねば帝国が瓦解するのは時間の問題なのである
        西爛戦争の行方は、暗澹として、靄がかかったように見通しが利かなかった
        -- 薄荷
  • 黄金歴223年1月 大爛帝国「六稜」賑やかな料理店

    東ローディアと西ローディア間に13度目となる戦争が勃発。他の西側諸国も戦争特需に与ろうとして、こぞって参戦
    その報は、半月もしない間に帝国の端まで伝わって来ていた

    「西が騒がしいようだが、こっちはそれどころじゃない、大凶作だ。……このままじゃ冬の間に餓死者が多数出てしまう。家も心配だ」
    あご髭をたくわえた隊長が、副官である薄荷にため息まじりに語る
    薄荷はというと肉饅頭に伸ばしていた手が止まり、一瞬の間を置いてから動いてそれを手に取り、口へと運ぶ
    もぐ、もぐ、もぐ、と 無表情に咀嚼する太い男
    ……何個目だ、と言わんばかりの隊長と目が合い、喉に詰まらせでもしたのか、半発酵茶で流し込んだ

    「昨年は特に不作もいいところでしたから……蟲たちも数が減っているように見受けられましたな
    ……自分も少し痩せた方よさそうです。げふ…」
    己の太鼓のような腹をポンポンと叩いて、食事量が減ることへの落胆と、食糧危機への不安が渦巻く心を鎮めようとするのだった

     
    • 黄金歴223年1月 大爛帝国「六稜」兵舎

      薄荷ら薬士隊が最も恐れていたことが起きた。食糧難をきっかけに帝国各地に叛乱が頻発したのだ
      鎮圧の任が巡ってくるのはほぼ必然といえた。我らも随行せねばならない
      各地から人員を集められた部隊にはとても気の重い任務である……皇帝勅命による粛清。願わくば隊に任地出身者が居ないことを祈るばかり
       
  • 黄金歴222年12月 大爛帝国のとある都市

    年の頃40半ばと思しき医者風の男が、太った男を従えて絢爛な建物から出てくる。何やら思案顔で
    「将は解っておられん。兵を粗末に扱い過ぎる……使い捨てては増員を繰り返し、その上今度は、我ら後詰めの人員を削減するなどと
    ……いつまでもこの潤沢な状況を維持しきれるものではない、眠らせる(安楽死させる)基準を緩めるのは得策でない
    と申し上げても一笑に付されるばかり。……ハア」

    ぼやきに答えるように、そのつるりとした頭を自らの手で撫でる太った男
    「いっそのこと将軍閣下がちょいと負傷されれば、名誉の戦死のお手伝いをして差し上げられるのですがねえ。隊長?」
    隊長と呼ばれた ぼやき男の顔が綻ぶ
    「おいおい、薄荷。滅多なことを言うものでないぞ。はははは」

    槍と長弓、革や獣骨の甲冑で武装して建物を警護する兵士たちも、ある者は彼らの話に仏頂面で何度も頷き、
    またある者は苦笑いしてそうだそうだと小声で囃し立てる。総じて同意を示すような素振りを見せている
    どうやら彼らを統率する将は、あまり人望がないようだ
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  • なあ・・・スケベしようや
    • 「アカンて。おいちゃん今な、賢者モードやねん」 -- ハッカ

Last-modified: 2012-10-13 Sat 09:44:22 JST (4211d)